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― 6 ― 意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) 使KOJUNZASSHI 2014. 10. No. 593

意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上2014/07/04  · ― 7 ― 意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) はじめに 〔映像を使っての講演・画面交換時は

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Page 1: 意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上2014/07/04  · ― 7 ― 意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) はじめに 〔映像を使っての講演・画面交換時は

― 6 ―

意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

鳥居理事長(開会挨拶)

 

皆様午餐会にお集まりくださいましてありがとうご

ざいます。きょうは、講師として、株式会社加藤製

作所代表取締役社長加藤景司さんをお招きいたしま

た。

 

岐阜県の中津川からお話をしに来てくださいまし

た。自ら出版なさったご本と同じ題でお話ししてくだ

さいますので、ご紹介します。加藤さんは『意欲のあ

る人、求めます。ただし、六十歳以上』ということで

シニア世代を活かした会社を経営していらっしゃいま

す。六十歳以上の方が約半数を占めるそうです。そう

いう意気込みで高齢化社会にふさわしい人の使い方を

していらっしゃる。また、お造りになっていらっしゃ

る、いろいろな金属加工品は、実にさまざまな産業に

供給をしていらっしゃるようでございまして、きょう

はそのお話をぜひ伺いたいということでお招きをした

次第でございます。お食事のあとで詳しいご紹介を申

し上げます。よろしくお願いいたします。

KOJUNZASSHI 2014. 10. No. 593

意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上加 

藤 

景 

(㈱加藤製作所代表取締役社長)

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― 7 ―

意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

はじめに

 〔映像を使っての講演・画面交換時は◇印〕

 

私のような者がこの午餐会の講師で本当にいいのか

なという思いもしておりますが、私どもがかれこれ十

数年取り組んでまいりました高齢者雇用の事例という

ことで、きょうは皆さんに少しでもお役に立ち、また

少しでも元気と言いますか、そんな思いになっていた

だけたらということで、中津川からまいりました。

 

岐阜県中津川市は、それこそ中山道の宿場町でござ

いますが、ちょうど今いろいろな意味で脚光を浴びて

いる町でございます。この秋にリニア中央新幹線がい

よいよ着工いたします。二〇二七年には名古屋までで

ございますが、中津川には駅が、そして車両基地もで

きる予定になっております。私は、今朝始発に乗って

三時間かけてここにまいりましたが、リニア中央新幹

線の駅が中津川にできますと、品川から中津川まで

四十分になります。そんなことで、きっといつか、皆

さんも中津川の地にお越しいただける機会があるので

はないかと思っております。

 

また、中津川は栗きんとんでも有名でございます。

本当に小さな、人口が八万三千ほどの町でございます

が、そんなところから、きょうはこの午餐会に寄らせ

ていただきました。

 

今ご紹介いただきましたように、私は昭和三十六年

生れで今年五十三歳になります。こう見えても三歳の

孫がおりまして、家では「おじいちゃん」と呼ばれて

おります。私の父母は今も健在で一緒に働いておりま

す。父が八十六歳、母が八十二歳、孫に「大きいじい

ちゃん」、「大きいばあちゃん」と呼ばれております。

そういう意味では、まさにこれは私の話という思いも

しております。

 

それでは、ただいまから「意欲ある人、求めます。

ただし六十歳以上」というタイトルでお話を約一時間

ほどさせていただきます。よろしくお願いいたします。

会社概要

◇私ども株式会社加藤製作所は、創業が明治二十一

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

(一八八八)年、今年で百二十六年になりました。も

ともとは鍛冶屋の「かじ幸」という、私の曾祖父の幸

次郎が創業をいたしました。童謡の「村のかじや」そ

のままの会社でございます。実は、今もお正月になり

ますと、当主であります私と父は白い装束を身にまと

い帽子を被って、ふいごに火を入れて刀を打つという

儀式を残しております。スライドの右の写真は刀です

が、こんな刀が今百二十六本になりました。

◇私ども株式会社加藤製作所は、関連会社を二社持つ

グループ企業でございまして、加藤製作所としての社

員数は約百十名でございます。そして、きょうのテー

マでございます高齢者雇用は、平成十三(二〇〇一)

年から取り組みを始めました。三百六十五日、土曜

日、日曜日も併せて工場を動かそうという試みをこの

ときから始めました。

 

先ほどご紹介いただきましたように、平成十四年に

は高齢者雇用開発コンテストにて、厚生労働大臣賞最

優秀賞を頂戴いたしました。また、平成二十三年に

は、日本フィランソロピー協会から、特別賞/人財

ハーモニー賞を頂戴し、また今年三月には経済産業省

の「ダイバーシティ経営企業一〇〇選」にも、中小企

業ではございますが、認定をいただきました。

◇私どもの会社は、いろいろな業種・業態のものづく

りに携わっております。一つは家電です。こちらに写

真がございますように、パワーコンディショナーをは

じめとして、太陽光のいろいろな製品を作らせていた

だいております。また、業務用の換気送風機も数多く

やらせていただいております。中津川に三菱電機さん

が名古屋の疎開工場として中津川製作所を作られて以

来、そういったものづくりに携わるようになったのが

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― 9 ―

意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

始まりでございます。また、自動車は、三菱自動車さ

んのパジェロのドア周り、フレームと言いますか、躯

体の部分を数多くやらせていただいたり、各種の自動

車に関わる部品の製造を行っております。

◇環境のほうでは、名古屋高速、あるいは国道三〇二

号線等の遮音壁を造っております。皆さんが毎日ご利

用になっていらっしゃる首都高速道路の壁頂部にある

円筒になった遮音壁も私どもの製品でございまして、

たくさん造らせていただきました。また、住宅エクス

テリアの部分では家庭用のポスト、六年ほど前から航

空機の分野もご縁をいただきまして、三菱重工さんの

ボーイング七八七の主翼の部分、そしてこれから飛び

ますMRJ(三菱リージョナルジェット)の部品も数

多くやらせていただくようになりました。

 

