1
Leclerc を題した報告群 著者 雑誌 発表年 症例数 年齢 経過観察(月) 成否 合併症 骨切り線 溝形成 固定 1 藤本 ら 日口外誌 1985 1 18 +(症例により) 不明 なし 2 飯塚 ら 日口外誌 1985 7 17~59 +(症例により) 19~48 なし LeClerc 3 Undt ら Int J OMS 1997 9 17~64 30~60 3/9再発 7/16関節Click 4/9例運動痛 4 秋岡 ら 形成外科 1997 1 81 上縁に溝形成 30 なし LeClerc 5 上村 ら 形成外科 1998 4 35~65 垂直(2か所) ミニプレート 48 1/4プレートゆるみ LeClerc 6 渡貫 ら 日口診誌 2004 3 72~78 垂直 6~24 なし Gillies切開、局麻 7 清家 ら 日形誌 2006 1 26 垂直(2か所) ミニプレート 10 なし LeClerc 26 3/26例再発 (奏)88.4% Dautrey を題した報告群 発表年 症例数 経過観察(月) 合併症 骨切り線 溝形成 1 Lawlor ら Br J OMS 1982 10 19~32 18~60 1/10再発 なし Phenothiazine内服例 2 藤田 ら 日口外誌 1984 2 15,35 1~12 なし 3 Revington Br J OMS 1986 1 19 0.5 再発 なし 矮小下顎頭 (11mm) 4 Loh Int J OMS 1989 1 29 ミニプレート 20 なし Eminectomy術後再発例 5 To Br J OMS 1991 1 36 ワイヤ(骨折) 36 骨折ワイヤ 片側骨折 プレート 皮切変法 局麻3例 6 Srivastava ら Int J OMS 1994 12 27~50 2例ワイヤ 36~62 1/12再発 なし 7 Kobayashi ら Br J OMS 2000 12 38~94 接着剤 18~96 なし 8 井上 ら 日顎誌 2007 10 49~90 ミニプレート 12~36 なし 9 神谷 ら 名市病院紀要 2007 1 79 不明 なし 10 Gadre ら J OMS 2010 20 14~60 ミニプレート 19~60 1例骨折 (60歳) 70 3/70例再発 (奏)95.7% 顎関節脱臼に対する頬骨突起形成術に関する考 ― Leclerc Dautrey による手術法について ― 金沢医科大学 顎口腔外科学講座 1 北海道医療大学 歯学部 生体機能・病態学系 組織再建口腔外科学分野 2 鶴見大学 歯学部 口腔顎顔面放射線・画像診断学講座 3 瀬上 夏樹 1 ,柴田 考典 2 ,杉崎 正志 3 方法 Leclerc & Girard (1943) Gosserez, Dautrey (1964) の仏語論文を詳読して、各手技の相違点と ポイントをまとめ、 Leclerc あるいは Dautrey の名称で報告された国内外の原著論文を渉猟して問 題点を提起した。 発表の動機および目的 顎関節脱臼に対する頬骨突起形成術は、有効かつ広く普及している。しかし本法は Leclerc 手術あ るいは Dautrey 手術と呼ばれるのが一般的で、呼称の統一見解はなく混乱している。そこで両術式 の相違点、奏効度、問題点について検討を行い、正当な手術名称の整理を提案したい。 Dijon Nancy Dautrey による骨片固定法 (1) 結節前面に 2 3mm の溝 ( ) を形成する。 Dautrey による骨片固定法 (2) 結節下面の溝 ( 矢印 ) に骨断 端をはめ込み固定する。 術中所見 頬骨弓 Down-fracture後に 形成溝に固定された。 術後3D-CT所見 移動した頬骨弓は固定され 関節結節が深化している。 結果 1、Leclerc 7 編、Dautrey 10 編の論文を検討した。 2、17 編の手技では、垂直の骨切りはLeclerc群の 2 編のみで、他は全て斜め方向であった。 3、骨片固定用の溝形成について、6 (Dautrey 3/10 Leclerc3/7 )で行われていた。その他、 ミニプレートなどが併用された。 4、再発はLeclerc3/28 例、Dautrey 3/70 例で、 手術成績は良好であった。 考察と結論 1、Leclerc 群、Dautrey 群ともに、ほぼ斜め方向の 骨切りが用いられており、原法との間で齟齬がある。 2、Dautrey による溝形成は、わずか6 編で行われて いたのみであった。 3、人名を用いた手術法を提示する場合、 *関節結節の垂直骨切り : Leclerc () 手術 *関節結節の斜め骨切り+結節下面の溝形成 Dautrey () 手術 *あるいは、和名 : 頬骨突起形成術 と表記すべきである。 1、 Leclerc & Girard の手術法が紹介された 1943 年、 Dijon ( 北フランス ) ツ占領下( Vichy ナチス 傀儡政権)で、本法のよ画期的手術法が 発表されたとはきである。 2、人の パリ 13 大学 Charles De Clercq 教授いた所、当時占領圧政( ) ではあった が、 パリを中術文化の自由性はある程度担保 されていたである、と。 3、 Gosserez & Dautrey Nancy )もフランス人であり、 近代欧州仏医学高度さは服にする。 余談 Gosserez M. & Dautrey J. et al. : Luxations temporo-maxillaires et butées arthroplastiques. Rev. Stomatol. 65:690-694,1964 *関節結節を斜め方向(矢印)に骨切りし、頬骨弓基部若木骨折さる。 *症例により、頬骨弓上縁に小骨切り(矢印)を行*関節結節下面に溝を形成して移動骨片の固定を行Dautrey 手術のLeclerc & Girard : Un nouveau procédé de butée dans le traitement chirurgical de la luxation récidivante de la mâchoire inférieure. Mem Acad Chir. 69:457-459,1943 *関節結節を垂直(矢印)に骨切りし、頬骨弓基部若木骨折さる。 *症例により、頬骨弓上縁に小骨切り(矢印)を行*移動骨片の固定にがある。 Leclerc手術の

