60
1認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 ―構構構構構 構構構構構構構構構― 認認 1. 構構構構 構構構構構構構 () 認認認認認認認認認認認認 Lakoff 1987 )、 Fillmore et al. 1988 認認認認認認認認認認 Goldberg 1995,1999 認認認 )、( 2000)、 Croft 2002 )、 Michaelis 2003 認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認 認認認認認認認認 resultative construction 認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認 認認 認認認認 認認認認認認認認認認 認認認認認 認認 認認 認認 construction 1 認認認認認認認認認認認 認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認 認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認 認認認認 認認認認認認認認認 認認認 認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認 認認認認認認認認 認認認認 認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認 symbolic unit 認認認認認認認認認認認認認認認 認認 認認認認認認 認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認 一、 認認認 認認 認認認認認認認認 認認 認認認認認認認認認認認認認認認 認 認認認認認認認認認認認 認認認 認認認認 、( 認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認 認認認認認認 )。、 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認 認認認認認認認 認認認 認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認 、、。 1認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 2認認認認認 認認認認認認認認認認認認認 、、 3認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認 認認認認認認 認認 。、 3認認認認認認認認認認認認認認認認認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認 認 、。 1 認認 (一、)construction 認 認認認 認認 認認 認認認 、一、。、体 (認認 p.c.) 認認 認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認認 。、 、「」 認認 2.3 認

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〈1〉

認 知 事 象 の 複 合 的 制 約 に 基 づ く 結 果 構 文 再

考 ― 構 文 現 象 の 体 系 的 記 述 を 目 指 し て ―

李  ジ ェ

在  ホ

1. は じ め に ( 本 研 究 の 目 的 )

本 研 究 は 二 つ の 目 的 を 持 つ 。 第 一 に 、

Lakoff ( 1987 ) 、 Fillmore et al. ( 1988 ) の 先 駆 的 研

究 な ら び に Goldberg ( 1995,1999 ) 、 山 梨

( 2000 ) 、 Croft ( 2002 ) 、 Michaelis ( 2003 ) ら に

よ っ て 展 開 さ れ た 構 文 理 論 の 枠 組 み か ら 、

日 本 語 の 結 果 構 文 ( resultative construction) を 分 析

す る こ と で 、 語 彙 意 味 論 の 限 界 を 解 決 し 、

ま た 新 た な 結 果 構 文 分 析 を 提 案 す る こ と で

あ る 。 第 二 に 、 こ の 構 文 ( construction1 ) の 認

知 事 象 を 記 述 す べ く 、 時 空 間 の 制 約 を 取 り

入 れ た 新 た な モ デ ル を 提 案 す る 。 ま た こ れ

ら 二 つ の 提 案 に よ り 、 間 接 的 に 日 本 語 の 分

析 に お い て も 、 構 文 的 ア プ ロ ー チ が 妥 当 で

あ る こ と を 示 し 、 構 文 理 論 の 新 た な 可 能 性

を 探 っ て い き た い 。

本 研 究 は 、 上 記 の 第 一 の 論 点 を 実 証 す べ

1 (一部の研究者間では、すでに共有されている知見ではあるが)construction に対する日本語

訳「構文」は、一般的ではあるが、誤解を招く恐れさえもある。これに関しては、むしろ「構成

体」と訳すべきであるという指摘もある(山梨 p.c.)。だが、多くの研究者に共有されている現状

を考慮し、「構文」という訳語を採用する。この点に関連する問題は 2.3 節で再び議論する。

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〈2〉

く 、 日 本 語 の 語 順 に よ る 交 替 現 象 を 取 り 上

げ 、 記 述 レ ベ ル で そ の 考 察 を 行 う 。 と り わ

け 、 語 順 に よ る 意 味 的 相 違 に 着 目 し 、 統 語

パ タ ー ン そ の も の が 示 す シ ン ボ リ ッ ク ・ ユ

ニ ッ ト ( symbolic unit ) と し て の 制 約 を 観 察 記

述 し て い く 。 ま た 、 考 察 の 際 に は 、 従 来 の

動 詞 の 意 味 分 解 に 基 づ く 結 果 構 文 分 析 の 本

質 的 問 題 を 明 ら か に す る 。 第 一 の 論 点 に 関

連 し 、 結 論 と し て 次 の 論 点 を 明 ら か に す る 。

結 果 構 文 は 、 本 来 そ の 名 が 示 す 通 り 、 構 文

レ ベ ル で 捉 え る べ き 現 象 で あ り 、 そ の 言 語

事 実 の 分 布 に 関 し て も 、 ( 構 成 要 素 に 還 元

す る の で は な く ) 構 文 そ の も の の 制 約 と し

て 捉 え て い か な け れ ば な ら な い 。 こ の こ と

は 同 時 に 、 構 成 要 素 と は 別 に 文 法 の 基 本 単

位 と し て の 構 文 の 重 要 性 を 認 め な け れ ば な

ら な い こ と を 含 意 す る 。

こ う し た 構 文 の 意 義 を 踏 ま え た 上 で 、 第

二 の 論 点 と な る 記 述 モ デ ル の 提 案 を 試 み る 。

本 論 で は 、 モ デ ル の 提 案 に 際 し て 、 ま ず は 、

結 果 構 文 の 意 味 論 性 質 を 明 確 に す る 。 1 つ

目 と し て 、 複 数 の ド メ イ ン に ま た が っ た 複

合 的 特 性 を 示 す 点 、 2 つ 目 と し て 、 時 系 列

に 強 く 制 約 さ れ る 点 、 3 つ 目 と し て 、 参 与

者 間 の 複 雑 な エ ネ ル ギ ー 伝 達 関 係 が 関 与 し

て い る 点 を 指 摘 す る 。 本 研 究 で は 、 こ の 3つ の 制 約 を も と に 結 果 構 文 を 捉 え な お し 、

複 合 的 認 知 事 象 と し て の 分 析 を 導 く 。 ま た 、

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〈3〉

こ れ ら 3 つ の 要 素 の 関 係 性 に 対 す る 記 述 的

要 請 を 満 た す べ く 、 認 知 文 法 の モ デ ル に 改

良 を 加 え た 新 た な モ デ ル で 、 統 一 的 ・ 体 系

的 な 記 述 を 試 み る 。

本 研 究 の 第 二 の 目 的 と な る モ デ ル の 提 案

は 、 次 の 問 題 意 識 に 端 を 発 す る 。 そ れ は 、

一 見 メ タ 的 問 題 で も あ る が 、 我 々 が 各 々 の

記 述 対 象 が 有 す る 一 定 の 複 雑 な 構 造 を 記 述

す る と い う 作 業 を 行 う 場 合 、 次 の 前 提 が 必

要 と な る 。 そ れ は 、 記 述 対 象 が 内 包 す る

( 構 造 の ) 複 雑 性 に 見 合 っ た 評 価 手 段 、 な

い し は 、 分 析 の 道 具 立 て が な け れ ば な ら な

い 。 単 純 な 例 と し て 、 肉 眼 を 使 っ て 分 子 の

構 造 を 観 察 記 述 す る こ と が 無 理 な こ と を 考

え れ ば 、 容 易 に 理 解 で き よ う 。 こ う し た 問

題 意 識 の も と に 従 来 の 研 究 を 概 観 し た 時 、

次 の 問 題 点 に 気 が 付 く 。 そ れ は 、 従 来 の モ

デ ル が 、 結 果 構 文 の 複 雑 性 を 部 分 的 に し か

捉 え て い な い と い う 問 題 点 で あ る 。 こ う し

た 問 題 を 改 善 す る に は 、 曖 昧 性 が な く 、 複

雑 な 構 造 が 表 現 で き る モ デ ル が 必 要 で あ る

と 考 え る 。

本 研 究 は 、 新 た な モ デ ル 化 の 要 請 を 満 た

す た め 、 そ の 出 発 点 と し て 認 知 文 法 で 提 案

さ れ た セ ッ テ ィ ン グ 参 与 者 モ デ ル に 着 目 す

る ( cf. Langacker 1991, 2002 ) 。 そ し て 、 次 の 点 を

め ぐ る 部 分 的 な 改 良 を 試 み る 。 本 研 究 の 新

た な 試 み と し て 、 セ ッ テ ィ ン グ を 「 時 間 と

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〈4〉

空 間 」 の ベ ク ト ル で 定 義 さ れ る 「 二 つ の 認

知 ド メ イ ン 」 を 用 い て 表 現 し 、 さ ら に は 結

果 構 文 の 項 を 位 置 づ け る 。 そ の 上 で 、 相 互

の エ ネ ル ギ ー 伝 達 に よ る 力 学 的 関 係 か ら そ

の 認 知 事 象 を 捉 え 、 構 文 の 意 味 論 的 基 盤 を

明 確 に 示 す 。 さ ら に 、 動 詞 の 意 味 に 関 し て

は 、 ベ ー ス ・ プ ロ フ ァ イ ル の 観 点 か ら 捉 え

る 。 最 後 に 、 こ う し た モ デ ル を 用 い た 分 析

が 、 結 果 構 文 に 代 表 さ れ る 実 際 の 構 文 現 象

を ど れ だ け 正 し く 評 価 で き る か 、 そ し て 従

来 の 研 究 を ど の よ う に 統 合 す る か 、 さ ら に

は ど の よ う な 見 通 し に 繋 が る か 、 検 証 し て

い く こ と と す る 。

本 研 究 の 考 察 は 、 以 上 の 論 点 を 明 ら か に

す る こ と で 、 同 時 に 、 次 の メ タ 的 論 点 に つ

い て も 、 何 ら か の 示 唆 を 与 え る こ と に な る 。

そ れ は 、 日 本 語 学 と 構 文 理 論 の 両 者 に 対 し

て 、 新 た な 可 能 性 を 模 索 す る も の で あ る 。

ま ず 、 ( 日 本 語 学 に 対 し て ) 従 来 の 文 法 研

究 で は 、 動 詞 の 制 約 に 基 づ く ( 文 現 象 の )

分 析 が 主 流 で あ っ た ( cf. 仁 田 1980 、 寺 村

1988 、 村 木 1991 、 2000 、 森 田 2002 ) 。 も っ と

も こ の 種 の 傾 向 は 、 日 本 語 研 究 に 限 っ た こ

と で は な い が 、 こ う し た 一 連 の 流 れ か ら

「 文 の 成 り 立 ち = 動 詞 の 制 約 」 と い う 構 図

が 自 然 と 形 成 さ れ 、 多 く の 分 析 者 間 で 共 通

の 知 見 と し て 定 着 し て き た 。 こ う し た 構 図

は 、 多 く の 分 析 者 に と っ て も ( 文 文 法 を め

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〈5〉

ぐ る ) 有 意 義 な 議 論 を 展 開 す る き っ か け と

な っ た 点 、 さ ら に は 、 構 文 的 ア プ ロ ー チ を

は じ め と す る 新 た な 考 え 方 を 生 み 出 す 原 動

力 に な っ た 点 は 大 い に 評 価 す べ き と こ ろ と

言 え よ う 。 し か し 、 問 題 は 、 多 く の 研 究 者

に と っ て 、 動 詞 の 制 約 が 疑 い よ う の な い 事

実 と 見 な さ れ 、 そ の 内 実 が 真 剣 に 問 わ れ て

こ な か っ た と こ ろ に あ る 。 さ ら に 大 き な 問

題 は 、 こ の 構 図 が 分 析 上 の バ イ ア ス と な り 、

動 詞 以 外 の ユ ニ ッ ト が 持 つ 機 能 を 極 め て 不

透 明 な も の に さ せ る と こ ろ に あ る 。

こ の よ う に 、 長 年 の 日 本 語 研 究 の 基 本 的

前 提 と さ れ た 動 詞 中 心 の 見 取 り 図 に 対 し て 、

本 研 究 は 、 重 要 な 問 題 提 起 を 試 み る 。 そ れ

は 既 述 の 通 り 、 文 現 象 の 意 味 論 的 基 盤 を 、

動 詞 で は な く 構 文 に 求 め る 、 と い う 本 研 究

の 方 向 性 そ の も の に あ る 。 こ の 点 に お い て

本 研 究 が 提 案 す る 分 析 が 正 し け れ ば 、 そ れ

は 、 従 来 の 日 本 語 研 究 に 対 し て 、 動 詞 の 制

約 を 見 直 す き っ か け を 与 え る と 同 時 に 、 構

文 的 ア プ ロ ー チ の 妥 当 性 を 示 す こ と に な

る 2 。

次 に 、 本 研 究 の 考 察 対 象 が 日 本 語 で あ る

こ と は 、 ( 構 文 理 論 に お い て ) 次 の よ う な

見 通 し に つ な が る 。 ま ず は 、 従 来 の 構 文 理

論 に お け る 記 述 対 象 の ほ と ん ど が 、 英 語 を

2 李(2001、2003)では、日本語における構文的アプローチの妥当性を示しており、合わせて

参照されたい。

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〈6〉

中 心 と す る 印 欧 語 で あ っ た こ と を 確 認 し て

お き た い 3 。 こ の 点 に お い て 、 本 研 究 の 考

察 は 非 印 欧 語 で あ る 日 本 語 を 記 述 の 対 象 と

し て お り 、 構 文 理 論 の 新 た な 可 能 性 を 探 る

こ と に な る 。

最 後 に 、 本 研 究 が 提 案 す る モ デ ル は 、 構

文 理 論 の 理 論 的 盲 点 と な る 「 構 文 の 意 味 」

に 対 し て 新 た な 知 見 を 示 す こ と に な る 。 と

い う の も 、 こ れ ま で の 構 文 理 論 で は 、 「 構

文 の 意 味 」 に 関 す る 動 機 付 け の 不 在 が し ば

し ば 論 争 の 対 象 と な っ て き た 4 。 そ れ に 対

し 、 本 研 究 で は 、 構 文 の 意 味 を 事 態 認 知 に

基 づ く 相 互 作 用 の 観 点 か ら 探 っ て い く 。 こ

の 点 に お い て 、 本 研 究 は 、 構 文 の 意 味 に つ

い て の 新 た な 動 機 づ け を 求 め る も の で あ る

と 同 時 に 、 構 文 理 論 の 理 論 的 精 緻 化 を 目 指

す こ と に な ろ う 。

2.   本 研 究 の 理 論 的 枠 組 み

  本 節 で は 、 3 節 以 下 の 議 論 の 道 標 を 与 え

る べ く 、 本 研 究 の 理 論 的 枠 組 み を 概 略 的 に

示 す と と も に 、 大 枠 と な る 分 析 の 方 向 性 を

示 す 。 と り わ け 、 本 研 究 の 基 本 的 な 着 眼 点

3 英語以外の言語を対象とした、構文的アプローチに基づく分析の実例として、ドイツ語の分析は、

Diessel(1997)やMichaelis&Ruppenhofer(2001)を、フランス語の分析については、

Lambrecht(1986, et seq.)を参照されたい。4 少なくとも Goldberg(1995)に代表される構文理論の枠組みにおいて、構文とは、文法が内

