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Title <技術報告>遠心模型実験におけるベンダーエレメント利用の試み
Author(s) 波岸, 彩子
Citation 技術室報告 (2017), 18
Issue Date 2017-06
URL http://hdl.handle.net/2433/233557
Right
Type Departmental Bulletin Paper
Textversion publisher
Kyoto University
p. 1
遠心模型実験おけるベンダーエレメント利用の試み
技術室 波岸彩子
1. はじめに
遠心模型実験では相似則に応じて作成した地盤模型に遠心力を作用させ、実地盤の応力
状態を再現している。地盤模型中には加速度計や間隙水圧計、土圧計などを埋設して地盤の
応力やその変化を測定するが、近年、遠心模型実験においてベンダーエレメントを用いて地
盤中を伝播するせん断波速度 Vsを測定することが試みられている。Vsからは地盤の剛性 G
を求めることができるため(G=Vs2)、圧密や加振による剛性の変化を捉えることが可能と
なる。
ベンダーエレメントとは、2枚の圧電素子を貼り合わせた構造のセンサーで、電圧を加え
ると変形し、変形すると電圧を発生するという性質を持つ。図 1 は電圧印加時のベンダー
エレメントの挙動を示したものだが、一方の圧電素子は伸び、一方は縮むという動きを繰り
返すことで振動を発する。これを図 2 のように発振器・受振器とすることで土を伝わる波
の伝播距離と伝播時間から速度を求める方法がベンダーエレメント法である。用いる波の
周波数は数 kHz のオーダーであり、試料を破壊することなく Vsの測定ができるので、他の
試験と組み合わせて実施できるのが利点である。
これまで防災研究所の遠心力載荷装置室において Vs を求める方法としては、加速度計を
地盤中に 2 深度以上埋め込み、振動台の加振によって生じる波形の伝播時間の時間差から
速度を算定する方法があった(図 3)。しかしながらデータ収録装置のサンプリング間隔に
限界があることや、加振波の条件に制約があることなどから、Vsの測定はあまり一般的では
なかった。ベンダーエレメント法を本格的に導入できれば、さまざまな試験と並行して地盤
の Vsを測定できるようになり、実験チーム全体に資すると考えられる。
遠心模型実験用に新しく購入したベンダーエレメントセンサーの写真を図 4 に示す。円
形の台座の上下に 2 枚の白い板が垂直に突出した形状をしているが、この白い部分が圧電
素子のケースであり、S波用ベンダーエレメント素子が埋め込まれている。台座部分には P
波用のベンダーエレメント素子も埋め込まれており、P 波速度の測定にも使用することがで
きる。本稿では、このベンダーエレメントセンサーを用いて遠心場における模型地盤の Vs
を求めた試みについて紹介する。
p. 2
図 1 電圧印加時のベンダーエレメントの挙動
図 2 ベンダーエレメント法のイメージ
V V+ - +-
⇧:分極方向
縮む 伸びる 縮む伸びる
発信用ベンダーエレメント
受信用ベンダーエレメント
電圧
時間
発信
受信
波の伝播時間
波の伝播距離
p. 3
図 4 ベンダーエレメントセンサー
図 3 加速度計による Vs測定のイメージ
-20
-10
0
10
20
1.49 1.5 1.51 1.52 1.53加速
度( m
/s2)
時刻(ms)
ACC 1
-20
-10
0
10
20
1.49 1.5 1.51 1.52 1.53加速
度(m
/s2)
時刻(ms)
ACC 2
-20
-10
0
10
20
1.49 1.5 1.51 1.52 1.53加速
度(m
/s2)
時刻(ms)
ACC 3
加振
-1
1
3
5
7
9
1.5055 1.506 1.5065 1.507 1.5075 1.508 1.5085
加速
度(
m/s
2)
時刻(s)
ACC 1(一番深い)
-1
1
3
5
7
9
1.5055 1.506 1.5065 1.507 1.5075 1.508 1.5085
加速
度(
m/s
2)
時刻(s)
ACC 2(真ん中)
-1
1
3
5
7
9
1.5055 1.506 1.5065 1.507 1.5075 1.508 1.5085
