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補助金制度 補助金制度 補助金制度 補助金制度に対する する する する相殺関税制度 相殺関税制度 相殺関税制度 相殺関税制度 米国 米国 米国 米国・ EU EU EU EU ・日本 日本 日本 日本の制度比較 制度比較 制度比較 制度比較および および および および事例 事例 事例 事例について について について について 2006 2006 2006 2006 年 3 月 日本貿易振興機構 日本貿易振興機構 日本貿易振興機構 日本貿易振興機構 経済分析部国際経済研究課 経済分析部国際経済研究課 経済分析部国際経済研究課 経済分析部国際経済研究課 05-ERA 70H-211AA 9

補助金制度にに対対対するする相殺関税制度 米国・EEUUEU ・ … · Anti-dumping and Countervailing Duties g 4 zbklm # :;LM < ï $ Q. ASCM g 4 n Z Q ¹ 9^ R

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補助金制度補助金制度補助金制度補助金制度にににに対対対対するするするする相殺関税制度相殺関税制度相殺関税制度相殺関税制度

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70H-211AA

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目次目次目次目次

はじめにはじめにはじめにはじめに 1111

要約要約要約要約 3333

第一部第一部第一部第一部 補助金補助金補助金補助金・・・・CVDCVDCVDCVDとはとはとはとは

第第第第1111章章章章 補助金補助金補助金補助金・・・・CVDCVDCVDCVD のののの概要概要概要概要

6666

1111.「.「.「.「補助金及補助金及補助金及補助金及びびびび相殺措置相殺措置相殺措置相殺措置にににに関関関関するするするする協定協定協定協定((((ASCMASCMASCMASCM)」)」)」)」のののの概要概要概要概要 7 7 7 7

2222....CVDCVDCVDCVD のののの経済的正当性経済的正当性経済的正当性経済的正当性((((アンチダンピングアンチダンピングアンチダンピングアンチダンピングとのとのとのとの比較比較比較比較)))) 18181818

3333....世界世界世界世界におけるにおけるにおけるにおける CVDCVDCVDCVD のののの傾向傾向傾向傾向とととと今後今後今後今後のののの見通見通見通見通しししし 23232323

第第第第2222章章章章 WTOWTOWTOWTO におけるにおけるにおけるにおける代表的代表的代表的代表的 ASCMASCMASCMASCM 判例判例判例判例とととと韓国韓国韓国韓国 DRAMDRAMDRAMDRAM事件事件事件事件

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1111....背景背景背景背景 31 31 31 31

2222....韓国韓国韓国韓国 DRAMDRAMDRAMDRAM事件事件事件事件 33 33 33 33

第二部第二部第二部第二部 各国各国各国各国のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度

第第第第3333章章章章 米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運営運営運営運営、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

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1111....米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度のののの特徴特徴特徴特徴 40404040

2222....米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 制度運用制度運用制度運用制度運用のののの特徴特徴特徴特徴 45 45 45 45

3333....米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 環境環境環境環境 48 48 48 48

第第第第4444章章章章 EUEUEUEU のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運営運営運営運営、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

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2222....ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD 制度運用制度運用制度運用制度運用のののの特徴特徴特徴特徴 56 56 56 56

3333....ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD 環境環境環境環境 58 58 58 58

第第第第5555章章章章 日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運営運営運営運営、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

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1111....日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とととと運用運用運用運用のののの特徴特徴特徴特徴 60606060

2222....日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD 環境環境環境環境 62626262

第第第第6666章章章章 まとめまとめまとめまとめ 64646464

1111....CVDCVDCVDCVD 比較検証比較検証比較検証比較検証 65 65 65 65

2222....今後今後今後今後についてについてについてについて 69 69 69 69

参考文献一覧参考文献一覧参考文献一覧参考文献一覧 71 71 71 71

第三部第三部第三部第三部 補足補足補足補足::::中国中国中国中国・・・・韓国韓国韓国韓国・・・・イイイインドンドンドンドのののの産業政策産業政策産業政策産業政策・・・・補助金制度補助金制度補助金制度補助金制度

第第第第 1111 章章章章 中国中国中国中国のののの補助金制度補助金制度補助金制度補助金制度 75757575

第第第第 2222 章章章章 韓国韓国韓国韓国のののの補助金制度補助金制度補助金制度補助金制度 94 94 94 94

第第第第 3333 章章章章 インドインドインドインドのののの補助金制度補助金制度補助金制度補助金制度 114 114 114 114

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はじめにはじめにはじめにはじめに

2004 年 6 月 16 日にエルピーダメモリ社およびマイクロンジャパン社の申請を受けた日本政府は、同年 8月 4日に韓国ハイニックス社の輸入 DRAM(Dynamic Random Access

Memory、半導体メモリの一種)製品に対して相殺関税(Countervailing Duty、以下 CVD) 調査を開始、調査延長期間を含む約 1年半の年月を経て、2006年 1月 20日に 27.2%の措置発動を決定した(同月 27 日発動)。韓国政府が政府・民間銀行に対して当時財政難に陥っていたハイニックス社向け融資の「委託・指示」を行い、その結果補助金により競争力を得た輸入 DRAM製品が日本企業に損害を与えたことが主な理由であった。これは日本の通商史上第 1号となる CVD措置であり、これまで貿易救済措置の活用に消極的であった日本としては極めて画期的な案件であった。 政府による企業への補助金の供与は、DRAM 製品の例のように結果的に輸入製品価格を引き下げる可能性があることから、そのような輸入製品が押し寄せれば国内生産者にとっては損害となりえる。また、今回のケースでは韓国政府の補助金により、破産寸前だったハイニックス社が生き残るという結果を招いた。これは、自由競争のなか淘汰されるはずであった弱体化した企業に政府が息を吹き込んだものであり、自由経済主義や自由貿易主義の理念に必ずしも合致しない。

日本では過去の苦い経験からもう一つの貿易救済措置であるアンチダンピング(Anti

Dumping、以下 AD)の名の方が知られているが、欧米は貿易救済措置先進国として以前から多くの CVDを発動してきた。そういう意味では日本は貿易救済措置に関しては発展途上であるといえる。

今後、中国,韓国,インド等アジア諸国の対日輸入攻勢が拡大していくと予想されるなか、これらの国の不公正な貿易制度・慣行をただすことで日本企業が公平な立場で海外と競争できる環境を築いていくことが重要だと思われる。そのためには、保護主義的な理由による貿易救済措置は認められないが、日本はもっとこのWTOルールを積極的に活用することが求められるのではないか。 本調査は、こうした背景・問題意識を念頭に置きながら、貿易救済措置先進国である米国や EUと日本の CVD制度・運用、申請手続き、CVDを取り巻く環境等を紹介することを通じて欧米と日本の CVD制度を比較検証し、日本の今後のあり方について検討することを目的としている。

2

本調査報告書は以下のように構成されている。第一部では CVDとはそもそも何なのかについて第 1 章と第 2 章で説明する。第1章では WTO の「補助金及び相殺措置に関する協定(Agreement on Subsidies and Countervailing Measures、以下 ASCM)」上の CVDの定義・対象となる補助金や CVDの経済的正当性、さらには世界における CVD調査や発動の傾向と今後の見通しについて触れる。第 2 章では過去の WTO 紛争解決機関(DSB)における ASCMに関する代表的な判例を紹介、そのなかで特に米国と EUの韓国 DRAM 事件を具体的に説明した上で日本のケースに触れる。

第二部では米国政府、欧州委員会(European Commission、以下 EC)、日本政府の CVD制度・運用、手続き、CVDを取り巻く環境等を紹介、最後に比較検証を行い日本の制度のあり方を検討する。具体的には第 3章では米国、第 4章では EC、そして第 5章では日本のCVD制度、調査・発動プロセス、政治・経済的インセンティブを紹介し、最後に第 6章では本調査報告書のまとめとしてそれぞれの国の CVD制度を比較し、今後日本が築いていくべき制度・環境作りについて簡単に触れる。

第三部では補足的な情報として、アジア主要諸国である中国、韓国、インドの産業政策・補助金制度に関する情報を掲載する。

本報告書は通商政策、特に貿易救済措置に関心を持つ関係者の参考になれば幸いである。

2006年 3月 日本貿易振興機構 経済分析部 国際経済研究課

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要約要約要約要約

第第第第 1111 章章章章 補助金補助金補助金補助金・・・・CVDCVDCVDCVD のののの概要概要概要概要 WTOの ASCMは加盟国の補助金や CVD制度を規定する協定である。基本的には輸出補助金および輸入代替補助金を禁止、相殺可能な補助金については輸入国に損害を与える場合のみ一定の条件下でその国に CVD発動を許可している。また、同協定は CVD調査やレビューといった運営方法についても規定している。

政府による補助金の供与は、企業のダンピング慣行と比べて経済的正当性に欠ける。そのため、補助金はその国の市場を歪めるだけでなく、輸出を通じて他国の市場にも影響を与える可能性がある。このことは加盟国の CVD措置にある程度の正当性を与えている。

1995年以来、世界の CVD措置は欧米によって先導されてきた。米国の CVD発動件数は圧倒的に多く、EUも 90年代後半から米国に続いている。CVDの増減要因はさまざまであるが、なかでも補助金の規律による減少要因と各国の産業構造の変化による増加要因が今後の行方を占う上で重要である。また、中国が欧米に市場経済国と認定されれば、集中して CVDが発動される可能性が高い。

第第第第 2222 章章章章 WTOWTOWTOWTO におけるにおけるにおけるにおける代表的代表的代表的代表的 ASCMASCMASCMASCM判例判例判例判例とととと韓国韓国韓国韓国 DDDDRAMRAMRAMRAM 事件事件事件事件

WTOでは ASCM発効以降数件の CVD提訴が行われてきた。判例主義をとるWTO法にとって、曖昧な協定内容を明確にしていくためにも判例は非常に重要となる。その中でも以下の過去の ASCM案件は極めて重要である。

i. 米国-韓国 DRAM事件(DS296):政府の指示、委託の明示なしで政府から銀行への指示があったか否かが焦点。

ii. EU-韓国 DRAM 事件(DS299):i の事件の争点に加え、損害認定における“Non-attribution”ルールが十分であったか否かが焦点。

iii. EU鉄鋼(イギリス)事件(DS138):国営企業の民営化における「市場価格」をどう扱うかが焦点。

iv. カナダ軟材事件(DS236):川上産業(Upstream)での補助金を川下産業(Downstream)でどう便益を計算するか、また適当な市場がその国に存在しない場合、他の国の市場価格を参照できるが争点。

v. 米国綿花事件(DS267):ASCMと農業協定の関連性が焦点。

vi. ブラジル-カナダ航空機事件(DS71):利益計算のベースは補助金額と損害額のど

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ちらが「適当(Appropriate)」か、が焦点。

このなかで iと iiが日本にとって重要となってくる。日本は米国や EUの韓国ハイニックス社に対する CVD発動に続き、一連のプロセスを経て 2006年 1月 27日に歴史上初めてとなる CVDを発動した。

第第第第 3333 章章章章 米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運用運用運用運用、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

米国の CVDは他国と比較して特徴的である。特に「レッサー・デューティー」や「知りえた事実」、さらには「行政レビュー」や「サンセット・レビュー」は相手国企業にとって非常に厳しい内容であり、各国の非難の的となっている。また、米国当局による CVD制度の運用は極めて機械的である。当局は他の企業や消費者に耳を貸すことなく、淡々と調査を進める。また、米国当局は数百人にのぼる貿易救済措置スタッフを抱えており、通商専門弁護士の数も世界でもっとも豊富である。さらに、長年かけて築き上げた政府と企業のパートナーシップが同国の CVD発動をさらに効率的にしている。

第第第第 4444 章章章章 EUEUEUEU のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運用運用運用運用、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

EU の CVD 制度は ASCM に準じている。最大の特徴は「共同体の利害(Community

Interest)」を導入していることであろう。「共同体の利害」テストにより、損害を被った企業に対する CVDの利益は他の二次的ユーザーや消費者に対する CVDの損害とバランスされる。また、EUでは CVD発動の最終決定の際に欧州理事会(European Council)の採決が必要であり、政治的な色合いが濃いことが特徴。過去に受身であった ECは近年域内企業の信頼を勝ち取り、官民パートナーシップを構築してきた。

第第第第 5555 章章章章 日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運用運用運用運用、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

日本の CVD制度はおおむね ECのそれに類似しているが、米国寄りの「レッサー・デューティー」や「共同体の利害」のような概念がないことが ECとは異なる。日本の CVD発動に向けた環境の整備は欧米に遅れをとっている。日本の環境は(1)乏しい貿易救済措置関連スタッフ数、(2)乏しい通商専門弁護士数、(3)政府と企業の間の高い壁が大きな特徴。

第第第第 6666 章章章章 まとめまとめまとめまとめ

今後一層アジア諸国からの安価な製品の輸入が増加すると予想されるなか、日本はWTO

5

ルールを十分意識して外国の不公正貿易に対処していかなければならない。そういう意味では今回の韓国ハイニックス社の DRAM製品に対する CVD発動は画期的であったが、今後更なる発動に向けて環境整備を行っていく必要がある。そのためには政府だけでなく企業がWTOルールを意識して、相互に協力していかなければならない。

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第一部第一部第一部第一部 補助金補助金補助金補助金・・・・CVDCVDCVDCVDとはとはとはとは

第第第第1111章章章章 補助金補助金補助金補助金・・・・CVDCVDCVDCVD のののの概要概要概要概要

この章では、そもそも CVD とは何なのか、CVD の対象となるのはどのような補助金なのかといった基本的な内容を解読する。まずは ASCM の概要を簡単に説明、次に CVD の経済的正当性について ADと比較しながら検証、最後に世界における CVD調査・発動件数の動向や今後の見通し等について、国、地域、対象製品等に着目しながら解説する。

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1111.「.「.「.「補助金及補助金及補助金及補助金及びびびび相殺措置相殺措置相殺措置相殺措置にににに関関関関するするするする協定協定協定協定((((ASCMASCMASCMASCM)」)」)」)」1111のののの概要概要概要概要

WTO加盟国の CVD制度はWTO協定の「GATT第 6条:ダンピング防止税及び相殺関税(Anti-dumping and Countervailing Duties)」と「補助金及び相殺措置に関する協定(ASCM)」により規定されている。GATT第 6 条は 1947年に合意された「関税及び貿易に関する一般協定(The General Agreement on Tariffs and Trade)」の一部であり、1986年から 94 年まで続いたウルグアイラウンドで合意された ASCM のベースとなる条文である。

ASCM 策定の経緯は以下のとおりである。1973年から 79年まで続いた東京ラウンドにおいて複数国間(plurilateral)交渉により補助金協定(Subsidies Code)が合意に至り、米国、欧州諸国、カナダ、オーストラリア等の主要国が署名した。しかし、それまでの米国の度重なるCVD発動にアレルギー反応を起こしていた開発途上加盟国は同協定への加入を辞退した。この協定では、工業製品の輸出補助金の規律強化や鉱山資源の輸出補助金の禁止、さらには CVD調査の手続きに関するルール等が規定された。ウルグアイラウンドでは補助金協定の規律の強化等が求められた末、1994年に一括受諾(single undertaking)方式2により全加盟国が ASCMに署名した。

ASCMは表 1にあるとおり、前文、11 部 32箇条と 7の附属書で構成されている。以下では ASCMの主要な条文について解説する。

((((1111))))補助金補助金補助金補助金のののの定義定義定義定義

ASCM 第1条1項は補助金の定義が示されている。政府の補助金と見なされるためには「政府又は公的機関が資金面で貢献していること」もしくは「何らかの形式による所得又は価格の支持があること」、そしてその措置により「利益がもたらされること」という条件が必要となる。つまり、政府の企業に対する資金面での貢献に加え、その貢献により企業が利益を得ていることが条件である。

1 本調査は ASCMの範囲に限定しており、農業補助金を扱う「農業協定(Agreement on Agriculture)」についてはとりあげていない。農業協定は ASCMと比較して緩い規律となっていることが特徴。

2 一括受諾方式では、WTO設立協定及び附属書 1~3についてWTO加盟国は一括して受諾しなければならない。一方、附属書 4(政府調達協定、民間航空機協定)だけはその特徴から複数国間として、締約国間においてのみ効力を有する。

8

表表表表 1111.「.「.「.「補助金及補助金及補助金及補助金及びびびび相殺措置相殺措置相殺措置相殺措置にににに関関関関するするするする協定協定協定協定((((ASCMASCMASCMASCM)」)」)」)」のののの構成構成構成構成

((((2222))))世界世界世界世界におけるにおけるにおけるにおける相殺関税相殺関税相殺関税相殺関税のののの動向動向動向動向とととと今後今後今後今後のののの見通見通見通見通しししし

出典:経済産業省対外経済政策総合サイトWTO協定集 (http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/wto_agreements/marrakech/html/wto13.html)

また、第1条は補助金とみなされる政府資金を具体的に例示している。政府資金は(1)直接的な移転(贈与、貸付、出資)、債務を伴う措置(債務保証等)、(2)政府の収入となるべきものの放棄又は徴収しないこと(税額控除)、(3)一般的な社会資本以外の物品または役務の提供、または物品の購入、(4)政府の資金調達機関への支払い、または民間団体に対する委託もしくは指示、が含まれる。

さらに、補助金の定義のうち「利益をもたらすもの」については、ASCM第 14条にある

前文前文前文前文 第一部第一部第一部第一部 一般規定一般規定一般規定一般規定 第1条 補助金の定義 第2条 特定性 第二部第二部第二部第二部 禁止禁止禁止禁止されるされるされるされる補助金補助金補助金補助金 第3条 禁止 第4条 救済措置 第三部第三部第三部第三部 相殺措置相殺措置相殺措置相殺措置のののの対象対象対象対象となるとなるとなるとなる補助金補助金補助金補助金 第5条 悪影響 第6条 著しい害 第7条 救済措置 第四部第四部第四部第四部 相殺措置相殺措置相殺措置相殺措置のののの対象対象対象対象とならないとならないとならないとならない補助金補助金補助金補助金 第8条 相殺措置の対象とならない補助金の特定 第9条 協議及び承認された救済措置 第五部第五部第五部第五部 相殺措置相殺措置相殺措置相殺措置 第10条 千九百九十四年のガット第六条の規定の適用 第11条 調査の開始及び実施 第12条 証拠 第13条 協議 第14条 補助金を受ける者の利益による補助金の額の算定 第15条 損害の決定 第16条 国内産業の定義 第17条 暫定措置 第18条 約束 第19条 相殺関税の賦課及び徴収 第20条 遡及 第21条 相殺関税及び約束に係る期間及び見直し 第22条 公告及び決定の説明 第23条 司法上の審査 第六部第六部第六部第六部 機関機関機関機関 第24条 補助金及び相殺措置に関する委員会及び補助機関 第七部第七部第七部第七部 通報及通報及通報及通報及びびびび監視監視監視監視 第25条 通報 第26条 監視 第八部第八部第八部第八部 開発途上加盟国開発途上加盟国開発途上加盟国開発途上加盟国 第27条 開発途上加盟国に対する特別のかつ異なる待遇 第九部第九部第九部第九部 経過措置経過措置経過措置経過措置 第28条 既存の制度 第29条 市場経済への移行 第十部第十部第十部第十部 紛争解決紛争解決紛争解決紛争解決 第30条 第十一部第十一部第十一部第十一部 最終規定最終規定最終規定最終規定 第31条 暫定的な適用 第32条 その他の最終規定 附属書附属書附属書附属書 1111 輸出補助金輸出補助金輸出補助金輸出補助金のののの例示表例示表例示表例示表 附属書附属書附属書附属書 2222 生産工程生産工程生産工程生産工程におけるにおけるにおけるにおける投入物投入物投入物投入物のののの消費消費消費消費にににに関関関関するするするする指針指針指針指針 附属書附属書附属書附属書 3333 輸出補助金輸出補助金輸出補助金輸出補助金としてのとしてのとしてのとしての代替物代替物代替物代替物にににに係係係係るるるる払戻制度払戻制度払戻制度払戻制度のののの決定決定決定決定にににに関関関関するするするする指針指針指針指針 附属書附属書附属書附属書 4444 産品産品産品産品のののの価額価額価額価額にににに対対対対するするするする補助金補助金補助金補助金のののの総額総額総額総額のののの割合割合割合割合のののの計計計計算算算算((((6.1(a)6.1(a)6.1(a)6.1(a))))) 附属書附属書附属書附属書 5555 著著著著しいしいしいしい害害害害にににに関関関関するするするする情報情報情報情報をををを収集収集収集収集するためのするためのするためのするための手続手続手続手続 附属書附属書附属書附属書 6666 12.612.612.612.6のののの規定規定規定規定にににに基基基基づくづくづくづく現地調査現地調査現地調査現地調査にににに関関関関するするするする手続手続手続手続 附属書附属書附属書附属書 7777 27.2(a)27.2(a)27.2(a)27.2(a)にににに規定規定規定規定するするするする開発途上加盟国開発途上加盟国開発途上加盟国開発途上加盟国

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補助金額の算定のなかで明示されている3。第 14条によると、基本的に補助金は政府による出資、貸付け、債務保証、物品や役務が市場や民間での取引と差がない限りは利益をもたらすものとはみなさなれない。政府の補助金による利益は、常に民間や市場との比較により割り出される(benefit-to-recipient)。

政府資金やモノが最終的に補助金とみなされるためには、ASCM第 2 条の「特定性」を有する必要がある。この「特定性」は ASCM以前に使われていた補助金の定義を狭くしている。これはウルグアイラウンドにおいて、各加盟国が一定の政策の幅を確保したいとの思惑があったためである。補助金が特定性をもつためには、「交付当局又は交付当局の適用する法令が補助金の交付の対象を明示的に特定企業に限定している場合には、当該補助金は、特定性を有するものとする」ことが条件である。一方、当該補助金が「交付を受ける資格及び補助金の額を規律する客観的な基準又は条件を定めている場合には、特定性は存在しないもの」としている。また、ASCM 第 3 条で禁止されている「輸出補助金」と「輸入代替補助金」は、無条件で特定性があるものと決められている。

これらを要約すると、補助金が存在するとみなされるためには、補助金の存在があり、それらが利益をもたらすものであり、さらには特定性を有していなければならないことになる。

((((2222))))補助金補助金補助金補助金のののの種類種類種類種類

補助金の種類は、「禁止される補助金(prohibited)」、「相殺可能な補助金(actionable)」、「相殺不可能な補助金(non-actionable)」の 3つに大別される。「禁止される補助金」は一切の使用を禁止されている補助金、「相殺可能な補助金」は輸入国が損害を受ければ CVD等の相殺措置を講じることが可能な補助金、「相殺不可能な補助金」は補助金の存在にもかかわらず、他国はいかなる措置も講ずることが許されていない補助金である。以下では各補助金について具体的に説明する。

①①①① 禁止禁止禁止禁止されるされるされるされる補助金補助金補助金補助金

「禁止される補助金」には「輸出補助金(export subsidies)」と「輸入代替補助金」がある。「輸出補助金」は ASCM第 3条 1項(a)で「輸出が行われることに基づいて交付される 3 ASCM第 14条は、GATT第 6条 3項にある「いずれかの締約国の領域の産品で他の締約国の領域に輸入されるものは、原産国又は輸出国においてその産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に与えられていると認められる奨励金又は補助金(特定の産品の輸送に対する特別の補助金を含む)の推定額に等しい金額をこえる相殺関税を課せられることはない。」を具体化したものといえる。

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補助金」と定義されているが、これは各国の国内法に書かれている、いわゆる「条文上(in

law)」と、国内法には書かれていないが、実際に輸出補助金を与える政府の行為である「事実上(ipso facto)」のどちらの場合でも当てはまる。また、ASCM附属書 1の「輸出補助金の例示表」は輸出補助金の種類を具体的に例示している4。もう一つの「禁止される補助金」である「輸入代替補助金」とは、ASCM第 3条 1項(b)にある「輸入物品よりも国産物品を優先して使用することに基づいて交付される補助金」のことである。

ある加盟国の「禁止される補助金」の使用を他の加盟国が見つけた場合、その加盟国は補助金を供与している国に協議を要請することができる(ASCM第 4条 1項)。さらに、相互に解決が見られなかった場合は、小委員会(パネル)、上級委員会、監視といった紛争解決機関(DSB)の一連のプロセスを進めていくことになる。パネルは「禁止される補助金」に関し、常設専門家部会へアドバイスを要請することができ、この場合パネルは同部会の結論を受け入れなければならない。もしパネルが「禁止される補助金」を認定した場合、被提訴国は同補助金を「遅延なく(without delay)」廃止しなければならない。

一連の紛争解決プロセスを経てもなお補助金供与国が「禁止される補助金」を廃止しない場合、また、ASCM第 7 条 1項に表記されているように、当該補助金が他国の「国内産業に対する損害、無効化若しくは侵害又は著しい害をもたらしていると信ずるに足りる理由がある場合」には、その加盟国は協議のうえ紛争解決機関に提訴することができる。そしてパネルもしくは上級委員会がその悪影響を認めた場合、提訴国は「存在すると決定された悪影響の程度(appropriate)及び性格に応じた対抗措置をとること」、もしくはその補助金が提訴国の産業に著しい害を与えている場合は CVDを賦課することが許される。

②②②② 相殺可能相殺可能相殺可能相殺可能なななな補助金補助金補助金補助金 上述した「禁止される補助金」の輸出補助金や輸入代替補助金には該当しないが、ASCM第 5 条にある「悪影響」5を他国の利益に及ぼしている補助金は「相殺可能な補助金」と呼 4 主に(b)外貨資金特別割当制度、(c)輸出貨物を国内貨物より有利に扱う国内運送料金、(e)輸出に関連させた直接税や社会保障負担の全部もしくは一部免除、(f)輸出または輸出実績に関連付けた直接税の控除、(g)輸出される産品の生産/流通に関し、国内消費向け販売の間接税の額を超える額の間接税の免除または軽減、(i)輸出産品の生産に消費される輸入投入物に対して課される輸入課徴金を超えて輸入課徴金の軽減または払い戻しを認めること、が含まれる。 5 「悪影響」の定義は具体的には以下のとおり:

(a) 他の加盟国の国内産業に対する損害 (b) 他の加盟国に対し千九百九十四年のガットに基づいて直接又は間接に与えられた利益、特に、千九百九十四年のガット第二条の規定に基づく譲許の利益の無効化又は侵害

(c) 他の加盟国の利益に対する著しい害 一方、農業協定第 13条に列挙されている農産品への補助金について上記は適用されない。

11

ばれる。 加盟国は、他国の「相殺可能な補助金」が悪影響を及ぼしている事実を証明できれば、補助金供与国はその悪影響を取り除くに適当な措置を講ずるか、もしくは補助金自体を廃止しなければならない。もしその国がこうした措置を実行しない場合、提訴国は補助金供与国の合意を得たうえで補償を得ることができる。もしその補償について合意がなされなかった場合、提訴国は CVDの申請権利が与えられることになる。また、禁止された補助金と同様に、もし相殺可能な補助金が自国産業へ著しい害を与えている場合は DSBへの協議申請の代わりに CVDを発動することが可能である。

③③③③ 相殺不可能相殺不可能相殺不可能相殺不可能なななな補助金補助金補助金補助金

上記した禁止される補助金と相殺可能な補助金以外の補助金が「相殺不可能な補助金」に分類される。「相殺不可能な補助金」は ASCM 第 2 条の特定性のない補助金、もしくはASCM第 8 条の「相殺措置の対象とならない補助金」で列挙されている、特定性を有するものの、一定の条件で(1)「企業が行う研究活動又は高等教育機関若しくは研究機関が企業との契約に基づいて行う研究活動に対する援助」、(2)「地域開発の一般的な枠組みに基づいて加盟国の領域内の不利な立場にある地域に対して与えられる援助」、(3)「既存の施設を、法令により課される新たな環境上の要件(企業に対し一層大きな制約及び財政的な負担をもたらすもの)に適合させることを促進するための援助」、といった特徴を有する 3つの補助金である6。しかし、これら 3つの「相殺措置の対象とならない補助金」は有効期限がASCM発効後 5年間とされていたところ、結局延長されなかったため 1999年 12月 31 日をもって失効した。 ((((3333))))CVDCVDCVDCVDのののの調査調査調査調査・・・・発動発動発動発動

上記したように、禁止される補助金もしくは製品輸入が国内市場に悪影響を及ぼす相殺可能な補助金に面している輸入国には 2 つのオプションが与えられている。一つは紛争解決手続きによる解決、もう一つは補助金による悪影響をオフセットするために CVDを発動することである。GATT第 6条 3項では CVDを「産品の製造、生産又は輸出について直接又は間接に交付される補助金を相殺する目的で課する特別の関税」と定義している。補助金付き輸入製品が著しい損害もしくはその恐れを輸入国内産業に及ぼす場合のみに限りそ 6 ただし、ここに列挙された補助金についても、ASCM第 9条 1項により、「当該加盟国の国内産業に対して回復し難い損害を生ずるような著しい悪影響を及ぼしていると信ずるに足りる理由がある場合には、補助金を交付し又は維持している加盟国に対し協議を要請することができ」、さらに ASCM第 9条 4項により、DSBの勧告を補助金供与国が実施しなかった場合に限り、「協議を要請した加盟国に対し、存在すると決定された当該悪影響の性格及び程度に応じた適当な対抗措置をとること」が許されていた。

12

の発動が許可される。 ①①①① CVDCVDCVDCVD発動発動発動発動のののの要件要件要件要件およびおよびおよびおよびプロセスプロセスプロセスプロセス

CVD を発動するために調査当局(米国では商務省、EU では EC 貿易総局、日本では経済産業省、財務省および産業分野によりその他所管省庁が管轄している)は調査を実施しなければならない。調査により補助金、損害等の十分な証拠を提示してはじめて CVD発動が可能となるのである。

調査開始調査開始調査開始調査開始

ASCM第 11条は CVD発動に向けた調査および実施に関する規律を設けている。当局は基本的には国内産業による申請に基づいて調査を開始する。国内産業が当局に提出する申請書は以下の証拠が十分に含まれなければならない。

a. 補助金の存在

b. 損害の存在もしくはその恐れ

c. 補助金付き製品の輸入と損害との間の因果関係

当局は、当該申請が国内産業により、もしくは国内産業の意思を反映していると決定しないかぎり調査を開始することが出来ない。これを証明するためには、申請を支持している国内生産者の生産高合計が、当該申請について支持または反対のいずれかを行っている国内産業の生産高合計の 50%を超える必要がある。当該申請を支持している国内生産者による生産が、国内産業によって生産される同種産品合計の 25%未満である場合には、当局は調査を開始できない。

暫定措置暫定措置暫定措置暫定措置

ASCM第 17条の規定により、当局は調査期間中に補助金による損害の防止が必要と認めた場合、暫定的な措置を講ずることが可能である。暫定措置は(1)暫定的に算定された補助金の額と等しい現金の供託もしくは債権等による保証の形式をとる。また、暫定措置は調査開始から 60日が経過するまではとることができず、出来るだけ短期間に限定(4ヵ月を超えてはならない)される。

調査調査調査調査のののの終了終了終了終了

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ASCM第 11条 9項によると、当局は調査の途中であっても補助金か損害のいずれかについて証拠が十分でないと認める場合には、すぐに調査を取りやめなければならない。補助金の額が僅少(de minimis)となっている場合でも直ちに終了する7。それに加えて、当局はもし輸出国政府が当該補助金を撤廃もしくは制限をするか、輸出企業が補助金による損害を除去する価格設定を行った場合、調査の終了を考慮することになっている。

証拠証拠証拠証拠とととと利害関係利害関係利害関係利害関係をををを有有有有するするするする加盟国加盟国加盟国加盟国・・・・全全全全てのてのてのての者者者者

調査に際し、「利害関係を有する加盟国及び当該利害関係を有するすべての者(interested

member and interested parties)8」は書面による証拠の提出に必要なあらゆる情報および機会を与えられる(ASCM第 12条 1項)。この加盟国や利害関係を有する者は回答のために少なくとも 30日間を与えられる。当局はこうして提出された証拠を十分検討しなければならない。また、当局は ASCM第 12 条 6項により、当局は他の加盟国の領域において反対のない限り調査を行うことができる。ASCM第 12条 7項は、当局のこうした努力にもかかわらず、利害関係を有する加盟国及び企業が「妥当な期間内に必要な情報の入手を許さず若しくはこれを提供しない場合又は調査を著しく妨げる場合には、知ることができた事実(「知りえた事実(facts available)」)に基づいて仮の又は最終的な決定(肯定的であるか否定的であるかを問わない)を行うことができる」としている。

補助金補助金補助金補助金のののの算定算定算定算定とととと損害損害損害損害のののの決定決定決定決定

当局による相殺関税発動に向けた調査は、補助金の算定と損害の決定が中心である。補助金は受益者の利益に基づいて算定される(benefit-to-recipient)(ASCM第 14条)。この算定方法については、各加盟国の国内法令または実施規則に任されているが、その実施には透明性が確保されることおよび適切な説明が義務付けられている。また、同国内法令および実施規則は以下の指針に適合していなければならない。

