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導電性カーボンブラック「ケッチェンブラック EC」の特徴および用途展開 機能性カーボンフィラー研究会 副会長 前野 聖二 1. 緒言 「導電性カーボンブラックとはどういうカーボンブラックですか?定義はありますか?」筆者はし ばしば質問を受ける。導電性カーボンブラックという分類や定義は無いが、一般的に少ない添加量で 導電性を付与できるカーボンブラックが導電性カーボンブラックと呼ばれている。本稿では、導電性 カーボンブラックの中でも極めて少ない添加量で導電性を付与することができるケッチェンブラック EC の特徴とその用途について詳述する。 2. ケッチェンブラック EC の製造法 ケッチェンブラックEC の前駆体であるカーボンブラックは、反応炉に原料(炭化水素類)をフィー ドし、原料の不完全燃焼により生成する。従って、ケッチェンブラックは、製造上の分類では、基本 的にはオイルファーネスブラックに分類されると筆者は考える。しかしながら、通常のオイルファー ネス法とは異なる温度、圧力、フィード量を設定することにより、後述する導電性カーボンブラック として重要となる比表面積や DBP(ジブチルフタレート)吸収量などを大きくしている。 副生するガスを分離後、ケッチェンブラックEC 前駆体を造粒、乾燥することにより、ケッチェンブ ラック EC は製造される。ケッチェンブラック EC の簡単な製造フローチャートを図1に示す。 図1 ケッチェンブラック EC の製造フロー 3. ケッチェンブラック EC の構造と種類 ケッチェンブラック EC などの導電性カーボンブラックは、絶縁性の高分子材料に導電性を付与す る素材として、また、二次電池や燃料電池に代表されるニューパワーソースの電子キャリアー材や触 媒担持体として、様々な分野に用いられている。導電性フィラーの種類としては、 表1 1) に示すものが 知られているが、コストおよび性能の点でバランスが良い導電性カーボンブラックが最も多く使用さ れている。中でもケッチェンブラックEC は、国内においてはライオン株式会社が供給しており、その ユニークな特徴と品質から信頼性の高い導電性カーボンブラックとして高性能な分野で使われている。

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導電性カーボンブラック「ケッチェンブラック EC」の特徴および用途展開

機能性カーボンフィラー研究会

副会長 前野 聖二

1. 緒言

「導電性カーボンブラックとはどういうカーボンブラックですか?定義はありますか?」筆者はし

ばしば質問を受ける。導電性カーボンブラックという分類や定義は無いが、一般的に少ない添加量で

導電性を付与できるカーボンブラックが導電性カーボンブラックと呼ばれている。本稿では、導電性

カーボンブラックの中でも極めて少ない添加量で導電性を付与することができるケッチェンブラック

ECの特徴とその用途について詳述する。

2. ケッチェンブラック ECの製造法

ケッチェンブラック ECの前駆体であるカーボンブラックは、反応炉に原料(炭化水素類)をフィー

ドし、原料の不完全燃焼により生成する。従って、ケッチェンブラックは、製造上の分類では、基本

的にはオイルファーネスブラックに分類されると筆者は考える。しかしながら、通常のオイルファー

ネス法とは異なる温度、圧力、フィード量を設定することにより、後述する導電性カーボンブラック

として重要となる比表面積や DBP(ジブチルフタレート)吸収量などを大きくしている。

副生するガスを分離後、ケッチェンブラック EC前駆体を造粒、乾燥することにより、ケッチェンブ

ラック ECは製造される。ケッチェンブラック ECの簡単な製造フローチャートを図1に示す。

図1 ケッチェンブラック ECの製造フロー

3. ケッチェンブラック ECの構造と種類

ケッチェンブラック EC などの導電性カーボンブラックは、絶縁性の高分子材料に導電性を付与す

る素材として、また、二次電池や燃料電池に代表されるニューパワーソースの電子キャリアー材や触

媒担持体として、様々な分野に用いられている。導電性フィラーの種類としては、表11)に示すものが

知られているが、コストおよび性能の点でバランスが良い導電性カーボンブラックが最も多く使用さ

れている。中でもケッチェンブラック ECは、国内においてはライオン株式会社が供給しており、その

ユニークな特徴と品質から信頼性の高い導電性カーボンブラックとして高性能な分野で使われている。

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表1 導電性フィラーの種類 1)