在的に持っている形式と意味の対と捉えており、「なぜ構文がそのような意味を持つのか」という

根本的な動機づけの問題に対しては、必ずしも明確には議論されてこなかったと言える。

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〈7〉

と し て 、 認 知 文 法 と 構 文 文 法 を 統 合 し 、 そ

こ か ら 得 ら れ る 新 た な 知 見 に 基 づ い て 構 文

を 捉 え る こ と 、 そ し て 、 こ う し た 統 合 に よ

っ て 相 互 へ 経 験 的 支 持 を 与 え う る 、 よ り 一

貫 し た 分 析 が 可 能 に な る と い う 見 取 り 図 を

示 し た い 。

次 の 順 序 で 考 察 を 行 う 。 ま ず 、 2.1 節 で は 、

本 研 究 の 理 論 的 枠 組 み で あ る 構 文 的 ア プ ロ

ー チ の 理 論 的 背 景 に つ い て 概 観 す る 。 次 に 、

2.2 節 で は 、 2.1 節 の 考 察 を 踏 ま え た 上 で 、 構

文 の 基 本 的 位 置 づ け を 示 す 。 さ ら に 、 2.3 節

で は 、 本 研 究 が 排 除 す る 構 文 観 ・ 文 法 観 を

明 ら か に 示 す と 同 時 に 、 本 研 究 の 構 文 観 を

一 層 明 確 に す る 。 最 後 に 、 2.4 節 で は 、 具 体

的 分 析 の 方 向 性 を 示 す と 同 時 に 、

Langacker ( 2000, 2002 ) の 使 用 基 盤 モ デ ル ( Usage-Based Model ) と 本 研 究 の 関 連 性 に つ い て 考 察

す る 。

2.1.   構 文 的 ア プ ロ ー チ の 理 論 的 背 景

本 節 で は 、 構 文 を 位 置 づ け る た め の 2 つ

の キ ー ワ ー ド 、 「 シ ン ボ リ ッ ク ・ ヴ ュ ー と

し て の 文 法 ( the symbolic view of grammar ) 」 と 「 非

還 元 主 義 」 に 対 す る 本 研 究 の 基 本 的 立 場 を

明 ら か に す る 。 そ し て 、 こ の 考 察 に 基 づ い

て 構 文 を 位 置 づ け た 場 合 、 ど の よ う な 位 置

づ け が 可 能 に な る か 、 さ ら に は 、 ど の よ う

な 展 望 が 得 ら れ る か を 次 節 以 下 で 考 察 す る 。

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〈8〉

本 研 究 が 目 指 す 構 文 的 ア プ ロ ー チ は 、 認

知 言 語 学 に 共 有 さ れ て い る 次 の テ ー ゼ を 擁

護 す る も の で あ る 。

A) シ ン ボ リ ッ ク ・ ヴ ュ ー と し て の 文 法 : 文 法 体 系 も レ キ シ コ ン 同 様 、 形 式 と 意

味 の 対 応 か ら な る 記 号 と 見 な す 。

B) 非 還 元 主 義 :   言 語 は 、 そ の い ず れ の

レ ベ ル に お い て も 、 ( 部 分 と 部 分 、 お

よ び 部 分 と 全 体 の 関 係 に お い て ) 他 の

要 素 に 還 元 で き な い 動 機 付 け を 有 す る 。

ま ず 、 A ) は Langacker ( 1987, 1991 ) を 中 心 と す

る 認 知 文 法 、 さ ら に は 認 知 言 語 学 の 根 底 を

支 え る 基 本 的 知 見 と 言 え る 。 よ っ て 、 既 に

多 く の 研 究 者 間 で 共 通 理 解 と な っ て い る こ

と を 考 慮 し 、 こ れ 以 上 の 繰 り 返 し は 避 け る

が 、 次 の 点 の み 補 足 と し て 述 べ て お く 。

A ) が 述 べ る シ ン ボ リ ッ ク ・ ヴ ュ ー か ら 文

法 を 捉 え る こ と の 意 義 、 な い し は そ の 重 要

性 を 正 し く 理 解 す る に は 、 ( 理 論 的 整 合 性

の 面 か ら ) 一 つ 考 慮 し な け れ ば な ら な い こ

と が あ る 。 そ れ は 、 「 言 語 の 意 味 」 と い う

も の の 位 置 づ け を め ぐ る 問 題 で あ る 。

ほ と ん ど の 分 析 者 に お い て 、 語 彙 や 辞 書

が 意 味 を 不 可 分 の 要 素 と し て 成 り 立 っ て い

る こ と に 、 疑 問 を 唱 え る も の は い な い 。 し

か し 、 文 法 が 意 味 を 要 請 す る か に つ い て は 、

少 な か ら ず 意 見 が 分 か れ る も の で あ り 、 そ

れ ほ ど 自 明 な も の で は な い 。 と い う の も 、

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〈9〉

構 成 論 的 手 法 、 す な わ ち 意 味 の 単 純 な 足 し

算 的 分 析 を 支 持 す る 立 場 と 、 そ う で な い 立

場 の 相 違 が 見 ら れ る か ら で あ る 。 し か し 、

一 見 単 純 そ う に 見 え る こ の 二 者 の 対 立 に は 、

( 表 面 的 立 場 上 の 相 違 以 上 に ) よ り 本 質 的

な 考 え 方 の 違 い が 存 在 す る 。 こ こ で 問 題 の

鍵 を 握 る の は 、 意 味 と い う も の を ど の よ う

に 定 義 す る か 、 と い う こ と に あ る 。 そ の 詳

細 を 議 論 す る 余 裕 は な い の で 、 と り わ け 重

要 な も の と し て 、 A ) に お い て 「 意 味 」 と

称 さ れ る も の は 、 従 来 の 見 解 と 同 一 視 で き

な い と こ ろ に 注 意 を 喚 起 し て お き た い 。 と

い う の は 、 A ) で 用 い ら れ て い る 「 意 味 」

と は 、 客 観 主 義 、 な い し は 真 理 条 件 主 義 的

意 味 観 と は 異 な る 。 A ) が 基 本 と す る 意 味

観 は 、 認 知 主 体 の 「 捉 え 方 ( construal ) 」 に

基 本 を お く 概 念 主 義 的 意 味 観 、 さ ら に は プ

ロ ト タ イ プ 論 を 中 心 と す る 経 験 基 盤 主 義 的

意 味 観 に 則 し て お り 、 こ の 点 を 混 同 し て は

な ら な い 。 ま た 、 本 研 究 が A ) を 前 提 と す

る 以 上 、 記 号 計 算 主 義 や 、 シ ン ボ ル 主 義 を

排 除 す る 立 場 に 立 つ 点 に つ い て は 、 も は や

議 論 を 要 し な い で あ ろ う 。

次 に 、 本 研 究 が 構 文 的 ア プ ロ ー チ の 理 論

的 背 景 と し て 特 に 強 調 し た い の は 、 B ) の

側 面 、 す な わ ち 非 還 元 主 義 の 立 場 に 立 つ 点

で あ る 。 こ の 点 に 関 連 し 、 近 年 の 興 味 深 い

研 究 と し て 、 Croft ( 2002 ) が 提 示 し た 「 根 源

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〈10〉

的 構 文 文 法 ( radical construction grammar ) 」 を 取 り

上 げ る こ と が で き る 。

根 源 的 構 文 文 法 は 、 還 元 論 に 基 づ く 従 来

の 統 語 理 論 を 厳 し く 批 判 し て お り 、 徹 底 し

た 非 還 元 主 義 を 一 大 特 徴 と す る 枠 組 み で あ

る 。 そ の 中 心 的 主 張 に お い て 、 三 点 の 問 題

提 起 を 行 っ て い る 。 第 一 に 統 語 関 係

( syntactic relation ) の 否 定 、 第 二 に 普 遍 文 法

( universal grammar ) の 否 定 、 最 後 に も っ と も 重

要 な 主 張 と な る 原 子 的 統 語 範 疇 ( primitive syntactic category ) の 否 定 で あ る 。 特 に 、 第 三 の

主 張 の 背 後 に は 、 「 構 文 こ そ 統 語 表 示 の 基

本 で あ り 、 統 語 範 疇 は 構 文 に よ っ て 派 生 さ

れ る も の 」 ( ibid.: 4 ) と 捉 え て お り 、 実 に 興

味 深 い 問 題 提 起 を 行 っ て い る 5 。

一 見 極 論 と も 考 え ら れ る 根 源 的 構 文 文 法

の 主 張 の 意 義 を 正 し く 評 価 す る に は 、 ま ず

次 の 点 を 考 慮 に 入 れ る 必 要 が あ る 6 。 そ れ

5この主張を前面に推し進めた分析の一例として、Croft(2002)では、主語といった統語範疇が持つ二つの側面に着目した分析を提案している。Croft(2002)は主語を図ⅰのように捉えている。

Croft(2002:24)図ⅰ

図ⅰでは、全体における部分の役割(role)と、部分に対する部分の関係(relation)を区別して

おり、後者を否定している。ここで注意しなければならないのは、Croft(2002)は、決して統

語範疇そのものを否定するものではない点である。統語範疇は、構文によって派生されるもので

あって、統語表示の基本要素ではない、と主張しているに過ぎない点を誤解してはならない。6 紙幅の都合上、深入りはしないが、根源的構文文法は Croft(1990)やCroft(1991)といっ

た氏の類型論的視点に基づく言語事実への生の観察と、記述の蓄積の結果、たどり着いた考え方

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〈11〉

は 、 根 源 的 構 文 文 法 が 「 従 来 の シ ン タ ク ス

に 対 す る ア ン チ ・ テ ー ゼ と し て 生 ま れ た 考

え 方 」 と い う 点 で あ る 。 こ の た め

Croft ( 2002 ) の 問 題 提 起 お よ び そ の 意 義 を 理

解 す る に は 、 ま ず 従 来 の 枠 組 み に つ い て の

理 解 、 さ ら に は 両 者 を 比 較 検 討 す る 必 要 と

な る 。

従 来 、 抽 象 的 統 語 論 ( abstract syntax ) を 援 用

す る 多 く の 研 究 が 一 貫 し て 擁 護 し 続 け て き

た ( 文 文 法 に 対 す る ) 態 度 の 一 つ に 、 「 言

語 事 実 の 分 布 お よ び そ の 可 能 な 構 造 は 、 構

成 要 素 と そ の 組 み 合 わ せ 規 則 の 制 約 に よ る

派 生 の 結 果 と し て 、 充 分 に 予 測 可 能 で あ

る 」 と い う 主 張 が あ る 。 こ の 考 え 方 に よ れ

ば 、 構 文 に 特 有 な 特 性 は ( 構 成 要 素 の 制 約

に 還 元 で き る の で ) 文 法 か ら 排 除 さ れ 、 結

果 的 に 「 構 文 は 単 な る ( 現 象 レ ベ ル の ) 副

産 物 に す ぎ ず 、 文 法 の 基 本 単 位 で は な い 」

と い う 結 論 が 導 き 出 さ れ る 。 こ う し た 「 構

成 要 素 か ら 全 体 を 得 る 」 ア プ ロ ー チ に 対 し

て 、 根 源 的 構 文 文 法 は あ る 意 味 、 逆 の 方 向

性 を 主 張 し て い る と 考 え ら れ る 。 と い う の

は 、 根 源 的 構 文 文 法 は 文 法 現 象 の 中 核 に 構

文 を 位 置 づ け て お り 、 従 来 の 枠 組 み が プ リ

ミ テ ィ ブ な も の と 仮 定 し て き た 統 語 範 疇 ま

で も が 、 構 文 に よ っ て 派 生 さ れ る と 主 張 し

て い る か ら で あ る 。 こ の こ と か ら 、 従 来 の

であることは、非常に示唆的であると言える。

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〈12〉

「 要 素 か ら 全 体 へ 」 の ア プ ロ ー チ に 対 し て 、

根 源 的 構 文 文 法 は 、 「 全 体 か ら 要 素 」 と い

う 正 反 対 の 方 向 づ け を 行 っ て い る 。 も し 、

根 源 的 構 文 理 論 を 従 来 の シ ン タ ク ス 研 究 に

対 す る ア ン チ ・ テ ー ゼ と 位 置 づ け る な ら ば 、

そ れ は ま さ し く 、 こ の 構 成 要 素 と 全 体 の 関

係 を め ぐ り 、 本 質 的 問 題 提 起 を 行 っ た と こ

ろ に 拠 る の で あ る 。

で は 、 次 の 問 題 と し て 、 「 い ず れ の ア プ

ロ ー チ が よ り 妥 当 か 」 と い う 問 い か け に 答

え な け れ ば な ら な い 。 こ の 問 い を よ り 経 験

的 な も の に す る た め 、 次 の よ う に 置 き 換 え

て み た い 。 い ず れ の ア プ ロ ー チ が よ り 言 語

事 実 に 即 し て 、 具 体 例 を 正 し く 評 価 で き る

だ ろ う か 。 し か し 、 残 念 な が ら こ の 問 い に

は 、 決 し て 単 純 に 答 え ら れ な い も の が あ る 。

と い う の は 、 実 際 の 言 語 現 象 に 即 し て 考 え

て み た 場 合 、 両 者 と も に 、 事 実 の レ ベ ル で

深 く 関 与 し て い る と 見 る べ き だ か ら で あ る 。

す な わ ち 、 二 者 択 一 と し て 捉 え る こ と は 、

困 難 な も の が あ る 。 と な る と 「 い ず れ の ア

プ ロ ー チ が 妥 当 か 」 の 問 い は 結 局 の と こ ろ 、

次 の 問 い に 置 き 換 え て 考 え ざ る を 得 な い 。

「 ど の ア プ ロ ー チ が よ り 体 系 的 記 述 説 明 を

可 能 に す る か 」 、 さ ら に は 、 「 ど の ア プ ロ

ー チ が よ り 一 貫 し た 記 述 の 基 盤 を 提 供 で き

る か 」 で あ る 。

本 研 究 は 、 以 上 の 問 題 意 識 の も と 、 3 節

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〈13〉

以 下 の 具 体 的 考 察 に お い て 、 要 素 ベ ー ス の

ア プ ロ ー チ 、 と り わ け 動 詞 の 制 約 に 基 づ く

分 析 の ア ド ホ ッ ク さ を 指 摘 す る と 同 時 に 、

構 文 的 ア プ ロ ー チ こ そ が 体 系 的 な 記 述 ・ 説

明 の 基 盤 を 提 供 で き る こ と を 示 す 。

2.2.   構 文 の 一 般 的 位 置 づ け ( 本 研 究 の 基

本 的 文 法 観 )

本 研 究 は 、 前 節 で 示 し た 理 論 的 テ ー ゼ の

延 長 で 次 の よ う に 構 文 を 位 置 づ け る 。

C) 構 文 :   形 式 と 意 味 の 対 か ら な る シ ン

ボ リ ッ ク ・ ユ ニ ッ ト で あ り 、 か つ そ の

特 性 は 他 の 要 素 に 還 元 で き な い 。

本 研 究 で は 、 上 記 の A ) と B ) の 立 場 の 延 長

で 、 C ) の よ う に 構 文 を 位 置 づ け る 。 C ) が

指 し 示 し て い る 通 り 、 本 研 究 は 、 意 味 的 側

面 な い し は 機 能 的 観 点 か ら 構 文 を 定 義 す る

立 場 を 擁 護 す る 。 同 時 に 、 構 文 は そ れ 自 体

と し て 、 一 つ の 説 明 項 に な り う る と 考 え る 。

本 研 究 の 大 枠 と な る 構 文 の 位 置 づ け を 図 1に 示 す ( cf. Croft 2002, Langacker 1987, 1991, 2000 ) 。

