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Skin Cancer Vol. 14 No. l 1999 91 Malignant mixed tumor Malignant chondroid syringoma (Malignant mixed tumor) 杉 内利 栄 子*高 和 宏*田 伸子* 末武 茂 樹*加 泰三* SumjnaYy We report a case of malignant chondroid syringoma affecting the preauricular portion of the left ear of a 67-year-old man. There were submental lymph node metastasis and multiple pulmonary metastases two months later. The local recurrence occurred at the primary site about 12 months after the initial insufficient surgical procedure. We suspected clinically squamous cell carcinoma was suspected. However, the findings of the histopathological, immunohistochemi- cal and ultrastructual examinations for reccurent tumor led us finally to make a diagnosis of malignant chondroid syringoma. Patient received electron beam radiation followed by administration of chemotherapeutic agents including CDDP, 5-FU and irinotecan and taxotere. We discussed the usefulness of such combination therapy, particulary the chemotherapeutic agents including taxotere. Key words: Malignant chondroid syringoma, Mixed cell tumor, Radiation, Chemotherapy, Taxotere Chondroid syringomaは, 汗腺 由来 の附属 ・器 腫瘍 と して位置 づ け られ てい る1)。その大部 分 良性 る が, 稀 に進 行 性 で 転 移 を起 こす。 こ の よ う なaggressive chondroid syringomaな い し は 血etastasizing chondroid syringomaと は, 現 在 で はmalignant chondroid syringomaな し はmalignant mixed tumor(of the skin)と して 間質変化 を持 汗腺 悪性 腫瘍 に分類 され る。 Malignant chondroid syringomaは, 比較的稀な 疾患 であ り,1961年のHirschら2)の 報 告 以 来, 例4例 を含 み, 33例 に 過 ぎない3)。臨 は, 男 比1:2.3と女 に多 く, 平 均年 は57歳(13歳 ら83歳), 四 肢 ・体幹 を好 部位 とす る腫 る3)4)。 は, SqUamOUS Cell CarCinOmaと の鑑別に苦慮 した malignant chondroid syringomaの1例 を経験 で, 報 告 す る。 者: 63歳, 男性 診: 1995年9月29日 家族歴: 特記すべ き こ とは な い。 生 活 歴: 13歳の 時, 広 島の爆心地近 くにおい て被爆 した。 * Rieko SUGIUCHI, Kazuhiro TAKAHASHI, Nobuko TABATA, Takaki SUETAKE, Taizo KATO: 東北大 学皮膚科学教室 -91-

Malignant chondroid syringoma (Malignant mixed tumor)

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Page 1: Malignant chondroid syringoma (Malignant mixed tumor)

Skin Cancer Vol. 14 No. l 1999 91

Malignant mixed tumor

Malignant chondroid syringoma (Malignant mixed tumor)

杉内利栄子*高 橋 和宏*田 畑 伸子*末武 茂樹*加 藤 泰三*

SumjnaYy

We report a case of malignant chondroid syringoma affecting the preauricular

portion of the left ear of a 67-year-old man. There were submental lymph node

metastasis and multiple pulmonary metastases two months later. The local

recurrence occurred at the primary site about 12 months after the initial

insufficient surgical procedure. We suspected clinically squamous cell carcinoma

was suspected. However, the findings of the histopathological, immunohistochemi-

cal and ultrastructual examinations for reccurent tumor led us finally to make a

diagnosis of malignant chondroid syringoma. Patient received electron beam

radiation followed by administration of chemotherapeutic agents including CDDP,

5-FU and irinotecan and taxotere. We discussed the usefulness of such combination

therapy, particulary the chemotherapeutic agents including taxotere.

Key words: Malignant chondroid syringoma, Mixed cell tumor, Radiation,

Chemotherapy, Taxotere

は じ め に

Chondroid syringomaは, 汗 腺 由 来 の 附 属 ・器

腫 瘍 と して 位 置 づ け られ て い る1)。 そ の 大 部 分

は 良性 で あ るが, 稀 に進 行 性 で 転 移 を起 こす。

こ の よ う なaggressive chondroid syringomaな

い しは 血etastasizing chondroid syringomaと 呼

ば れ る タ イ プ の も の は, 現 在 で はmalignant

chondroid syringomaな い し はmalignant

mixed tumor(of the skin)と して 間質 変 化 を持

つ 汗 腺 系 悪 性 腫 瘍 に 分 類 さ れ て い る。

Malignant chondroid syringomaは, 比 較 的 稀 な

疾 患 で あ り, 1961年 のHirschら2)の 報 告 以 来,

本 邦 報 告 例4例 を含 み, 33例 に過 ぎな い3)。 臨

床 的 に は, 男 女 比1:2.3と 女 性 に多 く, 平 均 年

齢 は57歳(13歳 か ら83歳), 四肢 ・体 幹 を好

発 部 位 と す る 腫 瘍 で あ る3)4)。 我 々 は,

SqUamOUS Cell CarCinOmaと の 鑑 別 に 苦 慮 し た

malignant chondroid syringomaの1例 を経 験 し

た の で, 報 告 す る。

症 例

患 者: 63歳, 男性

初 診: 1995年9月29日

家族歴: 特記すべ きことはない。

生活歴: 13歳 の時, 広島の爆心地近 くにおい

て被爆 した。

* Rieko SUGIUCHI, Kazuhiro TAKAHASHI, Nobuko

TABATA, Takaki SUETAKE, Taizo KATO: 東北 大

学 皮膚 科 学 教 室

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Page 2: Malignant chondroid syringoma (Malignant mixed tumor)

