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利⽤者が感じる「明るさ」「⾒やすさ」 「眩しさ」の設計 中村芳樹 (東京⼯業⼤学) 〜輝度コントラストを⽤いた公共空間の視認性評価〜 照度 輝度 [lx] [cd/m 2 ] モノに当たる光の量 目に入る光の量 光が存在するだけでは,われわれは「明るさ」を感じない 感じる「明るさ」を推定するには,目に入る光が必要 均等拡散面の輝度と照度の関係 E L 1 輝度を作り出す面を考えることが重要 ρ = V(V-1) ρ:反射率(%) V:マンセルバリュー L:輝度, ρ:反射率 E:照度 輝度は照度から推定できる 水平面だけではなく,部屋各面の照度、 輝度が求められる 間接光を含むことから、3次元の照明シミュ レーションが必要 空間を構成する面,すなわち,壁面や天 井面の見え方に根拠が求められる

空間を構成する面,すなわち,壁面や天 = V(V-1) 井面 … · 利⽤者が感じる「明るさ」「⾒やすさ」 「眩しさ」の設計 中村芳樹 (東京⼯業⼤学)

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Page 1: 空間を構成する面,すなわち,壁面や天 = V(V-1) 井面 … · 利⽤者が感じる「明るさ」「⾒やすさ」 「眩しさ」の設計 中村芳樹 (東京⼯業⼤学)

利⽤者が感じる「明るさ」「⾒やすさ」「眩しさ」の設計

中村芳樹(東京⼯業⼤学)

〜輝度コントラストを⽤いた公共空間の視認性評価〜 照度 輝度[lx] [cd/m2]

モノに当たる光の量 目に入る光の量

光が存在するだけでは,われわれは「明るさ」を感じない

感じる「明るさ」を推定するには,目に入る光が必要

均等拡散面の輝度と照度の関係

EL 1

輝度を作り出す面を考えることが重要

ρ = V(V-1)ρ:反射率(%)V:マンセルバリュー

L:輝度, ρ:反射率 E:照度

輝度は照度から推定できる 水平面だけではなく,部屋各面の照度、輝度が求められる

間接光を含むことから、3次元の照明シミュレーションが必要

空間を構成する面,すなわち,壁面や天井面の見え方に根拠が求められる

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明るさ,グレア,視認性といった検討が必要な見え方(アピアランス)は対象輝度だけでは決まらない。

アピアランス(明るさ,グレア,視認性)を検討するには背景とのコントスラトの情報が不可欠

実環境での輝度コントラストの算出

実空間の輝度分布

マスクを考え,赤部分の平均輝度と,青部分の平均輝度で対比を計算する.

コントラスト・プロファイル法を使った対比量の計算

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-0.000009 -0.00022 -0.00167 -0.0032 -0.00167 -0.00022 -0.000009

-0.00022 -0.00626 -0.03534 -0.0563 -0.03534 -0.00626 -0.00022

-0.00167 -0.03534 -0.06548 0.062483 -0.06548 -0.03534 -0.00167

-0.0032 -0.0563 0.062483 0.57284 0.062483 -0.0563 -0.0032

-0.00167 -0.03534 -0.06548 0.062483 -0.06548 -0.03534 -0.00167

-0.00022 -0.00626 -0.03534 -0.0563 -0.03534 -0.00626 -0.00022

-0.000009 -0.00022 -0.00167 -0.0032 -0.00167 -0.00022 -0.000009

畳み込みマトリックス(輝度比をとるための重み付けマトリックス)

計算用の近似マトリックス(近似を高くしていくと、中心部分の合計が1に近くなっていくが、マトリックス大きくなり、計算負荷がかかる)

理想的なフィルタ関数

全部を加算すると→0中心部分だけを加算すると→0.75

2 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2.8 4 3.1 2 2 22 2 2 2.9 3.5 2.1 2 2 22 2 2 3.5 4.5 3.8 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 2

-0.000009 -0.00022 -0.00167 -0.0032 -0.00167 -0.00022 -0.000009

-0.00022 -0.00626 -0.03534 -0.0563 -0.03534 -0.00626 -0.00022

-0.00167 -0.03534 -0.06548 0.062483 -0.06548 -0.03534 -0.00167

-0.0032 -0.0563 0.062483 0.57284 0.062483 -0.0563 -0.0032

-0.00167 -0.03534 -0.06548 0.062483 -0.06548 -0.03534 -0.00167

-0.00022 -0.00626 -0.03534 -0.0563 -0.03534 -0.00626 -0.00022

-0.000009 -0.00022 -0.00167 -0.0032 -0.00167 -0.00022 -0.000009

2*(-0.032)+2*(-0.0563)+2.9*(0.062483)+3.5*(0.57284)+2.1*(0/062483)+ 2*(-0.0563)+2*(-0.032)

対数輝度画像

畳みこみマトリックス

輝度画像の解像度を変えて計算→算出する対象サイズを変化

(多重解像度分析)