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〈14〉

図 .1図 1 は 、 本 研 究 に お け る 構 文 の 基 本 的 捉 え

方 を 示 し て い る ( 形 式 と 意 味 の ボ ッ ク ス 間

を 結 ぶ 点 線 は 、 シ ン ボ リ ッ ク ・ リ ン ク を 示

す 。 ま た 、 言 語 使 用 と 構 文 を 結 ぶ 相 互 の 矢

印 は カ テ ゴ リ ー 化 関 係 に 基 づ く ) 。 こ の 図

1 は 、 本 研 究 の 根 幹 に 関 わ る 二 つ の 方 向 性

を 示 唆 し て い る 。 第 一 に 、 本 研 究 に お け る

構 文 と は 、 決 し て 「 自 律 的 」 に 存 在 す る も

の で は な く 、 実 際 の 言 語 使 用 と の 相 互 作 用

の 中 で 存 在 す る も の で あ り 、 カ テ ゴ リ ー 化

や 具 体 化 と い っ た 認 知 能 力 を 踏 ま え た 創 発

的 な 位 置 づ け を 持 つ ( cf. 山 梨 2000, 2003 ) 。 第

二 に 、 本 研 究 で は 、 言 語 現 象 の 中 核 に 構 文

を 位 置 づ け て お り 、 形 式 と 意 味 の 相 互 関 係

か ら 具 体 的 分 析 を 行 う 。 こ の こ と は 、 構 文

を 意 味 か ら 切 り 離 し た 単 純 な 形 式 の 集 合 体

と し て は 扱 わ な い こ と を 意 味 し 、 こ の 点 に

お い て 、 生 成 パ ラ ダ イ ム と は 対 峙 す る 方 向

性 を 持 つ も の で あ る 。

2.3.   二 つ の 構 文 ( 対 立 す る 文 法 観 ・ 言 語

観 )

  本 研 究 の 分 析 の 基 本 と な る 構 文 と い う 用

語 お よ び そ の 概 念 は 、 従 来 様 々 な 研 究 者 に

よ っ て 異 な る 位 置 づ け の 中 で 用 い ら れ て き

た 。 そ の た め 、 構 文 と い う 用 語 に は 、 定 義

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〈15〉

以 上 の 曖 昧 性 が 生 じ 、 し ば し ば ( 分 析 者 が

意 図 し な い ) 誤 解 を 招 く 恐 れ も あ る 。 こ こ

で は 、 今 後 の 考 察 に 対 す る 予 期 せ ぬ 誤 解 を

防 ぐ べ く 、 構 文 に 対 し て 、 二 つ の 相 反 す る

立 場 が 存 在 す る こ と を 明 ら か に す る 。 同 時

に 、 二 つ の 立 場 に つ い て の 混 同 を 避 け る た

め 、 そ の 背 後 に 存 在 す る 文 法 観 の 相 違 を 明

ら か に し 、 そ の 理 解 を 深 め て お き た い 。

ま ず 、 本 研 究 で 用 い ら れ る 構 文 を 正 し く

捉 え る に は 、 次 の 関 係 を 理 解 す る 必 要 が あ

る 。 既 述 の 通 り 、 本 研 究 で は 、 語 彙 を 形 式

と 意 味 の シ ン ボ リ ッ ク な 対 応 関 係 で 定 義 す

る こ と と 同 様 に 、 構 文 に 関 し て も 形 式 と 意

味 の シ ン ボ リ ッ ク な 対 応 関 係 か ら 定 義 す る 。

す な わ ち 、 前 節 の C ) が 定 義 し て い る 構 文

と は 、 語 彙 同 様 に ダ イ ナ ミ ッ ク な 性 質 を 有

す る も の で あ り 、 カ テ ゴ リ ー 化 と い っ た 一

般 的 認 知 能 力 に 支 え ら れ 、 我 々 の 日 常 言 語

使 用 を 動 機 づ け る 記 号 の 一 つ で あ る ( cf. Goldberg 1999, 山 梨 2003 ) 。 こ の 点 に お い て 、

前 節 で 示 し た 構 文 は 、 従 来 の 見 解 と 対 立 構

造 を な す 。 そ の 対 立 構 造 は 、 単 純 な 用 語 の

問 題 を 超 え 、 文 法 観 、 さ ら に は 、 言 語 観 の

相 違 ま で も 反 映 し た も の と な っ て お り 、 両

者 の 違 い を 明 確 に す る こ と は 、 以 下 の 議 論

に と っ て も 有 益 な も の と な る に 違 い な い 。

ま ず 、 従 来 の 見 解 を 代 表 す る も の と し て 、

構 成 素 統 語 論 ( componential syntactic theory ) と 呼 ぶ

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〈16〉

べ き 考 え 方 が あ る ( cf. Newmeyer 1996, Brown&Miller 1996, Van Valin 2001, Croft 2002 ) 。 こ の 種 の 立 場 で は 、

既 に 示 唆 し て き た 通 り 、 構 文 は 、 動 詞 と い

っ た 特 定 の 構 成 素 ( component ) が も た ら す 制

約 の 結 果 、 派 生 的 に 生 じ る 副 産 物 と 規 定 さ

れ る 。 こ う し た 言 語 観 で 用 い ら れ る 構 文 は 、

本 研 究 で 用 い ら れ る 構 文 と は 本 質 的 に 区 別

し な け れ ば な ら ず 、 両 者 を 混 同 し て は な ら

な い 。 こ こ で 、 本 研 究 が 排 除 す べ き 構 文 観 、

な い し は 文 法 観 を 一 言 で ま と め る な ら ば 、

次 の よ う に 示 す こ と が で き る 。 そ れ は 、 構

文 を 要 素 の 統 語 的 操 作 の 副 産 物 と 捉 え 、 構

文 を 派 生 さ せ る 文 法 と い う シ ス テ ム は 予 測

可 能 な ル ー ル の 集 合 と 捉 え る も の で あ る 。

以 上 の よ う に 本 研 究 が 排 除 す る 文 法 観 を

明 ら か に す る こ と で 、 本 研 究 が 基 本 と す る

文 法 観 が 自 ず と 明 ら か に な っ た 。 と り わ け 、

構 文 と 文 法 の 関 係 に 着 目 し た 場 合 、 以 下 の

よ う に 示 す こ と が で き る ( 点 線 は 図 1 同 様

シ ン ボ リ ッ ク ・ リ ン ク を 表 す ) 。

図 .2ま ず 、 図 2 に お け る 文 法 と は 、 単 純 な ル ー

ル の 集 合 と し て 定 義 さ れ る も の で は な い 。

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〈17〉

そ れ は 、 認 知 文 法 に 従 っ て 「 形 式 と 意 味 の

慣 習 的 に 定 着 さ れ た 言 語 単 位 の ( 用 例 を 含

め た ) 連 続 的 に 構 造 化 さ れ た 目 録 」 と し て

位 置 づ け ら れ る ( cf. Langacker 1987, 熊 代 2003, 黒田 2003a ) 。 こ う し た 枠 組 み の 中 で 構 文 を

位 置 づ け た 場 合 、 図 2 が 示 す よ う に 複 数 の

レ ベ ル に ま た が っ た も の 、 す な わ ち 、 構 文

と は 、 決 し て 単 一 の レ ベ ル の 言 語 現 象 に 還

元 さ れ る べ き も の で は な い こ と に 注 意 を 喚

起 し て お き た い 。

ま た 、 図 2 で は 、 次 の 捉 え 方 が 色 濃 く 反

映 さ れ て い る 。 認 知 言 語 学 で は 、 言 語 単 位

を ミ ク ロ 、 マ ク ロ の い ず れ の レ ベ ル で あ れ 、

ゲ シ ュ タ ル ト 的 な 単 位 と し て 機 能 す る も の

と 捉 え る ( cf. 山 梨 2000:238 ) 。 す な わ ち 、 日

常 の 言 語 単 位 は 、 ミ ク ロ 、 マ ク ロ の ど の レ

ベ ル で あ れ 、 部 分 の 総 和 か ら 単 純 に 予 測 で

き な い 特 性 を 持 つ 統 一 体 、 す な わ ち 、 他 へ

還 元 で き な い 特 性 を 有 す る 。

  で は 、 具 体 的 に ど の よ う な レ ベ ル が 認 め

ら れ る の で あ ろ う か 。 こ れ は 単 純 に は 規 定

で き な い が 、 以 下 の 考 察 と の 関 連 で 、 必 要

最 低 限 な 論 点 だ け 述 べ て お く 。 構 文 に 関 わ

る レ ベ ル 分 け は 、 最 低 二 つ の ス ケ ー ル を 必

要 と す る 。 ま ず 、 記 号 列 の 長 さ の 程 度 に 還

元 す べ き 性 質 と し て 、 原 子 的 ( atomic ) な も

の と 、 複 合 的 ( complex ) な も の に 関 係 す る

ス ケ ー ル が 考 え ら れ る 。 次 に 、 表 現 の 抽 象

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〈18〉

度 の 程 度 に 還 元 す べ き 性 質 と し て 、 具 体 的

( specific ) な も の と 、 抽 象 的 ( schematic ) な も

の に 関 係 す る ス ケ ー ル で あ る 。 こ の 二 つ の

ス ケ ー ル を 具 体 例 と と も に 示 し た 場 合 、 以

下 の 図 3 、 お よ び 図 4 の よ う に な る ( 議 論 の

便 宜 上 音 韻 極 を カ タ カ ナ 表 記 と し 、 意 味 極

を ひ ら が な ・ 漢 字 混 じ り 表 記 と す る ) 。

図 . 3

図 . 4図 3 と 図 4 で は 、 二 種 類 の ベ ク ト ル を も と に 、

三 つ の 構 文 が 分 布 し て い る こ と を 示 し た 7 。

こ れ ら の 図 が 示 す よ う に 、 個 々 の 構 文 は そ

れ 自 体 と し て 、 具 体 的 で あ る 場 合 も あ れ ば 、

抽 象 的 で あ る 場 合 も あ る 。 ま た 、 も う 一 方

の 側 面 に お い て は 、 原 子 的 な も の で あ る 場

合 も あ れ ば 、 複 合 的 で あ る 場 合 も あ る 。 以

7 あえて強調するまでもないことではあるが、これまでの議論から考えても、図 3 が示す抽象度

のベクトルと、図 4 が示す長さのベクトルは、相互排他的なものではない。また、それぞれの構

文の相違は、程度の相違に還元されるものであり、プロトタイプ効果を示すものと捉える。

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〈19〉

上 の 見 方 を 総 合 す る と 、 構 文 は 必 ず し も 抽

象 的 ・ 複 合 的 で あ る 必 然 性 は な い と い う 見

方 が 得 ら れ る こ と を 予 め 断 わ っ て お き た い 。

ま た 、 図 3 と 図 4 の よ う に レ ベ ル を 特 定 す

る こ と で 、 本 研 究 の 主 た る 考 察 対 象 と な る

文 法 構 文 ( grammatical construction ) の 位 置 づ け も 、

自 然 と 明 ら か に な っ て き た 。 そ れ は 構 文

β 、 す な わ ち 図 4 が 示 す よ う に 、 抽 象 的 性 質

を 持 つ と 同 時 に 、 図 3 が 示 す よ う に 、 複 合

的 性 質 を 持 つ 。 最 後 に 、 3 節 以 下 の 考 察 に

お い て 、 構 文 と は こ の レ ベ ル を 指 す も の と

理 解 し て ほ し い 。

2.4.   観 察 記 述 の 基 盤

  本 研 究 は 、 以 上 の 理 論 的 立 場 の 他 、 言 語

現 象 を 観 察 し 、 分 析 ・ 記 述 し て い く 上 で 、

次 の 二 つ の 見 方 を 基 本 と す る 。 第 一 に 、 言

語 使 用 を 重 視 す る 。 第 二 に 、 言 語 現 象 の 本

質 的 動 機 づ け を 意 味 的 側 面 に 求 め る 。 こ の

二 つ の 立 場 を 一 言 で ま と め る な ら ば 、 「 言

語 体 系 の 実 際 の 使 用 と 、 そ の 使 用 に つ い て

の 話 者 の 認 識 に 、 本 質 的 な 重 要 性 を 認 め る

( Langacker 1987:494 ) 」 と い う こ と に 通 じ る で

あ ろ う 。

こ の 見 方 は い う ま で も な く 、 Bybee ( 1985, 2001 ) や Langacker ( 1987, 1991, 1999) が 明 ら か に し

た 、 使 用 基 盤 モ デ ル ( Usage-based model) に 基 づ

く 。 こ の モ デ ル の 理 解 に 関 し て は 、 す で に

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〈20〉

多 く の 研 究 者 の 間 で 共 有 さ れ て い る 現 状 を

考 え 、 そ の 詳 細 な 解 説 を 行 う つ も り は な い 。

た だ し 、 本 研 究 の 方 向 性 に 関 連 し 、 次 の 点

を 考 慮 し て お き た い 。 本 研 究 で は 、 生 き た

文 脈 に お け る 使 用 例 を 観 察 の 基 本 単 位 と し

て お り 、 ノ イ ズ を 含 ん だ 、 抽 象 度 の 低 い ス

キ ー マ の 重 要 性 を 認 め る 。 具 体 的 な 手 法 と

し て 、 コ ー パ ス と い っ た 大 量 言 語 デ ー タ ベ

ー ス に 見 ら れ る 実 際 の 構 文 使 用 を 観 察 し 、

そ の 一 般 化 を 試 み る 。

次 に 、 本 研 究 は 結 果 構 文 の 動 機 付 け を 意

味 的 ・ 機 能 的 観 点 か ら 分 析 す る ( cf. Rappaport Hovav and Levin 2001 、 影 山 1996,2001 、 Takami 1999 、 久

野 ・ 高 見 2002 ) た だ し 、 従 来 の 研 究 と は 次

の 点 に 関 し て は 、 異 な る 立 場 に 立 つ 。 本 研

究 は 、 語 彙 意 味 論 で 代 表 さ れ る 還 元 主 義 的

立 場 に お い て 提 案 さ れ た 動 詞 の 制 約 に 基 づ

く 予 測 と そ の 分 析 を 支 持 し な い 。 そ の 理 由

は 、 以 下 の 考 察 が 示 す と こ ろ で あ る が 、 結

論 か ら 言 え ば 、 2 点 あ げ る こ と が で き る 。 1点 目 は 言 語 事 実 に 対 す る 不 当 な 扱 い 、 2 点

目 は 記 述 的 循 環 論 で あ る 。 1 点 目 に 対 す る

論 証 と し て 、 次 節 以 降 で は 、 日 本 語 に お け

る 興 味 深 い 交 替 現 象 を 報 告 す る 。 2 点 目 に

関 し て は 、 4 節 以 下 で 、 語 彙 意 味 論 に 対 す

る 批 判 的 検 討 を 通 し て 考 察 を 行 う 。

3.   観 察 ( 現 象 レ ベ ル の 記 述 ・ 分 析 の た め

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〈21〉

に )

  こ こ で は 、 本 研 究 の 出 発 点 と な る 日 本 語

の ス ク ラ ン ブ リ ン グ に よ る 語 法 の 問 題 を 取

り 上 げ る 。 と り わ け ( 1 ) の ペ ア は 、 内 項

の 配 列 を か き 混 ぜ た も の で あ る 。

(1) a. 柴 田 先 生 は 多 く の 医 局 員 を 一 人 前

の 医 師 、 研 究 者 に 育 て た 。

( 「 有 壬 だ よ り ( Vol.17 ) 」 ( 新 潟 大 学

医 学 部 学 士 会 )

b. ?? 柴 田 先 生 は 一 人 前 の 医 師 、 研 究 者

に 多 く の 医 局 員 を 育 て た 。

( 1a ) と ( 1b ) は 内 項 の 配 列 順 序 、 す な わ

ち 、 「 - を 」 と 「 - に 」 の 語 順 を 除 い て は 、

二 者 は 同 一 の 要 素 で 構 成 さ れ て い る と 見 な

す こ と が で き る 。 に も 関 わ ら ず 、 二 者 の 間

に は 文 と し て の 自 然 さ と い う 面 で 、 大 き な

相 違 が 見 ら れ る 。 な ぜ な ら 、 一 般 に ( 1a )

