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122 「粉体および粉末冶金」第 66 巻第 3 J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy Vol. 66, No. 3 ©2019 Japan Society of Powder and Powder Metallurgy 研究論文 自己組織化した BaTiO 3 /ポリ-L-乳酸コンポジットの材料組織におけるフラクタル特性 武田 真理子 1 ,吉野 謙太郎 1 ,水上 侑香 2 ,佐藤 圭浩 2 ,伊東 顕 3 ,包 躍 2 ,宗像 文男 1 * 1 東京都市大学工学部,〒 158-8557 世田谷区玉堤 1 丁目 28-12 東京都市大学知識工学部,〒 158-8557 世田谷区玉堤 1 丁目 28-13 三菱ガス化学(株)企画開発部,〒 100-8324 千代田区丸の内 2 丁目 5-2Fractal Characters of Material Texture of Self-assembled BaTiO 3 /Poly-L-Lactic-Acid Composites Mariko TAKEDA 1 , Kentaro YOSHINO 1 , Yuka MIZUKAMI 2 , Yoshihiro SATO 2 , Akira ITO 3 , Yue BAO 2 and Fumio MUNAKATA 1 * 1 Faculty of Engineering, Tokyo City University, 1-28-1 Tamatsutsumi Setagaya-ku, Tokyo 158-8557, Japan. 2 Faculty of Knowledge Engineering, Tokyo City University, 1-28-1 Tamatsutsumi Setagaya-ku, Tokyo 158-8557 Japan. 3 Mitsubishi Gas Chemical Co., Inc., Planning & Development Division, Specialty Chemicals Company, 2-5-2 Marunouchi, Chiyoda-ku, Tokyo 100-8324, Japan. Received November 6, 2018; Revised January 13, 2019; Accepted January 15, 2019 ABSTRACT The dispersion of self-assembled BaTiO 3 (BT) agglomerates in poly-L-lactic-acid (PLLA) polymer matrix was decided with the multifractal analysis to investigate characters of the aggregated morphology of the secondary particle group. On the multifractal analysis, the results showed that the average secondary particle area is increased with increasing the capacity dimension (D 0 ). The average secondary particle area is related to BT agglomerates. It showed that S 1/2 and D 0 plot increased linearity. Therefore, BT agglomerates and D 0 have a correlation. It suggested that D 0 is related to the morphology of the BT agglomerates. The average dielectric constant (ε′ ) is increased with increasing D 0 . It was considered that the formation of the hetero interface of BT/ PLLA contributed to the increase in the average dielectric constant of BT/PLLA composites. KEY WORDS BaTiO 3 /PLLA, polymer composite material, multifractal analysis, self-assembly, aggregated morphology 1 緒   言 一般的なポリマーの誘電率は 10 未満と比較的低い値を示 1) .これらのポリマーのエネルギー貯蔵用の誘電率を高 めるために,誘電率が 1000 以上を有するチタン酸バリウム BaTiO 3 , BT)のような高誘電率のセラミックス粉末フィラー をポリマーマトリックスに添加する方法がある 1) .しかしな がら,これらのセラミックス/ポリマー複合材料では高い誘 電率を得るために,ポリマーマトリックスに高誘電率セラ ミックスを 50 vol% 以上添加している.そのため,このよう な複合材料は非常に低い機械的特性を示し,コンデンサなど の誘電体材料としての用途に望ましくない.特に 2 成分を複 合させたセラミックス/ポリマー複合材料の場合,各成分と 体積分率によって総エネルギー密度が与えられ,ポリマーマ トリックス中のセラミックスフィラーの分散状態が,エネル ギー貯蔵中のエネルギー密度において重要な役割を果たす 1) さらにポリマーマトリックス中のセラミックスフィラーの分 散度を制御する場合,ポリマー中のセラミックスフィラーを より高分散させるために,セラミックス及びポリマーを化学 修飾させている 1) 以前に Robertson 及び Varlow は,高誘電率を有する BT フィラー/ポリマー複合材料において BT 粒子のサイズ,形 状及び凝集が有効バルク誘電率に影響を与えることを指摘し ている 2) .同様な例として,秋宗らにより TiN/Si 3 N 4 の機械的 及び電気的特性を解析することで,セラミックス中の顆粒の 粒子形状やサイズが,ネットワーク形成に重要な役割を示す ことが指摘されている 3) .これの結果は,粒子群形成が機能 を向上させることを示唆している.また,Phan らは BT の制 御されたナノ粒子凝集体がエポキシナノコンポジットの誘電 * Corresponding author, E-mail: [email protected]