ケッチェンブラック ECは組成的に言えば、ゴム用カーボンブラック、炭素繊維、黒鉛(グラファイ

ト)と同様炭素からなり、疑似グラファイト構造と呼ばれる結晶子から構成されている。その結晶子

が集合して一次粒子を形成し、一次粒子が融着することによりアグリゲートとなり、アグリゲート同

士が Van der Waals力により結合した構造体(アグロメレート)から成り立っている。2) アグリゲ

ートはこれ以上微細化できない最小単位と考えられている。図2にはカーボンブラックの構造を、写

真 1には、ケッチェンブラック EC300Jの TEM写真を示す。

結晶子はπ電子をもった縮合ベンゼン環からなり、このπ電子はカーボンブラック上を自由に移動

することができる。導電性カーボンブラックを添加した材料が導電性を発現する理由は、このアグリ

ゲートやアグロメレートにより形成された導電回路上をπ電子が移動するためと考えられている。

図3には、HDPE(高密度ポリエチレン)樹脂に各種カーボンブラックを添加した場合の添加量と体

積抵抗率(導電性)の関係を示す。ゴム用途に用いられている SRFカーボンも縮合ベンゼン環上をπ

電子が移動できるため、高添加することによりマトリックス材料の導電化が可能である。カーボンブ

ラックの中で、高分子マトリックスの流動性や力学的特性に悪影響を及ぼさないよう、低添加量で導

電性を付与できるカーボンブラックが導電性カーボンブラックと呼ばれている。代表的なものとして

は、ケッチェンブラック ECや電気化学工業社のアセチレンブラック、キャボット社のバルカン XC-72

があり、少量添加で導電回路を形成できるように、一次粒子径、アグリゲートやアグロメレート長さ、

多孔度などの物理的特性をコントロールしている。

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図2 カーボンブラックの構造

写真1 導電性カーボンブラックの TEM写真

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図3 各種カーボンブラックの添加量と体積抵抗率

4. 導電性発現機構

カーボンブラックによる導電性発現機構は、パーコレーション理論 3)4)により説明できる。カーボン

ブラックの充填率が少ない場合には電気伝導度は変化しないが、ある臨界充填率を超えたところでカ

ーボンブラックが一定の間隔以下に配列した導電回路を形成し、急激な電気伝導度の上昇(抵抗の下

降)が生じ、その後一定値に達する(図4)。

パーコレーション理論によると、電気伝導度:σは、カーボンブラック濃度:Xと臨界粒子濃度:X

cと相関があり、式-1で表わされ、tは 1.80~1.95が実験的に求められている。

tはスケーリング指数、Xはカーボンブラックの添加量により決定されるファクターであり、臨界粒

子濃度:Xcのみがカーボンブラックの構造に関係しているため、Xcの低下(すなわち、少量添加で

高導電性を発現さる)という観点から導電性カーボンブラックの特徴を考えることが重要である。

Xc を低下させるためには、いかに効率良く導電回路を形成させるかがポイントとなるため、導電

性カーボンブラックに要求される特徴として、以下の項目が上げられる。

1. 粒子径が小さいこと

2. 多孔性であること

3. 比表面積が大きいこと

4. アグリゲートやアグロメレートが直線的に発達していること

5. ネットワーク構造を形成するようにアグリゲート同士が結合しアグロメレートを形成してい

ること

1~3は、単位重量当たりの粒子密度の増加による導電回路の形成しやすさを、4~5は、元来保有

している導電回路の発達度合いを示している。

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図4 導電性発現機構(パーコレーション理論)

5. ケッチェンブラック ECの特徴

表2に各種電性カーボンブラックの物性値を HAF、SRFカーボン、グラファイト、活性炭との比較で

示す。DBP 吸収量は、上述した1~5に相関する物性値であり、図3に示すように一般的に DBP 吸収

量が高いカーボンブラックを用いる場合ほど少量添加で導電性を付与できる傾向がある。

ケッチェンブラック EC300Jでは、1/2~1/3の添加量で、ケッチェンブラック EC600JDでは1

/3~1/5の添加量で他の導電性カーボンブラックと同等の体積抵抗率が得られる(図5)。例え

ば、101Ωcm の体積抵抗率を得るためには、アセチレンブラックやバルカンXC-72では25w

t%必要とするが、ケッチェンブラックEC300Jでは10wt%、ケッチェンブラック EC600JD

では6wt%で可能となる。5)

