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茨城県久慈川における流下アユ仔魚の鉛直分布 誌名 誌名 日本水産學會誌 ISSN ISSN 00215392 著者 著者 荒山, 和則 須能, 紀之 山崎, 幸夫 巻/号 巻/号 76巻5号 掲載ページ 掲載ページ p. 812-823 発行年月 発行年月 2010年9月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

茨城県久慈川における流下アユ仔魚の鉛直分布agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010800071.pdfFig. 1 Map showing the sampling site in the Kuji River and a cross 周section

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茨城県久慈川における流下アユ仔魚の鉛直分布

誌名誌名 日本水産學會誌

ISSNISSN 00215392

著者著者荒山, 和則須能, 紀之山崎, 幸夫

巻/号巻/号 76巻5号

掲載ページ掲載ページ p. 812-823

発行年月発行年月 2010年9月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

Nippon Suisan Gakkaishi 76(5),812-823 (2010)

茨城県久慈川における流下アユ仔魚の鉛直分布

荒 山 和 則Y須能紀之 a 山崎幸夫b

(2010年 1月5日受付, 2010年4月29日受理)

茨城県内水面水産試験場

Vertical distribution of ayu Plecoglossus altivelis altivelis larvae during

seaward migration in Kuji River, Ibaraki Prefecture, ]apan

KAZUNORI ARAYAMA,* NORIYUKI SUNOHa AND YUKIO YAMAZAKlb

lbaraki Prefectural Freshwαter Fisheries Research lnstitute, Namegata, lbaraki 311-3512, Japan

Seasonal and nocturnal changes in the vertical distribution of ayu, Plecoglossus altivelis altivelis larvae during

seaward migration in the lower Kuji River were examined in 2006 and 2007. Sampling was performed at a site, ap町

proximately 3 m deep, using 0.3一mmmesh ring nets (45 cm in diameter). Ayu larvae were caught mainly from

late October to early November in 2006 and from late October to early December in 2007. In both years, nocturnal

vertical larvae distributions were di宜erentin late October and from early November onward; the larvae were

evenly distributed throughout the water column in late October, but mainly in the middle and bottom layers from

early November onward. Body and quantity of yolk sizes of larvae were not different between layers. No marked

differences were observed in water velocity within the water column. Seasonal changes in water temperature

showed a gradual decrease from 240

C to 60

C from September to December, while in late October and early Novem-

ber, it was 150

C-160

C in both years. These results show that ayu larvae do not always drift at the same depth and

that their distribution in the water column changes seasonally as the water temperature decreases.

キーワード:アユ,鉛直分布,久慈川,水温,流下仔魚

日本の代表的な両側回遊魚であるアユ,Plecoglossus

altivelis altivelisは,河川での漁業や遊漁の対象とし

て,あるいは地域の観光資源として大いに利用されてい

る。ところが近年は,全国各地で遡上稚魚数の減少が問

題になっている。1,2)そのため,アユの主な利用者である

漁業者や遊漁関係者からは,遡上稚魚数の増加策と遡上

数や資源量の予測技術の開発が望まれている。これらの

技術は,その年の漁模様を予測するのみならず,種苦の

放流量でアユの生息密度を適当な水準に調整し漁場を効

率的に利用するために必要とされている。

このような課題の解決は,アユの生態を理解し問題点

を把握することが糸口となる。また,予測技術の開発で

は,アユの生態に即した手法で得た長期にわたる資源量

データが不可欠で、ある。

アユの生態研究は,ふ化後の仔魚が成育場である海や

汽水域に至るまでの河川流下期3-13)や到達してから遡上

するまでの海洋生活期, 3,1←24)河川への遡上から産卵ま

での河川生活期 3,4,25-31)といった生活史の各段階で行わ

れ,知見の蓄積がすすんでいる。

なかでもアユ資源の最も初期段階といえるふ化仔魚,

すなわち流下仔魚の生態については,一般的に次のよう

な理解が得られている。 1)仔魚は夕方から深夜にかけ

てふ化し 10,32)主に夜間に川の流れにのって流下す

る, 3-8,10-13)2)仔魚の流下は流量の多い流心部に集中す

る, 6,12)3)流下仔魚数の経時変化は,調査地点から産卵

場までの距離や河川流速などが関係して生じる, 9-11)4)

仔魚が流下に時間を要すると,飢餓や被食の機会の増加

を招き,生残率の低下がもたらされる。4,8,9)

流下仔魚数の推定を目的とした調査方法には,調査地

の地形や水深,流速等に応じて河川横断面を分割したう

* Tel: 81-299-55-0324. Fax: 81-299-55-1787. Email: [email protected] a現所属:茨城県霞ヶ浦環境科学センター (IbarakiKasumigaura Environmental Science Center, Tsuchiura, Ibaraki 300-0023, ]apan) b現所属:茨城県水産試験場(IbarakiPrefectural Fisheries Research Institute, Hitachinaka, Ibaraki 311-1203, ]apan)

流下アユ仔魚の鉛誼分布

えで仔魚を採集し,用いたネットの嫡口面積と分割区域

の面接の比から仔魚数を推定する面積法と,単位流量あ

たりの仔魚数を求め,それを河川流量に乗じて仔魚数を

推定する流量法が知られている。33)

