11
第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温 第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 1.1 海水温 1.1.3 日本近海の海面水温 日本近海の海面水温 診断概要 診断内容 日本周辺には、東シナ海、日本海やオホーツク海など陸地や島で囲まれた縁辺海があり、 また太平洋側においても亜熱帯循環域や亜寒帯循環域に大きく分けられ、海面水温の上昇 は一様ではない。ここでは日本近海を13海域に分け、それぞれの平均海面水温について、 100年間にわたる長期変化傾向を診断する。 診断結果 日本近海の13海域平均海面水温を加重平均した全海域平均海面水温(年平均)の上昇率 +1.08/100年で、世界全体で平均した海面水温の上昇率(+0.51/100年)よりも大き な値である。海域別にみると、黄海、東シナ海、日本海南部、四国・東海沖北部では日本 の気温の上昇率(+1.15 /100 年)と同程度となっている。日本海北東部では、海域平均 海面水温(年平均)に統計的に有意な長期変化傾向は見出せない。 海面水温の基礎知識については、「第1 地球温暖化に関わる海洋の長期変化」 の「 1.1 海面水温 1.1.1 世界の海面水 温」や「第2章 気候に関連する海洋の変 動」の「 2.2 日本近海の海洋変動 2.2.1 日本近海の海面水温」を参照されたい。 日本近海の海面水温の監視 (1) 100 年以上の期間にわたる日本近海の 海面水温の解析 気象庁は、船舶から通報された海面水温を 含む海上気象観測資料を品質管理して客観解 析を行うことにより、1891 年から現在までの 100 年以上にわたる1 度格子の海面水温格子点 データ( COBE-SST Centennial in situ Observation-Based Estimates of the variability of sea surface temperature and marine meteorological variables Sea Surface Temperature COBE-SST の詳細ついては 1.1.1 世界の海面水温」を参照されたい) Ishii et al., 2005 を整備した。更に、こ のデータを用いて日本近海における 100 年あ たりの海面水温上昇率を、+ 0.97 /100 年と 見積もった(倉賀野ほか,2007 )。 しかし、この海面水温格子点データは全球 規模の気候変動の監視や数値モデルの境界値 として用いることを目的としており、大きな 空間スケールで解析されている。このため、 日本近海の細かい空間スケールと海域特性に 起因する海域ごとの海面水温の長期変化傾向 の相違を診断するためには適切ではない。そ こで、日本近海を海域特性に応じて区分し、 それぞれの海域における現場観測データを 使って海域平均海面水温を算出し、その上昇 41

¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 北西太平洋の底層の水温変化

ていない。

3 診断 2010~2012年の観測と1980~1990年代の観

測の比較から、北西太平洋の底層の水温に

0.004~0.005℃の上昇がみられる。太平洋では、

1990年代以降、他の海域においても同程度の

底層の水温上昇が確認されている。これらの

観測結果や数値モデルによる解析結果から、

北西太平洋の底層での水温上昇は、南極周辺

の海域における海水の冷却が弱まり、沈み込

む海水が減少した影響が海底地形に沿って数

十年かけて北西太平洋まで伝播し、水温の上

昇として現れたものであることが示されてい

る。 深層循環の変化は気候に大きな影響を与え

るため、これらの底層の水温上昇が地球温暖

化に伴うものかどうかについては、継続的な

観測データによる検証が必要である。そして、

南極周辺の海域を起源とした深層循環の状態

がどのように変化するのか、長期的に監視を

続ける必要がある。

参考文献

Antonov, J. I., D. Seidov, T. P. Boyer, R. A.

Locarnini, A. V. Mishonov, H. E. Garcia, O. K.

Baranova, M. M. Zweng, and D. R. Johnson,

2010: World Ocean Atlas 2009, Volume 2:

Salinity. S. Levitus, Ed., NOAA Atlas NESDIS

69, U.S. Government Printing Office,

Washington, D.C., 184 pp.

Fukasawa, M., H. Freeland, R. Perkin, T. Watanabe,

H, Uchida, and A. Nishina, 2004: Bottom water

warming in the North Pacific Ocean. Nature, 427,

825-827.

IPCC, 2001 : Climate Change 2001 : Synthesis

Report. A Contribution of Working Groups I, II,

and III to the Third Assessment Report of the

Intergovernmental Panel on Climate Change

[Watson, R.T. and the Core Writing Team (eds.)].

Cambridge University Press, Cambridge, United

Kingdom and New York, NY, USA, 398 pp.

Johnson, G. C., and J. M. Toole, 1993: Flow of deep

and bottom water in the Pacific at 10°N. Deep

Sea Res., Part I, 40, 371-394.

Johnson, G.C., S. Mecking, B.M. Sloyan and S.E.

Wijffels, 2007: Recent Bottom Water Warming

in the Pacific Ocean. J. Climate, 20, 5365-5375.

Kawabe, M., and S. Fujio, 2010: Pacific Ocean

Circulation Based on Observation. J. O., 66, 389-

403.