自己組織化した BaTiO3 -L-乳酸コンポジットの材料組織における …

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「粉体および粉末冶金」第 66巻第 3号

J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy Vol. 66, No. 3©2019 Japan Society of Powder and Powder Metallurgy

研究論文

自己組織化したBaTiO3/ポリ-L-乳酸コンポジットの材料組織におけるフラクタル特性

武田 真理子1,吉野 謙太郎1,水上 侑香2,佐藤 圭浩2,伊東 顕3,包 躍2,宗像 文男1*1東京都市大学工学部,〒 158-8557世田谷区玉堤 1丁目 28-1.

2東京都市大学知識工学部,〒 158-8557世田谷区玉堤 1丁目 28-1. 3三菱ガス化学(株)企画開発部,〒 100-8324千代田区丸の内 2丁目 5-2.

Fractal Characters of Material Texture of Self-assembled BaTiO3/Poly-L-Lactic-Acid Composites

Mariko TAKEDA1, Kentaro YOSHINO1, Yuka MIZUKAMI2, Yoshihiro SATO2,

Akira ITO3, Yue BAO2 and Fumio MUNAKATA1*1Faculty of Engineering, Tokyo City University, 1-28-1 Tamatsutsumi Setagaya-ku, Tokyo 158-8557, Japan.

2Faculty of Knowledge Engineering, Tokyo City University, 1-28-1 Tamatsutsumi Setagaya-ku, Tokyo 158-8557 Japan. 3Mitsubishi Gas Chemical Co., Inc., Planning & Development Division, Specialty Chemicals Company,

2-5-2 Marunouchi, Chiyoda-ku, Tokyo 100-8324, Japan.

Received November 6, 2018; Revised January 13, 2019; Accepted January 15, 2019

ABSTRACTThe dispersion of self-assembled BaTiO3 (BT) agglomerates in poly-L-lactic-acid (PLLA) polymer matrix was

decided with the multifractal analysis to investigate characters of the aggregated morphology of the secondary particle group. On the multifractal analysis, the results showed that the average secondary particle area is increased with increasing the capacity dimension (D0). The average secondary particle area is related to BT agglomerates. It showed that S1/2 and D0 plot increased linearity. Therefore, BT agglomerates and D0 have a correlation. It suggested that D0 is related to the morphology of the BT agglomerates. The average dielectric constant (ε′) is increased with increasing D0. It was considered that the formation of the hetero interface of BT/PLLA contributed to the increase in the average dielectric constant of BT/PLLA composites.

KEY WORDSBaTiO3/PLLA, polymer composite material, multifractal analysis, self-assembly, aggregated morphology

1 緒   言一般的なポリマーの誘電率は 10未満と比較的低い値を示す1).これらのポリマーのエネルギー貯蔵用の誘電率を高めるために,誘電率が 1000以上を有するチタン酸バリウム(BaTiO3, BT)のような高誘電率のセラミックス粉末フィラーをポリマーマトリックスに添加する方法がある1).しかしながら,これらのセラミックス/ポリマー複合材料では高い誘電率を得るために,ポリマーマトリックスに高誘電率セラミックスを 50 vol%以上添加している.そのため,このような複合材料は非常に低い機械的特性を示し,コンデンサなどの誘電体材料としての用途に望ましくない.特に 2成分を複合させたセラミックス/ポリマー複合材料の場合,各成分と体積分率によって総エネルギー密度が与えられ,ポリマーマ

