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蘆嗅覚障害の有無の確認(Kallmann 症候群*)。
身体所見
蘆低身長,翼状頸,外反肘,小児様外性器の有無(Turner 症候群)。蘆高身長,乳房発育有,陰毛・腋毛なし,小児様外性器の有無(精巣性女性化症候群)。
蠡 症候編 17
C
無月経
蘆無月経とは,性成熟女性に月経がみられない状態であり,原発性無月経と続発性無月経に大別される。蘆原因部位に応じて,視床下部性無月経,下垂体性無月経,卵巣性無月経,子宮性無月経に分類される。
1 原発性無月経 primary amenorrhea
診 断
原発性無月経の大半は先天異常に起因する
蘆染色体異常,特にTurner症候群と精巣性女性化症候群が多く,これに中枢性(視床下部性,下垂体性)などが続く(p.17表1)。蘆診断には,家族歴を含めて十分な問診を行うとともに,患者ならびに家族への説明と同意のもとに,外性器の診察や超音波検査による内性器の評価,直腸診を行う。
病歴聴取
蘆母親に子供の外性器異常の有無。蘆規則的な下腹部痛の出現の有無(月経モリミナの有無:腟閉鎖)。蘆先天性副腎皮質過形成,特に21-水酸化酵素(P450c21)欠損症の家系の有無(常染色体劣性遺伝)。
蘆陰毛と腋毛の有無(精巣性女性化症候群)。蘆過度のダイエットによる体重減少の既往(神経性食欲不振症の履歴)。蘆食行動の異常(神経性食欲不振症の有無)。蘆乳汁分泌の有無。
16 蠡 症候編
1
症候から鑑別する
1 症候から鑑別する
C 無月経amenorrhea
表1 原発性無月経の分類
分類 疾患
性管閉鎖による無月経処女膜閉鎖症腟閉鎖・腟欠損頸管閉鎖症
子宮性無月経先天性子宮欠損症結核性子宮内膜炎幼児期Asherman症候群
卵巣性原発性無月経
純型性腺形成異常(46 XY)性腺形成異常・Turner症候群卵巣形成異常(46 XX)・ovarian aplasia・ovarian hypoplasia原発性FSH不応症候群
半陰陽・アンドロゲンによる原発性無月経
真性半陰陽(卵巣+精巣)女性(仮性)半陰陽(卵巣)・副腎性器症候群男性(仮性)半陰陽(精巣)・精巣性女性化症候群
視床下部,下垂体前葉系の異常による原発性無月経
視床下部性原発性無月経Kallman症候群Fröhlich症候群Laurence-Moon-Biedel症候群
* Kallmann症候群
嗅覚障害と性腺機能低下症を特徴とする疾患。GnRH産生前駆細胞と嗅神経細胞は,嗅原基から発生し視床下部に遊走するが,本症はこれに関わる遺伝子異常によって生じる。ただし,2/3は孤発例。一般に原発性無月経や思春期遅発症が受診の動機となる。
蘆陰核肥大(生下時より)と皮膚色素沈着の有無(先天性副腎皮質過形成)。蘆乳汁漏出の有無(乳汁漏出症候群)。
検 査
蘆視診:腟管の有無。蘆超音波検査:腟閉鎖による腟・子宮内月経血貯留の有無。蘆骨盤部MRI:子宮・卵巣の有無。蘆染色体検査蘆血液ホルモン検査:黄体形成ホルモン,卵胞刺激ホルモン,プロラクチン,甲状腺刺激ホルモン,17-OHプロゲステロン,
18 蠡 症候編
1
症候から鑑別する
テストステロン。蘆頭部MRI・CT:下垂体腺腫,頭蓋咽頭腫に起因するFröhlich症候群*。
蘆薬剤投与試験①ゲスターゲン試験(第1度無月経の診断)②エストロゲン・ゲスターゲン試験
治 療
蘆性腺形成異常などのゴナドトロピン不応性卵巣では,Kaufmann療法(エストロゲン+プロゲステロン療法)を中心としたホルモン補充療法を15~18歳で開始する。
蘆Y染色体を含む性腺が体内にある場合,高率に悪性腫瘍を起こすため,性腺摘除を行う。
蠡 症候編 19
