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-1- 平成18年11月24日 洲本簡易裁判所 御中 原告訴訟代理人 弁護士 〒656-0024 兵庫県洲本市山手3丁目2番23号 山手コーポ202号 蔭山法律事務所(送達場所) 上記訴訟代理人弁護士 0799-25-3564 FAX 0799-25-3565 〒100-0004 東京都千代田区大手町1丁目2番4号 代表者代表取締役 不当利得返還等請求事件 訴訟物の価額 79万4973円 貼用印紙額 8000円 予納郵券 7300円

-2-yuuki.air-nifty.com/10years/koubetisai.pdf-2-請求の趣旨 (主位的請求) 1 被告は、原告に対し、金93万7440円及び内金79万4973円に対する 平成2年9月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。2

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訴 状

平成18年11月24日

洲本簡易裁判所 御中

原告訴訟代理人

弁護士 蔭 山 文 夫

原 告

〒656-0024 兵庫県洲本市山手3丁目2番23号

山手コーポ202号 蔭山法律事務所(送達場所)

上記訴訟代理人弁護士 蔭 山 文 夫

電 話 0799-25-3564

FAX 0799-25-3565

〒100-0004 東京都千代田区大手町1丁目2番4号

被 告 プ ロ ミ ス 株 式 会 社

代表者代表取締役 神 内 博 喜

不当利得返還等請求事件

訴訟物の価額 79万4973円

貼用印紙額 8000円

予納郵券 7300円

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請 求 の 趣 旨

(主位的請求)

1 被告は、原告に対し、金93万7440円及び内金79万4973円に対する

平成2年9月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

(予備的請求)

1 被告は、原告に対し、金93万7440円及び内金79万4973円に対する

平成2年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

請 求 の 原 因

第1 利息制限法違反の取引

1 原告は、被告から、昭和56年ころ、被告から、リボルビング方式の金銭消費

貸借契約により、50万円を利率年47.45%乃至36.47%の約定で借り

受けた。

上記契約には、毎月の支払期限に1日でも遅れた場合、借主は、当然に期限の

利益を喪失し、残債務を一時に支払わなければならなくなり、しかもその後は、

約定の利息よりも高利の遅延損害金が発生する旨の条項が含まれていた。

上記消費貸借契約に基づく債務の元本の額は、昭和57年12月27日を迎え

た段階で、47万2361円であった(甲1)。

2 原告は、昭和57年12月27日以降、被告に対して、本件借入金の返済とし

て、別紙取引履歴一覧表記載のとおり元利合計金144万8468円の支払いを

した(甲1、2)。

3 原告は、別紙取引履歴一覧表記載のとおり、被告から金銭消費貸借契約により

合計金6万0324円を利率年47.45%乃至36.47%の約定で借り受け

た(甲1、2)。

4 しかしながら、上記支払額を利息制限法に再計算して順次利息及び元金に充当

すると、金79万4973円は、別紙取引履歴一覧表記載のとおり利息制限法に

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よる制限を越えて、債務が存在しないのに支払われたものである。

5 被告は、顧客との間の利息制限法超過利息の受領が貸金業法43条1項のみな

し弁済の要件を備えないことを知りながら、原告から元本及び利息の収受をした

ものであり、民法704条の悪意の受益者である。

この悪意の受益者である被告は、株式会社であり商人である。しかも貸金業者

であり、金銭の運用自体が営業の目的である。

利得者が商人であり、利得物を営業のために利用し収益を上げていると解され

る場合には、利得者には商事法定利率の年6パーセントの割合による運用益が生

じたものと考えるのが相当であるから、過払金に付して返還すべき利息は、年6

パーセントの割合による利率で計算すべきである。

第2 不当利得返還請求(主位的請求)

1 上記のとおり、原告は、被告に対し、平成2年9月6日、1577円を支払い、

約定利率による債務を完済したが、このとき、原告の被告に対する過払金の額は、

93万7440円(元本79万4973円、年6分の割合による利息14万246

7円)になっていた。

原告は、93万7440円及び内金79万4973円に対する平成2年9月6

日から支払済みまで年6分の割合による金員の支払を求める。

2 消滅時効に関して

) なお、被告は、訴外の交渉において、本件請求は時効により消滅した旨の主1

張をしているので、予めこれに関する原告の主張を明らかにしておく。

) 一般に、民法166条1項の「権利ヲ行使スルコトヲ得ル時」とは、権利を2

行使するについて法律上の障害がなくなったときのことをいい、原則として、

事実上の障害はこれに含まれないとされているが(最二判昭和49年12月2

0日民集28巻10号2072頁等)、事実上の障害であっても、権利を行使

することが、現実には期待し難い特段の事情がある場合には、その権利行使が

現実に期待することができるようになった時以降において消滅時効が進行する

と解するとされている(最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁、

最三判平成8年3月5日民集50巻3号383頁、最一判平成15年12月1

1日民集57巻11号2196頁)。

- 4 -

) 利息制限法引き直しによる過払金の場合、法律上は、過払金が発生した瞬間3

に、その返還を行使することができるといえるが、借主は、利息制限法超過部

分が無効だということを知らないからこそ、約定利率に基づく利息を支払った

のであり、もし無効であることを知って支払ったというのであれば、それは非

債弁済として705条により返還請求ができなくなるような事態である。知ら

ないからこそ過払金が発生したのであり、知っていれば過払金の支払などはし

ないにもかかわらず、過払いが発生した瞬間にその権利行使が現実に期待でき

るというのは現実を無視した議論である。

また、そもそも、一般人に、43条のみなし弁済が成立するかどうかの判断

を求めることは無理な要求であり、本件においては、毎月の分割金の支払を怠

った場合、借主は期限の利益を喪失し、借入金を一括で返済しなければならな

い危険があった。つまり、原告は、みなし弁済が成立するどうか不明の段階で、

期限の利益を喪失する危険を冒して過払金返還請求をしなければならなくなか

ったのであるから、約定計算によって債務が残存している間は、その権利行使

を現実に期待することはできないというべきである。

従って、過払金の時効が進行するのは、約定利率による債務の完済があり、

かつ利息制限法超過部分が無効であることを知った時からというべきである。

) なお、大判昭和12年9月17日民集16巻1435頁は、非債弁済の場合4

も、返還請求権の発生を権利者が了知したと否とを問わず、債権発生の時に時

効期間が進行する旨判示しているが、これは、上記最大判昭和45年7月15

日民集24巻7号771頁より以前の判決であり、現在では全く参考にならな

い。

) 原告が、利息制限法超過部分の支払いが無効であることを知ったのは、原告5

代理人に相談をした平成18年6月27日のことであり(甲3)、消滅時効は、

この段階から進行する。この日からはまだ10年は経過していない。

第3 上記取引が不法行為であること

1 上記のように、被告は、原告に対する債務が法律上消滅しているにもかかわら

ず、債権が存在するとの虚偽の事実を主張して、原告から金員を受け取ったので

あり、これは、架空請求にほかならず、不法行為が成立する。

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貸金業法43条のみなし弁済の要件が満たされておらず、受領した金員が不当

