27
力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運 動だけでなく,2次元の運動(重力下における鉛直面内での運動)も扱うことにより,2次元の運動を,直交 する2つの方向に分けて考える方法についても学習します。「力のつり合い」では,質点が受ける力のつり 合いだけでなく,剛体のつり合い,作用・反作用の法則についても学習します。いずれの項目も,今後,物 理の学習を進めていくうえで,非常に大切なものですので,多少時間がかかってもよいですから,一つ一つ 確実に理解していくようにしましょう。 直線上での運動 物体の運動を考えるうえで,基本となる概念を理解するために,まずは, 1 次元上(直線上)での運動につ いて以下で述べる。すでに理解している人はとばして構わないが,少しでも曖昧なところがある人は,一旦 ここで確認しておくと,この先の学習がスムーズに進められるだろう。 1 座標・速度・加速度   以下では,とくに指示がない場合,座標(または変位),速度,加速度の正の向きは,同じ向きにとる。 これらはいずれもベクトル量(大きさと向きをもつ量)であるが,ここでは,直線上での運動について考 えることに注意。 座標 座標は,(ある瞬間における)位置を表す物理量である。 なお,座標とよく似た物理量に変位がある。変位は,時刻 t=0 の瞬間の位置,あるいは今後学習す るつり合いの位置など,運動の途中で通過し得るある点を原点としたときの,その点からの座標の変化 量を表す物理量である。 速度 速度は,ある瞬間からある瞬間までの,単位時間当たりの変位を表す物理量である。 時刻 t 0 から時刻 t までの間に,座標が x 0 から x に変化する場合,この変化に要する時間は t-t 0,座 標の変化量(変位)は x-x 0 なので,この間の平均の速度を v とすると,v は,次の式で表される。 v t t x x 0 0 = - - v は,右の x-t グラフ(座標 x の時刻 t による変化を表すグラフ)にお いて,点 (t 0x 0),点 (tx) を結ぶ直線の傾きを表す。また,t t 0 極限をとると,時刻 t 0 の瞬間の速度が得られる。 ①の v の値が,t 0t の値のとり方によらず一定である運動を,等速 度運動という。等速度運動では,座標 x は,時刻 t 1 次関数として表 される。たとえば,v が一定値 v 0 の場合,t 0=0 とすると,時刻 t の瞬 間の座標 x は,①,および v=v 0  より,次の式で表される(ただし,x 0 は,時刻 t=(t 0=)0 の瞬間の座標を表す)。 x=x 0+v 0t O x t x x 0 t t 0 傾きv O x t x x 0 t t 0 傾きv XQSU01-Z1Z1-01

力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

��

力学

1 等加速度運動・力のつり合い

  1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運動だけでなく,2次元の運動(重力下における鉛直面内での運動)も扱うことにより,2次元の運動を,直交する2つの方向に分けて考える方法についても学習します。「力のつり合い」では,質点が受ける力のつり合いだけでなく,剛体のつり合い,作用・反作用の法則についても学習します。いずれの項目も,今後,物理の学習を進めていくうえで,非常に大切なものですので,多少時間がかかってもよいですから,一つ一つ確実に理解していくようにしましょう。

直線上での運動 物体の運動を考えるうえで,基本となる概念を理解するために,まずは, 1次元上(直線上)での運動について以下で述べる。すでに理解している人はとばして構わないが,少しでも曖昧なところがある人は,一旦ここで確認しておくと,この先の学習がスムーズに進められるだろう。

1 座標・速度・加速度   以下では,とくに指示がない場合,座標(または変位),速度,加速度の正の向きは,同じ向きにとる。これらはいずれもベクトル量(大きさと向きをもつ量)であるが,ここでは,直線上での運動について考えることに注意。

 座標 座標は,(ある瞬間における)位置を表す物理量である。 なお,座標とよく似た物理量に変位がある。変位は,時刻 t=0 の瞬間の位置,あるいは今後学習するつり合いの位置など,運動の途中で通過し得るある点を原点としたときの,その点からの座標の変化量を表す物理量である。

 速度 速度は,ある瞬間からある瞬間までの,単位時間当たりの変位を表す物理量である。 時刻 t0 から時刻 tまでの間に,座標が x0 から xに変化する場合,この変化に要する時間は t-t0,座標の変化量(変位)は x-x0 なので,この間の平均の速度を vとすると,vは,次の式で表される。

vt tx x

0

0=

--   ①

 vは,右の x-tグラフ(座標 xの時刻 tによる変化を表すグラフ)において,点 (t0,x0),点 (t,x)を結ぶ直線の傾きを表す。また,t→ t0 の極限をとると,時刻 t0 の瞬間の速度が得られる。 ①の vの値が,t0,tの値のとり方によらず一定である運動を,等速度運動という。等速度運動では,座標 xは,時刻 tの 1次関数として表される。たとえば,vが一定値 v0 の場合,t0=0 とすると,時刻 tの瞬間の座標 xは,①,および v=v0 より,次の式で表される(ただし,x0

は,時刻 t=(t0=)0 の瞬間の座標を表す)。x=x0+v0t  ②

O

x

t

x

x0

tt0

傾きv

O

x

t

x

x0

tt0

傾きv

XQSU01-Z1Z1-01

daigaku_senden
テキストボックス
本科 / Z Study サポート&トレーニング / 理系物理 見本
Page 2: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

��

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1 さて,時刻 t=0 の瞬間の座標が x0 であり,速度が v0 で一定の等速度運動をする物体の v-tグラフ(速度 vの時刻 tによる変化を表すグラフ)は,右図のように,t軸に平行な直線で表される。また,時刻 tの瞬間の物体の位置の座標を xとすると,xは②で表されるので,時刻 t=0 から時刻 tまでの間のこの物体の変位は

x-x0=(x0+v0t)-x0=v0t

これより,この物体の時間 (t-0=) tの間の変位は,右図において,v-tグラフと t軸で囲まれる部分(斜線部)の面積で表されることがわかる。

 加速度 加速度は,ある瞬間からある瞬間までの,単位時間当たりの速度の変化量を表す物理量である。 時刻 t0 から時刻 tまでの間に,速度が v0 から vに変化する場合,この変化に要する時間は t-t0,速度の変化量は v-v0 なので,この間の平均の加速度を aとすると,aは,次の式で表される。

at tv v

0

0=

--   ③

 aは,右の v-tグラフにおいて,点 (t0,v0),点 (t,v)を結ぶ直線の傾きを表す。また,t→ t0 の極限をとると,時刻 t0 の瞬間の加速度が得られる。 ③の aの値が,t0,tの値のとり方によらず一定である運動を,等加速度運動という。等加速度運動では,速度 vは,時刻 tの 1次関数として表される。たとえば,aが一定の場合,t0=0 とすると,③より,次の式が得られる(ただし,v0 は,時刻 t=(t0=)0 の瞬間の速度を表す)。

v=v0+at  ④ 

2 等加速度運動    1 の「加速度」で述べたように,加速度が一定の運動を等加速度運動という。ところで,初速度(時刻 t=0 の瞬間の速度)が v0,加速度が aで一定のとき,時刻 t

の瞬間の速度 vは④で表される。このとき,時刻 t=0 から時刻 tまでの間の変位を xとすると,v-tグラフと t軸で囲まれる部分の面積が変位を表すことから,xは

x v t atv v t21

21

0 02= + = +] g   ⑤ 

と表されることがわかる(右図参照)。また,⑤の x=(v+v0)t/2 と,④より得られる at=v-v0 の辺々の積をとると,時刻 tを含まない次の式が得られる。

x at v v t v v v v t21

21

0 02

02

$ $= + - = -] ] ]g g g    ∴ v2-v02=2ax  ⑥

④,⑤,⑥は,使用頻度が非常に高い式なので,覚えておくこと。なお,⑤の状況に加えて,時刻t=0 の瞬間における座標が x0 の場合,時刻 tの瞬間における座標Xは,次のように表される。

X x x x v v t x v t at21

21

0 0 0 0 02= + = + = + ++] g   ⑦

v0

t0O

v

t

v

t

傾き av0

t0O

v

t

v

t

傾き a

xv0

v

v

O tt

v=v0+at

xv0

v

v

O tt

v=v0+at

O

v

t

v0

t

v=v0

x-x0

XQSU01-Z1Z1-02

Page 3: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

��

 v-tグラフの面積について 前ページで述べたように,v-tグラフと t軸で囲まれる部分の面積は,変位を表す。ここで,右図のように,v-tグラフに v<0 の区間が存在する場合について注意しておこう。 v<0 の区間では,速度が負であることから,この区間において,微小時間 Dtの間の変位を考えると,その値は負であることがわかる。そこで,この区間において,v-tグラフと t軸で囲まれる部分の面積を用いる場合,その面積に負号(マイナス)をつけた量が実際の変位を表すと考える。たとえば,上図のように,区間 0EtET において,v-tグラフと t軸で囲まれた 2つの部分(v>0 の部分と v<0 の部分)の面積がそれぞれ S1 (>0),S2 (>0)のとき,時刻 t=0 から時刻 t=T までの間の変位を x,移動距離を Lとすると,x,Lはそれぞれ,次の式で表される。

x=S1-S2,  L=S1+S2

3 ベクトル量とスカラー量   運動学の話からはややそれるが,物理を学習するうえで,ベクトル量とスカラー量の区別は避けて通れないので,なるべく早い段階で紹介しておきたいと思い,ここで説明することにした。 ベクトル量とスカラー量の区別は, 1次元の運動を 2次元や 3次元に拡張したり,各物理量の定義を行ったりする際に重要である。今後,新しい物理量を学習したら,その物理量がベクトル量であるのかスカラー量であるのかも,併せて確認しておくこと。 ただし,日常生活においては,ベクトル量とスカラー量の区別はいい加減である。たとえば,日常生活においては,ベクトル量である速度と,スカラー量である速さを,ほとんど区別していない。

 ベクトル量 ベクトル量とは,大きさと向きをもつ量のことである。変位,速度,加速度は,すべて大きさと向きをもつ物理量であり,これらはすべてベクトル量である。また,力学でいえば,力,運動量,力積なども,ベクトル量である。

 スカラー量 スカラー量とは,大きさのみをもつ(向きをもたない)量のことである。変位の大きさである距離(道のりもスカラー量),速度の大きさである速さは,大きさのみをもつ物理量であり,これらはすべてスカラー量である。また,力学でいえば,質量,仕事なども,スカラー量である。

