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1 平成 28 年熊本地震 建築設備被害に関する 調査報告 熊本地震災害状況調査団

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平成 28 年熊本地震 建築設備被害に関する

調査報告

熊本地震災害状況調査団

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平成 28 年熊本地震災害状況調査団報告

平成 28 年熊本地震 建築設備被害に関する 調査報告

熊本地震災害状況調査団

〔アブストラクト〕

2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分に、熊本県熊本地方の深さ 11km でマグニチュード 6.5 の地震(最

大震度 7)が、発生した。また、2 日後の 4 月 16 日 01 時 25 分に、この地震の震央付近の深さ

12km でマグニチュード 7.3 の地震(最大震度 7)が、発生した。4 月 14 日以降、熊本県熊本地方、

阿蘇地方、大分県中部等にかけての広い範囲で地震活動が活発となり、4月 15 日 00 時 03 分のマ

グニチュード 6.4(最大震度 6 強)、4 月 16 日 03 時 55 分のマグニチュード 5.8(最大震度 6 強)

などを含め、4 月 30 日までに最大震度 5 弱以上を観測した地震が、18 回発生した。

空気調和・衛生工学会では、2016 年熊本地震に関する支援対策本部を設置し、その中で安全・

防災委員会設備耐震対策小委員会を中心に関連学協会と連携して、現地調査団を結成し、同年 7

月上旬に熊本市を中心に現地調査を実施した。

その調査の概要について報告する。

はじめに

2016 年 4 月 14 日(木)21 時 26 分に発生した熊本地震に関し、支援活動を機動的かつ総合的

に推進することを目的とし、支援対策本部を 4 月 16 日に設置した。その中で、安全・防災委員会

設備耐震対策小委員会を中心として「平成 28 年熊本地震災害状況調査団」を結成し、本会九州支

部及び東北支部ならびに建築設備技術者協会、建築設備綜合協会、建築研究開発コンソーシアム

「地震後の継続使用性と設備機器等の耐震性能に関する研究」と連携し、建築設備の被害実態を

把握し、設備耐震及び設備機能維持のための技術への提言を目的として同年 7 月 11 日(月)から

13 日(水)の 3 日間熊本市街を中心に表-2 の工程で現地調査及び建物使用者へのヒアリングを

行った。参加者は表-1 の通りである。

本報告は、調査時に収集した資料を整理するとともに、今回の地震の特性と設備被害の特徴を

以下に提示する。

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表-1 平成 28 年熊本地震災害状況調査団

■空気調和・衛生工学会 本部(安全・防災対策委員会 設備耐震対策小委員会ほか)