顎関節脱臼に対する頬骨突起形成術に関する考 ― …declercq/...6 渡貫ら 日口診誌 2004 3 72~78 垂直 - - 6~24 良 なし Gillies 切開、局麻

Embed Size (px)

Citation preview

Leclerc を題した報告群

著 者 雑 誌 発表年 症例数 年 齢術 式

経過観察(月) 成 否 合併症 備 考骨切り線 溝形成 固 定

1 藤本 ら 日口外誌 1985 1 18 斜 +(症例により) - 不明 良 なし

2 飯塚 ら 日口外誌 1985 7 17~59 斜 +(症例により) - 19~48 良 なし LeClerc

3 Undt ら Int J OMS 1997 9 17~64 斜 - - 30~60 3/9再発 7/16関節Click 4/9例運動痛

4 秋岡 ら 形成外科 1997 1 81 斜 上縁に溝形成 - 30 良 なし LeClerc

5 上村 ら 形成外科 1998 4 35~65 垂直(2か所) - ミニプレート 48 良 1/4プレートゆるみ LeClerc

6 渡貫 ら 日口診誌 2004 3 72~78 垂直 - - 6~24 良 なし Gillies切開、局麻

7 清家 ら 日形誌 2006 1 26 垂直(2か所) - ミニプレート 10 良 なし LeClerc

計 263/26例再発(奏)88.4%

Dautrey を題した報告群

著 者 雑 誌 発表年 症例数 年 齢術 式

経過観察(月) 成 否 合併症 備 考骨切り線 溝形成 固 定

1 Lawlor ら Br J OMS 1982 10 19~32 斜 + - 18~60 1/10再発 なし Phenothiazine内服例

2 藤田 ら 日口外誌 1984 2 15,35 斜 + - 1~12 良 なし

3 Revington Br J OMS 1986 1 19 斜 - - 0.5 再発 なし 矮小下顎頭 (11mm)

4 Loh ら Int J OMS 1989 1 29 斜 - ミニプレート 20 良 なし Eminectomy術後再発例

5 To Br J OMS 1991 1 36 斜 - ワイヤ(骨折) 36骨折ワイヤ

→良片側骨折プレート

皮切変法 局麻3例

6 Srivastava ら Int J OMS 1994 12 27~50 斜 + 2例ワイヤ 36~62 1/12再発 なし

7 Kobayashi ら Br J OMS 2000 12 38~94 斜 - 接着剤 18~96 良 なし

8 井上 ら 日顎誌 2007 10 49~90 斜 - ミニプレート 12~36 良 なし

9 神谷 ら 名市病院紀要 2007 1 79 斜 - - 不明 良 なし

10 Gadre ら J OMS 2010 20 14~60 斜 - ミニプレート 19~60 良1例骨折(60歳)

計 703/70例再発(奏)95.7%

顎関節脱臼に対する頬骨突起形成術に関する考察

― Leclerc と Dautrey による手術法について ―金沢医科大学 顎口腔外科学講座 1北海道医療大学 歯学部 生体機能・病態学系 組織再建口腔外科学分野 2鶴見大学 歯学部 口腔顎顔面放射線・画像診断学講座 3瀬上 夏樹 1 ,柴田 考典 2 ,杉崎 正志 3

方法Leclerc & Girard (1943) と Gosserez, Dautrey ら (1964) の仏語論文を詳読して、各手技の相違点とポイントをまとめ、 Leclerc あるいは Dautrey の名称で報告された国内外の原著論文を渉猟して問題点を提起した。