加速
度(
m/s
2)
時刻(s)
ACC 3(一番浅い)
加速度計
波の伝播距離
供試体
拡大
波の伝播時間
波の伝播時間
P波測定用の圧電素子
S波測定用の圧電素子
正面 横向き
p. 4
2. 実験方法
送受信用ベンダーエレメントと、比較のための加速度計を図 5 のように配置して供試体
を作成した。試料は、珪砂 7 号を相対密度 50 %になるよう敷き詰めて脱気水で飽和した飽
和地盤である。供試体を遠心載荷装置に設置し、1 g、10 g、20 g、30 g、40 g、50 gにおけ
る地盤中の Vs の測定を試みた。本章ではベンダーエレメント法で使用する計測システム、
送信波の条件、そして計測手順について説明する。なお実験にあたっては、地盤工学会基準
の試験方法 JGS 0544:2011「ベンダーエレメント法による土のせん断波速度測定方法」を参
考にした。
2.1 計測システム
ベンダーエレメントセンサーの計測システムは、送受信用ベンダーエレメント、送信用ベ
ンダーエレメントに電圧を印加するための波形発生装置、そして送受信の電圧波形を記録
するための収録装置から構成される。図 6は本実験で用いた計測システムの模式図である。
波形発生装置から発振した波を送信用ベンダーエレメントに入力し、土中を伝播した波を
受信用ベンダーエレメントで受信する。このとき、送信波形と受信波形のデータをそれぞれ
収録装置で記録する。波形発生装置には 0.01 Hz から 15 MHz までの周波数の波を、最大
出力電圧 20 Vp-pで出力できるマルチファンクションシンセサイザを用いた。収録装置には、
2 チャンネルのアナログ入力ができ、最高 100 MHz でサンプリング可能な PC カード型パ
ソコンオシロを用いた。
このように独立した計測システムを遠心模型実験へ導入するときに課題となるのが、遠
心載荷中は計測システムに一切触れることができないという点である。今回は収録装置を
ノート PC に接続し、ノート PC ごと遠心力載荷装置に搭載しリモート接続機能により遠隔
操作した。波形発生装置に関しては、技術的な課題があり、遠隔操作せずに一定条件の波を
連続的に送信した。
p. 5
図 5 供試体のセンサー配置図
図 6 計測システムの模式図
4cm
4cm
4cm
4cm
20cm 5cm 20cm
Acc1
Acc3
Acc2
BE2
BE1飽和地盤珪砂7号相対密度50 %
加速度計×3 受信用
発信用
波形発生器
波形計測器
既存ロガー
ノートPC
<遠心ピット内>
計測用PC
<計測室>
制御・計測
制御・計測
土槽
p. 6
2.2 送信波の条件
試験法 JGS 0544:2011によると、ベンダーエレメント法に用いる送信電圧の波形は次の条
件を満たす必要がある。
① 送信電圧の周波数と受信電圧の初動の周波数がほぼ等しくなること、
② 送信電圧の初動から受信電圧の初動までにかかる時間は送信電圧の周期の 2 倍以
上であること
そこで、供試体中の送信用ベンダーエレメントに対して 1 g 場で 1~5 kHz の波を与えたと
きのそれぞれの受信波形を図 7 に示す。条件②については、いずれの送信波形においても
満たされていたが、条件①についてみると、送信波の周波数が受信波の初動の周波数ほぼ等
しくなっているのは 1 kHz~2 kHzのときだけであった。したがって、本供試体への 1 g場
における適切な送信電圧の周波数は 1.5 ~2 kHzであったが、遠心場では 1 g場に比べ地盤
の剛性が大きくなることを考慮し、本実験では 10 kHzの正弦波を暫定的に採用した。電圧
値はファンクションシンセサイザの最大容量である 20 Vp-pとした。
2.3 計測手順
計測システムを遠心載荷装置上にしっかりと設置し、遠心載荷を開始した。遠心加速度を
10 gずつ段階的に上昇させ、1 g、10 g、20 g、30 g、40 g、50 g における送受信用ベンダー
エレメントの波形をそれぞれ計測した。サンプリング間隔の設定については、JGS 0544:2011
により、伝播時間の読み取り誤差 1%以下で 1波あたり 100点のサンプリングができること
が望ましいとされる。ここでは送信波 10 kHz の周期は 0.1 ms なので、この 1 波に対して
