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物理学演習I 1 変数変換 1.1 2変数関数の変数変換 f がある変数 p の関数のとき,p を微少な値 dp 変化させたときの f の変化 df df = df dp dp (1.1) 例えば f が座標 x の関数なら df = df dx dx (1.2) f p, q の関数のとき,p, q をそれぞれ微少な値 dp, dq 変化させたとき f の変化 df df = ∂f ∂p dp + ∂f ∂q dq (1.3) この p, q がさらに変数 s の関数であるとき,f f (p(s),q (s)) と表せる から結果的に s の関数と考えることができる.f s についての微分は 上式を ds で割れば得られ,次のように表せる: df ds = df dp dp ds + df dq dq ds (1.4) また p, q が2つの変数 s, t の関数であるときは,f f (p(s, t),q (s, t)) 表せるから結果的に t, s の関数と考えることができる.f s t につ いての微分は上式を ds dt で割れば得られ,次のように表せる: ∂f ∂s = ∂f ∂p ∂p ∂s + ∂f ∂q ∂q ∂s (1.5) ∂f ∂t = ∂f ∂p ∂p ∂t + ∂f ∂q ∂q ∂t (1.6) ここで p, q, f はどれも複数の変数 t, s の関数だから,これらの微分には d ではなく上のように偏微分用の記号 を使わなければならない. 1

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物理学演習I

1 変数変換1.1 2変数関数の変数変換

f がある変数 p の関数のとき,p を微少な値 dp 変化させたときの f

の変化 df はdf =

df

dpdp (1.1)

例えば f が座標 x の関数なら

df =df

dxdx (1.2)

f が p, q の関数のとき,p, q をそれぞれ微少な値 dp, dq 変化させたときの f の変化 df は

df =!f

!pdp +

!f

!qdq (1.3)

この p, q がさらに変数 s の関数であるとき,f は f(p(s), q(s)) と表せるから結果的に s の関数と考えることができる.f の s についての微分は上式を ds で割れば得られ,次のように表せる:

df

ds=

df

dp

dp

ds+

df

dq

dq

ds(1.4)

また p, q が2つの変数 s, t の関数であるときは,f は f(p(s, t), q(s, t))と表せるから結果的に t, s の関数と考えることができる.f の s や t についての微分は上式を ds や dt で割れば得られ,次のように表せる:

!f

!s=

!f

!p

!p

!s+

!f

!q

!q

!s(1.5)

!f

!t=

!f

!p

!p

!t+

!f

!q

!q

!t(1.6)

ここで p, q, f はどれも複数の変数 t, s の関数だから,これらの微分にはd ではなく上のように偏微分用の記号 ! を使わなければならない.

1

1

c2

!2u

!t2! !2u

!x2= 0

p = x ! ct, q = x + ct

!

!q

!

!pu = 0

x(r, "), y(r, ")

df =!f

!xdx +

!f

!ydy (1.7)

平面極座標x = r cos ", y = r sin " (1.8)

!f

!r=

!f

!x

!x

!r+

!f

!y

!y

!r(1.9)

!f

!"=

!f

!x

!x

!"+

!f

!y

!y

!"(1.10)

1.2 平面上のラプラシアンの極座標表示ラプラシアンという微分演算子は物理や工学の多くの式中に現れる.平面上のラプラシアン ! は

! =!2

!x2+

!2

!y2

で定められる.応用上しばしばこの !を極座標で表すことが必要となる.

平面上の関数は座標 x, y を用いて表すことも, (1.8) の平面局座標 r, "

を用いて表すこともできる.関数 f が r, " により表されているとき

df =!f

!rdr +

!f

!"d" (1.11)

である.この両辺を dx や dy で割ってから d を ! に直し,次のようなf の x, y 微分と f の r, " 微分の関係を得る:

!f

!x=

!f

!r

!r

!x+

!f

!"

!"

!x(1.12)

!f

!y=

!f

!r

!r

!y+

!f

!"

!"

!y(1.13)

2

(1.8) よりr =

!x2 + y2, " = tan!1 y

x(1.14)

この右式はy

x=

sin "

cos "= tan "

による,(1.14) より

!r

!x=

x!x2 + y2

,!"

!x= ! y

x2 + y2(1.15)

問1.(1.15) の2つの式を示せ.右式については次式を利用せよ:

d tan!1 x

dx=

1

1 + x2

(1.15) を (1.8) を用いて r, " で表すと

!r

!x= cos ",

!"

