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-1- 原告の訴えのうち,原告が,被告に対し,被告の直営店店長としての地位にあ る間,労働基準法36条の規定による労使協定の締結及び同協定の所轄労働基準 監督署長への届出がなされ,同協定内容が周知され,かつ,同協定が定める事由 及び限度時間の範囲でなければ,1日8時間,1週40時間を超えて労働する労 働契約上の義務を負っていないことの確認を求める訴えを却下する。 被告は,原告に対し,503万4985円及び別紙時間外及び休日割増賃金一 覧表「各月合計」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日の翌日から 支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,251万7493円及びこれに対する本判決確定の日の 翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。 第1 請求 原告が,被告に対し,被告の直営店店長としての地位にある間,労働基準法 36条の規定による労使協定の締結及び同協定の所轄労働基準監督署長への届 出がなされ,同協定内容が周知され,かつ,同協定が定める事由及び限度時間 の範囲でなければ,1日8時間,1週40時間を超えて労働する労働契約上の 義務を負っていないことを確認する。 被告は,原告に対し,517万2392円及び別紙未払残業代請求目録「各 月合計」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日の翌日から年6分 の割合による金員を支払え。 被告は,原告に対し,517万2392円及びこれに対する本判決確定の日 の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

主 文 2 被告は,原告に対し,503万4985円及び別紙 …- 1 - 主 文 1 原告の訴えのうち,原告が,被告に対し,被告の直営店店長としての地位にあ

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主 文

1 原告の訴えのうち,原告が,被告に対し,被告の直営店店長としての地位にあ

る間,労働基準法36条の規定による労使協定の締結及び同協定の所轄労働基準

監督署長への届出がなされ,同協定内容が周知され,かつ,同協定が定める事由

及び限度時間の範囲でなければ,1日8時間,1週40時間を超えて労働する労

働契約上の義務を負っていないことの確認を求める訴えを却下する。

2 被告は,原告に対し,503万4985円及び別紙時間外及び休日割増賃金一

覧表「各月合計」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日の翌日から

支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3 被告は,原告に対し,251万7493円及びこれに対する本判決確定の日の

翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4 原告のその余の請求を棄却する。

5 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告の,その余を被告の負担とする。

6 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 原告が,被告に対し,被告の直営店店長としての地位にある間,労働基準法

36条の規定による労使協定の締結及び同協定の所轄労働基準監督署長への届

出がなされ,同協定内容が周知され,かつ,同協定が定める事由及び限度時間

の範囲でなければ,1日8時間,1週40時間を超えて労働する労働契約上の

義務を負っていないことを確認する。

2 被告は,原告に対し,517万2392円及び別紙未払残業代請求目録「各

月合計」欄記載の各金員に対する同表「支払日」欄記載の日の翌日から年6分

の割合による金員を支払え。

3 被告は,原告に対し,517万2392円及びこれに対する本判決確定の日

の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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4 被告は,原告に対し,300万円及びこれに対する平成17年1月6日から

支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5 被告は,原告に対し,14万7200円及びこれに対する平成17年1月6

日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,被告の従業員である原告が,被告に対し,①原告が,労働契約上,

労働基準法36条に規定する労使協定が締結されるなどするまで,法定労働時

間(同法32条)を超えて労働する義務を負っていないことの確認(請求の趣

旨第1項),②未払の時間外割増賃金及び休日割増賃金の支払(同第2項),

③この未払賃金に係る付加金の支払(同第3項),④被告から長時間労働を強

いられたことにより,精神的苦痛を被ったとして,不法行為に基づく,慰謝料

の支払(同第4項),⑤通勤に要した高速道路料金の支払(同第5項)をそれ

ぞれ求めた事案である。

1 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実)

( ) 被告は,全国に展開する直営店等で自社ブランドのハンバーガー等の飲1

食物を販売することなどを目的とする株式会社であり,平成17年12月3

1日現在の店舗数は3802店(そのうち直営店は2785店)である。

( ) 被告の営業ラインのランク付けは,概要,①マネージャートレーニー2

(入社時からセカンドアシスタントマネージャーに昇格するまでの身分),

②セカンドアシスタントマネージャー,③ファーストアシスタントマネージ

ャー,④店長,⑤オペレーションコンサルタント(以下「OC」という。O

Cは,10店舗程度を担当し,その担当区域をOCエリアという),⑥オペ

レーションマネージャー(以下「OM」という。OMは,6か所程度のOC

エリアを統括し,その担当区域をOMエリアという),⑦営業部長,⑧営業

推進本部長(代表取締役の兼務)からなる。(乙34)

このうち,店舗の業務には,店長,ファーストアシスタントマネージャー,

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セカンドアシスタントマネージャー(以下,ファーストアシスタントマネー

ジャーと併せて「アシスタントマネージャー」ということもある)及びマネ

ージャートレーニーが従事し,そのほかにアルバイト従業員であるクルーと

スウィングマネージャーが勤務している(被告では,店舗の各営業時間帯に

商品の製造,販売を総指揮する者をシフトマネージャーと呼び,各営業時間

帯には必ずシフトマネージャーを置く必要があるとされているが,これを務

めることができるクルーをスウィングマネージャーと呼んでいる。また,ス

ウィングマネージャー以外では,店長,アシスタントマネージャー等がシフ

トマネージャーを務めることができる)。

平成19年9月末日現在の被告の従業員数は,店長より上位の社員が合計

277名,店長が合計1715人,アシスタントマネージャー及びマネージ

ャートレーニーが合計2555人,スウィングマネージャーが合計1万98

70人,クルーが合計10万1152人である。(乙44)

( ) 原告は,昭和62年2月,被告に社員として採用されると(マネージャ3

ートレーニー),同年7月にセカンドアシスタントマネージャーに,平成2

年11月にファーストアシスタントマネージャーに,平成11年10月に店

長(伊奈町店)にそれぞれ昇格した。

その後,本庄エッソSS店,東松山丸広店等の店長を経て,平成15年2

月から高坂駅前店(店長がいないサテライト店1店の担当も兼務),平成1

7年2月から125熊谷店の店長を務めている。

( ) 被告の就業規則には,以下のような定めがある。4

第11条(労働時間,休憩時間)

1 店舗マネージャー・営業スタッフ

① 所定労働時間は1ヶ月(毎月1日を起算日とする)を平均して

1週間平均40時間以内とする。

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第12条(遅刻ならびに早退の手続き)

遅刻並びに早退の手続きについては次の通り定める。

① 始業時刻に遅れるときは事前に速やかに会社へ報告しなければな

らない。また始業時刻に遅れたときは,事後速やかに届けなければ

ならない。

② 病気その他やむを得ない理由のため早退しようとする場合は,所

属長の承認を得なければならない。

第13条(休日)

休日は次の通り定める。

1 店舗マネージャー・営業スタッフ

① 年間休日119日を各月10日間(但し2月は9日間)に分割

して与える。

② その他会社が特に定めた日。

第14条(時間外,休日)

