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行動計量学会岡山地域部会で発表した,GHQに潜在ランク理論を適用した研究の資料です。
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心理尺度への潜在ランク理論の応用精神的健康調査票(GHQ)を用いた
順序的評価
清水裕士
広島大学大学院総合科学研究科
本研究の目的
• 精神的健康を順序的に評価する– スクリーニングテストとしてのGHQ
• これまで健常群と臨床群の2つにわけるのが目的
• しかし,2つに分けるだけでは柔軟な査定ができない
– 連続得点尺度としてのGHQ• 61段階のストレスの程度を評価する
• しかし,1点の違いは意味のある違いではない
• GHQに潜在ランク理論を適用する– GHQを順序尺度として評価
– 順序的評価の有用性について議論
発表内容
• 清水・大坊(2014) 心理学研究 85巻5号
臨床場面におけるスクリーニング
• 心理尺度によるスクリーニング
–心理尺度でストレスや鬱症状を測定し,カットオフポイントを超えるクライエントに面接や介入を行う
• 二分法によるスクリーニングの限界– カットオフポイントによる二分は,誤分類率が高い
• GHQでも12.9%
–適用場面における柔軟性がかける• 東日本大震災などの大災害時では,ほとんどの人がカットオフポイントを超えてしまう
臨床場面における順序的評価
• 症状に合わせて柔軟に査定したい
–少しで症状を出ている人を対象
–本当に深刻な症状が出ている人だけを対象
• 症状ごとに「潜在的なランク」に分ける
潜在ランクを用いる利点
• 名義クラスタ・潜在クラスに対する利点– 順序性を仮定できるので,症状の深刻度をすぐに理解できる
– 尺度の一次元性を担保することができる
• 連続変量に対する利点– 意味のある違いがわかりやすい
• 心理尺度の1点の違いは,ほぼ測定誤差の範囲• 1点や2点の変化に一喜一憂しても仕方がない
– ランクを用いれば,意味のある違いがすぐわかる• クライエントへのフィードバックもしやすい
潜在ランクを用いる利点
• 短縮版への応用も簡単
–通常の利用では,項目数が異なると点数の意味が異なってしまう
• 61段階と29段階といったように
–潜在ランクでは項目数が異なっても,ランク数を同じにしておけば,元の尺度と同じように解釈できる
• 項目特性のパラメータを固定しておけば,各ランクの意味も同じように固定することができる
潜在ランク理論
• 潜在ランクを推定することができる統計手法
– Shojima (2007)は自己組織化マップを用いて,順
序性を仮定したグループへの所属確率を回答者ごとに推定する
–テスト理論として開発されているので,データは二値,名義あるいは順序尺度であることを前提
• リッカート式の尺度にも適用可能
他の統計モデルとの違い
• 潜在クラス分析との違い
– 推定される潜在的なグループに順序性が仮定されているか否かが違う
– 回答者のグループへの所属確率を推定する点については同様
• 項目反応理論との違い
– 推定される潜在変数が連続変量ではなく,順序尺度である点が違う
– 項目の困難度や識別力を推定できる点では,同様
潜在ランク理論が推定するパラメータ
• 項目反応理論とよく似たパラメータ
–項目の性質を表すパラメータ
• 項目カテゴリ参照プロファイル(ICRP)
–テスト全体の性質を表すパラメータ
• テスト参照プロファイル(TRP)
• 潜在クラス分析とよく似たパラメータ
–回答者の性質を表すパラメータ
• ランクメンバーシッププロファイル(RMP)
項目の性質を表すパラメータ
• 項目カテゴリ参照プロファイル
– Item Category Reference Profile (ICRP)
– IRTでいうところの項目情報曲線
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1 2 3 4 5 6 7 8
確率
潜在ランク
項目カテゴリ参照プロファイル(ICRP)
0
1
2
3
項目の性質を表すパラメータ
• 項目参照プロファイル
– Item Reference Profile (IRP)
– IRTでいうところの,項目特性曲線
0.0
1.0
2.0
3.0
1 2 3 4 5 6 7 8
得点
潜在ランク
項目参照プロファイル(IRP)
尺度全体の性質を表すパラメータ
• テスト参照プロファイル
– Test Reference Profile (TRP)
– IRTでいうところの,テスト特性曲線
0
50
100
150
1 2 3 4 5 6 7 8
得点
潜在ランク
テスト参照プロファイル(TRP)
回答者の性質を表すパラメータ
• ランクメンバーシッププロファイル
– Rank Membership Profile (RMP)
– IRTでいうところの能力値
– LCAでいうところの所属確率
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1 2 3 4 5 6 7 8
ランク・メンバーシッププロファイル(RMP)
GHQへの潜在ランク理論の適用
• 精神的健康調査票(GHQ)
–質問紙によって精神疾患患者の状況把握や評価,発見において利用される心理検査
– 60項目• 短縮版に,30項目,28項目,12項目などがある
• なぜGHQか–スクリーニングテストとしてよく用いられる
–一次元性が仮定できる
–清水が利用可能なデータがあった!