!x= !sin "

r(1.16)

この結果より (1.12) は次のように表せる:

!f

!x=

!f

!rcos " ! !f

!"

sin "

r(1.17)

同様にして (1.13) は次のように書き直せる:

!f

!y=

!f

!rsin " +

!f

!"

cos "

r(1.18)

問2.(1.12)から (1.17)を導いた上の議論と同にして,(1.13)から (1.18)

を導け.

(1.17) は次のことを意味する:

!

!x= cos "

!

!r! sin "

r

!

!"(1.19)

これより

!2

!x2=

!

!x

!

!x=

"cos "

!

!r! sin "

r

!

!"

#"cos "

!

!r! sin "

r

!

!"

#(1.20)

3

従って!2f

!x2=

"cos "

!

!r! sin "

r

!

!"

#"cos "

!

!r! sin "

r

!

!"

#f

=

"cos "

!

!r! sin "

r

!

!"

#"cos "

!f

!r! sin "

r

!f

!"

#

= cos "!

!r

"cos "

!f

!r

#! cos "

!

!r

"sin "

r

!f

!"

#

!sin "

r

!

!"

"cos "

!f

!r

#+

sin "

r

!

!"

"sin "

r

!f

!"

#

= cos2 "!2f

!r2! cos "

"!sin "

r2

!f

!"+

sin "

r

!2f

!r!"

#

!sin "

r

"! sin "

!f

!r+ cos "

!2f

!"!r

#+

sin "

r

"cos "

r

!f

!"+

sin "

r

!2f

!"2

#

!2f

!x2= cos2 "

!2f

!r2! 2 sin " cos "

r

!2f

!r!"+

sin2 "

r2

!2f

!"2

+sin2 "

r

!f

!r+

2 sin " cos "

r2

!f

!"(1.21)

同様にして (1.18) から次式を得る:!2f

!y2= sin2 "

!2f

!r2+

2 sin " cos "

r

!2f

!r!"+

cos2 "

r2

!2f

!"2

+cos2 "

r

!f

!r! 2 sin " cos "

r2

!f

!"(1.22)

問3.(1.17) を (1.19) のように表して (1.21) を導いた上の議論と同様にして,(1.18) から (1.22) を導け.

(1.21) と (1.22) より!2f

!x2+

!2f

!y2=

!2f

!r2+

1

r

!f

!r+

1

r2

!2f

!"2(1.23)

1.3 1次独立性ある区間 [a, b] の全ての x に対して

A cos x + B sin x = 0

4

であるなら,A = 0, B = 0 と結論できる.このことを sin x と cos x は区間 [a, b] で1次独立であると言い表わす.同様に,ある区間 [a, b] の全ての x に対して

c01 + c1x + c2x2 + · · · + cnxn = 0

であるならc1 = 0, c2 = 0, . . . , cn = 0

と結論できる.このことを 1, x, x2, x3, . . . , xn は区間 [a, b] で1次独立であるという.これらの例のように,ある区間 [a, b] の全ての x に対して

c1f1(x) + c2f2(x) + ·cnfn(x) = 0

であるならc1 = 0, c2 = 0, . . . , cn = 0

と結論できるとい,関数 f1(x), f2(x), . . . , fn(x) は区間 [a, b] で1次独立であるという.

1次独立という用語はベクトルにも使われている.つまり,

c1#A1 + c2

#A2 + · · · + cn#An = #0

であるならc1 = 0, c2 = 0, . . . , cn = 0

と結論できるとき,ベクトル #A1, #A2, . . . , #An は1次独立であるという.

2 関数のテイラー展開以下では関数 f(x) の導関数を df

dx(x) あるいは df(x)

dxで表す

2.1 テイラー展開x0 を x 軸上のある点する.関数 f(x) が次の形に展開できるとする:

f(x) = a0 +a1(x!x0)+a2(x!x0)2 +a3(x!x0)

3 +a4(x!x0)4 + · · · (2.1)

5

このときan =

1

n!

dnf

dxn(x0), n = 0, 1, 2, 3, . . . (2.2)

となる.

注1.(2.2) は n = 0 のとき数学的約束

0! = 1,d0f

dx0(x) = f(x) (2.3)

(0回微分するとは微分しないことである)に従って解釈する.従って (2.2)

は n = 0 のときa0 = f(x0) (2.4)

を意味する.

(2.2) は (2.1) の両辺を n 回微分して得られる式で x = x0 と置けば得られる.

問1.(2.1) の両辺を 3 回微分して得られる式で x = x0 と置けば

a3 =1

3!

d3f

dx3(x0)

が得られることを確かめよ.

