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1 帝京大学福岡医療技術学部 2017 年度 海外研修報告 A Report on the Study-Abroad Program of Teikyo University Faculty of Fukuoka Medical Technology in the Year of 2017 引率者 沖 雄二 (作業療法学科) 徳森謙二 (診療放射線学科) 山本洋美 (看護学科) <はじめに> 帝京大学福岡医療技術学部は、海外の医療制度を学ぶ目的でアメリカ・コロ ラド州デンバー市にて海外研修を実施した。期間は平成 29 9 4 日~12 までの 9 日間。参加者は学生 22 名(診療放射線学科: Radiological Technology Department――以下 RT と表記):3 名、臨床工学コース(Clinical Engineering Department――以下 CE と表記):3 名、看護学科(Nursing Department――以下 NS と表記):10 名、理学療法学科(Physical Therapy Department――以下 PT と 表記):6 名、引率者 3 名の、計 25 名であった。研修プログラムは、現地でのセ ミナーや施設訪問を通じて、日米の医療・保険制度の違いを学び、また、さま ざまなレクリエーション活動を通じてアメリカの文化を体験するという、質量 ともにバラエティーに富んでいた。特に施設訪問では、コロラド州立大学、地 元の名門レジス大学、脊椎損傷専門のクレイグ病院、一般病院のパーカー・ア ドベンティスト病院などの視察があり、こうした施設訪問を通じて、アメリカ の最先端の医療に触れることができたことは、かけがえのない貴重な体験とな った。 <スケジュール> 日付 研修内容 9 月 4 日(月) 福岡出発、デンバー到着、現地オリエンテーション 【文化体験】学科間交流のためのバーベキュー・パーティ(ホテル中庭にて) 9 月 5 日(火) 【講義】「アメリカ合衆国の医療と課題」朝倉 由紀先生 (看護学博士、看護師、がん認定看護師、専門看護師、パーカー・アドベンチスト・ホスピ タル緩和ケアコンサルタント、ペンローズ・セントフランシス・ヘルス・ナースサイエンテ ィスト)

帝京大学福岡医療技術学部 2017 年度 海外研修報告 Olympic Training Center in Colorado Spring 9月7日(木) レジス大学<Regis University> PT、NS対象

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帝京大学福岡医療技術学部 2017 年度 海外研修報告

A Report on the Study-Abroad Program of Teikyo

University Faculty of Fukuoka Medical Technology in the

Year of 2017

引率者 沖 雄二 (作業療法学科)

徳森謙二 (診療放射線学科)

山本洋美 (看護学科)

<はじめに>

帝京大学福岡医療技術学部は、海外の医療制度を学ぶ目的でアメリカ・コロ

ラド州デンバー市にて海外研修を実施した。期間は平成 29 年 9 月 4 日~12 日

までの 9 日間。参加者は学生 22名(診療放射線学科: Radiological Technology

Department――以下 RT と表記):3 名、臨床工学コース(Clinical Engineering

Department――以下 CE と表記):3 名、看護学科(Nursing Department――以下

NSと表記):10名、理学療法学科(Physical Therapy Department――以下 PTと

表記):6名、引率者 3名の、計 25名であった。研修プログラムは、現地でのセ

ミナーや施設訪問を通じて、日米の医療・保険制度の違いを学び、また、さま

ざまなレクリエーション活動を通じてアメリカの文化を体験するという、質量

ともにバラエティーに富んでいた。特に施設訪問では、コロラド州立大学、地

元の名門レジス大学、脊椎損傷専門のクレイグ病院、一般病院のパーカー・ア

ドベンティスト病院などの視察があり、こうした施設訪問を通じて、アメリカ

の最先端の医療に触れることができたことは、かけがえのない貴重な体験とな

った。

<スケジュール>

日付 研修内容

9月 4日(月) 福岡出発、デンバー到着、現地オリエンテーション

【文化体験】学科間交流のためのバーベキュー・パーティ(ホテル中庭にて)

9月 5日(火) 【講義】「アメリカ合衆国の医療と課題」朝倉 由紀先生

(看護学博士、看護師、がん認定看護師、専門看護師、パーカー・アドベンチスト・ホスピ

タル緩和ケアコンサルタント、ペンローズ・セントフランシス・ヘルス・ナースサイエンテ

ィスト)

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【講義】「日米ヘルスケ・アシステムの国際比較」T.R.リード先生

(ジャーナリスト、ドキュメンタリーフィルム制作者、作家、ワシントンポスト元東京支局

長、元ロンドン支局長、現在はコロラド日米協会会長。)

【見学】クレイグ病院(脊髄損傷、多発性脳損傷に特化した米モデルシステム病院)

