141 Chiikishi Kenkyu ( )

したじぼね ふすま はじめに―おわりに2.保全活動 …...141 hiikishi enkyu はじめに 襖ふすま の表面には襖紙や絵画、書などが張られているが、

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141 Chiikishi Kenkyu

はじめに

 

襖ふすまの表面には襖紙や絵画、書などが張られているが、

下したじぼね

地骨と呼ばれる木枠と表面との間には、襖を補強す

るために、何層もの紙が張り重ねられている。特に紙

が貴重であった頃の古い襖や屏び

ょうぶ風の場合には、不要と

襖ふすましたば

下張り文書の保全と活用

―市民ボランティアとともに

まつしたまさかず

近大姫路大学教育学部講師

()

された和紙・文書(反ほ

し古紙)を張り重ね、仕立てや張り

替えをおこなっていた。襖や屏風を仕立てた当時には

不要とされた反古紙であっても、現在の我々にとって

は、当時の人々の暮らしぶりや地域の様子を明らかに

する上で貴重な史料(古文書)となる。これらは下したば張り

文書と呼ばれている。このような廃棄文書の研究は、

まさに昔の「ゴミ」を現在の宝に変えうる可能性を持

つ営みといえよう。

 

もちろん襖や屏風の表面に描かれている絵画や書など

も当時の歴史文化を知る上で重要な情報を与えてくれ

る。この上う

わば張りとともに下張りも含めた古い襖や屏風

  

目  

はじめに

1.襖下張りはがし作業の概要

2.保全活動で救出された襖下張り文書

おわりに

―下張り文書はがしの課題と可能性

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は、それ自体が貴重な歴史資料でもある。基本的には襖

や屏風はもとの形態を保持したまま保存されることが望

ましい。しかし、所蔵者の意向で仕立て直しの必要が出

た時や、被災や劣化により表

おもてがみ紙の絵や書を優先的に保存

する時など、下張り文書をはがさざるをえない場合に限

り、下張りはがしをおこなうことにしている。

 

よって、下張り文書をはがす際には、どのような状態

で張られていたのかを丁寧に記録することが必要となっ

てくる。なぜならば、現在までの長い間、襖や屏風に蓄

積されてきた情報も保存するためである。考古学におい

て、発掘作業の現場で記録を取りながら掘り進めていく

のと類似する。

 

このように書くと、困難な作業のように思われるかも

しれないが、プロの指導者の手ほどきを受けながら慎重

に進めると、素人でもできることがある。私自身も表具

や表装については素人にすぎないが、専門家である尾お

りゅう立

和則氏(元京都造形芸術大学教授)の指導を受けながら、

災害現場において襖や屏風の保全活動をおこなう中で、

下張りはがしとその活用についての実践を進めてきた。

現在では各地でも下張りはがしの実践例が蓄積されてい

るが(1)、筆者は主に災害現場から保全した襖や屏風の下張

りを、ボランティアの方々とはがす取り組みを進めてい

る。よって、以下では、襖下張りはがしの方法や、襖や

屏風の下張りの活用事例について紹介したい(2)。

1.襖下張りはがし作業の概要

(1)襖の構造

 

実際の襖や屏風の構造としては、さまざまなケースが

あるが、基本的なパターンとしては下地骨の上へと順

に、骨ほ

ねしば縛り・胴どうは張り・胴どうしば縛り・蓑みのか掛け・蓑みのしば縛り・下したう浮

け・上う

わう浮けといった下張りの紙が層をなして張り継が

れ、その上に襖紙や絵画、書などの表面がくる。【図1】

は岡岩太郎氏による定義(3)を参考に、下地骨や下張りの各

層の役割について図示したものである。

 

このように、下張りの各層によって、糊付けされてい

る箇所や糊の濃さが違うという点に注意しながらはがし

作業をおこなう必要がある。また、後述する記録用紙に

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143 Chiikishi Kenkyu

も下張りの名称を記録する箇所があるため、判断できる

ようになっておく必要がある。

(2)必要な道具類

 

襖下張りはがしに便利な道具類を以下に記しておく。

実際には現場や作業の状況に応じて適宜追加するとよ

い。

①採寸・記録用 

記録用紙、デジタルカメラ、メジャー、

鉛筆など。

②解体・はがし用 

ハンマー類、マイナスドライバー、

釘抜き、カッター、鋏、ニッパー、かじや・バール類、

竹べら、竹串、ピンセット、霧吹き、小筆・刷毛、レー

ヨン紙、和紙、でんぷん糊など。

③保存用 

ジッパー付ポリビニール製透明袋、中性紙封

筒・保存箱など。

(3)解体前の記録 

 

襖下張りはがしをおこなう際に一番大事なことは、い

きなり襖の解体やはがしを始めないということである。

下張りはがしの作業は、ある意味襖や屏風の現状を「破

壊」することにもつながる。よって可能な限り、スケッ

【図1】障壁における下地と

下張り(注 3 岡論文図 5 を改変)