 おまけ(時刻と時間) 時刻とは,各瞬間における時を示す値のことである。「今何時?」という質問において聞かれているのは,厳密にいえば「時刻」であって,以下で述べる「時間」を聞いているわけではない。 時間とは,ある時刻からある時刻までの時の間隔である。たとえば,午後 1時から午後 2時までの時間は 1時間である。 ただし,物理においては,「時刻」の意味で「時間」ということもある。これは,たとえば,ある瞬間(「時刻」)における速度を考える場合に,ある瞬間から微小「時間」の間の変位を考えるなど,ある時刻における状態を考える際にも,単純に時刻と時間を分けて考えることができないためであろう。

v

tOT

S1

S2

v

tOT

S1

S2

XQSU01-Z1Z1-03

Page 4: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

��

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1

 一直線上における物体の運動を表すには,物体が運動する直線上のある点を原点 Oとして,この直線に沿って x軸をとり,ある時刻 tの瞬間における物体の座標 x,速度 v,加速度 aを,それぞれ時刻tの関数として表せばよい。また,一般に,x,v,aは,符号(向き)をもつ量(ベクトル量)であるが,ここではいずれの値も正の値である場合について考える(以下で用いる x0,v0,a0 も正の値であるとする)。なお,以下では,たとえば縦軸に x,横軸に tをとって,xと tの関係を表すグラフを,x-tグラフとよぶことにする。ただし,以下の設問のうち,グラフ作図の設問では,tF0 の場合についてのみ作図すればよい。問1 物体が x軸上で座標 x0 の点に静止している場合の x-tグラフを描け。問2 物体が x軸上で一定の速度 v0 で運動している場合について考える。⑴ このときの v-tグラフを描け。⑵ 時刻 t=0 の瞬間における物体の座標を x=x0 として,x-tグラフを描け。

問3 物体が x軸上で一定の加速度 a0 で運動している場合について考える。ただし,時刻 t=0 の瞬間における物体の座標を x=0,速度(初速度)を v=v0 とする。⑴ このときの a-tグラフを描け。⑵ このときの v-tグラフを描け。⑶ 時刻 tの瞬間における物体の座標 xを,t,v0,および vを用いて表せ。⑷ 時刻 tの瞬間における物体の座標 xを,t,a0,および v0 を用いて表せ。⑸ このときの x-tグラフを描け。

問4 新幹線ひかり号の平均の速さ(時速)を 1.80#102 km/hとすると,これは何m/sか。有効数字を考慮して答えよ。

 有効数字について 1 h=60分, 1分=60 sと定めるときの 60 は,測定値ではなく定義だから,有効数字無限桁と考えてよい。なお,有効数字 3桁と無限桁の積,商は, 3桁まで信用できる(有効数字 3桁である)。 ところで,たとえば,有効数字 4桁とは, 4桁目まではだいたい

4 4 4 4

確かだが, 5桁目以降はよくわからないという意味である。これは,物理における測定で, 3桁目まで目盛を打ってある計器を用いる(たとえば,数十 cmの長さを 1 mm刻みの目盛のついたものさし

4 4 4 4

を用いて測る)場合, 4桁目は目盛以下を目測で読む(目測で 0.1 mmの位まで読みとる)ので, 4桁目は!1 程度あやしいということを指すと考えればよい(もちろん,この測定では, 5桁目(0.01 mmの位)以下の値はよくわからない)。 たとえば,有効数字 4桁のとき,15.31 は,15.30~15.32 の間のいずれかの数値であることを意味し,20.47 は,20.46~20.48 の間のいずれかの数値であることを意味するとみなせる。このとき,これらの積を 考 え る と,15.31#20.47=313.3957 に な る が, 実 は 15.30#20.46=313.0380 か ら 15.32#20.48

=313.7536 までの間のいずれかの値が真の値である。そこで便宜的に,有効数字 4桁と有効数字 4桁の積は有効数字 4桁の数値として扱うことができると考え,15.31#20.47=313.3957 の 5桁目を四捨五入して,313.4 を答とするのである。

練習問題練習問題

XQSU01-Z1Z1-04

Page 5: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

��

解答

問3⑴,⑵ 右図

⑶  v v tx21

0= +] g

⑷  v t a tx21

0 02= +

⑸ 右図問4 50.0 m/s (=5.00#10 m/s)

解説

問1 物体が静止しているので,時刻 tによらず座標は x=x0  で一定。問2⑴ 速度が一定なので,時刻 tによらず速度は v=v0  で一定。⑵ xの変化量(変位)は,v-tグラフと t軸で囲まれる部分の面積に等しい(右図の斜線部)。このことと,本問の場合,時刻 t=0 における物体の座標が x=x0 であることに注意し,xを tの関数として表すと

x=x0+v0t

 これを x-tグラフで表すと,上の「解答」の図のようになる。  なお,v-tグラフが曲線の場合(加速度が一定でない場合)も,v-tグラフと t軸で囲まれる部分の面積が xの変化量(変位)に等しい。これが積分の思想である。

問3⑴ 加速度が一定なので,時刻 tによらず加速度は a=a0  で一定。⑵ vの変化量は a-tグラフと t軸で囲まれる部分の面積に等しい(問2⑵の xの変化量と v-tグラフの関係と同様)。このことと,本問の場合,時刻 t=0 における物体の速度が v=v0 であることに注意し,vを tの関数として表すと

v=v0+a0t

 これを v-tグラフで表すと,上の「解答」の図のようになる。  ところで,加速度 aは,v-tグラフの傾きで表されるので,加速度が一定ならば,v-tグラフは傾きが一定の直線になる(問3⑵の場合)。  また,速度 vは,x-tグラフの傾きで表されるので,速度が一定ならば,x-tグラフは傾きが一定の直線になる(問2⑵の場合)。  なお,v-tグラフや x-tグラフが曲線の場合には,注目している点と,その点に限りなく接近した点を結ぶ直線(これを接線とよぶ)の傾きをもって,注目している点での傾きとする。これが微分の思想である。⑶ xは,問2⑵と同様に考えれば,問3⑵で得た v-tグラフと t軸で囲まれる台形の面積に等しいので

xv0t

t x

x=x0+v0tx

x0

Ot

問1 v

v0

Ot

問2⑴ x

x0

Ot

t

va0t

t v

v=v0+a0ta

a0

Ot

⑴ ⑵ v

v0

Ot

t

21

x= a0t2

x=v0t

x

Ot

21

x=v0t+ a0t2

xv0t

t x

x=x0+v0tx

x0

Ot

問1 v

v0

Ot

問2⑴ x

x0

Ot

t

va0t

t v

v=v0+a0ta

a0

Ot

⑴ ⑵ v

v0

Ot

t

21

x= a0t2

x=v0t

x

Ot

21

x=v0t+ a0t2

「研究」参照。

つまり,上図で点 Qを点 Pに限りなく近づけたとき,直線PQが,点 Pにおける接線に等しくなる(「研究」参照)。

O

v

tt

v0

面積v0t

O

P

Q

接線

「研究」参照。

つまり,上図で点 Qを点 Pに限りなく近づけたとき,直線PQが,点 Pにおける接線に等しくなる(「研究」参照)。

O

v

tt

v0

面積v0t

O

P

Q

接線

XQSU01-Z1Z1-05

Page 6: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

��

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1 v v tx21

0= +] g

⑷ v-tグラフで,v=v0 を通り,t軸に平行な直線を引くと,求める座標xは,長方形の面積 v0tと,三角形の面積 a0t2/2 の和に等しいので

v t a tx21

0 02= +

⑸ x=v0t の表す直線と x=a0t2/2 の表す放物線を,x-tグラフ上で合成すればよい。または,問3⑷で得た式を変形することにより得られる

x a t v t a tav

av

21

21

20

20 0

0

02

0

02

= + = + -d n

 より,この x-tグラフは,頂点が (t,x)=(-v0/a0,-v02/(2a0)) で原

点 Oを通る下に凸の放物線(の tF0 の部分)であることがわかる。問4 1 km=103 m,1 h=602 s であるので

1.80 1060 60

1.80 10 1050.0km/h

sm

m/s22 3

##

# #= =

研究

 「微分の思想」と「グラフの接線の傾き」 速度が時間的に変化する場合の,ある瞬間における速度 vは,その瞬間から非常に短い時間 Dtだけ経過する間の座標の変化量を Dxとして,v=Dx/Dt で定義される。たとえば,aを定数として x=at2/2 と表される場合(等加速度運動で,初速度が 0,加速度が aの場合),Dxは

Dx=21

{a(t+Dt)2-at2}=atDt+21

a(Dt)2

   ∴ 2

vtx

a tt

D

D D= = +d n

上式で Dtを限りなく小さくすると(Dt→0),v→ atとなる。このとき,atは x-tグラフの接線の傾きを表す。問3⑸での x-tグラフは下に凸の放物線であるが,その場合の速度 v0+a0tも,時刻 tの瞬間における x-tグラフの接線の傾きを表す。興味のある人は確認しておいてほしい。 なお,ここでは問題として扱ってはいないが,v-tグラフの接線の傾きは,時刻 tの瞬間における加速度 aを表す。このことも併せて押さえておいてほしい。 「積分の思想」と「グラフと t軸で囲まれる部分の面積」 v-tグラフを,t軸に沿って微小区間(時間)Dtごとに分割し,グラフを階段状の折れ線で近似すれば,各長方形の面積 Dx=vDtは,各微小区間(時間)内の位置の変化量(座標の変化量(変位))の近似値を表す。したがって,その総和が,位置(座標)の変化量の総和の近似値を表すことになる。このとき,Dtを小さくすればするほど精度が上がり,Dt→0 の極限では,v-tグラフを表す曲線と t軸で囲まれる部分の面積に一致する。 また,v<0 の場合,v-tグラフを表す曲線は,t軸より下側にあるが,このときも,v-tグラフと t軸で囲まれる部分の面積が変位の大きさに等しい。ただし,v<0 のときは,負の向きに移動しているので,v<0 の間の変位は,この面積に負号(-(マイナス))をつけたもので表されることに注意。 なお,ここでは問題として扱ってはいないが,a-tグラフ(加速度 aの時間(時刻)変化を表すグラフ)とt軸で囲まれた部分の面積は速度(の変化量)に等しいことも,併せて押さえておいてほしい。

もちろん問3⑶の結果に v=v0+a0t

を代入してもよい。

1.80#102 km/hは有効数字 3

桁である。

v0

v

O tt

v=v0+a0t

面積v0t

面積21

a0t2

もちろん問3⑶の結果に v=v0+a0t

を代入してもよい。

1.80#102 km/hは有効数字 3

桁である。

v0

v

O tt

v=v0+a0t

面積v0t

面積21

a0t2

Dx

x

O tt+Dt

t

21

x= at2

Dx

x

O tt+Dt

t

21

x= at2

Dt

v

v

Ot

面積≒x

Dt

v

v

Ot

面積≒x

XQSU01-Z1Z1-06

Page 7: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1010

重力下における運動 重力のみを受ける場合の運動は,重力の方向である鉛直方向の運動と,重力と直交する方向,つまり,力を受けない方向である水平方向の運動に分解すると考えやすい。まずは,鉛直方向のみの運動を理解し,続いて,鉛直方向だけでなく,水平方向にも運動する場合について理解してほしい。

4 自由落下・鉛直投げ上げ運動・鉛直投げ下ろし運動   重力下における鉛直方向の運動は,重力加速度(大きさは通常 gと表す)による等加速度運動である。

 自由落下 自由落下では, 1, 2 の④~⑦において,v0=0,a=g あるいは-gとおけばよいだけである。aの値(符号)については,重力加速度はつねに鉛直下向きなので,鉛直上向きを正とするときは a=-g,鉛直下向きを正とするときは a=g とすればよい。

