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1. 目的
TG-51 プロトコルは,米国やカナダで広く採用されている標準計測法である.AAPM TG-51 original1) が
1999年に発表されてから 15年が経ち,その間に新しい電離箱が開発され,線質変換係数もフルモンテカル
ロで計算されたデータが発表された.これらの変更を受け,2014 年 4 月に TG-51 original の補足版として
AAPM TG-51 addendum2)が発表された.本基礎講座では,TG-51 addendum の概要と我々が知ってお
くべき内容をピックアップして解説を行う.また,TG-51 addendum の内容の約半分を占める光子線計測の
不確かさをベースとして,計測を行う上で注意すべき点について学ぶ.なお,本稿で記載する内容は,
TG-51 addendum をベースに様々な内容を盛り込んだ構成となっているため,TG-51 addendumの内容を
正確に知りたい方は,原文をあたっていただく事をお勧めする.
2. TG-51 addendum の概要
TG-51 addendum は光子線のみのマイナーアップデートで,計測法の根幹に変更はない.以下に TG-51
addendum の概要および実施ガイダンスを示す.
【TG-51 addendum の概要】
① 電離箱計測における新しい補正係数の追加
TG-51 addendum のフォーマリズム
𝐷𝑤,𝑄 = 𝑁𝐷,𝑤𝐶𝑜60𝑘𝑄𝑀𝑄
𝑀𝑄 = �̅�𝑟𝑎𝑤𝑃𝑇𝑃𝑃𝑖𝑜𝑛𝑃𝑝𝑜𝑙𝑃𝑒𝑙𝑒𝑐𝑃𝑙𝑒𝑎𝑘𝑃𝑟𝑝
𝑃𝑙𝑒𝑎𝑘 ,𝑃𝑟𝑝 が新たに追加された補正係数
𝑃𝑙𝑒𝑎𝑘 :リーク(漏れ)電流に対する補正
𝑃𝑟𝑝 :放射状に広がる線量分布の変化に対する補正
② 線質変換係数 kQのデータ更新
TG-51 以降に開発されたチェンバーの追加,フルモンテカルロの導入により線質変換係数のデータ
が更新された.TG-51 では,線質指標に%dd(10)x が採用されており,本邦で採用されている線質指
標 TPR20,10 と異なることに留意頂きたい.
③ TG-51 Addendum の実施ガイダンス
チェンバーや補正係数取得のための留意点について解説されている.
④ 安定した計測を行うためのリファレンスクラス電離箱の仕様を提示
⑤ Flattening-filter-free(FFF)等の新しい技術導入のための助言
⑥ 光子線標準計測における不確かさの見積もり
【TG-51 addendum の実施ガイダンス】
・ Implementation of TG-51 addendum
・ Reference-class ionization chamber (リファレンスクラス電離箱)
・ Equipment needed
・ kQ data sets
・ Choice of polarizing voltage (印加電圧の選択)
・ Measurement of polarity correction, Ppol
AAPM TG-51 addendum から学ぶ光子線標準計測の精度担保
都島放射線科クリニック 辰己 大作
基礎講座
・ Effective point of measurement ・ Use of lead foil to determine %dd(10)X ・ Use of small-volume chambers in relative dosimetry ・ Non-water phantoms prohibited ・ Application to flattening-filter-free linacs (FFF への応用) ・ Best-practice guidelines ・ TG-51 corrigenda
実施ガイダンスの内,“リファレンスクラス電離箱”,“印加電圧の選択”,および“FFFへの応用”の 3項目について解説を行う.
1) リファレンスクラス電離箱
TG-51 addendum では標準計測の精度を担保するため,標準計測に適した電離箱の仕様(Table 1)を提示している 2,3).また,具体的な電離箱の型式を Table 2 に示す 2).電離箱のタイプは FFF の線量分布にも対応できるように,ファーマタイプだけでなくスキャンニングタイプにも拡大されている.チェン
バー性能の担保はユーザ責任においてなされるべきであり,すべてのチェンバーには使用期限があるこ
と,コミッショニング時だけでなく定期的に各種補正係数を検証する必要があることが述べられている.
