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核酸医薬 - 日経BP書店|トップstore.nikkeibp.co.jp/item/contents/brouse/t_222870.pdf社で製造できるようになり、Tekmira社は一時 金を得、両社はお互いの製品の開発の進捗に応

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核酸医薬

266 日経バイオ年鑑2014

* 医薬・診断・医療機器 *

267日経バイオ年鑑2014

現有市場と成長性

 アンチセンス医薬、アプタマー医薬、デコイ核酸医薬は、抗ウイルス薬、抗がん剤、自己免疫疾患治療薬、中枢神経疾患治療薬、高脂血症治療薬など幅広い疾患を対象に研究が進んでいる。臨床開発の進展に伴い、アンチセンス医薬には、2012年以降、大手製薬企業の投資が戻ってきている。より短い核酸配列でRNA干渉作用を引き起こすsiRNAや、miRNAなどの核酸医薬候補ではまだ発売された製品はない。 世界的に見ると、製品として発売されたアンチセンス医薬は2つ、アプタマー医薬は1つ。世界初のアンチセンス医薬は米Isis Pharma-ceuticals社とスイスNovartis社の製品で、エイズ患者のサイトメガロウイルス(CMV)性網膜炎治療薬のアンチセンス医薬品「Vit-ravene」(ホミビルセン)だ。2つ目のアンチセンス医薬は、2013年1月に米国でホモ型家族性高コレステロール血症(HoFH)を適応として承認された「KYNAMRO」(ミポメルセン)。ミポメルセンは、Isis社が創製したアンチセンスで、アポリポたんぱく質B(ApoB)の合成を阻害する。ApoBは、LDLコレステロールを中心とするアテローム形成性脂質を血流に送り出し末梢に運ぶ役割を持つため、ApoBが減少すれば血中LDLコレステロール値も低下する。Isis社と米Genzyme社が共同開発・申請したものだ。 アプタマー医薬では、加齢黄斑変性症

(AMD)を適応とした「マクジェン」(ペガプタニブナトリウム)が発売されている。マクジェンは、加齢黄斑変性を適応とする競合品の抗体医薬「ルセンティス」(ラニビズマブ)と、2011年に米国で初めて発売されて以降、世界各国で販売が始まっている融合たんぱく質医薬「アイリーア」(アフリベルセプト)との競争下で、売り上げは低迷している。

研究開発動向と実用化状況

 siRNAでは、企業間のライセンス活動の障害になっていた特許紛争に決着がついた。化学修飾により薬効が示せるアンチセンスと異なり、siRNAは局所投与でない限り、脂質ナノ粒子(LNP)などの薬物送達システム(DDS)が必要となる。2011年の調査では、現在臨床試験中の18種類の全身投与性のsiRNA医薬のうち、6種類がカナダTekmira Pharmaceuticals社のLNPを使っていた。 2012年11月、長らく特許紛争を続けていた米Alnylam社とTekmira社が、siRNA医薬品のための脂質ナノ粒子DDS技術の特許群についての紛争を和解で終結させた。両社は、特許の譲渡やクロスライセンス契約により権利関係を整理。Alnylam社は、開発中の新薬候補を自社で製造できるようになり、Tekmira社は一時金を得、両社はお互いの製品の開発の進捗に応じて、各自が保有する権利の分のマイルストーンやロイヤルティーを得ることができるようになった。DDSが実用化のカギになるsiRNAにおいて、両社の特許関係が整理されたことは重要な変化だ。 Tekmira社では、 PLK1(Polo-like kinase1)を標的としたsiRNA抗がん剤候補であるTKM-PLK1について、良好なフェーズⅠ結果を得ている。TKM-PLK1もLNPをDDSとして採用していることから、特許紛争の和解を背景に、独自に開発パートナーを探したいと考えている。 また、2012年から2013年にかけては、アン