しかし,大規模湾川や河川敷の状況によっては水深の

深い場所で調査な行わなければならないことがある。そ

の場合,調査を適切かつ簡便に実施する上で重要な「ど

の水深帯で仔魚、を採集することが適当かJを示す知見,

すなわち流下仔魚、の鉛直分布に関する研究は,千田・

東5)や和田 34)兵藤ら7)に限られている。しかもそれら

のうち,兵藤ら7)の調査は日中に行われたものであって

仔魚の主な流下時間帯である夜間3-8,10-13)の情報は得ら

れていない。また,夜間に調査を行った千田・東5)と和

田34)においては一致した結果が得られておらず,前者

は表層を,後者は底震を仔魚が流下するとしている。両

者の結果が異なった要因には調査河JIIの違いをはじめ様

々なことが考えられるが,いずれにしても仔魚の鉛直分

布が一様でないならば,調査方法等によっては推定され

た仔魚数と真値との閤に大きな差が生じることが懸念さ

れる。したがって流下仔魚数を精度高く推定するには,

仔魚の鉛直分布を正確に把握し,それに応じた調査を行

うことが必要と考えられる。

本研究では高精度な流下仔魚数の推定技術の開発に寄

与するため,仔魚、が主に採集される夜間3-8,10-13)の鉛誼

分布を経月および経時的に明らかにした。そして流下仔

魚の調査手法について意見を述べるとともに,仔魚の流

下行動についても考察を加えた。

材料と方法

調査は,流路延長約 124kmの茨城県久慈川で行った

(Fig. 1)。調査地点は,アユの主な産卵場よりも下流に

あること,仔魚の流下を妨げる潮の干満の影響35)を受

けないこと,河川の増水の影響を受けにくいことといっ

た条件を満たす場所として,河口から約 8km上流で川

幅が約 50m,最大水深約 3mの,橋が架かっている地

点に設定した (360

30'15"N,1400

32' 40"E, Fig. 1)。こ

の地点は,下流に向かつて左岸側に流心があり,河床が

深くなっていた。

調査期間は, 2006年と 2007年のそれぞれ 9月下旬

から 12月下旬にかけてとし,各月の前半と後半に調査

した。採集時時は, 2006年 10月上勾を除いて 18持か

ら翌朝 8持までとし,採集は 2時間に 1回, 5分間実施

した。臼中の調査は,本研究の先行研究開によって,

流下仔魚が主に夜間に採集されることが明らかであるこ

とから行わなかった。

採集は,仔魚が主に流下する流心部(荒山ら,未発表)

において, 2006年は表層と底層で, 2007年は表層と中

層および底層で行った (Fig,1)。表層とは水面から約

813

Kuji 宍Iver

Pacific Ocean

360N

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North‘一ー 同町砂South

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Fig. 1 Map showing the sampling site in the Kuji River and a cross周sectiondiagram of the site, Ayu larvae col-lection conducted at the surface and in the bottom river layers in th巴2006survey, and at the surface and in the middle and bottom river layers in the 2007 sur-vey.

50 cm,中層とは約1.2~2.0 m (各調査日の水深の中心

にネットを設置したため),底層とは水底上約 30~80

cmの範屈であった。各調査自の水深は, 2.8~3.6m の

簡で変動した。

採集道兵には,口径 45cm,側長1.8m, 自合 0.3

mmの円錐形のネットを用いた。表層での採集にはリン

グに浮きを取り付けたネットを,中層と底層の採集には

リングに浮きとロープ付きの錘を取り付けたネットを用

いた。中層と成麗へのネットの設置は,錘とリングをつ

なぐロープの長さを調節して行った。 2007年の調査で

はリングにダイビングコンビューター(タパタ製

TUSA, IQ-700)を取り付け,ネットの設置水深を確認

した。それぞれのネットは,橋から垂下して各罵に設置

した。ネットの関口部にはi慮水計(離合社製 No.5571)

を取り付け,漉水量から 1m3あたりの仔魚密度を算出

した。ただし,流速が遅く ,t慮水計が囲転しなかった場

合は, t慮水率を 1として計算した。

調査では毎回,表層の水温と流速を採集前後に観測し

814 荒山,須能,山崎

た。観測には YSIナノテック社製ハンディ DOメー

ターモデル 55とケネック社製電磁流速計LP1100を用

いた。また, 2006年は 9月下旬と 10月下旬および 11

月上旬, 2007年は全ての調査で各層の水温と流速を観

測した。これらの観測にはアレック電子社製2次元電

磁流向流速計AEM-213DとCOMPACT-EMを用いた。

採集物は, 5%ホルマリン水溶液で固定し研究室に

持ち帰った。研究室ではアユ仔魚の選別と計数を行った

後,一つの標本につき最大 50個体を無作為に抽出し

て,ミクロメーターを取り付けた実体顕微鏡下で脊索長

(以下体長)の計測と卵黄の残存状態の観察を行った。

卵黄の残存状態は,塚本9)に従って 5段階の卵黄指数に

区分した。なお,卵黄指数4は大量の卵黄が残存した

状態で,指数Oは卵黄が全く残存していない状態であ

る。

得られたデータに関する統計解析は次のように行っ

た。まず,同一採集日の各層における仔魚の流下割合の

一様性を適合度の検定で評価した。次に,隣り合う調査

日間での各層における仔魚の流下割合の差について,検

定の多重性を考慮して Bonferroniの方法で全体の有意

水準を 5% (P=0.05) に調整したうえで, Fisherの正

確確率検定で比較した。調整後の検定各回の有意水準は

1 % (P=O.Ol)であった。

仔魚の体長と卵黄指数については,産卵時期や親魚の

大きさで卵の大きさが異なり,結果としてふ化仔魚の体

長が異なることや 36)ふ化後日数によって卵黄の残存量

が変わること4,9)などを考慮して,異なる採集時間や調

査日間における差には注目せず,同一採集時間における

層聞の差にのみ注目して比較した。比較は各層の全てで

仔魚が 10個体以上採集されたときに行った。体長の比

較は, 2006年は We1chのt検定で, 2007年は一元配置

分散分析 (ANOVA)で行った。卵黄指数の比較は,

2006年は Mann-WhitneyのU検定で, 2007年は

Kruskal-Wallis検定で行った。これら検定における有意

水準は 5% (P= 0.05) とした。統計解析には, R ver.