Table 1 リファレンスクラス電離箱の仕様
Table 2 リファレンスクラス電離箱の型式
2) 印加電圧の選択
印加電圧を変化させ電荷量を計測し,1/Q (表示値の逆数 )と 1/V (印加電圧の逆数 )の関係をプロットしたグラフを Jaffe plot という.計測に用いる印加電圧は Jaffe plot が直線関係になる領域の電圧を用いるのが基本である.Fig. 1 は,PTW30013(Farmer type)と PTW31016(Pinpoint type)の 2 種類の電離箱の Jaffe plot を取得したものである.
PTW30013(Farmer type)では 400V でわずかに直線関係から外れ,PTW31016(Pinpoint type)では 300V でも直線関係が成立していないことがわかる.直線関係から大きく外れる印加電圧を用いた場合,2 点電圧法によるイオン再結合補正係数の取得において,真の値を正しく評価することができない問題がある.PTW30013 と PTW31016 のメーカからの定格電圧は共に 400V であるが,メーカからの定格電圧と正確な計測のための電圧は決して同じではないことに注意が必要であ
る.このような背景から,TG-51 addendum ではモニタ校正に用いる円筒形電離箱の電圧上限は
300V にすることが推奨されている.実際問題,PTW30013 では,300V と 400V のどちらの印加電圧を採用してもそれほど大きな違いはないが,ユーザ自身が自施設で用いているチェンバーの特性
を知った上で使用するスタンスが重要である.なお,ここで注意頂きたいことが 1 点ある.TG-51 addendum の電圧上限が 300V だからといって,次回の計測から 300V を使用するのは危険な行
為である.計測に用いる印加電圧は,リファレンス線量計の校正を行った時の印加電圧を用いなけ
ればならない.仮に 400V でリファレンス線量計の校正を行い,通常の計測を 300V で行えば,それだけで 0.5%程度の線量誤差が発生する可能性がある.印加電圧 300V を採用したい場合には,
次回のリファレンス線量計校正時に 300V で校正を依頼し,その後,300V で各種補正係数を取得した上で,印加電圧の切り替えを行わなければならない.
3) FFF への応用
FFF の機能を搭載したリニアックに対する標準計測の考え方について解説する.フラットニングフ
ィルタを使用する通常のビーム(With filter)と比較して,FFF ビームは 1)高線量率,2)プロファイルが平坦ではない,3)フラットニングフィルタが無いことによる線質変化という特徴を有する. ① 高線量率
FFF の高線量率であっても,Jaffe plot が Fig. 2のように直線関係であれば,イオン再結合補正係数の取得に通常の 2 点電圧法が適応できる 4).Fig. 2 からも Jaffe plot と 2 点電圧法で得られた Pion
に大きな違いは認められない.なお,TG-51 addendum では,Pion≤1.05 となるリファレンスクラス電離箱を選択することが記載されている.
Fig. 1 PTW30013(Farmer type)と PTW31016(Pinpoint type)の Jaffe
② プロファイル
FFF ビームのプロファイルは中心部分が尖った線量分布となり,Fig. 3 に示すように中心部分の平坦
な領域はわずか 2 cm 程度である 4).通常,モニタ校正の標準計測を実施する際には,Farmer type
の電離箱線量計が用いられるが,FFF ビームにおいては Farmer type の長径 26 mm ではサイズ
が大きく,電離箱の電離体積内でプロファイルが変化し,電離箱の体積平均効果によりプロファイル
の中心線量と電離箱の計測値(体積平均線量)が不一致する現象が生じる.TG-51 addendum
で新たに Prp の補正係数が追加されたのはこのような経緯からである.
Prpの補正係数は,Fig. 3に示すように実測と計画のプロファイルが一致するなら治療計画装置か
ら算出可能である.TG-51 addendum では Prp 補正の必要のない長径の短い電離箱(scanning
type のリファレンスクラス電離箱)の使用を推奨している.
③ 線質変化
FFF ビームはフラットニングフィルタが無いことで,通常のビームとは線質が変化する.吸収線量計測
において線質変化は線質変換係数に影響を及ぼす.線質変換係数を決定する因子として,阻止能比
のインパクトが最も大きいため,線質変化と阻止能比の関係を知る必要がある.Fig. 4 は,通常ビーム
(図内では with FF)と FFFビーム(図内では FF free)の線質指標と阻止能比の関係を示したものであ
る 5).TG-51 で採用されている%dd(10)x では通常ビームと FFF ビームで良く一致しているが,本邦で
採用されている TPR20,10では通常ビームと FFF ビームの間で阻止能比に 0.5%程度の相違が認められ
る.つまり,通常ビームの線質変換係数の算出表を FFF ビームに適応すると 0.5%程度の相違があるこ
Fig. 2 FFF ビームにおける Jaffe plot と 2 点電圧法から取得した Pion
Fig. 3 FFF ビームのプロファイルと電離箱長径の関係および Prp 補正係数の考え方
とを意味する.しかしながら現状において,通常ビームと FFF ビームの阻止能比の相違に対する取り決
めはないため,各施設で判断する必要がある.
