17
平成 17 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」 (ボスニア・セルビア) 報告書要約 平成 18 3 三井物産株式会社 東電設計株式会社

平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査

「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

(ボスニア・セルビア)

報告書要約

平成 18 年 3 月

三井物産株式会社

東電設計株式会社

Page 2: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

第 1 篇 西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置建設計画調査概要

第1章 要約

1.1 調査の目的

本調査は、西バルカンのボスニア・ヘルツェゴビナ内スルプスカ共和国のウグレビック

石炭焚火力発電所、セルビア・モンテネグロ内セルビア共和国のコストラッツ B石炭焚火

力発電所に排煙脱硫装置を設置、排煙中の硫黄酸化物排出量を低減することにより環境改

善を図り、社会的便益並びに事業性の評価検討を行うものである。

1.2 調査の背景

1990 年代初めの旧ユーゴスラビア解体により双方とも、ボスニア・ヘルツェゴビナ連邦

国/スルプスカ共和国、セルビア共和国/モンテネグロ共和国の 2つのエンティティから

構成された国家として発足したが、双方とも内部紛争時代を経過、ボスニア・ヘルツェゴ

ビナは、1995 年 11 月に成立したデイトン合意により、セルビア・モンテネグロは、2002

年 3 月にヨーロッパ連合の介入のもと穏やかな連合国家として再編されている。ボスニ

ア・ヘルツェゴビナは両構成国からの代表にて中央政府を組織しているが、国内はそれぞ

れの構成国政府がそれぞれ管理している。セルビア・モンテネグロは、国防と外交だけが中

央政府のもとに管理されているが、そのほかは全くそれぞれの構成国が独自に管理してい

る。本調査対象であるウグレビック火力発電所はスルプスカ共和国公社のスルプスカ電力

公社(Electric Power Industry of the Republic of Srpska, EPRS)、コストラッツ B火

力発電所はセルビア共和国の公社のセルビア電力公社(Electric Power Industry of Serbia,

EPS)がそれぞれ管理している。近郊にて出炭するリグナイト或いは褐炭は、比較的硫黄分

含有量が高く粗悪な燃料であるが、両火力発電所はこれらを燃料としている為、排煙中に

も高度な煤塵、硫黄酸化物が混入しており大気汚染源となっている。

EU 加盟を目指す両国にとって環境対策は優先課題であり EU 環境規制(EU Directive)

