RF I-V法によるインピーダンス測定の ネットワーク...

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RF I-V法によるインピーダンス測定のネットワーク測定法に対する優位性アプリケーション・ノート 1369-2

1. はじめに

携帯電話、および高速デジタル通信機器の内部で使用されている電子部品の急激な需要の増加に伴い、RFからマイクロウェーブ帯で使用される部品のインピーダンス特性評価、および解析に注目が集まっています。受動部品の開発においては、RF帯における正確なインピーダンス測定が、部品の特性評価、および問題解析においてきわめて重要となります。RF回路設計においては、こうした測定をきちんと行うことで、正確な回路シミュレーションに基づいた高性能な回路設計や、設計中の回路における適切な部品の選択が行えるようになります。簡単かつ高確度なインピーダンス測定ソリューションが一般的な受動部品、例えばコンデンサ、インダクタ、ダイオード、そしてPCボード上のパターンなどの評価に求められています。なぜなら、こうした部品のインピーダンスの周波数特性は、必ずしもカタログ・データ等に記載されていないからです。部品のインピーダンス特性は、回路の動作に大きく影響を与えます。RF帯でのインピーダンス評価により、実際に部品を使用する周波数の特性データを使用して回路設計が行えます。

RFインピーダンス測定法には、図1に示したいくつかの測定方法があります。各測定方法には、それぞれ長所と

短所があります。反射係数、伝送、そしてSパラメータによる測定方法は、ネットワーク・アナライザによるMHz帯からGHz帯でのインピーダンス測定に、従来から使用されています。π型ネットワーク法は、特に水晶振動子のインピーダンス測定のために、主に300 MHz以下の周波数で使用されます。

最新のRFインピーダンス・アナライザで用いられているRF I-V法は、高確度な1ポートでのインピーダンス測定を実現した先進の測定法です。3 GHzまでの周波数範囲において、他の測定方法ではこれまで成し得なかった、高確度で広範囲なインピーダンス測定を実現しています。本アプリケーション・ノートでは、RF I-V測定法の説明を中心に、インピーダンス・アナライザとネットワーク・アナライザの違いを述

べており、アプリケーションに応じた最適な測定方法を選択するために役立つ情報を提供します。

注記:本アプリケーション・ノートでは、2端子のインピーダンス素子(部品)における、1ポートと2ポートの測定法について述べます。複数端子の回路網(3つ以上の端子を持つ部品)の伝送インピーダンス測定については述べていません。なぜなら、そうした素子の測定は、2ポート測定法でのみ行うことが可能であり、インピーダンス・アナライザが対象とするアプリケーションではないためです。このアプリケーション・ノートでカバーされている部品のタイプと測定方法の範囲を図2に示しました。

図1 各種RFインピーダンス測定法の周波数範囲

shionohara Meg

2. 測定アプリケーション

この章では、インピーダンス・アナライザとネットワーク・アナライザを比較しながら、測定のアプリケーションやソリューションが、それぞれどのように異なるのかについて説明します。さらに、部品測定に必要なインピーダンス測定性能についても、明らかにします。

インピーダンス・アナライザは、基本的にキャパシタ、インダクタ、ダイオード、共振子といった2端子部品の測定に用いられます。インピーダンス測定を行うことにより、2つの重要な部品の特性が明らかになります。すなわち、部品を使用する周波数における損失成分(損失係数DやQ値)や、興味の対象となるパラメータの周波数依存性で、それらは部品内部に存在するインピーダンスの寄生成分によるものです。

損失係数D(= R/X)は、部品のリアクタンス成分に対する寄生抵抗成分の比を表します。損失係数が低いほど、より純粋なリアクティブ部品であるといえます。小さな抵抗成分を、より大きなリアクタンス成分から分離して測定するには、インピーダンスの位相角について非常に高確度が必要になります。

部品のパラメータ(C, L, R, |Z|等)の周波数依存性は、部品内部の寄生リアクタンス成分に起因します。寄生成分の小さい部品ほど、周波数依存性が少なく、幅広い周波数範囲にわたって、ほぼフラットな、あるいは単調な特性となります。インピーダンスの周波数特性を改善するために、部品内部の寄生成分をできるだけ低減する必要があります。そのため、測定器は、微小な寄生成分の差異を、正確に測定できることが必要です。このことは、部品の内部で使用される誘電体材料や、磁性体材料の評価においても重要です。また、寄生成分の正確な測定により、デバイスの等価回路を求めることが可能になります。