100点のサンプリングが出来るよう、サンプリング間隔を 1 sとした。
また、加速度計による Vs測定のため 50 G 到達後に振動台を起動し、振幅 0.1 mm、200 Hz、
1 サイクルの正弦波で供試体を加振した。
p. 7
図 7 送信周波数 1 kHz、1.5 kHz、2 kHz、3 kHz、4 kHz、5 kHz に対する受信波形
0
5
10
15
20
25
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
送信波 が1 kHz (T = 1.00ms) のときの受信波形受信波の周波数
1.1 kHz
1.65 ms
0
5
10
15
20
25
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
送信波 1.5 kHz (T = 0.50 ms) のときの受信波形
受信波の周波数1.40 kHz2.30 ms
0
5
10
15
20
25
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
電圧
(mV
)
時刻 (sec)
送信波が 2 kHz (T = 0.66 ms) のときの受信波形
受信波の周波数1.89 kHz
2.09 ms
0
5
10
15
20
25
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
送信波 が3 kHz (T = 0.33 ms) のときの受信波形
受信波の周波数2.02 kHz
2.01 ms
0
5
10
15
20
25
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
電圧
(mV
)
時刻 (sec)
送信波 が4 kHz (T = 0.25 ms) のときの受信波形
受信波の周波数2.12 kHz
1.95 ms
0
5
10
15
20
25
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
送信波が 5 kHz (T = 0.2 ms) のときの受信波形
受信波の周波数2.16 kHz
1.96 ms
-6
-4
-2
0
2
4
6
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
電圧
(V)
時刻 (ms)
5 kHz 4 kHz 3 kHz 2 kHz 1.5 kHz 1 kHz送信波
p. 8
3. 実験結果
図 8は、1 g、10 g、20 g、30 g、40 g、50 gにおけるベンダーエレメントの計測データか
ら Vs を求め、遠心加速度との関係をプロットしたものである。遠心加速度が大きくなるに
つれて地盤の拘束力が増し、Vsも大きくなる傾向が現れている。同じ供試体を作成して計 3
回の計測を実施したが、3回ともに同じ傾向がみられた。
また、加速度計により求めた Vs の値もプロットしてあるが、ベンダーエレメントの計測
結果とよく一致していた。ただし、サンプリング間隔は 100 kHzであり、波形の立ち上がり
点の読み取り誤差が 3 %ほどあり、必ずしも常に望ましい結果が得られるとは限らないこと
に注意が必要であった。
図 8 遠心加速度と Vs の関係
送信波形が妥当であったかどうか検討するため、1 g、10 g、20 g、30 g、40 g、50 gにお
ける受信波の波形を図 9 に示す。いずれの g においても送信電圧の初動から受信電圧の初
動までにかかる時間は送信電圧の周期 0.1 ms よりも長く、前述の条件②を満たしていた。
しかしながら、受信波の周波数はいずれも 3 kHz~5 kHzであり、入力波の周波数 10 kHzは
大きく減衰していた。これでは条件①を満足しない。50 g場で受信波の周波数が 5 kHz であ
ったことから、今後は 5 kHzの送信波を用いて追加実験する必要があると考えられた。
3回目
y = 37.645x0.2587
R² = 0.9982
2回目
y = 41.564x0.3037
R² = 0.9964
10
100
1000
1 10 100
Vs(m
/s)
遠心加速度 (g)
3回目 加速度計3回目 ベンダーエレメント2回目 加速度計2回目 ベンダーエレメント1回目 加速度計1回目 ベンダーエレメント
