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彩景: 感性評価と GA を用いた街並みの色彩計画支援システム 1 2 クーパー エリック 3 2 IroKage: A Townscape Colour Planning Support System Using Kansei Evaluations and GA Yuichiro Kinoshita 1 , Yoshiaki Sakakura 2 , Eric W. Cooper 3 and Katsuari Kamei 2 Abstract Townscape colours have been a main issue in urban-development. For townscape colours, keeping colour harmony within the environment is a common goal. Expressing characteristics and impressions of the town in townscape colours are other meaningful goals. This paper describes the colour planning support system intended to improve townscapes. The system offers some colour combination proposals based on three elements: colour harmony, impressions of the townscape, and cost for the change of colours. The system is constructed using a genetic algorithm and the three evaluation models. After the construction, performance tests are conducted. The results show that our system achieved sufficient ability to propose appropriate colour combinations with minimum colour changes. Keywords : Kansei, evaluation, townscape, colour harmony, genetic algorithm 1. はじめに において, する 一つ ある. する える がいくつか んだ がりが る.そこ ,一つ くいくつか ある「街 み」 する がある. これま 多く 案されており,これら を街 するこ ,より れた みを するこ ある.しかし がら, った をイメージ していかに して するか ある. に, を対 した 1980 より にあり,そ 100 る.そ して, くりに する ある「 」「 」「 ・らしさ」 が多 されている [1] みに対し,そ コンセプト イメージ し,それを に街 う一 いう. ,ニュータ デザイン, ある. つイメージを した れている.しかし,それら 多く *1 大学大学院  *2 大学  *3 大学  システム学 *1 Graduate School of Science and Engineering, Rit- sumeikan University *2 Department of Human and Computer Intelligence, Rit- sumeikan University *3 Department of Computer Science, Ritsumeikan University デザイナー づき, されて いる ある. そこ イメージ がら,街 援する「 援システム」 する. 2. 街並みの色彩計画支援システム 援システム 1 すように, したい イメージを し,そ 案を する.システム まず, ユニットによって される. された ユニッ して あるかが される. じめに, ユニット された して しているかを モデルを いて する. に,感 モデルを いて, され したい イメージに しているかを する. 援システムに された したいイメージ えるイメージ め, さい るように める.ここ ,システム して みを扱う された 案が イメージ あって ,街 みを する て変 するこ ある.多く ,一 を変 するこ る.そこ ,コスト モデルにおいて, に変 する コストを し, コスト るように する. に, ユニットによって, が一 した わせが され, してシステムから される.

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彩景: 感性評価とGAを用いた街並みの色彩計画支援システム

木下 雄一朗∗1  坂倉 義明∗2  クーパー エリック∗3  亀井 且有∗2

IroKage: A Townscape Colour Planning Support System Using Kansei Evaluations and GA

Yuichiro Kinoshita∗1,  Yoshiaki Sakakura∗2,  Eric W. Cooper∗3  and Katsuari Kamei∗2

Abstract – Townscape colours have been a main issue in urban-development. Fortownscape colours, keeping colour harmony within the environment is a common goal.Expressing characteristics and impressions of the town in townscape colours are othermeaningful goals. This paper describes the colour planning support system intendedto improve townscapes. The system offers some colour combination proposals based onthree elements: colour harmony, impressions of the townscape, and cost for the changeof colours. The system is constructed using a genetic algorithm and the three evaluationmodels. After the construction, performance tests are conducted. The results show thatour system achieved sufficient ability to propose appropriate colour combinations withminimum colour changes.

Keywords : Kansei, evaluation, townscape, colour harmony, genetic algorithm

1. はじめに

都市景観において,都市を構成する建物の色彩は,重要な

要素の一つである.都市を構成する建物の色彩を考える場

合,個々の建物がいくつか並んだ時の色彩のつながりが重要

な要素となる.そこで,一つの建物ではなくいくつかの建

物の連なりである「街並み」の色彩に着目する必要がある.

これまでに数多くの色彩調和論が提案されており,これら

を街並みの色彩に適用することで,より色彩調和のとれた

街並みを実現することが可能である.しかしながら,色彩

調和を保った上で,都市の持つ風土性や歴史等の個性,独

自性をイメージとしていかに色彩として表現するかも重要

な問題である.実際に,都市景観を対象とし景観の修景と

創造を目的とした都市型の景観条例は,1980年代より増加

傾向にあり,その交付例は現在までに 100 以上に上る.そ

して,都市型の景観条例の前文と目的には,都市の個性づ

くりに関連する用語である「歴史」「自然」「個性・らしさ」

が多用されている [1].

