敗血症の概念,疫学,診断,治療...37 Ⅰ.敗血症の概念と診断...

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Ⅰ.敗血症の概念と診断

 近代的な医学のなかで,おそらくもっとも古い「敗血症」という定義は,1914年にSchottmullerが提唱した「微生物が局所から血流に侵入し,病気の原因となっている状態」である。この定義では,敗血症とは菌血症を原則とするものであり,現在での狭義の敗血症を説明するものであったが,現在も敗血症を菌血症の進行した病態ととらえている人々は,医療従事者も含め多く存在する。現在の敗血症の定義の礎となっているのは,1989年に Boneらが提唱した,「敗血症症候群(sepsis syndrome)」という概念である 2)。それは,「感染を契機とした,体温,脈拍,血圧など全身性の反応を示すものである」という内容であり,必ずしも菌血症を伴うものではないことが明記されている。これらを受けて,1991年の米国集中医療学会(SCCM)と米国胸部医学会(ACCP)の

合同で行われた会議で,敗血症が初めて,「全身性炎症反応症候群(SIRS)を伴う感染症」と定義され,その後現在まで最も多く用いられる表現となった 3)。同会議では,SIRSの診断基準として体温,脈拍,呼吸数,白血球数の 4

項目に基準を設け,これらのうち二つ以上を満たす場合とした。また,臓器障害,低潅流,低血圧を伴う SIRSを重症敗血症(severe sepsis)とし,適切な輸液を行っても血圧低下を伴う敗血症を敗血症性ショック(septic shock)と定義した。 これにより,「敗血症」自体は非常に広域な病態を含む定義となる。例えば,数日間発熱があり,肺炎と診断され治療を受ける軽度から中等度の症例でも,SIRSの基準を満たすことにより敗血症になりうる。死亡率の高さや,早期治療の必要性が重要となるのは,同時に定義された,「重症敗血症 /敗血症性ショック」であり,敗血症の中から,いかに重症敗血症 /敗血症性ショックを早期に割り出し,治療を行うかが重要視されるようになった。 重症敗血症に至る敗血症を早期に診断するこ

山梨医科学誌 30(2),37~ 45,2015

敗血症の概念,疫学,診断,治療

原 間 大 輔,中 尾 篤 人山梨大学医学部免疫学講座

要 旨:敗血症(sepsis)は,感染症あるいはその疑いによって生じる全身の炎症反応と,一連の症候群である。殊に重症敗血症(severe sepsis)/敗血症性ショック(septic shock)では高い死亡率が報告されており,集中治療領域では非常に重要な位置を占める病態である。2020年までには重症敗血症の発生率が 100万例,2050年にはその倍になると見込まれている 1)。罹患者の増加が懸念される一方で,ガイドラインの策定や優れた初期治療法の提唱など進歩の著しい分野でもある。敗血症において重要な位置を占める炎症反応・抗炎症反応のメカニズムが明らかになるとともに,様々な新規の治療介入なども試みられている。今回,敗血症の概念,病態生理,治療法に関して,新旧の知見を交えて紹介する。

キーワード 敗血症,敗血症生存キャンペーン指針,集中治療,炎症反応

総  説

〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110番地 受付:2015年 2 月 7 日 受理:2015年 2 月 25日

