言語条件づけと強化の型, 不安およびGSRの関係

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

言語条件づけと強化の型, 不安およびGSRの関係

著者 玉瀬 耕治雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学巻 16号 1ページ 205-221発行年 1968-02-29その他のタイトル INTERRELATIONSHIPS AMONG TYPE OF

REINFORCEMENT, ANXIETY, GSR, AND VERBALCONDITIONING

URL http://hdl.handle.net/10105/3284

205

言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係

ミ      蝣I" 言

(心理学教室)

臨床心理学の領域で扱われているカウンセリング場面は、ふつう、 1人対1人の事態であり、

そこでは言語的手段による相互作用が展開される。このような1人対1人の事態では、それぞれ

の個人が相手から反応をひき出す刺激の役割を果すことになる。すなわち、治療者の働きかけ

(強化刺激)が来談者の言語行動(反応)をひき出し、変容させるのである。このように、カウ

ンセリング場面が学習事態を構成しているという考えにもとづいて、言語行動のオペラント条件

づけ(言語条件づけ)の名の下に数多くの実験的研究が報告されている(Krasner, 1958; Sa-

lzinger, 1959; Williams, 1967)著者は、最近のいくつかの研究について、これを行動療法の

文脈の中で紹介した(玉瀬, 1967)0

ところで、このような対人的場面に対して実験的接近を試みる際、この場面を、便宜上、 ①治

療者(実験者)の要因、 ⑧来談者(被験者)の要因 ⑨治療状況(実験場面)の要因に分けて考

えることができよう。 ①には強化刺激の型(例えば、正の強化対負の強化、言語的強化対非言語

的強化) 、実験者の地位や容貌などの変数が含まれ、 ⑧には被験者の性格、構え、性、年令、強

化歴、反応と強化の関係についての意識などの変数が含まれ、 ⑨には場面の雰囲気、実験期問な

どの変数が含まれる0本研究では①および⑧の変数を問題にするOすなわち、強化の型と言語条

件づけの関係、被験者の不安水準と言語条件づけの関係、被験者の意識と言語条件づけの関係、

および、言語条件づけとGSRの関係を扱う。

さて、強化の型については、最近、我国でも横田(1965, 1966)や林・平井(1966)の研究が

あるが、正の強化対負の強化、言語強化対非言語強化、人的強化対物理的強化などの強化の方法

のちがいや、ある反応に対する強化量、強化の計画、反応と強化の時間間隔などの閉居が含まれ

ている。カウンセリング場面では来談者にイこシァティブをとらせるために身振り、うなずきな

どの非言語的手がかりやttフムフム=ttはぁはぁ日などの最少な言語的手がかりがしばしば用いられ

るが、これらの手がかりも来談者の言語行動に影響を与えていることが多くの報告で示唆きれて

いる(i. e. Greenspoon, 1955; Sandier, 1962; Reece & Whitman, 1962) 。言語的な手が

かりttよろしい"と、 ttフムフム"の有効性を比較した研究はいくつかあり(Rowley & Keller,

1962; Stollak, 1966;横田,ユ966) 、 Spielberger et al. (1965)はSarason (1958)とLevin

(1961)の結果からttフムフム"はttよろしい"よりも目立ちにくいと述べているが、一貫した結果

が得られているとはいい難いO そこで、本実験では言語的手がかり"よろしい日と、非言語的手

がかりと最少な言語的手がかりの結合、すなわち、うなずきながら"フムフム日のどちらが言語条

件づけに効果があるかを検討する。

次に、不安と言語条件づけの関係について初めて研究したのは TaHel (1955)である。彼は

6つの人称代名詞のうちの1つと過去の動詞を用いて文章を作らせるという課題を使用した。こ

れはその後の研究で豆Taffetf型の課題としてもっとも数多く用いられているものであり、本実験

でもこれを使用する Taffelはテイラー頗在性不安尺度で被験者(以下、便宜上Ssとする)を

206 言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉瀬)

高不安群、中不安群、低不安群の3つに分け、 ttよろしい"またはライトの光で強化したO その

結果、 "よろしい"で強化された高不安群および中不安群のSsが、統制群やライトの光で強化さ

れた群よりも有意によい成績を示した。このため彼は、不安は言語条件づけの関数であるとのべ

ている。その後Taffel型で不安を扱った研究にはBuss & Gerjuoy(1958), Sarason (1958),

Sarason & Campbell (1962), Rowley & Keller (1962), Spielberger, Denike & Stein

(1965),林・平井(1966)などのものがあるO このうち、 Sarason (1958)やSarason ら(1962)

ではTaffelと類似の結果が得られ、不安の高い者の万が条件づけられやすいことが示されたが

Bussら(1958)やSpielbergerら(1965)では、むしろ、逆の傾向が見られた。また、子供を使っ

たRowleyら(1962)では不安水準による違いは見られなかった。さらに、林・平井(1966)の研

究では低不安群のSsに対しては機械的な強化が有効であり、高不安群のSsに対しては言語的な

強化が有効であると報告されている。このような結果の矛盾についてはまだ充分検討されていな

いようであるが、たとえばSpielberger らはSsの意識の有無との関係でこれを考察しているo

Taffel型の他にも不安を扱った研究はいくつかある。たとえば、 Sarason & Ganzer(1962)

は自由な言語強化場面で、脅威的な教示か非脅威的な教示のいずれかを与えて条件づけを行なっ

たO その結果、テスト不安の高いSsで、脅威的な教示を受けた者は、非脅威的な教示を受けた

者よりも有意によい成績を示した。一方、テスト不安の低いSsでは教示による違いはみられな

かった。また、 Pattersonら(1960)はケント・ロザノフの連想リストを用いて実験し、不安の

低い者の万が条件づけが速いことを報告しているO以上のように、不安と言語条件づけとの関係

を調べた研究は多いが、課超や被験者などのちがいによって結果がかなり異なっているO ところ

で、前述のTaffelや林らの研究でも見られるように、不安の効果は強化の型(言語的と非言語

的)によっても左右きれている.そこで、本研究では不安が言語条件づけに及ぼす効果が、 ttよ

ろしい''とttフムフム''という強化の型によって異なるかどうかを主に検討する.