その他に、私どものグループ会社では、三菱電機さ

んのエレベーターの据え付け、そしてエレベーター、

エスカレーターのメンテナンス、修理工事にも携わっ

ております。

 

ちょっとだけ宣伝させていただきますと、私の家内

は長野県の木曽郡木曽町出身でございます。そちら

に「七笑(ななわらい)」という大変縁起のいい名前

の日本酒の蔵元がございまして、そこの長女でござい

ます。そちらの仕事も、私は取締役として主に営業を

やらせていただいております。今、義弟が社長をやっ

ておりますが、また機会がございましたら、堅い加藤

製作所とともに柔らかい七笑のほうもごひいきにして

いただければと思っております。大変失礼いたしま

た。

我が社の経営ビジョン

◇さて、我が社の経営ビジョンは「日本のモノ造りの

礎となる」です。中小企業でございますが、そんな

思いで、ものづくりにきょうまで携わってまいりま

した。そして、経営理念は「喜びから喜びを」です。

今、高齢者雇用をやってみて、改めてしみじみと「喜

びから喜びを」というこの経営理念が、本当に素晴ら

しいと言いますか、そのとおりだと思っております。

経営基本方針は、「1.人財育成 

2.環境整備 

3.

本物の技術と商品」、人をつくり、場をつくり、そし

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― 10 ―

意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

てものをつくる、そういった思いでございます。

 

売上構成はスライドの図のとおりでございます。

◇会社の特徴を少しだけ申し上げます。いろいろな金

属製品をやっておりますが、コア技術、私どもの会社

は、OEMも一部手掛けさせていただいていますが、

最終商品をつくっているわけではございません。いろ

いろな要素技術を売りにして、お客様に営業しており

ます。

 

一つは、「絞り」という、一つの鉄板からいろい

ろな成形と言いますか、形づくる技術を有しており

す。

◇また、チタン、ニッケル、アルミ、ステンレス

等々、難削材と呼ばれる材質のものを使って加工する

のも得意でございます。スライドはウェブ画面でござ

いますが、昨今ウェブを通してお仕事を頂戴する機会

が多うございます。

◇また、各メーカーの設計の皆さんにいろいろとコス

トダウンのご提案もさせていただいております。

社員構成

◇これからが本題でございます。これが平成二十六年

六月現在の社員構成です。百十名近い社員のうち半数

(五十三名)が高齢者です。内訳は、新規採用として

新たに雇い入れた六十歳以上の方が三十七名、そして

六十歳の定年を迎えた持ち上がりの方が十六名です。

平均年齢は六十八歳、最高齢は八十六歳、七十歳以上

の方が十数名、今も現役で元気に働いていらっしゃい

ます。

 

では、ここでちょっと、皆さんに我が社の元気なシ

ニアの皆さんがどう働いているかDVDで見ていただ

こうかと思います。実は、私は慶應大学の現塾長でい

らっしゃいます清家先生とは大変懇意にさせていただ

いております。清家先生は、商学部の教授のときから

高齢者雇用に対していろいろと課題をお持ちで、私は

よく清家先生の前座を務める機会がございました。地

方へ行きまして、私が事例紹介をして、清家先生がメ

インでお話をされるという機会が多うございました。

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

そんなご縁がありまして、これから見ていただくNH

Kの「Eテレ」のときも清家塾長が登場してコメント

を頂戴いたしました。五分程度でございますが、うち

の高齢者の姿を皆さんにご紹介したいと思います。

土曜・日曜は、わしらのウィークディ

 ﹇DVD上映﹈

 

岐阜県中津川市。高齢化が進んでいる人口八万のこ

の町に、自動車や家電製品、さらに高度な技術を要す

る航空機などの部品加工を行う会社があります。従業

員はおよそ百人。その半数は六十歳以上の人たちで

す。この会社では十一年前、効率的な経営を目指し、

工場の稼働率を上げる方法を考えました。着目したの

は地元の高齢者でした。

 (加藤社長)「地元の大学の講師の方が中津川市の高

齢者の意識調査をやったという原稿を見せていただい

たんですね。その原稿を見ますと、働きたいけれど

も、働く場がないという高齢者の人たちがたくさんい

ることがそのアンケートからわかりました。それで、

これかなということで、土日の担い手に地元の高齢者

の人たちに働いていただいたらということで、キャッ

チコピーは『土曜・日曜は、わしらのウィークディ』。

そんな逆転の発想といいますか、都合百名ほどの高齢

者の人たちが、働きたいということで募集に応じてく

ださいました。土曜日・日曜日に、高齢者の人たち

十四名の方に工場を稼働していただきました」。

 