高確度なインピーダンス特性評価に必要な測定性能微小な損失成分や、寄生成分を高確度に測定するためには、以下の測定性能が必要です。

(1) 低D、高Qそして等価直列抵抗(ESR)の測定が可能であること。

(2) インピーダンス測定範囲が広いこと。

(3) 校正後の測定安定度が優れていること。

(4) 測定回路中の誤差要因を取り除くための校正、そして補正が可能であること。特に、ケーブルやテス

ト・フィクスチャ内部の寄生成分(残留インピーダンス成分や浮遊アドミタンス成分)を正確に取り除けること。

部品内部の寄生成分について図3に、キャパシタ(33 pF)のインピーダンス-周波数特性の例を示します。この図において、D値は200 MHzで0.0071を示しており、これは174 mΩの等価直列抵抗(ESR)に相当します。キャパシタの等価直列インダクタンス(ESL)は、1.366 GHzの自己共振周波数(SRF)から計算すると430 pHになります。

図4には、10 nHのインダクタの周波数特性を示します。Q値は1 GHzにおいて41.5を示しており、これは1.67 Ωの等価直列抵抗(ESR)に相当します。自己共振周波数(SRF)より等価並列キャパシタンスを計算して求めると3.7 pFになります。

このように、部品内部に存在する寄生成分は非常に小さくても、高周波での特性に大きく影響します。

図3 33 pFキャパシタの周波数特性

図4 10 nHインダクタの周波数特性

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図2 部品のタイプと測定方法の分類表

次に以下の条件において、ネットワーク測定法を使用して33 pF のキャパシタと10 nHのインダクタを測定した場合に、必要となる確度を検証してみます。

33 pFでのD値:0.0071±0.00210 nHでのQ値:41.5±5

必要な反射係数(Γ)とS21の確度は、以下のように見積られます。

33 pF @ 200 MHz 10 nH @ 1 GHz|Γ| ±0.0016 ±0.0027S21 ±0.004 dB ±0.012 dB

注記:S21の確度は、DUTをシリーズ・スルー接続した場合です。

各測定方法について見積られた結果は、最高性能のネットワーク・アナライザの確度仕様 ( |Γ | :± 0.005 / S21:± 0.05 dB)でも及ばない、非常に高い確度になります。430 pHのESLを、±20%の確度で測定するには、校正面とDUT間の残留インダクタ成分の不確かさが、± 86 pH以内である必要があります。従って、テスト・フィクスチャの残留成分を正確に補正することが、このような低ESL測定においては非常に重要です。

キャパシタ、およびインダクタの測定例(図2および3)に示すように、部品のインピーダンスは、数オームから数キロ・オームにわたって変化します。そのため、測定器には、広範囲のインピーダンスにおいて高確度な測定が求められます。

測定作業は、しばしば数時間を要する場合があります。たとえば、統計解析のために数多くのサンプル部品を測定するような場合です。このような場合、終始一貫した測定値を得るために、環境温度の変化や、時間の経過に対して、測定器は常に測定確度を維持する必要があります。RFインピーダンス・アナライザは、こうした測定要求に対して、最適なソリューションを提供します。

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3. 測定結果の考察

実際の測定能力の違いを明確にするために、RFインピーダンス・アナライザ(RF I-V法)とネットワーク・アナライザの測定結果を比較してみます。ここでは、測定の再現性(短期安定度)と温度による測定値の変化について検討します。測定確度については重視しません。なぜなら、それは測定器自身の確度だけでなく、テスト・フィクスチャの持つ誤差成分の取り除き方に依存するためです。(ネットワーク・アナライザにおいては、2ポート・テスト・フィクチャの先端での校正方法が、測定確度に大きく影響します。)

測定の再現性テスト繰返し測定の安定度は、部品の損失成分や、寄生成分の高確度な測定のために重要な性能です。測定再現性のテストは、1 pFと33 pFのキャパシタ、および1 nHのインダクタを、100 MHz、

1 GHzおよび3 GHzで測定して行いました。これらの部品は、図7に示すように、各テスト条件において低インピーダンス、高インピーダンス、そして50 Ωに近い値を示すように選択されています。それぞれのDUTは、決められた条件下で、100回連続して測定され、測定値のばらつきが図5および図6のグラフの座標上にプロットされています。テスト・フィクスチャは、100回測定を行っている間、DUTとコンタクトし続けます。そのため、テスト結果は測定器の再現性のみを示しており、テスト・フィクスチャとDUTの接続変化による再現性は含まれません。

RF I-V法を使用した測定値と、他の方法による測定値を比較します。RF I-V法による測定の再現性(ばらつきが少ない)は、他の方法と比較して、低インピーダンス、そして高インピーダンス測定のどちらにおいても非常に優れています。

