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特集 震災に学ぶ-住まいの安全トラブル対応- 特集1 地震に備えた住まいづくり-木造住宅は強くも弱くもつくれる- 1 特集 2 災害時の住まいに関する法律相談の傾向とアドバイス -日本弁護士連合会による熊本地震無料法律相談データ分析結果より- 5 [事例紹介]熊本地震消費者トラブル 110 番にみる相談事例 -給湯器の貯湯タンクの転倒- 8 特集 3 耐震診断、耐震工事のための支援制度 9 消費者問題アラカルト ギャンブル依存症の現状と対策 11 エネルギーと消費生活 電力の小売全面自由化にともなう消費者トラブル 14 新インターネットと上手につき合う インターネット取引のトラブル(3)アフィリエイトとドロップシッピング 16 環境志向の消費生活考 もったいない!食品ロス③広がるフードバンク活動や事業者の工夫 19 事例で学ぶ消費生活相談の関連法規 芸能レッスンの受講契約-業務提供誘引販売取引- 21 海外ニュース <アメリカ>新大統領就任、消費者の心配は? 24 <オーストラリア>タイムシェアの契約は慎重に <イタリア>山間部で活躍する移動消費者センター <ドイツ>責任を持ってペットを飼うために 消費者教育実践事例集 消費者教育と高校職業教育との接続 -生徒自主制作の消費者啓発リーフレット「通販トラブルさようなら」が示唆するもの- 26 金融商品の基礎講座 外貨建て金融商品 28 苦情相談 電話勧誘販売で契約したモバイル Wi-Fi ルーターの解約 31 暮らしの法律 Q&A 遺産分割後に新しい遺言書が出てきたら? 33 暮らしの判例 L&G によるマルチ商法的な巨額詐欺事件における上位会員の不法行為責任 34 誌上法学講座 著作権法を知ろう―著作権法入門・基礎力養成講座 著作権(6) -上演権・演奏権・公衆送信権等- 37 ウェブ版 NO.572017目次

震災に学ぶ 住まいの安全 トラブル対応- · 2017.4. 1. 特集. 特集. 1. 地震に備た住まいづくり æ e px§x x mx g > $y tpeb)jsptij n g¶ \ mz t \ÆmÏ

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特集 震災に学ぶ-住まいの安全とトラブル対応-

特集1 地震に備えた住まいづくり-木造住宅は強くも弱くもつくれる- 1

特集 2 災害時の住まいに関する法律相談の傾向とアドバイス

-日本弁護士連合会による熊本地震無料法律相談データ分析結果より-

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[事例紹介]熊本地震消費者トラブル 110番にみる相談事例

-給湯器の貯湯タンクの転倒-

8

特集 3 耐震診断、耐震工事のための支援制度 9

消費者問題アラカルト ギャンブル依存症の現状と対策

11

エネルギーと消費生活 電力の小売全面自由化にともなう消費者トラブル 14

新インターネットと上手につき合う インターネット取引のトラブル(3)アフィリエイトとドロップシッピング 16

環境志向の消費生活考 もったいない!食品ロス③広がるフードバンク活動や事業者の工夫 19

事例で学ぶ消費生活相談の関連法規 芸能レッスンの受講契約-業務提供誘引販売取引- 21

海外ニュース <アメリカ>新大統領就任、消費者の心配は? 24

<オーストラリア>タイムシェアの契約は慎重に

<イタリア>山間部で活躍する移動消費者センター

<ドイツ>責任を持ってペットを飼うために

消費者教育実践事例集 消費者教育と高校職業教育との接続

-生徒自主制作の消費者啓発リーフレット「通販トラブルさようなら」が示唆するもの-

26

金融商品の基礎講座 外貨建て金融商品 28

苦情相談 電話勧誘販売で契約したモバイルWi-Fi ルーターの解約 31

暮らしの法律 Q&A 遺産分割後に新しい遺言書が出てきたら? 33

暮らしの判例 L&G によるマルチ商法的な巨額詐欺事件における上位会員の不法行為責任 34

誌上法学講座 著作権法を知ろう―著作権法入門・基礎力養成講座 著作権(6)

-上演権・演奏権・公衆送信権等-

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ウェブ版 NO.57(2017)

目次

2017.4 1

特集

特集

1地震に備えた住まいづくり―木造住宅は強くも弱くもつくれる―

五十田 博 Ⅰsoda Hiroshi 京都大学生存圏研究所 生活圏構造機能分野 教授、博士(工学)建設省建築研究所主任研究員、信州大学工学部准教授を経て現職。研究分野は木質構造、構造システム、耐震工学など。建築研究所熊本地震建築物被害調査検討委員会委員。

「平成28年(2016年)熊本地震」(以下、熊本地震)では、木造住宅が多数倒壊しました。これまでも木造住宅は地震の度に倒壊を含む被害が繰り返されており、1995年阪神・淡路大震災(地震の名称:兵庫県南部地震)以来の甚大な被害となりました。詳細は後述しますが、倒壊してしまった住宅のなかには阪神・淡路大震災の被害を踏まえ、2000年に明確化が図られた建築基準で建てられた住宅も含まれていました。

一方で、大きな被害を受けた結果、建て替えに備え解体、整地化が進む被災地のなかで、外観上は無被害の木造住宅を見つけることができます。さらに、「余震が怖いから」と車や屋外での生活を強いられるようなところ、室内の壁などに被害がほとんどないような住宅では、被災地なりの不便は伴っていたとは思いますが、普通の生活が続けられていました。

このように被害を大きく分けてしまったのには原因があります。ここでは、その原因について概説していきたいと思います。今後、住まいを新築する、あるいはリフォームをするに当たってのヒントになれば幸いです。

はじめに

住宅を建てるとなると、その耐震設計を建築基準法に則して行わねばなりません。そこでまず、建築基準について説明しておきます。建築基準法の耐震設計では、以下の2つを要求しています。①まれに発生する地震に対して損傷しない②極めてまれに発生する地震に対して、倒壊・

崩壊しないこれだけでは分かりにくいので、もう少し説

明を加えましょう。「まれに発生する地震」というのは建物の使用期間中に数回遭遇する程度の地震です。おおむね50年に1度の地震と説明がされることがあります。また、「極めてまれに発生する地震」は、1度遭遇するかもしれない程度の地震です。こちらは、おおむね400 〜 500年に1度に発生する地震といわれています。さらに、「損傷しない」とは、仕上げ材などもまったく被害がないわけではなく、建物の耐震性能に関して、修復を必要とせず、ほぼ継続使用が可能ということを指しています。「倒壊・崩壊しない」ことは、人命を守ることを目的としています。つまり、大きな地震が来ても倒壊・崩壊しない

建築基準の意味

2017.4 2

特集地震に備えた住まいづくり特集1

を表したものですが、縦軸のどこかに大地震に対して倒壊しないレベルがあって、地震被害があり、想定外の被害が生じるとそのレベルを上げて、想定した被害(ここでは倒壊しないこと)に抑えようと努力を続けています。「法令は進化している」と言う人もいますが、人によっては

「後追い」をしているという言い方もされます。

図2は益城町の被害の大きい地域に対して実施した悉

しっ皆かい

調査*を、建築基準が見直された時を区切りとして、被害の大きさ別にその戸数を示したものです。最近の建築基準の見直しは2000年で、その前が1981年です。倒壊・崩壊した建物に注目すると、1981年以前の建物が倒壊214棟に対して、1981年から2000年の間が76棟、そして2000年以降が7棟です。このように基準が見直された効果が明らかにうかがえます。なお、2000年以降の7棟のうち3棟が2000年の基準に合致しておらず、違法でした。

それぞれの見直された項目や数値というのは、逆の見方をすれば、それまでに不足していた耐震性能の確保に必要な項目と必要量を示した数値です。1981年の見直しでは壁の総量が見直されました。壁は地震に抵抗する要素です。用いる材料や留め付けの方法などによってそれぞれ強さがあり、その強さに壁の幅の長さを乗じたものが壁の総量で、その量が足りないと損傷や倒壊・崩壊が生じます。1981年にはその量を増やしました。

2000年は、前述したとおり1995年阪神・淡路大震災の経験を踏まえての見直しです。「壁は釣り合い良く配置すること」「接合部は緊結すること」と書かれていた内容を、より具体的にどういう壁の配置が釣り合い良くとされ、どういう接合部が緊結とされるのか、についての計算方

進化する前と後

ことをめざしてはいますが、損傷は致し方ないと考えています。それが建築基準法です。

さて、ここまで、読んで驚かれる人もいらっしゃるかもしれません。建築基準法を守っていれば、大地震であっても被害がないかというと、残念ながらそうではないのです。損傷しないとか、倒壊・崩壊をしないとかを最低限の項目と最低限のレベルの数値で表しているに過ぎないのです。1950年に制定された後に、想定していた地震よりも大きな地震が来て建物が倒壊した、あるいは想定していたよりも過大な被害を受けてしまったために、必要な項目が追加され、最低限のレベルを上げることが繰り返しなされてきました。図1は横軸を時間(経過年数)として、縦軸に建物の耐震性能(必要性能)のレベル

建築基準は進化を続ける

1981年6月~2000年5月(877棟)

2000年6月~(319棟)

木造全体(1955棟)

~1981年5月(759棟)

無被害 軽微・小破・中破 大破 倒壊・崩壊

(%)

0102030405060708090100 39

(5.1%)

373(49.1%)

133(17.5%)

214(28.2%)

179(20.4%)

196(61.4%)

414(21.2%)

1014(51.9%)

230(11.8%)297

(15.2%)

104(32.6%)

12(3.8%)

7(2.2%)

537(61.2%)

85(9.7%)76

(8.7%)

益城町で行われた悉皆調査の建築時期別の被害率(木造住宅)図2* �「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会�報告書」��

http://www.nilim.go.jp/lab/hbg/0930/summary.pdf

基準法は倒壊しないレベルで進化図1

地震被害

経過年数

必要性能 倒壊しないために必要な性能レベル

=建築基準法がめざしているレベル

損傷しないレベルはもっと上

地震被害があると性能を上げる

地震被害

2017.4 3

特集地震に備えた住まいづくり特集1

取ると地震に対して弱くなる、といったことが話題になりました。このような一般的に耐震性能が低くなる原因、逆に言えば耐震性能を向上させる要因は、日本建築防災協会のホームページ「誰でもできるわが家の耐震診断」としてまとめられています。図4は前述の1階の壁の位置と2階の壁の位置がずれていることについて説明をしたものです。このような注意点が10問にまとめられています。

ただ、ここで勘違いをしないでほしいのは、ここに挙げられている項目に当てはまる=耐震性能が低い、ということでは必ずしもない、ということです。例えば「直下率が低い=耐震性能が低い」かというとそういうわけではありません。「直下率が低い」なら、力の流れを正確に求めるように解析モデルをつくって、力の流れを求め設計しましょう。これで耐震性能は低くならずにすみます。居間などを広くとる場合、広い空間だから上の階の床をしっかりつくろう、ということです。要はきちんと設計をして

法や確認の方法を明確に示しました。阪神・淡路大震災では写真のように柱の脚部に接合金物がなく外れやすい、さらに、北面に壁が多く、南面に壁がないような住宅が大きな被害を受けたので、それを規制するよう見直されたということです。

これも前述しましたが、2000年以降に建てられた住宅が熊本地震で倒壊しました。先ほど3棟は建築基準を満たしていなかったと倒壊理由を説明しましたが、残りの4棟の倒壊原因についてここで触れておきます。

まず、1棟は想定以上に住宅の重さが大きかったことで倒壊した、と考えられています。建物が重いと壁の量を増やす必要がありますが、それがなされていなかったというものです。そして、次の1棟は地盤が悪く、それにより倒壊したと考えられています。もう1棟は、壁は所定の量以上にありましたが、柱の脚部が外れてしまい、倒壊に至りました。建物の挙動を追跡すると図3のように倒壊に至る段階で柱が浮き上がっていました。そして、最後の1棟は今のところ、局所的に地震動が大きかったのではないかという結論で、詳細は分かっていません。

以上のことから、現行の2000年基準を守っている木造住宅は大地震に対して倒壊の危険性は低い、と考えています。ただ、ぎりぎり満足しているだけでは大きな被害を受けてしまい、継続使用ができません。

熊本地震では多くの木造住宅が倒壊しました。さらに、これまでの被害などを踏まえて、解析技術や設計技術が進んでいることもあって、どのような住宅に被害が出やすいか、ということが度々取り上げられました。例えば、2階建てで1階と2階の壁の位置がずれている、これは壁の直下率と呼びますが、直下率が低いと耐震性能が劣るのではないか。居間など広い空間を

熊本地震で話題になったこと接合部に金物がないと容易に外れる写真

倒壊直前に接合部が外れてしまった(解析協力:中川貴文国土技術政策総合研究所)

図3

2017.4 4

特集地震に備えた住まいづくり特集1

が予想されます。配慮ができているかどうかは耐震診断をすれば分かるので、耐震診断をお勧めします。⑶2000年6月以降の木造住宅は極大地震で倒壊の危険性はないが、損傷が生じるので注意を

建築基準をやっと上回る程度で建ててしまっていると、大地震で大きな被害を受けることがあります。図面や建築確認書類があれば耐震のレベルはすぐに分かるので、専門家に相談してください。

そして、これから木造住宅を新築される場合には「余裕を持った設計」を心がけていただきたいのです。建築基準を上回るような建物を設計することは可能です。お金がかかるのではないか? と心配される人も多いとは思いますが、設計性能を1.5倍程度に上げるのに数十万円程度の上乗せでできる、とも言われています。ぜひとも余裕を持った設計を心がけていただければと思います。

いるかどうかです。よく勉強している設計士であればこの辺についてはご存じと思います。「こういう空間や間取りをつくろうとすると、普通よりも耐震の設計を慎重にしなければならないので、手間がかかりますよ」と説明する設計士がきちんと分かっている設計士だと思います。

また、図1で建築基準がめざしているレベルを示しましたが、建築基準ぎりぎりにつくる必要はなく、設計によって、強い住宅=大地震に対してほとんど被害のないような住宅をつくることも可能です。要は設計次第です。本稿の最初に書いた被害を分けた原因は、余裕を持った設計がされていたかです。余裕をもって設計がされていたのであれば、被害は軽微ですんだはずでした。

最後に、お住まいの住宅について、建築年代別の注意点をまとめておきたいと思います。⑴1981年5月以前の木造住宅は補強が必要

1981年5月以前に建てた木造住宅は、現行基準の半分程度の耐震性能しかないと思われます。大地震に対して倒壊の危険性が高く、耐震診断よりもすぐに補強を進めてほしいところです。⑵1981年6月以降~2000年5月以前の木造住宅は耐震診断を

この年代は、設計者やハウスメーカーの力量、設計上の配慮によって性能が異なっていること

おわりに

誰でもできるわが家の耐震診断(http://www.kenchiku-bosai.or.jp/seismic/wagayare/taisin_flash.html)

図4

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特集

特集

2災害時の住まいに関する法律相談の傾向とアドバイス―日本弁護士連合会による熊本地震無料法律相談データ分析結果より―

鈴木 秀昌 Suzuki Hidemasa 弁護士弁護士登録当初より災害関連活動に携わる。現在、日本弁護士連合会において事務総長付特別嘱託(熊本地震担当)として熊本地震に関する無料法律相談データの分析等を担当。

2016年4月に発生した「平成28年(2016年)熊本地震」(以下、熊本地震)に関しては、熊本県弁護士会が発災直後から継続的に無料法律相談を実施しています。日本弁護士連合会は、筆者を担当者として同無料法律相談に関するデータの集約および相談内容等の分析を行っており、2016年12月に第2次分析結果を公表しました*1。

同分析の結果、「不動産賃貸借(借家)」「工作物責任・相隣関係」「住宅・車等のローン・リース」および「公的支援・行政認定等」に関する相談が特に多く、次いで「不動産所有権」に関する相談が多いことが確認されています。

以下では、これら5類型につき同分析結果を基に相談内容を概観したうえで、これに対する一般的なアドバイスを説明し、最後に、現行の被災者支援制度の運用状況や課題について触れます。ただし、本稿中の意見にわたる部分は、筆者の個人的な見解によるものです。