六十歳以上で、土曜・日曜のみの勤務というパート

社員の募集に応募した松井八重子さんです。「今まで

働いて、やっぱり会社に行っていたんですけど、定年

になって辞めてうちにいたんですけどね。私、ずっと

働きづめだったので、うちにいるのが苦痛になって、

土曜・日曜という契約でしたので、即来てくださいと

いうことを言ってくださったものですから、そのまま

もう十年になります」。

 

現在は、景気の後退で受注が減り土日の稼働はあり

ません。しかし、週三日、四日といった勤務や一日四

時間の短時間勤務など、柔軟な働き方を取り入れ、意

欲のあるシニアを活用しています。森雅弘さん七十

歳。月曜から木曜の週四日働いています。「私は、以

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

前は満六十歳までJR東海で、蒸気機関車から始まっ

て、電車の運転手をやって定年を迎えました。それか

ら約一年ぐらいぶらぶらしていましたが、自分の時間

帯に応じて会社側が雇用してくれるという話でしたも

のですから、ぜひともということで応募しました。や

はり以前の仕事とまるきり違う仕事ですので、ああこ

んなこともあるのか、こんなこともあるのかと、全然

知らない世界に飛び込んで、それを若手の社員がカ

バーしてくれますので、非常に楽しく仕事をやらせて

いただいております」。

 

また、高い技術を持つベテランのシニアが、定年後

にその技術を教える仕組みを作りました。「高さは大

体一緒でいいもんで」。鈴木英志さんは水・木・金の

週三日、若手社員の育成に励んでいます。「何とか一

人前に育てたいという気持ちで今やっているんです。

だいぶ怒ったりしてますけど、彼は彼なりに一所懸命

歯を食いしばって頑張っています。そこら辺はうれし

く思っています」。

 

企業が考えた柔軟な勤務体制。技術を伝えることに

やりがいを見出したシニア。小さな町の工場に新たな

雇用が生み出されたのです。

 ﹇DVD放映終了﹈

 

こんな様子でございます。いかがでしたでしょう

か。みな大変楽しく生き生きと、きょうも今頃頑張っ

てやっていると思います。

 

それではこれから、どういうきっかけで、どんな経

過で今に至っているか。そして、私が今こうして高齢

者雇用に携わるようになってどんなことを考えている

か、そんな話をさせていただきたいと思います。

高齢社会の現状

 

過日、六月二十五日でしたか、日経を見てみま

すと、日本の人口が五年連続減少したという総

務省の発表がございました。今の日本の総人口

は一億二千六百四十三万人。そのうち生産年齢人

口、実際に働ける十五歳から六十四歳の人たちは

七千八百三十六万人で、総人口の六一・九八%。これ

は過去最低を更新したとありました。また、六十五

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

歳以上の老年人口は三千百五十八万人でございまし

た。これは二四・九八%、今、日本は人口の約二五%

が六十五歳以上になったということでございます。

 

ちなみに、我が町、中津川はどうかと言いますと、

三一・四%です。高いですね。また、全国四十七都道

府県で二十四県は、既に六十五歳以上が二五%を超え

ているのが現実です。確かに、首都圏は若い人が多う

ございます。働く世代は都市部へ、そして地方はこれ

からますます運営が厳しくなるというのが実感です。

しかし、首都圏でも生産年齢人口の割合は高いのです

が、六十五歳以上も二二・六九%と年々上昇している

のです。いよいよもって本格的な高齢社会の到来で

す。これは私が申し上げるまでもなく、皆さんも実感

としてご承知のことかと存じます。現役世代が一・三

人で一人の高齢者を支える。あるいは二〇三五年、将

来に向けては三人に一人が高齢者になるという、まさ

に日本はもう高齢社会真っただ中です。

 

これは二〇一三年の数字ですが、男性の平均寿

命は七十九・九四歳で、世界第五位です。女性は

八十六・四一歳、世界一です。まさに、人生九十年時

代と言っても過言ではない。これから人生九十年を

どう生きるか。確かに、団塊の世代、昭和二十一年、

二十二年生まれの人たちは六十五歳をとうに過ぎてい

らっしゃいます。今までは、結婚する前は婚活、就職

する前は就活でしたよね。そして今度は終活、最終的

な終わりの活動です。これからの人生をどう送るか、

そういったことが取り沙汰されるのではないかと思い

ます。

 

六十五歳からの人生を二十年としたら、実際には

十万時間あります。十万時間というのは勤続四十年と

ほぼ同じ時間なのです。ですから、六十五歳から自分

の人生をどう生きるか、というのが本当の意味で大切

なことになるのではないかと思います。

 

内閣府の二十四年度の調査では、約六割の人が

「六十五歳を超えても、なお働きたい」と言っていま

す。働けるうちはいつまでも、というのが実際の声な

のです。「八十歳以上」でも四二%です。そんな状況

なんですね。今は六十歳を迎えても働く人が大部分だ

と言ってもいいと思いますが、実際は非正規社員がほ

とんどだということでございます。

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) 

もう一つ、私が特に申し上げたいのは、高齢化で日

本の国全体の社会保障給付金が急増しているというこ

とです。これは目を離せない事実だと思います。毎年

二兆から三兆膨らんでいます。二〇一一年の数字で

百七兆四千九百五十億。これは二・七%増という数字

でした。この百七兆のうち約五〇%が年金で占め、国

民所得の三割になります。これは過去最高の数字だと

出ておりましたが、国民所得の三割をそちらに回すと

いうように、まさに給付の抑制が急務として取り上げ

られているように思います。

 