の適用を睨んで主要火力発電所への排煙脱硫装置の導入計画を本格的に始めている。

1.3 既設設備の状況

ウグレビック石炭焚火力発電所は 1985 年に運転開始、その定格出力は 300MW、コストラ

ッツ B石炭焚火力発電所は 1991 年に運転開始、その定格出力は 697MW(348.5MW×2)であ

る。それぞれのボイラ仕様は下表の通りである。ウグレビック発電所は内戦中 3年間停止

しており、1年間の運転時間(5,800~6,000 時間)から、コストラッツ B発電所と同様に

ボイラ寿命は残り約 20年と想定される。

Page 3: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

表 1-1 ウグレビック火力発電所 ボイラ仕様

表 1-2 コストラッツ B火力発電所 ボイラ仕様

Unit

Specification No.1 and 2

Manufacturer SES

Type One through Sulzer

Number 2

Design Fuel Type Lignite

Capacity (design output) 348.5 MW

Capacity (effective output) 330 MW

Main steam flow 1,000 ton/h

at superheater outlet 186 bar Pressure

at reheater outlet 43.7 bar

Unit

Specification No.1

Manufacturer PODOLJSK HOSKV4-Z10

Type RAHZIN PT 1000-250-545

Number 1

Design Fuel Brown coal

Capacity (design output) 300 MW

Capacity (effective output) 280 MW

Main steam flow 1,000 ton/h

at superheater outlet 250 kg/cm2G Pressure

at reheater outlet 40 kg/cm2G

at superheater outlet 545 ℃ Temperature

at reheater outlet 545 ℃

Type of Draft System Balanced draft

Inlet Air Temperature at Wind Box 260 ℃

at AH inlet 1,460,000 m3N/h Exhaust Gas

Flow at AH outlet 1,460,000 m3N/h

Fuel consumption 1,650,000 t/year

Efficiency 85%

Page 4: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

at superheater outlet 540 ℃ Temperature

at reheater outlet 540 ℃

Type of Draft System Balanced draft

Inlet Air Temperature at Wind Box 20 ℃

at AH inlet 2,015,100 m3N/h Exhaust Gas Flow

at AH outlet 2,015,100 m3N/h

Fuel consumption 1,650,000 t/year

Efficiency 85%

燃料である石炭の性状は下記であり、現在の排出ガス(設置する排煙脱硫設備入り口ガ

ス条件となる)はそれぞれ下表の如くである。

表 1-3 燃料炭仕様

ウグレビック火力発電所燃料炭 コストラッツ B火力発電所燃料炭

カーボン 28.75 (wt%) 21.99 (wt%)