業務の都合により所属長の指示する時間外勤務又は休日勤務に関し

ては,別に定める給与規程により割増手当を支給する。

第15条(深夜勤務)

業務の都合により所属長の指示する深夜勤務に関しては,別に定め

る給与規程により割増手当を支給する。また,管理及び監督の地位に

ある者,およびオフィススタッフのチーフ,コンサルタントに関して

は職務基準給に14,000円の深夜勤務等手当を含むものとする。

第16条(適用の除外)

第11条から第14条までの規程は,次の者に対しては適用しない。

① 管理又は監督の地位にある者

パートの処遇,採用,解雇の可否,昇給の決裁権限を有する店長,

営業スタッフ,会社の重要な戦略,戦術を決定する等,および部

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長不在時にその職務等を代理決裁するマネージャー職以上の者

第20条(給与規程)

社員の給与及び賞与については,別に定める給与規程による。

(甲1)

( ) 被告の給与規程には,以下のような定めがある。5

第2条(給与の構成)

給与の構成は次の通りとする。

① 基準内給与

(ア) 基準給(職務基準給,住宅手当,評価手当)

(イ) 住宅手当

② 基準外給与(通勤手当,深夜勤務割増手当,時間外勤務割増手当,

休日勤務割増手当)

第3条(基準内給与)

基準給および職務基準給は学歴,経験,能力及び年齢等を総合評価し

て決定する。尚,基準内給与については,給与計算期間中の欠勤,遅刻,

早退等による控除を行わない。

第4条(評価手当)

評価手当は,オフィスのチーフ及びコンサルタント,管理及び監督の

地位にある者に対し,人事考課に応じ別途定める方法にて支給する。

第5条(住宅手当)

住宅手当は,基準給の10%を支給する。

第6条(通勤手当)

1 通常の交通機関を利用して通勤する場合には,その通勤費の実費を

支給する。

2 自家用車を利用して通勤する場合は,別に定める車輌管理規程によ

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る手続きを経た者に限り,同規程によりその通勤費を支給する。

第7条(深夜勤務割増手当)

深夜勤務(22:00~5:00)を命じた場合は,基準内給与の時

間割給の25%に相当する額に深夜労働時間数を乗じた深夜勤務割増手

当を支給する。尚,基準内給与の時間割給は次の算式による。

基準内給与の時間割給=基準内給与/164時間

(164時間とは1ヶ月の平均所定労働時間である)

第8条(時間外勤務割増手当)

1 業務の都合により所定労働時間外勤務を命じた場合は,基準内給

与の時間割給とその25%に相当する額の合計額に,所定労働時間

外労働時間数を乗じた時間外勤務割増手当を支給する。

2 時間外勤務を命じた場合で,深夜(22:00~5:00)に及

ぶ時間については,前項の時間外勤務割増手当の他に,基準内給与

の時間割給の25%に相当する額に深夜労働時間数を乗じた深夜勤

務割増手当を支給する。尚,時間割給の算式は第7条に準じる。

第9条(休日勤務割増手当)

1 業務の都合により休日勤務を命じた場合は,基準内給与の時間割

給とその25%(但し,法定休日に勤務した場合は35%)に相当

する額との合計額に休日労働時間数を乗じた休日勤務割増手当を支

給する。

2 休日勤務が深夜に及ぶ場合は,前項の休日勤務割増手当の他に基

準内給与の時間割給の25%に相当する額に,深夜労働時間数を乗

じた深夜勤務割増手当を支給する。尚,時間割給の算式は第7条に

準じる。

第10条(計算期間及び支給日)

給与の計算期間は,当月1日より当月末日迄とし,当月25日に予め

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本人より指定された本人名義の口座へ振込にて支給する。但し,25日

が土曜日,日曜日または国の祝祭日にあたるときは,その前日に支給す

る。

(甲1)

( ) 被告の車両管理規程には,以下のような定めがある。6

第1条(原則)

本規程は,業務利用車を使用する場合の取り扱いについて必要な事項

を定める。業務利用車とは会社が所有する車輌(以下「社有車」とい

う)及び社員等が所有する車輌(自動二輪車,原付自転車を含む,以下

「私有車」という)を業務の用に供するために使用する場合をいう。

第17条(私有車の業務利用届)

1 社員・準社員の私有車業務利用届に関しては,私有車を業務上

(通勤を含む)使用する場合,またはその可能性を多少とも有する

場合は,所属長の承認を得て,私有車の業務利用届を社員・準社員

は総務部に提出して当該車輌を会社に登録をしなければならない。

第21条(ガソリン代等の支給)

私有車を業務に使用した場合は,次の通りガソリン代等を支給する。

1 通勤に使用する場合は,下記計算方法により算出した金額を,毎

月給与と同時に支給する。

往復距離×25(円)×21(日)

5 有料道路料金及び駐車場料金もその実費を支給するが,領収書を

添付しなければならない。

第22条(登録済み私有車の使用手続)

1 登録済私有車を業務に使用する場合は,所属長に原則として事前

に許可を得なければならない。

2 所属長は,次の各項目を検討の上,その許可を与えるものとする。

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① 私有車を使用することの妥当性,緊急性

(甲1)

2 争点

( ) 原告が,労働契約上,労働基準法36条に規定する労使協定が締結され1

るなどするまで,法定労働時間を超えて労働する義務を負っていないことの

確認を求める訴え(請求の趣旨第1項)に確認の利益があるか。

( ) 店長である原告は,労働基準法41条2号の「事業の種類にかかわらず2

監督若しくは管理の地位にある者(以下「管理監督者」という)」に当たる

か。

( ) 仮に,争点( )が否定された場合,原告に支払われるべき時間外割増賃金3 2

及び休日割増賃金の金額はいくらか。

( ) 時間外割増賃金及び休日割増賃金に係る付加金の要否及びその額4

( ) 原告の勤務状況に関する被告の不法行為の成否及びその損害額5

( ) 原告が通勤に使用した高速道路料金に関する被告の支払義務の有無6

第2 争点に対する当事者の主張

1 争点( )(原告が,労働契約上,労働基準法36条に規定する労使協定が締1

結されるなどするまで,法定労働時間を超えて労働する義務を負っていないこ

との確認を求める訴え(請求の趣旨第1項)に確認の利益があるか)について

(被告の主張)

この訴えのうち,将来の権利関係の確認を求める部分に確認の利益はない。

また,現在及び過去の権利関係の確認を求める部分は,本件の時間外割増賃

金及び休日割増賃金の支払請求(請求の趣旨第2項)が認められれば,その効

果として,当然に当該権利関係も確認されるという関係にあるから,これも確

認の利益はない。

(原告の主張)

時間外割増賃金及び休日割増賃金について,過去の未払分が支払われたとし

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ても,被告が原告を管理監督者として扱っている以上,今後とも労働基準法に