92 Skin Cancer Vol. 14 No. 1 1999

現病歴: 32歳 時, 左耳前部に腫瘤が出現 し,

一度切除を受けている。62歳 にな り同部に再度

小豆大の結節が出現 し, その後急速に拡大 して

きた。10月 前 より下顎部にリンパ節を触知する

ようになり受診 した。

現 症: 左耳前部に約11×10cm, 高 さ5cm

の表面凹凸不整の紅色か ら黄褐色の有茎性の腫

瘤がある(図1)。 左眼閉眼障害, 表情筋麻痺な

どの顔面神経麻痺症状を伴 う。

これとは別に左下顎部に径3cm, わずかに盛

り上が りのある腫瘤を触れる。

臨床検査所見 二末梢1血, 生化学検査 などの一

般検査 において異常は認められなかった。血清

SCC抗 原も正常範囲であり, 胸部X線 において

も肺転移を思わせる所見 はなかった。

MRI所 見: 左耳前部から頬部 にかけてキノコ

状 に突出する巨大な腫瘤が認められる(図2)。

左耳下腺においては脂肪構造が消失 し, 腫瘍の

浸潤が示唆 された。

治療および経過 二初診時, 臨床的に有棘細胞

癌を考え, 生検 を施行 した。増殖する未分化な

腫瘍細胞塊の中に一部角化傾向が認められたこ

とより, 組織学的にも有棘細胞癌 と診断 した。

手術を前提 として, 連日CDDP 7mg/bodyの 点

滴 と電子線照射(2Gy/日)を 開始, 併せて週2

回10KEの ピシバニール局注 を施行 した。 しか

し, 2ヵ 月経過 した時点で, 肺に多発性転移が

出現 した。腫瘍からの出血 を止め, 腫瘍量を減

らす ことを目的として外頚動脈を結紮後に腫瘍

を辺縁で切除 した。腫瘍は, 耳下腺付近におい

て脂肪組織が腫瘍細胞に置き変わり浸潤 してい

た。術 後電 子線 を局所 に さらに50Gy, 総量

94Gy照 射するとともに, CDDP, 5-FU, イリノ

テカンによる化学療法 を施行 した。初診1年 を

経過 した時点で, やや増大傾向のある下顎部リ

ンパ節を, さらにその2ヵ 月後原発部に再発 し

た径1cmの 結節(図3)を 切除 した。現在タキ

ソテールにて化学療法を施行 している(表1)。

肺の多発性の転移巣 は, 大 きさ, 数 ともに変動

はみ られず, 原発巣 にも再発 を思わせ る所見は

ない。左耳の閉塞感, 咳 を伴 う軽度の血疾を認

めるが, 全身状態は, 比較的良好である。

病理組織学的所見: 姑息的 に切 除 した標本

は, 全体が壊死性変化で占め られ, 腫瘍細胞の

性状 を知 る手がか りは得 ることがで きなか っ

た。図3に 示 した再発病巣の切片では, 真皮 に

表皮 との連続性 に乏 しい腫瘍塊が認め られ基底

細胞様細胞が管腔構造(矢 印)を 呈 しながら増

殖 している(図4)。 腫瘍細胞は, 核/細 胞質比

の大 きい好塩基性に染まる比較的小型の細胞で

あ り, これらが索状 ない し網 目状に配列 してお

り(図5), 一部 で 管腔 様 ・嚢 腫様 構 造(図

6, 7)を とっている。これらの腫瘍細胞はPAS

陽性, d-PAS陰 性であ り, グリコーゲンを豊富

に含んでいる。管腔様構造の部分では間質が ア

図1. 左耳前部の腫瘍

図2. MRI所 見

耳下腺付近 まで腫瘍が浸潤 してい る

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Skin Cancer Vol. 14 No. 1 1999 93