言語条件づけの研究の中で、最近、 Ssの意識(awareness)の問題、すなわち、被験者が強化

されている反応と強化刺激との関係に気づいているかどうかという問題が1つの論争をまきおこ

している。 Krasner (1958)のまとめたところでは31の研究の中でわずか5%のSsLか意識がな

かった。それにもかかわらず、言語条件づけが成立している点に最大の関心が注がれたのであっ

たo このように言語条件づけが意識なしに、自動的、直接的に起こると考え、効果の法則や弓酎ヒ

説によってこれを解釈しようとする立場がある(Sidowski, 1954J Dixon &, Oakes, 1965;

Oakes, 1967) ところがもう一方には、言語条件づけは意識を媒介にして成立すると考え、認

知論的解釈をする Spielberger とその共同研究者たちの立場がある(Dulany, 1961 ; Levin,

1961; DeNike, 1964; Speilberger, Berger, & Howard, 1963; Katkin, Risk & Speilber-

ger,1966)

Spielberger & DeNike (1966)は言語条件づけと意識の関係について、これら両方の立場

を図示し、認知論的解釈の有効さを強調している。これによると、まず認知論的立場に立たない

場合の説明としてFig. 1, (I)の4つを挙げている。ここで点線は単なる時間的接近を示し、

矢印は因果関係を示す。まず第1に、実験中には意識のなかったSSが、実験後の面接(特にEが

Sの成績を知っている場合)や詳しすぎる質問紙によって意識を生じる可能性がある( Iの1)0

第2に、まず条件づけが意識なしに成立して、正反応および強化刺激の頻数が増加し、その結

果、 Ssは反応と強化の関係を命名するかもしれない。つまり、成積上昇の結果として意識が生

じるかもしれない(Iの2) O第3に、上の命名によって意識が生じ、それが次の成績上昇への

言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉淑) 207

二次的媒介をすることが考えられる(Iの3) 。最後に、意識は内的な反応であり、これが強化

刺激によって外的な言語反応と同時に強化されていると考えることができよう(Iの4) 。以上

4つの説明は、本質的には、条件づけが意識に先立って成立するという立場をとっている。

次に、 Spielbergerらは認知論的立場から言語条件づけと意識の関係をFig. i, cmのよう

に説明している。左端の反応土は言語条件づけの最初の段階での未分化な反応を示し、あるもの

(I)非認知論的立場からの説明1- 暗示

反応-強化摘-反応r.芸こ;芸芸蒜icfcS刺激ニ圃

∴ --,- Jl

反応・=強イヒ刺激-反応†-反応†による刺激-匡固

2 二次的媒介

反応-・強化刺激-反応†-反応†による刺激一画-反応†

4 結合的な条件づけの効果

芸霊議品蒜-欄く品'屯)認知的立場からの説明

t .l・●

反応±-強化刺激±

・偏った面接による刺激

Fig.1意識と言語条件づけに関する2つの立場(Spielberger & DeNike, 1966より)

は正反応であり、あるものは誤反応である。これらはそれぞれ強化刺激(+または-)を受ける。

その強化刺激はそれぞれ異なる情報と誘因をもたらすと考えられる。情軌まさまざまな認知的状

態(Al、 A2、 A。‥....)を形成するもとになる.そして、やがて「多分、私が第1人称代名詞を

言った時にttよろしい''と言うのだろう」という試験的仮説(AN)を立てるにいたる。一方、誘

因によってSsは感情的、意欲的(conative)状態を発達させる.すなわち、 Ssは正の誘因に対

してはもっと強化刺激(+)を受けようとするだろうし、負の誘因に対しては強化刺激(-)をさけ

ようとするだろう。このような認知的および感情的状態が形成され、やがてSsは反応と強化の

関係を予想しながら反応するようになるO そして、そのSsの予想が正しいことが検証された時

(Ac)、初めて意識が確立される。それに誘因価が加わって成績が上昇する(反応†)と考えら

れる。このように、 Spielbergerらは意識が確立きれた後に条件づけが起こると解釈している。

これら2つの立場は、主として意識と条件づけの時間的関係に関して対立しているけれども、

いずれの立場においても現在のところ意識の測定法を言語報告にたよっているように思われる。

そのため、 Maltzman (1966)も指摘しているように、言語報告による意識の測定にはおのずか

ら限界があるであろう。とりわけ、 Spielberger らのように言語報告から意識をtt推測目するこ

とには問題がある。

本実験では、簡単な質問紙によってSsの意識を測定する一万、言語条件づけ試行中のGSR

208 言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉瀬)

の変化を記録することによって、条件づけと生理的変化との関係を追求し、意識測定の足がかり

がつかめるかどうかを検討する。

この方面からの研究は言語条件づけに関する限り、まだあまりなされていないようである。し

かし、最近、 GSRの意味条件づけ(semantic conditioning)におよぼす指向的反射(orien-

ting reflex, ORと略す)の影響を調べたRaskin (1963, in Maltzman & Raskin, 1965)