2.9 (R Development Core Team, R Foundation for

Statistical Computing, Vienna, Austria, http://www.

R-project.org.)を使用した。

結果

水温と流速表層の最高水温は,両年ともに, 9月下

旬から 12月下旬に向かうにつれて低下した (Fig.2)。

最高水温の範囲は, 2006 年は 6.8~24.30C, 2007年は

6.4~24.70C であった。水温は,夕方 18 時から翌朝に

向かつて徐々に低下し,各調査日の最高水温と最低水温

の差は, 2006年では lSC (12 月下旬)~3SC (9月下

旬), 2007年では O.7"C (11 月下旬)~3.00C (9月下旬)

であった (Fig.2)。また,いずれの観測時も,水温はにf

220iト¥~・-2006 max o 2006 min.

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5 late early late early late early late Sep. Oct目 Oct. Nov. Nov. Dec. Dec

Fig. 2 Changes in water temperature recorded at the sur-face of the sampling site from late September to late December in 2006 and 2007

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10 late early late Sep目 Oct. Oct.

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Fig. 3 Changes in water velocity recorded at the surface of the sampling site from late September to late De-cember in 2006 and 2007.

表層から底層までほぼ一様であり,その差は最大でも

0.20

Cであった。

表層の流速は,水温のように経月で変化する傾向には

なく,河川流量が多いときには早く,少ないときには遅

かった。観測された流速範囲は 14.4~69.5 cm S-lで,

各調査日の最大流速と最小流速の差は 2.6~17.0 cm c1

(平均土標準偏差:6.8土4.0cm S-l)であった (Fig.3)。

流速の鉛直分布は,調査期聞を通じて観測できた

2007年でみると,表層から底層までほぼ一様の場合

ι底層の流速が表層や中層よりもやや遅い場合と早い

場合,そして中層がもっとも早く表層と底層が同程度の

場合の 4つの様式が認められた (Fig.4)。これらの傾

向は,一部でのみ観測した 2006年も同様であった。し

かし両年とも各観測時の層聞を比較しても,最大流速と

最小流速の差が 0.2~10.0cmç1 (最大流速に対する最

低流速の割合:69.6~99.2%) ,平均で 3.7 cms-1

(87.8%)であることや,流速の遅速関係が規則的では

ないことから (Fig.4),全体的に流速は水深によって

大きく異ならないと思われた。

815

2006

流下アユ仔魚、の鉛直分布

10

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Fig. 5 Changes in mean density of ayn larvae collected from all wat巴rcolumn layers of the sampling site from late September to late December in 2006 and 2007.

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Fig. 4 Changes with tim巴invertical distribution of water velocity recorded at th巴 samplingsite from late S巴p-tember to late December in 2007.

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early Dec. *Middle layer: No data

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*Middle layer: No data

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20

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8:00

6 6

φ Q

late

Dec.

0.92) ,仔魚の流下は表層と底層で間程度であると評価

された (Fig.6)。これに対して 10月上旬と 11月上勾

から 12月上勾にかけてでは,表層よりも底層を流下す

る割合が高いと評価された(適合度の検定,X2=6 .45~

39.94, P < 0.05)。また,隣り合う調査日間に注尽する

early

Dec.

Fig. 6 Changes in the percentage of density of ayu larvae coll巴ct巴dfrom each water column layer of the sam司

pling site in 2006 and 2007.

late

Nov.

early

Nov.

late

Oct.

early

Oct.

late

Sep.

O

イ子魚の鉛直分布 アユ仔魚、の流下が確認されたのは,

2006年は 10月上旬から, 2007年は 9月下旬からであ

った (Fig.5)。ただし 2007年 9月下旬の採集伺体数は

l個体のみであった。仔魚が多く流下したのは, 2006

年は 10月下旬と 11月上勾, 2007年は 10月下旬から

12月上勾にかけてで, 2007年の方が 2006年よりも長

期間,高密度で仔魚が流下した。

両年の各調査Bについて,各層における仔魚、の流下割

合を比較した。 2006年では, 10月下旬と 12月下旬に

関しては有意な義が認められず(適合度の検定, 10月

下旬,X2 = 1.69, P= 0.14 ; 12月下旬,X2 = 0.01, P =

441でλ」ド「ー「l企

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山崎荒山,須能,

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Fig. 8 Changes with time in the density of ayu larvae col. lected from each water column layer of the sampling site in 2007. Arrows indicate sunrise.

8:00

Fig. 7 Changes with tim巴inthe density of ayu larvae col lected from each water column layer of the sampling site in 2006. Arrows indicate sunrise.

6:00 0:00 22:00

(Fisherの正確確計的に有意な差は認められなかった

率検定,P=0.21~ 1. 00) 。

次に,各層における流下仔魚密度の経時変化を 2006

年と 2007年両年の 10月上旬から 12月下旬の各調査日

に注目してみたところ,両年とも 10月下旬と 11月上

旬との間で流下様式が変化したことがわかった (Figs.