灰分 25.34 22.89

水分 29.35 42.17

水素 2.82 2.14

硫黄 4.67 1.25

窒素 0.53 0.56

酸素 8.54 9.00

表 1-4 排煙ガス仕様

ウグレビック火力発電所排煙ガス コストラッツ B火力発電所排煙ガス

ガス量(湿) 1,460,000 m3N/h wet 2,015,100 m3N/h wet x 2 セット

ガス温度 192 ℃ 170 ℃

ガス圧力 0 mmH2O 0 mmH2O

水分 9.19 Vol% 20 Vol%

SO2 濃度 25,000 mg/m3N Dry 7,360 mg/m3N Dry

NO2 濃度 600 mg/m3N Dry 440 mg/m3N Dry

O2 濃度 6 Vol% 8 Vol%

CO2 濃度 14.04 Vol% 11.8 Vol%

HCl濃度 60 mg/m3N Dry 60 mg/m3N Dry

Page 5: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

HF 濃度 60 mg/m3N Dry 60 mg/m3N Dry

煤塵濃度 150 mg/m3N Dry 150 mg/m3N Dry

1.4 石炭焚火力発電設備用排煙脱硫方式

石炭焚火力発電設備に設置される排煙脱硫方式には、石灰石・石膏法、スプレドライヤ

法、海水法の 3種が主として適用されており、それぞれの特徴は下記の如くである。

(a) 石灰石・石膏法

脱硫剤として石灰石スラリを使用する。石膏を副生物とする脱硫法である。この副生物

は、立地条件等にもよるがセメントの添加剤、或いは石膏ボードなどの原料として利用さ

れているケースが多い。この脱硫法は、石炭火力発電設備用として実用化されて凡そ 40

年以上の実績があり、実証技術である。近年は、吸収塔で除塵、脱硫および酸化の 3機能

を 1塔で処理するアドバンス技術が多用されつつある。

SO2 + CaCO3 + 2H2O+1/2O2 → CaSO4・2H2O + CO2

吸収液の一部は、石膏脱水機に送られ、含水率を下げハンドリングし易い石膏として、

系外に排出される。なお、脱水ろ液の一部は、脱硫排水として系外に排出される。

(b) スプレドライヤ法

吸収塔への脱硫剤は、消石灰を使用する。脱硫後の副生物は、CaSO3、CaSO4、フライア

ッシュおよび未反応消石灰である。これらは下流に設置するバグフィルタで捕集される。

通常この副生物は、廃棄される。この脱硫法も石炭火力発電設備用として実用化されて久

しい実証技術である。この排煙脱硫設備技術は、概ね北米および北欧地域において採用さ

れている。

SO2 + Ca(OH)2 → CaSO3 + H2O、 CaSO3 + 1/2O2 → CaSO4

上述の通り、バグフィルタで捕集された固形物は、一部吸収剤として利用される場合も

あるが、通常、系外に排出される。

(c) 海水法

脱硫剤として海水を使用する。脱硫後の海水は、排水として海洋に放流する脱硫法であ

る。この脱硫法は、近年、石炭火力発電設備用としても採用される例があるが、主に東南

アジア地域で採用されてきている。

SO2+H2O → SO32-+2H+、 SO3

2-+2H++ 1/2O2 → SO42-+2H+

各方式の比較表を表 1-5 に示す。ウグレビック発電所及びコストラッツ B発電所に設置

する排煙脱硫設備の方式としては、ボイラから排出される排ガスのSO2濃度が25,000mg/m3N

(乾ベース)、7,360mg/m3N(乾ベース)とかなり高く、EU 基準 400mg/m3N(乾ベース)を

Page 6: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

達成するには 98.4%、及び 94.6%程度の脱硫効率が要求されることから石灰石・石膏法の

採用が適切と判断する。

石灰石・石膏法は、石炭焚発電所用に多数の実績がある上、近郊に安定して供給できる

石灰石の山元があり、また副生物も利用出来る。現地調査の結果、特にマイナス要因とな

るものを見つけ出し得ない。然しながら、スプレドライヤ法は、要求脱硫負荷が高いので、

採用適性を欠く。スプレドライヤ法は、通常、要求脱硫効率が 大 80%程度のものに採用

されており、採用に適さない。海水法は、沿海地で採用されているもので、内陸地域には

適さない。河川水を海水に替え使用するとしても、排水規制が厳しい河川に対して、多量

の取水および排水放流する本方式は適さない。

Page 7: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

1 –

1 - 7

表 1-5 石炭焚ボイラ用排煙脱硫各方式の比較表

プロセス

概 要

<反応式> <反応式> <反応式>

SO2+2H2O+CaCO3+1/2O2 → CaSO4・2H2O+CO2 SO2+Ca(OH)2 → CaSO3+H2O SO2+H2O → SO32-+2H+

CaSO3+1/2O2→ CaSO4 SO32-+2H++ 1/2O2 → SO4

2-+2H+

脱硫効率

石灰石 消石灰 海水

(価格が安く調達し易い。) (石灰石より価格は高い。)

石膏 アッシュ、CaSO3およびCaSO4など 低pH排水(脱硫後の海水)

副生物

設置面積 ベース

(世界的に主流の脱硫技術) (米国および北欧に適用例有り。) (近年、東南アジア地域で実施例有り。)特徴 長所 ・吸収剤が安価。 ・通常、GGH は省略。 ・吸収液の海水は基本的に無料。

・副生物の市場性有り。 ・無排水化が可能。 ・システムはシンプル。

短所 ・排水処理設備が必要。 ・比較的、脱硫効率は低い。 ・通常、GGH が必要。・通常、GGH が必要。 ・吸収剤の過剰投入が必要(高いCa/S比)。 ・多量の排水

・吸収剤コストが大きく、運転費が高い。 ・消費電力が大きく、運転費が高い。

適用

(通常、廃棄。建築又は路盤材への利用例有り。)

脱硫負荷が小さく、 要求脱硫効率が余り高くない、比較的設備規模が大きくないものに適用される。

多数。

高い脱硫効率が要求され、比較的大容量の設備に適用される。その主な理由は、吸収剤が安価、かつ、安定的に調達できるため。

少数

小さい

少数

設置は沿海地域に限られる。加えて、適用の可否は、海洋への排水規制に左右される。

納入実績

90~99 %

(セメントの添加材、石膏ボード、土壌改良などの原料に利用。或いは廃棄。)

60~80 %

吸収剤

大きい

(通常、海水希釈で海洋放流。)

90~98 %

スプレドライヤ法 海水法

ボイラ排ガスに含まれる二酸化硫黄(SO2)は、吸収塔

で石灰石を含む吸収液と湿式ベースの気液接触をさせ除去される。脱硫反応副生物として、石膏が回収される。

ボイラ排ガスに含まれる二酸化硫黄(SO2)は、スプレ

ドライヤで消石灰を含む吸収液と半乾式ベースの気液接触をさせ除去される。脱硫反応副生物として、下流のバグフィルタでフライアッシュを含む亜硫酸

カルシウム(CaSO3)および硫酸カルシウム(CaSO4)など

を排出する。

ボイラ排ガスに含まれる二酸化硫黄(SO2)は、吸収塔

で海水を吸収液として湿式ベースの気液接触をさせ除去される。脱硫後の海水は、新しい海水で希釈或いは空気曝気等によりCODを下げ、海洋へ放流される。

石灰石石膏法

電気集塵器

吸収塔

(酸化等兼用)

石膏

石灰石

排水

ボイラ排ガス 処理ガス

消石灰

スプレドライヤ

バグフィルタ

フライアッシュ,CaSO3&CaSO4

放流

脱硫海水調整槽

吸収塔

海水

脱水機

ボイラ排ガス 処理ガス

電気集塵器電気集塵器

処理ガスボイラ排ガス

(通常、脱硫海水調整槽の占めるスペースが大)