違反した長時間労働が強制されることは明白である。原告は,本来,労働基準

法の規定に則って労働する権利が保障されているのであり,これを被告に遵守

させ,本件紛争を直接かつ抜本的に解決するためには,請求の趣旨第1項の訴

えに係る権利関係の確認が不可欠である。

また,原告は,現在も違法な時間外労働をしていて,割増賃金も支払われて

いないのであるから,かかる違法状態を直ちに解消すべき状況にあるといえる。

したがって,請求の趣旨第1項に係る訴えについては,確認の利益がある。

2 争点( )(店長である原告は,管理監督者に当たるか)について2

(被告の主張)

( ) 管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督する者(監督の1

地位にある者)又は他の労働者の労務管理を職務とする者(管理の地位にあ

る者)をいい,監督か管理の一方に職務内容を厳密に分類することができな

い者であっても,その職務の特質から労働時間管理が困難又は不適切であり,

その賃金が職務の特質に適応した額,方法により支払われている場合は,管

理監督者に当たるといえる。

( ) 被告の店長は,数十名の従業員(クルー,スウィングマネージャー,ア2

シスタントマネージャー等)の勤務シフトを作成し,当該店舗における従業

員の勤務の指揮監督を行っているから,監督の地位にある者に当たる。

また,店長は,クルーの採用やスウィングマネージャーへの昇格,クルー

及びスウィングマネージャーの人事考課,昇給等を決定するほか,社員の人

事考課,昇給等の決定などの労務管理も行っているから,管理の地位にある

者にも当たる。

(なお,仮に,管理監督者の該当性について,労務管理以外の職責や権限を

考慮すべきであるとしても,被告における店長は,店舗の売上計画や予算の

立案のほか,店舗における支出の決定,販売促進活動の企画,実施,店舗の

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衛生等の管理,店長会議等への参加を通じた被告の経営への参画など,重要

な職責と権限を有していることは明らかである)

そして,以上のような店長の職務は,労働時間の管理になじまないもので

あるし,その賃金についてはアシスタントマネージャーとは異なる報酬体系

が採用され,その職務の特質に即した額,方法による賃金が支払われている

から,店長が管理監督者に当たることは明らかである。

(原告の主張)

( ) 管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体1

的立場にある者をいう。換言すると,管理監督者とは,労働時間や休日,休

憩に関する労働基準法の規制を越えて活動することが要請されるほど重要な

職務と責任を有し,それにふさわしい待遇を現実に受けており,現実の勤務

形態も労働時間等の規制になじまない立場にある者を意味する。管理監督者

に当たるか否かは,社内の名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであ

るが,その判断の基本は,当該労働者の業務の実情に照らし,労働時間等の

規制を適用しなくても当該労働者の保護に欠けることがないといえるか否か

である。

( ) 被告の店長は,店舗のアルバイト従業員を採用する権限はあるものの,2

何人でも自由に採用できるわけではなく,その時給を自由に決めることもで

きない。また,社員を採用する権限はなく,第1次評価者として社員の人事

考課は行うが,その昇給,昇格を決定する権限はない。また,店長は,店舗

従業員の勤務シフト案を作成するが,その最終的な決定はOCが行っている。

さらに,店長は,店舗に関する次年度の売上計画や予算を策定するが,その

策定に自由な裁量があるわけではないし,店舗の販売促進活動の内容を決定

し,これを実行する権限もない。店長会議には参加するものの,店長会議は,

被告が既に決定した店舗の業務に関する営業戦略や社員の人事考課に関する

基本方針を店長に徹底させるためのものでしかない。

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このように,店長には経営者と一体といえるような権限,責任はなく,ま

た,その職務は,すべて一定の時間内に行うことが可能な性質のものである。

また,店長は,店舗責任者として,営業時間中は基本的に在店しなければ

ならず,他のシフトマネージャーが確保されない営業時間帯には,自らシフ

トマネージャーとして勤務しているのであって,出退勤の自由はない。

さらに,店長には,管理監督者としてふさわしい処遇がなされているとは

いえず,時間外労働等の割増賃金が支払われるファーストアシスタントマネ

ージャーよりも年収が少ないという逆転現象がしばしば起きている。

( ) 以上によれば,店長である原告は,管理監督者に当たらない。3

3 争点( )(仮に,争点( )が否定された場合,原告に支払われるべき時間外割3 2

増賃金及び休日割増賃金の金額はいくらか)について

(原告の主張)

( ) 平成15年12月から平成17年11月までの,原告の出社時刻,退社1

時刻,休憩時間,1日の労働時間,そのうち8時間を超過した時間,週40

時間を超えた労働時間(1日8時間を超える労働時間として計上した時間を

除く),休日労働時間は,それぞれ,順に,別紙勤務状況一覧表(請求)の

「出社1」「退社1」「出社2」「退社2」「休憩」「労働時間」「8時間

超」「40時間超」「休日労働時間」の各欄記載のとおりである。

また,①平成15年12月から平成16年3月までの時間外割増賃金の時

間単価は2748円((基準給+住宅手当+評価手当)÷164(月平均労

働時間)×1.25,この計算方法は,以下の時間外割増賃金の場合も同様

である),分単価は45円,休日割増賃金の時間単価は2968円((基準

給+住宅手当+評価手当)÷164(月平均労働時間)×1.35,この計

算方法は,以下の休日割増賃金も同様である),分単価は49円,②平成1

6年4月から平成17年3月までの時間外割増賃金の時間単価は3070円,

分単価は51円,休日割増賃金の時間単価は3315円,分単価は55円,

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③平成17年4月から同年11月までの時間外増賃金の時間単価は2612

円,分単価は43円,休日割増賃金の時間単価は2821円,分単価は47

円である。

( ) したがって,別紙未払残業代請求目録記載のとおり,原告の平成15年2

12月から平成17年11月までの時間外割増賃金は合計417万3971

円,休日割増賃金は合計99万8421円となり,その総合計は517万2

392円となる。

(被告の主張)

( ) 別紙勤務状況一覧表(請求)に記載された原告の勤務状況が,出退社時1

刻・時間外勤務一覧表(甲3)及び勤務表(甲4,乙3,4)の記載に基づ

く集計をした結果であることは認めるが,原告の実際の勤務がこれらの記載

のとおりであったか否かは知らない。

( ) 仮に,原告について時間外労働を想定した場合,時間外割増賃金の時間2

単価は,平成15年12月から平成16年3月までは2750円,同年4月

から平成17年3月までは3070円,同年4月から同年11月までは26

12円である。

4 争点( )(時間外割増賃金及び休日割増賃金に係る付加金の要否及びその4

額)について

(原告の主張)

原告は,被告に労働組合がないため,東京管理職ユニオンに加入して,被告

に対し,店長の長時間にわたる過重労働を止めることや,時間外割増賃金等を

支払うことを求めてきたが,被告は依然として店長には時間外割増賃金等を支

払わないという態度に終始しており,極めて悪質である。

したがって,被告は,原告に対し,付加金として時間外割増賃金と休日割増

賃金の合計額を支払うべきである。

(被告の主張)