7,8)。すなわち, 10月下旬には仔魚密度が全ての層で

同じように増減したのに対し, 11月上旬では,中層や

底層に比べて表層の変化は小さく,密度も低く推移した。

11月上旬にみられた表層での仔魚密度の低下は, 2006

年では 11月下旬と 12月上旬にも, 2007年では 11月

下旬以降にも認められた。また,両年とも 10月下旬の

4時から 6時にかけて,中層や底層より表層の仔魚密度

が著しく減少した。

仔魚の体長と卵黄指数仔魚の体長範囲は, 2006年

は 4.0~7.0mm (平均±標準偏差:5.8土 0.4mm) で

(Fig. 9), 2007 年は 4.6~7.2 mm (5.9土0.3mm)であ

っ7こ (Fig.10)。

同一採集時間における層間での仔魚の体長差は,

と,各層における仔魚の流下割合は, 10月下旬と 11月

上旬との聞で,表層の占める割合が 43.5%から 18.4%

まで低下する現象がみられた (Fig.6, Fisherの正確確

率検定, ρ<0.001)0 11月下旬以降は表層の占める割合

が句を追うごとに高まったが,統計的に有意な差は認め

られなかった(Fisherの正確確率検定,P=0.09~0.23) 。

2007年の各層における仔魚の流下割合は 2006年と

似た傾向にあった (Fig.6)。すなわち, 10月下旬と 12

月下旬では表層と中層および底層の各層において仔魚は

一様に、流下したと評価されたが(適合度の検定, 10月

下旬,X2 = 1.67, P= 0.44 ; 12月下旬, χ2= 5.11, P=

0.08) ,その他の調査日では偏りがあると評価された

(適合度の検定,X2 = 10.31 ~25.94 , ρ<0.01)。また,隣

り合う調査日間で各層における仔魚の流下割合の変化を

みてみると,表層を流下した仔魚の割合が 10月下旬と

11月上旬の間で 31.8%から 10.1%まで低下した

(Fisherの正確確率検定, ρ<0.001) 0 11月下旬以降

は,旬空追うごとに表層の占める割合が高まったが,統

817 流下アユ仔魚の鉛直分布

I early Oct.

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Fig. 9 Changes with time in notochord length distributions of ayu larva巴collectedfrom surface(S) and bottom (B) layers of the sampling site from early October to late December in 2006. Vertical and horizontal bars show maximum and minimum length of larvae and mean length, respectively and boxes show 25% and 75% quartiles. Signi五cancelevel: **,t<O.Ol; *,t<O.05;一, no sign出cantdifference. Blank means not inc1uded in the statistical analysis. n. s.: not surveyed.

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S B

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概ね重複した。

2007年では,統計解析を実施した全34回のうち 10

回で有意な差が認められた (ANOVA,ρ<0.05): 10月

上旬, 6時;10月下旬, 2時, 4時 ;11月上旬, 4時;

11月下旬, 18時, 20時, 8時 12月上旬, 6時, 8

時;12月下旬, 8時 (Fig.10)。このうち 10月上旬の

6時と 11月下旬の 18時と 20時では,底層,中層,表

層の順に平均体長が大きくなったが,その他では中層の

2006年では統計解析を実施した全25回のうち 12回で

有意な差が認められた (We1chのt検定, ρ<0.05): 10

月下旬, 20時, 22時, 8時 ;11月上旬, 20 時~2 時,

6時 ;11月下旬, 0時, 4時 12月上旬, 0時 12月

下旬, 2時 (Fig.9)。このうち 10月下旬の 8時と 11

月上旬の 6時および 12月下旬の 2時は底層を,それ以

外では表層を大きな仔魚が流下した。しかし,その体長

範囲は,統計的に有意な差が認められたときであっても

山崎荒山,須能,818

I early Oct.

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Fig. 10 Changes with tim巴 innotochord length distributions of ayu larvae collected from surface(S), middle(M) and bottom(B) layers of the sampling site from early October to late December in 2007. Symbols indicate the same as in Fig. 9.

回で有意な差が認められた (Mann-Whitneyの U検定,

ρ<0.05) : 10月下旬, 22時 ;11月上旬, 22時 12月

上旬, 0時, 6時 (Fig.11)。しかし,これらにおいて,

卵黄指数の大きい仔魚が特定層を流下するといった規則

性は認められなかった。

2007年の各標本における卵黄指数 1から 4の割合

は,指数 O が 0~23.0%,指数 1 が 0~92.0%,指数 2

が 0~72.2%,指数 3 が 0~32.0%,指数 4 が 0~26.5

%で変異した (Fig.12)。同一採集時間における層間で

の卵黄指数の差は,統計解析を実施した全 34回のうち

平均体長が最も大きい,もしくは最も小さい時の両方が

認められた。また,その体長範囲は 2006年同様重複す

る傾向にあった。

卵黄指数は両年ともに 1と2の占める割合が高く, 0

と4の占める割合は低かった (Figs.11, 12)。

2006年の各標本における卵黄指数 1から 4の割合

は,指数 O が 0~57.1%,指数 1 が 0~72.2%,指数 2

が 0~63.6%,指数 3 が 0~46.1%,指数 4 が 0~23.5

%で変異した (Fig.11)。同一採集時間における層間で

の卵黄指数の差は,統計解析を行った全25回のうち 4

~"

819 流下アユ仔魚の鉛直分布

114

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Fig. 11 Changes with time in percentages in yolk index of ayu larvae collect巴dfrom surface (S) and bottom (B) layers of the sam同

pling site from early October to late December in 2006. Significance level: * へρ<0.01;へlりく0.05;一, no significant difference. Blank means not inc1uded in th巴 statisticalanalysis. n. S.: not surveyed.