の研究は示唆に富んでいる。 ORとはさまざまな刺激変化によって生じるtt注意日に似た概念で

あると言われ、ソ連で近年数多くの研究がなきれている(Razran,1961). Raskinは最初の無条

件刺激に対するGSRの量をORの測度とし、 Ssを高いORを示すSsと低いORを示すSsに分

けた。さらに、それらのSsの半数には条件刺激と無条件刺激の関係を知らせる教示を与え、残

りの半数には与えなかったO このような条件の下で意味条件づけを行なった結果、高いORを示

したSsは教示の有無にかかわらずより多くの条件づけを示した0 -万、同じ資料をSsの不安水

準によって分類した場合は、これとは異なる結果が得られた。すなわち、高不安群では教示を与

えられた場合は成績がよく、教示を与えられない場合は成績が悪かったのに対して、低不安群で

は教示によるちがいはなく、 2つの高不安群の中間の成績を示した。このように、 ORは不安の

ような動因や情緒的緊張として作用するよりも、むしろ、刺激を弁別する能力と関係しており、

その意味で条件づけを促進すると考えられている。また、 Maltzman らはORと意識が関数関

係にあることを示唆している。本実験ではGSRにもとづくORの量によってSsを分類し、言

語条件づけおよび意識との関係についても検討する。

方       法

実験計画 強化の型と不安水準を含む3×2の要因計画が用いられた。強化の型はttよろしい"

で強化、うなずきながらttフムフム日で強化、および非強化の3条件であり、不安水準はCAS不

安測定テストで測定された高不安と低不安である。

被験者 奈良教育大学で教育b理学を受講している学生218名およびその他の学生19名、合計

237名にCAS不安測定テスト(対島ほか, 1964)を実施した。男女の数を考慮しながら、総不

安のもっとも高い者およびもっとも低い者から順に、 3つの実験条件の1つずつに割りあてた。

GSRの記録が不完全な者15名、オペラントブロックで代名詞の選択に著しい偏好がある者8

名、および質問紙によって強化と反応の関係に気づいていると判定された者1名の合計24名を除

き、各下位群が男女5名ずつになるようにした。その結果できた下位群のCASの平均とSDは

Table l のとおりである。この表から、高不安の3群と低不安の3群は不安水準の点でほぼ等

質であることがわかる。

Table 1 Means and SDs of the CAS Scores for 10 Ss in Each Cell

Anxiety Level Group 1 Group 2   Group 3   Mean

High M  48.0     48.4     50.4    48.9SD   2.83      3.00      6.63

Low M  15.0      18.4     14.3     15.6

SD  4.05     1.20     5.08

刺激カード 本実験で用いた刺激カードは60枚で、 Taffel (1955)の使用したものと類似の

ものである。すなわち、 12.5cmX18cmの画用紙に賀集ら(1962)より選んだ3音節動詞がまん中

言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉顔) 209

よりやや上に書かれ、その下に、 2列2行で「わたしは」、 「あなたは」、 「かれは」、 「かの

じょは」が書かれている。これらの人称代名詞は各カードでランダムな順序に配置されている。

動詞の選択にあたっては、 T価の等しいもの(55-64)のうち、 「にくむ」 、 「なぐる」などの

情緒的反応をひき出しやすいものをさけて、比較的中性と思われるものを選出した Table2は

本実験で使用された刺激動詞を示したものである。

Table 2 本実験で使用された刺激動詞

ぬらす    いそぐ

ためる    まわす

わたす    もどる

ひねる     あそぶ

まける    にざる

むすぶ    おがむ

にがす    つかう

ねむる    のばす

はいる    かぶる

とおす    うける

さげる    たべる

さがす    まもる

まぜる    ながす

あらう    なげる

つつむ    なめる

まげる    きます

なくす    まよう

こする    のせる

やぶる    おくる

ひやす    ふれる

ころぶ    かける

はらう    すわる

しまう    たてる

およぐ    もやす

-

-

あかつもよおはつ つわおみ

手続き それぞれのSは個別に実験室へ通され、実験者(E)と向いあって椅子にすわミったO実

験室は広さ8m2で部屋のまん中が厚いカーテンで仕切られ、一方に机と2つの椅子、もう一方

にGSR記録装置(T.K.K. RP-4型精神反射電流測定器)が置いてあるo Eは「これから簡単な

実験をしてもらいますが、その間のあなたの体の調子を調べたいと思いますのでこれをつけてく

ださい。絶対に何ともありませんから安心してください。 」と教示しながら、 Sの左手の第2指

と第3指にGSRの電極板をとりつけた。カーテンの向う側ではもう1人のEが直ちにGSRの

記録を開始した。次に、 「できるだけ体を楽な姿勢にして、実験中は手を動かさないようにして

ください。 」といいながら、下のような教示が書いてあるカ-ドをSに示し、 「これからあなた

にこのようなことをやっていただきますから、一度読んでみてください。 」と指示した。

ここに、たくさんのカードが用意してあります。上の万には、動詞が書いてあり、その下

に4つの代名詞(わたしは、あなたは、かれは、かのじょは)が書いてあります。そのうち1

つを主語にし、上の動詞とくみあわせて、できるだけ短い文章を作って声を出して言ってく

ださい。実験中はいっさい質問を受けつけませんので、質問があれば、今、言ってください。

質問があった場合には教示の要点をくり返したO次に、 「それでは、準備ができ次第カードを

めくりますから始めてください。 」と言って待たせ、 30秒~1分間たってから第1番目の刺激カ

-ドを挺示した。続くカードは、直前のカ-ドに対してSが反応してから10秒後に提示され、提

示の合図はGSR記録装置のマ-カーの音によってなされた。

60枚の刺激カードは15枚ずつの4ブロックにわけられた。第1ブロックはオペラントブロック

で、 Ssの反応に対して何も強化が与えられなかったO 第2、第3ブロックは強化ブロックで、

このブロックではSsの「かれは」または「かのじょは」という反応に対してグループ1には"よ

ろしい"、グループ2にはうなずきながら"フムフム"の強化が与えられた。しかし、ゲル-ブ3

にはいずれの強化も与えられなかった。横田(1666)の研究から第1人称代名詞反応が多いこと

があらかじめ予想できたので、本実験では第3人称代名詞を強化した。第4ブロックは消去プロ

210 言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉瀬)