 鉛直投げ上げ運動 鉛直投げ上げ運動は,初速度が鉛直上向きの場合の,重力下における運動のことである。自由落下と同様,鉛直上向きを正とするときは a=-g,鉛直下向きを正とするときは a=g とすればよい。通常は,初速度の向きを正とすることが多く,その場合, 1, 2 の④~⑦において,v0>0 となるように初速度をとり,a=-g とする。

 鉛直投げ下ろし運動 鉛直投げ下ろし運動は,鉛直投げ上げ運動に対し,初速度が鉛直下向きの場合の,重力下における運動のことである。自由落下と同様,鉛直上向きを正とするときは a=-g,鉛直下向きを正とするときは a=g とすればよい。通常は,初速度の向きを正とすることが多く,その場合, 1, 2

の④~⑦において,v0>0 となるように初速度をとり,a=g とする。

5 放物運動   自由落下・鉛直投げ上げ(投げ下ろし)運動は,鉛直方向のみ(鉛直線上で)の運動だが,初速度が水平成分をもつ場合には,放物運動とよばれる運動をする。放物運動は,水平方向の等速度運動と鉛直方向の鉛直投げ上げ運動(鉛直投げ下ろし運動または自由落下)に分解して考えることができる。この理由については,2 で運動の法則(運動の第 2法則(運動方程式))を学習する際に説明する。

6 相対速度   ある観測者から見て,それぞれ速度 vA,vB で運動している物体A,Bがあるとき,物体Aに対する物体 Bの速度(相対速度)V は,次の式で表される。 V v vB A= -

これをベクトル図で表すと,右図のようになる。同様に,「○○に対する99の速度(相対速度)」は,機械的に次の計算を行うことで,値が求められる。

[(ある観測者に対する)99 の速度]

-[(ある観測者に対する)○○の速度] 

vA

V

vB

V = vB - vA

vA

V

vB

V = vB - vA

XQSU01-Z1Z1-07

Page 8: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1111

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1

 物体の放物運動について考える。放物運動は,初速度を含む鉛直面内での水平方向の等速度運動と,鉛直投げ上げ,投げ下ろしなどの鉛直方向の運動を合成した運動と考えることができる。なお,放物運動における物体の加速度(重力加速度)は鉛直下向きで,その大きさは gで一定である。 ここでは,図のように,水平な地面上の点 Oから,物体を初速度の大きさ v0 で右斜め上方に投げ出す場合について考える。点 Oを原点とし,水平右向き正の x軸,鉛直上向き正の y軸をとり,投げ出してから時間 t後の物体の座標を (x,y)とする。また,物体の初速度の水平成分の大きさを u0,鉛直成分の大きさを w0 とする。さらに,物体の大きさは無視できるものとし,物体を投げ出してから,物体が着地するまでの間について考えるものとする。問1 物体の x座標を,tの関数として表せ。問2 物体の速度の y成分 vy(+y向き正)を,tの関数として表せ。さらに,物体が着地するまでの間

についての vy-tグラフを描け。ただし,グラフには主要値を示すこと。問3 物体の y座標を,tの関数として表せ。問4 問1,問3で得た式から tを消去して,物体の軌道(実際に物体が描く経路)を表す式(xと yの

関係式)を求めよ。問5 問4で得た式では,yが xの 2次関数として表されることから,物体の軌道は放物線になること

がわかる。しかし,物体の軌道の最高点や着地点を求めるには,この軌道の式を用いるよりも,問1~問3で得た x,y,vy(を tの関数として表した式)やグラフを用いる方が簡単なことも多い。そこで,最高点では vy=0 であることを用いて,物体が最高点に達するまでに要する時間 t1,および最高点の地面からの高さ(最高点の y座標)y1 をそれぞれ求めよ。

問6 vy-tグラフと t軸で囲まれる vyF0 の領域の面積は上向きの変位,vy<0 の領域の面積は下向きの変位に等しい。このことを踏まえて,物体を投げ出してから着地するまでに要する時間 t2 を,t1 を用いて表せ。

問7 出発点から着地点までの(水平)距離Xを,u0,w0,および gを用いて表せ。問8 物体を投げ出す角度を変えると,出発点から着地点までの距離Xも変化する。そこで,物体を

投げ出す角度を変えたときのXの最大値を求めるため,v0 を直径とする半円を描く。問7の結果に注目すると,Xは,この半円の直径を底辺(斜辺)とする半円に内接する直角三角形の面積に比例することがわかる。この面積の最大値を考えることにより,Xの最大値を,v0,gを用いて表せ。

問9 上で考えた物体の運動を,物体が投げ出された瞬間から(y軸に平行に)自由落下し始める観測者Olから見た場合について考える。物体,および観測者 Olが着地するまでの間に,Olが観測する物体の運動について述べよ。

練習問題練習問題

v0 v0

w0

u0

(x, y)

x

g

y

O

v0 v0

w0

u0

(x, y)

x

g

y

O

XQSU01-Z1Z1-08

Page 9: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1212

解答

問1 x=u0t  問2 vy=w0-gt,グラフは右図  問3  w t gty21

02= -

問4 uw

xug

xy20

0

02

2= -   問5 g

wg

wt y

21 1

0 02

,= =

問6 t2=2t1  問7 g

u wX

2 0 0=   問8 

gv0

2

  問9 「解説」参照

解説

問1 物体は,水平方向には,速さ u0 で等速度運動をするので,xを t

の関数として表すと x=u0t

問2 加速度の y成分を ay とすると,ay は鉛直上向き(+y向き)を正として ay=-g であるから,vy を tの関数として表すと

vy=w0-gt  ①  したがって,vy-tグラフは,「解答」の図のように表される(主要値については,問5,問6参照)。

問3 物体の座標 yは,vy-tグラフと t軸で囲まれる台形(右図の斜線部)の面積に等しいので

w t gty w w gt t21

21

0 0 02

$= + - = -] g" ,   ② 

問4 問1の結果より得られる t=x/u0 を,②に代入すると

uw

xug

xy20

0

02

2= -

問5 ①に vy=0,t=t1 を代入して,t1 について解くと

g

wt1

0=

 y1 は vy-tグラフの 0EtEt1 の部分と t軸で囲まれる部分(右上図の斜線部)の面積に等しいので

g

wy w

gw

21

21 0

0 02

$= =

問6 再び地上に着いた瞬間の y座標は y=0 であるから,右図の 2つの三角形(斜線部)の面積(S1 と S2)は等しい。したがって

t2=2t1

問7 水平方向には,速度(の x成分)u0 で等速度運動をするので,Xは

g

u wX u t u

gw2 2

0 2 00 0 0

$= = =

問8 v02=u0

2+w02 であるから,v0,u0,w0 は,右図のように,v0 を直

径とする半円に内接する直角三角形の各辺の長さに対応する。この直角三角形の面積を Sとすると S=u0w0/2 であることと,問7の結果より,Xは Sに比例する(X=(4/g)S)ことがわかる。ところで,Sが最大になるのは,v0 を底辺とする右図の三角形の高さが最大になるとき,すなわち, /u w v 20 0 0= = のときであるから,Xの最大値をXMAX と

vyw0

(=t1)

tO

-w0

(=t2)

w0g

2w0g

vyw0

(=t1)

tO

-w0

(=t2)

w0g

2w0g

vy=w0-gt

vy

w0

ttO

t1

vy=w0-gt

vy

w0

tO

w0

w0

g

vy=w0-gt

vy

w0

ttO

t1

vy=w0-gt

vy

w0

tO

w0

w0

g

S1=S2

vyw0

-w0

t1

t2tO

S1

S2

S1=S2

vyw0

-w0

t1

t2tO

S1

S2

i0

v0 w0

u0i0

v0 w0

u0

②に t=t1(=w0/g)を代入して求めてもよい。

問5,問6より t2=2t1=2w0/g

である。

このとき,長さ v0,u0,w0 の3辺からなる直角三角形は,直角二等辺三角形となる。

XQSU01-Z1Z1-09

Page 10: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1313

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1解答

問1 x=u0t  問2 vy=w0-gt,グラフは右図  問3  w t gty21

02= -

問4 uw

xug

xy20

0

02

2= -   問5 g

wg

wt y

21 1

0 02

,= =

問6 t2=2t1  問7 g

u wX

2 0 0=   問8 

gv0

2

  問9 「解説」参照

解説

問1 物体は,水平方向には,速さ u0 で等速度運動をするので,xを t

の関数として表すと x=u0t

問2 加速度の y成分を ay とすると,ay は鉛直上向き(+y向き)を正として ay=-g であるから,vy を tの関数として表すと

vy=w0-gt  ①  したがって,vy-tグラフは,「解答」の図のように表される(主要値については,問5,問6参照)。問3 物体の座標 yは,vy-tグラフと t軸で囲まれる台形(右図の斜線部)の面積に等しいので

w t gty w w gt t21

21

0 0 02

$= + - = -] g" ,   ② 

問4 問1の結果より得られる t=x/u0 を,②に代入すると

uw

xug

xy20

0

02

2= -

問5 ①に vy=0,t=t1 を代入して,t1 について解くと

g

wt1

0=

 y1 は vy-tグラフの 0EtEt1 の部分と t軸で囲まれる部分(右上図の斜線部)の面積に等しいので

g

wy w

gw

21

21 0

0 02

$= =

問6 再び地上に着いた瞬間の y座標は y=0 であるから,右図の 2つの三角形(斜線部)の面積(S1 と S2)は等しい。したがって

t2=2t1

問7 水平方向には,速度(の x成分)u0 で等速度運動をするので,Xは

g

u wX u t u

gw2 2

0 2 00 0 0

$= = =

問8 v02=u0

2+w02 であるから,v0,u0,w0 は,右図のように,v0 を直

径とする半円に内接する直角三角形の各辺の長さに対応する。この直角三角形の面積を Sとすると S=u0w0/2 であることと,問7の結果より,Xは Sに比例する(X=(4/g)S)ことがわかる。ところで,Sが最大になるのは,v0 を底辺とする右図の三角形の高さが最大になるとき,すなわち, /u w v 20 0 0= = のときであるから,Xの最大値をXMAX と

vyw0

(=t1)

tO

-w0

(=t2)

w0g

2w0g

vyw0

(=t1)

tO

-w0

(=t2)

w0g

2w0g

vy=w0-gt

vy

w0

ttO

t1

vy=w0-gt

vy

w0

tO

w0

w0

g

vy=w0-gt

vy

w0

ttO

t1

vy=w0-gt

vy

w0

tO

w0

w0

g

S1=S2

vyw0

-w0

t1

t2tO

S1

S2

S1=S2

vyw0

-w0

t1

t2tO

S1

S2

i0

v0 w0

u0i0

v0 w0

u0

すると,問7の結果より

/

gv

Xg

v2 2MAX

02

02

= =] g

問9 物体が投げ出されてから時間 tだけ経過した瞬間における,観測者Olの速度の x成分をVx(+x向き正),y成分をVy(+y向き正)とすると

Vx=0,  Vy=-gt

 よって,Olから見た物体の速度の x成分を vxl(+x向き正),y成分をvyl(+y向き正)とすると

vxl=u0-Vx=u0

vyl=vy-Vy=(w0-gt)-(-gt)=w0

 これより,Olから見た物体の運動は,向きが,+x向きとなす角度を i0

として  tan i0=w0/u0 を満たす向きであり,大きさが ( u w02

02+ =) v0

である速度をもつ,等速度運動であることがわかる。

研究

問8 別解を紹介しておこう。初速度と+x向きとのなす角度を i0(0c<i0<90c)とすれば(「解説」の問8の欄外の図参照),初速度の x成分,y成分はそれぞれ u0=v0cos i0,w0=v0sin i0 と表される。よって,問7の結果より,Xは

sin cos sin

Xg

u wg

vg

v2 2 20 0 02

0 0 02

0i i i= = =

 このXが最大になるのは 2i0=90c(i0=45c)のときであり,Xの最大値は v02/gである。

 ベクトルで考える問6,問7 初速度方向の等速度運動と鉛直方向の自由落下運動の合成を考える。物体を投げ出してから着地するまでに要する時間を t2 とすると,変位のベクトル図として右図を得る。右図より,たとえば,次の式が得られる。