20:00 18:00

地点においてアユ仔魚は,表層から底層までを常に一様

に流下するのではなく, 10月下旬と 11月上旬を境とし

て,すなわち時期によって流下する水深帯が異なった

(Figs. 7, 8)。

流下仔魚の鉛産分布に影響をおよぼすと考えられる要

因には,仔魚の大きさや卵黄残存量の違い,流速,照

度,産卵場から調査地までの距離,鵠食者の存在などが

あげられる。3刈,8,9.13,37-42)また和田34)は,流下仔魚が河

川の下層から多く採集されることに関して水樽実験を行

6閤で有意な差が認められた (Krus北k臼a必1

<0.0閃5)ド:1叩O月下旬, 6時 ;11月上旬, 4時, 6時 12

月上匂, 4時;12月下旬, 22時と 6時 (Fig.12)。し

かし,その差の傾向は一定ではなく, 2006年同様卵黄

指数の大きい仔魚が特定層を流下するといった規則性は

認められなかった。

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流下仔魚の鉛蓋分布の時期的変化とその要因

820

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い,仔魚は河床の起伏や流路の蛇行,流路中の工作物等

によってうける衝撃で衰弱するために上層よりも下層の

分布密度が高まるという仮説を述べている。

しかし,本研究結果はこれらの要因で説明することは

難しいと考えられた。なぜなら,下記に述べる理由から

それぞれ否定されたからである。

まず仔魚の大きさについては,統計的に同一採集時間

の層間で差が認められたこともあったが (Figs.9, 10),

体長範囲がほぼ重複したことや,平均体長の主主が 1mm

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Fig. 12 Chang巴swith time in percentages in yolk index of ayu larvae collected from surface (S), middle (M) and bottom (B) lay-ers of the sampling site from early October to late December in 2007. Symbols indicate the same as in Fig. 11.

にも満たなかったこと,さらに 2006年に認められた

「表震に大きな仔魚が流下する現象jが2007年では不

明瞭であったことから,仔魚の発育にともなう流下水深

の変化は生じていないと考えられた。卵黄残存量につい

ては,層間で差がほとんど無く (Figs.11, 12),差が認

められたときでも規則性がみられなかったことに加え,

2006年, 2007年とも仔魚、の分布が大きく異なる 10月

下旬と 11月上旬の聞で卵黄残存量が大きく変化してい

ないことから否定できると考えられた。

流下アユ仔魚の鉛直分布 821

流速については,仔魚の鉛直分布が変化した 10月下

旬と 11月上旬とで比べると, 2006年は前者から遅くな

ったのに対して 2007年は速くなっていた (Fig.3)。流

速が仔魚の鉛直分布に影響し,流速が遅い時には仔魚は

中層や底層を主に流下し,速い時には表層から底層まで

一様に流下するのであれば, 2007年 11月上旬よりも流

速が遅かった 2007年 10月下旬には 11月上旬と同様に

中層や底層を主に流下するはずであるが,結果はそうで

はなかった。このように,流速の遅速に対応して仔魚の

鉛直分布が変化したとは考えられなかった。また,流速

が層間であまり違わず (Fig.4),仔魚と流速の鉛直分

布が対応していないことからも流速の影響はなかったと

考えられた。

照度は,光量子計で観測したものの夜間のデータが得

られなかったことから具体的には検討できないが,月令

や天候に応じて仔魚の鉛直分布が変化しなかったことか

ら(荒山,未発表),その影響は大きくないと思われた。

なお,用いた光量子計の性能は,測定範囲 0~2000

μM/m2s,分解能 1μM/m2sであった。

産卵場までの距離については,仔魚のふ化後日数の目

安となる卵黄指数4,9)をみる限り,卵黄指数4や3とい

ったふ化後まもない仔魚が規則的に経月で増減していな

いこと (Figs.11, 12)から大きく変化したとは考えに

くい。すなわち,産卵場からの仔魚の流下距離が鉛直分

布に影響したとは考えられない。

被食の回避については,カワムツ ,Nittonocy少ris

temminckiiやウキゴリ ,Gymnogobius urotaeniaなどが

仔魚の捕食者として知られるが 39,43)これら魚類は表層

にのみ分布するわけではないことから, 11月上旬以

降,捕食者を回避するために仔魚が表層を流下しなくな

ったとは説明できない。むしろウキゴリなど底生魚の存

在は,底層を流下する仔魚の方で被食の危険性が高くな

ると推測される。事実,ウキゴリ属のスミウキゴリ,

G 戸おchiliensisが夜間に流下仔魚を捕食していること

は確認されている。43)

最後に,仔魚が流下中に河床の起伏や流路中の工作物

などから受ける各種の衝撃の影響34)については,衝撃

が流れの強さや河川流量に関係すると仮定すれば,流速

が大きく異なる 2006年と 2007年の 10月下旬 (Fig.

