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第37回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:前田宗宏,他

1.上大静脈ステント市立堺病院 放射線科,同呼吸器内科1)

前田宗宏,橋本 達,西田幸司 1)

 昨年のセミナーで取り上げられた胸部のステントは留置技術の確立と普及とともに放射線科の手を離れつつあり,各診療科がステント留置を施行するようになってきている。これらのステント留置の依頼を受けたら,即応できるように準備しておくことは,施設内でインターベンショナルラジオロジストの存在を示すのに非常に有効であると考えられる。本稿では,上大静脈症候群のステント留置手技を実際の症例を呈示して解説する。

上大静脈症候群

 上大静脈症候群は上大静脈あるいは腕頭静脈の閉塞によって頭頸部と上肢からの静脈還流が障害されて起こる症候群である。顔面,頸部,上肢,上胸部の浮腫や発赤を伴う腫脹が主な臨床症状であるが,呼吸苦や咳嗽発作がみられたり,脳圧亢進症状である頭痛,めまい,耳鳴,意識障害などの神経症状を呈することもある。静脈閉塞の原因には悪性疾患では肺癌,縦隔腫瘍,悪性リンパ腫,縦隔リンパ節転移などがあり,良性では大動脈瘤,外傷,静脈血栓症,縦隔炎,縦隔線維症のほかに上肢に透析シャントを造設した例に腕頭静脈狭窄がみられる場合がある 1~7)。

上大静脈ステントの適応

 手術適応のない悪性腫瘍による上大静脈あるいは腕頭静脈の閉塞がよい適応であり,即効性では化学療法や放射線治療よりも優れる。しかし,静脈ステント留置は対症療法であり,閉塞の原因疾患に対する治療効果がないので,長期の開存と予後の改善には化学療法や放射線治療との併用が必要である。血栓形成を伴う閉塞例では血栓の吸引や溶解を行った後にステントを留置することもあるが 8,9),鎖骨下動脈や頸静脈にまで閉塞が及んでいたり,多量の血栓を伴っているような例にステント留置術を挑戦するには,主治医との間で手技のリスク・ベネフィットを十分に議論し,患者と家族のインフォームドコンセントを得る必要がある。良性の静脈狭窄に対するステント留置の有用性の報告のほとんどは,透析シャント増設後にみられる内膜肥厚による腕頭静脈閉塞例である 5,6)。大動脈瘤の圧迫による上大静脈閉塞に関しては,静脈に留置したステントが大動脈を損傷する危険があるので静脈ステント留置は推奨できない。

術前評価検査とステントの留置計画

 上大静脈の閉塞状況と血栓形成の有無の評価には造影CTが有用であるが 10),造影剤注入の対側の鎖骨下静脈が十分に造影されず,血栓形成と紛らわしいことがあるので画像の解釈には注意が必要である(図1a)。完全閉塞例ではバルーンカテーテルの挿入に難渋することがあるので,stiff wireやpull-through法の準備をする 11)。閉塞が両側の腕頭静脈に及んでいる場合は片方の腕頭静脈(通常は右腕頭静脈)から上大静脈にステントを留置する(図7)7,12)。ステント径は正常静脈径の1.1~ 1.2倍が適切であるとされているが 7,13),閉塞部の上下の径から推定する方法は,上流側では拡張し,下流側では虚脱していることがあり,必ずしも正確ではない(図1e)。また,症状の改善には8㎜程度の径が確保できれば十分であるので,市販のステントの規格にある10~ 12㎜径で対応すればよいと考えている。ステント長は閉塞より1~ 2㎝長いものが必要であるが,市販のステントの規格に必要とする長さがない場合は,2本をオーバーラップして留置する。 ステント留置経路は,静脈圧の上昇がないので治療から撤退した場合の止血が容易であることと,術者の放射線防護の観点から頸静脈より大腿静脈アプローチを推奨する。

必要器具

(1)シース Z-typeのステントを用いる場合は10~ 14Fの専用のシース(メディキット)が必要であるが,動脈用の市販ステントを用いる場合はバルーンカテーテルが必要とするシースサイズの決定要因となる。筆者は必要最小のサイズではなく,拡張後のバルーンカテーテルの抜去が容易であるように1フレンチサイズ大きいロングシースを選択している。(2)カテーテル 閉塞部の経路を探るためのカテーテルと静脈造影用にピッグテイル型カテーテルを準備する。経路を探るには先端が少し曲がったカテーテルが有用なことが多く,筆者はGPS型4Fカテーテル(メディキット,カテックス)を好んで用いている。(3)ガイドワイヤー 定番の145㎝長0.035inch径のアングル型ラジフォー

胸部ステント

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図2 上大静脈造影a : 右腕頭静脈造影b : 左腕頭静脈造影造影剤の逆流から右鎖骨下静脈に血栓がないことがわかる。上大静脈に高度な狭小化を認める。右腕頭静脈にも軽度の狭小化がみられ,拡張すべきか否か迷うところであるが,上大静脈のみを拡張することにした。

a b

図1 造影CT上大静脈狭窄のために左肘静脈より注入した造影剤は左胸壁の側副路に多く流れている。a : 右鎖骨下静脈血栓の可能性が指摘されたため,ステント留置前の静脈造影で血栓の有無を確認することにした。

b : 右腕頭静脈は腫瘍に圧迫されている。c : 上大静脈は腫瘍に囲まれ,狭窄が高度である。d : 内腔への腫瘍の突出像がみられる。e : 上大静脈の尾側部分は腫瘍による圧迫はないが,血流低下のために虚脱している。

cb

e

a d

症例 80歳前の女性。肺癌の放射線化学療法後の経過中に顔面と右上肢の高度な浮腫が出現した。

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図3 10㎜径4㎝長のバルーンで前拡張した。a : 拡張途中 waistの位置で最狭窄部がわかる。b : 手圧でwaistが消失するまで拡張できた。

a b

図4 a : 気管の透瞭像などを参考にして10㎜径4㎝長のスマートステントの位置をあわせた。b : ステント留置直後はステントの拡張が不十分であった。c : 後拡張を施行したが,ステントの移動を起こすかもしれないというストレスは感じなかった。

a b c

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a b

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図5a : 右腕頭静脈造影b : 左腕頭静脈造影上大静脈の血流は著明に改善した。ステント留置直後から自覚症状が徐々に改善し,2日後には顔面浮腫はほぼ完全に消失した。30Gyの放射線照射が追加された。

a b図6 a : 両側腕頭静脈は腫瘍に囲まれ,内腔が狭くなっている(腫瘍のover-growth(矢印))。b : 上大静脈に留置したステント内腔には欠損像がみられる(腫瘍の in-growth(矢印))。左胸壁皮下に発達した側副路が造影されている。