の 使 用 が 認 め ら れ る 一 方 で 、 ( 1b ) で は 、

文 と し て の 自 然 さ が 得 ら れ な い か ら で あ る 。

こ の こ と か ら 、 ( 1a ) に お け る 内 項 の 配 列

は 、 文 の 使 用 に 強 い 制 約 を 与 え て い る と 捉

え る こ と が で き る 。

こ の 一 見 素 朴 な 語 法 レ ベ ル の 問 題 は 、 以

下 の 考 察 が 論 じ る こ と で は あ る が 、 日 本 語

の 構 文 の 制 約 を 明 確 に 反 映 し て い る 。 こ う

し た こ と か ら 、 ( 1 ) の 分 布 は 日 本 語 の 構

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〈22〉

文 を 捉 え る 上 で 、 重 要 な 事 実 を 示 唆 し て い

る と 位 置 づ け ら れ る 。 と い う の は 、 ( 1 )

に 見 ら れ る 分 布 は 、 統 語 形 式 そ れ 自 体 が 有

す る 意 味 的 制 約 を 間 接 的 に 示 唆 し て い る の

で あ る 。 こ の 点 に 関 連 す る 具 体 例 と し て 、

( 2 ) か ら ( 4 ) を 示 す 。

(2) a.   N1 が N2 を N3 に 立 て る (N1 put forward N2 as N3)

b.  N1 が N2 に N3 を 立 て る (N1 create N3 on N2)

(3) a.   N1 が N2 を N3 に 留 め る (N1 leave N2 as N3)

b.  N1 が N2 に N3 を 留 め る (N1 put N3 on N2)

(4) a.   N1 が N2 を N3 に 使 う (N1 employ N2 as N3)

b.  N1 が N2 に N3 を 使 う (N1 use N1's N3 for N2)

( 「 日 本 語 語 彙 大 系 CD-ROM 版 」 )

こ れ ら ( 2 ) か ら ( 4 ) に 見 ら れ る 交 替 現 象

を 捉 え る に は 、 次 の 2 点 が そ の 重 要 と な る 。

1 点 目 と し て 、 い ず れ の 組 み 合 わ せ も 一 つ

の 動 詞 が 二 つ の 配 列 の 統 語 パ タ ー ン と 共 起

し て い る 点 で あ る 。 2 点 目 と し て 、 英 訳 が

示 唆 し て い る よ う に 、 形 式 と 意 味 の 対 応 に

あ る 種 の 規 則 性 が う か が え る 点 で あ る 。

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〈23〉

以 上 の 単 純 な 観 察 に 対 し て 、 次 の 問 題 提

起 を 試 み る 。 Ⅰ ) こ れ ら 特 性 は ど の よ う な

言 語 事 実 を 反 映 し て い る の か 、 そ し て 、

Ⅱ ) そ の 特 性 な い し は 振 舞 い を 正 し く 捉 え

る の に は 、 ど の よ う な 位 置 づ け と 分 析 が 必

要 か 。

上 記 の 記 述 的 要 請 に 対 し 、 次 の 順 序 で 考

察 を 行 う 。 ま ず 、 3.1 節 で は 主 と し て Ⅰ ) を

め ぐ る 考 察 を 行 う 。 そ の 際 、 具 体 例 を 提 示

し 、 現 象 レ ベ ル で 様 々 な 可 能 性 を 模 索 し て

い く 。 次 に 、 4 節 以 下 で は 、 Ⅱ ) を め ぐ る

考 察 と し て 、 ( 2 ) か ら ( 4 ) に 見 ら れ る 、

規 則 性 の 内 実 を 理 論 的 一 般 化 の 観 点 か ら 論

じ る 。 主 た る 論 点 と し て 、 ( 1 ) お よ び

( 2 ) か ら ( 4 ) の ペ ア が 持 つ 相 互 の 質 的 相

違 を 明 確 に す る こ と で 、 両 者 が ( 現 象 レ ベ

ル で ) 相 互 に 予 測 不 可 な 独 立 し た 現 象 で あ

る こ と を 示 す 。 特 に 、 ( 1 ) か ら ( 4 ) の a類 が 結 果 構 文 の 具 体 事 例 で あ る と 分 析 し 、

こ の 分 析 が 日 本 語 の 言 語 事 実 を 捉 え る 上 で

ど の よ う な 問 題 提 起 を 可 能 に す る か 、 さ ら

な る 検 証 を 展 開 す る 。 そ し て 、 5 節 で は 、

動 機 づ け の メ カ ニ ズ ム と し て 構 文 の 存 在 を

指 摘 し 、 「 統 語 フ レ ー ム は そ れ 自 体 と し て

特 定 の 効 果 を 持 つ 」 と い う 観 点 か ら モ デ ル

を 提 案 し 、 具 体 的 な 分 析 を 試 み る 。

3.1   構 文 の 認 知 事 象

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〈24〉

本 節 で は 、 ( 1 ) と 同 様 な 振 る 舞 い を 見

せ る 現 象 と し て ( 5 ) を と り あ げ 、 様 々 な

角 度 か ら そ の 分 析 を 試 み た い 。

(5) a.   清 元 師 匠 は 三 味 線 の 筋 の よ い 妙

子 を 後 継 者 に 選 ん だ 。

b.  あ の 文 太 郎 も 花 子 を お 嫁 さ ん に 迎

え た こ と で す し 、 。・ ・ ・ ・( 「 CD-ROM 版 新 潮 文 庫 の 100冊 」 )

( 5 ) は ( 1 ) と 同 じ 形 式 的 基 盤 、 す な わ ち

「 X が Y を Z に V す る 」 を 共 有 し て い る だ け で

な く 、 文 全 体 が 示 す 意 味 的 側 面 に 関 し て も 、

極 め て 類 似 度 が 高 い 。 そ の 詳 細 を 以 下 の 考

察 で 順 に 見 て い く こ と に す る 。

ま ず 、 ( 5 ) に 関 連 し た 過 去 の 研 究 と し

て 、 寺 村 ( 1982 ) は 興 味 深 い 観 察 を 示 し て

い る 。 寺 村 は ( 5 ) の 類 の 表 現 を 「 変 エ

ル 」 表 現 の 具 体 事 例 で あ る と 指 摘 し 、 2 点

の 特 徴 づ け を 行 っ た 。 ま ず 、 1 ) 形 式 的 に 3つ の 必 須 項 で 成 り 立 つ こ と 、 次 に 、 2 ) コ

ト の 類 型 と し て は 「 働 き か け と 変 化 の 複

合 」 で あ る と 分 析 し て い る 。 ま た 、 2 ) の

特 性 を 検 証 す る 手 段 の 一 つ に 、 同 じ 形 式 的

基 盤 を 共 有 す る ( 6 ) の 授 受 表 現 と 比 較 す

る こ と が 有 効 で あ る と 説 く ( ibid.:124-126 ) 。

(6) a.  家 元 ガ 弟 子 ニ 免 許 を 与 エ ル 。

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〈25〉

b.  銀 行 ガ 彼 ニ 金 ヲ 貸 ス 。

寺 村 に よ れ ば ( 6 ) は 、 コ ト の 類 型 と し て

「 働 き か け と 対 面 と 移 動 の 複 合 」 で あ り 、

( 5 ) 同 様 、 三 つ の 項 を 必 須 項 に と る と 説

く 。 こ う し た 寺 村 の 分 析 は 、 ( 現 段 階 で 可

能 な 評 価 と し て は ) 基 本 的 に は 正 し い も の

と 考 え ら れ る 。 ま た 、 こ の 分 析 は 、 認 知 言

語 学 の 手 法 を 取 り 入 れ 、 再 分 析 す る こ と で 、

分 析 の 精 度 を 向 上 さ せ る と 同 時 に 、 新 た な

見 通 し へ と 導 く こ と が 可 能 と 考 え ら れ る 。

と り わ け 明 確 な ( 6 ) を め ぐ る コ ト の 類

型 か ら 再 分 析 を 試 み る 。 ま ず 、 そ の 意 味 的

特 性 を 認 知 事 象 と し て 特 徴 づ け た 場 合 、 図

5 ( 以 下 、 認 知 事 象 1 と 呼 ぶ ) の よ う に 示 す

こ と が で き る ( cf. Langacker 1991) 。

図 .5図 5 は 、 寺 村 に よ っ て な さ れ た 観 察 を 認 知

事 象 と し て 特 徴 づ け た 場 合 の 一 般 化 で あ る 。

そ れ は 、 主 語 と な る 参 与 者 X ( 寺 村 が 言 う

「 仕 手 」 ) が 目 的 語 と な る 参 与 者 Y ( 寺 村

が 言 う 「 も の ・ 事 」 ) に 対 し て 、 物 理 的 働

き か け を 行 う 、 そ し て 、 こ の こ と で 参 与 者

Y は 、 参 与 者 Z ( 寺 村 が 言 う 「 相 手 」 ) に 移

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〈26〉

動 し 、 結 果 的 に Z は Y を 所 有 す る と い う 認 知

事 象 と し て 特 徴 づ け る こ と が で き る 。

( 6 ) が 示 す 図 5 の 認 知 事 象 を 踏 ま え た 上

で 、 次 に ( 5 ) が 示 す 認 知 事 象 に 考 察 を 移

行 す る 。 ま ず ( 5 ) は 、 寺 村 が 指 摘 す る 点

で も あ る が 、 ( 6 ) と 同 様 に 、 あ る 種 の 働

き か け 事 象 を 示 す 。 こ れ を 示 す 端 的 な 論 証

と し て ( 5 ) と ( 6 ) は 、 そ の い ず れ も

( 7 ) や ( 8 ) が 示 す 受 動 文 と 直 接 的 な 対 応

関 係 を 持 つ こ と が あ げ ら れ る 。

(7) a. 妙 子 が 後 継 者 に 選 ば れ た 。

b. 花 子 が お 嫁 さ ん に 迎 え ら れ た 。

(8) a. 弟 子 に 免 許 が 与 え ら れ る 。

b. 彼 に 金 が 貸 さ れ る 。

 

( 7 ) や ( 8 ) が 示 す よ う に 「 働 き か け 」 と

い う 側 面 に お い て は 、 ( 5 ) と ( 6 ) は 共 に

平 行 し た 振 舞 い を 示 す 。 こ の こ と か ら 得 ら

れ る 自 然 な 帰 結 は 、 ( 5 ) も ( 6 ) と 同 じ く 、

「 参 与 者 間 の エ ネ ル ギ ー 伝 達 に 基 づ く 非 対

称 的 関 係 を 基 盤 に 成 立 す る 」 と い う こ と で

あ る 。

そ の 一 方 、 ( 5 ) は 以 下 の Ⅰ ) と Ⅱ ) の

特 性 を 見 る こ と で 、 ( 6 ) と は 異 な る 振 舞

い を 示 す こ と が 分 か る 。

Ⅰ)   結 果 事 象 の 成 立

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〈27〉

Ⅱ)   内 項 の 配 列

Ⅰ ) で は 、 そ れ ぞ れ の 文 が 示 す 認 知 事 象 が

成 立 し た 結 果 、 図 6 の 認 知 事 象 が ど の よ う

な 形 で 成 立 す る か を 観 察 す る 。

図 .6図 6 で は 、 外 在 的 エ ネ ル ギ ー 、 な い し は 力

に よ っ て 、 あ る 状 態 か ら 他 の 状 態 へ 変 化 す

る 認 知 事 象 を 示 し た 。 こ の 種 の 認 知 事 象 と

上 記 の 言 語 現 象 の 相 関 を 測 る 単 純 化 さ れ た

手 法 と し て 、 ( 5 ) や ( 6 ) の 事 態 が 終 了 し

た 直 後 に 、「 Y( ヲ 格 名 詞 ) が Z( ニ 格 名 詞 ) に

な る 」 事 態 が 成 立 す る か を 観 察 す る 。 次 に 、

Ⅱ ) で は 前 節 の 例 文 ( 1 ) で 見 た 内 項 の 配

列 、 す な わ ち 、 「 を 」 格 と 「 に 」 格 を か き

混 ぜ た 後 に 、 相 互 が 示 す 自 然 さ を 評 価 す る 。

そ し て 、 こ れ ら Ⅰ ) と Ⅱ ) を 評 価 規 準 と 定

め 、 ( 5 ) と ( 6 ) の 相 違 点 を 明 ら か に す る 。

ま ず 、 Ⅰ ) を め ぐ る 検 証 を 行 う 。 ( 5 )

や ( 6 ) と 同 一 の 項 を 用 い て 「 Y( ヲ 格 名 詞 )が Z( ニ 格 名 詞 ) に な る 」 の 適 格 性 を 見 た 場

合 、 ( 9 ) や ( 10 ) の よ う な 容 認 度 の ば ら

つ き が 生 じ る 点 に 注 目 し て ほ し い 。

(9) a.   妙 子 が 後 継 者 に な る 。

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〈28〉

b.  花 子 さ ん が お 嫁 さ ん に な る 。

(10)a.  * 免 許 が 弟 子 に な る 。

b. * 金 が 彼 に な る 。

( 9 ) や ( 10 ) に 見 ら れ る 容 認 度 の ば ら つ

き か ら 分 か る よ う に 、 ( 5 ) と ( 6 ) は 結 果

事 象 の 成 立 に 関 し て 、 は っ き り と し た 相 違

を 見 せ る 。 と い う の は 、 ( 5 ) に 関 し て は 、

そ れ が 表 現 す る 認 知 事 象 が 終 了 し た 直 後 に

( 9 ) の 認 知 事 象 が 成 立 す る 。 し か し ( 6 )

に 関 し て は 、 こ う し た 関 係 性 を 見 出 す こ と

は 困 難 と 言 え よ う 。 と な る と 、 ( 5 ) に 見

ら れ る ( 9 ) と の 対 応 関 係 は 、 ( 5 ) が 有 す

る 何 ら か の 形 式 に 特 化 さ れ た も の と 認 め ざ

る を 得 な い こ と に な る 。 現 段 階 で は 、 動 詞

を め ぐ る 諸 問 題 が 明 確 に 議 論 さ れ て い な い

た め 、 こ の 事 実 に 対 す る 具 体 的 な 結 論 を 見

出 す こ と は 難 し い 。 だ が 、 一 見 単 純 に 見 え

る こ の 事 実 は 、 次 節 で 示 す 構 文 レ ベ ル の 分

析 に お い て ベ ー ス と な る 重 要 な 事 実 で あ り 、

そ の 詳 細 な 考 察 は 次 節 以 降 で 展 開 す る 。

さ て 、 こ れ ま で ( 7 ) で 見 た 働 き か け の

特 性 、 そ し て ( 9 ) で 見 た 結 果 事 態 の 成 立

を も と に し 、 ( 5 ) が 示 す ス キ ー マ ・ レ ベ

ル の 認 知 事 象 を 暫 定 的 に 図 7 ( 以 下 、 事 態

タ イ プ 2 ) の よ う に 示 す 。

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〈29〉

図 .7図 7 で は 、 ( 5 ) が 示 す ス キ ー マ ・ レ ベ ル の

認 知 事 象 を 表 し て い る 。 ま ず 、 寺 村

( 1982 ) で も 示 唆 さ れ た こ と で は あ る が 、

( 5 ) は 複 数 の 認 知 事 象 に よ っ て 成 り 立 っ

て い る 。 そ れ は 、 使 役 に よ っ て 特 徴 付 け ら

れ る 働 き か け の 事 態 で あ り 、 働 き か け の エ

ネ ル ギ ー に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る 変 化 事 態

で あ る 。 こ の 二 つ の 認 知 事 象 の 複 合 事 態 と

し て ( 5 ) を 捉 え る こ と が で き る 。

  次 に Ⅱ ) を め ぐ る 検 証 を 行 う 。 ( 5 ) と

( 6 ) に 対 し て 内 項 の か き 混 ぜ を 適 用 し た

結 果 、( 11 ) と ( 12 ) の ば ら つ き が 観 察 さ

れ る 。

(11) a.   ? 清 元 師 匠 は 後 継 者 に 妙 子 を 選

ん だ 。

b. ? あ の 文 太 郎 も お 嫁 さ ん に 花 子 を

迎 え た 。

(12) a.   家 元 が 免 許 を 彼 に 与 え る 。

b. 銀 行 が 金 を 彼 に 貸 す 。

ま ず ( 12 ) を 見 た 場 合 、 ( 6 ) と の 間 で 際

立 っ た 自 然 さ の 差 は 観 察 さ れ な い 。 と な る

と 、 ( 6 ) で は 項 の 配 列 が ( 文 の 自 然 さ に

関 し て ) 直 接 的 に は 関 与 し て い な い こ と を

示 し て い る と 分 析 で き る 。 一 方 、 ( 5 ) の

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〈30〉

場 合 ( 11 ) が 示 す よ う に 冒 頭 の ( 1b ) 同 様 、

( 5 ) に 比 べ て 完 全 な 自 然 さ が 得 ら れ な い 8 。

こ の こ と か ら 、 ( 5 ) に 関 し て は 、 構 成 要

素 の 配 列 が 文 と し て の 自 然 さ / 不 自 然 さ に

関 与 し て い る と 言 え よ う 。

で は 、 次 の 問 題 と し て 、 ( 11 ) と ( 12 )