Page 8: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

1.5 排煙脱硫装置建設プロジェクト計画概要

脱硫方式については、石灰石・石膏法を選定した。この石灰石・石膏法に基づいた

排煙脱硫通風系システムの概念設計について記述する。

排煙脱硫処理後のガスを既設煙突から大気に放出する際に、排煙脱硫設備の下流側

材料の腐蝕の度合いを緩和するため、脱硫後のガスは加温し、煙突に導入する方法が

一般的である。一方、排煙脱硫処理後の水分飽和のガスをそのまま、吸収塔の頂部に

新たに設けた煙突から放出する方法がある。この場合、既設煙突は排煙脱硫設備のバ

イパス運用時にのみの使用となる。脱硫通風系システムとしては、① 熱媒循環ノン

リーク式ガス-ガスヒーター(GGH)設置のケース、② 蓄熱再生エレメント回転式 GGH

設置のケース、③ 蒸気加熱式スティーム-ガスヒーター(SGH)設置のケース、④ 湿

式煙突付吸収塔設置のケースがあり、各ケースの比較を表 1-6 に示す。

本調査プロジェクトでは、以下の理由から、脱硫通風系システムとして熱媒循環ノ

ンリーク式 GGH システムが 良と判断される。

脱硫設備入口の SO2濃度 25,000mg/m3N、7,630mg/m3N を、脱硫設備出口の EU 基準 SO2

濃度(400mg/m3N)に下げるには、高い脱硫効率としなければならず、かなり高い脱硫

性能となる。蓄熱再生エレメント回転式 GGH 設置のケース 2 は、1~2%の未処理ガスの

リークが避けられず、採用は不適切である。一方、湿式煙突付吸収塔設置のケース 4

は、吸収塔頂部に設ける湿式煙突高さを仮に 100mの煙突を設置した場合、熱媒循環

ノンリーク式 GGH の設置ケース 1 と同じ SO2着地濃度にするためには、吸収塔の脱硫

効率を 99.6%以上と極めて高いものが必要になり、採用は厳しい。吸収塔出口側にお

けるガス再加温部の腐蝕が問題となる。加温用蒸気温度は高く、SGH の熱交換器管の

接ガス側メタル温度は、かなり高い。そのため SGH 設置のケース 3 の管外面は厳しい

腐蝕環境下にある。したがって、熱交換器管の寿命は短く、取替え頻度は多くなり、

保守管理費用が嵩む結果となる。

Page 9: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

1 –

1 - 9

表 1-6 湿式石灰石-石膏法排煙脱硫通風系システム比較

区分 ケース1 ケース2 ケース3 ケース4

システム 熱媒循環ノンリーク式

GGH

蓄熱再生エレメント

回転式 GGH 蒸気加熱式 SGH 湿式煙突付吸収塔

概略図

GGH

吸収塔

脱硫通風器

既設煙突

GGH(再加熱器) (熱回収器)

GGH

吸収塔

脱硫通風器既設煙突

SGH

ドレン

蒸気

吸収塔

脱硫通風器 既設煙突

湿式煙突付吸収塔

脱硫通風器 既設煙突

設置面積 ベース 同等 小さい 大きい

(煙突架構に左右される)

実機例 多い 多い 少ない 少ない

特徴

消費電力

蒸気消費量

排ガスリーク

脱硫排ガスの排出

装置全体の要求脱硫効率

(吸収塔に必要とされる脱硫効率)

煙突からの排煙可視

脱硫下流機器の耐食要求

建設費

ベース

ベース

無し

既設煙突

ベース(ベース)

通常不可視、冬季可視

ベース

ベース

同等

同等

有り

既設煙突

同等(高い)

通常不可視、冬季可視

同等

やや小さい

より少ない

多い

無し

既設煙突

同等(同等)

通常不可視、冬季可視

厳しい

やや小さい

少ない

少ない

無し

新設湿式煙突(高さは低い)

高い(高い)

常時白煙蒸気可視

厳しい

同等

Page 10: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

従って、ウグレビック石炭焚火力発電所及びコストラッツ石炭焚火力発電所での排煙脱硫設備

の主要系統は図 1-1 に示す如くであり、物質収支は表 1-7、1-8 となる。

表 1-7 ウグレビック火力発電所排煙脱硫設備物質収支

(300MW × 1 ユニット)