①下地骨 木製の格子状の芯。四方に框かまち

を組み、その中に縦、

横に通す組く み こ

子と、力骨にあたる力お に こ

子をかみ合わせて枠組みを作

る。四隅には三角の隅板を入れ、引き手にあたるところに力板(引き手板)を入れてある。

②骨縛り 下地が歪まないように、框と組子に濃いめの小麦粉

デンプン糊で強靱な紙を貼る。

③胴張り 下地より出る木の脂を吸収し、透けるのを防ぐため

に泥土が混入された間ま に あ い が み

似合紙をべた糊で貼る。

④蓑掛け 框と縦の組子の上だけに糊を付け、幅 30cm ほどの

細長い紙を三分の一ずつずらし、段々に重ねて貼ることにより、

下張りに弾力性をもたせる。

⑤蓑縛り 蓑掛けで段々になったものを平らな一枚の面にする。

⑥下浮け 袋貼りの別称のとおり、周囲のみに糊付けすること

で袋状に浮かせ、下地と本紙の伸縮の差による応力を緩和する

働きがある。

⑦上浮け 下浮けと同様の働きで、貼り方も同じであるが、二

方を喰く

い裂ざ

きとすることで、下浮けのような棒ぼ う つ

継ぎの段差が出

ない。

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144No.114, Oct.,2014

チや写真撮影などによる現状記録を取る必要がある。こ

れは長な

がもち持などに入っている文書を整理する際に、現状記

録を取りながら進めるのと同じ理由である。

①襖の番号札作成と襖への貼付 

所蔵者、襖番号、襖の

表裏(4)を記載した札を作成し、襖の左上に貼付する。札は

和紙を使用する。

②襖の表裏を写真撮影 

襖を壁などに立てかけて、表

面・裏面ともに写真撮影する。撮影の際には、被写体の

形態が歪まないように注意する。

③襖全体の寸法を計測 

襖の高さ、幅、見込み(厚み)、

引き手位置、縁ふ

の幅などを計測し、記録用紙に記入する

(計測は原則表紙のみ)。

(4)襖の解体

①縁の取り外し 

通常、縁の上下(天地)はほとんどの

場合釘止めとなっている。左右は釘止めまたは、桟さ

の中

に仕掛けがあり、上部から叩くと釘が穴の方へとずれて

いき、外れるようになっている。左右に釘頭が見えない

場合は、仕掛けがあると考えてよい(【図2】)。釘止めの

場合は、バールなどで外す。取り外す際には、縁、下地

骨、襖の上張り・下張りを可能な限り傷つけないように

注意する必要がある。釘や縁は、所蔵者名と襖番号を付

けて別途保存しておく。

②引き手の取り外し 

引き手はほとんどの場合、上下を

引き手釘で止めてある。引き手釘を抜く際には、かじや

(インテリアバール)よりも先の細いニッパーを使用する

ほうが釘頭を捉えやすい。釘抜きの際には、引き手を傷

つけないように、引き手とニッパーの間に当て布(紙)