ステント留置後の経過 3ヵ月後に上大静脈症候群症状が再発したため,右腕頭静脈から上大静脈に10㎜径8㎝長のルミネックスステントを挿入した。

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カスを用いるが,safety wireとして用いたり,pull-through法を行う場合には180㎝か260㎝長を準備する。放射線治療後の再発例などで狭窄が強固であることが予想される場合は,Amplaz stiff wire(ボストンサイエンティフィック)を準備する。(4)バルーンカテーテル ステントの内径と同サイズの径で4㎝長のバルーンカテーテルを準備する。10㎜径のバルーンで事足りることがほとんどである。狭窄が強固で段階的な拡張の必要性が予想される場合には小径のバルーンカテーテルも準備する。インデフレーターは必ずしも必要ではない。筆者は三方活栓と5㎖シリンジを利用してバルーンを手圧で膨らませている(図3,図4c)。(5)ステント挿入セット 腸骨動脈用のステントを流用することになるが,静脈閉塞に対する保険適応がないためステントの費用が問題となるかもしれない。数年前まで筆者は症例に合わせて自作したSpiral Zigzag Stentを留置してきたが,最近の症例には市販ステント(スマートステントとルミネックスステント)を用いた。自作ステントの挿入には12Fシースが必要であるのに対してスマートステントやルミネックスステントは7Fシースで挿入可能であり,視認性が良好で,拡張に伴う短縮がないという点でも扱い易かった。上大静脈ステントには使い慣れたステントを用いればよいと思うが,システムトラ

ブルやステントの逸脱などが起きた場合の対処の困難さを考えると,バルーン拡張型よりは自己拡張型のステントの使用を推奨したい。但し,自己拡張型のステントは留置時に遠位側に移動する傾向があることに留意しておく必要がある。

手技

 血管造影に準じて硫酸アトロピンやアタラックスPの前投薬を行ってもよいが,筆者らは原則として前投薬を用いていない。 右大腿静脈穿刺を行ってシースを挿入する。完全閉塞でない場合は,いきなりピッグテイル型カテーテルを上げて閉塞部を越えるが,完全閉塞例では血管造影用の4Fカテーテルとアングル型のガイドワイヤーを併用して経路を探る。閉塞部にカテーテルを通過させるのが困難な場合は,Amplaz stiff wireを試してみる。これでも困難な場合は,肘静脈あるいは頸静脈を穿刺して大腿静脈との間にガイドワイヤーを通して(pull through法),ワイヤーにテンションをかけながらカテーテルを進める。このとき,腋窩静脈や鎖骨下静脈から腕頭静脈にかけてのカーブ内側の静脈壁を損傷しないようにワイヤーにカテーテルやシースを被せておく配慮が必要である。 閉塞部の突破ができたら,ピッグテイルカテーテルに交換して静脈造影を行う(図2)。大量の造影剤を注

a b c

図7 a : 上大静脈と両側の腕頭静脈に狭小化を認める。b : ステントの追加留置により,右腕頭静脈~上大静脈の血流は著明に改善した。c : ステントの右腕頭静脈部分は後拡張によっても7~ 8㎜程度の内腔しか確保できなかったが,数日後には顔面浮腫はほぼ消失した。

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入すると脳静脈圧の急激な上昇による合併症を起こす可能性があるので,造影剤を手圧でゆっくり注入してその流れを観察して適切な注入量と注入圧を決定するとともに,撮影視野を調整する。この時に定めた管球と検査台の位置を手技の終了まで変更しないようにしている(図2~5,図7)。視野を固定することがステント留置位置の把握を容易にし,ステントの移動などのトラブルの予兆を察知するのに役立つと考えているからである。 静脈造影で閉塞部を確認したら,バルーンカテーテルで前拡張を行う(図3)。血栓形成の予防目的で,バルーン拡張直前に50IU/㎏のヘパリンを投与する。希釈した造影剤を注入してバルーンをくびれが無くなるまで膨らませる。拡張時間と拡張回数に関しては,根拠があるわけではないが,1分程度の拡張を2~ 3回繰り返すようにしている。 バルーンの膨らみ方で狭窄の状態はある程度把握できるが,静脈造影でステント留置範囲の最終確認を行い,ステント挿入に取り掛かる。ステント挿入様式はステントごとに多少の差異があるが,狭窄部に折りたたまれた状態のステントを運び,そこで拡張させることは共通している。ステントを拡張させる過程で位置がずれないように気をつければよい(図4a,b)。 自作のZ-typeのステントは挿入シースが大きい分だけ拡張力が強く,後拡張は必ずしも必要ではないが,市販のステントは後拡張を必要とすることが多いようである。Z-typeのステントでは safty wireとしてステント内腔にガイドワイヤーを通した状態にしてバルーンカテーテルの操作をしないとステント逸脱の憂き目に遭う可能性が高く,不要な後拡張は行わない方がよいという結論に達していたが 14),最近の網目の細かい市販のステントではワイヤーがステントの網目に入り込むことは稀で,バルーンカテーテルでステントを逸脱させる可能性はほとんど無さそうである(図4c)。 ステント留置後に再びピッグテイルカテーテルを挿入して静脈造影を行い(図5),血流の改善を確認してカテーテルとシースを抜去する。この際もピッグテイルでステントをひっかけないようにガイドワイヤーを通してカテーテル先端を伸ばした状態で抜去するくらい慎重でありたい。 ステント留置後に静脈の再開通に伴って静脈還流量が増加して肺水腫や心虚血を合併することがあるので,輸液量の調節や利尿剤の投与などを適切に行う必要がある。ステントへの血栓の付着を予防するために,術後24時間は500IU/時のヘパリンの静注投与を行い,ステントワイヤーが血管内膜で覆われるまでの数週間は抗凝固薬を経口投与する。悪性狭窄の場合,再閉塞の防止を目的として化学療法や放射線照射を行うことを検討する。