図5 導電性カーボンブラックの添加量と体積抵抗率

1E+0

1E+1

1E+2

1E+3

0 10 20 30 40

体積抵抗率

導電性カーボンブラック添加量(wt%)

<HDPE樹脂>103

102

101

0(Ω・cm)

25%6%

ケッチェンブラック

EC600JD

ケッチェンブラック

EC300J

バルカンXC-72

アセチレンブラック

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ケッチェンブラック ECは、比表面積、多孔度ともに高いことが特徴的であり、そのことより、上述

した粒子密度の増加による導電回路の形成が支配的となって高導電性を発現させている。ケッチェン

ブラック EC 表面には、数10nm 程度の微細な細孔が存在(写真2)しているため、比表面積や多孔

度が高い値を示す。表3には平均一次粒子径と多孔度の値から算出した単位重量当たりの一次粒子数

を、また写真2にはケッチェンブラック EC600JDおよびアセチレンブラックを10wt%充填したポ

リカーボネート(PC)樹脂超薄片のTEM写真を示す(写真3)。計算上、ケッチェンブラック ECの

粒子数はアセチレンブラックに比べ約6~8倍多く、また TEM写真からも、明らかにケッチェンブラ

ック EC600JDの方が粒子数が多く観察され、結果として導電回路を形成する確率が高くなり、高導電

性を示している。

一方、アセチレンブラックは比表面積および多孔度ともに低いにもかかわらず、DBP 吸収量は比較

的高い値を示している。表2中の Dmed(遠心沈降法にて測定)は、アグリゲートやアグロメレートの直

線的な発達度を示す値であるが、この値が高いため、DBP 吸収量が高くなるものと考えられている。

すなわち、アセチレンブラックは、上述した「導電性カーボンブラックに要求される特徴4,5」に

示すような元来保有するアグリゲートやアグロメレートの直線的発達が支配的となって導電性を発現

させていると考えられている。

また、その他物性値として表面官能基に起因する揮発分、不純物重金属に起因する灰分も少ないこ

とが導電性カーボンブラックの特徴である。その理由は、揮発分や重金属により、用いるマトリック

ス樹脂の種類によっては、分解や反応が起こり、機械的強度に悪影響を及ぼすためである。アセチレ

ンブラックは純度99%以上のアセチレンガスの連続分解法により、また、ケッチェンブラック ECは

不純物の少ない原料油の不完全燃焼により生成されるため、灰分や揮発分の少ない導電性カーボンブ

ラックとなる。

表2 各種導電性カーボンブラックの物性値

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表3 導電性カーボンブラックの特性値

写真2 ケッチェンブラック EC300Jの細孔

写真3 PC樹脂中の導電性カーボンブラック

ケッチェンブラック EC600JD 10wt%/PC アセチレンブラック 10wt%/PC

体積抵抗率:3.9Ω・cm      体積抵抗率:>108Ω・cm

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6. ケッチェンブラック ECの主な用途

ケッチェンブラック EC の用途を導電性高分子材料分野およびパワーソース分野に大別し、それぞ

れ表4,5に示す。以下、代表的な用途例や用途に応じた材料設計上の留意点について詳述する。

表4 導電性高分子材料分野

表5 パワーソース分野

電池種類 使用箇所 目的

マンガン乾電池 合剤(二酸化マンガ

ン/電解液)

電解液保持

電子キャリアー

一次電池

リチウム電池 正極 電子キャリアー

ニッケル水素電池 負極 電子キャリアー

発生ガス(02)の還元

二次電池

リチウムイオン電池、リチウムポリマ

ー電池

正極 電子キャリアー

燃料電池 固体高分子型燃料電池 燃料極、空気極 電子キャリアー

触媒の担持

キャパシター 電気二重層型キャパシター 正極、負極 電荷の発生(活物質主剤)

電子キャリアー(導電助剤)

