■3 関東商工会議所連合会 調査 東京電力管内の電気料金 値上げの企業経営への影響 調99 調調貿13 調22 25 33 37 東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー 一般社団法人日本電気協会新聞部(電気新聞)は 2013 年 8 月、安定的で持続性の ある電力・エネルギーの供給を実現するための課題を探ることを目的に、有識者による 継続的な討論を行う「これからのエネルギー委員会」を発足させた。電力・エネルギー に関する多面的なテーマを取り上げ、幅広い分野の有識者をゲストに招いて、委員との 間で座談会を行うほか、原子力発電所などの立地地域の有識者と意見交換するフォーラ ムを開催している。 電力・エネルギーをめぐっては、今年 4 月に政府が新たな「エネルギー基本計画」 を閣議決定し、原子力は「重要なベースロード電源」として位置付けられた。しかしな がら全国の原子力発電所の運転停止が長期化していることにより、電気料金の値上げが 実施され、また電力需給も厳しい状況となっている。その一方でアベノミクスなどによ り景気が上向きかけている日本の産業界にとって、低廉で安定的な電力の供給は、持続 的成長を実現するために必要不可欠であると言える。 こうしたなか、これからのエネルギー委員会は中小企業の現場の実情を踏まえ、産業 界の視点からエネルギー問題を考えるため、2014 年 6 月 2 日、日本商工会議所の後 援により「東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー」を東商ホールで開催した。 フォーラムでは、日本商工会議所中小企業専門政策委員会委員を務める清水印刷紙工社 長の清水宏和氏、双日総合研究所副所長・チーフエコノミストの吉崎達彦氏をゲストに 招き、これからのエネルギー委員会から経済評論家の勝間和代氏(コーディネーター)、 常葉大学教授の山本隆三氏が参加し、電気料金の値上げによる影響や原子力、再生可能 エネルギーの課題などについて討論を行った。 電気新聞・これからのエネルギー委員会委員(50 音順) ・勝間 和代 氏(経済評論家) ・橘川 武郎 氏(一橋大学大学院教授) ・山地 憲治 氏(地球環境産業技術研究機構理事・研究所長) ・山本 隆三 氏(常葉大学教授) electricpowe energy electricpower electricpower energy energy electricpower energy electricpower 電気新聞・これからのエネルギー委員会 東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー Electric  Power Energy 2014.6.2 於 東商ホール、後援:日本商工会議所 勝間 和代 氏 かつま・かずよ 経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授 早稲田大学ファイナンス MBA、慶応大学商学部卒業。 株式会社監査と分析取締役、内閣府男女共同参画会議委員、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央 大学ビジネススクール客員教授として活躍中。 profile 出所:通関統計から作成 2009 2010 2011 2012 2013 -13.7兆円 日本の輸出入額の推移 25 9 18 30 1,011 H24 , 22.0 % / , 75.2% , 2.8%

電気新聞特別号「日本の産業を支えるエネルギー」 07 09

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Page 1: 電気新聞特別号「日本の産業を支えるエネルギー」 07 09