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とに際して,上記の定義には 2つの大きな問題があった。1つ目は,SIRS自体が簡便な定義であり,同時に,重症敗血症の明確な診断基準がなかったがゆえに,非特異的な病態のなかから真の重症敗血症を診断し,治療を開始することの統一性を欠く状況が生じたことである。2つ目は,SIRSの診断基準を満たすことができても,早期からの感染の診断が困難であることであった。SIRS基準の非特異性を克服するために,2001年に SCCM,ACCP,ヨーロッパ集中医療学会(ESICM),米国胸部疾患学会(ATS),外科感染症学会(SIS)で集まったInternational Sepsis Defi nitions Conferenceで定義の再検討が行われ,SIRSに代わり生体反応を細かく評価する新しい診断基準が発表された 4)。 感染症の診断に関しては,古くから白血球数と C反応性蛋白(CRP)が指標として多く用いられてきた。しかしこれらの数値は,手術などの生態的な侵襲に対しても上昇することがあり,感染に対する特異性に乏しかった。そこで,白血球数や CRPに代わり,全身の炎症反応に伴い放出されるサイトカインやタンパクが細菌感染症診断のバイオマーカーとして有用とされ,多くの検討がなされている。具体的には,腫瘍壊死因子(TNF)-α や,インターロイキン(IL)-6,プロカルシトニンなどがあげられている。中でも,プロカルシトニンに関しては,ほかのバイオマーカーと比較しての特異度が高く 6,7),敗血症診断・予後予測に期待がかけられた。しかし,プロカルシトニンの敗血症診断に対する感度・特異度はさほど高くなく,十分な信頼性を持つには至らないとする意見もあり 8),現時点での敗血症に対する感染症診断に決定的なバイオマーカーは存在しない。 また,バイオマーカー単独の評価ではなく,体温,脈拍,呼吸数,白血球数,CRP,SOFA

scoreの 6項目を組み合わせてスコアリングし,感染症の罹患を予測する infection probability

scoreも考案された 5)。しかし有用性を疑問視する報告もあり 6),あくまで参考とする手段の

一つにとどまっている。 最近の話題として,2005年に同定されたプレセプシン(sCD14-ST)が敗血症の早期診断に有用という報告がある。CRPや PCTよりも早期から血中濃度上昇がみられ,診断特異性が高く,また予後予測にも応用できる可能性があるが,未だ大規模な検証は行われておらず,今後の報告が期待される 9,10)。

Ⅱ.診断に対するガイドラインの位置づけ

 現在,全世界的に用いられている重症敗血症 /敗血症性ショック治療のガイドラインとして,Surviving Sepsis Campaign(SSC)によって 策 定 さ れ る,Surviving Sepsis Campaign

Guidelines(SSCG) が あ る。SSC は,5 年間で重症敗血症の死亡率を 25%減らすことを目的とし,2002 年に SCCM,ESCIM,International Sepsis Forumの合同カンファレンスにより合意・開始された,国際的なキャンペーンである。現在,SSCにより,敗血症に対する啓蒙活動や,診断精度の向上,治療方法の改善などを目的とした,様々な角度からの敗血症に対するアプローチが行われている。 その一環として,2004年に世界初の重症敗血症 /敗血症性ショックの管理指針を示したガイドラインである SSCG2004が発表され,その後も 2008年,2012年と,おおよそ 4年ごとに改定が得られている。その最新版となるSSCG2012 11)では,副題として“International

Guidelines for Management of Severe Sepsis

and Septic Shock”とあり,重症敗血症 /敗血症性ショックに対するガイドラインであることが強調されている。敗血症の定義は新たに「全身症状を伴う感染症,あるいはその疑い」と改訂され,これまで用いられてきた「SIRS」というキーワードは除外され,感染に関しても,疑い症例であれば敗血症と定義できることとなった。これまでの敗血症の診断基準で指摘されていた問題点を改善し,特異性を保ち,より早期の重症疑い例に対する診断,治療を意

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識した定義となっている。SSCG2012内の診断基準には 2001年の SCCM/ESICM/ACCP/ATS/

SISによる基準を一部改編されたものが採用された(表 1)。表に示す通り,診断項目は 20以上に渡り,SIRSの基準と比較すると診断における煩雑さが増すことは否めない。定義からはSIRSという文言はなくなったものの,今後も敗血症を疑うスクリーニングとして SIRS基準は一定の有用性をもつものと思われる。

Ⅲ.頻  度

 敗血症に関する疫学的なアプローチは,主に管理が行われる ICUを対象としたものが多くみられる。わが国においては,2000年から厚生労働省を主体として院内感染対策サーベイランス(JANIS)が行われており,ホームページ上で ICUにおける敗血症の頻度が 2007年まで報告されている 12)。それによると,ICUでの敗血症の頻度は 0.5–1.4%となっている。また日本救急医学会の sepsis registryによる,国内