3 : 19.0~24. 7 cm c1) で仔魚が同じ鉛直分布 (Figs.7,

8)を示したことの説明は難しい。あるいは衝撃が流下

する仔魚に影響するとしても,久慈川において観測され

た約 70cmc1ほどの流速では無視できると考えられる。

以上のように仔魚の発育状況や河川の物理,生物環境

が今回の 10月下旬と 11月上旬に生じたアユ仔魚の分

布様式の変化に影響しない可能性を述べてきたが,変温

動物であるアユにとってその行動は水温にも大きく左右

される。事実,仔魚の鉛直分布が変化した 11月上旬にふ「

は, 2ヶ年ともに水温が 150

C以下を記録するという共

通点を認めることができる (Fig.2)。

水温が仔魚におよぼす影響には,卵黄の消費速度44)

のほか,行動の活発さの変化が予想される。伊藤ら37)

は,夕方の水温が 16.20

Cであった水深 60cmの飼育池

において,ふ化後6日までのアユ仔魚の分布層は水面

から 40cmまでに集中すると述べている。一方,著者

の予備的な水槽実験では水温の低下とともに仔魚の遊泳

行動は緩慢になり水面まで浮上しない傾向を示すことが

認められている。45)アユ仔魚の流下行動の始点が水底で

ある以上 25-27)その遊泳力が約 3cmc1にも満たな

い46)としても,仔魚は,水温が高ければ水底から底層

へ,そして中層へと浮上,分散して流下するはずであ

り,分布状況は仔魚の活発さに従うと考えられる。した

がって,水温の低下が,アユ仔魚の鉛直分布に大きな影

響を与えたことは容易に推測できる。

久慈川における流下アユ仔魚の鉛直分布の時期的変化

についてまとめる。水温が高い 10月下旬には,仔魚が

表層まで分散することによって全層で分布密度が一様と

なるが,水温が低下する 11月上旬以降には,仔魚が表

層まで分散しにくくなるために表層では低密度となり,

中層と底層を主に流下するようになると考えられる。

本研究で示された流下アユ仔魚の鉛直分布の時期的変

化は,今回初めて報告される現象であるが,全国各地の

河川で一般的に起こりうると著者らは考えている。しか

し仔魚の流下時期は,産卵やふ化状況が河川水温の影響

を受けるため 47,48)地域や気象条件によって変動する。

したがって,本研究で明らかにした水温と流下仔魚の鉛

直分布の関係は今後データを多面的に蓄積し,地域的な

特徴や天候による差違を把握していくことが重要であろ

う。

早朝における流下仔魚の鉛直移動 アユ仔魚の流下

は,日中ではなく主に夜間に認められる OHm-13)ま

た, 日中の仔魚は底層に多いと報告され 7)アユの亜種

であるリュウキュウアユでも同様の事例が確認されてい

る。42)このような背景のもと高橋3)は,アユ仔魚が日中

にあまり流下しない理由を「日の出による照度の高まり

に応答した負の走光性の発現と日周的な体比重の増加に

よって,日中は淵などの流れが緩やかな場所に沈降する

ことで流下を防いでいる」と考察している。

本研究では,調査を行った 2か年ともに 10月下旬の

早朝 (4時から 6時)に表層の仔魚密度が急激に低下し,

中層や底層よりも低くなる現象が認められた (Figs.7,

8)。このことは,日の出にともなって仔魚が表層から

中層や底層へ移動した可能性を強く示費するものであ

り,高橋3)の仮説を裏づける結果と考えられる。

しかしながらその一方, 2007年の 11月上旬から 12

月下旬にかけては,日の出以降も表層の仔魚密度が急減

822 荒山,須能,山崎

せず (Fig.8),仔魚の表層からの移動を否定する現象

が認められた。本研究では前述のとおり,流下仔魚の鉛

直分布の時期的変化,とくに表層への出現は,水温の影

響を受けた仔魚の活発さに左右されると考えている。こ

れによれば,鉛直分布の時期的変化が生じた 11月上旬

以降に表層の仔魚密度が急減しなかったことは,表層に

いた仔魚が低水温のために日の出をむかえても速やかに

底層へ移動できなかったためと説明することができ,高

橋3)の仮説を否定するには至らない。

残念ながら本研究の調査地点は 1か所であり,流下

してくる仔魚の日周的鉛直移動の追跡は出来なかった。

今後,仔魚の目周的鉛直移動を含めた流下行動に関する

事象の解明に向けて,多地点における調査が望まれる。

鉛直分布を踏まえた流下仔魚調査の必要性高い精度

で推定された流下仔魚数は,アユ資源の保全や増加対

策,あるいは資源量や遡上数の予測技術を開発するため

の基礎データとして活用が期待される。好例をあげれ

ば,流下仔魚数と遡上稚魚数を長期にわたってモニタリ

ングしている和歌山県では,流下仔魚数の多かった

1978~1980 年には遡上稚魚数も多かったという関係を

認めたうえで 49)現在問題となっている遡上稚魚数の減

少要因を追及する研究が進められている。50)

本研究で明らかとなった時期的に変化する仔魚の鉛直

分布を踏まえると,水深のある地点で流下仔魚数の推定

を目的とした調査を行う際には,単一層からのみ仔魚を

採集するのではなく,流下期聞を通じて表層から底層の

多面的な調査の実施が望ましいといえる。このような調

査は,各時期における正確な仔魚の鉛直分布の把握を可

能とし,対象河川におけるアユ資源の発生量を過少ある

いは過大に推定する危険の回避につながる。実際,本研

究結果から仔魚数を算出した場合,表層で得たデータの

みに基づけば 11月上旬以降の推定値は過少評価とな

り,底層で得たデータのみでは過大となる。

河川によっては仔魚の鉛直分布が本研究結果と合致す

るとは限らない。しかし,流下仔魚調査を水深の深い地

点で実施しなければならない際には,仔魚の時期的,時

間的な鉛直分布の変化を意識して採集,解析することを

推奨したい。

謝辞

茨域県内水面水産試験場臨時職員(当時)の成島仁子

さんと田宮由美さんには研究室での作業にご尽力いただ

き,同試験場職員の方々には調査に関して様々な便宜を

図っていただいた。久慈川漁業協同組合の方々には調査

に対するご理解とご協力をいただいた。井口恵一朗博

士,高橋勇夫博士からは草稿に対し有益なご助言を賜っ

た。また,本研究の一部は文部科学省の特別電源所在県

科学技術振興事業補助金により行った。記して感謝の意

を表する。

文 献

1) 高橋勇夫,東健作.rここまでわかったアユの本」築地書館,東京.2006.