■ 3

■関東商工会議所連合会 調査東京電力管内の電気料金値上げの企業経営への影響

日本の経済状況

GDPはリーマンショック前の水準に

依然低調な製造業の回復がカギ

勝間 

日本の産業を支えるエネルギーという

テーマをめぐって議論を深めるために、まずは

景気に関する認識から伺いたい。

吉崎 今年(2014年)第1・四半期のGDP

が実額ベースで536兆円となり、ようやくリー

マンショック前の水準を超えたが、今後気がか

りなのは製造業の動きだ。2010年を基準年

とした今年4月の鉱工業生産指数は99・6で、

震災前後とほとんど変わっていない。リーマン

ショック前に120近くに達していたのと比較

すると、製造業が低調である一方で、非製造業

が好調であることにより景気が支えられている

ことがはっきりわかる。また、震災以降、原子

力発電所の停止に伴い火力燃料の輸入が増えた

ことなどにより、2013年度の貿易収支は13・

7兆円の赤字に達していることも懸念材料だ。

清水 大企業はアベノミクスの効果などで景気

が上向いているようだが、率直なところ、中小

企業レベルではなかなか実感できていない。足

元では円安の影響による原材料費上昇ととも

に、電気料金が値上がりするなどコストアッ

プの要因があり、今後の状況も厳しいとみて

いる。

山本 1990年代後半以降、デフレにより消

費者物価指数が落ちているが、それ以上に全体

の平均給与が大きく減少している。一人当たり

の付加価値が高く、平均給与が高い製造業の業

績が上向けば全体のGDPも増えていく。しか

し、その製造業の就労人口が減ってきており、

このままの傾向が続けば日本のGDPの世界

シェアはどんどん低下していくことになる。こ

れに対してリーマンショック以降のアメリカ、

中国、ドイツの製造業の付加価値額は上向いて

おり、特にアメリカはシェール革命の影響で急

激に復活している。

電気料金の値上げによる影響

転嫁できない電気料金の値上げ

国内への投資判断にも影響

勝間 昨年(2013年)秋、関東商工会議所

連合会が会員企業を対象に実施した調査では、

電気料金の値上げに関して22%が「大きな影響

があった」と回答し、特に製造業ではその割合

が約25%と高くなっている。また値上げによっ

て「生産活動の縮小、雇用・人件費削減などを

実施した」割合が全体で約33%、製造業では約

37%に上り、明らかに悪影響が出ている。一方、

2 ■

東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー

 一般社団法人日本電気協会新聞部(電気新聞)は 2013 年 8 月、安定的で持続性の

ある電力・エネルギーの供給を実現するための課題を探ることを目的に、有識者による

継続的な討論を行う「これからのエネルギー委員会」を発足させた。電力・エネルギー

に関する多面的なテーマを取り上げ、幅広い分野の有識者をゲストに招いて、委員との

間で座談会を行うほか、原子力発電所などの立地地域の有識者と意見交換するフォーラ

ムを開催している。

 電力・エネルギーをめぐっては、今年 4 月に政府が新たな「エネルギー基本計画」

を閣議決定し、原子力は「重要なベースロード電源」として位置付けられた。しかしな

がら全国の原子力発電所の運転停止が長期化していることにより、電気料金の値上げが

実施され、また電力需給も厳しい状況となっている。その一方でアベノミクスなどによ

り景気が上向きかけている日本の産業界にとって、低廉で安定的な電力の供給は、持続

的成長を実現するために必要不可欠であると言える。

 こうしたなか、これからのエネルギー委員会は中小企業の現場の実情を踏まえ、産業

界の視点からエネルギー問題を考えるため、2014 年 6 月 2 日、日本商工会議所の後

援により「東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー」を東商ホールで開催した。

フォーラムでは、日本商工会議所中小企業専門政策委員会委員を務める清水印刷紙工社

長の清水宏和氏、双日総合研究所副所長・チーフエコノミストの吉崎達彦氏をゲストに

招き、これからのエネルギー委員会から経済評論家の勝間和代氏(コーディネーター)、

常葉大学教授の山本隆三氏が参加し、電気料金の値上げによる影響や原子力、再生可能

エネルギーの課題などについて討論を行った。

   電気新聞・これからのエネルギー委員会委員(50 音順)

  ・勝間 和代 氏(経済評論家)

  ・橘川 武郎 氏(一橋大学大学院教授)

  ・山地 憲治 氏(地球環境産業技術研究機構理事・研究所長)

  ・山本 隆三 氏(常葉大学教授)

electricpowerenergy

electricpower

electricpowerenergy

energyelectricpower

energyelectricpower

電気新聞・これからのエネルギー委員会

東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー

Electric Power  Energy

2014.6.2 於 東商ホール、後援:日本商工会議所

勝間 和代 氏かつま・かずよ 経済評論家、中央大学ビジネススクール客員教授早稲田大学ファイナンス MBA、慶応大学商学部卒業。株式会社監査と分析取締役、内閣府男女共同参画会議委員、国土交通省社会資本整備審議会委員、中央大学ビジネススクール客員教授として活躍中。