氏名 勤務先等

森山 修治【委員長】 日本大学 工学部 建築学科 教授

木村 剛【団長】 ㈱大林組 設計本部 設備設計部 課長

水谷 国男【副団長】 東京工芸大学 工学部 建築学科 教授

佐藤 英樹【会計】 三建設備工業㈱ 事業開発本部 開発企画部 課長

林 一宏 ㈱日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ設備設計部長

荒井 安行 鹿島建設㈱ 建築設計本部 設備設計統括 Gr

込山 治良 高砂熱学工業㈱ 技術本部 新技術開発部 担当課長

本郷 智大 山形県立産業技術短期大学校 建築環境システム科 准教授

山口 秀樹 国総研建築研究部 設備基準研究室 主任検査官

■空気調和・衛生工学会 九州支部

氏名 勤務先等

龍 有二 北九州市立大学 国際環境工学部 建築デザイン学科 教授

北山 広樹 九州産業大学 工学部 住居インテリア設計学科 教授

村田 泰孝 崇城大学 工学部 建築学科 准教授

渡邉 秀雄 西日本技術開発㈱ 建築部 部長

今岡 浩司 ㈱九電工 技術本部 エネルギーソリューション部長

■空気調和・衛生工学会 東北支部

氏名 勤務先等

赤井 仁志 福島大学 共生システム理工学類 特任教授

■建築設備技術者協会 本部

氏名 勤務先等

川瀬 貴晴 千葉大学大学院工学研究科 建築・都市科学専攻建築学 教授

■建築設備綜合協会

氏名 勤務先等

中村 勉 須賀工業㈱ 執行役員 技術本部長・技術研究所長

■建築研究開発コンソーシアム「地震後の継続使用性と設備機器等の耐震性能に関する研究」

氏名 勤務先等

向井 智久 建築研究所構造研究グループ 主任研究員

神原 浩 清水建設㈱ 技術研究所 主任研究員

諏訪 仁 ㈱大林組 技術研究所 課長

参加者数 20 名、参加日程は団員により若干異なる。

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表-2 調査日程と調査物件

7 月 11 日 施設名称 所在地 竣工年数 構造

種別規模 etc

前震/

本震

A

P

M

① A 病院 宇城市 2012 年 RC 延床 14,500 ㎡、B1F/4F 6 弱

/6 強

② B 事務所 熊本市 2014 年 S 延床 24,500 ㎡、B2F/9F 6 弱

/6 弱

B

P

M

③ C 庁舎 上益城郡 1974 年 RC 延床 2,500 ㎡、B1F/3F 5 強

/6 弱

④ D 病院 熊本市 管理棟 2001年、

南棟 1979 年、

北棟 1984 年

SRC 管理棟 6,300 ㎡・7F、

南棟 12,800 ㎡・B1F/8F、

北棟 14,300 ㎡・B1F/8F

6 弱

/6 強

7 月 12 日 施設名称 所在地 竣工年数 構造

種別規模 etc

前震/

本震

A

A

M

⑤ E ホール 上益城郡 1998 年 S 延床 20,000 ㎡、2F 6 弱

/6 強

P

M

➅ F 工場 合志市 1999 年 S 延床 1,000 ㎡、2F 5 強

/6 強

⑦ G 病院 阿蘇市 2014 年 RC

免震

延床 11,500 ㎡、4F 4

/6 弱

P

M

⑧ H ホテル 熊本市 1992 年 RC 延床不明、B1F/10F 5 強

/6 強

B

A

M

⑨ I ホール 熊本市 1967 年 RC 延床 9,200 ㎡、B4F/1F 6 弱

/6 強

P

M

⑩ J 大学 熊本市 - 6 弱

/6 弱

⑪ K ホール 熊本市 1982 年 SRC 延床 24,000 ㎡、B2F/2F 6 弱

/6 弱

7 月 13 日 施設名称 所在地 竣工年数 構造

種別規模 etc

前震/

本震

A

A

M

⑫ L 病院 熊本市 本館:1998 年、

エネルギー棟:

1999 年、救急

棟:2012 年

SRC 延床 13,110 ㎡、B1F/5F 5 強

/6 強

P

M

⑬ M 放送局 熊本市 1995 年改築、

2002 年増築

S 延床 5,000 ㎡、4F 5 強

/6 強

⑭ N 店舗 菊池郡 2004 年 S 延床不明、4F 6 弱

/6 強

⑮ O 店舗 熊本市 2006 年 S 延床 9,900 ㎡、B1F/2F 6 弱

/6 強

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B

A

M

⑯ P 事務所 熊本市 2000 年 SRC 延床 8,800 ㎡、B1F/7F 6 弱

/6 弱

⑰ Q 図書館 熊本市 2012 年 S 延床 52,500 ㎡、B1F/6F 6 弱

/6 強

P

M

⑱ R 体育館 熊本市 1982 年 S 延床 15,500 ㎡、2F 6 弱

/6 弱

⑲ S ホール 熊本市 1997 年 S 延床 27,000 ㎡、B2F/1F 6 弱

/6 弱

1. 平成28年(2016 年)熊本地震の特徴

熊本県熊本地方で、2016 年 4 月 14 日にマグニチュード 6.5 の地震(前震)が、4 月 16 日にマ

グニチュード M7.3 の地震(本震)が発生し、いずれも最大震度 7 を記録した。また、震度 6 弱を

上回る地震は、計 7 回観測され、熊本県を中心に数多くの建築物に倒壊などの被害をもたらした。

気象庁は、一連の地震活動を「平成 28 年(2016 年)熊本地震」と命名した。

この地震の詳細については関連の発表が数多くなされており、詳細はそれらを参照願いたいが、

以下に概要のみをまとめる。

(1)地震の概要

本地震の特徴として、内陸の活断層の活動によること、震源の近くでは強い揺れに何度も襲わ

れた地区があること等が挙げられる。図-1 に地震調査研究推進本部地震調査委員会にて発表され

た震央分布図 1)を示す。

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図-1 震央分布図

(2016 年 4 月 14~2016 年 5 月 12 日 09 時 30 分、深さ 0~20km、M 全て)

表-3 に震央分布図の領域 a 内で発生した地震のうち、震度 5 弱以上を観測した地震の最大震度

1)を示す。

表-3 領域 a 内の最大震度

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図-2,3 に建築研究所の速報 2)に示された前震と本震の速度応答スペクトルを示す。前震では JR

鷹取(1995)等の過去地震と同程度であったが、本震では、過去地震を超える記録が観測されて

いる。

図-2 疑似速度応答スペクトルの比較(前震)

(破線は、NS 方向、実線は EW 方向を示す。)

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図-3 疑似速度応答スペクトルの比較(本震)

(破線は、NS 方向、実線は EW 方向を示す。)

図-4 に本震での推計震度分布図を示す。

図-4 推計震度分布図(気象庁作成)

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表-4 に本震での各地の計測震度と最大加速度(震度 6 弱以上)を示す。

表-4 本震での計測震度および最大加速度(気象庁作成)

本地震のもう一つの特徴は、度重なって発生した余震にある。4 月 14 日の前震発生から 5 月 11

日 13 時 30 分までのマグニチュード 3.5 以上の地震の発生回数の積算値を表-5 に示す。積算回数

は、234 回となっており、2004 年の新潟県中越地震を上回っている。

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表-5 地震回数比較(気象庁作成)