1「不動産賃貸借(借家)」に関する相談●相談内容の概観

①借家が全壊したが賃料や敷金はどうなるのか、②借家の一部が毀

き損そん

したが、居住できない

はじめに

相談内容の概観および一般的なアドバイス

期間も賃料を支払うのか、③借家の修理は誰が行うのか、④賃貸人が修理をしないがそれでも賃料を支払うのか、⑤賃貸人から明け渡しを求められているがどうすればよいか、といった相談がみられます。●一般的なアドバイス⑴賃貸借契約は終了するか存続するか

賃貸借契約は、建物の全部が滅失した場合は履行不能により当然に終了し、滅失に至らない場合は存続します。滅失したか否かは賃貸借の目的である主要な部分が消失して賃貸借の趣旨が達成されない程度に達したかを中心に、消失した部分の修復を通常の費用で行うことが可能かという経済的な事情も考慮して判断されます。⑵賃貸借契約が終了した場合

契約が終了した場合、賃借人は建物を明け渡さなければなりませんが、明け渡して以降は賃料相当額を支払う義務はありません。

敷金返還の有無につき、敷金は賃料や原状回復等の賃借人の債務の履行を担保するものです。建物が滅失すれば賃借人に原状回復義務はなく、また、震災による建物滅失の場合は敷金を返還しないとの特約や敷引特約があっても特段の事情がない限り無効であり、少なくとも適用されないと考えられます。したがって、未払賃料がなければ、敷金は賃借人に全額返還されます。⑶賃貸借契約が存続する場合

滅失に至らなければ、賃借人は建物を使用し続けることができ、また、賃貸人には必要な修繕をする義務があります。修繕のために一時退

*1 �日本弁護士連合会�熊本地震無料法律相談データ分析結果� �http://www.nichibenren.or.jp/activity/human/shinsai/kumamoto_shien.html

2017.4 6

特集災害時の住まいに関する法律相談の傾向とアドバイス特集2

緊急性が高いことの証拠とすべく隣家の状況を撮影して記録しておき、また、修繕・解体の費用は隣家所有者に請求できますから、その領収書を保管しておくことが肝要です。

他方、隣家所有者は、妨害の予防に必要な措置を取らなければならず、これを取らなかった結果損害が生じた場合は、賠償責任を負います。

隣家の塀等が自宅敷地に侵入している場合も、自らこれを撤去・処分すべきではなく、原則隣家所有者と話して撤去を求めることになります。隣家所有者の承諾を得て撤去・処分を行うこともできますが、その場合、隣家の塀等の侵入が不可抗力によるときは、隣家所有者への撤去・処分費用の請求は難しいと考えられます。

隣家所有者が以上の請求に応じない場合や連絡がつかない場合は、市区町村に対し必要な措置等を取るよう要請することも考えられます。⑵損害賠償に関する相談

隣家の瓦の落下等により自宅の壁等が毀損された場合、瓦等の設置または保存に瑕

か疵し

がないことを隣家の占有者や所有者が証明しない限り、損害賠償を請求できます。瑕疵とは、工作物が本来有すべき性能を欠くことをいい、震災時では、その地域で通常発生することが予測可能な地震動に耐え得る性能、すなわち安全性を欠くことを意味すると解されます。その程度の安全性を備えていたのに損害が生じた場合、それは不可抗力によるもので、隣家の占有者や所有者は賠償責任を負いません。どの程度の規模の地震であれば予測可能(不可抗力とはいえない)かについて、過去にこれを震度5とした裁判例がありますが、私見では、震度6以上の地震が散発している近年の状況を踏まえると、震度6でも必ずしも予測不可能とはいえないとも考えられます。結局、個別の事情を具体的に考慮して瑕疵の有無を判断することになります。上階に漏水が生じて被害を受けた場合も同様です。

地震自体により生じた瓦の落下や漏水による損害については以上のとおりですが、損害が地

去が必要な場合、賃借人はこれを拒めません。賃貸人による修繕が困難な場合は、災害救助法に基づく住宅の応急修理制度(賃借人も事情により利用可能)を利用することも考えられます。

建物の一部だけが修繕不可能な程度まで毀損して一部滅失と評価される場合、賃借人は当該部分の割合に応じて賃料減額を請求できます。また、毀損した一部が修繕可能な場合、修繕までの間の賃料については、賃借人は使用収益に支障を来す程度に応じて減額請求ができます。

賃貸人が契約を終了させるには、賃借人に対し、賃貸期間の定めがあれば契約不更新の通知、期間の定めがなければ解約の申入れをし、かつそのことに「正当の事由」が必要です。正当の事由の有無は、建物使用が必要な事情や、建物の現況(建替えの必要性等)、立退料支払いの申出の有無および金額等を考慮して判断されます。⑷震災ADRの活用

震災に起因する賃貸借トラブルや後記2の近隣トラブルは、弁護士が中立の立場で和解による円満な解決をあっせんする震災ADRでの解決が比較的適していると考えられます。2「工作物責任・相隣関係」に関する相談●相談内容の概観

①隣家が自宅に倒れかかっている、隣家の塀へい

等が自宅敷地に侵入しているといった妨害の予防や排除に関する相談、②隣家の屋根瓦等が落下して自宅の壁等を毀損されたことや集合住宅で上階に漏水が生じて被害を受けたことにより生じた損害の賠償に関する相談がみられます。●一般的なアドバイス⑴妨害の予防や排除に関する相談

隣家が倒れかかっている場合、これを隣家所有者の承諾なく修繕または解体することは原則できません。隣家所有者と話して修繕または解体を求めることになります。もっとも、修繕または解体を行う必要性・緊急性が高く緊急避難等と評価される場合は、隣家所有者の承諾なくこれを行うことが可能です。その場合、必要性・

2017.4 7

災害時の住まいに関する法律相談の傾向とアドバイス特集2

特集

●一般的なアドバイス

公的支援制度に関しては、法律相談は制度紹介や手続き説明等の情報提供機能を果たします。

また、住宅の被害認定結果に不服があるときは、市区町村に対し第2次調査やさらなる再調査を求めることができます。自身で自宅を撮影して被害状況を記録しておくことも重要です。5「不動産所有権」のうち「建築の瑕疵」に関する相談

●相談内容の概観熊本地震により自宅の建物や地盤が毀損した

のは、建物もしくは地盤の瑕疵が原因である、またはその可能性があるという相談です。●一般的なアドバイス⑴瑕疵について

売主や建設業者の瑕疵担保責任を追及するには、瑕疵の存在およびその瑕疵が原因で住宅が毀損したことを証明しなければなりません。

瑕疵とは、建物または土地が ⅰその種類のものとして通常有すべき品質・性能を欠き(客観的瑕疵)、または ⅱ契約上定めた品質・性能に反していること(主観的瑕疵)をいいます。震災時についていうと、建物や地盤には将来その地域で通常発生する可能性が経験的に予測される規模の地震に対する耐震性を具備すること等の品質・性能等が求められていると解され、これを欠く場合は瑕疵があるといえます。私見では震度6の地震も必ずしも予測不可能とはいえないとも考えられ、結局、個別の事情を具体的に考慮して瑕疵の有無が判断されます。

瑕疵の存在を証明するためには毀損後の現状を保存することが望ましく、また、自宅や周囲の状況を撮影して記録することも有用です。⑵瑕疵担保責任の内容および権利行使期間

注文住宅の場合、施主はその引渡しから10年(建物の種類によっては5年。ただし契約でより短期の期間を定めていることが多い)を経過していなければ、滅失または損傷のときから1年以内に限り、建設業者に瑕疵修補や損害賠償

震自体により生じたものではない場合、例えば上階の占有者や所有者が地震により漏水が生じたことを認識しながら修補せず放置したために損害を受けた場合は、その賠償を請求できます。3住宅ローンに関する相談●相談内容の概観

住宅ローンに関する相談は、大半が熊本地震により自宅が毀損したため自宅の解体・再築や修理あるいは新規購入といった住宅再建をしなければならないが、熊本地震前に組んだ住宅ローンに係る借入金が残っているため今後その返済や生活再建資金の調達が困難であるという、いわゆる二重ローンのケースです。●一般的なアドバイス「自然災害による被災者の債務整理に関するガ

イドライン」(以下、GL)の利用を検討すべきです。GLは、自然災害の影響により住宅ローン等に

係る借入金の返済や生活再建資金の調達が困難となった個人債務者(個人事業主を含む)の再建支援のため、法的倒産手続きによらず、特定調停を活用して債権者と債務者の合意に基づき円滑かつ迅速に債務整理を行うための制度です。これを利用すると、所定の要件を満たせば、一定の財産を手元に残したまま債務の減免や分割弁済の猶予を得られます。4「公的支援・行政認定等」に関する相談●相談内容の概観

地震により住まいに被害を受けた場合の公的支援制度には、被災者生活再建支援制度(支援金の支給)や住宅応急修理制度等があります。これらの制度を利用するためには住宅が受けた被害程度が問題となりますが、これは市区町村が認定し、その結果はり災証明書に記載されます。

公的支援制度に関しては、り災証明書についての質問や、公的な金銭支援はないか教えてほしいという相談、支援金受給や応急修理制度利用の可否・手続きを尋ねる相談等があります。

また、住宅の被害認定の結果に不服があるとして対処方法を相談するものもみられます。

2017.4 8

特集災害時の住まいに関する法律相談の傾向とアドバイス特集2

熊本地震消費者トラブル110番にみる相談事例―給湯器の貯湯タンクの転倒―

めて体制を整備しておくことが求められます。さらに、東日本大震災で「個人債務者の私的

整理に関するガイドライン」の利用件数が低迷したことを踏まえ、GLは、運用が厳格に過ぎないか、被災地の事情を反映し被災者に利用しやすい体制が整っているか等の視点から適切に評価され、その結果改善すべき点があれば改善されていく必要があります。2被災者生活再建支援制度について

現行制度では、住宅の被害の程度のみ、それも全壊・大規模半壊・半壊・一部損壊のわずか4区分のみに基づいて支援策適用の有無・内容が判断されます。そのため、例えば熊本地震の被災地で多く見られる地盤被害は、支援策適用に係る判断の際必ずしも十分に考慮されません。

現行制度は、被災者の生活基盤が被ったダメージを個別に把握し被害状況ごとに支援策を適用するよう改められるべきであり、その課題が熊本地震においてあらためて確認されています。

を請求できます。契約の解除はできません。建売住宅の場合、買主は取引上必要な普通の

注意をしても発見できない瑕疵があるときは、瑕疵を知ってから1年以内に限り、売主に損害賠償を請求でき、瑕疵が契約の目的を達せられないほど重大であるときは契約解除もできます。

以上の瑕疵担保責任には特例があり、2000年4月1日以降に締結された請負契約・売買契約に係る新築住宅には住宅の品質確保の促進等に関する法律が適用され、事業者は住宅の引渡しから10年間瑕疵担保責任を義務的に負います。

1GLについて熊本地震に関しては、GLを利用した債務整理

の第1号が 2016 年 11 月に成立し、その後も、成立事例は増えています。しかし、GLを十分に認識または理解していない金融機関等もあり、債務者から苦情や相談があったようです*2。金融機関等には平時からGLに関する理解を深

現行の被災者支援制度の運用および課題

*2 �山野史寛・江越和信・渡辺裕介「自然災害債務整理ガイドラインの概要と専門家の役割」『銀行法務21』808号(2016年12月号)17ページ

熊本地震の発生を受け、国民生活センター(当センター)が「熊本地震消費者トラブル110番」を開設したところ、賃貸住宅に関する相談が最も多く(約36.1%)、給湯システムに関する相談は全体の約3.2%でした*。

給湯器の貯湯タンクの転倒によるトラブルは、2011年の東日本大震災の際にも相談が多く寄せられたことから、当センターでは、消費者に対して注意喚起を行うとともに、事業者に対して設置機器の点検の実施、設置説明書どおりの工事を実施する等の要望を行いました。

これを踏まえ国土交通省では、給湯器の設置に関する部分の告示を改正し、関係業界団体は事業者に対して改正告示の周知および順守を徹底しました。

それにもかかわらず、設置工事の不備が原因とみられる転倒事故が複数発生しました。

約2年半前に設置した貯湯タンクが今回の地震で倒

れたためメーカーに見てもらったところ、標準仕様のボルト留めがされていなかったという相談が寄せられました。給湯器の貯湯タンクは大きさも重量もあり、転倒により大きな事故を引き起こす可能性があるため、設置説明書どおりに設置することが重要です。

現在給湯器を設置していたり、設置予定があったりする人は、給湯器が設置説明書どおりに設置されているか確認し、不備や不明な点等は納得するまでメーカーや設置業者に確認しましょう。契約書等の書類をしっかり保管しておくことも重要です。

その他不明な点などがありましたら最寄りの消費生活センターに相談しましょう。

* �「熊本地震消費者トラブル110番のまとめ」� �http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20160808_1.html

  �「給湯器の貯湯タンクの転倒―大きな地震が起きて初めて見つかる設置不良『熊本地震の相談より』-」� �http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20161020_1.html

国民生活センター 相談情報部

事例紹介

2017.4 9

特集

特集

3耐震診断、耐震工事のための支援制度

長嶋 修 Nagashima Osamu 不動産コンサルタント1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「株式会社さくら事務所」を創立。

「中立な不動産コンサルタント」として業界・政策への提言を行う。著書・メディア出演多数。

平成28年(2016年)熊本地震(以下、熊本地震)以降、建物の「耐震性」を強く意識する住宅購入者が増加したこと、また、既に住宅を所有している人は、大きな地震が来た場合について漠然とした不安を抱えていることを、筆者は実感しています。こうした不安を解消するにはまず耐震診断を行い、その結果、必要に応じて耐震改修を行うに限るでしょう。

実情では現行の耐震基準を満たしていない、いわゆる「旧耐震」の建物と、1978年の宮城県沖地震を受けて法改正され、1981年6月以降に建築確認が行われた、いわゆる「新耐震」の建物があります。この新耐震基準の強度の定義は「震度5強程度の地震ではほとんど損傷を生じず、震度6強から7程度の大地震でも人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じない」というもの。一方で旧耐震建物については、その耐震強度はまちまちで、現行基準を1とすると、0.5や0.3しかないといった建物も多くみられます。

さらに中古一戸建ての場合は、地盤調査と改良が事実上義務づけられたり、木材をつなぐ金物の配置などが規定されたりした2000年以降かどうかがポイントになります。このため、現行の基準を満たしている一戸建ては、2000年以降に建てられた住宅です。つまり、1981 ~ 2000年の間に建てられた住宅は、新耐震と呼ばれながらも、なかには現行の基準である2000年基準を満たしていない、いわば、既存“耐震”不適格の住宅があるという状態なのです。

あなたの住宅は大丈夫か 日本建築学会による熊本地震の悉しっ

皆かい

調査では、1981 ~ 2000 年の木造住宅 877 棟のうち 8.7%

(76棟)が「倒壊・崩壊」したと報告されています。一方、2000年以降に建てられた住宅のうち倒壊・崩壊したのは2.2%(7棟)にとどまりました*1。

国土交通省によれば、2013年時点で旧耐震のうち耐震性なしの住宅は 木造・非木造合わせて約900万戸、耐震化率は約82%でしたが、その後も耐震率の進捗は非常に緩やかです*2。日本経済新聞が震災5年を機に行った調査によると、2015 年度末時点で政府が目標とする耐震化率90%を満たすのは神奈川県のみで、2020年度までの達成見込みも16都道府県にとどまり、北海道、宮城、東京、愛知、大阪、福岡など15都道府県はやや遅れて達成見込みですが、残りは見通しが立っていないとしています。

その理由は複数考えられますが、多くの自治体が用意している耐震診断や改修の助成金・補助金制度や、税制優遇についてあまり知られていないことが大きいのではないでしょうか。耐震診断には一般的な住宅で、その精度に応じて6万~ 15万円程度、耐震改修には120万~ 150万円程度かかります。2016年4月1日時点で全国市区町村1,741団体のうち、耐震診断の補助・助成は83.2%の1,449団体、耐震改修は82.0%の

行政による耐震診断・耐震改修への支援

*1 �ウェブ版「国民生活」4月号�特集1、2ページ参照*2 �国土交通省ホームページ「住宅・建築物の耐震化について」� �

http://www.ml it .go. jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html

2017.4 10

特集耐震診断、耐震工事のための支援制度特集3

ていません。こうしたセールストークや訪問営業には気をつけましょう。

ありがちなのは、部材をつなぐ金物や壁の強さばかりを強調しているパターン。例えば「コンクリート土台と建物本体をつなぐホールダウン金物を7トン打っている」といった場合、新築用でも標準は3.5トン程度で十分です。金物だけ過剰に強くても、むしろ建物全体のバランスを崩して耐震性を損なうこともあります。