などを挟むとより安全である。なお、取り外した引き手

や引き手釘は、所蔵者名と襖番号を付けて別保存してお

く。

(5)下張りはがし

【図2】縁の取り外し

【図3】引き手釘の構造

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145 Chiikishi Kenkyu

①各層に貼付する番号札の作成と各層への貼付 

所蔵

者、襖番号、襖の表裏、襖の層番号を記載した札を作成

する。層の番号ははがす面から順に1層2層…とする。

札は和紙を使用し、記入は鉛筆でおこなう。貼付の際に

は、襖の天を上にして、左上部分に番号札を仮止めする(5)。

②各層の写真撮影 

下張り文書をはがす前に、襖の天を

上にし、立てて写真撮影をおこなう。下張りがはがれか

けている場合など立てかけることが困難な場合は、襖を

横に寝かせ、上から撮影する。

③記録用紙への記入 

記録用紙への記入は、各層ごとに

作成する。

ⅰ所蔵者名、調査日、襖番号、表裏の別、襖の層番号、

襖寸法、作業者の記入

ⅱ状態の記入…襖の層の色合い、大きな傷の有無などの

特徴を記入する。糊づけの方法(強度や、全面か部分か

など)や、上張りの内容、下張りに使用している文書

の種類(横帳を解体したものなど)、糊付けしている面

が文字面かどうかなどを記しておくと、襖を仕立てる

過程の復元に役立つ。また、下張りに方角が記されて

いる場合は、部屋における襖の位置を示すことが多

い。本来的には、襖を搬出する際に部屋の見取図を書

き、襖にそれぞれ記号や番号を与える必要があるが、

下張り解体時にすでに襖が外されて元の所在がわから

ない場合、下地骨から外されて下張りがすでに「まく

り」の状態になっている場合などには、下張りに記さ

れている方角情報は貴重なものとなる。

ⅲ特記事項…下張りの名称(表面・浮け・蓑縛・蓑掛・胴

張・骨縛の別)、年代や地名・人名など文書の内容に関

する情報などを記しておくと、襖を仕立てるための材

料や年代、背景などを知る上で参考となる。

④見取図のスケッチ 

ⅰ各下張り文書の重なり具合をスケッチ…文書の隠れて

いる部分を破線、見えている部分を実線で描く。継い

である文書は分けずに一枚のものとして表記する(6)。特

徴のある虫損や破損についてもスケッチする。

ⅱ文書への番号づけ…文書の張り継がれている方向に

沿って、左から右へ、上から下へという順にスケッチ

上の文書に番号をつけていく(【図4】)。

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146No.114, Oct.,2014

⑤各下張り文書に貼付する番号札の作成 

所蔵者、襖番

号、襖の表裏、襖の層番号、文書の番号を記載した札を

作成する。札は和紙を使用し、記入は鉛筆でおこなう

(【図5】)。

⑥番号札の貼付 

札の貼付場所は、文書の右上で文書の

文字が隠れないところにする(7)。その際には、文書の文字

が隠れないように注意し、場合によっては裏面から貼る

こともある。糊付けは札の下側2箇所に「点づけ」でお

こない、接着にはデンプン糊を使用する。なおこの段階

で、再度文書一枚ごとに写真撮影をしておくのが望まし

い。下張りをめくる際に下張り文書を破くなど現状が破

壊され、文字が読めなくなる場合もあるからである。

⑦下張り文書をはがす 

机など広くて平らな場所に、は

がす面を上にして襖を置く。

【図4】見取り図のスケッチ例

【図 5】各文書に貼付する番号札

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147 Chiikishi Kenkyu

ⅰ乾燥状態でのはがし…まずは乾燥した状態ではがせな

いか試す。文書と文書の間に竹べらを入れ、慎重に糊

の部分を剥離していく。

ⅱ湿らせた状態でのはがし…糊が強くてはがせない場合

は、湿らせて剥離する。部分的に糊が強い場合は、そ

の部分だけを小筆などを使い水で湿らせる。広い範囲

にわたり糊が強い場合は、霧吹きや刷毛を用いて湿ら

せ、作業範囲だけを残し、他の部分はビニールで覆

い、紙がまんべんなく湿気を吸収し、じんわり湿った

程度になるまで乾燥させる。文書の強度が非常に弱

く、糊も全面に塗られてはがしにくい場合は、文書に

レーヨン紙をあてたうえから湿らせてレーヨン紙と一

緒に巻き取りながらはがす。和紙は洋紙に比べ水には

強いものの、湿らせた直後は破れる可能性が高まるの

で、時間をかけて糊が柔らかくなった段階ではがすの

が重要である。また、和紙は糸い

とめ目の方向の引っ張りに

強いため、はがす際には、紙の繊維の方向に注意し、

手やピンセットで引っ張りながらはがす。湿らせた場

合、蒸発を抑えるために作業部位以外は、透明のビ

ニールのシートをかぶせておくとよい。なお、下張り

がどうしても文書一点ごとにはがれない場合は無理に

はがさず、くっついた状態ではがす。

 

あとは、下地骨がみえるまで、①から⑦を繰り返す。

通常は、表面から下地骨に向かってはがしていくが、ま

くりの状態や、はがしやすさから、下地骨の方向から表

面に向かって(骨縛りから表紙の方向に向かって)はがす

こともある。よって、記録用紙にはどの方向からはがし

ているのかを明確に記す必要がある。また、糊がきつく

下地骨に下張り文書がこびりついてとれないことがあ

る。下地骨も保管する場合には、文書を無理にはがさ

ず、デジカメ撮影し記録しておけばよい。

(6)整理と保管

①収納 

湿らせてはがした下張りは軽くプレスして平ら

にして、十分乾燥させたあと、下張り文書一点ごとにデ

ジカメ撮影をする。この際にラベルがついているかどう

かを確認しておく。また乾燥が不十分だと収納した際に

カビが生える原因となるので注意する。なお収納時は、

層ごとにまとめておくとよい。下張りを張る際には、表

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148No.114, Oct.,2014

面と裏面の対応する層は同時期に同種の紙で仕立てるた

め、層ごとにしておけば、その対応関係がわかり、元に

なった文書を復元する際のてがかりともなるためであ

る。最終的には中性紙封筒に入れるが、文書復元作業に

備え、ジッパー付きの透明のビニール製に入れておいて

もよい。

②概要目録の作成 

襖の所蔵者名、解体調査年月日、襖

の層、調査者名、文書ナンバー、表題、年次、形態など

を記す。断片的な史料が多いので、表題は書き出しの文

言や文書の形・大きさなど、下張りの特徴を記すだけで

もよい。その後、ばらばらになった下張り文書の接合作

業を(8)おこない、内容目録を取るのが理想的であるが、ど

こまで作業をおこなうかは下張り文書の今後の活用内容

によって変化してくる。接合の際には、表記内容の前後

の文脈、筆付き、綴じ穴の有無や間隔、位置関係、料紙

の大きさ、汚れやシミの位置、虫食い穴の大きさや位

置、繊維の方向などを検討しながらおこなう。

 