※熊本地震は、4 月 14 日 21 時 26 分発生の地震からの経過日数および積算日数を示す。

※熊本地震は、熊本県熊本地方の地震を対象としている。

※熊本地震のマグニチュードについては、5 月 11 日段階での最大値を示す。

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2.公共ライフラインの被害と復旧

震災被害において、公共ライフラインの途絶は建物設備の機能維持に大きな影響を与えること

になる。今回の熊本地震において、本震となる 4 月 16 日(土)からのライフライン復旧状況を表-6

に示す。

表-6 ライフラインの復旧状況

※ 復旧の日時に関して、公開情報に日にちのみの記載があり時刻が不明な場合は復旧時刻を 18:00 として表現している。

※ 電気の停電戸数は、九州電力による 4 月 21 日の公開情報中の表を目視にて読み取った概値となる。

※ 都市ガスの復旧率は、西部ガスによる緊急プレスリリース記載の値となる。

※ 上水道は「首相官邸_非常災害対策本部会議資料」中の厚生労働省よりの提供資料中の値となる。

復旧率 90%到達で比較した場合、電力が最も早く、続いて都市ガス(中圧)、水道、都市ガス(低

圧)の順となっている。

(1)電力

4 月 14 日の前震にて最大 1.7 万戸で停電、その後の 4 月 16 日の本震では最大 47 万戸で停電が

発生した(国土交通省資料より)。阪神・淡路大震災の約 260 万戸、東日本大震災の約 870 万戸に

は至らぬものの、斜面崩壊による送電設備の被害や、がいし・断路器といった変電設備廻りの損

傷、電柱折損による配電設備被害などが発生した。

(2)水道

九州 7 県において被災 34 市町村、約 44 万戸が断水した(厚生労働省資料より)。これは、近年

の震度 7 を記録した新潟県中越地震(約 13 万戸)を超え、阪神・淡路大震災(約 130 万戸)、東

日本大震災(約 257 万戸)につぐ値となっている。主な理由としては、大規模な斜面崩壊による

基幹管路の損傷や、家屋等に向かう給水管の損傷、また地下水を水源としている場合の揚水量の

減少や送水管の流出などが上げられている。復旧率 90%到達は 6 日間となっているが、上水とし

て飲適確保に至るまでにはさらに時間を要しており、その間給水水圧低下なども生じている。

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(3)都市ガス

復旧対数戸数は 10.1 万戸、阪神・淡路大震災の約 85.7 万戸、東日本大震災の約 40.2 万戸には

至らぬものの、新潟県中越地震の 5.7 万戸を超える数となった(日本ガス協会資料より)。中圧ガ

スに関しては、供給再開日調整中の施設を除き 4 月 20 日に全施設の復旧完了、4 月 30 日には、

低圧復旧が完了した。

(4)下水道

下水道に関しては、県下 38 の処理場のうち、13 箇所の処理場が被災するも、4 月中には必要な処

理機能を確保した。また、下水管総延長 6,800km に対し、被災延長は 83.8km、約 2.6%であった

(国土交通省資料より)。

3.建築設備被害調査の結果

今回の調査施設の建築設備の被害状況について要点を中心に表-7 として取りまとめた。結び後

の巻末に添付する。

4.平成28年熊本地震による建築設備被害の総括

(1)建築設備被害

平成 28年熊本地震による建築設備被害では、屋上冷却塔及び冷却水配管の破損が多く見られた。

これは、屋上の冷却水配管が置き基礎上に設置されていたため、地震力によって配管が移動し、

冷却塔の落とし込み水槽への冷却水配管接続部に大きな力が加わって、FRP 製の水槽の破損や配

管フレキが損傷したものと考えられる(C 庁舎、D 病院、I ホール、K ホール)。

一方、受水槽や高架水槽の被害も多かった。例えばスロッシングによるとみられる屋外受水槽

の天板の破損と高架水槽のオーバーフロー管の破損(D 病院)、高架水槽給水管の損傷による漏水

(K ホール)、高架水槽パネル及び受水槽パネルからの漏水(L 病院)などである。

また、スプリンクラー巻き出しフレキ管の断裂・漏水(Q 図書館)や実験機器への接続給水管

の断裂(J 大学)などは、細い配管からの漏水であったが、地震被害発生が夜間であり、漏水の発

見が遅れたため、大きな水損被害となった。

そのほか、給排水設備関係の被害としては、建物周囲地盤の傾斜・陥没に伴う受水槽の傾斜(I

ホール)や地中埋設管の断裂(I ホール、R 体育館)のほか、地下水槽の水が噴き出して給水ユニ

ットの制御盤にかかり、給水不能になるといった事例(P 事務所)も見られた。

空調関係では、天井カセット型空調機のフェースや制気口の脱落(A 病院、E ホール、I ホール)、

ドレン管の断裂(F 工場)、ダクトの変形(F 工場、Q 図書館)など比較的軽微な被害だけでなく、

冷温水管の断裂(A 病院)や大口径横引き冷水配管の落下(N 店舗)、天井の落下に伴う制気口の

落下(C 庁舎)や吊りボルトの断裂による天吊り空調機の落下(P 事務所)及び送風機の落下(Q

図書館)など、深刻な被害も見られた。また、冷却塔と同様に屋上機器の配管は、置き基礎の移

動が見られたが、冷媒配管などは軽量で可撓性があり、機器接続部の損傷は軽微であった。ただ

し、GHP 室外機(L 病院)などは、機器の内部が損傷している可能性がある。

電気設備関係では、キュービクルトランス本体の油漏れ(A 病院)やトランス防振架台の損傷

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(防振ストッパの不足)による接触停電及びケーブル長さが足らなかったことによる LBS 破損(L

病院)などの被害があった。また、電気温水器の転倒(B 事務所)や照明カバーの落下(R 体育館)