3. TG-51 addendum の不確かさの見積もりから光子線標準計測法の精度担保について学ぶ
TG-51 addendum では,光子線標準計測法の不確かさの見積もりについて記載されている.Table 3はTG-51 addendum に掲載されている水吸収線量計測の不確かさの見積もり例である.
Table 3では,不確かさの成分として,“計測要因”,“校正データ”,“影響量”の 3つの要因に大別されており,適切なツール,手法で行った場合の不確かさの見積もりと,想定される問題を含む場合の不確かさの見
積もりを例に具体的な不確かさを示している.ここで示されている数値はあくまで例であり,各施設で見積もり
がなされるべきである.また,不確かさはユーザ依存成分により大きく変化するため,適切なツールの使用,計
測方法の改善により,不確かさが低減できることが述べられている.本講義では,具体的な不確かさの見積も
りを行うのではなく,不確かを小さくするために配慮すべき点を中心について解説する.
Fig. 4 通常ビームと FFF ビームの線質指標と阻止能比の関係
Table 3 TG-51 addendum に掲載されている水吸収線量計測の不確かさの見積もり例
1) 計測要因 (Measurement)
計測要因はユーザの計測手法に関する因子であり,電離量 Mrawに影響を及ぼす. ① SSD 設定
SSDの設定はフロントポインタを用いる方法が推奨され,設定精度 0.5 mm程度と精度が高く,このと
きの不確かさは 0.1%である.一方,光距離計を用いる方法は,1.5 mm~3 mm 程度のずれが生じる可
能性があり推奨されない.レーザーを用いた方法は簡便な方法であるが,ファントム設置前にレーザーの
位置精度を確認しておく必要がある.SSD 設定のずれ量 1 mm に対し,Mrawの不確かさ 0.2%に相当する.
② 深さ設定
現在販売されている校正用水ファントムは,チェンバー深さ位置を 0.1 mm 単位で設置できる高解像
度を有するものが多い.チェンバー深さ設定で不確かさが大きくなる要因は,水面でのチェンバーのゼロ
点深さ設定である.水面において電離箱の幾何学的中心の設定を行う際には,水面での鏡面像を上手
く利用し,幾何学的中心の設定を行う.Fig. 5 に AAPM TG-1066)に記載されている水面でのチェンバ
ー設定方法を示す.チェンバーを沈めた状態から徐々に水面に移動させ,鏡面像で 2つに見えたチェンバーが一つに見え,真円となったところが幾何学的中心である.なお,チェンバー深さ設定において,
0.5 mm の位置ずれは Mrawの不確かさ 0.25%に相当する.
③ 照射野サイズ設定
照射野サイズは 1 cmの変化あたり,不確かさ 1%の変化に相当する.すなわち,照射野サイズの変化を 1 mmに抑えれば,不確かさは 0.1%と小さくすることが出来る.照射野サイズの変化が kQに与える影
響は小さく,照射野サイズが 5 mm 変化したとしても,kQの変化は 0.1%より小さい. ④ 電離量計測
計測システムは,チェンバー,ケーブル,電位計の 3 つの要因からなる.計測の不確かさを小さくするには各々の取り扱いに配慮する必要がある. チェンバー:リファレンスクラス電離箱を使用する. ケーブル:ケーブルの折れ曲がりにより発生するノイズを排除すべく,出来るだけ伸ばして設置する. 電位計:適切な電位計のウォームアップの実施,および印加電圧変更時の安定時間を把握する.
⑤ 温度気圧補正
温度気圧補正の不確かさはユーザに依存する部分が多く,温度気圧を正しく測定,管理することが
求められる.温度変化 1 度あたり 0.3%の線量変化,気圧変化 1 hPa あたり 0.1%の線量変化につながるため,測定値の読み間違いや計測中の変化には特に注意が必要である.線量計測時には電離箱空
Fig. 5 水面の鏡面像を利用したチェンバーの幾何学的中心設定(TG-106 より)
洞内の空気温度を周囲環境の温度と平衡にすることで,計測中の温度変化を小さくすることができる.