チセンスに大手製薬企業などの投資がなされるケースが続出した。米国の生物製剤大手企業である米Biogen Idec社は、2012年以降、Isis社との提携を強化している。2012年1月の最初の契約は、小児の脊髄性筋萎縮症(SMA)を適応とするIsis社のアンチセンス薬ISIS-SMNRxの開発と商品化に関するオプション契約だったが、2012年12月にはこれを、神経疾患・神経筋疾患を治療するための非公開の3つの標的に対するアンチセンス医薬品の発見・開発に拡大。2013年7月には、Biogen社は、1億ドルの一時金と引き換えにIsis社のアンチセンス技術を神経疾患に対する治療薬の開発に適用するための独占的な権利を取得した。この契約に基づき、両社は神経系疾患分野での6年間の研究協力を予定している。 Isis社は、協力に基づいて開発される全ての治療薬について、成果達成報酬、ライセンス料、ロイヤルティーの支払いを受ける権利を保持し、支払金額は、開発された分子のモダリティーに依存して決められる。アンチセンス薬の場合には、成果達成報酬は2億2000万ドル程度になる可能性がある。また、契約に基づいてIsis社が行う臨床試験の費用などもBiogen社から支払われる。  アンチセンス医薬に対する投資を拡大したことについて、Biogen Idec 社 のDouglas Wil-liams研究開発担当上級副社長は、「siRNA、miRNAなど、他にも選択肢がある中から、アンチセンス医薬を選択した理由は、中枢神経系疾患治療薬候補としては最も成熟していたからだ」と説明している。Isis社は、Biogen Idec社と提携する前から中枢神経系疾患に対するアンチセンス医薬の開発を始めており、患者に対する脊髄内投与の実績があったことが決め手に

なったようだ。 一方、日本では、第一三共と産業革新機構が、2013年2月にOrphan Disease Treatment Insti-tuteの設立を発表。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を標的とした核酸医薬の開発を目指す新会社で、創薬シーズとなるのは、神戸学院大学総合リハビリテーション学部の松尾雅文教授、神戸大学大学院医学研究科の竹島泰弘特命教授が発見した、エキソンスキッピング作用を持つアンチセンスだ。松尾教授らが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する臨床研究を開始したのは2000年秋。実用化に際して企業の支援が得られるようになるまで13年を要した。 エキソンスキッピングを利用したデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するアンチセンス医薬は、海外では2つの候補品が開発後期に入っている。米Sarepta Therapeutics社のeteplirs-en(フェーズⅡb)と、英GlaxoSmithKline社とオランダProsensa社が共同開発しているdri-sapersen(GSK2402968、 フ ェ ー ズ Ⅲ ) だ。eteplirsenは患者の経過が順調に推移している模様だが、drisapersenは2013年9月にフェーズⅢの主要エンドポイントを達成できなかったことが発表された。 経済産業省は、2013年度より「個別化医療に向けた次世代医薬品創出基盤技術開発(国際基準に適合した次世代抗体医薬等の製造技術)」の助成事業を開始した。2013年8月に採択された8課題のうち、5課題が核酸医薬をテーマとしたものだった。既に巨大市場を形成している抗体医薬と比較すると、核酸医薬の実用化状況はまだ始まったばかりといってもよい段階だが、初期開発投資の重点はこちらへ移動しつつある。

提携・組織名 対象・物質名 開発段階 概要

《siRNA関連臨床開発》

○がん

カナダTekmira Pharmaceuti-cals社

RNAi治療薬TKM-PLK1

フェーズⅠで好結果と学会で発表(13年4月9日)

脂 質 ナ ノ 粒 子 処 方 のRNAi治 療 薬 で、PLK1(Polo-like ki-nase1)を標的とするTKM-PLK1を進行した固形がん患者に投与したフェーズⅠで、忍容性と、腫瘍におけるRNAi活性、臨床利益が示唆された(AACRで同日発表)

 高い特異性、明確な作用点、単純な構造を持ち、抗体医薬に続く新しいバイオ医薬として期待される核酸医薬。海外では2012年以降、新薬の承認や大手製薬企業の投資など、明るいニュースが続いている。日本国内でも、医薬品として優れた性質の核酸の合成、製造技術開発への国による投資が始まった。