都市や地域の街並みに対し,そのコンセプトやイメージ

を決定し,それを基に街並みの配色を行う一連の作業を色

彩計画という.色彩計画の対象は,現存の街並み景観の保

存,ニュータウンのデザイン,都市の再開発等様々である.

都市の持つイメージを考慮した色彩計画は,過去に報告さ

れている.しかし,それらの計画の多くは,過去の計画事

*1:立命館大学大学院 理工学研究科*2:立命館大学 情報理工学部 知能情報学科*3:立命館大学 情報理工学部 情報システム学科*1:Graduate School of Science and Engineering, Rit-sumeikan University

*2:Department of Human and Computer Intelligence, Rit-sumeikan University

*3:Department of Computer Science, RitsumeikanUniversity

例やデザイナーの経験に基づき,個別に計画し決定されて

いるのが現状である.

そこで本研究では,色彩調和のみでなく都市のイメージ

を考慮しながら,街並みの色彩計画を支援する「色彩計画

支援システム」の構築を目的とする.

2. 街並みの色彩計画支援システム

色彩計画支援システムは,図 1 に示すように,現状の街

並みの色彩と実現したい都市のイメージを入力とし,その

街並みの色彩修正案を出力とする.システムではまず,色

彩修正案生成・選択ユニットによって色彩修正案の候補が

多数生成される.生成された候補は,色彩修正案評価ユニッ

トで,色彩修正案として適切であるかが評価される.

はじめに,色彩修正案評価ユニットでは,生成された候

補が実際の街並みとして適しているかを色彩調和モデルを

用いて評価する.次に,感性評価モデルを用いて,生成され

た候補が実現したい都市のイメージに適しているかを評価

する.支援システムに入力された実現したいイメージと色

彩修正案候補が与えるイメージとの差を求め,差の小さい

ものほど高評価となるように定める.ここで,システムの

対象として現存の街並みを扱う場合,生成された色彩修正

案が色彩調和や都市のイメージの面で最適であっても,街

並みを構成する建物の色を全て変更することは,現実的に

不可能である.多くの場合,一部分の色彩を変更すること

となる.そこで,コスト評価モデルにおいて,現状の色彩

を色彩修正案の色彩に変更するのに必要なコストを算出し,

コストの低いものほど高評価となるように評価する.

最終的に,色彩修正案生成・選択ユニットによって,評価

値が一定の基準に達した色彩の組み合わせが選択され,色

彩修正案としてシステムから出力される.

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図 1 色彩計画支援システム「彩景」概要Fig. 1 Block diagram of the IroKage colour

planning support system.

図 2 調和範囲と曖昧範囲 (Moon,他, 1944)Fig. 2 Regions of harmonious and ambiguity

(Moon, et al., 1944).

3. 色彩調和モデル

3. 1 色彩調和のための美的尺度

Moon らは,マンセル表色系における 2 色間の関係を,

2色間のHue,Value,Chromaの差に基づき,調和(har-

mony)と曖昧(ambiguity)として整理した [2].図 2にHue,

Value,Chromaにおける調和範囲と曖昧範囲を示す.図中

の Identity,Similarity,Contrastが調和範囲,1st ambi-

guity,2nd ambiguityは曖昧範囲である.

Birkhoff によると,美的尺度(aesthetic measure) M

は,式 (1)のように表すことができる [3].

M =O

C(1)

ここで,Oは秩序成分,C は複雑さ成分である.

Moonらは,2色間の調和・曖昧の関係に着目し,色彩調

和における O,C を算出する式を提案した [4].Ncolour を,

デザイン中に使われている色数,NHdif を 2色間で Hueが

異なる色の組の数,同様に,Value が異なる色の組の数を

NVdif,Chromaが異なる色の組の数を NCdif とすると,C

は,式 (2)のように表すことができる.

C = Ncolour + NHdif + NV dif + NCdif (2)

また,2色間のHue,Value,Chromaの差が,Identityの

範囲である色の組の数をそれぞれ,NHi,NVi,NCi とする.

1st ambiguity,Similarity,2nd ambiguity,Contrastに関

しても同様に,それぞれNH1a,NV1a,NC1a,NHs,NVs,

NCs,NH2a,NV2a,NC2a,NHc,NVs,NCc とする.さら

に,無彩色の組の数をNG,2色間の Valueの差が 10以上

(Glare)である色の組の数をNVg とすると,Oは,式 (3)

のように表すことができる.