ックで、どのグループのSSにも強化は与えられなかった。実験は2人のEs (玉瀬と西川)によ

って行なわれ、 1人がカードの提示と強化を行ない、もう1人がGSRの操作を行なった. Eに

よる影響を相殺するために、それぞれの役割が交代して行なわれた.実験終了後、 Ssの意識を

測定するために、質問紙によって次の質問がなされた。 (1)あなたは、いつもどのようにしてこ

とばを選びましたか (2)あなたは、あることばを他のものよりも多く使ったと思いますかOそ

れはなぜですか (3)実験中に、あなたは何かに気づきましたか。 (4)この研究の目的は何だと

思いますか。実験実施期間は昭和42年5月23日から6月27日の間であった。

結       果

言語条件づけと強化の型および不安 Table 3は各下位群の第3人称代名詞の平均反応数をブ

Table 3 Means and SDs of HE and SHE Responses

for High-Anxiety Ss and Low-Anxiety Ss

Gruop Reinforcement Anxiety

Good

Mm-Hmm &

Noddi ng

Control

Trial Block

2(Reinforcement) 3(Reinforcememt) 4(Extinction)

High 7.7 (1.95)

Low 7.7(2.41)

High 6.7 (2.49)

Low  7.1 (2.02)

High 7.3(2.37)

Low  7.4 (1.96)

6.8 (1.89)

7.9 (2.74)

7.3 (2.28)

7.1 (1.87)

6.8 (2.89)

7.1 (2.91)

6.9 (1.64)

7.9 (2.91)

7.7 (2.49)

6.8 (1.78)

7.7 (3.23)

6.8 (3.03)

7.0 (2.10)

8.6 (2.37)

9.1 (2.98)

6.8 (2.40)

7.2 (2.09)

7.7 (1.90)

ロックごとに示したものである。オペラントブロックにおいて各群が等質であるかどうかをみる

ために、 3×2の分散分析を行なったところ、主効果、交互作用ともにF<1で有意ではなかっ

た。従って、各群は一応等質とみなされる。そこで、強化、不安、ブロックを含む3×2×4の分

散分析によって、言語条件づけに及ぼす強化の型と不安水準の影響を検討した。その結果、主効

果、交互作用はすべて有意ではなかった。このことは、本実験で言語条件づけが充分成立してい

ないことを示している。次に、オペラントブロックと統制群を除いた2×2×3の分散分析を行

なった。これは、オペラントブロックで差がないこと、および、弓酎ヒを与えた2つの実験群のみ

を比較することによって、強化と不安の関係がより明確にあらわれるのではないかと考えたから

である。分散分析の結果、有意に近い強化と不安の交互作用がえられた(F-3.046, df-l′′36,

.05-0<.10) これは不安水準によって強化型の効果が異なることを示唆するものである。ブ

ロックをこみにした時の平均値は、グループ1の高不安群は6.9、低不安群は8.1であり、グルー

プ2では同じ頓に8.0と6.9であったoつまり、グループ1では低不安群が高いがグループ2では

高不安群が高い。標本値でみると、この結果は主として消去ブロックに関係があると思われる。

さらに、各ブロック別に6つの下位群の平均値について検討したところ、強化ブロックでは各群

間に有意差は見られなかったが、消去ブロックで強化と不安の交互作用が有意であった(F-3.

34, rf/-2/54, PK.05) そこで、分散分析の誤差項を用いて単純効果の検定を行なったとこ

ろ、グループ2の高不安群(9.1)と低不安群(6.8)の間で有意差が認められた(*-2.09)c その他

のグループでは不安水準による有意なちがいはなかった。

言語条件づけと意識 実験後の質問紙によって、 2つの実験群のSsの意識の水準を調べたと

ころ、強化刺激にのみ気づいている者が12名、全く何も気づいていない者が28名いることがわか

言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉瀬) 211

った。 Table4はこれらのSsの第3人称代名詞反応の平均値とSDを示したものである.まず、

Table 4 Means and SDs of HE and SHE Responses for

Partially-Aware Ss and Un-Aware Ss

Awareness NTrial Block

1       2       3       4

Partially-Aware  12   7.17(1.66) 8.00(1.15) 7.08(1.67) 8.25(1.01)

Un-Aware      28   7.36(2.47) 6.96(2.54) 7.43(2.54) 7.71(3.13)

強化刺激に気づいているSsについて、各ブロックの平均値の分散分析を行なったO その結果、

4つの平均値の間に有意差がみられたので(F-2.93 df-3/33, P<.05)さらに単純効果の検

定を行なったところ、第3ブロック(7.08)と第4ブロック(8.25)の間でも*-2.38 (df-33,P<

.05)、第1ブロック(7.17)と第4ブロック(8.25)の間でt-2.20 (df-33, P<.05)の有意差が

認められた。一方、意識のないSsおよび統制群について同様の検定を行なったところ、いずれ

も有意差は認められなかった。

言語条件づけとGSR Table 5はSsが第3人称代名詞反応をした際のGSR伝導度変化の対

Table 5 Means and SDs of GSRs (Log Change in Conductance)

for HE and SHE Responses

Group Anxiety

1

2

3

Mean

6

0

f

e

M

&

s

*

」3as」3

1       2       3       4

.780(.247)

.833C.216)

1.044(.293)

.851(.228)

.933C.161)

.851(.179)

.882

.736(.326)

.895C.241)

1.095C.192)

.8590237)

.853C.192)

.856(.237)

.882

.677(.339)

.837C.182)

1.033(.209J

.757(.329)

.820C.168)

.840(.292)