こういった業者や商品は、驚くほど料金が高いのも特徴です。1箇所の補強で数十万、壁を1つ増やしたり、ホールダウン金物を入れたりすると20万円以上もします。しかし、実際には耐震補強そのものはそんなにお金がかかるものではありません。現状を把握し、2000年の基準で再計算したうえで、新築用の安価な金物を使って補強するだけで十分と言えます。1箇所だけ高額な補強を行っても十分な耐震性は期待できないので、注意してください。

ところで、建築基準法でいう「耐震基準」とは、あくまで「地震で倒れないか」「人命は守られるか」という基準です。つまり大地震等で建物が損傷することは許容されており、また複数回の地震に耐えることは想定されていません。学校や病院などは、住宅の耐震基準に対して1.25倍、警察や消防などの防災拠点は1.5倍の耐震強度で建てることが義務づけられています。

住宅の性能を10項目にわたり評価する「住宅性能表示制度」を利用して建設された住宅のなかには、1.25(耐震等級2)~ 1.5倍(耐震等級3)の耐震基準で建設されているものも少なくありません。耐震性能を上げるのにはきりがありませんが、まずは耐震診断で建物の現状を把握して、そのうえでかかるコストや助成・減税制度をにらみつつ、どの程度の耐震改修工事を行うのかを決定しましょう。

さらに強い耐震補強も

1,427団体で行われています*3。具体的な助成額や要件は自治体によりさまざまですが、まずは自治体のホームページ、あるいは電話による問い合わせなどで確認してみるのがよいでしょう。

耐震改修工事を行った住宅には固定資産税の優遇もあります*4。例えば、東京都23区内の場合は、改修完了日の翌年度から1年度分について120㎡の床面積相当分まで1年間、固定資産税が全額減免されます。

また耐震改修工事を行うと所得税も減免されます。工事額250万円までの10%相当額を所得税額から控除できるのです。こうした制度を上手に活用すれば、耐震診断や改修は一般的なイメージよりも低コストになります。こうした制度については自治体や税務署に問い合わせて確認する、また、助成金や税制優遇制度などに詳しい専門家に相談するのがよいでしょう。

耐震診断を受けたら、その結果に応じた耐震改修概算工事費、改修方法についてのアドバイスを経て、どのような耐震改修を行うか決定することになります。1997年当時の耐震性能はほぼ満たしているものの、2000年以降の基準にはやや劣るだろうといった推定が得られたら、耐震補強を検討しましょう。壁や外壁などのリフォームと同時に行うと合理的です。

耐震診断について助成金を受けるときには、その自治体に登録している建築士であることが要件になっていることが多く、こうした建築士は「国土交通省の依頼を受けて耐震診断を行っている」「住宅の耐震診断が耐震改修促進法によって義務づけられている」などとして、直接、個別の住宅・建築物に対する耐震診断・改修は行っ

適切な耐震改修を

*3 �国土交通省ホームページ「地方公共団体における耐震改修促進計画の策定予定及び耐震改修等に対する補助制度の整備状況」� �http://www.mlit.go.jp/common/001145782.pdf

*4 �国土交通省ホームページ「住宅・建築物の耐震化に関する支援制度」�http://www.mlit.go.jp/common/001123670.pdf

2017.4 11

ギャンブル依存症の現状と対策

河本 泰信Komoto Yasunobu

大石クリニック診療顧問。独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターにてギャンブル障害診療責任者を経て、2017年4月より現職。主な著書は『「ギャンブル依存症」からの脱出』(SB新書、2015年)など。

精神科医師

使して金を蓄積する」(プロフェッショナルギャンブラー)などの中・長期戦略とは異質な超短期戦略です。そして資金が尽きた時点で大きな損失を残します。なかには多重債務や家庭崩壊、失職、退学、さらには自殺企図に至る重症化事例もあります。一方、自然に脱する者(自然寛解者)が3割もしくはそれ以上存在しているという海外の報告もあり、経過も含めてその病態はいまだ不明確です。2) 病態に関する8つの仮説楽しめなくなっているにもかかわらずギャン

ブル欲求が減らないのはなぜでしょうか。その解答として8つの仮説が考えられます。まず医学的仮説として「報酬や熱中行動に関与する脳内の神経伝達物質(ドパミンやノルアドレナリンなど)を介した神経回路網の改築」説が挙げられます。「ギャンブルをしたがる脳」に変化したわけです。一般的に流布している「ギャンブル依存症は(脳の)病気である」という言説はこの仮説によります。しかし脳病変との明確な因果関係はいまだ確認されていません。また薬物療法等の医学的対処法も確立されていません。ところで、自殺企図に至る重症化事例の多くは家族負因や併存精神障害、あるいは多重債務などを有する心理的社会的に脆

ぜい弱じゃくな人たちです。そ

してこの人たちは社会から排除されることに対して過剰な恐怖心を有する人たちでもあります。一方、社会が不可解な「病気」に対して偏見と排除をもって対することは歴史が証明済みで

1) ギャンブル戦略の変質 -「楽しむこと」から「負け追い」へギャンブルとは「より価値のあるものを得ることを目的に、価値あるものを危険にさらす行為」です*1。ただし大部分のギャンブラーはレジャーあるいは社交を主たる目的としています。つまり興奮(期待感あるいは達成感)や現実逃避(非現実感)などの心理的報酬への対価として相応の金額を納得して支払っています。しかしギャンブルが習慣化されるに伴い心理的報酬は多少なりとも低下していきます。その結果支払った金額を「もったいない」と感じるようになります。「ギャンブル欲求」が減少し、「止めたい欲求」が増加したわけです。この場合、一定期間(時に生涯)ギャンブルから離れることになります。しかし「ギャンブル欲求」の減少がすべてのギャンブラーに自然に生じるわけではありません。もし生じない場合、2つの並存した欲求に対する妥協策として「今日の負けを翌日(もしくはでき得る限り速やかに)取り戻す」という折衷的なギャンブル戦略が編み出されます。この戦略は「小遣い範囲で興奮を得る」(レジャーギャンブラー)や「勝ち逃げ/損切りなどの戦術を駆

ギャンブル依存症とは

*1 �American�Psychiatric�Association『DIAGNOSTIC�AND�STATISTICAL�MANUAL�OF�MENTAL�DISORDERS、FIFTH�EDITION(DSM-5)』

2017.4 12

す。それゆえ「病気である」と言い立てることは最も援助を必要とする人たちを援助の場から遠ざけているかもしれません。これに対して臨床心理学的視点からは「勝利

体験に偏った認知」(損得に関する認知仮説)、「複数の欲望の同時追求」(欲望に関する認知仮説)あるいは「不快な感情や記憶からの回避」(力動仮説)の3つの仮説が各々の治療法(認知療法/欲望充足法/支持・分析療法)とセットで提唱されています。また環境面を重視した仮説として「ギャンブルに親和的な環境への長期的な暴露」があり、対処法としては施設入所等の環境遮断と生活訓練があります。一方、「自己中心的思考/他者への配慮の欠損」(道徳仮説)あるいは「産まれ持った定め(業)」(宿命仮説)などの非医療的仮説が古来より利用されてきました。一般的に前者には何らかの精神修養、後者には信仰あるいは宗教(的)活動等が対処法として提案されます。3) 各仮説の利用法現時点ではいずれの仮説にも決定的な優位性や禁忌性はありません。それゆえ特定の仮説のみの教条的利用は避けるべきです。また「損失を強調して」(損得認知仮説)、「病気と宣告し」(病気仮説)、「自助グループ参加を勧める」(道徳・宿命融合仮説)という折衷的利用法も問題です。なぜなら、いずれの対処法も不徹底となり、各仮説が本来の効力を発揮できないからです。加えて、回復像に統一感がないため、回復への動機を持ち難いという問題もあります。したがって状況や好みに合致した単一の仮説に基づく実践が望ましいと考えます。そして効果がなければ、あるいは好みに合わなければ別の仮説に切り替えるという柔軟な利用が理想的です。

・概略:各仮説のうち、私が汎用しているのは

私が汎用する仮説と治療法欲望充足法について

「欲望に関する認知仮説」に基づく欲望充足法です。なぜなら自然寛解過程を模した介入法なので利用者の抵抗が少ないからです。この仮説はギャンブル欲求を名誉欲(達成感や優越感)、現実逃避欲(非現実感)、金銭欲(損失回避)などの各欲望(煩悩)の複合体と考えます。そしてギャンブル依存症者の問題点は「楽しめて/暇をつぶせて/金も増やせて」などの複数の欲望を同時に充足させようとする点にあると理解します。しかし通常は一部の欲望のみしか充足されません。それゆえ充足感と不充足感とが混在したまま持続します。そのために「ギャンブル欲求」と「やめたい欲求」との並存が持続します。その結果、「負け追い」戦略に固執します。加えてギャンブル以外の欲望充足行為に目を向けられていないことも問題です。したがって対策は主たる欲望の確認とその欲望の直接充足になります。・主たる欲望の確認法:ギャンブルの目的を尋ねることで背後の欲望を推測していきます。名誉欲(万能感追求)が主である場合は、「他人からうらやましがられる」「自分の有能性を確認する」「新たな経験をする」などの返答になります。また現実逃避欲(非現実感追求)の場合は、「リラックスする」「気晴らし」「ワクワク感やスリルを味わう」などです。一方、金銭欲(消費・貯蓄追求型)の場合は、「ものを買う」「おいしいものを食べる」「資産を形成する」などです。・欲望別充足法:「万能感追求型」であれば、対戦型スポーツ、投稿や出品を伴う文化活動、資格取得、ブログ等を利用した自慢、対人ボランティアなどがあります。また「非現実感追求型」であれば、ジム・マラソンなど非対戦型スポーツ、1人カラオケ、集団エクササイズ、ネットカフェ、非対人ボランティア、自助グループなどです。一方、「消費・貯蓄追求型」に該当すれば、プロフェッショナル戦略の忠実な実践あるいは他の金もうけ法に徹することになります。

2017.4 13

ため公益財団法人日工組社会安全研究財団は、パチンコ・パチスロ利用者に特化した尺度である「パチンコ・パチスロ遊戯障害尺度(PPDS)」を開発しました。そして現在お茶の水女子大学との共同でPPDSを使った自記式調査を行っています。一方、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)も複数の尺度を用いた対面調査を行っています。これら両調査によって、より正確な出現率とある程度の自然寛解率の推定値が明らかになることが期待されます。

今後、国内にカジノが誕生すれば、カジノを契機としたギャンブル依存症が発生すると思います。よりいっそうの対策が急務なのは間違いありません。そのためには精神保健福祉センター等での無料相談を増やしていくことは必要です。しかし医療・保健・福祉のいずれの分野であれ相談援助の敷居を低くすることが最も大切です。多くのギャンブル依存症者は「自分は病気ではない」と介入に抵抗を示します。そのためには「病気仮説」にとらわれないこと、すなわち介入理念を「禁欲主義」(ギャンブルという毒物をできるだけ規制する)から「快楽主義」(ギャンブルを含めた生活を楽しむ)にシフトすることです。本来ギャンブル産業には企業責任として「ギャンブルの適正な楽しみ方」を伝える義務があるはずです。加えて予防介入のための最前線かつ最も効率のよい場がギャンブル場です。それゆえ相談者の中に従来の「専門家」や「回復者」のみならず、ギャンブル産業従事者をも含める必要があります。このようにギャンブル依存症対策には従来の精神保健福祉対策の枠にとらわれない視点が重要となります。

ギャンブル依存症に対する今後の課題

厚生労働省委託研究班によって行われた過去の全国住民調査*2ではギャンブル依存症の推定有病率は男性9.6%、女性1.6%でした。これは諸外国の1%前後に比して高率です。ただギャンブルの種類としては海外にはないパチンコ・パチスロが8割以上を占めていました*2。また医療機関における複数の調査でも、パチンコ・パチスロが大部分を占めていました*3。パチンコ・パチスロは「通勤途中で」「昼休みに」「サンダルを履いたまま」「買い物かごを提げて」「安全に」参加できる敷居の低い娯楽です。この大衆的ギャンブルが全国津々浦々にあることが海外との根本的相違です。この状況がわが国の推定有病率を高めている主要な原因であることは間違いないでしょう。一方、パチンコ・パチスロによるギャンブル依存症者のうち、重度の人も含めて、約半数がその後1年以上の自然寛解を示したとの調査結果があります*4。これらは「のめり込みやすいが、脱するのも容易である」というパチンコ・パチスロ依存の特徴を反映しているのかもしれません。ところで、これらの調査ではアメリカで開発

されたSOGS*5あるいはアメリカ精神医学会が作成している「精神障害の統計・診断マニュアル(DSM)」という尺度が利用されました。それゆえこれらの尺度をそのままわが国の調査に利用することの是非が問題として生じます。その

わが国におけるギャンブル依存症の現状

*2 �樋口�進「成人の飲酒と生活習慣に関する実態調査研究」(2008年度厚生労働科学研究費補助金�循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業�分担研究報告書)

*3 �Y.Komoto「Factors�Associated�with�Suicide�and�Bank-ruptcy�in�Japanese�Pathological�Gamblers」(『Interna-tional� Journal� of�Mental�Health� and�Addiction』、2014年、12巻5号)

*4 �秋山ほか「DSM-5を用いたパチンコ・パチスロ遊技障害の測定」(家族機能研究所『アディクションと家族32(2)』、2017年(掲載予定))

*5 �Lesieurほか「The�South�Oaks�Gambling�Screen(SOGS):A�New�Instrument�for�the�Identification�of�Patholog-ical�Gamblers」(『American� Journal�of�Psychiatry』、1987年、144巻9号)

2017.4 14

電力の小売全面自由化にともなう消費者トラブル

エネルギーと

消費生活 第 回3

国民生活センター 相談情報部

「断ってもしつこく勧誘された」等の販売方法に関する相談や「電話勧誘で気づかないうちに契約をしたことになっていた」「解約を申し出たら

『解約料がかかる』と言われたが、解約料についての事前説明はなかった」等の契約・解約に関する相談が目立ちます(図2)。

    電力会社のサービス代理店を名乗る人から「電力自由化に関する提

案です」という電話があった。どのような顧客リストをもとに電話をかけたのか尋ねると、電話帳で調べたという。不審に思い、電力会社に問い合わせたところ、そのような社名の代理店はないとのことだった。

大手電力会社やその代理店をかたった勧誘や、個人情報を取得しようとする手口がみられます。不審に思った場合には、契約しないで、個人情報を伝えないようにしましょう。代理店をかたった勧誘では、事業者名や担当者名、連絡先

相談事例とアドバイス

事例1

2016年4月1日より始まった電力の小売全面自由化に伴い、関連する消費者トラブルが発生しています。本稿では全国の消費生活センター等に寄せられた、これらの消費者トラブルについて事例を紹介し、あわせて契約時の注意点等のアドバイスを行います。

PIO―NET*1によると、電力の小売全面自由化に関連する相談は1,947件*2寄せられています

(図1)。特に、電力の小売全面自由化開始前後に当たる2016年1月から4月にかけて多くの相談が寄せられました。

相談の内容をみると、「『大手電力会社の関連会社』と名乗る者から勧誘を受けたが不審だ」

相談の傾向

*1 �PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)とは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベースのこと。消費生活センター等からの経由相談は含まれていない。

*2 �本稿のデータはいずれも2014年4月以降受付、2016年12月31日までの登録分。

*3 �相談受付日で集計。

(件)

(年月)0

50

100

150

200

250

300

350

400

2014 2015 2016/1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

15

127169

320

377

229

159142101 88 74

55 5734

電力の小売全面自由化に関する相談件数*3図1

(%)販売方法

契約・解約

価格・料金

接客対応

表示・広告品質・機能、役務品質法規・基準

0 10 20 30 40 50 60 70

64.4

56.0

17.1

14.3

4.0

3.6

2.9

主な相談内容(複数回答項目)(n=1,947)図2

2017.4 15

エネルギーと消費生活

求について、「小売電気事業者から請求書が届かない」等、請求遅延が発生した地域があります。こうしたケースでは、まずは契約中の小売電気事業者に請求の状況や支払方法等について問い合わせましょう。⃝ スマートメーターに関する相談「販売員に『スマートメーターに取り替えない