注記:これらのDUTは、低損失測定の安定性をテストするのに最適な低いESR値を持っています。本質的に、DUTの真のESR値を正確に把握する必要はありません。なぜなら、同じDUT(インピーダンス)が、それぞれの測定方法で測定されているためです。各測定方法による実際のESR測定値は、他の測定法による結果と一致しません。それは、校正方法、使用したテスト・フィクスチャ、さらには、テスト・フィクスチャ内部の残留成分やテスト・ポートの電気長について補正の方法がそれぞれ異なるためです。しかしながら、測定されたESR値の不一致は、比較されるばらつきのデータに大きく影響せず、結局、無視できます。これについての詳細な検討は、このアプリケーション・ノートの最後のAppendix Aを参照して下さい。

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注記:上のグラフで、Γ、S11とS21のデータは、1ポートの反射係数法(Γ)、2ポートのS11とS21の測定結果から計算により求めたインダクタンスとESRの値のばらつきをそれぞれ示しています。S11とS21の測定は、DUTをシリーズ・スルー構成で接続して行いました。

図5 測定の再現性テスト結果の例

温度依存性テスト

100 MHzと1 GHzの各周波数において18、23と28の温度設定で、温度依存性テストを行った結果を図8に示します。 RF I-V法による結果は他の方法と比較して、周波数やDUTのインピーダンスとは関係なく、温度の変化に対して安定した測定結果を示しました。

温度依存性試験のテスト条件:DUT:10 pF キャパシタ (インピーダンス値:約160 Ω@100 MHz、約16 Ω@1 GHz)DUTの温度係数:< 30 ppm/テスト信号レベル:0 dBm校正:SOL (RF I-V測定), SOLT (Γ,S11とS21測定)@ 25S11とS21測定時のDUT接続構成:シリーズ・スルー

注記:上のグラフで、Γ、S11とS21のデータは、1ポートの反射係数法(Γ)、2ポートのS11とS21の測定結果から計算により求めた、キャパシタンスとESRの値をそれぞれ示しています。RF I-VとΓによる測定は、コアキシャル・タイプのテスト・フィクスチャ(16196A)を測定ポートに直接接続して行いまし

た。それらの測定結果は、測定器の安定度のみを表現しています。S11とS21の測定は、2ポートのマイクロストリップライン・テスト・フィクスチャと測定ケーブル(測定に必ず必要)を用いて行っています。そのため、S11とS21の測定結果には、テスト・ケーブルの伝搬定数の温度特性が影響してい

ます。このデータは、実際のSパラメータ測定における現実的な温度依存性を示しています。

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図6 ESR測定の再現性結果の例(1 pF キャパシタ) 図7 サンプル部品のインピーダンスと測定再現性のテスト条件

図8 温度依存性テスト結果の例

その他のテスト条件:テスト信号レベル:0 dBm測定時間:約10 ms (RF I-V測定)

アベレージングを使用して等価的に10 msに近い測定時間(Γ, S11とS21測定)

IFBW (Γ,S11とS21測定):100 Hzアベレージング:1 (RF I-V)、8 (Γ, S11とS21測定)テスト・フィクスチャ:16196A (RF I-VとΓ測定)

マイクロ・ストリップライン・テスト・フィクスチャ(S11とS21測定)

DUTサイズ:1608 (mm) / 0603 (inch)校正:SOL (RF I-V測定)、SOLT (Γ, S11とS21測定)

4. 測定方法の比較

この章では、RF I-V法が他の測定方法よりも優れたインピーダンス測定を実現している技術的な背景について述べます。はじめに反射係数法とRF I-V法を比較し、次に他の測定方法との比較を行います。図9に、それぞれの測定方法の原理、インピーダンスとベクトル電圧比の関係、そしてインピーダンスを求めるための計算式を示しました。反射係数法では、DUTに対する入力信号と反射信号のベクトル電圧比(Γ=Vr/Vi)を測定します。電圧比とインピーダンスの関係を図9に示しました。グラフの反射係数は、DUTが抵抗の場合に当てはまります。検出された電圧比の対数は、リターン・ロス(= 20log |Γ|)として表されています。

反射係数は、測定するインピーダンス(Zx)が特性インピーダンス(Z0 : 50 Ω)付近の場合、わずかなインピーダンスの変化に対しても急激に変化します。ZxがZ0と等しい場合に最高の確度を得ることができます。これは、反射測定用の方向性ブリッジ(あるいはカプラ)が、50 Ωにおいてヌル・バランス・ポイントを持つためです。低インピーダンスや高インピーダンス測定においては、反射係数の曲線勾配が徐々になだらかになるため、インピーダンス測定確度は悪くなります。反射係数法で、容量性や誘導性のDUTを測定する場合には、このような高いピーク感度を得ることはできません。なぜなら、リアクティブなインピーダンス測定においては、ヌル・バランス・ポイントを持たないためです。