脱硫入り口ガス 脱硫出口ガス

ガス量(湿り) m3N/h-Wet 1,460,000 1,679,300

ガス量(乾き) m3N/h-Dry 1,325,800 1,364,100

ガス温度 ℃ 192 90

SO2 mg/m3N-Dry 25,000 400

煤塵 mg/m3N-Dry 150 50

補給水 石灰石 石膏 排水

H2O Kg/h 210,000 - 12,390 -

CaCO3 Kg/h - 52,480 - 27,940

CaSO4+2H2O Kg/h - - 87,650 -

その他 Kg/h - 1,520 3,180 60

合計 Kg/h 210,000 54,000 103,220 28,000

表 1-8 コストラッツ B火力発電所排煙脱硫設備物質収支

(348.5MW×1 ユニット用、プラント全体ではこれらの 2倍となる)

脱硫入り口ガス 脱硫出口ガス

ガス量(湿り) m3N/h-Wet 2,015,100 2,167,000

ガス量(乾き) m3N/h-Dry 1,612,100 1,625,200

ガス温度 ℃ 170 90

SO2 mg/m3N-Dry 7,360 400

煤塵 mg/m3N-Dry 150 50

補給水 石灰石 石膏 排水

H2O Kg/h 135,000 - 4,270 -

CaCO3 Kg/h - 18,100 - 9,980n

CaSO4+2H2O Kg/h - - 30,150 -

その他 Kg/h - 500 1,190 20

合計 Kg/h 135,000 18,600 35,610 10,000

図 1-2、1-3 にそれぞれの排煙脱硫設備の配置を示す。

Page 11: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

1 –

1 - 11

図 1-1 排煙脱硫設備の主要系統

バケットエレベータ

排水➃

×

石灰石サイロ(CaCO3)コンベヤ

粉砕機

循環ポンプ

ガスガスヒータ

昇圧通風機

吸収塔

石膏脱水機

石膏貯蔵倉庫

定量フィーダ

吸収剤スラリピット

ろ液ピット

ミストエリミネータ

酸化空気

煙 突

ダンパー

ボールミル

❶ ❷

➀補給水

(BUF)

(GGH)

ボイラ排ガス

Page 12: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

1 –

1 - 12

図 1-2 ウグレビック石炭焚火力発電所排煙脱硫設備配置計画図

22m

吸収塔とガスガスヒータ

100m 100m

石膏貯蔵倉庫

既設煙突

脱 硫 電 気

石灰石ミル

石膏脱水機

Page 13: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

1 –

1 - 13

図 1-3 コストラッツB石炭焚火力発電所排煙脱硫設備配置計画

吸収塔とガスガスヒータ 既設煙突

石膏脱水機

石膏貯蔵倉庫

脱硫電気制御室

石灰石ミル

120m

20m

Unit-2Unit-1

Page 14: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

1.6 事業費の積算

両国では 初の石炭焚火力発電所用排煙脱硫設備となるので建設経験は皆無であるが、

近隣諸国での排煙脱硫設備の建設データ等からそれぞれの設備建設費用を算出した。但し、

下記項目に係わる諸費用は各発電所にて賄うものとして今回の算出には考慮していない。

尚、予備費及びコンサルタントフィーはそれぞれ建設費合計の 5%と想定した。

① 埋設物などを含む既設の撤去および移設工事

② 排煙脱硫設備の追設に必要となる既設の改造工事

③ 排煙脱硫設備の追設に必要な電源、補給水、軸冷水、蒸気および制御

空気など追設エリア迄のユーティリティの供給とその工事

④ 資材置場を含む工事用地および工事に必要なユーティリティの供給

とその工事

⑤ 石灰石粉砕機前ホッパー迄の石灰石輸送と引渡しに係わる設備

⑥ 石膏貯蔵倉庫から払出しに係わる諸設備

⑦ 排煙脱硫設備の追設のために設けた建屋の家具、什器品類

⑧ 試運転に係わる一切の消耗材(例えば、石灰石、補給水および潤滑油

など)

表 1-9 ウグレビック石炭焚火力発電所用排煙脱硫設備建設費用(300MW×1 ユニット)