か』と勧誘された」等の相談が寄せられています。一般送配電事業者では、メーターの検定有効期間満了や電力の購入先変更(契約切替)の申込みがあった場合等のタイミングでスマートメーターへの交換を進めていますが、原則として事前に一般送配電事業者から連絡があります。事業者が突然メーター交換に来ることやメーター交換の際に営業活動を行うことはありません。また、原則スマートメーターの設置において費用は発生しません。⃝ 電力の小売全面自由化に便乗した勧誘に

関する相談「電力会社を名乗る者から『電力小売自由化の

関係で費用負担なしで太陽光発電システムを設置できる』と勧誘された」等の相談が寄せられています。電力の小売全面自由化で消費者が新たに機器を購入する必要は特にありません。これらの契約については、必要性を十分に検討しましょう。

2017年4月1日より、ガス*5の小売全面自由化が始まりました*6。これまで、都市ガスの契約は地域ごとに特定の事業者としか契約できませんでしたが、自由化により複数のさまざまな業種や業態の事業者の中から消費者が契約先を選択することが可能となりました。

ガスの小売全面自由化について

等を聞き、小売電気事業者に勧誘事業者が本当に代理店かなどを確認しましょう。

    大手電力会社を名乗る電話勧誘を受け、よく分からないまま了承した。

電気の契約をしたつもりはなかったが、翌月、大手電力会社とは別の会社が電気の契約書を持って自宅に来た。解約できないか。

契約は口頭でも双方にきちんとした合意があれば成立します。勧誘を受けた際には、契約相手や供給条件等について慎重に検討のうえ、回答することが重要です。仮に契約してしまった後でも、訪問販売・電話勧誘販売で申し込みをした場合は、法定事項が記載された契約書面を受領した日から起算して8日以内であればクーリング・オフができます。

    事業者からケーブルテレビと電気・インターネット・IP電話をセット契

約すれば電気料金が安くなると、電気の契約先変更を勧められ契約した。しかし、料金等に関して事前の説明に納得できず解約を申し出たら、「解約料がかかる」と言われた。解約料についての事前説明はなかった。

消費者が解約を申し出た時に初めて解約料について認識するケースがみられます。契約する前には、解約をする場合に発生する違約金や手数料の有無や金額等について確認しましょう。

また、本事例のように、電気と他の商品・サービスとのセット販売による割引をうたった勧誘もあります。こうした勧誘については、それぞれの商品・サービスの契約内容に加え、どういった条件で何の料金が安くなるのかきちんと確認しましょう。

こうした相談のほか、以下のような相談も寄せられています。⃝ 電気料金の請求遅延に関する相談

一般送配電事業者*4のシステム不具合等により小売電気事業者から消費者への電気料金請

事例2

事例3

*4 �電力会社(送配電設備の維持・運用や区域全体の需給バランスの調整を行う事業者)

*5 �ここでは、都市ガスの販売および旧簡易ガス形態のLPガスの販売等を指す。(「エネルギーと消費生活」第2回参照http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201702_06.pdf)

*6 �「ガスの小売全面自由化が始まります!-正確な情報を収集し、契約内容をよく理解しましょう!�便乗した勧誘にも気をつけましょう-」(国民生活センター、2016年12月15日公表)http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20161215_4.html

2017.4 16

原田 由里Harada Yuri

2006 年4月EC ネットワーク設立。ネット取引のトラブル相談にオンラインで対応。消費生活専門相談員、消費生活コンサルタント、消費生活アドバイザーの資格を持つ。

一般社団法人 ECネットワーク理事

インターネット取引のトラブル(3)アフィリエイトとドロップシッピング

第 回3

商品等を提供している販売者から個別に広告を取るのは煩雑なため、その間にASP(アフィリエイトサービスプロバイダ:広告代理店)が入ることがあります。これは、あらかじめASPに登録し、ASPが提供する広告を自分の運営するサイトで使用する方法です。● ドロップシッピングサイトやブログ等に広告を載せたうえで、注

文も受け付けます。一方、商品発送は別の販売者が行うシステムです。サイト上で商品価格を自由に設定でき、販売者の卸価格との差額が利益となります。アフィリエイトと同様、それらをつなぐDSP(ドロップシッピングサービスプロバイダ)が間に入ることがあります。注文者(閲覧者)から見れば、そのサイトが直

アフィリエイトとドロップシッピングは、どちらもインターネット(ネット)の広告を使って個人等が収入を得る手法として知られています。違いを一言で言うと、アフィリエイトは「広

告」による収入形態の1つで、ドロップシッピングは「通信販売(通販)」による収入形態の1つです。これら手法そのものに問題はありませんが、個人がこれら手法を使ってネット上で広告を行う際にも、景品表示法*1や、商品によっては薬機法*2の規制がかかる場合がありますので注意が必要です。今回は、これら手法のしくみを確認するとともに、トラブル傾向などについて見ていきたいと思います。

自分の運営するサイト上に商品等の広告を載せるという点では同じですが、収入のしくみが異なります(図)。● アフィリエイトサイトやブログ等に販売者(広告主)の広告を載せ、閲覧者がそのサイトを経由して販売者のサイトへアクセスしたり契約したりすると、それに応じて報酬が得られるというシステムです。メルマガなどを利用する方法もあります。

アフィリエイトとドロップシッピングのしくみ

*1 �消費者庁�表示対策課「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」の一部改定について�参照� �http : / /www.caa .go . jp/ representat ion/pdf/�120509premiums_1.pdf

*2 �医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律

アフィリエイト

サイト広告

広告料

注文・支払い

(広告主)

販売者

閲覧者

ASP

受付・発送

サイト広告

注文データ送信

DSP受付

発送

注文・支払い販売者

閲覧者

ドロップシッピング

アフィリエイトとドロップシッピングのしくみ図

2017.4 17

イント1,000円分で納得していただきたい」と申し出があった。ポイントサイトに連絡しても無視されている。

事例1-⑴のように自分のブログ等を使用してアフィリエイトを始めるには、それを許可しているかをブログ等のプロバイダに確認する必要があります。規約内容を確認し、利用目的に違反行為がないかどうか、商用利用を認めているかどうかなどを確認してください。ASPを利用する場合、ASP側でも審査が行われます。広告収入を利用したシステムの1つに事例

1-⑵のようにアフィリエイト型のポイントサイトがあります。利用者(閲覧者)はポイントサイトに会員登録し、ポイントサイトを通じて商品を購入するとポイントがたまり、それを現金や電子マネーに交換できるようになっています。ただ、ポイントをためても換金してくれない、

メールが大量に届くようになった、また、ポイントサイト閉鎖の際、ためたポイントがすべて無効になるなどのトラブルが発生することがありますので、登録の際は事前に評判を確認しましょう。一方、広告主側では、場合によっては間に広

告代理店が複数介在することにより、最終的にどこに広告が出ているかが把握できていないこともあるようです。アフィリエイト業界全体の健全化が望まれます。

⑴「メール受付業務・時給1,500円」という求人広告を見て申し込んだ。業務用のサイトを専用に立ち上げる費用が必要というので30万円支払った。最初は問い合わせメールが届いていたが徐々に減り、担当者から「バージョンアップが必要。費用を負担してほしい」と言われた。

内職商法やマルチ商法的な手口

事例2

接販売しているように見えるため通販となります。一方、商品在庫は持たなくてよいので、売れなくても損失を抱えることはありません。しかし、卸価格自体はあらかじめ設定されており、価格交渉の余地がほとんどなく、市場価格と競争するには差額幅を狭くせざるを得ません。なお、通販として特定商取引法が適用されますが、表示する連絡先は、広告を載せた個人の代わりにDSPの所在地等が載っていることもあります。ただ、参入するためのハードルが比較的高く、後述の内職商法などに悪用されイメージが悪化したためか、現在、“まとも”なDSPは数えるほどしか残っていないようです。

⑴ブログサイトを利用して、アフィリエイトとともに趣味のレシピなどを掲載していた。このブログサイトは、アフィリエイト行為は禁止ではないが、それを主の目的としてはいけないというルールだった。ところが、突然、利用していた4つのブログをすべて強制非公開にされてしまった。不当な措置ではないだろうか。⑵ポイントサイトに登録していたら、ポイントサイトから「タイムセール100%ポイント還元」の案内メールが入ってきた。商品は基礎化粧品のクリーム2個で6,000円だったので発注した。100%ポイントで返還される予定だったが、何の動きもなかったのでポイントサイトに連絡したら、「広告主より承認データが送られてこないので、条件を満たさずポイント還元は不可」と言われた。広告主に電話で確認したら、「広告の流れは『広告主→A社→ポイントサイト』になっていて、間にA社が入っているのでポイントサイトのポイント還元については詳しく分からない。ただ、気の毒なので当社のポ

アフィリエイトに関連する問題

事例1

2017.4 18

アフィリエイトやドロップシッピングは、自分の運営するサイトやブログがあれば、ほぼ無料で始められるものです。もちろん売れなければ収入に結び付きませんが、少なくともマイナスになることはありません。しかし、高額収入をうたって勧誘し、その業務に必要なサイト製作や管理運営サービスの有償契約をしたものの、実際は収入が得られないという内職商法等の手口として、これら手法は残念ながら悪用されています。もうけ話の情報商材が入り口となるケースが多く、その情報商材の販売自体もアフィリエイター(アフィリエイトをする人)による集客がなされます。事例2―⑴はドロップシッピングを悪用した

ものです。広告表示義務としてサイト上に自分の連絡先を表示しています。しかし、サイト管理は相手事業者に任せているため、自分の意思でサイトの記載内容変更や閉鎖はできません。そのため別の悪質事業者から「もっと売れるようにする」などの勧誘を受けることもあり、二次被害につながる可能性があります。事例2―⑵は、アフィリエイトを悪用したものです。商品広告を行う際、一般的なブログサービスやSNSを利用する点は本来のアフィリエイトと同じですが、販売者の販売する商品を事前に仕入れなければなりません。仕入れ額との差額が利益となるしくみはドロップシッピングに似ています。事例2―⑶は、アフィリエイトでもうかると

うたい、実際は登録者を増やすことが目的の海外のマルチ取引です。主にSNSで勧誘を行い、若い世代がターゲットになっています。これらの事業者は、事業者間契約を強調し消

費者保護の対象ではないと主張したり、海外事業者として日本のクーリング・オフ制度の適用を認めないケースもあります。アフィリエイトやドロップシッピングを始め

るのに何らかの費用負担を求められたら警戒が必要です。

もう負担したくなかったので、このまま業務を進めるといったが受け入れてくれない。サイト上の個人情報(自分の連絡先を記載)を消してほしいとお願いしても「無理」と言われ担当者と連絡が取れなくなった。⑵自宅でできる高収入な仕事を紹介しているブログがあった。そのブログ上で最高の情報商材と評価されていたため、まずはブログを通じ、その商材を15,000円で購入した。情報商材に書かれていた仕事とは、管理代を毎月10,800円支払ったうえで、単価3,200円の健康食品を販売する仕事で、先に自分で在庫分の購入が必要だという。1日必ず10個売れる、利益率50%というので、在庫分として単価1,500円で100個、カード払いで注文した。その後、自分専用の商品販売サイトにブログやSNSから客を誘導するのだが、手間がかかる割に商品はまったく売れない。調べると既に被害者の会ができており、他のメンバーも口々に「1個も売れていない」と言っていた。売れたのは自分で購入した分のみだという。⑶知り合った男性とSNSのID交換をして食事に行くことになった。先輩と名乗る人が一緒に来て「アフィリエイトでもうかるビジネスがある」という話をし始めた。断ったが「君と一緒にやりたい」「やるしかないでしょ」と言われ断れなくなった。その場で私のスマホから勝手に契約され、登録料約20万円を支払うよう言われたので、「お金無いです」と言ったが、「キャッシングすれば大丈夫」と言われた。やっぱりやめたいと言ったが、「海外の会社だから無理」「まずは友だち2人誘ったら」と言われた。こんなのに誘ったら友だちを無くすと思う。

2017.4 19

第 回15

もったいない! 食品ロス③広がるフードバンク活動や事業者の工夫

生活者の視点で環境・エネルギー、特に持続可能な循環型社会づくりに取り組む。NPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長、環境省中央環境審議会委員、3R活動推進フォーラム副会長、全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会会長。

崎田 裕子 Sakita Yuko ジャーナリスト・環境カウンセラー

提供する流れが広がっています。

食品を提供する側と受け取る側をつなぐフードバンク活動が広がりを見せています。アメリカでは約50年の歴史があるこの活動も、日本では2000年に始まったばかりですが、ここ数年で急増して、今では全国に70 ~ 80団体あるといわれています。それだけ経験の浅い団体が多いという現実のなかで、食品を提供する側、特に企業にとっては不適正な使われ方をしないか、物品の管理、特に衛生管理をしっかりしてもらえるのか、という思いもあるはずです。一方、フードバンク活動団体にとっても、組

織の運営基盤が弱い団体もまだまだ多く、「マンパワーが不足して寄贈者・利用者のマッチングが十分に行えない」「寄贈が不定期だと贈り先とつなぎにくい」「肉・魚などは保冷車が必要なため新たな投資も必要となり、運営に迷う」などの声もあり、課題は山積しています。そんななか、農林水産省は2016年11月に

「フードバンク活動における食品の取扱い等に関する手引き」*2を公表。食品の品質管理やトレーサビリティーに関するフードバンクの適切な運営を進め、信頼性向上と取り扱い数量の増加につなげることをめざしています。具体的には「食品の提供又は譲渡における原則」として、「食品提供事業者とフードバンク活

急増するフードバンク活動団体ある環境イベントの準備会でのこと。「家庭で余っている食品を持ち寄ろう」という声が上がり、「フードドライブ」を実施することになりました。フードドライブとは、家庭で余っている食べ物を学校や施設などに持ち寄り、それらを地域の福祉団体やフードバンクなどに寄贈する活動です。その環境イベントでは初めての試みで、食品寄贈先の「フードバンク活動」団体*1に教えてもらいながら取り組みを開始しました。驚いたのは、集める対象食品の条件が細かく決まっていることでした。しかし、集めた食品を必要な人に活用してもらうためには当然の配慮です。「包装や外装が破損していない・生鮮食品以外・瓶詰ではない・未開封・賞味期限が明記され1カ月以上先である・包装を移し替えていないもの」です。私もイベントの当日、自宅から乾麺・缶詰・茶葉などを持参、全部で約20人から25㎏の食品が集まり、担当者が夕方、段ボールに入れて宅配便でフードバンク活動団体に発送しました。送料は寄贈側の負担です。これまでは、フードバンク活動に食品を寄贈するのは主に製造・卸売・小売など食品関連事業者でしたが、最近は個人や農家などを含め生産・流通・消費など、すべての過程で発生する未利用食品の寄贈を受けて、必要な人や施設に

フードバンク活動の広がりも

*1 �セカンドハーベスト・ジャパン https://2hj.org/� �https://2hj.org/support/time/fooddrive

*2 �http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/attach/pdf/foodbank-2.pdf

2017.4 20

ては年月表示も可能とされてきましたが、実際は何月何日までという表示が多くありました。この過度な日付け管理が食品ロスを生む要因の1つともいわれ、しょうゆや飲料メーカーでは月表示に切り替わりつつあります。また、食品の製造技術等の進歩で賞味期限の

延長が可能になった製品もあります。特にめざましいのが即席麺で、賞味期限が1~2カ月延長されています。例えばこれまで5カ月とされていたカップ麺が6カ月に、6カ月とされていた袋麺は8カ月に切り替わっています。

容器包装の工夫で食品ロス削減に貢献しようという取り組みも広がっています。例えばこれまで、液体スープは3~4人前が多かったのを、1人前を1個のキューブに小型化して小分け個包装に。しょうゆボトルは開封後も空気に触れない二重構造の容器とすることで、これまで30日程度だった鮮度保持が開封後90~180日可能になっています。野菜の鮮度保持フィルムや、マヨネーズも酸素吸収層を組み込んだ容器で賞味期限を延長するなど、各食品業界で多様な取り組みが進んでいます。私たち消費者も、食品ロス削減を意識した商

