5
FUJITSU.51, 5, pp.286-290 (09,2000) 286 秋元秀行(あきもと ひでゆき) 第一テクノロジ開発統括部ファイル 研究部 所属 現在,HDD用磁気記録媒体の開発に 従事。 岡本 巌(おかもと いわお) 第一テクノロジ開発統括部ファイル 研究部 所属 現在,HDD用磁気記録媒体の開発に 従事。 マルチメディア,情報技術(IT)の発展によりコンピュータで処理されるディジタル情 報量は爆発的に増大している。磁気ディスク記憶装置(HDD)は現在のストレージ技術 の中心的な役割を果たしており,その面記録密度は年率60%以上の速さで向上してい る。開発期間の短期化,難易度が高まるなか,設計ツールとしてのシミュレーション技 術が重要視されてきている。本稿ではHDDの主要部品の一つである磁気記録媒体に フォーカスし,面記録密度向上のための媒体開発指針を探索するための媒体ノイズシ ミュレーション,および磁気記録情報の長期安定性を確保するための熱磁気ゆらぎシ ミュレーション技術について紹介する。 あらまし あらまし あらまし あらまし あらまし Abstract HDD用磁気記録媒体開発における シミュレーション技術 The growth of multimedia applications and information technology (IT) has explosively increased the amounts of digital information being processed by computers. Hard disk drives (HDDs) have been the main storage devices, and their areal recording densities have been increasing at an annual rate of 60 percent or more. However, development of the magnetic recording media for HDDs is becoming very difficult and the development period needs to be shortened. Under these circumstances, simulation techniques are regarded as important tools for designing magnetic recording media. This paper describes some simulation techniques that can be used for a magnetic recording medium, which is one of the main parts of an HDD. One technique described here is the simulation of medium noise, which is used to set a medium development guideline for improving the areal recording density. Another technique is the simulation of magnetic fluctuation due to thermal energy, which is used to ensure the long- term stability of information recorded on magnetic recording media. Simulation Techniques for Magnetic Recording Media of Hard Disk Drives

特 HDD用磁気記録媒体開発における シミュレーショ …£気ゆらぎ現象の測定が行われるようになった。 今後 (6), (7) の媒体開発は,低ノイズ化のための粒径微細化と耐熱磁

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 特 HDD用磁気記録媒体開発における シミュレーショ …£気ゆらぎ現象の測定が行われるようになった。 今後 (6), (7) の媒体開発は,低ノイズ化のための粒径微細化と耐熱磁

FUJITSU.51, 5, pp.286-290 (09,2000)286

秋元秀行(あきもと ひでゆき)

第一テクノロジ開発統括部ファイル研究部 所属現在,HDD用磁気記録媒体の開発に従事。

岡本 巌(おかもと いわお)

第一テクノロジ開発統括部ファイル研究部 所属現在,HDD用磁気記録媒体の開発に従事。

 マルチメディア,情報技術(IT)の発展によりコンピュータで処理されるディジタル情報量は爆発的に増大している。磁気ディスク記憶装置(HDD)は現在のストレージ技術の中心的な役割を果たしており,その面記録密度は年率60%以上の速さで向上している。開発期間の短期化,難易度が高まるなか,設計ツールとしてのシミュレーション技術が重要視されてきている。本稿ではHDDの主要部品の一つである磁気記録媒体にフォーカスし,面記録密度向上のための媒体開発指針を探索するための媒体ノイズシミュレーション,および磁気記録情報の長期安定性を確保するための熱磁気ゆらぎシミュレーション技術について紹介する。

 

 

あらましあらましあらましあらましあらまし

Abstract

HDD用磁気記録媒体開発におけるシミュレーション技術

The growth of multimedia applications and information technology (IT) has explosivelyincreased the amounts of digital information being processed by computers. Hard disk drives(HDDs) have been the main storage devices, and their areal recording densities have beenincreasing at an annual rate of 60 percent or more. However, development of the magneticrecording media for HDDs is becoming very difficult and the development period needs to beshortened. Under these circumstances, simulation techniques are regarded as important toolsfor designing magnetic recording media. This paper describes some simulation techniquesthat can be used for a magnetic recording medium, which is one of the main parts of an HDD.One technique described here is the simulation of medium noise, which is used to set a mediumdevelopment guideline for improving the areal recording density. Another technique is thesimulation of magnetic fluctuation due to thermal energy, which is used to ensure the long-term stability of information recorded on magnetic recording media.