2) 高橋勇夫.r天然アユが育つ川」築地書館,東京.2009. 3) 高橋勇夫.四万十川河口域におけるアユの初期生活史に

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5) 千田哲資,東幹夫.河口堰沖合海域における稚アユの生態1I.木曽三川河口資源調査報告 1967;4・39-54.

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7) 兵藤則行,関泰夫,小山茂生,片岡哲夫,星野正邦.海産稚仔アユに関する研究一I 仔アユの降下状況について.新潟県内水面水産試験場調査研究報告 1984;11: 41-50

8) 兵藤則行,関泰夫.海産稚仔アユに関する研究 E 流下仔アユの生残におよぽす絶食の影響(1).新潟県内水面水産試験場調査研究報告 1985;12: 15-22.

9) 塚本勝巳.長良川・木曾川・利根川を流下する仔アユの日齢. 日水誌 1991;57: 2013-2022.

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11) 田子泰彦.庄川におけるアユ仔魚の河口域への到達時間の推定.水産増殖 1999b;47: 215-220

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18) 東健作.アユの海洋生活期における分布生態.高知大学海洋生物教育研究センター研究報告 2005;23: 59-112.

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流下アユ仔魚の鉛直分布 823

2008; 74: 841-848. 24) 涌井海,八木佑太,山中拓也,木下泉.土佐湾での

アユの母川回帰性と初期生態の河川間比較.海洋と生物

2009; 31: 522-529

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31) 荒山和則.茨城県久慈川におけるアユの遡上様式.茨城

県内水試研報 2006;40: 45-54. 32) 木村関男.アユ卵の自然及び実験室内での鮮化と光線と

の関係について.水産増殖 1954;1: 36-39.

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信行,水野信彦,中村俊六編)東京大学出版会,東京.

1993; 266-267. 34) 和田吉弘.長良川の千本松原付近における降下仔アユの

垂直分布について.岐阜大学教育学部研究報告(自然科

学)1981; 6, 705一712.35) 和田吉弘,稲葉佐馬吉.長良川におけるアユの産卵から

仔アユの降下まで:xr,汽水域の仔アユについて.木曽三

川河口資源調査報告 1968;5: 1-9. 36) 19uchi K, Yamaguchi M. Adaptive signi五canceof inter-

and intrapopulational egg size variation in Ayu Plecoglos-sus altivelis (Osmeridae). Copeia 1994: 184-190

37) 伊藤隆,岩井寿夫,古市達也,鈴木惇悦.アユ種苗の

人工生産に関する研究-XllI,飼育池におけるアユ仔魚の

分布・行動・摂餌活動および消化管内食物量の日周変

化.木曽三川河口資源調査報告書 1965;2: 971-1022. 38) 水谷英志,西田陸,田沢茂,伏木省三.コアユ産卵

場におけるヨシノボリ・ウツセミカジカのアユ卵(アユ仔魚)食害について.滋賀水試研報 1974;25: 69-78.

39) 水谷英志.各種魚類による流下アユ仔魚の食害(1I),実

験人工河川河口域と姉川のアユ産卵場附近に棲息する魚

類の胃内容物について.滋賀水試研報 1976;28: 21-28. 40) 小山長雄. 1"アユの生態」中公新書,東京.1978. 41) 北島力,山根康幸,松井誠一,吉松隆夫.アユ仔魚の

発育に伴う比重の変化.日水誌 1998;64: 822-829.

42) 岸野底,四宮明彦.奄美大島役勝川におけるリュウキ

ュウアユの勝化後の流下行動.魚類学雑誌 2006;53・143-149.

43) 岡田裕史 アユ流下仔魚の魚類による捕食について.平

成 19年度アユ資源研究部会研究発表報告書,全国湖沼

河川養殖研究会アユ資源研究部会,富山.2008; 26-27. 44) 森直也,関泰夫,星野正邦,佐藤薙彦,鈴木惇悦,

塚本勝巳.信濃川水系を流下する仔アユの日令とさいの

う体積.新潟県内水面水産試験場調査研究報告 1989;15: 1-7.

45) 荒山和則,須能紀之,山崎幸夫.流下仔魚の鉛直分布.

平成 19年度アユ資源研究部会研究発表報告書,全国湖

沼河川養殖研究会アユ資源研究部会,富山 2008; 22-23 46) Tsukamoto K, Kajihara T, Nishiwaki M. Swimming abili-

ty of fish. Nippon Suisan Gakkaishi 1975; 41: 167-174. 47) 落合明,田中克.アユ. 1"新版魚類学(下)J恒星

社厚生閣,東京.1986; 465-476. 48) Kashiwagi M, Iwai T, Yamamoto H, Sokabe Y. Effects of

temperature and salinity on egg hatch of the ayu Plecoglos-sus altivelis. Bull. Fac. Fish., Mie Univ. 1986; 13: 17-24.

49) 吉本洋,藤井久之,中西ー.紀伊半島西岸域におけ

る稚アユの成長.日水誌 2007;73: 1057-1064 50) 原田慈雄,高橋芳明,藤井久之.和歌山県日高川におけ

る近年のアユ資源変動メカニズム.海洋と生物 2009;31: 508-514.