治療成績と合併症

 2005年5月のMS研で企画された『Informed Consentのための治療成績と合併症の頻度』に分かり易くまとめられているので 15),筆者らは主治医や患者にステント留置に関して説明する際に利用している。 手技的成功率はほぼ100%であり,臨床症状の改善も80%以上の数字が報告されている 12,13,15~18)。5%から35%の例で血栓形成や腫瘍浸潤などで再閉塞して症状が再発するとの報告があるが,ステントの再留置で対処できることも少なくない 15~18,20)(図7)。手技中の合併症として,数%以下の低頻度ではあるが,上大静脈の破裂やステントの移動が報告されている 18,19)。上大静脈の破裂は過拡張が原因であることが多く,10㎜以下の拡張バルーンを用いるべきである。前拡張後に挿入したPalmaz stentの径が小さ過ぎた例や後拡張で用いたバルーンカテーテルでZ-typeのステントを移動させた例があるので,ステント種類とバルーン拡張には相性があることに留意して合併症の可能性のある使い方を避けるのが無難である 14)。穿刺部の血腫や腸骨静脈の破裂は 20),最近のステントは小径のシースで留置できるので,この合併症を起こす頻度は以前より低いと考えられる。ステント留置後の合併症としては,胸痛や胸部の違和感は比較的頻度が高い。これらは一過性であることがほとんどであるが,肺水腫,肺塞栓,心筋梗塞,不整脈,心タンポナーゼなどが合併している可能性があることに留意する必要がある 20~22)。

おわりに

 昨年4月に筆者が赴任する以前は市立堺病院では上大静脈ステントは循環器内科が担当していたが,同僚の画像診断医にお願いして上大静脈症候群のCTをみかけたらそのレポートに『ステント留置に関して放射線科にご相談ください』と記載してもらうようにした。こうして相談された1例目を成功させると上大静脈ステントは放射線科に依頼されるようになった。本稿で呈示したのは第2例である。画像診断で症例を把握して積極姿勢を示せば,希望の手技を施行できるチャンスは巡ってくるものである。ステント留置術に限らずカテーテルとワイヤーを用いる手技に関しては,インターベンショナルラジオロジストの方が他科の医師よりも良い仕事ができるはずである。

【文献】1) McIntire FT, Sykes MM Jr. : Obstruction of the

superior vena cava : a review of the literature and report of 2 personal cases. Ann Intern Med 30 : 925 - 960, 1949.

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技術教育セミナー / 胸部ステント

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3) Ryan JA Jr, Abel RM, Abbott WM, et al : Catheter complications in total parenteral nutrition. a prospec-tive study of 200 consecutive patients. N Engl J Med 290 : 757 -761, 1974.

4) Parish JM, Marschke RF Jr, Dines DE, et al : Etio-logic considerations in superior vena cava syndrome. Mayo Clin Proc 56 : 407 -413, 1981.

5) 原沢博文,山崎親雄,小林正樹,他:透析患者のシャント側無名静脈狭窄症に対する expandable metallic stent治療の有用性.透析会誌 24 : 1339 - 1403, 1991.

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7) 前田宗宏:上大静脈ステント,画像診断,中村仁信編.南山堂,東京,2001,p915 -917.

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10) Engel IA, Auh YH, Rubenstein WA, et al : CT diagno-sis of mediastinal and thoracic inlet venous obstruc-tion. AJR Am J Roentgenol 141 : 521 -526, 1983.

11) 前田宗宏,高田賀章,高島周志,他:上大静脈ステント留置時にカテーテル先端よりワイヤーを挿入してpull throughができた1例.第23回日本Metallic Stents & Grafts研究会プログラム・抄録集,2005.

12) 幕谷士郎,吉岡哲也,打田日出夫,他:両側腕頭静脈閉塞を伴う上大静脈症候群におけるexpandable metallic stentの留置形態と臨床効果についての検討.IVR会誌 13:63 -69, 1988.

13) Nagata T, Makutani S, Uchida H, et al : Follow-up results of 71 patients undergoing metallic stent placement for the treatment of a malignant obstruc-tion of the superior vena cava. Cardiovasc Intervent

Radiol 30 : 959 -967, 2007.14) 前田宗宏,小林美登利,高田賀章,他:上大静脈ステントの後拡張時にバルーンカテーテルの抜去が困難となった1例:pull through法による対処.第23回日本Metallic Stents & Grafts研究会プログラム・抄録集,2005.

15) 直樹邦夫:腸骨大腿静脈・上大静脈・下大静脈狭窄に対するステント留置術.第23回日本Metallic Stents & Grafts研究会特別企画 Informed Consentのための治療成績と合併症の頻度,内藤 晃編.:15 -17, 2005.

16) Urruticoechea A, Mesía R, Dominquez J, et al : Treatment of malignant superior vena cava syndrome by endovascular stent insertion : Experience on 52 patients with lung cancer. Lung Cancer 43 : 209 -214, 2004.

17) Smayra T, Chabbert T, Chemla P, et al : Long term results of endovascular stent placement in the superior cava venous system. Cardiovasc Intervent Radiol 24 : 388 -394, 2001.

18) Lanciego C, Chacón JL, Julian A, et al : Stenting as first option for endovascular treatment of malignant superior vena cava syndrome. AJR Am J Roentgenol 177 : 585 -593, 2001.

19) 金谷 透,桜井清陽,山口佳子,他;上大静脈症候群に対してインターベンションを施行し心タンポナーゼをきたした一治験例.Jpn J Cardiovasc Cathet Ther 4:274 -277, 2004.

20) Rowell NP, Gleeson FV : Steroids, radiotherapy, chemotherapy and stents for superior vena caval obstruction in carcinoma of the bronchus : a systemic review. Clinical Oncology 14 : 338 -351, 2002.

21) Kishi K, Sonomura T, Mitsuzane K, et al : Self-expandable metallic stent therapy for superior vena cava syndrome : clinical observations. Radiology 189 : 531 -535, 1993.

22) Smith SL, Manhire AR, Clark DM : Delayed spon-taneous superior vena cava perforation associated with a SVC wallstent. Cardiovasc Intervent Radiol 24 : 286 -287, 2001.