電離箱内の温度は,水ファントム内に電離箱を挿入してから 10分程度の短時間で温度平衡に達するため,事実上問題とならない(Table 4)7).一方,水ファントムの水温が室温と平衡に達するには時間が
必要で,水温と室温に差がある場合には,温度平衡に達するまでに 10 時間以上の時間を要する(Fig. 6)8).ユーザは線量計測の前に,水ファントムの水温を室温に近づける工夫が必要である.
気圧の測定では,フォルタン型気圧計を用いる場合に注意が必要である.フォルタン型気圧計では,
器差補正,重力補正,温度補正の 3つの補正が必要で,この補正を行わないと 5 hPa程度の誤差を生じるため留意頂きたい.これらの補正で温度補正が最もインパクトが大きく,確実に行う必要がある,温度
補正のための補正表を紛失した場合には,下記の式で温度補正後の気圧を求めることができる 9).
𝑃 = 𝑃1(1+17.5×10−6𝑡)1+0.181×10−3𝑡
P :温度補正後の気圧 P1 :気圧 t ℃での水銀柱の表示値 t :気温(℃)
Table 4 種々のファントム材に挿入したファーマ形電離箱の温度平衡
Fig. 6 水温が室温と平衡状態に達するまでの温度変化
⑥ 湿度
一般的な測定環境では,不確かさ 0.15%以内であり補正の必要はないとされる. 2) 校正データ (Calibration data)
リファレンス線量計の校正や線質変換係数に係る不確かさの項目 ① 60Co ND,W
リファレンス線量計の校正で得られる水吸収線量校正定数の拡張不確かさは 1.1%である.空中校正から水中校正に移行したことで校正定数比 kD,Xが不要となり,個々の電離箱の個体差を加味できること
で不確かさが低減した.一方.空中校正から水中校正に移行して,PTW30013 チェンバーでは校正方法の違いにより平均で-0.64%程度の感度変化が報告されている 10).この校正定数の感度変化と標準
計測法 12の線質変換係数更新とを合算して約 1%程度の線量変化が生じる施設もある.まだ標準計測法 12 に移行されていない施設は,医学物理学会から公表されている,「治療用電離箱線量計の水吸収線量校正と標準計測法 12への移行に伴う貴施設における評価線量の変化確認のお願い」11)を確認
の上,各施設において線量変化の評価検討,スタッフへの周知が必要である. ② 線質変換係数 kQと kQの割り当て
TG-51 addendum に収載されている kQは,線質指標%dd(10)x に対するものである.本邦では線質指標 TPR20,10を用いて標準計測法 12 の表より kQを求める.kQの割り当てとは,ユーザによる kQの決
定過程の不確かさを意味する.TPR20,10の測定誤差が kQに与える影響は 1/10程度と小さいが,メーカ公称値等を用いるのではなく,自施設の線質評価を行う必要がある.また,kQの割り当てで生じるエラー
の原因として,表から kQを求める際の補間計算のミスや表の選択間違いで起こるエラーのインパクトが
大きいため,2 名で計算結果を確認するなどの対応が必要である. ③ リファレンス線量計の安定性
リファレンス線量計の安定性とは,リファレンス線量計の校正から校正までの期間における長期の安定
性を意味する.PTW のテクニカルノート 12)によると,過去に PTW30001 において製造から 1 年の間に大幅にチェンバーの感度が変化した報告がある.TG-51 addendumでは,リファレンスクラス電離箱の 2年間の校正定数変化は 0.3%未満とされており,ユーザはチェンバーの感度変化をモニタする必要がある.しかしながら,自施設でチェンバーの感度を確認するには,コバルト線源の使用もしくは 3 本のチェンバーでの比較など実施することが困難な施設も多く,実際には年 1 回のリファレンス線量計の校正で校正定数変化を確認し,精度を担保していくのが現実的であると思われる.