利得になると知りながら受領した者には、法律上の原因なくして金員を受領した

旨の告知義務が発生する。仮に、架空請求の違法行為が成立しないとしても、被

告には、上記告知義務違反の不法行為が成立する。

いずれの場合も、個々の契約締結行為や請求行為、受領後の告知義務違反が不

法行為になるのではなく、利息制限法超過利息を収受するという目的に向けた一

連の取引行為全体が1個の不法行為を構成すると解すべきである。

2 架空請求の不法行為について

) 貸金業法43条があろうとも、債務が完済された後は、いかなる意味におい1

ても、被告が原告に支払を請求する根拠はない。元本が存在しない場合、ゼロ

に何を乗じてもゼロであり、利息制限法超過の利息というものが存在しえず、

みなし弁済が成立する余地がない。被告も、そのことに悪意であった。

それにもかかわらず、被告は、原告に対する債権消滅後、原告に支払義務が

ある旨虚偽の説明を行い、それを期限の利益喪失条項を用いて強制した。借主

が債務を負担していないことについて悪意でありながら、金銭の支払いを請求

することは純然たる架空請求である。被告の不法行為の成立を否定する理由は

全くない。

) 最判平成18年1月13日民集60巻1号1頁及び最判平成18年3月172

日判タ1217号113頁は、本件のように、利息制限法の制限を超過する約

定利息と共に元本を分割返済する約定の金銭消費貸借に、支払期日に元本又は

約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の特約が付

されている場合について、「本件期限の利益喪失特約は、法律上は、上記のよ

うに一部無効であって、制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪

失することはないけれども、この特約の存在は、通常、債務者に対し、支払期

日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り、期限の

利益を喪失し、残元本全額を直ちに一括して支払い、これに対する遅延損害金

を支払うべき義務を負うことになるとの誤解を与え、その結果、このような不

利益を回避するために、制限超過部分を支払うことを債務者に事実上強制する

ことになるものというべきである。」と判示している。

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本訴訟で原告が損害として主張しているのは、元本消滅後の支払分であるが、

法律上元本が消滅していたとしても、原告は、債務が存在すると信じ、期限に

遅れた場合は期限の利益を喪失してしまうと思って毎月の返済を続けていたの

であるから、この支払について被告の強制が否定されるものではない。

) さらにいうなら、本来、強制の有無は問題ではない。相手を騙し、債務が消3

滅しているのに、債務が残っているといって支払をさせた場合であっても不法

行為は成立する。相手から金銭を受け取る以上、その受領が正当化できなけれ

ば、その行為は客観的には違法である。そして、受領した者が、その行為の違

法性について認識がないというのならともかく、本件においては、被告はみな

し弁済の不成立=過払い金の発生について悪意であった。支払い義務がない借

主に対し、義務がないことを知りながら請求をする行為を正当化する余地は存

しない。被告の行為は明確な架空請求の不法行為である。

) なお、貸金業法43条は、いわゆるみなし弁済を定め、一定限度で利息制限4

法超過の利息の収受を認めるが、この規定があるからといって、利息制限法超

過の利息の収受や債務がないのに支払われた金銭の請求・受領の違法行為が正

当化されるものではない。同法43条は、その要件が備わったときに上記の行

為を正当化するものであり、要件が備わっていない場合にまで違法性を阻却す

るものではないからである。たとえて言うと、正当防衛の規定があるというそ

れだけで、殺人が適法行為とならないのと同じように、貸金業法43条の規定

があるからといって、それだけで義務のない支払請求等が正当化されるわけで

はない。違法行為を正当化するのは、そのような正当化事由の要件が整ったと

きに限られるのである。

) みなし弁済が認められない場合の、貸金業者の利息制限法違反の金員の受領5

を不法行為とした判決として神戸地判平成17年8月25日兵庫県弁護士会H

P(甲4)。

また、釧路地判平成18年9月19日(甲5)は、「貸金業者は、弁済等によ

って債務が消滅しているなど、債務が存在していないにもかかわらず、債務者

等に支払を請求することは許されないというべきである(金融庁事務ガイドラ

イン - - ( )③参照)。3 2 2 3

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他方、制限利率を超える利率による利息の約定は無効であるが、制限利率を

超える利息の支払であっても、貸金業法43条(みなし弁済)所定の要件をみた

す場合には有効な利息の債務の弁済とみなされることから、貸金業者が債務者

との間で制限利率を超える利率による利息の約定をする場合、貸金業者はみな

し弁済の成立を期待しているものと思われる。しかし、同条所定の要件の解釈

・適用については実務上種々の争いがあり、これに関する貸金業者の見解が採

用されず、結果的にみなし弁済が成立しない場合には、制限利率を超える利息

の支払が無効となり、残元本に充当される結果、貸金業の当初の予想よりも早

く債務の全てが消滅したのに、貸金業者が債務者に対し、残債務があるとして

支払を請求していたという自体が起こり得る。

そうだとすれば、みなし弁済が成立しない結果、債務の全てが消滅していた

のに貸金業者が債務者に対し、残債務があるとして支払を請求していた場合に

おいても、同条所定の要件の解釈・適用に関して貸金業者が採っていた見解が

相応の合理的根拠を有するものである限り、債務消滅後の貸金業者による請求

行為が直ちに違法性を帯び不法行為を構成するものとまでいうことはできない

が、例えば貸金業者が債務者から弁済を受けながら 条書面を債務者に交付し18

ていなかったなど、およそみなし弁済が成立する余地がないことを認識し又は

認識し得たにもかかわらず、これが成立するとの前提に立ち、残債務があるか

のように債務者を誤認させ、漫然と債務者に対して支払を求めたような場合に

は、債務者に対する不法行為を構成するというべきである。」と判示し、貸金

債権消滅後に、借主が送金した振込手数料について、貸金業者の不法行為を認

めている。

なお、大阪高判平成17年5月26日兵庫県弁護士会HP(甲6)は、債権者

が、破産後免責決定を受けた債務者に対し取立を行った事案について、自然債

務であるから債務不存在確認請求は認められないが、不法行為は成立する旨判

示している。自然債務とはいえ、債務が存在する者に対する取立が違法で、債

務が存在しない者に対する請求が違法にならないというのは矛盾の極みといえ

る。

3 告知義務違反による不作為の不法行為

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) 財物の交付を受けた者が、自分にそれを正当に受領する権限がないことを知1