(2.1) は (2.2) により次のように表せる:

f(x) = f(x0) +1

1!

df

dx(x0)(x ! x0) +

1

2!

d2f

dx2(x0)(x ! x0)

2

+1

3!

d3f

dx3(x0)(x ! x0)

3 +1

4!

d4f

dx4(x0)(x ! x0)

4 + · · · (2.5)

関数 f(x)を上の形に表すことを,関数 f(x)の点 x0のまわりでのテイラー展開と呼ぶ.上式を簡潔に書けば

f(x) ="$

n=0

1

n!

dnf

dxn(x0)(x ! x0)

n

ただし規約 (2.3) を用いた.

6

問2.関数 log x (x > 0) の点 1 のまわりでテイラー展開は,(2.5) でf(x) = log x,x0 = 1 と置けば得られ

log x = (x ! 1) ! (x ! 1)2

2+

(x ! 1)3

3! (x ! 1)4

4+ · · ·

となる.これを右辺の始めの3項まで確かめよ.

2.2 マクローリン展開(2.5) は x0 = 0 の場合次式となる:

f(x) = f(0) +1

1!

df

dx(0)x +

1

2!

d2f

dx2(0)x2 +

1

3!

d3f

dx3(0)x3 +

1

4!

d4f

dx4(0)x4 + · · ·

(2.6)

これを関数 f(x) のマクローリン展開と呼ぶ.上式を簡潔に書けば

f(x) ="$

n=0

1

n!

dnf

dxn(0)xn

となる.

関数 ex, cos x, sin x のマクローリン展開を (2.6) により求めると,次のような展開式を得る:

ex = 1 +x

1!+

x2

2!+

x3

3!+ · · · (2.7)

cos x = 1 ! x2

2!+

x4

4!! x6

6!+ · · · (2.8)

sin x = x ! x3

3!+

x5

5!! x7

7!+ · · · (2.9)

問1.これらの式を右辺の第3項まで確かめよ.

問2.関数 V (x) が原点 x = 0 で極小値 0 を持つとする.このとき原点付近で V (x) は 1

2

d2V

dx2(0)x2 にほぼ等しいことを示せ.

7

3 関数のフーリエ級数展開3.1 フーリエ級数展開点 x が区間 [!L,L] の左端かた右端まで動くとする.このとき sin

$

Lx,

cos$

Lx の値は1周期する. $

Lx の値が !$ から $ まで 2$ 変化するか

らである.これを n 倍した n$

Lx の値は 2$ " n 変化するから,sin

n$

Lx,

cosn$

Lx の値は n 周期する.

ここでは区間 [!L.L]上の関数を上のようにこの区間で値が数周期する関数 sin

n$

Lx, cos

n$

Lx (n = 1, 2, 3, . . .) を用いて展開する.

区間 [!L,L] 上の関数 f(x) が

f(x) = a0 + a1 cos$

Lx + b1 sin

$

Lx + a2 cos

2$

Lx + b2 sin

2$

Lx

+a3 cos3$

Lx + b3 sin

3$

Lx + · · · + an cos

n$

Lx + bn sin

n$

Lx + · · ·

つまり

f(x) = a0 +"$

n=1

%an cos

n$

Lx + bn sin

n$

Lx&

(3.1)

の形に展開できるとする.このとき

a0 =1

2L

' L

!L

f(x)dx (3.2)

an =1

L

' L

!L

f(x) cosn$

Lxdx, n = 1, 2, 3, . . . (3.3)

bn =1

L

' L

!L

f(x) sinn$

Lxdx, n = 1, 2, 3, . . . (3.4)

となる.

注1.区間 [!L,L] での奇関数の積分は 0 となる.従って,f(x) が奇関数の場合 (3.2) と (3.3) の値は 0 となり,f(x) が偶関数の場合,(3.4) の値は 0 となる.

8

注2.(3.1) 右辺の a0 の部分をa0

2と書く流儀もある.この場合,これ

に合わせて (3.2) の分母の 2L を L に変更する必要がある.

展開式 (3.1) を区間 [!L,L] 上の関数 f(x) のフーリエ級数展開と呼ぶ.関数をこのように展開した場合の係数 a0, a1, b1, a2, b2, . . . を求めるには (3.2), (3.3), (3.4) を用いればよい.

問1.自然数 m,n に対し,次式を示せ:' L

!L

cosm$

Lx sin

n$

Lxdx = 0,

' L

!L

cosm$

Lx cos

n$

Lxdx =

(0 m #= nのときL m = nのとき ,

' L

!L

sinm$

Lx sin

n$

Lxdx =

(0 m #= nのときL m = nのとき

上の第1式,及び m #= n のときの第2式と第3式を示すには3角関数の加法定理を使って得られる次式を利用せよ:

sin a cos b =1

2(sin(a + b) + sin(a ! b))

cos a cos b =1

2(cos(a + b) + cos(a ! b))

sin a sin b =1

2(cos(a ! b) ! cos(a + b))

m = n のときの第2式と第3式を示すには倍角の公式を利用せよ.