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細胞医薬/ES細胞

* 医薬・診断・医療機器 *

303日経バイオ年鑑2014

現有市場と成長性

 細胞治療が最も広く適用されている疾患は、がんだ。中でも、血液がんなどの患者に対する造血幹細胞移植は、同種および自家の骨髄移植、同種および自家の末梢血幹細胞移植、臍帯血移植が既に保険適用されている。造血幹細胞移植の診療報酬は、同種骨髄移植で65万6000円、自家骨髄移植が25万円、同種末梢血幹細胞移植65万6000円、自家末梢血幹細胞移植30万円、臍帯血移植は44万3000円だ。 日本造血細胞移植学会のドナー・細胞ソース別の移植件数の年次推移によると、2011年に日本で実施された造血幹細胞移植は前年より約0.5%減の4929件。うち自家移植が1530件で同種移植は3390件だった。自家移植のほとんどは末梢血移植だが、同種移植では同種骨髄移植が1603件、同種末梢血移植が697件、臍帯血移植は1080件だった。バンクの充実もあり、臍帯血移植は前年度比7%増えたが、非血縁者からの骨髄移植は2年連続で前年を下回った。診療報酬だけで見ると、造血幹細胞移植の市場は60億円ほどだ。ただし、移植前に細胞を処理する装置や、造血幹細胞だけを分離するために使うCD34陽性細胞の分離装置・試薬などの周辺市場も存在している。 2012年9月に、「移植に用いる造血幹細胞の

適切な提供の推進に関する法律」が衆議院で可決され、成立した。これは、今後、高齢化が進んで造血幹細胞移植のニーズが増加した際に、移植の公平性を担保したり、幹細胞バンクを安定的に運営できるように財政を確保したり、幹細胞バンクに関する規制を定めたりする上での根拠となる法律だ。厚労省は、2013年9月に、「移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進を図るための基本的な方針(案)」を発表し、2013年10月27日までパブリックコメントを実施した。今後はこの方針に基づき、造血幹細胞移植の体制整備を行う。 造血幹細胞移植以外では、保険診療ではないものの、さまざまながんに対する免疫細胞療法が広く行われている。がんの免疫細胞療法の市場は、現在約70億円と推定される。がんの免疫細胞療法は、瀬田クリニック、白山通りクリニックなど自由診療で免疫細胞を使ったがん治療を行う医療機関により、02年頃から全国に広がっていった。生体の免疫機構の中心となっているナチュラルキラー細胞(NK細胞)やT細胞を体外に取り出して培養、増殖させ、再び体内に戻してがんを治療しようというのが、がん免疫細胞療法のコンセプトだ。培養する細胞の種類などが異なる幾つかの治療法が混在し、競争している。 がんの免疫細胞療法は、使用する細胞ごとに3つに分類できる。第1の手法が、白血球の中でも選択的培養が比較的容易なT細胞を、体外でサイトカインや抗体などと培養して増やす活性化自己リンパ球療法(LAK療法)。1980年代以降、盛んに行われるようになり、細胞培養サービスを提供する企業も多い。上場企業であるメディネットが提供している免疫療法のほとんども、LAK療法が占めている。  第2の手法が、09年3月に上場したベンチャー企業のテラが提供している樹状細胞療法。手術で切除した患者の腫瘍組織、あるいは人工的に作った抗原と樹状細胞を、体外で一緒に培養して患者に戻す。すると、樹状細胞の刺激により体内で細胞傷害性T細胞(CTL細胞)が生

 京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授が2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞し、政府は細胞治療・再生医療分野への研究開発投資を増やしている。細胞の大量生産・品質管理など、基盤技術に関わる研究の拡大も期待される。(骨、軟骨、皮膚、筋肉などの組織工学製品については「培養皮膚/培養軟骨/その他再生医療」の項を参照。がんワクチンを用いた免疫細胞療法は「抗がん剤」の項を参照)。

