40
機器分析化学 3.核磁気共鳴(NMR)法(12011年度

機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

機器分析化学3.核磁気共鳴(NMR)法(1)

2011年度

Page 2: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

5.核磁気共鳴スペクトル法(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)

キーワード 原子核 磁気 共鳴

ⅰ) 原子核 (陽子+中性子)原子番号(=陽子数)質量数(=陽子数+中性子数)

もし原子番号も質量数も偶数の場合 その原子核はスピンを持たない。そうでない場合(どちらか、あるいは一方が奇数)は核スピンを持つ。

例) 水素原子核(proton) 1H spinあり炭素(carbon) 12C spinなし

13C spinあり窒素 14N spinあり

15N spinあり

Spin 自転 角運動量 h/2 → 1/2 → 磁気モーメント(電子の場合は磁石の原因)

Page 3: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

Spinとは?

角運動量のベクトル表示

角運動量の性質

I

MR

R=I x M (ベクトル積)

Page 4: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

歳差運動

物質中の各核スピンは普段はバラバラの方向を向いているが、磁場が加わることにより磁場方向を中心とする歳差運動を引き起こす。

B0がない時

B0がある時

I=-1/2

I=1/2

B0

量子論的には

Upスピンの数>Downスピンの数(Boltzman分布)

磁化の原因磁化の原因(巨視的磁化)

00 B

Page 5: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

N

S

巨視的磁化(スピンの集合)

この磁化もスピンと同じ力学的振る舞いをする!

Page 6: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

N

S

試料

振動磁場が発生

y

z

x

RF

xy平面内の回転磁場( )

x

y

0

0

0

B0

y

z

x

B1

0

Page 7: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

y

z

x

回転座標系の導入

実験室系

y’

z’

x’

回転系(外部磁場がゼロになる)

B0B0=0M0 M0

y

z

x

B1

0

y’

z’

x’

B0=0M0

B1

回転系(回転磁場がxy平面内の静磁場になる)

M0

Page 8: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

y’

z’

x’

M0

B1

もしB1がとx’と一致したときM0はz’y’平面内で回転運動をする(これは歳差運動)

このときの回転周波数は

1

11

21B

tr

(一回転の時間)

RFをこのようにパルス状に加えるとTp

の間、M0はz’y’平面内を回転する

Tp

11 B

そこでTpを

124

1

BtT rp

のように設定するとM0は90度回転する

112 B

Page 9: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

y’

z’

x’B1

y’

z’

x’

y’

z’

x’

これを90度パルスという1

2 2 BT

y

z

x

あたかもy’軸に磁化M0が生じている

これを実験室系に戻すと

y

z

x

誘導起電力=NMR信号

Page 10: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

y

z

x

y

z

x

y

z

x

その後

y

z

x

y

z

x

信号の減衰 信号が無くなる

t

S

さらにその後

初期状態

Page 11: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

化学シフト(Chemical Shift)

原子核の周りには必ず電子が存在

1s

外部磁場(B0)

遮蔽磁場(Screening Field)

その結果 核の感じる磁場はB=B0(1-Δ)

Δ:電子の磁化率(その原子の化学的環境に依存する。

→化学シフト(ppmオーダー)

Page 12: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

CH3ーCH2ーOH

Δ 大 中 小

共鳴周波数が微妙に異なる

化合物の構造を推定できる

Page 13: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

X

RF-Synthesizer

Pulse

Modulator

TransmitterPreamplifier

Receiver

(Detector)

Computer

(+ADC)

Reference Signal

Control Bus

LN2

LHe

SC-Magnet

Probehead

Block Diagram of NMR spectrometer

Page 14: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

NMR信号の検出(detect)について → 検波

XNMR signal

Reference signal

NMR signal

Reference signal

)/exp()cos()( *

20 TttStS

)cos()( 00 tRtR

ttTtRStRtS 0

*

200 cos)cos()/exp()()(

tttt )(cos)(cos2

1cos)cos( 000

第一項を無視すると

)cos()/exp()()( *

200 TtRStRtS

0

Page 15: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

Chemical Shift(化学シフト)分析において、最も重要なinformation

(電子密度)

(CH3)4Si (TMS) = 0ppm

高磁場低磁場 0ppm

CH3CH2OH の 水素(proton)スペクトル

CH3

CH2

OH

は共鳴線の積分3

2

1

Page 16: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

スピン結合ーーー共鳴線の構造

CH3 CH2

OH

ここの三つのプロトンは磁気的に等価

ここの二つのプロトンも磁気的に等価

実際は

Page 17: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

ここCH3の1s電子の存在確率がここCH2にもある

磁場

CH2のスピンの配向による小さな磁場をCH3のプロトンは感じる!!!

Page 18: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

スピンは磁場中では上向き(↑)か下向き(↓)の二通り(量子化)

大きい磁場を感じる磁場はキャンセルして感じない

小さい磁場を感じる

X X

本来の共鳴点 本来の共鳴点

Page 19: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

合わせると

1:2:1の三重線(triplet)

1

1

CH3 CH2

一方CH2に注目すると 相手はCH3

つまりスピンが三つ

磁場の強さ1:3:3:1の四重線(quartet)

1

3 3

1

この間隔は等しくなる(結合定数:J)

スピン結合(スカラーカップリング) 結合定数~数Hz

Page 20: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

ーCH2-OH はO原子でスピン結合が非常に小さくなる ので

CH3CH2OH

CH3CH2OHのプロトンスペクトルは

プロトン共鳴線の微細構造は隣の炭素についている水素の数で決まる!!