問2.(3.1) の両辺を区間 [!L,L] で積分した式から (3.2) を,両辺にcos

m$

Lxを掛けて区間 [!L,L]で積分した式から (3.3)を,両辺に sin

m$

Lx

を掛けて区間 [!L,L] で積分した式から (3.4) を導け.問1の結果を利用せよ.

問3.区間 [!L,L] 上の関数

f(x) =

(0, !L $ x < 0のとき1, 0 $ x $ Lのとき

9

のフーリエ級数展開 (3.1) が

f(x) =1

2+

2

$

"sin

$

Lx +

1

3sin

3$

Lx +

1

5sin

5$

Lx + · · ·

#

となることを確かめよ.

3.2 フーリエ正弦級数,余弦級数f(x) が偶関数である場合は

f(x) = a0 + a1 cos$

Lx + a2 cos

2$

Lx + a3 cos

3$

Lx + · · · (3.5)

a0 =1

L

' L

0

f(x)dx (3.6)

an =2

L

' L

0

f(x) cosn$

Lxdx, n = 1, 2, 3, . . . (3.7)

f(x) が奇関数である場合は

f(x) = b1 sin$

Lx + b2 sin

2$

Lx + b3 sin

3$

Lx + · · · (3.8)

bn =2

L

' L

0

f(x) sinn$

Lxdx, n = 1, 2, 3, . . . (3.9)

4 常微分方程式未知関数の微分を含むような方程式を微分方程式と呼ぶ.例えばニュートンの運動方程式

md2x

dt2= F

は位置 x(t) を未知関数とする微分方程式である.

10

4.1 変数分離形微分方程式

dy

dx+ xy2 = 0

は,左辺が y のみを含み,左辺が x のみを含む次の式に変型できる:1

y2dy = !xdx

このようにf(y)dy = g(x)dx

の形に書き直せる微分方程式を変数分離形と呼ぶ.変数分離形の微分方程式の解は,方程式を上の形に書き直した後に両辺に

'f(y)dy =

'g(x)dx

のように積分記号を付け,両辺の積分を実行すれば得られる.

例題.次の方程式の一般解を求めよ:dy

dx+ 2xy = 0 (4.1)

解.この式は1

ydy = !2xdx

と書き直せる変数分離形である.上式両辺に積分記号を付けて'

1

ydy = !

'2xdx

両辺の積分を実行して(左辺と右辺の不定積分をそれぞれ実行すると左辺と右辺に積分定数を1つずつ書くことになるが,これらはまとめて1つにできる)

log |y| = !x2 + C

これより|y| = e!x2+C = eCe!x2

従ってy = ±eCe!x2

11

任意定数 C を含む ±eC を新たに C と書いて,求める解は

y = Ce!x2

(4.2)

問1.次の方程式の一般解を求めよ:

dy

dx+ 2xy2 = 0 (4.3)

4.2 線形微分方程式線形微分方程式とは,次の形の微分方程式のことである:

an(x)dny

dxn+ an!1(x)

dn!1y

dxn!1+ · · · + a1(x)

dy

dx+ a0(x)y = f(x) (4.4)

未知関数 y を含まない右辺 f(x) を非斉次項と呼ぶ.上式の含む y の導関数の中で最大階数のものは n 階導関数なので,上式は n 階線形微分方程式と呼ばれる.n 階微分方程式の一般解,つまり解の一般形は,任意定数を n 個含む.

斉次線形微分方程式とは,非斉次項が 0 である線形微分方程式

an(x)dny

dxn+ an!1(x)

dn!1y

dxn!1+ · · · + a1(x)

dy

dx+ a0(x)y = 0 (4.5)

である.斉次線形微分方程式は次の性質を持つ:

(i)  y が解ならばその定数倍 Cy も解である.(ii)  y1, y2 が解ならその和 y1 + y2 も解である.

上の (i),(ii) をまとめれば

(iii)  y1, y2 が解ならばそれらの定数倍の和 C1y1 + C2y2 も解である.

問1.斉次線形微分方程式 (4.5) の n = 2 の場合に対して,上の (i), (ii)

を確かめよ.

12

4.3 1階線形微分方程式1階斉次数線形微分方程式

dy

dx+ P (x)y = 0 (4.6)

のひとつの解はy1 = e

RP (x)dx (4.7)

である.実際

dy1

dx=

de!R

P (x)dx

dx= e!