注記:図9において、「インピーダンスとベクトル電圧比の関係」を示すグラフの実線(Rx)は、抵抗性DUTに該当し、破線(Xx)は、リアクタンス性DUTに該当します。このグラフは、ベクトル電圧比の絶対値を表わしています。DUTの抵抗と、リアクタンスに対して、電圧比はそれぞれ異なります。これは、ベクトル比の大きさは、DUTのインピーダンスと、測定回路インピーダンス(Z0 :抵抗性)の位相角の関係によって変わるためです。リアクタンス性のDUTは、抵抗性のDUTと比較して電圧比が小さくなります。

RF I-V法には、図9に示すような2つの基本回路(テスト・ヘッド)構成があります。低インピーダンス・タイプは、低インピーダンスのDUTに印加されている低いレベルの信号電圧を正確に測定するために、電圧計がDUTの近くにあります。これに対して、高インピーダンス・タイプは、高インピーダ

ンスのDUTに流れている低いレベルの信号電流を正確に測定するため、電流計がDUTの近くにあります。図9のグラフには、それぞれのタイプについて、インピーダンスに対する電圧比の関係を示しました。ベクトル電圧比が広い範囲にわたりインピーダンス値に比例するので、一定の測定感度が得られま

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図9 測定原理とベクトル電圧比の関係

注記:Zrは、ロール・オフ・インピーダンスで、抵抗性DUTでは電圧比が基準レベル(0 dB)から6 dB減少し、リアクタンス性DUTでは3 dB減少するインピーダンスです。

す。ベクトル電圧比の勾配が、高インピーダンス、あるいは低インピーダンス領域においてなだらかになり、測定感度が低下しても、2種類のテスト・ヘッドをインピーダンスに応じて使い分けることにより、2つの測定範囲を補完的にカバーできます。(E4991Aはテストヘッドの交換が不要で、1台のテスト・ヘッドにより広いインピーダンス範囲をカバーします。)

Sパラメータの測定においては、2つのテスト・ポート間にDUTをシリーズ、またはシャントで接続することが可能です。Sパラメータ測定におけるベクトル電圧比とインピーダンスには、図9のグラフに示すような関係があります。それらのベクトル電圧比の特性は、RFI-V法の低インピーダンス、あるいは高インピーダンス・タイプによるものと似ています。これらの測定方法の違いは、電圧比がリファレンス・レベル(0 dB)から6 dB落ちる点のロール・オフ・インピーダンス値、すなわちZrにあります。Zr値が低いほど、高インピーダンス・タイプは低インピーダンス領域においても、優れた測定感度を持ちます。Zr値が高いほど、低インピーダンス・タイプは高インピーダンス領域においても、優れた測定感度を持ち、幅広い測定範囲をカバーできます。

Zr値を比較すると、RF I-V法は、測定感度がほぼ一定のインピーダンス・レンジについてS21測定法よりも優位性があります。S11測定とπ型ネットワーク(伝送)法は、Zrの値については、RFI-V法と同等です。しかし、S11測定は低インピーダンス測定と高インピーダンス測定の確度においては、校正の不確かさが影響するため不利になります。校正の不確かさによる測定限界については、5章で説明します。

RF I-Vの回路は、感度が高い測定範囲を拡張するために、Zrを適当に変更して設計できます。E4991Aのシングル・テスト・ヘッドは、このような方法で設計されているため、高インピーダンスと低インピーダンス・タイプの組み合わせで得られていた測定範囲を1台のテスト・ヘッドでカバーします。図10に、E4991Aのベクトル電圧比特性を示しました。

注記:E4991Aのシングル・テスト・ヘッド構成は、低インピーダンス・テスト・ヘッドと、高インピーダンス・テスト・ヘッドを組み合わせたインピーダンス測定範囲と比較して、測定可能なインピーダンス範囲を、一部犠牲にしているように見えるかもしれません。しかし、実際にはE4991Aのテスト・ヘッドは、実質的にそのような不利を生じません。なぜなら、高周波領域(10 MHz以上)では仕様の測定範囲は、7章で述べる校正の不確かさが大きく影響するためです。また、最新の設計によるE4991Aのテスト・ヘッドは、従来のテスト・ヘッドよりも優れたS/N比(信号とノイズの比)を実現しています。

π型ネットワーク法は、DUTからの反射により生じる定在波の影響を減少させることができるため、一定のテスト電圧を部品に印加することができます。しかし、π型ネットワーク法では約30dBの伝送ロスが生じるため最大テスト信号レベルとS/N比の低下を招きます。この方法は、特に水晶振動子の測定に用いられ、最高周波数は300 MHz程度となります。