重要

Page 21: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

スピン結合定数はコンフォメーションに依存する

H

H’

φ

φ

J

これは、化合物の局所的な構造を探るためには重要な情報となる!

Page 22: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

ここで、例題MSG(Mono Sodium Glutamate:グルタミン酸ナトリウム)のProton NMR スペクトルはどのような風になるか予測してみる。

NH2 -CH(α)-CH2(β)-CH2(γ)-COONa

NH2

ⅰ)化学シフトα位置にはCOOHとNH2が結合β位置はCHとCH2が結合γ位置はCOONaが結合

化学シフトテーブルから、β位置のCH2が最も高磁場にシフトしていると考えられる。αとγを比べるとαはメチンであることとアミドが結合していることから、αの方が低磁場シフトすると考えられる。

CH2(β)CH2(γ)CH(α)

Page 23: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

ⅱ)次にスピン結合は?

CH(α)はとなりにCH2(β)があるためトリプレットになる。CH2(γ)も隣がCH2(β)なので、これもトリプレットになる。問題はCH2(β)である。これは両側の影響を受ける。

CH(α)-CH2(β)-CH2(γ)

Doublet(J1) Triplet(J2)

CH(α)との結合でDoublet(J1)

次にCH2(γ)との結合でTriplet(J2)

合わせると

J1

J2

Page 24: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

CH2(β)CH2(γ)CH(α)

最終的には

NH2 -CH(α)-CH2(β)-CH2(γ)-COONa

COOH

Page 25: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

実際の実験試料を重溶媒に溶かすD2O, CDCl3,(CD3)2CO,C6D6・・・・・・試料管に入れる→ 測定

重溶媒の役割は二つⅰ)溶媒のプロトン信号を出さない(100%はないので、多尐は出る)ⅱ)磁場ロック(単に 「ロックをかける」 という=重水素のNMR信号を使う。)

測定するためのパルスプログラムを選択→測定(積算)→フーリエ変換→スペクトルの吟味

Page 26: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

シングルパルス法(最もシンプルなプログラム)

RF-PULSE NMR-Signal(Free Induction Decay:FID)

Fourier-Transformation

Page 27: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

ここでフーリエ変換 ふたたび

dttfeF ti )(2

1)(

だと大変なのでコサイン変換だけを考える。

dttftF )(cos2

)(0

ここの部分をよく見ると

Page 28: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

x

=

=

=

=

=

5

0

0

0

0

s

1

2

3

4

5

Page 29: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

1 2 3 4 5

s

一般にFIDは

という形をしている。

*

20 exp)cos(),(

TttStS

振動部分 減衰部分

FT→

ω

線幅

φは?

Page 30: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

φは? 位相

FT→

Page 31: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

13C-NMRについて問題点 1)感度が低い(1.1%)

2)水素とのスピンカップリング3)スピン格子緩和時間が長い

CH3 CH2

OH

CH3は quartet

CH2は triplet

CHは doublet

Cは singlet

Page 32: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

Decoupling

2)スピンカップリングに対する解決策

13C

1H

プロトン共鳴周波数のRF(ノイズ)を照射

高速回転・・・・時間平均するとプロトンスピンが作る磁場はゼロ

1H

13C

Page 33: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

CH2(デカップリング無し)

CH2(デカップリング有)

13Cの感度も上がる(NOE:Nuclear Overhouser Effect)

Page 34: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

MSGの13Cスペクトル

200 150 100 50 PPM

デカップリング無し

デカップリング有

NH2 -CH(α)-CH2(β)-CH2(γ)-C(2)OONa

C(1)OOH

C(1) C(2)

CH2(β)CH2(γ)

CH(α)

NOEにより感度アップ

Page 35: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

13Cの化学シフト・・・・・ 1H

と同じような動き

0200

CHn--C=C-

-C=O

07

13C

1H

100

Page 36: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

ベンゼン環の置換基分布について

1置換

X c

b

ba

a

化学シフトを σa>σb>σcと仮定したとき

7ppm

ab

c

120ppm

13C

1H

a b

cX

Page 37: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

X

b

b a

a

2置換の場合(オルト)

X

X

b’

ba’

aY

120ppm

13C

120ppm

X Ya a’ b b’

X a b

Page 38: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

X

b

c

ab

X

X

b’

c

ab

Y

メタの場合

120ppm

13C

X ab

c

120ppm

X a b cb’

Page 39: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

X

a

X

X

a’

aa

パラの場合

120ppm

13C

X

a

120ppm

X

a a’

aa

a

Y

a’

Y

Page 40: 機器分析化学 - erata.orgerata.org/bunseki/kiki3.pdf · 歳差運動 物質中の各核スピンは普段はバラバラ の方向を向いているが、磁場が加わる ことにより磁場方向を中心

X

Z

ab

c

3置換の場合

Y

X

Z

a

b

c

Y

120ppm

X

a b

Y

c

Z

120ppm

a=b=c

X=Y=Z

X

a b

Y

c

Z

120ppm