ちょっと大袈裟かも知れませんが、この日本は世界

のどの国も経験したことがない高齢社会を今迎えてい

ると言ってもおかしくないというのが現実です。ま

ず、この数値をしっかりと踏まえたうえで、小さな事

例でございますが、ちょっとご紹介をさせていただき

たいと思います。

すべては一枚のチラシから

 

平成十三(二〇〇一)年四月に、土曜日・日曜日に

工場を動かしたいということでこの試みを始めまし

た。工場というのは、機械があって、その機械が動い

てなんぼの世界です。プレスがドンと言い、溶接が

ジュッと火花を散らす。それがあって、初めて売上、

粗利、そして利益につながっていくわけでございま

す。その当時は結構忙しかったのですが、よくよく見

ると当社においても土曜日、日曜日と百十日あまり休

みがございまして、その休みのときには当然機械は動

いていないわけです。ある日、私はこの土曜日・日曜

日に工場を動かすことができたら、もっと稼働率が上

がり、売上が上がり、利益につながるという思いに至

りました。しかし実際、誰に工場を動かしていただく

かというところがポイントでした。田舎の町なもので

すから、そんな担い手がいないのです。

 

実は、中津川にも大学が一つございます。その大学

の講師の先生と私は友人だったのです。その先生は、

今、和光大学の経済学部の教授をしていらっしゃいま

すが、その先生に「加藤君、中津川市から委託されて

高齢者の意識調査をやったんだ。ちょっと見ないか」

と言われて、原稿を見せていただいたら、なんと働き

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

たいけれども働く場のない高齢者の人がかなりいる。

そのときの母数で千人ぐらいいらっしゃるというのが

わかったのです。「もしかしたら、土曜日・日曜日に

工場を動かす担い手はこの方々なんじゃないか」と思

いついたのがきっかけでありました。

◇それで、このチラシを入れました。「土曜日・日曜

日はわしらのウィークディ」「意欲のある人求めます。

男女問わず。ただし年齢制限あり。六十歳以上の方」。

 

最初にハローワークに行きました。正直に言いまし

て、その当時は高齢者を雇い入れるという会社はほと

んどありませんでした。働きたいけれども、そういっ

た求人がないから接点がない。仕方がないので、中津

川市へ行って老人クラブの連絡先を聞きました。「うー

ん、これじゃいかんな」ということで、「そうだ、チ

ラシを入れよう」と言って作ったのがこれです。うち

の社員にアマチュアカメラマンがいるのですが、おば

あちゃんがスイカを入れた籠を背負ってにっこりと笑

う、この写真を採用させていただいて、私がなぜこの

高齢者雇用をやるようにしたのかという思いをつらつ

らと書きました。キャッチコピーは私の友人が作って

くれました。

 

このチラシを入れますと、なんとその朝から会社の

電話が鳴り止みませんでした。都合約百人の人が募集

に応じてくださいまして、十四名の方を雇い入れて加

藤製作所のシルバー大作戦が始まったわけです。

 

その高齢者の人たちは、本当はものづくりに携わっ

ていただくので、経験者が欲しかったのですが、応募

が皆無だったのです。仕方がないのでいろいろな経験

の方を雇い入れました。大工さん、電気工事士さん、

JRマン、証券マン、家庭の主婦、いろいろな人が応

募してくださいました。男女数ほぼ同じぐらいでした

でしょうか。

 

最初は心配ですから、高齢者二人に一人の正社員を

つけました。そして一カ月間、OJTということで平

日に働いていただきながら、うちの社員が手取り足取

りシニアの皆さんに仕事を教えていって、忘れもしな

い四月八日の土曜日に、さあ、きょうからということ

で始めました。

 

うちには組合もありますので、事前に正社員のみん

なに、なぜこれをやるかという話をして協力を求めま

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

した。正直に言いますと、最初はいろいろありました

が、半年ぐらいしたら、土曜・日曜だけではなくて、

平日もこのシニアの皆さんに働いていただけないかと

いう声が現場からあがってきたのです。

 

そして第二次募集をいたしました。そして、現在は

五十数名というところまで増えました。

シルバー大作戦は一石三鳥

 

私は、高齢者雇用は一石三鳥の取り組みだと思って

おります。

 

まず一つ目は、会社に、企業にとって良いのです。

土曜日・日曜日も工場を動かすことができる。それで

お客様のタイムリーな要請に応じることができる。同

時に、実際のコスト的な話を申し上げると、このとき

雇った十四名のお給料は正社員の一・三人分だったの

です。というのは、その当時は全員一律、時給八百円

でした。昇給なし、賞与なし、社会保険はいわゆる労

働保険だけ。そういう意味ではちょっと言葉はあれか

もしれませんが、コスト的にはパフォーマンスがある

と言いますか、固定費としては非常にお安い。そんな

ことが事実でありました。そして、徐々に増えてまい

りまして、会社のほうはますますもって稼働や売上が

上がっていったということでございます。

 