21

gt22=v0t2sin i0,  X=v0t2cos i0

上の第 1式より,t2=2v0sin i0/g が得られる。また,上の 2式の積をとって整理すると,次のように,Xの値が得られる。

21

gX=v02sin i0cos i0   ∴  sin

Xg

v 202

0i=

また,問5で用いたように,最高点では速度の鉛直成分が 0となることより,物体を投げ出してから速度が水平になるまでに要する時間は t1 である。よって,速度のベクトル図として右図を得る。右図から gt1=v0sin i0

なお,問6の結果より t2=2t1 であるから,右上図で i=i0 であることがわかる。つまり,着地の直前において,速度ベクトルが水平方向となす角度の大きさは,物体を投げ出したときの角度の大きさに等しい。これは,放物線が,最高点を通る鉛直軸に関して対称であることから,当然予想される。

i0

w0-gt

gt

w0

u0

v

v’V

V :O’の速度 v’:O’から見た物体の速度 v :地面から見た物体の速度

i0

w0-gt

gt

w0

u0

v

v’V

V :O’の速度 v’:O’から見た物体の速度 v :地面から見た物体の速度

v0t212gt2

2

X

i0

v0gt1

gt2

i0

i

v0t212gt2

2

X

i0

v0gt1

gt2

i0

i

①を用いた。

XQSU01-Z1Z1-10

Page 11: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1�1�

質点が受ける力のつり合い,作用・反作用の法則 物理では,物体の大きさを無視してよい場合には,物体を質点として扱う。質点とは,質量をもつが,大きさをもたない仮想の物体(点)である。ここではひとまず,物体を質点とみなして考える。 さて,日常生活でも「力」という言葉をよく使うが,ここではまず,物理で現れる「力」がどのようなものなのかを押さえ,物体(質点)が受ける力のつり合いについて考える。また, 2つの物体が及ぼし合う力の関係についての重要な法則である,作用・反作用の法則も,ここで説明しておく(作用・反作用の法則については,2 の 2 で再度とりあげる)。

7 力   物体を持ち上げたり,変形させたりするとき,物体には力が作用している(物体は力を受けている)。このように,力は,物体の運動の状態を変化させたり,物体を変形させたりすることができる(物理学的には,物体の運動状態の変化や,物体の変形をもたらす原因として,「力」が定義される)。高校物理では,物体の変形を扱うことが少ないため,まずは,「力は物体の運動の状態を変化させる」ことをしっかり押さえておいてほしい。 また,力はベクトル量であり,大きさと向きをもち,物体が力を受けているとき,力を受けている点を作用点という。また,力の大きさ,向き,作用点を,力の3要素という。 ところで,力は,その作用線を考えることができるが,力の作用線とは,力の作用点を通る,力の向きに平行な直線のことである(右図参照)。

8 力の合成と分解   力はベクトル量であり,平行四辺形の法則に従って合成することができる(右図。なお,紙面上で 2つの力を間違いなく合成するには,一方の力(F1

とする)の終点に他方の力(F2 とする)の始点を合わせて,F1 の始点を始点とし,F2 の終点を終点とするベクトルを描くとよい)。このようにして合成された力のことを,合力という。物体が受ける力が 3つ以上の場合にも,この法則を次々と適用していくことによって,すべての力を合成することができる。 一方,力は任意の 2方向(成分)に分解することもできる。ただし,高校物理で力を分解する場合には,鉛直成分と水平成分に分解,あるいは,ある斜面上での物体の運動を考える際,斜面方向成分と斜面に垂直な方向成分に分解(右図参照),などのように,直交する 2つの成分に分解することが多い。 ただし,力の合成や分解をすることができるのは,同じ物体が受ける力についてであって,一般に,異なる物体が受ける力を合成する(あるいは分解する),ということはできない。

9 力のつり合い   ある物体が受ける力をすべて合成する際,それらの力の和(合力)が 0であるとき,その物体が受ける力はつり合っている,という。

大きさ

力の向きと大きさを表すベクトル

作用点

作用線

大きさ

力の向きと大きさを表すベクトル

作用点

作用線

F1+F2

F1

F2

重力の斜面に垂直な方向成分

重力の斜面方向成分

i

i

重力

F1+F2

F1

F2

重力の斜面に垂直な方向成分

重力の斜面方向成分

i

i

重力

XQSU01-Z1Z1-11

Page 12: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1�1�

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1 力がベクトル量であることと,力のつり合い 力がベクトル量であることは,力のつり合いの実験で確かめられた事実である。たとえば,糸の両端を 2つのばねはかりで引くと,糸が受ける力がつり合ったとき, 2つのはかりと糸は一直線上に並び,2つのばねはかりの読みは等しい。これは, 2つの力がつり合うとき,これらの力の作用線は一致し,かつ, 2つの力は同大逆向きであることを意味する。 また,一端を結んだ 3本の糸の他端を 3つのばねはかりで引き,つり合ったときの読みを,それぞれ F1,F2,F3 として(右図左),各力の向きに力の大きさに比例する長さの矢印を描くと,これらは閉じた三角形をつくる(右図右)。このように,力はベクトル量として扱う必要がある。 なお,力のつり合いを考える場合,成分に分けて考えることもあるが,右図のように,ベクトルのまま扱う方が便利な場合もある。

 慣性の法則 静止と等速度運動に共通なのは,加速度が 0という点である。ところで,慣性の法則とは「物体が力を受けない場合,物体は加速度をもたず,静止している物体は静止を続け,運動している物体は速度を変えずに運動し続ける」ことである(慣性の法則については,2 ,3 で再びとりあげる)。このように,力のつり合いという観点からみれば,静止と等速度運動は同等である。

 抗力 物体Aが,ある別の物体 Bに接触しているとき,物体Aに接触している相手(物体 B)が物体Aに及ぼす力を抗力という。そのうち,その接触面に平行な成分を摩擦力,垂直な成分を垂直抗力という。 物体が斜面上で静止している場合について考えよう。この場合に物体が受ける力には,重力と,斜面から受ける抗力があり,物体が斜面上で静止していることから,物体が受ける重力と抗力はつり合っていることがわかる。これらの力を図示すると,右図のようになる。 ところで,このとき物体が受ける抗力は,斜面に平行な成分である摩擦力(静止摩擦力)と,斜面に垂直な成分である垂直抗力に分解して考えてもよい。つり合いの関係にある力の和は 0であることから,この場合,つり合いの関係にある 3つ以上の力のベクトルを図示すると,閉じた多角形(この場合は三角形)をなすことがわかる。

10 作用・反作用の法則   ある物体Aが別の物体 Bから力 F を受けているとき,物体Aは,物体 Bに力 F- を及ぼしている(右図参照)。これを,作用・反作用の法則といい,物体Aが受ける力 F を作用とよぶとき,物体 Bが受ける力 F- を反作用という(逆に,物体 Bが受ける力 F- を作用とよぶとき,物体Aが受ける力 F を反作用という)。また,作用・反作用の関係にある 2力を,F と F- ,と表したように,作用・反作用の関係にある 2力は,大きさが同じで逆向きである(さらに,作用線が同一である)。

F1

F1F3

-F3F3

F2F2

F1

F1F3

-F3F3

F2F2

垂直抗力

摩擦力

重力

抗力

摩擦力

抗力重力

垂直抗力

垂直抗力

摩擦力

重力

抗力

摩擦力

抗力重力

垂直抗力

A

B

-F

F

A

B

-F

F

XQSU01-Z1Z1-12

Page 13: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1�1�

 なお,作用・反作用の関係にある 2力は, 2つの物体が互いに及ぼし合う力なので,それぞれ異なる物体が受ける力であることに注意。 たとえば,地球上の物体は地球から重力を受けるが,この反作用として,地球上の物体は,その物体が受ける重力と同じ大きさで逆向きの力を地球に及ぼしている。さらに, 9 の「抗力」の図でいえば,物体が斜面から受ける抗力の反作用として,物体は斜面に,同大逆向きの抗力を及ぼしている(あるいは,物体が斜面から受ける垂直抗力の反作用として,物体は斜面に,同大で逆向きの垂直抗力を及ぼしており,物体が斜面から受ける摩擦力(静止摩擦力)の反作用として,物体は斜面に,同大で逆向きの摩擦力(静止摩擦力)を及ぼしていると考えてもよい(上図参照))。 また,作用・反作用の法則と合わせて,物体は接しているものから力(作用)を受ける(同時に,接しているものに反作用となる力を及ぼす)ことも押さえておいてほしい。このことを押さえておくと,物体が受ける力を考える際に,数えもれを防ぐことができる。なお,互いに接することなく及ぼし合うような力もある(そして,そのような力でも作用・反作用の法則が成り立つ)が,そのような力のうち,力学の範囲で出てくるものは,重力(万有引力)だけである。

 力が 1点に作用すると考えることができ,回転が起こることを考えなくてよい場合,その物体を質点という。質点は,質量をもつが大きさは無視して考えることができる仮想の点である。 質点が受ける力のつり合いを調べるには,次の⒜~⒞を用いて考えればよい。⒜ 慣性の法則:物体が力を受けないとき,物体は静止または等速度運動を続ける。⒝ 力は平行四辺形の法則に従って合成・分解されるベクトル量である。また,物体が力を受けない場合と物体の受ける力の和(合力)が 0になる場合は,物理学的には同じである。なお,合力が 0のとき,これらの力はつり合っているという。⒞ 作用・反作用の法則:ある物体と他の物体が互いに及ぼし合う力の関係を作用・反作用という。作用と反作用の関係にある 2つの力は,作用線が一致し,同じ大きさで,逆向きである。 以上の点を踏まえて,以下の設問に答えよ。問1 飛行機が水平に一定の速度で飛んでいるとき,この飛行機は,重力,揚力,浮力,推進力,抵抗力の 5つの力を受けていると考えてよい。力の向きと大きさを考えて,これらの力の関係を,ベクトルを用いて図示せよ。

問2 ある物体の重さとは,その物体が受ける重力の大きさのことである。このことを踏まえて,水平から角度 iだけ傾いた粗い斜面上に重さ wの物体が静止しているとき,物体が受けている力のうち,重力以外の力の名称と大きさをそれぞれ答えよ。