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図10 E4991Aのベクトル電圧比特性

5. 校正の不確かさによるインピーダンス確度への影響

オープン、ショート、そしてロード校正の不確かさは、それぞれの測定方法(測定原理)毎に異なる形で、インピーダンス測定確度に影響を与えます。図11(a)に示すようにテスト・ポート1と2の間にシリーズに部品を接続してS11測定を行うと、DUTのインピーダンスが0 Ωの場合に、S11はゼロとなります。S11のゼロは、50 Ωターミネーションを基準として校正されているため、50 Ωの不確かさが低インピーダンス測定時にオフセット誤差として影響します。同様に、図11(b)に示すようなシャント接続構成で部品を測定すると、DUTのアドミタンスが0 Sの場合に、S11はゼロとなります。それゆえ、50 Ωの不確かさが、高インピーダンスにおいて測定誤差の原因となります。この結果、測定可能なインピーダンス範囲が制限されます。S21測定においては、50 Ωの不確かさがロード・マッチ誤差となり、低損失成分の測定に影響を与えます。

測定感度が低い領域(ベクトル電圧比が0 dB付近)での測定では、小さなオフセット誤差であっても、インピーダンス測定値に大きな誤差を生じます。なぜなら、わずかなベクトル電圧比の差でも、インピーダンスにおいては大きな差となるためです。さらに、オフセット誤差だけでなく、温度変化に対する影響の受け易さもまた、測定確度に大きな影響を与えます。(温度変化に対する測定の安定性については、6章で説明します。)

RF I-V測定における0 Ωと0 Sの校正は、ロード(50 Ω)ターミネーションと比較して、不確かさがはるかに少ないショート(0 Ω)と、オープン(0 S)のターミネーションを用いて行われます。このような誤差の少ない校正により、RF I-V法は高インピーダンスおよび低インピーダンス領域において高確度測定を実現しています。

RF領域における部品評価は、プライマリ・パラメータ(C、Lなど)よりもむしろ、損失成分(D、QあるいはESR)の測定がしばしば重要になります。損失成分の測定確度を改善するために、E4991Aは通常のオープン、ショートとロードターミネーションに加えて、低損失キャパシタ(LCC)ターミネーションを用いた校正が行えます。高周波において位相角の不確かさが増大する50 Ωロードターミネーション(図12参照)の代わりに、低損失キャパシタ・ターミネーションは、正確な- 90度の位相角を持つインピーダンス基準を提供します。RF I-V法のインピーダンス・アナライザと最高性能クラスのネットワーク・アナライザによるQ測定確度の比較を図13に示します。位相確度と安定度を改善することにより、ネットワーク法と比較してQ確度が10倍も向上しています。図14には、それぞれの測定法の確度から計算したインピーダンス測定範囲を示します。計算に用いた反射係数とSパラメータの確度は、現時点で最高性能のネットワーク・アナライザの確度仕様に相当します。

図11 S11とDUTのインピーダンスとの関係

図12 50 Ωターミネーションの位相の不確かさ

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図13 Q測定確度の比較 図14 RF I-V法とネットワーク法の基本インピーダンス測定範囲(10%確度)

注記:Q確度は、インピーダンスが50 Ωで、Q値が100の場合で比較しています。Qの誤差は、インピーダンスが50 Ωよりも高い、あるいは低い場合に大きくなります。

注記:グラフに示す測定範囲は、テスト・フィクスチャの残留成分、テスト・ケーブルのパラメータの変動、そして測定器のドリフトによる測定範囲の制限を含んでいません。実際のSパラメータ法によるインピーダンス測定範囲は、テスト・ポートの延長、テスト・フィクスチャの特性、そしてテスト・フィクスチャの誤差を補正する校正方法に依存します。

6. 環境変化に対する測定安定度

校正後の測定安定度は、比較的長い時間を要するアプリケーション、たとえば、統計データをとる目的で数多くの部品のサンプルを測定するような場合において重要になります。

一般に、環境温度の変化は、高周波におけるベクトル・インピーダンスの測定に大きく影響します。これは、RFやマイクロ波の回路は、温度の影響を受けやすいためです。実際に、ネットワーク・アナライザは、電源投入後や周波数の設定を変える度に校正を取り直す必要があります。RFインピーダンス・アナライザも同様に校正を取り直す必要がありますが、校正後の測定確度はより安定しています。

優れた測定安定度は、ベクトル信号比測定のトラッキング誤差を打ち消すことにより実現されています。図15(a)に、ネットワーク・アナライザのブロック図を示します。ベクトル電圧比検出(VRD)回路の、リファレンス・チャンネルとテスト・チャンネルは、測定スピードを速めるために、それぞれ独立して入力信号を測定します。トラッキング誤差は、校正実施後に2チャンネル間のゲイン、位相、または周波数応答の変化により発生します。温度変化は、トラッキング誤差を生じさせる大きな原因となり、インピーダンス測定値のドリフトを引き起こします。VRD回路はそれぞれ温度特性に違いがあるため、この誤差は測定器のユニット毎に異なります。