技術教育セミナー / 胸部ステント

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第37回日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:岸 和史,他

2.気道系のステント和歌山県立医科大学 放射線科,同第一外科1),済生会和歌山病院 外科2),府中病院 急病救急部3)

岸 和史,園村哲郎,吉増達也 1),佐藤守男,重里正信 2),藤本 尚 3)

はじめに

 気道ステント留置術は画像下インターベンションの技術を持った放射線科で始まり,安全で簡便に留置可能なステントの普及に伴い,放射線科以外の診療科で行われることが多くなった。しかし,気道ステント留置術は,病態に即して解剖生理学・基礎医学・材料工学・画像医学の上に技術体系を構築するインターベンショナルラジオロジーの重要な一分野である。本稿は,実用的な気道ステント留置術の解説および必要な基礎知識の確認を目的として2008 ISIR/JSIRでの IVR学会技術セミナーで行った気道ステントの講義内容の要点を補足し書き下ろした。

気道ステントの目的

 気道ステントの目的は気道の内腔を安全に確保することである。これには①腫瘍の気道内への突出を防止すること,②狭窄部分の拡張:癌性狭窄および良性狭窄,すなわちTBMや肺移植時の狭窄部分を拡張すること,および③漏孔予防・閉鎖が含まれる。

現時点での気道ステントの問題点

 長期予後が見込める場合,特に良性疾患への金属ステントの適用には慎重であるべきである。ステントは異物であり,抜去不能性あるいは迷入,金属疲労や腐食によるステント破断,金属アレルギー,粘液停滞,咳嗽反射,ステント端でのフリクションによる組織障害や反応性の肉芽の形成といった問題(risk)が全て解決されたわけではない。個々の臨床状況にあたってはステント留置による問題解決が妥当かどうかよく検討しなければならない。現在の状況でのベストの考え方は,ステントはあくまで crisis managementとして危機管理的に用い,危機を回避できれば,腫瘍の感受性等に基づいて本来の手術治療や放射線治療,化学療法の可能性を検討する。特に気道内あるいは気道周囲の腫瘍のみを標的とした治療では,小線源を用いた放射線治療(小線源治療,brachytherapy)1)は再照射であっても施行可能なことが多く有用性が高い。

気道ステントを必要とする病態

 気道ステントを必要とする病態は,ステントのデザイン,挿入法,挿入時期,支持療法に影響する。整

理すると①悪性腫瘍が内腔を占拠した閉塞 2),②食道癌の膜様部の圧迫等に見られる,悪性腫瘍による壁外性圧迫による閉塞,③気管気管支軟化症 3),再発性多発性軟骨炎等の気道の虚脱による閉塞,④炎症後性狭窄,⑤術後の気管偏倚による折れ曲がり閉塞4),⑥気管チューブなどの異物の機械刺激による肉芽性狭窄,などがある。施術にあたって耐術能を制限する肺機能障害や呼吸困難感の程度を考慮し,透視下での迅速な方法を選択する場合もある 5)。 気道ステントは上記すべての場合に適応があるわけではない。①肺動脈閉塞,②特に気道閉塞による2週間以上の長期にわたる肺虚脱の後では治療によって換気血流比の悪化に終わることがある。後者で肺胞の再拡張を行った場合には正常なガス交換は行われず,また同部は基本的には一過性の,肺水腫を発症することがある(Reexpansion pulmonary edema)6)。金属アレルギー,出血傾向の場合も適応が制限される。 上記病態には上大静脈症候群 7),食道閉塞,食道気管支漏などを伴い,上大静脈や食道にステントをおく必要がある場合がある。まず漏孔閉鎖 8),ついで気道確保を優先して考慮する。ステントを2箇所に配置するダブルステントでは,一方のステント拡張は他方の閉塞を増強しやすく,ステント間に挟まれた組織の座滅により漏孔が発生しうる 9)。

気管気管支の生理機能解剖

 気管気管支の機能解剖は上皮構造と支持構造に分けられる。気管気管支は一層の線毛上皮層に覆われ,粘膜下層に粘漿混合腺があり脱水炎症等で高粘度化する。線毛は喀痰や異物を外に送る。線毛上皮は炎症等で扁平上皮に化生する。炎症や機械的刺激で肉芽が発生しやすい 19)(図1)。

Stentの組成・構造・特性

1)金属の知識はステントの開発や作成ばかりでなく取り扱いにも有用である 10)。ステンレス鋼では可塑性のあるSUS304(Zステント),高耐食性鋼SUS316(ウォールステント)はオーステナイト系に属し剛性に富み,ニチノール類は弾性に富むマルテンサイト系に属する。オーステナイトが塑性変形し応力に誘発されてマルテンサイト変態し弾力を得る。腐食は金属ステントの破断の原因となる。異種の金属の使用(溶接,はんだ)で

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は電位差ができて溶出し腐食(corrosion)しやすい。これらは同一金属の接触でも起こりうる(すきま腐食等)。ステンレス鋼は表面酸化層で薄い不動態皮膜を形成して耐食性を発揮する。生体にいくらでもある塩素イオンはステンレス鋼などの不動態皮膜を分解し更に不動態化自体を妨げる。また物理的なストレスや電極電位の変動は不動態皮膜結晶構造の安定性を損なう。これらの合金ではあらゆる力学的ストレスは腐食を促進する。脆弱な曲げ部分や溶接部に繰り返し応力が加わった場合に特に弱くなる。残留する熱ストレス,残留応力(まげ,圧延),現在の応力によって発生する金属疲労は亀裂の原因となる。ステント(特に歴史的にも古いZ-Stent)の場合にはstrutの断裂などが報告されている。反復する応力が発生する場合にはそれに耐えられるステント構造で極力フリクションの少ない形が望ましい 3)。ステンレス鋼やnitinolであっても腐食で金属成分が溶出するので金属アレルギーの原因になる。2)被覆材料 世界最初の被覆型ステントの発表は1991年第4回日本Metallic Stents & Grafts研究会(現呼称)で発表されたダクロンメッシュカバード気管支ステントの発表で 2),特許に先発表主義を掲げる世界ではこれをもって被覆型ステントは周知の技術扱いになった 2)。被覆材料にはダクロンメッシュ 2,7),ゴアテックス 11,12),ポリウレタン,シリコン 13)などがある。 Bare或いはメッシュステントならば網やstrutの圧迫埋没があっても上皮機能は障害されず,しかも線毛上皮化されやすい。チューブやカバードステントでは上皮機能は保ちがたい。気管の長軸方向の変動は蛇腹式の軟骨輪が吸収するが,剛性の強いステントではフリクションや繰返し応力を生じ肉芽反応や組織やステントの断裂の原因になりうる。Dynamic stent・TM stent(Fuji systems)は気管軟骨を真似た馬蹄形の金属梁をシリコン構造壁で覆い気管気管支のもつ蛇腹構造を維