特    集� Simulation Techniques for Magnetic Recording Media of Hard Disk Drives

Page 2: 特 HDD用磁気記録媒体開発における シミュレーショ …£気ゆらぎ現象の測定が行われるようになった。 今後 (6), (7) の媒体開発は,低ノイズ化のための粒径微細化と耐熱磁

FUJITSU.51, 5, (09,2000)

HDD用磁気記録媒体開発におけるシミュレーション技術

287

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ま え が き

 今日のマルチメディア,情報技術(IT)の発展により,

磁気ディスク記憶装置(HDD)にはますます大容量化が求

められている。高面記録密度を実現する磁気記録媒体の

性能として,「媒体ノイズ」の低減が不可欠である。その

方策として,磁性粒子サイズの微細化,磁性粒子間の磁 (1)-(3)気的な相互作用の低減が有効と考えられている。 一

方,磁性粒子サイズ,膜厚の低減により,媒体に記録し

た磁気記録情報が時間とともに徐々に消失していく現

象,いわゆる「熱磁気ゆらぎ問題」が1990年代に入ると危 (4), (5)惧されるようになった。 

 熱磁気ゆらぎは磁性粒子の持つ磁気エネルギー(磁気異

方性エネルギーと磁性粒子体積の積,KUV)と熱エネル

ギー(ボルツマン定数と絶対温度の積,kBT)の比率が小さ

くなると顕在化してくる。1997年には実媒体における熱 (6), (7)磁気ゆらぎ現象の測定が行われるようになった。 今後

の媒体開発は,低ノイズ化のための粒径微細化と耐熱磁

気ゆらぎ性を保証するための最小磁性粒子サイズの確保

という相反する課題に取り組んでいかなくてはならな

い。開発の難易度が高まる一方で,開発期間の短期化を

実現しなくてはならないため,媒体設計ツールとして,

シミュレーション技術が重要視されている。

 本稿では,磁気ディスク媒体の開発におけるシミュ

レーション技術の活用について解説する。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○磁気記録媒体のモデル化

 図-1は現在のHDD用磁気記録媒体として,もっとも広

く使われているCoCrを主成分とした媒体の透過型電子顕

微鏡(TEM)写真の一例である。CoCr系媒体の特徴として

次の二つが挙げられる。

(1) 媒体は10 nm弱から数十nm程度の磁性粒子の集合

体である。現在の薄膜媒体は,記録層の膜厚が10~

20 nm程度と薄いことから,柱状粒子の二次元集合体

と考えることができる。

(2) 媒体主成分であるCo(≈ 60 at%)とCr(≈ 20 at%)が

固溶しにくいために,磁性粒子の境界付近にCrの偏

析(注1)が促進され,膜面内方向の磁気的な結合力はCo

単体粒子の集合体に比べてかなり小さい。

● 幾何学モデル

 実際の磁気記録媒体を幾何学的に記述するシミュレー

ションモデルとしては,図-2に示すような六角柱型粒子

の二次元集合体とする。本モデルでは,計算の簡便性,

速度の関係から各粒子サイズは一定かつ等間隔に規則正

しく配列している。粒子を六角柱とすることにより,最

隣接粒子が6個になり実媒体の微細構造をよく記述でき

る。幾何学的なパラメタとしては磁性粒径(D ),非磁性粒

間(d ),膜厚(δ)がある。実際に計算できる領域は数μm

程度(例えば,D = 15 nm,256 × 256 cellsで,3.8μm四

方)と実媒体に比べ小さいため,周期境界条件を導入する

ことにより疑似的に境界のない無限に広い媒体の計算を

可能としている。

● 磁気的モデル

 各粒子の磁化の絶対値は一定で方向のみが変化するもの

と仮定している(単磁区粒子)。Co微粒子は直径が140 nm(8)以下であれば,単磁区粒子となることが知られており,

現在の磁気記録媒体の粒径が約15 nm程度以下を考える

と,上記仮定が成り立つ領域であると言える。

 各粒子の磁化挙動は四つの磁気エネルギーを考慮し,

Landau-Lifshitzの方程式により計算される。本計算モデル

図-1 CoCr合金媒体の透過型電子顕微鏡写真Fig.1-TEM micrograph of CoCr alloy magnetic recording media.