項目 単位 金額

a.設備建設費(脱硫排水設備は含まない) US$ 42,500,000

b.上記設備の試運転、性能試験および据付工事 US$ 12,100,000

c.上記設備の土木工事および建屋の建築工事 US$ 13,200,000

建設費合計 US$ 67,800,000

d.予備費(Contingency) US$ 3,390,000

e.コンサルタントフィー US$ 3,390,000

事業費合計 US$

(円)

74,580,000

(8,204,000,000)

表 1-10 コストラッツ B石炭焚火力発電所排煙脱硫設備建設費用(348.5MW×2 ユニット)

項目 単位 金額

a.設備建設費(脱硫排水設備は含まない) US$ 80,600,000

b.上記設備の試運転、性能試験および据付工事 US$ 21,900,000

c.上記設備の土木工事および建屋の建築工事 US$ 22,600,000

建設費合計 US$ 125,100,000

Page 15: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

d.予備費(Contingency) US$ 6,255,000

e.コンサルタントフィー US$ 6,255,000

事業費合計 US$

(円)

137,610,000

(15,137,000,000)

注:上記 US ドル日本円の換算率は、110 円/US$を採用したものである。

1.7 本調査の結論

ボスニア・ヘルツェゴビナのスルプスカ共和国ウグレビック石炭焚火力発電所及びセル

ビア・モンテネグロのセルビア共和国コストラッツB石炭焚火力発電所に排煙脱硫設備を

設置した場合の大気汚染物質の削減量は下表 1-11 及び 1-12 の如くとなり、両国が目指す

EU加盟への環境改善へ大きく貢献で来ることが想定される。

表 1-11 ウグレビック発電所の大気汚染物質削減量

大気汚染物質 単位 現状値 FGD 設置後 削減率 EU 基準

SO2 [mg/m3N] 25,000 400 98.35% 400

NO2 [mg/m3N] 600 583.16 - 500

Dusts [mg/m3N] 150 30-45 70-80% 50

表 1-12 コストラッツ B発電所の大気汚染物質削減量

大気汚染物質 単位 現状値 FGD 設置後 削減率 EU 基準

SO2 [mg/m3N] 7,360 400 94.5% 400

NO2 [mg/m3N] 440 440 - 500

Dusts [mg/m3N] 150 30-45 70-80% 50

本事業である排煙脱硫装置建設は商業的生産事業ではなく、石灰石石膏法にて硫黄酸化

物を石膏に変えて除去するもので、キャッシュインフローは期待できない。生成した石膏

は一般的に石膏ボード或いはセメント用原材料として利用されるが、同国にはこれらの製

造設備が存在していないことから、近隣の採炭跡地への廃棄処分となる。

事業性の定量的評価は、一般的に内部収益率(Internal Rate of Return, IRR)を指標

として用いて行う。必要な設備投資並びに事業維持する為の諸費用(キャッシュアウトフ

Page 16: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

ロー)にたいして、一定期間中に生み出される利益、また、社会経済的視点から期待でき

る便益がいかなる収益率となるか、それぞれ財務的内部収益率(FIRR)、経済的内部収益率

(EIRR)と呼ばれるが、それらを算出して判断することになる。然しながら、上述の如く、

本事業からの直接的利益(キャッシュインフロー)は期待できなく、現在の高濃度の硫黄

酸化物を起因とする気管支疾患などの公害被害が、近郊地域では全く発生していない状況

から、一般的に排煙脱硫装置設置効用として期待できる公害被害の機会費用(気管支障害

の病院での治療費、治療に伴う労働機会損失の貨幣化等)の削減も見込めないことから、

社会経済的見地からの貨幣化対象となる便益が無い状況では、定量的事業性分析は困難で

ある。

当該国の石炭焚火力発電所の立地は、原料として利用できるリグナイト或いは褐炭の炭

鉱の近辺であり、対象の火力発電所は近隣のリグナイト或いは褐炭を燃料源としている。

このリグナイト/褐炭は、硫黄含有率は比較的高く、かなり低発熱量の石炭であることから

必要な熱量を得る為には多量燃焼が避けられなく、当然のことながら、排煙に含まれる硫