以上、襖の下張りはがしの概要についてまとめてみ

た。襖の下張りには、多くの反古紙が使用される。職人

が古紙業者から買い集めた反古を利用することもあれ

ば、襖のある家の反古を使用することもあった。後者の

場合には、その家や地域の実情をまとまった形で知るこ

とが可能となる。また、職人が襖を仕立てる際に使用さ

れる反古紙は、大量に使用するため帳面を解体したもの

や書簡類を継いで巻物状にしたものが多い。一紙となっ

た反古紙をそのまま利用することもあれば、襖のサイズ

にあわせて裁断されることもある。したがって、下張り

文書の調査は、職人が襖を仕立てる作業工程を、逆の順

序でたどることにもなる。そのため、下張りはがしの際

に、記録を丁寧にとることで、職人の仕事ぶりを追体験

することも可能となるのである。このように調査するこ

とで、下張り文書に記されている文字情報だけではな

く、下張り文書として解体される前の元の状態を復元す

るための手がかりを得ることもできるのである。

2.保全活動で救出された      

  

襖下張り文書

(1)地震や風水害で被災した襖

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149 Chiikishi Kenkyu

 

ここでは、筆者が副代表をしている被災歴史資料の保

全団体である「歴史資料ネットワーク(事務局=神戸大

学文学部、以下「史料ネット」と略)(9)」でおこなってきた襖

保全事例について紹介したい。これまでの災害では、多

くの人命とともに文化財も被害を受けたが、その中でも

古文書や民具など、自治会や旧家などで保管されている

多くの未指定文化財・民間所在史料も被害を受けている

ことが明らかとなった。これらの歴史資料は、地震によ

る破損など直接的な被害を受けていなくても、建物の解

体などに伴い、やむなく廃棄されたケースもあった。

 

一九九五年(平成七)発生の阪神・淡路大震災時の史

料ネットによる保全資料は段ボールにして一、五〇〇箱

といわれているが、その中にも襖の事例がある。たとえ

ば、宝塚市のT家は被災から半年後、自宅の建て替えに

ともない農具や資料類を廃棄するとのことでレスキュー

要請があったお宅である。同家からは襖一〇点を搬出し

ている。また、池田市のK家も同様に自宅の建て替えに

ともなうレスキュー依頼の連絡が史料ネットに入り、そ

の結果、母屋の襖五五枚が搬出されている)(1(

。その他に

も、明石市のT家や、西宮市のO家、宝塚市のN家・K

家などがある。

 

もちろん、震災時には全ての襖がレスキュー・搬出で

きたわけではない。宝塚市のJ寺のように、襖を取り外

すことで建物が倒壊するおそれがある場所もあり、搬出

を一部断念したケースもあった。正確に統計を取ったわ

けではないが、実際には襖に限らず多くの歴史資料がや

むなく廃棄されている事例もあったと思われる。またそ

の他の民具同様に保管場所をとること、下張り文書は記

録を取りながらはがす必要があり手間がかかること、必

ずしもまとまった内容でないため、はがした後にすぐ活

用することが難しいなど、襖の保全と活用については多

くの課題があることが判明した。筆者も震災時の事例に

学びつつ、その後の被災襖の保全や下張りはがし活動を

計画・実践することとなった。

 

その後、二〇〇四年の連続風水害を契機として、水で

濡れた歴史資料の保全活動についてもおこなうように

なった)(((

。その際にも、多数の水損襖や屏風が発見され

た。たとえば、一〇月発生の台風二三号により被災した

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京都府京丹後市久美浜町のH家では、水損した襖が五〇

枚ほど発見された。地震による被害と違って、水に濡れ

た襖は、他の歴史資料も同様であるが、雨水や生活排水

などに浸かり、水気を吸って重くなるとともに、搬出に

至るまでそのまま放置されることでカビが発生し、とく

に乾燥しにくい下張り部分のカビ被害は重篤なものが

あった。H家の襖は、発見直後、屋外で襖表面の青カビ

を刷毛で払ったのち、除菌のためエタノール噴霧を施し

た。その後、京丹後市の地域史研究団体である「京丹後

ふるさと歴史研究会」のメンバー宅に水損襖が搬入さ

れ、現在に至るまで下張り文書はがしが継続しておこな

われている。史料ネット事務局から遠く離れていること

もあり現地に任せきりの状況であるが、今後も引き続き

支援をしていく予定である)(1(

 

また、兵庫県豊岡市日高町T家では、水損した屏風と

ともに、下張り用として柳や

なぎごうり

行李に保管されていた帳面類

がみそ蔵の中から汚損した状態で多数発見された。土壁

と、みそや醤油などが入っていた大型瓶とともに水損

し、生活排水や山からの鉄砲水にも浸かっていたため、

真空凍結乾燥後も臭気がひどく、二〇一一年度から一三

年度まで、修復家の谷村博美氏の指導のもと、宝塚造形

大学において、同大学生や市民ボランティアとともに、

中性紙箱三箱分の帳面類の洗浄をおこなった。

 

二〇〇九年八月発生の台風九号では、兵庫県南西部の

被害が甚大であった。史料ネットでは、佐用町や宍し

そう粟市

を中心として水損史料の保全活動をおこなった)(1(

。一四件

レスキューしたうち、屏風の保全活動はT家一件であっ

た。またこの一件は史料ネットがレスキューする以前

に、佐用町教育委員会が保全したもので、我々は下張り

文書はがしの方法のみをお伝えした。実際の作業は、町

教委の職員によっておこなわれ現在も継続中であるとい

う。次節では、被災した襖や屏風の保全方法や応急処置

方法を具体的に記してみたい。

(2)被害と応急処置の方法

 