p r o f i l e

出所:通関統計から作成

2009 2010 2011 2012 2013

-13.7兆円

■日本の輸出入額の推移

25 9 18 30

1,011

H24

, 22.0

%

/,

75.2%

, 2.8%

Page 2: 電気新聞特別号「日本の産業を支えるエネルギー」 07 09

■ 5 4 ■

い。この状態が続けば経常赤字にもなり国債の

格付けにも悪影響をもたらすことになる。また

化石燃料の輸入額増加により電気料金が上がっ

ているわけだが、製造業の年間の経常利益額が

15兆円程度の中で、電気代が1兆円も増えれば

大きな打撃だ。

電力需給への懸念

需給不安は景気腰折れの懸念材料

節電コストは中小企業の重荷

勝間 今年(2014年)の夏の電力の需給見

通しでは、東日本から西日本に融通することで、

西日本の予備率はなんとか3・4%を確保でき

る見通しだが、景気が上向く中で需要が増加す

ることも予想され、決して安心できる水準では

ない。関西経済連合会、九州経済連合会の調査

でも、「昨年夏と同様の節電率の達成は困難」

との回答が、全体で約25%、製造業で約35%、中

小企業では約39%にも達する。その理由で最も多

いのが「製品・サービスの需要増加」で、電力需

給の懸念が景気腰折れの要因になりかねない。

清水 経済産業省の電力需給検証小委員会の委

員を務めているが、火力発電設備の計画外停止

のリスクを懸念している。特に運転開始から40

年を超える老朽火力発電設備の計画外停止件数

は2010年からずっと増え続けている。しか

も火力発電設備全体に占める老朽火力の比率が

増加しており、計画外停止の可能性が高まって

いるといえる。一方で、川内原子力発電所の1

基(89万キロワット)が稼働するだけで、9電

力会社の予備率は0・5%改善することも注目

すべきではないか。

山本 日本の産業部門は、1973年から

1990年まではGDPが大きく伸びたにもか

かわらず、省エネ努力によってエネルギー消費

を減らしてきた。しかし、1990年頃からは

GDPも伸びない代わりにエネルギー消費もあ

まり減らなくなっている。これは、製造拠点の

海外移転が進む一方で、国内の設備更新が進ま

ずエネルギー効率の改善が進展しなかったこと

が要因となっている。この傾向を変えていく必

要があるが、景気が上向き始めたとはいえ、電

気料金の上昇と電力供給に懸念のある国内への

投資は敬遠される可能性がある。

清水 わたしの会社の工場でも震災以来、試行

錯誤しながら節電に努めているが、生産が伸び

る中でピーク電力をカットしても、消費電力量

は増える。しかも休日に生産をシフトすること

東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー 電気新聞・これからのエネルギー委員会

■日本の化石燃料輸入額の推移

■関西経済連合会 九州経済連合会 調査2014 年夏の節電・電気使用量見通し

(調査期間 2014 年 3月 3〜 28 日)

出所:通関統計

24.8% 73.4% 1.8%

34.6% 64.1% 1.3%

19.3% 78.6% 2.1%

39.4% 57.6% 1.5%

22.5% 75.7% 1.8%

33.3% 65.4% 1.3%

81.4% 2.1% 16.4%  

34.8% 62.1% 1.5%

■清水印刷紙工工場の電力量料金単価の推移(2012.06-2013.05 の 2 年間)

今年3月、関西経済連合会、九州経済連合会が

会員企業を対象に実施した調査では、経営上の

懸念事項として「電力コストの上昇」を挙げた

企業が約59%と、「消費税率の引き上げ」の約

50%を上回り最も多かった。

清水 東京電力管内にあるわたしの会社の工場

の電気料金の推移をみると、2012年6月に

は1キロワット時当たり11円47銭、これに燃料

費調整額、太陽光発電促進付加金、再生可能エ

ネルギー発電促進賦課金を加えると同12円7銭

だったが、電気料金の値上げにより昨年2月に

は15円45銭に、さらに消費税率アップで今年5

月には同18円20銭に上がった。この結果、2年

前と比較すると1カ月の電気料金が約63万5千

円、年間約760万円増えたことになる。消費

税の増税分は価格に転嫁できても、電気料金の

上昇分は転嫁できない。今のところ節電など

様々な取り組みにより何とかコストアップし

た分を吸収しているが、月に60万円あれば設

備投資など企業活動に有益な活用ができ、非

常に大きな数字だ。さらにもう一段の値上げ

となれば深刻な影響が出てくるといわざるを

得ない。

吉崎 電気料金の問題は、今後、企業の投資判

断に大きな影響を与える可能性がある。3・11

以降、超円高、政治の不透明性、そして電力供

給に関する不透明さが要因となって、企業の製

造拠点の海外移転が劇的に進み、その結果、月

次ベースで見た貿易収支も赤字に転じている。

ここにきて、国内への投資回帰を検討する動き

も出ているようだが、今後の電気料金の不透明

さは計算できないリスクとなり企業の投資判断

に影響を及ぼしかねない。

山本 1998年度には5兆円程度だった化石

燃料の輸入額が、2013年度には30兆円近く

に増えており、これが2011年度に赤字に転

落した貿易収支に大きく影響している。輸入燃

料費の増加による貿易赤字は、単なるコスト増

でしかなく、成長につながる性格のものではな

清水 宏和 氏しみず・ひろかず 清水印刷紙工社長早稲田大学教育学部教育学科社会教育専修を卒業後、米国ダラス大学大学院経営学修士(MBA、マーケティング・リサーチ専攻)を修了。2012 年 早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科博士後期課程を修了。博士(学術)。1994 年から現職。総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力需給検証小委員会、日本商工会議所 中小企業政策専門委員会など各種委員多数。