Kawano, T., M. Fukasawa, S. Kouketsu, H. Uchida,

T. Doi, I. Kaneko, M. Aoyama, and W. Schneider,

2006: Bottom water warming along the pathway

of lower circumpolar deep water in the Pacific

Ocean. Geophys. Res. Lett., 33, L23613,

10.1029/2006GL027933.

Locarnini, R. A., A. V. Mishonov, J. I. Antonov, T.

P. Boyer, H. E. Garcia, O. K. Baranova, M. M.

Zweng, and D. R. Johnson, 2010: World Ocean

Atlas 2009, Volume 1: Temperature. S. Levitus,

Ed., NOAA Atlas NESDIS 68, U.S. Government

Printing Office, Washington, D.C., 184 pp.

Masuda, S., T. Awaji, N. Sufiura, J. P. Matthews, T.

Toyoda, Y. Kawai, T. Doi, S. Kouketsue, H.

Igarashi, K. Katsumata, H. Uchida, T. Kawano,

and M. Fukasawa, 2010: Simulated Rapid

Warming of Abyssal North Pacific Waters.

Science, 329, 319-322.

40

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化

1.1 海水温

1.1.3 日本近海の海面水温

日本近海の海面水温

診断概要

診断内容

日本周辺には、東シナ海、日本海やオホーツク海など陸地や島で囲まれた縁辺海があり、

また太平洋側においても亜熱帯循環域や亜寒帯循環域に大きく分けられ、海面水温の上昇

は一様ではない。ここでは日本近海を13海域に分け、それぞれの平均海面水温について、

100年間にわたる長期変化傾向を診断する。

診断結果

日本近海の13海域平均海面水温を加重平均した全海域平均海面水温(年平均)の上昇率

は+1.08℃/100年で、世界全体で平均した海面水温の上昇率(+0.51℃/100年)よりも大き

な値である。海域別にみると、黄海、東シナ海、日本海南部、四国・東海沖北部では日本

の気温の上昇率(+1.15℃/100年)と同程度となっている。日本海北東部では、海域平均

海面水温(年平均)に統計的に有意な長期変化傾向は見出せない。

海面水温の基礎知識については、「第1

章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化」

の「 1.1 海面水温 1.1.1 世界の海面水

温」や「第2章 気候に関連する海洋の変

動」の「2.2 日本近海の海洋変動 2.2.1

日本近海の海面水温」を参照されたい。

1 日本近海の海面水温の監視

(1)100年以上の期間にわたる日本近海の

海面水温の解析

気象庁は、船舶から通報された海面水温を

含む海上気象観測資料を品質管理して客観解

析を行うことにより、1891年から現在までの

100年以上にわたる1度格子の海面水温格子点

デ ー タ ( COBE-SST : Centennial in situ

Observation-Based Estimates of the variability

of sea surface temperature and marine

meteorological variables - Sea Surface

Temperature 。 COBE-SST の 詳 細 つ い て は

「 1.1.1 世界の海面水温」を参照されたい)

( Ishii et al., 2005) を整備した。更に、こ

のデータを用いて日本近海における100年あ

たりの海面水温上昇率を、+0.97℃ /100年と

見積もった(倉賀野ほか,2007)。

しかし、この海面水温格子点データは全球

規模の気候変動の監視や数値モデルの境界値

として用いることを目的としており、大きな

空間スケールで解析されている。このため、

日本近海の細かい空間スケールと海域特性に

起因する海域ごとの海面水温の長期変化傾向

の相違を診断するためには適切ではない。そ

こで、日本近海を海域特性に応じて区分し、

それぞれの海域における現場観測データを

使って海域平均海面水温を算出し、その上昇

41 41

Page 2: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

率を求めることとした。詳細は、高槻ほか

(2007)を参照されたい。

ア 解析に使用するデータ

解析に使用するデータは、前述の海面水温

格子点データ(COBE-SST)と現場観測デー

タである。前者の空間解像度は緯経度1度、

時間解像度は月平均値となっており、「海洋

の健康診断表」 1の定期診断表「海面水温の

長期変化傾向(全球平均)」、「全球の海面

水温の変動」、及び総合診断表の「1.1.1 世

界の海面水温」は、これを用いて診断してい

る 。 後 者 は 、 ICOADS ( International

Comprehensive Ocean and Atmosphere Data

Set)(Woodruff et al., 2011)及び神戸コレ

ク シ ョ ン ( Manabe, 1999 ; 岡 田 ・ 坂 井 ,

1 http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/index.html

2003)を中心とした歴史的な観測データ及び

全球通信システム(GTS)を通じて収集され

た海上実況気象通報などから、北緯20~50度、

東経110~160度の範囲の海面水温観測値を抽

出したもので、2011年までの全データ数は約

2050万通である。抽出されたデータ数の年別

推移を図1.1.3-1に示す。1900年以前及び1945

年を除く1942~1948年は年2万通未満である

が、第二次世界大戦前の1911~1941年は年5

万通以上、1953年以降は年10万通以上のデー

タが得られている。

イ 海域区分

日本周辺には、東シナ海、日本海やオホー

ツク海など陸地や島で囲まれた縁辺海があり、

また太平洋側においても亜熱帯循環域や亜寒

図1.1.3-1 年ごとの海面水温の現場観測データ数の推移(単位:1000通)