計算対象 (光源)

(1) 対象サイズ小

(2) 対象サイズ中

(3) 対象サイズ大

コントラストのピークと視対象サイズ

検出サイズ

largesmall

最大値より、その点を中心にした視対象サイズと輝度コントラストが決まる

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グレア源のコントラスト・プロファイルの例

-0.05

0

0.05

0.1

0.15

0.2

0.25

0.3

0.35

0.4

0.45

0 5 10 15 20

検出波長 [deg]

輝度

-0.2

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

輝度比 輝度対比

ピークの位置がグレア源のサイズに対応

検出サイズ

2 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2.8 4 3.1 2 2 22 2 2 2.9 3.5 2.1 2 2 22 2 2 3.5 4.5 3.8 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 22 2 2 2 2 2 2 2 2

合計= 2.249 対数輝度平均

対数輝度平均算出フィルタ

コントラスト・プロファイル法を使えば,現実環境の複雑な輝度分布においても,視認性や明るさやグレアを検討しようとする対象のサイズ,輝度コントスラト(C値),対数輝度平均(A値)を,客観的に算出することができる。

輝度コントラスト画像 対数輝度平均画像輝度画像

正対比

逆対比

[cd/㎡ ]

[cd/㎡ ] C値: - 0.2213

C値:0.2213

A値: 1.2708

A値:1.7292

ランドルト環のC値・A値の例

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‐0.4

‐0.3

‐0.2

‐0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

‐0.5 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

対数輝度平均(A)

正対比

逆対比

輝度コントラスト評価図(CA図)

求められた値を、 CA図(横軸:対数輝度平均、縦軸:輝度コントラスト として関係を示すグラフ)へプロット

輝度コントラ

スト(C)

-0.2213

0.2213

1.27081.7292

サイズとC,Aが分かれば視認性が分かる

紙面に書かれた文字の視認性と照度との関係を輝度コントラスト評価図にプロットすると

輝度コントラストは変わらず対数輝度平均だけが変化する矩形波と視標視標と背景 矩形波の中⼼

検出サイズの変化

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真値と測定のコントラスト・プロファイル

(deg)

L:20min M:10min

S:3min

10min20min

3.33min

◆ visible◆ invisible

対象輝度と背景輝度と視対象サイズは、 C, A値から算出できる.

LbL

(st)

CAdeg)

s

相互変換が可能

‐2

‐1

0

1

2

3

4

‐3 ‐2 ‐1 0 1 2 3 4コントラスト値

対数輝度平均

C(B=100)

C(B=20)

C(B=10)

C(B=5)

C(B=1)

等明るさ曲線のプロット(Bodmann(1979) S=120min)

サイズ、背景輝度、対象輝度から推定する既往研究の式を利用可能

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[cd/m2]

スポーツ競技場の投光照明

グレア評価の方法

• L : グレア源の輝度 [cd/m2]• Lb : 背景輝度 [cd/m2]• ω : グレア源の大きさ(立体角) [sr]• P : ポジション・インデックス(視線方向から離れた効果)

2

225.0log8PL

LUGR

b

-10

0

10

20

30

40

50

60

0 0.0002 0.0004 0.0006 0.0008 0.001 0.0012

UG

R S

core

Sorce size [sr]

グレア・プロファイル

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3次元照明シミュレーション・ソフトの広がり

• Rradiance– 計算精度はある程度信頼できる– さまざまな昼光データベース完備– 操作が難しい

• Dialux evo– 計算は高速– 光の計算精度は信頼できる– 昼光は現在扱えない

• Lumicept– 計算精度はある程度信頼できる

• Light tools– 計算精度は高いが、環境のシミュレーションには向かない

• 3ds maxなど– 一般のrenderingソフトとの混合– 計算精度がよく分からない– 照明解析を使えば画像出力可能

• その他…

Radianceを用いた設計例

照明設計の目的を明確化する

• 照明の目的は「モノを適切に見せること」

• モノが見えるのは,輝度コントラストが存在するから。大切なのは,モノを適切に見せるために輝度コントラストを設計するという姿勢

• たとえば…– 輝度コントラストは、色の違い(反射率の違い)と、当たる光の量の違いで決まる。視力が低い場合は、この二つの違いがしばしば分離できない

– 障害物が存在しても、影ができないような光が当たれば,輝度コントラストが小さく発見できないこともある

安全,安心,快適を生み出す照明設計

• 施設設計者が伝えたい情報を確実に伝える

– 大きな空間的な構造

– さまざまなサービスのための視覚情報• サインなど

– 危険箇所の情報

• ロービジョン者が受け取りたい情報を伝える

– 影と暗い色、暗い障害物との分離• 暗い柱なのか、何かの影なのか…。

– 予想外の障害物があると見える• 照度だけれど指向性のある光が大切か?

– 人、列車、自動車などの動きが見える• 服の色をどのように想定するか

– 知覚者の動きとの関係• 自分の動きと連動して変化する視覚情報が受け取れる。