RP (x)dx d

dx

"!

'P (x)dx

#

= !eR

P (x)dxP (x) = !P (x)y1

となるから y1 は (4.6) を満たしている.(4.6) は斉次線形微分方程式であるから,この解 y1 を定数倍した

y = Cy1 (4.8)

も (4.6) の解である.

1階線形微分方程式

dy

dx+ P (x)y = Q(x) (4.9)

の一般解 y は次式で与えられる:

y = e!R

P (x)dx

"'e

RP (x)dxQ(x)dx + C

#(4.10)

ここで C は任意定数である.上の解の式の含む2種の不定式分'

P (x)dx,

'e

RP (x)dxQ(x)dx

の計算結果には積分定数を付ける必要はない.実施,積分定数を付けても,(4.10) を計算した結果は変わらない.

(4.9) の解の公式 (4.10) を,定数変化法と呼ばれるものを用いて導く.

13

式 (4.9) の解 y として,この式の右辺を 0 とした式 (4.6) の解 (4.8) の定数 C を x の関数におきかえた

y = A(x)y1 (4.11)

の形のものを探す(定数変化法).(4.11) を (4.9) 左辺に代入するとdy

dx+ P (x)y =

dAy1

dx+ P (x)Ay1

=dA

dxy1 + A

dy1

dx+ P (x)Ay1

=dA

dxy1 + A

"dy1

dx+ P (x)y1

#

=dA

dxy1

最後の等式で y1 が (4.6) の解であることを用いた.y が (4.9) の解となるには,上の結果が (4.9) 右辺に一致しなければならない.つまり

dA

dxy1 = Q(x)

でなければならない.上式よりdA

dx=

1

y1Q(x)

この両辺を積分して

A(x) =

'1

y1Q(x)dx + C

求める (4.11) の形の解は,上の結果と (4.7) より (4.10) となる.

問1.(4.10) を用いて次の方程式の一般解を求めよ:dy

dx+ 2xy = x (4.12)

4.4 2階線形微分方程式y1, y2 を2階斉次数線形微分方程式

d2y

dx2+ a(x)

dy

dx+ b(x)y = 0 (4.13)

14

の2つの解とするとき,上式の一般解 y は

y = C1y1 + C2y2

の形となる.ここで y1, y2 は (4.13) のある2つの解である. 2階数線形微分方程式

d2y

dx2+ a(x)

dy

dx+ b(x)y = f(x) (4.14)

の一般解 y はy = y0 + ys

の形となる.ここで y0 は (4.14) の右辺を 0 に置き換えた式 (4.13) の一般解であり,ys は (4.14) のある特別解,つまり (4.14) を満たすあるひとつの解である.(4.14) の特別解 ys は公式

ys = !y1

'y2f

Wdx + y2

'y1f

Wdx (4.15)

を用いて得ることができる.ここで y1, y2 は (4.14) 右辺を 0 とした式(4.13) の2つの解であり,W は次の行列式である:

W =

))))))

y1 y2

dy1

dx

dy2

dx

))))))= y1

dy2

dx! y2

dy1

dx(4.16)

特別解の公式 (4.15) は定数変化法を用いて導くことができる.いま

y = C1y1 + C2y2

ys = A1(x)y1 + A2(x)y2 (4.17)

dys

dx=

d

dx(A1y1 + A2y2)

=dA1

dxy1 + A1

dy1

dx+

dA2

dxy2 + A2

dy2

dx

d2ys

dx2=

d2

dx2(A1y1 + A2y2)

=d2A1

dx2y1 + 2

dA1

dx

dy1

dx+ A1

d2y1

dx2

+d2A2

dx2y2 + 2

dA2

dx

dy2

dx+ A2

d2y2

dx2

15

d2ys

dx2+ a

dys

dx+ bys =

d2A1

dx2y1 +

d2A2

dx2y2 + 2

dA1

dx

dy1

dx+ 2

dA2

dx

dy2

dx

+a

"dA1

dxy1 +

dA2

dxy2

#+ A1

"d2y1

dx2+ a

dy1

dx+ by1

#

+A2

"d2y2

dx2+ a

dy2

dx+ by2

#

=d2A1

dx2y1 +

d2A2

dx2y2 + 2

dA1

dx

dy1

dx+ 2

dA2

dx

dy2

dx

+a

"dA1

dxy1 +

dA2

dxy2

#(4.18)

最後の等式で y1, y2 が (4.13) の解であることを用いた.いま上式最後の括弧内が恒等的 0 であることを要請する:

dA1

dxy1 +

dA2

dxy2 = 0 (4.19)