トリックス中のセラミックスフィラーの分散状態が,エネルギー貯蔵中のエネルギー密度において重要な役割を果たす1).さらにポリマーマトリックス中のセラミックスフィラーの分散度を制御する場合,ポリマー中のセラミックスフィラーをより高分散させるために,セラミックス及びポリマーを化学修飾させている1).以前にRobertson及びVarlowは,高誘電率を有するBTフィラー/ポリマー複合材料においてBT粒子のサイズ,形状及び凝集が有効バルク誘電率に影響を与えることを指摘している2).同様な例として,秋宗らにより TiN/Si3N4の機械的及び電気的特性を解析することで,セラミックス中の顆粒の粒子形状やサイズが,ネットワーク形成に重要な役割を示すことが指摘されている3).これの結果は,粒子群形成が機能を向上させることを示唆している.また,PhanらはBTの制御されたナノ粒子凝集体がエポキシナノコンポジットの誘電* Corresponding author, E-mail: [email protected]

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2019年 3月

自己組織化したBaTiO3/ポリ-L-乳酸コンポジットの材料組織におけるフラクタル特性

特性に及ぼす影響を報告している4).彼らの結果から,フィラー界面における化学結合とナノ粒子間のネットワーク閉じ込め効果の両方に依存した中間相領域の特性が示された4).最近,BTフィラー/ポリ-L-乳酸(PLLA)複合材料におい

て,BTフィラーの凝集体の平均二次粒子面積と誘電率が関係していることが示され,凝集体の微細構造を制御することが重要であると報告された5).そのため,微細構造を評価することが必要となってくる.近年では,粒子の形態を定量的に解析するためにフラクタル解析を用いた手法の報告がなされている6).鈴木らにより,粉体粒子投影像輪郭線のフラクタル次元をボックスカウント法によって求めることで,粒子形状を把握できることが報告された6).また小林らはボックスカウント法によるフラクタル解析を用いて,SUS316Lオーステナイト系ステンレス鋼の粒界微細構造の評価を行った.彼らの研究から,ランダム粒界のネットワークがフラクタル性を有することが示され,微細構造の定量的評価の可能性が見出された7).一方,画像解析ではマルチフラクタル解析による画像の高度な解析が可能となり,近年では医療分野で積極的に利用されている8).既報5)において,BT/PLLA複合材料のBT凝集体の平均二次粒子群の大きさの増加と共に誘電率との間に相関関係が見出されている.そこで本研究では,この複合材料のフィラー粒子群の形態評価へのマルチフラクタル解析の適用を試みた.また,複合材料のフィラーの分散性をマルチフラクタル解析を行うことで,自己組織化したBT粒子群の形態的特性を定量的に解析し,複合材料を作製する条件下での粒子群の凝集形態の特徴を把握することを目的とした.

2 実 験 方 法2.1 試料作製従来の固相反応法によりBaCO3(99.99%,高純度化学工業

(株))と TiO2(99.99%,高純度化学工業(株))を原料として,1373Kで 4時間焼成した.その後,得られたチタン酸バリウム(BT)を粉砕し,分級することで平均粒子径が約1 μmのBT粉末を得た.BT/ポリマー複合材料は,BT粉末と粒状ポリ-L-乳酸(PLLA, Nature Work, Japan)から作製した.複合材料の作製プロセスとして,PLLAを約 473 Kで融解さ せ,(1)低速(約 10 rpmで 30分間)と(2)高速(30 rpmで10分間)の 2つの条件で混錬した.BTの体積分率は 5 vol% と 10 vol%,20 vol%である.混錬後,各試料を空気中で冷却させ,分散剤無添加の BT/PLLA複合材料を作製した.同様の条件で,分散剤 Tegomer(登録商標)P121(ポリオレフィンタイプ,Evonik,U.S.A.)とBTを添加したBT/PLLA複合体を作製した.2.2 材料特性評価作製した試料について,40 Hzから 1 MHzでの複素誘電率 をAgilent 4294 A交流インピーダンス分析装置を用いて 298 K で測定をした.測定試料は,表面積 64 mm2,厚さ 0.3 mmの立方体で電極材料として金を蒸着させた.

