8
29 8.デラグラス TM を用いた製品の設計 デラグラス TM を用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や変形に十分 な注意を払う必要があります。 (1)寸法変化 デラグラス TM は一般の樹脂と同様、使用される雰囲気の温度や湿度の影響により寸法変化を 起こします。 温度に関する要因として、気温、空調温度等の環境温度の他に、太陽光の輻射熱や、製品に 組み込まれた器具から発生する熱の影響についても考慮することが必要です。 一方、湿度については天候や季節による空気中の相対湿度の変化がありますが、これにより デラグラス TM に含まれる水分の変化は急ではありませんが徐々に起こり、無視できませんので 製品設計に反映させる必要があります。 a.温度の影響 基準温度を境に温度が高くなると寸法は大きく、逆に温度が低くなると寸法が小さくなります。 温度による寸法変化量は、その材料の線膨張係数によって決まります。 樹脂の線膨張係数は金属と比べて通常数倍大きく、又温度が高くなる程大きな値となります。 デラグラス TM の温度と線膨張係数の関係を図24に示します。 図24 デラグラス TM の線膨張係数 4 5 6 7 8 9 10 -30 -20 -10 0 10 20 30 40 50 線膨張係数 ×10 -5 (K -1 温度 (℃) 旭化成テクノプラス株式会社

8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

29

8.デラグラスTMを用いた製品の設計

  デラグラスTMを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や変形に十分  な注意を払う必要があります。

(1)寸法変化

  デラグラスTM

は一般の樹脂と同様、使用される雰囲気の温度や湿度の影響により寸法変化を  起こします。  温度に関する要因として、気温、空調温度等の環境温度の他に、太陽光の輻射熱や、製品に  組み込まれた器具から発生する熱の影響についても考慮することが必要です。  一方、湿度については天候や季節による空気中の相対湿度の変化がありますが、これにより

  デラグラスTMに含まれる水分の変化は急ではありませんが徐々に起こり、無視できませんので  製品設計に反映させる必要があります。

 a.温度の影響   基準温度を境に温度が高くなると寸法は大きく、逆に温度が低くなると寸法が小さくなります。   温度による寸法変化量は、その材料の線膨張係数によって決まります。   樹脂の線膨張係数は金属と比べて通常数倍大きく、又温度が高くなる程大きな値となります。

   デラグラスTM

の温度と線膨張係数の関係を図24に示します。

図24 デラグラスTMの線膨張係数

4

5

6

7

8

9

10

-30 -20 -10 0 10 20 30 40 50

線膨

張係

×10

-5(K

-1)

温度 (℃)

旭化成テクノプラス株式会社

Page 2: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

30

 b.湿度の影響

   樹脂が吸水することにより寸法が元より大きくなり、逆に乾燥すると寸法は小さくなります。

   アクリル樹脂であるデラグラスTMは、樹脂の中でも比較的吸水性の高い部類に入ります。

   図25にデラグラスTM

に含まれる水分率と寸法変化率の関係を示します。

図25 水分率と寸法変化率

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

寸法

変化

(%

水分率 (重量%)

旭化成テクノプラス株式会社

Page 3: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

31

【寸法変化の計算例】

長さ1mのデラグラスTM

について、冬季を起点として夏季に至る寸法変化量を計算する。仮に、気温を冬季0℃、夏季30℃、空気中の相対湿度を冬期20%、夏期80%とする

と、デラグラスTMの寸法変化量は以下の通り算出される。

①温度変化による寸法変化量は式-3で表される

⊿LT =L×{(α 1+α 2)/2}×(t1-t2) 式-3

⊿LT:温度変化による寸法変化量(mm) t1:夏期温度(℃)

 L:元の長さ(mm) t2:冬期温度(℃)

α 1:温度t1における線膨張係数(K-1

)

α 2:温度t2における線膨張係数(K-1

)