水損した襖の下張りは、放置することでカビが発生し

ていることが考えられる。表面から順に下張りをはがす

作業の長期化は、内側の下張りのカビを拡大させるおそ

れがある。そのため、表面を保護した後は下地骨から一

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151 Chiikishi Kenkyu

気に下張りの層全体をはがし、下張りの両面から乾燥さ

せることでカビの拡大を抑えることとしている。また乾

燥後、まくりの状態で保管することで、保管スペース省

力化にもなる。その後の下張りはがしは、第一章で記し

たような手順で進めていくことになる。

 

水損襖の下張りを扱うときに最も注意すべき点は、ク

リーニング作業時には、カビを吸わないようにすること

である。カビの中には、人体に著しい影響を与えるもの

があるので注意が必要である)(1(

。作業者にはマスクを着用

させること、作業場は適宜換気するなどの衛生環境を整

えることが重要である。

 

また、下張りはがしの人材が少ない地域や、今回の東

日本大震災のように水損襖が大量に発生した場合など

は、現状記録など、これまで紹介した手順を省略しなが

ら進めることもある。丁寧な記録にこだわるあまり、は

がし処置が遅れることでカビが拡大するのを避け、保管

場所を確保するためには、やむを得ない措置だろう。実

際の災害現場では臨機応変な対応がなされている)(1(

(3)市民ボランティアとおこなう襖下張りはがし作業

 

阪神・淡路大震災時から保全した襖の下張り文書をは

がす活動事例はあるが、どちらかといえば、専門家に依

頼した例や、あるいは専門家の養成のために活用した事

例が中心だったといえる)(1(

。私たちが意識したのは、レス

キュー後の被災古文書整理を市民ボランティアの方々と

一緒におこなったのと同様に、襖の下張り文書はがしも

専門家だけではなく、市民ボランティアと一緒にできな

いかということであった。この作業を通じ、古い襖の下

張りにも古文書が残されていること、襖自体にも歴史資

料としての価値があることを伝えたかったからである。

以下では被災襖のレスキュー後に筆者が関わった、兵庫

県佐用町やたつの市における市民ボランティアとの下張

りはがし活動を紹介したい。

①佐用町での事例 

先にも述べたように、台風九号発生

直後より、史料ネットは、佐用町教育委員会や佐用郡地

域史研究会メンバーらとともに水損した歴史資料の保全

活動をおこなってきた。二〇一〇年度から一二年度にか

けては、史料ネットは、佐用町文化遺産再発見活性化事

業実行委員会(佐用町教育委員会と佐用郡地域史研究会から

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152No.114, Oct.,2014

なる)による「地域伝統文化再発見活性化事業」に協力

し、史料ネット・佐用郡地域史研究会・佐用町教育委員

会との共同事業を展開した。

 

二〇一〇年度は、被災歴史資料の内容に関する地元向

け報告会や、水濡れ史料吸水乾燥ワークショップ、古文

書のデジカメ撮影や目録取りの手法を実演し、実際に整

理作業を共同でおこなった。

 

二〇一一年度は、将来地域歴史資料保全の担い手とな

るであろう次世代に史料保全活動をPRするために、兵

庫県立佐用高等学校の二年生向けに佐用の歴史講演会

と、三年生向けに水濡れ史料吸水乾燥ワークショップを

開催した。また、佐用郡地域史研究会向けには、地域歴

史資料の取り扱い学習会「襖の解体と下張り文書の扱

い」を開催し、廃棄処分となった襖を素材として現状記

録をとりつつ、下張りはがし作業を二日にわたり体験し

てもらった。

 

二〇一二年度は、前年度に続き襖の下張りはがしや目

録取り作業を二日間おこなった。また、三年間のまとめ

として地域歴史資料保全のための啓発冊子(A5版)(1(

)を

発行し各地区に配布することで、地域史料の発見や保全

に新たに協力してくれる地元の方々の掘り起こしに努め

ている)(1(

 

現在では、事業が終了した後も佐用郡地域史研究会が

中心となって、下張り文書の目録取りや解読が進められ

ている。その結果、千ち

くさがわ

種川の高瀬舟の運行や、当時の重

要な船着き場であった久く

ざき崎の様子、三みかづき

日月藩の久崎役所

の機能などが明らかになりつつある)(1(

。この研究成果は、

同会の会誌『佐用郡地域史研究会紀要』で発表される予

定である。

②たつの市での事例 

二〇一一年五月の台風二号によ

り、床下から風の吹き込んだ八や

せ瀬家住宅(たつの市指定

文化財、指定名称「郷ごうめつけ

目付八瀬家」)の仏間襖が被害にあっ

た)11(

。たつの市教育委員会からの救援要請で、史料ネット

と神戸大学大学院人文学研究科地域連携センターに連絡

が入ったため、同家を訪問した。その後、風害にあった

襖をそのまま保管するのが困難と判断し、尾立和則氏の

指導を仰ぎながら、襖の上張り・下張りはがし作業を実

施することとなった。河こ

うのみお

野未央氏による下張り文書の調

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153 Chiikishi Kenkyu

査の結果、八瀬家住宅のある中なかがいち

垣内村の年ねんぐめんじょう

貢免状などが

下張りとして使用されていることが判明した。その年の

一一月には、八瀬家特別公開にあわせ、台風による被害

発生から調査、レスキュー、下張り文書はがし、文書調

査の結果の展示「八瀬家で学ぶ歴史

―築二〇〇年の建

物で新発見古文書を展示

―」(一一月五・六日開催)をお

こなった。

 