C
無月経
視床下部性第1度無月経
視床下部・下垂体性第2度無月経Kallmann症候群なども含む
下垂体腫瘍など
子宮性無月経
+ -
+ -
+ -
消退出血
エストロゲン・ゲスターゲン試験
消退出血
ゲスターゲン試験
異常 異常
頭部MRI・CT
処女膜閉鎖腟欠損症
精巣性女性化症候群 子宮欠損症
次頁へ
Turner症候群 真性半陰陽
+
+
-
外性器
アンドロゲン高値副腎性器症候群
男性型 女性型
腟
子宮
MRI
性染色体検査 性染色体検査
XYX0 XX
頭部MRI・CT
XXXY
-
鑑別フロー:原発性無月経
* Fröhlich症候群
視床下部性肥満に性腺機能低下を伴ったものである。この性腺機能低下は,視床下部からのLHRH分泌不全に起因するもので,多くは頭蓋咽頭腫などの脳腫瘍を原因とする。
蘆下垂体性あるいは視床下部性無月経で挙児を希望する場合は,hMG-hCG療法による排卵誘発を行う。蘆性管閉鎖では閉鎖部位の開口を行う。蘆腟欠損症では性交可能となるように造腟術を行う。
2 続発性無月経 secondary amenorrhea
診 断
蘆原因の多くは視床下部性である。蘆思春期にみられる月経異常の約50%は続発性無月経である。蘆思春期にはストレスやダイエットによる過度の体重減少,陸上競技などの激しいスポーツに起因する間脳・視床下部性の無月経も多い。蘆妊娠の可能性を常に考慮する。
病歴聴取
高プロラクチン血症は続発性無月経の原因である
蘆過度のダイエットによる体重減少の既往(神経性食欲不振症の履歴)。蘆食行動の異常の有無(神経性食欲不振症の有無)。蘆過度のストレスの有無。蘆常備薬の有無(高プロラクチン血症を来す薬剤内服の有無
☞表2)。
20 蠡 症候編
1
症候から鑑別する
蘆乳汁分泌の有無。蘆性交渉の既往の有無(常に妊娠は否定できない)。蘆分娩時の大量出血の既往(本人:Sheehan 症候群)蘆妊娠中絶後の高熱および下腹部痛の既往とその後の無月経(Asherman 症候群)蘆両側卵巣腫瘍による両側卵巣腫瘍摘出術の既往
蠡 症候編 21
C
無月経
高値正常
薬剤副作用あり* 問題なし
異常なし
トルコ鞍拡大あり
子宮性無月経
第2度無月経
第1度無月経
プロラクチノーマ
薬剤性高プロラクチン血症
原発性甲状腺機能低下症
+ -
+ -
TSH,T3,T4
頭部MRI
問診
子宮卵管造影
消退出血
消退出血
エストロゲン・ゲスターゲン試験
ゲスターゲン試験
血中プロラクチン値
無月経
鑑別フロー;続発性無月経
*薬剤はp.20表2を参照
表2 高プロラクチン血症を来す薬剤(商品名)
ドパミン受容体遮断薬向精神薬
ドグマチール,コントミン,ウインタミン,ヒルナミン,レボトミン,メレリル,フルメジン,アパミン,ニューレプチル,ピーゼットシー,トリラホン,トリオミン,セレネース
制吐薬 プリンペラン,ナウゼリンドパミン生成阻害薬 降圧薬 アポプロン,アルドメットエストロゲン製剤 ホルモン EP合剤(ピルを含む),プレマリン
ルール
世界的なエビデンスを元に,わが国でも吸引分娩に関する以下のルールが提唱されている。ただし,実際の運用は現場での判断による。●20分ルール
分娩における総牽引時間が 20分を超える場合には,鉗子分娩もしくは帝王切開術に移行する。●5回ルール
総牽引時間が 20分以内であっても,吸引手技が滑脱を含めて 5回を超える場合には,鉗子分娩もしくは帝王切開術に移行する。
手 技
①器材を準備し,手袋を装着した手掌を吸引して陰圧が上がることを確認する。②妊婦に説明のうえ,必要であれば局所麻酔を施行して会陰切開を行ってからカップを挿入する。前方後頭位の場合は,小泉門から矢状縫合に沿って3cm前方に中心を置く。③陣痛発作に合わせて吸引を開始する。陰圧メータが 50~