p r o f i l e山本 隆三 氏やまもと・りゅうぞう 常葉大学教授京都大学工学部卒業。住友商事に入社。地球環境部長等を経て、プール学院大学国際文化学部教授、2010 年から富士常葉大学(現常葉大学)総合経営学部教授。「夢で語るな日本のエネルギー」(鈴木光司氏との共著)ほか、エネルギー資源に関する論考を数多く発表している。

p r o f i l e

■関西経済連合会 九州経済連合会 調査経営上の懸念事項

(調査期間:2014年 3月 3日~25日)

10.4

5.7

12.1

12.5

10.0

24.3

54.6

47.9

54.3

5.1

1.9

24.4

19.2

14.7

25.0

67.9

75.6

41.7

8.5

4.4

16.5

14.9

11.7

24.5

59.4

57.8

49.8

0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0

n=436

n=156

n=280

2013年3月⇒約233万円/月2012年6月⇒約199万円/月

2014年5月⇒約262万円/月

Page 3: 電気新聞特別号「日本の産業を支えるエネルギー」 07 09

■ 7 6 ■

が、この再生可能エネルギーの固定価格買い取

り制度が大きなインパクトを与えているのは間

違いなく、ドイツでは一般家庭の負担額が年間

3万円を超えている。RPS(リニューアブル・

ポートフォリオ・スタンダード)という再生可

能エネルギーの買い取りを電力会社に義務付け

ているアメリカの州でも電気料金が上昇してお

り、オハイオ州では5月にこの制度を凍結す

る法律が上院を通過した。ドイツでもアメリカ

でも、産業競争力を維持向上させるためには電

気料金を抑える必要があるとの認識が強まって

いる。

清水 

昨年(2013年)、当社の工場に太陽

光パネルを設置してはという提案を受けたこと

がある。中国製の太陽光発電システム54㌔㍗の

設備に約1700万円を投じて導入するという

話だったが、これでは年間の電力使用量の4%

しか発電できず、しかも天候に左右される。と

ても生産の現場で使えるものではない。売電に

より20年で何百万円もうかりますという試算結

果を見せられたが、売電でもうけることは考え

ていないため、検討することはなかった。再生

可能エネルギーを増やしていく必要性は理解で

きるが、原子力が稼働しないために料金が上が

り、その上に燃料費調整額、さらに再生可能エ

ネルギーの賦課金を払わなければならず、企業

にとっては大きな負担だ。せめて原子力を再稼

働させ電気料金、燃料費調整額を抑制してもら

いたい。

吉崎 今ある設備を利用してキャッシュフロー

を生み出し、これを使って新しい設備に投資す

るというのはごく当たり前の考え方だ。通信な

どに比べ技術革新のスピードがゆっくりで設備

規模も大きい電気事業では、長期的な視点で投

資を繰り返してきた。しかし福島第一原子力発

電所の事故以降、そうした民間では普通の考え

方すらタブー視されていることこそ問題ではな

いか。

清水 買い取り価格が保証されている制度を利

用して、太陽光発電売電をビジネスにする企業

も増えている。しかし、川口商工会議所の鋳物

会社からヒアリングを行った際、印象的だった

のは、電気事業は利益を第一に考える人がやる

べきではないという言葉だ。

勝間 今日は、上向きかけた景気の足を引っ張

りかねない電気料金の上昇、ひっ迫する電力需

給の具体的な影響を踏まえながら、原子力発電

所再稼働の必要性や再生可能エネルギー導入促

進の課題などを幅広い観点から討論した。今後

も客観的なデータに基づき、状況を冷静に見極

めながら低廉で安定した電力・エネルギーの供

給を実現していくことが、日本の産業の健全な

発展のために必要なのではないだろうか。

東京フォーラム 日本の産業を支えるエネルギー 電気新聞・これからのエネルギー委員会

0.1000

0.1500

0.2000

0.2500

0.3000

0.3500

EU28

■高騰する EUの家庭用電気料金

出所:EU統計

で人件費はかさみ、節電のための設備を導入す