に 見 ら れ る ば ら つ き は 、 果 た し て ど の よ う

な 言 語 事 実 を 反 映 し て い る の で あ ろ う か 。

こ の 点 を 検 証 す べ く 、 次 の 問 題 提 起 を 行 い

た い 。「 迎 え る 、 選 ぶ 」 は 果 た し て 「 - に -を 」 か ら な る 配 列 を 許 容 し な い の だ ろ う か 。

こ う し た 問 題 提 起 の も と 実 際 の 現 象 を 調 べ

て み た 。 そ の 結 果 、 ( 13 ) の 具 体 例 が 確 認

さ れ た 。

(13) a. そ れ に し て も 、 母 親 の 方 が 自 分 の

息 子 に 嫁 を 選 ん だ 点 が

興 味 深 い 。                 ( 河

合 隼 雄 著 「 無 意 識 の 構 造 」 )

b. 本 家 の 芳 我 家 2 代 目 孝 直 が 妹 の 満

智 に 養 子 を 迎 え 、 上 芳

我 と し て 分 家 。   ( 読 売 ON-LINE 「 木 蝋 資 料 館 上 芳 我 邸 」)

8 例(11)の容認度に関しては多少の個人差が認められる。というのは、発話上のフォーカスな

いしはポーズの置き方次第で自然に感じることもあるからである。だが、この点に関連して次の

指摘しておきたい。それは、(5)に対する相対的評価から(11)が自然さを得るためには、発

話上の何らかの特別な要素を要求する点である。言い換えれば(11)が無標の形で自然さを得る

ことはできない点である。これらの点を考慮した場合、(11)に対する上記の評価は妥当なもの

と言えるのではなかろうか。

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〈31〉

本 研 究 が こ れ ま で 観 察 し て き た 現 象 に 対

し て ( 13 ) で は 、 い く つ か 特 徴 的 な 振 舞 い

を 見 せ て い る 点 に 注 目 し て ほ し い 。 そ の 振

舞 い を 確 認 す る 前 に 、 ま ず 、 ( 13 ) の 傍 線

部 に 注 目 す る と 、 ( 5 ) と 同 じ 動 詞 が 用 い

ら れ て い る こ と が 確 認 で き よ う 。 そ の 一 方

で 、 ( 13a) や ( 13b) は 、 ( 5 ) が 示 す 認 知

事 象 と は 明 ら か な 不 一 致 を 見 せ て い る 点 に

注 意 を 喚 起 し て お き た い 。 と い う の も 、

( 13a) は 、 母 親 が 嫁 を 自 分 の 息 子 に し た こ

と を 意 味 す る も の で は な く 、 嫁 が 息 子 に な

っ た こ と は 、 含 意 し な い 。 そ の 証 拠 と し て

( 上 記 の 結 果 事 象 成 立 に 関 す る テ ス ト の 結

果 ) 、 ( 14 ) を あ げ る こ と が で き る 。

(14) a. *嫁 が 息 子 に な る 。

b. * 養 子 が 満 智 に な る 。

( 14 ) か ら も 分 か る よ う に 、 ( 13 ) は 同 じ

「 選 ぶ 」 、 「 迎 え る 」 の 具 体 例 で は あ る が 、

( 5 ) と は 全 く 異 な る 振 舞 い を 見 せ る 。 こ

の こ と か ら 、 次 の 示 唆 が 得 ら れ る 。 ( 13 )

の 意 味 解 釈 の 中 核 を 決 定 す る の は 、 動 詞 と

は 別 次 元 に 存 在 す る 「 何 か 」 と 考 え な け れ

ば な ら な い 。 こ の 「 何 か 」 と 称 さ れ る も の

が 、 た と え 構 文 で あ る に し ろ 、 そ う で な い

に し ろ 、 以 上 の 事 実 関 係 か ら ま ず 認 め て お

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〈32〉

か な け れ ば な ら な い こ と が あ る 。 そ れ は 、

動 詞 の 制 約 で は 、 こ れ ら の 分 布 を め ぐ る 諸

問 題 の 本 質 的 な 解 決 が 期 待 で き な い 点 で あ

る 。 な ぜ な ら 、 動 詞 の 制 約 に 基 づ く 予 測 が

妥 当 な も の で あ る な ら ( 5 ) と ( 9 ) の 関 係

と 同 様 に 、 ( 13 ) と ( 14 ) の 関 係 も 容 認 さ

れ な け れ ば な ら な い か ら で あ る 。 さ ら に 、

( 13 ) が 事 態 タ イ プ 2 と し て 特 徴 づ け ら れ

な い こ と 以 上 に 、 ( 6 ) と 同 じ く 、 事 態 タ

イ プ 1 と し て 特 徴 付 け ら れ る 点 に 注 目 し て

ほ し い 。

(15) a.   ?? 継 承 者 が 妙 子 を 持 つ 。 (師匠

が 妙子を 後継者に 選ん だ こ と で )

b. ?? 嫁 が 花 子 を 持 つ 。 ( 文 太 郎 が 花

子を 嫁に 迎え た こ と で )

(16) a.   彼 が 免 許 を 持 つ 。 ( 師 匠 が

彼に 免許を 与え た こ と で )

b. 彼 が 金 を 持 つ 。 ( 銀 行 が 彼 に

金を 貸し た こ と で )

(17) a.   息 子 が 嫁 を 持 つ 。 ( 母 が 息

子に 嫁を 選ん だ こ と で )

b. 満 智 が 養 子 を 持 つ 。 (孝直が 妹

の 満智に 養子を 迎え た こ と で )

( 15 ) か ら ( 17 ) は 、 そ れ ぞ れ ( 5 ) 、

( 6 ) 、 ( 13 ) に 対 応 す る 。 こ れ ら の 例 は 、

( 6 ) や ( 13 ) が 表 現 す る 認 知 事 象 が 「 Z が

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〈33〉

Y を 持 つ 」 事 態 と 直 接 的 な 相 関 関 係 に お か

れ て い る こ と を 示 す と 同 時 に 、 ( 13 ) が

( 6 ) と 平 行 し た 特 徴 づ け を 有 す る こ と を

示 す も の で も あ る 。

以 上 の 観 察 を 事 実 の レ ベ ル で 、 ニ ュ ー ト

ラ ル に 解 釈 し た 結 果 、 本 研 究 が 報 告 す る 交

替 現 象 か ら 、 動 詞 と は 別 次 元 で 起 き て い る

慣 習 化 が 示 唆 さ れ た 。 具 体 的 に 言 え ば 、 こ

れ ま で の 観 察 は 、 間 接 的 と は 言 え 、 ( 意 味

的 動 機 づ け の シ ス テ ム と し て の ) 構 文 の 存

在 を 示 唆 す る 。 そ れ は 、 「 X が Z に Y を V す

る 」 と 事 態 タ イ プ 1 、 「 X が Y を Z に V す る 」

と 事 態 タ イ プ 2 の 相 関 関 係 を め ぐ る 肯 定 的

示 唆 で あ る 。 言 い 換 え れ ば 、 「 X が Z に Y を Vす る 」 は 事 態 タ イ プ 1 を エ ン コ ー ド し 、 「 Xが Z を Y に V す る 」 は 、 事 態 タ イ プ 2 を エ ン コ

ー ド す る 関 係 で あ る 。 そ の 対 応 は 、 図 8 の

よ う に 示 す こ と が で き る 。

図 8な お 、 以 上 の 観 察 に つ い て の ま と め と し て

表 1 を あ げ て お く 。

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〈34〉

具体例

コン トラスト

「 Y が Z に な

る 」

「 Z が Y を 持 つ 所有 す・る 」

内項の か き混ぜ

師 匠 が 妙 子 を 後 継 者 に

選んだ○ ? ?

母が息子に嫁を選んだ ? ○ ?

家 元 が 彼 に 免 許 を 与 え

る? ○ ○

表 .1 

ま た 、 表 1 の 交 替 の 生 産 性 を 示 す た め 、

「 選 ぶ 」 や 「 迎 え る 」 と 同 様 の 交 替 を 見 せ

る 現 象 と し て ( 十 分 な 論 証 で は な い に し

ろ ) 以 下 の 使 用 例 を 報 告 し て お き た い ( 助

詞 を 傍 点 で 、 本 動 詞 を 下 線 で 記 す ) 。

(18) a. 一 文 銭 で 銀 を 見 つ け た の は 金 花

を 嫁 に 決 め た あ と と 分 か り … .. ( こ と ば と か た ち の 部 屋 「 金 花 と 王

二 」 )

b. 子 ど も に こ の 学 校 を 決 め た 理 由

( 「 Mother Leaf in America HP 」 )

(19) a. ビ ス ケ ッ ト 生 地 を 円 形 タ ル ト 型

に 焼 い た も の に 、 果 物 や ソ ー ス

を ... ( 「 ほ ぉ ー っ と 一 息 Vol. 42 ) 」 )

b. も え は 食 の 細 い 先 生 に 色 々 と 工

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〈35〉

夫 を こ ら し た ビ ス ケ ッ ト を 焼 い

た と こ ろ だ っ た 。

( 集 英 社 「 YOU コ ミ ッ ク ス 懐 古 的 洋

食 事 情 」)

(20) a. オ リ ジ ナ ル キ ン グ カ レ ー を 給 食

に 出 し た よ 。

( 「 横 須 賀 市 立 平 作 小 学 校 HP 」 )

b. 説 明 会 を 何 回 も キ ャ ン セ ル し た

企 業 に 詫 び 状 を 出 し た 。

( IBAC 「 身 だ し な み ・ 常 識 」 )

(21) a. 進 歩 党 は 幣 原 を 空 席 の 総 裁 に 受

け 入 れ る と 発 表 し た 。

( Yahoo! ジ オ シ テ ィ ー ズ 「 戦 後 政 治 史

事 典 」 )

b. ボ ラ ン テ ィ ア 活 動 の 機 会 の 提 供

と し て 施 設 に ボ ラ ン テ ィ ア を 受

け 入 れ る こ と で あ る 。

( 国 立 オ リ ン ピ ッ ク 記 念 青 少 年 総

合 セ ン タ ー 「 ボ ラ ン テ ィ ア 」 )

本 研 究 で は こ れ ま で 報 告 し た 例 を 含 む

( 18 ) か ら ( 21 ) の 交 替 現 象 に 関 す る 基 本

的 立 場 と し て 、 個 別 の 文 法 構 文 の 具 体 事 例

と し て 分 析 す る こ と を 提 案 す る 。 と り わ け

( 18 ) か ら ( 21 ) の a 、 そ し て 、 ( 1 ) や

( 5 ) を 結 果 構 文 の 具 体 事 例 と し て 分 析 す

る こ と を 提 案 す る 。 こ の 点 に 関 連 し て 、 次

節 で は 、 こ れ ま で の 現 象 を 体 系 的 に 分 析 ・

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〈36〉

記 述 す る た め 、 構 文 レ ベ ル で そ の 一 般 化 を

試 み る 。 同 時 に 、 理 論 的 知 見 を 導 入 し た 議

論 を 展 開 し 、 先 行 研 究 に 対 す る 問 題 提 起 を

試 み る 。

4.   考 察 Ⅰ ( 結 果 構 文 研 究 の 延 長 か ら )

4.1   結 果 構 文 分 析 ( 過 去 の 研 究 を 振 り 返

り つ つ )

本 節 で は 、 こ れ ま で 報 告 し た 現 象 を よ り

一 般 的 レ ベ ル で 評 価 し 、 よ り 詳 細 な 分 析 を

展 開 す る 。 と り わ け 最 初 の 着 眼 点 と し て 、

結 果 構 文 分 析 に 注 目 す る 。 と い う の も 、 3節 で 観 察 ・ 記 述 し て き た 現 象 は 、 ( す で に

い く つ も の 事 実 関 係 か ら 示 唆 さ れ て き た こ

と で は あ る が ) 従 来 、 結 果 構 文 と 分 析 さ れ

て き た 現 象 と 酷 似 し た 振 舞 い を 見 せ る か ら

で あ る 。

本 節 で は 、 結 果 構 文 分 析 の 導 入 に 際 し て 、

先 行 研 究 の 整 理 お よ び そ れ ら を 踏 ま え た 問

題 提 起 を 試 み る 。 ま ず は 、 従 来 の 研 究 が 指

摘 す る 典 型 的 な 結 果 構 文 の 具 体 事 例 か ら 考

察 を 始 め た い 。

(22) a. 靴 を ピ カ ピ カ に 磨 く 。

b. 水 晶 玉 を 粉 々 に 砕 く 。

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〈37〉

一 般 に 、 ( 22 ) は 次 の よ う に 位 置 づ け ら れ

る 。 こ の タ イ プ の 文 は 、 単 文 形 式 で 、 あ る

特 定 の 行 為 ( 「 何 を し た の か 」 ) に 加 え 、

そ の 行 為 の 結 果 の 状 態 ( 「 何 が 生 じ た

か 」 ) も 同 時 に 述 べ る こ と が で き 、 一 般 に

結 果 構 文 ( resultative construction) と 呼 ば れ て い る 。

( 22a) に 関 し て 言 え ば 、 靴 を 磨 く と い う 行

為 に 加 え 、 そ の 結 果 、 靴 が ピ カ ピ カ の 状 態

に な る と い う 結 果 状 態 も 、 同 時 に 表 現 さ れ

る 。 こ の よ う な 点 で ( 22 ) の 特 異 な 振 舞 い

は 、 近 年 、 日 英 比 較 の 流 れ を 組 み 、 多 く の

分 析 者 に 注 目 さ れ て い る ( cf. 影 山 1996, Washio 1997, Takami 1998, 三 原 2000 ) 。 そ れ ら が 明 ら か

に し て き た 知 見 の 一 つ と し て 、 ( 22 ) の 振

舞 い に は 、 文 法 的 側 面 が 深 く 関 与 し て い る

と い う も の で あ る 。 そ の 論 証 と し て ( 22’ )