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争う。

5 争点( )(原告の勤務状況に関する被告の不法行為の成否及びその損害額)5

について

(原告の主張)

原告は,被告から労働基準法に違反した長時間労働を強いられ,その結果,

健康被害が発生したり,家族との関係にも支障を来すなどして,著しい精神的

苦痛を被った。この精神的苦痛に対する慰謝料としては,少なくとも300万

円が必要である。

(被告の主張)

争う。

被告は,原告に対し,労働基準法に違反した長時間労働を強いた事実はない。

6 争点( )(原告が通勤に使用した高速道路料金に関する被告の支払義務の有6

無)について

(原告の主張)

( ) 原告は,被告に対し,車両管理規程17条に規定されている私有車の業1

務利用届を提出している。また,高速道路料金に関しては,同規程21条5

項で「有料道路料金及び駐車場料金もその実費を支給するが,領収書を添付

しなければならない」と規定されているだけで,その支給のために他の手続

が必要であるとの定めはない。

したがって,被告は,原告に対し,原告が通勤に要した高速道路料金の支

払義務を負う。

( ) 原告は,実際には毎日通勤に高速道路を利用していたが,本件では,別2

紙高速道路料金一覧表記載の料金合計9万7650円の支払を求める(なお,

この請求額と請求の趣旨第5項の金額には齟齬がある)。

(被告の主張)

( ) 被告の従業員が私有車を通勤に使用し,ガソリン代等の支給を受ける場1

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合には,予め所属長に自家用車両の業務利用届を提出し,その登録を受けた

うえで(これが,同規程17条1項の登録に当たる),所属長を通じ,人事

部に通勤費支給申請書を提出して,所属長の許可(これが,同規程22条1

項の許可に当たる)を得る必要がある。

有料道路を使用する場合には,領収書を添付するのが原則であるが(同規

程21条5項),実務的には,通勤費支給申請書の「有料道路の通勤料金を

申請します」という入力欄で「はい」を選択した従業員に対して,通勤経路

に応じて算定された高速道路料金が支払われるという運用がされている。

しかるに,原告は,被告に対し,自家用車両の業務利用届と通勤費支給申

請書を提出していたが,同申請書の「有料道路の通行料金を申請します」と

いう入力欄で「いいえ」を選択していたため,被告は,高速道路料金を支払

っていないのである。

したがって,原告は,そもそも高速道路料金を請求するのに必要な手続を

取っていないのであるから,被告が,その支払義務を負うべき理由はない。

( ) なお,被告は,本件で原告が請求している高速道路料金のうち,平成12

5年12月21日以前に請求権が発生した7600円分については,平成1

8年9月22日(第4回弁論準備手続期日)にその消滅時効を援用した。

第3 争点に対する判断

1 争点( )(原告は,労働契約上,労働基準法36条に規定する労使協定が締1

結されるなどするまで,法定労働時間を超えて労働する義務を負っていないこ

との確認を求める訴え(請求の趣旨第1項)に確認の利益があるか)について

前記第2,1記載の本件争点に対する原告の主張にかんがみると,この訴え

は,要するに,店長である原告には,労働基準法の労働時間の規定が適用され

ることの確認を求めるという趣旨であると解されるが(36協定の締結や届出

がされた場合,就業規則に当該協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労

働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めて

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いるときは,当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り,労働者は

労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うが,同協定の締結や

届出により,直ちに個々の労働者に対し協定上定められた時間外労働が義務づ

けられるものではない),原告は,本件訴訟において,これを前提に(具体的

には原告が管理監督者に当たらないことを主張して)時間外割増賃金を請求し

ている以上,これに加えて,上記の確認を求める法的な利益はないというべき

である。

この点,原告は,被告に労働基準法を遵守させ,本件紛争を直接かつ抜本的

に解決するためには,この訴えに係る権利関係の確認が不可欠であると主張す

るが,原告が確認を求めている権利関係は,時間外割増賃金の支払義務の存否

を決定する指標にとどまり,被告における原告のその余の待遇上の問題を広く

解決するようなものではないから,原告が,時間外割増賃金の請求に加え,当

該権利関係の確認を求める正当な理由はないというべきである。

したがって,この訴えには,確認の利益は認められない。

2 争点( )(店長である原告は,管理監督者に当たるか)について2

( ) 使用者は,労働者に対し,原則として,1週40時間又は1日8時間を1

超えて労働させてはならず(労働基準法32条),労働時間が6時間を超え

る場合は少なくとも45分,8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩

時間を与えなければならないし(同法34条1項),毎週少なくとも1回の

休日を与えなければならないが(同法35条1項),労働基準法が規定する

これらの労働条件は,最低基準を定めたものであるから(同法1条2項),

この規制の枠を超えて労働させる場合に同法所定の割増賃金を支払うべきこ

とは,すべての労働者に共通する基本原則であるといえる。

しかるに,管理監督者については,労働基準法の労働時間等に関する規定

は適用されないが(同法41条2号),これは,管理監督者は,企業経営上

の必要から,経営者との一体的な立場において,同法所定の労働時間等の枠

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を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような

重要な職務と権限を付与され,また,賃金等の待遇やその勤務態様において,

他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので,労働時間等に関する

規定の適用を除外されても,上記の基本原則に反するような事態が避けられ,

当該労働者の保護に欠けるところがないという趣旨によるものであると解さ

れる。

したがって,原告が管理監督者に当たるといえるためには,店長の名称だ

けでなく,実質的に以上の法の趣旨を充足するような立場にあると認められ

るものでなければならず,具体的には,①職務内容,権限及び責任に照らし,

労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与し

ているか,②その勤務態様が労働時間等に対する規制になじまないものであ

るか否か,③給与(基本給,役付手当等)及び一時金において,管理監督者

にふさわしい待遇がされているか否かなどの諸点から判断すべきであるとい

える。

この点,被告は,管理監督者とは,使用者のために他の労働者を指揮監督

する者又は他の労働者の労務管理を職務とする者をいい,その職務の内容が

監督か管理の一方に分類できない者でも,労働時間の管理が困難で,職務の

特質に適応した賃金が支払われていれば,管理監督者に当たると主張するが,

当該労働者が他の労働者の労務管理を行うものであれば,経営者と一体的な

立場にあるような者でなくても労働基準法の労働時間等の規定の適用が排除

されるというのは,上記検討した基本原則に照らして相当でないといわざる

を得ず,これを採用することはできない。

( ) 以上を前提に店長である原告の管理監督者性について検討するに,証拠2

(甲3,4,11の1,11の2,11の3,12,16~18,20,2

1,41,43の1,43の2,47,48,59,乙6~8,9の1,9

の2,10~18,20~25,28の1~5,30,31,34,35,

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37,38,53,55~59,証人P1,同P2,同P3,同P4,同P