品や、こうした商品を多く仕入れている小売店で買い物をすれば、メーカーや小売店の食品ロス削減もいっそう広がると期待できます。食品をできる限り売り切る取り組みには、最

近新しい事業者も登場しています。納品期限が過ぎてしまい、店頭には出せないけれどまだ十分賞味期限が残っている食品等を、メーカーから依頼を受けてインターネットで消費者に手頃な価格で販売するというものです。商品の購入代金の一部は環境保護や社会福祉団体にも寄付されるしくみということで評判を呼んでいます。事業者・NGO・行政の連携で社会の関心を高

めれば、まだまだ新しい取り組みの可能性も広がりそうです。

容器包装の工夫で食品ロス削減も

動団体は、受取先の要望を踏まえ、食品の提供又は譲渡を行う」「消費・賞味期限を過ぎた場合や破損等により食品衛生上の問題が生じた食品は受取先に譲渡しない」という考えを徹底すること。そして関係者のルールづくりとして「食品提供事業者とフードバンク活動団体と福祉施設・生活困窮者支援団体の間でそれぞれの合意書を作成し、双方で保有する」などの内容を提示しています。なお、フードバンク活動団体にとって、食品提供者と出会うだけでなく、支援を必要とする団体とどう出会うのか、ということも大きな課題です。社会福祉協議会や行政機関との緊密な連携は重要ですので、自治体の環境部署と福祉関連部署との連携を強め、地域のフードバンク活動団体を支援してほしいと願っています。

フードバンク活動で未利用食品を生活困窮者対策や、一時的に食料支援が必要な人たちに役立てていただくのは重要なことです。しかし、3Rの視点からいえば、そもそも食品ロスを出さないという取り組みを徹底してから、廃棄しないという流れを作ることが重要です。食品関連事業者にはそのような取り組みも広

がっており、特に本連載で先に紹介した*3商習慣「3分の1ルールの見直し」も、少しずつ進んでいます。これは、卸売りから小売店への納品期限と、小売店の販売期限がそれぞれ賞味期限の3分の1となっている商習慣が、メーカーへの返品を増やしているといわれていることであり、飲料や菓子メーカーでは、スーパーへの納品期限を賞味期限の2分の1にする取り組みが徐々に始まっており、地域型食品スーパーへの広がりが期待されています。賞味期限そのものを見直そうという動きもあります。賞味期限が3カ月を超える食品につい

商習慣や賞味期限の見直しも

*3 �ウェブ版「国民生活」2017年2月号「環境志向の消費生活考」第13回「食品ロス問題の現状」� �http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201702_07.pdf

2017.4 21

第 回

相談事例をとおして相談内容のポイントを探り、消費生活相談の現場に役立つ法規等の情報を届けます。

2カ月前、エキストラの募集に応募し、登録の手続きをした。オーディション後「仕事はたくさんあるので、一緒にやっていこう。ついては学校に行ってもらう」と、レッスンの受講契約を勧められた。受講費用は、入会金10万円と受講料1年間45万円、合計55万円である。「支払えない」と言うと、受講料はエキストラの収入で賄えると言われたので、クレジットカードを使い、

リボ払いで支払うことにした。事業者から仕事の紹介メールは来るが、何度応募しても断られ、仕事ができない。レッスンは4度受けたが、支払いが厳しいので解約したい。� (40歳代 女性 給与生活者)

第8回は「業務提供誘引販売取引」の事例を取り上げます。

芸能レッスンの受講契約−業務提供誘引販売取引−

洞澤 美佳Horasawa Mika

日弁連消費者問題対策委員会委員。第二東京弁護士会消費者問題対策委員会幹事。第24次東京都消費生活対策審議会委員。

弁護士

8

これらを一体の契約としてとらえる点に特徴があります。

⑴は、業務提供誘引販売業者が「業務の提供」「物品販売等」のすべてを自ら行う場合もあれば、業務提供誘引販売業者がこれらを行う者をあっせんする場合もあります。これを整理したのが

特定商取引法(以下、法)における「業務提供誘引販売取引」とは、以下の⑴~⑶の各要件を満たす取引のことをいいます(法51条)。⑴物品の販売または有償で行う役務の提供(い

ずれの場合もそのあっせんを含む)の事業であって、

⑵販売の目的物たる物品、または提供される役務を利用する業務に従事することにより得られる利益(業務提供利益)を収受し得ることをもって相手方を誘引し、

⑶その相手方(消費者)と特定負担を伴う取引をすること。業務提供誘引販売取引は、これらの要件を満

たす取引を行う者(業務提供誘引販売業者)と消費者との間でなされる取引です。「業務の提供」と「物品の販売または有償で行う役務の提供(以下、物品販売等)」の2つの要素がポイントで、

業務提供誘引販売取引とは

業務提供誘引販売業者と業務提供と物品販売の関係※ 乙丙丁はいずれも、甲があっせんした者パターン1 �業務提供誘引販売業者である甲が、業務提供も

物品販売等も担う場合パターン2 �業務提供誘引販売業者である甲が、物品販売等

のみ担い、業務提供は乙が行う場合パターン3 �業務提供誘引販売業者である甲が、業務提供の

み担い、物品販売等は丙が行う場合パターン4 �業務提供誘引販売業者である甲は、業務提供も

物品販売等も行わない場合パターン5 �基本的にパターン4と同じだが、業務提供と物

品販売等を行う者が同じ場合

パターン業務提供誘引販売業者

業務提供物品販売

(又は役務提供)

1 甲 甲 甲

2 甲 乙 甲

3 甲 甲 丙

4 甲 乙 丙

5 甲 丁 丁

2017.4 22

そこで、行政規制も、広告の表示(法53条)、誇大広告の禁止(法54条)、電子メール広告規制(法54条の3、4)といった広告規制があり、違反した場合は指示処分や業務停止命令の対象となるだけでなく、刑事罰の対象ともなります。また、自分がどのような契約をしようとしているのかを消費者に確認させるという意味で、物品や提供される役務を利用する業務の提供またはあっせんについての条件に関する事項や、当該業務提供誘引販売取引に伴う特定負担に関する事項などの記載がされた概要書面並びに契約書面の交付が必要となります(書面交付義務(法55条))。

また、民事ルールとしては、あクーリング・オフ い取消制度 う契約解除に伴う損害賠償等の額の制限があります。このうち いの取消制度では、「その業務提供誘引販売業に関する事項であって、業務提供誘引販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なもの」について、不実告知のみならず、事実の不告知があった場合も取消しの対象となっている点は注意が必要です。

業務提供誘引販売取引では、勧誘行為規制(法52条)、書面交付義務(法55条)、クーリング・オフ(法58条)、取消制度(法58条の2)、損害賠償等の額の制限(法58条の3)は「事業所その他これに類似する施設(事業所等)によらないで行う個人」に限って適用されます。これは連鎖販売取引における「店舗等によらずに行う個人」とほぼ同様の意味です。「事業所等」とは、当該業務を行うことを目的とし、相当程度の永続性を有する施設を意味します。通達*3では、関係する業規制法上の許可や届け出等の適正な手続きをしたうえでこれに対応した実質のある事業を行っているような場合が例として挙げられてい

事業所等によらないで 行う個人

表で、パターン1 ~ 5のいずれの場合も法の規制対象となります。

⑵は、①提供される業務は、業務提供誘引販売業者が提供し、またはあっせんするものでなければなりません。また、②提供される業務は、業務提供誘引販売業者から購入し、または、そのあっせんにより購入した商品または役務を「利用」して行われる業務でなければなりません。「業務提供利益」とは、①②を満たした業務に従事することにより得られる利益のことをいいます。なお、ここでの「利用」とは、例えば資格取得講座を受講して資格を取れば仕事を提供するという場合、勉強によって得られた知識を「利用」する仕事であればよく、資格を利用した仕事でなくとも、資格取得講座のための試験問題を作ったり、答案の添削をするような仕事であっても

「利用」に該当すると考えられます*1。業務提供利益を収受「し得る」ことをもって消

費者を「誘引」すればよく、利益を収受し得るとの期待を抱かせて物品の購入等を勧誘すれば要件を充足します*2。

⑶ですが、特定負担は、通達*3では、業務提供誘引販売取引に伴い顧客が負うあらゆる金銭的な負担とされています。また、特定負担を「伴う」場合であればよいので、特定負担が契約上の義務ないし条件である必要はありません*4。

業務提供誘引販売取引は、「業務の提供」「物品販売等」とで構成される複雑な契約であり、消費者に適切に情報が提供されることが重要です。

規制の概要

*1 �村千鶴子『誌上法学講座−特定商取引法を学ぶ−改訂版』(独立行政法人国民生活センター、2016年)63ページ

*2 �『特定商取引に関する法律の解説�平成24年版』(消費者庁取引対策課�経済産業省商務流通保安グループ消費経済企画室、2014年)315ページ

*3 �消費者庁次長・経済産業省大臣官房商務流通保安審議官�2013年2月20日通知「特定商取引に関する法律等の施行について」

*4 �齋藤雅弘、池本誠司、石戸谷豊『第5版�特定商取引法ハンドブック』(日本評論社、2014年)597ページ

2017.4 23

ると考えられます。ところで、相談者は、レッスン契約を解約す

ることを希望していますが、法の解約手段は、クーリング・オフと取消制度となります。本事例では相談者が、2カ月前にエキストラの登録手続きをしていることからすると、そのころにレッスン契約を締結した可能性があります。業務提供誘引販売取引ではクーリング・オフ期間は、法定書面受領後20日間となっていますが、念のため書面交付の有無、書面不備の有無を確認してクーリング・オフの適否を検討してください。また、事業者は「仕事はたくさんある」

「受講料はエキストラの収入で賄える」などと言って勧誘をしていますが、これらについて不実告知による取消権の主張が可能かどうかも検討してみてください。

なお、本事例では、クレジットカードが利用されていますが、包括信用購入あっせんの場合は、個別信用購入あっせんの場合と異なり、クーリング・オフや取消制度の適用がなく、支払い停止の抗弁の主張のみが可能であるとの点にも留意してください。

ますが、商売に不慣れな消費者を、収益を口実にして取引に引き込むことを防止する趣旨に鑑み、適用除外の対象となる事業所等に該当するかは慎重に判断すべきでしょう。

本事例では、相談者は、55万円のレッスン受講契約を締結しています。レッスン契約は、当該事業者が提供する場合でも、当該事業者が他の事業者の提供するものをあっせんする場合でも構いません(要件⑴)。また、レッスンは、エキストラという仕事に従事するために「利用」するものであると考えられます。もっとも、本事例では「事業者から仕事の紹介メールは来るが、何度応募しても断られ、仕事ができない」とあります。この点、業務提供誘引販売取引に該当するには、役務を利用した業務に従事することにより「利益」を収受し得るとの期待を抱かせて有償の役務提供契約をするよう誘えば足り、業務提供が具体的に約束された「契約」であることは要件とされていません*5。

したがって、本事例でも、レッスン契約のみで業務提供が契約内容となっていなくても問題はなく、「エキストラの募集」として、外形上、事業者からエキストラの仕事が提供されるかたちで応募を募り、相談者に対して「一緒にやっていこう」「受講料はエキストラの収入で賄える」と告げていることを踏まえると、当該事業者から仕事の提供を通じて「利益」を収受し得るとの期待を相談者に抱かせて有償のレッスン契約を締結させた(要件⑵)ものと考えられます。その上で、レッスン契約の支払いのためにクレジットカード決済により特定負担を伴う取引を行わせていることから(要件(3))、本件契約は、業務提供誘引販売取引として法の適用対象にな

本事例への当てはめの検討

*5 �*1の63ページ、*3の586ページ

※ �ここに掲載する相談事例は、当時の法令や社会状況に基づき、1つの参考例として掲載するものです。同じような商品・サービスに関するトラブルであっても、個々の契約等の状況や問題発生の時期などが異なれば、解決内容も違ってきます。

文/安藤 佳子 Ando Yoshiko

2017.4 24

リゾート施設を手頃な価格で年間数日~数週間利用するタイムシェア会員権は魅力的だが、CHOICE

(オーストラリア消費者協会)は、契約トラブルについて注意喚起している。タイムシェアには、特定の施設を共同所有し年間利用日数を分配するタイプと、運営業者(クラブ)の利用ポイントを購入しクラブ所有の複数の施設宿泊や航空運賃に充てるタイプがある。

特に気をつけるべきは後者で、街頭で配るスクラッチカードの当選者としてクラブ開催の豪華な説明会パーティーに低料金または無料で招待。最初に提示した会員権価格(おおむね12,000 ~ 25,000㌦)を即時に値下げし、長時間・強引に勧誘する。その結果、参加者は、口頭説明されなかった年会費(通常200 ~300㌦)や施設維持費、ポイントの換算規定等が記載された39ページもの説明書(PDS)に目を通す間もな

く、契約。後日契約解除を希望しても業者に連絡が取れず7日間のクーリング・オフ期間が終了。一度契約すると、年会費の支払いは続き、会費は値上げされ、未使用ポイントは一定期間後に消滅する。

1週間のフィジー島滞在(オーシャンビューの部屋と往復の航空運賃等)に12,000㌦相当のポイントを使ったにもかかわらず海が見えないゴキブリだらけの部屋だったとして提訴した例もある。予約は1年前からで45日前からキャンセル料が発生する。さらにコストがかさむからと売却を希望する会員も多いが、払い戻しは一切なくクラブ側へ譲渡手数料を支払ううえに、実際半値でも売却は困難である。

CHOICEは2016年11月、勧誘の規制やクーリング・オフ期間延長等タイムシェア業界の規制強化をASIC(オーストラリア証券投資委員会)に要請した。

●CHOICE ホームページ  https://www.choice.com.au/travel/accommodation/hotels/articles/timeshare-schemes https://www.choice.com.au/travel/accommodation/hotels/articles/timeshare-schemes-are-a-life-sentence

●ASIC ホームページ  http://asic.gov.au/regulatory-resources/find-a-document/consultation-papers/cp-272-remaking-asic-class-orders-on-time-sharing-schemes/ ほか

タイムシェアの契約は慎重にオーストラリア

トランプ新政権については発足早々から多方面で混乱が伝えられているが、消費者の立場から新政権に何を期待し、もしくは懸念しているのかを知るために、CR(コンシューマーレポーツ)は1月上旬に消費者の意識調査を実施し、その結果を就任式前日に公表した。それによると基本的に国民の66%は、政治的志向にかかわらず、新政権が消費者の利益を保護することを「信じていない」ことが明らかになった。

中身を詳しくみると、●オバマケア(医療保険制度改革)の見直しが示唆されていた医療については、今後も良質の医療が受けられると肯定的にとらえる人は64%だが、現実にはその費用を負担できないだろうとする人が55%に上る ●「希望すれば得られる高等教育」に関しては、高騰する授業料や教育ローン返済の厳しさから69%が否定的 ●個人情報の秘匿

性・安全性に関しては65%が守られないと不安視する ●国内の食品の安全性や不要な抗菌剤の使用に関しては、信頼できないが60%に上る ●銀行・証券会社等金融機関の透明性や適正な手数料徴収、消費者の保護に関しても、CFPB(消費者金融保護局)の権限縮小が予想されるため、65%が信頼しない、などの結果が得られた。

CR のテラド CEO 兼会長は、「消費者パワーこそがアメリカ国民を1つにしてより良い社会へ導く賢い解決策と強く信じる。消費者の声を丁寧に聞くことが消費者パワーの源である」とし、2017年を通して、調査を展開すると述べた。第1回の今回は、無作為抽出された 18 歳以上の 1,012 人への電話アンケートを実施し統計学的処理を経たもので、地理的人口統計学的に国民の意識を如実に表している。

●CR ホームページ  http://www.consumerreports.org/consumer-protection/as-trump-takes-office-what-is-top-of-consumers-minds/ ほか

新大統領就任、消費者の心配は?アメリカ

文/岸 葉子 Kishi Yoko

2017.4 25

ドイツの公共交通機関や商業施設では、飼い主と一緒に行動する犬の姿が目立つ。しかし、同国で最も多く飼われているペットは犬ではなく、猫だという。犬のほうが少ないのは、犬税や賠償責任保険等により、コストがかかることが一因とされる。犬に限らず、ペットを飼うには時間とお金が必要だが、家庭に動物がいることで子どもの教育に好影響をもたらすとして、前向きにとらえる親が多い。その一方 で、 途 中 で 飼 え な く な り、 動 物 保 護 施 設