(1) 政府による出資 → 民間投資者の通常の慣行と適合しないものと見なされない限り利益とみなさない。

7 産品価額の1パーセント未満である場合には、僅少だと見なされる。一方、開発途上加盟国からの輸入産品の場合僅少の額は基本的には 2パーセント未満となっている。

8 利害関係を有する者は以下を含む(ASCM第 12条 9項):

(a) 調査の対象となる産品の輸出者、外国の生産者、輸入者又は貿易業者の団体若しくは業界団体であって、その構成員の過半数が当該産品の生産者、輸出者若しくは輸入者であるもの (b) 輸入加盟国における同種の産品の生産者又は貿易業者の団体若しくは業界団体であって、その構成員の過半数が輸入加盟国の領域において同種の産品を生産しているもの

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(2) 政府による貸付 → 商業的貸付に対して支払う額との間に差がない限り利益とみなさない。 (3) 政府による債務保証 → 政府による保証なしに同等な商業的貸付を受ける場合に差がない限り利益とみなさない。 (4) 政府による物品の提供 → 当該提供が妥当な対価よりも少ない額の対価で行われ、又は当該購入について妥当な対価よりも多い額の対価が支払われるものでない限り利益とみなさない。

当局は損害の決定にあたって、基本的には補助金付き輸入製品の輸入量とこれら輸入製品の国内における同種産品の価格に及ぼす影響、国内生産者に及ぼす影響の 3 つを検証しなければならない。具体的には、補助金付き輸入製品の輸入量については当該製品輸入の著しい増加、価格に及ぼす影響については輸入製品価格のなかで国内産品価格を著しく下回るものがあるか、もしくは価格が著しく押し下げられていないか、また国内生産者に及ぼす影響については ASCM第 15条 4項にあるように、「当該国内産業の状態に関係を有するすべての経済的な要因及び指標(生産高、販売、市場占拠率、利潤、生産性、投資収益若しくは操業度における現実の及び潜在的な低下、資金流出入、在庫、雇用、賃金、成長、資本調達能力若しくは投資に及ぼす現実の及び潜在的な悪影響又は国内価格に影響を及ぼす要因並びに農業については助成に関する政府の施策に係る負担の増大の有無を含む)」を調査しなければならない。

また、ASCM第 15条 5項では補助金付き輸入が当該補助金を立証しなければならず、当該輸入と国内産業に対する損害との因果関係は、当該輸入以外の要因であって、国内産業に対して同時に損害を与えるいかなる要因についても検討し、これらの他の要因が当該輸入による損害に帰してはならない(non-attribution rule)、と規定されている。WTO紛争解決機関ではよくこの基準を満たしたか否かが争われるケースが多い9。

調査期間調査期間調査期間調査期間

当局は特別の場合を除くほか、開始後 1 年以内に調査を完結しなければならず、いかなる場合でも、その開始後 18ヶ月を超えてはならない。

CVDCVDCVDCVDのののの賦課賦課賦課賦課とととと遡及遡及遡及遡及

9 例えば、韓国 DRAMに対する ECの相殺関税(WT/DS299)においてもパネルは EC当局の損害認定に、non-attributionの方法が不十分として違憲の判決を下した。

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調査の結果、補助金とその額が存在し、国内産業に損害を与えていることが判明すれば、当局は CVD発動にかかる最終的な決定を行うことができる。ただし、相手国が補助金を廃止していれば発動できない。CVDの最終的な額については ASCM第 19条 2項で奨励されているように、補助金の額もしくは損害を除去するのに十分であればそれよりも少ない額を当局が課すのが望ましい(「レッサー・デューティー(lesser duty)ルール」)10。

CVDは補助金と国内産業への損害の存在が調査により判明した後の当該輸入製品に対して課すことができるが、暫定措置を講じていた場合はその期間に遡及して CVDを課すことが可能である11。また、短期間で大量の輸入が「回復し難い損害(injury which is difficult

to repair)」を与えているといった危機的な事態が存在する場合において、相殺関税を遡及して課す必要がある場合は、暫定措置決定日前の 90日以後消費のために輸入された産品に対して課すことができる。

行政行政行政行政レビューレビューレビューレビュー((((Administrative ReviewAdministrative ReviewAdministrative ReviewAdministrative Review))))ととととサンセットサンセットサンセットサンセット・・・・レビューレビューレビューレビュー((((Sunset ReviewSunset ReviewSunset ReviewSunset Review)))) 当局が自主的に、もしくは利害関係を有する者の要請があった場合は行政レビューを行う。この結果、当局が CVD を維持する必要がないと決定する場合はただちに撤廃する(ASCM第 21条 2項)12。

行政レビューに加え、ASCM第 21条 3項(サンセット・レビュー)は、いかなる確定的な CVDも、その賦課の日、第 21条 2項の規定に基づく最新の見直しの日、または当項の規定に基づく最新の見直しの日から 5 年以内に撤廃する旨規定している。しかし、この規定は当局にCVDの撤廃が補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性があると決定する場合は、延長することが認められている13。 途上国途上国途上国途上国へのへのへのへの特別待遇特別待遇特別待遇特別待遇

10 第 3章以下で紹介するが、米国や日本(韓国 DRAMのケース)は「レッサー・デューティー」ルールを採用していないため、最終的な相殺関税額は補助金額に等しい額となっている一方、EUは補助金額と損害を除去するに十分な額を比較し、少ない方を採用している。 11 ただし、最終的な CVDの額が暫定措置額を上回る場合はその差額は徴収できない。一方、下回る場合は超過額を迅速に還付する必要がある。 12 行政レビューの際に使う証拠の判断基準は、調査に使う判断基準と異なる標準であることに注意。例:米国のビスマス炭素鉄鋼に対する CVD(DS138)。 13 後述するように、米国は損害の存続または再発をもたらす「可能性(likely)」の基準を高く設定し、実際にこれまでほとんどの案件について延長を決定している。この慣行によりほとんど永続的に CVDを課せられている輸入製品も少なくない。一方、ECや日本は基本的には 5年で CVDを廃止する。

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ASCM第 27条は、補助金の存在が開発途上加盟国14の経済開発計画において重要な役割を果たすという理由から、ある程度の特別待遇を認めている。ASCM第 27条 2項は、これら途上国を「後発開発途上国(LDC)」と「その他の開発途上加盟国」に分類し、それぞれに異なる待遇を与えている。

「後発開発途上国」と「その他の開発途上加盟国」は輸出補助金の禁止を免除される。つまり、これらの国々は輸出補助金を政策の一環として企業に供与することが許されている。しかし、「その他の開発途上加盟国」には輸出補助金の許可は 1995 年の WTO 発足から 8 年間の猶予と、やや厳しい制約が課されている15。また、「その他の開発途上加盟国」は補助金の水準を 1995年のレベル以上に引き上げることを禁止されている。

輸入代替補助金の待遇は輸出補助金より厳しい内容となっている。「後発開発途上国」は8年間の猶予期間後効力を失い、「その他の開発途上加盟国」については 5年間の猶予となっている。

さらに、「後発開発途上国」は、ある産品の輸出が 2年間連続で世界貿易の 3.25%以上を占めた場合競争力を得たと見なされるため、その後 8 年間で斬進的にその補助金を撤廃しなければならない。一方、「その他の開発途上加盟国」はこの場合 2年間で補助金を撤廃しなければならない。

また、僅少(de minimus)ルールについても開発途上加盟国は優遇されている。ASCM第 27条 10項は、開発途上加盟国を原産とする輸入製品の CVD調査は当該製品に付与された補助金が単位あたりで価額の 2%以下もしくは一定の制限つきで当該製品の輸入量が輸入国の同種産品輸入量の 4%未満であれば当局は調査を終了しなければならない、としている。

さらに、債務の免除及び社会費用負担のための補助金交付が民営化計画の枠組みで行われ、これらの補助金が民営化計画と直接結びついている場合には禁止される補助金に対す 14 開発途上加盟国は、(1)後発開発途上国(LDC)と(2)その他の開発途上加盟国に分類される。(1)には国連が LDCに分類しているWTO加盟国及びボリビア、カメルーン、コンゴ、象牙海岸共和国、ドミニカ共和国、エジプト、ガーナ、グアテマラ、ガイアナ、ホンデュラス、インド、インドネシア、ケニア、モロッコ、ニカラグア、ナイジェリア、パキスタン、フィリピン、セネガル、スリランカ、ジンバブエが含まれる。ただし、これらの国の一人あたり GNPが 1000USドルに達すれば次に定義する(2)と同様の規定が適用される。(2)には LDC以外の開発途上加盟国が含まれる。ただし、これらの国は 1995年のWTO発足から 8年間を期限として特別待遇が与えられたため、2006年現在ではすでに失効している。 15 ただ、8年の期間を超えて輸出補助金の交付が必要な場合は、満了 1年前までに委員会と協議ができる。

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る他国の救済措置発動は認められない。

ただし、上記した開発途上加盟国の優遇措置はいずれも「相殺可能な補助金」である。したがって、損害を被っている輸入国は ASCM第五部の手続きを経て CVD を発動することが可能である。

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2222....CVDCVDCVDCVD のののの経済的正当性経済的正当性経済的正当性経済的正当性((((アンチダンピングアンチダンピングアンチダンピングアンチダンピングとのとのとのとの比較比較比較比較)))) 経済学者は総じて、貿易救済措置の経済的正当性について懐疑的な目で見ることが多い。WTO設立の目的が世界の自由貿易の促進にあり、そのための貿易制限の削減を目標としているため、ダンピングに対する AD措置や損害を及ぼす補助金に対する CVD措置が、果たして正当な救済措置手段なのかがこれまで経済学者の多くの議論を呼んできた。

貿易救済措置の正当性を検証するためには、ダンピング慣行や政府の補助金自体が経済的正当性を有するか否かを検証すべきである。もしこうしたビジネス慣行や政府の政策が不当なものと判断されれば、被害を受ける輸入国の貿易救済措置は(正確な損害数量等が計算可能との条件つきで)正当性を持つものであるといえる。それとは逆に、これらが経済的に不当なものと見なされなければ、輸入国政府の貿易救済措置は正当性を持たないと換言できる。

ここでは、まずダンピングの正当性に関するクルーグマン等経済学者らの否定的な見解を紹介し、それと比較しながら補助金の正当性について検証する。多くの経済学者はダンピングにおいては独占企業による略奪的価格設定(predatory pricing)が唯一の不当なビジネス慣行であり、さらにこの慣行は理論的には ADではなく(域外適用が可能であれば)反トラスト法で解決すべき旨主張している。しかも、これまでの研究では、米国の AD 案件のなかで略奪的価格設定によるダンピングを理由としたものはあまり多くない。つまり、理論的な見方をすれば、AD措置は殆どの場合正当化されないことになる。一方、政府の補助金、もしくは規模の経済(economy of scale)によるスピル・オーバー効果や(特に途上国の)幼稚産業(infant industry)育成のための産業政策は、すでにグリーン補助金のように ASCMで認められている部分もあるが、そもそも補助金による経済効果を計ることは不可能な点や、各国にとってどの産業が将来有望なのかという基本的な疑問に答えることは不可能なため、補助金付き製品が輸入国に損害を与えている場合に限り CVD措置は正当化される可能性が高い。

((((1111))))ADADADADのののの状況状況状況状況ととととダンピングダンピングダンピングダンピング慣行慣行慣行慣行のののの例例例例

ADは輸出国企業のダンピング16慣行による製品が輸入され、それが輸入国市場に損害を与えている場合に輸入国に発動が許されている救済措置である。古くから日本は欧米の AD措置の餌食であった。WTOが設立された 1995年から 2005年 6月までに日本は 121件の 16 ダンピングとは、採算を度外視しているか否かに関わらず、外国に国内販売価格より安く輸出する企業の慣行のことを指す。WTOのダンピングの定義は本来のダンピングの意味とは「採算を度外視しているか否かに関わらず」という部分で異なっている。

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調査(うち米国が 31件、ECが 8件)と 85件の発動措置(うち米国が 20件、ECが 7件)を受けている17。

WTOドーハラウンドでは、加盟国政府による ADの濫用を防ぐためにルール交渉が行われている。加盟国は AD の利用についてはダンピング慣行を阻止するための重要な貿易救済措置との意識を持っている反面、被 AD対象国である日本や韓国18らは「ADフレンズ」を結成して AD 発動国の濫用を防ぐために、正常価額の決定やレビューの規律の強化を求めている。

以上で述べたように、経済学者の間では AD の経済的正当性は低いものと認識されている。ダンピングの発生には様々な原因が考えられるが、そのなかでは(1)独占企業の企業戦略、(2)市場進出のための価格設定、そして(3)市場開放の速度の違いから生じる価格差が主な原因である。以下ではこれらの具体例を挙げる。

①①①① 独占企業独占企業独占企業独占企業によるによるによるによるダンピングダンピングダンピングダンピング

不完全市場の結果として生じる独占企業の企業戦略がダンピング慣行につながる。クルーグマン19によると、ダンピングは(1)市場が不完全(imperfect market)であり、企業が価格を決定できる、(2)市場が分割(segmented)されており、国内消費者は輸出製品を簡単に購入できない、という条件下で発生する。つまり、不完全競争のなかで生じた独占企業はこうした条件下ではダンピングをおこなえば利益が得られると判断する。通常、輸出先国の市場の価格弾力性(price elasticity)が国内のそれより高ければ高いほど、また限界費用(marginal revenue)が限界収入(marginal cost)を下回る限り、この企業には輸出製品の価格を下げて輸出するインセンティブが働く。

これは価格差別(price discrimination)というわれる企業行動の一つであるが、例えば航空機チケットの学割のように、企業は戦略の一つとして価格差別を行うのが通例である。国内市場と輸出先の国内市場の特徴が(価格弾力性の違いのように)異なれば、企業はそ 17 日本は、被 AD調査国・被 AD措置発動国としては全体で 5位(調査では 1位:中国(434件)、2位:韓国(212件)、3位:米国(158件)、4位:台湾(155件)、措置発動では 1位:中国(317件)、2位:韓国(123件)、3位:台湾(94件)、4位:米国(88件))となっている。 出典:WTO事務局資料(http://www.wto.org/english/tratop_e/adp_e/adp_e.htm) 18 ADフレンズは、日本と韓国の他ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、香港、イスラエル、ノルウェー、台湾、シンガポール、スイス、タイの計 13カ国で構成されている。 19 Krugman, Paul R., and Obstfeld, Maurice, “International Economics: Theory and Policy, Sixth Edition.” 2003. Addison Wesley. Massachusetts.

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の状況に適合しながら戦略を展開する。

この反面、アンチダンピング措置を正当化する企業慣行も存在する。独占企業のなかには略奪的価格設定(predatory pricing)20を通じて競争を排除しようとするインセンティブがあり、これが国際貿易において実行されればダンピングが成立する。国際経済研究所(IIE)のグラハム上席研究員によると、この略奪的価格設定に対するアンチダンピング措置は経済的に正当化される唯一の条件と述べる一方、下記するとおり多くの経済学者は ADではなく半トラスト法で制限すべき旨論じている。

②②②② 新規新規新規新規ハイテクハイテクハイテクハイテク企業企業企業企業によるによるによるによるダンピングダンピングダンピングダンピング

(完全、不完全競争を問わず)試行錯誤(learning-by-doing)している新規ハイテク企業が海外の市場に進出する際、後々生じる利益を見越して原価割れ覚悟で低い価格設定を行う場合がある。こうした企業は大きな設備投資、R&D等が初期投資として必要である一方、海外市場での地位をある程度確立するためには価格をなるべく下げる必要がある。これは必要な企業戦略の一つといえようが、輸入国は不当貿易としてアンチダンピング措置を発動することがある。

③③③③ 市場開放市場開放市場開放市場開放スピードスピードスピードスピードのののの違違違違いによるいによるいによるいによるダンピングダンピングダンピングダンピング

それぞれの国における市場開放の速度の違いを原因として生じるダンピングもある。例えば、政府系企業が民営化され、それまで政府調達規制での国内産業に制限されていた部品調達を海外企業と競争させるようになった国と、未だ調達先を国内産業に限定している国がある。この場合、製造企業は国内では高目の価格設定が可能であるが、海外で競争する場合は安く設定しなければ競争に勝てない。この論理ではダンピング慣行は自然に生じる。

((((2222))))ADADADAD措置措置措置措置のののの経済的正当性経済的正当性経済的正当性経済的正当性

以上で述べたように、企業によるダンピング慣行は、ほとんどの場合経済的合理性に基づき行われる。新規ハイテク企業にとって海外市場の開拓は重要な戦略の一つであり、コスト割れを覚悟で安売りすることにより海外市場参入を狙うのは自然ともいえる。また、民営化された企業が、各国間の市場開放スピードのずれにより海外で安売りしてしまうケ 20 市場が不完全な場合、価格は所与ではなく企業が決定できるため、独占企業は一時的に製品価格を下げることで競争相手(Potential)の市場参入を妨げることが可能である。詳しくは John S. Vickers. “The Economics of Predatory Practices,” Fiscal Studies, 1985, 6(3), 24-36.を参照されたい。

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ースも十分考えられることである。一方、独占企業の略奪的価格設定は不当な慣行といえるが、そもそも独占企業は国内であれば反トラスト法の適用で対処することが可能である。しかし、反トラスト法の域外適用は未だ発展途上段階にあるため、被害を受けている国はADで対処することが許されるであろうが、これまでにこの略奪的価格設定によるダンピング慣行は例が少ないとの調査結果がある。

つまり、ほとんどの場合ダンピング慣行は経済的正当性が認められるため、あくまで理論上であるが、AD措置の正当性は低いことになる。それでも世界における AD発動件数が多いのは、現在のWTOの AD協定が経済的合理性に欠けるか、または ADの発動が経済的な理由以外で決定されることが多いことを示している。 ((((3333))))CVDCVDCVDCVD措置措置措置措置のののの経済的正当性経済的正当性経済的正当性経済的正当性 これまではアンチダンピングの経済的正当性について見てきたが、政府の補助金に対する CVD 措置には正当性はあるのであろうか。CVD は相手国政府による補助金額に相当する額の関税を上乗せすることで公正化を図るものであるが、政府の補助金自体に不公正の要素が含まれなければ CVDの正当化は出来ないことになる。

補助金の正当性については、まずどこまでの補助金が正当化される範囲なのか、そして好ましくない補助金はどれなのかを考えることが重要である。市場経済国では政府が無差別に国内企業に補助金を与えることは論外であるが、困窮ビジネスを支援する目的で政府が補助金を与えることも市場における自由競争の当然の結果としての企業の撤退を回避することであり、正当性はない。一方、経済学者のあいだでは特殊な性格をもつ経済主体に対する補助金は正当性があると信じられている。具体的には以下の補助金は理論的には正当性があると考えられている。

① 環境等外部性(positive externality)を伴う補助金、 ② 潜在的な規模の経済(unrealized scaled economy)の存在によるスピル・オーバー効果を伴う補助金、 ③ 幼稚産業(infant industry)の育成に必要な補助金。 ASCMで規定されている CVDの対象とならない補助金、いわゆるグリーン補助金21はお

21 ASCM第 8条 2項により以下の正確をもつ補助金はグリーン補助金に分類されていた。 (1) 企業もしくは高等教育機関もしくは研究機関が企業との契約に基づいて行う研究活動に対する補助金、 (2) 地域開発の一般的な枠組みに基づいて不利な立場に与えられる補助金で、その地域内で特定性を

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おむね上記の考えに基づいて生み出された。しかし、前出のグラハム上級研究員によると、研究開発等が実際にスピル・オーバー効果を生み出すことが出来るかといえば必ずしもそうとはいえない。例えばエアバス社がこの考えに基づいて補助金を供与されたが、航空機製造業界の外で航空機製造の技術が利用されているかといえばそうでもない(自動車製造技術がスピル・オーバー効果の一つの例と考えられるが、現時点ではコストが高くついてしまい、販売までは至らない)。

また、幼稚産業育成を目的とした補助金は、将来的にその補助金対象産業の成長が実現できるかどうかは供与した時期では分からない。例えば、1970年代にガーナ政府が鉄鋼産業育成のために多大な補助金を自国産業に供与したが、ガーナの鉄鋼産業の成長を見た者はいない。一方、同時期に韓国政府が補助金を与えた鉄鋼、造船、セミコンダクターといった産業が今では世界を代表する産業へと成長している。さらに、ブラジル政府は鉄鋼、コンピューター、航空機製造等幅広い産業に対して補助金を与えたが、そのうち航空機産業(Embraer 社、小・中型ジェット機の製造)だけが成長したといえる。つまり、幼稚産業育成のための補助金が正当化されるか否かは長い目で見た判断が必要となり、その時々で補助金を与えるか否かの議論はとても難しいものである22。

結論としては、ほとんどの ADは経済的理論では正当化されない一方、CVDの発動については政府の補助金の正当性がさほど見受けられないことから、(国内産業が輸出国補助金により損害を被っている場合に限り)正当化しやすい。むしろ問題があるとすれば CVD調査における補助金額であろう。ADは無論 CVDが最終的に正当化されるためには補助金額の正確な計算が必要となる。実践ベースでの政府の CVD は、セカンドベストとして CVDと補助金額の乖離を可能な限り小さくする計算方法が導入されるべきである。

有しないもの、 (3) 法令により課される新たな環境上の要件(企業に対し一層大きな制約及び財政的な負担をもたらすもの)に既存の施設を適合させることを促進するための補助金。 しかし、グリーン補助金は 2000年に廃止されている。 22 一方、ASCMのなかでレッド補助金として禁止されている輸出補助金のなかにはスピル・オーバー効果を生み出すものもある。これらの例としては Embraer社への輸出補助金等が挙げられる。

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3333....世界世界世界世界におけるにおけるにおけるにおける CVDCVDCVDCVD のののの傾向傾向傾向傾向とととと今後今後今後今後のののの見通見通見通見通しししし ここでは世界における CVDの傾向を紹介する。その後、今後の見通しを検証する。これまでの大まかな流れとして、ASCMが発効された 1995年から 2004年の過去 10年間にかけて米国や EUが積極的にこの措置を利用している。カナダも 2004年に世界で初めて中国に対して CVD調査を開始する等、措置の積極的な利用が見られる。一方の途上国は ADと比較するとそれほど CVDを利用していない。また、CVD件数の推移としては、1999年には調査件数が、翌年 2000年には発動件数がそれぞれピークを迎え、その後は減少傾向にある。

各国 CVDの最大のターゲットはインドである。対インドの CVD調査・発動件数はそれぞれ 41 件、25 件と他の被調査・発動国と比較して突出している23。また、CVD の調査対象となる製品は各国によって異なるが、一般的には卑金属が最も多く、次に食品・飲料水やプラスチック・ゴム製品の順となっている。当然ながら CVDの発動対象となる製品もこれに類似しており、その他野菜や化学製品が主な発動対象製品となっている。

今後の傾向としては、ドーハラウンドにおけるルール交渉の行方次第では ASCMの規律強化が実現し、全体的に件数が減少していくといった見方や、産業構造の変化により特に主要途上国による CVD発動が増加するといった見方がある。また、この先中国が市場経済国と見なされるや否や、欧米等に集中的に CVD発動をされる可能性が高い。

((((1111))))主要主要主要主要 CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査・・・・発動国発動国発動国発動国

米国は CVDの先駆者的存在であり、過去における最大のユーザーである。AD措置の件数には及ばないものの、米国はこれまでに多くの CVD調査・発動を実施してきた。図 1は1995年 1月から 2004年 12月にかけて CVD調査を頻繁に行ってきた、いわば CVD主要国による調査件数を表している。1995年にWTOが発足して以来最大の調査国は米国で、調査件数は計 70件にのぼる。第 2の調査国は 42件の調査を行った EUであり、そのあとカナダが 16件、南アフリカが 11件、ニュージーランドが 6件、オーストラリアが 6件と続いている。

23 補足 Aでは、アジア諸国のなかで過去に多くの CVD対象となったインドと韓国、さらに現在は非市場経済として対象から外れているが、将来的には主要対象国となるであろう中国の主要補助金制度を紹介する。

24

図図図図 1111....国別国別国別国別 CVDCVDCVDCVD調査件数調査件数調査件数調査件数((((1995199519951995年年年年~~~~2004200420042004 年年年年))))

出典:WTO事務局資料より作成

CVD主要国のなかで南アフリカ以外は先進国であるが、後述するようにメキシコやブラジルは 1995年にそれぞれ 7件と 5件の CVDを発動していることから、1994年にはかなり調査が行われていたことになる。

次に発動件数を主要国別でみると図 2 のような傾向となっている。発動措置件数でも米国がトップで 45件、続いて EUが 22件、カナダが 8件、メキシコが 7件、ブラジルが 6件となっている。

図図図図 2222....国別国別国別国別 CVDCVDCVDCVD措置発動件数措置発動件数措置発動件数措置発動件数((((1995199519951995 年年年年~~~~2004200420042004 年年年年)))) 45 22 8 7 605101520253035404550

米国 EU カナダ メキシコ ブラジル発動国件数

出典:WTO事務局資料より作成

メキシコやブラジルの発動件数が調査件数を上回っている理由は、両国が 1995年にそれぞれ 7件と 5件のCVDを集中的に発動している。通常調査には最低1年はかかるため、1994年にはデータには含まれていないかなりの数の調査が行われたと見てよい。

CVD調査と発動件数の推移を見てみると(図 3)、調査は 1999年の 41件、発動はその 1年後である 2000年に 19件とピークを迎えた。2000年以降は調査、発動ともに減少傾向と

70 42 16 11 6 601020304050607080

米国 EU カナダ 南ア ニュージーランド オーストラリア調査国件数

25

なっており、調査件数は増減が激しいが、発動件数は徐々に減少している。

図図図図 3333....CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査とととと発動件数発動件数発動件数発動件数のののの推移推移推移推移((((1995199519951995 年年年年~~~~2004200420042004 年年年年))))

出典:WTO事務局資料より作成

図 4は米国と ECの 1995年から 2004年にかけての CVD発動件数推移を表したものである。これによると、米国はWTO発足当時から 5件の発動を行っており、その後 1996年から 1998年にかけてほとんど発動していないが、1999年に 11件の CVDを発動した。その後、2001年と 2002年にもそれぞれ 10件の CVDを発動した。一方の ECは米国に出遅れたが、90年代後半より積極的な姿勢を見せ、2000 年になると 9 件の CVD を発動した。しかし、それ以降は年間に 0件から 3件の発動に留まっている。 このように、CVD 調査・発動件数の傾向は、主に先進国が CVD を頻繁に利用し、その推移は 1999 年から 2000年にかけてピークを迎えている。このなかで米国の CVD 利用頻度は圧倒的であり、例えば 1999年の全体で 14件の発動件数のうち 11件、2001年と 2002年は全体で 14件の発動件数のうちそれぞれ 10件を占めている。

((((2222))))被被被被 CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査・・・・発動国発動国発動国発動国

CVD 調査・発動の対象となっている国はどこであろうか。これまで頻繁に CVD の対象となっている国は、その国の政府補助金が他国から問題視されてきた国といえる。また、もしその国が途上国であれば、ASCM の途上国特別待遇にもかかわらず狙われるほどに補助金の問題を抱えている国、と置き換えることもできる。図 5の対象国別 CVD調査件数と図 6の同発動件数から明らかなように、インドに対する CVDが圧倒的に多い。これまでのインドに対する調査件数は 41 件であり、2 位韓国の 14 件と比較しても突出している。また、インドに対する発動件数は 25件であり、2位イタリアの 9件と比較して圧倒的である。

10 7 16 25 41 18 27 9 15 819 5 3 6 14 19 14 14 6 8051015202530354045

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004年件数 調査件数発動件数

26

図図図図 4. 4. 4. 4. 米国米国米国米国とととと ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD発動件数発動件数発動件数発動件数のののの推移推移推移推移((((1995199519951995年年年年~~~~2004200420042004年年年年))))

0 0 1 2 3 90 2 3 25 2 0 1

112

10 102 20246

810121995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004年

件数 EC米国 出典:WTO事務局資料より作成

図図図図 5. 5. 5. 5. 対象国別対象国別対象国別対象国別 CVDCVDCVDCVD調査件数調査件数調査件数調査件数((((1995199519951995 年年年年~~~~2004200420042004 年年年年))))

出典:WTO事務局資料より作成 ((((3333))))セクターセクターセクターセクター別別別別 CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査・・・・発動発動発動発動

セクター別で CVDの傾向を見ると、図 6と図 7が示しているとおり、卑金属関連製品が最大の対象品目となっている。卑金属の調査件数は 71 件、発動件数は 56 件と群を抜いている。このうち、米国は卑金属について 42 件の調査を行い、そのうち 32 件について発動を行っている。EC は卑金属について 13 件の調査を行い、7 件について発動を決定している。いずれの国にとっても卑金属が最大の対象セクターとなっている。最大の CVD対象国であるインドについてもやはり対象セクターは卑金属であり、調査では 15件、そのうち 14件が発動対象となっている。この傾向は調査対象国第 2位の韓国についても同じである。

41 14 13 10 9 8 8 7 6 6 6051015202530354045インド 韓国イタリア EUインドネシア タイ カナダ 台湾 南アフランスブラジル対象国

件数

27

図図図図 6. 6. 6. 6. セクターセクターセクターセクター別別別別 CVDCVDCVDCVD調査対象品目調査対象品目調査対象品目調査対象品目((((1995199519951995 年年年年~~~~2004200420042004 年年年年))))

出典:WTO事務局資料より作成

図図図図 7. 7. 7. 7. セクターセクターセクターセクター別別別別 CVDCVDCVDCVD発動対象品目発動対象品目発動対象品目発動対象品目((((1995199519951995 年年年年~~~~2004200420042004 年年年年)))) 出典:WTO事務局資料より作成

出典:WTO事務局資料より作成

((((4444))))世界世界世界世界におけるにおけるにおけるにおける CVDCVDCVDCVDのののの傾向傾向傾向傾向まとめとまとめとまとめとまとめと今後今後今後今後のののの動向動向動向動向

上記した CVD の傾向は以下のとおりにまとめることができる。WTO 発足以来 10 年にわたり、米国と ECに牽引されるかたちで先進国が主な CVDユーザーであった。一方 ADを積極的に利用していた途上国は CVDについてはその利用を控えてきた。その反面、CVD調査・発動の対象となる国はインドや韓国といった主要発展途上国が中心であった。つまり、CVDユーザーの先進国とその対象国となった途上国という構図が必然的に浮かんでくる。

71 23 17 11 11 1001020304050607080卑金属加工食品・飲料プラスチック・ゴム製品 繊維 動物製品 化学製品セクター

件数

56 12 8 7 50102030405060

卑金属 加工食品・飲料 野菜プラスチック・ゴム製品 繊維セクター件数

28

また、調査・発動対象品目は卑金属がトップであり、特に米国と ECがこの品目を狙い撃ちする傾向がある。被調査・発動国としてのインドと韓国の対象セクターが卑金属であることから、まさに過去 10 年の CVD の傾向は米国・EC がインド・韓国の卑金属を狙った構図となっている。米国や ECにとって卑金属をはじめ加工食品、繊維、プラスチック製品等はセンシティブ品目に挙げられることが多く、WTO設立以降の関税率引き下げ等による国内市場の自由化に伴いこれらの分野の企業によるCVD調査申請が増加したことが少なからず読み取れる。

また、1997年にアジア諸国を襲った経済危機は 1999年から 2000年の CVD調査・措置の急増に大きな影響を与えたと考えられる。第一に、アジア経済危機を原因としてアジア各国が相次いで通貨を切り下げたために先進国向け輸出が急増した24。米国や ECの卑金属製造企業はアジアからの輸入急増の恐れ、もしくは実質的な輸入急増により政府に対して救済措置の申請を行ったものと思われる。第二に、アジア経済危機後に先進国による CVDが増加していることから、外需に牽引された経済回復を目指したアジア各国政府が、経済危機により経営が悪化した企業に対して補助金を供与したケースが考えられる。最近米国、EC、日本が相次いで韓国ハイニックス社の DRAMに対して CVDを発動したが、この案件はアジア経済危機の際に経営困難に陥った同社に対して韓国政府が政府・民間銀行を通じて融資を行ったことを原因としている。また、インドの各種補助金は 1997年以降に供与されたものが多い。これらの理由のため、先進国による CVD調査・発動件数は増加したものと考えられる。

24 1995年から 2004年にかけてのアジア地域の対先進国輸出額推移は以下の図のとおりとなっている。 アジアの対先進国輸出額の推移(1995年~2004年)

020000040000060000080000010000001995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004年輸出額(100万US$)

出典:IMF Direction of Trade Statisticsより作成 1997年から 1998年の輸出額の伸びは 1%であったが、1998年から 1999年にかけては 7.5%、1999年から 2000年では 17.8%の成長率となり、1998年以降の為替切り下げの輸出拡大効果が顕著である。

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今後の見通しとしては以下の 2 通りのシナリオが考えられる。まずは米国や EU といった主要国が相殺関税の利用に消極的になる一方、他国による措置発動が増加するといった見方。もうひとつはドーハラウンドにおけるルール交渉次第では規律強化が実現し、全体的に件数が減少していくといった見方である。