っていた場合、受領者には、交付者に対し、自らに受領権限のないことを告知

する信義則上の義務が生ずる。この義務に違反して交付物を領得した者には、

不作為による不法行為が成立するのである。

この点は、釣り銭詐欺や誤振り込み後の悪意払い戻し請求の事案と比較すれ

ば明らかである。

ア 釣り銭詐欺について

刑事法の世界では、相手方が錯誤によって釣り銭を余計に出したことを知

りながら、その旨を告げないで受領する行為、いわゆる釣り銭詐欺は、不作

為によって人を欺く行為に当たるとされている(大阪地判昭和44年3月26

日判タ239号295頁。なお、神戸地決昭和63年9月30日判タ687

号260頁、神戸地決昭和63年11月21日判タ700号252頁)。

これは、交付者が自己に対し、受領権限のない金員を交付してきた場合、

それに気付いた受領者は、交付者にその旨を告知する、条理上・信義則上の

義務があるという解釈に基づくものである。釣り銭詐欺と本件において、こ

の点について全く違いはない。釣り銭詐欺の事案で告知義務が認められるの

であれば、本件でも告知義務が認められなければならない。

イ 誤振り込み後の悪意払い戻し請求について

最判平成15年3月12日刑集57巻3号322頁は、「誤った振込があ

ることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求し、その払戻

しを受けた場合には、詐欺罪が成立する。」と判示している。同判決は、「

社会生活上の条理からしても、誤った振込みについては、受取人において、

これを振込依頼人等に返還しなければならず、誤った振込金額相当分を最終

的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから、上記の告知義務

があることは当然というべきである。」と言っている。

同判例がいうように、誤った振込があった場合であっても、受取人と振込

先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人は、銀行に

対し、上記金額相当の普通預金債権を取得する。従って、誤振り込みがあっ

たことを知ったうえで行う受取人の払い戻し請求は、自己の債権の行使であ

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る。このように自己の有効な債権の行使であるにもかかわらず、最高裁は、

この行為を詐欺罪にあたるとした。

本件の場合、利息制限法超過部分の契約は無効であり、元本完済後の被告

の金員の受領は、自己の有効な債権の行使に基づくものではない。自己の有

効な債権の行使ですら、実質的権限がない場合は告知義務があるのは「当然

」とされているのに、自己の有効な債権の行使の事案ではない本件において、

告知義務があることが「当然」とされないのは不均衡である。

支払義務がないにもかかわらず、あると錯誤に陥った借主が金員を交付す

る場合、自己にそれを受領する権限がないことを知っている貸主には、借主

に対し、その旨を告知する義務がある。この義務に反して告知のないまま金

員を受領する行為は不法行為である。

) 最判平成2年1月22日との関係について2

なお、最判平成2年1月22日民集44巻1号332頁は、貸金業法43条

のいわゆるみなし弁済が成立するための要件たる「債務者が利息として任意に

支払った」というためには、利息制限法1条1項に定める利息の制限額を超え

ていること、又は当該超過部分の契約が無効であることまで認識していること

を要しない旨の判示をしているが、これと、上記場合に告知義務を認めること

は矛盾するのではないかとも、一瞬考えられそうであるが、それは誤りである。

上記のとおり、告知義務が認められる根拠は、当該金員について、自分の受

領が正当化されないからであるところ、上記最判平成2年1月22日は、みな

し弁済成立の要件についての判断であり、みなし弁済が成立すれば、貸主の超

過利息の受領が正当化される場面に関するものである。この場面では、弁済者

に支払義務がないとしても、受領者は、その支払われた金員を最終的に自分の

ものにすることができるのであるから、受領者に告知義務を認めないとしても、

それはそれで一つの見解として成り立つ。

しかし、原告が告知義務違反の不法行為が成立すると主張しているのは、利

息制限法による計算に基づき、元本が完済された後の話である。この場合は、

上述のように、元本が完済されていること又は17条書面交付の要件が欠けて

いることに基づき、貸金業法43条のみなし弁済が成立する可能性がない。そ

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うすると本件において、最判平成2年1月22日を持ち出すことが不適切なこ

とは明白である。過払い金が発生する場面においては、みなし弁済規定の存在

や解釈が、不法行為の成否に影響を及ぼすことはないのである。

むしろ、貸金業法18条1項6号→貸金業法施行規則15条1項5号が、受

取書面に「当該弁済後の残存債務の額」の記載を要求しているのは、貸主の借

主に対する残存債務額の告知義務を肯定する根拠になるというべきである。当

然のことながら、同号にいう「残存債務の額」は、法的に正しい額を意味する

と解されるからである。

4 その他の個々の成立要件の検討

) 損害1

元本完済後利息制限法超過利息の支払は、法律上支払義務のなかった金銭の

喪失であるから、法律上の損害そのものである。これを否定する理由はない。

但し、利息制限法超過利息の支払であっても、その支払が、元本に充当され

るのであれば、結局損害は発生しないことになるので、結局、不法行為の金額

は不当利得返還請求の額と一致する。結局、元本完済後の支払についてのみ不

法行為が問題となる。

) 加害行為、加害行為と損害の因果関係2

加害行為については上述の通りである。

そして、このような損害が発生したのは、被告が原告に、利息制限法超過利

息の支払を約束させ、それに基づく請求をしたから、ないし、受領の際の告知

義務に違反して、原告に対し、被告の受領権限がないことを告知しなかったか

らである。契約、請求又は告知義務違反と損害の間には因果関係がある。

) 加害行為の違法性3

上記行為は、法律上の原因なくして相手方から金銭を支払わせるか、受け取

った金銭を着服するもので、社会的相当性を有しない。利息制限法という法律

に違反しているとも言えるし、契約全体のことを考えれば、刑罰法規である貸

金業法48条4号違反(17条書面、18条書面の不交付)とも言える。さらに

は、法律上原告には支払義務がないのに、支払義務があるとの虚偽の事実を告

げ、原告をしてその旨誤信させ、原告から金員の交付を受けたというのである

- 11 -

から、詐欺罪(刑法246条1項)に該当するとも言える。刑事上も違法である

以上、民事上も違法であるのは言わずもがなである。

なお、みなし弁済の成立は、いわば正当防衛、緊急避難のような違法性阻却

事由(抗弁)と同じように考えることができるが、本件ではみなし弁済の成立は

ない。抗弁は成り立たない。ただし、故意の成立に違法性の認識ないし認識の

可能性が必要と解した上、貸主に、みなし弁済が成立すると信じたことがやむ

を得ないような事情があれば、貸主の過失が否定されることはあり得ると解さ

れる(甲6の「みなし弁済が成立しない結果、債務の全てが消滅していたのに貸

金業者が債務者に対し、残債務があるとして支払を請求していた場合において

も、同条所定の要件の解釈・適用に関して貸金業者が採っていた見解が相応の

合理的根拠を有するものである限り、債務消滅後の貸金業者による請求行為が

直ちに違法性を帯び不法行為を構成するものとまでいうことはできない」との

判示はそのような意味に理解すべきである。)