問3 重さWの物体を,図 1のように, 2本の糸 a,bでつるしたところ,糸 a,bが鉛直線となす角度がそれぞれ 30c,60cとなった状態でつり合った。このときの糸 a,bの張力の大きさをそれぞれ S1,S2 とする。S1,S2 をそれぞれ求めよ。

問4 図 2のように,机の上面(水平面)に重さ w1 の本 1を置き,その上に重さ w2 の本 2を置く。本 1が机に及ぼす力の大きさをN1,本 2が本

1に及ぼす力の大きさをN2 として,N1,N2 をそれぞれ求めよ。

物体が受ける垂直抗力

物体が受ける摩擦力

斜面が受ける垂直抗力

斜面が受ける摩擦力

重力

物体が受ける垂直抗力

物体が受ける摩擦力

斜面が受ける垂直抗力

斜面が受ける摩擦力

重力

練習問題練習問題

図 1

糸 a

糸 b

S2

S1 30°60°

W

図 2机

w2

本1

本2

w1

図 1

糸 a

糸 b

S2

S1 30°60°

W

図 2机

w2

本1

本2

w1

XQSU01-Z1Z1-13

Page 14: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1�1�

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1解答

問1 右図(ただし,[揚力の大きさ]+[浮力の大きさ]=[重力の大きさ])問2 摩擦力:w sin i,垂直抗力:w cos i

問3  WS23

1= , WS21

2=   問4 N1=w1+w2,N2=w2

解説

問1 この場合,飛行機は鉛直方向には運動しないことから,重力と [揚力]+[浮力]がつり合っていることがわかる。また,水平方向には等速度運動をすることから,推進力と抵抗力がつり合っていることがわかる。

問2 物体が受ける重力の斜面に垂直な成分(大きさ w cos i)が垂直抗力(大きさをNとする)とつり合う。また,重力の斜面に平行な成分(大きさ w sin i)が摩擦力(静止摩擦力。大きさを Fとする)とつり合う。なお,垂直抗力と摩擦力の和を考えて,抗力(大きさを R (=w)とする)を考えてもよい(右図参照)。

問3 物体が受ける力の水平成分,鉛直成分についてのつり合いを表す式は,右図左より,それぞれ

水平: S1sin 30c=S2sin 60c

鉛直: S1cos 30c+S2cos 60c=W

   ∴  WS23

1= ,   WS21

2=

または,右図右より,S1=Wcos 30c,S2=Wcos 60cであることから求めてもよい。なお,つり合いの関係にある 3つの力をベクトル図に表すと,閉じた三角形を描く。

問4 本 2が本 1に及ぼす力は,本 1が本 2に及ぼす力の反作用である。つまり,本 1が本 2に及ぼす力の大きさはN2 であるので,本 2が受ける力のつり合いから(右図左参照)

N2=w2

 また,本 1が机に及ぼす力は,机が本 1に及ぼす力の反作用である。つまり,机が本 1に及ぼす力の大きさはN1 であるので,本 1が受ける力のつり合いから(右図右参照)

N1=N2+w1   ∴ N1=w1+w2

研究

 糸の張力 物理で糸というときには,通常,その質量(や伸び縮み)は無視できる(糸の質量(や伸び縮み)に関する記述がない場合でも,糸の質量(や伸び縮み)は無視してよい)。 さて,糸の張力についてであるが,右図で糸ABの受ける力がつり合っているとき,点Aで受ける力を Sとすると,点 Bで受ける力は-Sと表される。このとき,AB間の糸上の任意の点 Pに注目すると,AP部が受ける力もつり合っていることから,AP部は点 Pで右向きに力-Sを受けていることがわかる。また,PB部が受ける力もつり合っていることから,PB部は点 Pで左向きに力 Sを受けていることがわかる。このように,つり合いを考える場合,糸の張力は,糸のどこでも同じ大きさである。

速度の向き

推進力 抵抗力

重力

浮力揚力

速度の向き

推進力 抵抗力

重力

浮力揚力

A P B

-S -SS S糸

A P B

-S -SS S糸

N2=w2 を代入した。なお,机が本 1に及ぼす力(垂直抗力)の向きは鉛直上向きなので,本 1

が机に及ぼす力(垂直抗力)の向きは,鉛直下向きである。

w2 w1

N2

N1

机本1

本2

N2

本1

本2

i i

30°

60°

wwcosi

wsini Fw

F

R

N

N

S2

S1

30°60°

W

S2

S1W

R

ただし,飛行機の場合,浮力の大きさは,重力や揚力の大きさに比べて,かなり小さい。

なお,本 1が本 2に及ぼす力(垂直抗力)の向きは鉛直上向きなので,本 2が本 1に及ぼす力(垂直抗力)の向きは,鉛直下向きである(上図右参照)。

XQSU01-Z1Z1-14

Page 15: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1�1�

剛体のつり合い 物理では,物体の大きさが無視できない場合もある。その場合に,物体が受ける力のつり合いを考えるときには,質点の場合と異なり,物体が受ける力の回転の効果を考慮する必要がある。一般の物体は,力が作用することにより変形するが,変形が小さい場合も多いので,物理では,物体の変形を無視できる場合には,物体を剛体として扱う。剛体とは,質量や大きさをもつが,変形しない仮想の物体である。

11 力のモーメント   一般に,大きさの無視できない物体に力を加えると,物体は回転する。このとき加えた力の回転の効果を表す物理量のことを,力のモーメントという。ある点(以下では支点とよぶ)のまわりの力のモーメントの大きさは,[力の大きさ]#[支点から力の作用線までの距離]で与えられる。つまり,同じ大きさの力を加える場合には,支点から作用線までの距離が大きいほど,また,支点から作用線までの距離が同じ場合には,力の大きさが大きいほど,力のモーメントは大きい。たとえば,通常,扉の取っ手が,支点である蝶

ちょう

番つがい

から遠い位置に付けられているのは,支点から作用線までの距離を大きくすることによって,小さな力で扉を開けることができるようにするためである。 なお,力のモーメントは通常,反時計回りを正とする。また,作用点と作用線の違いに注意すること。

12 力のモーメントの合成   剛体が受ける力のモーメントについても,その合成を考えることができる。力のモーメントの合成を考える場合には,支点をそろえて,各力の支点のまわりのモーメントをそれぞれ考え(ただし,正の向きをそろえること),それらの和を求めればよい。

13 剛体が受ける力・力のモーメントのつり合い   剛体は,単に力のベクトル和が 0であるだけではつり合わない。たとえば,鉛筆を机の上に置き,右図のように,両端付近に,互いに逆向きで同じ大きさの力を加えるとき,力のベクトル和は 0だが,右図の細い矢印の向きに回転する。実は,剛体がつり合うためには,剛体が受ける合力が 0であることに加えて,剛体が受ける力のモーメント(の和)が 0でなくてはならない。このとき,剛体が受ける力のモーメントを考える際の支点は,(剛体が受ける合力が 0であれば)どこにとってもよい。つまり,剛体が受ける力のモーメントの支点は,(指示がない場合は)計算しやすい点をとって構わない。通常は,複数の力の作用点(あるいは複数の力の作用線の交点)を支点とすると,力のモーメントを計算しやすいことが多い。

14 力の同等性(平行な力の合成)   ある物体が力 F1,F2,F3,… を受けており,それらの力の支点まわりのモーメントがそれぞれN1,N2,N3,… であるとき

F=F1+F2+F3+…      ①,  N=N1+N2+N3+…とすると,その物体が受ける力(合力)は F,Fによる支点まわりのモーメントはNである,ということができる。また,F]0 の場合,FとNの間に

N=Fh  ②の関係があるとき, h は,支点から合力の作用線までの距離と考えることができる。

支点作用線

作用点

作用線までの距離

支点作用線

作用点

作用線までの距離

XQSU01-Z1Z1-15

Page 16: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

1�1�

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1 偶力 ①において,F=0 の場合について考えてみる。ここでは,エッセンスだけを考えるため,力が 2つの場合(F1,F2 のみの場合)について考える。このとき,F1=-F2 より,この 2力は,大きさが同じで互いに逆向きである。つまり,作用線は平行である(作用線が同じかどうかはわからない)。ここで,物体上に,支点を原点 Oとする, 2つの力 F1,F2 の作用線に垂直な x軸を考え,F1,F2 の作用線のx座標をそれぞれ x1,x2 とすると,支点のまわりの力のモーメントの和Nは

N=F1x1+F2x2=(x1-x2)F1  ③と表されるので,x1]x2  の場合( 2つの力の作用線が一致しない場合)は,N]0 であるため,(合力が0であるにもかかわらず,)回転が起こることがわかる。このような力の組 F1,F2 を偶力という。③からわかるように,偶力によるモーメントの大きさは,支点のとり方によらず,つねに,[(どちらか一方の)力の大きさ]#[偶力をなす力の作用線間の距離]で表される。なお, 13 で述べた,鉛筆に加えた 2力は,偶力である。

 重心 右下図のように,ともに大きさの無視できる質量 m1 の物体 Aと質量 m2 の物体 Bを,軽くて変形の無視できる棒でつないだものを考え(これを物体 Cとよぶことにする),Cの棒の部分が水平になるように置き(実は水平である必要はない),水平右向き正の x軸をとる。このとき,Aの x座標を x1,Bの x座標を x2 とし,原点 Oのまわりの,Cが受ける重力のモーメントをN(反時計回り正)とすると,Nは,重力加速度の大きさを gとして,次のように表される。

N=-(m1g・x1+m2g・x2)

また,Cが受ける重力の和を F(鉛直下向き正)とすると,Fは次のように表される。

F=m1g+m2g

ここで,Cが受ける重力の和の作用点を考え,その x座標を xG とすると,上の 2式,および②より

N=-F・xG   ∴ m1g・x1+m2g・x2=(m1g+m2g)・xG   ∴ xm m

m x m xG

1 2

1 1 2 2=

++

この点のように,大きさの無視できない物体(系)が受ける重力の(和の)作用点のことを,その物体(系)の重心という。ここでは 2つの質点からなる系の重心を求めたが,多数の物体(各物体の質量をそれぞれ m1,m2,m3,…,各物体の x座標をそれぞれ x1,x2,x3,…とする)からなる系の重心の x座標をxG とすると

xm m m

m x m x m xG

1 2 3

1 1 2 2 3 3

gg

=+ + +

+ + +

と表される。なお,ここでは, 1次元(直線上に置かれた物体からなる系)の場合について考えたが,この考え方は 3次元にも拡張でき,多数の物体(各物体の質量をそれぞれ m1,m2,m3,…,各物体の座標をそれぞれ(x1,y1,z1),(x2,y2,z2),(x3,y3,z3),…とする)からなる系の重心の座標を(xG,yG,zG)とすると,重心の座標は,それぞれ次のように表すことができる。

xm m m

m x m x m xG

1 2 3

1 1 2 2 3 3

gg

=+ + +

+ + + ,m m m

m m my

y y yG

1 2 3

1 1 2 2 3 3

gg

=+ + +

+ + + ,m m m

m m mz

z z zG

1 2 3

1 1 2 2 3 3

gg

=+ + +

+ + +

m2

x1 xG x2 x

m1gm2g

A B Cm1 m2

x1 xG x2 x

m1gm2g

A B Cm1

XQSU01-Z1Z1-16

Page 17: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

2020

 大きさは無視できないが,変形は無視できる物体を剛体という。ここでは,剛体のつり合いについて考える。物体(剛体)の 1点に力が作用すると,物体の重心は力の向きに平行移動(並進運動)する。また,一般に,物体(剛体)の複数の点に異なる向きの力が作用すると,物体は回転する。その力による,ある点(支点)のまわりの回転効果について,その大きさは,支点から力の作用線までの距離 hと力の大きさ Fの積 h#Fで表され,向きは,支点に関する物体の回転の向きが反時計回りの場合を正とすることが多い。このような回転効果を,その支点のまわりの力のモーメントという。物体が力を受けているとき,平行移動が起こらないための条件は,物体の受ける合力が 0であること,また,回転が起こらないための条件は,任意の 1点のまわりの力のモーメントの和が 0であることである。この 2つの条件がともに満たされているとき,剛体はつり合う。〔A〕 重さ w,長さ 2lの一様な細い棒ABの一端Aを鉛直な粗い壁に当て,棒の重心(中点)Gと壁の 1点 Cを糸で結んだところ,図 1のように,棒ABが水平になって静止した。このとき,AC=lであったとする。問1 このとき棒が受ける力には,重力,糸の張力,壁からの垂直抗力,