5,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,被告の店長の権限,役割等につ

いては,次の事実が認められる(なお,以下の認定事実は,主として,本件

で原告が時間外割増賃金等の請求対象としている平成15年12月から平成

17年11月までの時期に関するものであり,店長の職務内容や労務管理の

方法等に関しては,その後一部変更された部分もある)。

ア 人事に関する事項

(ア) 店長は,前年度の実績を基に作成した店舗の損益計画(後記第3,

2( )ウ(ア)記載のもの)を考慮しつつ,店舗のアルバイト従業員であ2

るクルーを採用して,その時給額を決定したり,クルーのスウィングマ

ネージャーへの昇格を決定する権限を有している(なお,平成17年こ

ろ,原告が店長を務める店舗では,この昇格に際し,OCがスウィング

マネージャー候補者の知識や技能を確認していたが(スウィングチェッ

ク),これは被告の当時の運用としては,スウィングマネージャーへの

昇格のために不可欠の手続ではなかった)。

また,店長は,クルーやスウィングマネージャーに対する人事考課を

行い,その昇給を決定する権限も有している。

(イ) 他方,社員の採用権限は店長にはなく,社員の昇格についても,一

定の基準(店舗でのオンザジョブ・トレーニングや被告が設置するハン

バーガー大学の受講の有無)を満たす社員を店長が推薦し,OCがこれ

を決済することで決定されている。

また,店長は,店舗に勤務するアシスタントマネージャーについて,

一次評価者として,その人事考課を行う権限を有しているが,当該アシ

スタントマネージャーの人事評価は,OCによる2次評価,店長,OC

及び評価対象者による三者面談,OMエリアごとに各店長やOC,OM

が出席して開催される評価会議を経て最終的に決定され,その過程で,

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店長の一次評価についてOCが訂正を指示することもあった。

イ 各店舗の従業員の就業時間等に関する事項

(ア) 店長は,毎月,店舗従業員の勤務シフト表(社員とスウィングマネ

ージャーのものと,クルーのもの)を作成して被告に提出し,この作成

に併せて店長自身の勤務スケジュールを決定している。

(イ) また,店長は,被告から送付された協定書の雛形に則り,被告を代

表して,店舗従業員の代表者との間で,時間外労働等に関する協定を締

結したり,就業規則の変更に関する店舗従業員の代表者の意見を受領し,

労働基準監督署長に就業規則を変更した旨の届出をしたり,従業員代表

との間で,賃金控除に関する協定書を締結する権限を有している。

ウ 各店舗の営業等に関する事項

(ア) 店長は,本社が店舗の前年度実績から作成した売上予想に基づき,

次年度の店舗の売上予想や予算等を記載した損益計画を作成し,これを

本社に提出する。なお,店長が作成した損益計画は,自ら定めた努力目

標という位置付けであって,ノルマというものではなかった。

また,店長は,毎月,その時点における店舗の実情に基づき,上記損

益計画について月次の修正を行うことがあった。

(イ) 店長は,店舗の支出のうち,フードアンドペーパーコスト(食材の

仕入れ原価,食材を廃棄した分の費用など),クルーレーバー(アルバ

イトの人件費),ユーティリティ(電気代,ガス代,水道代)に関し,

決裁権限を有している。また,店舗の販売拡大のため,自店舗の商圏や

競合データの収集,分析等を行う職責を負い,販売促進のため,20万

円未満の範囲で,他社社員向け優待カードの発行,イベントの協賛,ク

ーポンの配布,ポスターの掲示,金券の発行等の販売促進活動を実施す

る権限も有しているが,その実施に当たっては,予め本社に企画書を提

出し,その承認を得る必要がある。

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(ウ) 店長は,形式的には,店舗の営業時間を変更する権限を有し,店長

の判断により,開店時間を早めたり,閉店時間を延長するなどの営業時

間の変更が行われた例もあった。

しかし,平成17年1月に本社の営業時間延長プロジェクトチームか

ら各店舗に「「営業時間についてのブランドイメージを再構築し,IE

O市場における優位性を確立すること」は日本マクドナルドの重要な戦

略であり,その第1段階として,同一時刻での“6:30amオープン

”を決定しました」,「2005年2月1日(火)以降6:30am開

店(物理的不可能な店舗は除きます)」と記載した通知がされたり,同

年10月に被告の上記プロジェクトチームから各店舗に「深夜早朝IE

Oポテンシャルから更なるセールスを獲得するため,閉店時間の延長を

実施致します。」,「”早朝から深夜まで営業しているマクドナルド”