L=1000、図24からα 1=6.8×10-5、α 2=5.5×10-5、t1=30、t2=0を式-3に代入して計算すると次の結果が得られる。

⊿LT =1000×{(6.8+5.5)×10-5

/2}×(30-0)=1.8(mm)

すなわち、夏季は冬季に比べて温度の影響により1.8mm寸法が大きくなる。

②空気中の相対湿度の影響による寸法変化量は次式で表される

⊿LH =L×(β 1-β 2)/100 式-4

⊿LH:湿度変化による寸法変化量(mm) h1:夏季相対湿度における平衡吸水率(%)

 L:元の長さ(mm) h2:冬季相対湿度における平衡吸水率(%)

β 1:平衡吸水率h1における寸法変化率(%)

β 2:平衡吸水率h2における寸法変化率(%)

夏期の相対湿度80%における平衡吸水率h1は、第5章図13より1.25%、同様に冬期の

相対湿度20%で平衡吸水率h2は0.20%となる。

それぞれの吸水率における寸法変化率は図25より、夏期0.21%、冬期0.02%となるので、これを式-4に代入して計算し次の結果を得る。

⊿LH =1000×(0.21-0.02)/100=1.9(mm)

すなわち、夏季は冬季に比べて相対湿度の影響で1.9mm寸法が大きくなる。

寸法変化量は①と②を合計した値であり、冬季の長さ1mのデラグラスTMは夏季にその長さが1.8+1.9=3.7 すなわち3.7mm増大する。

旭化成テクノプラス株式会社

Page 4: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

32

(2)たわみ

  デラグラスTM

は水平に設置した場合などに自重によるたわみが生じます。、  このたわみの大きさは寸法(板厚、幅、長さ)、支持方法、自重以外の荷重有無、及び温度等に  より大きく変わります。

  a.たわみの計算方法

  ①4辺自由支持の場合

   4辺が自由支えの状態で水平に置いたデラグラスTM

に、等分布荷重がかかっている場合の   中央部における最大たわみをδ とすれば、式-5により求めることが出来る。

δ =(α ・P・a4)/(E・h3) 式-5

   尚、想定した最大たわみの条件を満たすデラグラスTMの厚さを求める場合は、式-5を変形   した式-6により求めることが出来る。

h={(α ・P・a4)/(δ ・E)}1/3 式-6

   但し、式-5、6が適用できるのはたわみが板厚に比して小さいことが前提となる。

  ②4辺固定支持の場合

   4辺が固定された状態で水平に置いたデラグラスTMに、等分布荷重がかかっている場合の   中央部における最大たわみをδ とすれば、式-7により求めることが出来る。

δ =(β ・P・a4)/(E・h3) 式-7

   尚、想定した最大たわみの条件を満たすデラグラスTMの厚さを求める場合は、式-7を変形   した式-8により求めることが出来る。

h={(β ・P・a4)/(δ ・E)}1/3 式-8

δ :最大たわみ(cm)α :4辺自由支持のたわみ係数/表5参照、両辺の長さの比に関係するβ :4辺固定支持のたわみ係数/表6参照、両辺の長さの比に関係するh:厚さ(cm)

P:荷重(kg/cm2) 自重のみの場合は1.19h×10-3kg/cm2

a:短辺の長さ(cm)b:長辺の長さ(cm)

E:曲げ弾性率(室温の場合 3×104kg/cm2 )

旭化成テクノプラス株式会社

Page 5: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

33

4辺自由支持のたわみ係数 4辺固定支持のたわみ係数b/a α b/a β1.0 0.0443 1.0 0.01381.1 0.0530 1.1 0.01641.2 0.0616 1.2 0.01881.3 0.0697 1.3 0.02101.4 0.0770 1.4 0.02261.5 0.0843 1.5 0.02401.6 0.0906 1.6 0.02511.7 0.0964 1.7 0.02601.8 0.1017 1.8 0.02681.9 0.1064 1.9 0.02752.0 0.1106 2.0 0.02803.0 0.1336 3.0 0.02814.0 0.1400 4.0 0.02815.0 0.1416 5.0 0.0283∞ 0.1422 ∞ 0.0284