【オプショナルツアー】大リーグベースボール観戦

9月 6日(水) 【見学】アメリカ合衆国オリンピック・トレーニングセンター(USOC)(トレーニング施設

VIP見学、クリニック見学、エリート選手寮カフェテリアにて昼食、ギフトショップ立寄)

【文化体験】アウトレット・ショッピング

9月 7日(木) 【大学訪問】レジス大学フィジカルセラピープログラム、ナーシングプログラム(学科共通:

講義「米 PT、NSの教育の歴史」、解剖授業(背中~臀部の解剖実践、部位ごとに心臓、肺、

脳)、学生交流ピザランチ、IPEシュミレーションセンター実習、学科ごと:PT実習(バイタ

ルサイン測定)、NS実習(点滴))

【大学訪問】コロラド州立大学環境・放射線保健学科(加藤宝光先生研究室、大学付属動物

病院)

9月 8日(金) 【見学】パーカー・アドベンチスト・ホスピタル(センチュラ・ヘルスシステムのメンバー

病院。レベル 3のトラウマセンター、プライマリー・ストローク・センターとして全ての救

急救命に対応。)

【文化体験】エステスパーク散策

9月 9日(土) 【文化体験】ロッキー・マウンテン国立公園 ベア湖~エメラルド湖ルートのハイキング

【オプショナルツアー】乗馬体験(YMCAロッキーズ)

【文化体験】スーパーにて食料の買い出し

【文化体験】山荘にて自炊、キャンプファイヤー

9月 10日(日) 【文化体験】ロッキー・マウンテン国立公園 アルパインビジターセンター(頂上)散策

【文化体験】フェアウェル・ディナー、研修修了式

9月 11日(月) デンバー出発

9月 12日(火) 福岡到着

<主な研修内容>

9月5日(火)

セミナー:「アメリカ合衆国の医療と課題」(Lecture on Healthcare System of

USA and Its Problems)特別講師:朝倉 由紀 氏(Dr,Yuki Asakura)米看護学

博士、日米看護師、米がん認定看護師、米専門看護師 全学科対象

まず、アメリカにおける医療職の免許制度についての紹介があった。朝倉氏

は、アメリカでは、医療免許は、日本の場合のように全国一律の国家資格とし

て国が認定するのではなく、各州によって認定されることなど、日米の免許制

度の違いに言及した。氏はまた、日米における看護治療のあり方の違いについ

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て触れ、日本では大学卒業後、国家試験を取得することにより高度な看護を含