80kPa(400~ 600mmHg)に達した時点で児頭の牽引を開始する。牽引は無理に行うのではなく,骨盤誘導線に沿って児頭をU型に誘導することを目標にする。④排臨すれば直ちに吸引カップの陰圧を解き,電源を切る。⑤出生後の児を厳重に観察するとともに,産道の損傷,特に頸管と腟壁の裂傷や血腫の有無を慎重に診察し処置を行う。⑥抗菌薬の予防投与は必要ない。
リスク
吸引分娩は頭蓋内出血や頭血腫を来しやすい
蠱 産科・周産期編 49
G
吸引分娩
概 要
鉗子分娩やクリステレル圧出法*と同様に急速遂娩術の 1つである。この吸引分娩では,娩出力を補う目的でクリステレル圧出法がしばしば併用される。
適 応
蘆分娩第 2期(子宮口全開大後)に,初産婦は 2時間以上,経産婦は 1時間以上(無痛分娩中はそれぞれ+ 1時間)を要している場合。蘆母体の疲労が著しいとき,母体の合併症によって努責のかけにくい場合,児のnon-reasurring fetal statusの場合。
条 件
児頭が吸引できる部位まで下降していることが条件
蘆破水している必要がある。蘆初産婦の場合は,子宮口全開大していること。蘆経産婦で頸管熟化が十分である場合は,必ずしも子宮口全開大は必要条件ではない。ただし,児頭が十分に嵌入して下降していることが条件である。蘆妊娠 35週以降が原則であるが,それ以前でも児の状況によっては施行する。
48 蠱 産科・周産期編
1
産科の検査・手技
1 産科の検査・手技
G 吸引分娩vacuum extraction
* クリステレル圧出法 Kristeller maneuver陣痛発作に合わせて腹壁上から子宮底部を骨盤軸方向に圧迫するもの。圧迫が胎児胎盤循環を悪化させたり,常位胎盤早期餝離を引き起こすことがあるので,注意して行う必要がある。
先輩からのアドバイス
近年,急速遂娩については安易な施行を戒める風潮があり,特にクリステレル圧出法と吸引分娩の併用が成功せず帝王切開になった事例で児の予後が悪く,問題にされることがある。他方,本当に危ないところを吸引分娩で助かった事例も実地では経験するのだが,こちらはなかなか表に出てこない。技術は身を助けるものだが,他方で墓穴を掘ることもある。吸引分娩で失敗しないコツは決して慌てて引かないこと(確実に 1,2回で出るところまでは,胎児心拍数が多少低下しても我慢するよう,先輩医師に教えられた。そのためには胎児心拍数図を確実に把握できる能力も必要である)と,パニックにならないことである。
蠱 産科・周産期編 51
G
吸引分娩
●頭蓋内出血
蘆頭蓋内出血は,総吸引時間30分以上の場合に有意に増加する。蘆吸引陰圧を早く上げるのと,ゆっくり上げることによる発症率の差はない。滑脱を少なくすることが重要である。
●帽状腱膜下血腫,頭血腫
●頭皮損傷
蘆産瘤などの頭皮損傷は,軟性(ソフト)カップよりも硬性(ハード)カップを用いた場合に有意に多い。ただし,滑脱率はソフトの方が高く,母体の産道損傷のリスクに差はない。蘆鉗子分娩に比べると産道損傷の率は低い。●回旋異常がある場合
蘆吸引分娩による分娩が成功する率は低下する。蘆矢状縫合回旋(第2回旋)での異常がある場合には鉗子分娩,もしくは帝王切開への移行が勧められる。
POINT
蘆すべての急速遂娩術について,どの時期にどの方法で行うの
が最善であるかの有効なエビデンスはない(クリステレル圧
出法も含めて)。
蘆急速遂娩術それ自体が児の状態を悪化させるため,十分な児
の状態の観察を行ったうえで,帝王切開への移行の可能性も
念頭に置き,急速遂娩の必要性と成功の可能性がある場合に
のみ施行する。
蘆児の状態が非常に悪く熟練者を待つ余裕がない場合は,帝王