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6-1.導電性高分子材料分野

一般に高分子材料はそれ自体優れた絶縁体であり、これに導電性カーボンブラックを添加すること

により、高分子材料の抵抗値を変化させ様々な用途に幅広く利用されている。さらに形態においても

樹脂成形体、塗料、接着剤と多岐にわたり、高分子材料の特徴を生かして種々実用化されている。

① 導電性高分子材料の用途例

エレクトロニクス製品を外部からの静電気による破壊から保護する目的で、その包装材料を導電性

プラスチックで作製したものが導電性高分子材料の代表的な用途である。従来は、あるレベルの導電

性を付与しただけの、導電性コンテナーやプラスチック段ボールなど通箱が主流であったが、ICトレ

ー(写真4)などのICチップの包装材料や、ppb レベルの揮発分や重金属あるいは包装材料から脱

落する微粉により歩留り低下を引き起こすハードディスクやシリコンウエハー用ケースにも近年使わ

れるようになっている。これら用途向けには、揮発分や重金属の含有量が少ない導電性カーボンブラ

ックの使用や製造時の混入(生成)に注意を要し、更に、ケースと製品の摩擦による微粉の脱落を極

力抑えるために、ケース表面平滑性を確保するなど高度な要求品質に答える導電性高分子材料が開発

されている。写真5に導電性シリコンウエハーケースを示す。ケースのガイドに沿ってシリコンウエ

ハーを装着し、ウエハー製造工程や搬送用に使用されている。

写真4 パワーソース分 写真5 シリコンウエハーケース

② 材料物性に及ぼす添加量の影響

導電性カーボンブラックを添加したプラスチックの体積抵抗率と流動性(スパイラルフロー長さ)

および衝動強度(Izod衝撃強度)の関係をそれぞれ図6、図7に示す。同じ体積抵抗率で比較すると

ケッチェンブラック EC300Jを添加した高分子材料の流動性、衝撃強度はともに良好な値を示す。

ケッチェンブラック EC は、他の導電性カーボンブラックに比べて少量添加で同等の導電性を付与

できるため、プラスチック等ベースとなる材料の本来の特性に大きな影響を及ぼすことが少ない。

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図6 スパイラルフロー長さと体積抵抗率の関係

図7 Izod衝撃強度と体積抵抗率の関係

0

10

20

30

40

0 10 20 30 40

体積抵抗率(Ω ・cm)

スパイラルフロー

長さ

(cm)

ケッチェンブラックEC300J

アセチレンブラック

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③ 導電性に及ぼす成形・加工エネルギーの影響

高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)に導電性カーボンブラックを添加した場合の混合時間と体積抵抗

率の変化を図8に示す。アセチレンブラックでは、混合時間の増加とともに体積抵抗率が急激に増大

するが、ケッチェンブラック EC300Jでは変化が小さいことがわかる。また、導電性カーボンブラック

を添加した変性ポリフェニレンエーテル樹脂(変性 PPE)のリサイクル数(試験片→粉砕→成形→試

験片)と体積抵抗率の変化を見ると、アセチレンブラックでは、リサイクル数の増加に従って、体積

抵抗率が上昇するが、ケッチェンブラック EC600JDではほとんど変化しないことがわかる(図9)。

これは、上述したように、アセチレンブラックの場合には、元来保有するアグロメレートの直線的発

達が支配的となって導電性を発現させているため、混合時間や成形回数の増加に伴い、アグロメレー

トの切断により導電回路が失われ、結果として体積抵抗率が増加(導電性が低下)するものと考えら

れている。混合条件や成形プロセスの影響を考慮した材料設計は、品質確保の点で重要となる。

図8 混合時間による体積抵抗率の変化

図9 ICトレーリサイクル耐性

1E+0

1E+1

1E+2

1E+3

1E+4

1E+5

1E+6

0 10 20 30 40 50 60

混合時間(分)

体積抵抗率

ケッチェンブラックEC300J5wt%

アセチレンブラック18wt%

 <HDPE樹脂>10

6

105

104

103

102

101

0

(Ω ・cm)

0

50

100

150

200

0 1 2 3 4 5 6

リサイクル数(回)

体積抵抗率

(Ω ・cm)