むすべての看護が行えるが、アメリカでは、高度な看護を行うためには、看護

師免許を取得後、さらに専門職試験に合格し、高度実践看護師(APN)等の免

許を取得する必要がある、とのことであった。さらに氏は、アメリカの医療機

関は基本的に予約制であり、緊急で医療機関を受診する場合、患者は、

Emergency Room(ER)か Urgent Care(UC)に掛ることなど、日本との緊

急医療の違いについても説明した。最後に、アメリカにおける肥満の問題につ

いても触れ、現在、都会だけでなく、全米すべてで肥満が問題になっているこ

とや、その取り組みについても言及して、セミナーを締めくくった。

Dr. Yuki Asakura Students in Seminar

セミナー「日米ヘルスケア・システムの国際比較」(Lecture on Differences

between Japanese and American Healthcare Systems) 特別講師: T.R.リー

ド氏(Mr.T.R.Reid)ジャーナリスト、ドキュメンタリー・フィルム製作者、作

家 全学科対象

世界各国の医療保険制度についてのレクチャーであった。講師のリード氏は、

元ワシントン・ポストの特派員として、中国、韓国、日本に滞在した経験を持

つアジア通のジャーナリストである。氏はその経験から、特に日本の医療制度

の素晴らしさを知り、日本の医療現場にもたびたび足を運び、医療関係者にも

インタビューを行い、それを基に一本のドキュメンタリー・フィルムを作成し

た。今回学生もこのドキュメンタリーを見る機会を得た。

リード氏によれば、世界中の医療保険制度は、4つのモデルに大別される。①

ベバレッジ・モデル(The Beveridge Model)②ビスマルク・モデル(The

Bismarck Model)③ダグラス・モデル(The Douglas Model)④自己負担型モ

デル(The Out-of-Pocket Model)の4つである。35 の先進国は①~③のどれか

に該当するが、アメリカや中国は例外的で、①~③に該当せず、独特の医療保

険システムを有する国であるとのことであった。日本の医療保険制度は、③の

ダグラス・モデルに近く、理想的なモデルで、リード氏の解説よって、学生は

改めてそのすばらしさを知ることとなった。

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Students with Mr. T.R. Reid

クレイグ病院(Craig Hospital) 全学科対象

この病院は、脊髄損傷と外傷性脳障害を専門とするリハビリ病院であり、毎年

アメリカ全土から多くの患者が訪れる。

まず、訪問の初めに、病院を構成するスタッフの説明があった。医師 9 名、理

学療法士 40 名、作業療法士 35 名、言語聴覚士 15 名の構成で、病院は、これら

のスタッフによって運営され、類を見ない膨大な寄付金によって賄われている。

次に、アメリカでは若者の脊髄損傷が多数にのぼることや、その後の人生の過

ごし方などの説明があった。病院が特に力を入れているのは、周囲の人々の協

力および支援と、障害者の自律である。例えば、障害者の自立という観点から、

病院内では、一般家庭の状況に合わせた間取りや造り(自動扉でなく押しドア

になっているなど)になっていることが挙げられる。また、病院は、リクレー

ション・セラピー(ハイキング、釣り、狩猟などの娯楽を治療の一環とする)

にも積極的な取り組みを行っており、日本のリハビリテーションの在り方との

違いが感じられた。

さらに、屋外には、患者の疾患状態に合わせ、作業をしやすいように工夫され

た花壇もあり、このような取り組みは、病気にかかる以前よりも増して充実し

た人生を患者さんに送ってもらいたいという、病院長の信念が具体化されたも

のであり、それは、同時に、他職種連携の試みの一環となっている。

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Craig Hospital

9月6日(水)

アメリカ合衆国オリンピック・トレーニング・センター(US Olympic Training

Center) 全学科対象

コロラド・スプリングにあるオリンピック・トレーニング・センターは、全米

のトップ 10 に入る、オリンピック選手専用のスポーツ施設である。オリンピッ

ク競技でメダル獲得を目的とした施設であるにも関わらず、国からの補助金で

はなく、寄付金で運営されており、そのことにまず驚かされる。

全天候型のトラック施設においては、アンツーカーはオリッピックで使用さ

れるものと同一のものを採用しており、2020 年開催の東京オリンピックの競技

場に設置されるアンツーカーが決定されると、それに合わせてすべて張り替え

る予定であるとの説明があった。メダル獲得への執念がすごい。

オリンピック・センター内あるリハビリ施設には、医師が常駐しておらず、

理学療法士が必要に応じてオーダーをし、それを受けてエックス線撮影や MRI

撮影が行なわれる。この点は、日本の医療体制と大きく異なっている。昼食時

には、一般の人は立ち入ることができない選手寮のカフェテリアで食事をする

機会があった。オリンピック候補の選手とコミュニケーションをとる学生もい

た。

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Olympic Training Center in Colorado Spring

9月7日(木)

レジス大学<Regis University> PT、NS対象

講義 ( PT: Prof. Marcia B. Smith(PhD)、NS: Prof. Sherry Fuller)

まず、アメリカの理学療法士養成についての説明があった。アメリカでは、ま

ず学士号(専攻は問わない)を取得後に、理学療法専門の大学院へ進学し、博

士課程を修了することが資格取得の条件となっている。また、作業療法につい

ても、2025 年に専門の博士課程が設置されるとのことであった。

看護に関しては、アメリカの看護教育は、初めの2年間に短期大学などで必

要単位を取得し、その後に 4 年制大学で学ぶ。また、看護師は最低でも修士号

を取得しなければならない。多くの看護師は高度実践看護師を目指している。

Prof. Marcia B. Smith (PhD) Prof. Sherry Fuller

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シミュレーション・ラボ(Simulation Lab)

PT 学生と NS 学生のグループによる模擬患者を用いての患者、対応を実施し

た。

この模擬患者(ロボット)は病室の外部からマイクを通し声が発せられる仕

組みになっている。学生たちは模擬患者の痛みなどの訴えに対応する練習を行

った。

In Simulation Lab

人体解剖学講義(Anatomy Lecture<Prof. C. L. Barnes(PhD)>)

Prof. C. L. Barnes

学生はメスを使用しての人体解剖を行い貴重な体験をした。

背臥位の遺体を腰部から臀部まで皮膚を剥ぎ、皮膚、筋、神経

を観察することができた。

またホルマリン漬けの各臓器(脊髄神経、脳、肺、心臓)の

観察を行うことによりテキストと実物の違いを実感した。

医学部や歯学部以外の学生を対象とした人体解剖の実施に、

日本とアメリカにおけるカリキュラムの違い感じた。

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実習授業体験(Practice-Training with Regis Students )

大学院1年次の授業に参加し実習を行う。PT 班はバイタル測定(血圧測定、

脈拍測定)、NS 班は点滴、投薬、看護管理を行う。本学の学生が被検者になり

実施英語での会話を楽しんでいた。

Vital Measurements Item for Nursing Practice

コロラド州立大学(Colorado State University) Prof.Takamitsu Kato (PhD)