上図は全期間、下図は1890-1950年の期間を拡大したもの。

42 42

Page 3: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

率を求めることとした。詳細は、高槻ほか

(2007)を参照されたい。

ア 解析に使用するデータ

解析に使用するデータは、前述の海面水温

格子点データ(COBE-SST)と現場観測デー

タである。前者の空間解像度は緯経度1度、

時間解像度は月平均値となっており、「海洋

の健康診断表」 1の定期診断表「海面水温の

長期変化傾向(全球平均)」、「全球の海面

水温の変動」、及び総合診断表の「1.1.1 世

界の海面水温」は、これを用いて診断してい

る 。 後 者 は 、 ICOADS ( International

Comprehensive Ocean and Atmosphere Data

Set)(Woodruff et al., 2011)及び神戸コレ

ク シ ョ ン ( Manabe, 1999 ; 岡 田 ・ 坂 井 ,

1 http://www.data.kishou.go.jp/kaiyou/shindan/index.html

2003)を中心とした歴史的な観測データ及び

全球通信システム(GTS)を通じて収集され

た海上実況気象通報などから、北緯20~50度、

東経110~160度の範囲の海面水温観測値を抽

出したもので、2011年までの全データ数は約

2050万通である。抽出されたデータ数の年別

推移を図1.1.3-1に示す。1900年以前及び1945

年を除く1942~1948年は年2万通未満である

が、第二次世界大戦前の1911~1941年は年5

万通以上、1953年以降は年10万通以上のデー

タが得られている。

イ 海域区分

日本周辺には、東シナ海、日本海やオホー

ツク海など陸地や島で囲まれた縁辺海があり、

また太平洋側においても亜熱帯循環域や亜寒

図1.1.3-1 年ごとの海面水温の現場観測データ数の推移(単位:1000通)

上図は全期間、下図は1890-1950年の期間を拡大したもの。

42

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

帯循環域に大きく分けられることから、海面

水温の変動傾向が類似している海域を抽出し

て海域区分を設定することとした。

このため、1951~2000年の50年間の海面水

温格子点データを用いてクラスター解析を

行った。クラスター解析の手法はウォード法

(クラスター内の各点からクラスター重心点

までの距離の二乗和が最小になるようにクラ

スターを分類する方法)を用いた。このとき、

周期が1年以下の短期変動の影響を除くため

に、あらかじめ海面水温格子点データに12か

月移動平均を施した資料を用いた。

クラスター解析の結果と、データの分布状

況を考慮して、図1.1.3-2で示す13の海域を設

定した。オホーツク海域は 1960年代以前の

データ数が少ないため解析の対象外とした。

ウ 月平均の海域平均海面水温の計算

前節で設定した13個の海域を対象として、

1900年から2011年までの月平均海面水温平年

差を次の手順によって求めた。

図1.1.3-2 海域区分と海域名称

43

43

Page 4: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

まず、対象海域の現場観測海面水温データ

それぞれについて、その観測日及び観測位置

における海面水温格子点データからの偏差を

求める。次に月ごと、1度格子ごとに偏差の

平均値を求める。更に1度格子の偏差の平均

値を対象海域全体で平均して、月平均の海域

平均偏差とする。このようにするのは、海域

内の現場観測海面水温データを単純に算術平

均すると、それぞれのデータの観測日や観測

点の偏りによってバイアス誤差が生じる可能

性があるためである。

1941年以前の現場観測海面水温データには、

観測手法の違いによる系統的な誤差があるた

め、ここでは、Folland and Parker(1995)によ

る補正値を加えている。また気候値からの偏

差が標準偏差の3.5倍を超えている観測デー

タは除外している。1度格子内で観測値のば

らつきが極端に大きい場合は現場観測海面水

図1.1.3-3 日本近海の海域平均海面水温(年平均)の長期変化傾向(℃/100年)

図中の無印の上昇率は統計的に99%有意な値を、『*』および『**』を付加した値はそれぞれ

95%、90%有意な値を示す。上昇率が『[#]』とあるものは、統計的に有意な長期変化傾向が

見出せないことを示す。統計期間は1900年から2012年。 44

44

Page 5: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

まず、対象海域の現場観測海面水温データ

それぞれについて、その観測日及び観測位置

における海面水温格子点データからの偏差を

求める。次に月ごと、1度格子ごとに偏差の

平均値を求める。更に1度格子の偏差の平均

値を対象海域全体で平均して、月平均の海域

平均偏差とする。このようにするのは、海域

内の現場観測海面水温データを単純に算術平

均すると、それぞれのデータの観測日や観測

点の偏りによってバイアス誤差が生じる可能

性があるためである。

1941年以前の現場観測海面水温データには、

観測手法の違いによる系統的な誤差があるた

め、ここでは、Folland and Parker(1995)によ

る補正値を加えている。また気候値からの偏

差が標準偏差の3.5倍を超えている観測デー

タは除外している。1度格子内で観測値のば

らつきが極端に大きい場合は現場観測海面水

図1.1.3-3 日本近海の海域平均海面水温(年平均)の長期変化傾向(℃/100年)