表 1.SSCG2012における敗血症を疑わせる所見

Dellinger RP, Levy MM, Rhodes A, Annane D, Gerlach H, Opal SM, et al. Surviving sepsis campaign: international guidelines for management of severe sepsis and septic shock: 2012. Crit Care Med. 2013; 41: 580–637より引用,一部改変

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の多施設で行われた ICU内の重症敗血症についての報告では,2010年から 2011年にかけて4.3%の頻度であることが報告されている 13)。これらの報告を比較すると,敗血症の頻度が重症敗血症の頻度より低いことになってしまうが,これは JANISのサーベイランスが,ICU

入室から 48時間以上経過した患者を対象としており,さらに熱傷患者は除外していることなどが要因と思われる。 海外での ICUを対象とした敗血症の頻度は,ヨーロッパ 24カ国で行われた疫学研究の報告があり,37.4%であったとされている 14)。日本の報告と海外の報告には大きな差があるが,これは,死亡率でも同様の結果を示しており,日本の疫学上の問題として,純粋に SIRSを伴う感染症のみが敗血症として考慮されており,悪性腫瘍などの基礎疾患を有する SIRS/敗血症が含まれていない可能性を示唆するものとなっている。

Ⅳ.感染源と原因菌

 敗血症の感染経路としては肺炎,尿路感染症が多く,腹腔・腸管感染症,血流感染を含めると 80%以上とされる。近年のわが国の ICU

においては,肺炎,尿路感染,腹腔内感染のみで重症敗血症の 75%を占める結果となっている 13)。感染の原因菌としては,大腸菌を主とした腸内細菌群 34.4%,黄色ブドウ球菌30.1%,緑膿菌 28.7%,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 19.1%,カンジダを主とした真菌 17.1%となっている。黄色ブドウ球菌のうち,60%はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)であるとされている 15)。 また,特に血流感染の原因菌としては,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,大腸菌が特に多く報告されているが,これらの死亡率はそれぞれ20%,19%であり,他の原因菌と比較し,必ずしも高くない。血流感染の有無は必ずしも予後と直結しないことが考えられる。原因菌のなかでも特に死亡率の高いものは,緑膿菌 77%,

カンジダ 43%,アシネトバクター 40%などがある。

Ⅴ.予  後

 新規治療法はいくつも報告されているものの,現在もなお高い死亡率が報告されている。Angusらの研究では,米国では 1,000人当たり3人の重症敗血症の発生があるとしており,その死亡率は 28.5%となっている。これに基づくと,米国では年間に 215,000人が死亡している計算になる 1)。 日本では,大規模な疫学研究の結果がないが,死亡統計によると敗血症の死亡者数は平成 24

年で 11,474人,平成 14年が 6,083人となっており,10年間で約 2倍の増加がみられる。前述の罹患率と同様,基礎疾患があっての敗血症関連死亡の場合,これに含まれない可能性がある。そのため,日本の敗血症死亡者は死亡統計上の数値以上であることが見込まれる 16)。 臓器不全と死亡率の相関は,1臓器不全では 21.2%だが,2臓器では 44.3%,3臓器で64.5%,4臓器不全では 76.2%と報告されている 1)。臓器別にみた予後では,予後不良のものから腎臓,循環器,呼吸器の順に多いとされる。予後予測に関しては,様々な因子が研究されているが,多臓器不全の重症度判定に用いられるSOFA scoreや APACHE IIスコアなどは重症敗血症においての予後予測に関わる因子として挙げられ 13),様々な報告で用いられている。 上記のような多くの因子を用いる方法の他に,肥満患者は低体重の患者と比較し,敗血症性ショックに至る割合や,死亡率が低いといった報告 17)や,血中のトロポニン Tの定量的な評価が予後予測に繋がるといった報告もあり,様々な角度からの予後予測が行われている 18)。