(Tierheim)に収容される動物も少なくない。そこで、BMEL(連邦食糧・農業省)は、各家庭に

合った動物を慎重に選択し、無思慮な飼育を防止するためのポータルサイトを開設した。同サイトでは、ペットの飼育には責任が伴うことを強調し、休暇旅行に一緒に連れて行けるのか、預け先を確保できる

のかも含めて熟慮するよう勧める。また、動物ごとの飼い方や性格を知ってもらうため、猫、犬、ウサギ、マウス、鳥、魚等の情報を掲載している。

ペットを飼いたい子ども向けのサイトも開設した。質問に回答することで、自分にふさわしい動物が分かる。例えば、「動物と何をしたいの?」という質問に対しては、「観察したい」「遊びたい」「なでたい」等の回答群が用意されており、該当する回答を選ぶしくみである。自分に合う動物として、「犬」という判定を引き出すためには、ペットに費やす時間・お金に余裕があり、家には大抵、家族の誰かがいると回答する必要がある。しかも、狩猟犬は愛玩犬に比べると長い散歩を要するため、より時間を割けないと飼育は難しいという。

●BMEL ホームページ  http://www.bmel.de/DE/Tier/Tierwohl/_texte/Haustierberater-Haustiercheck.html https://www.haustier-berater.de/ https://www.bmel-durchblicker.de/

責任を持ってペットを飼うためにドイツ

イタリア北部の風光明めい

媚び

な山岳地帯に位置する南チロル州(トレンティーノ・アルト・アディジェ州)。かつてオーストリア領に属していたことから、今なお、オーストリア風の文化・習慣が色濃く残る地域である。国際列車が停車する州都ボルツァーノは、同州の交通の要であり、南チロル消費者センターの本部がある。州内の主な町村にも同センターの支所が設けられており、電話や来所による相談を受け付けている。しかし、鉄道の通らない小さな村では、移動消費者センターが活躍する。資料を満載したキャンピングカーに、経験豊富な相談員が二人一組で乗り込み、険しい山道を走るという「動く消費者センター」である。

毎月の時刻表は、同センターのホームページで公表される。定期的に訪れる常連地のほか、消費者教

育週間など、村のイベントの機会に要請されて訪問する場所もある。車内で相談を受けた相談員は、その場で情報提供・助言等の初期対応を行うとともに、専門的対応を要する場合は、「固定」消費者センターでの専門相談につなげるしくみである。移動消費者センターで特に多い相談は、通信、住居・エネルギー、保険、銀行関連だという。

1カ所での滞在は2時間だけだが、簡易テストも行っている。車に積んだ機材を使い、消費者が持参したサングラスのUVカット率をテストしたり(夏季のみ)、携帯電話機の電磁波を測定する。1998年に導入した初代キャンピングカーは2015年に勤めを終え、現在は2代目が奔走している。

●南チロル消費者センター ホームページ  https://www.consumer.bz.it/de/verbrauchermobil-der-aktuelle-kalender https://b4.consumer.bz.it/8v8d98780.html

●南チロル消費者センター 『年次報告書2015』  http://b4.verbraucherzentrale.it/download/11v22872d106488.pdf

山間部で活躍する移動消費者センターイタリア

文/岸 葉子 Kishi Yoko

2017.4 26

このコーナーでは、消費者教育の実践事例を紹介します。

第 回37 消費者教育と高校職業教育との接続-生徒自主制作の消費者啓発リーフレット

「通販トラブルさようなら」が示唆するもの-

浜野 義明 Hamano Yoshiaki 埼玉県消費生活支援センター春日部 担当部長

教育と関連づけがあるわけではないので、今回のアプローチは高校職業教育との連携の嚆

こう矢し

になると考え、快諾しました。

課題研究では、成果の発表機会を設けるよう定められており、その中で「作品制作」も示されています。従来、県センターが取り組んできた出前講座とは異なり、生徒自身が課題を発見して解決するという問題意識で臨んできます。この一期一会を逃さないことが肝要です。商業教育の流れを念頭に置きながら、消費者教育を推進する私たちが生徒に課題を発見させるためにどういう事例紹介や問題提起をすればよいか、課題解決のためにどう誘導するかが課題でした。そこで、2時間程度の講座形態とし、8月18日、当センターで次のとおり実施しました。① 消費者問題の歴史的な流れと消費生活セ

ンター(約30分)重要な事件、消費者問題の変遷や消費生活セ

ンター設置の背景等を説明しました。② 消費生活相談の実態(約70分)「インターネットトラブル」に関する実態や、

消費生活センターに実際に寄せられた相談事例を情報提供しました。高校生にとって「消費生活センター」が身近に認知されていないことが分かりました。③ 質疑応答(約20分)

質疑応答では、「インターネット取引で留意す

消費者教育の内容検討と実施

成年年齢を18歳に引き下げる民法改正案が議論されています。成年年齢が引き下げられた場合、高校3年生のうち一部の生徒は消費者トラブルにあっても未成年者取消しができなくなります。そのため、高校での消費者教育は喫緊の課題です。本稿では、高校生が自発的に消費者被害の予防を啓発するリーフレット制作に至った経過を報告し、消費者教育推進策の一つの切り口として高校職業教育との接続について紹介します。

埼玉県消費生活支援センター(以下、県センター)では、主に出前講座の実施、加えて悪質商法体験セットを利用した参加型の消費者教育に取り組んでいます。学校教育との連携では、消費生活相談員が中学校へ出向いての出前講座実施等で多少の実績とノウハウが蓄積されていますが、高校との連携では公民科教育の実例がある程度で、十分なノウハウがありません。

2016年7月、埼玉県立越谷総合技術高等学校流通経済科から「インターネットトラブル等の消費者被害の実態を学びたい」という打診がありました。同校は第3年次で「課題研究」に取り組んでおり、この中の生徒5名が「自分たち世代があいやすい消費者トラブルは何か」から検討し、「インターネットトラブル」をテーマにしたとのことでした。「課題研究」は高等学校学習指導要領の商業科目の1つです。しかし、消費者

消費者教育の状況と高校連携の試行

2017.4 27

数回の修正のやり取りを経て、「通販トラブルさようなら」を実際に活用してみようということになりました。まず、地元市で開催された商工まつりで配布したところ、「通販トラブルにあったことがあるので参考になる……これ、高校生が作ったの? すごいね」といった声が複数聞かれました。好評かつ実用性もあるリーフレットであることが分かりました。

リーフレットは生徒との約束どおり、県内4カ所にある県センターに置いて配布することとしました。また、こうした消費者教育の成果物である「リーフレット」は、今後の消費者教育の先行事例になると考え、報道発表を行い、併せて本県のホームページからダウンロードできるようにしました*。また、市町村数カ所から参考にしたいので提供してほしいという申し出がありました。

今回、高校商業教育の現場からアプローチがあり、「課題研究」の取り組みの中から好循環が生まれ、リーフレットという成果物になりました。商業科生徒の多くは、将来、流通業界に関わる人材となります。こうした高校との連携は、単に高校生への消費者啓発だけでなく、消費者と逆の立場(事業者)側に消費者問題と向き合う意識を持たせることにつながります。また、商業科目には「経済活動と法」という法教育が組まれ、民法等を扱っています。こちらも含めて消費者教育を推進する側から商業教育の現場へ切り込んでいく余地があります。

越谷総合技術高校とは今後も消費者教育と職業教育で連携する方向性を確認しています。商業教育に限らず消費社会の重要なプレーヤーを供給する高校職業教育との接続は、消費者教育推進策の1つの切り口を示唆したと考えます。

「通販トラブルさようなら」の活用

消費者教育と職業教育との接続

る点は何か」「インターネット取引の顧客に対して企業は努力しているのか」「トラブルにあった場合、消費生活センターに相談するのが一番よいのか」「相談をためらっている人もいるのではないのか」「被害を減らすためにはどうしたらよいか」等の活発な質問がありました。この質疑応答が後のリーフレットの内容となりました。

最後の総括で「皆さんが消費者トラブルにあったら消費生活センターに相談してほしい」「学校に帰ったら消費生活センターをPRしてほしい」と話しました。すると「作品制作」を念頭に置いていたのでしょうか、生徒からチラシ制作の提案がありました。生徒のやる気を後押しするため、「チラシ完成の暁には、県の消費生活センターに置いて活用する」と約束しました。

同校「課題研究」の成果発表は11月に予定されていました。講座から約1カ月経った9月下旬、生徒から「インターネット通販トラブルの予防策をもっと多くの人に知らせるため、リーフレットを制作したので監修してほしい」というメールが届きました。添付されていたリーフレットのデータを開けてみるとタイトルに「通販トラブルさようなら」とあり、トラブル予防対策等や、トラブルに巻き込まれた場合は消費生活センターに相談するようにとの記載がありました。若干の修正は必要でしたが、想定以上の出来に驚きました。つまり、リーフレットは監修こそ受けたものの、生徒の完全自主制作なのです。

啓発リーフレットの制作

リーフレット「通販トラブルさようなら」A4三つ折り表面

図 * �https://www.pref.saitama.lg.jp/b0304/syouhisyakyouiku/torikumi-koshigayasougikou.html

2017.4 28

外貨建て金融商品第 回11

伊藤 宏一Ito Koichi

NPO法人日本FP協会専務理事、CFP®認定者、金融経済教育推進会議委員。専攻は、パーソナルファイナンス、ソーシャルファイナンス、金融教育、シェアリング・エコノミー、ESG投資。

千葉商科大学人間社会学部 教授

⃝為替と金利 外貨建て資産で運用する理由は、海外の金利が日本より高い場合に、その高い金利の恩恵を受けることができるからです。

2017年3月現在、金融機関によって異なりますが、例えばアメリカドル1年定期預金の金利は、0.2% ~1% 程度、円預金金利は 0.01% ~0.05%程度となっています。

歴史の流れをみると、政府の金利政策によって為替に大きな変動があることが分かります。2008年のリーマン・ショック後、アメリカは金融緩和で金利を低く誘導したので円高ドル安が進みました。アメリカ経済が回復をみせ始めた2012年の暮れに安倍政権が発足し、今度は日本が異次元の大胆な金融緩和を取り、マイナス金利政策で円安が進みました。しかし2016年には、中国経済の減速やイギリスのEU離脱など海外に不安が生じ、安全資産としての円が買われて、円高になりました。そして2016年の後半はトランプ政権による経済成長期待でドル高円安となり、2017年に入ってアメリカの利上げで円高になっています(図)。⃝為替レート 注意したいのは、円と外貨の交換レートのしくみです。円を外貨に替える為替レートをTTS(対顧客電信売相場)、外貨を円に替える為替レートをTTB(対顧客電信買相場)といいます。これは金融機関からみた言葉で、外貨を保有している金融機関が顧客である消費者に外貨を「売る(Sell)」のでTTS、逆に金融機関

外貨建て金融商品とは、取引価格がドルやユーロなど外貨建てで表示されている金融商品で、外貨預金に始まり外国債や外国株式など多様な種類があります*1。⃝為替リスク 外貨建て金融商品には、為替リスクがあります。円とドル、円とユーロなどの交換レートは絶えず変動しており、経済や政治の動向で極めて短期的に大きく変動することがあります。アメリカ旅行をする時は、なるべく円高ドル安のときにドルを購入して、アメリカでドルを使えばいいので為替差損は出ませんが、ドル預金をして円をドルに替え、また円に戻したい時には、円をドルに交換する時と、そのドルを円に交換する時、二重にドル円相場の為替リスクとかかわることになります。

例えば1ドル113円の時に113万円をドルに替えると10,000ドルの預金になりますが、円安が進んで2年後に1ドル115円になっていた場合は、円に替えると115万円になり、2万円の為替差益が生じます。しかし円高が進んで1ドル100円になっていた場合は100万円になり、13万円の為替差損が生じます。つまり円安傾向になれば外貨建て資産について有利になります。

外貨建て金融商品の一般的特徴

*1 �外貨建て保険については、ウェブ版「国民生活」2016年6月号「金融商品の基礎講座」第1回「金融商品の多様化と適切な金融行動」を参照。� �http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201606_12.pdf

2017.4 29

が得られる、といった点です。一方外貨預金のデメリットは、為替差損を被る、わが国の預金保険制度の対象外である、といった点です。外貨定期預金については、中途換金する場合、全額の解約になるなどの制限があるので、取引銀行で確認する必要があります。また利息は利子所得、為替差益は雑所得で総合課税(為替予約を付けている場合は源泉分離課税)になります。⑵外貨MMF

外貨MMFはMoney Market Fundの略で、ドル、ユーロ、オーストラリアドルなどの外貨建てで、公社債などで運用する投資信託です。2017年3月現在、金利水準は、アメリカドル0.65%、カナダドル0.31%、南アフリカランド6%程度、トルコリラ8%程度となっています。申込手数料は無料で、いつでもペナルティなしで換金できるため、高い流動性があります。また為替手数料は外貨預金と比べて安くなっています。外国証券取引口座の開設が必要ですが、口座管理料は無料です。売却益(為替差益)は、譲渡所得として課税されます。⑶外国債(外債)

外国債とは、発行者、発行場所、通貨のいずれかが外国である債券*2で、取引するためには、証券会社で外国証券取引口座を開設する必要があります。海外で発行される債券のほか、国際機関や海外の企業が日本で発行する円建て外債も外国債券になります。外国債の中には、国・政府系金融機関のほか、国際機関の発行する公共債があり、例えば世界銀行(国際復興開発銀行)の発行する世界銀行債券(世銀債)は、発展途上国の持続的発展などのための資金調達を行っています。また利払いについては、利払いのある利付債以外に、ゼロ・クーポン債もあります。これは、利子がつかない代わりにあらかじめ額面に対して、一定率で割り引かれた価格で発行さ

が顧客から外貨を「買う(Buy)」のでTTB、といわれています。

さて消費者がアメリカドル預金に円を預ける場合、その日の仲値が1ドル100円だとします。この場合、TTSは仲値に為替手数料1円を加えた1ドル101円、TTBは仲値から同様に1円引いた99円にするのが一般的です。つまりTTSとTTBの間には2円の開きがあることになるので、アメリカドル預金の場合は、購入時に比べて2円以上円安にならないと、為替差損が発生することになるのです。ただし TTS と TTB との差は、金融機関によって、また通貨によって、異なっているので注意する必要があります。⃝ドル円相場と日本株 ドル円相場と日本株との間には一般に強い相関があるといわれています。輸出中心の日本経済にとって、その輸出の中心市場はアメリカであり、円安になれば、アメリカでは日本製品が安く手に入ります。自動車等輸出製品が売れれば、日本株は上昇するという関係性が現在でも機能しています。

⑴外貨預金アメリカドル、ユーロなど外貨建てで行う預

金です。普通預金、定期預金などの種類があります。外貨預金のメリットは、海外の相対的に高い金利を得られる、場合によっては為替差益

主な外貨建て金融商品の種類と特徴

*2 �ウェブ版「国民生活」2016年12月号「金融商品の基礎講座」第7回「公社債(債券)(2)」� �http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201612_11.pdf

直近1年の円ドルレート円高→円安→円高傾向となっている。� (筆者作成)

単位:円

118.00116.00114.00112.00110.00108.00106.00104.00102.00100.00

16/2/26 4/4 5/17 6/27 8/4 9/9 10/25 12/9 17/1/26 3/6

2017.4 30

信託の略で、分散投資できる投資信託が、株式のように証券取引所に上場し、いつでも取引できるようになった金融商品です。手数料は投資信託よりも安くなっています。アメリカを中心に海外には豊富な種類のETFがあり、それらを海外ETFと呼んでいます。1つのETFで日本を含む世界の株式に分散投資することも可能です。

積立て投資をするための方法は「るいとう」と呼ばれており、毎月定額のお金(円で10,000円など)でETFを買い付けていきます。しかし為替相場の変動があるため、外貨ベースでは買い付ける金額に変動があります。海外ETFには、外国株式の株価(価格)変動リスク、為替リスク、連動をめざす株価指数等の変動リスクがあります。

海外ETFで配当による分配金が出た場合は、海外で課税されますが、国内では外国税額控除の適用を受けることができます。また売却益は譲渡所得で申告分離課税になります。証券会社によって特定口座を使うことができます。⑺外国為替証拠金取引(FX)