2.3 電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)観察とマルチフラクタル解析得られた試料断面における BT粒子群の凝集状態は,電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM S-4100(日立製作所))を用いて観察された.観察した FE-SEM像を二値化処理し,解析用画像を得た.解析用画像を基にマルチフラクタル解析を行った.解析用画像を正方形のボックスサイズ rで分割し,二値化した粒子群を被覆する正方形の数をN(r)とし,i番目のボックスに含まれている点の個数を Ni(r)個とした.点が含まれている確率は pi(r)とした.各 rの値においてこの確率での実数 q(−∞ < q < ∞)は

( )

1

( )N r

qqr i

i

P p r

(1)

となる.qを用いた時の一般化次元Dqは

0 0

1 ln 1 ln ( , )lim lim-1 ln -1 ln

qr

qr r

P N q rDq r q r

(2)

より得られる9).また,式 (2)に q = 0を代入する事で

00

ln ( 0, )-limlnr

N q rDr

(3)

となる.これは通常のボックスカウント法と同じ式であるため,容量次元(D0)を得られる.今回のマルチフラクタル解析では,初期の解析としてマルチフラクタル解析からD0の値を求め,BT粒子群の凝集形態の特徴を把握した.

3 結   果Fig. 1に低速混錬(10 rpmで 30分間)で作製した BT/PLLA 複合材料の Tegomer® P121添加ありのBTの体積分率 5 vol%から 20 vol%添加における,電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)像とその二値化処理した画像を示す.Fig. 2に同混錬条件下で Tegomer® P121無添加のBT/PLLA複合材料の FE-SEM 像とその二値化処理した画像を示す.BTの体積分率 5 vol% 添加された高速混錬(30 rpmで 10分間)で作製したBT/PLLA 複合材料の Tegomer® P121添加及び無添加の試料について,FE-SEM像とその二値化処理した画像を Fig. 3に示す.Fig. 1から Fig. 3の二値化した画像の黒色部はBT粒子群を示し,白色部は PLLAを示している.Fig. 1と Fig. 2からBTの体積分率増加に伴い凝集体形成が促進され,BT粒子群が大きくなった.また Fig. 1と Fig. 2から,BTの各体積分率によるTegomer® P121添加試料と無添加試料のBT粒子群を比較すると,Tegomer® P121を添加した場合の方がBT凝集体の形成が,促進されていることを示した.このような凝集体形成が生じることは,既に報告5)されているようにファンデルワールス力などの分子間力による,凝集力によるものであると考えられている.このような凝集力が働くことで,混錬過程において分散と凝集を繰り返し,BT粒子群の大きさが調整されていると考えられる.また,特にBTの体積分率 5 vol%を添加した試料において