黄酸化物の絶対量は大きくなってくる。硫黄酸化物量排出削減対策のひとつの方法として、

燃料源として高発熱で低硫黄含有石炭への変換があげられるが、当該国内エネルギー資源

の有効利用の観点からは難しいことは明白であり、技術的削減手法、即ち、本事業である

排煙脱硫装置の設置が実質的対処となる。将来(2012 年をターゲットにしている)の EU 加

盟を目指している当該国は、国内環境基準の遵守励行はもとより、基準そのものの EU 基準

との協調の方向を標榜している。

本邦の環境規制の歴史から思い起こされるように、当初は個々の汚染源の規制が重要視

されて、個々の排出規制強化が行われてき、比較的少ない汚染源数の場合はその単一規制

で効果をあげることが出来た。しかし、汚染源数の増大が工業化の進展につれて起こり汚

染源近傍だけの環境だけではなく、広範囲な環境、即ち地区環境、地域環境、更には地球

環境へとその対象が広がり、容認できる総量を限度とする規制方法が必要になってくる。

地球温暖化防止への全世界的な取り組みもこのような道筋のひとつである。

当該国での現況は、比較的汚染源が少なく、ひとつの汚染源からかなりの濃度で排出さ

れていても具体的な影響を感知するには至っておらず、また社会環境問題の提議も無く、

その汚染物質の削減効果の把握も当然ながら予測困難である。然しながら、影響が関知さ

れていない状況であっても、汚染物質は確実に大気中に放出されており自然環境の悪化を

招いていることは確実である。特に硫黄酸化物の排出は酸性雨の主因であること、その大

気中濃度が高い居住地域での気管支障害を引き起こすことは既知事実であり、本事業での

脱硫装置の設置が無く、現状の排出が継続されていく場合このような現象を招くことは容

易に想定できる。

更に、原料炭質の交換が期待できない状況下では、EU 環境基準への移行を進める場合に

は、排出基準を守れなく、何れ操業停止に追い込まれ、ひいては共和国経済活動の根幹で

Page 17: 平成 17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 ( …...平成17 年 地球環境・プラント活性化事業等調査 「西バルカン地域主要火力発電所排煙脱硫装置」

ある産業エネルギー源の不足問題へと重大危機の可能性もある。

このように本事業である脱硫装置の設置は、ウグレビック石炭焚火力発電所、コストラ

ッツ B 石炭焚火力発電所が関連環境保護基準を遵守し安定した発電操業を担保するもので

あり、国内主要発電を担う他の石炭焚火力発電所の環境対策事業への波及効果となり、何

れスルプスカ共和国、セルビア共和国の産業エネルギー源である電力の安定供給に寄与す

ることが出来、その貢献は大きいものと判断される。

1.8 今後の展開

スルプスカ電力公社(EPRS)、セルビア電力公社(EPS)が策定している電源設備開発計

画によるとウグレビック石炭焚火力発電所及びコストラッツB石炭焚火力発電所へ排煙脱

硫装置を設置し、運転を開始するのを 2011 年としている。

一方、本排煙脱硫設備設置が円借款事業として実行される場合の実施期間は、両国政府

間の合意、海外コンサルタントの選定、EPC 契約準備並びに EPC 契約者選定などの建設開始

までに 22 ヶ月、ウグレビック発電所での建設工事期間 30 ヶ月、コストラッツBは発電所

での建設工事期間 33 ヶ月、それぞれ 52 ヵ月、55 ヶ月の期間が必要である。

従って、両発電所の 2011 年の排煙脱硫設備運転開始には、2006 年までに両国政府間での

円借款事業についての合意が必要である。借款合意までの両国での業務に要する期間の設

定は難しいため、合意後の業務、期間を下表 1-13 に示す。

本事業は大気汚染防止設備の設置であることから円借款では優先条件適用可能分野であ

る。更に、脱硫設備単体は非生産性であるので商業性は認められず、その技術は本邦の厳

しい環境基準の中で形成されてきたものであり、省エネルギー対策と併せて本邦技術の優

位性から、本邦技術活用条件(STEP)の適用を期待するものである。

表 1-13 予想所要期間

業務項目 ウグレビック発電所 コストラッツ B発電所

1 コンサルタント選定 6 ヶ月 6 ヶ月

2 現地調査・EPC 入札準備 8ヶ月 8 ヶ月

3 業者応札準備 3 ヶ月 3 ヶ月

4 応札結果評価・選定 5 ヶ月 5 ヶ月

小計 22 ヶ月 22 ヶ月

5 詳細設計・建設・試運転 30 ヶ月 33 ヶ月

総所要期間 52 ヵ月 55 ヶ月