図中の無印の上昇率は統計的に99%有意な値を、『*』および『**』を付加した値はそれぞれ

95%、90%有意な値を示す。上昇率が『[#]』とあるものは、統計的に有意な長期変化傾向が

見出せないことを示す。統計期間は1900年から2012年。 44

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

温データのもととなる海上実況気象通報など

に立ち戻って品質管理を行った。なお、1度

格子内の観測データが2通以下の場合は海域

平均を算出する際に除外している。

このようにして求めた海域平均偏差に、海

面水温格子点データの海域平均値を加えるこ

とで、月平均の海域平均海面水温とした。そ

して1981~2010年の30年平均値からの差を、

月平均の海域平均海面水温の平年差とし、小

数第2位までを海域平均海面水温とした。こ

のようにして求めた1981~2010年の30年間の

各月の平均値からの差を海域平均海面水温の

月平均の平年差とし、小数第2位を四捨五入

して小数第1位まで求めている。

また、13の海域平均海面水温を海域の面積

に応じて加重平均した全海域平均海面水温を

求めた。

エ 年平均及び季節平均の海域平均海面水

年平均の海域平均海面水温の平年差は、当

該年に含まれる月平均の海域平均海面水温の

平年差を平均することで求めており、その際、

月平均の平年差が5か月以上算出されている

ことを条件とした。

季節平均の海域平均海面水温の平年差は、

当該季節に含まれる月平均の海域平均海面水

温の平年差を平均することで求めており、そ

の際、月平均の平年差が2か月以上算出され

ていることを条件とした。

なお、日本近海における海面水温は、南西

諸島を除いて2月下旬から3月下旬に最も低く

なり、8月下旬から9月上旬に最も高くなるこ

とから、1-3月を冬、4-6月を春、7-9月を夏、

10-12月を秋としている。

オ 上昇率の求め方と有意性の検定方法

年平均と季節平均の海域平均海面水温の平

年差を一次回帰分析することにより、100年

間あたりの上昇率を求めた。もとめられた長

期変化傾向が統計的に有意であるかどうかの

検定は、一次回帰分析による検定と母集団か

ら大きく外れた値が含まれている場合やデー

タの無い期間の影響を受けにくい方法とされ

ているMann-Kendallトレンド検定を用いた。

この2種類の検定をそれぞれ1%、5%、10%

の異なる3つの危険率について行い、有意性

を判定した。本文中ではその有意性に応じて

以下のような表現を使用した。2種類の検定

において、どちらも危険率1%で統計的に有

意な場合は、「上昇(下降)している」と表

現し、同様に5%、10%で有意な場合はそれ

ぞれ、「上昇(下降)傾向が明瞭に現れてい

る」、「上昇(下降)傾向が現れている」と

表現した。また、危険率が10%より大きい場

合は、「変化傾向はみられない」と表現した。

(2)日本近海の海面水温の長期変化傾向

図 1.1.3-3に日本近海の海域平均海面水温

(年平均)の1900年から2012年までの長期変

化傾向を示す。各海域における上昇率は、+

0.63~+1.72℃ /100年である。世界全体で平

均した海面水温の上昇率は、+0.51℃ /100年

であり(気象庁,2013)、日本近海の海面水

温の上昇率はそれよりも大きい。

気候変動に関する政府間パネル( IPCC)

の報告によると世界の年平均気温の長期変化

傾向 は一様でなく、アジアの内陸部などで

上昇傾向が大きい( IPCC,2007)。日本の

年平均気温の上昇率(+1.15℃ /100年(気象

庁,2013))や日本近海の海面水温の上昇率

は、この影響を受けている可能性がある。

45 45

Page 6: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

季節別の上昇率は、釧路沖、日本海中部、

黄海、東シナ海北部、東シナ海南部、四国・

東海沖北部、関東の南では冬季に、日本海南

部、先島諸島周辺、四国東海沖南部では秋季

に最も大きくなっている。日本海中・南部、

黄海、東シナ海、関東の南では夏季に最も小

さくなっている(図1.1.3-4)。

以下に、海域ごとの変化傾向の特徴を述べ

る。

ア 北海道周辺・日本東方海域の変化傾

向の特徴

北海道周辺・日本東方海域における海域平

均海面水温(年平均)は、釧路沖では明瞭な

上昇傾向が現れ(+0.98℃ /100年)三陸沖で

上昇傾向が現れている(+ 0.63℃ /100年)

(図1.1.3-3)。

図1.1.3-4 日本近海の海域平均海面水温(季節平均)の長期変化傾向(℃/100年)

図中の無印の上昇率は統計的に99%有意な値を、『*』および『**』を付加した値はそれぞれ

95%、90%有意な値を示す。上昇率が『[#]』とあるものは、統計的に有意な長期変化傾向が

見出せないことを示す。統計期間は1900年から2012年。

46 46

Page 7: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

季節別の上昇率は、釧路沖、日本海中部、

黄海、東シナ海北部、東シナ海南部、四国・

東海沖北部、関東の南では冬季に、日本海南

部、先島諸島周辺、四国東海沖南部では秋季

に最も大きくなっている。日本海中・南部、

黄海、東シナ海、関東の南では夏季に最も小

さくなっている(図1.1.3-4)。

以下に、海域ごとの変化傾向の特徴を述べ

る。

ア 北海道周辺・日本東方海域の変化傾

向の特徴

北海道周辺・日本東方海域における海域平

均海面水温(年平均)は、釧路沖では明瞭な

上昇傾向が現れ(+0.98℃ /100年)三陸沖で

上昇傾向が現れている(+ 0.63℃ /100年)