図15(b)に、RF I-V法を使用したインピーダンス・アナライザのブロック図を示します。VRD回路は、入力信号VvとViが入力スイッチでマルチプレクスされ、1回の測定毎に、各信号が2チャンネルのVRD回路で交互に測定されるように構成されています。ベクトル電圧比の測定において、VvがVRDのチャンネル1で測定され、続けてチャンネル2で測定されます。Viはその逆のチャンネル順序で測定されます。各チャンネルのVRD特性の相対的な変化は、チャンネル1とチャンネル2の測定結果に、反対のベクトル誤差を生じるので、ベクトル電圧比の計算の結果、トラッキング誤差がキャンセルされます。従って、ベクトル比測定の結果には影響がないため、安定したインピーダンス測定結果が得られます。ただし、この方法は従来のVRD法よりも測定時間が長くなります。

注記:テスト・ケーブルの伝搬特性も温度により変化するため、測定を不安定にします。2ポートのネットワーク測定では、数10 cmの測定ケーブルが必要ですが、1ポートのRF I-V法や反射係数測定法では、テスト・ポートに直接取り付けられるテスト・フィクスチャを使用することにより、テスト・ポートの直近にDUTを置くことができます。

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図15 ネットワーク・アナライザとインピーダンス・アナライザのベクトル比検出回路のブロック図

7. 確度仕様における校正の不確かさの違い

図16に、RF I-V法を使用したインピーダンス・アナライザの10%確度曲線を示します。ネットワーク・アナライザでは、測定範囲の仕様が全周波数範囲でほぼフラットですが、RF I-V法のインピーダンス測定範囲(10%確度曲線の上下境界の範囲内)は、高周波になるほど狭くなります。これはRF I-V法のインピーダンス・アナライザは、確度仕様の定義に、特別な校正の不確かさを取り入れているためです。測定確度は、テスト・ポートにおいて、ショート、オープン、ロード(SOL)校正を実行した場合に、仕様に規定されています。ショート校正は、ショート・ターミネーションのコネクタの再現性による± 0.08 nHの不確かさを想定しています。オープン校正も、オープン・ターミネーションのコネクタの再現性による± 24 fFの不確かさを想定しています。その結果、高周波における10%確度曲線は、それぞれ約0.8 nHと0.24 pFのリアクタンスの線に近づきます。RFインピーダンス・アナライザは、微小なキャパシタンスやインダクタンスを含む部品特性を正確に測定することに重点を置いているため、これらの校正の不確かさを測定確度に含んでいます。このような校正の不確かさは、ネットワーク・アナライザの確度には考慮されていません。ネットワーク測定の仕様は、基本的に特性インピーダンスZ0に整合した測定セット・アップに基づくため、コネクタの再現性は、反射損失の不確かさとして、仕様の確度に含まれているだけです。

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図16 RF I-Vのインピーダンス・アナライザの測定範囲確度(10%)

8. テスト・フィクスチャによる誤差を取り除くための校正方法

実際に高確度測定を実現するためには、テスト・フィクスチャ内部での位相シフトや残留インピーダンス成分により生じる測定誤差を確実に取り除く必要があります。ネットワーク測定では、フル2ポート校正(ショート、オープン、ロード、スルー校正)をテスト・フィクスチャの先端で実行することで、測定確度を最大にすることができます。一般に、コプレナ・ウェーブガイドのフィクスチャや、マイクロ・ストリップラインのフィクスチャが、インピーダンス・マッチングと、周波数特性を最適化するために使用されます。シリーズ・スルー接続での測定は、図17に示すようにフィクスチャ上で校正が行われます。この校正を実際のテス

ト・フィクスチャで正確に行うことは困難です。なぜなら、必要となる校正ターミネーションは、広い周波数範囲で正確なだけでなく、測定する部品と同じ位置に、正確に置かれなくてはなりません。さらに、これらの校正ターミネーションは校正を実施する度にテスト・フィクスチャから脱着する必要があります。シャント・スルー接続の校正においては、適切なオープンとロードの状態を構成することが非常に困難です。テスト・フィクスチャの等価回路をシミュレーションして、誤差を取り除く方法では、校正ターミネーションが不要になりますが、それには、実際の特性に合致する等価回路モデルを確立するための解析と評価が必要になります。

RFインピーダンス・アナライザは、需要の多いアプリケーションに合った安価なテスト・フィクスチャを幅広く取り揃えて提供しています。これらのテスト・フィクスチャは、DUTを同じ場所に正確に置くことができ、最小限のポート延長で測定できるようにデザインされています。1ポート・テスト・フィクスチャの特性は、図18に示すような単純な等価回路モデルで表現できるので、測定結果は、RFインピーダンス・アナライザに内蔵されている補正機能を用いて簡単に補正できます。RFインピーダンス・アナライザの校正と補正の概念については、このアプリケーション・ノートの最後のAppendix Bを参照して下さい。