よって、みなし弁済の適用のない利息制限法違反の契約及び超過利息の請求

・収受は違法と評価される。

) 故意・過失4

ア 不法行為の故意に違法性の認識または認識の可能性が必要かどうかについ

ては争いがあるが、不法行為の故意に違法性の認識または認識の可能性は不

要と解するならば、利息制限法違反の契約を締結したこと、及び利息制限法

超過利息を収受したことの認識があれば、不法行為の故意があることになる。

違法性の認識または認識の可能性が必要と解する場合でも、みなし弁済が

成立しないことを知っていれば、行為の違法性を認識していたことになるか

ら、故意が認められる。

本件において、被告は、原告の支払にみなし弁済が成立しないことを認識

していたから、いずれにしても故意があるということになる。

イ 民法704条の悪意と故意の関係

民法704条の悪意は、受け取った利得が法律上の原因に基づかないこと

についての悪意であり、法律上の評価の認識を含む概念である。民法709

条の故意については前述のように争いがあり、違法性の認識または認識の可

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能性を含まないとすると、民法704条の悪意とは無関係となり、含むとす

ると、民法704条の悪意とほぼ重なることになる。

ウ 仮に、故意がないとしても、本件においては、被告が、利息制限法の制限

利率を超過する利息を収受したという事実や、貸金業法17条の要件を満た

した書面を交付しなかった事実が認められ(過失の評価根拠事実)、さらに、

被告に、みなし弁済が成立していると信じてもやむを得ないような事情(過失

の評価障害事実)は存在しなかったので、少なくとも被告に過失があるのは明

らかである。

5 任意性について

) 「任意の契約」は不法行為を否定する理由にならないこと1

原告は、被告に強制されて被告と利息制限法に反する契約を締結したわけで

はない。そこで、一応は、「貸金業者と顧客が任意の契約により、金銭消費貸

借契約を締結した場合、その中に強行法規に反し無効となる部分があっても、

そのような契約を締結すること及びそのような契約に基づいて債務の履行を求

めることが直ちに不法行為となるものではない。」と言えるのではないかとも

考えられる。

しかし、このような解釈は、無効な契約について、無効部分の履行を求めて

も不法行為にならないという法的効果を認めるものであり、「無効」の意味を

誤っている。無効の契約は全く法律の効果が生じないものであり、法律上根拠

のない請求の違法性を阻却する効力は存しない。上記の考えは、無効の契約に、

不法行為の違法性を阻却する効力を認めている点で解釈を誤っている。

一般に、「取引が任意になされた=債権者の強制を伴わない、言いかえれば

債務者が自主的に自己の意思に基づいてなされた」(以下、「自主的任意」とい

う)というそれだけで不法行為の成立が否定されることはないのである。

) 任意の支払も不法行為を否定する理由にならないこと2

上記のとおり、最高裁判例に照らして、期限の利益喪失条項がある場合の支

払は強制を受けながらなされたもので、任意性はないのであるが、仮に、任意

に支払われたとしても、上記と同様、それだけでは不法行為の成立を否定する

根拠にはならない。

- 13 -

たとえば、貸金業者が、借主の父親に、「親だから法律上支払義務がある」

と言い、それを信じた借主の親が支払をした場合、それが親に対する不法行為

となることは明らかである。上記の例では、貸主の暴力的取立等は全くない。

父親は自主的任意に支払をしている。それでも不法行為の成立に疑問が生じな

いのは、貸主の暴力的取立がなくても、貸主の行為が、弁済者に法律上の支払

義務があると誤信させる欺罔行為があるからである。

本件においても、原告は、法律上の支払義務があると誤信して支払をしたの

であるから、たとえその支払が自主的任意であっても、不法行為の成立が否定

されることはないのである。

) 被害者の承諾としての任意について3

但し、任意の支払があった場合で、それが「被害者の承諾」に該当するもの

であれば、違法性が阻却される場合が考えられる(以下、「被害者の承諾として

の任意」という)。

しかし、被害者の承諾により不法行為の成立が阻却されるためには、加害行

為の法的評価をもすべて理解したうえの、自由な意思に基づく承諾でなければ

ならない。そうでないと、法律上の義務について欺罔行為を行った不法行為は

すべて被害者の承諾によって免責されてしまうという不都合が生ずる。先ほど

の例でいえば、貸主が、「親だから法律上支払義務がある」という欺罔行為を

行う場合、事実に関する欺罔は全く行っていないし、暴力的な取立も行ってい

ない。錯誤に陥った者の支払は自主的任意である。けれども、これが不法行為

となるのは明らかである。法律上の義務に関する欺罔行為に基づく不法行為が、

「被害者の承諾としての任意」によって阻却されるのは、支払者が、加害行為

の法的評価をもすべて理解したうえで、自由な意思に基づいて支払った場合で

なければならない。

原告は、利息制限法超過部分の支払義務がないことなど全く知らずに契約を

結び、超過利息の支払をしてきたのであり、いわば超過部分の支払義務の有無

について錯誤に陥っていたのである(民法705条の悪意の非債弁済ではない。

)。したがって、「被害者の承諾としての任意」によって、不法行為の成立が阻

却されることもない。

- 14 -

) 貸金業法43条の「任意」4

なお、貸金業法43条の「任意支払」は、債務者が利息の契約に基づく利息

の支払に充当されることを認識した上、自己の自由な意思によってこれらを支

払ったことをいい、債務者において、利息制限法所定の利息の制限額を超えて

いることあるいは超過部分の契約が無効であることまで認識していることを要

しないとされている(上記最判平2.1.22)。

「利息制限法所定の利息の制限額を超えていることあるいは超過部分の契約

が無効であることまで認識していることを要しない」とされている点で、貸金

業法43条の「任意支払」は、「被害者の承諾としての任意」とは全く別の概

念であり、「被害者の承諾としての任意支払」より範囲が広い。従って、43

条の任意支払があったところで、不法行為阻却事由の任意支払があったことに

はならないということになる(但し、論理的には、43条の任意支払と17条

18条書面の交付によって損害が発生していないという効果が生ずる余地はあ

る。みなし弁済の成立しない本件では考慮する必要のないことがらであるが)。

このように考えると、利息制限法超過部分の支払義務がないことを知らずし

てなされた「任意支払」によって、不法行為成立の阻却はあり得ないことは明

白である。

) 利息制限法の任意5

また、利息制限法1条2項、4条2項にも「任意支払」の規定があり、任意

支払の場合は、借主が利息制限法超過額の返還を請求できないと規定している。

そこで、「利息制限法上の任意」に基づいて支払ったものについては、借主に

損害がないのではないかとも考えられる。

しかし、利息制限法1条、4条の各2項は、金銭を目的とする消費貸借につ

いて元本債権の存在することを当然の前提とするものである。けだし、元本債

権の存在しないところに利息・損害金の発生の余地がなく、したがつて、利息

・損害金の超過支払ということもあり得ないからである(最判昭和43年11月

13日民集22巻12号2526頁)。この故に、消費貸借上の元本債権が既弁

済によつて消滅した場合には、もはや利息・損害金の超過支払ということはあ

りえないことになる。

- 15 -

原告が損害として請求しているのは、元本が消滅した後に、貸主に対して支

払ったことによって生じた損害であるから、利息制限法1条、4条の各2項の