持し,逆Y字型に成型している。金属にかかる応力,咳嗽時に蛇腹構造気道は少ない 13)。上皮機能と動的支持構造をいずれも維持できる理想的な気道ステントはまだまだ存在しない。

Stent治療の手順

 術前にX線CT,virtual CT14),MRI,PET-CT等の非侵襲的画像診断,気管支鏡,超音波気管支鏡(EBUS),耐術性評価のための生理学的検査(PaO2,SaO2,呼吸機能)を行い評価する。施設の倫理指針に則り,施術前にステント留置で回避する危機,増加するリスク(施術に伴うもの,および施術後の抜去不能性,迷入,破断,アレルギー,粘液停滞,咳嗽反射,組織障害,反応性肉芽など),成績,代替治療手段,予後について説明と同意を得る。 留置手技の手順は以下のようである。手技は迅速であればあるほどよい5)。①アクセスルートの確保(経口・鼻・気管切開孔・チューブ),②狭窄部分より遠くまでのガイドワイヤーあるいは気管支鏡でのトラバース,③拡張の必要がある場合のバルーン拡張(不可能なことも多いが良性の硬い狭窄で必要),④ステント展開,⑤後拡張術・異物除去等,⑥経過観察および評価となる。

Stentの種類と選択

 ステントは材料・サイズ・横断形態・拡張力・可燃性・留置方法などがそれぞれ異なる。気道系でよく用いられる代表的なステントについてコメントする。前述したが気道内では喀痰の排泄機能を保ちやすいことが重要で,チューブやシート状の完全なカバードステントは内腔への腫瘍の突出を防げても粘膜上皮化しない点で喀痰の排泄機能上で不利である。フリクションや応力による組織障害を回避することも非常に重要である。他の領域で用いられているウォールステント(S316鋼),Smart nitinol stentなどを気道に応用するには不適切性を克服できる状況が必要である。1)Ultraflex stents(aka. Nitinol Strecker stent) ニチノールワイヤーを筒状にメリヤス基本編み(basic stockinette)(図2a)した非被覆型(Bare type,uncovered type),それにポリウレタンでカバーした被覆型(図2b)がある。外套のニットの中に圧縮したステントがありニット糸の一端を引いてニットをほどくとステントがリリースして自己拡張する。非被覆部分は上皮化が期待できるが浮いた部分では上皮化しにくい。被覆型(covered)は気管食道瘻に適する。非被覆であれば鏡視下でニット構造のワイヤー端を切って引っ張れば毛糸のようにほどいて破壊的に回収できる(高難度技術だが誤って引っ掛けてもほどけることがあるのがニット)。局麻鏡視下・透視下留置ができる。2)Z-stent SUS304鋼を折り返して一周のユニットにしたり

図1 ビーグル犬でのZ-stent内の肉芽の増殖(6ヵ月後)。一部は浮いた strutに絡まって成長している。(文献19から)

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(Gianturco stent,Rosch modified stent),前田宗宏先生発明のSpiral Z stentがある。Z-stentには非被覆型と被覆型,半被覆型がある(図3)。局所麻酔で鏡視下あるいは透視下に迅速に簡単に留置可能である。局麻で,鏡視下あるいは透視下留置が可能である。Z-stentは異なる大きさのユニットの組み合わせやナイロン糸による口径調節ができる。Spiral Z-stentには気管気管支のテーパーを考えたテーパーリングタイプもある。Z-stentのStrutは他のステントに比べ疎で,非被覆型は気道分泌物の付着・貯留の問題は最も少ない(図4)。生体組織にかかる圧は疎な strutでは局所的に強くなるため易損傷性や易出血性の組織には向かない。3)Dumon tube stent・TM stent  Dumon tube stent15)はシリコン製で,表面に浅い移動防止隆起があり,留置は全麻下に硬性気管支鏡と専用キットを用いるが,細径の気管支鏡にかぶせて気道チューブで押しても留置できる。位置修正や抜去も容易で一時留置が可能である(図2c)。一方ステントの移動,ステント内の喀痰付着閉塞,ステント両端の肉芽形成が生じやすい。ネブライザー加湿,喀痰吸引(しばしば気管支鏡下),ステントの取替え,ステロイド吸入による肉芽反応予防や抗菌薬投与,肉芽やovergrowthした腫瘍の内視鏡的焼灼が必要になりやすい。Freitag

のDinamic stentは軟骨輪様構造や膜様部様構造の長所を取り入れた 16)。TM stentは未だ報告は少ないが,umon stentに似るが突起が類軟骨輪様,両端は剛性を弱めフリクションを低く設計し,内面コーティングで気道分泌物の排泄性を改善し,後面は膜様部様構造などの工夫がちりばめられている(図2d)。Nakajimaらは多発軟骨炎の患者を7年間TMステントなどで管理した 16)。

気管支鏡下処置の知識

 シリコンの発火性,Nd-YAGレーザーの気道熱傷,低出力高周波治療とその安全性,マイクロ波凝固療法の止血能,高周波スネアでのポリペクトミー術,焼灼時のガス発生,全麻下硬性や硬性鉗子使用の利点,硬性気管支鏡の使い方などはわきまえておくべきでありこれらの気管支鏡の知識は他書を参照されたい。

その他

1)ステントのY字型の展開 気管の分岐にあわせたステントのY字型の展開にはユニットを個々に配置する方法や,組み合わせたZ-stentを配置方向を制御して留置する方法がある 5,17)。最初からY字状シリコンステント,組みひもを編む技

図2 a : メリヤス編みb : Ultraflex stentc : Dumon tube stentd : TM-stent(www.fujisys.co.jp/en/phycon/respiratory.html)

ca b

d

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図3 a : 上葉支口をオープンにするためのハーフカバードステントb : その留置法c : 治療前の気管分岐部d, e : 治療後(文献17から)