(図1.1.3-3)。

図1.1.3-4 日本近海の海域平均海面水温(季節平均)の長期変化傾向(℃/100年)

図中の無印の上昇率は統計的に99%有意な値を、『*』および『**』を付加した値はそれぞれ

95%、90%有意な値を示す。上昇率が『[#]』とあるものは、統計的に有意な長期変化傾向が

見出せないことを示す。統計期間は1900年から2012年。

46

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

図1.1.3-5に北海道周辺・日本東方海域の平

均海面水温平年差の長期変化を示す。どちら

の海域においても十年から数十年程度の時間

規模の変動が大きい。北太平洋では、約20年

周期で北太平洋中部(東日本周辺まで及ぶ広

い範囲)の海面水温が高く(低く)なると、

北太平洋東部や 赤道域で低く(高く)なる

という自然変動現象(太平洋十年規模振動:

PDO)がみられる(総合診断表「2.1.1北太平

洋の海面水温・表層水温」参照)。北海道周

辺・日本東方海域の海域平均海面水温の十年

から数十年程度の時間規模の変動には、この

ような変動が大きく影響していると考えられ

る。

三陸沖では、1940年前後の欠測期を境に水

温が上昇している。この傾向は、江ノ島(宮

城県)や宮古の沿岸水温観測データにもみら

れる(高槻ほか,2007)。

季節別では、釧路沖の冬季の海面水温は

上昇しており、釧路沖の春季、三陸沖の冬季、

三陸沖の秋季では、上昇傾向が明瞭に現れて

いる。(図1.1.3-4)