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「粉体および粉末冶金」第 66巻第 3号

武田 真理子,吉野 謙太郎,水上 侑香,佐藤 圭浩,伊東 顕,包 躍,宗像 文男

は,Fig. 1から Fig. 3に示すように(1)低速混錬下 Tegomer® P121添加試料,(2)低速混錬下 Tegomer® P121無添加試料,

(3)高速混錬下 Tegomer® P121無添加試料,(4)高速混錬下Tegomer® P121添加試料の順番で,凝集体形成が促進された.これまでの材料組織を解析する方法では,フラクタル解析のボックスカウント法による粒子形状,凝集体の形状,さらに粒子群充填構造の評価が行われている10).今回は初期の解析として,マルチフラクタル解析から容量次元(D0)を求めることで,BTの粒子群形態変化を解析し,BT粒子群の特徴を把握することを試みた.マルチフラクタル解析からD0を求める際,マルチフラクタル解析からD0の値を求め,フラクタル解析から求めたD0の値と比較し,同一であるのか確認した.Fig. 1から Fig. 3に示した二値化処理をした解析用画像を基に,マルチフラクタル解析とフラクタル解析を行った.Table 1にマルチフラクタル解析から求めたD0の値と既報5)で報告されている平均二次粒子面積と平均誘電率の結果を示す.今回のマルチフラクタル解析は,フラクタル解析と同条件で行った.フラクタル解析では,D0を求める際は,ボックスサイズ ln rが 0から 6.93 pixelの領域でフラクタル解析を行い,最小 2乗法により導出された傾きからD0を求めた.各試料において ln r = 0では,ボックスの大きさが画素の大きさと一致するため,フラクタル解析から除外した.また,D0が 2になる ln rの場合も解析用画像すべてを被覆してしまうことを意味するため,フラクタル解析から除外した.体積分率 5 vol%で低速混錬下 Tegomer® P121無添加試料では,0 pixel ≤ ln r ≤ 0.69 pixel,1.39 pixel ≤ ln r ≤ 2.77 pixelと3.47 pixel ≤ ln r ≤ 6.93 pixelの領域で 3つの直線が得られた.ln r = 0及びD0が 2を示す 3.47 ≤ ln r ≤ 6.93 pixel領域は,上記の理由でフラクタル解析から除外した.ln rが 0.69 pixel ≤  ln r ≤ 2.77 pixelの領域では,ln r = 0.69 pixelの時,D0がD0 < 1 になる.これは,凝集体の形状が破線状であることを意味し,BT粒子群では存在し得ない形態であるため,ln r = 0.69 pixelを除外した.最適な領域でフラクタル解析を行った結果をFig. 4に示す.Fig. 4の ln N(q = 0, r)-ln rプロットから求めた

Fig. 1 Cross sectional FE-SEM images (a, b, and c) and image processing pictures (a’, b’, and c’) of samples with 5 (a, a’), 10 (b, b’) , and 20 (c, c’) % volume fraction of BT prepared under low kneading conditions with Tegomer® P 121.

Fig. 2 Cross sectional FE-SEM images (a, b, and c) and image processing pictures (a’, b’, and c’) of samples with 5 (a, a’), 10 (b, b’) , and 20 (c, c’) % volume fraction of BT prepared under low kneading conditions without Tegomer® P 121.

Fig. 3 Cross sectional FE-SEM images (a, and b) and image processing pictures (a’, and b’) of samples with 5% volume fraction of BT prepared under high kneading conditions with Tegomer® P 121 (a, a’) without Tegomer® P 121 (b, b’).

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2019年 3月

自己組織化したBaTiO3/ポリ-L-乳酸コンポジットの材料組織におけるフラクタル特性

Table 1 The capacity dimension (D0) and characteristic of BT/PLLA composites.

Kneading speed BT Volume fractionCapacity

dimension (D0)

Dielectric constant

(ε′)5)

Average secondly particle area of BT

agglomerate (S)5)/μm2

High kneading (30 rpm, 10 min) 5 Without Tegomer P121 1.02 3.62 23.62With Tegomer P121 1.02 3.36 16.06

Low kneading (10 rpm, 30 min) 5 Without Tegomer P121 1.00 3.65 28.52With Tegomer P121 1.19 4.10 47.75

10 Without Tegomer P121 1.26 4.34 39.83With Tegomer P121 1.42 5.18 74.22

20 Without Tegomer P121 1.38 6.99 115.58With Tegomer P121 1.60 10.16 183.06

Fig. 4 Relationship between the number of boxes ln N(q = 0, r) for BT/PLLA composites and the box size (ln r); a) and b) 5% volume fraction of BT under low kneading with and without Tegomer® P 121, c) and d) 10% volume fraction of BT under low kneading with and without Tegomer® P 121, e) and f) 20% volume fraction of BT under low kneading with and without Tegomer® P 121, g) and h) 5% volume fraction of BT under high kneading with and without Tegomer® P 121. R2 indicates the correlation coefficient of ln N(q = 0, r)-ln r plot. D0 is the capacity dimension for BT agglomerates.

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「粉体および粉末冶金」第 66巻第 3号

武田 真理子,吉野 謙太郎,水上 侑香,佐藤 圭浩,伊東 顕,包 躍,宗像 文男

最小 2乗法の相関係数は,0.98以上を示し,直線関係があることはフラクタル性を有する事である11)から,BT粒子形態はフラクタル性を有することが明らかになった.Table 1のマルチフラクタル解析から求めたD0の値と Fig. 4のフラクタル解析から求めたD0の値は一致した.