RT・CE対象

コロラド州立大学の加藤教授の研究室を訪問した。加藤教授より、日本の診

療放射線技師が行っている業務はアメリカではいくつかの資格に分かれており、

撮影だけを行う Radiological Technician、放射線治療を行う Radiological

Therapist、放射線治療の被曝線量計算を行う Medical Dosimetrist などの職種

があり、各職種によって給与が違うことなどの説明があった。また、加藤教授

の実験室を訪問し、大学院生から研究の内容について直接説明を受け、日本に

おいて講義では習うものの実際に見る機会の少ないコロニー法の実験の紹介が

あった。昼食時には、大学院生との交流を行う機会があり、学生が身振り手振

りを交えながら大学院生とのコミュニケーションをとっている姿が印象的であ

った。昼食後、コロラド州立大学附属動物病院の見学を行い、大型動物用の

PET-CT、MRI 装置や放射線治療装置を見学した。放射線治療施設では沈静状

態で放射線治療を受けた犬が覚醒する時に立ち会うことができ、動物であるが

ゆえの放射線治療の難しさを垣間見た。

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Lecture by Prof. Takamitsu Kato Introduction to Research

by Graduate Students

9月8日(金)

パーカー・アドベンティスト病院(Parker Adventist Hospital) 全学科対象

研修初日に「アメリカ合衆国の医療と課題」で講演を行った朝倉由紀氏がこ

の病院に勤務している。地域の救急救命にも対処できる病院である。学生は3

つの班に分かれて病院内の見学を行った。

アメリカでの出産時の入院日数は、原則として一泊で、出産翌日に退院する

ということを聞き、日本との違いに戸惑いを感じた。また、Interventional

Radiology Room(IVR 室)では、日本の IVR 室との構造の違い、放射線防護に

関する遮蔽の考え方の違い、業務従事者の被曝線量管理の考え方の違い、など

を知ることができた。

アメリカの医療・保険制度の制約を背景にしてか、日帰り手術が多い。まず、

処置室で手術の準備を行い、手術後、回復室で数時間過ごしたあと帰宅すると

いう、日帰り手術の一連の流れを知ることができた。一度に各班から 3 名の学

生が実際の手術室に入室させてもらい、現場を目の当たりにすることができ、

貴重な体験となった。癌病棟では患者の心ケアも行われており、放射線治療室

(リニアック室)の見学も行った。

Wearing Uniform to Enter Operation Room

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ロッキー・マウンテン国立公園ハイキングと観光(Hiking and Sightseeing in

Rocky Mountain National Park) 全学科対象

研修最終日には、ロッキー・マウンテン国立公園のハイキングと観光を行った。

ヒューマン・サイエンスを考えるとき、私たちは自然や生物の一員であること

を念頭におく必要がある。今回のハイキングと観光は、自然や生物が形成する

生態系を体感しながら「人間とは何か」を広義で考える貴重な体験となった。

また、時間を決め、夕食や朝食の準備し、大人数で食すということは、学科を

超えた連携や基本的欲求である衣食住を考える上で、またとない機会を与えて

くれた。

Lake in Rocky Mountains Walking on Mountain Path

<まとめ>

今回の研修は、レクチャーを通じてアメリカと日本における医療体制や医療

保険システムの違いを学んだり、医療の最前線の施設を訪問したり、基礎的な

実習や最先端の研究に接したりなど、海外の医療文化の多彩な面を知るまたと

ない機会となった。学生にとって極めて貴重な体験となったことは言うまでも

ない。この体験は今後の大学生活や卒業後の人生の過ごし方にも大きな影響を

及ぼすことになろう。将来、アメリカの大学で研究をしたいという学生も見ら

れ、実現すれば頼もしい限りである。

学生の引率については、PT の学生は OT の沖雄二教授、NS の学生は同科の

山本洋美准教授、RT および CE の学生は RT の徳森謙二教授が、それぞれ担当

した。施設訪問については、学科別に特化したものになるように計画したが、

日本とアメリカにおける医療教育制度の違いから、CE の学生に特化した施設訪

問が出来ず、当コースの学生にとってはやや不満の残る内容ではなかったかと

思われる。今後の改善が望まれる。

今回の研修が極めて順調に進み無事終了できたのは、精力的に事前準備に取

り組んだ木村俊幸教授や事務局の尽力、また、現地スタッフの皆さん方の献身

的な努力の賜物である。現地コーディネーターの知子・グッドマン、サム・グ

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ッドマンの両氏に深甚なる感謝を申し上げる。研修中、学生や引率者に親身に

接していただいたことに深く感謝いたします。

Students with Certificate, at The Fort, Last Day of Program