O = A +1.5NHi − 1.3NV i + 0.8NCi

+1.1NHs + 0.7NV s + 0.1NCs

+1.7NHc + 3.7NV c + 0.4NCc

+0.0NH 1a − 1.0NV 1a + 0.0NC 1a

+0.65NH 2a − 0.2NV 2a + 0.0NC 2a

+1.0NG − 2.0NV g (3)

ここで,Aは,領域のバランスを表す数値である.

3. 2 街並みのための色彩調和モデルの構築

Moon らによる美的尺度の対象は,一般的なデザインで

ある.筆者らは,Moon らの美的尺度を街並みの色彩に拡

張し,高木・菅野ファジィモデル [5] を用いて,街並みの色

彩調和モデルを構築した.モデルへの入力は街並みの色彩,

モデルからの出力は美的尺度である.街並みの色彩は,各

建物ごとに,壁色,屋根色,建具色を使用した.

モデルでは,まず,全ての色彩の組み合わせに対して,2

色間の秩序成分を計算する.色彩 i,色彩 j間の秩序成分 oij

は,式 (4)によって決定される.

oij = ohueij + ovalue

ij + ochromaij (i |= j) (4)

ここで,ohueij ,ovalue

ij ,ochromaij は,それぞれ,oij の Hue,

Value,Chroma成分である.

ohueij ,ovalue

ij ,ochromaij は,図 3に示すメンバーシップ関

数と表 1に示すファジィルールによって決定される.ここで

表中のΔhueij,Δvalueij,Δchromaij はそれぞれ,色彩

i,色彩 j 間の Hue,Value,Chromaの差である.μv,μc

は,式 (5)の条件の下,図 3のメンバーシップ関数によって

算出される.

μv(r, θ) = μc(r, θ) (θ |= 0,π

2, π,

3

2π) (5)

ここで,

Δvalueij = r sin θ, Δchromaij = r cos θ . (6)

次に,求められた 2 色間の秩序成分をもとに,街並み全

体の秩序成分 Ofuzzy が式 (7)によって決定される.

Ofuzzy = NG +

Ncolour∑

i=1

Ncolour∑

j=1

oij (i |= j) (7)

現在,国内の都市景観条例やガイドラインの多くで,高彩

度の色彩を避ける事が提言されている.街並みの色彩にお

いて,これらの色彩は色彩の調和を妨げる要素となる.そ

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図 3 Identity,1st ambiguity,Similarity,2ndambiguity,Contrastのメンバーシップ関数

Fig. 3 Membership functions of the fuzzysubsets of Identity, 1st ambiguity, Sim-ilarity, 2nd ambiguity and Contrast.

こで本モデルでは,算出された美的尺度からこれらの要素

を差し引く.最終的に色彩調和モデルから出力される美的

尺度Mfuzzy は式 (8)で表される.

Mfuzzy =Ofuzzy

C−

Ncolour∑

i=1

ui (8)

ここで,ui は色彩 iにおいて調和を妨げる要素であり,図

4に示すメンバーシップ関数と表 2に示すファジィルールに

よって決定される.

色彩調和モデル構築後,構築したモデルの有効性を検証

するため,20人の被験者を対象として SD法 [6]を用いたモ

デル評価実験を行った.実験サンプルとして,建物を正面

から撮影した街並み写真を用いる.色彩以外の条件を統一

するために,同一の街並みに着色を行うことで 50枚のサン

プルを作成した.被験者は,提示されたサンプルに対し,5

段階の SD尺度上から最もあてはまる評価を選択する.評

価実験結果と色彩調和モデルによる出力を比べた所,ほと

んどのサンプルにおいて,十分な精度が得られた.評価実

験結果と色彩調和モデル出力値の相関係数は,50枚のサン

プルを対象として r=0.57 であった(p< 0.01).この結果

から,構築された色彩調和モデルは有効であるといえる.

4. 感性評価モデル

4. 1 街並みイメージの感性評価実験

感性評価モデルは,街並みに使われている色彩を入力と

し,その街並みの色彩から受ける標準的なイメージを出力

する.本研究では,表 3に示す 12の形容詞を用いて都市の

イメージを表現する,感性工学の手法に基づき,街並みの

表 1 秩序成分を計算するファジィルールTable 1 Fuzzy rules for calculation of ele-

ments of order.