術で作成したHyodo’s Y Stentもある。2)ミニトラック法 気管を切開せずにセルジンガー法でアクセスしたミニトラック法を利用して , 局所麻酔下で透視下で短時間で安定したインターベンションを行うことが可能である 5,17)(図5)。3)放射線治療の役割 放射線治療は悪性気道狭窄に対する有用な局所治療法である。気道内あるいは気道周囲の腫瘍のみを標的とした治療では小線源を用いた放射線治療(小線源治療,brachytherapy)1)は再照射であっても施行可能なことが多く持続的効果が期待できる。ステント留置を姑息的治療のゴールにせず,一時的ステント留置で急場をしのいでから局所の放射線治療による内腔維持を図ることも可能である。金属ステントによるフリクションが続く場合,放射線治療を行うとフリクションによる組織障害が悪化し穿孔や出血にいたる可能性があ

る。逆に放射線治療は金属ステントによる肉芽反応を抑制する。

ステント留置の効果と副作用

 十分な内腔を確保することでエアフローの改善は確実に生じ,通常施術により直ちに拡張がえられる。Z-stentや疎なmeshタイプであれば気道排泄は促進され,また上皮化によりさらに改善する。症候の改善は76.4%に得られた(和歌山医大データ)。これは放射線治療後の46.2%に比べると高かった。デメリットとして死腔の増加に終わった場合の呼吸苦の増加などがみられた。重大な急性の合併症には心筋梗塞,食道気管支瘻,それによる誤嚥性肺炎,再拡張症候群,穿孔・出血,咳嗽,疼痛・刺激感,感染,閉塞,肉芽形成などが観察された。単純な比較はできないが悪性気道狭窄に対するステント治療の生存期間88日(1日~9ヵ月)で,気管支腔内照射による治療例では18.9ヵ月で

ca b

d e

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図4 Tracheobronchomalaciaに対するZ-stentによる治療Z-stentは剛性弾性ともに強くしてある。a, b : 治療前c, d : Z-stente, f : 治療後

c

a b

d

e f

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あった 1)。このことは悪性気道狭窄に対して腫瘍制御能の高い治療によって長い生存期間が期待できることを示唆している。 また肉芽や粘稠な喀痰による気道閉塞は良性疾患へのステント留置の致命的な合併症となる可能性があり,挿入早期でも晩期でも起こりうる 3,16,18)。放射線治療はケロイドのような肉芽に対し制御能がありステロイドの利用が制限される場合に考慮する。

おわりに

 放射線科の IVR医のために,放射線科の IVRの手からかなり離れてしまっている感が否めない気道系ステント技術の理解を目的として,概説しました。気道ステントはいまだに完成されたデバイスではなく解決すべき多くの問題があり,現在は普及を見たものの,まだ初期のステントが直面した壁を乗り越えられずにいます。診療科の壁を越えた連携も,不要になったとは言えず,呼吸器外科,呼吸器内科,気管食道科,放射線科 IVR医,放射線治療科の持続的な連携がより良い臨床結果や技術開発につながるでしょう。そのためにここで述べたステントの知識を掘り下げて理解し役立ていただければ私の本望と思います。

【文献】1) Kishi K, Yoshimatsu T, Shirai S, et al : Usefulness of

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5) Kishi K, Nakao T, Goto H, et al : A fast placement technique for covered tracheobronchial stents in patients with complicated esophagorespirator y fistulas. Cardiovasc Intervent Radiol 28 : 485 - 489, 2005.

6) Sohara Y : Reexpansion pulmonary edema. Ann Thorac Cardiovasc Surg 14 : 205 -209, 2008.

図5 ミニトラック法

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7) Kishi K, Sonomura T, Mitsuzane K, et al : Self-expandable metallic stent therapy for superior vena cava syndrome : clinical observations. Radiology 189 : 531 -535, 1993.

8) Kishi K, Takeuchi T, Sonomura T, et al : Treatment of a malignant esophageal fistula with a Gore-Tex-covered flexible nitinol stent. Cardiovasc Intervent Radiol 20 : 63 -66, 1997.

9) Nomori H, Horio H, Imazu Y, et al : Double stenting for esophageal and tracheobronchial stenoses. Ann Thorac Surg 70 : 1803 -1807, 2000.

10) 社団法人日本金属学会:金属便覧,改訂6版.東京,丸善㈱出版事業部,2000.

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12) Sonomura T, Kishi K, Sato M, et al : Comparison of Gore-tex covered Ultraflex stent and bare Ultraflex stent : preliminary clinical results. Nippon Shokakibyo Gakkai Zasshi 94 : 8 -11, 1997.

13) Freitag L, Eicker R, Linz B, et al : Theoretical and experimental basis for the development of a dynamic airway stent. Eur Respir J 7 : 2038 -2045, 1994.

14) Sonomura T, Kishi K, Ishii S, et al : Usefulness of CT virtual endoscopy in imaging a large esophagorespi-ratory fistula. Eur J Radiol 34 : 60 -62, 2000.

15) Dumon JF : A dedicated tracheobronchial stent. Chest 97 : 328 -332, 1990.

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17) Kishi K, Kobayashi H, Suruda T, et al : Treatment of malignant tracheobronchial stenosis by Dacron mesh-covered Z-stents. Cardiovasc Intervent Radiol 17 : 33 -35, 1994.

18) 植田千里,藤 雅,井田雅章,他:Nitinol Stent留置後に急性気道閉塞を来しうる肉芽組織を喀出した1例.日本気管支学会雑誌 22 : 521 -524, 2000.

19) 岸 和史,園村哲郎,木村誠志,他:気管気管支狭窄症の治療のための再抜去可能生体適合自己拡張型ステントの開発 . Innervision 11 : 10, 1996.