翌二〇一二年度からは、たつの市教育委員会と近大姫

路大学、神戸大学とが連携し、「市民と大学が創る歴史

ひも解き事業」をおこなうこととなり、年六回の古文書

講座を開催した。その趣旨としては、市民と専門家が協

働して、新しい歴史資料の発見、調査、解読、保存活

用、成果発表などのさまざまな取り組みをおこなうこと

が目的であった。講座には、たつの市域の市民四〇名ほ

どが参加した。古文書講座の講師を担当した河野未央氏

は、八瀬家文書を中心とした解読をおこなった。下張り

はがしの体験機会を年に一回程度しか確保できなかった

が、古文書のコピーを用いた古文書講座が多い中、現物

の古文書をテキストにするというスタイルは参加者から

も好評であった。また、下張りの中には、寺院名、檀家

名、続柄、年齢などを記した宗

しゅうもんあらため

門改の基礎となるよう

な史料もあり、地区の方がご存じの寺院名や地名が出て

くると、その場所や現在の様子などについて地元の方々

より我々が教えを乞うこともあった。

 

この他には、無医村であった中垣内村に美

みまさかのくに

作国川かわかみ上村

から医師岩崎泰助を招くため、中垣内村の役人が龍野藩

に許可を求めたという下張りも発見された。河野未央氏

の指導のもと、講座参加者の上田利彦氏らが解読と調査

をすすめ、泰助が華

はなおかせいしゅう

岡青洲の門下生岩崎忠之助の祖父で

あることもつきとめた。この成果は、秋の八瀬家住宅で

の展示会「八瀬家で学ぶ新たつの史

―天明の仁JIN

先生を追跡!

―」(一一月二四・二五日開催)で発表され

た。その際には、泰助の子孫筋の方も展示会に来場し、

祖先の事蹟を掘り起こしてくれたことへの感謝を述べら

れた。地域住民がその地域の史料を解読する醍醐味はま

さにこのような歴史の発見とともに、史料を通じた新た

な人と人との出会いまでをもたらしてくれる点にあるだ

ろう。この古文書講座は二〇一三年度までおこなわれ、

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二〇一四年度はこの三年間の成果をまとめたブックレッ

トを発行する予定である。

おわりに              

―下張り文書はがしの課題と可能性

 

以上、襖下張り文書の保全と活用の概要について記し

てきたが、成果面とともに課題も存在する。それは、手

間と時間がかかるという点に尽きる。先にみたように、

実際の災害現場ではある程度の手順を省略することで時

間の短縮を図ることはできるが、襖自体が持っている情

報をスポイルすることとなる。しかし、現状記録を丁寧

に取ろうとすると作業スピードは落ちる。また人手を増

やせば確かにはがす枚数は増えるが、作業工程に目が届

きにくくなる分、ナンバリングのミスも増え、どこの層

からはがした下張りか不明になるものもでてくる。

 

阪神・淡路大震災時に史料ネットで襖レスキューに携

わった佐賀朝

あした

氏は震災から七年経った段階で次のよう

に述べられた。

宝塚市域のレスキューでも大量にふすまを救出したが、解

体作業に手をつけたものの、現在も未決着のままになって

いるという苦い経験がある。(中略)ふすま下張り文書の

解体作業には多大な労力が必要であり、着手するなら相当

程度の時間と手間をかける覚悟と用意が必要であるし、そ

うでなければ、ふすまの形のまま長期間、保管できるス

ペースを確保して、あわてずやる、という心構えが必要で

あろう)1((

 

襖自体の保管スペースが確保されているのであれば、

無理にはがし作業を進めることはなく、体制が整ってか

らでも十分であろう。

 