図-2 HDD用磁気記録媒体のシミュレーションモデルFig.2-Illustration of simulation grain array for thin film magnetic

recording media.

δD

d

(注1)2種類以上の元素からなる合金において,元素同士の相性,融点の違いなどから合金中の成分が一部に偏ること。

粒界:Cr rich

磁性粒:Co rich

Page 3: 特 HDD用磁気記録媒体開発における シミュレーショ …£気ゆらぎ現象の測定が行われるようになった。 今後 (6), (7) の媒体開発は,低ノイズ化のための粒径微細化と耐熱磁

FUJITSU.51, 5, (09,2000)

HDD用磁気記録媒体開発におけるシミュレーション技術

288

で考慮するエネルギーは次の四つである。

【結晶磁気異方性エネルギー】

 Co合金粒子には磁化が向きやすい方向(磁化容易軸)が

存在し,磁化方向を容易軸方向に向けるエネルギーが存

在する。Co粒子ではhcp構造(注2)の c 軸と同方向が磁化容

易軸である。計算パラメタとして,結晶磁気異方性磁界

(H K)と容易軸方向を与える必要がある。

【静磁気相互作用エネルギー】

 二つの磁石が存在すると図-3に示すように,その位置

関係によりお互いに平行,または反平行に並ぼうとするエ

ネルギーが存在する。このエネルギーは距離の二乗に反比

例するものの広い範囲で力を及ぼしあう。一つの粒子の

エネルギーを計算するためには,計算領域すべての粒子

から受けるエネルギーを計算する必要がある。飽和磁化

(M S),粒子形状を計算パラメタとして与える必要がある。

【交換磁気相互作用エネルギー】

 強磁性体内では,原子磁気モーメントが平行に配列す

るエネルギーが存在することで自発磁化が発生する。こ

のエネルギーを磁性粒子間に拡張,適用したものが交換

磁気相互作用エネルギーである。この力は最隣接粒子間

のみに働き,常に隣接粒子と同方向に磁化方向を向けよ

うとするエネルギーである。交換磁気相互作用強度(h e)