切開に移行する。
蘆妊婦に,娩出時には母体の協調的な努責が不可欠であること
を説明する。
50 蠱 産科・周産期編
1
産科の検査・手技
(認めなければれば排卵なし),さらにその高温相が 11日以上持続しているか(持続しなければ黄体機能不全)などを。
身体所見
内診によって子宮変形(筋腫)や腫瘤触知の有無,特に内膜症所見の有無を確認する。
超音波検査
蘆骨盤内腫瘤の有無だけでなく,卵胞径や子宮内膜厚を計測することは,排卵周期の確認や卵胞刺激のスケジュールを知るうえで重要である。蘆子宮腔内占拠病変(粘膜下筋腫や内膜ポリープを描出)の診断に sonohysterographyを施行する。
蘆排卵期には,卵巣に 20mm程度の卵胞が確認され(p.216写真1),排卵後は卵胞の消失と黄体の存在を確認する。蘆多餒胞性卵巣症候群(PCOS ☞ p.221)では多数の卵胞の餒胞状変化が認められる(ネックレスサイン:p.216写真2)。蘆子宮内膜肥厚では,排卵期子宮内膜厚は通常 10mm以上となり,木の葉状の超音波所見となる(p.216写真3)。
子宮卵管造影(HSG)
月経終了後かつ月経開始10日以内に子宮形態,卵管の走行,疎通性,癒着の有無などを検査する。
精液検査と抗精子抗体検査
蘆不妊の約半数は男性因子である。蘆精液量,精子数,運動率,奇形率などを複数回検査する。蘆夫婦の血清中の抗精子抗体レベルを検査する(保険適用外)。
性機能系ホルモン検査
卵胞期にはLH,FSH,PRL,エストラジオールを,黄体期にはエストラジオール,プロゲステロンを検査する。
蠶 婦人科編 215
C
不妊症
病 態
蘆不妊 sterilityとは,正常な性生活を営んでいるにもかかわらず,2年以上経ても妊娠の成立をみない状態をいう。蘆病因には,女性因子(次項参照),男性因子(精子形成障害,精子輸送路閉塞,精子機能障害,射精・勃起障害),原因不明がある。蘆月経周期や月経量,精液量に異常を認めなくても不妊症を呈することがある(機能性不妊)。蘆不妊を訴えるカップルの割合は 10~ 15%といわれ,およそ
10組に 1組の確率である。さらに,近年では世界的な不妊人口の増加から,7組に 1組が不妊症であるという報告もある。蘆妊孕率は加齢により低下する。蘆不妊症は,ライフスタイルの変化に伴い増加している。
不妊症の女性因子
蘆排卵障害:希発月経,基礎体温で高温相を認めない。蘆黄体化未破裂卵胞(LUF):卵胞の黄体化は認めるものの,卵胞壁の破裂,卵の放出が認められない病態。そのため基礎体温だけでは排卵の有無は断定できず,超音波検査も併用する。蘆卵管因子:子宮内膜症やクラミジア感染による骨盤腹膜炎が原因となることが多い(卵管閉塞や卵管癒着)。蘆着床因子:子宮筋腫による子宮腔内の変形(過多月経)や子宮内膜不全など。
検 査
以下の検査で,施行後1年以上経過した検査は再検査する。
病歴聴取
蘆月経歴,基礎体温(BBT),不妊期間など。蘆BBTでは,0.3℃以上上昇する高温相を 7日以上認めるか
214 蠶 婦人科編
1
内分泌疾患、不妊症
1 内分泌疾患,不妊症
C 不妊症infertility
腹腔鏡検査
子宮内膜症が疑われる症例には,検査とともに治療法として有効である。
入院の適応
治療により卵巣過剰刺激症候群(OHSS ☞ p.223)を来した場合は入院加療が必要となる。
治療・管理
不妊治療において注意すべきは,PCOSとOHSSである
一般的療法
蘆 1つの治療法の期間は 6周期を目安にするが,患者の年齢や希望などを総合的に考慮して治療期間や方法を選択する。蘆排卵誘発薬を使用する場合には,OHSSや多胎妊娠の発生のリスクについて十分説明する。
●タイミング指導