最近になって米国や EC による CVD 発動件数が減少している。米国商務省輸入管理課(Import Administration)や EC貿易総局によると、この減少は(1)相手国の補助金、企業データは入手が難しく、CVDの調査は ADと比べて難しい、(2)企業のみを対象とした AD と異なり補助金の調査は相手国政府との直接的なやり取りを必要とするため、外交的にやりにくい面がある、といった点を理由としている。また、ASCM が発効して以来、先進国はこの協定に準じて損害を及ぼすような補助金を廃止する傾向にあったことも件数が減っている原因の一つである。今後の産業構造の変化や市場の自由化程度によるところもあるが、米国や EC では CVD ではなく他の貿易救済措置が使われていく可能性がある。一方、他の先進国は米国や ECと比較して未だ関税率が高めなことから25、今後自国の市場自由化の余地はまだ多く残されており、自由化が進むに連れて貿易救済措置の利用が増える可能性が高い。また、途上国のなかでも経済成長率が極めて高いブラジルやインド、中国といった主要途上国は、将来的には先進国が経験したような産業構造の変化、すなわち資本集約的産業・ハイテク産業の成長と労働集約的産業の衰退が起こるかもしれず、こうなれば他の遅れた開発途上国からの労働集約的産業製品(鉄鋼や繊維等)が衰退産業に損害を及ぼしていくことは十分に考えられる。これは将来的には主要途上国の CVD発動が増える可能性を示唆している。

上記の見方とは異なり、CVD発動件数は今後全体的に減っていくであろうというのが第二のシナリオである。今後WTOドーハラウンドのルール交渉がある程度進展し、ADフレンズが主張しているような厳しい規律が導入されれば、各国の同措置の濫用が難しくなる26。また、これまで多くの CVD が開発途上国の補助金付き輸出製品に向けられてきた。今後ASCMの「特別のかつ異なる待遇(S&D)」が強化されることにより、これらの国にとっては産業政策における補助金の供与を行いやすい環境が整っていく可能性がある。これらの条件が整えば、全体的に CVD発動の件数は減少していくであろう。

しかし、これらのシナリオに加え、今後中国が米国や ECに市場経済国と見なされれば、民営化されるであろう国営企業や引き続き補助金が与えられる民間企業に対して次々と 25 例えば、鉱工業製品の平均関税率(譲許税率)は、米国が 3.2%、EC が 3.9%(日本は 2.3%)である一方、カナダは 5.3%、オーストラリアは 11%、ニュージーランドは 11%と高い。 26 現在のルール交渉では ADの議論が中心となっているが、CVDの規律は ADの議論で決まった決定と同様な決定が行われる。

30

CVDが発動される可能性もある。現在でも米国や ECは中国の補助金に対して批判を行っており、近い将来集中的に措置が発動されるかもしれないことも付け加えておく。

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第第第第 2222 章章章章 WTOWTOWTOWTO におけるにおけるにおけるにおける代表的代表的代表的代表的 ASCMASCMASCMASCM判例判例判例判例とととと韓国韓国韓国韓国 DRAMDRAMDRAMDRAM 事件事件事件事件

1111....背景背景背景背景 WTO 協定は外交的な手段により各国の利害を超えて合意された国際条約であることから、条文には国内の法律より曖昧な箇所が圧倒的に多い。WTOには 150以上の国が加盟しており、全ての加盟国の意見を一致させて条文化することはいわば至難の業であり、結果としての曖昧な条文はむしろ当然といえる。

WTOの紛争解決機関(以下、DSB)は利害関係国間の協議、小委員会(以下、パネル)、そして上級委員会(Appellate Body、以下 AB)で構成される。DSB に提訴した加盟国はまず利害関係国と協議を行い、そこで合意が得られない場合はパネル設置要請を行う。その後、パネルの決定に不服な提訴・被提訴国は ABに申し立てることができる。ABは訴えのあった法律の解釈のみを行い、最終報告書を DSBの承認にかける。

上記したとおりWTO協定条文には曖昧な箇所が多いことから、パネルや ABの条文解釈は先例法として非常に重要な働きをしている。これら DSBによる条文解釈はほぼ例外なく事実上の法令となるため、事後のパネルの解釈に大きな影響を与えるのである。

ASCMも例外ではなく、過去の DSBによる ASCM関連の判決はそれ以後の案件に重要な影響を与えてきた。過去の注目すべき ASCM関連案件としては以下のリストにある判例が挙げられる。

(1) 米国-韓国 DRAM事件(DS296):政府の指示、委託の明示なしで政府から銀行への指示があったか否かが焦点。 (2) EU-韓国 DRAM 事件(DS299):(1)の事件の争点に加え、損害認定における“Non-attribution”ルールが十分であったか否かが焦点。 (3) EU鉄鋼(イギリス)事件(DS138):国営企業の民営化における「市場価格」をどう扱うかが焦点。 (4) カナダ軟材事件(DS236):アップストリームでの補助金をダウンストリームでどう便益を計算するか、また適当な市場がその国に存在しない場合、他の国の市場価格を参照できるかが争点。 (5) 米国綿花事件(DS267):ASCMと農業協定の関連性が焦点。 (6) ブラジル-カナダ航空機事件(DS71):利益計算のベースは補助金額と損害額のどちらが「適当(Appropriate)」か、が焦点。

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2006年 1月に韓国ハイニックス社製DRAM製品に対して第一号となるCVDを発動した日本にとって、上記リストのうち iと iiの事例は非常に重要となる。韓国は同年 3月 14日に日本の対ハイニックス社 CVDに対してWTO提訴を発表、6ヵ月以内に二国間協議で合意できなければパネル設置という流れになる。過去に韓国はWTO提訴案件のほとんどをパネルに託している。さらに、韓国政府は本件が過去のパネルや ABでは明確にされなかった論点の決着をつけるための最高の機会と見ていることから、パネル設置の可能性は高いとみられる。

したがって、この章では米国-韓国 DRAM 事件(DS296)と EU-韓国 DRAM 事件(DS299)を具体的に紹介、その上で日本のハイニックス社製 DRAM 製品に対する CVD発動について簡単に紹介する。

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2222....韓国韓国韓国韓国 DRAMDRAMDRAMDRAM事件事件事件事件

((((1111))))米国米国米国米国 –––– 韓国韓国韓国韓国 DRAMDRAMDRAMDRAM にににに対対対対するするするする CVDCVDCVDCVD((((DS296DS296DS296DS296))))

協議要請日:2003年 6月 30日 パネル報告:2005年 2月 21日

AB報告:2005年 6月 27日

背景: 2002年 11月 1日、米国のマイクロン・テクノロジー社(Micron Technology, Inc.)は、米国商務省(以下、DOC)及び国際貿易委員会(以下、ITC)27に韓国企業の輸入 DRAM製品に対するCVD調査要請を提出した。これにしたがい同年 11月8日に ITCは損害認定、27日には DOCが補助金認定の調査を開始した。ITCは 2000年から 2003年、DOCは 2001年 1月 1日から 2002年 6月 30日を調査対象期間とした。また、米国当局は DRAMを調査対象製品、その製造会社であるハイニックス社(Hynics Semiconductor Inc.)及びサムスン社(Samsung Electronics Co. Inc.)を調査対象企業とした。

ITCは 2002年 12月 27日に暫定的な損害認定、翌年の 2003年 8月 11日には最終損害認定を公表した。一方、DOCは 2003年 4月 7日にハイニックス社のみに対して暫定的な補助金認定を行い、57.37%の暫定 CVDを賦課、その後 6月 23日には同社に対して最終補助金認定を発表、同年 8月 11日に最終的に 44.29%にのぼる CVDを課した。

韓国は 2003年 6月 30日に DOCの暫定・最終補助金認定、ITCの暫定・最終損害認定を不服として DSBに米国との協議を要請した。しかし、両国に折り合いが付かず、同年 11月 19日に韓国はパネル設置要請を行った。

パネルの判断: 本件は、韓国政府が政府系金融機関や民間金融機関に対して当時経営が悪化していたハイニックス社に融資を行うよう「委託(entrustment)」もしくは「指示(direction)」していたか否かが焦点であった。ASCM第 1条(a)(1)(iv)は補助金について「-省略- 政府が民間団体に対し、-中略- 政府が通常とる措置と実質上異ならないものをとることを委託し若しくは指示すること」と定義している。パネルは「委託」や「指示」が政府の金融的貢献(financial contribution)と見なされるためには、(1)政府による肯定的な行動、 27 救済措置の申請が企業から提出された場合、DOC(具体的には輸入管理課(IA))が補助金の存在、金額について、ITCが損害の認定を担当する。

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つまり「委任」もしくは「命令」があり、(2)特定の者に向けられており、(3)特定な業務もしくは任務を目的としなければならない、という 3 つのテストを必要とした。韓国は米国-輸出制限事件(US-Export Restraints)を引用してパネルに対して政府の肯定的な行動は「明示的(explicit)」でなければならず、これをテストの基準に組み込むよう主張したが、パネルは「明示的もしくは暗示的(implicit)、フォーマルもしくはインフォーマル」でもよいが、各金融機関への委任もしくは命令が「証明力(probative)」がありかつ抗しがたい(compelling)」証拠がなければならない、とした。

続いてパネルは上記のテストに事実を照らし合わせた上で以下の結論を述べた。DOCが主張している韓国政府がハイニックス社の再建を支援する政策はあり、また同政府は金融機関への影響力を有しているが、実際に政府が「委託」もしくは「指示」を金融機関に対して行ったという証拠が不十分であり、DOCの CVD調査はWTOに違反している。また、パネルは「委託」もしくは「指示」がなかったことから、利益および特定性もなかったとの判決を下した。

ABの判断: ABはパネルの「委託」もしくは「指示」が「委任」もしくは「命令」を意味するとの判断を「狭すぎる(too narrow)」と判断、「委託」には政府が民間に対して責任を与える行為、「指示」には何者かに(政府の)権限を行使するという意味が含まれていると述べた。この定義は ASCMが定義する「委託」と「指示」を広く定義し、当局が補助金認定を行いやすくする。

さらに、ABは米国が上訴していたパネルによる DOCの証拠の審査方法について、DOCが証拠全体(in totality)に基づき補助金認定を行ったにもかかわらず、パネルは個々の証拠をそれぞれ別に審査を行っており、DOC と異なる手法(de novo)を使ったとしてパネルの判断を誤りとした。 ((((2222))))ECECECEC----韓国韓国韓国韓国 DRAMDRAMDRAMDRAMにににに対対対対するするするする相殺関税相殺関税相殺関税相殺関税((((DS299DS299DS299DS299))))

協議要請日:2003年 7月 25日 パネル報告:2005年 6月 17日

背景:

2002 年 7 月 25 日、EC は域内最大の DRAM 製造会社であるインフィニオン社(Infineon)の申請により韓国ハイニックス社およびサムソン社製 DRAM に対してCVD調査を開始した。米国マイクロン社(Micron)はこの申請のサポートと調査協力

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を行った。補助金調査対象期間は 2001年 1月 1日から 12月 31日まで、損害調査対象期間は 1998年 1月 1日から 2001年 12月 31日までであった。

2003年 4月 24日、ECは暫定措置を発表、ハイニックス社製 DRAMに対して 33%の暫定 CVDを発動した。一方のサムソン社についてはデミニミスと判定、調査対象から外した。そして 2003年 8月 22日、ECはハイニックス社に対して最終的に CVDを発動した。暫定措置の対象となった 2つの融資プロジェクトに加え、最終決定では結局5つの融資プログラムが相殺関税可能な措置とされ、34.8%の関税を賦課した。

パネルの判断: パネルは韓国の多数の訴えを退けた一方、ECの損害認定は補助金付き輸入製品が損害を及ぼしている、つまり当該輸入と国内産業の損害との因果関係の立証が不十分との判断を下した28。パネルによると、ASCM第 15章 5項の“non-attribution”ルールは単なる形式上(pro forma)だけのものではなく、それゆえ調査当局は単に同項のリストをチェックするだけでは十分とはいえない。ECは需要の低下、過剰生産、第三国からの非補助金付き輸入製品の損害効果といった他の要因を分析していない。また、パネルは輸入と損害の因果関係を立証する手段として定性的主張ではなく、可能な限り影響を数量化する努力を行わなければならないと強調した。

また、パネルは“non-attribution”ルールは ADのケースでも同様に扱われると述べた。

((((3333))))日本日本日本日本のののの対対対対ハイニックスハイニックスハイニックスハイニックス社製社製社製社製 DRAMDRAMDRAMDRAMにににに対対対対するするするする CVDCVDCVDCVDのののの発動発動発動発動についてについてについてについて29292929

日本では 2004年 6月 16日にエルピーダメモリ社とマイクロンジャパン社が韓国ハイニックス社製 DRAM製品に対する CVD調査を申請した。これを受けて同年 8月 4日に財務 28 これは“non-attribution”ルールと呼ばれる。ASCM第 15章 5項参照。「補助金の交付を受けた産品の輸入が当該補助金の及ぼす影響によりこの協定に定義する損害を与えていることが立証されなければならない。当該輸入と国内産業に対する損害との因果関係は、当局が入手したすべての関連する証拠の検討に基づいて明らかにする。当局は、当該輸入以外の要因であって、国内産業に対して同時に損害を与えていることが知られているいかなる要因も検討するものとし、また、これらの他の要因による損害の責めを当該輸入に帰してはならない。この点について関連を有することがある要因には、特に、当該補助金の交付を受けていない同種の産品の輸入の量及び価格、需要の減少又は消費態様の変化、外国の生産者及び国内生産者の制限的な商慣行並びに外国の生産者と国内生産者との間の競争、技術の進歩並びに国内産業の輸出実績及び生産性を含む。」

29 詳細については経済産業省貿易救済措置のウェブサイトを参照。 貿易救済措置:http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/trade-remedy_hp.htm 大韓民国ハイニックスセミコンダクター社製半導体DRAMに係る相殺関税 賦課の調査の結果について: http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/cvd/dram_main.pdf

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省と経済産業省が共同で調査を開始、2005年 8月 2日に 6ヶ月の延長を決定したが、最終的には 2006年 1月 20日の閣僚会議での承認を経て、同月 27日に 27.2%の CVDを発動した。

本件では韓国政府の公式文書が存在しなかったため、日本政府は韓国政府が金融機関に対して当時経営危機に陥っていたハイニックス社に金融支援を「委託」もしくは「指示」したかについて証明することが必要であった。公式文書が存在していたならそれをもって政府の財政的支援(financial contribution)を証明できたであろうが、それがなかったために日本政府はいくつかの客観的な証拠から総合的に判断して韓国政府の財政的支援を証明しようとした。

具体的には、米国や EU のケースと同様以下のような事実が補助金の存在の証拠として使われた。第一に、韓国政府がハイニックス社の正常化を経済政策の一つとして位置づけていた事実。第二に、韓国政府が銀行に対して関与できる法的枠組み、また政策が銀行の与信政策に影響を及ぼす可能性があった事実。第三に、当時のハイニックス社の経営状況では市場からの資金調達は困難だった事実。第四に、政府がハイニックス社を支援するような発言が相次いだ事実。そして最後に、銀行による与信判断に非商業性の特徴があった事実である。

新規融資、協調融資、輸出保険、転換社債の引受、債務の株式転換弁済期延長等韓国の金融機関によるハイニックス社に対するさまざまな支援措置が調査対象となったが、そのなかで調査対象期間である2003年まで続いている支援融資がCVD率計算の対象となった。具体的には公的金融機関、民間銀行による 2001年 10月措置と 2002年 12月措置によるハイニックス社の利益の合計である 27.2%が CVDとして賦課されることとなった。

また、日本政府は輸入量の著しい増加、プライス・アンダーセリング及び価格の押し下げ、各種国内経済指標、その他賃金や雇用の減少等、補助金付きハイニックス社製 DRAM製品の輸入が日本に及ぼした損害や因果関係を証明した。

韓国政府は日本の CVD発動に対して 2006年 3月 14日に WTO 提訴の意向を示した。韓国政府に通じた情報筋によると、韓国政府が以前米国と EUの CVDを提訴した際に米国の CVD に関する上級委員会の判決はパネルにおける個々の補助金の証拠(evidential)に基づく判断を誤りとしただけであり、証拠の中身についてはまだ決着していない。また、ECのケースではこの部分について重要な判決が出ていないことから、韓国政府はこの証拠の部分は ASCMの弱点であり、DSBによる明確な判断の必要性を感じていたところ、日本が CVD を発動したことはむしろ好機だと感じている。また、韓国政府は、DRAM 輸入と

37

損害の因果関係についての日本の証明は、米国や ECのそれと比較して説得に欠けると考えている。したがって、韓国政府は補助金の「証拠」と損害認定両方について日本政府を攻撃すると思われる。

38

II. II. II. II. 各国各国各国各国のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度

第 1章でみたとおり、米国と欧州は他の加盟国と比較して圧倒的に多くの CVD調査・発動を行ってきた。一方、日本は 2006年 1月の対韓国ハイニックス社製 DRAMに対する発動が CVD第 1号であった。経済構造上の違い、救済措置に対する考え方、救済措置以外の方法による産業支援、輸入製品競合企業の競争力・・・その他いろいろな理由はあろうが、これまでの日本は救済措置の利用にあまりにも消極的であったといえる。そのような消極性によって、日本企業が過去に他国政府の不当な政策や他国企業のダンピングにより実際には損害を被ってきたが、それは見過ごされてきただけかもしれない。

米国・EU・日本の CVD制度とその運用は異なる。WTOの ASCMが存在しながら、その条約文が曖昧なため、加盟国は自分独自の解釈を行ってきたことに起因している。米国のCVD制度は「1930年関税法第 7編」を起源としており、同法は 1995年 1月 1日にASCMの発効に伴い改正された。ECは ASCMをベースとして 1997年に「理事会規定第 2026/97」を発効、その後何度か修正を重ねてきた。日本は 1910年の「関税定率法」第 7 条で CVDの規定を設け、その後「相殺関税に関する政令」、「相殺関税及び不当廉売関税に関するガイドライン」という流れで整備されてきた。

また、この 3国は CVD発動に向けた環境においても非常に異なる面を有している。米国はいわば「CVD の父」であり、WTO 設立前から他国にその措置をフルに活用してきた。こうした長い歴史と豊富な経験は当局だけでなく企業や政治家の間でも浸透し、多くの通商専門弁護士を生み出してきた。一方、米国に出遅れた ECは 90年代後半より積極的に企業に対して各国の不公正貿易を訴え、企業とのパートナーシップ構築に成功した。日本は貿易立国として、また AD の最大の被害国として、むしろこうした救済措置には消極的な立場をとってきたため、完全に出遅れたといえる。

前章で紹介したとおり、ASCMは徐々にではあるが過去の判例を通じて整備されてきた。また、加盟国はパネル・上級委員会の判定により国内法の整備に尽力している。ドーハラウンドにおいて各国は AD 協定とともに ASCMの規律強化に向けて交渉を進めている30。このように、補助金・CVDに関する規律が強化されると共に、公正な土台で加盟国が自由貿易を求めていくのであれば、かなりの程度で CVD制度の活用は正当化される。様々な問題が残るが、不公正貿易を正す、という目的は普遍である。

30 AD協定、ASCM、セーフガード協定の規律強化はルール交渉において進められている。日本は韓国やスイスといった加盟国と「ADフレンズ」を結成、米国の救済措置の乱用を防ぐことを目的としている。「知りえた事実(Facts Available)」、「レッサー・デューティー(lesser Duty)」、「サンセット・レビュー(Sunset Review)」等が主な交渉議題。

39

第 3章では、米国の CVD制度とその運用、発動に向けた環境を紹介する。米国の制度はその特異性のため多くの加盟国から非難を浴びている。そのため制度自体は問題がないとはいえないが、同国の積極性は日本が見習うところが多い。第 4章では、ECの CVD制度とその運用、発動に向けた環境に触れる。EC は米国と比較すれば ASCM に適合した制度を有していると同時に、「共同体の利害(Community Interest)」の概念を取り入れており、公正な制度とその運営を行っているといえる。一方、透明性が低いという点がネックとなっている。第 5章では、日本の CVD制度とその運用、発動に向けた環境を説明する。日本の制度は大筋 EC のそれを似通っているが、環境は全く異なる。最後に第 6 章では米国・EU・日本の CVDを比較検証する。この 3国の制度はどう異なるのか、運用の仕方は違うのか、CVDをとりまく政府・政治家・ビジネスの関係はどのように違うのかについて検証する。そして、最後に今後日本がどうあるべきかを簡単にまとめる。

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第第第第 3333 章章章章 米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運用運用運用運用、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

この章では、まず米国の CVD制度とその運営、さらにはそれをとりまく環境について紹介する。世界で最もこの制度を多用してきた米国には何か特別な制度が存在するのか、ASCM との関係はどうか、政府当局は効率的な運営を行っているのか、また、政府当局と政治家やビジネスとの関係、さらに通商専門弁護士は豊富なのか等に着目しながら総合的な環境を分析する。

1111....米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度のののの特徴特徴特徴特徴

((((1111))))米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD制度制度制度制度のののの歴史歴史歴史歴史

米国の CVD制度31は「1897年関税法」の発効に遡るが、1970年頃まではほとんど紛争事件は見当たらなかった。当時、米国は輸入相手国の補助金問題を見つけた際は二国間協議等をつうじて外交的な手段で問題解決を試みていたからである。

「1974 年通商法」により CVD に関する規則が一部変更された。これは損害の認定を条件として、GATT加盟国からの免税輸入への相殺関税適用を認めた他、調査・発動手続き、発動期間等を明確にした。当時管轄していた財務省と ITC はこの新たな法・規制をベースに救済措置をフルに活用し始めた。

米国では1978年頃までに救済措置の発動がかなり本格化となり、同時期にはコロンビア、マレーシア、シンガポール、タイ等からの繊維製品輸入に対して頻繁に CVDを発動した。

1970年代には米国や EUは独自の CVD制度を東京ラウンドの議題に組み込み、複数国間(plurilateral)ベースで補助金・相殺措置協定(Subsidy Code)32の合意に至った。同協定には米国、カナダ、オーストラリア等の先進国が加盟した一方、それまでの米国の度 31 実際は「1890年関税法」が起源、ただし、対象は砂糖のみ。「1897年関税法」ではすべての輸出補助金が CVD対象となり、本格化した。現在の米国 CVDの法的根拠は 1930年関税法(スムート・ホーリー関税法)第 7編、規則は商務省規則(CFR)パート 351、国際貿易委員会規則パート 201及び 207、1997年最終手続規則、1998年最終 CVD実質規則、その他数回改正あり。 32 本協定の主な規定は以下のとおり。 (1) 第一次鉱業製品だけでなく、それ以外のものについての輸出補助金の禁止、 (2) 国内販売価格よりも輸出価格を低くする結果となるものであるという従来の用件を廃止した輸出補助金の説明、および補助金慣行のアップデートされた例示的リストの付加、 (3) 損害を引き起こす場合には国内補助金であっても救済措置が認められる、 (4) 補助金制度の実施には世界貿易および生産の条件を考慮、 (5) 開発途上国による輸出補助金の使用および段階的解消を定める規定、 (6) 存在または因果関係のテスト等。

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重なる CVD発動に嫌気がさしていた途上国は加盟を避けた。米国は「1979年通商協定法」を発効、Subsidy Codeの国内法手続きを完了した。これにより、「1930年関税法」に CVD法の新規定を含む新しい第 7編が加わった。

その後、鉄鋼業界を含む 30にのぼるブラジル産業に対して CVDを発動するなど貪欲に同制度を利用していた米国は、ウルグアイラウンドで EUと共同して補助金協定(ASCM)を発効することに成功した。ASCMは一括受諾(single undertaking)33により全加盟国により合意された。1994年、米国は ASCMに基づき「ウルグアイ・ラウンド協定法」を発効、「1930年関税法」第 7編が一部改正された。

ASCMが発効された 1994年以降の米国の CVD発動・調査件数は図 9のとおりである。 図図図図 9. 9. 9. 9. 米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査・・・・発動件数発動件数発動件数発動件数のののの推移推移推移推移((((1995199519951995年年年年~~~~2004200420042004年年年年))))

出典:WTO事務局資料より作成 図 9によると、調査・発動件数ともに 1999年~2001年にかけて増加した後、2000年代は減少している。CVD件数の増減の原因には米国の経済循環、他国の経済循環、輸出入の状態、外交的な問題、各国の補助金制度の動向とありとあらゆる要素があると考えられ、今後このまま件数が減っていくとは限らない。実際に米国の WTO 事務局通報によると2005年だけで 21件の調査を開始している。

((((2222))))米国米国米国米国 CVDCVDCVDCVD制度制度制度制度

33 一括受諾により、WTOに加盟するには一部例外を除いた全ての協定に加盟しなければならなくなった。ウルグアイラウンド以前のラウンドでは、加盟国は都合のよい協定だけを選んで加盟していた。

3 1 6 12 11 718

4 5 35 2 0 1 11 2 10 10 2 202468101214161820

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004年件数 調査件数発動件数

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上記した CVD 法の修正によって米国の制度は変化を遂げてきた。現在の法はおおむねASCM に準拠しているといえるが、その曖昧な条文から米国独自の法解釈による調査・発動慣行が実施されており、各国の非難の的となっている。ここではこうした米国独自の制度、ASCMの法解釈を中心に取りあげる。

知知知知りえたりえたりえたりえた事実事実事実事実((((facts availablefacts availablefacts availablefacts available)))) ASCM第 12条 7項によると、CVD調査において、相手国・企業が調査中の国が求める情報を提供しない場合または調査を著しく妨げる場合には、知ることができた事実(facts

available)に基づいて仮決定あるいは最終決定を行うことが出来る。米国は相手国・企業が情報を開示しない場合、“worst information”、つまり相手にとって徹底的に不利となる自らの情報を使う傾向がある。米国の考え方は相手国が情報を開示しない場合には、何か都合の悪い情報を隠していると考え、それに対する罰を与える。

アップストリームアップストリームアップストリームアップストリーム補助金補助金補助金補助金 アップストリーム補助金とは、米国に輸出された最終製品の製造段階で使われる原料等インプットに対する政府補助金であり、1930年関税法第 771(a)によると、利益が原料製造者に供与されている場合に存在する。このタイプの補助金は ASCMには表記されておらず、米国独特の定義である。

レッサーレッサーレッサーレッサー・・・・デューティーデューティーデューティーデューティー ASCM第 19条 2項では「補助金の額よりも少ない額の相殺関税の賦課が国内産業に対する損害を除去するために十分である場合には、相殺関税の額は、その少ない額であることが望ましい」とされ、レッサー・デューティーの原則が奨励されているが、米国では採用されていない。つまり、どの案件においても米国は補助金による利益を売り上げで除した数値を CVD率として算出する。 行政行政行政行政レビューレビューレビューレビューとととと遡及的徴収遡及的徴収遡及的徴収遡及的徴収 米国の CVD 制度下では図 9 のようにレビュー後に税率が引き上げられた場合遡及的(retroactive)に課税することが可能である。つまり、CVD措置の発動後に行われる行政レビューで関税率変更もしくは撤廃の調査を実施、その結果税率が引き上げられれば 1 年目の暫定税率についても遡及して、利子を加えたうえで徴収する。この制度では過去に遡って徴収が行われるため、対象企業(徴収は輸入企業から)にとっては不確実性が残る。

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WTO 違反である可能性も高く、(AD 含む)このレビュー制度に対してメキシコは 400 にのぼる箇所をWTO違反として提訴する準備をしていた。もしこれがWTO違反と認定されれば米国は制度を根本から改める必要が生じる。

図図図図 10101010....行政行政行政行政レビューレビューレビューレビューにおけるにおけるにおけるにおける遡及的徴収遡及的徴収遡及的徴収遡及的徴収ののののメカニズムメカニズムメカニズムメカニズム 90日分遡ってボンド10%発効 ボンド10%発効 ボンド20%発効申請書提出 暫定措置 商務省最終決定 ITC最終決定相殺関税率10% 相殺関税20% キャッシュ徴収20% 10%プラス利子の徴収キャッシュ徴収20% 必要あらば行政レビュー必要あらば行政レビューレビュー後の相殺関税率30%1年目2年目3年目

出典:ホワイト&ケース法律事務所ワシントン事務所のインタビューより作成 サンセットサンセットサンセットサンセット・・・・レビューレビューレビューレビュー 1995 年のウルグアイラウンド合意以前、米国では CVD を無効にするメカニズムが存在しなかった。したがって、相手国が米国に CVDを止めさせる唯一の方法は補助金を完全に廃止するか、もしくは米国産業に損害を与えないようにすることであった。ウルグアイラウンド交渉の末、米国はサンセット・レビューに合意し、相殺関税発動後 5 年以内にレビューを行うこととなった。

ASCMのサンセット・レビューによれば、レビュー時に CVDを無効とすることで相手国が補助金を引き続き(continuation)当該企業に供与するか、もしくは補助金による損害が引き続き残る可能性がある(Likelihood)場合34、引き続き賦課することが出来る。ここでの問題は米国の“likelihood”の解釈である35。米国の慣行では “likely”が“probably”ではなく“possibly”と置き換えられている。“possibly”だとかなり低い可能性を含むが可能であり、これは殆どの措置の延長を引き起こす。各国はこの解釈について批判している 34 ASCM第 21.3条では「いかなる確定的な相殺関税も・・・。ただし、当局が、自己の発意に基づいて・・・(中略)・・・相殺関税の撤廃が補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性があると決定する場合は、この限りではない」と表記されている。 35 米国では 1930年関税法第 751条(c)で規定されている。

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が、米国は特別これについての説明を行っていない。ITCや DOCは裁判所が“likelihood”を“probable”と解釈すべきとの判断を下しても、引き続き“possibly”を使っているという状況である。

ITCや DOCのサンセット・レビューにおける救済措置延長の判断基準として輸入量が調査前と比較して増えるか否かというのがある。もし増えると判断されればそれはダンピングとして考えるというのが米国の主張であり、これをクリアーすることは殆ど不可能である。一方、ITCや DOCは相手国が当該補助金に関する全てのプログラムを終了すれば相殺関税を廃止する。過去にアルゼンチンの蜂蜜と石油パイプライン管のたったの 2 件がこの条件により失効となっている。

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2222....米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 制度運制度運制度運制度運用用用用のののの特徴特徴特徴特徴

((((1111))))CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査・・・・発動発動発動発動のののの流流流流れれれれ

米国当局の CVD調査・発動の流れは図 10のようになっている。

図図図図 11111111....米国米国米国米国のののの相殺関税申請相殺関税申請相殺関税申請相殺関税申請からからからから発動発動発動発動までのまでのまでのまでの流流流流れれれれ

出典:ホワイト&ケース法律事務所ワシントン事務所のインタビューより作成

CVD 調査は DOC 自らの発意、もしくは利害関係者(輸入の増加により損害を受けている国内企業もしくはその業界団体)により申請がなされる36。申請は補助金認定を担当するDOCと損害認定を担当する ITC両方に提出されなければならない。双方は申請書を受領してから調査開始に十分かどうかを検討37し、十分な場合は 20日以内に調査を開始する。

ITCは調査開始後 45日以内に仮決定を行う。ITCは損害認定を担当しているので、申請者は ITCに対して証明責任を有する。もし ITCが当該案件について損害なしとの判断を下せばその時点で調査は終了する。逆に、判断が肯定的であれば調査を続行する。一方、DOCは補助金認定を担当する。DOC は調査開始から数えて 65 日以内に補助金が供与されている、もしくは「疑うに足る合理的な基礎」があるか否かを決定する。(ITCが既に損害仮決定を行っていたとして)もし DOCの仮決定が肯定的であれば、最終決定に向けた調査が続 36 申請は以下の者により提出される。(米国 1930年関税法第 7編第 771(9)) (1) 同種製品の米国製造者、生産者または卸売者、 (2) 影響を受ける産業を代表する労働者組合、 (3) 同種製品を製造する業者の過半数、 (4) 個別の申立適格をもつ企業、組合または業界団体の連合体、 (5) 加工農産品の場合は加工者連合もしくは業界団体代表者、 (6) 小規模企業の場合は DOCが技術援助。 申立適格基準は以下の条件を満たす必要がある。(ASCM第 11条 4項、米国 1930年関税法第 7編第 702条(a)(4)(A)(i)及び(ii)) (1) 当該提訴を支持する国内生産者または労働者による生産が同種産品総生産の 25%以上であり、 (2) 当該提訴を支持する国内生産者または労働者による生産が、当該提訴への支持または反対のいずれかを表明している国内産業の一部が生産する同種産品総生産の 50%を超える。

37 米国 1930年関税法第 7編第 702条(c)(1)(A)により当該申請書の調査十分性及び上記した代表性が確保されなければならない。

0日目 20日目 約30日目 45日目 約60日目 85日目 約100日目 約130日目 160日目 205日目 212日目申請書提出 調査開始 相手国政府・企業 ITC暫定損害認定 質問状の回収 商務省暫定補助金認定 相手国政府・企業への確認 公聴会 商務省最終決定 ITC最終決定 相殺関税発動令公布へ質問状送付 損害なし 補助金なし 補助金なし 損害なし(回答期限30日) →調査中止 →調査中止 →発動中止 →発動中止損害あり 補助金あり 補助金あり 損害あり→引き続き調査 →輸入送金停止 →ボンド額の調整 →発動令準備→補助金額相当のボンド発効