前件部 後件部Δhueij is Identity ohue

ij is 1.5

Δhueij is 1st ambiguity ohueij is 0.0

Δhueij is Similarity ohueij is 1.1

Δhueij is 2nd ambiguity ohueij is 0.65

Δhueij is Contrast ohueij is 1.7

Δvalueij is Identity ovalueij is −1.3

Δvalueij is 1st ambiguity ovalueij is 0.7

Δvalueij is Similarity ovalueij is 3.7

Δvalueij is 2nd ambiguity ovalueij is −1.0

Δvalueij is Contrast ovalueij is −0.2

Δchromaij is Identity ochromaij is 0.8

Δchromaij is 1st ambiguity ochromaij is 0.1

Δchromaij is Similarity ochromaij is 0.4

Δchromaij is 2nd ambiguity ochromaij is 0.0

Δchromaij is Contrast ochromaij is 0.0

図 4 Chroma値のメンバーシップ関数Fig. 4 Membership function of chroma val-

ues.

表 2 調和を妨げる要素を計算するファジィルールTable 2 Fuzzy rules for calculation of aes-

thetic obstruction.

前件部 後件部chroma is low ui is 0

chroma is medium ui is 0.25 × chroma − 1.5

chroma is high ui is 0.5

色彩とそれらが与えるイメージとの関係を定量化し,その

結果をニューラルネットワークで学習させることでモデル

の構築を行った [7].

まず,感性評価の対象となる住宅地の街並みサンプルを

100枚用意する.これらのサンプルは,色彩調和モデルの評

価で用いたサンプルと同様,同一の街並み写真を着色する

ことで作成した.ただし,使用する色は実際の街並みを調

査し,主にそこに使われている色とした.

100枚の街並みサンプルに対して SD法による感性評価実

験を行った.実験の被験者は合計 20 名である.被験者は,

それぞれの形容詞対ごとに,提示された街並みサンプルか

ら受けるイメージとして適するものを,5段階の SD尺度上

から選択する.サンプルの提示は,被験者毎にそれぞれラ

ンダムに行った.

4. 2 感性モデルの構築

感性モデルの構築には,各形容詞対ごとに 1 つのニュー

ラルネットワークを用いて行った.100 枚の街並みサンプ

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表 3 街並みのイメージに関する形容詞対Table 3 Pairs of adjective words related to

townscape.

形容詞番号 形容詞対1 つめたい 暖かい2 雑然とした 整然とした3 落ち着かない 落ち着いた4 親しみのない 親しみのある5 心地よくない 心地よい6 人工的な 自然な7 典型的な 個性的な8 保守的な 進歩的な9 ひっそりした 賑やかな10 古風な 現代的な11 格調のない 格調のある12 欧米的な 日本的な

ルから,各サンプル中における色彩の色相・彩度分布に着

目し,それらが偏らないように注意しながら 62枚を学習用

データとして選定した.また,学習用データに使用しない

サンプルのうち,20枚を,検証用データとし,モデル構築

後の検証実験に使用する.

モデルの入力値はサンプル中の各建物ごとに,壁色,屋

根色,建具色とし,L∗a∗b∗ 表色系で表現する.また,モデ

ルの出力は,各形容詞の SD評価値とする.各入出力値は

[0, 1]の範囲の実数値に正規化して扱う.ニューラルネット

ワークの学習には,バックプロパゲーション法を用いた.

モデルの構築後,そのモデルの有効性について検証を行っ

た.構築したモデルに,20枚の検証用サンプルの色彩を入

力し,感性モデルによって得られた出力と,評価実験での

評価値平均との誤差を求めた.その結果,90%以上のサン

プルにおいて,誤差は 0.25以下を示した.これは 5段階の

SD尺度における 1以下に相当し,支援システムの構成に有

効な結果である.

5. 色彩修正案生成・選択ユニット

5. 1 構築アプローチ

生成・選択ユニットでは,システムに入力された現状の街

並みの色彩をもとに街並みの色彩修正案を多数生成し,同

時に,その色彩修正案を色彩調和モデル,感性評価モデル,

コスト評価モデルの各評価値にもとづいて選択する.

ここで問題となるのが,異なった基準や尺度にもとづく複

数の評価の下で,適した色彩修正案を選択する方法である.