方法
• 対象者
– Web回答者群:548名(男性276名 女性272名)
–大学生群:266名(男性147名 女性119名)
–健常者群:55名(男性20名 女性35名)
–精神疾患群:80名(男性36名 女性44名
–合計949名(男性479名 女性470名)
–平均年齢35.68歳(SD=15.05歳)
方法
• 測定項目
–精神的健康調査票(中川・大坊, 1985)
• 60項目 4件法
• GHQ得点は,GHQ方式(0-0-1-1)で得点化
• 潜在ランク理論にはリッカート方式で投入
–人生満足度
• Dienerら(1985)の人生満足度尺度
• 5項目 5件法
GHQ60の得点
※エラーバーは標準誤差
GHQ60の分布
コルモゴロフ・スミルノフ検定 (D = 0.105, p < .001)
GHQの潜在ランクの推定
• Exametrika5.3で推定– VBで動作し,ExcelやLibreOfficeで出力
• 自己組織化マッピングによる推定– リッカート方式(0-1-2-3)で入力
– 事前分布はなし• 必要に応じて,正規分布型,一様分布型が選べる
• 弱順序配置条件を仮定– 強順序配置条件:全項目のIRPがランクで逆転しない
– 弱順序配置条件:TRPがランクで逆転しない
ランク数の推定
• 情報量基準で判断
– AIC,BIC,CAICなどを参照
– 4ランクを選択
各項目の特徴を表す指標
• IRP指標– IRPから項目の困難度と識別力を推定
• 項目困難度– IRPが特定の得点以上(50%など)になるランク
• 今回は,1点を超えるランク(33%を超えるランク)
• 項目識別力– ランクペア間のIRP差の最大値
• 傾きが最も急なところのIRP差
項目困難度別の項目例
• 困難度1– いつもより,自分の将来は明るいと感じたことは– 一般的に見て,しあわせといつもより感じたことは
• 困難度2– 何かしようとしても手がつかないと感じたことが– 頭痛がしたことは
• 困難度3– 心配事があって,よく眠れないようなことは– 体がほてったり,寒気がしたことは
• 困難度4– 死んだほうがましだと考えたことは
ランクの解釈
• ランク1– 健常な人が所属するランク
• ランク2– 軽いストレス症状や社会活動障害
– 弱い身体症状
• ランク3– 不安と不眠
– 強いストレス症状や身体症状
• ランク4– うつ症状
項目識別力
• 識別力が高かった項目
–いつもストレスを感じたことが
–いつもより気が重くて,憂鬱になることは
– この世から消えてしまいたいと考えたことは
• 識別力が低かった項目
–いつもより周りの人々に親しみや暖かさを感じることが
IRPの例
項目49:いつもより気が重くて,憂鬱になることは項目31:いつもより周りの人々に親しみや暖かさを感じることが
参加者のランク
• ランクメンバーシッププロファイル–各ランクへの所属確率を表す
• 暫定的な参加者ランク– RMPが最大のランクに所属すると仮定する
• 様々なランク分けが考えられる–たとえば,ランク2以上に所属する確率が50%を超える人を臨床群にする,など
ランクごとの効果量の違い
• ランク1とランク2の差– g = 1.29 95%CI[1.10, 1.47]
• ランク1とランク3の差– g = 3.35 95%CI[3.09, 3.61]
• ランク1とランク4の差– g = 6.38 95%CI[5.96, 6.80]
• ランク間の差はかなり大きい– 効果量で1~3程度の差がある– 実質科学的な意味においても差があるといえる
分類されたランクの特徴
• 参加者タイプとランクのクロス表
–残差分析の結果
ランク 全体
1 △ 187 (62.75) 75 (25.17) △ 35 (11.74) ▼ 1 (0.34) 298
2 144 (54.75) 85 (32.32) 16 (6.08) 18 (6.84) 263
3 103 (56.28) 54 (29.51) ▼ 4 (2.19) 22 (12.02) 183