および壁からの摩擦力(静止摩擦力)があると考えられる。これらの力を,ベクトルを用いて図示せよ。

 以下では,問1で考えた糸の張力の大きさをT,垂直抗力の大きさをN,摩擦力を F(鉛直上向き正)とする。問2 棒が受ける力の水平成分,および鉛直成分のつり合いを表す式をそれぞれ示せ。問3 棒が受ける力の,点 Cまわりのモーメントのつり合いを表す式を示せ。問4 T,F,Nの値をそれぞれ求めよ。

〔B〕 図 2のように,重さ w, 1辺の長さ 2lの一様な立方体を,水平で粗い床の上に置く。図 2のように,この立方体の右上端に,水平右向きで大きさKの外力を加える場合について考える。このとき,立方体は静止したままであったとする。また,立方体の重心 Gは,その中心にあるものとする。問5 立方体が床から受ける垂直抗力の作用点 Pは,立方体の下面で立方体の重心 Gの真下の点Aよりも右側にある。その理由を答えよ。

問6 このとき立方体が床から受ける垂直抗力の大きさをN,静止摩擦力の大きさを Fとする。立方体が受ける力の水平成分,および鉛直成分のつり合いを考えることにより,F,Nの値をそれぞれ求めよ。

問7 立方体が受ける力のモーメントのつり合いを考えることにより,AP間の距離 xを求めよ。問8 外力の大きさKを次第に大きくしていく場合について考える。立方体と床との間の静止摩擦

係数を n(>0)とする。このとき,立方体が倒れることなく床に沿って滑り出すための nの条件を求めよ。

練習問題練習問題

図 1

BG

C

Al

l

l

図 1

BG

C

Al

l

l

図 2

A P

G

F

K

N

x

w

2l

2l

図 2

A P

G

F

K

N

x

w

2l

2l

XQSU01-Z1Z1-17

Page 18: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

2121

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1解答

〔A〕問1 右図  問2 水平成分:NT

2= ,鉛直成分:F

Tw

2+ =

問3 lN-lw=0  問4  wT 2= ,F=0,N=w

〔B〕問5 「解説」参照  問6 F=K,N=w  問7 wlK

x2

=

問8 021

< <n

解説

〔A〕問1 垂直抗力は壁に垂直に,摩擦力は壁に平行(鉛直方向)に作用する。なお,与えられた条件だけでは摩擦力の向きが即座にはわからないので,摩擦力の向きは鉛直方向を向いていれば,上向きでも下向きでもよい。また,問4で求めるように,摩擦力の大きさは 0であるので,このことに気づいていれば,摩擦力を描かなくてもよい。問2 「重さ」と「質量」の違いに注意。たとえば,棒の質量を m,重力加速度の大きさを gとすると,「棒の重さ」とは,「棒が受ける重力の大きさ」のことなので,wは以下のように表される。

w=mg

入試で「重さ」を用いて考えることは少ないが,物理では,「重さ」と「質量」は異なる概念である。そのことを認識してもらうため,ここではあえて,「質量」ではなく「重さ」を与えた。 さて,ここでは,物体が受ける力は,右図のように表されるので,物体が受ける力の水平成分,鉛直成分のつり合いを表す式はそれぞれ

水平: NT

2=

鉛直: FT

w2

+ =

問3 求める力のモーメントのつり合いの式は,反時計回りを正として(右図参照)

lN-lw=0

問4 問3より,Nは N=w

これを,問2で得た式に代入すると,T,Fはそれぞれ wT N2 2= = ,  F=w-N=0

〔B〕問5 立方体が受ける力の点Aまわりのモーメントを考える。 図 2からわかるように,摩擦力 Fと重力 wの作用線は点Aを通るので,これら 2つの力の点 Aまわりのモーメントはいずれも 0である。つまり,このとき立方体が受ける力のうち,点 Aまわりのモーメントを与えるのは,外力Kと垂直抗力Nだけである。 ところで,外力Kの点Aまわりのモーメントは時計回りであるから,立方体が回転しない(静止したままである)ためには,垂直抗力Nの点

重力垂直抗力

摩擦力

張力

重力垂直抗力

摩擦力

張力

ただし,「解答」の図では,摩擦力は上向きとして示してある。

摩擦力と張力の作用線はともに点 Cを通るので,摩擦力と張力の点 Cまわりのモーメントはいずれも 0である。

力のモーメントは,任意の点のまわりで考えてよいので,なるべく立式や計算が簡単になるような点を選べばよい(「研究」参照)。

F

N wB

C

A

l T

l

XQSU01-Z1Z1-18

Page 19: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

2222

Aまわりのモーメントが反時計回りでなくてはならない。そのためには,垂直抗力Nの作用点は,点Aよりも右側になくてはならない。

問6 立方体が受ける力の水平成分,鉛直成分のつり合いをそれぞれ考えれば,直ちに,N,Fの値を得ることができる。すなわち 水平: F=K

鉛直: N=w

問7 立方体が受ける力の点 Aまわりのモーメントのつり合いを表す式は,反時計回りを正として

xN-2l・K=0   ∴ wlK

xNlK2 2

= =   ① 

問8 問7の結果からわかるように,Kを大きくしていくと xも大きくなる。しかし,もし x=l となっても立方体が滑り出さないとすれば,それよりKを大きくしていくと,立方体は下面の右端(右下の辺)を軸として回転し始め,やがて倒れてしまう。つまり,立方体が倒れることなく滑り出すためには,垂直抗力の作用点が立方体の下面の右端に達する以前②に,外力の大きさが最大摩擦力(最大静止摩擦力)の大きさを越えればよい③。そこで,①より,②,③をそれぞれ式で表すと

②: xwlK

l2

E=    ∴ K w21

E

③: K>nN=nw

   ∴  w K w21

< En    ∴ 21

<n    ∴ 021

< <n

研究

 質点と剛体 高校物理では,物体を 1点で代表させ,物体が受ける力も 1点に作用するものとして考えることが多い。事実,物体の平行移動,あるいは重心の移動だけを問題にするときは,それで間に合う。その場合,物体は質量をもつ点として扱ってよいので,その物体を質点という。ところが,物体を回転させるには,作用線が支点(回転中心)を通らない力を加える必要がある。このため,物体の大きさを考えなければならない。さらに,物体の回転を考える際に,物体の変形が無視できる場合,その物体を剛体という。

 偶力 大きさが同じで(ここでは Fとする),互いに逆向き,かつ,互いの作用線間の距離が 0ではない,平行な 2力の組を偶力という。たとえば,右図のように,点 Oを原点とする右向き正の x軸をとり,原点 Oには下向きに,座標x=hの位置には上向きに大きさ Fの力が作用するとき,座標 xの点 Pのまわりの 2つの力のモーメントの和は,反時計回りを正として +xF-(x-h)F=+hF

である。これは xに無関係な値である。このとき,hFの値を偶力のモーメントという。偶力のモーメントは xに無関係なので,偶力のみを加えた場合には,支点をどこにとってもモーメントが 0にならないため,必ず回転が起こることがわかる。 たとえば,〔B〕では,外力Kと摩擦力 Fは偶力であり,これらは時計回りの回転を与える。また,重力(重さ)wと垂直抗力Nも偶力である。ところで,〔B〕では立方体が静止していることから,wとN

による偶力は反時計回りの回転を与えるものでなくてはならないことがわかる。このことからも,垂直抗

O Pxh

F

F

xO P

xh

F

F

x

wとN(=w)は偶力であり,そのモーメントは,反時計回りで大きさ xwである。また,K

と F(=K)は偶力であり,そのモーメントの大きさは 2l・K

(時計回り)である。これらがつり合うと考えてもよい。

 n>0

XQSU01-Z1Z1-19

Page 20: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

2323

第1章  力学

等加速度運動・力のつり合い

1力Nの作用点は点Aより右側にあることがわかる。 剛体のつり合い 剛体がつり合うための条件は,合力が 0であることと,任意の 1点のまわりの力のモーメントの和が 0

であることである。このことについて考えてみよう。 物体の点 P1 に力 F1 が作用するとき,物体の任意の点 Oに 2力 F1,

F1- が作用しているとしても,点 Oに作用するこの 2力はつり合っているので,点 P1 だけに力 F1 が作用している状態と等価である。このとき,この 3つの力を,点 Oに作用する力 F1- と点 P1 に作用する力F1 のつくる偶力と点 Oに作用する力 F1 の和と考えてもよい(右図上)。 続いて,物体の点 P2 に力 F2,点 P3 に力 F3,…が作用しているとして,先ほどの操作を,各点に作用する力について行うと,偶力の組F1 と F1- ,F2 と F2- ,F3 と F3- ,…,および点 Oに作用する力F1, F2, F3,…が得られる(右図下)。 ここで,平行移動が起こらないためには,剛体が受ける力の和(合力)が 0でなくてはならない。また,回転が起こらないためには,偶力のモーメントの和が 0でなくてはならない。 ところで,力は,その作用線上の点のまわりのモーメントが 0であること,および,偶力のモーメントは支点のとり方によらない(前ページの「偶力」参照)ことに注意すると,それぞれの偶力の組のモーメントは,点 Oまわりのもとの各力のモーメントに等しい。したがって,それぞれの偶力のモーメントの和が 0であることは,点 Oまわりのもとの力のモーメントの和が 0(…※)であることと同等である。つまり,回転が起こらないためには※が成り立てばよい。 さて,点 Oのとり方は任意であるから,力のモーメントのつり合いは,任意の 1点について調べればよいことがわかる。つまり,点 Oとしては,なるべく立式や計算が簡単になるような位置をとるのが得策である。なお,〔B〕問5,問7では,立方体が受ける力の点Aのまわりのモーメントを考えているが,これは,作用線が点Aを通る力が 2つある(点Aは,重力 wと摩擦力 Fの作用線の交点である)ため,立式し(考え)やすいからである。このように,複数の力の作用線の交点のまわりのモーメントを考えると,立式が簡単になることが多い。