筆者らは,これらの評価を人間の感覚に沿って統合する方

法を調査するために,評価実験を行った.その結果,一つ

の評価が際立って高い場合,その評価が最終的な総合評価

に強く影響を与え,他の評価はほとんど影響を与えていな

いことが明らかとなった [8].したがってこの問題では,単

純に 3 つの評価の平均値を用いるのは適切ではなく,各評

価それぞれに着目することが必要である.

目的関数 fe の最大化問題において,式 (9)が成り立つと

き,解 aは解 bに「優越する」という [9].

図 5 個体のエンコーディングFig. 5 Encoding of individuals.

図 6 初期化および突然変異における色彩変更パターン

Fig. 6 Colour alteration patterns in the ini-tialization and mutation processes.

fe(a) >= fe(b) (∀e ∈ {1, 2, · · · , n}, a |= b) (9)

ある解が他の解に優越されないとき,その解をパレート最

適解と呼ぶ.本システムでは,色彩調和評価,感性評価,コ

スト評価の 3 目的におけるパレート最適解を遺伝的アルゴ

リズム(GA)を用いて探索する.

5. 2 エンコーディング

生成・選択ユニットでは,街並みの色彩として,街並みを

構成する 3つの建物の壁色,屋根色,建具色の合計 9色を

使用する.壁色,屋根色は CIELAB表色系における,L∗,

a∗,b∗ の各値で表現され,建具色については,色域が限ら

れているため L∗ 値のみが使用される.GAでは,各値は実

数値でコーディングされ,一個体は,図 5 に示すように合

計 21の値で構成される.L∗ は [0, 100]の範囲,a∗ および

b∗ は [-50, 50]の範囲の値をとる.

5. 3 色彩修正案探索アルゴリズム

・初期化

現状の街並みの色彩のうち,数色を変更し,GA の初期

世代を構成する複数の個体を生成する.各個体の生成では,

まず,現状の街並みの色彩全 9 色から,変更の対象となる

色彩が最大 3 色ランダムに選ばれる.選ばれた対象色が壁

色もしくは屋根色であった場合,対象色に対して図 6 に示

す (a)~(c)の 3つの変更パターンのいずれかが適用される.

パターン (a)では,L∗,a∗,b∗ 全てがランダムに生成され

た値に置き換えられる.パターン (b)では,L∗ 値のみがラ

ンダムに変更される.このパターンでは,色彩の明度のみ

が変更され,他の属性は保持される.一方,パターン (c)で

は,a∗,b∗ 値がランダムに変更される.ここでは,色彩の

明度が保持され,色相,彩度が変更される.建具色が変更

の対象色となった場合,L∗ 値が 10または 90のいずれかに

ランダムに置き換えられる.

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表 4 検証用いたサンプル色Table 4 Test Sample Colours.

・評価

生成された各個体は,色彩調和モデル,感性評価モデル,

コスト評価モデルの 3 モデルによって評価される.色彩調

和モデルには,各個体の L∗,a∗,b∗ 値がマンセル表色系に

変換され入力される.一方,感性評価モデルには各個体の

L∗,a∗,b∗ 値が直接入力される.コスト評価において,た

とえ修正案が現状の色彩と似た色彩であったとしても,色

彩を変更するという点ではコストはほぼ同じである.そこ

で本研究では,単純に色彩変更箇所数をコスト評価として

採用した.

・選択

各評価値に基づき各個体のランクが決定される.個体 iの

ランク ri は,式 (10)によって表される.

ri = Np − ni (10)

ここで Np は個体数であり,ni は個体 iを優越する個体の

数である.次に,各個体のランクを用いて次世代への親個

体を選択する.個体 i が次世代への親個体として選択され

る確率 P (i)は,式 (11)によって表される.

P (i) =ri∑Np

j=1rj

(11)

・交叉

選択された親個体に対し,一定の確率で一点交叉を適用

する.交叉点は,図 5中に黒矢印で示される 8つの交叉候

補点からランダムに 1点が選択される.交叉点を境に一方

の親個体の値と他方の親個体の値が入れ替わる.L∗-a∗ 間

及び,a∗-b∗ 間では交叉が行われないないため,この段階で

は,色彩自体の変更は行われず,色彩の組み合わせのみが

変更される.

・突然変異

交叉後,一個体を構成する全 9 色に対し,それぞれ一定

の確率で突然変異を適用する.壁色,屋根色において突然

変異が適用された場合,初期化時の処理と同様に,図 6 に

示す変更パターンのいずれかが適用される.建具色におい

ても同様に,L∗ 値が 10,90のいずれかに置き換えられる.