4 114 (55.61) 52 (25.37) ▼ 0 (0.00) △ 39 (19.02) 205
全体 548 266 55 80 949
参加者タイプ
Web 大学生 健常者 精神疾患者
※ △は度数が有意に多く,▼は度数が有意に少ない
ランク別のヒストグラム
GHQ60のカットオフポイント
ランクごとの特徴
• ランク1– 健常者が有意に多く,精神疾患者が少ない– 従来のカットオフポイントを下回る
• ランク2– ボーダーライン
• ランク3– 健常者が有意に少ない– 従来のカットオフポイントを上回る
• ランク4– 健常者が有意に少なく,精神疾患者が多い
人生満足度との関連
• GHQ60得点と人生満足度との順位相関
– r (546) = -.43 95%CI[-.46, -.39]
• ランクと人生満足度との順位相関
– r (546) = -.42 95%CI[-.45, -.38]
–ほとんど,相関に違いはない
疾患の有無との関連
• GHQ60得点と人生満足度との順位相関
– r (912) = .25 95%CI[.22, .28]
• ランクと人生満足度との順位相関
– r (947) = .25 95%CI[.22, .28]
– こちらもほぼ全く同じ相関がえられた
–順序尺度にしても,情報があまり落ちていない
短縮版による潜在ランクの推定
• 共時等化法による短縮版の推定
– ICRPを60項目版で推定したものを,短縮版の推定にも用いる
• パラメータを固定母数として,RMPを推定する
• GHQ60得点との順位相関
– GHQ28のランクとの相関
• r (947) = .94 95%CI[.93, .94]
– GHQ12のランクとの相関
• r (947) = .91 95%CI[.90, .92]
GHQへの潜在ランク理論への適用
• 4ランクが推定された
• 順序尺度に落とすことのデメリットは小さい
–他の外的な基準との収束的妥当性は高い
2分法によるスクリーニングと比較して
• ランクごとに柔軟な対応が可能かもしれない– ランク2でも,軽いストレス症状はでている
• 従来のカットオフポイントでは拾えない人もいる
– ランク4の人は,介入の必要性が高い• 大災害時などでも優先的に面接をするべき
• データに合わせたランク分け–得点の高低で分けるわけではない
• 再現性を考慮したランク分けが可能
• 所属確率による柔軟な介入対象の絞込も可能
連続得点評価と比較して
• ランクの違いに,意味のある違いを見いだせる– ランクが違うと,効果量はgで1~3以上違う– クライエントには測定誤差の理解は難しい
• 尺度の1点に過剰な意味を見出してしまいかねない• その点,ランク分けはクライエントの理解が得られやすい
• ランクごとの特徴を質的に記述できる– ランクごとのどのような症状があるのか
• 臨床的な知見を重ねることで,精緻な判断ができる
– 具体的な目標を定めて治療ができる• 次のランクに移行するためにはどうすればいいか• クライエントに対するフィードバックも容易
ICRPを利用した診断システム
• 945人で推定したICRPはWebサイトに公開–清水のWebサイトにアップしている
– http://norimune.net/material
• Exametrikaを用いて,一人からでも診断可– ICRPを固定すれば,たったひとりのクライエントのデータであっても,RMPを推定することができる• この方法も,上記Webサイトで公開している
–今後は,もっと大きいサンプルサイズで推定• Webアプリを作れば,もっと簡単に診断できる
まとめ
• 心理尺度への潜在ランク理論の適用
–研究的な分析法というより,実践的な手法
• 情報量を減らさず,より使いやすいスクリーニング
• クライエントにもわかりやすいフィードバック
• 他の分野への拡張も
–マーケティングでも使える
• 顧客のロイヤリティコミットメントのランク推定など
• 一つ上のランクに顧客を上げるための方法論
ご清聴ありがとうございました