Ⅵ.敗血症のメカニズムと病態

 敗血症の主体は,感染,またはその疑いを契機とした,全身性の炎症反応である。感染源と

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なる細菌やウイルス,真菌には各々が含有する病原体関連分子パターン(PAMPs)が存在する。敗血症における炎症反応は,PAMPsをリガンドとして認識する,Toll様受容体(TLR)やNOD様受容体(NLR)などのパターン認識受容体(PRR)によって主に引き起こされることが明らかとなってきている。PRRがリガンドと結合することにより,下流のシグナルが活性化され,その結果,内因性炎症反応物質として知られるインターロイキン(IL-1β,IL-6)や,TNF-α などの炎症性サイトカインが放出される。 敗血症ではこれらの炎症性サイトカインの放出制御がかからず,過剰な産生によるサイトカインストームと呼ばれる状態が引き起こされる。その結果,血管内皮細胞の障害に伴う末梢循環不全,多臓器不全や,凝固・線溶系の破綻による DICへの発展,心機能障害によるショックに陥ることが病態として考えられている。 炎症性反応の一方で,抗炎症性の反応が同時期から引き起こされることも明らかとなっている。過剰な炎症性サイトカインの産生が,制御性 T細胞の増加や,IL-10などの抗炎症性サイトカインの過剰放出を引き起こすことにより,生体が免疫抑制状態に陥り,感染の遷延を

助長し,敗血症のさらなる悪化を引き起こすという病態が考えられている。このような状態を,SIRSに対して代償性抗炎症反応症候群(CARS)呼ぶことが提唱されている 19)(図 1)。

Ⅶ.初期治療と EGDTについて

 重症敗血症 /敗血症性ショックは,末梢循環不全,凝固・線溶異常,心機能障害をメインとして,ショックを引き起こし,臓器灌流を低下させ,多臓器不全へと至る。重症敗血症 /敗血症性ショックの治療成績の向上,予後改善のためには,循環動態の安定化が第一の課題となる。そのために,初期治療として現在世界的に用いられている治療方針に early goal-

directed therapy(EGDT)がある。EGDTとは,中心静脈圧,平均動脈圧,中心静脈酸素飽和度の 3つのパラメータの目標値を設定し,それらすべての項目を ICU入室までの 6時間以内に達成することを目標とするものである(図2)。これらを用いた結果,従来治療群の 28日死亡率が 46.5%であったのに対し,EGDT群は 30.5%と死亡率の低下に寄与したと報告された 20)。その後,EGDTの有効性を裏付ける報告が多く寄せられ 21,22),SSCGにも日本版

図 1.敗血症の病態・SIRSと CARSについて

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の敗血症治療ガイドラインにも推奨度の高い,Grade1C,Grade1Aとして扱われることとなり現在に至る 11,23)。 一方で,EGDTに対して必ずしも有用でないという意見もみられる。代表的なものに,2014年の 3月に報告された ProCESS trial 24)がある。米国の 31施設の救急外来で敗血症と診断された患者に対して行われた治療を,EGDT

群,EGDTのような高度なモニタリングを用いない治療群,救急・集中治療専門医による治療群の 3群に分けて比較を行ったところ,60日後の死亡率では,3群間に有意な差を認めなかったというものである。これにより,熟練した救急・集中治療医の管理は,EGDTと比較し遜色のないものであること,平均動脈圧や中

心静脈酸素飽和度などの指標は必ずしも必要でないことが示された。しかし,重症敗血症 /敗血症性ショックといった病態に即時対応のできる施設や,十分にトレーニングを受けた医療スタッフがいつでも適切な初期治療を行える環境は限られており,EGDTは今後も一定の有用性をもつものと考えられる。 EGDTの評価に関しては,ProCESS trial以外にも,ARISE trial 25)やProMISe trial 26)といった大規模な臨床研究が進行中であり,これらの評価も待たれる。

Ⅷ.抗菌薬について

 循環動態の安定化とともに,感染源のコント

図 2. EGDTプロトコール Rivers E, Nguyen B, Havstad S, Ressler J, Muzzin A, Knoblich

B, et al. Early goal-directed therapy in the treatment of severe sepsis and septic shock. N Engl J Med. 2001; 345: 1368–77.より引用,一部改変.