主席卵胞平均径が 18mmを超え,頸管粘液が排卵期の所見を呈したとき,hCG5,000単位筋注あるいは無処置で翌晩の性交を指示する。●クロミッド療法
蘆排卵障害の女性に対して第一選択である。蘆エストラジオールとゴナドトロピンが正常値の不妊症例に対しても第一選択となる。蘆自然排卵を来さない場合は,1錠より開始し必要に応じて 3錠まで増量する。蘆主席卵胞が 20mmを超えたとき,hCG 5,000単位筋注あるいは無処置で翌晩の性交を指示する。蘆クロミッド®は通常,50~ 150mg/日を月経周期の 2~ 5日目より5日間内服する。
蠶 婦人科編 217
C
不妊症
尿検査
尿中LHは,排卵日予測に有用である。
Huhner test(性交後試験)
性交後2~3時間以内に子宮頸管粘液を採取し,精子と頸管粘液の関係を顕検により観察するもの。
216 蠶 婦人科編
1
内分泌疾患、不妊症
写真1 排卵直前の卵胞の超音波像 写真2 PCOSのネックレスサイン
黄体期子宮内膜はさらに肥厚しhyperechoicで内腔の線状エコーが不鮮明になる。
写真3 子宮内膜肥厚
表1 Huhner testの判定基準(運動精子数/400倍視野当たり)
優 15個以上 有意に妊娠率が高い良 10~14個 妊娠は十分に期待できる可 5~9個 妊娠は期待できる不可 4個以下 妊娠率は有意に低い
処方例 fixed dose法
フェルティノームP注(75単位)1~ 3A 皮下注(月経周期または消退出血の 5日目から連日投与,卵胞成熟まで)
蘆本法は,黄体賦活が必要で,排卵後にhCG 3,000単位を隔日で3回投与や,黄体ホルモンを補充する。処方例 黄体補充療法
HCG注3,000(5,000単位)1A 筋注(高温相 2日目から隔日に3回),デュファストン(5mg) 2錠 分2 10日間
●その他
蘆高プロラクチン血症や甲状腺機能異常がある場合は,その治療後に排卵誘発を行う。蘆人工授精(排卵刺激の有無にかかわらず)とタイミング法は男性不妊に対しての有効性は同程度とされる。蘆排卵刺激に伴う人工授精は,原因不明の不妊症に対しては有効ではない。
手術療法
蘆卵管性不妊に対しては卵管周囲癒着餝離術を行う。蘆子宮内膜症では,腹腔鏡で診断と同時に病巣切除や癒着餝離術を行う。蘆子宮内占拠性病変には,レゼクトスコープや筋腫核出術などを行う。蘆PCOSに対しては,腹腔鏡下卵巣白膜処置によって内分泌環境改善,卵胞発育,排卵促進効果が期待できる。蘆腹腔鏡検査は,卵管障害の程度を判断できるだけでなく,癒着餝離などを施行し,有意に妊娠率を改善する。蘆卵管水腫を来している患者には,IVF治療前に腹腔鏡下卵管切除術を行う。
生殖補助医療 assisted reproductive technology(ART)
蘆一般的治療法を1~2年行っても妊娠しない場合は,IVF-ETなどのARTへとステップアップする。
蠶 婦人科編 219
C
不妊症
蘆人工授精と併用されることもある。蘆タモキシフェンはクロミッド無排卵性不妊に対して同等の効果がある(タモキシフェン20mg,クロミッド®50mg)。蘆抗エストロゲン作用により,頸管粘液の減少や,子宮内膜が薄くなってしまうことがある。処方例
クロミッド錠(50mg)1~ 3錠 分 1~ 3 5日間(月経周期または消退出血の5日目から)
処方例
HCG注5,000(5,000単位)1A 筋注(卵胞成熟を認めたら,排卵を誘起する)
●配偶者間人工授精(AIH)
蘆精子を調製(密度勾配遠心法など)し,子宮腔内に注入する方法。蘆自然排卵周期(主席卵胞平均径が18mm以上であれば,hCG