ればコストもかかる。中小企業にとって節電は

ほぼ限界に来ており、決して容易ではない。

原子力発電所の再稼働

安全が確認された原子力は早期再稼働を

世界は原子力を利用しないリスクに着目

勝間 

電気料金、電力需給の問題がある中で、

原子力発電所の停止が長期化していることにつ

いてどのように考えているか。

清水 これ以上の電気料金の上昇を防ぐために

も、安全が確認された原子力発電所については

一日でも早く再稼働していただきたい。再稼働

については様々な声があるが、新たに整備され

た規制基準、原子力発電所における様々な安全

性向上の取り組みについて、国民の理解が進ん

でいないのは残念だ。長期的な視点ももちろん

重要だが、中小企業の経営では今年、来年の見

通しが重要であり、まず安定的に、そしてこれ以

上料金が上がらないよう電力を供給していただき

たい。さらに今後の不透明性を排除するために、

原子力規制委員会で行われている安全審査につい

てもスケジュール感を示していただきたい。

山本 関西電力大飯発電所に関する福井地裁の

判決が出たが、判決文で述べられたリスクの見

方は違うのではないか。原子力発電所の運転

を停止したままで

は、日本の社会はよ

り大きなリスクを抱

えることになる。世

界には400基以

上の原子力発電所が

ある。これだけ世界

が原子力を利用して

いるのは、原子力を

利用するよりも利用しないリスクの方が大きい

からだ。また、今後東南アジアなどの新興国で

は経済発展に伴い電力需要が増え、それをすべ

て化石燃料でまかなうことになれば、資源の獲

得競争に一段と拍車をかけることになりかねな

い。だからこそベトナムは原子力の導入を決め

た。世界では日本の技術が必要とされており、

日本が果たすべき使命ではないか。

吉崎 電力インフラは国民共有の財産であり、

電気の利用者はオーナーシップ感覚を共有すべ

きだ。電力会社のバランスシートが悪化してい

るのは国民の財産が棄損されているようなも

の。そのインフラの一つである原子力はハード

ウエア、システムそして人によって支えられて

いるが、運転停止が長期化するほど人材育成が

心配になってくる。また、震災の際に女川原子

力発電所に周辺の住民が避難したというのも、

地域に住む身近な人が発電所を運営していると

いう信頼感があったからこそだと思う。そうし

た信頼関係も、日本の電力インフラの見えない

資産なのではないか。

勝間 日本商工会議所と日本経済団体連合会、

経済同友会が原子力の再稼働をはじめ低廉で安

定的な電力の供給を求める提言をまとめたが、

そうした産業界の要望に社会はもう少し耳を傾

け、政府も成長戦略の要としてエネルギー政策

をもっと重要視してもいいと思う。

再生可能エネルギーの課題

再エネ先進国ドイツは方針転換

負担増大する賦課金の抑制を

勝間 再生可能エネルギーについては、これま

で注目されてきたドイツでも見直しの動きが出

ているようだが。

山本 ドイツが再生可能エネルギーを積極的に

増やしてきた背景には、ロシアへのエネルギー

依存度を下げたいという思惑があるのだと思う。

しかしそのドイツ政府も今年(2014年)4

月に固定価格買い取り制度の対象設備を段階的

に縮小する方針を決定し、EU委員会も同様に

固定価格買い取り制度は家庭用に限るとの方針

を出した。EUの主要国では電気料金が上がっ

ている。その原因は化石燃料価格の上昇もある

MW

既 存 434 373,348

建設中 72 76,338

計画中 173 188,755

構想中 309 346, 370

■世界の原子力発電所

2014 年 4月現在  出所:世界原子力協会

吉崎 達彦 氏よしざき・たつひこ 双日総合研究所副所長・チーフエコノミスト一橋大学社会学部卒業。日商岩井(現双日)に入社。1991 年からブルッキングス研究所客員研究員。1993 年から経済同友会に出向し、代表幹事秘書調査役。1995 年に日商岩井調査・環境部に戻り以後、調査畑を歩む。日商岩井とニチメンの合併により、2004 年 4 月から現職。

p r o f i l e

※本フォーラムに関連するデータは電気新聞ホームページに収録してあります 電気新聞 これからのエネルギー委員会