イ 関東沖海域の変化傾向の特徴

関東沖海域における海域平均海面水温(年

平均)は、関東の南で上昇しており(+

0.96℃ /100年)、関東の東では上昇傾向が現

れている(+0.67℃ /100年)。

図1.1.3-5に関東沖海域の平均海面水温平年

差の長期変化を示す。関東の東の海域平均海

面水温の変動は、関東の南にくらべて大きく

なっており、十年から数十年程度の時間規模

の変動がみられる。関東の東は黒潮続流の流

域にあたり、黒潮の流路が北上すると黒潮系

の暖かい海水の占める割合が増大し、海面水

温は上昇する。関東の東の海域平均海面水温

の変動には、黒潮流路の変動や(ア)で述べ

た太平洋十年規模変動が大きく影響している

と考えられる。

一方、関東の南では、関東の東に比べ年々

の変動幅が小さく、1960年代後半から1970年

代にかけて低温期がみられ、1950年代前半と

1990年代後半以降に高温期がみられる。また、

1940年代の欠測期をはさんで、昇温がみられ

る。なお、この海域内に位置する八丈島の沿

岸水温は、黒潮の変動の影響が強く、海域平

均海面水温の傾向と異なる(高槻ほか,

2007)。

季節別では、関東の南では全ての季節にお

いて海面水温が上昇しており、冬季の上昇率

が最も大きい。関東の東では、秋季の海面水

温に明瞭な上昇傾向がみられ、春季には上昇

傾向が現れているものの、夏季と冬季には変

化傾向がみられない。

ウ 日本海の変化傾向の特徴

日本海における海域平均海面水温(年平

均)は、日本海中部(+1.72℃ /100年)及び

日本海南部(+1.26℃ /100年)で上昇してい

る。これらは、世界全体で平均した海面水温

の上昇率(+0.51℃ /100年)のおよそ2~3倍

の大きさであり、特に日本海中部の上昇率は

日本近海で最も大きな上昇率となっている

(図1.1.3-3)。

日本全国の年平均気温の上昇率は+1.15℃

/100年で、日本海南部の海域平均海面水温の

上昇率とは同程度だが、日本海中部の上昇率

は気温の上昇率より大きくなっている。

日本海中部で気温より上昇率が大きい理由

はよくわかっていないが、ユーラシア大陸の

中国東北部では、年平均気温の上昇率は約

2℃ /100年、冬季の気温の上昇率は約3℃ /100

47 47

Page 8: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

北海道周辺・日本東方海域

日本海

関東沖海域

日本南方海域

九州・沖縄海域

図1.1.3-5 日本近海13海域の海域平均海面水温平年差(年平均)の長

期変化

青丸は各年の値、青太線は 5年移動平均値、赤線は長期変化傾向を示

す。 平年値は1981年~2010年の30年間の平均値。

48 48

Page 9: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

北海道周辺・日本東方海域

日本海

関東沖海域

日本南方海域

九州・沖縄海域

図1.1.3-5 日本近海13海域の海域平均海面水温平年差(年平均)の長

期変化

青丸は各年の値、青太線は 5年移動平均値、赤線は長期変化傾向を示

す。 平年値は1981年~2010年の30年間の平均値。

48

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

年であることから、大陸の気温の上昇の影響

を受けている可能性がある。また、海洋の循

環(対馬暖流の流路や流量など)の変化や、

海洋と大気の間の熱のやり取りの変化などの

影響も考えられる。 図1.1.3-5に日本海の海域平均海面水温平年

差の長期変化を示す。日本海北東部では、十

年から数十年の時間規模の変動が大きく、特

に1920年代の水温が高いことから、冬季を除

いた各季節及び年平均において統計的に有意

な長期変化傾向はみられない。1920年代の高

温傾向は、この海域やオホーツク海に面した

沿岸水温観測点の一部にもみられる(高槻ほ

か,2007)。しかし、冬季の海域平均海面水

温は上昇している(図1.1.3-4)。 日本海中部や南部の海域平均海面水温は、

1940年代の欠測期をはさんで昇温がみられる。

また、20年程度の周期の変動がみられる。日

本海中部の海域の夏季の海面水温は、他の季

節とは異なって年々の変動が大きい。この海

域の平均海面水温は、海域に近接する地点の

沿岸水温や地上気温と比較すると、夏季は相

関が高く、秋季や冬季は相関が低い傾向があ

るが、冬季は表層の貯熱量や対馬暖流の勢力

との相関が高い。これは、夏季は冬季に比べ

海洋表層の混合層が浅くなり、海面水温に大

気の状態が反映されやすいことの現れと考え

られる(高槻ほか,2007)。 季節別では、日本海中部及び日本海南部で、

夏季を除くどの季節においても海域平均海面

水温が上昇しており、夏季においても上昇傾

向が現れている。また、日本海中部では冬季、

日本海南部では秋季に上昇率が大きくなって

おり、日本海中部における季節別の上昇率は

冬季(+2.40℃ /100年)、春季(+1.79℃ /100年)、秋季(+1.99℃ /100年)において、日

本近海の季節別の上昇率の中で最も大きな値

となっている(図1.1.3-4)。

エ 日本南方海域の変化傾向の特徴

日本南方海域における海域平均海面水温は

上昇しており、上昇率は、四国・東海沖北部

で+ 1.24℃ /100年、四国・東海沖南部で+

0.74℃ /100年である(図1.1.3-3)。 これらは、

世界全体で平均した海面水温の上昇率(+

0.51℃/100年)より大きくなっている。 四国・東海沖北部の海域平均海面水温(年

平均)の上昇率は、日本の気温の上昇率(+

1.15℃ /100年)と同程度だが、四国・東海沖

南部の海域の上昇率は日本の気温より小さい。

その理由はよくわかっていないが、四国・東

海沖南部から低緯度のフィリピンの東にかけ

ての海域でも、海面水温の上昇率が本州周辺

海域に比べて小さい傾向にあることから、緯

度帯の違いが関係している可能性がある。ま