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図18 1ポート・テスト・フィクスチャの例と等価回路モデル

図17 テスト・フィクスチャにおけるSパラメータ測定の校正例

注記:ターミネーション内部および周囲の残留パラメータ、そして校正面からのDUTのオフセット・ポジションは、測定誤差の原因となります。

9. 結論

RFインピーダンス・アナライザのRFI-V測定法は、これまでのネットワーク・アナライザによる反射係数法や、Sパラメータ法よりも、50 Ωから離れたDUTを安定に測定することが可能です。さらに、RFインピーダンス・アナライザは、部品の寄生成分や、低損失成分(低D、低ESRそして高Q)の高確度測定において、ネットワーク・アナライザに優っています。RF領域における卓越したインピーダンス測定能力は、RF通信機器内部で使用されるチップ・インダクタ、キャパシタ、バラクタ・ダイオードなどの受動部品の評価に最適なソリューションを提供します。これらの部品の特性評価において、RF I-V法は、低インピーダンスから高インピーダンスまで、ほぼ一定の感度があります。微小な寄生成分や低損失成分の測定能力を高めるために、RFインピーダンス・アナライザは、幅広いインピーダンス範囲にわたり、安定した測定をRF I-V法で実現すると同時に、トラッキング誤差をなくしたベクトル比検波器構成によって温度依存性の少なさも実現しています。

RFインピーダンス測定の確度は、測定器の性能に加えて、テスト・フィクスチャによる誤差に大きく依存します。RFインピーダンス・アナライザは、低損失係数(高Q)の測定確度を改善するために、低損失キャパシタ・ターミネーションを位相基準とした校正が可能です。RFインピーダンス・アナライザに直接取付けられるようにデザインされたテスト・フィクスチャは、最小限のテスト・ポート延長でDUTを接続できます。テスト・フィクスチャの特性は既知であり、単純な残留インピーダンスと浮遊アドミタンス・モデルで表現できるため、テスト・フィクスチャの残留成分による測定誤差は、RFインピーダンス・アナライザに内蔵されている補正機能を用いて簡単に補正できます。幅広いインピーダンス測定範囲、安定な測定、そして簡単な誤差補正により、RFインピーダンス・アナライザは、2端子部品の高確度インピーダンス測定のニーズに最高のソリューションを提供します。

10. E4991Aの先進的なインピーダンス測定ソリューション

Agilent E4991A RFインピーダンス/マテリアル・アナライザは、移動体通信等の発展するニーズに対応するために、RF I-V法によるインピーダンス測定ソリューションを3 GHzまで拡張しました。E4991Aは、RF I-V法や、その他の独自な測定技術を統合することで、従来のネットワーク解析法に伴う問題点を解決し、50 Ωから離れたインピーダンス領域における部品の正確な特性評価を実現しました。RF I-V測定法の優れた測定能力により、高分解能で安定した測定結果が得られるようになり、周波数特性や等価回路パラメータの解析が、従来と比較して簡単に行えるようになりました。

RF回路設計においては、実際の動作周波数における正確な測定が、EDAツール等で必要となる信頼性の高い部品の特性データを提供します。E4991Aの高確度、高安定、そして使いやすさは、幅広いインピーダンス測定アプリケーションで大きな効果をもたらします。

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Appendix A

再現性テストにおける測定値の不一致による影響に関する考察

図A-1に、再現性テストで得られたインダクタンス、キャパシタンスとESRの平均値を示します。同じDUTを測定したにも拘わらず、各測定法について、結果がそれぞれ違っています。これは、校正の不正確さ、テスト・フィクスチャの残留成分(補正後に若干残る)、電気長の不正確さ、そしてその他の誤差原因が測定に影響するからです。特に、測定されたインピーダンスの小さなベクトル成分であるESRの測定値には、大きな不一致が生じがちです。このような測定の不一致は、測定再現性のテスト条件の一貫

性に問題を提起します。この問題は以下に述べるように、仮想の同じL、CとESR測定値におけるばらつきを理論的にシミュレーションして結果を比較することにより解決できます。

全ての測定方法について同じ測定値を仮定する場合、それらは、RF I-V法(E4991A)の平均値と全く同じ値に決めることができます。図A-1のグラフに示すようにESR測定値の不一致は大きいのですが、インピーダンスの大きさは、ほぼ同じです。(ESRは、小さなベクトル成分で、ベクトル・インピーダンスの大きさに対してはあまり影響しません。)また、検出されたベクトル電圧も仮定した測定値における値とほぼ同じです。測定の不一致による検出電圧の違いは、約4 dB以下なので、

同様に検出電圧のばらつきには大きく影響しません。(実際には、ばらつきはネットワーク・アナライザのトレース・ノイズに相当し、測定される信号が十分に大きい場合は、測定レベルにあまり依存しません。)そのため、測定値の不一致に対して補正されたL、CとESR測定値のばらつきは、以下のように計算できます。