1002

日本水産学会誌掲載報文要旨

東シナ海, B本海および瀬戸内海産トラフゲの成長と Age-

length key

上聞幸男(徳島差是水総技セ),

佐野二郎,内田秀和(福岡水海技セ),

天野千絵(山口水研セ),松村靖治(長崎水試),

片山安土(水研セ屋島セ)

漁獲された全長 261~632mm のトラフグ天然魚と人工種商

放流魚 1,071倒体について,脊椎f守椎体の輪紋綴察から雌雄別

に年齢と成長を調べた。樵体縁辺部の透明携の出現割合の経月

変化から本穫は 5~6 月に年輸が形成されると推定した。これ

らの標本の年齢は 0~9 歳で, 3歳以降では雌の方が,人工種

商よりも天然魚の成長が速かった。 l歳魚以上で各年齢問の全

長に重なりがみられ,全長組成のみの解析からま礁に年齢組成

を推定することは悶難である。そこで年齢組成を捻定するため

のAge-lengthkeyを提案する。

g水誌, 76(5),803-811 (2010)

茨城県久慈川における流下アユ仔魚の鉛度分布

荒山和則,須能紀之,山崎幸夫(茨城内水試)

夜間の流下アユ仔魚の鉛直分布を経月および経時的に明らか

にした。調査は久慈川下流域の水深約 3m地点で 2006年と

2007年に行った。アユ仔魚は, 2006年は 10月下旬から 11月

上旬, 2007年は 10月下旬から 12月上旬を中心に採集され

た。仔魚の主な分布J習は, 10月下旬は全層, 11月上旬以降は

中!習と底潟であった。仔魚の体長と卵黄量および流速は層間で

迷わなかった。水温は経月で低下した。流下アユ仔魚の鉛直分

布は常に同じ様式ではなく,低下していく水協にともなって変

イヒすると考えられた。 日水誌, 76(5),812-823 (2010)

沖合底曳網におけるアカムツとマアナゴに対するコッドエンド

選択性に及ぼす角目網ウインドーの効果

演途優祐(海洋大),

原田誠一郎,山下秀幸(水研セ開発セ),

東海正(海洋大)

日本海西部海域の沖合底曳網で,現在の菱自網(百合内径

33mm)コッドエンドと,その前半部の両脇部か天井部ある

いは両方に偽自網(目合内径 72あるいは 81mm)を装着した

選郎式コッドエンド,菱自網(百合内径 79mm)コッドエン

ドを用いて,カバーネット操業実験を行った。様本抽出率を考

慮した SELECT解析によりアカムツとマアナゴに対する選択

性曲線を推定した。選択性曲線における曳網開の変動は大きい

が,平均的な選択性曲線を比較すると,アカムツは天井部か

ら,またマアナゴは両脇部から抜け出やすい傾向がある。

日水誌, 76(5),824-840 (2010)

太田川河口域廃辺におけるスズキ仔稚魚の出現と食性

岩本有可,森、回拓真,小路淳(広大生物園)

先行研究が行われている有明海筑後JII河口域とは環境条件が

呉なる広島湾北部および太EBJII水系2河川下流域においてス

ズキ仔稚魚の出現と食性を調査した。仔稚魚の分布密度l土砂浜

海岸に比べて河川内浅所において有意に高かった。仔稚魚の消

化管内容物は校角類とカイアシ類が中心であり,それらの穏組

成は各河川および定点の餌料生物環境に対応して変化した。

Sinocalanus sinensis (汽水性カイアシ類)が主婆餌料生物とな

る筑後川下流域だけではなく,太田川下流域もスズキ仔稚魚の

主要な生怠場であることが明らかとなった。

日水誌, 76(5),841-848 (2010)

広島県東部海域における溶存態無機窒素動態とノリの色落ちへ

の影響

JII口 修,高辻英之(広島水海技セ)

2004 年 4 月 ~2008 年 3 月に,広島県東部海域で溶存態無機

霊童素 (DIN)の動態調査を行い, 1~3 月に慢性的に起こるノ

リの色落ちの原因について考察した。この海域では 12月頃よ

り西部から東部にかけて次第に高塩分化し,一方で東部に形成

される河川水由来の低塩分水塊が間部まで達しなくなることが

わかった。このような海況の変化と区岡漁場内での DINおよ

びノリ色調の分布から,本海域のノリの色落ちは,河川水流入

の減少と商から東への水塊の移動によって,河川由来の DIN

がノリ漁場へ到達しにくくなることにより起こると考えられた。

日水誌, 76(5),849-854 (2010)

ラジオテレメトリー手法によるシシャモの産卵遡上行動の解析

新居久也(道栽培公社),牧口祐也(北大院環境),

藤井真(道栽培公社),

上回 宏(北大院環境,北大フィールド科セ)

シシャモのiaPs遡上の知見を蓄積するために,超小型の電波

発信機の体内装着が魚体に及ぼす影響を水槽実験により検証し

た。さらに,装着魚(鵡川度の雄 14偲体)の湾)11内行動を受

信機により追跡した。装着魚と非装着魚の聞に,泳力,産卵行

動,生理学的ストレス指標伎に差はなかった。河川内では,平

均溜上速度が 3.8~17.8 cm/secであり,流心部を避けて遡上

した。定位箆所は,流速が遅く (60cm/sec以下), {3'JJ木等の

カバーが存在した。小型の遡河田遊魚であるシシャモの遡上行

動が初めて連続的に解析された。

日水誌, 76(5),855-869 (2010)