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けられると同時に、推定準補助金額と等しい額のボンド等を発効することを調査対象企業(正確には輸入業者)は命ぜられる。

DOC は補助金の仮決定から 75 日以内に最終決定を行う必要がある。最終決定が否定的な場合には調査は終了、すべての適当なボンドは払い戻しされる。一方、最終決定が肯定的な場合には新たな関税率に基づくボンドの発行を命ずる。ITC は DOC の最終決定から45日以内に損害の最終認定を行う。

ITCの最終損害認定後 7日以内に DOC(この場合長官)は CVD賦課命令を発布する。賦課命令の発出後輸入業者は関税に相当する現金預託を行わなければならない。

((((2222))))機械的機械的機械的機械的なななな調査調査調査調査・・・・発動発動発動発動

米国の CVD制度運営の特徴として、DOCや ITCの裁量が非常に狭く、よって調査・発動・見直しのプロセスが非常に機械的(technical)であることが挙げられる。例えば ECのようにエンド・ユーザーや消費者の声を発動の有無に反映させることは皆無に等しい。DOCや ITCでは米国産業・企業から調査開始の申請書に十分な証拠が見つかれば、他の要因は考慮されず、極めて機械的に調査が進められる。これは「1974年通商法」で手続き面の法律が大幅に拡大されたことに起因している。

((((3333))))科学的手法科学的手法科学的手法科学的手法((((scientific methodscientific methodscientific methodscientific method))))のののの利用利用利用利用 過去の長い経験から、調査において米国当局は損害テストにおける“non-attribution”ルールの証明から補助金額の算定に至るまであらゆるところで計量経済学やその他の科学的手法(scientific method)を使う。質的(qualitative)や記述的(descriptive)論証が調査の多くを占める他の加盟国とは異なり、あくまで数値を中心に証明を行うのが米国流である。特に“non-attribution”といった複雑な計算を必要とする部分は経済学者に委託する場合が多い。

((((4444))))透明性透明性透明性透明性

米国の CVD制度の運営で最も特徴的な点は極めて高い透明性であろう。米国では調査過程において行政保護命令(Administrative Protective Order:APO)38が発効されたうえで、当局と弁護士等が機密情報全てを共有する。したがって、CVD調査申請書を当局に提出し 38 DOCは案件に関連した機密情報を関係者や弁護士に開示する代わりに守秘義務の約束を強いる。

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た企業は、APO を通じて弁護士等に機密情報を供与する。これは米国には国外の機密情報漏を罰する法令があるから可能となるが、それがない国にとって APOに類似した情報公開を導入することは難しい。 ((((5555))))司法審査司法審査司法審査司法審査 米国では、最終的な CVDの決定または審査に不服のある利害関係者は米国国際貿易裁判所(USCIT)に提訴することが可能である39。司法審査を求めるには、利害関係者は CVD賦課最終決定から 30日以内に申立てを行う必要がある。審査の基準は決定が「記録上の実質的証拠」によって支持されているか否か、また「その他の法律に従っていないか」である。USCIT の存在があるため、米国当局は CVD 最終決定に関しより一層裁量を失うことになる。

39 NAFTAによりカナダおよびメキシコ産品にかかる最終決定についてはCITではなくNAFTAパネルが審査を行う。同パネルは米国法や司法審査基準に準じて判断する。

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3333....米国米国米国米国のののの CVDCVDCVDCVD 環境環境環境環境

米国はその長い CVDの歴史から、他国と比較して CVDを発動しやすい条件が整っている。第一に、当局の救済措置を担当する豊富なスタッフの数と効率性の高い運営体制が挙げられる。第二に、ワシントンのみならず全米各地で企業支援、経済分析を担当する豊富な通商専門弁護士や経済学者である。第三に、企業を代弁する業界団体の組織力とその数、そしてこれら業界団体・企業と政府のパートナーシップが挙げられる。以下ではこれらについて具体的に紹介する。

((((1111))))DOCDOCDOCDOC のののの救済措置救済措置救済措置救済措置体制体制体制体制

米国では補助金認定は DOCの輸入管理課(Import Administration、以下 IA)が担当している。彼らの情報によると、貿易救済措置を担当しているスタッフだけでも専属弁護士を含めて約 300人に達する40。これは日本の貿易救済措置を担当している経済産業省特殊関税等調査室のスタッフ数と比較するとその違いが明らかである。2006年 2月 22日にWTO事務局に通知された米国の ADと CVD案件表によると、AD賦課中の案件が 270件、サンセット・レビュー後に継続している案件が 37件、現在調査中の案件が 231件、CVD賦課中の案件が 52 件、サンセット・レビュー後に継続されている案件が 35 件と非常に多くなっている。これなら DOCだけでも数百人のスタッフが従事していることは無理がないといえる。

IAの救済措置体制の利点は人数だけではない。1980年頃に IAは Subsidy Enforcementと呼ばれる各国の補助金データベースを構築し、その時に結成された補助金チームが過去の関連案件調査やWTO事務局への各国補助金通報、各国政府の情報協力、各国政府ウェブサイト、その他関連記事から他国の補助金制度に関する情報をデータベース化している41。これは各国の補助金について縦軸上は相殺可能補助金、相殺不可能補助金、そしてすでに廃止された補助金に分類、横軸には一般的な補助金リストと産業別補助金リストに分類されている。このデータベース内の補助金情報は毎年連邦議会に提出する年間補助金議会報告書(Subsidies Enforcement Annual Report to the Congress)のベースとなるだけでなく、省内や米国政府内で共有され、IA 以外の部署・省庁からの情報が収集可能である。また、ウェブ上でも掲載されるため、ビジネス界がこの情報を簡単に閲覧できる。

40 貿易救済措置に関わっている 300人のスタッフのうち、流動的ではあるが、現在 CVDに関わっているスタッフは調査およびレビューを含めて約 35人となっている。

41 ウェブでは http://ia.ita.doc.gov/esel/eselframes.htmlに掲載されている。

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この他、IA は貿易救済措置調査の効率化に向けて実践していることを以下のとおり挙げている。第一に、各国政府当局とのコーディネーションを効率的に行うこと。これにより正確かつタイムリーな情報を収集することが可能となる。この他、IA は毎年各国の米国大使館にWTOの通報、米国の懸念事項等のリマインドを欠かさず行うことにより、各国が問題意識を常に共有するよう努力している。第二に、救済措置調査にはきっちりとしたプランニングの重要性を重んじている。正しいリソースをいかに効率的に利用するかをしっかりとプランニングする。これにより、万が一調査延長が必要となっても、それをあらかじめ考慮に入れ、確実に期限を守って作業を進めることが可能となる。第三に、歴史で培った豊富な経験、テクニック、専門家を積み上げてきたため、現在ではかなりのノウハウや高いスタンダードが確立しているが、それをフルに活用して企業が CVD発動に向けて作業を進めるうえで、可能な限り積極的に参加するように努力している。

((((2222))))通商専門弁護士通商専門弁護士通商専門弁護士通商専門弁護士とととと経済学者経済学者経済学者経済学者

米国の貿易救済措置調査の効率性は DOCの体制だけではない。過去のこの分野の高い需要から通商一般・救済措置法を専門とする弁護士が豊富に存在する。弁護士検索サイトのFindLawによると、救済措置・反トラスト専門弁護士はワシントンDCだけでも250人(DC)にのぼる42。これらの弁護士は企業側弁護士だけでなく、米国政府と深い関係をもつ弁護士等で一大ネットワークを形成している。

また、前述のように米国の CVD 調査は高度な計量経済が多用される傾向が強い。特に“non-attribution”ルールでは WTO 上級委員会でも過去に計量分析による論証が望ましいとの判断がなされているように、高度な経済分析を利用することは案件に説得力をもたせる意味でも、さらにはWTOに提訴された時のためにも重要である。

米国には豊富な数の経済学教授や経済研究者が存在する。ワシントン DC だけでも国際経済研究所(IIE)、ブルッキング研究所、ヘリテージ財団といった経済研究所やジョージタウン大学、ジョンズホップキンズ大学、アメリカン大学といった大学機関があり、DOCはこれら研究機関の研究者に高度な経済分析を依頼している。

上述のように、米国では APO制度を利用して弁護士や経済学者は企業の機密情報を政府から得られるため、他の国よりも質の高い報告書の作成が可能である。

((((3333))))業界団体業界団体業界団体業界団体とととと官民官民官民官民パートナーシップパートナーシップパートナーシップパートナーシップ

42 詳細は www.findlaw.comを参照。

50

シェイファー・ウィスコンシン大学教授によると、ワシントン DC にはありとあらゆる問題を扱う業界団体が存在、全国レベルと地方レベルの団体を合計するとその数は実に87,000 以上と驚くべき数字となっている。これに加え、米国企業はアドホック・ベースにより外国の特定の貿易障壁に的を絞った団体を組織する。一般的に大企業や過去に経験豊富な企業以外では単独で DOCに調査申請を行うことは難しい場合が多い。そこで業界団体の存在が重要となってくるわけだが、業界団体は日頃から政府や政治家に対してロビー活動を行い、企業と政府とのパイプ役として機能している。

米国における業界団体・企業と政府のパートナーシップは長い歴史のなかから築かれてきた。政府は企業の代弁者として貿易救済措置や外交交渉を通じて海外にメッセージを発信する。一方業界団体・企業から政府はこれら措置に関する有益な情報を得る。お互いが利益を与え合うことにより、パートナーシップは強固なものとなる。「透明性」や「効率性」を前提としたシステムを基にして官民の太いパイプ形成がなされてきたのである。

その他、IA は小規模な企業・産業が同制度を活用したい際にはなるべく公平な立場で申請書作成の手伝いを行う。申請書の作成はそもそも企業側の責任であるが、IA は情報を提供したり、アドバイスを行うことで、正確かつタイムリーに申請書を提出できるような環境を築いている。

51

第第第第 4444 章章章章 ECECECECのののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とそのとそのとそのとその運用運用運用運用、、、、発動発動発動発動にににに向向向向けたけたけたけた環境環境環境環境

この章では、ECの CVD制度とその運用、そして発動に向けた環境について紹介する。米国の後を追うように CVDを多用してきた ECはどのような制度が存在するのか、ASCMとの関係はどうか、政府当局はどのような運用を行っているのか、また、政府当局と政治家やビジネスとの関係、さらに通商専門弁護士等に着目しながら総合的に CVDをとりまく環境を分析する。

1111....ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度

((((1111))))ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD制度制度制度制度のののの歴史歴史歴史歴史

欧州の国々は 19世紀後半くらいから二国間の通商条約により相手国の輸出補助金を牽制していた43。実際に輸出補助金に対する CVD を賦課しはじめたのは米国の 1890 年関税法から遅れて 20世紀初頭あたりからであった。1892年にベルギー、1906年にスペイン、1920年にフランス、1921年にはポルトガルといった国々が次々に CVD制度を導入していった44。

ECのCVD制度は1997年の「理事会規則第2026/97号(Council Regulation No. 2026/97)、以下 EC規則」で大幅に変更された。この規則は「欧州共同体加盟国外からの補助金付き輸入製品に対する保護(on protection against subsidized imports from countries not

members of the European Community)」を目的としている。この規則は 35条と 4つの附属書から構成されており、内容はほぼ ASCMに準じているといえる。

その後、1998年に補助金算定のガイドラインが発表されたほか、2004年に「理事会規則第 461/2004号」により最終的な発動に関する理事会の承認決定プロセスの一部修正45がなされた。

ASCM発効後から 2004年までの ECの CVD調査・発動件数の推移は図 12のとおりで 43 中川 淳司「経済規制の国際的調和(6)3 通商救済制度の国際的調和(2)補助金相殺関税」『貿易と関税』51(5)号、32-43ページ(2003) 44 実際、これら欧州の国々の CVD発動対象となったのは砂糖のみである。ヴァイナーによると、これは規定が相手国に抑止的な効果があったこと、輸入国当局が賦課に消極的であったことが原因。これは頻繁に CVD賦課を行っていた米国とは対照的。

45 「EC規則」では欧州理事会の最終発動は、加盟国の単純多数決(simple majority)により承認手続きを行っていたが、棄権(abstention)加盟国の票が考慮されるため、効率的ではなかった。「理事会規則第461/2004号」では棄権を表明した加盟国が除外されることになった。

52

ある。

ECは 1995年、96年と殆ど CVD調査を行っていなかったが、97年頃より本格的に開始した。2000年には 19件にのぼる調査を行った。発動のピークは調査のピークであった 2000年の翌年で 9件にのぼった。その後、2002年の調査案件 6件から徐々に減少しはじめ、2004年には再びゼロ件となった。2005年の 1月から 6月までに ECは 4件の調査を開始した。 図図図図 12. EC12. EC12. EC12. EC のののの CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査・・・・発動件数発動件数発動件数発動件数のののの推移推移推移推移((((1995199519951995年年年年~~~~2004200420042004年年年年))))

出典:WTO事務局資料より作成

((((2222))))ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD制度制度制度制度

ECは ASCMに基づき 1997年の「EC規則」でそれまでの CVD制度を大幅に変更した関係で、現在の制度は比較的 ASCM に準じているといえる。EC は長い歴史において米国の救済阻止の乱用に批判的な立場をとってきた46。EC は現在のドーハラウンドのルール交渉において「中間グループ」として、米国の救済措置の乱用に一定の歯止めをかける努力をしている。従って、以下では EC の CVD制度の特徴を ASCMからの乖離に加え、米国 46 「中間グループ」は「ADフレンズ」と米国の中間に位置し、ルール交渉では以下のような提案を行っている。

(1) ADや CVD調査が開始されると同時に輸出企業がWTOにすぐさま提訴できる、 (2) 損害と原因の証拠内容が未だにブラックボックスであることから、これに一定の規律を設ける、 (3) レサー・デューティーや“community interest”の義務化(米国やオーストラリア等多くの国はこの提案に対して強く反対、これは community interestにより他の加盟国に対して当該国の一般的福利(general welfare)を公開することになるため。

0 1 4 819

0 6 3 1 00 0 1 2 3 9 0 2 3 202468101214161820

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004年件数 調査件数発動件数

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の CVD制度と比較しながら説明する。

知知知知りえたりえたりえたりえた事実事実事実事実((((facts availablefacts availablefacts availablefacts available))))

米国が ASCM第 12 条 7項の「知りえた事実」を利用して質問事項を提供しない調査対象国・企業に対して罰を与える目的で発動に非常に有利となる情報を使うのに対し、EC当局によると、「EC 規則」第 28 条により、EC はそのような場合には様々な点を考慮してreasonableに対処、相手の企業を特別攻撃することはない考慮を行う。同規則第 28条は第6項で「利害関係者が協力しない、あるいは単に部分的に協力するにとどまる場合、-中略- 結果は協力が得られていた場合と比較して利害関係者に不利になる可能性がある、」とことわっておく一方、第 2 項から第 4 項では相手国・企業が提出する情報、伝達手段に対する対処法が記してある。例えば第 2 項では電子化された情報を提出しない場合、必ずしも非協力的とはみなさない、と規定している。 レレレレッサーッサーッサーッサー・・・・デューティーデューティーデューティーデューティー

ASCM第 19条 2項の「レッサー・デューティー」ルールにもかかわらず、米国の CVD制度では、国内企業に与える損害が補助金額以下で除去できる場合であっても補助金額をベースに CVD が計算される。一方、EC は「レッサー・デューティー」ルールを「EC 規則」第 15条 1項で義務化している。つまり、ECは ASCMで奨励されているとおり、比較的低い方を CVDの計算に使用する。

具体的な手順としては、まず当該補助金について検証し、相殺可能補助金にあたるか否かを検討する。つぎに、ECは補助金の利益マージンと損害マージンを算出し、最終的に低い率を使用する。損害マージンの基本的な考え方は、同規則にあるように損害を抑えるために必要十分な税率であることで、たいてい調査対象期間以前の利益を通常利益とする。そして、販売額、販売量、価格等に基づき、企業が通常利益を得るには税率を何パーセント引き上げればよいかを検討する。その結果、損害マージンが 20%で、補助金マージンが25%(単位あたり)であれば、損害マージンを CVD率に選ぶ。

共同体共同体共同体共同体のののの利害利害利害利害((((community interestcommunity interestcommunity interestcommunity interest))))

ECの CVD制度で最も特徴的なのは「共同体の利害(community interest)」の義務化である。「共同体の利益」は「EC 規則」第 31 条で規定されている。この制度は、CVD 発動決定に際し、輸入業者、輸入品ユーザー、消費者等に与える様々な影響を考慮する。業界団体や消費者団体といったグループの意見を聞き入れ、CVD発動による ECの利益を総合

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的な見地から判断するのである47。

「共同体の利害」の判断結果は、そのウエイトに応じて税率を変更するのではなく、当該案件を中止するか否かに用いられる。ECは現在ドーハラウンドのルール交渉においてこうした影響を幅広く分析して発動決定の考慮に入れるよう、ASCM 条文の修正を提案している。

損害認定損害認定損害認定損害認定 EC の CVD 制度と ASCMの異なる点として損害認定が挙げられる。「EC 規則」の損害認定は ASCMと比較して 2点違う点がある。一つ目の違いは、補助金付き輸入製品が域内の同種産業に及ぼす影響を検証する際に考慮すべき要因が「EC 規則」第 8 条5項ではASCM第 15条 4項には挙げられていない以下の 2つをリストアップしている。

(1) 域内産業が過去の補助金やダンピングの損害からの回復過程にある事実、 (2) 相殺可能補助金の量の程度。

これは、ECの損害認定が ASCMよりも厳しい規律であることを示している。

二つ目の違いは、ASCM第 15条 8項にある「損害を与える恐れ(threat of injury)」である48ASCMは「損害を与える恐れ」のある補助金付き輸入製品に対しては「特別の注意」をもって検討するとしている。一方、「EC規則」ではこの条項は設けられていない。ECは実践で「損害を与える恐れ」を基にした CVD発動は一切行っていない。

行政行政行政行政レビューレビューレビューレビューとととと将来的徴収将来的徴収将来的徴収将来的徴収 米国と同様に ECの CVD制度にも行政レビューがあり、そこで関税率の変更もしくは廃 47 ECの「共同体の利害」検証に考慮される団体は具体的には以下の通り。 (1) 当該案件申し立てて中の産業 (2) 他の生産者 (3) ユーザー (4) 消費者 (5) 輸入企業 (6) 貿易従事者、その他 ECの他、カナダや韓国も「共同体の利害」の考えを発動決定要因に加えている。 48 ASCM第 15条 8項は「補助金の交付を受けた産品の輸入が損害を与えるおそれがある事案に関しては、相殺措置の適用は、特別の注意をもって検討し及び決定する。」と規定している。

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止が決定される。米国と ECの行政レビュー(ECでは「中間レビュー(interim review)」と呼ばれる)の決定的な違いは、米国が変更に伴い遡及的(retroactive)暫定関税の徴収を行うのに対し、ECはレビュー後の関税しか変更しない。したがって、企業にとっては米国よりは確実性が高いことになる。

ただし、EC が補助金を受け取っていないと判断した企業(例えば韓国 DRAMのケースではサムスン社にあたる)に対して発動当時は税率を引き上げなかったとしても、後々の中間レビューで補助金が見つかった場合、追加的にその企業に対して CVDを課すことがある。一方、米国は、発動時に補助金がないと判断した企業に対しては、再度調査を行うことはない。 サンセットサンセットサンセットサンセット・・・・レビューレビューレビューレビュー ECは基本的に発動から 5年経てば自動的に課税を廃止する。この点は厳格なスタンダードにより殆どの案件を延長する米国とは異なる。実際に ECがとる方法は、WTO加盟国の間ではマジョリティーである。

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2222....ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD 制度運用制度運用制度運用制度運用のののの特徴特徴特徴特徴

((((1111))))CVDCVDCVDCVD調査調査調査調査・・・・発動発動発動発動のののの流流流流れれれれ

ECの CVD発動に至るまでの一般的な手続きの流れは図 13のとおりである。

図図図図 13131313....ECECECECのののの相殺関税申請相殺関税申請相殺関税申請相殺関税申請からからからから発動発動発動発動までのまでのまでのまでの流流流流れれれれ

出典:ホワイト&ケース法律事務所ブリュッセル事務所のインタビューより作成

ECの調査は、認定担当部署が分かれている米国と異なり補助金認定と損害認定両方ともに EC 貿易総局が担当する。EC 貿易総局は ASCM に準じて申請書の検証、調査、利害関係者への質問、必要に応じて暫定措置、そして最終的に CVDを発動する。ECの調査期間は暫定的決定までは最大で約 9ヶ月、最終決定までは原則 1年、最大で約 13ヵ月を要する。これは米国の調査期間よりも長い49。

具体的には、まず 0日目に企業(殆どの場合業界団体を通じて)が申請書を EC当局(貿易総局)へ提出する。申請書提出後すぐに EC当局は申請審査を行うための調査を開始する。EC調査当局は企業に対して申請書のガイドライン等を渡すなど、申請書作成を容易化するための支援を行っている。ガイドラインには好例などが詳細に記してあり、企業にとって申請書を作成しやすい内容となっている。また、ECは企業が申請書を提出する前に内容確認を行うなど、コンサルタントサービスを提供している。これは米国においても同じである。

申請書が提出された日から 45日以内に ECは調査を開始する。調査は米国のような APOがないため、低い透明性を特徴としている。これは、調査において EC当局に広い裁量を与えることを意味している。また、ブリュッセル在住の通商専門弁護士によると、EC当局は米国政府と比べて相殺関税申請後の質問状の量が少ない。米国の質問状は膨大な質問で構成されており、返答する側はだいたい 4週間くらいかかるところ、ECのそれは 3日間で完成できる。

49 ASCM第 11条 11項によれば、調査については、「特別の場合を除くほか、その開始の後 1年以内に完結させなければならず、かつ、いかなる場合においても、その開始の後 18ヵ月を超えてはならない。」

0日目 45日目 60日目 85日目 103日目 315日目 435日目申請書提出 調査開始 利害関係国・企業が 利害関係国・企業、輸入企業 相手国政府・企業 暫定措置発動 相殺関税発動利害関係国・企業に ECへ確認 の質問状回収 の質問状回収 最終期限日 最終期限日通達 損害、“Community Interest”提出期限申請書検討 公聴会開催申請期限 情報・データの分析 欧州委員会承認

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上述のとおり、ECは調査をすすめながら「共同体の利害(community interest)」を検討する。「共同体の利害」において損害を受けている域内企業以外のプレイヤー、例えば輸入製品のユーザーや消費者団体などは、調査開始後 40日を期限として自分らの要望を提出する。

調査開始から約 9 ヵ月以内に暫定的措置を発動するか否かが検討される。ここでのポイントは、米国は必ずといっていいほど暫定的な関税を課すが、ECの場合はそうとは限らないことである。

ECがCVD発動を決定した後は欧州理事会(EU Council)による承認を仰ぐことになる。EC が提案したプロポーザル対して、EU 加盟国 25 カ国の代表で構成された欧州理事会により当該案件の承認が行われる。EC当局によると、過去の例では相殺関税が理事会に承認されなかったケースはゼロであり、これまでは理事会の強いサポートを得ているといえる(ADは過去に 2、3件承認されなかったケースがある)。欧州理事会は調査内容の質を重視する傾向が強く、質が高ければ発動承認を出すし、低ければ出さない。ECは欧州理事会の前に担当理事と非公式の場で議論を続け、承認されそうかどうかをうかがう。理事会は調査の方法に対して何も意見しない。

欧州理事会による承認は単純多数決(simple majority)で決定される。

((((2222))))透明性透明性透明性透明性

全般的に ECの調査における透明性は、米国と比較して低いといわざるを得ない。EC当局は情報を共有しないため、関係者にとって大きなベールに包まれていることが多い。一方、これは EC当局に広い裁量を与えているということになる。これは米国のような「行政保護命令(APO)」が存在しないからであろう。APO は企業やその他に関する機密情報を企業担当弁護士や経済学者らと共有する制度であるが、ECの場合、弁護士は機密ではない公開情報しか与えられず、機密情報は発動決定権をもつ ECだけが握っている。

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3333....ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD 環境環境環境環境

ECの CVD制度をとりまく環境は米国ほど充実・組織化されているわけではないが、90年代後半に集中的に行われた救済措置活用のためのビジネス界へのいわゆる WTO 促進運動が功を奏してか、結果として救済措置件数の増加に伴って体制も強化されてきた。 ((((1111))))ECECECEC のののの CVDCVDCVDCVD体制体制体制体制

EC当局によると、貿易総局の貿易救済措置は 7、8名の専門家と約 150名にのぼるスタッフという体制で運営されている。規模としては米国の約半分に満たないが、過去の救済措置案件数を考慮すれば妥当な数字だといえる。さらに、EU本部が位置するブリュッセルにはワシントンと同様に豊富な通商専門弁護士が在住している。 補助金付き輸入製品により損害を被ったと信じる企業は業界団体のサポートを求めるが、EU では欧州鉄鋼産業連盟(European Confederation of Iron and Steel Industries、EUROFER)や欧州肥料製造業者協会(European Fertilizer Manufacturers Association、EFMA)といった高い組織力を誇る業界が非常に多い。これらの協会は政府との強いパイプ、影響力を有しており、頻繁に AD委員会や欧州理事会へロビー活動を行っている。 このように、総じていえば ECはかなり充実した体制が整っているといえる。

((((2222))))政治的政治的政治的政治的なななな影響影響影響影響

極めて機械的に進む米国の CVD調査と異なり、ECはその制度上の理由から調査のプロセスで政治的なインセンティブが働く要素が強い50。その第一の要因として上述した「共同体の利害」が挙げられる。この制度は域内企業が補助金付き輸入製品から被る損害と他のプレイヤーの発動による被害をバランスさせて総合的に判断する意味では賞賛に値するものであろうが、これらのプレイヤーがロビー活動や欧州理事会との強いパイプを活かして政治的に活動することは純粋な意味でのバランスを失いやすい結果となってしまう。第二の要因としては欧州理事会の承認による貿易救済措置の最終決定方法である。EC当局は通商法その他に関するその豊富な経験や知識により、欧州理事会への説明・説得を通じてかなりの程度のコントロールが可能であるといわれている。また、欧州理事会の承認判断基準は調査の質に限られている。しかし、ある EU 加盟国にとって損害となっても、他の加盟国にとっては利益となる案件は存在するのは間違いなく、そのギャップが大きければ大 50 このことは何も米国の救済措置に政治的影響がないことを意味しているわけではないことに注意。ここでいう政治的影響とは、CVD調査の結果が政治的なパワーにより影響されるか否かに限定されている。

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きいほど欧州理事会の決定の政治色は濃くなる。

((((3333))))官民官民官民官民パートナーシップパートナーシップパートナーシップパートナーシップのののの形成形成形成形成

米国のように長い歴史はないものの、ECは官民のパートナーシップ形成のために尽力してきた。シェイファー教授によると、EUでは ECの通商政策には必ず欧州理事会の承認がいることや、域内企業が未だ圧倒的に加盟国内に軸足を置いたままであることから、ECと欧州企業には高い壁があった。

こうした理由から、1995年くらいまで ECの通商政策は比較的受身の対応を迫られていた。また、WTOの各ラウンド交渉においても EU加盟国間のポジションの違いから米国に主導権を握られるケースが圧倒的に多かった。この結果、WTO設立直後に米国がすばやくWTOルールに適応したのに対して、ECは完全に出遅れたかたちとなってしまった。

1996年に ECは「市場アクセス戦略」を発表、海外の貿易障壁を特定して外国政府に対して圧力をかけはじめた。一方で ECは貿易救済措置の利用を活発に行うため、「市場アクセスユニット」を結成し、外国の貿易障壁に関する情報を活用して企業に貿易救済措置の活用を広めた。同ユニットはこの広報活動に精を出した。

ECのこうした努力は欧州企業の支持をとりつける結果となった。欧州企業は今まで以上に ECを信頼し、積極的に通商法を利用したり、WTO提訴を申請するようになった。こうした流れは好循環を生み出し、ECの機能の拡大も呼ぶことになった。

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第第第第 5555 章章章章 日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度

日本は明らかに貿易救済措置途上国である。日本にとっては 2006年 1月に韓国ハイニックス社の DRAM製品に対して撃った CVDが記念すべき第 1号であった51。過去に積極的に CVD制度を活用してきた欧米とは非常に対照的である。なぜここまで実績に差が生じたのであろうか。

この章では欧米の制度やそれを取り巻く環境と日本のそれを比較し、なぜ日本はこれまで貿易救済措置に関する通商法の利用にここまで消極的であったかを中心に検討する。最初に日本の CVD制度と調査の運用について簡単に触れた後、それをとりまく環境について紹介する。

1111....日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD 制度制度制度制度とととと運用運用運用運用のののの特徴特徴特徴特徴

日本の CVD制度の法的根拠は「関税定率法第 7条」の規則および「相殺関税に関する政令」と「相殺関税・不当廉売関税ガイドライン」の細則から成り立っている。「関税定率法」は 1910 年に発効され、その後多くの改正を重ねてきた。1994 年に「相殺関税に関する政令」が施行され、その 10年後の 2004年に施行された「相殺関税・不当廉売ガイドライン」と共に「関税定率法」の円滑的な運営を可能にする。

日本の CVD制度とその運用慣行は、全体的に見ればどちらかといえば米国よりは ASCMに準じている ECの CVD制度寄りであるといえる。具体的には以下の点が ECの制度に類似している。

第一に、「知ることができた事実(facts available)」である。日本は「相殺関税・不当廉売関税ガイドライン」第 11条のなかで利害関係国・企業が質問状に回答しない場合や正当な理由なく調査を著しく遅延させている場合等に限り「知ることができた事実」を使って最終的な決定ができるが、その際に当局が従うべき条件が列挙されている。例えば、日本当局は利害関係国・企業から回答の延長要請がなされた時は、可能な限り延長を認めたり、質問状への回答が不備または不明な場合は更なる情報提供を求めたりと、利害関係国・企業に「知ることができた事実」の使用を避ける機会を多く設けている。

第二に ECのようにレビュー時の関税変更を伴う遡及的な徴収がない点が挙げられる。米 51 CVD発動は今回が初めてであるが、過去に日本は2件の調査の実施もしくは申請書を受け取っている。1回目は 1983年にパキスタン産綿糸に対する調査、2回目は翌年 1984年にブラジル産フェロシリコンに対する調査要望書の申請、しかしこの申請は取り下げられている。

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国が行政レビューの結果として、CVDの変更を決めた際に暫定的関税に遡及して徴収を行うシステムではなく、CVDの変更を決めれば単にレビュー以降の関税のみ変更を加える。

第三に「サンセット・レビュー」である。日本の「サンセット・レビュー」は「関税定率法」第 27 条で規定されている。CVD の賦課期間は最大で 5 年間とされており、原則 5年が経過した時点で CVDは廃止される。上述したとおり、この反対が米国の「サンセット・レビュー」である。米国は「サンセット・レビュー」に厳しい判断基準を設定しており、実質ほとんどの案件が延長される結果となっている。

一方、日本は「レッサー・デューティー」や「共同体の利害」といった点ではむしろ米国の制度に類似している。「レッサー・デューティー」では、日本は米国のように補助金額をベースに CVD を割り出し、損害を除去するに最低限な関税については一切考慮しない。また、ECの CVD制度の特徴である「共同体の利害」について日本は米国と同様に考慮しない。

図 14は日本の CVD申請要望から発動までの期間を表している。

図図図図 14141414....日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD申請申請申請申請からからからから発動発動発動発動までのまでのまでのまでの流流流流れれれれ

出典:経済産業省ウェブサイトから作成(http://www.meti.go.jp/policy/boekikanri/pages/trade-remedy_hp/ad/ad_flow.pdf)

これまでの調査実績が 1件のみのため、日本政府が図 14で示した調査期間を遵守しているかは判断できないが、今年 1月の韓国ハイニックス社の DRAM製品に対する CVD発動までのプロセスは表 2に示したとおり、2005年 8月に調査の延長がなされたが、調査期間は最大で 18ヵ月可能であり、図 14の制度に準じて調査が進められたと評価できる。

表表表表 2222....韓国韓国韓国韓国ハイニックスハイニックスハイニックスハイニックス社社社社 DRAMDRAMDRAMDRAM 製品輸入製品輸入製品輸入製品輸入にににに対対対対するするするする相殺関税調査相殺関税調査相殺関税調査相殺関税調査のののの流流流流れれれれ 年月日年月日年月日年月日 内容内容内容内容

2004年 6月 16日 申請者による相殺関税賦課申請 8月 4日 財務省・経済産業省が共同で調査開始 9月~12月 利害関係者への質問状送付・回答書提出

0日目 60日目以内 調査開始から1年以内 延長18ヶ月申請書提出 調査開始 仮決定 暫定措置 最終決定 最終決定中止か継続の判断利害関係者への質問状送付・回答書提出回答の分析・検証 6ヶ月間 4ヶ月以内 6ヶ月以内