外国為替証拠金取引は先物取引の一種で、証拠金を出して、ある通貨で別の通貨を買う取引です*4。例えば円でドルを買えば、「円売り・ドル買い」というポジションを取ることになります。それぞれの通貨には金利があります。したがって別の通貨を買う場合には、金利のスワップ(交換)が生じます。「円売り・ドル買い」であれば、円の金利を払って、ドルの金利を受け取ることになります。少額の証拠金を出して、その数十倍の取引ができるため、ハイリスク・ハイリターンの取引です。外国為替証拠金取引の収益は、

「先物取引に係る雑所得」となり、損が出ても他の所得との損益通算はできません。また総合課税ではなく申告分離課税のため、確定申告が必要になります。

れ額面で償還されるもので、アメリカ国債がその代表例となります。

外債は、税法上特定公社債であり、利息は利子所得として課税されます。外国で利息に税金が源泉徴収された場合は、その分を差し引いた金額に対して課税されます。また確定申告すれば、外国で課税された分は外国税額控除という税額控除が適用され、所得税・住民税から一定の範囲内で外国での課税分を差し引くことができます。また利付債、ゼロ・クーポン債の償還差益・売買益は譲渡所得として課税されます。⑷外国株式

外国株式は、外国籍の企業が発行している株式で、取引するためには、証券会社で外国証券取引口座を開設する必要があります。アメリカ株の場合、配当はアメリカで課税され、日本で外国税額控除の適用があります。また売却益は申告分離課税となります。⑸外国籍投資信託

外国籍投資信託は、外国において、現地の法令や規則に基づいて設立された投資信託のことです。根拠法は外国のものであっても、日本国内で販売される外国籍投資信託は、金融庁への登録が義務づけられています。また、外国籍投資信託の多くはドル、ユーロ、オーストラリアドルなどの外貨建てですが、円建ての外国籍投資信託もあります。

外国の債券や株式に投資するファンドでも、日本で設立されているものは「外国に投資するファンド」であって、外国(籍)の投資信託とは異なります。また、日本の株式に投資するファンドであっても、海外で設立されたものは外国(籍)投資信託となります。法律上は、日本で設立された投資信託を内国証券投資信託といい、外国で設立されたものを外国投資信託といいます*3。⑹海外ETF

ETFはExchange Traded Fundつまり上場投資

*3 �国内投資信託の中立的情報は投資信託協会のサイトで、外国籍投資信託については証券業協会のサイトで見ることができる。

*4 �ウェブ版「国民生活」2017年3月号「金融商品の基礎講座」第10回「デリバティブ」� �http://www.kokusen.go.jp/wko/pdf/wko-201703_10.pdf

2017.4 31

国民生活センター 相談情報部

電話勧誘販売で契約したモバイルWi−Fiルーターの解約

電話勧誘販売で契約したモバイルWi−Fiルーターの解約に関する事例のほか、改正された電気通信事業法の解約ルールも併せて紹介する。

スタマーセンターは「ルーターは受け取らないこと」「解約手続き等は担当者不在のため答えられない」との回答だった。相談者は不安になり、同日中に事業者の店舗で解約手続き等を聞いた。店員がその場でカスタマーセンターに電話し、「担当者から相談者へ直接電話する」と言われたがその後も電話がなかったため、翌日、相談者は当センターへ相談した。当センターは、ルーターの端末購入契約、通

信サービス契約の2つの解約手続きが必要であることを伝えた。また、電話勧誘販売における端末購入契約は、特定商取引法(以下、特商法)上の法定書面を受け取った日から8日間はクーリング・オフが可能であるが、通信サービス契約は電気通信事業法の解約ルールである初期契約解除制度の対象*(図)となるため、早急に契約書面を受け取り、解約に関する記載内容を確認したうえで事業者に解約を申し出るよう助言した。その後、相談者より「契約書は届かず、しかた

なくルーターを受け取り、同梱されていた書面の記載に従ってルーターの端末購入契約と、端

契約している携帯電話会社から電話勧誘があり、「通信料金が安くなる」と言われたのでモバイルWi-Fiルーター(以下、ルーター)を機種変更して、ルーターの料金プランも変更した。しかし、よく考えると現在使用しているルーターの代金の分割払いが残っていたので、やっぱり契約をやめたいと思った。新しいルーターの代金は3年間の分割払いであること、月額料金等は聞いていたが、契約書は手元に届いておらず、詳細が分からない。ルーターも配送時に不在だったため、受け取っていない。勧誘時の電話で「クーリング・オフできる」と説明を聞いた気がするので、契約をキャンセルしたい。

(20歳代 女性 給与生活者)

相談を受け付けた国民生活センター(以下、当センター)は、契約内容の確認や相談者から経緯の詳細を聴き取り、次の内容が分かった。相談者は当センターに相談する前に、携帯電話会社(以下、事業者)のカスタマーセンターへ契約をキャンセルしたい旨を連絡していた。カ

相談内容

結果概要

* �2016年5月21日以降の契約が対象。参考:�ご存じですか?�電気通信事業法が改正されました−光回線やス

マートフォン等の契約書面はしっかり確認しましょう!−� �http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20160519_2.html

2017.4 32

書面を指すのか分からなかった。以上のことから、当センターから事業者に対

し、相談者は契約書が届かなかったためにルーターを受け取ったこと、契約書面の交付方法に問題があること等を伝えて交渉した。その結果、事業者は相談者に適切な案内をし

ていなかったことを認め、ルーターは特商法のクーリング・オフ、通信サービスはサービス提供前とみなして料金等の負担なく解約に応じた。さらに、本件はトラブルの原因の1つに書面の交付方法や書面内容に問題がみられたため、当センターより事業者に対しこれらの改善を要望し、相談を終了した。

本件は電話勧誘販売であったため、ルーターは特商法のクーリング・オフ、通信サービスは電気通信事業法の初期契約解除制度が適用される事例であった。それぞれの制度において、契約書面の受領日は契約解除が可能となる期間の起算日になる場合もあるため非常に重要となるが、本件では書面が複数回にわたって送られていた。また、すべての書面がそろって電気通信事業法上の記載事項を満たす状態であったが、本来であれば、一体性を持った記載・交付方法が必要であると考えられた。2016年5月21日から施行された改正電気通

信事業法では、契約後の書面の交付義務や、初期契約解除制度等の解約ルール等が導入されている。また、電気通信サービスはさまざまな端末等とセットで販売される機会も多く、端末等は販売形態によって特商法等の法律が適用になる場合もある。そのため、契約書面等の記載はよく確認し、不明な点があれば契約先の事業者にすぐに問い合わせて確認することが重要である。

問題点

末代金の分割払い契約のクーリング・オフ通知を出したが、その後も通信契約の契約書が届いた」と連絡があったので、当センターから事業者に相談者の契約内容を確認した。事業者は「ルーターを受け取ったため、通信サービスは開始している。このことは契約書に記載があり、契約書は契約申込み日から3日以内にルーターと別に送っている」との回答で、書面の交付時期について相談者の申し出と相違があった。そこで当センターでは、改めて経緯を時系列で整理し、相談者に送られた書面を確認した。⃝相談者に最初に送られた書面はルーター同梱の書面であり、その後2回にわたり通信サービスに関する書面が届いている。⃝書面は合計3回にわたって届いており、すべての書面を確認すると契約内容の全体が分かるが、それぞれの書面だけでは契約内容全体が分からなかった。⃝ルーターは、ルーター同梱の書面が届いた日から8日間、クーリング・オフが可能との記載があった。通信サービスも、契約時交付書面の受領日またはサービス提供開始日のいずれか遅い方から8日間、初期契約解除が可能との記載があったが、契約時交付書面がどの

初期契約解除制度と確認措置の対象範囲(イメージ)図

固定通信サービス 移動通信サービス

電気通信サービス

光回線サービス 等 主な携帯電話サービス 等

販売形態問わず

◦PHSサービス◦プリペイドサービス 等

◦ADSL回線サービス◦電話サービス 等

初期契約解除制度

総理大臣の認定を受けたサービス

確認措置

店頭販売・通信販売

2017.4 33

相談者の気持ち

暮らしの法律

第 回59

一般民事、刑事事件、子どもに関わる事件、知的財産、法律相談などを手がける。協力:萩谷雅和(萩谷法律事務所)

菅原 修 Sugawara Shu

弁護士。第一東京弁護士会、子ども法委員会所属。

遺言書に従って、遺産を分配した3年後に、日付が新しい別の遺言書が出てきました。内容が違っていた場合、そのとおりに分配し直さなければならないのでしょうか?

遺産分割後に新しい遺言書が出てきたら?

古い遺言書と新しい遺言書の内容に違い(矛盾)がある場合、原則として、新しい遺言書の内容に従って分配(遺産

分割)し直さなければなりません。ただし、例外的に分配し直さなくてもよい場合があります。民法(以下、法)1023条1項は、「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす」と定めています。つまり、古い遺言書と新しい遺言書の内容に違い(矛盾)があるときは、矛盾する部分について古い遺言書は存在しなかったものと扱われるのです。本来従うべき新しい遺言書の存在を知らず、古い遺言書に従って遺産を分配してしまった場合、従うべき遺言書および遺言の内容について勘違い、つまり錯誤(法95条本文)があったといえます。この場合、新しい遺言書の存在を知らなかった相続人は、遺言書間の矛盾が非常に些さ細さいなものであるときなどを除き、当該分配の

無効を主張することができます。無効が主張されれば、原則として、新しい遺言書の内容に従って分配し直さなければなりません。もっとも、遺言書の内容によっては、分配し

直さなくてもよい(新しい遺言書と異なる内容の分配をすることが許される)場合があります。ある裁判例は、「…遺言をする被相続人(遺

言者)の通常の意思は、相続をめぐって相続人間に無用な紛争が生ずることを避けることにあるから、これと異なる内容の遺産分割が全相続人によって協議されたとしても、直ちに被相続人の意思に反するとはいえない。被相続人が遺言でこれと異なる遺産分割を禁じている等の事情があれば格別…相続人間において、遺言と異なる遺産分割をすることが一切できず、その遺産分割を無効とする趣旨まで包含していると解することはできない」と判示しました(さいたま地裁平成14年2月7日判決)。この裁判例に従えば、本件でも、相続人の全員が古い遺言書の内容で遺産を分配することに合意した場合には、改めて分配し直す必要はありません。なお、相続人の全員が合意したとしても、①上記裁判例が判示するように、遺言書で分配が禁止されている場合(法907条1項、908条)、②被相続人が遺言書で特定の財産の分配を具体的に指示し、併せて遺言執行者を指定した場合(法1013条)には、分配し直さなければなりません。これらの場合には注意すべきです。

2017.4 34

判例暮らしの

消費者問題にかかわる判例を分かりやすく解説します

国民生活センター 相談情報部

り上げはなく、物販事業からは完全に撤退し、以降は金融商品の販売に注力していた。その後、2007年4月から、マスコミでもL&Gの商法の問題性が取り上げられるようになり、同年10月にはL&G本社に警視庁等の強制捜査が入り、11月26日には破産開始決定がされた。L&Gの破産管財人の調査によると、L&Gグループが集めた総合計入金額は2403億円に上っていた。L&Gが販売した金融商品に出資したXらは、

L&Gおよびその子会社等の関連会社(L&Gグループという)によるその金融商品の出資の募

L&Gは、1987年の設立当初は健康食品や健康器具などの物販事業をマルチ商法的な手法で行っていたが、2000年に年利12%の出資金を募るようになり、2001年からは年利23%の預託金ビジネスを始めた。さらに、2003年からは元本保証で年利36%の金融商品の販売を始めるなど、その後も次々に新たな金融商品の販売を行うようになった。これらの金融商品の販売方法は、従来のマルチ商法的手法を転用したものであった。なお、2002年11月の時点でほとんど売

事案の概要

L&Gによるマルチ商法的な巨額詐欺事件における上位会員の不法行為責任本件は、株式会社エル・アンド・ジー(以下、L&G)が企画し、出資の募集・勧誘等を行っ

た金融商品に出資した消費者らが、その金融商品についての出資の募集・勧誘等は出資

法に違反し、マルチ商法で組織的詐欺行為を構成するものである等として、勧誘者であ

る上位会員、およびグループ会社の役員、従業員に対して損害賠償を求めた事例である。

裁判所は、グループ会社の役員と上位会員の勧誘者で組織の破は

綻たん

の予見可能性があっ

た者に対して損害賠償を命じたが、あまりに高金利である話に飛びついた被害者にも落

ち度があるとして勧誘者の損害賠償責任につい

ては5割の過失相殺をした(役員については過

失相殺を否定)(東京地裁平成27年3月30日判

決、LEX/DB掲載)。

原 告: Xら(判決時62名)被 告: Y1(L&Gの代表取締役)、Y2ら(L&G

のグループ会社の役員および勧誘員ら、判決時38名)

関係者: 株式会社エル・アンド・ジー (L&G)

2017.4 35

暮らしの判例

さらに、L&Gは、L&Gの投資商法の破綻が必然であったにもかかわらずこれを隠ぺいし、あたかも同社が信用できる会社であるかのように装い、金融商品の販売と勧誘を続けてきており、このような行為は組織的詐欺と評価すべきであった。以上によればL&Gの行っていた投資商法は、違法なものであることが明らかである。● 勧誘員の損害賠償責任についてXらに直接勧誘した勧誘員は、当該勧誘員が主観的要件(故意・過失)を満たし、その行為とXらの損害との間に相当因果関係が認められる場合には、不法行為責任を負う。また、上位の勧誘員が直接勧誘していない場合であっても、同様に主観的要件を満たし、傘下の者を道具または手段として勧誘行為を行わせていたと評価できる場合には、直接勧誘を行ったものと同視し、不法行為責任を負う。また、勧誘者らは、L&Gが自転車操業状態をさらに悪化させ早晩破綻するしかないということを認識できなかったというような個別の特段の事情がない場合には、2004年5月11日に新たな詐欺的金融商品の販売が始まったころには、L&Gが早晩行き詰まり、新規出資者が出資した場合にその返還が受けられないことまたはその蓋然性が高いことを認識できたと推認できる。したがって、それにもかかわらず自ら勧誘し、あるいは傘下の者に勧誘させるなどの行為をし、その行為とXらの損害との間に相当因果関係が認められる場合には、不法行為責任を免れないというべきである。その場合には、勧誘者らの上記認識可能性が認められる時点が2004年5月11日頃であることから、Xらの2004年6月以降の拠出分に対応する損害について不法行為責任を認めるのが相当である。● 過失相殺についてXらは異常に高配当であるL&Gの金融商品に拠出して損害を受けており、勧誘者との間においては一定の落ち度を認め、その損害について

集・勧誘等は出資法に違反し、公序良俗に反するものであるほか、その勧誘方法もY1を頂点として組織的に行われたマルチ商法(連鎖販売取引商法)であり組織的詐欺行為を構成すると主張した。また、L&Gグループの役員・従業員、およびL&Gの上位会員らにも、L&Gによる出資金等の返還が早晩行き詰まり、新たに出資した者がその返還を受けられないことまたはその蓋

がい然ぜん性

が高いことを認識し、あるいは認識できたにもかかわらず、上記募集・勧誘時に必要不可欠な役割を分担し、直接または間接的にXらを勧誘するなどして出資させたとして損害賠償を求めた。

● L&Gの商法について L&Gの投資商法は、不特定多数の会員から、

一定の金員をL&Gに交付させ、交付金の元本と同額の返還を前提として、高利回りの配当を約束するものであり、交付金が出資法上の「預り金」に該当するから、出資法2条1項に違反する。また、L&Gの勧誘手法は、マルチ取引またはネズミ講的な手法を用いたものであり、⑴L&Gの投資商法における高利配当の原資は、もっぱら新規加入者の拠出金であるから、新規加入者がねずみ算式に増加していかなければ、既存の加入者に対する配当金が停止し、巨額の負債が残り破綻することが明らかであること、⑵年利23%、年利36%、円天(解説参照)受取保証金に至っては100%という高利をうたっており、これらは加入者の射幸心を不当にあおるものであること、⑶L&Gの投資商法において、既存の会員等に対する配当原資は、新規会員の拠出金のみであり、上位会員が紹介料等の名目で多額の利益を得る一方、いったん破綻すれば、新規会員を中心に元本を回収できない被害が多数現れること(加入者の相当部分が損害を被ること)、というネズミ講類似の要件を備えていることから、ネズミ講と同様、公序良俗に反するというべきである。