というイメージをお客様に浸透させていきます」,「2005年12月

1日(木)以降 インストア23:00閉店 ドライブスルー0:00

閉店(物理的不可能な店舗は除きます)」と記載した通知がされたよう

に,本社から営業時間に関する方針が示されると,事実上,各店長は,

これに従うことを余儀なくされていた。

(エ) 以上のほか,店長は,店舗や商品の衛生管理,店舗の安全管理,店

舗の金銭や原材料の管理,近隣の商店街との折衝等を行う職責を負って

いる。

(オ) なお,店長がシフトマネージャーとして在店したり,商品の調理や

販売に従事することは,店長の固有の業務とはされていなかったが,店

舗の各営業時間帯には必ずシフトマネージャーが在店する必要があった

ため,他の従業員からシフトマネージャーが確保できない場合には,店

長がシフトマネージャーとして店舗に勤務しなければならず,勤務する

クルーの数が足りない場合には,自ら商品の調理や販売に従事する必要

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があった。

エ 被告の会議等への参加

(ア) 店長は,OMエリアやOCエリアごとに開催される店長会議に参加

するが,これらの会議では,被告の営業方針,営業戦略,人事等に関す

る情報提供が行われるほか,店長から各店舗の成功事例の説明がされた

り,互いの店舗経営について意見交換が行われることもある。

(イ) そのほか,店長は,店長コンベンション(全国の店長が参加して年

1回開催され,被告において導入される予定の新しいシステムの紹介や,

被告の営業戦略等に関する情報提供などがされるもの)やキックオフミ

ーティング(全国の店長が参加して年1回,通常は1月か2月に開催さ

れ,その年の全社的な戦略や目標のほか,店舗の営業のあり方(成功事

例等)について,被告から情報提供されるもの)に参加する。

オ 店長の労働時間の管理

(ア) 被告は,出退社時刻・時間外勤務一覧表あるいはパーソナルコンピ

ュータ上の勤務表を用いて店舗従業員の労働時間を管理してきたが,上

記出退社時刻・時間外勤務一覧表や勤務表には,店長も自身の出社時刻

や退社時刻を記載,入力する運用がされていた。

(イ) 店長は,前記第3,2( )イ(ア)記載のとおり,自身でその勤務ス2

ケジュールを決定し,早退や遅刻をした場合に,OCへの届出や承認は

必要とされていなかった(なお,就業規則では,従業員の遅刻及び早退

に関する手続が規定されているが(同規則12条),この規定の店長へ

の適用は明示的に排除されている(同規則16条))。

カ 店長に対する処遇

(ア) 平成16年4月に導入された被告の報酬制度によれば,管理監督者

として扱われている店長には,管理監督者として扱われないファースト

アシスタントマネージャー以下の従業員とは異なる勤務体系が適用され

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ている。

具体的には,①店長は,基準給(月額31万円)は固定されたうえで,

それに加えて,S(店長全体の20パーセント),A(30パーセン

ト),B(40パーセント),C(10パーセント)の4段階評価に基

づく評価手当(S評価が10万円,A評価が6万,B評価が3万,C評

価が0円)が支払われるが,ファーストアシスタントマネージャーは,

基準給の最高給(28万円)と最低給(23万円)が定められ,その範

囲内で定期昇給し,評価手当は支払われず,②店長の賞与は,上記の4

段階の評価結果に基づき,在籍期間にかかわらず金額(半期の賞与とし

て,S評価が125万円,A評価が107万5000円,B評価が95

万円,C評価が85万円)が決定されるが,ファーストアシスタントマ

ネージャーは,一定時点の基準給(月額)に業績評価と在籍期間に応じ

て決定される支給月数を乗じて算定される。

以上を前提とした場合のS評価の店長の年額賃金(次項に記載するイ

ンセンティブは除く。以下同様)は779万2000円((基準給31

万円+住宅手当3万1000円+評価手当10万円)×12+賞与12

5万円×2),A評価の店長の年額賃金は696万2000円((基準

給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当6万円)×12+賞与

107万5000円×2),B評価の店長の年額賃金は635万200

0円((基準給31万円+住宅手当3万1000円+評価手当3万円)

×12+賞与95万円×2),C評価の店長の年額賃金は579万20

00円((基準給31万円+住宅手当3万1000円)×12+賞与8

5万円×2)となる。

(イ) また,被告は,従業員に対するインセンティブプランを設定し,平

成16年には,売上に関する指標が一定レベルを上回った店舗の店長に

対し,当該指標に応じて30万円から100万円を支給する内容のイン

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センティブプランが設けられた。また,平成17年にも一定の売上基準

を満たした従業員(店長,アシスタントマネージャー等)に対するイン

センティブプランが設定された。さらに,平成18年にも,四半期ごと

の目標または年間目標を達成した店舗に一定額が支給され,これを店長

等の従業員で分配するというインセンティブプランが設定された。

( ) 以上の認定事実に基づき検討する。3

ア 店長の権限等について

(ア) 店長は,アルバイト従業員であるクルーを採用して,その時給額を

決定したり,スウィングマネージャーへの昇格を決定する権限や,クル

ーやスウィングマネージャーの人事考課を行い,その昇給を決定する権

限を有しているが,将来,アシスタントマネージャーや店長に昇格して

いく社員を採用する権限はないし(クルーが被告に入社を申し込む場合

に,店長が,当該クルーの履歴書にコメントを記載することはある(乙

6)),アシスタントマネージャーに対する一次評価者として,その人

事考課に関与するものの,その最終的な決定までには,OCによる二次

評価のほか,上記の三者面談や評価会議が予定されているのであるから,

店長は,被告における労務管理の一端を担っていることは否定できない

ものの,労務管理に関し,経営者と一体的立場にあったとはいい難い。

(イ) 次に,店長は,店舗の運営に関しては,被告を代表して,店舗従業

員の代表者との間で時間外労働等に関する協定を締結するなどの権限を

有するほか,店舗従業員の勤務シフトの決定や,努力目標として位置づ

けられる次年度の損益計画の作成,販売促進活動の実施等について一定

の裁量を有し,また,店舗の支出についても一定の事項に関する決裁権

限を有している。

しかしながら,本社がブランドイメージを構築するために打ち出した

店舗の営業時間の設定には,事実上,これに従うことが余儀なくされる

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し,全国展開する飲食店という性質上,店舗で独自のメニューを開発し

たり,原材料の仕入れ先を自由に選定したり,商品の価格を設定すると

いうことは予定されていない(甲41,47)。

また,店長は,店長会議や店長コンベンションなど被告で開催される

各種会議に参加しているが,これらは,被告から企業全体の営業方針,

営業戦略,人事等に関する情報提供が行われるほかは,店舗運営に関す

る意見交換が行われるというものであって,その場で被告の企業全体と

しての経営方針等の決定に店長が関与するというものではないし(証人

P5),他に店長が被告の企業全体の経営方針等の決定過程に関与して

いると評価できるような事実も認められない。

(ウ) 以上によれば,被告における店長は,店舗の責任者として,アルバ

イト従業員の採用やその育成,従業員の勤務シフトの決定,販売促進活

動の企画,実施等に関する権限を行使し,被告の営業方針や営業戦略に

即した店舗運営を遂行すべき立場にあるから,店舗運営において重要な

職責を負っていることは明らかであるものの,店長の職務,権限は店舗

内の事項に限られるのであって,企業経営上の必要から,経営者との一

体的な立場において,労働基準法の労働時間等の枠を超えて事業活動す

ることを要請されてもやむを得ないものといえような重要な職務と権限

を付与されているとは認められない。

イ 店長の勤務態様について

(ア) 店長は,店舗従業員の勤務シフトを決定する際,自身の勤務スケジ

ュールも決定することとなるが,各店舗では,各営業時間帯に必ずシフ

トマネージャーを置くこととされているので,シフトマネージャーが確

保できない営業時間帯には,店長が自らシフトマネージャーを務めるこ

とが必要となる。

原告の場合,自らシフトマネージャーとして勤務するため,同年7月

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ころには30日以上,同年11月から平成17年1月にかけては60日

以上の連続勤務を余儀なくされ,また,同年2月から5月ころにも早朝

や深夜の営業時間帯のシフトマネージャーを多数回務めなければならな

かった(甲4,原告本人)。その結果,後記第3,3( )で認定すると1

おり,時間外労働が月100時間を超える場合もあるなど,その労働時

間は相当長時間に及んでいる。

店長は,自らのスケジュールを決定する権限を有し,早退や遅刻に関

して,上司であるOCの許可を得る必要はないなど,形式的には労働時

間に裁量があるといえるものの,実際には,店長として固有の業務を遂

行するだけで相応の時間を要するうえ(原告や証人P2の試算では,月

150時間程度となっている。甲44,50),上記のとおり,店舗の

各営業時間帯には必ずシフトマネージャーを置かなければならないとい

う被告の勤務態勢上の必要性から,自らシフトマネージャーとして勤務

することなどにより,法定労働時間を超える長時間の時間外労働を余儀

なくされるのであるから,かかる勤務実態からすると,労働時間に関す

る自由裁量性があったとは認められない。

(イ) この点,被告は,原告の労働時間が長時間に及んだのは,部下との

コミュニケーションが不足するなどして,シフトマネージャーを務める

ことができるスウィングマネージャーの育成ができなかったことが原因

であるなどと主張する。

しかしながら,店舗運営に必要な数のシフトマネージャーが確保でき

ていない場合に,店長が自らシフトマネージャーとして勤務することで

労働時間が長期化することは,原告に限ったことではなく,他の店長に

ついても生じている現象である(乙35,証人P4)。原告の勤務状態

が,上記の状況にまで及んだことについては,被告が指摘するとおり,

スウィングマネージャーの育成に失敗したという側面があることは否定

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できないものの(証人P1,同P3),程度の差はあれ,これは,被告