このとき両辺を微分してd

dx

"dA1

dxy1 +

dA2

dxy2

#= 0

を得る.左辺の微分を行うと,上式はd2A1

dx2y1 +

dA1

dx

dy1

dx+

d2A2

dx2y2 +

dA2

dx

dy2

dx= 0

となる,付加条件 (4.19) と上式を (4.18) に用いると

d2ys

dx2+ a

dys

dx+ bys =

dA1

dx

dy1

dx+

dA2

dx

dy2

dx

y が (4.29) の解であるためには,この右辺と (4.14) の右辺が一致しなければならない.つまり

dA1

dx

dy1

dx+

dA2

dx

dy2

dx= f (4.20)

が成り立たなければならない.A1, A2 が満たすべき2つの条件式 (4.19)

と (4.20) はまとめて次のように表せる:*

+y1 y2

dy1

dx

dy2

dx

,

-

*

.+dA1

dxdA2

dx

,

/- =

00

f

1

16

クラメルの公式より,これを満たす dA1

dx,dA2

dxは

dA1

dx=

))))))

0 y2

fdy2

dx

))))))))))))

y1 y2

dy1

dx

dy2

dx

))))))

= !y2f

W,

dA2

dx=

))))))

y1 0dy2

dxf

))))))))))))

y1 y2

dy1

dx

dy2

dx

))))))

=y1f

W

従ってA1(x) = !

'y1f

Wdx, A2(x) =

'y1f

Wdx

ととればよい.求める形の解 (4.17) は上の結果より (4.15) となる.

4.5 2階定数係数線形微分方程式定数の係数 a, b を持つ2階定数係数斉次線形微分方程式

d2y

dx2+ a

dy

dx+ by = 0 (4.21)

を考える.ここでは定数 a, b は実数とする.上式の特性方程式とは,上式の d2y

dx2,dy

dx,y をそれぞれ %2, %, 1 で置き換えて得られる次の2次方

程式のことである:%2 + a% + b = 0 (4.22)

(4.21) は以下のような2つの解 y1, y2 を持つ:

(1)  (4.22) が2つの異なる実数解 %1,%2 を持つとき

y1 = e!1x y2 = e!2x (4.23)

(2)  (4.22) が重解 % を持つとき

y1 = e!x, y2 = xe!x (4.24)

17

(3)  (4.22) が虚数解 &± i' を持つとき

y1 = e"x cos 'x, y2 = e"x sin 'x (4.25)

問1.上の (1),(2),(3) の各場合に対して y1, y2 が (4.21) を満たすことを確かめよ.

(4.21) は斉次線形微分方程式であるから,y1, y2 をその解とすると

y = C1y1 + C2y2

も解である.このことと上の (1),(2),(3)から (4.21)の一般解が得られる.(4.21) の一般解 y は次のようなものである:

(i)  (4.22) が2つの異なる実数解 %1,%2 を持つとき

y = C1e!1x + C2e

!2x (4.26)

(ii)  (4.22) が重解 % を持つとき

y = (C1 + C2x)e!x (4.27)

(iii)  (4.22) が虚数解 &± i' を持つとき

y = e"x(C1 cos 'x + C2 sin 'x) (4.28)

d2e!x

dx2+ a

de!x

dx+ be!x = 0

%2e!x + a%e!x + be!x = 0

%2 + a% + b = 0

d2xe!x

dx2+ a

dxe!x

dx+ bxe!x = 0

2%e!x + x%2e!x + a(e!x + x%e!x) + bxe!x = 0

(2% + a) + x(%2 + a% + b) = 0

18

C1e("+i#)x + e("!i#)x

2+ C2

e("+i#)x ! e("!i#)x

2i

= e"x

"C1

ei#x + e!i#x

2+ C2

ei#x ! e!i#x

2i

#

= e"x(C1 cos 'x + C2 sin 'x)

非斉次項 f(x) を持つ2階定数係数線形微分方程式

d2y

dx2+ a

dy

dx+ by = f (4.29)

を考える.上式の特別解とは,上式を満たす解の中のひとつのことである.これは一般解である必要はない.

方程式 (4.29) の一般解は

y = y0 + ys (4.30)

で与えられる,ここで y0 は (4.29) の右辺を 0 と置いた式 (4.21) の一般解,ys は (4.29) のある特別解である.

f(x) が単純な関数な場合,(4.29) は特別解 y0 として次の形のものを探すとよい(この方法がうまくいかない場合もある):

(1)  f(z) =定数 % y0 =定数(2)  f(x) = Cxn % y0 = A0xn + A1xn!1 + · · · + An!1x + An

(3)  f(x) = C sin ax, f = C cos ax % y0 = A cos ax + B sin ax

(4)  f(x) = Ceax % y0 = Aeax

右に書かれた y0 の含む A や B などの定数の値は y0 を方程式に代入すれば求まる.