3) 影響量 (Influence quantities)
電離量(表示値)に影響を与える因子と影響量 ① 極性効果補正係数 Ppol
電離箱線量計の印加電圧の極性(プラス,マイナス)を変えることによって生じる電離箱線量計の応答
(電離量)の違いを補正する係数で,プラス極性とマイナス極性で得られる電離量の平均値が真の値と
なる.TG-51 addendum では,極性効果補正係数は新しいチェンバーとビームの組み合わせで取得す
べきであり,少なくとも年毎に測定すべきとされている.また,極性効果補正係数は 0.996~1.004 の間におさまるとされている.極性効果補正係数の測定は,チェンバーや電位計のシンプルな QAチェックとなり,電極間に正しく電圧がかかっていることや,経年的なチェンバー感度の変化を知ることができる.
② イオン再結合補正係数 Pion
照射によって電離箱内にできたイオン対が再結合により失われる現象を示す.電離箱内にできたイオ
ン対をすべて収集したときの値が真の値である.イオン再結合補正係数の取得には 2 点電圧法が推奨される.また,事前に印加電圧と電離量の関係 (Jaffe plot)を取得し,線形性が成立する印加電圧の領域を確かめておくことが必要である.
③ 照射履歴
照射前の状況の履歴,安定な計測ができる条件を把握することで計測の不確かさを低減できる.チェ
ンバーにより安定化時間が異なるため,電圧や極性の変更後に安定な状態に達するまでの時間や事前
照射量を自施設のシステムにおいて確認しておく必要がある.Fig. 7は,チェンバーに対してコバルト線源で照射を行い,安定するまでの時間と初回の計測値を示したものである 13).PTW300XYや Exradin
A12 はチェンバーの感度領域が完全に保護されており,安定化するまでの時間も 10 分程度と短い.初回の計測値についてはチェンバーにより高めや低めの傾向があることがわかる.チェンバーの安定を得
るには,単に電圧を印加し待つだけでなく,事前照射により電荷を収集した方が早く安定に達することが
知られている.
④ 漏れ電流
照射により発生する電離とは別に,外部からの不必要な電荷の流入または流出を意味する.チェンバ
ー,ケーブル,電位計からの寄与がある.ケーブルや線量計のコネクタ部に皮脂,埃,毛髪などの汚れ
があると絶縁体表面を通して漏れ電流が流れるため,コネクタ部を汚れが無いように清潔に保つ必要が
ある.また,線量計は湿度の低いデシケータで保管し,ケーブルには無理な力(摩擦電気効果や圧電効
果)が加わらないように注意する必要がある 9). ⑤ リニアックの安定性
リニアックの短時間の再現性を意味する.最新のリニアックの再現性は高く,0.05%より小さい.計測の前には,リニアックとチェンバーの双方を安定させるため,500 MU 程度の事前照射を実施することが望
ましい.
Fig. 7 チェンバーが安定するまでの時間と初回の計測値との関係
⑥ 電位計校正定数 Pelec
現在,電位計と電離箱をセットで校正することにより,電位計校正定数 Pelec=1.00とされている.将来
的には,電位計と電離箱を分離校正し,電位計校正定数としての値を提供することが予定されている.
⑦ Prp
放射状に広がる線量分布の変化に対する補正係数で,TG-51 addendum で新たに導入された.
FFF ビーム等で,プロファイルの中心線量と電離箱の体積平均効果による計測値が不一致することに
対する補正である.FFF ビームでファーマタイプの電離箱を使用すると影響が大きいため,TG-51
addendum では長軸の短い電離箱(スキャニングタイプ)の使用が推奨されている.
4. まとめ
TG-51 addendum の発表を受けて,我々が学ぶべきことをピックアップして解説した.チェンバーの
能力を検証することはユーザの責任である.チェンバーの使用前にコミッショニング(特性を知る)を行うと
共に定期的に各種補正係数の評価を行う必要がある.また,ユーザの計測方法次第で計測の不確かさ
は大きく変化するため,適切なチェンバーの選択,補正係数取得の注意点を理解し,正しい手順で校
正を実施することが必要である.
参考文献
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10) 線量校正センターニュース 第 4 号.公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団,2014.
11) 日本医学物理学会計測委員会,他:治療用電離箱線量計の水吸収線量校正と標準計測法 12 への
移行に伴う貴施設における評価線量の変化確認のお願い,平成 25 年 6 月 28 日.
12) PTW Technical Note D165.200.0/2
13) McCaffrey JP, et. al. , Pre-irradiation effects on ionization chambers used in radiation
therapy. Phys Med Biol. 7;50(13):N121-33,2005.
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