F1

-F1

-F1

-F2

-F3

F1

F1

F1F3

F3

F2 F2

P1 O

O

P1

P2P3

F1

-F1

-F1

-F2

-F3

F1

F1

F1F3

F3

F2 F2

P1 O

O

P1

P2P3

XQSU01-Z1Z1-20

Page 21: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

XQSU1A-Z1A1-01

 《直線上での運動》

図 1のように,右向きを正とする Ñ軸上を運動する物体について考える。以下では,物体の速度,加速度は +Ñ向き(右向き)を正とする。また,この物体が初め静止していた位置を原点 O(Ñ=0)とし,Ñ座標の単位は〔m〕であるとする。物体が原点 Oから +Ñ向きに動き始めた瞬間を時刻 t〔 s〕

=0 sとし,時刻 t〔 s〕における速度を v〔m=s〕として,v tグラフを表すと,図 2のようになった。また,時刻 t〔 s〕=90 s以降,物体は静止したままであった。なお,問1~問5では,解答の際に有効数字を気にしなくてよい。 (25点)

問1 横軸を時刻 t〔 s〕,縦軸を物体の加速度 a〔m=s2〕とする a tグラフを,0 s·t〔 s〕·90 sの範囲で描け。ただし,主要値も示すこと。(5点)

問2 時刻 t〔 s〕=30 sから t〔 s〕=50 sまでの間の物体について,速度 v〔m=s〕を,時刻t〔 s〕の関数として表せ。(4点)問3 物体が運動を始めた後,原点 Oから最も遠ざかった瞬間の時刻を求めよ。また,この時刻における物体の Ñ座標を求めよ。(6点)問4 物体が原点 Oから最も遠ざかった瞬間(問3で考えた瞬間)から最終的に静止するまでの,物体の

. 移. 動. 距. 離(道のり)を求めよ。(3点)

問5 物体が最終的に静止したときの,物体の Ñ座標を求めよ。(3点)問6 物体が運動を始めてから最終的に静止するまでの,物体の平均の速度を,有効数字 2桁で答えよ。(2点)

問7 物体が運動を始めてから最終的に静止するまでの,物体の平均の. 速. さ(速度の大きさ)

を,有効数字 2桁で答えよ。(2点)

1

添削問題3-1※各コース・講座で共通問題を出題することがあります。

Page 22: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運
Page 23: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運
Page 24: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

XQSU1A-Z1C1-01

《直線上での運動》図 1のように,右向きを正とする Ñ軸上を運動する物体について考える。以下では,物体の速度,加速度は +Ñ向き(右向き)を正とする。また,この物体が初め静止していた位置を原点 O(Ñ=0)とし,Ñ座標の単位は〔m〕であるとする。物体が原点 Oから +Ñ向きに動き始めた瞬間を時刻 t〔 s〕

=0 sとし,時刻 t〔 s〕における速度を v〔m=s〕として,v tグラフを表すと,図 2のようになった。また,時刻 t〔 s〕=90 s以降,物体は静止したままであった。なお,問1~問5では,解答の際に有効数字を気にしなくてよい。 (25点)

問1 横軸を時刻 t〔 s〕,縦軸を物体の加速度 a〔m=s2〕とする a tグラフを,0 s·t〔 s〕·90 sの範囲で描け。ただし,主要値も示すこと。(5点)

問2 時刻 t〔 s〕=30 sから t〔 s〕=50 sまでの間の物体について,速度 v〔m=s〕を,時刻t〔 s〕の関数として表せ。(4点)問3 物体が運動を始めた後,原点 Oから最も遠ざかった瞬間の時刻を求めよ。また,この時刻における物体の Ñ座標を求めよ。(6点)問4 物体が原点 Oから最も遠ざかった瞬間(問3で考えた瞬間)から最終的に静止するまでの,物体の

. 移. 動. 距. 離(道のり)を求めよ。(3点)

問5 物体が最終的に静止したときの,物体の Ñ座標を求めよ。(3点)問6 物体が運動を始めてから最終的に静止するまでの,物体の平均の速度を,有効数字 2桁で答えよ。(2点)

問7 物体が運動を始めてから最終的に静止するまでの,物体の平均の. 速. さ(速度の大きさ)

を,有効数字 2桁で答えよ。(2点)

 

問1 v tグラフの傾きが加速度を表す。問2 v tグラフから,区間 30·t·50における直線の方程式を求める。問3 最も遠ざかる瞬間の直前直後では,物体の運動の向きが異なる(ここでは,速度の符号が正から負に変わる)。また,速度は連続的に変化するので,この瞬間,物体の速度は 0 m=sである。問4 移動距離は,v tグラフと t軸で囲まれる部分の面積で表される。問5 問 4と同様に,区間 0·t·90の v tグラフと t軸で囲まれる部分の面積を考える。ただし,v tグラフが負の区間では,物体の変位は,面積に負号(マイナス)をつけた値で表される。

問6,問7 速度と速さの違いに注意。

1XQSU1A-Z1C1-02

 

問1 「解説」参照 問2 v〔m=s〕=¡1:25t+52:5〔m=s〕問3 t〔 s〕=42 s,Ñ〔m〕=465 m 問4 340 m 問5 Ñ〔m〕=125 m 問6 1.4 m=s

問7 8.9 m=s

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

▲ [加速度]=[v tグラフの(接線の)傾き]

問1 t〔 s〕=0 sから 10 sまでの加速度を a1〔m=s2〕,t〔 s〕=10 sから 30 sまでの加速度を a2〔m=s2〕,t〔 s〕=30 sから 50 sまでの加速度を a3〔m=s2〕,t〔 s〕=50 sから 70 sまでの加速度を a4〔m=s2〕,t〔 s〕=70 sから 90 sまでの加速度を a5〔m=s2〕とすると,加速度の定義より 

a1=15¡010¡0

=1:5

 a2=

15¡1530¡10

=0

 a3=

¡10¡1550¡30

=¡1:25

 a4=

¡10¡(¡10)70¡50

=0

 a5=

0¡(¡10)90¡70

=0:50

▲ 時刻 t1 から t2 の間に速度が v1から v2 に変化するとき,この間の(平均の)加速度 aは

a=v2¡v1t2¡ t1

で与えられる。

したがって,a tグラフは右上図のようになる。 (答)問2 図 2より,この間の物体の運動についての v tグラフは,(t,v)=(30,15),(50,¡10)の 2点を通る直線で表されることがわかる。したがって,求める関数は 

v¡15= ¡10¡1550¡30

(t¡30)(=a3(t¡30))

  ∴ v〔m=s〕=¡1:25t+52:5〔m=s〕 (答)

 

問3 物体は,原点 Oから +Ñ向きに出発するため,+Ñ向きに進む間は原点から遠ざかり,¡Ñ向きに進む間は原点に近づくので,物体が原点から最も遠ざかる瞬間の直前直後では,運動の向き(速度の向き)が +Ñ向きから¡Ñ向きに変化する。また,速度の時間変化は連続的なので,この瞬間,物体の速度は 0 m=sであることがわかる。このことと図 2の v tグラフより,求める時刻を t1〔 s〕とすると,t1 は 30<t1<50を満たすことがわかるので,問 2の結果より  0=¡1:25t1+52:5

∴ t1〔 s〕=42 s (答)また,最も遠ざかった瞬間の物体の Ñ座標を Ñ1〔m〕とすると,

添削問題解答解説3-1

Page 25: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

XQSU1A-Z1C1-01

《直線上での運動》図 1のように,右向きを正とする Ñ軸上を運動する物体について考える。以下では,物体の速度,加速度は +Ñ向き(右向き)を正とする。また,この物体が初め静止していた位置を原点 O(Ñ=0)とし,Ñ座標の単位は〔m〕であるとする。物体が原点 Oから +Ñ向きに動き始めた瞬間を時刻 t〔 s〕

=0 sとし,時刻 t〔 s〕における速度を v〔m=s〕として,v tグラフを表すと,図 2のようになった。また,時刻 t〔 s〕=90 s以降,物体は静止したままであった。なお,問1~問5では,解答の際に有効数字を気にしなくてよい。 (25点)

問1 横軸を時刻 t〔 s〕,縦軸を物体の加速度 a〔m=s2〕とする a tグラフを,0 s· t〔 s〕·90 sの範囲で描け。ただし,主要値も示すこと。(5点)

問2 時刻 t〔 s〕=30 sから t〔 s〕=50 sまでの間の物体について,速度 v〔m=s〕を,時刻t〔 s〕の関数として表せ。(4点)問3 物体が運動を始めた後,原点 Oから最も遠ざかった瞬間の時刻を求めよ。また,この時刻における物体の Ñ座標を求めよ。(6点)問4 物体が原点 Oから最も遠ざかった瞬間(問3で考えた瞬間)から最終的に静止するまでの,物体の

. 移. 動. 距. 離(道のり)を求めよ。(3点)

問5 物体が最終的に静止したときの,物体の Ñ座標を求めよ。(3点)問6 物体が運動を始めてから最終的に静止するまでの,物体の平均の速度を,有効数字 2桁で答えよ。(2点)

問7 物体が運動を始めてから最終的に静止するまでの,物体の平均の. 速. さ(速度の大きさ)

を,有効数字 2桁で答えよ。(2点)

 

問1 v tグラフの傾きが加速度を表す。問2 v tグラフから,区間 30· t·50における直線の方程式を求める。問3 最も遠ざかる瞬間の直前直後では,物体の運動の向きが異なる(ここでは,速度の符号が正から負に変わる)。また,速度は連続的に変化するので,この瞬間,物体の速度は 0 m=sである。

問4 移動距離は,v tグラフと t軸で囲まれる部分の面積で表される。問5 問 4と同様に,区間 0· t·90の v tグラフと t軸で囲まれる部分の面積を考える。ただし,v tグラフが負の区間では,物体の変位は,面積に負号(マイナス)をつけた値で表される。

問6,問7 速度と速さの違いに注意。

XQSU1A-Z1C1-02

 

問1 「解説」参照 問2 v〔m=s〕=¡1:25t+52:5〔m=s〕問3 t〔 s〕=42 s,Ñ〔m〕=465 m 問4 340 m 問5 Ñ〔m〕=125 m 問6 1.4 m=s

問7 8.9 m=s

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

▲ [加速度]=[v tグラフの(接線の)傾き]

問1 t〔 s〕=0 sから 10 sまでの加速度を a1〔m=s2〕,t〔 s〕=10 sから 30 sまでの加速度を a2〔m=s2〕,t〔 s〕=30 sから 50 sまでの加速度を a3〔m=s2〕,t〔 s〕=50 sから 70 sまでの加速度を a4〔m=s2〕,t〔 s〕=70 sから 90 sまでの加速度を a5〔m=s2〕とすると,加速度の定義より 

a1=15¡010¡0

=1:5

 a2=

15¡1530¡10

=0

 a3=

¡10¡1550¡30

=¡1:25

 a4=

¡10¡(¡10)70¡50

=0

 a5=

0¡(¡10)90¡70

=0:50

▲ 時刻 t1 から t2 の間に速度が v1から v2 に変化するとき,この間の(平均の)加速度 aは

a=v2¡v1t2¡ t1

で与えられる。

したがって,a tグラフは右上図のようになる。 (答)問2 図 2より,この間の物体の運動についての v tグラフは,(t,v)=(30,15),(50,¡10)の 2点を通る直線で表されることがわかる。したがって,求める関数は 

v¡15= ¡10¡1550¡30

(t¡30)(=a3(t¡30))