二つ目は、当然働くシニアにとっても良い。皆さん

年金を貰える範囲内でのお勤めなんですね。週二十八

時間、三・五日という方が大部分でした。中には、「私

は土日だけ」、あるいは「土日じゃなくて、私は平

日」、あるいは「土日プラス平日」と、いろいろなフ

レキシブルな形で働いていただきました。言うなれば

ワークシェアリングをしていただいているんですね。

一つの仕事をAというシニアの方とBというシニアの

方がやる。コアである水曜日には二人一緒に働くので

すが、月火水、水木金、土日、そんな格好でワーク

シェアリングをしながら仕事をこなしていっていただ

いています。

 

ですから、年金を貰いながら孫にお小遣いもやれ

る。お給料はもちろんですが、高齢者にとって働きが

いがある。これが一番ですが、そういったことも得る

ことができました。

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) 

最後の三つ目は、地域における雇用の場を作り出

す。先ほど中津川の高齢化率は三一%というお話をい

たしましたが、おかげさまで、一社、二社と高齢者の

人たちの雇用の場を提供する会社さんが多くなってま

いりました。

 

こうして、先ほど見ていただいた一枚の写真から高

齢者雇用が始まったのですが、私自身、これを十数年

やってまいりまして、どうですか、先ほどのDVDに

ありましたように、生き生きとした表情、明るい笑

顔、働く喜び、生きる喜びが本当に皆さんから溢れて

いる。正直に言いまして、最初は経営者として土曜・

日曜に工場を稼働させるというほうが主でございまし

た。しかし、皆さんと一緒に土日に働いていますと、

働くというのは何と素晴らしいことなんだ、と思うよ

うになりました。働くというのは、皆さんを生き生き

健康にする、そして若くしていく。そんなふうに、私

自身思っております。

高齢者雇用のポイント

 

我が社にお越しになる皆さんから必ず聞かれる質問

が一つあります。「加藤さん、百名いる高齢者の人た

ちから、どうやって選んで採用したのですか」。私は、

最初、一人一人面接するつもりだったのですが、もう

それでは追いつかなくて、皆さんまとめて面接しまし

た。ただし、一対一でお話しするときには二つだけポ

イントにしております。

 

まず高齢者の人を雇い入れるポイントは、明るいか

どうかです。そして、いい顔をしているか、笑顔はい

いか。この二つで選んできたというのが実は本当のと

ころです。確かに、皆さんのキャリアはそれぞれであ

ります。経験者の方もいらっしゃいます。しかし、最

終的にこの人に働いていただこうという基準は、その

方が明るいかどうか。やはり朗らかで明るいことは何

よりも大切だと思います。明るいところには、人もモ

ノも情報も集まります。もちろん健康で、人を幸せに

すると私は思っています。

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) 

そして、皆さん六十歳を過ぎますと、失礼ながら人

相と言いますか、ご自分の今までの人生がそのままお

顔に表われてくる。そんなように思っております。だ

から、その心持ちが明るい、前向き、ポジティブな方

は、やはりお顔の表情も素晴らしくいいですし、笑顔

もいいですよね。そして、使われる言葉も、前向きで

いい言葉を使われるのです。

 

ですから、そういう方々を雇い入れて、今まで採用

してまいりました。言うならば、ちょっと生意気かも

しれませんが、今までの自分のキャリアをいったんこ

こで区切って、今度は新しく挑戦していただく。中に

は上場企業の管理者の方もたくさんいらっしゃいま

す。あるいはものづくりに全然携わっていない方もい

らっしゃるのですが、うちの会社に働きたいとお越し

になる方は、皆さん過去を引きずらないと言います

か、今を受け入れると言いますか、今からが大事だと

いう様に、やる気と元気に満ちあふれています。そう

いう方がうちの会社の応募に応じて、働きたいと言っ

てお越しになるのです。そんなようなところが、高齢

者の皆さんとおつき合いする中で実感するところでご

ざいます。

シルバーパワーが戦力に

 

こうして意欲満々の元気なシルバー世代の皆さんの

おかげで、当社の「コンビニ工場」は順調に推移する

ことができました。しかし、二〇〇八年にリーマン

ショックの影響がまいりました。いろいろな業種、業

態の仕事をすることでリスクヘッジをやってまいりま

したが、すべての業種、業態でこのリーマンショック

の影響がありまして、最終的には売上が半分になって

しまいました。創業以来初めて赤字になりました。そ

のときに、シルバーの皆さんのおかげで、このリーマ

ンショックを乗り切れたのです。

 

というのは、それまで私はシルバーの皆さんのお給

料は固定費という認識を持っていたのですが、ちょっ

と言い方は乱暴かもしれませんが、変動費にもなるの

です。実はそのとき受注がないものですから、結果と

して週三日、四日のシルバーの人たちは仕事がなく

なってしまったのです。それで、シルバーの方たちに

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

事情をお話ししてお休みしていただきました。そのと

きから、仕事があるときは週三日とか四日とかお勤め

いただくのですが、仕事がないときは週〇・五日つま

り半日だけとか、そんな雇用形態で半年ごとの雇用契

約を結び直させていただきました。ですから、シル

バーの人たちが五十人いらっしゃったら、仕事の山谷

に合わせて、仕事が多いときには五十人フルに働いて

いただいて、仕事が少ないときには十人とかそのぐら

いで乗り越える。そんな格好でリーマンショックのと

きは何とかしのいで、一人もリストラをせずにやって

こられた、ということでございます。

高齢者雇用の目的

 