なども見られた。

なお、エキスパンションジョイント部の破損(F 工場)やスプリンクラー配管の吊り支持金物の

脱落(Q 図書館)など、施工配慮不足と思われる事例も見られた。

一方で、スプリンクラー配管や舞台の照明器具に耐震補強が施工された建物(K ホール)や免

震建物(G 病院)においては、設備の損傷がほとんどみられないなどの効果が確認された。

(2)設備機能継続

設備機能の継続を阻害する要因と継続するための工夫についていくつかヒアリングを行うこと

ができた。施設の用途や被災後の活動内容で、継続すべき設備機能は異なり、そのための準備は

大きく異なることを再認識した調査となった。

病院施設では、4 件中 3 件が災害拠点病院であり、建物損傷度によって違いはあったが、懸命に

活動されていた。電気設備の機能継続は最優先であり、その中で生じた電気設備本体での故障の

影響が大きく、その復旧の迅速性は重要である。給水設備は、調査した病院では上水と雑用水の

系統分けがなされており、断水時の上水の対応で苦慮されていた。ヒアリングでは井戸水の上水

利用(処理設備とも)を切望されていた。

ホール等大きな空間を持った施設は、避難者が集まり、避難施設としての想定がされていない

にも関わらず、避難施設としての役割を求められる状況となっていた。放送局では全国からの報

道陣の集中による利用者数が増え、便所の使用が日常より多くなり、蓄熱槽の水を洗浄水として

利用されていた。店舗では早期の営業再開に対して、SP 消火等の漏水被害があると、電気設備の

漏電チェックや配管の漏水チェックなどで復旧作業に与える影響が大きく苦慮されていた。

5.平成 28 年度 空気調和・衛生工学会大会(鹿児島)での発表

2016 年 9 月 14 日から 9 月 16 日に開催された平成得 28 年空気調和・衛生工学会大会(鹿児島)

のワークショップにて「熊本地震調査の速報」と題して、本調査の速報報告を行った。

当日のプログラムは、表-8 となる。当日発表の PPT 原稿を巻末に添付する。

表-8 ワークショップ「熊本地震調査の速報」のプログラム

時刻 時間 発表内容 講師

14:00

~14:20

20 熊本地震の特徴と建築構造の被害

(地震の全体像の概要)

向井 智久 (建築研究開発コンソーシ

アム・建築研究所)

14:20

~14:50

30 建築設備の被害調査速報 その 1

(調査団 A 班からの報告)

林 一宏(日建設計)

14:50

~15:20

30 建築設備の被害調査速報 その 2

(調査団 B 班からの報告)

水谷 国男(東京工芸大学)

15:20

~15:50

30 調査から得た機能継続への支障と工夫

について

木村 剛 (大林組)

15:50

~16:20

30 討論

司会 森山修治(日本大学)

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結び

平成 28 年熊本地震は、最大震度 7 が連続した内陸型地震で、過去最大数の余震を特徴としてい

る。多くの建築設備被害は本震と呼ばれる地震時に発生したと言われており、前震やその後の余

震などの連続地震による影響は明らかにされていない。建築設備被害の現象は過去の大地震で経

験したものに近似しており、その多くは、これまでの建築設備耐震措置の有効性を証明する形と

なっていると考える。但し、機器本体の故障事例も見受けられ精査が必要だと考える。また、設

備機能継続に関連した現地での工夫についても整理し、耐震設計の一つと捉えて整理したいと考

える。今回の現地調査以外にも設備関連学協会で連携して調査記録の収集を行っており、継続し

て整理分析してゆきたいと考えている。

最後になりましたが調査に際して、施設内調査を快く受け入れて頂いた建物所有者の方々、各

施設の管理に当たられている方々、そして、各方面との調整にご尽力頂いた当学会九州支部、建

築研究開発コンソーシアム・建築研究所の皆様には、ご多忙の中、大変お世話になりました。紙

面をお借りして厚く御礼申し上げます。

参考文献

1) 地震調査推進本部地震調査委員会:平成 28 年(2016 年)熊本地震の評価

2) 建築研究所:平成 28 年(2016 年)熊本地震建築物被害調査報告(速報),建築研究資料 No.173

号」