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2005年 1月~2月 質問状回答の分析・検証等 2月末~4月はじめ 韓国内および国内現地調査(対韓国政府、利害関係者) 8月 2日 調査期限延長(18年 2月 3日まで) 10月 21日 重要事実を利害関係者に開示 11月 14日 韓国政府との二国間協議(1回目) 11月 21日 利害関係者からの重要事実に対する反論の提出期限 11月 28日 利害関係者からの反論に対する再反論の提出期限 12月 1日 韓国政府との二国間協議(2回目)

17年 12月~18年 1月 反論・再反論の分析・検証

18年 1月 20日 相殺関税賦課の最終決定 出典:経済産業省資料

2222....日本日本日本日本のののの CVDCVDCVDCVD 環境環境環境環境

CVDのみならず、日本の貿易救済措置を取り巻く環境は政府・企業両方で欧米と比較して遅れている。この貿易救済措置環境の整備の遅れには様々な要因があろうが、主要な原因は歴史的、物理的、さらには官民間にある壁に分類される。以下ではこれらについて簡単に触れる。

((((1111))))歴史的歴史的歴史的歴史的なななな原因原因原因原因

歴史的な観点では、戦後の日本は先進国の欧米諸国に「追いつけ追い越せ」の姿勢で技術革新を軸に対欧米輸出を拡大してきたことで、日本製品の質が向上するたびに欧米企業は日本製品に対してアレルギーをもつようになり、貿易救済措置の対象になりやすかった。欧米の AD 措置といった貿易救済措置やその他の保護的な通商法の餌食であった日本企業にとって、貿易救済措置にはネガティブな反応が多く、日本政府にとってもラウンド交渉ではむしろ欧米による乱用を抑える方に努力が向いてしまい、それを「利用する」方向には進まなかったことであろう。これにより、政府・企業ともに貿易救済措置の活用については非常に消極的になってしまったことが歴史的な原因の一つであろう。

((((2222))))物理的物理的物理的物理的なななな原因原因原因原因

物理的な観点では、こうした歴史的理由を原因として、貿易救済措置にかかわる人的資源を充実できなかったことであろう。欧米政府には数百にのぼるスタッフが日頃救済措置に関わっているのに対し、日本は案件がほとんどないために担当省である経済産業省や財務省のスタッフはそれぞれ十数名という状況である。今回の DRAM案件にこれらスタッフ

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をフルにつぎ込んだとすれば、とても一度に数件の調査を取り扱える体制ではない。また、日本には通商法を専門とした弁護士の数が欧米と比較して極端に少ない。今後貿易救済措置を要望する企業が代弁者である弁護士を利用しようとしても、その受け皿がないために米国や EU 在住の弁護士に頼らなければならないかもしれない。これは高いコストだけでなく、言語の壁から企業がなかなか積極的になれない原因となるかもしれない。

((((3333))))官民間官民間官民間官民間のののの壁壁壁壁::::官民官民官民官民パートナーシップパートナーシップパートナーシップパートナーシップのののの欠如欠如欠如欠如

日本は過去の消極性から、企業は貿易救済措置発動の要望を政府に対して示すことはないだけでなく、この存在すら日頃の業務の中で意識することがあまりない。これまでの企業の意見を聞いていると、企業の政府に対する信頼はあまり高いものとはいえないのも確かである。「敷居が高い」とか「政府は動いてくれない」との意見が企業からしばしば聞かれる。今回の韓国ハイニックス社の DRAM製品に対する CVD発動が一つの大きな契機となってくれればよいが、政府と企業の貿易救済措置に対する考えのギャップを埋めるにはある程度の時間を要するであろう。 官民パートナーシップを築いていくためには政府と企業の両方が相互に努力していく必要がある。日本政府はシェイファー教授のいう 1990年代後半に ECが勝ち得た「市場アクセス戦略」を通じた企業の信頼をモデルに、外国政府の貿易障壁をネタに救済措置の企業への普及活動を行うと同時に、企業との情報交換の場を積極的に設けていく必要がある。一方の日本企業は世界の経済構造変化の流れから今後中国や韓国を含む東アジアからの輸入攻勢は一層拡大していくという現実を十分に認識した上で、政府に対して貿易救済措置を撃てる環境の整備を促し、また協力していくことが大事ではないか。

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第第第第 6666 章章章章 まとめまとめまとめまとめ

第 3 章から第 5 章までは米国、EU、日本それぞれの CVD 制度、その運用方法や慣行、そして CVDを取り巻く政府や企業の環境等を見てきた。これらの国はそれぞれこれまでに法令の修正を重ねてきた結果、現在ではおおむね ASCMに合致している制度を有しているといえる。ただし、詳細な法律、ガイドライン、慣行等は互いに異なる内容となっており、さらに CVDを取り巻く環境は全く違う面を有している。 本章では、米国、EU、日本で異なる CVD 制度とその運営、そして相殺関税を取り巻く環境について比較する。そして、最後にこれらの比較をもとに貿易救済措置途上国である日本の今後のあり方を提言として簡単に触れて本調査報告書の結びとする。

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1111....CVDCVDCVDCVD 比較検証比較検証比較検証比較検証

((((1111))))CVDCVDCVDCVD制度制度制度制度とととと運営比較運営比較運営比較運営比較 表 3は米国、EU、日本の CVD制度の主な違いを示したものである。

表表表表 3333....米国米国米国米国、、、、EUEUEUEU、、、、日本日本日本日本のののの相殺関税制度相殺関税制度相殺関税制度相殺関税制度のののの比較表比較表比較表比較表

出典:WTO、DOC、EC貿易総局、経済産業省とのヒヤリング、資料から作成

表 3で示したとおり、米国、EC、日本の制度面での最大の相違点は「知ることができた事実」の解釈、「レッサー・デューティー」の取り扱い方、「行政レビュー(ECと日本は中

ASCMASCMASCMASCM 条文条文条文条文 米国米国米国米国 ECECECEC 日本日本日本日本ASCM12.7条「知ることができた事実」 利害関係を有する加盟国又は者が妥当な期間内に必要な情報の入手を許さず若しくはこれを提供しない場合又は調査を著しく妨げる場合には、知ることができた事実に基づいて仮の又は最終的な決定を行うことができる。

当局の情報提示の要求にも関わらず調査対象国・企業が提出しないのは不利な情報を隠しているため、との考えに基づき、発動に有利な二次的情報・データを使用する。 公平な手続きに基づき二次的情報・データを採用する。 公平な手続きに基づき二次的情報・データを採用する。(EC寄り)ASCM19.2条「レッサー・デューティー」 相殺関税の賦課は、すべての加盟国の領域において裁量行為であることが望ましく、また、補助金の額よりも少ない額の相殺関税の賦課が国内産業に対する損害を除去するために十分である場合には、相殺関税の額は、その少ない額であることが望ましい。

考慮に入れない。最終的な相殺関税額は調査対象国が企業に提供している補助金額をベースに計算。 損害がなかった時の利益/損害を被っている時の利益の差と補助金額を比較、低い方の額を基に最終的な相殺関税額を計算。 調査対象国の補助金額をベースに計算。(米国寄り)ASCM21.2条「行政レビュー」 当局は、相殺関税の賦課を継続することの必要性につき、正当な理由がある場合には、-中略-見直しを行う。 レビュー時の関税率変更に準じて暫定相殺関税まで遡って変更率の分を徴収る。これにより、対象企業にとっては不確実性が生じる。 レビューで関税率が変更されれば、その後の関税額に変更が行われるのみ。暫定相殺関税まで遡って徴収することはない。 レビューで関税率が変更されれば、その後の関税額に変更が行われるのみ。暫定相殺関税まで遡って徴収することはない。(EC寄り)ASCM21.3条「サンセット・レビュー」

いかなる確定的な相殺関税も、その賦課の日、21.2の規定に基づく最新の見直しの日(ただし、当該見直しが補助金及び損害の双方を対象としていた場合に限る。)又はこの21.3の規定に基づく最新の見直しの日から五年以内に撤廃する。ただし、当局が、ー中略ー相殺関税の撤廃が補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性があると決定する場合は、この限りでない。補助金及び損害の存続又は再発をもたらす可能性(Likely)の確率は高いと見なすため、結果的にほとんどの案件が延長される。 相殺関税は基本的には5年で終了。 相殺関税は基本的には5年で終了。(EC寄り)

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間レビュー)」と「サンセット・レビュー」における変更に伴う徴収方法と延長判断の基準である。この他、米国や日本では ECの「共同体の利害(community interest)」のような制度がない。これは CVDを総合的に評価する上で重要な判断基準であるが、この制度を欠く米国や日本ではどうしても損害を被っているとする企業のみに有利性が働いてしまうことになる。 具体的には、まず、米国は利害関係者が情報を提出しない、あるいは調査を意図的に遅延させるような行為に対しては、「罰」として相殺関税発動に有利となる情報を「知ることができた事実」として使う傾向があるが、ECと日本はそれぞれの制度で「知ることができた事実」の取り扱いに対して条件をつけており、結果的に利害関係者にとって比較的公正な手続き内容となっている。

つぎに「レッサー・デューティー」に関し、米国や日本は CVD額の算定に際して補助金額のみを求めるのに対し、ECは補助金額に加えて「損害を除去するに十分な額」を計算して額の低い方を CVD額に採用する。ASCMではこの「レサー・デューティー」は義務ではなく奨励のみにとどまっているが、ECはこの考えを取り入れており、米国や日本の制度よりは ASCMに準じているといえる。

米国の「行政レビュー」は関税額の変更によって遡及的な暫定関税の徴収を行うため、相手国・企業にとっては不確実性が高い制度であるが、ECや日本は遡及的な追及は行わないため、CVD の変更はレビュー後に限定されている。WTO 加盟国の多くは EC や日本と同様の制度を採用しており、米国の「行政レビュー」はむしろ独特なものである。これは、DOCがレビューに「正確性(precision)」を念頭に置いているのに対し、ECや日本は「確実性(certainty)」を重視しているところから差が生まれている。

次に重要な相違点は「サンセット・レビュー」にある。米国は「サンセット・レビュー」において CVDの廃止が国内企業への損害を与える「可能性(likeliness)」の判断基準を厳しくしている。つまり、実際の米国の「サンセット・レビュー」ではほとんどの案件が「クロ」であり、よって延長される結果となっている。一方、ECや日本の制度では全ての CVD賦課期間は基本的に 5 年を最長としているため、ほとんどの案件が 5 年を最後に廃止される。

最後に、「共同体の利益」の有無が大きな相違点である。ECは CVDの最終決定前には必ずこの制度に基づく判断を行い、損害を被っている企業だけでなく他のユーザー産業や消費者等の利益とバランスさせ総合的な見地から共同体にとっての損益を模索する。一方、米国や日本は損害を被っている企業の損益のみを重視するため、CVDを発動する結果とし

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て他の産業が被るであろう損害は無視される。

((((2222))))CVDCVDCVDCVDをををを取取取取りりりり巻巻巻巻くくくく環境環境環境環境のののの比較比較比較比較

欧米と日本では CVDを取り巻く環境に決定的な違いが存在する。これは多くの点で貿易救済措置先進国である欧米と途上国である日本を分けるものである。CVDをスムーズに運営するには制度だけでは不十分なのは明白であり、今後日本が貿易救済措置を積極的に利用する意志があるのであれば、欧米の環境の良い点を積極的に取り入れる必要がある。以下では欧米と日本の環境を比較する。

第一に欧米と日本では人的資源に圧倒的な差がある。すでに述べたとおり、DOCでは救済措置に関わっているスタッフは専門家を含めて約 300人にのぼる。また、ワシントン DC在住だけでも 250人以上の通商専門弁護士やその他多くの国際経済学者がいる。EC貿易総局は DOCほどではないが、約 150人にのぼる救済措置スタッフを抱えている。ブリュッセルには多くの通商専門弁護士が住んでおり、企業や政府の CVD手続きや運営をサポートしている。一方、日本の CVD運営に関わる人的資源は残念ながら少ない。経済産業省と財務省それぞれに十数名の調査スタッフを抱えるだけであり、東京在住の通商専門弁護士は数える程度である。これではとてもではないが数件の案件を同時並行で調査する環境ではない。

第二に欧米と日本では企業の貿易救済措置に関する知識・意識が異なる。欧米では、高い関心をもつ企業はロビー活動を通じて政府や政治家に積極的に働きかける。特に米国では貿易救済措置の活用を経営戦略の一つに位置づけている企業も存在するという。また、欧米では業界団体がよく組織されており、これらの業界団体は、企業に対して情報提供や企業を代表して積極的に政府に対して貿易救済措置を働きかけるというシステムが効率的に運営されている。欧米企業と比較すると日本の企業は貿易救済措置の知識・意識が低い。これは日本企業が過去に欧米による貿易救済措置の格好の獲物であったことが大きく、一部企業では「撃たれる側」としての意識はあっても「撃つ側」の意識はほとんどないのが現実である。

最後に欧米と日本では官民のつながりに圧倒的な差がある。米国は豊富な経験から、ECは 90年代後半の政府の努力により官民パートナーシップを構築してきた。両国において企業は問題があればWTOルールを最大限に活用しようと政府に働きかける。そこには官民間の一定の信頼が確立されており、情報の共有といった相互協力までもが見られる。これとは対照的に日本では未だに政府と企業の間に大きな壁が存在する。CVDを含む救済措置は企業からの申請を前提としているため、日本の官民間にある壁は貿易救済措置発動のスム

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ーズな運営にとって大きな壁である。

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2222....今後今後今後今後についてについてについてについて

今後一層アジア諸国の安価な製品が日本に押し寄せてくると予想される。自由貿易の見地からいって輸入の拡大自体はなんら問題ではない。国際経済理論によれば貿易の自由化に伴い各国が有利性をもつ産業に特化するのは国民の効用(utility)の増加につながり、高い厚生(welfare)をもたらすことから、その国が有利性を持たない製品についてはむしろ輸入が奨励されるべきである。

しかし、外国の政府が、不当な補助金を企業に供与することで日本への輸入を増加させることによって日本企業の損害を招いているとすればそれは問題である。上述のとおり補助金の経済的正当性は説得力がない場合が多く、また淘汰されるべき弱体企業を政府が補助金により延命させることは自由経済の理念に反していることから、補助金付き製品の他国への輸出が国内企業へ損害を及ぼしているのであれば修正を行うべきである。CVD等の措置を講ずることにより、不当な貿易を正していくことは自由貿易を提唱するWTO加盟国としての責務でもあるかもしれない。

過去に日本に対してそうした外国による不公正貿易が行われていた事実を証明できるわけではないが、損害を受けていた企業が単に見過ごしていただけかもしれない。それは、その企業が自助努力により問題解決を行っただけかもしれないし、WTO加盟国として利用可能な権利自体を知らなかったかもしれない。どちらの場合にしても、日本はWTOルールをあまり活用しているとはいえない。自助努力による問題解決は、外国政府・企業の不公正貿易を見逃す結果となりうるし、本来利用できるWTOルールに関する企業の意識が低いことは、機会費用の損失かもしれない。

今回の韓国ハイニックス社の DRAM製品に対する日本政府のとった行動は、日本企業にとってこれまで消極的にみえた政府の貿易救済措置適用が実際に発動された第一歩である。世界的に貿易自由化が進みこれまで以上に公正なルールに基づく自由貿易の重要性が叫ばれるなか、主要貿易国としての日本が不公正貿易や他国政府による不当な自国企業救済措置の乱用防止に動いたという対外的な牽制の意味でも、いわば日本企業にとって「ウェイクアップ・コール」になりえることから、非常に画期的であった。 しかし、上述のとおり現在の日本には貿易救済措置を積極的に利用していく基盤が十分に整備されているとはいいがたい。この遅れた状況はなにも政府だけの課題ではない。WTOルールを活用してこなかった企業の課題でもある。歴史的な原因、物理的な原因、そして官民間の壁という 3 つの障壁は政府だけの責任で生まれてきたものではない。過去の日本の経済情勢、産業政策、企業経営戦略を含む多数の要因が混ざり合って現在の状況を創り

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出してきたのである。

今後は政府と企業それぞれがこれまで以上にWTOルールを意識し、最大限に活用する状況に導いていく必要がある。そのためには双方自らの役割を意識するのだけではなく、相互に協力しあえる環境を整備していくことが重要であると考える。政府は貿易救済措置のスタッフを増やすだけではなく、通商専門家の育成や企業への情報提供や促進活動に努力する。一方で企業は海外における企業活動を展開するなかで、WTOルールを意識しながら常に外国の不公正貿易に対して常にアンテナを高くして、政府に伝えていくといった体制作りが重要である。

そのためには政府と企業の間に信頼関係を築くことが前提となる。上述のとおり ECと域内企業の関係も薄い時期があった。それが 5 年も経たないうちに政府は企業の信頼を勝ち得た。日本も米国や ECに習い政府と企業のパートナーシップを築き上げることが世界との競争に勝ち抜く一つの絶対条件ではないかと考える。

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III. III. III. III. 補足補足補足補足::::中国中国中国中国・・・・韓国韓国韓国韓国・・・・インドインドインドインドのののの産業政策産業政策産業政策産業政策・・・・補助金制度補助金制度補助金制度補助金制度

ここでは中国、韓国、インドの産業政策・補助金制度を参考資料として取りあげる。中国は、米国、EC、日本等主要国により市場経済国として認められていない。従って過去に同国が CVDの標的となったケースは少ないが、将来的に市場経済国と認定されれば集中的な発動を受ける可能性がある。韓国は米国、EC、日本の DRAM事件で注目を集めたため、同国の他の補助金制度についても取りあげてみた。インドの補助金はこれまでのところ主要国の最大の標的である。特に同国の輸入にかかる課徴金・間接税の払戻制度に対する米国や ECの補助金認定の件数は少なくない。

本報告書で触れたように、米国では商務省輸入管理課が「補助金データベース」を構築、議会や企業とのデータの共有に努めてきた。EC貿易総局は「市場アクセス戦略」という各国の不公正貿易に関するデータ・情報を収集、企業に対して普及活動を行った。下にあげた中国、韓国、インドの補助金制度に関する情報が役に立つかは分からないが、日本製データベース構築の第一歩となれば幸いである。

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第三部 補論

第1章 中国の補助金制度

1.中国の補助金体系

中国では他の多くの国と同様に、完全な補助金体系が確立されているわけではなく、大部分の補助金は、もともとある分野の問題を解決するために導入されたものである。そのため、これらの補助金制度をまとめて体系化して総括するには難しい面がある。特に、輸出に対して直接的に補助する制度は少なく、他の政策措置が間接的に補助金の効果をもたらしているというものがほとんどである。 表 1 に主要な補助金制度をまとめているが、直接的な輸出促進政策は、機械・電気製品と輸出ブランド商品の輸出支援に限定されているとの声もある。その他の国有企業への補助金、外商投資企業への優遇政策、特定産業への支援政策、科学研究と技術開発の奨励政策などはいずれも輸出の間接的な補助金制度とみなしうる。

表1 中国の主要な補助金制度 政策 対象 背景または目的 今後の見通し

直接的な輸出促進政策

機械・電気製品輸出企業、輸出ブランド企業

①機械・電気製品が中国の輸出総額の 50%以上を占め、中国の貿易において重要な位置づけにある。中国政府が優遇政策で機械・電気製品の輸出を奨励し、中国の輸出貿易の安定的成長を図っている。 ②輸出向けブランドを育成し、中国の自主的ブランドの国際競争力を高める。

近年、中国の急速な輸出増加が貿易黒字を大幅に拡大させ、同時に貿易摩擦をもたらしている。それは中国の対外貿易政策に大きな影響を及ぼしている。そのため、中国は単に輸出の規模を増大させる政策措置を徐々に減らし、輸出構造や輸出製品の技術内容を重視するようになっている。このような背景下で、機械・電気製品輸出企業の技術向上を奨励することや、輸出ブランドを育成することは今後しばらくの間、中国の重要な輸出促進政策として継続するとみられる。

国有企業への補助金

赤字国有企業

①90 年代半ば頃以降、歴史的な原因や市場環境の変化により、多くの国有企業が経営不振に陥り、その深刻な赤字体質が顕在化した。このような背景の下、国有企業改革が一層加速した。しかし自力で株式化や再編などの改革を行うのが困難な国有企業に対しては、政府がリストラされた従業員を支援し、補助金を出国有企業改革の進展や国有企業の経営改善により、国有企業が賄っていた公共的機能も順次切り離され、赤字国有企業の数も大幅に減少した。また、2006年以降国有企業の「下崗」(レイオフ者)制度が完全に失業制度に統合され、社会保障制度に組み入れられるにつれて、政府の赤字国有企業への補助金は徐々に減少する傾向にある。とはいえ、国有資産委員会の計画では、

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している。 ②一部の国有企業は経営状態が悪いものの、公共的機能や雇用機会創出において重要な役割を果たしているため、政府はこれらの国有企業に対し補助金を支給し、その正常な運営を維持させようとしている。

国有企業改革は 2015 年~2020 年の間にようやく完了する見込みであり、それまでは、赤字国有企業への補助金は依然として存続するであろう。

外商投資企業に対する優遇政策

外商投資企業

①外商投資を誘致し、中国の経済成長を促進する。 ②外資導入に伴い先進的技術を導入する。

企業所得税の優遇は、従来から中国の外商投資企業への主要な優遇政策措置である。その中で最も注目されているのは、2006 年8月に財政部から全国人民代表大会常務委員会に提出される予定の『企業所得税法草案』で、中国国内企業と外資企業の所得税が統合されるか否かという点である。外商投資企業の所得税優遇が続くか否かについては、2006 年にその方針が固まるとみられる。

特定産業に対する支援政策

主にソフトウ ェ ア とIC 産業の企業

①ソフトウェアと IC産業は国家安全保障などに係わる重要なハイテク産業とされているため、中国政府は国産ソフトウェアと IC産業への支援を通じて、米国など先進国に対する依存度を低めたい。 ②交通、水利等のインフラ整備への投資期間は長いため、政府が優遇措置によって資金をこれらの分野へ導かせたい。

ソフトウェアと IC産業の重要な位置づけに鑑み、中国政府は今後相当な長期にわたり、支援を継続するであろう。 交通、水利等のインフラ整備は中国経済の長期的発展のための基盤であるため、優遇政策も長期的に継続するとみられる。

科学研究と技術開発に対する奨励政策

研究開発機関、ハイテク企業、技術向上を実施する企業など

中国の科学技術水準はまだ低く、具体的にはコア技術の自給自足率が低いこと、自主的開発能力が弱いこと、企業がコア競争力に欠けていること、産業技術の重要分野で対外技術依存度が高いこと、多くの高技術製品と高付加価値製品が輸入に頼っていることなどに現れている。中国政府が奨励政策をもって、研究開発機関と企業の科学研究、技術開発を促進し、中国の科学技術水準を高めようとしている。

今後かなり長期にわたり、中国の研究開発機関と企業の科学研究・技術開発・自主開発能力の向上、中国の対外技術依頼度の低減が中国政府の重点課題となっていくであろう。最近は「自主創新」戦略(自主的開発・自主的ブランドの創出戦略)も打出している。これらの分野に投じる予算も増加し続けるであろう。とりわけ、財政部が発表した 2006年予算では、中央財政の科学技術支出は716億元と、2005年より 115億元も増加した。

2.中国の補助金給付方法

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中国の補助金の給付方法には、主として、直接現金給付、優遇貸出または利子補給、税金減免の3つの方式がある。

表2 補助金の給付方法 補助金の給付方法 対象補助金の内容 直接現金給付 赤字国有企業への補助金、輸出ブランド企業への補助金、研究開発機関と一部企業に給付する潜在力発掘・改造資金と科学技術三項目費用など。 優遇貸出および利子補給 政策性銀行による貸出、中央政府対外貿易発展ファンドによる機械・電気製品輸出企業など貿易企業への貸出利子補給など。 税金減免 大多数の補助金は、税金の減免措置の方式をとっている。

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3.中国の主要な補助金一覧

中国の主要な補助金を以下の通り一覧表の形で示した。

(1) (1)赤字国有企業への補助金(中央予算) ① 補助金の名称 赤字国有企業への補助金(中央予算) ② 適用期間 1949年~現在。中国が逐次に撤廃と約束 ③ 政策の目標または補助金の目的 赤字国有企業の構造調整を促進するとともに、合理化の促進や安定的生産の維持などによって雇用を確保(社会保障制度の不備への補足とする) ④ 補助金の実施主管機関 財政部 ⑤ 補助金付与の法的根拠 中央予算サポート ⑥ 補助金の形態 給付と税金免除 ⑦ 補助金給付対象 生産した製品の価格が固定化、または資源開発コスト上昇によって赤字が深刻化した国有企業 ⑧ 産業別年度補助金額(億元) 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 工業企業 - 36.89 25.02 34.76 21.69 23.75 外国貿易企業 - 6.83 6.88 5.62 5.09 5.50 農林、水産、気象企業 - 2.86 3.77 2.24 2.04 2.04 その他の企業 - 2.05 2.61 2.97 3.52 4.66 合 計 51.65 48.63 38.28 45.59 32.34 35.95

(2) (2)赤字国有企業への補助金(地方予算) ① 補助金の名称 赤字国有企業への補助金(地方予算) ② 適用期間 1949年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 赤字国有企業の再編を促進するとともに、合理化の促進や安定的生産の維持などによって雇用を確保(社会保障制度の不備への補足とする) ④ 補助金の実施主管機関 財政部と地方政府 ⑤ 補助金付与の法的根拠 地方予算サポート ⑥ 補助金の形態 給付と税免除 ⑦ 補助金給付対象 生産した製品の価格が固定化、または資源開発コスト上昇によって赤字が深刻化した国有企業

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⑧ 地域別年度補助金額(億元) 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 北京市 570,789 541,807 532,229 516,958 510,546 506,057 天津市 65,000 50,000 40,000 30,000 30,000 25,000 河北省 40,991 38,442 35,354 20,581 15,560 12,545 山西省 54,277 31,298 48,418 21,335 17,987 18,313 内モンゴル自治区 13,696 6,800 14,436 3,463 6,149 3,990 遼寧省 112,000 96,570 47,195 35,166 33,307 28,718 吉林省 54,899 63,860 62,176 60,074 62,948 53,227 黑龍江省 35,538 29,919 24,646 22,525 21,795 20,653 上海市 448,451 372,325 362,320 355,213 361,866 275,106 江蘇省 91,507 75,362 75,366 73,069 73,058 132,037 浙江省 355,434 547,970 766,221 590,513 472,124 462,042 安徽省 36,145 26,703 68,275 21,486 22,920 21,107 福建省 5,260 3,553 4,260 3,088 2,944 2,472 江西省 3,336 2,645 2,286 636 2,192 2,025 山東省 58,284 63,177 88,303 64,039 48,894 43,871 河南省 21,099 20,593 114,599 22,443 17,060 13,681 湖北省 72,435 50,036 47,861 41,138 42,408 26,059 湖南省 54,176 49,152 59,121 54,789 39,804 35,596 広東省 98,797 59,686 52,048 56,199 28,582 22,599 広西チワン自治区 12,937 9,420 17,988 16,055 15,372 9,772 海南省 4,131 5,136 3,129 0 0 0 重慶市 27,264 31,376 27,670 26,344 23,319 21,114 四川省 29,363 25,379 27,937 27,809 27,401 25,899 貴州省 11,609 6,302 5,242 5,533 5,369 3,825 雲南省 31,299 27,211 28,677 19,829 23,597 17,891 チベット自治区 10,076 10,156 9,703 8,522 9,186 9,123 陜西省 36,104 26,890 21,169 24,531 13,006 14,531 甘粛省 11,540 13,259 11,942 12,964 12,904 12,192 青海省 784 374 121 40 40 41 寧夏回族自治区 2,153 967 557 241 11 0 新疆ウイグル自治区 14,442 15,096 18,345 5,515 84 265 合 計 2,383,816 2,301,464 2,617,594 2,140,098 1,940,433 1,819,751

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(3) (3)経済特区の優遇政策(除く上海浦東地区) ① 補助金の名称 深セン市、珠海市、汕頭市、厦門市、海南経済特区の外商投資企業への所得税優遇政策 ② 適用期間 1984年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 地域発展の促進、外国投資の誘致 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 1991年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所得税法』。 1991年以降、『外商投資企業と外国企業の所得税法』(1991年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』(1991年公布)。 ⑥ 補助金の形態 優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除 ⑦ 補助金給付対象

a. 経済特区で設立された外商投資企業、および経済特区で生産と経営活動を行う外国企業は、15%の優遇企業所得税率を適用。

b. 経済特区都市の旧市街で設立された外商投資生産型企業は、24%の優遇企業所得税率を適用。さらに、労働集約型、知識集約型のプロジェクト、外商投資 3,000万ドル以上で、投資回収時間が長いプロジェクトおよびエネルギー、交通、港湾プロジェクトは、企業所得税率は 15%まで減免することが可能。

c. 外商投資が 500万ドル以上、経営期間が 10年以上のサービス企業は、利益が出た後、最初の1年間は企業所得税免除、その後の 2~3年目は企業所得税を半分免除。

d. 海南経済特区で設立された空港や港、埠頭、鉄道、道路、発電所、炭鉱、水利などインフラ整備を行う外商投資企業、および農業開発経営に従事する外商投資企業は、経営期間が 15年以上の場合、利益が出た後、最初の 5年間は企業所得税を免除、6~10年目は企業所得税を半分免除。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特になし)

(4) (4)上海浦東経済特区の優遇政策 ① 補助金の名称 上海浦東経済特区外商投資企業に対する所得税優遇政策 ② 適用期間 1991年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 地域発展の促進、外国投資の誘致 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関

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⑤ 補助金付与の法的根拠 1991年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所得税法』 1991年以降、『外商投資企業と外国企業の所得税法』(1991年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』(1991年公布) ⑥ 補助金の形態 優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除 ⑦ 補助金給付対象

a. 上海浦東経済特区で設立された外商投資生産型企業及び区内でインフラ整備に従事する外商投資企業は、15%の優遇企業所得税率に適用。

b.上海浦東経済特区で設立され、飛行場や港、鉄道、発電所などエネルギー・輸送整備に従事し、経営期間が 15年以上の外商投資企業に対しては、利益が出た後、最初の 5年間は企業所得税を免除、6~10年目は半分免除。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(5) (5)経済技術開発区の優遇政策 ① 補助金の名称 大連、秦皇島、天津、煙台、青島、連雲港、南通、寧波、福州、広州、湛江、上海(閔行、虹橋、曹河涇)、北海、瀋陽、温州、ハルピン、長春、杭州、武漢、重慶、蕪湖、蕭山、惠州、南沙、昆山、栄橋、威海、営口、東山の経済技術開発区の外商投資企業に対する所得税優遇政策 ② 適用期間 1984年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 地域の対外発展の促進、外国投資の誘致 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 1991年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所得税法』 1991年以降、『外商投資企業と外国企業の所得税法』(1991年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』(1991年公布) ⑥ 補助金の形態 優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除 ⑦ 補助金給付対象

a. 経済技術開発区で設立された外商生産型企業は、15%の優遇企業所得税率を適用。

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b. 経済技術開発区都市の旧市街で設立された外商投資生産型企業は、24%の優遇企業所得税率を適用。さらに、労働集約型、知識集約型のプロジェクト、外商投資が 3,000万ドル以上で投資の回収時間が長いプロジェクト、エネルギー、交通、港湾プロジェクトに対して、企業所得税率は 15%まで減免することが可能。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(6) (6)外商投資企業に対する優遇政策 ① 補助金の名称 中国における外商投資企業の所得税優遇政策 ② 適用期間 1985年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 地域発展の促進、外国投資の誘致 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 1991年まで、『中外合弁企業所得税法』と『外国企業所得税法』 1991年以降、『外商投資企業と外国企業の所得税法』(1991年公布)と『外商投資企業と外国企業の所得税法実施細則』(1991年公布) ⑥ 補助金の形態 優遇企業所得税率に適用、企業所得税の免除 ⑦ 補助金給付対象

a. 経営期間が 10年以上の外資生産型企業に対しては、利益が出た後、最初の 2年間は企業所得税を免除、3~5年目は半分免除。

b. 港湾と埠頭の建設に従事する中外合弁企業は、15%の優遇企業所得税率を適用。このうち、経営期間が 15年以上の企業に対しては、省・自治区・直轄市の税務機関の許可を得て、利益が出た後、最初の 5年間は企業所得税を免除、6~10年目は半分免除。

c. 外資の先進技術企業に対しては、税法に基づき企業所得税が減免される期間が満了後、依然として先進技術企業である場合、さらに 3年間法定税率の半分免除が延長可能。

d. 農業、林業、牧業に従事する外商投資企業、および経済が遅れているへき地に設立した外商投資企業に対しては、減免期間が満了後、国務院税務主管機関の許可を得て、その後の 10年間は引き続き 15~30%の優遇企業所得税を適用。

e. 外国投資が奨励される業種とプロジェクトに対しては、省・自治区・直轄市政府が実際の状況に応じて、企業所得税の地方部分の減免を決定することが可能。

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f.外商投資企業の外国投資者に対しては、企業の利益を同一企業へ再投資し、または資本金としてその他の外商投資企業へ再投資し、経営期間が 5年以上の場合、税務機関の許可を得れば、再投資部分にかかる既納付企業所得税の 40%の還付が可能。このうち、外商投資者が中国国内で製品輸出企業と先進技術企業の設立や拡大に再投資した場合、または外商投資者が海南経済特区の企業から取得した利益を海南経済特区内のインフラ整備と農業開発企業へ再投資した場合、再投資部分にかかる既納付企業所得税を全額還付することも可能。

g. 外資の輸出企業に対しては、税法に基づいた企業所得税の減免期間が満了後でも、輸出額が同年の企業収入の 70%以上を占めた場合、税法の税率より半分免除することが可能。

h. 中国国内で機関、拠点を設置していない外国企業は、中国国内で取得した利益、利息、賃料、特許権使用費とその他の所得は 20%の優遇所得税率を適用。機関と場所を設置したが、機関、場所と係わりを持たない利益、利息、貸賃、特許権使用費とその他の所得も 20%の優遇所得税率を適用。科学研究、エネルギー開発、交通事業発展、農林牧業生産および重要技術開発に専門技術を提供して得た特許権使用費は、国務院税務主管部門の許可を得れば、10%の企業所得税率を適用。うち技術が先進でまたは条件が優れている場合、所得税の免除は可能。また、外国投資者が中国で投資した企業から得た利益は所得税免除。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(7) (7)輸出税金還付(減免) ① 補助金の名称 輸出税金還付(減免) ② 適用期間 1985年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 輸出企業の税負担を軽減 ④ 補助金の実施主管機関 税務主管機関と税関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 国家予算サポート、『増値税暫定条例』(国務院 1996年公布)、『消費税暫定条例』(国務院 1993年公布)、『輸出貨物税金還付(減免)管理方法』(国家税務総局 1994年公布) ⑥ 補助金の形態 税金の還付、または減免 ⑦ 補助金給付対象 a.輸出製品の加工、組立と製造のために輸入した原材料、部品と包装材料に対しては、輸入関税を免除。関税を徴収した場合は、輸出の最終製品の量に応じて既納付関税を還付。

b. 一部の輸出製品に対しては、既納付増値税を一部または全額還付。 ⑧ 還付金の年度額(億元) 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年