  ∴ v〔m=s〕=¡1:25t+52:5〔m=s〕 (答)

 

問3 物体は,原点 Oから +Ñ向きに出発するため,+Ñ向きに進む間は原点から遠ざかり,¡Ñ向きに進む間は原点に近づくので,物体が原点から最も遠ざかる瞬間の直前直後では,運動の向き(速度の向き)が +Ñ向きから¡Ñ向きに変化する。また,速度の時間変化は連続的なので,この瞬間,物体の速度は 0 m=sであることがわかる。このことと図 2の v tグラフより,求める時刻を t1〔 s〕とすると,t1 は 30<t1<50を満たすことがわかるので,問 2の結果より  0=¡1:25t1+52:5

∴ t1〔 s〕=42 s (答)また,最も遠ざかった瞬間の物体の Ñ座標を Ñ1〔m〕とすると,

Page 26: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

XQSU1A-Z1C1-03

Ñ1〔m〕は,この瞬間までの原点からの変位に等しいので,v tグラフの台形の面積を考えることにより 

Ñ1〔m〕= 12 £f(30¡10)+(t1¡0)g£15〔m〕

 =12£(20+42)£15 m

  =465 m (答)

 

▲時 刻 t1〔 s〕(=42 s)以 後 は,v·0であるから,¡Ñ向きに運動している。したがって,Ñ2〔m〕は,最も遠ざかった点(折り返し点)から戻った距離を表している。

問4 求める移動距離を Ñ2〔m〕とすると,Ñ2〔m〕は時刻 t1〔 s〕から 90 sまでの v tグラフと t軸が囲む部分(台形)の面積に等しいので,問 3で求めた t1 の値を用いると  Ñ2〔m〕= 12 £f(70¡50)+(90¡ t1)g£10〔m〕

=12£f20+(90¡42)g£10 m

=340 m (答)問5 時刻 90 sに物体が静止したときの物体の Ñ座標は,問 3,問4の結果より  Ñ〔m〕=Ñ1〔m〕+(¡Ñ2)〔m〕=465 m¡340 m

=125 m (答)

▲ 時刻 t1〔 s〕(=42 s)から時刻90 sまでの間の物体の変位は,¡Ñ2〔m〕である。問6 問 5の結果より,物体は時刻 0 sから 90 sまでの間に原点か

ら +Ñ向きに距離 125 mだけ移動したことがわかる。よって,物体が運動を始めてから静止するまでの平均の速度を v〔m=s〕とすると 

v〔m=s〕= 125 m¡0 m90 s

=1:38Ým=s=..1:4 m=s (答)

▲ [平均の速度]

=[変位(座標の変化量)][変化に要した時間]

 

問7 時刻 0 sから時刻 90 sまでの間に移動した道のりを Ñ0〔m〕とすると,問 3,問 4の結果より  Ñ0〔m〕=Ñ1〔m〕+Ñ2〔m〕=465 m+340 m=805 mよって,物体が運動し始めてから静止するまでの平均の速さをV〔m=s〕とすると 

V〔m=s〕= 805 m90 s

=8:94Ým=s=..8:9 m=s (答)

▲ [平均の速さ]

=[移動距離(道のり)][移動に要した時間]

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

XQSU1A-Z1C1-04

 

ベクトル量とスカラー量物理量には,向きと大きさをもつベクトル量と,大きさのみをもつスカラー量がある。速度はベクトル量,速さはスカラー量である(速さは速度の大きさを表す)。たとえば,東向きに速さ 5.0 m=sで進む自動車の速度は,東向きを正とすると +5:0 m=s,西向きを正とすると¡5:0 m=sと表される。同様に,変位はベクトル量,距離(道のり)はスカラー量である。また,加速度や力はベクトル量である。このほか,今後新たに学習する物理量についても,そ

れぞれがベクトル量であるのかスカラー量であるのかを意識してほしい。物理量の単位物理では,さまざまな単位の物理量を扱うが,立式の際には,必ず式の両辺の単位(一般には次元)が一致していなくてはならない。たとえば,MKS単位系(長さとして〔m〕,質量として〔kg〕,時間として〔 s〕を用いる単位系。これを拡張したものに国際単位系(SI)がある)を用いると,速度(速さ)の単位は〔m=s〕,加速度の単位は〔m=s2〕と表される。この単位系によって,等加速度運動の式の 1つである 

Ñ=v0t+12at2

の両辺の単位を考えてみる。まず,左辺の Ñは「変位」なので,その単位は〔m〕である。一方,右辺の v0tは,「速度」と「時間」の積なので,その単位は〔m=s〕£〔 s〕=〔m〕,at2 は「加速度」と「時間の 2乗」の積なので,その単位は〔m=s2〕£〔 s〕2=〔m〕であり,確かに,式の両辺で単位が一致していることがわかる。なお,「式の両辺の単位(次元)を確認する」という作業は,計算ミスのチェックにも役立つので,今のうちに習慣づけておきたい。また,単位は,その単位(物理量)の意味するところ(定義)を表していることにも注意してほしい。たとえば「速度」の単位〔m=s〕は,「変位〔m〕」を「時間〔 s〕」で割っている。これは,「速度」の定義が「単位時間当たりの変位」であることからも納得できるだろう。しかし,単位から物理量の定義がいつでも簡単に読み取れるとは限らない。たとえば,加速度の単位は〔m=s2〕であるが,これを単に「変位(長さ)」を「時間の 2乗」で割った,と考えてはその意味はわからない。「加速度」は「単位時間当たりの速度の変化量」で定義されることからわかるように,加速度の単位〔m=s2〕は速度の単位である〔m=s〕を時間の単位〔 s〕で割ったもの,と考える必要がある。

Page 27: 力学 1 等加速度運動・力のつり合い...力学 1 等加速度運動・力のつり合い 1 では,「等加速度運動」「力のつり合い」について学習します。「等加速度運動」では,直線上での運

XQSU1A-Z1C1-03

Ñ1〔m〕は,この瞬間までの原点からの変位に等しいので,v tグラフの台形の面積を考えることにより 

Ñ1〔m〕= 12 £f(30¡10)+(t1¡0)g£15〔m〕

 =12£(20+42)£15 m

  =465 m (答)

 

▲時 刻 t1〔 s〕(=42 s)以 後 は,v·0であるから,¡Ñ向きに運動している。したがって,Ñ2〔m〕は,最も遠ざかった点(折り返し点)から戻った距離を表している。

問4 求める移動距離を Ñ2〔m〕とすると,Ñ2〔m〕は時刻 t1〔 s〕から 90 sまでの v tグラフと t軸が囲む部分(台形)の面積に等しいので,問 3で求めた t1 の値を用いると  Ñ2〔m〕= 12 £f(70¡50)+(90¡ t1)g£10〔m〕

=12£f20+(90¡42)g£10 m

=340 m (答)問5 時刻 90 sに物体が静止したときの物体の Ñ座標は,問 3,問4の結果より  Ñ〔m〕=Ñ1〔m〕+(¡Ñ2)〔m〕=465 m¡340 m

=125 m (答)

▲ 時刻 t1〔 s〕(=42 s)から時刻90 sまでの間の物体の変位は,¡Ñ2〔m〕である。問6 問 5の結果より,物体は時刻 0 sから 90 sまでの間に原点か

ら +Ñ向きに距離 125 mだけ移動したことがわかる。よって,物体が運動を始めてから静止するまでの平均の速度を v〔m=s〕とすると 

v〔m=s〕= 125 m¡0 m90 s

=1:38Ým=s=..1:4 m=s (答)

▲ [平均の速度]

=[変位(座標の変化量)][変化に要した時間]

 

問7 時刻 0 sから時刻 90 sまでの間に移動した道のりを Ñ0〔m〕とすると,問 3,問 4の結果より  Ñ0〔m〕=Ñ1〔m〕+Ñ2〔m〕=465 m+340 m=805 mよって,物体が運動し始めてから静止するまでの平均の速さをV〔m=s〕とすると 

V〔m=s〕= 805 m90 s

=8:94Ým=s=..8:9 m=s (答)

▲ [平均の速さ]

=[移動距離(道のり)][移動に要した時間]

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

XQSU1A-Z1C1-04

 

ベクトル量とスカラー量物理量には,向きと大きさをもつベクトル量と,大きさのみをもつスカラー量がある。速度はベクトル量,速さはスカラー量である(速さは速度の大きさを表す)。たとえば,東向きに速さ 5.0 m=sで進む自動車の速度は,東向きを正とすると +5:0 m=s,西向きを正とすると¡5:0 m=sと表される。同様に,変位はベクトル量,距離(道のり)はスカラー量である。また,加速度や力はベクトル量である。このほか,今後新たに学習する物理量についても,そ

れぞれがベクトル量であるのかスカラー量であるのかを意識してほしい。物理量の単位物理では,さまざまな単位の物理量を扱うが,立式の際には,必ず式の両辺の単位(一般には次元)が一致していなくてはならない。たとえば,MKS単位系(長さとして〔m〕,質量として〔kg〕,時間として〔 s〕を用いる単位系。これを拡張したものに国際単位系(SI)がある)を用いると,速度(速さ)の単位は〔m=s〕,加速度の単位は〔m=s2〕と表される。この単位系によって,等加速度運動の式の 1つである 

Ñ=v0t+12at2

の両辺の単位を考えてみる。まず,左辺の Ñは「変位」なので,その単位は〔m〕である。一方,右辺の v0tは,「速度」と「時間」の積なので,その単位は〔m=s〕£〔 s〕=〔m〕,at2 は「加速度」と「時間の 2乗」の積なので,その単位は〔m=s2〕£〔 s〕2=〔m〕であり,確かに,式の両辺で単位が一致していることがわかる。なお,「式の両辺の単位(次元)を確認する」という作業は,計算ミスのチェックにも役立つので,今のうちに習慣づけておきたい。また,単位は,その単位(物理量)の意味するところ(定義)を表していることにも注意してほしい。たとえば「速度」の単位〔m=s〕は,「変位〔m〕」を「時間〔 s〕」で割っている。これは,「速度」の定義が「単位時間当たりの変位」であることからも納得できるだろう。しかし,単位から物理量の定義がいつでも簡単に読み取れるとは限らない。たとえば,加速度の単位は〔m=s2〕であるが,これを単に「変位(長さ)」を「時間の 2乗」で割った,と考えてはその意味はわからない。「加速度」は「単位時間当たりの速度の変化量」で定義されることからわかるように,加速度の単位〔m=s2〕は速度の単位である〔m=s〕を時間の単位〔 s〕で割ったもの,と考える必要がある。