た、他の海域に比べると大陸から離れている

ことも影響している可能性がある。 図1.1.3-5に日本南方海域の海域平均海面水

温平年差の長期変化を示す。日本南方海域で

は、日本東方海域、関東の東、日本海に比べ

年々の変動幅が小さい。 1960年代後半から

1970年代にかけて低温期がみられ、1950年代

前半と1990年代後半以降に高温期がみられる。

四国・東海沖北部では、1940年代の欠測期を

はさんで、昇温がみられる。 季節別にみると、四国・東海沖南部の春季

を除くどの季節においても海域平均海面水温

が上昇しており、その上昇率は四国・東海沖

北部では冬季に、四国・東海沖南部では秋季

に最も大きくなっている(図1.1.3-4)。

オ 九州・沖縄海域の変化傾向の特徴

九州・沖縄海域における海域平均海面水温

(年平均)は上昇しており、その上昇率は黄

海で+1.20℃/100年、東シナ海北部で+1.22℃/100年、東シナ海南部で+1.15℃/100年、先島

諸島周辺で+0.71℃/100年である(図1.1.3-3)。

黄海と東シナ海の上昇率は、世界全体で平均

した海面水温の上昇率(+0.51℃ /100年)と

比べ2倍以上大きい。 黄海と東シナ海の海域平均海面水温は日本

の気温の上昇率(+1.15℃ /100年)と同程度

49

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化

日本近海の海面水温

49

Page 10: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

だが、先島諸島周辺では日本の気温よりも小

さな上昇率となっている。先島諸島周辺で日

本の気温の上昇率より小さい理由はよくわ

かっていないが、先述の四国・東海沖南部と

同様に、先島諸島周辺からフィリピンの東に

かけての海域で海面水温の上昇率が本州周辺

海域に比べて小さい傾向にあることから、緯

度帯の違いが関係している可能性がある。 図1.1.3-5に九州・沖縄海域の海域平均海面

水温平年差の長期変化を示す。南方の海域ほ

ど変動幅が小さい傾向があり、黄海を除く3

つの海域で、1930~1940年頃に低温、1940~1950年のデータ欠損の後、1950~1960年には

かなりの変動(昇温、降温、昇温)があり、

その後しばらく横ばいが続き、1990年代から

高温期となる。黄海では、10~20年程度の周

期が明瞭で、1910年頃に極小、1920年頃に極

大、1940~1950年に昇温の後、1960年頃に極

大、1970年頃に極小、1980年代以降高温期と

なっている。石垣島の沿岸水温は、先島諸島

周辺海域と比べ、1930年以前は沿岸水温のほ

うがやや低いが、相関が高く、長期変化傾向

もよく一致している(高槻ほか,2007)。 季節別では、黄海の夏季を除くどの季節や

海域においても海面水温が上昇しており、黄

海の夏季においても上昇傾向が現れている。

黄海及び東シナ海では、冬季に上昇率が最も

大きく、先島諸島周辺では秋季に上昇率が最

も大きくなっている(図1.1.3-4)。

2 診断

日本近海における、2012年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)は

上昇しており、その上昇率は+1.08℃/100年で

ある。 北海道周辺・日本東方海域における1900年

から 2012年までの海域平均海面水温(年平

均)は、釧路沖では明瞭な上昇傾向が現れ、

三陸沖では長期的には上昇傾向が現れている

が、数年から数十年の周期の変動もみられ、

1950年から1980年代半ばにかけては下降傾向

がみられる。 関東沖海域における海域平均海面水温(年

平均)は関東の南で上昇しており、その上昇

率は+0.96℃/100年である。関東の東では上

昇傾向が現れている。

日本海における海域平均海面水温(年平

均)は上昇しており、その上昇率は、日本海

中部で+1.72℃/100年、日本海南部で+1.26℃/100年である。日本海北東部では、海域平均

海面水温(年平均)に統計的に有意な長期変

化傾向は見出せないが、冬季(1-3月)の海域

平均海面水温は上昇しており、その上昇率は

+0.79℃/100年である。

日本南方海域における100年間にわたる海域

平均海面水温(年平均)は上昇しており、そ

の上昇率は、四国・東海沖北部で+ 1.24℃/100年、四国・東海沖南部で+0.74℃/100年で

ある。

九州・沖縄海域における海域平均海面水温

(年平均)は上昇しており、その上昇率は、

黄海で+ 1.20℃ /100年、東シナ海北部で+

1.22℃/100年、東シナ海南部で+1.15℃ /100年、

先島諸島周辺で+0.71℃/100年である。

日本近海における海域平均海面水温(年平

均)の上昇率は、世界全体で平均した海面水

温の上昇率(+0.51℃ /100年)より大きく、

特に日本海や四国・東海沖北部、先島諸島近

海を除く九州・沖縄海域では、およそ2~3倍と

なっている。また、日本海中部の上昇率は日

本近海で最も大きく、日本海南部、四国・東

海沖北部、黄海、東シナ海の上昇率は、日本

の気温の上昇率(+1.15℃ /100年)と同程度

となっている。 2007年2月に公表されたIPCC第4次評価報告

書第1作業部会報告書(IPCC,2007)は、世

界全体で平均した気温や海面水温の上昇傾向

は明白であり、人為起源の温室効果ガスによ

る地球温暖化の影響が現れている可能性が非

常に高い(90%を超える確率で高い)ことを

指摘している。日本周辺海域における海面水

温にも地球温暖化の影響が現れている可能性

があると考えられる。しかし、評価している

50 50

Page 11: ¥ 3Æ b 8 È - data.jma.go.jp · '¨>/'v #+ . ì_6õ Rb6× ì ¥ 3Æ b 8 È "á Óu G\\KS 0ò(ýc 9× so? >& 2007>' g!·I S8 0 Ò_ Q#ÝM ¹î± 0 Ò_ Q#Ý M ¹î±c