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年度額 828 555 436 627 1,050 1,080 2002年 2003年 2004年 年度額 1,150 1,989 3,484

(8) (8)国家政策性銀行貸出 ① 補助金の名称 国家政策性銀行貸出 ② 適用期間 1991年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 投資構造の調整、対外貿易、農業・農村の発展を促進 ④ 補助金の実施主管機関 国家開発銀行、輸出入銀行、農業発展銀行 ⑤ 補助金付与の法的根拠 (特に無し) ⑥ 補助金の形態 貸出 ⑦ 補助金給付対象 a. 国家開発銀行は、主として中西部地区のエネルギー、輸送、電信、水利、資源開発などのインフラ整備、および一部企業の技術向上をサポート。

b. 輸出入銀行は、主として機械・電気製品やプラント、ハイテク製品の輸出、対外請負工事と海外投資などのプロジェクトをサポート。

c. 農業発展銀行は、主として農業副産物の買付けと備蓄、林業開発と水利開発をサポート。 ⑧ 政策性銀行別の貸出規模(億元) 期間 貸出供与額 国家開発銀行 1994年~2004年 累計 16,000億元の貸出を供与。うち 2004年は4,532億元。 輸出入銀行 1994年~2004年

累計 3,252億元のサプライヤーズ・クレジットを供与。うち 2004年は 729億元。(全貸出データは公開されていない) 農業発展銀行 1994年~2004年

年間平均貸出供与額は 2,000億元程度。うち2004年の食糧、綿花、油の買付貸出は 1,617億元。

(9) (9)企業潜在力発掘・改造資金、科学技術3項目費用 ① 補助金の名称 企業潜在力の発掘・向上資金、科学技術の 3項目の費用(新製品試作費、中間試験費、重大技術開発プロジェクト補助金) ② 適用期間 1991年~現在

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③ 政策の目標または補助金の目的 科学研究と技術開発の奨励、科学技術の農村部での応用普及 ④ 補助金の実施主管機関 財政部 ⑤ 補助金付与の法的根拠 国家予算支援 ⑥ 補助金の形態 給付と貸出 ⑦ 補助金給付対象 科学研究機構と一部の企業 ⑧ 年度給付額(億元) 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 年度給付額 766 865 992 968 1,093 1,244

(10) (10)ハイテク企業に対する優遇所得税待遇 ① 補助金の名称 ハイテク企業に対する優遇所得税待遇 ② 適用期間 1994年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 ハイテク産業の促進 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『企業所得税暫定条例』(国務院 1993年公布)、『企業所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局2004年公布) ⑥ 補助金の形態 所得税の減免 ⑦ 補助金給付対象 国務院に認可されたハイテク開発区のハイテク企業は、15%の企業所得税を適用。このうち、新規のハイテク企業に対しては、生産年度より 3年間は企業所得税を免除。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(11) (11)廃棄物利用企業に対する優遇所得税待遇 ① 補助金の名称 廃棄物利用企業に対する優遇所得税待遇 ② 適用期間 1994年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 資源リサイクルの奨励 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『企業所得税暫定条例』(国務院 1993年公布)、『企業所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局2004年公布) ⑥ 補助金の形態 所得税の減免

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⑦ 補助金給付対象 a. 企業が設計された製品以外に、その生産過程において生じた、『資源総合利用リスト』に明記されている資源を主要原料として生産して得た収入に対しては、生産年度より 5年間は企業所得税を免除。

b. 企業が他社の大量のボタ、石炭灰、粉灰を主要原料として生産した建築材料の製品から得た収入は、生産年度より 5年間は企業所得税を免除。

c. 他社が廃棄した、『資源総合利用リスト』に明記されている資源を処理・利用するために新設した企業は、主管税務機関の許可を得て、企業所得税を 1年間減免可能。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(12) (12)貧困地域企業に対する優遇所得税待遇 ① 補助金の名称 貧困地域企業に対する優遇所得税待遇 ② 適用期間 1994年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 貧困地域の発展の促進 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『企業所得税暫定条例』(国務院 1993年公布)、『企業所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局2004年公布) ⑥ 補助金の形態 所得税の減免 ⑦ 補助金給付対象 政府に認可された旧革命根拠地、少数民族地区、へき地、貧困地域などでの新設企業は、主管税務機関の許可を得て、企業所得税を 3年間減免可能。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(13) (13)技術移転企業に対する優遇所得税待遇 ① 補助金の名称 技術移転企業に対する優遇所得税待遇 ② 適用期間 1994年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 技術移転の奨励 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関

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⑤ 補助金付与の法的根拠 『企業所得税暫定条例』(国務院 1993年公布)、『企業所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局 2004年公布) ⑥ 補助金の形態 所得税の減免 ⑦ 補助金給付対象 技術移転及びそれに関わる技術コンサルティング、技術サービス、技術研修などより得た収入が年間 30万元以下の部分は、企業所得税を免除。30万元以上の部分に対してのみ、企業所得税を徴収。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(14) (14)被災企業に対する優遇所得税待遇 ① 補助金の名称 被災企業に対する優遇所得税待遇 ② 適用期間 1994年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 被災企業への損失を補助 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『企業所得税暫定条例』(国務院 1993年公布)、『企業所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局 2004年公布) ⑥ 補助金の形態 所得税の減免 ⑦ 補助金給付対象 台風、洪水、火災、地震などの深刻な自然災害に遭った企業は、主管税務機関の許可を得て、企業所得税を 1年間減免可能。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(15) (15)失業者への雇用機会提供企業に対する優遇所得税待遇 ① 補助金の名称 失業者への雇用機会を提供する企業に対する優遇所得税待遇 ② 適用期間 1994年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 雇用機会の創出 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関

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⑤ 補助金付与の法的根拠 『企業所得税暫定条例』(国務院 1993年公布)、『企業所得税の若干優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局 2004年公布) ⑥ 補助金の形態 所得税の減免 ⑦ 補助金給付対象 同年の失業者採用者数が従業員総数の 60%以上を占める企業に対しては、主管税務機関の許可を得て、企業所得税を 3年間免除可能。失業者採用割合の計算式:同年失業者採用割合=同年失業者採用数/(元従業員総数+同年失業者採用数)×100% 3年間の免税期が満了する年に、新規採用の失業者数が元従業員総数の 30%以上を占める企業に対しては、主管税務機関の許可を得て、その後の 2年は企業所得税を半額に減税可能。同年失業者採用割合の計算公式:同年失業者採用割合=同年失業者採用数/元従業員総数×100% ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(16) (16)輸入技術、設備にかかる関税と輸入増値税の減免 ① 補助金の名称 輸入技術、設備にかかる関税と輸入増値税の減免 ② 適用期間 1998年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 外資の導入、国内企業技術革新の奨励、加工貿易の促進 ④ 補助金の実施主管機関 税務主管機関と税関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『輸入設備への税収政策の調整に関する通知』(国務院1997年公布) ⑥ 補助金の形態 関税と輸入増値税の減免 ⑦ 補助金給付対象

a. 『外商投資産業指導目録』の奨励類に当たる外商投資プロジェクトで投資総額の枠内で輸入した自家用設備に対しては、『外商投資プロジェクトの非免税輸入商品目録』に明記されている商品を除いて、関税と輸入増値税を免除。

b. 外国政府ローンと国際金融機関ローンによるプロジェクトで輸入した自家用設備及び加工貿易において外商が提供した価格のない輸入設備に対して、『外商投資プロジェクトの非免税輸入商品目録』に明記されている商品を除き、関税と輸入増値税を免除。

c. 『当面の国家重点奨励対象の産業、製品と技術目録』に当たる国内投資プロジェクトで投資総額の枠内で輸入した自家用設備に対しては、『国内投資プロジェクト非免税輸入商品目録』に明記されている商品を除き、関税と輸入増値税を免除。

d. 上記の規定に合うプロジェクトで、契約どおりに設備と共に輸入した技術、部品とスペアに対して、関税と輸入増値税を免除。

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e. 既設の、奨励類に当たる外資企業、外資 R&Dセンター、ハイテク企業と輸出型外資企業は、認可された経営範囲内で中国で生産できないか、あるいは性能が要件を満たせない自家用設備と関連技術、部品、スペアを技術向上のため輸入する場合、輸入関税と輸入増値税が免除される。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(17) (17)機械・電気製品輸出企業に対する優遇待遇 ① 補助金の名称 機械・電気製品輸出企業に対する優遇待遇 ② 適用期間 1999年~現在(一部の政策は 2001年より実施) ③ 政策の目標または補助金の目的 機械電気製品輸出を促進 ④ 補助金の実施主管機関 商務部、財政部、国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『機械・電気製品輸出をより一層支持・奨励する意見に関する通知』(旧対外経済合作貿易部 1999年公布)、『「十五」期間中における機械・電気製品輸出の更なる促進に関する意見』(旧対外経済合作貿易部、国家発展改革委員会、旧国家経済貿易委員会、財政部、情報産業部、人民銀行、税関総署、国家税務総局、国家質量監督検験検疫総局 2001年公布) ⑥ 補助金の形態 貸出利子補給、R&D資金への補助、企業所得税の減額 ⑦ 補助金給付対象 a. 1999年より、機械・電気製品輸出企業の技術向上に用いられる貸出に対しては、財政部、商務部の許可を得て利子補給を実施。(「中央外貿発展基金」から支出される。)

b.2001年より、一部の機械・電気製品輸出企業の R&D資金に対し補助を与える。(「中央外貿発展基金」から支出される。)

c. 2001年より、機械・電気製品輸出企業に対しては、その研究開発費の年間伸び率が 10%以上となる場合は、研究開発費が管理費として計上でき、かつ研究開発費の 50%に当たる額が課税所得額から控除可能。 ⑧ 利子補給額と R&D資金補助額 1999年~2000年 2001年~2005年 技術向上のための貸出利子補給 6,000万元 3億元

R&D資金への補助 - 1億元

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(18) (18)ソフトウェア産業と IC産業に対する税金優遇待遇 ① 補助金の名称 ソフトウェア産業と IC産業に対する税金優遇待遇 ② 適用期間 2000年~現在(一部は 2002年より実施) ③ 政策の目標または補助金の目的 ソフトウェア産業と IC産業の促進 ④ 補助金の実施主管機関 国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『ソフトウェア産業と IC産業の発展を奨励する税収政策の問題に関する通知』(財政部、国務院、国家税務総局

2000年公布)、『ソフトウェア産業と IC産業の発展をより一層奨励する税収政策に関する通知』(財政部、国家税務総局 2002年公布)、『IC増値税還付政策の廃止に関する通知』(財政部、国家税務総局 2004年公布) ⑥ 補助金の形態 税金の減免と還付 ⑦ 補助金給付対象 a. 2000年 6月 24日より 2010年末まで、自主的に開発・生産したソフトウェア製品を販売する一般納税者に対しては、17%の法定税率で増値税を徴収し、3%を超えた部分について徴収後即時還付する。還付金は企業のソフトウェア製品の開発及び生産拡大に用いられる場合、企業所得税の課税対象として扱われず、企業所得税が免除される。

b. 国内の新設ソフトウェア生産企業に対しては、利益が出た後、最初の 2年間は企業所得税を免除、3~5年目は企業所得税を半額に減税。

c. 免税優遇が実施されなかった国家計画内の重点ソフトウェア生産企業に対しては、その年は10%の税率で企業所得税を徴収。

d. 2000年 6月 24日から 2004年 3月末までに、自主的に生産した IC製品(単結晶シリコンチップを含む)を販売する増値税一般納税者に対しては、17%の法定税率で増値税を徴収し、6%(2002年より 3%に減少)を超えた部分について徴収後即時還付する。還付金は企業の IC製品の開発及び生産拡大に用いられる場合、企業所得税の課税対象として扱われず、企業所得税が免除される。

e. 2002年より、線幅 0.8ミクロン以下(0.8ミクロンを含む)の IC製品を生産する企業に対しては、利益が出た後、最初の 2年間は企業所得税を免除、3~5年目は企業所得税を半額に減税。 f. 2002年 1月 1日より 2010年末までに、IC製品生産企業の投資者が、税引き後利益を同一企業に投資し、またはこの利益を資本金としてその他の IC製品生産企業を設立し、経営期間が 5年以上の場合、再投資部分にかかる既納付所得税の 40%が還付される。

g. 2002年 1月 1日より 2010年末までに、国内外の企業が、中国国内で税引き後利益を資本金として、西部地域の IC製品生産企業またはソフトウェア製品生産企業を設立し、経営期間が 5年以上の場合、再投資部分にかかる既納付所得税の 80%が還付される。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額

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(特に無し)

(19) (19)西部地域企業の税金優遇措置 ① 補助金の名称 西部地域企業の税金優遇措置 ② 適用期間 2001年~2010年 ③ 政策の目標または補助金の目的 西部地域の発展の促進 ④ 補助金の実施主管機関 商務部、財政部、国家税務総局と地方税務主管機関 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『西部大開発税金優遇政策に関する通知』(財政部、国家税務総局、税関総署 2001年公布) ⑥ 補助金の形態 所得税の減免 ⑦ 補助金給付対象 a. 西部地域で設立され、主要業務が『外商投資産業指導目録』奨励類に当たる外商投資企業、及び西部地域で設立され、主要業務が『国家重点奨励産業、製品と技術目録』に当たる中国地場企業は、2001~2010年の間、15%の企業所得税率を適用(売上高が収入総額に占める比率は 70%以上が条件)。

b.西部地域で新設立された交通や電力、水利、郵政、テレビ・放送などに従事する企業に対しては、業務収入が企業総収入の 70%以上を占めた場合、以下の企業所得税優遇政策を適用。即ち、中国地場企業が設立年度から、最初の 2年間は企業所得税免除、3~5年目は半分免除。外商投資企業で経営期間が 10年以上の場合、利益が出た後、最初の 2年間は企業所得税を免除、3~5年目は半分免除。 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(20) (20)重点育成の輸出ブランドに対する優遇政策 ① 補助金の名称 重点育成の輸出ブランドに対する優遇政策 ② 適用期間 2005年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 輸出ブランド企業の成長を促進 ④ 補助金の実施主管機関 商務部、財政部、国家税務総局 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『輸出ブランドのサポートに関する指導意見』(商務部、発展改革委員会、財政部、科技部、税関総署、税務総局、工商総局、質量監督検験検疫総局 2005年公布)

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⑥ 補助金の形態 利息補給、R&D資金、直接資金給付などを優先的に提供(その他の具体的措置も後に順次公布) ⑦ 補助金給付対象 a. 商務部が定めた『重点育成の輸出ブランド』名簿にある企業は、技術革新向上プロジェクトの利子補給、輸出製品の R&D資金及び直接資金給付などを優先的提供するといった優遇政策に適用。

b. 各省市が定めた『重点育成の輸出ブランド』名簿にある企業に対しては、直接資金サポートなどの優遇政策を適用 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 (特に無し)

(21) (21)中小企業の輸出拡大をサポートする優遇政策 ① 補助金の名称 中小企業の輸出拡大をサポートする優遇政策 ② 適用期間 2001年~現在 ③ 政策の目標または補助金の目的 中小企業特に輸出向けハイテク製品の中小企業の輸出拡大をサポート ④ 補助金の実施主管機関 商務部、財政部等 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『対外貿易輸出拡大をより一層奨励するための関連政策措置』(商務部、発展改革委員会、財政部、人民銀行、税関総署、税務総局、品質検査監督総局 2001年公布) ⑥ 補助金の形態 貸出利子補給 ⑦ 補助金給付対象 中小企業特に輸出向けハイテク製品の中小企業 ⑧ 単位別補助金額もしくは補助金総額や年度予算額 2001年に、中央対外貿易発展基金の中で 5億元の特別項目を設け、その後毎年中央対外貿易発展基金の 10%で増額していく。

(22) (22)中央対外貿易発展基金による貸付利子補給 ① 補助金の名称 中央対外貿易発展基金による貸付利子補給(上記の機械・電気製品輸出と中小企業輸出を促進する特別項目基金が含まれる) ② 適用期間 1996年~現在

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③ 政策の目標または補助金の目的 輸出の拡大 ④ 補助金の実施主管機関 商務部、財政部等 ⑤ 補助金付与の法的根拠 『中央対外貿易発展基金の整備に関する問題への回答』(国務院 1996年公布)、『中央対外貿易基金有償使用管理弁法(試行)』(旧対外経済合作貿易部 1996年公布) ⑥ 補助金の形態 貸出利子補給 ⑦ 補助金給付対象 輸出企業 ⑧ 補助金総額 中央外貿発展基金の運用状況は極めて不透明で、ほとんど実態は公開されていない。2004年末までに累計 295億元が使われたという程度のことしか判明していない。

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第2章 韓国の補助金制度

1.韓国の補助金体系 本章では、韓国について、まず補助金の体系を示し、次に韓国の主要産業から鉄鋼産業と電力産業を例に挙げて、それらの補助金制度と米国等の対応について過去の経緯を整理し、最後に補助金関連で外国企業が直面した韓国の貿易・投資の問題点についてあげた。 (1)韓国の産業別補助金概要 韓国の補助金はWTO補助金協定に基づき給付されており、産業別の概要は以下の通りである。

産業産業産業産業 補助金名称補助金名称補助金名称補助金名称 ①農業 1)糧穀管理事業 2)果物・花卉販売促進事業 3)畜産業支援 ②山林業 1)合板およびボード類施設支援 2)林産物利用

③水産業 1)遠洋漁業開発支援 2)水産物加工・開発支援 3)漁業支援 4)養殖漁業開発支援 5)旧式漁業船および装備の代替支援 6)漁船隻数の調整支援 ④石炭産業 エネルギー・資源特別会計のうち石炭産業支援事業 ⑤製造業 1)外国人投資企業に対する支援 2)航空機製造用部品関税減免 3)農業機械製造支援

⑥環境・研究開発 1)環境改善融資事業 2)環境技術開発事業の研究開発支援 3)軽油自動車のための排出ガス低減装置の取り付けおよび低公害エンジン改造に関する事業 4)天然ガス使用供給事業 5)リサイクル施設と技術開発のための支援 6)情報通信振興研究開発支援

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産業産業産業産業 補助金名称補助金名称補助金名称補助金名称 7)科学技術振興基金 ⑦その他 外国航路就航用船舶と遠洋船舶の製造と取得に関する地方税低減 (2)韓国の産業別補助金詳細 上記(1)の概要につき、補助金毎の詳細は以下の通りとなっている。 なお、表中の「変更前」は、2001年と 2002年の韓国政府の補助金に関する 2004年5月3日付の WTO 通報、「変更後」は、2003 年と 2004 年の韓国政府の補助金に関する 2006年1月 18日付WTO通報である。 ①農業 1111))))糧穀管理事業糧穀管理事業糧穀管理事業糧穀管理事業 項目 変更前 変更後 補助金名称 糧穀管理事業 変更なし 適用期間 政府買入制度は UR 交渉以前から存続し、WTOに譲歩した AMS範囲内で買入制度継続存続計画

【追加】

2005年とその後生産された米に対しては政府買入制度が適用されない 補助金付与の法的根拠

糧穀管理法第 4 条、農水産物流通及び価格安定に関する法律第 10条、 農漁村発展特別措置法第 14条

変更なし

補助金 実施主管機関

農林部 変更なし 補助金給付対象 米と麦 豆 とうもろこし

変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

食糧安保のための基礎農水産物の適正在庫維持

補助金の形態 政府買入(米、麦、豆、とうもろこし)

-米、麦:政府予算

-豆:基金(農業安定基金)

-とうもろこし:政府予算

政府買入(米、麦、豆、とうもろこし)

-米、麦:政府予算

-豆、とうもろこし

:基金(農業安定基金)

96

項目 変更前 変更後

(農漁村構造改善特別会計) 補助金額(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 米 8,709 8,241 985,218 1,013,827 麦 475 544 54,175 48,000 豆 112 153 23,958 46,636 とうもろこし 25 14 2,039 1,303 (注)直接補助金基準

2222))))果実果実果実果実・・・・花卉販花卉販花卉販花卉販売促進売促進売促進売促進事業事業事業事業 項目 変更前 変更後 補助金名称 果実・花卉販売促進事業 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

農漁村発展特別措置法第 16条 変更なし 補助金実施主管機関

農林部 変更なし 補助金給付対象 果実・花卉・キムチなど輸出業者 変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

農産物の品質向上及び流通費用減少

変更なし 補助金の形態 補助金支給(grants) 変更なし 補助金額(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 補助金 25,955 26,605 24,667 25,571

3)畜産業支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 1.牛肉買入事業課

2豚肉政府買入で区分

牛肉品質改善及び安定促進支援 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

畜産法第 3条及び第 26条 変更なし 補助金実施主管機関

農林部 変更なし

97

補助金給付対象 畜産協同組合中央会、韓牛生産農家など

変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

韓牛の競争力強化及び牛肉消費減少に対応した韓牛の生産性維持

牛肉消費減少に対応した韓牛の生産性維持 補助金の形態 補助金支給(grants)

-畜産発展金

変更なし 補助金額 (単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 去勢支援 18,528 15,783 22,466 8,002 小牛生産 - 800 900 1,390 韓牛生産 29,337 40,451 34,651 - 優良所生産 2,302 - 4,284 4,284

②山林業 1)合板およびボード類施設支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 合板及びボード類施設支援 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

林業振興促進法 林業振興促進法第 10条 補助金実施主管機関

山林庁 変更なし 補助金給付対象 合板又はボード類生産業者 変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

間伐・小径材及び廃木材を利用するボード類施設支援

間伐・小径材及び廃木材利用化 補助金の形態 融資

-財源:財政投融資特別会計

(2001)、

農漁村構造改善特別会計

(2002)

変更なし

補助金額補助金額補助金額補助金額((((単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004

98

融資金 -(注) -(注) 4,605 8,204 (注)融資金金額明示されていない 2222))))林産林産林産林産物利用物利用物利用物利用 項目 変更前 変更後 補助金名称 林産物利用プログラム 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

林業振興促進法第 10条、 山林法第 10条

林業振興促進法第 10条 補助金実施主管機関

山林庁 変更なし 補助金給付対象 林産物加工施設を運営する個人又は法人

変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

林産物利用施設の現代化で財政的支援供給

変更なし 補助金の形態 融資

-財源:農漁村構造改善特別会計

変更なし 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 融資金 -(注) -(注) 27,680 35,976 (注)融資金金額明示されていない ③水産業 1)遠洋漁業開発支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 遠洋漁業開発支援 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

水産業法第 87条 林業振興促進法第 10条 補助金実施主管機関

海洋水産部 変更なし 補助金給付対象 遠洋漁業者 遠洋漁業者及び海外資源開発業者 政策の目標又は 補助金の目的

遠洋漁業経営支援 遠洋漁業の発展支援

99

項目 変更前 変更後 補助金の形態 融資

:1年、支援金利 4.50-5.50%

融資

:1年、支援金利 3-4.5% 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 融資金 331,000 300,000 11,130 11,080 2)水産物加工・開発支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 水産物加工・開発支援 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

農漁村発展特別措置法第 15 条、第 16条

変更なし 補助金実施主管機関

海洋水産部 変更なし 補助金給付対象 水産物処理・保存・加工に務める業者

水産物処理・保存・加工に務める業者と従事者 政策の目標又は 補助金の目的

新製品開発促進、優良製品生産拡大、処理・加工施設の現代化

製品の安全性要求及び品質の良い製品供給 補助金の形態 補助金支給(grants)及び融資

-水産物加工業支援:1年

-水産物処理・保存・加工

:5%の年利子率で 10 年間融資(3年間据置後 7年償還)

補助金支給(grants)及び融資

-補助金支給:費用の 20-70%

-融資

:4%の年利子率で 10-15年融資 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 補助金 2,000 3,000 7,830 10,159 融資金 17,500 11,500 13,032 24,776

3)漁業支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 漁業支援 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的 水産業業法第 87条 変更なし

100

根拠 補助金実施主管機関

海洋水産部 変更なし 補助金給付対象 近海、内水面漁業経営者 関連水産業法による免許を得た漁業経営者 政策の目標又は 補助金の目的

融資を提供することにより安定した漁業経営支援

低利の融資を提供することにより安定した漁業経営支援 補助金の形態 -融資

:1年間 4.0-4.5%の年利子率

-融資

:1年間 4%の年利子率

(近海漁業者、2003))

1年間 4.5%の年利子率

(遠洋漁業者、2003年)

1年間 3%の利率(2004) 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 融資金 12,050 14,050 1,094,269 1,125,056

4)養殖漁業開発支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 養殖漁業開発支援 変更なし 適用期間 2011年まで 補助金存続期間なし 補助金付与の法的根拠

農漁村構造改善特別会計法第 4条 漁業法第 87条、 漁業協定による漁業人支援特別法第 19条など 補助金実施主管機関

海洋水産部 変更なし 補助金給付対象 養殖漁業人 養殖漁業人 政策の目標又は補助金の目的

国内外漁業条件の弁護に応じて養殖漁場確立支援で安定した水産物供給

変更なし 補助金の形態 補助金支給(grants)及び融資

-融資

:5%の年利子率で 10 年間融資(3年間据置後 7年償還)

補助金支給(grants)及び融資

-補助金支給:費用の 40-100%

-融資

:4%の年利子率で 10年間融資 補助金(単位:百万ウォン)

101

項目/年 2001 2002 2003 2004 補助金 1,000 1,400 5,176 8,908 融資金 5,500 11,400 26,872 18,550 5)遠洋漁船建造・取得に対する地方税減免(廃止) 5’)旧式漁業船及び装備の振替支援(新設) 項目 変更前 変更後 補助金名称 - 旧式漁業船及び装備の振替支援 適用期間 - -近隣海岸漁船:2011年まで

-遠洋漁船:2007年まで 補助金付与の法的根拠

- -農林漁業人生活の質向上及び農山漁村地域開発促進に関する特別法第 11条 補助金実施主管機関

- 海洋水産部 補助金給付対象 - 漁業人 政策の目標又は 補助金の目的

- 旧式漁業船及び装備の振替で安全確保 補助金の形態 - 補助金支給(grants)及び融資

-補助金支給:費用の 20-50%

-融資

:4%の年利子率で 15年融資 補助金額(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 補助金 - - 1,010 811 融資金 - - 3,228 5,449

6)漁船隻数の調整支援(新設) 項目 変更前 変更後 補助金名称 - 漁船隻数の調整支援 適用期間 - -近海漁船:2008年まで

-遠洋漁船:補助金存続期間なし 補助金付与の法的根拠

- -農林漁業人生活の質向上及び農山漁村地域開発促進に関する特

102

項目 変更前 変更後 別法第 11条

-漁業協定締結に伴う 漁業人などの支援及び 水産業発展特別法第 19条など 補助金実施主管機関 - 海洋水産部 補助金給付対象 - 近海及び遠洋漁業人 政策の目標又は 補助金の目的

- 漁業協定締結に伴う漁船隻数の調整など漁業構造調整支援 補助金の形態 - 補助金支給(grants)及び融資

-補助金支給 :漁船購買費用の100%

-融資

:4%の年利子率で 15 年融資(近海漁業人)

5%の年利子率で 15 年融資(遠洋漁業人) 補助金額(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 補助金 - - 20,420 30,873 融資金 - - 2,604 2,149

(4)石炭産業

1)エネルギー・資源特別会計のうち石炭産業支援事業 項目 変更前 変更後 補助金名称 エネルギー・資源特別会計のうち石炭産業支援事業

変更なし 適用期間 2005年まで閉館支援と融資支援 補助金存続期間なし 補助金付与の法的根拠

石炭産業法第 26条 変更なし 補助金実施主管機関

産業資源部 変更なし 補助金給付対象 -石炭鉱業者と炭鉱勤労者に産災保険料と学資金に対して補助金支援

-変更なし

103

項目 変更前 変更後

-廃鉱地域代替産業創業資金を5.25%の低率で融資

-削除

政策の目標又は 補助金の目的

-煉炭需用の減少により生産規模を縮小する石炭産業構造調整事業を支援

-構造調整で萎縮する地域経済活性化のために地域経済対策推進

-生産費と販売価格の差額支援

-変更なし

-削除

-変更なし

補助金の形態 補助金支給(grants)と融資 補助金支給(grants) 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 補助金 314,810 269,385 299,027 235,895 融資金 20,000 16,000 - -

(5)製造業

1)外国人投資企業に対する支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 外国人投資企業に対する支援 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

租税特例制限法第 121条 外国人投資促進法

租税特例制限法第 121-2 条と第121-3条 外国人投資促進法第 9条と第 13条 補助金実施主管機関

財政経済部、産業資源部など 変更なし 補助金給付対象 -産業支援サービス業及び高度技術首班事業に対する外国人投資

-外国人投資地域に入居する外国人投資企業(輸出自由地域含む)

-変更なし

-外国人投資地域に入居する外国人投資企業、経済自由地域、自由貿易地域、済州国際自由都市 政策の目標又は 補助金の目的

外国人直接投資の活性化 外国人直接投資の活性化 【追加】

-現金補助金支給(grants) 補助金の形態 租税減免

-外国人投資企業の

租税減免

-外国人投資企業の法人税・所得税

104

項目 変更前 変更後 法人税・所得税

:事業開始後最初所得発生年度から7 年間 100%減免、その次の 3 年間50%減免

-外国人投資企業が取得・所有する土地・建物などに対する取得税・登録税・財産税・総合土地税

:最初所得発生年度から 5年間 100%減免、その後 3年間 50%減免

-外国人投資企業が租税減免対象事業営為のために3年以内に導入する資本財に対する関税・特別消費税・付加価値税

:100%で減免 国有財産の賃貸料減免

:事業開始後最初所得発生年度から5 年間 100%減免、その次の 2 年間50%減免

(高度技術産業或いは外国人投資地域) 事業開始後最初所得発生年度から 3年間 100%減免、その次の 2 年間50%減免

(経済自由地域、自由貿易地域、済州国際自由都市)

-外国人投資企業が取得・所有する土地・建物などに対する取得税・登録税・財産税・総合土地税

:最初所得発生年度から 5年間 100%減免、その後 2年間 50%減免

(高度技術産業或いは外国人投資地域) 最初所得発生年度から 3年間 100%減免、その後 2年間 50%減免

(経済自由地域、自由貿易地域、済州国際自由都市)

-変更なし

変更なし 【追加】 現金補助金支給(grants)

:最小投資金額以上の条件で投資した場合現金を補助する 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 現金補助金 - - - -

105

税金減免 -(注) -(注) -(注) -(注) (注)統計資料の不備で推計金額は把握できないものの、多くの外国人投資企業らが関連法人税などを減免してもらっている 2)航空機製造用部品関税減免 項目 変更前 変更後 補助金名称 航空機製造用部品関税減免 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

関税法第 89条 変更なし 補助金実施主管機関

財政経済部 変更なし 補助金給付対象 航空宇宙産業開発促進法により航空機製造業又は修理業の許可を得た者

変更なし

政策の目標又は 補助金の目的

国内で供給されない部品に対する生産費減少を通じて輸入促進

-変更なし

補助金の形態 税金減免 関税減免 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 関税減免 250 255 228 259

3)農業機械製造支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 農業機械製造支援 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