における店長が,他の従業員からシフトマネージャーを確保できなけれ

ば,自らシフトマネージャーとして勤務することでその不足を補うべき

立場にいるという被告の勤務態勢上の事情から不可避的に生じるもので

あり,専ら原告個人の能力の不十分さに帰責するのは相当でない。

なお,被告は,店長が特定の営業時間帯のシフトマネージャーを自店

舗の従業員から確保できない場合には,自らシフトマネージャーを務め

るという方法以外に,他店から一時的にスウィングマネージャーを借り

るという方法もあると主張するが,原告の場合には,原告が要請しても,

他店から円滑にスウィングマネージャーを借りることができていた状況

にはなかったと認められるし(証人P1,原告本人),上記の原告の勤

務状況からすると,原告が店長を務めていた店舗でのシフトマネージャ

ーの不足の程度は,他店からスウィングマネージャーを一時的に借りる

ことで改善される状況ではなかったといえる。

(ウ) また,被告は,店長が行う労務管理,店舗の衛生管理,商圏の分析,

近隣の商店街との折衝,店長会議等への参加等の職務は,労働時間の規

制になじまないものであると主張する。

しかしながら,前記第3,2( )ア記載のとおり,店長は,被告の事3

業全体を経営者と一体的な立場で遂行するような立場にはなく,各種会

議で被告から情報提供された営業方針,営業戦略や,被告から配布され

たマニュアル(甲45)に基づき,店舗の責任者として,店舗従業員の

労務管理や店舗運営を行う立場であるにとどまるから,かかる立場にあ

る店長が行う上記職務は,特段,労働基準法が規定する労働時間等の規

制になじまないような内容,性質であるとはいえない。

ウ 店長に対する処遇について

(ア) 証拠(乙60)及び弁論の全趣旨によれば,平成17年において,

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年間を通じて店長であった者の平均年収は707万184円(この額が

前記第3,2( )カ(イ)記載のインセンティブプランからの支給額を含2

むのであるか否かは不明であるが,一応含まないものとして検討する)

で,年間を通じてファーストアシスタントマネージャーであった者の平

均年収は590万5057円(時間外割増賃金を含む)であったと認め

られ,この金額からすると,管理監督者として扱われている店長と管理

監督者として扱われていないファーストアシスタントマネージャーとの

収入には,相応の差異が設けられているようにも見える。

しかしながら,前記第3,2( )カ(ア)で認定したとおり,S評価の2

店長の年額賃金は779万2000円(インセンティブを除く。以下同

様),A評価の店長の年額賃金は696万2000円,B評価の店長の

年額賃金は635万2000円,C評価の店長の年額賃金は579万2

000円であり,そのうち店長全体の10パーセントに当たるC評価の

店長の年額賃金は,下位の職位であるファーストアシスタントマネージ

ャーの平均年収より低額であるということになる。また,店長全体の4

0パーセントに当たるB評価の店長の年額賃金は,ファーストアシスタ

ントマネージャーの平均年収を上回るものの,その差は年額で44万6

943円にとどまっている(なお,被告の主張によると,店長の年額賃

金には深夜割増賃金相当額(定額)として16万8000円(月額1万

4000円×12)が含まれていることになるが(就業規則15条),

後記のファーストアシスタントマネージャーの月平均時間外労働時間に

照らすと,深夜労働に対する賃金を除いた比較では,その差はより少額

になるものと推認される)。

また,証拠(甲54)によると,店長の週40時間を超える労働時間

は,月平均39.28時間であり,ファーストアシスタントマネージャ

ーの月平均38.65時間を超えていることが認められるところ,店長

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のかかる勤務実態を併せ考慮すると,上記検討した店長の賃金は,労働

基準法の労働時間等の規定の適用を排除される管理監督者に対する待遇

としては,十分であるといい難い。

(イ) また,被告では,前記第3,2( )カ(イ)で認定した各種インセン2

ティブプランが設けられているが,これは一定の業績を達成したことを

条件として支給されるものであるし(したがって,全ての店長に支給さ

れるものではない),インセンティブプランの多くは,店長だけでなく,

店舗の他の従業員もインセンティブ支給の対象としているのであるから,

これらのインセンティブプランが設けられていることは,店長を管理監

督者として扱い,労働基準法の労働時間等の規定の適用を排除している

ことの代償措置として重視することはできない。

(ウ) なお,仮に,前記(ア)で検討した店長の平均年収が,上記のインセ

ンティブプランに基づき支給されたインセンティブを含むものであれば,

被告における店長の賃金が管理監督者に対する待遇として不十分である

ことは,一層明らかであるといえる。

エ 以上によれば,被告における店長は,その職務の内容,権限及び責任の

観点からしても,その待遇の観点からしても,管理監督者に当たるとは認

められない。

したがって,原告に対しては,時間外労働や休日労働に対する割増賃金

が支払われるべきである。

3 争点( )(仮に,争点( )が否定された場合,原告に支払われるべき時間外割3 2

増賃金及び休日割増賃金の金額はいくらか)について

( ) 被告が管理している勤務表(甲4,乙3,4)及び原告が作成した出退1

社時刻・時間外勤務一覧表(甲3)によれば,平成15年12月から平成1

7年11月までの原告の出社時刻,退社時刻及び休憩時間は,いずれも,別

紙勤務状況一覧表(認定)の「出社1」,「出社2」,「退社1」,「退社

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2」及び「休憩」欄記載のとおりであると認められ,これらの出社時刻等か

らすると,上記期間中の原告の1日の労働時間とそのうち1日の法定労働時

間である8時間を超過する労働時間は,それぞれ,同表「労働時間」欄,

「8時間超」欄記載のとおりであると認められる。

( ) ところで,原告は,1週40時間を超える労働時間(1日8時間を超え2

る労働時間として既に別紙勤務状況一覧表(請求)の「8時間超」欄に計上

した時間数は除く)は,同表「40時間超」欄記載のとおりであると主張し,

そのうち,週の途中で月が替わる場合(平成15年12月,平成16年2月,

同年3月,同年4月,同年5月,同年6月,同年8月,同年9月,同年10

月,同年11月,同年12月,平成17年1月,同年2月,同年3月,同年

5月,同年6月,同年8月,同年10月及び同年11月と各翌月との関係)

