86akademeia issue of public medical institution

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医療崩壊とは何か

2012/5/27

荒川 裕貴

QOC・86akademeia専属医師

医療崩壊にまつわるキーワード

超高齢社会

医療費高騰

たらい回し

医療訴訟

過労死

地域偏在

小児・産科不足

医療過誤

社会的入院

医師不足

墨東病院妊婦死亡事件

【メディアの報道】 2008年10月22日18:45 東京都江東区に住む妊婦(38)が激しい頭痛、吐き気、下痢を訴えかかりつけ五ノ橋産婦人科に救急車で搬送。

診察した医師は症状から脳出血を疑い、19:00頃都立墨東病院に受け入れ要請。

(墨東病院は周産期医療センター)

墨東病院は「当直医が1人しかいない」ので受け入れ拒否。

その後医師は日赤医療センター、順天堂大学病院、慶応大学病院など計7つの病院に受け入れを要請するもすべて拒否。

墨東病院妊婦死亡事件

妊婦はたらい回しにされた末、

19:45頃、再度墨東病院に受け入れ要請。

当直医は自宅にいた産婦人科部長を呼び出し、対応。

3日後、母親が死亡。

20:18 救急車が墨東病院に到着。

21:30頃 帝王切開で赤ちゃんを出産。

22:00頃 母親の脳出血の手術を施行。

墨東病院妊婦死亡事件

・周産期医療センターである墨東病院は

なぜ受け入れを「拒否」したのか?

・なぜ「たらい回し」が起こってしまったのか?

・この事件から見えてくる、日本の医療の真実とは?

日本の医療の評価

平均寿命→世界最長(83歳) 新生児・乳幼児死亡率→世界最低(1/1000,2/1000) 「World Health Statistics 2012」

健康寿命 第1位

医療の平等性 第3位

健康達成度 第1位! 「WHO World Health Report 2000」

総合評価 第1位! 「OECD Health Deta 2009」

知っていますか?日本の医療は…

日本の医療制度

・日本は「国民皆保険制度」 →国民の誰もが、いつでもどこでも安心して質の高い医療を受けられることを保障する制度

米国…公的保険+高い民間保険

・日本は「フリーアクセス」 →国民皆保険制度により、保険証があれば日本全国どの医療機関でも受診できる

英国…地域の家庭医に受診が原則

日本の医療の真の姿は?

世界からみて日本の医療はNo.1?

国民全員がいつでもどこでも安心して

質の高い医療を受けられる?

本当に、そう思いますか?

日本の医療のリアル

<全国の救急搬送状況(2007)>

3回以上医療機関に受け入れを拒否された件数

→約1万4000件

10回以上拒否された件数

→1074件

<全国の病院経営>

経営損失を生じた病院

→688病院、赤字額2236億円

都立墨東病院事件の場合

・救急車は墨東病院に受け入れを「拒否」された

→いつでもどこでも医療を受けられる?

・救急車はその後7つの病院を「たらい回し」された

→フリーアクセス?

・最終的に母親は死亡した

→安心して質の高い医療を受けられる?

日本の医療の真の姿は?

世界からみて日本の医療はNo.1?

国民全員がいつでもどこでも安心して

質の高い医療を受けられる?

日本の医療は、既に

崩壊し始めているのです

都立墨東病院事件の後に

舛添要一(厚労大臣:当時) 「週末に当直医が1人しかいない。これで重症の妊婦に対応

する周産期医療センターといえるのか。

東京都の救急の医療体制が悪い」

二階俊博(経済産業大臣:当時) 「医者のモラルの問題、忙しいだの、人が足りないだのと

いうのは言い訳にすぎない」

石原慎太郎(東京都知事) 「医師不足が原因であり、東京に任せられないのではなく、

国に任せられない。医師不足は国の責任」

日本の医療の実態

・日本は医師が不足しているのか?

・日本は医療費が高いのか?

日本の医師数

日本は医師が少ない!

〈医師数の統計〉 OECD平均 3.0人/1000人

日本 2.0人/1000人(下から4番目)

現在の日本の医師数は26-27万人

世界の平均を考えると、約13万人不足!

日本のGDPあたりの医療費

日本は医療費が安い!

〈医療費対GDPの統計〉 OECD平均 9.0%

日本 8.1%(22位、G7中で最低)

世界1位の長寿国、世界3位の経済大国

医療費対GDPは22位…

これ以上削減するんですか?(;_;)

病院医師の勤務時間

週勤務時間の平均は70時間を超える

病院医師の勤務体系

・32時間連続労働が当たり前!

日勤(8h)→当直(16h)→日勤(8h)

・休日勤務、呼び出しが当たり前!

待機はもちろん勤務時間ではない

病院勤務医は、疲弊しきっている… 「まるで聖職者さながらの犠牲的精神」

ヒラリー・クリントン民主党上院議員(現国務長官)

実際に起こること

32時間連続労働した医師に

あなたは切られたいですか?

