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1) 演題名 成人 T 細胞白血病に対する抗トランスフェリン受容体抗体治療薬の開発 2) 演者 下崎俊介 1) 黒澤 仁 2) 張 黎臨 3) 須藤幸夫 3) 、黒澤和良 4) 中畑新吾 1) 、市川朝永 1) 、森下和 1) 3) 所属機関名 1)宮崎大学医学部機能制御学講座腫瘍生化学分野、2)藤田保健衛生大学研究支援推進センター臨床研 究推進室、3)株式会社ペルセウスプロテオミクス、4)藤田保健衛生大学研究支援推進センター最先端 医療イノベーション部門 4) 抄録本文 (目的) 成人 T 細胞白血病(ATL)は HTLV-1 感染を基に発症する末梢性 T 細胞由来の白血病であり、特 に急性型では発症したその半数が 1 年以内という短い期間内で死亡する重篤な病である。これま で生存率を上げるためのさまざまな治療法が検討されてきたが、大幅な改善はなされていなかっ た。近年 ATL 細胞に特異的に発現している CCR4 抗体医薬品が認可され臨床現場において使用さ れ始め、効果が確認されてきているが、反応しない患者も数多く存在しているためさらなる治療 法の開発は急務である。 当研究室ではこれまで、ATL の新規診断、治療法の開発を目的として基礎研究を行ってきた。 その研究過程で行ったマイクロアレイ等を用いた網羅的遺伝子発現解析の結果より、ATL 細胞表 面に CADM1Caveolin 1CAV1)、トランスフェリン受容体(TFR)等を新規表面抗原として 同定した。特に TFR は細胞膜上に 2 量体で存在し、血中のホロトランスフェリンを結合し、細胞 質内へ鉄イオンを供給する役割を有する。ATL 細胞における TFR の高発現は、鉄の供給が ATL 細胞生存に必須と考えられるため、新規標的分子として抗体治療薬の開発を試みていており、そ の開発を紹介する。 (結果) TFR 発現解析において、 qPCR 発現解析で正常 CD4 陽性リンパ球と比して ATL 患者並びに ATL 細胞株では TFR が優位に高発現し、またフローサイトメーター(FCM)解析でもほぼ同様の結果を 確認した。そこで、我々は phage display 法を改良し(ICOS )、ヒト IgG 抗ヒト TFR 抗体の開 発を行った。抗ヒト TFR 抗体は直接細胞傷害性を有し、 ATL 細胞株を用いた in vitro 実験系にお いて、細胞増殖を抑制し、一部にアポトーシスも見られた。また、ATL 細胞株を用いた抗体依存 性細胞障害活性(ADCC)では、CCR4 抗体と同程度の ADCC も認められた。さらに、ATL 細胞株 を皮下移植した in vivo マウス実験系において抗体の投与により、顕著な腫瘍容積の増殖抑制が認 められ、また同時に、大きな副作用は認められなかった。その作用機序を解析するため細胞内ト ランスフェリン(TF)取り込み実験を行った処、抗体処理により TF の取り込みが著しく低下してい た。 (結論と予定) これらの結果より、ATL 細胞に高く発現している TFR を標的とした抗 TFR 抗体療法は、細胞 内へのトランスフェリンの取り込み抑制、すなわち鉄取り込みの抑制により腫瘍細胞の増殖を抑 制すると考えられた。さらなる ATL 細胞における TFR 高発現機構並びに抗体効果の分子機構に ついての検討を進めつつ、新規治療法の確立にむけて準備を進めている。

1) 演題名 T細胞白血病に対する抗トランスフェリン …Œ定した。特にTFR は細胞膜上に2 量体で存在し、血中のホロトランスフェリンを結合し、細胞

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Page 1: 1) 演題名 T細胞白血病に対する抗トランスフェリン …Œ定した。特にTFR は細胞膜上に2 量体で存在し、血中のホロトランスフェリンを結合し、細胞

1) 演題名 成人 T細胞白血病に対する抗トランスフェリン受容体抗体治療薬の開発

2) 演者

下崎俊介1)、黒澤 仁

2)、張 黎臨3)、須藤幸夫

3)、黒澤和良

4)、中畑新吾1)、市川朝永

1)、森下和

広1)

3) 所属機関名

1)宮崎大学医学部機能制御学講座腫瘍生化学分野、2)藤田保健衛生大学研究支援推進センター臨床研

究推進室、3)株式会社ペルセウスプロテオミクス、4)藤田保健衛生大学研究支援推進センター最先端

医療イノベーション部門

4) 抄録本文

(目的)

成人 T 細胞白血病(ATL)は HTLV-1 感染を基に発症する末梢性 T 細胞由来の白血病であり、特

に急性型では発症したその半数が 1 年以内という短い期間内で死亡する重篤な病である。これま

で生存率を上げるためのさまざまな治療法が検討されてきたが、大幅な改善はなされていなかっ

た。近年 ATL 細胞に特異的に発現している CCR4 抗体医薬品が認可され臨床現場において使用さ

れ始め、効果が確認されてきているが、反応しない患者も数多く存在しているためさらなる治療

法の開発は急務である。

当研究室ではこれまで、ATL の新規診断、治療法の開発を目的として基礎研究を行ってきた。

その研究過程で行ったマイクロアレイ等を用いた網羅的遺伝子発現解析の結果より、ATL 細胞表

面に CADM1、Caveolin 1(CAV1)、トランスフェリン受容体(TFR)等を新規表面抗原として

同定した。特に TFR は細胞膜上に 2 量体で存在し、血中のホロトランスフェリンを結合し、細胞

質内へ鉄イオンを供給する役割を有する。ATL 細胞における TFR の高発現は、鉄の供給が ATL

細胞生存に必須と考えられるため、新規標的分子として抗体治療薬の開発を試みていており、そ

の開発を紹介する。

(結果)

TFR発現解析において、qPCR発現解析で正常CD4陽性リンパ球と比してATL患者並びにATL

細胞株では TFR が優位に高発現し、またフローサイトメーター(FCM)解析でもほぼ同様の結果を

確認した。そこで、我々は phage display 法を改良し(ICOS 法)、ヒト IgG 抗ヒト TFR 抗体の開

発を行った。抗ヒト TFR 抗体は直接細胞傷害性を有し、ATL 細胞株を用いた in vitro 実験系にお

いて、細胞増殖を抑制し、一部にアポトーシスも見られた。また、ATL 細胞株を用いた抗体依存

性細胞障害活性(ADCC)では、CCR4 抗体と同程度の ADCC も認められた。さらに、ATL 細胞株

を皮下移植した in vivo マウス実験系において抗体の投与により、顕著な腫瘍容積の増殖抑制が認

められ、また同時に、大きな副作用は認められなかった。その作用機序を解析するため細胞内ト

ランスフェリン(TF)取り込み実験を行った処、抗体処理により TF の取り込みが著しく低下してい

た。

(結論と予定)

これらの結果より、ATL 細胞に高く発現している TFR を標的とした抗 TFR 抗体療法は、細胞

内へのトランスフェリンの取り込み抑制、すなわち鉄取り込みの抑制により腫瘍細胞の増殖を抑

制すると考えられた。さらなる ATL 細胞における TFR 高発現機構並びに抗体効果の分子機構に

ついての検討を進めつつ、新規治療法の確立にむけて準備を進めている。