農業機械化促進法第 4条 変更なし 補助金実施主管機関

農林部 変更なし 補助金給付対象 新技術農業機械製造業者と開発者

変更なし

政策の目標又は 補助金の目的

営農期に需要が集中する農業機械の供給と農業機械の製造業援 -変更なし 【追加】

106

項目 変更前 変更後 助 -農業機械の自動化・現代化のための財政的支援を通じて韓国人が製造した高品質農業機械製造・供給促進 補助金の形態 融資

-財源:農漁村構造改善特別会計

変更なし 補助金額 別添参照 別添参照 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 融資金 40,000 20,000 10,000 10,000

4)エネルギー・資源特別会計中石材産業支援事業(廃止) (6)環境、研究開発

1)環境改善融資事業 項目 変更前 変更後 補助金名称 環境改善融資事業 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

環境政策基本法第 34条 変更なし 補助金実施主管機関

環境部 変更なし 補助金給付対象 環境装備を設置、運営、改善する中小企業

公害防止装置と設備を設置運営する会社 政策の目標又は補助金の目的

私企業の環境投資促進 変更なし 補助金の形態 -融資

:4.78%の年利子率で 3年据置 7年償還

-融資

:4.34-4.63%の年利子率で 3 年据置 7年償還 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 融資金 600 700 60,000 70,000 2)環境技術開発事業の研究開発支援

107

項目 変更前 変更後 補助金名称 環境技術開発事業の研究開発支援

変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

環境技術開発及び支援に関する法律第 5条

変更なし 補助金実施主管機関

環境部 変更なし 補助金給付対象 政府投資研究機関、大学、環境改善事業に参加する私企業など

変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

最新の環境技術を開発を通じて国内環境改善

変更なし 補助金の形態 政府寄付金 補助金支給(grants) 補助金額 別添参照 別添参照 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 政府出捐 500 700 75,000 85,000

3)自動車低公害技術開発→軽油自動車のための排出ガス低減装置の取り付けおよび低公害エンジン改造に関する事業 項目 変更前 変更後 補助金名称 自動車低公害技術開発支援 排出ガス低減装置の付着及び低公害エンジン改造に対する補助金 適用期間 1998-2001 2004年から 2014年まで 補助金付与の法的根拠

-大気環境保全法第 31.2

-環境技術開発及び支援に関する法律第 5条など

-首都圏大気環境改善に関する 特別法第 25条 補助金実施主管機関

環境部 変更なし 補助金給付対象 下の4つの技術を開発する研究機関

-高圧燃料噴射技術開発

-排気ガス再循環器術開発

-性能マッチング技術開発

公害減少装置を設置した軽油自動車所有者

108

項目 変更前 変更後

-中小型大衆バスに考案された複合自動車 政策の目標又は補助金の目的

大型軽油自動車の低公害技術開発

首都圏地域で軽油自動車の公害減少 補助金の形態 研究開発費出演 補助金支給(grants) 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 政府出捐 15 15 - 7,900

4)天然ガス使用供給事業 項目 変更前 変更後 補助金名称 天然ガス自動車調達及び燃料費支援

変更なし 適用期間 2000年から 2007年まで 変更なし 補助金付与の法的根拠

-大気環境保全法第 36.2条 変更なし 補助金実施主管機関

環境部 変更なし 補助金給付対象 -環境保全法による天然ガスを購入する人

-環境保全法による燃料で天然ガスを使う自動車のために天然ガスを供給する人

変更なし

政策の目標又は補助金の目的

都市地域の大気質改善のために 変更なし 補助金の形態 補助金支給(grants) 変更なし 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 補助金(grants) 141 139 31,500 36,200

5)リサイクル施設と技術開発のための支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 リサイクル産業の促進のための 変更なし

109

項目 変更前 変更後 融資 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

-資源の節約とリサイクル促進に関する法律第 31条

-環境改善特別会計法第 4条

変更なし 補助金実施主管機関

環境部 変更なし 補助金給付対象 -リサイクル施設設置事業者

-資源リサイクルのための技術開発者

-リサイクル事業者

-リサイクル品を流通・販売する者

【追加】

-廃棄物減少装置を設置した者

政策の目標又は補助金の目的

低金利融資を提供することによりリサイクル産業を育成

変更なし 補助金の形態 融資 変更なし 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 融資金 600 600 60,000 60,000

6)情報通信振興研究開発支援 項目 変更前 変更後 補助金名称 情報通信研究開発支援融資 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠

情報化促進基本法第 34条 変更なし 補助金実施主管機関

情報通信部 変更なし 補助金給付対象 情報化通信事業者 変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

危険度が高い大型情報通信化事業を研究、開発

変更なし 補助金の形態 融資 変更なし 補助金額 別添参照 別添参照 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004

110

融資金 2,740 2,680 1,930 2,180

7)科学技術振興基金 項目 変更前 変更後 補助金名称 科学技術振興基金 変更なし 適用期間 補助金存続期間なし 変更なし 補助金付与の法的根拠 科学技術基本法第 22条 変更なし 補助金実施主管機関 科学技術部 変更なし 補助金給付対象 高度技術産業に関し研究開発を遂行する機関

変更なし 政策の目標又は 補助金の目的

私企業の研究開発活動を支援

変更なし 補助金の形態 融資

-4.75-5.25%の年利子率で 3年据置 7年償還

変更なし 補助金(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 融資金 1,080 1,020 115,000 105,000

(7)その他

1)外国航路就航用船舶と遠洋船舶の製造と取得に関する地方税減少(新設) 項目 変更前 変更後 補助金名称 外国航路就航用船舶と遠洋船舶の製造と取得に関する地方税減少 適用期間 2006年 12月 31日まで 補助金付与の法的根拠

地方税法第 284条 補助金実施主管機関

行政自治部 補助金給付対象 -国際船舶登録法の規定による国際船舶で登録するために取得する船舶に対しては取得税を免除

-課税基準日現在、国際船舶と登録

111

項目 変更前 変更後 されている船舶に対しては共同施設税を免除し、財産税の 100分の 50を軽減

-船舶の取得日から 6 ヶ月以内に国際船舶で登録しない場合には免除された取得税を追徴 政策の目標又は 補助金の目的

外国航路就航用船舶と遠洋船舶の取得に関する税額の負担を軽減して船舶産業の促進図る 補助金の形態 税額減免 補助金額(単位:百万ウォン) 項目/年 2001 2002 2003 2004 税金減免 - - 20,673 14,870 2.韓国の鉄鋼、電力産業に対する補助金制度と米国等の対応 ここでは、韓国有数の主要産業の一つである鉄鋼と電力に焦点を当てて、韓国の当該産業への補助金給付の状況と、それに対する米国側等の反応を取りまとめた。 過去に韓国の鉄鋼産業や電力産業への補助金のうち、米国等による提訴において特定性があると判定されたものの経緯は、以下の通りである。 ただし、韓国産業資源部によると、近年は政府から鉄鋼産業や電力産業に対して給付される補助金はないとのことであり、他に、例えば機械産業に対して給付される補助金なども、環境・研究開発のための補助金などに限られるとのことである。 (1)鉄鋼 米国鉄鋼業界は、韓国の光陽工業団地の建設に関連して、鉄鋼メーカー等が支配的な使用者であり、特に工業団地造成に関連して入居企業を特定業種に制限したのは、一般的な社会間接資本の提供の範囲から外れた特定的補助金だと主張した。

これに対し韓国政府は、①工業団地別誘致業種の選定は特定産業の選別支援のためではなく、狭い国土の効率的な利用のための国土開発の側面で決定されるものである、②光陽湾地域の開発は鉄鋼会社だけのためのものではなく、光陽工業団地に入居する組立、金属などその他の製造業の誰でも無差別的に利用できる、と主張しその特定性を否認した。

112

これに対し、米国商務部は1992年の韓国産冷延鉄鋼製品に対する相殺関税調査において、①光陽工業団地の入居が鉄鋼会社および関連会社に制限されており、②鉄鋼会社が社会間接資本施設のほとんどを使っており、③他社が社会間接資本施設に対して客観的な基準により同じ恩恵を享受できると立証できなかったなど、3点の理由をあげて、1991年以前の光陽湾社会間接資本施設による政府支援を補助金と判定した。それ以後、米国商務部は 1998年の韓国製ステンレス厚板製品に対する相殺関税調査において、1991年以前分に対しては1992年判定を根拠に補助金と判定した。ただし、1992年分以降は補助金と認定しなかった。

1998年の韓国製ステンレス厚板製品に対する米国の相殺関税調査について、外国鉄鋼会社らは、国内価格には一般内需価格と原資材ローカル価格があり、原資材ローカル価格は輸出を前提に同じ製品に対して国内需要者に別途の価格を策定して供給するため、補助金に該当すると主張した。

これに対し韓国政府は、個別企業の価格決定のような日常的企業活動には一切介入しておらず、二重価格制度は輸入原資材を使って生産する会社の二重的な費用構造に符合する個別企業の価格体系であるため、内需価格と原資材ローカル価格の隔たりを補助金と見るのは不合理だと主張した。

しかし、この問題に対しては、米国商務部は調査期間中に浦項製鉄(ポスコ)の最大株主が政府であり、株主の第2位と第3位も政府の統制下にある銀行であり、浦項製鉄会長の前職が行政府長官出身である点と、社外取締役の半分を政府および政府統制下の韓国産業銀行で任命する点などをあげて、浦項製鉄が政府統制下の企業(Government-Control

Company)と判定した。

したがって、政府統制下の企業である浦項製鉄の同一製品に対する二重的価格体系は、その製品を低価格で供給されて輸出する企業に対する財政的寄与であり、これはWTO補助金および相殺措置に関する協定付属書 I(d)項の例示に該当する補助金だと米国商務部は判定した。

(2)電力

1990年に韓国電力が導入した負荷調整割引制度は、一部少数の企業だけが利用できる補助金であると外国提訴者らは主張した。

これに対し韓国電力側は、負荷調整割引制度は大量電気使用者が韓国電力との契約を通

113

じて、一定使用量の範囲内で若干の割引を受けることで、これは電気使用制限にともなう不便さを補償する性格であり、補助金という主張には同意できないと主張した。また、事業の種類や特性に無関係に適用される電気料金割引制度は特定性が欠如しているので、補助金とはいえないというのが韓国企業の主張であった。

これに対し米国商務部は、1998年のステンレス相殺関税調査の際に、規定上では負荷調整割引制度に何の特定性も存在しなかったものの、実質的に 1997年に 44社の少数の企業だけが本制度による恩恵を受けたことを根拠に特定性があるとみて補助金と判定した。 3.補助金関連で外国企業が直面した韓国の貿易・投資の問題点 大韓貿易投資振興公社(KOTRA)に寄せられた、外国企業が韓国で直面した貿易・投資に関する補助金関連の問題点は、以下の通りとなっている(カッコ内は申し入れ国名)。

・ 仁川経済自由区域内助減税恩恵隘路支援要請(ドイツ) ・ 高度新技術の租税減免規程(米国) ・ 租税減免関連支援要請(日本) ・ 増額投資に伴うキャッシュ・グラント恩恵の可能性検討要請(フランス) ・ 外国投資企業輸入資本財関税減免制度調査要請(スイス) ・ 外国人投資地域指定基準の義務期間の延長支援要請(米国) ・ 租税減免対象技術有無(米国) ・ 租税減免対象有無(米国) ・ R&Dセンター設立敷地選定(米国) ・ 工場敷地(自由貿易地域)選定関連苦情 ・ キャッシュ・グラント適用可否調査要請(米国) ・ キャッシュ・グラント申請支援要請(スイス) ・ キャッシュ・グラント恩恵推進協議要請(日本) ・ 現金支援金に対する苦情(ドイツ)

114

第3章 インドの補助金制度

はじめに

本章は、WTO貿易政策検討制度(TPRM:Trade Policy Review Mechanism)の対インド審査における WTO 事務局レポート(WTO Trade Policy Review, India, Report by

Secretariat)(2002年5月 22日付WT/TPR/S/100)について、補助金関連部分のみを抜粋して仮訳したものである。

TPRMとは、WTO各加盟国の貿易政策等を定期的に審査する制度で、1989年から実施されている。審査の頻度は、世界貿易額上位の4加盟国・地域が2年毎(2004年の貿易額では、EU、米国、中国、日本)、続く 16 加盟国・地域が4年毎(2004 年の貿易額では、カナダ、香港、韓国、メキシコ、台湾、シンガポール、マレーシア、スイス、オーストラリア、タイ、インド、ブラジル、トルコ、UAE、ノルウェー、インドネシア)、その他の加盟国・地域が原則6年毎となっている。 インドについては、WTO発足の 1995年以降は、1998年と 2002年に審査が実施されており、次回審査は 2006年内に実施される予定である。したがって、本章では 2002年6月審査の際のWTO事務局レポートを使っている。前回審査から4年経過していることから、現在の内容は部分的に変わっている可能性が高い。しかしながら、仮訳にもある通り、そもそもインドの補助金政策は複雑化しわかりにくいこと、政策の基本的な構造には大きな変化はないと想像されることから、参考情報として捉えていただければ幸いである。

WTO貿易政策検討制度対インド審査WTO事務局レポートの補助金関連部分抜粋仮訳“Ⅲ

Trade Policies and Practices by Measure, WTO Trade Policy Review, India, Report by

Secretariat, 22 May 2002, WT/TPR/S/100

1.概要

1990年代初頭以降、インドは、輸入代替品と公共部門の生産を通じた工業化戦略から、よりオープンな市場主導の貿易・投資制度へ徐々に移行している。しかし、現在でも政策によって国内生産者を外国との競争から保護しており、効果的な資源配分に悪影響が生じている。また、輸出よりも収益性の高い巨大な国内市場で販売を行っているため、そのような政策によってインドの貿易制度に反輸出バイアスがかかり、輸出を通じて成長を達成する経済的能力が阻害されている。国内生産者を外国との競争から保護し、国内生産を規制しながら、同時に輸出を促進するために、さまざまな貿易政策措置を講じ、輸出入制度

115

が必要以上に複雑になっている。

輸出制度は複雑化している。輸出制度には、関税の免除と払い戻しに加え、輸出加工区(EPZ)や経済特区(SEZ)などの制度が含まれる。これらの措置は、組み合わせて適用され、輸入規制が輸出者の競争力に及ぼす悪影響の緩和などを目的として導入されてきた。また、輸出を制限または禁止する措置も講じられている。ただし、最近の政府発表によると、これらの制限は軽減される予定である。

政府によるその他の介入も重要である。価格統制は、補助金の要素を含むことが多く、統制を段階的に廃止する規定が実施されてはいるが、必要な要素として維持されている。また、補助金は幅広く交付されており、情報不足のため、その範囲と費用を把握することは難しい。

2.輸出に直接影響を及ぼす措置

(1)輸入国で適用される措置 現在、インドからの輸出品は、WTO への届け出どおり、40 件の反ダンピング措置および 13 件の相殺措置の対象となっている52。商工省が実施した調査によると、いくつかの輸出品は、インドの主要市場で非関税措置に直面している。関係する製品には、以下が含まれる。香辛料、茶、タバコ、肉・鶏肉、ピーナッツなどの農産品、生花、シリアル・シリアル製品、青果、乳製品、海産物(主に SPS/TBTおよび関税割当の理由から)、繊維製品・衣料品(反ダンピング関税)、化学品および関連製品(登録要件、割当規制、TBT、反ダンピング措置)、鉄鋼線材、高品質の溶接炭素鋼鋼管、熱間圧延鉛およびビスマス炭素鋼製品などの工学製品、自動車、鉄鋼(関税割当、保障措置、相殺関税、TBT、政府の調達規制)、電化製品(反ダンピング措置)、皮革・履物(SPS/TBT、労働基準、保障措置)53。インドにおける医薬品、工学製品、皮革、海産物、およびマンゴーの輸出が直面する非関税措置のさらに詳細な分析は、イギリス連邦事務局(Commonwealth Secretariat)による最近の調査の中で実施された54。

(2)関税および税金の減免 ①税払い戻し

1962 年関税法第 74 条および第 75 条に基づき、関税の払い戻しを受けられる。1962年関税法第 75条に基づき、輸出される製品の製造に使用される輸入投入財に対して、払い戻 52 WTO反ダンピングおよび相殺データベースに基づく 53 商工省(2001年)を参照 54 イギリス連邦事務局(2001年)

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しが認められる。払い戻し率は、中央政府(財務省(Ministry of Finance))により、予算の議会提出後、毎年告示される。「全産業共通レート(all-industry rate)」と呼ばれる払い戻し率は、特に、投入財の消費量、支払い済みの関税および税金、消耗量、および輸出製品の FOB価格を広範に平均した値に基づいて算出される55。当局によると、全産業共通レートでは、投入財に対して支払った税金全体の 70~80%が相殺される。全産業共通レートが適用できないか、またはそれによって払い戻される税額では、投入財に対して支払った輸入税が十分に補償されない場合、輸出者は「特定品目別レート(special brand rate)」の設定を申請することができる56。当局によると、特定品目別レートでは、投入財に対して支払った税金合計の最大 90~95%の関税を相殺することを目指している。しかし、全産業共通レートは投入財の消費量と支払った税金の平均レートに基づくのに対し、特定品目別レートは製品や輸出者別に設定されるため、税金の支払いを詳細に証明する書類を輸出者が提出しなければならない。

関税法第 74条に基づき、元々インドに輸入され、輸入税の支払いから 2年以内に輸出された製品に対しても、払い戻しは適用される。未使用の状態で輸出された製品については、輸入税の 98%が払い戻される。使用後に輸出された製品については、製品の輸入から輸出までの期間によって、払い戻される税金の割合が異なる57。払い戻しによって還元された関税は、1997/98年度の 366億ルピーから 2000/01年度の 432億ルピーへ増加した。

②その他の関税および税金の減免 間接課税制度に含まれる反輸出バイアスを軽減または撤廃し、輸出促進を図るため、輸入者が(特に投入財に対する)関税免除の恩恵を受けられるように、いくつかのスキームが設定されている。これらのスキームは、特定の産業または利用者向けに用意されている(最終利用者スキーム)。これらのプログラムのうち、事前ライセンス(Advance License)スキームや輸出促進のための資本財輸入(EPCG:Export Promotion Capital Goods)スキームなどでは、投入財に対する関税が減免され、関税受給パスブック(DEPB:Duty

Entitlement Passbook)スキームや中間財の免税証明書(DFRC:Duty Free Replenishment

Certificate)スキームでは、輸入投入財に対する輸入関税が事後的に払い戻される。また、いくつかのスキームには、一定の輸出義務が伴う。払い戻しを除き、これらのスキームは 55 払い戻しは、基本関税と特別追加関税を含む「関税割当」と、現地生産された投入財に対する追加関税と物品税を含む「中央物品税割当」から構成される 56 中央物品税関税局、Duty Drawback [オンライン]。参照先:www.cbec.gov.in/cae/customs/dbk-schdule/dbk-mainpg.htm [2001年 7月 20日] 57 割合は、インドでの保管期間が 6か月間未満の製品に対する輸入税の 85%から、インドでの保管期間が30~36か月間の製品に対する輸入税の 30%まで、幅がある。この規定に基づく払い戻しは、衣料品、茶箱、インド映画検閲委員会(Board of Film Censors in India)から承認された露光済み映画フィルム、未露光の写真フィルム・印画紙・感光板、X線フィルム、および 4年間以上使用された自動車には適用されない(通告番号 19/65–税関、1965年 2月 6日付)

117

通常、商工省外国貿易局が管理する。また、財務省は、自由貿易区内の輸出者および企業に適用される法人税免除スキーム(Income Tax Exemption Scheme)を管理する(後述のセクション(4)を参照)。 数年間にわたり、これらのスキームを利用する輸出者は増加しているようである。これらのスキームがインドの輸出振興に役立っているかどうかは不明である。当局から提供されたデータによると、これらのスキームの適用対象となる輸出が輸出全体に占める割合は、1997/98年度の 37%から、1999/00 年度の 71%まで着実に増加したが、その 2 年間、インドの輸出が GDPに占めた割合は、そもそも約 8.6%と 8.2%にすぎない58。また、これらのスキームの結果として還元された関税は、1997/98 年度の約 890 億ルピーから 2000/01 年度の 1,730億ルピー程度まで(関税収入の約 22%から 35%まで)増加した(ただし、当局は、EPZは免税特区であるため、実際に関税が還元されたわけではないと指摘している)59。むしろ、輸出が GDPに占める割合が 1990年の約 5%から現在の 8%まで増加したのは、輸出促進スキーム自体よりも、1991年以降実施してきた自由化政策によるところが大きいと考えられる60。諮問機関から計画委員会(Planning Commission)に最近提示された調査では、そのような輸出促進スキームは多岐にわたるため、スキームの管理が複雑化し、時間の浪費につながっていることが指摘されている61。

表 払い戻しやその他の減免措置の対象となる輸入、2001/02年度 スキーム 対象者 減免措置 実績要求 関税の払い戻し 全輸出者 後から輸出する製品の製造に使用される投入財の輸入に対して支払った関税の払い戻し。産業別の平均的な払い戻し率に基づく

n.a.

品目別レートの設定 輸出業務を行なう製造業者

個々の輸出者の特定品目に対する払い戻し

n.a. 最終用途関税 各種企業およびその他利用者

特定の輸入品に対する関税の減免

n.a.

58 このデータには、事前ライセンス、事前中間ライセンス(Advance Intermediate Licence)、特別前払いライセンス(Special Imprest Licence)、DEPB、および EPCGの各スキームが含まれる 59 還元された関税に関するデータは、事前ライセンス、輸出加工区、輸出志向企業、EPCG、特別前払いライセンス、および DEPBについて入手可能 60 Panagariya(2000)。このレポートは、ある歪み(ここでは反輸出バイアス)を別の歪み(輸出促進スキーム)によって是正するのは、本来の歪みを残すよりも好ましくないと指摘する。というのも、「是正」のための歪みを導入すれば、圧力が排除され、本来の歪みが解消される一方で、利権争いと汚職のせいで、2つの歪みが相加的に作用する可能性があるためである 61 計画委員会(2001b)

118

スキーム 対象者 減免措置 実績要求 輸出促進のための資本財輸入(EPCG)

輸出業務を行なう製造業者(サポートする製造者・ベンダーの有無を問わない)、サポートする製造者やサービスプロバイダへのつながりを持つ輸出者

輸出義務の対象となる治具、固定具、ダイス型、鋳型、スペア部品を含む資本財輸入に対する 5%の関税の適用

資本財の CIF価値(FOBベース)の 5倍、または資本財の CIF価値(NFEベース)の 4倍の輸出義務を許可取得から 8年以内に実現する a 関税の免除 -事前ライセンス 輸出業務を行なう製造業者、および貿易業者

輸出品生産用の投入財の輸入に対する関税を免除

公表された投入財と生産高の基準に基づく輸出義務 -中間財に対する事前ライセンス

最終輸出者に商品を供給する製造者、別の事前ライセンスを所有するみなし輸出者

輸出品生産用の投入財の輸入に対する関税を免除

公表された投入財と生産高の基準に基づく輸出義務 -みなし輸出に対する事前ライセンス

主契約業者または下請け業者

同上 公表された投入財と生産高の基準に基づく輸出義務 関税軽減スキーム -中間財の免税証明書(DFRC)

商品の製造に使用される投入財を輸入する貿易業者または輸出業務を行なう製造業者

輸出製品の製造に使用された投入財の輸入に対する関税(基本関税と特別追加関税、ただし物品税と同等の追加関税は含まず)を輸出後に軽減

輸出の割合に応じた関税の償還。輸出品に使用され、SIONで公開された投入財に基づき 33%の最低価値を追加 -関税受給パスブック(DEPB)スキーム

同上 輸出者は、輸出品の FOB価格の一定割合に応じ、輸入関税に対するクレジットを利用できる(払い戻しは受けられない)

輸出の割合に応じた関税の償還

通年事前ライセンス 前年に 1,000万ルピーの輸出実績がある、輸出業務を行なう製造業者

資格要件を満たす輸出者には、ライセンスを受けた過去 1年間における輸出の平均 FOB価格の200%に該当する通年事

n.a.

119

スキーム 対象者 減免措置 実績要求 前ライセンスを受ける権利が与えられる みなし輸出 インドで製造され、事前ライセンス DFRCに照らして EOUまたは EPZ・SEZ・STP・EHTP内の企業に供給された商品。EPCGライセンス所有者。多国間または 2国間機関から融資を受けたプロジェクト

中間財またはみなし輸出に対する事前ライセンス、最終物品税(Terminal

Excise Duty)の払い戻し、みなし輸出に対する払い戻し

n.a.

ダイヤモンド、宝石、および宝飾品の輸出促進

-免税ライセンス 宝石・宝飾品の輸出者 指定された宝石の輸出に使用される輸入投入財のFOB価格の 55~95%のCIFで、投入財の輸入に対する税金を事後的に免除するライセンス(Appendix 30A)

輸出の割合に応じた関税の償還

-宝石に対する免税ライセンス

ダイヤモンドの原石、貴石、準貴石、人工宝石、真珠、および空のジュエリーボックスの輸入に対し、輸出後に適用

18か月間有効なライセンス

輸出の割合に応じた関税の償還

-ダイヤモンド加工ライセンス

ダイヤモンド原石の輸入者

ライセンスを受けた過去3年間に達成したカットおよび研磨済みダイヤモンドの最も優れた輸出実績と同等の輸入、または資格保有者が前年に達成したカットおよび研磨済みダイヤモンドの輸出の最高 5%のカットおよび研磨済みダイヤモンドの

税関による輸入品通関から 5か月以内に、免税額の 65%に反比例する輸出義務を達成 b

120

スキーム 対象者 減免措置 実績要求 輸入に適用されるライセンス -ダイヤモンド原石の一括ライセンス

ムンバイのM/s

Hindustan Diamond

Company Ltd.(HDCL)、ニューデリーのMMTC

Ltd.、ライセンスを受けた過去 3年間におけるカットおよび研磨済みダイヤモンドの年間平均輸出額(FOBベース)が 7億5,000万ルピー以上の輸出者、過去 3年間(ライセンスあり)におけるダイヤモンドの年間平均取引高が15億ルピー以上のインド支社を持つ海外企業

ライセンス額は、ライセンスを受けた過去 3年間に申請者が達成したカットおよび研磨済みダイヤモンドの年間平均輸出額の 50%以内。ライセンス取得者は、前回一括ライセンス額の 75%に相当するダイヤモンド原石を供給することを証明すれば、一括ライセンスの期限が切れる前にライセンス継続を申請できる

輸入したダイヤモンド原石を有効な免税ライセンスまたはダイヤモンド加工ライセンスの所有者、EOU、または EPZに供給するか、あるいは輸出する義務。この販売は、ライセンス発行日から12か月以内または輸入日から3か月以内のどちらか遅い期日までに完了しなければならない

-金、銀、プラチナの宝飾品に関するスキーム

金・銀・プラチナ宝飾品およびその商品の輸出者

必要な投入財は、指定機関(MMTC Ltd.、Handicraft and

Handloom Export

Corporation、国有貿易公社(State Trading

Corporation)、Project

and Equipment

Corporation of India、およびインド準備銀行の公認機関)から非課税で購入できる

n.a.

輸出志向企業(EOU) 金・銀・プラチナ宝飾品およびその商品の製造を含む製造・サービス・取引・修理・リメーク・再調整・再設計、ならびにその作業に必要なあらゆる物品(バスマティ米とその玄米を除く)の輸入に対する関税が免除される。国内一般関税地域

製造業部門については、25万ドルまたは輸入資本財の CIF価格の 3倍のどちらか高い方から、350万ドルまたは輸入資本財

121

スキーム 対象者 減免措置 実績要求 農業、それらの商品生産やサービス全体の輸出の請負に従事する企業

(DTA)からの輸入については中央物品税が免除され、大量の紅茶や、DTAからの燃料その他の物品に対して支払われた関税については、中央販売税(CST)と中央物品税が償還される。サプライヤーに対する輸出実績が免除される。所得税法第10A条および第 10B条に基づき、所得税が免除される

の価格の 3倍のどちらか高い方までの最低輸出義務、IT対応サービスを除くすべてのサービスについては、50万ドルまたは輸入資本財の CIF価格の3倍のどちらか高い方の最低輸出義務、宝飾品、貿易、およびその他すべての分野については、100万ドルまたは輸入資本財の CIF価値の 3倍のどちらか高い方の最低輸出義務をそれぞれ 5年間にわたり負う。最低 NFE義務も課せられる a 輸出加工区(EPZ) 同上 同上 同上 農業輸出区 農業および類似分野における製品の輸出者

EPCGに関し、事前ライセンス・DFRC・DEPBの各スキームに基づく肥料・除草剤・殺虫剤・梱包材を含む投入財の輸入

SEZに関し、農産品の輸出者は、指定された輸出および NFE実績レベルを達成すれば、エクスポートハウス、トレーディングハウス、スター・トレーディングハウス、スーパースター・トレーディングハウスとしての承認を受けられる場合もある a、c 経済特区(SEZ) 金・銀・プラチナ宝飾品およびその商品の製造を含む、商品の製造およびサービスの提供、生産、加工、組み立て、取引、修理、リメーク、再調整、再設計

輸入に対する関税が免除される。DTAからの輸入については中央物品税が免除され、大量の紅茶や、DTAからの燃料その他の物品に対して支払われた関税については、中央販

最低輸出実績は設定されない。NFEをプラスにすることが義務付けられるa

122

スキーム 対象者 減免措置 実績要求 売税(CST)と中央物品税が償還される。サプライヤーに対する輸出実績が免除される ソフトウエア・テクノロジー・パーク(STP)

同上 EOUに対して設定 エレクトロニクス・ハードウエア・テクノロジー・パーク(EHTP)

同上 EOUに対して設定 エクスポートハウス、トレーディングハウス、スター・トレーディングハウス、スーパースター・トレーディングハウス

貿易業者、輸出業務を行なう製造業者、サービスプロバイダ、EOU。ならびに EPZ(農業輸出区を含む)、SEZ、エレクトロニクス・ハードウエア・テクノロジー・パーク、およびソフトウエア・テクノロジー・パーク内の企業。一定の輸出および外貨獲得レベルを満たすことが条件

特別輸出ライセンス(2001年 4月 1日に廃止)

規定された各種の輸出実績レベル d

n.a. Not applicable(適用なし)

a NFEとは、輸出品の FOB価格から、すべての輸入投入財の CIF価格、資本財、および最初の 5年間における特許権使用・手数料・配当・対外借入利子の外貨での支払いを引いた値と定義される。

b たとえば、65ドルの CIF価格に対してライセンスが発行された場合、輸出義務の FOB価格は 100ドルとなる。

c 輸出実績の範囲は、ライセンスを受けた過去 3 年間および過去 1 年間における平均 FOB価格が、エクスポートハウスではそれぞれ 4,000万ルピーと 6,000万ルピー、トレーディングハウスではそれぞれ 2億ルピーと 3億ルピー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 10億ルピーと 15億ルピー、スーパースター・トレーディングハウスではそれぞれ 30億ルピーと 45億ルピーとなっている。ライセンスを受けた過去3年間および過去1年間における平均的なNFE獲得範囲は、エクスポートハウスではそれぞれ3,000万ルピーと 5,000万ルピー、トレーディングハウスではそれぞれ 1億 5,000万ルピーと 2億 5,000万ルピー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 7億 5,000万ルピーと 12億 5,000万ルピー、スーパースター・トレーディングハウスではそれぞれ 22億 5,000万ルピーと 37億 5,000万ルピーとなっている。

d 輸出実績の範囲は、ライセンスを受けた過去 3 年間および 1 年間における平均 FOB価格が、エクスポートハウスではそれぞれ 1億 5,000万ルピーと 2億 2,000万ルピー、トレーディングハウスではそれぞれ7億 5,000万ルピーと 11億ルピー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 37億 5,000万ルピーと56億ルピー、スーパースター・トレーディングハウスではそれぞれ 112億 5,000万ルピーと 168億ルピーとなっている。ライセンスを受けた過去 3 年間および過去 1 年間における平均的な NFE 獲得範囲は、エクスポートハウスではそれぞれ 1億 2,000万ルピーと 1億 8,000万ルピー、トレーディングハウスではそれぞれ 6億 2,000万ルピーと 9億ルピー、スター・トレーディングハウスではそれぞれ 312億ルピーと 450億ルピー、スーパースター・トレーディングハウスではそれぞれ 937億ルピーと 1,350億ルピーとなって

123

いる。 出典: 商工省(1997)、Export Import Policy 1997-2002

③輸出補助金 インドでは、輸出に対し、税金や輸入関税の免除(上述のセクション②を参照)を含む間接補助金を交付しているが、輸出に対する直接補助金は交付していない。

(3)国有貿易公社

WTOへの届け出によると、インドは、多くの小規模農家や部族地域で栽培される特定の農産品や林産品に関し、これらの製品のマーケティングを効率化し、価格変動を防止し、安定して国内に供給するため、国有貿易公社に輸出特権を認めている。灯油や液化石油ガス(LPG)など、国内で燃料として利用され、安定した国内供給が必要となる他の製品も、国有貿易公社を通じて輸出しなければならない62。輸出が国有貿易公社の取り扱い対象となる製品のリストには、若干変更が加えられた。1998年以降、ジェット燃料、ビチューメン、高速ディーゼルなど、一部石油製品の輸出がリストから削除され、Kudremukh Iron Ore