例題.次の微分方程式の特別解 y0 を一つ求めよ,

d2y

dx2! 3

dy

dx+ 2y = 5 sin 2x (4.31)

解.上の (3) の場合であるから 特別解 y0 として

y0 = A cos 2x + B sin 2x

19

の形のものを求める.A,B を求めるためにこれを方程式に代入すると

d2(A cos 2x + B sin 2x)

dx2! 3

d(A cos 2x + B sin 2x)

dx+ 2(A cos 2x + B sin 2x) = 5 sin 2x

左辺の微分を実行すると上式は

!4A cos 2x ! 4B sin 2x ! 3(!2A sin 2x + 2B cos 2x)

+ 2(A cos 2x + B sin 2x) = 5 sin 2x

これを整理して

(!2A ! 6B) cos 2x + (6A ! 2B ! 5) sin 2x = 0

従って !2A!6B = 0, 6A!2B!5 = 0.これより A =3

4, B = !1

4.従っ

て求める特別解はy0 =

3

4cos 2x ! 1

4sin 2x

例題.(4.31) の一般解を求めよ.

4.6 共振

5 複素数値関数5.1 複素数記号 i は虚数単位を表す.滴って i2 = !1.複素数 z は2つの実数 a, b

を用いて z = a + ib の形に表される.a は z の実数部,b は z の虚数部である.a + ib = c + id とは a = c, b = d のことである.

複素数 z の複素共役を z で表す.従って z = a + ib のとき z = a! ib.複素数 z, w に対し次式が成り立つ:

z + w = z + w, zw = z w,%w

z

&=

w

z(5.1)

20

従って例えば"

z +1

w

#2

=

"z +

1

w

#"z +

1

w

#=

"z +

1

w

# "z +

1

w

#

=

"z +

1

w

#2

=

0z +

"1

w

#12

=

"z +

1

w

#2

となる.

実数 a の絶対値 |a| は |a| =&

a2 と表せる.複素数 a + ib の絶対値|a + ib| は

|a + ib| =&

a2 + b2 (5.2)

により定められる.これは絶対値内が実数,つまり b = 0 であれば実数の絶対値に一致する.複素数 z, w に対し次式が成り立つ:

|zw| = |z||w| (5.3)

|z|2 = zz (5.4)

˙

問1.z = a + ib, w = c + id に対し,(5.3),(5.4) が成り立つことを確かめよ.

5.2 複素数値関数の微分積分例えば関数 (&z + ')n は &, ' が複素数ならば複素数の値をとる複素数値関数である.どの複素数値関数 f(x) も2つの実数値関数 f1(x), f2(x)

を用いてf(x) = f1(x) + if2(x) (5.5)

の形に表すことができる.ある複素数値関数 f(x) の微分,積分を行う際に実数値関数対する微分,積分の公式を利用したい場合は,f(x) を上のように表して,規則

d(f1(x) + if2(x))

dx=

df1(x)

dx+ i

df2(x)

dx, (5.6)

' b

a

(f1(x) + if2)dx =

' b

a

f1(x)dx + i

' b

a

f2(x)dx (5.7)

21

を用いればよい.右辺は実数値関数 f1(x), f2(x) の微分,積分しか含まない.

f(x) を複素数値関数とする.複素共役をとる操作は次の性質を持つ:

df(x)

dx=

df(x)

dx, (5.8)

' b

a

f(x)dx =

' b

z

f(x)dx (5.9)

問1.(5.8), (5.9)が成り立つことを,f(x)を (5.5)のように表し (5.6),(5.7)

を利用して示せ.

問2.f(a) = f(b) = 0 とする.部分積分法と (5.8) を用いて次式が成り立つことを示せ:

' b

a

f(x)d2f

dx2(x)dx = !

' b

a

))))df

dx(x)

))))2

dx

5.3 複素変数の指数関数(2.7) に記した指数関数 ex のマクローリン展開

ex = 1 +x

1!+

x2

2!+

x3

3!+ · · ·

を利用して,ex の変数 x を複素数 z に拡張する.つまり次式で ez を定める:

ez = 1 +z

1!+

z2

2!+

z3

3!+ · · · (5.10)

複素数 z, w に対し

ezew = ez+w (5.11)

ez = ez (5.12)

が成り立つ.これは次のようにして示せる:

ezew =

"1 +

z

1!+

z2

2!+ · · ·

#"1 +

w

1!+

w2

2!+ · · ·

#

22

= 1 +z

1!+

w

1!+

z2

2!+

z

1!

w

1!+

w2

2!+ · · ·

= 1 +z + w

1!+

(z + w)2

2!+ · · · = ez+w

ez = 1 +z

1!+

z2

2!+

z3

3!+ · · ·

= 1 +z

1!+

z2

2!+

z3

3!+ · · ·

= 1 +z

1!+

z2

2!+

z3

3!+ · · · = ez

ここで (5.1) を用いた.