が計算パラメタとなる。

【ゼーマンエネルギー】

 外部磁界によるエネルギーで,磁化は磁界印加方向に

その大きさに比例した力で回転するエネルギーが与えら

れる。外部磁界としては,磁化曲線では電磁石による一

様磁界,ヘッドによる情報書込み時は,分布を持った

ヘッド磁界を考慮する必要がある。

 計算フローとしては,まず各粒子の持つ4種類のエネ

ルギーを計算する。計算されたエネルギーに応じた微少

時間の磁化変位量を計算し,磁化方向を変える。磁化方

向を変えると各エネルギー量が変化するので,再計算す

る必要がある。再度計算したエネルギーに応じた磁化変

位量を再計算し,磁化方向を変える計算を繰り返す。磁

化変位量が設定したしきい値より小さい場合をその磁界

分布における磁化安定点とする。

 より詳細な計算方法については参考文献(9)-(11)を参照し

ていただきたい。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○媒体ノイズシミュレーション

 高面記録密度用のHDD媒体に求められる性能として,

微細な記録パターン(高記録密度)においてもノイズの少

ないクリアな信号を記録・再生する能力が求められる。

記録・再生信号品質の評価として様々な指標が用いられ

るが,ここでは各記録密度における媒体ノイズの大きさ

を十分に低い記録密度の再生出力で規格化した値(規格化

媒体ノイズ)により評価する。

 媒体ノイズのシミュレーションとして次に示す3種類

の磁気記録媒体について行う。まず,本シミュレーショ

ンの妥当性を検証するため媒体A,Bの異なる磁気記録媒

体を用いて,実測およびシミュレーションの結果を比較

する。媒体A,Bは2Gビット/平方インチ,8Gビット/平

方インチ用の磁気記録媒体で磁気記録層のCr濃度が異な

る。両媒体には磁性粒子間に比較的強い交換磁気相互作

用が存在するが,媒体Bは磁性層のCr濃度を高くするこ

とによりCrの偏析を促進し,交換磁気相互作用を小さく

することで媒体ノイズを低減している。さらに媒体Cとし

て次世代の磁気記録媒体として期待されるCoPt-SiO2グラ

ニュラー媒体(12)-(15)についても計算を行った。グラニュ

ラー媒体はCoPtの磁性粒子がSiO2の非磁性母材上に点在

するため磁性粒子間の交換磁気相互作用がほぼゼロに近

いことで知られている。シミュレーションにおいては交

換磁気相互作用強度(h e)をゼロとして計算を行った。

 媒体A,Bのシミュレーションに用いる各パラメタは実

測データをもとに決定した。例えば幾何学パラメタであ

る,磁性粒径(D ≈ 13 nm),非磁性粒間(d ≈1nm)は両媒

体をTEMで直接観察することにより決定した。磁気パラ

メタについても振動試料型磁力計(VSM),トルク磁力計

の2種類の装置を用いて測定された値を用いた。唯一,

交換磁気相互作用強度(h e)については直接測定する手法

が存在しないため,シミュレーションによる磁化曲線が

VSMで測定した磁化曲線に一致するように決定した(媒体

A,Bについて)。

 各媒体の線記録密度に対する規格化媒体ノイズの依存

性を図-4に示した。横軸は線記録密度で1インチあたり

の磁化反転数(FCI:Flux Change per Inch)で,1インチ

+ + + +-- -

- -

+

+

+

+

----

-----

+++++

+++++

+++

- -- ---

-++++ + +

+

----- - -

 図-3 静磁気相互作用の模式図 左:磁化が互いに反平行になる位置関係 右:磁化が互いに平行になる位置関係

 Fig.3-Illustration of magnetostatic interaction. Left:Anti parallel of two magnetization is stable state.Right:Parallel of two magnetization is stable state.

(注2)六方最密格子,hexagonal close packedの略語。

Page 4: 特 HDD用磁気記録媒体開発における シミュレーショ …£気ゆらぎ現象の測定が行われるようになった。 今後 (6), (7) の媒体開発は,低ノイズ化のための粒径微細化と耐熱磁

FUJITSU.51, 5, (09,2000)