医療崩壊の背景

1983年 「医療費亡国論」 吉村仁 厚生省保健局長(当時)

「20世紀末には日本は医師過剰になり、

不要な医療需要を招いて医療費を高騰させ、

国の財政を悪化させる原因となり、

国家を弱体化させる。」

→医療は社会的な負債である

医師不足の変遷

1970年代 医学部新設ラッシュ、一県一医大構想

医師の絶対数不足に加えて

勤務医離れ、仕事量の増加

⇒「医師不足」の顕在化

1983年~ 「医療費亡国論」 →医学部定員数の7%削減

1997年 医学部定員削減の閣議決定

2000年頃 医療訴訟の増加、医療不信の増大

2003年 初期臨床研修制度必修化

医師研修の変遷

戦後~1968年 インターン制度

「研修医=身分のない奴隷」の時代

→インターン闘争

1968~2004年 医師としての身分の保証

「研修医=格安の労働力」の時代

→過労死、アルバイトなどの問題

2004年~現在 初期臨床研修制度 国家試験合格後、2年の初期研修を義務化

マッチングシステムで研修先決定

アルバイトの禁止

医師研修の変遷

今まで…

卒後は、大学の「医局」に所属が普通

地域の病院は、「医局」から医師を派遣してもらっていた

2004年~現在 初期臨床研修制度

卒後の進路は自由である

→経験の詰める、待遇の良い市中病院に人材流出

→大学が人員確保困難

→「医局」が地方病院から人員の引き上げ

→地方病院の医師不足が加速

医師不足の変遷

2007年頃~ たらい回し事件などの頻発

医局による医師の引き上げ

集団退職、地域の病棟閉鎖・廃院…

医療崩壊が社会問題に!

医師が社会的役割を果たせる1人前になるには、

医学部6年間+研修医2年間+専門修練数年=8年以上先…

2008年 「医学部定員削減」閣議決定の見直し

医学部定員を過去最大程度まで増加

医師不足の変遷

世界的に高齢化

⇒どの国も医師不足

世界各国が医師増員

日本は「10年後」に

「今のOECD平均」 に達しますよ☆

By日本医師会2010

誰が医療を壊すのか

医療崩壊はひとえに政府の責任か?

医師訴訟の増加

産婦人科の裁判…139件/年 産婦人科医…9500人ほど

⇒約60%の産婦人科医が現役中に訴訟に合う!?

医師訴訟をめぐる攻防

・杏林大学病院男児割り箸事件 1999年-2008年 被告人無罪判決

マスコミが医師を痛烈に批判する報道

・福島県立大野病院妊婦死亡事件 2004年-2008年 被告人無罪判決

主治医は業務上過失致死の疑いで「逮捕」

善意で行った医療行為の結果が思わしくなかったという理由で、

刑事責任を問われる可能性があると認識

→医療従事者のリスク回避や、産科・救急からの中小病院の撤退

患者が担う医療崩壊

①コンビニ受診

平日昼間に受診せず、夜間や休日の救急外来を受診

→本当の重傷者が来たとき、診れないかも…

②大病院志向

大きな病院の方が安心

→高度機能を備えた病院で、軽症ばかりみることに…

③救急車の安易な利用

救急車をタクシー代わりに使う

→本来の緊急事態に対応できないかも…

墨東病院妊婦死亡事件

・なぜ周産期医療センターである墨東病院は

受け入れを「拒否」したのか?

墨東病院の産婦人科医は、

1人当たり年間100日も当直するほど人が足りなかった

更にこの日は、休日であり1人しか配置できなかった

→受け入れ「困難」であった

都立墨東病院事件の場合

・救急車はその後7つの病院を「たらい回し」された

①日赤医療センター 救急外来満床

②順天堂大学病院 2人の産科医が出産対応中

③慈恵医大青戸病院 脳外科医不在

④慶応大学病院 個室満床

⑤日大板橋病院 NICU満床

⑥慈恵医大病院 NICU満床

⑦東大病院 NICU満床

→「受け入れ不可能」であった

誰が医療を壊すのか

医療従事者は被害者か?

医療従事者は被害者か?

医療訴訟の原因の71%が医師-患者関係の不良 Levinson W.:Physician-Patient communication, JAMA,Vol. 272, No.20,1619-1620

医師の説明不足、専門用語の多用

事実とは異なる診療・救急対応の公表や隠蔽体質

「モンスターペイシェント」と呼ぶ被害者意識

あまりにも徹底的なリスク回避

医師の言葉や行動が、医師-患者関係を壊す

医療崩壊とは何か

政府の、医療情勢を無視した政策

メディアの、当事者の対立をあおるような報道

患者の、医療を軽視した自分本位の行動

医師の、過剰な被害者意識

これらの全てが、互いの不信を招き

互いの不信が、これらの全てを加速させる

医療に関わる全ての人の

信頼関係の崩壊である

私たちにできることは

<患者>

医療に対する知識を持ち、賢い患者になる ・コンビニ受診を控える

・かかりつけ医を持つ

・納得のいくまで説明を受ける

<医師>

患者に対して真摯に向き合う ・医療はコミュニケーションであると理解する

・患者の事情や心情に配慮する

・患者のリスクに寄り添う強さと、それに見合う力を持つ

都立墨東病院事件の結末

・死亡した妊婦の夫の記者会見

「誰を責める気持ちもありません。

裁判を起こすつもりもありません。

赤ちゃんを安心して産める社会にしてほしい。

どうすればそんな社会を築けるかについて、

医師、病院、都、国が力を合わせ改善してもらいたい。

妻の死を無駄にしないでほしい。」

医療再生に向けて

本来医療は、患者の健康のためにある

時に患者も医師も

同じ目的に向かう協力者であることを忘れがち

今こそ、医療を知り医療を考え

信頼関係を再構築していこう

それが、医療再生の第一歩である

医療にかかわる全ての人へ

「治すこと、時々

和らげること、しばしば

慰めること、いつも」 “To cure sometimes. To relieve often. To comfort always.”

Ambroise Paré(フランス 1510-1590)

終わり☆

ご静聴ありがとうございました!

終わり☆

<参考文献> 「なぜ、病院が大赤字になり、医師たちは疲れ果ててしまうのか!?」

日本の医療を守る市民の会 合同出版

「医療崩壊を越えて」 田川 大輔 ミネルヴァ書房

「医療崩壊の原因と再生」 佐野 継男 早稲田出版

「平成医新 Doctors Blog 2010.01.13 」 スーさん m3.com

その他、Wikipediaを始めとした多数のweb cite

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