「任意支払」については、不法行為の成否との関係では全く考慮する必要がな

い。

6 不法行為の成否についての結論

以上の検討の結果、利息制限法を適用した計算により、法律上債務を完済した

後の請求または債務がないことの不告知は不法行為であることが明らかである。

7 時効・除斥期間

) 不法行為責任については時効が成立していないこと1

不法行為責任の時効は、「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」から進行を開始す

るが(改正前民法724条)、「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは、被害者に

おいて、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度

にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当というべきところ(最二判

昭和48年11月16日民集27巻10号1374頁)、被害者は、損害の発生

の認識だけでなく、加害行為が不法行為を構成することまで知ることを要する

と解するのが相当である(大判大正7年3月15日民録24輯498頁、最一判

昭和42年11月30日集民89号279頁、最一判昭和43年6月27日集

民91号461頁、最二判昭和46年7月23日民集25巻5号805頁、大

阪高判平成16年9月9日金商1212号2頁、東京地判平成18年7月7日

判時1940号3頁参照)。

原告は、借入や支払の内容は認識していたが、法律の専門家でない原告が、

加害行為が不法行為であること(加害行為が違法であること)を認識すること

ができる可能性は著しく乏しかった。原告が加害行為の違法性を認識したのは、

原告が原告代理人に自己の債務整理について相談した平成18年6月27日の

ことである(甲3)。従って、そこから3年間は時効が成立しない。

) 除斥期間が経過していないこと2

本件損害の一部は、本訴提起の20年以上前に発生している。そこで、この

部分の損害の賠償を求める権利については、民法724条後段により消滅して

いるのではないかが問題となる。

- 16 -

しかし、本件においては、原告から存在しない債務の支払を受けるという計

画のもとになされた、利息制限法違反の契約の締結、債務消滅後の請求、受領

時の不告知という連続した被告の行為を一体として不法行為として評価すべき

ものであるから、除斥期間は、不法行為が終了した平成2年9月6日から進行

すると解すべきである。

よって、本件では、すべての損害について除斥期間が経過していない。

第4 よって、原告は、被告に対して、主位的請求として、不当利得返還請求権に基

づき、93万7440円及び内金79万4973円に対する平成2年9月6日か

ら支払済みまで年6分の割合による金員の支払、予備的請求として、不法行為に

基づき、93万7440円及び内金79万4973円に対する平成2年9月6日

から支払済みまで年5分の割合による金員の支払いを、それぞれ求める。

仮に、不当利得に関して、被告が悪意の受益者でない場合には、上記不当利得

金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みまで年5分の割合による

遅延損害金の支払いを求める。

立 証 方 法

甲1 計算書(昭和57年12月27日から同59年12月27日まで)

甲2 お取引照合表(昭和60年1月29日から平成2年9月6日まで)

甲3 受任通知書(平成18年6月27日付)

甲4 神戸地判平成17年8月25日兵庫県弁護士会HP

甲5 釧路地判平成18年9月19日

甲6 大阪高判平成17年5月26日兵庫県弁護士会HP

添 付 書 類

1 訴状副本 1通

2 甲号証 各2通

3 現在事項全部証明書 1通

4 訴訟委任状 1通

- 1 -

平成18年(ハ)第269号 不当利得返還等請求事件

原告

被告 プロミス株式会社

第1準備書面

平成19年1月23日

洲本簡易裁判所 御中

原告訴訟代理人弁護士 蔭 山 文 夫

第1 主位的請求について-権利を行使することが、現実には期待し難い特段の事情

1 被告は答弁書において、本件における不当利得返還請求事件の時効は、遅くとも

平成2年9月6日から進行し、平成12年9月5日の経過をもって時効が完成して

いるという。

2 しかしながら、被告は、現在の最高裁判所が、民法166条1項について、事実

上の障害であっても、権利を行使することが、現実には期待し難い特段の事情があ

る場合には、その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降にお

いて消滅時効が進行すると解していることを忘れている(最大判昭和45年7月1

5日民集24巻7号771頁、最三判平成8年3月5日民集50巻3号383頁、

最三判平成8年3月5日民集50巻3号383頁、最三判平成13年11月27日

民集55巻6号1311頁、最一判平成15年12月11日民集57巻11号21

96頁)。

上記、最一判平成15年12月11日民集57巻11号2196頁は、生命保険

契約に係る保険契約が被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の

起算点とする旨を定めている場合であっても上記消滅時効は被保険者の遺体が発見

されるまでの間は進行しないと判示したものである(甲7)。被告の引用する大判大

正6年11月14民録23輯1965頁のように、権利の不知は、法律が特別の規

定を置く場合のほか、消滅時効の進行を妨げないとは、現在の最高裁は解していな

い。

3 訴状に記載したとおり、給付不当利得に関しては、旧民法705条が、「債務ノ

弁済トシテ給付ヲ為シタル者カ其当時債務ノ存在セサルコトヲ知リタルトキハ其給

- 2 -

付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス」と定めているのであって、債務が存在

していないことを知っていれば、そもそも返還請求ができないはずの事態である。

給付不当利得に関しては、「債務の存在を知らないこと」が返還請求権発生の要件

となっているのに、発生した時から「権利を行使することができる」というのは、

権利者に不可能を強いるものであり、権利の行使は現実には期待しがたいというべ

きである。

非債弁済の場合も、返還請求権の発生を権利者が了知したと否とを問わず、債権

発生の時に時効期間が進行する旨判示した大判昭和12年9月17日民集16巻1

435頁も、「非債弁済については、所論のごとく弁済をなしたる者が債務の存在

せざることを知らざる場合に限り、給付したるものの返還を請求することを得るも

のなれば、返還請求権発生の時においては権利者はこの権利の発生を了知するに由

なく、これを行使すること能わざるものなれども、これ事実上権利を行使すること

を得ざるにとどまり、法律上不能なりと云いがたく、前示民法第166条にいわゆ

る権利ヲ行使スルコトヲ得ル時とは、法律上これを行使し得べき時を意味し、事実

上これを行使し得るや否やはなんら関係なきものと解すべきを以て、この場合にお

これ権いてもまた、権利発生の時より時効期間進行するものとなさざるべからず。

」と判示しているところである(甲8)。利者に過酷なるが如しといえども

この判決は、上記最大判昭和45年7月15日民集24巻7号771頁より以前

の判決であり、現在では全く参考にならないし、最大判昭和45年7月15日以降

の民法166条の解釈からすれば、変更を免れ得ないものである。

第2 主位的請求について-法律上の障害(新主張)