突然変異適用後,これらの個体は,次世代を構成する個

体となる.システムでは,全世代を通して個体を保存し,最

終的にそれらの中からランクの高い個体を出力する.

表 5 サンプル No. 1におけるシステム出力例Table 5 System output examples for sample

No. 1.

図 7 サンプル No. 1におけるシステム出力例のカラーシミュレーション(色彩調和評価値,感性評価値)

Fig. 7 Repaint simulations for sample No. 1.

6. 結果と考察

表 4に示す 2種類のサンプルを用いて,構築した色彩計

画支援システム「彩景」のパフォーマンスを検証した.GA

の各パラメータは,個体数を 100,交叉率を 0.9,突然変異

率を 0.03,終了条件を 300世代とした.また,街並みで実

現したいイメージを,サンプル 1において「格調のある」,

サンプル 2 において「暖かい」および「落ち着いた」と設

定した.

表 5に,サンプル 1に対するシステム出力例を,図 7に

そのカラーシミュレーションを示す.表中にボールドで表記

されている数値は,システムによって変更された数値であ

る.サンプル 1 は,白,灰等の無彩色を中心に構成されて

いる.システム適用前のサンプル 1 に対する評価は,色彩

調和評価が 1.23,感性評価が 0.41であった.システムはこ

のサンプルにおいて,主に明度の高い色彩を明度の低い色

彩に変更した.出力 1Aでは,サンプル中,向かって左側の

建物の壁色が暗い紫に変更された.この一色の変更によっ

て色彩調和評価が 1.44に向上した.出力 1Bでは,色彩調

和評価が 1.81,感性評価が 0.58に向上した.この出力色の

うち,暗い灰,暗い茶は,システムに入力された色彩の明

度のみが変更されて生成されたものである.

表 6に,サンプル 2に対するシステム出力例を,図 8に

そのカラーシミュレーションを示す.システム適用前の色

彩調和評価および感性評価は,それぞれ 1.35,0.12 であっ

た.システムは,主に黄系や赤系の色彩の組み合わせを出

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表 6 サンプル No. 2におけるシステム出力例Table 6 System output examples for sample

No. 2.

図 8 サンプル No. 2におけるシステム出力例のカラーシミュレーション(色彩調和評価値,感性評価値)

Fig. 8 Repaint simulations for sample No. 2.

力している.これらに色彩は一般的に暖色と呼ばれ,実現

したいイメージである「暖かい」に適合する.サンプル中,

向かって右側の建物の壁色である青緑は,どの出力例にお

いても変更されている.これは,青緑が実現したいイメー

ジに相応しくない色彩であった事を意味する.出力 2A で

は,この青緑が茶に変更されており,この一色の変更によっ

て感性評価が 0.54 に向上した.2カ所の色彩を変更した出

力 2Bでは,感性評価が 0.66 に向上し,さらに色彩調和評

価も向上した.ここで,中央の建物の色彩は,どの出力例

においても変更されていない.これは,この建物の色彩が,

色彩調和や求められるイメージの実現において問題のない

ものであったことを意味する.構築したシステムは,変更

の必要がない色彩を保持し,相応しくない色彩のみを変更

していることがわかる.

図 9 に,GAにおけるサンプル 2 の代表的な個体分布を

示す.各個体は,3つの評価軸のうちコスト評価を除いた 2

軸上に示されている.図中の個体 Pは,感性評価値が際立っ

て高い個体の例である.サンプル 2においてこのような個

体は,赤や黄などの暖色系の色彩を多く含む.一方,個体

Qは色彩調和において高い評価を得ている.このような個

体は主に無彩色の色彩で構成されている.この結果から,シ

ステムは,適切かつ幅広いバリエーションの色彩修正案を

提案する事に成功している事がわかる.

図 9 サンプル 2における代表的な個体分布Fig. 9 Typical individual distribution for test

sample No. 2.

7. おわりに

本稿では,街並みのコンセプトやイメージをもとに色彩

計画の支援を行う色彩計画支援システム「彩景」の構築を

行った.構築されたシステムを用いて街並みの色彩計画を

行った結果,色彩調和や街並みのイメージコンセプトにお

いて最適な色彩計画が,最小限の色彩の変更で実現された.

今後,本システムを実際の都市に適用し,景観に問題のあ

る街並みの色彩修正案を提案してゆく予定である.

参考文献[1] 北條, 他: 昭和 53年から平成 10年における都市型の

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