5.4 オイラーの公式" を実数とする.ez を定める式 (5.10) で z = i" と置くと

ei$ = 1 +i"

1!+

(i")2

2!+

(i")3

3!+

(i")4

4!+

(i")5

5!+ · · ·

=

"1 ! "2

2!+

"4

4!! · · ·

#+ i

"" ! "3

3!+

"5

5!! · · ·

#(5.13)

上の最後の2つの括弧の部分は,(2.8),(2.9) に記した sin x, cos x のマクローリン展開

cos x = 1 ! x2

2!+

x4

4!! · · · , sin x = x ! x3

3!+

x5

5!! · · ·

と同じ形である.従って(5.13) は cos " + i sin " と書き直せる.つまりei$ は

ei$ = cos " + i sin " (5.14)

と表せる.上式は オイラーの公式と呼ばれる.上式より," がどのような実数であっても

|ei$| = 1 (5.15)

であることがわかる.実際,

|ei$| = | cos " + i sin "| =!

cos2 + sin2 " = 1

23

問1.等式 ei(a+b) = eiaeib の左辺と右辺をオイラーの公式を用いて書き直すと,3角関数の加法定理

sin(a + b) = sin a cos b + cos a sin b,

cos(a + b) = cos a cos b ! sin a sin b

が得られる.これを確かめよ.

問2.(5.14)より cos x は eix の実数部であるから,積分' b

a

ex cos xdx

は積分' b

a

exeixdx

"=

' b

a

e(1+i)xdx

#の実数部である,このことを利用し

て上の積分の値を求めよ.

オイラーの公式 (5.14)で "を !"に変えて cos(!") = cos ",sin(!") =

! sin " を用いるとe!$ = cos " ! i sin "

を得る.(5.14) と上式より

cos " =ei$ + e!i$

2(5.16)

sin " =ei$ ! e!i$

2i(5.17)

を得る..

5.5 極形式複素数

z = a + ib (5.18)

を次の形に書き表したものを,z の極形式と呼ぶ.

z = rei$, r ' 0, 0 $ " < 2$ (5.19)

24

(5.19) の r と " の値は次のようなものとなる:

r = |z|, (5.20)

cos " =a

r, sin " =

b

r(5.21)

問1.(5.19) の両辺の絶対値をとった式に (5.15) を用いることで (5.20)

を導け.また (5.19) の左辺を (5.18) のように表し,右辺をオイラーの公式 (5.14) を用いて表し,両辺を比較して (5.21) を導け.

問2.複素数 1 ! i を極形式 (5.19) の形に書き表せ.

6 複素行列

u =

*

...+

u1

u2...

un

,

///-, v =

*

...+

v1

v2...

vn

,

///-,

(u,v) =n$

k=1

ukvk (6.1)

A =

*

...+

a11 a12 · · · a1n

a21 a22 · · · a2n...

......

...

an1 an2 · · · ann

,

///-

(A#u,v) = (u, Av)

A# =

*

...+

a11 a21 · · · an1

a12 a22 · · · an2...

......

...

a1n a2n · · · ann

,

///-

A# = A

A# = A!1

25

(Au, Av) = (u,v)

定数 % の値によらず,次式は少なくとも u = 0 という解を持つ:

Au = %u (6.2)

この式が u #= 0 なる解を持つような % の値を A の固有値と呼び,この解 u を固有値 % に属する固有ベクトルと呼ぶ.

u を A のある固有値 % に属する固有ベクトルとすると,それに 0 ない定数 c を掛けた cu もやはり同じ固有値 % に属する固有ベクトルである.ある固有値 % に k 個の1次独立な固有ベクトル u1, · · · ,uk が属しているとき,この固有値 % は重複度 k の重複固有値であるという.

n " n 行列は最大 n 種の固有値を持つ.ある固有値に属する固有ベクトルで一次独立なものが複数あるとき,この固有値は重複固有値であるという.い.

A がエルミート行列であるときは,A の固有値はどれも実数であり,また異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する.

ベクトルの完全規格化直交系(CONS)

(uj, uk) = 0, j #= k

(uk, uk) = 1

u =n$

k=1

(uk, u)uk

26