それでは、継続的に襖下張り文書はがしをおこなうた

めに必要なことは何であろうか。兵庫県三木市の国登録

有形文化財「旧玉た

まおき置家住宅」に所蔵されていた歴史資料

の整理や、襖の下張り文書はがしの活動事例も参考とな

る)11(

。ここでは地元の旧玉置家住宅文書保存会のメンバー

が中心となり、襖の下張りはがし班と、古文書解読班に

分かれて活動がおこなわれている。はがし作業は尾立和

則氏が指導し、解読については神戸大学大学院人文学研

究科地域連携センターの教員らが指導をしている。下張

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155 Chiikishi Kenkyu

り文書のはがし作業をしているメンバーから、内容を解

読したいという声に応えて、下張りとして利用された書

簡類をテキストにして古文書講座を開始したという。講

師の一人である板垣貴志氏は、「こんなものを整理して

何になるのか?」という問いに答える必要から、下張り

を学術的価値からのみ説明するのではなく、一通の書簡

を解読してそこで展開している人間模様を物語風に解説

するように意識したという。玉置家の史料を地域住民が

調べ、学び、保存していこうとする営みによって、自ら

をとりまく生活環境を見つめ直し、地域の歴史文化を次

世代に継承しようとすることへとつなげている。また、

三木の市民メンバーが玉置家とその文書群をまちづくり

に活用しようとしていることも、活動の大きな原動力に

なっていると見受けられた。大学と行政と住民との連携

関係によって、うまく活動が機能しているといえよう。

佐用町やたつの市での事例と合わせてみると、やはり重

要なのは、下張りはがしと解読をプロデュースする人材

と場、活用の見通し、そして何よりも、様々な興味関心

をもって集ってくれるボランティアの方々の存在なのだ

ろう。

 

一般に民間所在の歴史資料は、歴史と文化を活かすま

ちづくり活動に大きな役割を果たす。地域に残された歴

史資料を「地域歴史遺産」という概念で捉え、それを残

し続けるという主体的な人々の営みが近年着目されてい

る)11(

。我々が被災した未指定文化財と呼ばれる民間所在の

古文書をレスキューする活動を継続しているのも、この

ような史料を守り伝えてきた人々と今後も守り伝えてい

く人々をつなぐことが地域社会の持続性と密接な関連が

あると考えるからである。

 

伝来した文書群が田畑中心の公的・制度的な特質を持

つものが多く、本来廃棄されるはずの文書がたまたま襖

に張られることによって伝わった襖下張り文書には商工

業・金融などに関わる私的・経営的な性格の文書が非常

に多く、両者には大きな性格の違いがあることが網野善

彦氏によっても指摘されている)11(

。ただ、先の佐用町やた

つの市ではがした襖下張り文書に、三日月藩の久く

ざき崎役所

の文書や、揖い

ぼぐん

保郡中なかがいち

垣内村の年貢免状の例もあるよう

に、必ずしも襖があった各家の私的な文書ばかりではな

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い。下張り文書は、各家の歴史とともに、地域全体の歴

史をも含みこんでいるといえよう。また、様々な人々の

努力によりこんにちまで襖が残されてきたことで、我々

は新たな歴史を描くこともできるのである。襖とその下

張り文書を通じた人と人との関係、人と社会との関係に

ついても意識しながら活動を進めていく必要がある。

 

ただ、災害時のみならず、日常時においても、家の建

て替えなどで古い文書や民具類を廃棄する事例がみられ

る。古い襖は、本来廃棄されるはずだった歴史が断片的

とはいえ、そのままパッケージされている「タイムカプ

セル」といえよう。そこで、読者の方々は、ご自宅やご

近所で廃棄されそうになっている古い襖を見かけたら、

是非注意してほしい。もし表面に破れた箇所があれば、

そっと中をのぞいて欲しい。古い和紙や新聞などが見え

たら、地域の歴史を新たに掘り起こす材料が隠れている

可能性もあるだろう。

 

以上、縷々述べてきたが、襖の下張りはがしの苦労や

楽しさは、実際に体験してみないとわからないことも多

い。最初は竹べらをおそるおそる下張りの間に差し込む

だけだった参加者も、次第に慣れ、自らの手で下張りを

取り出せるようになってくる。さらに下張りに記された

文字を自ら解読し、地域の歴史に触れることで、これま

での苦労が喜びへと変わっていく参加者の姿を何度も目

の当たりにしてきた。

 