HDD用磁気記録媒体開発におけるシミュレーション技術

289

あたりのディジタル情報量に比例する単位である。点線

で結ばれた各プロットは実媒体を実際に測定した結果で

ある。一方,実線はシミュレーションにより各媒体のノ

イズを計算した結果である。媒体A,Bのシミュレーショ

ン結果において,両者の規格化媒体ノイズの大小関係,

線記録密度に対する依存性が実験結果とよく一致してお

り,本シミュレーションの妥当性が示されている。一

方,媒体Cについてはノイズの大きさが実媒体とシミュ

レーションで若干異なるものの,線記録密度によらず媒

体ノイズがほぼ一定という,グラニュラー媒体特有の特

徴をよく再現している。媒体Cにおいてノイズの絶対値が

異なるのは,試作段階である実媒体の交換磁気相互作用

が完全にゼロではないことなどが考えられる。以上のシ

ミュレーション結果より媒体ノイズを低減するために

は,磁性粒子間の磁気的な相互作用を低減することが不

可欠であることが分かる。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○熱磁気ゆらぎシミュレーション

 HDDが1950年代の後半に実用化されてからこれまで,

磁気記録媒体の面記録密度は107倍に拡大した。この間,

媒体ノイズを小さくするため磁性粒子サイズも大きく減少

した。このため,記録情報の熱磁気ゆらぎによる消失が問

題視されてきている。著者らはこの課題に取り組んでいく

ために,これまでに説明したシミュレーションとモンテカ

ルロ法を組み合わせることにより,熱磁気ゆらぎのシミュ    (4), (16)-(18)レーションを可能とした。   モンテカルロ法は乱数を

巧みに利用して熱磁気ゆらぎ現象を計算する方法である。

 磁気記録媒体において耐熱磁気ゆらぎ性を確保する方

法として,磁性粒子サイズの均一化や高い結晶磁気異方

性エネルギーを持つ材料への変更などが提案されてい

る。前者による安定化効果は小さく,後者による安定化

効果は大きいが,実際にはヘッドにより磁気情報を書き

込まなくてはならず,結晶磁気異方性エネルギーをむや

みに大きくすることはできない(極端に大きくすると磁気

情報の書込み・消去ができなくなる)。

 著者らは耐熱磁気ゆらぎ性を確保する別の方法とし

て,周方向の磁気異方性に着目し,解析を行ってきた。

HDD装置は非駆動時に記録・再生ヘッドが磁気記録媒体

上に静止する。静止時にヘッドと媒体が吸着する現象を

防ぐために,媒体表面に周方向の凹凸を付ける加工(テク

スチャ処理)が施されている。この周方向の凹凸により,

磁性粒子の磁化容易軸方向が周方向に揃う二次的な効果

がある(図-5)。周方向の異方性の大きさは凹凸の深さ,(19)周期などに依存していると考えられている。

規格化媒体ノイズ�

(10-3 µVrms

µm1/2 /

µVpp)�

線記録密度(kFCI)��

媒体A�(低Cr濃度)�

媒体B �(高Cr濃度)�

シミュレーション��

媒体C(CoPt-SiO2)�

30�

20�

10�

00 100 200 300 500400

図-6 異なる周方向異方性を持つ媒体の残留磁化の経過時間依存性

Fig.6-Normalized magnetization dependence on elapsed time ondifferent magnetic orientation media.

10%�減少�

規格化残留磁化量�

(1秒後の磁化量で規格化)�

1.0�

0.9�

0.8�

0.7

経過時間(s, logスケール)��

シミュレーション��

磁気エネルギー(KUV)�熱エネルギー(KBT)�

= 84

OR = 1.35

OR = 1.15

OR = 1.0

1秒�

1時間�

1年�

105

1010

1015

1020年�

図-4 種々媒体における規格化媒体ノイズの線記録密度依存性Fig.4-Normalized medium noise dependence on linear recording

density (3 different media).

等方性媒体��

異方性性媒体��

図-5 等方性,異方性媒体の模式図矢印は各磁性粒子の磁化容易軸方向,等方性媒体は分布がランダムであるが,異方性媒体は一方向に比較的揃っている。

Fig.5-Illustration of difference of isotropic and oriented media.Arrow represents magnetic easy axis direction of each grains.The distribution of easy axes in oriented media is well alignedin one direction compared with isotropic media.

Page 5: 特 HDD用磁気記録媒体開発における シミュレーショ …£気ゆらぎ現象の測定が行われるようになった。 今後 (6), (7) の媒体開発は,低ノイズ化のための粒径微細化と耐熱磁

FUJITSU.51, 5, (09,2000)

HDD用磁気記録媒体開発におけるシミュレーション技術

290

 図-6は異なる周方向異方性を持つ媒体の残留磁化の経

過時間依存性を計算した結果である。図の横軸は経過時

間で,縦軸は時間1秒後の磁化で規格化した残留磁化量

である。経過時間に対する残留磁化量の変化が小さいほ

ど,耐熱磁気ゆらぎ性の高い媒体と言え,周方向に強い

磁気異方性を持つ媒体(OR = 1.15,1.35)は等方性媒体

(OR = 1.0)に比較して熱磁気ゆらぎに対して強いことが

分かる。例えば,磁化が10%減少する時間間隔を記録情

報の寿命と仮定すると,異方性媒体(OR = 1.35)は1023年

以上の寿命を持つのに対して,等方性媒体(OR = 1.0)は

108年程度と大きな差がある。また,詳述はしないが記録・

再生特性の面からも異方性媒体の優位性が見えている。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○今後の課題

 シミュレーション技術の精度向上という面では,磁性

粒子サイズの分布を考慮した計算モデルとすることが必

要と考える。この課題は,より正確な媒体ノイズシミュ

レーションはもちろん,精度の高い熱磁気ゆらぎシミュ

レーションを行うためにも必要な改良である。

 もう一つの課題はシミュレーションにより得た知見に

基づき,実際の媒体として実現していく手法である。製

膜プロセスの最適化,場合によっては新規設備の導入な

どにより対応していく必要があると考える。

○ ○ ○ ○ ○ ○ ○む  す  び

 マルチメディア,IT技術の発達により,HDDへの大容

量化,高密度化の要求がますます高まっている。今後の

HDD媒体開発においては媒体ノイズを低減するのはもち

ろんであるが,同時に耐熱磁気ゆらぎ性を確保すること

がかぎとなってくる。本稿では,富士通の低ノイズ,高

耐熱磁気ゆらぎ性媒体開発におけるシミュレーション活

用について紹介した。今後,媒体ノイズ,耐熱磁気ゆら

ぎ性の解析を精力的に進め,HDD技術,ビジネスを更に

促進する所存である。

参 考 文 献

(1) J.-G. Zhu:Noise of Interacting Transitions in Thin Film

Recording Media. IEEE Trans. Magn.,27,pp.5040-5042(1991).