理 由

2017.4 36

暮らしの判例

法で健康食品等の物販をしていたものの、徐々に高金利の金融商品を同様の手法で販売するようになり、2003年に物販から撤退し、翌年5月にはさらに高利率をうたう実態のない金融商品を販売し始めたという変遷があった(当初からネズミ講的なものであったわけではない)などの事情を踏まえて、予見可能性があったと認められる時期を2004年6月以降と認定した。そして、原則としてこの時期以降に、自分で勧誘をした者だけでなく、傘下の者に勧誘をさせていた場合についても不法行為に該当するとして損害賠償を命じた。ただし、異常に高配当(年利23%・年利36%)であることを信じたことについて被害者にも落ち度があるとして、勧誘員の損害賠償については5割の過失相殺をした。役員の不法行為責任については、過失相殺を認めていない。金のペーパー商法*について、詐欺的金融商品による被害者が、勧誘や電話でアポイントをとる仕事をしていた女性パートに対しても損害賠償請求をして認容された事件に豊田商事事件がある。この事件で損害賠償を命じられたのはすべて豊田商事の従業員であった(参考判例②)。本件事件では勧誘者は従業員ではなく事業者と契約して拠出金を支払って会員となって下部会員の勧誘を行っていた勧誘者である点に特徴がある。

過失相殺をすべきである(5割の過失相殺)。Yら役員との間においては、Y1が、L&Gの投資商法において、L&Gの役員として重要な業務を行った(Y1は一貫して事業を統括していた)ことに照らせば、過失相殺をするのは相当ではない。

本件は「円天」に関する民事裁判の事例である。その実態は「円天」という名称の仮想通貨を用いた通信販売事業を行っていると称して(通信販売の実体はなかった)、元本保証・高配当との説明をして出資の勧誘を行い、さらに出資した者が知人などを勧誘して出資させることによってさらに大きな利益が得られるしくみを取る詐欺的取引である。マルチ商法的手法で勧誘して拡大していったが、最終的には破綻し、出資法違反で刑事摘発された後に、組織的詐欺罪で有罪判決が確定した。刑事摘発された後に、弁護団が被害者の会を組織して破産申立をしたものの、会社にはみるべき資産がないことが判明したため、関連するグループ会社の役員と勧誘者である上部会員百数十名に対して、共同不法行為による損害賠償請求をしたのが本件である。判決では、本件商法そのものについては「ネズミ講類似の要件を備えていることから、ネズミ講と同様、公序良俗に反するというべきである。さらに、L&Gは、L&G投資商法の破綻が必然であったにもかかわらずこれを隠ぺいし、あたかも同社が信用できる会社であるかのように装い、金融商品の販売と勧誘を続けてきており、このような行為は組織的詐欺と評価すべき」であると判断した。勧誘員の責任については、関与した時期等によって破綻の予見可能性の有無を判断し、破綻の予見可能性がある者については、不法行為の主観的要件を認め、対応する被害者に対する損害賠償を命じた。勧誘員の破綻の予見可能性については、事業者が設立当初はマルチ商法的手

解 説

参考判例①最高裁昭和31年8月30日判決(刑集10巻8号1292ページ)旧貸金業取締法7条(現在の出資法2条に相当する条文)の預り金該当性について判断した事例②大阪高裁平成元年3月31日判決(『判例時報』1327号40ページ)豊田商事の従業員の不法行為責任を認めた事例

参考判例

* �純金などの現物を売るとして消費者から代金を受け取るが実際には現物を渡さず、紙切れを預かり証などとして渡す商法。

2017.4 37

著作権法を知ろう ―著作権法入門・基礎力養成講座

野田 幸裕Noda Yukihiro

N&S法律知財事務所設立所長。著作権法・商標法等の知的財産関連のビジネスコンサル・契約・訴訟等が専門。東京都知的財産総合センター法律相談員、一般社団法人日本商品化権協会正会員等。講演・著作等多数。

弁護士、弁理士

誌上法学講座

第 回13著作権(6)

―上演権・演奏権・公衆送信権等―

これらの場所での再生についても演奏権者から承諾を得る必要があります。●通信カラオケと著作権

かつてのカラオケ店では店ごとにカラオケテープやレーザーディスクを設置し、これら録音の複製物を再生して来客者に伴奏サービス等を提供していましたが、現在は通信カラオケが全盛です。通信カラオケのしくみは、楽曲データは通信カラオケ業者のホストコンピュータに複製されており、その楽曲データをカラオケボックスやカラオケスナック等のカラオケ店に配信し、店内に設置された受信装置に複製されます。受信装置はカラオケ店経営者とリース会社間でのリース契約などによりカラオケ店に設置されるケースが主流です。このようなしくみから通信カラオケ業者は楽曲の著作権者から複製権や公衆送信権について許諾を受ける必要があります。またカラオケ店経営者は客のリクエストに応じて店内のモニターに映像を写し、楽曲の伴奏等を提供することからカラオケ店経営者は演奏権等の権利処理をする必要があります。

上演権・演奏権・上映権(法22条の2)・口述権の権利が制限される場合として、①公表された著作物について、②営利を目的とせず、③聴衆・観衆から名目の如何を問わず料金を受け取

上演権・演奏権・上映権・口述権の権利制限

著作者はその著作物を公衆に直接見せまたは聞かせることを目的として上演しまたは演奏することができますが、この著作者の権利を上演権・演奏権といいます(著作権法(以下、法)22条)。「上演」とは「演奏(歌唱を含む。以下同じ)以外の方法により著作物を演ずること」(法2条1項16号)と定義されています。つまり上演と演奏との関係は、実演から、演奏と歌唱という音楽的実演を除いた演劇的実演が「上演」ということになります。なお「実演」とは、「著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」と定義されています(法2条1項3号)。●喫茶店、レストラン等のBGMと著作権

上演権・演奏権・口述権(法24条)は著作物が上演・演奏・口述されたものが録音または録画されたものを再生することについても権利が及びます(法2条7項)。そのため楽曲をCD等のレコード(法2条1項7号)によりBGMとして喫茶店、レストラン、ホテル等で再生して館内に音楽を流す行為についても演奏権が働くことになります。この点、従前はこれらの場所でのレコード再生には当分の間、演奏権は及ばないとの特例が規定されていましたが(旧附則14条)、平成11年(1999年)に廃止され、現在では

上演権・演奏権・口述権

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なおカラオケテープの再生は演奏権の対象であることは明白なのに楽曲の再生ではなく歌唱に注目した構成になっているのは当時、前述の旧附則14条によりカラオケスナックでの再生には演奏権が働かなかったことから歌唱面から演奏権侵害を構成するほかなかったためです。●カラオケボックスと演奏権

次にカラオケボックスでの楽曲の再生と歌唱について、裁判所は「主として客が自ら右各部屋に設置されたカラオケ装置を操作して伴奏音楽を再生し、また、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱していたものであるが、他方、原告(カラオケボックス経営者)らは、それぞれの対応店舗の歌唱用の各部屋にカラオケ装置を設置し、来店した客が容易にカラオケ装置を操作できるようにした上で、客を右各部屋に案内していたこと、右各部屋に楽曲索引を備え置いて客の選曲の便に供していたこと、客から求められれば原告らの従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示していたこと、客は、指定された歌唱用の部屋において、定められた時間の範囲内でその時間に応じた料金を原告らに支払い、原告らが用意したカラオケソフトに収納されている曲目の範囲内で選曲して歌唱していたことが認められる。右認定の事実関係からすれば、原告らは、それぞれの対応店舗において、客の選曲に従って自ら直接カラオケ装置を操作する代わりに客に操作させているということができ、また、客による歌唱についても、原告らの管理の下で行われていたものというべきであって、それぞれの対応店舗において伴奏音楽の再生及びこれに合わせた歌唱によって管理著作物の利用

(演奏ないし上映)を行っている主体は、その経営者である原告らにほかならず、原告らは、公衆(不特定多数の客)に直接聞かせ、見せることを目的として管理著作物の演奏ないしその複製物を含む映画著作物の上映を行ったものというべきである」(括弧内下線部は筆者)ということから演奏権の主体はカラオケボックス経営者であるとして、演奏権の侵害を認めました(東京地裁

らず、④実演家等へ報酬を支払わないとの要件をすべて満たすときは演奏権等は働かず、権利者の許諾がなくても演奏等をすることができます(法38条1項)。

では演奏権を例にその権利の制限を具体例に検討しましょう。●カラオケスナックと演奏権

カラオケテープの再生とともに客が歌唱することができるカラオケスナックにおいて、客による歌唱の主体が客かスナック経営者かが争われた事件があります。仮に客が主体ならば客は自ら楽しむため歌唱しているのであって、「公衆に直接(中略)聞かせることを目的」(法22条)として歌っているのではありませんから演奏権の侵害はないことになります。

この点、最高裁は「客やホステス等の歌唱が公衆たる他の客に直接聞かせることを目的とするものであること(法22条)は明らかであり、客のみが歌唱する場合でも、客は、上告人(スナック経営者)らと無関係に歌唱しているわけではなく、上告人らの従業員による歌唱の勧誘、上告人らの備え置いたカラオケテープの範囲内での選曲、上告人らの設置したカラオケ装置の従業員による操作を通じて、上告人らの管理のもとに歌唱しているものと解され、他方、上告人らは、客の歌唱をも店の営業政策の一環として取り入れ、これを利用していわゆるカラオケスナツクとしての雰囲気を醸成し、かかる雰囲気を好む客の来集を図つて営業上の利益を増大させることを意図していたというべきであつて、前記のような客による歌唱も、著作権法上の規律の観点からは上告人らによる歌唱と同視しうるものである」(括弧内下線部は筆者)として、①歌唱への管理支配性と②営業上の利益の帰属という図

と利り

性(利益を得ようと図ること)の視点から、客による歌唱であったとしてもスナック経営者による歌唱と同視できるとして、法38条1項を適用せずに演奏権の侵害を認めました

(最高裁昭和 63 年3月 15 日判決、裁判所ウェブサイト)。

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意義務を肯定すべきだからである」(ルビは筆者)と判示しリース業者の責任を認めました(最高裁平成13年3月2日判決、『判例時報』1744号108ページ)。

著作権者はその著作物を公衆送信する権利があり、自動公衆送信の場合には送信可能化権が含まれます(法23条1項)。「公衆送信」とは「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(中略)を行うこと」をいいます(法2条1項7号の2)。具体的には①テレビ・ラジオなどの放送(同8号)、②ケーブルテレビや有線の音楽放送などの有線放送(同9号の2)、③インターネットなど公衆からのリクエストに応じて自動的に送信されるインタラクティブ送信(同9号の4)、④公衆からの電話等によるリクエストに応じてファクスやメールで送信するなど前記以外の公衆送信の類型があります。なお③の場合には送信可能化が含まれますが、「送信可能化」とは概

おおむねインターネッ

トに接続しているサーバ等の自動公衆送信装置に情報を記録して入力する行為、またはそのサーバをインターネットに接続する行為をいいます。要するに公衆がインターネットにアクセスして送信が可能な状態にあることをいいます。

一般にあるコンテンツをインターネットで発信しようとする場合、その情報をデジタル化してこれをサーバ等に複製し、インターネットに接続して送信するといった手順を踏みますが、デジタルデータをサーバに複製した時点で複製権が働き、それをインターネットに接続すれば送信可能化され、それを配信すれば公衆送信したことになります。サーバへの複製が立証できずとも、例えば無許可で他人の写真等をウェブページでアップしたり送信したりすれば公衆送信権の侵害は明白に立証されるので、著作権保護がより図られることになりました。

また例えばテレビ放送番組を放送と同時にビ

公衆送信権等

平成12年12月26日判決、裁判所ウェブサイト)。●カラオケ装置のリース業者の責任

カラオケパブの経営者が演奏権者に対し利用料を支払っていない場合で、リース業者がカラオケパブにカラオケ装置をリースして設置している事案におけるリース業者の責任について、最高裁は「カラオケ装置のリース業者は、カラオケ装置のリース契約を締結した場合において、当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは、リース契約の相手方に対し、当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく、上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うものと解するのが相当である。けだし、①カラオケ装置により上映又は演奏される音楽著作物の大部分が著作権の対象であることに鑑みれば、カラオケ装置は、当該音楽著作物の著作権者の許諾がない限り一般的にカラオケ装置利用店の経営者による(中略)著作権侵害を生じさせる蓋

がい然ぜん

性の高い装置ということができること、②著作権侵害は刑罰法規にも触れる犯罪行為であること(著作権法119条以下)、③カラオケ装置のリース業者は、このように著作権侵害の蓋然性の高いカラオケ装置を賃貸に供することによって営業上の利益を得ているものであること、④一般にカラオケ装置利用店の経営者が著作物使用許諾契約を締結する率が必ずしも高くないことは公知の事実であって、カラオケ装置のリース業者としては、リース契約の相手方が著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことが確認できない限り、著作権侵害が行われる蓋然性を予見すべきものであること、⑤カラオケ装置のリース業者は、著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたか否かを容易に確認することができ、これによって著作権侵害回避のための措置を講ずることが可能であることを併せ考えれば、上記注

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ステーションという機械により、テレビアンテナで受信した地上波テレビ番組を継続的に入力し、使用料を払って事業者と契約した利用者が専用の端末機で送信の指示をすると、事業者が受信した番組がベースステーションにより自動的にデジタル化されインターネットを介して利用者に送信され、利用者は端末機を操作して地元では放送されていないテレビ番組が視聴できるというサービスを提供していました。ベースステーションは事業者が事業者の事務所に設置して管理していますが所有者は利用者であり、また利用者の単一の機械宛にのみ送信する1対1の送信をする機能しかありません。このようなサービスが放送事業者としての送信可能化権

(法99条の2)などを侵害するかが争われた事案です。争点は①ベースステーションという機械が送信可能化権に関する「自動公衆送信装置」(法2条1項9の5号)といえるか、②利用者から見れば1対1対応の番組送信の指示が自動公衆送信(同項9の4)にいう「公衆からの求めに応じて」に該当するか、③そもそも当該事業者は本サービスの主体といえるかなどが争点となりました。

最高裁は、概ね自動公衆送信は公衆送信の一態様で、公衆送信は送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいい、自動公衆送信は現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制するものであるから、当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は単一の機器宛てに送信する機能しかない機械でも自動公衆送信装置に当たるとして①②を肯定しました。また本サービスの主体は当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者であり当該装置に情報を入力する者が送信の主体であるとして③も肯定し、利用者が放送番組を自分で視聴しているのとは同視することなく、放送事業者の送信可能化権の侵害を認めております(最高裁平成23 年1月18 日判決、裁判所ウェブサイト)。

ル壁面に設置した大型プロジェクターに映し出すなど公衆送信される著作物については、受信装置を用いて公衆に伝達する公衆伝達権が認められています(法23条2項)。

公衆送信権等にも権利の制限があります。まず営利を目的とせず聴衆等から料金を受け

ない場合、放送される著作物は権利者の承諾なく有線放送や放送地域での受信を目的とした自動公衆送信をすることができます(法38条2項)。これは山間部地域など放送番組の難視聴地域対策による措置です。

また、放送または有線放送される著作物が営利を目的とせず聴衆等から料金を受けない場合、権利者の承諾なく受信装置を用いて公に伝達することができます(同3項1文)。

通常の家庭用受信装置を使用するときは営利目的でも、聴衆等から料金を受け取る場合でも権利者の承諾なく公に伝達することができます

(同3項2文)。例えば飲食店の店内・ホテル・銀行・病院・空港等のロビー等に設置されているテレビジョンが家庭用テレビであれば、それがどれほど大型のテレビジョンであったとしても、放送番組を放送と同時に映し出すことは非営利か無償であるか否かにかかわらず権利者の承諾は不要です。要するにテレビジョン・ラジオ等が非常に普及している今日、家庭用受信装置を使って公衆から料金をとってテレビ番組を視聴させるということは通常考え難いことから、同3項1文の非営利性・無償性の要件を具備せずとも権利者の承諾なく公に伝達することができるとしたわけです。

最後にテレビ局の送信可能化権等の侵害が争われた事例を紹介します。ある事業者がベース

公衆送信権等の権利制限

テレビ番組の送信業者による送信可能化権等侵害事件

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