5,000単位を筋注し,翌日AIHを施行する)と排卵誘発周期(クロミッド刺激周期では主席卵胞径20mm以上,hMG-hCG周期では主席卵胞径 18mm以上,という判定基準を満たせはhCG 5,000単位を筋注し,翌日AIHを施行する)がある。
●ゴナドトロピン療法
蘆クロミッド療法で排卵が認められない例,または 3~4周期を経過しても妊娠が成立しない例で施行する。蘆下垂体性排卵障害や高齢の場合は,初回から選択してもよい。蘆生殖補助医療(ART ☞ p.219)の際には多くの卵子を必要とするためにゴナドトロピンが使用される。蘆ゴナドトロピン療法には,fixed dose法,step down法,low
dose-step up法などがあるが,OHSSのリスクや社会的背景を考慮して選択する。蘆子宮内膜症患者の体外受精や卵細胞質内精子注入法(ICSI
☞ p.220)の前にGnRHアゴニストを 3~ 6か月使用すると,妊娠率は上昇する。
218 蠶 婦人科編
1
内分泌疾患、不妊症
先輩からのアドバイス
不妊症の患者は,しばしば早急な妊娠成立を望むため,医師の治療方針と患者の希望とに乖離を来すことがある。したがって,治療方針とその結果については,あらかじめ患者に十分説明しておくことが重要である。
症例から学ぶ
CASE 1 28歳の女性,結婚して3年を経過するも妊娠成立せず。挙児希望にて来院した。元もと月経は不順で,半年に 1回ほどしかなかった。内診,経腟超音波検査では異常を認ない。血液検査,HSG,精液検査も正常であった。BBTは1相性である。
考察 まず,クロミッド® 1錠を 5日間投与から開始。適宜,超音波で卵胞と子宮内膜を計測し排卵日を同定する。クロミッド® 1錠で排卵しない場合は 2錠に増量していく。6周期して妊娠成立しない場合はAIHなどを行う。
補 足
多餒胞性卵巣症候群 polycystic ovary syndrome(PCOS)
●病 態
蘆月経異常を主徴とし,男性化徴候,肥満,内分泌異常,卵巣の形態変化を伴う症候群である。蘆単一の病態ではなく,間脳・下垂体・卵巣系の周期性機能失調あるいはアンドロゲン過剰が本態と考えられている。蘆近年はPCOSをインスリン抵抗性症候群とする見方もある。蘆発生は女性20~30人に対して1人と高頻度である。
蠶 婦人科編 221
C
不妊症
蘆重症男性不妊や両側卵管閉塞が明らかになった場合は,一般的治療を経ずにARTを第一選択としてよい。蘆ART周期の黄体補充としてhCGやプロゲステロンを使用することは,妊娠率の向上をもたらす。
●体外受精・胚移植 in vitro fertilization and embryo transfer(IVF-ET)蘆妊娠率は胚移植あたり20~30%,流産率は20%といわれる。蘆先天異常の発生率は約 1~ 2%で,自然妊娠での発生率と同等である。蘆44歳前後までが治療の限界である。●卵細胞質内精子注入法 intracytoplasmic sperm injection(ICSI)蘆高度の乏精子症や受精障害を認めるときに適応となる。妊娠率と流産率は IVF-ETと同等である。
蘆 ICSIと胚盤胞移植 blastocyst transfer を組み合わせることにより,5.9~8.9%の一卵生双胎が発生する。
患者・家族への説明のポイント
蘆多胎の発生やOHSSを来す可能性について必ず説明する。蘆OHSSの発生が予想される場合は,その周期をキャンセルすることがある。蘆ARTは不妊で悩む患者には有効な治療法であるが,施行に際しては十分な情報提供と心理カウンセリングが必要である。蘆不妊治療は,患者に精神的な負担だけでなく,経済的な負担も強いる。蘆妊娠率と流産率について説明し,一度のARTですぐに妊娠成立するものではないことを説明する。
220 蠶 婦人科編
1
内分泌疾患、不妊症