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ロールと,速やかな抗菌薬の投与が敗血症の管理には必須とされる。特に抗菌薬治療に関しては,SSCGでは重症敗血症と診断された 1時間以内の適切な抗菌薬の投与開始を推奨している 11)。抗菌薬投与開始が遅れることにより予後が悪化するという報告があり,特に 1時間という数値に関しては,Kumarらが 2006年に報告した後向きコホート研究で,敗血症性ショックと診断された患者に対して,1時間以内に適切な抗菌薬投与がなされた場合の救命率が79.9%であったのに対し,投与開始が 1時間遅れるごとに救命率は 7.6%低下し,死亡のオッズ比も有意に上昇することが示されたことに由来している 27)。 抗菌薬の選択が適切に行われることも重要である。前述した研究でも,あくまで抗菌薬が適切に選択されることが前提とされており,病原体,感染部位などの推定や,薬剤感受性に対する評価が適切に行われることが重要である。

Ⅸ.新規治療法における臨床的・基礎的な知見

 新規治療法においては,様々な角度から治療的なアプローチが試みられている。ここでは,主に敗血症の主病態と考えられる炎症や抗炎症性反応のメカニズムをターゲットとした最近の研究を紹介する。 臨床的なアプローチとしては,2000年代に入り,敗血症の全身炎症反応のメカニズムが明らかになるとともに,それらをターゲットとした多くの治療薬の開発,治療効果判定が試みられてきた。炎症性サイトカインである TNF-αをターゲットとした抗 TNF-α 製剤を使用することで全身の炎症をコントロールする試みも行われたが,製剤使用群は,血中 TNF-α の値は速やかに低下するものの,治療予後には関与しないことが明らかとなっている 28)。同様に,PRRのひとつである TLR-4のアンタゴニストである eritoranも,投与効果がなかったことが示された 29)。 SIRSに対する新規治療薬試験が行われる一

方で,CARSに対する試みも複数報告されている。免疫抑制状態に対して,顆粒球を刺激し,免疫賦活化を図ることを目的とした G-CSFの製剤である fl igrastimの投与は感染症患者の合併症発生率や死亡率に対する影響を認めなかった 30)。その一方で,顆粒球とマクロファージを刺激することが知られている GM-CSFは免疫抑制状態にある敗血症患者に投与することで人工呼吸器装着時間の短縮や,APACHEⅡスコアの改善,ICUの在室期間,入院期間の短縮を認めたという報告 31)がある。炎症反応に対する介入の有効報告はなされない一方で,免疫抑制状態に対するアプローチには一定の有効性が期待されている。 基礎的な研究も同様に,炎症,抗炎症それぞれに対してのアプローチが試みられている。炎症に対しては,PRRを介した炎症反応に対するアプローチなどが行われている。例えばマウスを用いた LPS投与による敗血症 モデルに対し,経口的にω -3脂肪酸を含む食餌を投与することで,炎症性サイトカインの低下が見られ,敗血症の症状が改善したという報告 32)や,大腸菌由来物質で小胞体ストレスを惹起することで炎症性サイトカインを減少させ,死亡率を低下させたといった報告 33)などがみられる。 抗炎症性のメカニズムに対しては,T細胞機能を抑制する共刺激分子の PD-1が注目されている。PD-1欠損マウスは腸管結紮・穿刺による腹膜炎を引き起こしたモデルにおいて炎症サイトカインの減少と,死亡率の低下がみられる報告 34)や,CLPモデルに対する抗 PD-1抗体の投与が,生存率の改善を認めたとの報告 35)

がある。

Ⅹ.おわりに

 SSCが組織され,そこから初めてガイドラインが発表されてから約 10年が経過した。1991年~ 1995年の期間で 46.9%だった重症敗血症の 28日死亡率は,2006年~ 2009年の期間では 29.2%と大幅な減少を認めた 36)。SSCの掲

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げた 5年間で重症敗血症の死亡率を 25%減少させるという数値目標は達成されてはいないが,SSCGの策定や,EGDTの浸透などをはじめとした重症敗血症 /敗血症性ショック治療の質の向上は確実であるといえる。多くの基礎・臨床研究も進行しており,今後も治療に対する継続的な発展が望まれる。

Ⅺ.謝  辞

 本論文を投稿するにあたり,ご校閲を頂きました山梨大学医学部救急集中治療学講座教授の松田兼一先生に深謝いたします。

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