1 そもそも、弁済者が弁済当時、債務の存在を知らないことを法律上の障害に当た

らないと解すること自体に問題がある。

旧民法703条は不当利得返還請求権の発生原因について、「法律上ノ原因ナク

シテ他人ノ財産又ハ労務ニ因リ利益ヲ受ケ之カ為メニ他人ニ損失ヲ及ホシタル者ハ

其利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負フ」と定め、旧民法705条は、

非債弁済について、上記のように定めている。

この両者の関係は、民法703条が不当利得返還請求権の請求原因を、民法70

5条がそれに対する抗弁を定めたものと解される(大判大正7年9月23日民録24

輯1722頁)。つまり、非債弁済に関しては、「法律上の原因なく債務の弁済とし

て給付をした者は、その時において、債務の存在しないことを知らなかった場合に

限り、その給付したものの返還を請求することができる。」という規定があったの

と同じである(このような規定があったとしても「知らなかったこと」は悪魔の証明

- 3 -

であるから、要件事実的には、「知っていたこと」が抗弁に回る。)。

弁済当時、実体法上、「債務の存在を知らなかったこと」が返還請求権発生の要

件と解される以上、この「債務の存在を知らなかったこと」は、権利行使のための

事実上の障害ではなく、法律上の障害と解すべきである。

2 大判昭和12年9月17日民集16巻1435頁は、非債弁済の弁済者が、弁済

当時、「債務の存在を知らなかったこと」を事実上の障害としている点で民法の解

釈を誤っているというべきである。

第3 予備的請求について

1 被告は、被告準備書面(1)において、最判平成16年2月20日民集58巻2号

475頁以前は、緩和説を採用する最判平成2年1月22日民集44巻1号332

頁が実務を支配しており、それを変更するほどの裁判例や学説が複数存在していた、

被告もこの支配的な考え方に従い、貸金業規制法上の記載要件を一見して網羅して

いる本件17条書面及び18条書面を利用し、取引を行っていた、したがって、被

告は貸金業法の要件を満たすものと信じていたと主張する。

2 しかしながら、被告の主張には何の根拠もない。本件取引は、昭和57年ころ締

結され、昭和58年4月23日に追加貸付けがあったものであるが(争いはないと思

われる)、貸金業法が施行されたのは昭和58年11月1日である。そして、貸金業

法の附則6条1項は、「貸金業者がこの法律の施行前に業として行つた金銭を目的

とする消費貸借上の利息の契約に基づき、この法律の施行後に、債務者が利息とし

て金銭を支払つたときは、当該支払については、第四十三条第一項及び第二項の規

定は、適用しない。」と明確に定めている。

本件取引に、貸金業法43条のみなし弁済規定を持ち出すのは全く無意味である。

仮に、被告が本件取引にみなし弁済の適用があると信じたとしても、過失があるの

は明らかである。なお、訴状作成段階において、原告代理人にも勘違いがあったこ

とは認める。

以上

- 1 -

平成18年(ハ)第269号 不当利得返還等請求事件

原告

被告 プロミス株式会社

第2準備書面

平成19年2月15日

洲本簡易裁判所 御中

原告訴訟代理人弁護士 蔭 山 文 夫

1 主位的請求について

被告は、原告が過払金発生時からの民法704条の利息を請求していることをも

って、過払金について返還請求が発生の日から直ちに行使可能な権利であることを

前提としているというが、それは誤りである。

利息は遅延損害金と異なり、債務の期限が到来し、債務者がそれについて遅滞に

陥って初めて発生するものではない。期限が到来していなくても発生する。貸金請

求について、支払期限が到来せず、貸主が返還請求権の行使ができない間も貸金の

利息は貸付日から発生する。それと同じことである。利息の発生と権利行使可能か

どうかは関係がない。

2 予備的請求

原告は、法律で認められたみなし弁済を前提に営業している以上、約定債務の残

高は虚偽ではないと主張するが意味不明である。主張は法律上の意味をなしていな

い。

原告第1準備書面に記載したとおり、原告と被告の取引については貸金業法43

条1項が適用される余地がない。

以上

- 1 -

平成19年(レ)第31号 不当利得返還等請求控訴事件

控 訴 人(原審原告)