と 比 較 し て み て も 分 か る こ と で は あ る が 、

単 な る 他 動 詞 構 文 と は 目 的 語 と 動 詞 の 関 係

が 異 な る 点 を 指 摘 す る こ と が で き る 。

(22’) a. 靴 を 磨 く 。

b. 水 晶 玉 を 砕 く 。

こ う し た ( 22 ) に 対 す る 一 般 化 を め ぐ っ

て 、 従 来 、 様 々 な 分 析 が 提 案 さ れ た 。 そ れ

ら が 主 張 す る 主 た る 論 点 と そ の 分 析 方 向 を

簡 単 に ま と め る 。 と り わ け 他 動 詞 結 果 構 文

に 議 論 を 限 定 し た 場 合 、 ま ず 説 明 を 要 す る

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〈38〉

事 実 は 「 ピ カ ピ カ 」 な い し は 「 粉 々 」 と い

っ た 属 性 を 示 す 語 、 す な わ ち 結 果 述 語 の 問

題 で あ る 。 と い う の も 、 こ の 結 果 述 語 を 伴

っ て こ そ 、 初 め て 「 結 果 構 文 」 と 認 定 さ れ

る か ら で あ る 。 こ う し た こ と か ら 、 結 果 述

語 の 位 置 づ け を め ぐ っ て 、 従 来 様 々 な 立 場

か ら の 記 述 ・ 分 析 が 提 案 さ れ て い る 。 た だ 、

そ れ ら 一 つ 一 つ を 概 観 す る こ と は 、 本 研 究

の 目 的 で は な い 。 よ っ て 、 そ の 詳 細 に 立 ち

入 る こ と は 避 け る が 、 本 研 究 の 位 置 づ け や

基 本 的 問 題 意 識 を 明 ら か に す る と い う 目 的

に 限 定 し 、 大 枠 と な る 先 行 研 究 の 位 置 づ け

を 行 う 。

日 本 語 の 結 果 構 文 を め ぐ る 個 別 研 究 に 対

象 を 限 定 し た 場 合 、 ( 必 ず し も 共 通 の 見 解

が 確 立 し て い る わ け で は な い が ) 主 と し て

三 つ の 流 れ を 見 る こ と が で き る 。 第 一 に 、

Miyagawa ( 1989 )、 Hasegawa ( 1998 ) に 代 表 さ れ

る 、 統 語 論 で 説 明 す べ き と 考 え る 立 場 が あ

る 。 第 二 に 、 影 山 ( 1996, 2002 ) に 代 表 さ れ る 、

意 味 論 で 説 明 す べ き と 考 え る 立 場 が あ る 。

第 一 の 立 場 が 、 統 語 操 作 と い っ た 形 式 的 デ

バ イ ス に 説 明 を 還 元 す る 方 向 性 を 示 す の に

対 し て 、 第 二 の 立 場 は 、 語 彙 の 意 味 分 解 を

ベ ー ス と し 、 意 味 の 合 成 的 側 面 に 基 づ い て

説 明 を 試 み て い る 。 し か し 、 両 者 と も 動 詞

の 非 対 格 性 と い っ た 、 要 素 の 制 約 を 仮 定 し

て い る な ど 、 還 元 主 義 の 立 場 に 立 っ て い る

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〈39〉

点 に 関 し て は 、 大 差 は な い と 言 え よ う 。 最

後 に 、 第 三 の 方 向 と し て 、 国 語 学 の 流 れ を

組 ん で お り 、 古 く は 渡 辺 ( 1971 ) や 宮 島

( 1972 ) で 始 ま っ た 構 文 的 観 点 か ら の 副 詞

研 究 、 さ ら に は 、 仁 田 ( 1983, 2002 ) 、 堀 川

( 1993 ) 、 矢 澤 ( 1983, 2000 ) に つ な が る 結 果

の 副 詞 を め ぐ る 一 連 の 分 類 と そ の 考 察 も 、

広 義 の 結 果 構 文 研 究 と 言 え よ う 。

以 上 の 研 究 に お け る 主 た る 論 争 の 焦 点 は 、

次 の 二 つ と な る 。 一 つ 目 に 、 ど の よ う な 制

約 を 認 め る か 、 二 つ 目 に 、 ど こ ま で を 結 果

構 文 と 認 め る か で あ る 。 本 研 究 は 、 こ の 二

つ の 問 い に 答 え る た め 、 結 果 構 文 の 現 象 的

基 盤 を 議 論 し 、 そ の 動 機 づ け を 明 ら か に し

て い き た い 。 そ れ に よ っ て 、 間 接 的 で は あ

る も の の 、 二 つ の 問 い に 対 す る 答 え を 与 え

た い 。 ひ と ま ず 、 次 節 以 降 で は 、 先 行 研 究

の 第 二 の 視 点 か ら 提 案 さ れ た 結 果 構 文 分 析

を 叩 き 台 に し て 、 3 節 で 観 察 し て き た 現 象

を 捉 え て み た い 。

4.2.   結 果 構 文 の 導 入 ( 4つ の 特 性 )  

本 節 で は 、 従 来 の 結 果 構 文 分 析 の 延 長 で 、

本 研 究 が 報 告 す る 現 象 を 捉 え る 。 主 と し て 、

3 節 の 現 象 が 結 果 構 文 と 認 定 で き る 論 証 と

し て 4 つ の 制 約 を 考 え る 。 ま た 、 そ の 考 察

が ど の よ う な 一 般 化 に 繋 が る か 考 察 し て い

き た い 。

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〈40〉

4.2.1   直 接 目 的 語 の 制 約

直 接 目 的 語 の 制 約 ( direct object restriction: 以 下

DOR ) は 、 Levin and Rappaport Hovav( 1995 ) に よ っ て

明 示 的 に 示 さ れ た 、 結 果 構 文 を 特 徴 づ け る

重 要 な 制 約 の 一 つ で あ る 。 こ の 制 約 を 一 言

で 表 現 す る な ら ば 、 「 結 果 述 語 は 統 語 的 内

項 、 す な わ ち 基 底 目 的 語 に つ い て 叙 述 す

る 」 と い う こ と に な る 。 DOR の 存 在 は 、 結

果 構 文 の 可 能 な 構 造 を 制 約 し 、 結 果 構 文 の

分 布 を 予 測 可 能 な も の に す る 9 。 ( 23 ) の

ペ ア か ら 考 え て み よ う 。

(23) a. 花 子 は 家 族 全 員 の 靴 を ピ カ ピ カ に

磨 い た 。

b. *花 子 は 家 族 全 員 の 靴 を ク タ ク タ に

磨 い た 。

ま ず 、 結 果 構 文 は 、 ど ん な 環 境 に お い て も

常 に そ の 適 格 性 が 保 証 さ れ る と い う わ け で

は な い 。 ( 23 ) の 例 で 言 え ば 、 ( 23a) は 容

認 さ れ 、 ( 23b) は 排 除 さ れ る 点 に 注 目 し て

ほ し い 。 と い う の も 、 DOR に よ っ て 、 他 動

詞 の 主 語 お よ び 非 能 格 自 動 詞 の 主 語 は 共 に

外 項 で あ る た め 、 結 果 構 文 と し て は 排 除 さ

9 Levin and Rappaport Hovav(1999)では、本論の考察には直接影響しないが、自動詞結果

構文における興味深い反例が報告されており、合わせて参照されたい。ただし、その反例の多く

は自動移動構文の具体事例であり、筆者の見解では結果構文とは認めにくい。これに関連した議

論として高見・久野(2002)および三原(2000)を参照されたい。

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〈41〉

れ る 。 こ う し た DOR の 存 在 は 本 研 究 に お い

て も ( 基 本 と な る 考 え 方 に 関 し て は ) 否 定

で き な い も の と 考 え ら れ る 10 。

以 上 の 考 察 を 踏 ま え て 、 DOR の 認 知 論 的

位 置 づ け を 試 み た い 。 DOR の 動 機 づ け を 考

え る に あ た っ て 、 ま ず は 次 の 事 実 に 注 目 し

て ほ し い 。 そ れ は ( 23a) と ( 23b) の 効 果 は 、

必 ず し も す べ て に お い て 保 証 さ れ る わ け で

は な い 点 で あ る 。 と い う の は 、 ( 23’ ) の パ

ラ フ レ ー ズ に お い て は 、 両 者 と も に 容 認 さ

れ 、 そ の 差 は 完 全 に な く な る 。

(23’) a. 花 子 は 家 族 全 員 の 靴 を ピ カ ピ カ

に な る ま で 磨 い た 。

b. 花 子 は 家 族 全 員 の 靴 を ク タ ク タ に

な る ま で 磨 い た 。

( 23’ ) が 示 す よ う に 、 ( 23 ) が 示 す 使 役 と

結 果 の 事 象 は 、 そ の い ず れ も 我 々 の 経 験 基

盤 を 反 映 し た も の で あ る 。 そ し て 、

( 23’a ) と ( 23’b ) の 意 味 的 相 違 は 図 9 の よ

う に 示 す こ と が で き る ( 点 線 は 認 知 文 法 の

図 法 に 従 っ た も の で 同 一 指 示 を 表 す ) 。

10 従来、DOR についての一般的捉え方においては、統語的制約として位置づけることがあった。

しかし、本稿では、以降の考察が示すことになるが、DOR を本質的には意味論的・認知論的動機

づけのもとで位置づけており、この点に関しては立場の相違が認められるであろう。

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〈42〉

 

図 .9図 9 で は 、 ( 23’a ) と ( 23’b ) に 見 ら れ る

各 々 の 事 態 間 の 複 合 を 示 し て い る 。 ま ず 、

( 23’a ) は 図 9 の ( a ) と ( b ) の 融 合 に よ っ

て 規 定 で き る 。 同 じ く ( 23’b ) は ( a ) と

( c ) の 融 合 に よ っ て 規 定 で き る 。 ま た 、

こ の 二 者 を 一 言 で 表 す な ら ば 、 対 象 指 向 か

行 為 者 指 向 か に 基 づ く と い う こ と が で き る 。

す な わ ち 、 ( b ) が 示 す 対 象 の 変 化 に 焦 点

を 置 く か 、 ( c ) が 示 す 行 為 者 の 変 化 に 焦

点 を 置 く か の 相 違 と 結 論 づ け る こ と が で き

る 。

  こ う し た こ と か ら 、 考 え て み た 場 合 、

( 23a) は 対 象 者 指 向 の 結 果 事 態 を 叙 述 し て

い る の に 対 し て 、 ( 23b) は 行 為 者 指 向 の 結

果 事 態 を 叙 述 し て い る こ と に な る 。 そ し て 、

前 者 の 事 態 間 の 融 合 こ そ が 、 結 果 構 文 に 積

極 的 な 動 機 づ け を 与 え て い る 、 と 結 論 づ け

ら れ る 。

以 上 の 考 察 を 踏 ま え て 、 本 研 究 が 報 告 す

る 現 象 を 見 直 し た 場 合 、 ( 24 ) の 分 布 が 示

さ れ る 。

(24) a. 健 が 花 子 を 嫁 に 選 ん だ 。

b. * 健 が 花 子 を 旦 那 に 選 ん だ 。

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〈43〉

( ” 健 が 花 子 を 選 ん だ 結 果 、 健 は 旦

那 に な っ た ” の 意 味 で )

 

( 24a) と ( 24b) の 差 が 示 す よ う に 、 本 研 究

の 現 象 に お い て も 、 DOR が 深 く 関 与 し て い

る こ と が 分 か る 。 な ぜ な ら 、 ( 24a ) は 、

( 23a) 同 様 に 、 結 果 述 語 に 位 置 す る 名 詞 句

は 「 選 ぶ 」 と い う 動 作 を 行 っ た 結 果 と し て

出 現 す る 目 的 語 の 状 態 を 叙 述 し て い る 、 す

な わ ち 対 象 指 向 だ か ら で あ る 。 こ れ に 対 し

て ( 24b) で は 、 ( 23b) 同 様 に 行 為 者 指 向 を

想 定 し て み た が 、 や は り 文 と し て の 自 然 さ

が 得 ら れ な い 。 こ れ ら の 事 実 関 係 か ら 、 本

研 究 の 現 象 が DOR で 説 明 す べ き 現 象 で あ る

と 結 論 づ け る こ と が で き る 。

4.2.2   二 次 述 語 性

  次 に 、 結 果 述 語 が 持 つ 二 次 述 語 と し て の

側 面 に つ い て 考 え て 見 よ う 。 二 次 述 語 に つ

い て 詳 細 に 論 じ る つ も り は な い が 、 こ こ で

は 基 本 的 な こ と と し て 一 点 だ け 指 摘 し て お

く こ と に す る 。 二 次 述 語 と い う 概 念 は 文 内

に 見 ら れ る 二 重 の 主 述 関 係 を 前 提 に し て お

り 、 本 動 詞 と は 別 に 存 在 す る 二 次 的 な 主 述

関 係 ( secondary predication ) を 指 す も の で あ る 。

例 え ば 、 ( 25 ) が 示 す ブ ラ ケ ッ ト の 内 部 に

見 ら れ る 関 係 が そ の 典 型 例 と な る ( イ タ リ

ッ ク で 示 す 部 分 が 二 次 述 語 ) 。

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〈44〉

(25) a. John [painted the house red]. b. John [ate the meat raw]

一 般 に 、 ( 25a) は 結 果 の 二 次 述 語 ( resultative secondary predicate ) 、 ( 25b) は 叙 述 の 二 次 述 語