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304 日経バイオ年鑑2014

* 医薬・診断・医療機器 *

305日経バイオ年鑑2014

まれ、がんを攻撃するという作戦だ。 第3の手法が、NK細胞を利用した治療。この治療に必要な技術やノウハウを提供しているのはリンパ球バンク(東京・千代田、藤井真則社長)だ。同社は提携関係にある京都市の東洞院クリニックにおいて、NK細胞療法の臨床応用を進めている。 2010年3月30日に厚生労働省が「医療機関における自家細胞・組織を用いた再生・細胞医療の実施について 」を出し、医療機関の間で細胞加工サービスを委託ができることが明確になった。これにより細胞加工施設を持たない医療機関が免疫細胞療法を患者に提供できるようになり、実施機関は爆発的に増えた。厚労省の通知前は実施機関は200から300程度だったが、現在では600程度と推定される。これに合わせて、免疫細胞療法関連のサービスを提供する企業も増えた。市場規模自体は拡大しつつあるが、競争も激化している。

法改正で市場拡大なるか

 がん免疫細胞療法の支援を主な事業としている上場バイオベンチャー、メディネットとテラは、2013年の業績ではそれぞれ10%前後の成長を見込んでいる。 テラの2012年12月期決算は、売上高が15億4400万円と前年比約17%増となり、2億2100万円の営業利益を出した。2013年12月期には、売上高17億1700万円と11.2%増の計画を立てている。一方のメディネットの2012年9月期決算は、売上高が前年同期比18%減の21億9000万円となった。2013年9月期決算では、24億円の売り上げを予測している。ただし、営業損益は6億2000万円の赤字予想。これで3期連続の赤字となり、経営環境は楽観できない。同社は2013年10月、創業者で長年社長を務めた木村佳司氏が取締役会長となり、取締役CPテクノロジー事業本部長だった鈴木邦彦氏を代表取締役社長とした。 現在、細胞治療の支援ビジネスを展開する企業が注目しているのは、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律案(再生医療等安全性確保法案)」だ。2013年秋以降に国会で審議される予定のこの法律は、再生医療・細胞治療を人

体や健康に与える影響に応じて3種類に分類し、それぞれ手続きや規制を設け、安全性を確保した上で、国民が再生医療の恩恵を受けられるようにするもの。例えば、最もリスクが高い「第1種」の治療を実施するには、特定認定再生医療等委員会の意見を聞いた上で、厚労大臣に計画を提出して確認を得てから実施することが求められ、実施医療機関も施設・人員要件を満たさなければならない。  この法案は、企業が再生医療で使用する細胞を製造することを、許可制で認めている。これまで、メディネットやテラのような企業は、細胞加工施設を医療機関の中に作らなければならなかった。しかし、新法が成立すれば、各社は施設を設置する場所を選べるようになる。また、1つの施設に加工を集中できるため、規模の経済が働くようになるとも期待される。 メディネットは、2013年3月、新株予約権の発行により約40億円を調達することを発表した。この資金により、新薬事法と再生医療安全確保法に対応する体制を整える計画だ。2013年5月にはテラも、野村證券を割当先とする、第三者割当による新株予約権の発行を決議。資金調達額は約31億円を予定しており、細胞培養施設の設置などを計画している。

幹細胞研究支援市場の拡大

 2012年12月10日、京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞した。日本国内では政府の後押しもあって幹細胞研究のすそ野が拡大しており、機器メーカーや試薬メーカーにとっては好機となっている。 ヒトES細胞、iPS細胞および関連の試薬を製薬企業や大学の研究者向けに供給しているベンチャー企業であるリプロセルは、2013年6月に大証JASDAQに上場した。同社の公開価格は3200円。初値はその5.6倍の1万7800円だった。 リプロセルは、幹細胞研究で著名な京都大学再生医科学研究所の中辻憲夫教授と東京大学医科学研究所の中内啓光教授を創業者とするバイオベンチャー。ES/iPS細胞関連の研究用試薬(培養液、保存液、コーティング剤)とES/iPS細胞由来の細胞(心筋細胞、肝細胞、神経細胞、アルツハイマー病神経細胞など)の製造販売を