.827

.669C.253)

.799(.230)

1.019(.148)

.743(.296)

.846C.184)

.828(.274)

.817

数値(藤森, 1953)の平均とSDを示したものである。強化、不安、ブロックを含む3×2×4の分

散分析を行なったところ、ブロックの主効果のみが有意であった(F-6.636, rf/-3/162, P<

.01)。そこで、各ブロックの平均値について単純効果の検定を行なったところ、第1および第2

ブロック(ともに、 .882)に比べて、第3(.827)および第4ブロック(.817)の平均が有意に低い

ことがわかっ7こ(第1 ・ 2対第3, *-2.93;第1 ・ 2対第4, *-3.46) このことは刺激の反

復に伴うGSRの漸減現象を示しているものと思われる。強化と不安の交互作用は、 F-3.061

(df-2/54, .05<P<.10)でわずかに有意水準に達しなかったが、 Table 5から、グループ2

では高不安群に比べて低不安群がかなり高く、グルー701と3では不安水準によるちがいがあま

りないことが示唆きれる。

次に、強化刺激によるGSRの変化をみるため、第3人称代名詞反応に伴うGSR伝導度変化の

対数値から、第1および第2人称代名詞反応に伴うそれを差引いた値について検討した Table

6はこの値について、各群の平均とSDを示したものである。 3×2×4の分散分析を行なった

ところ、主効果、交互作用ともすべて有意ではなかった。しかし、この差の絶対値が有意かどう

かをみるた釧こ、各ブロックごとにサインテストを行なったところ、グループ2の高不安群の値

が第2ブロックで有意となった(P-.011)c これは、強化を与えたことがGSR値を有意に高め

たことを示すものである。また、有意にはならなかったが、グループ2の低不安群でも上と同様

212 言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉瀬)

Table 6 Mean Differences and SDs between GSRs for HE & SHE

Responses and for I & YOU Responses

Group Anxiety

u>* bo M fe

5

j

5

3

k

j

1       2       3       4

.024(.14) -.008(.15) .004(.17) -.084(.16)

-.019(.13) .01K.14) .018(.18) .007(.ll)

-.067(.10) .099018) -.004(.ll) -.021(.14)-.013C08) .095(.14) .063(.12) .012(.ll)

.023(.ll) .032(.19) .016(.10) .066(.09)

-.019(.09) .014C.ll) -.008(.14) -.002(.09)

の傾向があるので(P-.055)、うなずきながらttフムフム"という強化刺激がGSR値を変化させ

ることは確実である。

音詩条件づげ、 OR、不安、および意識の相互関係 強化ブロックにおいて、最初に強化刺激

を与えた際のGSR伝導度変化の対数値をORの測度として、 High OR群(メディアン以上)

とLow OR群(メディアン以下)を構成したo これはMaltzman らにならったものである。

統制群については、それに相当する試行でのGSR値を求めた Table 7はこれらの群のSSの

Table 7 Means and SDs of HE andSHE Responses for

High-OR Ss and Low-OR Ss

Group OR

a

*

"

m

&

 

6

0

x2S3」2

Trial B

1       2        3        4

7.8(2.64)

7.6(1.62)

6.6(2.46)

7.2(2.04)

7.6(2.20)

7.1(2.12)

7.8(2.75)

6.9(1.92)

8.1(1.45)

6.3(2.24)

7.0(3.31)

6.9(2.43)

8.2(2.46)

6.6(1.50)

7.5(1.86)

7.0(2.49)

8.0(3.61)

6.5(2.25)

8.2(3.03)

7.4(1.36)

8.0(3.03)

7.9(2.84)

7.5(2.20)

7.4(1.80)

第3人称代名詞の平均反応数を示したものである。この表から、みかけ上はHigh OR群の方

が成績がよく、 Raskin(1963)の報告と類似している。しかし、 3× 2 × 4の分散分析の結果、

主効果(強化、 F<1; OR, F-1.30, ^/-l/54;プロッタ ーF-1.40, df-3/162)交互作用

ともにすべて有意水準に達しなかった。

Table 8は強化の型と不安水準によってわけられた各下位群のSsのORの平均とSDを示し

Table 8 Means and SDs of Orienting Reflexes Measured by

GSR (Log Change in Conductance)

Anxiety

HighLow

.794028)

.868C.38)

1.056C.22)

.926(.20)

.831(.26)

.732C.35)

たものである。これらの値について3× 2の分散分析を行なった結果、強化(F-2.07, df-2/

54)、不安(F<1)およびその交互作用(F<1)はいずれも有意ではなかった。このことは、

ORと不安が無関係であるとするMaltzman らの主張と一致する。

Table 9は意識の水準によって分類されたSsのORの平均値を示したものである。 t検定の結

言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉顔)

Table 9 Means and SDs of Orienting Reflexes for

Partially-Aware Ss and Un-Aware Ss

Awa reness OR

Partially-Aware

Un-Aware sS

2 7

C l r t

cD cO

213

栄吉<1で2つの平均値の間に有意差は見られなかった。このことはORと意識が関数関係にあ

るとする Maltzman らの考えを支持していない。

Table lOは不安水準別に部分的に意識のあったSsと意識のないSsの人数を示したものであ

る。この表から明らかなように、不安水準と意識の間にも関数関係は認められない。

Table 10 Numbers of Partially-Aware Ss and Un-Aware Ss

in High- and Low-Anxiety Group

Anxiety Partially-Aware Un-Aware

代名詞選択における偏好性と言語条件づけ Tablellはオペラントブロックにおける全Ssの

4つの代名詞に対する平均反応数とSDを示したものである。分散分析の結果、これらの平均値

Table ll Frequencies of Responses to Each of the Four Pronouns

in Operant Block

工      YOU HE SHE

Mean     5.90      1.78       4.17       3.15

SD 1.95      1.35       2.90       0.95

の間には-F-48.52, df-3/236, P<.005で有意な差が認められた0 4つの代名詞のうち、もっ

とも使われやすいのは「わたしは」で、以下、 「かれは」、 「かのじょは」、 「あなたは」の順

である。単純効果の検定の結果、各平均値間にはすべて5 %以下の棄却率で有意な差が認められ

た。このような偏好性の問題が条件づけの成績と関係しているかもしれないと考え、この観点か

ら資料を再検討してみた。

Table12は全SSをオペラントブロックで第3人称代名詞反応がメディアン以上の者と、メデ

Tabld 12 Means and SDs of HE and SHE Responses for High-Preference Ss and Low-Preference Ss