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3.食道ステント留置術星ヶ丘厚生年金病院 放射線科,奈良県立医科大学 放射線科1)

田中健寛,横谷繁郎,吉川公彦 1)

はじめに

 悪性食道狭窄に対するステント治療は,安全で即効性があり,またアプローチが容易なため広く普及している対症治療法である1~5)。ここ数年,新たなステントの発売はなく,後述する1種類のステントのみが普及し,留置手技は,ほぼ標準化されている6)。しかし留置手技中の合併症の可能性は皆無ではなく,また留置後の合併症は高頻度で発生する。本稿では食道狭窄に対するステント留置術の基本手技と留置手技中ならびに術後の合併症とその対策について概説する。

適応

 悪性狭窄で食物摂取困難または食道・気道瘻孔合併例が適応となる。根治的な治療法があればそれを優先する。

適応外

1. 食道入口部にステント端がかかる場合は違和感が強いため,入口より2㎝以内に留置すべきでない。

2. 出血例ではステントが刺激となり,大出血の可能性があり,適応外となる。

3. 癌性腹膜炎など食道以下に別の狭窄のある場合。4. 全身状態不良例は,ステントを留置しても摂食意欲は乏しく,QOLの改善にはならない。

5. 良性狭窄はステント留置後の閉塞や逸脱が高頻度であり,現時点では適応外。

解剖

 食道入口部から食道胃接合部まで直線的な管腔臓器である。食道入口部は下咽頭収縮筋輪状咽頭部であり,通常はC6の背側に存在するため,C5/6または輪状軟骨の石灰化を目安にする7)。入口部より2㎝以内にステント端がくるような留置は違和感が強いため禁忌とされている1~3)。頸椎の高さは2㎝前後であるため,C6/7レベルがステント端の上限となる。しかし入口部の近傍においても問題ないとする報告もみられる 7)。

食道用ステントの特徴と種類

 腫瘍のステント内腔への進展防止と,瘻孔閉鎖のため,カバードステントが主に使用されている 6)。現在,本邦では,ほとんどの施設でボストンサイエンティ

フィック社製のウルトラフレックスが使用されているため,以下,このステントについて述べる。 ウルトラフレックスはナイチノールで編まれた非常に柔軟性に富むステントである。ステントはポリウレタンで被覆されており,両端は移動防止のため,被覆されておらず,さらに口側端は,径が大きくフレアー状となっている。ステントは糸で留置システムに固定され,糸を引くことによりステントは展開する。展開する方向は,口側より展開するproximal type,肛門側より展開するdistal typeの2種類ある。このステントの欠点としては拡張力が比較的弱い,展開により短縮する,留置システムの摩擦が大きいことである。ステントの短縮率は最初に展開する部位が最も大きく,最後の部分が小さくなるように設計されている(図1)。

ステントの選択

 ステントの長さは少なくとも,狭窄端よりも2㎝長いものを使用し,狭窄が長区域にわたり,1個のステントでカバーできない場合は,2個のステントを使用するが,移動を防止するため4㎝以上オーバーラップさせて留置する。ウルトラフレックスの短縮率は意外に大きく,このため食道入口近傍に留置する場合,proximal typeでは展開部が咽頭となるため,distal typeを使用する。

胸部ステント

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図1 ウルトラフレックスの展開(proximal type)(文献6より転載)ウルトラフレックスの留置システムにはマーカーが両端に各2個あり,完全拡張時のステント端とカバー端を示している。展開開始部(この場合は近位部)の短縮率が大きくなるように設計されている。

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図3ステント留置の基本 60歳代 男性肺癌(文献6より転載)a : ガイドワイヤーで狭窄部を貫通し,カテーテルを挿入し少量の造影剤で造影した。

b : アンプラッツガイドワイヤーに交換後,留置システムを挿入した。

ステントは短縮するため,展開前のステント端はかなり上方になる(矢印)。留置システムのマーカーを参照して狭窄部に合わせる。

c : 留置システムを展開させると,マーカーに一致するように短縮する。

d : 展開終了後,システムがステントに引っ掛からないように慎重に抜去する。

必要物品

 マウスピース,胃管チューブまたはカテーテル Y字コネクター(ガイドワイヤーを置いたまま造影できる,図2),先端が柔軟なワイヤー(ラジフォーカス等),腰の固いガイドワイヤー(アンプラッツ等),拡張用バルーン(径10~15㎜程度),ステント(ウルトラフレックス),造影剤(非イオン性造影剤) また留置システム,ワイヤーやカテーテル等は,バックアップを用意するべきである。

手技

1. 左側臥位で,透視下に胃管チューブまたはカテーテルを挿入し,先端が柔軟なガイドワイヤーで狭窄部を通して胃内に留置する。

 完全閉塞や狭窄が強固な場合は,ガイドヤイヤーの貫通が困難となるが,ラジフォーカス等のJ型親水性ワイヤーとカテーテルを用いて,ワイヤーを回転させながら,狭窄部を通過させる 1~5)。

 ガイドワイヤーの挿入に抵抗があれば,縦隔または気道に挿入されている場合があるため無理に挿入せずに,少量の造影剤で造影して確認する。

 造影時,ガイドワイヤーを留置したまま造影ができるY字コネクターを利用すると便利である。

2. 胃管チューブまたはカテーテルをガイドワイヤーに沿って挿入し,造影により,狭窄部の確認を行い,必要ならば体表にマーカーを置く(図3a)。

3. アンプラッツ等の腰の固いガイドワイヤーに交換する。4. 前拡張は,狭窄が強固で留置用シースの挿入が困難な場合やステントの拡張不良が予想される場合に,径10~15㎜程度のバルーンで行う。

5. ガイドワイヤーに沿って,ステント留置システムを挿入する(図3b)。

6. ステントを展開させる(図3c)。7. 留置後,留置システムの先端がステントに引っ掛からないように,ゆっくりと抜去する(図3d)。チューブより食道造影を行い,ステントの留置部位と通過性を確認する。

8. ステント留置数日後,ステントの拡張が不良であれば,バルーン拡張や追加ステントを考慮する。

図2 食道造影用チューブ(自作)造影用チューブにY字コネクターをとりつけることにより,ガイドワイヤーやカテーテルを留置したまま造影ができ,狭窄が強固な場合などの位置確認に非常に便利である。

a b c d

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術後処置

 咽頭麻酔がきれる2~3時間後より飲水可とし,飲水で問題なければ経口摂取を開始する。術後2~3日に食道造影を行い,通過障害,ステントの移動や穿孔などのないことを確認する。ステント留置後の摂食は少量ずつ行い,食中,食後に飲水(炭酸系の飲料がよい)を十分に行い,ステントに残渣が付かないようにする 5)。