私どもの小さな事例ですが、超高齢社会における雇

用の新しい形として、このシルバー大作戦はたくさん

の反響をいただきました。テレビ、新聞、雑誌、工場

見学、あるいは海外でも多くのメディアが紹介してく

ださいました。表彰においては先ほど申し上げたとお

りでございます。

 

この高齢者雇用の目的は当初から変わっておりませ

ん。最初に始めたのは、コンビニエンスストア化、低

コスト、高品質、短納期の要求に、いかに対応力を

アップしていくか、工場としての稼働を上げていくか

ということです。それとともに、先ほど申し上げまし

たように、固定費、人件費の抑制と削減です。もちろ

ん、うちの会社は毎年若い人も採用しております。正

社員の平均は三十三歳です。そして、高齢者の平均

が六十八歳、実際に三世代が一緒に工場で働いてい

す。

 

また、先ほどDVDでご紹介がありましたように、

固有技術をどうやって伝承していくかということも一

つの課題でした。ものづくり、技術というのは、人に

つくのです。あの人が退社したらこの技術はなくなっ

てしまう。もちろん、ある程度「見える化」というこ

とにはそれなりに努力をして、その人の持っている技

術を誰でもわかるようにしようという努力は続けてい

るのですが、最終的な暗黙知のところ、この五感のと

ころは、その人でないとわからない部分、伝承してい

かないとわからない部分が実際に残っております。そ

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

ういうことで、先ほど見たように、徒弟制度のように

マン・ツー・マンで、持っている技術を若い人たちに

語り継ぐ、受け継ぐ、そういったようなことも必要に

なってくるということでございます。

 

それと地域の雇用の場づくり。一石三鳥の取り組み

というのは先ほど申した通りでございます。

高齢者雇用推進のための留意点

 

高齢者雇用をやってみて、いろいろな留意点がある

ことを十数年体験してまいりました。

◇ここに幾つか述べさせていただいております。まず

は、経営者トップが高齢者雇用を何のためにやるの

か、という明確な方針を持つことです。「お国の政策

としてこれをやらないといけないから」ということ

で、嫌々高齢者を採用し、高齢者雇用に取り組み始め

るというのはちょっと間違いです。大事なことは、受

け入れる会社側にあるのではないかと思っています。

 

そのためにも、受け入れる正社員には、何のためか

という方針をきちんと説明しないといけないと思いま

す。併せて、どんなことが自分たちにメリットとして

リターンしてくるかということも説明しなければいけ

ません。

 

それと同時に、管理者はさらに指導力を向上させ

る。例えば一人の正社員が五人、十人のシルバーの人

たちをいろいろな面でケアすることも、やはり必要に

なってくるのです。それと、「この仕事をやりながら、

あの仕事もやらなければいけない」という、いわゆる

多能工化を目指していただく。そういう意味では、正

社員の人にはますます活躍していただかなくてはいけ

ないというのも、もちろんでございます。

 

実は、今までやってまいりまして、シニアの人たち

が働きやすい労働条件の三原則があるなと思うので

す。一つは、見やすくて聞き取りやすいようにしなけ

ればいけない。例えば、明かりは一〇〇〇ルクスにす

るとか、文字は四ミリ以上に大きくする。また、ノギ

スはデジタルノギスにするといったようなこともやっ

てまいりました。二つ目には、やはり疲れにくくしな

ければいけないかなと思います。暑さ、あるいは寒さ

の面で働きやすい職場づくり。多少なりともいろいろ

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

と助成金もいただきながら、バリアフリー化、ユニ

バーサルデザインといったことも努力してまいりまし

た。三つ目は、高齢者の皆さんが余分な力が要らない

ようにしなければいけない。うちは鉄板稼業ですので

重量物があります。でも、重量物は持たなくてもい

い、あるいは運搬しなくてもいい。作業方法でもやり

やすいようにしよう。そんな取り組みもしてまいりま

した。

 

そんなことで、多種多様な雇用勤務形態はもちろん

ですが、いろいろな意味で環境整備する。でも、それ

は結果的に正社員にとっても働きやすい職場環境にな

るわけですから、高齢者だけのために特別とは限りま

せん。

 

最後にもう一つ、高齢者を雇い入れる際、助成金が

あります。これはメリットがたくさんございます。お

かげさまで、累計で三千六百万円ほど、我が社は高齢

者関連の助成金を頂戴して現在に至っているわけでご

ざいます。

これからの課題と提言

◇これからの課題と提言。これが私のきょう一番申し

上げたいところでございます。

 

生涯現役。実は、私の両親は今も現役で勤めており

ます。やはり八十六歳になっても、きょう行くところ

がある。きょう用があるというのは、大事ですよね。

「きょういく」とか「きょうよう」とか言いますが、

「起きたけど、寝るまで特に用はなし」という川柳が

ありますが、それではやっぱりちょっとまずい。うち

の親父も八十六歳で朝七時に出社します。きょう行く

ところがある。きょう行っていろいろな人と接するこ

とによって矍鑠としています。もし、それが家にいた

らどうなるのか。日がな一日新聞を読んだり、昼寝を

していますよ。正直に言いまして直ぐに認知症になる

でしょう。やはり生涯現役というのはとても大事なこ

とです。我が社は社員がいつまでも元気で生き生きと

働ける、エイジレスのファミリーカンパニーにしよ

う。そんな思いでいます。

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) 