Group Preference

十二‥∵「

Trial B

1       2       3       4

9.4(1.ll)

6.0(1.61)

8.7(1.19)

5.1(1.58)

9.2(1.25)

5.5(1.02)

9.1

5.5

8.8(1.99)

5.9(1.87)

8.0(1.26)

6.4(2.42)

8.8(2.68)

5.1(1.70)

8.5

5.8

8.8(2.40)

6.0(1.41)

7.9(1.97)

6.6(2.24)

9.2(2.93)

5.3(1.95)

8.6

(5.0

9.0(2.14)

6.6(1.96)

8.0(3.29)

7.9(2.55)

9.0(1.41)

5.9(1.14)

8.7

6.8

214 言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉瀬)

イアン以下の者に分けて、各下位群のSsの反応の平均を示したものであるO 強化、偏好生、ブ

ロックを含む3 × 2 × 4の分散分析を行なった結果、偏好性の主効果(F-45.395, df-2/54,

P<.01)と偏好性とブロックの交互作用(F-2.859, df-3/′162, P<.05)が有意であった。

これを表でみると、第3人称代名詞に対する偏好性の高い者はその反応数があまり変化していな

いのに対して、偏好性の低い者は試行とともに反応数を増加していることがわかる。そこで、さ

らに偏好性の低い者のみについて検定した結果、ブロックの主効果(-F-3.827, df-3/81, P<

.05)が有意となり、上のことが確められたが、強化とブロックの交互作用は有意ではなかった。

しかし、標本値の上ではグループ2が第1ブロックから第4ブロックにかけて、ほば直線的な上

昇を示している。

読 請

本研究で得られた主な結果は次のとおりである。 ①大学生を被験者とし、 Taffel型でGSR

を記録しながら言語条件づけを行なったところ、充分な条件づけが成立したとはいえなかった.