アセチレンブラック 25wt%

ケッチェンフ ゙ラック EC300J

 10wt%

ケッチェンフ ゙ラックEC600JD           6wt%

<変性PPE樹脂>

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6-2.パワーソース分野

最も需要の大きいマンガン乾電池には、古くからコストおよび純度の点で、アセチレンブラックが

使用されている。近年エネルギー源として注目を集めている充放電可能な二次電池(ニッケル水素電

池、リチウムイオン電池)には、エネルギー密度を向上させることが開発のポイントとなっているた

め、少量で高導電性を発現できるケッチェンブラック ECが使用されている。

① 二次電池分野

図10にリチウムイオン電池の正極に導電性カーボンブラックを添加した場合の放電容量サイクル

特性を示す。導電性カーボンブラックは、正極活物質であるコバルト酸リチウムから発生した電子を

集電体に運ぶための電子キャリアー材としての役割を果しており、導電性カーボンブラックの添加に

より、放電容量の向上すなわちエネルギー密度の向上が認められる。

また、少ない添加量で、効率良く導電回路を形成するかがポイントとなるため、導電性カーボンブ

ラックの分散状態は非常に重要となる。図11には、分散状態(正極材ペースト中の平均粒径)の異

なるケッチェンブラック EC300J を用いた場合の添加量と放電容量の関係を示す。分散状態により放

電容量が最大となる添加量は変化し、平均粒径が小さいほど少量添加で高い放電容量が得られること

がわかる。6)

図10 リチウムイオン電池の正極における放電容量サイクル特性

80

100

120

140

160

0 2 4 6 8 10

サイクル数

放電容量(mAh/g)

AcB EC ブランク

組成:LiCO2/カーボンブラック/PVDF(ポリフッ化ビニリデン)=96/1/3

測定条件:0.5mA/cm2,2.7~4.3V,30℃, PC 1mol/dm3-LiCl04

AcB:アセチレンブラック添加系、EC:ケッチェンブラック EC300J添加、ブランク:カーボンブラック無添加

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図11 ケッチェンブラック EC300Jの平均粒径と放電容量 6)

② 燃料電池分野

ケッチェンブラック ECに関する研究は古くから行なわれており、立教大学関根等は、燃料電池の

空気極にケッチェンブラック EC600JD を用いることにより大きな放電電流が取り出せることを見出

している。7)最近では、ケッチェンブラック ECの高比表面積に着目した研究が触媒メーカーや自動

車メーカーにより盛んに行なわれている。例えば、石福金属(株)は、ケッチェンブラックに Ptや Ru

金属を担持した高性能な燃料電池用の触媒を開発している。ケッチェンブラック ECの表面には、Pt

触媒が均一に担持されており(写真6)8)、用いる導電性カーボンブラックの比表面積に従って、触

媒性能に影響を及ぼす触媒比表面積や金属比面積が高くなる傾向を示している。(表6)8)

写真6 触媒担持ケッチェンブラック EC8)

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表6 石福金属興業製触媒担持カーボンブラック

7. おわりに

上述したようにケッチェンブラック EC の用途は多岐にわたっており、求められる要求も年々向上し

ている。用途や分野に応じた最適な導電性カーボンブラックの知見を広め、炭素材料が使われる分野

の発展に寄与していきたい。

参考文献

1)カーボン系導電性フィラーの選定・配合設計,技術情報協会セミナーテキスト(2014年 4月 22日)

2)カーボンブラック便覧<第 3版>、カーボンブラック協会、7(1995)

3)A.Bellamy,Conf.Int.Caoutch,Paris,#3,1(1982)

4)A.I.Medalia,Rubber Chem.Tec.,59,432(1978)

5)ライオン株式会社 ケッチェンブラック EC カタログ

6)S.Kuroda,et.al., J.Power Source,119,924(2002)

7)K.Sekine,et.al., DENKI KAGAKU, 62(10),989(1994)

8)石福金属興業株式会社様ご提供

HAF カーボンともにオイルファーネスブラックの一種であり、ゴム用に用いられ、それぞれ、SRF

(Semi Reinforing Furnace:中補強性ファーネス)カーボンは DBP吸収量:60-120ml/100g,ヨウ素

吸着量:20-40mg/g、 HAF(High Abrasion Furnece:高耐摩性ファーネス)カーボンは DBP吸収量:

70-150ml/100g,ヨウ素吸着量:70-90mg/gの特性値を示す。