そして人を大事にする。日本型経営、心の経営と言

いましょうか、倫理経営と言いましょうか、それが大

事ではないかと思います。日本の、特に中小企業で

は、本当に密接に社員とつながっていて、いろいろな

意味で、若手と高齢者の人たちがベストミックスで働

けるような会社作りを目指していきたいと思います。

 

やはり高齢者の人たちを見ていると、幾つになって

も人の役に立ちたいという思いがあるのです。本当に

そう思います。確かに最初は苦労しました。おもしろ

い逸話があります。ある正社員が初めてやり始めたシ

ニアの人に「モンキー持ってきて」と言ったら箒を

持ってきた。モンキーはネジを締める工具ですが、い

ろいろな工具があるのです。それぐらいでした。それ

と、製品名は英語ばかりですから、わからないので、

いろいろと絵を描いたりした。お互いに苦労しなが

ら、一つずつクリアしていった。でも、働きたいとい

う思いがあるから一つ一つ解決できるのだと、僕は皆

さんを見ていて思います。

 

やはり老いてこそ輝いて生きるということが、本当

に大事ではないかと思っております。実際にうちの

高齢者は夫婦が今まで五組ぐらいいらっしゃいまし

た。高齢者同士の結婚もありました。そんなふうに若

くなってくるのです。特に女性は若くなります。どこ

に変化があるかというと、色に現れます。今まで黒っ

ぽい服を着ていたのが、だんだん服に色がついてきま

す。最終的には革ジャンまで着てくる。大袈裟ではな

く、働くようになるとだんだん若くなってくる。健康

になる。生き生きしてくるということなんです。私は

側にいてそういった姿が如実にわかりました。働く人

は健康になり、働く人は長寿であるということ。これ

は間違いない事実だなと思います。

 「老い」というのは、いったい何でしょうか。「老い」

というのは、私は目の力だと思うのです。イコール意

志の力です。目だけは嘘をつきませんから。うちで働

いている高齢者の人たちは、みんな目が生き生きして

います。目が力強いです。「老い」というのは、未来

に夢と希望をなくしたときに初めて老いるのではない

でしょうか。だから皆さんも青春真っただ中でいらっ

しゃいますよね。サミエル・ウルマンの「青春」とい

う詩のとおりでいらっしゃるなと思います。私もそう

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

ありたいと思います。

これからの高齢者雇用のあり方

 

企業の側とシニアの側で、これからの超高齢社会で

どういう雇用のあり方、あるいは働き方をしたらいい

のか。これは私見ですが、一つは企業の側としては、

現役時代と変わらない勤務がもう当たり前の時代に

なったと言ってもおかしくないと思っています。先ほ

ど六十五歳から十万時間あると申し上げましたが、実

際、私は高齢者の定義がまずおかしいと思うのです。

正直に言いまして、六十歳は高齢者ではありません。

私は、高齢者の定義は七十五歳または八十歳からでは

ないかと思いますが、どうでしょうか。本当にそう思

いますよね。もう半世紀前の定義だと言ってもおかし

くない。高齢者とは七十五歳からにして、六十歳はま

だまだ現役です。ですから、団塊の世代の人たちは、

支えられる側に立ってはいけないと思うのです。ぜひ

支える側に回ってほしいと思います。

 

六十歳を迎えた人たちは仕事をしたい、あるいはこ

れからも仕事をしなくてはいけないわけです。基礎年

金は原則六十五歳から支給ですが、厚生年金も段階的

に上がっていきますよね。先ほどの社会保障給付金の

件です。そういう状況の中で、六十歳では働かないと

食っていけないというのが今の世の中なのです。です

から、働かないといけない六十歳以上の方々に今後、

どんな働く場を提供できるかということは、それぞれ

の企業が考えるべきことではないかと思います。言う

ならば、自分の会社において、新しい高齢者雇用のあ

り方を作り出そうということです。

 

高齢者の人たちが持っているいろいろな知識、技能

には素晴らしいものがありますから、それを生かして

もらう場は、たくさんあると思うのです。「うちは高齢

者の人なんて(要らない)」というのは違うという思い

でいるわけです。自由な発想と、枠にとらわれない柔

軟な目で見て、高齢者の人たちに新しい働く場を提供

する。そのためにも高齢者の人たちをまず「受け入れ

る」、「生かす」。この二つのキーワードを自分の会社で

どうやって受け留めていくのか、どうしたら生き生き

と働いていただくことができるのかを考えましょう。

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤) 

会社において、特に中小企業においては、七十歳ま

で働ける企業づくりが求められます。それが本格的な

高齢社会を乗り切る唯一の道ではないかと私は思って

います。ですから、まず企業は、嫌々ではなくて、高

齢者の人たちと積極的に一緒になって、ベストミック

スを作り上げていただきたいと思います。

 

そして、シニアの皆さんは、自分が持つ、いろいろ

な深い知見、知識、技能をもう一度生かして働く。ま

ずそういう思いになっていただきたいと思います。そ

れは現役時代の仕事の枠を超えると言いますか、新し

い環境や仕事にチャレンジ出来る、まだ現役でやれ

る、社会に貢献したいやり残しがあると勇気を持って

頂くことです。これが人生九十年時代におけるこれか

らの最大のテーマだと受け留めて見ていただけないか

と思います。

 