しかし、 ⑧オペラントブロックを除いて2つの実験群の成績を比較したところ、 ttよろしい"で

強化した場合は低不安群の成績がよく、うなずきながらttフムフム日で強化した場合は高不安群の

成績がよくなっており、その傾向は消去ブロックで著しかったo ⑧強化刺激に気づいているSs

では4ブロックの平均値の間に差がみられ、消去ブロックで有意な成績の上昇がみられた。 ④う

なずきながらttフムフム"で強化した場合、低不安群のGSR値が高不安群のそれよりもかなり高

かったが、 ttよろしい"で強化した場合や統制群では不安水準によるちがいはあまり見られなか

った。 ⑤うなずきながら"フムフム"で強化した場合に限り、 GSR値をかなり変化させるように

~思われた。 ⑥High OR群は、強化の型に関係なく LowOR群よりも成績がよい憤向が見られ

たが、統計的な信頼性は得られなかった。 ⑦ORと不安、 ORと意識、意識と不安の間には、い

ずれも相互の関係は見られなかった。 ⑧4つの代名詞のオペラントブロックにおける使用頻度

は、 「わたしは」、 「かれは」 、 「かのじょは」、 「あなたは」の順で、それぞれの間に有意差

がみられた。 ⑨オペラントブロックで、第3人称代名詞に対する偏好性の高い者と低い者にわけ

て、言語条件づけの成績を調べたところ、偏好性の高い者の成績は横ばい状態で、低い者の成績

は上昇していることがわかった。

まず、言語条件づけが充分成立しなかったことは我々の期待に反しているこ この理由としてい

くつかのことが考えられよう。第1に、本実験では従来の研究と異なって条件づけ試行中にGS

Rを記録している。 Ssの反応後、 GSRを記録するために10秒間の時間間隔が挿入されたので、

提示間隔がふつうのやり方に比べて長くなった。このことが条件づけに妨害的効果を及ぼしたの

ではないかと思われる。 Locke (1966)の研究によると、 Taffel型の実験で、刺激カードを7

秒間隔に固定して提示した場合と、反応の直後に非固定的に提示した場合を比較したところ、前

者の方が条件づけの成績がよかった。本実験では非固定的反応がさらに10秒間遅延きれたことに

なるので条件づけの形成に不利なことがうなずける。第2に、各Sによって代名詞と動詞の間に

挿入することばの数がまちまちであったた馴こ、あるSSにとっては強化が代名詞に対してなさ

れたものと受けとられ、ある∫∫にとってはそれが他のことばに対してなされたものと受けとら

れている可能性がある。これは第1の提示間隔の問題と関連する。提示間隔が短い場合には必然

的に挿入語数が少なくなるので、代名詞と強化刺激との関係がわかりやすいが、長い場合にはわ

言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉淑) 215

かりにくい。この予想を検証するには、提示間隔とか挿入語数を変数とした実験を計画すればよ

いと思われる。第3に、実験場面の要田が考慮されねばならない Taffelは実験前にSsとラポ

ートをとるため、絵を描かせながら一般的な会話を行なっているが、本実験ではそのような手続

きをとらず、ただちに課題の教示を行なった。 GSRの記録の音が聞こえるし、指に電極板をと

りつけられ、体を動かさないように言われているので、 Ssにとって実験場面はふつうの場合よ

りもかなり緊張的、脅威的場面であったかもしれない。このような場合、条件づけの効果がただ

ちにはあらわれにくいことがSapolsky (I960)によって示唆されている。第4に、代名詞の位

置に対する偏好性があることが質問紙によって示唆された。すなわち、代名詞の種類とは無関係

に多くのカードで左上の代名詞に反応した者が6名あった。このことが資料をゆがめているかも

しれない。

これらは、主として本実験に限られた問題点であるが、平井・林(1967)の報告にもあるよう

に、 Ssが大学生である場合、我国ではTaffel型の言語条件づけがかなり困難なようであるO

しかし、米国などでは同じ手続きで条件づけが成立している場合が多いので、文化的なちがい、

特に代名詞の使い方のちがいについても考慮する必要があるように思われる。オペラントブロッ

クにおける代名詞の使用療皮をみると、 Tablellに示したように、 「わたしは」が圧倒的で、 「あ

なたは」はほとんど使用されていないことがわかる。また、 「かれは」、 「かのじょは」という

ことばは学生には一般的であるけれども、一ふつうはあまり我国では使用きれないことばであるO

このようなことから、 Taffel型をわが国で用いるのには、条件づけが可能か不可能かという議

論を出す前に、実験条件のこまかい吟味が必要であるように思われる0

次に、強化と不安の交互作用が得られたことは、 Taffel(1955)や林ら(1966)の研究と類似

している。しかし、それが主として消去ブロックに依存している点で彼らと異なっている。前述

のように、本実験では場面がかなり緊張的であり、 EとSのラポートが充分でなかったO そのた

め、 Eの強化に対してSは反抗的、否定的(Sapolsky, I960)に反応していたかもしれないo そし

てSapolskyが実証したように、強化が与えられなくなってから強化の効果があらわれたのでは

ないかと考えられるo ttフムフム日はttよろしい日にくらべて目立ちにくいけれども、その反面、前

者は後者にくらべて、より現実的であるように思われる。そのため、刺激に敏感な高不要群にと

って、 ttよろしい日よりもttフムフム日の万がより適切な強化者となりえたのではないだろうか。条

件づけ試行中のGSRの記録から、 ttフムフム日で強化した場合にGSR値がかなり変化している

ことからもこの解釈は妥当であるように思われる。

次に、意識と言語条件づけの関係についてのべる。意識の水準を質問紙で測定されたものと考

えた場合、強化刺激に気づいているSSが、何も気づかなかったSsや統制群よりもブロック間の

成績の変動がはげしかったことから、意識が言語条件づけに影響することはまちがいないと思わ

れるO しかし、部分的に意識のあるSsが第2番目の強化ブロックで成績を減少している点が問

題である。これは、反応と強化の正しい関係に気づいていなかったためか、故意に反応を減少し

たかのいずれかであろう。本実験では強化刺激が適切な誘因として作用しなかったのではないか

と思われるので、反応と強化の関係に気づいていたとしても、強化刺激にともなう反応の変化が

あらわれなかったのかもしれない。その1つの証拠として、反応と強化の関係を正しく言語化し

たSの第3人称代名詞反応数は、第1ブロックから順に、 7、 6、 7、 7であり、成績の上昇が

認められない。これは明らかに強化に対して抑制的に反応したためと思われる。

Raskin (1963)の研究に示唆をえて、 ORが言語条件づけの関数であるかどうかを調べたとこ

216 言語条件づけと強化の型,不安およびGS Rの関係(玉瀬)