Company Limited製造の鉄鉱石製品がリストに追加された。

表 国有貿易公社の取り扱い対象となる輸出、1997年および 2002年

2002年 4月 1日時点の製品 1997年 4月 1日時点の製品 国有貿易公社

Cr2O3 の含有割合が 40%以下のクロム鉄鉱石の塊鉱石

Cr2O3 の含有割合が 52%以下、シリカの含有割合が 4%以上の低シリカ鉄鉱石の破砕石・粉鉱石

2002年と同じ

2002年と同じ

Mineral and Metals

Trading Corporation of

India Limited (MMTC)

Cr2O3を 52~54%、シリカの含有割合が 4%以上の低シリカクロム鉄鉱石の破砕石・粉鉱石

国有貿易公社の取り扱い対象に含まれない

MMTC カラヤガム 2002年と同じ Tribal Cooperative

Marketing Federation of

India Limited (TRIFED) マイカの加工によって生じ、サイズと色が加工済みマイカの規格以下と見なされるマイカのくず(工場での切削くずを含む)および断片

マイカの加工によって生じ、サイズと色が加工済みマイカの規格以下と見なされるマイカのくず(工場での切削くずを含む)および断片

MMTC

62 WTO文書 G/STR/N/7/IND、2001年 10月 8日

124

2002年 4月 1日時点の製品 1997年 4月 1日時点の製品 国有貿易公社 以下を除く鉄鉱石: (i)鉄の含有量にかかわらず、中国、ヨーロッパ、日本、韓国、および台湾に輸出されるゴア産鉄鉱石 (ii)レディ産鉄鉱石、鉄の含有量は問わない (iii)鉄の含有割合が 64%以上のすべての鉄鉱石 (iv)輸入された原材料を使用した後、製造工程で生じた、以下を条件とする鉄鉱石の破片および類似物の不合格品 (a)そのような不合格品の輸出量が、輸入された原材料(すなわちペレット)の 10%を超えない場合、かつ (b)不合格とされたペレット破片(微粉)のサイズが 6 mm未満である場合

(iv)以外は 2002年と同じ

MMTC

鉄の含有割合が 40%以下の低品位の鉄鉱石の選鉱や濃縮に よ っ て 作 成 さ れ たKudremukh製の鉄鉱石濃縮物

国有貿易公社の取り扱い対象に含まれない

Kudremukh Iron Ore

Company Limited

Kudremukh Iron Ore Company Ltd.製の濃縮物から同社によって製造された鉄鉱石ペレット

国有貿易公社の取り扱い対象に含まれない

Kudremukh Iron Ore

Company Limited マンガン鉱石(マンガンの含有割合が 46%以上の粗いまたは混合されたマンガン鉱石を除く)

従来はMMTCによる輸入の対象に含まれていたこと以外は、2002年と同じ

Manganese Ore India

Limited 鉱石および濃縮物、すなわち: -(イットリウムを含む)希土類の鉱石、濃縮物、およびその混合物 -samerskite、urraniferrous allanite、およびラジウム鉱石を含むその他の鉱物および濃縮物 - Indian Rare Earths Limited およびKerala Minerals and Metals Limitedによって製造された顆粒状のシリマナイト

2002年と同じ Indian Rare Earths Limitedおよび Kerala Minerals

Metals Limited

国有貿易公社の取り扱い対象に含まれない 焼成ボーキサイトとアルミナ含 Indian Rare Earths Limited

125

2002年 4月 1日時点の製品 1997年 4月 1日時点の製品 国有貿易公社 有割合 Al2O3 が 54%未満の西海岸産低品位ボーキサイトを除くあらゆるグレードのボーキサイト ニガー種子 2002年と同じ TRIFED、National

Agricultural Cooperative

Marketing Federation of

India Limited(NAFED)、National Dairy

Development Board(NDDB)、Madhya Pradesh

State Cooperative Oilseeds

Growers Federation

Limited、および Karnataka

State Agricultural Produce

Processing and Export

Corporation タマネギ(バンガロールローズ・オニオンとクリシュナプラム・オニオンを除くすべての種類)

2002年と同じ NAFED、National

Cooperative Consumers'

Federation of India Ltd.、Andhra Pradesh State

Trading Cooperation、Spices Trading Cooperation Ltd.、Maharashtra State

Agriculture Marketing

Board(MSAMB)、およびGujarat Agro Industries

Corporation(GAIC)a -バンガロールローズ・オニオン Karnataka State

Cooperative Marketing

Federation Ltd. -クリシュナプラム・オニオン Andhra Pradesh Marketing

Federation 石油製品 b,c: -原油

石油製品、すなわち: -ジェット燃料

Indian Oil Corporation

Limited

126

2002年 4月 1日時点の製品 1997年 4月 1日時点の製品 国有貿易公社 -ビチューメン(アスファルト) -原油 -燃料油 -高速ディーゼル -灯油 -液化石油ガス(LPG) -ガソリン -生石油コークス -ナフタ

a インド政府商工省、通告番号 37(RE-99)1997-2000、1999年 12月 1日付。タマネギの輸出は、外国貿易局から随時発表される告示に従い、他の国有貿易公社を通じて行うことができる

b インド政府商工省、通告番号 10(RE-98)1997-2002、1998年 7月 22日付

c Exim Policy 2002-2007 では、国有貿易公社の取り扱い対象となる製品のリストから、液化石油ガス(LPG)と灯油が削除された(商工省(2002年)、Export-Import Policy 2002-2007、Schedule II – Export Policy) 出典: WTO(1998年)、『Trade Policy Review – India』、Export Import Policy, 1997-2002、WTO文書 G/STR/N/7/IND(2001年 10月 8日付)、および商工省通告

インドに関する前回調査以降、国有貿易公社による輸出額は 1996/97 年度の商品輸出の2.9%から 2000/01 年度の 5.3%(約 1,050 億ルピー)まで増加し、そのうちの 79%を石油製品が占める63。

(4)自由貿易区 インドは、輸出加工区(EPZ)、輸出志向企業(EOU)、最近では経済特区(SEZ)などの自由貿易区の設置を通じて輸出振興に努めている。EPZは、1965年に初めて設置された64。これらの自由貿易区(EOU を除く)では、土地、低料金の電力と水道、通信設備などのインフラ設備に加え、現地での輸出入通関手続が提供される。さらに、原材料・資本財・消耗品の輸入に対する関税の支払い免除、国内供給源から調達した物品に対する中央物品税の支払い免除、新設企業に対する最長 2010年までの法人税控除、国内で調達した物品に対して支払った中央販売税の償還、関税の支払い対象となる国内一般関税地域(DTA)で生産品の一部を販売する許可など、さまざまな優遇措置が適用される65。2001年に SEZが設置されたことに伴い、複数の EPZが SEZに変更された(下記参照)。EPZ、SEZ、および EOU には、エレクトロニクス、エンジニアリング、化学品・類似製品、宝石・宝飾品、 63 WTO文書 G/STR/N/7/IND、2001年 10月 8日に基づく 64 1965年、グジャラート州カンドラに初の輸出加工区が設置され、その後 1974年、マハラシュトラ州サンタクルーズにサンタクルーズ・エレクトロニクス輸出加工区が設置された 65 免税期間は、1999年に 5年間から 10年間に延長された。ただし、2001年 4月 1日より、利益から控除する方式に変更された

127

繊維製品・衣料品、農産品・林産品、プラスティック・ゴム製品など、各種の産業が含まれる。現在、EPZでは約 700社が事業を営んでいると推定される。

農産品輸出を促進し、農業に基づく農村経済を改善するため、政府は 2001年、農業輸出区を設置した。農業輸出区には、あらゆる農産品および類似製品の生産が含まれ、農業輸出区は国家政府によって管理される。このスキームに基づいて設立されたすべての企業には、資本財投入の 5%という輸入関税の減免を含む EPCG プログラムを利用する権利が与えられる。農業輸出区に設立された企業には、輸出額に応じてエクスポートハウス、トレーディングハウス、「スター」トレーディングハウス、「スーパースター」トレーディングハウスの資格が与えられる。

1981 年に初めて導入された輸出志向企業(EOU)スキームでは、基本的に EPZ と同等の設備が提供されるが、立地をより幅広く選択できる。インフラ設備を除くと、EOUでは、基本的に EPZや SEZと同じ優遇措置を受けられる。2001年 3月時点で、主に繊維・撚糸、食品加工、エレクトロニクス、化学、プラスティック、花崗岩、鉱物・鉱石の各分野に従事する推定 1536 社の EOU がインドに展開する。EOU の輸出額は 1997/98 年度の 1,028億ルピーから着実に増加し、2000/01年度には 1,590ルピーに達する見込みである(輸出全体の約 8%と比較的一定)66。還元された関税は 1997/98年度の 2,000億ルピーから 2000/01年度の 4,000 億ルピーまで増加した。ただし、前述のとおり、当局は、EOU/EPZ/SEZ は税関が管轄する免税特区であるため、実際に関税が還元されたわけではないと指摘している。

政府は、スキームを継続的に設定して輸出を促進してきたが、それらのスキームがインドの輸出振興に役立つことを示す証拠はほとんどない。EPZ からの輸出額は、1997/98 年度の 482億ルピーから 2000/01年度の推定 860億ルピーまで絶対的に増加しているが、輸出全体に占める割合は、わずかしか増加していない(1997/98年度の 3.7%から 1999/00年度の 4.2%まで)67。還元された関税は、1997/98年度の 120億ルピーから 2000/01年度の122億ルピーへ微増した。輸出が停滞している理由として、一部の EPZが EPZの輸出利益全体の大部分を占め、一方で他の EPZが占める割合は低下していることが考えられる。この優れた輸出実績は、優遇措置自体よりも、一部の EPZが備えるインフラおよび立地面の利点に関連している可能性がある68。さらに、政府が輸出優遇措置の段階的廃止のための2000/01年度予算を発表したことから判断して、EPZと EOUに与えられる優遇措置も同様 66 商工省(2001a)、および当局から提供された最新情報 67 商工省(2001a)、および当局から提供された最新情報 68 Kundraおよび Sharan(2000年)

128

に段階的に廃止されると考えられる69。当局は、実施中の免税措置は、輸出される製品に使用される投入財に課せられた関税を相殺するために実施するものであり、優遇措置と呼ぶべき性質のものではないと主張する。

経済特区(SEZ)は、2000 年に発表された輸出入政策の中で打ち出され、物品の製造およびサービスの提供、組み立て、取引、修理、リメーク、再調整に関して設置される70。SEZには、EPZよりも条件の良い優遇措置が適用される。また、既存の EPZは、商工省発行の通告により、SEZに変更される場合がある71。現在までに、カンドラ、サンタクルーズ・エレクトロニクス、コーチン、およびスラトの各 EPZが SEZに変更された72。 当局によると、SEZの規模は従来の EPZの規模よりも大幅に拡大し73、SEZでは完全な統合とより充実したインフラが実現され、さらに SEZはシングルウィンドウ通関設備を備えるという理由から、SEZ からの輸出が輸出の「飛躍的増加」につながることが期待される74。Exim

policy 2002-2007では、SEZ内にオーバーシーズ・バンキング・ユニット(OBU:Overseas

Banking Unit)を設立することが発表された75。

その他の輸出促進スキームには、保税倉庫、エクスポートハウス、トレーディングハウス、スーパースター・トレーディングハウスなどがある。トレーディングハウスの資格は、Export Import Policyに規定された条件に従い、指定の輸出実績レベルを満たした輸出者に与えられる。

(5)パフォーマンス要求 消費財 22業種に対する従来の「配当バランス」要求は、2000年 7月に撤廃された76。ただし、インドの自動車製造業者による輸入品と、自動車の輸出品の実際の CIF 価格の間の 69 EOUは、中央政府から任命された委員会によって「100%輸出志向企業」と定義される必要があるため、生産高のほぼすべてを輸出しているが委員会の承認は受けていない企業では、この条件にバイアスがかかる可能性がある(計画委員会、2001b) 70 商工省(2001b)、第 9-A章 71 既存の EPZは、商工省による通告の発行を通じ、SEZに変更される場合がある。SEZへの変更を希望しない EPZは、EOUへの変更または「保税倉庫からの引き出し」が可能だが、SEZ外に退去しなければならない(9-A.24) 72 さらに、Positra(グジャラート州)と、国家政府により Dronagiri(マハラシュトラ州)、パラディープおよびゴパルプール(オリッサ州)、Kulpiおよびソルトレーク(西ベンガル州)、Bhadohi(グレーターノイダ)およびカンプール(ウッタルプラデシュ州)、カキナダ(アンドラプラデシュ州)、ナングネリ(タミルナドゥ州)、インドール(マディヤプラデシュ州)、ハッサン(カルナタカ州)での SEZの設立が承認された 73 たとえば、承認された SEZの一部は、4,500~20,000ヘクタールの予定地に設立される。これは、現在の EPZ(100~300エーカー)よりもはるかに広い 74 商工省(2001a) 75 商工省(2002年) 76 商工省、Press Note No. 7(2000 series)、[オンライン]。参照先:http://indmin.nic.in/vsindmin/policy/

changes/press7_00.htm [2001年 7月 24日]

129

バランス要求は継続されている模様である。CKD/SKD キット/部品の輸入に関するインドの政策は、貿易関連投資措置委員会(Committee on Trade-Related Investment Measures)で日本と米国から質問として提起された77。インドとの協議に続いて、米国と欧州共同体はGATT の III:4 条および XI:1 条、TRIM 協定の 2.1 条および 2.2 条への違反を申し立て、WTO小委員会の設立を要求した78。小委員会は 2001年 12月 21日、インドが GATT 1994の III:4条および XI条の義務に反していると判断し、WTOの紛争解決機関に対し、インドにWTO協定の義務に準拠するための措置を要求するよう勧告した。

輸入時の減免措置を規定する輸出促進スキームには、輸出実績要求も規定されている(上述のセクション(2)②を参照)。

(6)輸出金融、保険、保証 ①輸出金融 国内銀行には、優先セクターの貸付基準に加え、年間貸付総額の 12%を輸出に割り当てることが求められる。輸出信用は、ルピーまたは兌換可能な外貨のいずれかで提供される。ルピーでの信用は、RBI から発表された利子減免率で提供される。これらの減免率は、インドの実質金利が高いせいで輸出金融に高額の費用がかかる問題を緩和するのに役立つ。外貨での信用は、国際的に競争力のある利率で提供される。輸出者は、ルピーまたは外貨のうち、都合のよい通貨で現金を借り入れることができる。この取り決めに従い、銀行には、2001年 5月 4日まで、1年につき 10~13%の割合で輸出信用を提供することが求められる。2001年 5月 5日付で、インド準備銀行(Reserve Bank of India)から、最優遇貸出金利よりも最大で 1.5%低い利率を設定するよう求められる79。輸出信用にかけられる利子の上限は、2001年 9月 26日から 2002年 3月 31日にかけて、全面的にもう 1%低減された。

②輸出保険と保証 商工省の行政監督下に置かれるインド政府の公共企業、インド輸出信用保証公社(ECGC:Export Credit Guarantee Corporation of India Limited)は、1957年に Export

Risk Insurance Corporation Limitedという名前で設立された。この公社は、輸出者に政治的または商業的な理由により輸出手続きが実行されないリスクに対する保証を提供し、銀行に各種の保証を提供し、銀行が輸出者に対する信用枠を「寛大に」拡大できるように 77 WTO文書 G/TRIMS/W12、1998年 4月 9日、および G/TRIMS/W/13、1998年 4月 6日。提起された質問に対するインドの回答は、WTO文書 G/TRIMS/W/15、1998年 10月 30日、および G/TRIMS/W/16、1998年 10月 30日に記載されている 78 WTO文書WT/DS/175/4、2000年 5月 18日、およびWT/DS/146/2、2000年 10月 13日 79 銀行・開発部(DBOD:Department of Banking Operations and Development)、回覧番号Dir.BC.108/13.3.00/ 2000-01、インド準備銀行、2001年 4月 18日

130

するためのその他の金融制度を提供する80。

(7)輸出促進とマーケティング支援81 政府は、関税減免措置による輸出支援に加え、主に商工省を通じて、マーケティング展開支援を提供し、インド製品の輸出促進を図っている。1996年に設立された India Brand

Equity Fund(IBEF)トラストは、引き続きインド・ブランドの振興を支援し、インドが世界クラスの品質を備えた製品とサービスの信頼できる供給元となることを目指す。並行して、中期的なソフトローンを提供し、世界クラスの品質と性能水準を達成した製品のインド・ブランド振興を進めている。商工省は、マーケティング展開支援スキーム(Marketing

Development Assistance Scheme)を制定し、輸出者が海外市場を開拓し、公認された製品別の輸出振興委員会(Export Promotion Council)、商品別委員会(Commodity Board)、輸出振興局(Export Development Authority)を通じて輸出を促進する作業を支援している。このスキームを補うため、特にマーケティング情報データの収集を支援し、輸出者による製品の展示に協力することで、選択した国でインドの輸出品を販売促進することを目的として、2001/02年度に市場アクセス・イニシアチブ(MAI:Market Access Initiative)が開始された。政府はマーケティング展開支援スキームとMAIのもとで、それぞれ 4億ルピーと 1億 4,500万ルピーを支出した。

いくつかの機関が輸出促進に従事している。商工省管轄の主要な貿易振興機関として、インド貿易振興局(ITPO:India Trade Promotion Organization)が挙げられる。この機関は、インド国内および外国の見本市と展示会を組織し、買い手と売り手の商談を手配し、製品と市場に関する情報を提供する。2001/01年度に ITPOは、ヨーロッパ、アメリカ、東南アジアを含む外国で 47件のイベントに参加した。輸出を促進するその他の機関には、インド貿易研究所(IIFT:Indian Institute of Foreign Trade)や国立貿易情報センター(NCTI:National Centre for Trade Information)がある。1964年に設立された IIFTは、経営幹部に研修を提供し、市場調査と製品調査を実施している。NCTI はインド会社法(Indian Companies Act in 1995)で企業として登録され、特に ITPO、商工会議所、輸出振興委員会、商品別委員会の代表者が在籍する。NCTIは市場調査を実施し、外国での引合に関する情報を提供する。また、いくつかの輸出振興委員会と商品別委員会からも、輸出者にマーケティング支援が提供されている。

3.生産と貿易に影響を及ぼす措置

(1)租税措置とその他のインセンティブ/補助金 80 商工省(2001a) 81 特に指定のない限り、本セクションの大部分は商工省(2001a)に基づく

131

①その他のインセンティブ/補助金82 インドでは、現在も補助金が重要な政策手段となっている。予算の非計画支出83では、2001/02年度の明示的な補助金は GDPの 1.2%と見積もられている84。計画支出85における各省庁の「補助金要求」にもいくつかの補助金が示されているが、特定することは難しく、ほとんどの場合、支出は明確にされていない(次表参照)86。加えて、「暗黙的な」補助金(利子や信用の補助金、減税、資本補助金など)が存在し、予算で明細が明らかにされないまま広範に利用されている87。これらは本来、監視することが難しく88、当局では 2001/02年度で GDPの 0.08%前後に相当すると見積もっている。州レベルで認められた補助金も重要であるが、詳細な情報は入手しづらい。たとえば、州電力公社(SEB:State Electricity

Board)は、農業セクターに補助金を支給するため、産業利用者に高い料金を請求する。この内部相互補助は 1992/93年度には GDPの 1.1%であったが、1999/00年度には 1.7%に増加した89。統制価格メカニズム(APM:Administered Price Mechanism)を通じて提供される指定の石油製品(灯油と LPG)に対する補助金も予算外で捻出される(セクション 2.(2)を参照)90。

表 明示的な(計画)補助金(2001~2002年度予算) (100万ルピー) 省庁 補助金 計画された総支出 (2001~2002年度予算) 農務省(Ministry of Agriculture)-農業協同局(Department of

Agriculture and Cooperation)

園芸開発計画(Horticulture

Development Programme)

Cold Storageに対する設備投資補助金も行われた

650.00

82 本セクションの「補助金」という用語は、補助金および相殺措置に関するWTO協定(WTO Agreement

on Subsidies and Countervailing Measures)の意味ではなく、インドの予算とその他の公式文書に従って使用している。本セクションには、セクション(3)(iii)に記載の輸出支援は含まれない。そのセクションに記載の補助金の一覧は完全ではない 83 非計画支出は、5カ年計画に含まれない支出を指す 84 財務省(2001c)、Vol. Iに基づく事務局独自の計算 85 計画支出は、計画委員会(Planning Commission)、財務省、中央政府の支出省庁、さらに関係する場合は州政府によって共同で決定される。これらは主に開発プロジェクトの費用からなり、投資経費および経常経費の両要素を含む 86 財務省(2001c)、Vol. I 87 CAG(日付なし)「Management of Subsidies」[オンライン]。 参照先:http://www.cagindia.org/reports/civil/2000_book1/chapter6.htm [2001年 7月 25日] 88 年次報告書の中で、会計検査院長官(CAG:Comptroller and Auditor General)がいくつかの暗黙的な補助金について分析している(CAG(日付なし)「Report of the CAG on the Union Government for the

year ended March 2000」[オンライン]。参照先:http://www.cagindia.org/reports/civil/

2001_book1/index.htm [2001年 10月 25日]) 89 IMF(2001年) 90 2002年 4月に統制価格メカニズムが廃止された後、この補助金が予算に計上される予定である

132

省庁 補助金 計画された総支出 (2001~2002年度予算) 北東部およびシッキム州向けの計画/スキームのための一括提供

種子輸送のための補助金 10.00 商工省-産業政策促進局(Department of Industrial

Policy and Promotion)

一定期間免税区域(Backward

Area)の開発

投資補助金 40.20

製造業企業への輸送補助金 900.00

工業団地 400.00

東北部への設備投資補助金 50.00

中央利子補給スキーム:製造業企業が量産に入った後、東北部にある新規の企業にワーキングキャピタル・ローンの 3%の補助金を 10年間提供する

20.00

東北部向け総合保険スキーム:1997年 12月 24日以降に東北部で設立された新規の工業ユニットに、(全インド火災保険協定料率(All India Fire Tariff)に従って)火災保険「C」を含む総合保険を提供する。このスキームでは、インド政府がインド損害保険公社(General Insurance

Corporation Ltd)を通じて、10年間分の保険料の全額を償還ベースで負担する

2.20

非在来型エネルギー資源省(Ministry of Non-Conventional

Energy Sources)

太陽エネルギー・プログラム 太陽灯、住宅照明システム、街路灯、ソーラーポンプに補助金が提供される

677.50 その他のエネルギー源 実現可能性調査、プロジェクト報告書の詳細な作成、これらのプロジェクトの設備に対する利子補給について、財政支援が提供される

2,715.00

電力省(Ministry of Power) 電力融資公社(Power Finance

Corporation)への利子補給:既存の火力 3,500.00

133

省庁 補助金 計画された総支出 (2001~2002年度予算) 発電所の近代化と改修、発電所の長寿命化に対し、中央政府から与えられる利子補給を通じ、減免された貸出金利で電力会社に支援を提供する 地方開発省(Ministry of Rural

Development)

Swaranjayanti Gram Swarozgar

Yojana

地方開発局(District Rural Development

Agencies):銀行信用供与支援やマーケティング支援などを通じた財政支援

77,450.00

地方の住宅:1999年 4月 1日に発効した貸付つき補助金スキーム(Credit-cum-subsidy Scheme)が施行されており、年収 32,000ルピー以下の地方世帯に住宅建設資金を提供している。資格のある世帯には、1万ルピーまでの補助金と 4万ルピーまでのローンが提供される

5,067.00

小規模産業省(Ministry of Small

Scale Industries and Agro and

Rural Industries)

小規模産業スキーム:中小企業の技術増強を目的とする貸付補助金

5.00

利子補給スキーム:Khadi & Village

Industries Commissionは、KVIC/KVIBに設備投資とワーキングキャピタルが登録された Khadiおよび Polyvastraの産業に 4%の利率で補助ローンを提供する。銀行の最優遇貸出金利(PLR)と 4%の差額を銀行への利子補給として供給する。このスキームでは、KVICが団体の資金提供の必要性を評価し、程度に応じた利子補給資格証(ISEC:Interest Subsidy Eligibility

Certificate)を発行する。銀行機関は ISECに基づき、その団体に対して可能な貸付を行う

190.00

農村産業:地方雇用創出プログラム(REGP:Rural Employment Generation

50.00

134

省庁 補助金 計画された総支出 (2001~2002年度予算)

Programme)のもとで、保証金が提供される。この補助金の内訳は、100万ルピーまでのプロジェクトについてはプロジェクト・コストの 25%、100万~250万ルピーのプロジェクトについては 25万ルピー+プロジェクト・コストの 10%となる 海運省(Ministry of Shipping) Shipping Corporation of Indiaへの補助金:Shipping Corporation of Indiaは、本土とアンダマン・ニコバル諸島間、本土とラクシャドウィープ諸島間で旅客サービスを運営している。これらのサービス運営に関する運営損失を満たすため、補助金が提供される

..

その他のプログラム:船舶補助サービス、国立船舶設計研究センター(National Ship

Design and Research Centre)、造船の研究開発スキームを展開するための補助金、および帆船産業への補助金

2.00

観光文化省(Ministry of Tourism

and Culture)

その他のプログラム:1つ星、2つ星、3つ星ホテルの建設プロジェクトに資金を提供するためのローンについて、特定の金融機関に金利格差を支払う

90.00

水資源省(Ministry of Water

Resources)

指令地域開発:地ならし、整地、スプリンクラー、点滴潅水について、IRDPパターンの小規模および零細農業生産者にローンへの補助金を供給する

..

.. 該当なし 出展: 財務省(Ministry of Finance)(2001c)、2001/2002年度予算

明示的(非計画)補助金の支出は、1997/98年度以降大幅に(24%)増加し、主要およびその他の補助金もほぼ同じ割合(約 24%)で増加している(次表を参照)91。食糧と肥料(減免措置を受けた肥料の販売も含む)への補助金は、引き続き最重要である(それぞれ、補 91 ルピーの実質値で見た増加率も同様である

135

助金支出合計の 45.9%および 47.6%を占める)92。

表 明示的(非計画)補助金、1997/98年度および 2001/02年度 (米ドルおよび%)

1997/98年度 a 2001/02年度 b 増加率(%) 補助金合計 5,285.6 6,565.2 24.2 主要補助金 4,941.7 6,134.3 24.1 食糧補助金 2,125.7 3,012.6 41.7 肥料(国産および輸入) 1,998.1 1,862.9 -6.8 農業生産者への減免措置を受けた肥料販売 699.6 1,258.8 79.9 輸出促進と市場開発 118.4 n.a. - その他の補助金 322.9 399.4 23.7

NAFEDを通じたコプラの買い支え 0.3 5.5 2,054.6 国際航空会社(Air Indiaを含む)に販売した航空燃料の売上税の代わりとなる州政府に対する支払い

0.0 n.a. - メッカ巡礼者向けのチャーター便運行の補助金 20.6 34.0 65.0 配当軽減およびその他の減免に対する鉄道会社への補助金 141.6 n.a. - 貧困層向けの保険スキーム 3.2 n.a. - 暴動犠牲者に対する利子免除 1.1 0.1 -94.9 東北部のヘリコプターに対する補助金 2.3 2.2 -3.9 砂糖の緩衝在庫の保守 47.1 0.2 -99.5 食用油輸入で生じた損失に関する国有貿易公社への償還 5.4 11.0 104.7 不採算航路に対する Shipping Corporation of Indiaへの補助金

3.0 n.a. - 造船所への補助金 12.8 10.6 -17.1

Cochin Ship Yard Ltd 2.8 4.4 57.3

Hindustan Shipyard Ltd 3.5 0.9 -74.9 船舶の取得-金利格差 6.5 5.3 -17.9 手織物の補助金 17.1 0.2 -98.7 手織物に対する特別払い戻し金 7.9 .. - ジャナタ布に対する補助金 8.1 .. - その他 1.1 .. - 為替差損の補償 37.4 323.1 763.8 インド産業開発銀行(Industrial Development Bank of 4.9 32.6 571.3

92 2000年 2月の予算演説に続いて設立された経費改革委員会(ERC:Expenditure Reforms Commission)は、食糧補助金を削減し、肥料補助金を合理化する一連の措置を提案した(財務省、2001a)

136

1997/98年度 a 2001/02年度 b 増加率(%)

India) インド産業信用投資公社(Industrial Credit and

Investment Corpn. of India)

19.2 12.6 -34.5 国立住宅銀行(National Housing Bank) 0.8 1.8 125.2 住宅開発金融公社(Housing Development Finance Corpn.) 12.6 14.3 14.1

NRI債券スキームの為替差損 n.a. 1.8 - 印僑向け債券の為替差損 n.a. 259.9 -

PDILに未払いのインド政府ローンの利子と遅延利息の償却 12.1 n.a. -

J & Kの借り手に対する債務救済スキーム 13.5 10.1 -24.7

Central Electronics Ltd.のローン償却 5.5 n.a. - アッサム・ガス・プロジェクトへの補助金 n.a. 0.0 - 保証料の補助金 n.a. 2.1 -

Heavy Engineering Corporation n.a. 0.6 -

Hindustan Cables Ltd. n.a. 0.2 -

Bharath Bhari Udyog Nigma Ltd. n.a. 0.1 -

Hindustan Machine Tools Ltd. n.a. 1.0 -

Praga Tools Ltd. n.a. 0.1 -

Hindustan Steelworks Construction Ltd.の保証料に対する補助金

n.a. 0.2 - 利子補給 20.9 31.6 50.8

n.a. 該当なし

.. 該当なし

a 修正

b 予算に計上 注: 2001/02年度に使用したルピー/米ドルの為替レート=2000/01年度 4~12月のみ(=45.39244) 出展: 財 務 省 の オ ン ラ イ ン 情 報 。 www.nic.in/indiabudget/budget98-99 お よ びwww.nic.in/indiabudget/ub2000で参照

インド食糧公社(FCI:Food Corporation of India)は、一定の調達価格(最低保障価格または供出価格とも呼ばれる)で穀物を購入する。この穀物は、公共配給制度(PDS:Public Distribution System)により、各州を通じて「中央発行価格」で配給される。経済費用(取得費用と配給費用)93と中央発行価格の差額が補助金となる。肥料補助金には、国産および輸入尿素への補助金、尿素の輸送にかかる運賃への補助金、その他の肥料(価格統制されていない肥料)の減免価格での販売がある。国産尿素への補助金は、農業生産者に「手頃 93 取得費用には、最低保障価格、税、梱包費用、穀物の調達に付随するその他の雑費が含まれる。配給費用には、輸送費、倉庫料、調達機関(インド食糧公社)の一般管理費が含まれる

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な」価格で肥料を提供しながら、肥料製造者に投資に対する「妥当な」利益94をもたらすことを目的とする(セクション 2.(2)を参照)。国内生産では需要を十分に満たせないため、尿素の輸入にも補助金が支給される。さらに、3種類の肥料をバランスよく組み合わせて使用することを奨励するため、1992年に価格が自由化されたリン酸肥料とカリウム肥料も減免された価格で販売される。

利子補給は 2001/02年度に補助金全体の 0.5%を占め、1997/98年度から 50%増加している。これらのスキームのもとで、政府は減免した利率でローンを提供したり、特定のケース、たとえば PSE に利子の支払いを免除する95。これらの利子補給は、インドの高い実質金利の影響を軽減するのに役立つ。利子補給は、さまざまな省庁(財務省、重工業・民間企業省(Ministry of Heavy Industries and Public Enterprises)、鉄鋼省(Ministry of Steel)、情報放送省(Ministry of Information and Broadcasting)など)が管轄し、非常に幅広い目的で供与される。たとえば、財務省は、Goan Bankと国営銀行に補助金に基づく利率でローンを提供している。重工業・民間企業省は、再生スキームの一環として、Hindustan Paper Corporation Ltd.、Heavy Engineering Corporation Ltd.、Hindustan Machine Tools Ltd.に利子補給を供与している。Steel Authority of India Ltd.は、政府との間で締結した財務・事業再構築協定の一環として、自主退職制度(VRS:Voluntary Retirement Scheme)の実施に向けたローンの利子を支払うため、50 億ルピーの補助金を受けた。さらに、Steel

Authority of India Ltd.は、政府から損失続きの子会社である Indian Iron and Steel

Companyに供給されたローンの利子放棄も受けた。この利子放棄は、産業・財政再建委員会(BIFR:Board for Industrial and Financial Restructuring)に一任された96。

94 尿素に対する最低留保価格付き補助金スキーム(RPS)では、政府によって規定された標準的な稼動率に基づき、平均的な実際の費用と経費を加えた 1トンあたりの固定留保価格を個々の製造者に提示する。妥当な収益率は税引き前の純資産利益率として定義され、12%の税引き後利益率に相当する 95 財務省(2001c)、Vol. I 96 より多くの例については、連邦政府予算(Union Budget)2001~02 [オンライン]を参照。参照先:http://indiabudget.nic.in/ub2001-02/eb/vol2.htm [2001年 10月 30日]