【自重たわみの計算例】

短辺50cm、長辺100cmのデラグラスTM

Aを4辺自由支持で水平に設置するとき、中央部の自重によるたわみを2.5mm以下にしたい場合の板厚を算出する。但し、温度条件は40℃とする。

各パラメータを式4に代入し、hを求めればよい。

a:50  b:100  δ :0.25  P:1.19×h×10-3

α :0.1106(表5 b/a2.0の欄より)

E:2.7×104   

(4項の図10より40℃での曲げ弾性率を求め、MPaからkg/cm2

   への単位換算をした)

h={(α ・P・a4)/(δ ・E)}1/3

 ={(0.1106×1.19×h×10-3×504)/(0.25×2.7×104)}1/3

 ={(0.1106×1.19×h×10-3×504)/(0.25×2.7×104)}1/3

 =(0.1219h)1/3

両辺を3乗し、両辺をhで割ると上式はh2=0.1219となる両辺の平方根を求めると、次の等式が成り立つ

h=(0.1219)1/2  ≒ 0.35(cm)

すなわち、板厚4mmのデラグラスTMAを使用すれば良い。

表5 表6

旭化成テクノプラス株式会社

Page 6: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

34

  b.自重たわみの実測例

  図26に厚さ3mmのデラグラスTM

Aを室温にて水平に4辺自由支持の状態(4辺周囲を固定せず  自由な状態で支える)で測定した、幅・長さ(L1・L2で表示)と自重による中央部のたわみの大き

  さの関係を示します。

図26 デラグラスTMA(板厚3mm)の自重によるたわみ

0

2

4

6

8

10

12

14

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500

たわ

(mm

L1 (mm)

L2=500mm

800

1,000

1,200

1,600

2,000

旭化成テクノプラス株式会社

Page 7: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

35

  c.風圧によるたわみ

   屋外に設置された看板等では、風圧によるたわみを考慮する必要が有ります。   風速と風圧の関係を図27に示します、この風圧(荷重)からたわみ量を計算することができます。   

図27 風速と風圧の関係

計算式 P=V2/16 により換算した結果をグラフ化した。     P=風圧(荷重)kg/m2

V=風速 m/sec.

【風圧によるたわみ計算例】

短辺50cm、長辺2mのデラグラスTMAで4辺固定支持の看板を作るとき、風速50m/secのときの最大たわみを10mm以下にする板厚を求める(温度は30℃とする)。

各パラメータを式6に代入してhを算出する。

a:50(cm)  b:200(cm)  δ :1(cm)  

P:1.56×102(kg/m2)=1.56×10-2(kg/cm2) 図27(又は計算式)からβ :0.0281                表6 b/a 4.0 の欄より

E:3×104(kg/cm2) 4項図10より求め、単位換算

h={(0.0281×1.56×10-2×504)/(1×3×104)}1/3

 =(0.0913)1/3  ≒ 0.45(cm)

従って、5mmのデラグラスTM

Aを使用すると良い。

0

50

100

150

200

250

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 20 40 60 風

(kg

/m

2)

風圧

(kP

a)

風速 (m/sec)

旭化成テクノプラス株式会社

Page 8: 8.デラグラスTMを用いた製品の設計 - aktp.co.jp · 29 8.デラグラスtmを用いた製品の設計 デラグラスtmを用いて様々な用途に向け製品化する場合、実使用時の寸法変化や

36

   d.風圧を想定したたわみの実測例

    板厚2mm、1m角のデラグラスTM

Aを水平に4辺固定支持して、静荷重をかけたときの最大た    わみを実測した結果を図28に示す。

    静荷重は、デラグラスTM

の上に風圧を想定し砂袋を均等に並べて置いた。    (板厚に比してたわみが大きいので、式7は適用できない)

図28 静荷重(風速)とたわみ

旭化成テクノプラス株式会社