ろ、統計的に有意な水準ではなかったが、標本値の上ではHigh OR群の方がLow OR群よ

りも成績がよいように思われた。またORと不安、 ORと意識の関係についてはいずれも有意な

関係は見られなかった。これらの結果については、測定法などにも改善の余地があるので、結論

的なことはさけて、さらにくわしく吟味する必要があろう。

ところで、資料をくわしく検討した結果、言語条件づけはSsの代名詞の偏好性と関係してい

ることが示唆されたoオペラントブロックで第3人称代名詞に対する偏好性によってSsを分類

したところ、偏好性の高い者の成績は横ばい状態で、低い者の成績が上昇していることがわかっ

た(Table 12)。 Ells (1967)の研究はこのことを問題にしているo彼は分裂病者にTaffel型

の実験を行なった。オペラントレベルで6つの代名詞を反応の多いものから順位づけし、偏好性

の高い群として順位が1位と2位の代名詞を強化し、偏好性中位の群として、噸位が3位と4位

の代名詞を強化した。その結果、後者の方が前者よりも全試行については成績がよかったo しか

し、成績の測定法によっては両者の差が出ないため、結論的なことは言えないとしている。ま

た、偏好性の高い場合に成績が上昇しないことについて、彼は1つにはtt天井効果"によると考

えている。さらに、偏好性の高いSsは、しばしば強化されるため、承認の欲求に満足しきって

いるかもしれないこと、および、 Eの承認の真実性を疑いはじめているかもしれないことをあげ

ている。前者は、強化刺激が誘因として作用L/ないという先にのべた示唆と-致しているO

最後に、 Krasner (1965)のことばを借りてTaHel型の課題の特徴についてのべることは

今後の研究に役立つかもしれない。まず、この種の課題がよく使用されている理由として、次の

ような点があげられる。 ①可能な反応の数が少なく、容易に得点化できる。 ⑧課題が単純であり

誰にでもできる。 ⑧実験計画にくみ入れやすい。 ④複雑な反応クラスを識別する訓練を必要とし

ない。 ⑤法則的な交互作用をもたらすO ⑥変数を独立させやすく、交互作用をうまくコントロ-

ルできるO これに対し、この課題の欠点や批判として次のような点があげられる。 ①より一般的

な行動場面にあてはめたり、それを解釈したりするためには、この課題は反応のレパートリーが

あまりにも限定されすぎているo ⑧オペラント条件づけではなくて、むしろ弁別学習である。 (砂

反応の概念の一般的な性質が欠けているため、強化された反応の般化が生じにくい。

このようなTaffel型の言語条件づけの実験から、ただちに一般的な臨床場面を解釈すること

は危険であるが、すでに、かなり進んでいる欧米での諸研究を、文化的背景のちがう我国で再検

討し、発展させていくことには意義があると思われる。

要      約

本研究の主な関心は言語条件づけにおよぼす強化の型と不安水準の影響を調べること、および

GSRによって条件づけ試行中のSsの生理的変化をとらえ、意識との関係を調べることであっ

た。 SsはCAS不安テストで測定した高不安群30名、低不安群30名の大学生であるo それぞれ

のSは3つの実験条件のいずれかにわりあてられており、 10名ずつの下位群を構成しているo

Taffel型の手続きで、 3音節動詞と「わたしは」 、 「あなたは」 、 「かれは」 、 「かのじょは」

が書かれた60枚の刺激カードを用いた。これを15枚ずつの4ブロックにわけ、それぞれオペラン

ト、強化、強化、消去ブロックとした。強化ブロックで「かれは」、 「かのじょは」に対して

ttよろしい"(Gr. 1)またはうなずきながらttフムフム"(Gr. 2)で強化した.統制群(Gr. 3)に

は何も強化しなかった GSRの記録のため、 Sが反応してから10秒後に次のカ-ドを示した。

言語条件づけと強化の型,不安およびGSRの関係(玉瀬) 217

主な結果は次のとおりである(1)"よろしい''は低不安群に、うなずきながらttフムフム"は高

不安群に対して効果的であったが、いずれも言語条件づけを成立させるのに充分ではなかった。

く2) Gr.2で低不安群のGSRが高不安群のそれよりも大きかったが、他の群ではそのようなち

がいはなかった(3)うなずきながらttフムフム''はttよろしい''よりもGSRに影響しやすいよう

に思われた。 (4)指向的反射(OR)の高い者はそれの低い者よりも条件づけられやすい傾向が

見られたが、統計的な信頼性はえられなかった。 (5)4つの代名詞の反応の頻数はオペラントブ

ロックでそれぞれ有意に異なっていた (6) 「かれは」 、 「かのじょは」に偏好性の低い者は成

績が上昇し、それの高い者は成績が横ばい状態であった。

条件づけが充分成立しなかったことや強化と不安の交互作用、言語条件づけと意識および偏好

性の関係などについて議論した。

<付記> 本研究をご指導くださった杉村健先生、欧文をご校閲くださった上田敏見先生、用語に関して

助言くださった滝野千春先生、資料の蒐集と整理にご協力くださった西川満君、記録を援助くだ

さった渡辺惇代さんに心か.ら感謝いたしますo

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(昭和42年9月30日受理)

220

INTERRELATIONSHIPS AMONG TYPE OF REINFORCEMENT,

ANXIETY, GSR, AND VERBAL CONDITIONING

Koji Tamase

Department of Psychology, Nara University of Education, Nara, Japan

This investigation examined the effects of type of reinforcement and anxiety

level on vevbal conbitioning(VC). The Cattell Anxiety Scale revised in Japan was

conducted to 237 undergraduate students to evaluate their anxiety level. From the

highest end and the lowest end of the CAS score distribution, 60 Ss were ranbomly

assigned to one of the three experimental conditions, with 10 Ss in each cell.

The Taffel type procedure was used. The <Ss were tested individually with 60

white index cards, each contained a three-syllable present tense verb selected from

Kashu's "T" association list (1962) and the four pronouns: I, YOU, HE, and SHE.

Each card was presented at the S's own rate after 10 sec. interval of his response

to the preceding card. The first 15 trials were not reinforced in order to establish

each S's operant level. For the following 30 trials,E said "Good"in a flat manner

(Gr. 1), or "Mm-hmm"accompanying head nod (Gr. 2), whenever an S made a

sentence with HE or SHE. The last 15 trials were not reinforced to assess the

extinction effect. During the 60 trials the control group (Gr. 3) was not reinforced

at all. GSR was recorded throughout the experimental session to see the jS"s phy-

siological states. After the last trial all 5s were administered the awareness

questionnaire.

The following results were obtained: (1) "Good" was likely to be effective

as a reinforcer for low-anxiety Ss, and "Mm-hmm" plus nodding seemed to be

effective for high-anxiety Ss, but the reinforcement effects were slight as a whole

(Table 3); (2) GSR deflections seemed to be greater for low-anxiety Ss than for

high-anxiety Ss in Gr. 2, but no such differences were found in Gr. 1 and Gr. 3

(Table 5); (3) "Mm-hmm" plus nodding appeared to influence GSR deflections

compaired with "Good"(Table 6); (4) When the data were dichotomized by

orienting reflex (OR), measured by GSR deflections for the first reinforcement

stimulus, high-OR groups tended to be more easily conditioned than low-OR groups,

though statistical level of confidence was not obtained (Table 7); (5) The freque-

ncies of the four pronouns were significantly different from each other in the

operant level (Table ll); (6) Reanalysis of the data revealed that the Ss who

showed high-preference for HE and SHE indicated no increasing trends through

reinforcemet, but that the Ss who showed low-preference for HE and SHE were

fairly condotioned through reinforcement (Table 12).

221

Discussion was made on several possible bases of the finding that the verbal

conditioning was not established sufficiently as a whole. The reinforcement by

anxiety interaction, relationship between awareness and VC, and relationship bet-

ween S's preference and VC were also discussed.

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