被控訴人(原審被告) プロミス株式会社

控訴第1準備書面

平成19年5月8日

神戸地方裁判所第6民事部 御中

控訴人訴訟代理人弁護士 蔭 山 文 夫

第1 権利行使を阻害する法律上の障害が存したこと

1 原判決は、過払金返還請求権(不当利得返還請求権)について、権利者が権利発生

を知らず、返還請求権を行使できないことは、事実上の障害に過ぎず、消滅時効の

進行を妨げるものではないという。

2 しかし、これは時効の起算点についての要件事実を誤ったものである。

旧民法703条は不当利得返還請求権の発生原因について、「法律上ノ原因ナク

シテ他人ノ財産又ハ労務ニ因リ利益ヲ受ケ之カ為メニ他人ニ損失ヲ及ホシタル者ハ

其利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負フ」と定め、旧民法705条は、

非債弁済について、「債務ノ弁済トシテ給付ヲ為シタル者カ其当時債務ノ存在セサ

ルコトヲ知リタルトキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス」と定めて

いる。

この両者の関係は、民法703条が不当利得返還請求権の請求原因を、民法70

5条がそれに対する抗弁を定めたものと解される(大判大正7年9月23日民録24

輯1722頁)。つまり、非債弁済に関しては、「法律上の原因なく債務の弁済とし

て給付をした者は、その時において、債務の存在しないことを知らなかった場合に

限り、その給付したものの返還を請求することができる。」という規定があったの

と同じである(このような規定があったとしても「知らなかったこと」は悪魔の証明

であるから、要件事実的には、「知っていたこと」が抗弁に回る。)。

弁済当時、実体法上、「債務の存在を知らなかったこと」が返還請求権発生の要

件と解される以上、この「債務の存在を知らなかったこと」は、権利行使のための

事実上の障害ではなく、法律上の障害と解すべきである。

- 2 -

別の説明をすれば、法律の文言が、旧民法のように規定されていても、「法律上

の原因なく債務の弁済として給付をした者は、その時において、債務の存在しない

ことを知らなかった場合に限り、その給付したものの返還を請求することができ

る。」と規定されていたとしても、裁判規範としては全く同じではずであるのに、

旧民法のような規定され方だと、債務の不存在を知らなかったことが事実上の障害

とされてしまうのは不合理である。

3 原判決は、この民法705条の存在について全く顧慮せず判断をしている時点で

不当であり、破棄を免れない。

第2 権利を行使することが、現実には期待し難い特段の事情が存すること

11) 原判決は、大判昭和12年9月17日民集16巻1435頁を引用し、不当利

得返還請求権については、権利発生の時から消滅時効が進行するというのが判例

だという。

2) しかし、原審は、現在の最高裁判所が、民法166条1項について、事実上の

障害であっても、権利を行使することが、現実には期待し難い特段の事情がある

場合には、その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降にお

いて消滅時効が進行すると解していることを忘れている(最大判昭和45年7月

15日民集24巻7号771頁、最三判平成8年3月5日民集50巻3号383

頁、最三判平成8年3月5日民集50巻3号383頁、最三判平成13年11月

27日民集55巻6号1311頁、最一判平成15年12月11日民集57巻1

1号2196頁)。

上記、最一判平成15年12月11日民集57巻11号2196頁は、生命保

険契約に係る保険契約が被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時

効の起算点とする旨を定めている場合であっても上記消滅時効は被保険者の遺体

が発見されるまでの間は進行しないと判示したものである(甲7)。被告の引用す

る大判大正6年11月14民録23輯1965頁のように、権利の不知は、法律

が特別の規定を置く場合のほか、消滅時効の進行を妨げないとは、現在の最高裁

は解していない。

3) 訴状に記載したとおり、給付不当利得に関しては、旧民法705条が、「債務

ノ弁済トシテ給付ヲ為シタル者カ其当時債務ノ存在セサルコトヲ知リタルトキハ

其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス」と定めているのであって、債務

が存在していないことを知っていれば、そもそも返還請求ができないはずの事態

である。給付不当利得に関しては、「債務の存在を知らないこと」が返還請求権

発生の要件となっているのに、発生した時から「権利を行使することができる」

- 3 -

というのは、権利者に不可能を強いるものであり、権利の行使は現実には期待し

がたいというべきである。

大判昭和12年9月17日民集16巻1435頁は、上記最大判昭和45年7

月15日民集24巻7号771頁より以前の判決であり、現在では全く参考にな

らないし、最大判昭和45年7月15日以降の民法166条の解釈からすれば、

変更を免れ得ないものである。

21) 原判決は、上記最大判昭和45年7月15日以降の判決である最一判昭和52

年3月31日訟務月報23巻4号802頁を引用し、過誤納金の消滅時効につい

て定めた国税通則法74条1項の解釈にあたり、同項にいう「その請求をするこ

とができる日」は、無効な申告又は賦課処分に基づく納付の場合、その納付のあ

った日と解されていることからも、権利者が不当利得返還請求権の発生を知らな

いことは、権利行使を現実には期待しがたい特段の事情にはあたらないという。

2) しかし、過誤納金の消滅時効は、援用も不要、放棄もできないというように、

債務者である国に徹底的に有利になっている制度であり(国税通告法74条2項→

同法72項2項)、また、民法705条に当たる規定も存在しないのであるから

(国税通告法74条2項→同法72項3項によれば、「時効については、この節に

別段の定めがあるものを除き、民法の規定を準用する。」となっているが、民法

705条は時効に関する規定ではないので、民法705条の適用はないと解さざ

るを得ない。)、本件において、最一判昭和52年3月31日は、全く参考になら

ないというべきである。

なお、上記最判の原審である東京高判昭和50年4月16日訟務月報21巻6

号1345頁は、「右控訴人の主張にかかる納付税金、すなわち本件修正申告お

よび賦課決定の一部無効による租税債務の不存在部分に対応する過納税金は、被

控訴人の国税徴収手続という権力的な公法的手続の過程において生じたものであ

つて、いわゆる公法上の不当利得たる性質を有する(この意味において、右の過

納税金は私人間の経済的利害の調整を目的とする民法上の不当利得の性質を有す

るものではない。)のであり、」と言っているところである。

また、この事件は上記東京高判を読めば分かるように、権利者が法律上の原因

を知ってから時効期間が経過するまで8か月の期間があった事案であり、そのこ

とが、権利行使を現実には期待しがたい特段の事情の存在しなかったという認定

につながっていると思われる。

3) よって、原判決のこの理由付けも妥当でない。

3 仮に、権利者が権利発生を知らず、返還請求権を行使できないことが、法律上の

- 4 -

障害に当たらず、事実上の障害に当たるとしても、原告には、権利行使を現実には

期待しがたい特段の事情が存在したというべきである。

第3 不法行為について

1 原判決は、存在しない債務の請求は不法行為であるという主張に対して、存在し

ない債務の請求だからといって、そのような請求を直ちに不法行為ということはで

きないとしたうえ、被告の行為は社会通念上著しく相当性を欠くものであるとは言

いがたいという。

2 まず、第1に、行為が社会通念上相当性を欠くものであったかどうかは、行為時

の判断でなければならない。

原判決は、グレーゾーン金利は裁判上の請求はできないものの、事実上徴収が容