ルシアンブルー陽性, トルイジンブルーに異染

性を示 し, ムチン沈着が示唆 された(図8)。 下

顎部 リンパ節転移部においては, 原発巣類似の

小型の腫瘍細胞が密 に浸潤 していた。

免疫組織学的所見 二腫瘍細胞 はCEAお よび

chromoglanin陰 性 を示 した。 cytokeratinに 対

しては, 陽性 を示す細胞と陰性の細胞がほぼ半

分ずつの割合でみられ, 陽性細胞はS-100蛋 白

も陽性であるのに対 して, 陰性細胞はvimentin

に陽性であった。

電顕所見: 腫瘍細胞の胞体には, トノフィラ

メント, メラノソームが存在 し, 基底膜 との間

にはヘ ミデスモゾームが発達 してお り, 隣接す

る細胞 との間にデスモゾームの形成がみられた

図3. 原発部 に生 じた結節 図4. 弱拡大(H. E×4)

基底細胞様細胞が管腔様 ・嚢腫様構造(矢 印)

を呈 しなが ら増殖 している

表1. 治療 と経過

図5. 腫瘍細胞が索状ない し網 目状 に配列 して増殖

している部分(H. E. ×40)

図6. 管腔様構造 を示す部分(H. E. ×40)

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94 Skin Cancer Vo1. 14 No. 1 1999

(図9)。 こ れ ら の 所 見 は 有 棘 細 胞 癌 お よ び

malignant chondroid syringomaの い つ れ も 否

定 す る もの で は な い。

考 察

有 棘 細 胞 癌 と の 鑑 別 に 苦 慮 し たmalignant

chondroid syringomaの1例 を 報 告 し た。 生 検

標 本 に お い て 一 部 に角 化 傾 向 の み られ た こ とか

ら当初 は 有 棘 細 胞 癌 と診 断 し た。 姑 息 的 な手 術

組 織 の 大 部 分 が壊 死 組 織 で あ り, 全 体 の 構 築 が

十 分 に把 握 で きな か っ た こ と も確 定 診 断 を つ け

に く く した 要 因 で あ る と思 わ れ る。 しか し, 腫

瘍 細 胞 が 一 部 管 腔 構 造 を と る こ と, keratin,

vimentinお よ びS-!00蛋 白 な ど免 疫 組 織 学 的 に

多 様 性 を示 した こ と, さ ら に 間 質 の ム チ ン沈 着

が 確 認 さ れ た こ と か ら, 最 終 的 にmalignant

chondroid syringomaと 診 断 し た。 Malignant

chondroid syringomaは, 局 所 再 発, リ ンパ 節 転

移, 遠 隔転 移 を起 こ しや す い, 極 め て悪 性 度 の

高 い 腫 瘍 で あ る と考 え ら れ る3)。 自験 例 に お い

て も, 局所 再 発, リ ンパ 節 転 移, 多 発 す る 肺 転

移 が み ら れ, 当 初 そ の 予 後 に は 悲 観 的 で あ っ

た。 しか し, 局 所 再発 もな く, ま た肺 転 移 は消

図7. 嚢腫様構造 を示す部分(H. E. ×40)図8. 管腔様構造の部分 ならびに腫瘍細胞の間質に

はアルシアンブルー陽性(左)ト ルイジンブ

ルーに異染性 を示すムチ ンが沈着 していた(

右)(H. E. ×40)

図9. 腫瘍細胞 の胞体 には, トノフ ィラメ ン ト(T), メラノソーム(M)が 存在 している. 基底膜 との

問にはヘ ミデスモゾーム(H)が 発達 し, 隣接 する細胞 との 間にデスモゾーム(D)を 形成 してい

る(×3600)

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Skin Cancer Vo1. 14 No. 1 1999 95

失 しないまで も大 きさ, 数 とも変動な く推移

し, 初診後3年 を経過 した現在 も悪性腫瘍 と共

存する形で生存 している。本症 における治療指

針 は, 症例数が少ないこともあ り, いまだ確立

されていないが, 自験例の場合は一連の集学的

治療が有用 であった もの と思 われる。 この中

で, 化学療法剤 としては, CDDP, 5-FU, イリ

ノテカン, フィルデシン, お よびタキ ソテー

ル5)を 組み合わせて使用 した。現在は, 外来受

診時にタキソテールのみの投与を行っている。

今後 も注意深 く経過 をみていきたい。

謝 辞: 御校閲頂 きました, 東北大学皮膚科学教

室教授田上入朗先生に深謝致します。

文 献

1)斎 田俊 明, 他: い わ ゆ る皮膚 混 合 腫 瘍. 皮 膚 病診

療, 6:829, 1984.

2)横 山 明 子, 他: 悪 性 皮 膚 混 合 腫 瘍 の 一 例. Skin

cancer, 12: 61-66, 1997.

3) Hirsch, P., et al.: Chondroid syringoma: mixed

tumor of the skin, salivary gland type. Arch.

Dermatol., 1961;84: 835-47.

4)James, C. Steinmetz, et al.: Malignant chondroid

syringoma with wide spread metastasis. J. Am.

Acad. Drematol., 22: 845-847, 1990.

5)塚 越 茂: 新 抗 癌 剤, Docetaxe1(タ キ ソテ ー ル)に

つ い て. 癌 と化 学療 法, 24(9): 1167-1174, 1997.

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