は,月替わりの前後で週40時間を超える労働時間を割合的に算出して計上

している(例えば,平成15年12月28日(日)から31日(水)までの

期間についてみると,4日間の労働時間の合計39時間20分から,上記期

間の週法定労働時間として算出した22時間51分(40時間×4/7)を

控除し,さらに,1日8時間を超える労働時間として既に同表「8時間超」

欄に計上した時間数(合計15時間20分)を控除した,1時間9分を上記

期間の週法定労働時間を超過する労働時間数であるとしている)。

しかしながら,労働基準法32条1項は,日曜から土曜までの暦週におい

て,その労働時間を合計40時間に制限したものであるから,その違反の有

無は,月替わりの前後で割合的に判断するのではなく,当該週の全体を通じ

て判断するのが相当である。

以上の観点から整理すると,週の途中で月が替わった場合の週40時間を

超える労働時間数(1日8時間を超える部分として既に別紙勤務状況一覧表

(認定)の「8時間超」欄に計上した時間を除く)は,同表「40時間超」

欄記載のとおりであると認められる。

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( ) 次に,就業規則上,店長の休日を特定する規定はないが,使用者は,労3

働者に対し,毎週少なくとも1回の休日を与えなければならないから(労働

基準法35条1項),別紙勤務状況一覧表(認定)のうち,日曜から土曜ま

での暦週において,1回も休日が与えられていない場合には,原告の主張の

とおり,その最終日である土曜日の勤務を休日労働として認めるのが相当で

ある(なお,原告は,平成16年11月28日から12月4日までの週につ

いては,1回の休日もないのに,その最終日である12月4日を休日労働と

して請求していないので,当裁判所の認定上も,同日の勤務は,休日労働と

して扱わないこととする)。

( ) 以上に認定した時間外労働時間及び休日労働時間に,①平成15年124

月から平成16年3月までの時間外労働割増賃金の時間単価2748円,分

単価45円,休日労働割増賃金の時間単価2968円,分単価49円,②平

成16年4月から平成17年3月までの時間外労働割増賃金の時間単価30

70円,分単価51円,休日労働割増賃金の時間単価3315円,分単価が

55円,③平成17年4月から同年11月までの時間外労働割増賃金の時間

単価2612円,分単価43円,休日労働割増賃金の時間単価2821円,

分単価47円(上記の各時間単価等は,原告が主張する金額であるところ,

仮に,原告に時間外割増賃金等が生じるとした場合,その時間単価等が少な

くとも原告が主張する金額となることについては,当事者間に争いはない)

をそれぞれ乗じた額が,原告に支払われるべき時間外割増賃金及び休日割増

賃金となる。

ただし,被告の給与規定では,給与の計算期間は当月1日から末日までと

され,当月25日にこれを支給すると規定されているが(同規程10条,時

間外割増賃金等の支給日に関する格別の規定はない),実際には,当月25

日以降の時間外割増賃金等を同日までに支払うことは不可能であるし,そも

そも時間外労働等が実際に行われる前にその賃金を請求することはできない

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のが原則であるから(民法624条),当月25日以降の時間外割増賃金等

の支払日を当月25日とすることはできず,社会通念上,その支払日は翌月

25日とするのが相当である。

以上によれば,原告に対する各月の時間外割増賃金及び休日割増賃金の額

及びその支払日は,別紙時間外及び休日割増賃金一覧表記載のとおりである

と認められる。

4 争点( )(時間外割増賃金及び休日割増賃金に係る付加金の要否及びその4

額)について

以上のとおり,被告は,原告に対して,労働基準法37条の定める時間外割

増賃金及び休日割増賃金の支払義務を負っていながら,その支払を怠っている

ものであるが,原告の基準給には,深夜割増賃金として支払われる部分が含ま

れていると認められるところ(就業規則15条),当裁判所が認定した時間外

割増賃金等は,原告の基準給をそのまま算定の基礎としたため,その分高額な

ものとなっていることや,前記第3,2( )イ(ア)記載のとおり,店長である3

原告の勤務には,労働時間の自由裁量性があったとはいえないが,シフトマネ

ージャーとして勤務するなどして労働時間が長期化した点に関しては,原告が

店長としてどれだけのスウィングマネージャーを育成,確保できていたかとい

う個別的な事情も影響するのであり,実際,原告の時間外労働時間は,店長の

平均的な時間外労働時間(39.28時間,甲54)を上回っていることが多

いことなどを考慮すると,被告に対しては,上記認定した時間外割増賃金及び

休日割増賃金の合計額の5割である251万7493円の付加金の支払を命ず

るのが相当である。

5 争点( )(原告の時間外労働に関し,被告の不法行為の成否及びその損害5

額)について

労働基準法36条の要件を満たすことなく行われた違法な時間外労働に対し

ても,使用者は,労働者に対し,当然に割増賃金の支払義務を負うものと解さ

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れ,また,その支払を怠った使用者に対しては,労働者の請求により,付加金

の支払が義務づけられる場合もあるが(同法114条),時間外割増賃金を支

払わないまま時間外労働をさせたということから,使用者が,労働者に対し,

直ちに不法行為責任まで負うと認めるべき理由はない。

また,本件で,被告が,原告に対し,労働基準法に違法した長時間労働を強

いたと認めるに足る証拠はないし,他に被告に不法行為責任を生じさせるよう

な具体的な事実の主張,立証もない。

さらに,時間外割増賃金等が支払われないまま店長として長時間労働をして

いたことによる原告の精神的苦痛は,上記の時間外割増賃金等や付加金が支払

われることで,慰謝されるべき性質のものであるともいえる。

したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。

6 争点( )(原告が通勤に使用した高速道路料金に関する被告の支払義務の有6

無)について

前記前提事実( )記載のとおり,被告の車両管理規程では,社員等が所有す6

る車両を業務の用に供した場合,有料道路料金についても,領収書を添付して

申請すれば,その実費を支給するとの定めが設けられているところ(同規程1

条,21条),証拠(乙26,27)及び弁論の全趣旨によれば,被告の実務

上は,有料道路料金の支払を求める場合,予め自家用車両の業務利用届を提出

したうえで,「有料道路の通行料金を申請します」との入力欄に「はい」と入

力した通勤費支給申請書を提出する扱いとなっていることが認められる。

しかるに,原告は,平成16年2月3日,被告に対し,通勤費支給申請書を

提出し,通勤費の支給を申請していたが,その際,同申請書中の「有料道路の

通行料金を申請します」との入力欄に「いいえ」と入力していたのであるから

(乙27),被告の実務上の取扱いに即した高速道路料金の支給申請手続を行

っていない。また,原告が,これ以外に,車両管理規程に即して,被告に対し,

高速道路料金の領収書を添付してその支給申請を行った形跡も見当たらない。

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以上によれば,原告は,車両管理規程上あるいは被告の実務上必要とされる

高速道路料金の支給申請を行っていないのであるから,被告に対し,その支払

を求めることはできないというほかない。

7 結論

以上の次第であるから,原告の訴えのうち,請求の趣旨第1項に係る訴えは

不適法であるから却下し,請求の趣旨第2項ないし第5項に係る訴えは,主文

掲記の限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することと

し,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第19部

裁判官 齋 藤 巌

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