( depictive secondary predicate ) と さ れ 、 両 者 は 区 別

さ れ る 。 そ の 詳 細 は 割 愛 す る が 、 こ こ で は

( 25 ) の 二 次 述 語 を 検 証 す る 一 つ の 手 法 と

し て 、 次 の テ ス ト が 挙 げ ら れ る こ と を 指 摘

し て お く 。 そ れ は 二 次 述 語 性 を 検 証 す る も

っ と も 簡 略 化 さ れ た テ ス ト で 、 ( 25a) か ら

( 25c) の イ タ リ ッ ク 部 の 省 略 可 能 性 を 見 る 、

と い う も の で あ る 。 た だ し 、 省 略 可 能 性 に

つ い て は 次 の 点 を 補 足 し て お く 。 こ の 種 の

特 性 は 、 あ く ま で 必 要 条 件 以 上 の も の で は

な く 、 結 果 構 文 を 特 徴 づ け る 決 定 的 な フ ァ

ク タ ー に は な り え な い 点 に 注 意 し な け れ ば

な ら な い 。 と い う の も 、 二 次 述 語 は 文 内 に

見 ら れ る 主 述 関 係 を も と に 提 案 さ れ た 概 念

で あ り 、 省 略 可 能 な 形 態 と 二 次 述 語 は 同 義

で は な い か ら で あ る 。 同 時 に 、 本 研 究 の 基

本 的 立 場 と し て 、 二 次 述 語 の 省 略 前 の 文 と

省 略 後 の 文 を 同 一 の 命 題 、 す な わ ち 意 味 的

に 同 義 で あ る と は 考 え な い 11 。 も っ と も 、

11これは、結果の二次述語がある場合とない場合とで、目的語と動詞の関係が変化することに起

因する。この問題に関して、Hoekstra(1988)は、全体の解釈における多義性の問題が生じる

と指摘している。以下は例に注目してほしい。

1. John painted the house red.

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〈45〉

本 研 究 は 文 法 形 式 の 非 同 義 性 を 議 論 す る も

の で あ る た め 、 少 な く と も 本 論 に と っ て は

取 立 て て 考 察 す る に 値 し な い 。

さ て 、 日 本 語 の 結 果 構 文 、 お よ び 本 研 究

が 報 告 す る 現 象 に お け る 二 次 述 語 性 は

( 26 ) の 現 象 か ら 示 さ れ る 。

(26) a. 彼 女 は 家 族 全 員 の 靴 を 磨 い た 。

b. 健 が 花 子 を 選 ん だ 。

( 26a) と ( 26b) の 二 つ の 具 体 例 が 示 す よ う

に 、 そ の い ず れ の 文 に お い て も 、 結 果 述 語

を 省 略 し た と し て も 、 通 常 の 他 動 詞 構 文 と

し て 容 認 可 能 で あ る こ と が 確 認 で き る 。 こ

の こ と か ら 、 二 次 述 語 と し て の 省 略 可 能 性

に つ い て も 本 研 究 の 報 告 す る 現 象 が 、 結 果

構 文 の 一 種 で あ る こ と が 示 さ れ た で あ ろ う 。

4.2.3   受 動 文 と の 対 応 関 係 お よ び 認 知 事 象

本 節 で は 、 受 動 文 と の 対 応 関 係 を め ぐ る

諸 問 題 、 そ し て 、 認 知 事 象 と の 関 連 性 に つ

い て 確 認 し て お く 。 ま ず 、 Goldberg ( 1992, 1995 ) に よ る 次 の 指 摘 に 注 目 し て ほ し い 。

「 他 動 詞 結 果 構 文 に 対 応 付 け ら れ る 受 動 文

に お い て 、 結 果 述 語 は 主 語 を 叙 述 す る 」 と

2. John painted the house.Hoekstra(1988)によれば、1 と 2 の文は意味的に異なる振舞いを示すとされる。1 が「家にペ

ンキを塗る」という意味しかないのに対して、2 は「絵の具で家の絵を描く」という意味におい

ても用いることができると指摘する。

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〈46〉

さ れ る ( Goldberg 1995:181 ) 。 こ の 制 約 に 関 連 す

る 記 述 的 要 請 は 、 3.1 節 の 議 論 で 、 す で に 行

っ た も の で あ り 、 こ れ 以 上 の 証 拠 付 け は 不

必 要 と 考 え ら れ る ( cf: 本 論 3.1 節 お よ び

4.2.1 ) 。

以 上 の 三 点 の 形 式 的 特 性 に 加 え 、 最 後 に

意 味 的 側 面 、 す な わ ち 結 果 構 文 が 示 す 認 知

事 象 を 考 え て み た い 。 こ の 点 に 関 し て も 3節 の 議 論 で 大 枠 の 論 点 が 示 さ れ た の で 実 質

的 に は 繰 り 返 し に な る が 、 結 論 的 に 言 え ば 、

従 来 の 結 果 構 文 が 示 す 認 知 事 象 も 、 前 節 で

示 し た 図 7 の 事 態 タ イ プ 2 と し て 特 徴 付 け る

こ と が 可 能 で あ る 。 ( 27 ) を 見 て み よ う 。

(27) a. 料 理 長 は う ど ん 粉 を 平 ら に 伸 ば し

た 。

b. 花 子 が ガ ラ ス を 粉 々 に 割 っ た 。

c. 花 子 が 髪 を 紫 色 に 染 め た 。

( 27 ) の a か ら c ま で の 例 は 、 過 去 の 研 究 に

お い て 異 論 な く 認 め ら れ て き た 結 果 構 文 の

具 体 例 で あ る 。 ま ず ( 27a) の 場 合 、 料 理 長

は う ど ん 粉 と い う 対 象 に 対 し て 、 伸 ば す 行

為 を 実 行 す る 役 割 を 担 う 。 そ し て 、 う ど ん

粉 は 、 伸 ば す と い う 行 為 を 受 け た こ と で 、

平 ら に な る と い う 属 性 を 帯 び る こ と に な る 。

つ ま り 、 ( 27a) で は 、 3.1 節 で 示 し た エ ネ ル

ギ ー 連 鎖 に よ る 使 役 、 そ し て 、 そ こ か ら 生

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〈47〉

じ る 変 化 の 事 態 が 複 合 的 に 表 現 さ れ て い る 。

こ の こ と を 3 節 で 示 し た ( 5 ) の 分 析 に 照 合

さ せ て み る と 、 ( 27 ) と ( 5 ) が 同 一 の 意

味 構 造 を 基 盤 に し て い る こ と が 分 か る で あ

ろ う ( cf.   図 7 ) 12 。

以 上 の 考 察 に よ っ て 、 従 来 の 知 見 が 明 ら

か に し て き た 結 果 構 文 の 諸 制 約 は 、 本 研 究

の 現 象 に お い て も 、 同 様 に 観 察 で き る こ と

が 示 さ れ た で あ ろ う 。 こ れ ら の 点 を 総 合 し

て 考 え て み た 場 合 、 ( 偶 然 の 一 致 で な い 限

り ) 以 上 の 考 察 は 、 次 の 主 張 を 証 拠 づ け る

も の で あ る 。 3 節 で 示 し た 現 象 は 、 形 式 的

振 舞 い に 関 し て も 、 意 味 的 振 舞 い に 関 し て

も 、 結 果 構 文 の 具 体 事 例 で あ る と 位 置 づ け

る こ と が で き る 。

4.3   問 題 提 起 ( 語 彙 意 味 論 の 批 判 的 検 討

を 通 し て )

本 節 で は 、 4.2 節 ま で の 議 論 が ど の よ う な

論 点 を 示 唆 す る か を 考 察 す る 。 主 と し て 、

語 彙 意 味 論 的 ア プ ロ ー チ と 本 研 究 の ア プ ロ

ー チ の 相 違 点 を 明 ら か に す る と 同 時 に 、 語

彙 意 味 論 的 ア プ ロ ー チ に 対 す る 本 研 究 か ら

の 問 題 提 起 を 試 み る 。

ま ず 、 最 初 の 問 題 提 起 と し て 、 次 の 引 用

12 これらの関係を項構造の観点から見ても、証拠付けを行うことができる。というのも(27)と

(5)は共に動作主となる主語、そして対象となる目的語、最後に結果-様態となる結果述語とし

て位置づけることができるからである。

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〈48〉

か ら 考 察 を 始 め た い 。 「 状 態 変 化 を 意 味 す

る 動 詞 が そ の 結 果 状 態 を 具 体 的 に 描 写 す る

た め に 結 果 述 語 を 取 る こ と が で き る 。 ・ ・

〈 中 略 〉・ ・ こ の こ と を 裏 返 し に 言 え ば 、

元 来 状 態 変 化 を 意 味 し な い ( つ ま り BECOME [BE AT-[State]] と い う 概 念 構 造 を 備 え て い な い )

よ う な 動 詞 は 基 本 的 に 結 果 述 語 と 相 容 れ な

い ( 影 山 1996:241 ) 」 。 ま ず 、 影 山 ( 1996 ) に

よ る 上 記 の 主 張 に 関 す る 補 足 と し て 、 ( 還

元 主 義 を 基 本 と す る 以 上 ) 結 果 述 語 を 取 る 、

あ る い は 取 ら な い と い っ た 言 明 は 、 実 質 的

に 結 果 構 文 を 形 成 可 能 か ど う か の 問 題 と 等

価 で あ る と 見 な す こ と が で き る 。 こ の こ と

か ら 考 え る と 、 上 記 の 主 張 は 、 ( 日 本 語 の

み に 限 定 し た 場 合 ) 次 の よ う に ま と め な お

す こ と が で き る 。 状 態 変 化 を 語 の 意 味 と し

て 含 意 す る 動 詞 の み が 、 結 果 構 文 を 形 成 で

き 、 一 方 で 状 態 変 化 を 含 意 し な い 動 詞 は 、

結 果 構 文 を 形 成 し な い 13 。

以 下 で は 、 こ の 分 析 に 経 験 的 支 持 を 与 え

13 影山(2001)では、このことに関連し、本動詞の意味から予測可能なもの、すなわち状態変化

動詞の例を「本来的結果構文」と呼び、本動詞から予測不可能なもの、例えば、非能格動詞の擬

似目的語の結果構文などを「派生的結果構文」と呼び、二者を区別している。ただし、日本語に

関しては一貫して、前者の状態変化動詞の制約を想定し、結果構文を位置付けており、本研究の

問題提起そのものに関しては、否定できるものではない。また、同様の前提は、

Washio(1997)、Takami(1998)、仁田(2002)でも見ることができる。なお、議論の公正

さのため、付記しておくと、影山(1996)の日本語に対する分析の背後には、動詞のアスペクト

制約をめぐる日英間の相違がある。詳細は割愛したいが、一言でまとめるならば英語では、

CONTROL 関数で語彙概念構造(lexical conceptual structure; LCS)の合成が可能な一方、日

本語ではそれが不可能なため、最初から下位事象を持っている完了的動詞のみが結果構文を許す

ということになる。

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〈49〉

る 実 際 の 具 体 例 を 検 討 す る こ と で 、 そ の 内

実 を 再 考 し て み た い 。 ま ず は 、 具 体 例 の 分

布 を め ぐ る 問 題 と し て ( 28 ) と ( 29 ) を み

て み よ う 。

(28) a. 太 郎 は 皿 を 粉 々 に 割 っ た 。

b. *太 郎 は 皿 を 二 束 三 文 に 割 っ た 。

c. *太 郎 は 皿 を 粉 々 に 触 っ た 。

(29) a. 花 子 は ケ ー キ を 四 つ に 切 っ た 。

b. *花 子 は ケ ー キ を ぼ ろ ぼ ろ に 切 っ た 。

c. *花 子 は 本 を ぼ ろ ぼ ろ に 読 ん だ 。

( 28 ) や ( 29 ) に 見 ら れ る 容 認 度 の ば ら つ

き は 、 結 果 的 に は 動 詞 の 制 約 を う ま く 反 映

し て お り 、 影 山 ( 1996 ) の 分 析 に 経 験 的 支

持 を 与 え る 。 ま ず 、 結 果 述 語 と 動 詞 の 共 起

制 限 を 問 題 に し た 場 合 、 ( 28a) の 「 割 る 」

と い う 行 為 の 結 果 、 「 粉 々 」 に な る と い う

事 態 が 共 起 可 能 な 一 方 、 ( 28b) の 「 二 束 三

文 」 に な る と い う こ と は 共 起 で き な い 。 こ

う し た 事 実 の 分 布 か ら 、 「 あ る 特 定 の 状 態

変 化 が 動 詞 の 意 味 に 内 在 化 さ れ 、 動 詞 は 結

果 述 語 の 選 択 を 予 測 す る 」 と 考 え ら れ る よ

う に な っ た 。 す な わ ち 、 ( 28a) か ら ( 28c)

は 、 動 詞 に よ る セ レ ク シ ョ ン を 示 す も の で

あ り 、 上 記 の 引 用 で 言 え ば 、 「 動 詞 は そ の

結 果 状 態 を 具 体 的 に 描 写 す る た め に 結 果 述

語 を 取 る こ と が で き る 」 と い う 分 析 を サ ポ

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〈50〉

ー ト す る 。 さ ら に 、 ( 28c) の 「 触 る 」 が 状

態 変 化 を 意 味 し な い 動 詞 で あ る 点 に 注 目 す

る と 、 影 山 ( 1996 ) の 予 測 は 一 見 妥 当 な も

の と 考 え ら れ る 。 こ の こ と は 、 上 記 の 引 用

で 言 え ば 「 元 来 状 態 変 化 を 意 味 し な い よ う

な 動 詞 は 基 本 的 に 結 果 述 語 と 相 容 れ な い 」

と い う 予 測 を サ ポ ー ト す る 。 同 じ こ と が

( 29 ) に 見 ら れ る 具 体 例 に 関 し て も 確 認 で

き よ う 。

次 に 、 視 点 を 変 え 、 「 な ぜ 状 態 変 化 動 詞

に 注 目 す る の か 」 と い う 問 題 を 考 え て み た

い 。 こ の 点 に 関 連 し て 、 状 態 変 化 動 詞 の 特

異 な 振 舞 い を 示 唆 的 に 表 し て い る ( 30 ) か

ら 考 え て み た い 。

(30) a. 母 は { コ ロ ッ ケ / フ ラ イ / 天 ぷ ら } を 揚 げ た 。

b. 母 は { コ ロ ッ ケ / フ ラ イ / 天 ぷ ら } を パ リ パ リ に 揚 げ た 。

( 30 ) に 見 ら れ る 交 替 は 、 4.2 節 の 考 察 が 示

す 結 果 構 文 の 一 般 的 交 替 で あ る 。 と り わ け 、

動 詞 に 注 目 し た 場 合 、 状 態 変 化 動 詞 、 な い

し は 作 成 動 詞 ( cf. 作 る 、 生 む 、 建 て る 、 焼

く ; 寺 村 ( 1982 ) ) の 具 体 例 で あ る こ と が 分

か る 。 こ こ で 、 ( 30a) の 他 動 詞 が ( 30b) の

よ う な 結 果 構 文 を 形 成 で き る 背 景 と し て 次

の 点 に 注 目 す る 必 要 が あ る 。 こ の 種 の 動 詞

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〈51〉

は 、 行 為 の 対 象 や 変 化 の 対 象 は も ち ろ ん の

こ と 、 変 化 の 結 果 ま で も 内 項 に 取 り う る 点

で あ る 。 ( 30 ) の ブ ラ ケ ッ ト 部 分 の 名 詞 が

結 果 で あ る こ と を 示 す 論 証 と し て 、 ( 31 )

を あ げ る こ と が で き る 。 傍 点 部 に 注 目 し て

ほ し い 。

(31) a. 新鮮な シ ーラ を フ ラ イ に 揚げ 、タ ル タ

ル ソ ース で 仕上げ て あ り ま す 。

( 「 か ぜ ま ち の 新 商 品 」 )

b. 洗 い ご ぼ う を 購 入 後 , 水 に 浸 け て

一 晩 お い て 千 切 り し 、 天 ぷ ら 粉 と

卵 白 で 天 ぷ ら に あ げ て 、 皿 に 盛 り

置 い て お い た と こ ろ 、 青 色 に 変 色

し た 。               ( 「 横 浜 市衛 生 研 究 所 苦 情 事 例 集 」 )

( 31 ) が 示 す よ う に 、 「 揚 げ る 」 の 目 的 語

は 、 文 脈 次 第 で は 結 果 述 語 と 交 替 可 能 で あ

り 、 目 的 語 と の 間 で 新 た な 叙 述 関 係 を 形 成

す る こ と が で き る 。 こ の こ と を 裏 返 し に と

れ ば 、 こ の 種 の 動 詞 は 変 化 後 の 結 果 ま で を

内 項 に 取 り う る こ と を 示 し て お り 、 状 態 変

化 動 詞 と 結 果 構 文 の 深 い つ な が り が 強 く 示

唆 さ れ る 。

こ れ ら の 例 か ら 分 か る よ う に 状 態 変 化 動

詞 は 、 結 果 構 文 を 用 い る ま で も な く 、 ( 語

彙 レ ベ ル で ) 変 化 や 結 果 と い っ た 認 知 事 象

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に セ ン シ テ ィ ブ な 性 質 を 持 つ 。 こ う し た 経