いまいちど働くことの意味を考えて、「働くことこ

そ生きること」だと思います。我々日本人のDNAに

はそれが流れているはずだと思うのです。やはり日本

人の勤労感は違うのです。いつまでたっても人の役に

立ちたい、自分の存在意義、存在価値を見出し輝きた

い、多くの人に認めてもらいたい。それが我が日本人

ではないでしょうか。

 

ですから、先ほども申し上げましたように、日本で

は七十五歳以上になって、ようやく支えられる側にな

る。それまではこの国を支える側として活躍していた

だきたい。そんなふうに思いますが、いかがでござい

ましょうか。喜んで、朗らかに働くと、ますますもっ

て健康になりますし、生き生きしてまいりますので、

私は日本の社会を立て直すには現役の力だけでなく、

シニアの皆さんの活躍が絶対に必要だと思っているわ

けでございます。

◇そろそろ時間もまいりました。一つ宣伝をさせてい

ただきます。『意欲のある人、求めます。ただし六十

歳以上』、これが私の本でございます。PHP研究所

で出版させていただきました。きょうはいろいろな苦

労話を少しだけさせていただきましたが、もっとおも

しろい話がこの本の中にございます。もしご興味がご

ざいましたら、お読みいただけたらと願っております。

 

私は働くことこそ最上の喜びだと思います。我が社

は「喜びから喜びを」が経営理念でございますが、や

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

はりまことの働きと言いますか、真心からの働きに

よって人を助け、人を救い、人の喜びを我が喜びにす

るということだと思います。これがやはり人生の生き

る根幹になるような気がしております。地方の一中小

企業でございますが、一生懸命頑張って、これからも

たくさんの人に元気に働いていただけるように、そし

てこういった事例が多くのこの日本の企業に広がるこ

とを私は願ってやみません。

 

きょうは貴重な交詢社の午餐会にお招きいただきま

して、最後まで熱心にご聴講いただき、心より厚くお

礼を申し上げます。また、皆様にお会いできる日を楽

しみにしております。機会がございましたら、中津川

あるいは木曽にも遊びにおいでください。どうもあり

がとうございました。(拍手)

鳥居理事長(謝辞)

 

加藤さん、どうもありがとうございました。元気の

出るお話を聞かせていただきまして、本当に元気が出

ました。お話を伺いながら感じたことをお礼の代わり

に申し上げたいと思います。

 

私は一生を大学の人間として生きてきましたので、

きょうはアメリカの大学教授と日本の大学教授の違い

を考えながら伺っていました。日本の大学教授には定

年がありますが、アメリカの大学教授には定年はあり

ません。何歳まででも、自分が働くことができる限り

働くというのがアメリカのルールです。そして、これ

が限界だなと思ったときには自ら辞める。辞めると、

そこが非常によくできていまして、日本の言葉で言え

ば医療保険、介護保険、障害保険、そして生命保険と

いったものにうまく乗れるようになっています。それ

がアメリカのやり方です。

 

しかも、日本では公的保険ですが、ほとんどが一生

自分で掛けてきた私的な保険で賄える。それで過不足

がないようになっているのです。それが日本では、制

度のほうがガチガチにできていて、どうも使い勝手が

悪い。支給年齢を上げるとか、制度のほうが先に勝手

なことを言い出すものですから、生きている人間とし

てはつじつまが合わなくなってしまう、というような

ことが起こっています。この辺のところに抜本的な手

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意欲のある人、求めます。ただし六十歳以上(加藤)

を加えるような新しい考え方が、加藤さんのお考えに

組み合わさったら、もっと素晴らしい社会ができるの

ではないかと思います。

 

年をとって、例えば八十歳過ぎた人がガン保険に入

ろうと思っても日本では入れませんが、アメリカでは

可能です。そういうことができるような社会をはじ

め、いろいろな仕組みがあるのです。

 

もう一つだけ付け加えますと、大学の人間としてと

いうよりも、よくテレビや新聞に登場する有名な先生

たちと、プロダクションという商売との関係が、日

本では非常に複雑に入り組んでできあがりはじめて、

少々具合の悪いものになりつつあります。それと同じ

関係が、きょう加藤さんがご紹介くださったような夢

の世界に食い込んでくると始末が悪い。プロダクショ

ン屋さんたちが、「これは俺の商売だから俺が紹介し

てやるよ」と言い出す可能性は多分にある。というこ

とが、大学から見た感想です。

 

そんなことがない夢の世界をお互いに協力して作り

上げていくことができたら素晴らしいと思いながら、

きょうのお話を伺いました。素晴らしいお話でした。

どうもありがとうございました。ますますのご活躍を

お祈りしております。(拍手)

〈講演者の紹介〉

加藤 

景司(かとう 

けいじ)

 

㈱加藤製作所代表取締役社長

 

昭和三十六年生まれ。愛知工業大学卒業後、三菱電

機等を経て昭和六十三年、加藤製作所に入社。平成

十六年、四代目社長に就任。岐阜県中津川市にある同

社は創業百二十六年のプレス板金部品の総合加工メー

カーで、土・日・祝日をシルバー世代の社員が中心と

なって三百六十五日工場を稼働する試みが注目を集

め、昨年「経産省ダイバーシティー経営企業百選」に

選定されるなど受賞歴多数。著書「意欲のある人、求

めます。ただし60歳以上」(PHP研究所)

 

なお、本稿は平成二十六年七月四日(金)開催の当社常

例午餐会における講演要旨である。