p. 9
図 9 1 g、10 g、20 g、30 g、40 g、50 g における受信波形
0
5
10
15
20
0 0.5 1 1.5 2
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
1 gにおける受信波形受信波の周波数
2.9 kHz
1.39 ms
0
5
10
15
20
0 0.5 1 1.5 2
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
10 gにおける受信波形受信波の周波数
3.6 kHz
0.75 ms
0
5
10
15
20
0 0.5 1 1.5 2
電圧
(mV
)
時刻 (sec)
20 gにおける受信波形
受信波の周波数3.7 kHz0.60 ms
0
5
10
15
20
0 0.5 1 1.5 2
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
30 gにおける受信波形
受信波の周波数5.0 kHz0.58 ms
0
5
10
15
20
0 0.5 1 1.5 2
電圧
(mV
)
時刻 (sec)
40 gにおける受信波形
受信波の周波数5.2 kHz0.54 ms
0
5
10
15
20
0 0.5 1 1.5 2
電圧
(mV
)
時刻 (ms)
50 gにおける受信波形
受信波の周波数5.3 kHz0.51 ms
-10
-5
0
5
10
0 0.5 1 1.5 2
電圧
(V)
時刻 (ms)
送信波 10 kHz (T = 0.1 ms) 20 Vp-p
p. 10
4. おわりに
ベンダーエレメントセンサーを用いて異なる遠心加速度の遠心場において地盤模型の Vs
を測定した。3回の測定の結果から、遠心加速度と Vsに正の相関があることがわかった。ベ
ンダーエレメントによって求めた Vsと加速度計により求めた Vsはほぼ一致していた。しか
しながら、ベンダーエレメントに送信した電圧波形は試験法の条件を満たしておらず、今後
より適切な送信周波数を選んでゆく必要があることがわかった。
今回の試みの結果から、以下の 4点の課題が浮かび上がった。
(1) 送信周波数の選定
今後の追試験により、本供試体に対する適切な送信周波数を決定することが必要であ
る。さらに、飽和地盤だけでなく、さまざまな相対密度や湿潤状態の地盤に適合する送
信周波数の目安を調査することが望まれる。
(2) 波形発生装置の遠隔操作
課題(1)に述べたような送信周波数の選定作業を容易にするためにも、波形発生装置を
遠隔操作できるようなシステムを構築することが望ましい。
(3) データ解析手法の習得
受信波の立ち上がり点を見極める作業には、人為的誤差がどうしても含まれてしまう。
特に波形が崩れていたり、ノイズの影響が大きいと見極めはより困難となり、経験と工
学的判断が要求される。今回は波形の立ち上がり点やピーク点の時間差を読み取る手
法を用いたが、より客観的な結果を得るためには、相互相関関数の最初のピーク点に相
当する遅延時間を求めるクロスコリレーション法を使うことが望ましい。しかしなが
ら、クロスコリレーションを用いるためには送信波の条件①を満たすことが必須であ
り、課題(1)を優先的に解決することが望まれる。
(4) P 波の測定
地盤中の P 波速度には飽和度と相関があることが知られており、液状化や不飽和をテ
ーマとした実験にベンダーエレメント法を組み込むことは大変有意義だと思われる。P
波の測定については今後の課題としたい。
以上、これらの課題解決に取り組み、当実験室でベンダーエレメントを有効利用してゆくた
めには、試験方法やデータ整理の手法を自主的に勉強し知識を深めてゆく必要がある。また、
課題(2)のシステム構築を叶えるための技術向上も目指してゆく所存である。
謝辞
前田建設工業株式会社の三上武子様には、今回のベンダーエレメント導入にあたり、計測
機器の使用方法からデータ整理にいたるまで数多くのご助言とご指導を賜りました。また
本稿作成にあたりまして、種々のご助言を賜りました。心から感謝の気持ちを申し上げたく、
この場を借りて謝辞にかえさせていただきます。
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