成績

 留置成功率は98~100%,嚥下困難の改善は96~100%,瘻孔閉鎖率67~100%であり,留置後の平均生存期間は11~17週程度である 1~5)。

合併症と対策

 留置手技に伴う合併症は稀であるが,誤嚥性肺炎,ガイドワイヤーまたは前拡張による食道穿孔,ミス留置,留置システム抜去時のステント損傷などがある。ほとんどは,初期例で経験された合併症で,注意すれば回避できるので,知っておくことは重要である。誤嚥性肺炎は手技中に造影剤などを誤嚥することで発生する。特に気道瘻孔を合併していると造影剤が気管内

に流入し,咳嗽の原因となりステント留置に難渋することがある。術前に患者に内視鏡検査時と同様に,口腔内のものを垂れ流し,嚥下しないように指導する。造影剤はできれば薄いバリウムや非イオン性造影剤を使用すべきであるが,無理であれば最小限の使用にとどめ,body makerでも狭窄範囲を確認できるようにすることが重要である。 ガイドワイヤーによる穿孔は放射線治療後などに,組織がぜい弱となっている場合に起こりやすい(図4)。ワイヤーの走行を注意深く観察し,胃内に確実に挿入されているのを確認してから,留置システムを挿入する。 前拡張時は通常は径10~15㎜程度のバルーンを使用すべきで,径の大きなバルーンやブジーで行うと穿孔する可能性がある。食道穿孔は,ステントが留置できれば,問題となることはないが,感染の合併や瘻孔閉鎖が不十分となることがあり,予防は重要である。 ステントのミス留置は,留置中のシステムの移動,患者の体動,狭窄部位の誤認などでおきるが,製品化された留置システムを使用する場合,留置システムのマーカーを基準にし,システムを固定していれば,ほとんど起こらない。ステント展開の途中であれば,システムを移動させることにより,ある程度の微調整は可能である。上方にミス留置したステントは,内視鏡下,鉗子で把持すれば容易に抜去可能である。下方に留置した場合は上方に移動防止のため,追加ステントをオーバーラップして留置する。 ステント展開後,留置システムを抜去する時,先端のチップがステントに引っ掛かり,ステントを移動または破損させることがある。システムを抜去する際はゆっくりと慎重に,引き抜く。もし留置システム抜去時に抵抗があれば,システムを戻し,回転させながら,ステントを引っ掛けないように抜去する。 ステント留置後の主な合併症の発生率は,ステント(カバードステント)逸脱6~25%,疼痛0~5%,穿孔1~5%,出血3~8%,再閉塞(カバードステント)2%,その他に逆流性食道炎や気道閉塞があり,かなりの高率で発生しており,それぞれについて対策は重要である 1~5)。 食道で使用するステントはカバードステントであるため,逸脱が起きやすく,特に食道胃接合部に留置した場合は高頻度なので,注意を要する1~5,8)。食道を損傷する鋭利な部分がないウルトラフレックスならば内視鏡やオーバーチューブが挿入できれば,胃内にある逸脱ステントは,経口的に回収可能である。しかし逸脱ステントは放置しても,大部分は胃内にとどまり,小腸に流出しても肛門より排出され,無症状のことが多い(図5)1~5)。逸脱ステントが,術後の癒着などのため,小腸に停滞すると穿孔や閉塞の原因となり 9),外科的処置が必要となる場合もある(図6)。 疼痛に対しては,鎮痛剤でコントロールする以外に

図4 ガイドワイヤーによる穿孔 50歳代 男性 食道癌(文献6より転載)a : 食道癌放射線治療後で,狭窄部周囲の組織は脆弱となり,狭窄部に大きな潰瘍が形成されている(矢印)。

b : ガイドワイヤーが気管内へ穿通している(矢印)。c : カテーテルを挿入し,造影すると形成された瘻孔より,左気管が描出された(矢印)。

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abc

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a b

図5 ステント逸脱 90歳代 女性 食道癌(文献6より転載)a : 留置10日後,ステント(矢印)は胃内に逸脱している。

b : 追加ステントを留置し,逸脱ステント(矢印)は放置した。

その後ステントは肛門より排泄された。

図6 逸脱ステントによる小腸穿孔 80歳代 男性食道癌 胃癌術後(文献6より転載)

a : ステント留置28日後小腸内に逸脱したステントがみられる。逸脱ステントは,術後の癒着のためか移動せず(矢印),小腸に停滞。

b : 腹痛があり,CTでステント周囲に炎症所見がみられたため,ステントを外科的に摘出した。

図7 ステント留置後の瘻孔形成 60歳代 男性 肺癌(文献6より転載)a : ステント留置5ヵ月後,ステント上端部で瘻孔が形成されている。

b : 追加ステントを留置することにより,瘻孔は閉鎖している。

a b

a b

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対処法がない 5)。疼痛は,経時的に軽快するのが通常であるが,なかには持続するものがあり,QOLを考えると抜去も考えざるを得ない場合もある。 瘻孔形成はステントの端で発生することが多く,追加ステントで閉塞させることができる(図7)。出血の大部分は軽度で一過性のものであるが,時に大出血を起こすことがある。大量出血は致命的であるが,動脈塞栓術で救命できたとの報告がある 10)。 食物塊による閉塞は内視鏡を用いた洗浄で,腫瘍のovergrowthは追加ステント留置で対処する。 気道の閉塞は,ステントが腫瘍と共に気道を圧迫することにより起き,解剖上,気管または左主気管支を閉塞することが多い。術前に気道の狭窄が見られる場合は特に注意が必要であり,気管ステントを先に留置する方法もある。気道閉塞対して,迅速に気管ステントを留置することが肝要である(図8)。 食道胃接合部にステント留置を行った場合,逆流性食道炎に注意する。逆流性食道炎は制酸剤の投与と食後に座位または立位をとることにより対処する。

【文献】1) Song HY, Do YS, Han YM, et al : Covered, expandable

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a b c図8 ステント留置後の気道狭窄 60歳代 男性 食道癌(文献6より転載)a : 留置前CT像 食道癌により左主気管支は圧迫されている。b : ステント留置7日後,左主気管支は閉塞し,左肺は無気肺となっている。c : 気管ステント留置後,閉塞は解除され,含気は回復している。

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