主力事業としている。 会社発表の経営計画では、2014年3月期は売上高4億7700万円、営業損失8800万円、当期純損失600万円と赤字予想。しかし、海外事業や細胞販売が伸長する見込みで、2015年3月期は売上高7億1300万円、2016年3月期は14億7700万円と増収が続き、損益も2015年3月期に黒字転換するとしている。2013年10月には、北米のサプライヤーであるカナダCEDAR-LANE社とアメリカ合衆国・カナダを中心とする販売業務提携をした。 リプロセルの細胞製品は、米Cellular Dy-namics International社やフランスCellectis社の細胞製品とともに、日本製薬工業会が2013年夏に立ち上げた「ヒトiPS細胞応用安全性評価タスクフォース」コンソーシアムの評価対象となっている。 京大の山中伸弥教授らの研究成果をライセンスアウトし、またiPS細胞研究に必要な周辺機器・試薬を開発しているiPSアカデミアジャパン(京都市、村山昇作社長)は、2013年もライセンス契約を拡大し、2013年3月にはマイクロン(東京・千代田、佐藤誠社長)、5月にはカナダ STEMCELL Technologies社と契約を結んだ。また2013年2月には、日本網膜研究所(現ヘリオス、東京都・中央、鍵本忠尚社長)と、再生医療分野での非独占的ライセンス契約を結んでいる。 多数の企業がiPS細胞を活用したビジネスを開始していることから、iPSアカデミアジャパンは2013年7月、iPS細胞ビジネス協議会を設立し、企業間の交流を活発化させようとしている。協議会の活動内容は、情報交換会、後援会の開催やコンサルテーションサービスの提供。会員企業の年会費は大企業で5万円、それ以外は2万円だが、iPSアカデミアジャパンから特許の実施許諾を受けていたり、iPS細胞を購入したりしている企業は無料だ。 センダイウイルスベクターを用いた遺伝子操作試薬や、遺伝子治療などを開発しているディナベック(茨城県つくば市、長谷川護社長)は、2013年9月、iPS細胞作製用に販売している試薬「CytoTune-iPS」の利用を拡大するため、これまで商業用途で利用する際に必要だったライセンス契約の締結を、撤廃することに決めた。

また、それまでの価格の約半額となるアカデミック価格を設定した。CytoTune-iPSは、培地に添加して培養することで、標的細胞からiPS細胞を簡単に作製できるようにした試薬だ。出荷数は年間数千キットで、国内では医学生物学研究所とiPSアカデミアジャパンが、海外では米Life Technologies社が販売代理店となっている。 大学・公的研究機関の研究者は、CytoTune-iPSを購入すれば自由に研究に使える。しかしこれまでは、製薬企業などのユーザーはディナベックとライセンス契約を結んだ上で同試薬を購入、使用していた。iPS細胞関連の政府が研究資金を投資する研究で、大学・研究機関と企業が共同でプロジェクトを進める際に、この契約形態が問題になることがあり、商業目的での利用に関するライセンス撤廃に踏み切った。今後、創薬、培地・機器・装置の開発・販売、再生医療、細胞作製受託サービスに同試薬を使用する場合にはライセンスが不要になる。ただし、iPS細胞そのものの販売については、ライセンスが必要になる場合がある。 CytoTune-iPSのこれまでの価格は3回分キットで25万円だったが、新しくアカデミックユーザー向けの価格を設定し、3回分12万円で販売する。ライセンスの撤廃、アカデミック価格の設定に伴う売り上げの減少は、販売数の増加で補い、全体的には増収になるとディナベックでは予想している。同社は2013年10月には、米Life technologies社と、「CytoTune-iPS 2.0」を発売するための共同研究の延長で合意した。

研究開発動向と実用化状況

 厚生労働省の厚生科学審議会科学技術部会は、2013年7月、理化学研究所・先端医療振興財団先端医療センターの自家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)シート移植などの臨床研究計画を審査し、実施は妥当であるとの判断を下した。 理研のiPS細胞由来RPEシートの移植研究は、患者由来の細胞から作製したiPS細胞を分化させてRPEシートとし、患者に移植するもの。研究の対象となるのは滲出性加齢黄斑変性の患者6人だ。臨床研究の実施が許可されてから2