認されてきた、貸金業の規制に関する法律も、みなし弁済の規定を設けることによ

って、上記グレーゾーン金利による利息の確保を認めたなどというが、全く事実に

反する。

原審から繰り返し主張してきたことであるが、本件取引は、昭和57年ころ締結

され、昭和58年4月23日に追加貸付けがあったものであるが(争いはないと思わ

れる)、貸金業法が施行されたのは昭和58年11月1日である。そして、貸金業法

の附則6条1項は、「貸金業者がこの法律の施行前に業として行つた金銭を目的と

する消費貸借上の利息の契約に基づき、この法律の施行後に、債務者が利息として

金銭を支払つたときは、当該支払については、第四十三条第一項及び第二項の規定

は、適用しない。」と明確に定めている。本件取引に、貸金業法43条のみなし弁

済規定の適用の余地は全くなかった。行為当時の社会通念上の判断としては、著し

く相当性を欠くものであったことが明らかである。

原判決は、借主の保護は、これまで不当利得返還請求権の行使によって図られて

きたともいうが、これは借主がこれまで不当利得返還請求権の行使によって満足し

ていたということを意味するにすぎず、不法行為の成立を否定する理由にはならな

い。

3 次に、仮に本件に、みなし弁済の規定を考慮すべきとしても、みなし弁済規定は、

その要件を満たして初めて、制限超過利息の収受が認められるものである。要件を

満たしていなければ、法律上の意味は全くない。原判決の判断は、要件が満たされ

て初めて意味を持つ規定について、要件が満たされていないのに、その規定が存在

するというただそれだけのことに、不法行為の否定という法的意味を認めている点

で不当である。このような判断は、いわば、正当防衛の規定があるからという理由

で、正当防衛の要件を満たさない暴力行為について、不法行為の成立を否定するに

- 5 -

等しい。

さらにいうなら、制限超過利息の収受が認められるのは、約定貸付金が、法律上

過払いになっていない段階に限られる。本件のように、法律上過払いになった後は、

利息や遅延損害金が発生する余地は全く存在しないのであるから(ゼロに何パーセン

トを乗じてもゼロ)、貸金業法が一定の範囲でグレーゾーン金利による利息の確保を

認めたなど何の意味もないというべきである。

そして、現在においても、法律上受領権限の全くない者が、権限のないことを知

りながら、相手方の無知に乗じて法律上支払義務のない支払をさせることは、社会

通念上、著しく相当性を欠いているというべきである。

原判決後の平成19年4月26日、札幌高等裁判所は、消費者金融の完済後の請

求について、「弁論の全趣旨によれば、一審被告(消費者金融)は、充当計算をせず

に一審原告(借主)に対して利息及び元本の支払い請求をし、一審原告はその請求が

正しいものとして、これに応じて一審被告に返済を続けてきたことが認められる。

一審被告の上記のような請求は、充当計算の結果元本がなくなるまでは、その一部

は存在しない債務に係るものであり、元本がなくなった後は、その全部が存在しな

い債務に係るものであり、元本がなくなった後は、その全部が存在しない債務に係

るものであるから、架空請求として不法行為を構成すると解するのが相当である

(一審被告が主張するように、貸金業者がグレーゾーン金利で営業することを監督

官庁が容認しているとしても、私法上の違法性を阻却するものではない。)。なお、

上記のような一審被告の請求は、一審被告が充当計算をしていなかったとしても、

少なくとも債務の一部はないことを、そして場合によっては元本がなくなっている

ことを知りつつなされたものであるから、一審被告は架空請求になることを知って

いたものというべきである。」と判示している(甲9)。

4 さらにさらに、控訴人は、原審において、不法行為を構成する行為として、架空

請求のみならず、告知義務違反も主張していたが、原審はこれに全く答えていない。

告知義務は法律上の義務であり、義務違反=不法行為であって、その行為が社会通

念上相当性を有するかどうかなどを全く考慮する必要のないものである。これにつ

いての判断をしていない点でも、原審の判断は到底許容されるものではない。

以上

- 1 -

平成19年(レ)第31号 不当利得返還等請求控訴事件

控 訴 人(原審原告)

被控訴人(原審被告) プロミス株式会社

控訴第2準備書面

平成19年9月5日

神戸地方裁判所第6民事部 御中

控訴人訴訟代理人弁護士 蔭 山 文 夫

第1 被控訴人第1準備書面への反論

1 被控訴人が控訴人の主張を正解していないこと

1) 被控訴人の反論

控訴人は、本件取引は貸金業法施行前から開始しており、貸金業法43条のみ

なし弁済規定適用の余地がなかったのであるから、控訴人の貸付行為は社会通念

上相当性を欠き、不法行為を構成すると主張する。

2) 控訴人の意見

控訴人は上記のような主張をしていない。貸付行為の違法性など主張したこと

がない。利息制限法に基づく利息計算の結果、債務が存在しなくなった後の請求

や金銭の受領行為が違法だと主張している。

2 出資法42条の2について

1) 被控訴人の反論

思うに、貸金契約の利率が、利息制限法所定の利率を超過するが、出資法所定

の利率以下である場合、貸金契約自体は有効である(出資法42条の2参照)。

2) 控訴人の意見

出資法に42条の2は存しない。貸金業法に42条の2という条文は存在する

が、これも本件消費貸借契約後に制定された法律であり、本件契約に適用はない。

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ただし、控訴人は、本件消費貸借契約が利息制限法の範囲内で有効であることは

争わない。

3 出資法5条3項について

1) 被控訴人の反論

出資法5条3項において、出資法超過利息を受領し、支払いを要求した場合に

のみ罰則が定められており、逆に出資法所定利息以下の利息であれば、これを受

領し、また、支払を要求してもそのこと自体が違法であるとは解されない。

2) 控訴人の意見

出資法5条3項の規定は、刑法上の違法の要件を定めたものであり、必ずしも

出資法に触れなければ民事上もすべて適法となるわけではない。

また、控訴人は、利息制限法超過の利息の請求がすべて違法だと主張している

わけでもない。少なくとも本訴訟においては、利息制限法超過利息の請求であっ

ても、法律上有効な債務の範囲内のものに関しては、それを違法だと主張してい

ない。

4 利息制限法1条2項

1) 被控訴人の反論

利息制限法1条も第1項で超過部分は無効としながらも第2項では任意に支払

ったときにはその返還を請求することができないと規定している。そもそも利息

制限法超過利息が違法なものであれば、任意の支払か否かにかかわらず、有効に

なるとは考えられない。

2) 控訴人の意見

利息制限法1条2項は、控訴人と被控訴人のとの間で本件契約が締結されるよ

りはるか以前である昭和39年11月18日や昭和43年10月29日の最高裁

判決によって死文化されている。

5 違法かどうかのメルクマール

1) 被控訴人の反論

これらのことから、出資法所定の利息を超過する利息であるか否かが、これを

受領することが違法であるか否かのメルクマールであることが分かる。

したがって、利息制限法超過利息であっても、当事者間の貸金契約に基づいて、

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利息制限法超過利息を受領すること及び請求すること自体は違法でなく、よって、

出資法所定の利息の範囲内であれば利息を受領することは違法ではない。

2) 控訴人の意見

被控訴人の反論は、法律上有効な債務の範囲内で、利息制限法超過利息を請求

する場合と法律上有効な債務が消滅した後に貸金請求をする場合を区別していな

い。両者を区別せず、利息制限法超過利息を請求自体は適法だというのは、論理

のすりかえである。被控訴人は、債務が存在しなくなった後に借主に対して支払

を請求することや、債務が存在しないと知りながら金銭を受領することが適法と

なる理由について、一言も説明していない。

以上