(2) E. S. Murdock,R. F. Simmons,and R. Davidson:

Roadmap for 10 Gbit/in2 Media:Challenges. IEEE Trans.

Magn.,28,pp.3078-3083(1992).

(3) M. H. Kryder,W. Messner,and L. R. Carley:Approaches to

10 Gbit/in2. Recording. J. Appl. Phys.,79,pp.4485-4490(1996).

(4) Y. Kanai and S. H. Charap:Simulation of Magnetic

Aftereffect in Recording Media. IEEE Trans. Magn.,27,

pp.4972-4974(1991).

(5) P.-L. Lu and S. H. Charap:Magnetic Viscosity in High-

Density Recording. J. Appl. Phys.,75,pp.5768- 5770(1994).

(6) Y. Hosoe et al.:Experimental Study of Thermal Decay in

High-density Magnetic Recording Media. IEEE Trans. Magn.,

33,pp.3028-3030(1997).

(7) H. Uwazumi,J. Chen,and J. H. Judy:Time Decay of

Remanent Magnetization,Remanent Coercivity,and

Readback Signal of Ultra-thin Longitudinal CoCr12Ta2/Cr Thin

Film Media. IEEE Trans. Magn.,33,pp.3031-3033(1997).

(8) J.-G. Zhu:Noise in Digital Magnetic Recording. Edited by

T. C. Arnoldussen and L. L. Nunnelley,Chapter 6,

Singapore,World Scientific,1992.

(9) J.-G. Zhu and H. N. Bertram:Micromagnetic Studies of Thin

Metallic Films. J. Appl. Phys.,63,pp.3248-3253(1988).

(10)Y. Nakatani,Y. Uesaka,and N. Hayashi:Direct Solution

of the Landau-Lifshitz-Gilbert Equation for Micromagnetics,

Jpn. J. App. Phys.,28,pp.2485-2507(1989).

(11)H. Akimoto,I. Okamoto,and M. Shinohara:Magnetic

Interaction in Co-Cr-Pt-Ta-Nb Media:Utilization of Micromagnetic

Simulation,IEEE Trans. Magn.,34,pp.1597-1599(1998).

(12)C. L. Chien:Granular Magnetic Solids. J. Appl. Phys.,69,

pp.5267-5272(1991).

(13)I. Kaitsu et al.:Magnetic Properties and Structure of(Co-

alloy)-SiO2 Granular Films. IEEE Trans. Magn.,32,pp. 3813-

3815(1996).

(14)I. Kaitsu et al.:Magnetic and R/W Properties of CoPt-SiO2

Granular Media. IEEE Trans. Magn.,34,pp.1591-1593(1998).

(15)K. Ichihara et al.:High-Density Recording Capacity of

Granular Media Composed of Co-Pt Grains and SiO2 Matrix.

IEEE Trans. Magn.,34,pp.1603-1605(1998).

(16)Y. Uesaka et al.:Monte Carlo Simulation of Thermal

Fluctuation in Magnetization of Longitudinal and Perpendicular

Magnetic Recording Media. J. Magn. Magn. Mat.,174,

pp.203-218(1997).

(17)H. Akimoto et al.:Magnetic relaxation in Thin Film Media

as a Function of Orientation Ratio. J. Magn. SMagn. Mat.,

193,pp.240-244(1999).

(18)秋元,岡本,篠原:磁気記録媒体の周方向磁気異方性と耐

熱磁気ゆらぎ性,記録再生特性の関係.日本応用磁気,24,

pp.176-179(2000).

(19)高橋ほか:CoCrPtTa薄膜媒体の面内磁気異方性と微細構

造.日本応用磁気,24,pp.283-286(2000).