さて、尼崎市立地域研究史料館では現在年に二回の

ペースで、ボランティアによる襖下張り文書はがし作業

がおこなわれている(詳細は後掲の城戸レポートを参照)。

下張り文書はがしの苦労と楽しさは、私の拙い文章では

十分に伝わらないだろう。そこで、是非とも襖下張りは

がしのボランティアに実際に参加して、皆さん自身に体

験していただきたい。下張りに隠された、豊かな歴史を

掘り起こす作業に一人でも多くの方に加わっていただ

き、反古紙を「地域の宝」に変えていく襖下張りはがし

の魅力を知っていただければ望外の幸せである。

〔注〕

(1)田良島哲「襖・屏風の下張文書

―その伝来と史料的

価値をめぐって」(『M

USEU

M

』四七四、一九九〇年九月)、

新井勉・大関久美子「襖・下張文書

―解体作業への案

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内」(『牛久市史研究』第六号、一九九六年三月)、越佐

歴史資料調査会『地域と歩む史料保存活動』(岩田書院、

二〇〇三年)の第4章「屏風下張り文書を整理する」、今

津勝紀編『岡山史料ネットⅡ「歴史遺産の保全と活用に

関するネットワーク・岡山」報告書』(岡山大学大学院社

会文化科学研究科、二〇〇七年)、尾立和則「下張り文書

の解説について」(『アーカイブズ講座報告書Ⅰ福澤旧居

襖下張文書』中津市教育委員会、二〇一四年)などを参照。

(2)ここで紹介する方法は、京都造形芸術大学歴史遺産研

究センター「襖解体作業の流れと注意事項」(二〇〇三年

六月一日)、三木市観光振興課「旧玉置家住宅 

襖の下張

り文書整理作業マニュアル」(二〇一二年二月作成)や、

尾立和則氏(元京都造形芸術大学教授)からのご教示を

参考に松下の責任においてまとめたものである。

(3)京都造形芸術大学編『文化財のための保存科学入門』(角

川書店、二〇〇二年)第3章第3節「絵画」。

(4)すでにまくりの状態にある場合、表裏の判断に悩む場

合がある。基本的には上張りや引き手穴がある面を表と

して判断するが、表裏に引き手がある場合もある。その

場合は、何れかの面を仮の表面としておく。

(5)なお、襖の下張りが縁(木枠)や骨よりはずされてい

る場合、引き手穴は中心よりもやや地のほうに位置する

ことから、天地を確定することができる。

(6)万が一、はがしている最中に継ぎが外れたら、「①―1」

「①―2」…などと枝番をつける。

(7)必ずしも右上でなければならないことはない。重要な

のは、一度ラベルを貼る場所を決めたら、処置する襖の

下張りは全て貼付位置を統一することである。そうすれ

ば、はがし終わったあとでも下張りの貼り方を復元する

時に、向きまで再現することができるのである。

(8)実際に下張り文書どうしをはりつぐということではな

く、概要目録上や記録用紙上で接続・対応関係を記して

もよいし、下張り文書の断簡をデジタル上で接続し、一

つの文書を復元することも可能であろう。

(9)同ネットは、阪神・淡路大震災以降、大規模自然災害

において被災した歴史資料の救済・保全を目的としたボ

ランティア団体である。直近の活動については、同ネッ

トのホームページを参照。http://siryo-net.jp/

(10)

歴史資料ネットワーク編『歴史資料ネットワーク 

動報告書』(同、二〇〇二年)九六~九七頁。

(11)活動については、松下正和・河野未央編『水損史料を救う』

(岩田書院、二〇〇九年)を参照。

(12)松下正和「歴史資料ネットワークによる被災史料救出

活動について

―台風二三号への対応を中心に」(『日本

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史研究』五一三号、二〇〇五年五月、六八~七二頁)。

(13)松下正和「新自由主義時代の博物館と文化財

歴史資

料ネットワークによる水損史料救出活動について

二〇〇九年台風九号への対応を中心に」(『日本史研究』

五七五号、二〇一〇年七月、五五~六一頁)。

(14)被災文化財等レスキュー委員会・東京文化財研究所

情報分析班「被災文化財における人体への健康被害の

可能性のあるカビの取扱い、および予防に関する注意

点」(二〇一二年三月一九日付)http://w

ww.tobunken.go.jp/

japanese/rescue/20120319.pdf

(15)芸予地震被災資料救出ネットワーク愛媛『愛媛資料ネッ

ト活動記録集』(同、二〇〇二年)、蝦名裕一「東日本大

震災における下張り文書の保全活動について(特集 

日本大震災を体験して)」(『宮城歴史科学研究』七一号、

二〇一二年九月)など。また、被災襖や屏風の処置方法

については、動産文化財救出マニュアル編集委員会編『動

産文化財救出マニュアル 

思い出の品から美術工芸品ま

で』(クバプロ、二〇一二年)を参照。

(16)たとえば、明石市の田中家の搬出襖は、一九九六年六

月には明石市立文化博物館で、七月には茨城県牛久市で、

九七年八月には奈良大学文化財学科保存科学教室で田中

家の襖を使った解体の作業・実習・講演会がおこなわれ

た(前掲注(10)報告書六五頁)。

(17)佐用町文化遺産再発見活性化事業実行委員会編『わた

したちの文化遺産

―資料保存ガイド』(同、二〇一三年)。

(18)松下正和「「二〇〇九年台風九号被災資料の保全と活用

―佐用郡地域史研究会・佐用町教育委員会との連携

―」

(新潟大学災害・復興科学研究所危機管理・災害復興分野『災

害・復興と資料』第二号、二〇一三年三月、二七~三八頁)。

(19)下張り文書の内容については、佐用郡地域史研究会会

長の竹本敬市氏(近大姫路大学教育学部特任教授)より

ご教示を得た。

(20)以下の、下張り文書はがしとその活用、その後の連携

事業に関する記述は、河野未央「風害で発見された中垣

内村の年貢免状

―八瀬家住宅の襖下張り文書

―」(『い

ひほ研究』いひほ学研究会、二〇一二年三月、一八~

三一頁)を参考にした。

(21)前掲注(10)報告書九七頁。

(22)板垣貴志「玉置家文書調査活動の意義と展望」(三木市

文化遺産活性化実行委員会編『古民家の史料調査研究報

告書 

玉置家文書調査報告書』同会、二〇一四年)。

(23)神戸大学大学院人文学研究科地域連携センター編『「地

域歴史遺産」の可能性』(岩田書院、二〇一三年)。

(24)網野善彦『古文書返却の旅』(中公新書、一九九九年)九八頁。