ばらつき = Ψ(α+β) - Ψ(α)

ここで、Ψ(χ) : 電圧比からL、CまたはESRを

計算する式α: 仮定した測定値について理論的に求めたベクトル電圧比

β: 実際検出されたベクトル電圧比(Γ、S11とS21の値)のばらつき

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図A-1 測定再現性テストにおけるキャパシタンス、インダクタンスとESRの平均値

注記:上のグラフで、Γ、 S11とS21のデータは、1ポートの反射係数法(Γ)、2ポートのS11とS21の測定結果から計算により求めたインダクタンスとESRの値をそれぞれ示しています。反射係数法(Γ)で測定したインダクタンスは、0.4 nH (代表値)の残留インダクタンスを含んでいます。これは16196Aテスト・フィクスチャのショート補正デバイスについて定義されており、ネットワーク・アナライザでは補正できません。残留インダクタンスについて補正するために、測定値から0.4 nHを差し引いて下さい。S11 とS21の測定は、DUTをシリーズ・スルー構成で接続して行いました。

図A-2に示すグラフに計算結果をプロットしました。ばらつきのデータは、図5に示した測定の再現性テストの結果と非常に良く似ています。従って、測定方法による測定値の不一致は、測定の再現性を検証する上ではあまり重要でありません。

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図A-2 測定値の不一致を補正した、インダクタンス、キャパシタンスとESR値のばらつきのシミュレーション

注記:上のグラフで、Γ、 S11とS21のデータは、1ポートの反射係数法(Γ)、2ポートのS11とS21の測定結果から計算により求めた、インダクタンスとESRの値のばらつきをそれぞれ示しています。S11 とS21の測定はDUTをシリーズ・スルー構成で接続して行いました。

Appendix B

インピーダンス・アナライザの校正と補正の概念

RFインピーダンス・アナライザは、テスト・ポートで校正されます。校正は、測定確度が仕様で規定される“校正面”を定義します。テスト・ポートを延長した場合は、延長した先端で校正を実行する必要がありますが、測定確度は、ポート延長をしない場合と比較して悪化します。部品は、テスト・ポートのコネクタ(同軸コネクタ)に形状が合わないので、DUTを測定するためにテスト・フィクスチャを使用する必要があります。図B-1に示すように、通常の測定においては、テスト・フィクスチャの残留インピーダンスは、校正面(テスト・ポート)とテスト・フィクスチャの測定端子に接続したDUTとの間に存在します。インピーダンス・アナライザの補正は、ネットワーク・アナライザのディエンベディングに相当します。インピーダンス・アナライザの補正機能により、テスト・ポートとDUT間の残留成分による測定誤差を取り除くことができま

す。補正は、測定における追加誤差を最小にしますが、校正された測定器の確度は改善しません。補正の前に校正が必要であり、補正は校正に取って代わることはできません。RFインピーダンス・アナライザのテスト・フィクスチャは、2つの電気的に異なる部分、すなわち同軸コネクタ部分と、非同軸の測定端子部分(図18と図B-1を参照)で構成されています。以下に述べるように、RFインピーダンス・アナライザは、テスト・フィクスチャの各部分の誤差要因について測定値を補正するために、2つの補正機能を持っています。

オープンとショート補正:図18と図B-1に示すように、非同軸測定端子の特性は、残留インピーダンスと浮遊容量のモデルで表せます。残留インピーダンスと浮遊容量は、測定端子をそれぞれショートとオープン状態にし、インピーダンスとアドミタンスを測定することで得ることができます。測定されたオープンとショートの値は、測定器の内部に記憶され、DUTの測定値を補正するために使用されます。

電気長補正:電気長補正は、テスト・フィクスチャの同軸部分におけるテスト信号の位相シフトによる誤差について測定値を補正します。補正を実行するために仕様の電気長の値、あるいはテスト・フィクスチャの型番を入力することが必要です。補正は、振幅誤差に対しては行われません。なぜなら、テスト・フィクスチャの同軸部分は、テスト信号の伝搬損失(減衰)が無視できるほど短いためです。

校正と補正の理論に関する詳細な情報については、“インピーダンス測定ハンドブック 第2版: P/N 5950-3000JA”を参照して下さい。

注記:Sパラメータ測定におけるフィクスチャの影響や、校正技術のコンセプトについては、アプリケーション・ノート1364-1“Agilentベクトル・ネットワーク・アナライザを使用したSパラメータ・ネットワークのディエンベディングおよびエンベディング:P/N 5980-2784J”を参照して下さい。

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図B-1 インピーダンス・アナライザの校正と補正の概念

5988-0728JA0000-01H

July 19, 2001

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