発表の動機および目的顎関節脱臼に対する頬骨突起形成術は、有効かつ広く普及している。しかし本法は Leclerc 手術あるいは Dautrey 手術と呼ばれるのが一般的で、呼称の統一見解はなく混乱している。そこで両術式の相違点、奏効度、問題点について検討を行い、正当な手術名称の整理を提案したい。

・ ・Dijon

・Nancy

Dautrey による骨片固定法 (1)結節前面に 2 ~ 3mm の溝 ( 矢印 ) を形成する。

Dautrey による骨片固定法 (2)結節下面の溝 ( 矢印 ) に骨断端をはめ込み固定する。

術中所見頬骨弓 Down-fracture後に形成溝に固定された。

術後3D-CT所見移動した頬骨弓は固定され関節結節が深化している。

結果

1、Leclerc 7編、Dautrey 10編の論文を検討した。2、17編の手技では、垂直の骨切りはLeclerc群の

2編のみで、他は全て斜め方向であった。3、骨片固定用の溝形成について、6編 (Dautrey

の3/10、Leclercの3/7)で行われていた。その他、ミニプレートなどが併用された。

4、再発はLeclerc群 3/28例、Daut rey群 3/70例で、手術成績は良好であった。

考察と結論

1、Leclerc 群、Dautrey 群ともに、ほぼ斜め方向の骨切りが用いられており、原法との間で齟齬がある。

2、Dautreyによる溝形成は、わずか6編で行われていたのみであった。

3、人名を用いた手術法を提示する場合、*関節結節の垂直骨切り : Leclerc (法) 手術*関節結節の斜め骨切り+結節下面の溝形成

: Dautrey (法) 手術*あるいは、和名 : 頬骨突起形成術

と表記すべきである。

1、 Leclerc & Girard の手術法が紹介された 1943 年、 Dijon ( 北フランス ) はドイツ占領下( Vichyナチス  傀儡政権)で、本法のような画期的手術法が  発表されたことは驚きである。2、知人の パリ 13大学 Charles De Clercq教授に 聞いた所、当時占領圧政下 ( 上図 ) ではあったが、  パリを中心に芸術文化の自由性はある程度担保  されていた様である、と。3、 Gosserez & Dautrey ( Nancy )もフランス人であり、  近代欧州の仏医学の高度さは敬服に値する。

余談

Gosserez M. & Dau t rey J . et a l. : Luxa t ions t emporo-maxilla ires et bu tées a r throplast iques. Rev. Stoma tol. 65:690-694,1964

*関節結節を斜め方向(矢印)に骨切りし、頬骨弓基部で若木骨折させる。

*症例により、頬骨弓上縁に小骨切り(小矢印)を行う。

*関節結節下面に溝を形成して移動骨片の固定を行う。

Dau trey手術のポイント

Leclerc & Gira rd : Un nouveau procédé de bu tée dans le t ra it ement ch irurgica l de la luxa t ion récidivante de la mâchoire in fér ieure. Mem Acad Chir. 69:457-459,1943

*関節結節を垂直(矢印)に骨切りし、頬骨弓基部で若木骨折させる。

*症例により、頬骨弓上縁に小骨切り(小矢印)を行う。

*移動骨片の固定に難がある。

Leclerc手術のポイント