Table 1から低速混錬で作製した試料においては,BTの体積分率が増加するにつれて直線の傾きが大きくなり,D0

も増加する結果が得られた.また Tegomer® P121添加試料と無添加試料のD0を比較すると,高速混錬では Tegomer® P121添加及び無添加の試料で,D0はおおよそ同じ値を示した.一方,低速混錬の場合においては,BTの各体積分率でTegomer® P121を添加することで,D0が大きくなった.また,BTの体積分率 5 vol%を添加した試料では,Fig. 4に示すように低速混錬で Tegomer® P121添加試料の場合の方が,D0は大きくなった.

4 考   察Table 1をもとに Fig. 5に高速混錬及び低速混錬で作製した

BT/PLLA複合材料の平均二次粒子面積と容量次元(D0)の関係を示し,Fig. 6にD0と平均誘電率の関係を示す.Fig. 5から平均二次粒子面積増加に伴いD0も増加し,平均二次粒子面積とD0の相関関係が得られた.一般的にD0が大きいほど粒子の複雑性が増していることになる.このことから,BT凝集体形成の促進に伴い BT/PLLA界面の面積が大きくなったと考えられる.このことが Fig. 6の平均誘電率増加に寄与していると考えられる.一般的には非平衡開放系の化学システムにおける自己組織化現象は,ベロウソフ・ジャボテンスキー反応に代表される溶液系で検討されており,反応拡散方程式中の活性因子と抑制因子が競争し,相互作用することでパターン形成が生じる.今回の実験のような固体粒子の混錬過程では,下記に示すような凝集力と分散力が働き,下記の式に示すように反応拡散系における拡散過程を混錬過程と見なすことによって,凝集力と分散力の関係で自己組織化の進行による二次粒子群の大きさを議論することができる.

凝集⇔分散 +混錬拡散過程 (4)

上記の式から凝集と分散を繰り返すことで,二次粒子群形成が促進されたと考えられる.また,一般的に分散剤を添加すると BT粒子表面に有機官能基が生成され,ポリマーマトリックス中の分散度を高めることで,誘電率向上が試みられている12).しかし,低速混錬の場合,分散剤の効果で分散しているが,せん断応力が低いため,Tegomer® P121の添加により再凝集し,BT凝集体の成長が行われたと考えられる.すなわち,低速混錬でTegomer® P121を添加すると,BT/PLLA界面を形成しながら凝集していくと考えられる.また,高速混錬で作製した場合,せん断応力が高く分散効果が高いため,Tegomer® P121を添加して作製した場合の方がBT凝集体が小さかったと考えられる.

Fig. 6からD0の増加に伴い平均誘電率も増加する傾向が得られた.既報5)で指摘しているように,無機/有機界面の重要性が報告されている.一般的にポリマーが p型を示し,BTが n型を示すことが考えられることから,BT/PLLA界面ではヘテロ接合が形成されることが示唆される.そのため,PLLA表面層において,BTと PLLA間に空乏層を形成し,BT/空乏層/PLLAが形成され,空乏層が誘電率向上に寄与することが考えられる.D0からBT/PLLA界面の形成が促進されることが示されているため,単純な BT/BT界面が誘電率向上に寄与しているわけではない.実際に BT/PLLA界面を有していない大きな粒子群を予め調整し添加した場合,平均二次粒子面積が単純に増加してもBT/PLLA複合材料の誘電率特性に影響を与えないことも報告しており,誘電特性には BT/PLLA界面が重要であると示した5).また,Fig. 6の Tegomer® P121添加試料と無添加試料を比較すると,Tegomer® P121添加試料の方が平均誘電率もD0も高い結果となった.これは Tegomer® P121を添加することで,BT/PLLA界面を形成しながら凝集体形成をしたため,Tegomer® P121添加していない場合よりもBT/PLLA界面が多くなり,平均誘電率が向上したと考えられる.D0の向上は,混錬過程のBT/PLLA界面の複雑性を反映しているため,D0と平均誘電

Fig. 5 Relationship between the capacity dimension (D0) and the average secondly particle area of agglomerates with 5, 10, and 20% BT/PLLA composites.