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

だが、先島諸島周辺では日本の気温よりも小

さな上昇率となっている。先島諸島周辺で日

本の気温の上昇率より小さい理由はよくわ

かっていないが、先述の四国・東海沖南部と

同様に、先島諸島周辺からフィリピンの東に

かけての海域で海面水温の上昇率が本州周辺

海域に比べて小さい傾向にあることから、緯

度帯の違いが関係している可能性がある。 図1.1.3-5に九州・沖縄海域の海域平均海面

水温平年差の長期変化を示す。南方の海域ほ

ど変動幅が小さい傾向があり、黄海を除く3

つの海域で、1930~1940年頃に低温、1940~1950年のデータ欠損の後、1950~1960年には

かなりの変動(昇温、降温、昇温)があり、

その後しばらく横ばいが続き、1990年代から

高温期となる。黄海では、10~20年程度の周

期が明瞭で、1910年頃に極小、1920年頃に極

大、1940~1950年に昇温の後、1960年頃に極

大、1970年頃に極小、1980年代以降高温期と

なっている。石垣島の沿岸水温は、先島諸島

周辺海域と比べ、1930年以前は沿岸水温のほ

うがやや低いが、相関が高く、長期変化傾向

もよく一致している(高槻ほか,2007)。 季節別では、黄海の夏季を除くどの季節や

海域においても海面水温が上昇しており、黄

海の夏季においても上昇傾向が現れている。

黄海及び東シナ海では、冬季に上昇率が最も

大きく、先島諸島周辺では秋季に上昇率が最

も大きくなっている(図1.1.3-4)。

2 診断

日本近海における、2012年までのおよそ100年間にわたる海域平均海面水温(年平均)は

上昇しており、その上昇率は+1.08℃/100年で

ある。 北海道周辺・日本東方海域における1900年

から 2012年までの海域平均海面水温(年平

均)は、釧路沖では明瞭な上昇傾向が現れ、

三陸沖では長期的には上昇傾向が現れている

が、数年から数十年の周期の変動もみられ、

1950年から1980年代半ばにかけては下降傾向

がみられる。 関東沖海域における海域平均海面水温(年

平均)は関東の南で上昇しており、その上昇

率は+0.96℃/100年である。関東の東では上

昇傾向が現れている。

日本海における海域平均海面水温(年平

均)は上昇しており、その上昇率は、日本海

中部で+1.72℃/100年、日本海南部で+1.26℃/100年である。日本海北東部では、海域平均

海面水温(年平均)に統計的に有意な長期変

化傾向は見出せないが、冬季(1-3月)の海域

平均海面水温は上昇しており、その上昇率は

+0.79℃/100年である。

日本南方海域における100年間にわたる海域

平均海面水温(年平均)は上昇しており、そ

の上昇率は、四国・東海沖北部で+ 1.24℃/100年、四国・東海沖南部で+0.74℃/100年で

ある。

九州・沖縄海域における海域平均海面水温

(年平均)は上昇しており、その上昇率は、

黄海で+ 1.20℃ /100年、東シナ海北部で+

1.22℃/100年、東シナ海南部で+1.15℃ /100年、

先島諸島周辺で+0.71℃/100年である。

日本近海における海域平均海面水温(年平

均)の上昇率は、世界全体で平均した海面水

温の上昇率(+0.51℃ /100年)より大きく、

特に日本海や四国・東海沖北部、先島諸島近

海を除く九州・沖縄海域では、およそ2~3倍と

なっている。また、日本海中部の上昇率は日

本近海で最も大きく、日本海南部、四国・東

海沖北部、黄海、東シナ海の上昇率は、日本

の気温の上昇率(+1.15℃ /100年)と同程度

となっている。 2007年2月に公表されたIPCC第4次評価報告

書第1作業部会報告書(IPCC,2007)は、世

界全体で平均した気温や海面水温の上昇傾向

は明白であり、人為起源の温室効果ガスによ

る地球温暖化の影響が現れている可能性が非

常に高い(90%を超える確率で高い)ことを

指摘している。日本周辺海域における海面水

温にも地球温暖化の影響が現れている可能性

があると考えられる。しかし、評価している

50

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化 日本近海の海面水温

領域が狭いことから、自然変動の影響を受け

やすく、海面水温の上昇が必ずしも全て温暖

化の影響といえる訳ではない。

参考文献

Folland, C. K. and D. E. Parker, 1996 : Correction

of instrumental biases in historical sea surface

temperature data. Q. J. R. Meteorol. Soc., 121,

319-367.

IPCC, 2007: Climate Change 2007: The Physical

Science Basis. Contribution of Working Group I

to the Fourth Assessment Report of the

Intergovernmental Panel on Climate Change

[Solomon, S., D. Qin, M. Manning, Z. Chen, M.

Marquis, K.B. Averyt, M. Tignor and H.L. Miller

(eds.)]. Cambridge University Press, Cambridge,

United Kingdom and New York, NY, USA, 996

pp.

Ishii, M., A. Shouji, S. Sugimoto and T. Matsumoto,

2005: Objective Analyses of Sea-Surface

Temperature and Marine Meteorological

Variables for the 20th Century Using ICOADS

and the KOBE Collection. Int. J. of Climatology,

25, 865-879.

気象庁,2013 : 気候変動監視レポート2012.

93pp

倉賀野連・楳田貴郁・栗原幸雄・桜井敏之,

2007:歴史的データを用いた日本近海の海面

水温の長期変化傾向の把握:測候時報,第74

巻特別号,S19-S31

Manabe, T., 1999 : The Digitized Kobe Collection,

Phase I: Historical surface marine meteorological

observations in the archive of the Japan

Meteorological Agency. Bull. Amer. Meteor. Soc.,

80, 2703-2715.

高槻靖・倉賀野連・志賀達・分木恭朗・井上博

敬・藤原弘行・有吉正幸,2007:日本周辺海

域における海面水温の長期変化傾向.測候時

報,第74巻特別号,S33-S87.

岡田弘三・坂井紀之 2003 : 歴史的海上気象資

料のデジタル化 (II). 月刊海洋 , 35(11), 765-

769.

Woodruff, S. D., S. J. Worley, S. J. Lubker, Z. Ji, J.

E. Freeman, D. I. Berry, P. Brohan, E. C. Kent, R.

W. Reynolds, S. R. Smith and C. Wilkinson,

2011 : ICOADS Release 2.5 : Extensions and

enhancements to the surface marine

meteorological archive. Int. J. of Climatology, 31,

951-967.

51

第1章 地球温暖化に関わる海洋の長期変化

日本近海の海面水温

51