Fig. 6 Relationship between the capacity dimension (D0) and the dielectric constant (ε’, at 1 kHz) with 5, 10, and 20% BT/PLLA composites.

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2019年 3月

自己組織化したBaTiO3/ポリ-L-乳酸コンポジットの材料組織におけるフラクタル特性

率の相関関係から BT/PLLAヘテロ界面がより形成することで,誘電率向上に影響を与えたと考えられる.以上から,混錬速度及び Tegomer® P121添加による混錬条件の制御がBT粒子群の自己組織化に影響を与え,凝集体の形態が誘電特性に影響を与えたと示唆された.また,Fig. 7に S1/2とD0の関係を示す.一般的に S1/2は見

掛けの外周の長さ変化に対応しており,粒子群の外周の長さLと相関関係がある.一般的に S1/2と Lの関係は次の式で成り立つ13).

L∝S1/2∝V1/3 (5)

この時,Vは体積を表す.式 (5)から,BT粒子群の凹凸の変化は,外周の長さの変化に対応しており,S1/2の変化に相当することが示されている.Fig. 7から S1/2とD0は相関関係が得られた.この結果から関係式は

S1/2∝L∝D0 (6)

のように考えることができる.このことから,D0はBT粒子群の形状の複雑さの指標になることが示された.従って,マルチフラクタル解析を用いることで複合材料の混錬条件の影響を評価できることが示された.

5 結   論自己組織化したBT粒子群の形態を定量的に解析するために,(1)低速混錬(10 rpmで 30分間)と(2)高速混錬(30 rpmで 10分間)の 2つの混錬条件下で,BTの体積分率が 5 vol%から 20 vol%で分散剤の添加と無添加によるBT凝集体形成に伴う,BT粒子形態のマルチフラクタル解析の適用を試み,以下の結論が得られた.(1) 低速混錬試料の場合,電界放出形走査電子顕微鏡(FE-

SEM)像から体積分率の増加に伴い,凝集体形成が促進

されたことが示された.また,同混錬条件の試料作製では,体積分率の増加に伴い容量次元(D0)も増加した.

(2) 低速混錬で試料を作製した場合,FE-SEM像から分散剤を添加してBT/PLLA複合材料を作製した方が,分散剤無添加試料よりも各体積分率において,BT凝集体形成が促進されたことが示された.

(3)S1/2が増加するのに伴いD0は直線的に増加した.S1/2はBT粒子群の外周の長さ Lと相関関係があることから,D0の直線的な増加は BT粒子群が直線的に大きくなっていることを示しており,BTフィラー添加量と共にBT凝集体の形態が複雑化していることが示唆された.以上の結果から,高速混錬下ではせん断応力が高く分散効果が高いため,凝集体が小さい結果となった.一方,低速混錬下では分散剤効果によりせん断応力が低いため再凝集し,BT凝集体の成長が行われたと示唆された.また,マルチフラクタル解析に基づくD0の結果から,マ

ルチフラクタル解析は自己組織化したBT粒子群形態を,評価するのに有効であることが示された.特にD0は粒子群の外周の長さの複雑さ度合に,反映していることが明らかになった.

謝   辞この研究を遂行させるにあたり,試料作製にご協力いただきました三菱ガス化学株式会社の石川雅彦氏に感謝申し上げます.本研究の一部は,東京都市大学ナノテクノロジー研究推進センターの支援を受けたものです.

文   献1) P. Barber, et al.: Materials, 2 (2009) 1697-1733.2) J. Robertson, B. R. Varlow: IEEE Trans. Dielectr. Electr.

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Fig. 7 Relationship between the capacity dimension (D0) and the outer perimeter of BT agglomerates with 5, 10, and 20% BT/PLLA composites.