験 事 実 の 問 題 は 、 分 析 者 の 次 の 直 感 を 促 す 。

ま ず 、 ( 28 ) や ( 29 ) の 具 体 例 の 分 布 か ら 、

語 彙 の レ ベ ル で 「 割 る 」 ・ 「 切 る 」 と 「 触

る 」 ・ 「 読 む 」 が 想 起 す る イ メ ー ジ の 直 感

的 相 違 が 感 じ ら れ る 。 も う 一 方 で 、 実 際 、

皿 を 割 る こ と で 、 皿 が 粉 々 の 状 態 に 変 化 す

る こ と は 容 易 に 想 起 で き る の に 対 し て 、 皿

を 触 る こ と で 、 皿 が 粉 々 の 状 態 に 変 化 す る

こ と は 、 想 起 し に く い 。 同 じ く ( 30 ) に 見

ら れ る 状 態 変 化 動 詞 の 特 異 な 振 舞 い は 、 動

詞 が 持 つ 強 い 制 約 を 伺 わ せ る 。 こ う し た 複

数 の レ ベ ル に ま た が る 点 と な る 様 々 な 事 実

を 結 び つ け る も の は 何 で あ ろ う か 。 そ の 一

つ の 答 え が 語 彙 意 味 論 で 言 わ れ る 状 態 変 化

動 詞 の 制 約 で あ り 、 動 詞 ベ ー ス ア プ ロ ー チ

で あ る 。 そ の 分 析 は 、 ( 28 ) か ら ( 31 ) に

代 表 さ れ る よ う な 中 心 的 事 例 に 関 し て は 、

一 見 統 一 的 見 取 り 図 を 示 す も の と も 考 え ら

れ る で あ ろ う 。

し か し 、 本 研 究 は 次 の 二 つ の 理 由 か ら 動

詞 ベ ー ス の 分 析 に 、 は っ き り と 異 議 を 唱 え

る 。 ま ず 、 第 一 の 根 拠 と し て 、 ( 極 め て 経

験 的 レ ベ ル の 問 題 と し て ) そ の 分 析 が 本 研

究 の 報 告 す る 現 象 を 充 分 に 説 明 し え な い 、

と い う 問 題 が あ る 。 な ぜ な ら 、 影 山

( 1996 ) の 主 張 が 正 し け れ ば 、 3 節 で 報 告 し

た 現 象 の す べ て の 動 詞 、 例 え ば 「 選 ぶ 、 迎

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え る 、 決 め る 、 出 す 、 用 い る 、 受 け 入 れ

る 」 は 、 そ の い ず れ も 状 態 変 化 動 詞 で あ る

と 分 析 さ れ ね ば な ら な い 。 だ が 、 こ の 分 析

が 実 際 の 日 本 語 母 語 話 者 の 直 感 と 矛 盾 す る

も の で あ る こ と は 言 う ま で も な い こ と で あ

ろ う 14 。 第 二 の 根 拠 と し て は 、 ( 理 論 的 観

点 か ら 、 Goldberg ( 1995 ) を は じ め と す る 構 文

理 論 側 が 指 摘 す る 問 題 点 で ) 記 述 の 循 環 論

を 引 き 起 こ す 点 を 挙 げ る こ と が で き る 。

4.3.1   状 態 変 化 動 詞 を め ぐ る 循 環 論

本 節 で は 、 4.3 節 の 問 題 提 起 を 具 体 例 に 基

づ い て 考 察 す る 。 と り わ け 、 議 論 の 鍵 を 握

る 状 態 変 化 動 詞 の 経 験 的 根 拠 を め ぐ る 諸 問

題 を 考 え て み た い 。 考 察 の 順 序 と し て は 、

影 山 ( 1996 ) の 提 案 に 基 づ く 状 態 変 化 動 詞

の 認 定 手 法 を 見 る 。 次 に 、 こ の 手 法 が ど こ

ま で 言 語 事 実 を 正 し く 評 価 で き る か を 検 討

す る 。 結 論 的 に は 、 動 詞 の み で 状 態 変 化 を

認 定 す る こ と が 困 難 で あ る こ と を 示 す 。

状 態 変 化 動 詞 の 認 定 に 関 わ る 問 題 は 、 実

際 の と こ ろ 、 動 詞 分 類 そ の も の に 直 結 す る

問 題 で あ り 、 非 常 に 厄 介 な 論 題 で あ る 。 た

14 もう一つの分析として、この種の枠組みがもっとも恐れるべき動詞の多義に基づく分析に従う

ならば、これらの動詞が結果構文を形成できることを論証とし、状態変化動詞である、と分析せ

ざるを得ない。しかし、この分析に関しても問題は残る。というのは、仮にこれらの動詞を状態

変化動詞と位置付けてしまった場合、今度は状態変化動詞そのもののカテゴリーを、また新たに

定義しなおさなければならず、より深刻な循環論に陥る。こうしたことが示唆するように、語彙

意味論に基づく多くの分析は、事実のスコープを広げることで無理な一般化をせざるを得ない。

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〈54〉

だ 、 経 験 的 問 題 に 議 論 を 限 定 し た 場 合 で あ

れ ば 、 こ の 種 の 論 争 に と っ て 最 大 の 決 め 手

と な る の は 、 「 状 態 変 化 動 詞 で あ る も の 」

か ら 「 状 態 変 化 動 詞 で な い も の 」 を い か に

区 別 し 、 前 者 か ら 後 者 を 排 除 で き る か 、 と

い う 問 題 に 収 斂 す る 。 議 論 を よ り 具 体 的 な

も の に す る た め 、 ( 本 研 究 で は 状 態 変 化 動

詞 を 認 定 す る 手 法 の 一 つ と し て ) 影 山

( 1996 ) の 「 て あ る 」 構 文 と の 共 起 テ ス ト

を 取 り 上 げ 、 検 討 し て い き た い 。

影 山 ( 1996, 2001 ) は 「 て あ る 」 構 文 と の 共

起 可 能 性 か ら 状 態 変 化 動 詞 を 捉 え う る と 説

く 。 そ の 証 拠 と し て 、 結 果 状 態 を 伴 う

( 32 ) は 「 て あ る 」 構 文 と の 共 起 が 許 さ れ

る が 、 結 果 状 態 を 伴 わ な い ( 33 ) の 動 詞 は

「 て あ る 」 構 文 と の 共 起 が 許 さ れ な い こ と

を 挙 げ る 。

(32) a. ス イ カ が 切 っ て あ る 。

b. ス ー プ が 温 め て あ る 。

(33) a. * ス イ カ が 叩 い て あ る 。

b. *壁 に 蹴 っ て あ る 。

( 32 ) と ( 33 ) の 間 に 見 ら れ る コ ン ト ラ ス

ト か ら 、 ( 32 ) に お け る 動 詞 「 切 る 、 温 め

る 」 は 、 結 果 状 態 を 伴 う 状 態 変 化 動 詞 、 す

な わ ち [BECOME [BE AT-[State]]] の 意 味 的 ス ロ ッ ト を

内 在 的 に 持 つ 動 詞 と 分 析 す る 。 一 見 し た と

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こ ろ 、 こ の 点 に つ い て は 、 日 本 語 話 者 の 直

感 に 照 ら し 合 わ せ て 考 え て み て も 疑 念 を は

さ む も の は い な い で あ ろ う 。 一 方 、 ( 33 )

は 「 て あ る 」 構 文 と の 共 起 が 許 さ れ な い こ

と か ら 、 結 果 状 態 を 伴 わ な い ( 接 触 ・ 打

撃 ) 動 詞 、 す な わ ち ACT ON 動 詞 で あ る と さ

れ 、 状 態 変 化 動 詞 と は 区 別 さ れ る 。

で は 、 こ の 分 析 の ( 具 体 例 に 基 づ い て )

検 証 に 移 り た い 。 と り わ け 本 研 究 で は 、 二

つ の 問 題 点 を 指 摘 し て お き た い 。 ま ず 、 テ

ス ト に 関 す る 問 題 と し て 、 「 て あ る 」 と の

共 起 可 能 性 が 状 態 変 化 動 詞 を ラ イ セ ン ス で

き る か 、 と い う 問 題 、 次 に 、 状 態 変 化 を 動

詞 の み の 機 能 と す る 分 析 が 適 切 か 、 と い う

問 題 で あ る 。 最 初 の 論 点 に 関 連 し て は 、 二

点 ほ ど の 反 例 を 挙 げ 、 現 象 レ ベ ル で 論 じ て

い く 。 二 つ め の 論 点 に 関 し て は 、 枠 組 み 全

体 の 問 題 点 と し て の 記 述 的 循 環 論 を 取 り 上

げ 、 検 討 し て い く 。

ま ず 、 最 初 の 問 題 に つ い て は 、 次 の

( 34 ) を 取 り 上 げ て み た い 。

(34) a. ??A さ ん が B さ ん を 殺 し た が 、 B さ ん

は 死 な な か っ た 。

b. ??B さ ん が 殺 し て あ る 。

動 詞 「 殺 す 」 は 、 ( 34 a ) の 容 認 度 の 面

か ら 考 え て み て も 、 日 本 語 母 語 話 者 の 直 感

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か ら 考 え て み て も 、 明 ら か に 状 態 変 化 を 含

意 す る も の で あ る 。 と い う の も 、 ( 34a) の

テ ス ト か ら 分 か る よ う に 、 動 詞 「 殺 す 」 は 、

そ の プ ロ ト タ イ プ 的 な 認 知 事 象 と し て 使 役

行 為 ( cf. 西 村 199815 ) を 表 す と 同 時 に 、 そ

の 行 為 の 結 果 と し て 、 明 ら か な 状 態 変 化 を

伴 う 動 詞 で あ る と 言 え る 。 だ が 、 こ こ で 問

題 に な る の は ( 34b) で あ る 。 と い う の も 、

( 32 ) や ( 33 ) に 基 づ く 一 般 化 が 正 し け れ

ば 、 ( 34b) が 不 自 然 な の は 、 い さ さ か 不 可

解 な こ と と 言 わ ざ る を 得 な い か ら で あ る 。

な ぜ な ら 、 ( 34 ) に 見 ら れ る 二 つ の 事 実 に

つ い て 、 影 山 ( 1996 ) の 分 析 が 正 し い も の

で あ る な ら ば 、 動 詞 「 殺 す 」 は 結 果 状 態 を

伴 う も の で あ る た め 、 「 て あ る 」 構 文 と 自

由 に 共 起 す る も の で な け れ ば な ら な い 。

次 の 問 題 と し て 、 影 山 ( 1996 ) で は 「 て

あ る 」 構 文 と 共 起 し な い と 主 張 さ れ た 、 打

撃 動 詞 「 叩 く 」 や 「 殴 る 」 と 関 連 し 、

( 35 ) に 注 目 し て ほ し い 。

(35) a. 肉 は 包 丁 の 腹 で 叩 い て あ る の で 、

柔 ら か く ジ ュ ー シ ー だ 。

(「 西 安 刀 削 麺 六 本 木 店 」 広 告 )

18) b. ま あ 、 一 発 殴 っ て あ る か ら 冷 蔵 庫

の 裏 あ た り で 死 ん で る か も ね 。

15 西村(1998)の分析によれば、使役行為とはその定義として「基礎行為となる行為X と変化Zとの間に手段・目的の関係が成立しているもの」で、まさしく「殺す」はその典型例と言えよう。

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19) ( 「 ハ イ デ ッ カ の 日 記 」 )

( 35 ) の 例 が 問 題 な の は 、 ( 33 ) の 分 布 に

基 づ く 予 測 が 正 し け れ ば 、 こ れ ら の 具 体 例

の 使 用 は 認 め ら れ な い は ず だ か ら で あ る 。

だ が 、 ( 35 ) が 示 す よ う に 、 た と え 打 撃 動

詞 で あ っ て も 、 一 定 の 語 用 論 的 文 脈 さ え 与

え ら れ れ ば 、 一 般 の 日 本 語 話 者 に と っ て

「 て あ る 」 と の 共 起 は 、 充 分 に 容 認 可 能 で

あ る 。 ま た 、 こ の こ と は 、 影 山 ( 1996 ) の

分 析 お よ び そ の 予 測 が 正 し く な い こ と を 示

唆 す る 。 以 上 の 考 察 か ら 、 「 て あ る 」 構 文

と の 共 起 を 根 拠 と し た 状 態 変 化 動 詞 の 認 定

は 、 必 ず し も 言 語 事 実 を 正 し く 捉 え て い な

い と 結 論 づ け る こ と が で き よ う 。

ま た 、 こ の 種 の 分 析 に 関 し て 、 さ ら に 深

刻 な の は 、 分 析 者 が 意 図 し な い 別 の 問 題 を

引 き 起 こ す 点 で あ る 。 そ れ は 、 動 詞 を 中 心

と し た 多 く の 分 析 に 共 通 し て 見 ら れ る 問 題

で あ る が 、 分 析 対 象 に 対 す る 、 概 念 的 循 環

論 を 引 き 起 こ し て い る 。 そ の 最 大 の 原 因 は 、

こ の 種 の 流 れ を 組 む 研 究 が 動 詞 の 意 味 と 称

す る も の が 一 体 、 何 を 指 し て お り 、 ど の よ

う な 性 質 の も の か と い う こ と が 、 充 分 に 明

確 で な い と こ ろ に あ る 。 こ の こ と を 示 唆 す

る 具 体 的 分 析 と し て ( 36 ) と ( 37 ) を 見 て

み よ う ( ibid:72 ) 。

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(36) a. 杖 を 握 る 。

b. *杖 が 握 っ て あ る 。

(37) a. お に ぎ り を 握 る 。

b. お に ぎ り が 握 っ て あ る 。

影 山 ( 1996 ) は 、 ( 36 ) と ( 37 ) に 見 ら れ

る 容 認 度 の 相 違 か ら 、 二 者 に お け る 「 握

る 」 を 異 な る カ テ ゴ リ ー に 属 す る も の と 分

析 す る 。 そ れ は 、 ( 36 ) は 「 て あ る 」 と の

共 起 が 許 さ れ な い こ と か ら 接 触 動 詞 と し 、

( 37 ) は 「 て あ る 」 と の 共 起 が 許 さ れ る こ

と か ら 状 態 変 化 動 詞 で あ る と 分 析 す る 。 こ

の 分 析 は 、 一 見 し た と こ ろ 、 ( 37 ) の 場 合 、

( 36 ) と 違 っ て ( 単 な る 働 き か け の み な ら

ず ) 新 た に お に ぎ り が 生 成 さ れ る 、 と い う

別 の 事 態 が 関 与 し て い る こ と を う ま く 捉 え

て お り 、 正 し い 分 析 に も 思 わ れ る 。

し か し 、 こ う し た 語 彙 意 味 論 特 有 の 分 析

に 関 し て 、 ( 現 象 の 記 述 レ ベ ル で ) い く つ

か 問 わ な け れ ば な ら な い 問 題 点 が あ る 。 ま

ず 、 最 初 の 問 題 点 と し て 、 「 握 る 」 対 象 、

す な わ ち 名 詞 句 に よ っ て 動 詞 の 意 味 を 書 き

換 え る ア プ ロ ー チ が 果 た し て 正 し い ア プ ロ

ー チ か 、 と い う 問 題 点 が あ る 。 と い う の も 、

( 36 ) と ( 37 ) の 分 布 は 、 明 ら か に 名 詞 の

属 性 に 依 拠 し た も の だ か ら で あ る 。 こ の 懸

念 の 背 後 に は 、 こ う し た ア プ ロ ー チ を 推 し

進 め た 場 合 、 極 端 な 例 と し て 「 名 詞 の 数 、

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ひ い て は 文 の 数 だ け 動 詞 の 意 味 を 書 き 換 え

る 分 析 に ブ ロ ッ ク を か け る こ と が で き な

い 」 、 「 記 述 の 歯 止 め が 利 か な く な る 」 と

い う 問 題 点 が あ る 。 第 二 に 、 「 分 析 対 象 が

不 明 瞭 に な る 」 と い う 問 題 点 が あ る 。

( 36 ) 、 ( 37 ) に 関 し て 言 え ば 、 そ れ が 分

析 の 対 象 と し て い る の は 、 動 詞 な の か 、 構

文 な の か 、 そ れ と も 名 詞 な の か 、 と い う 点

に 関 し て 、 非 常 に 曖 昧 な も の に な っ て い る 。

言 い 換 え れ ば 、 ( 36 ) 、 ( 37 ) を め ぐ る 影

山 ( 1996 ) の 分 析 が 動 詞 「 握 る 」 の 意 味 を

記 述 し て い る の か 、 そ れ と も 「 て あ る 」 構

文 の 意 味 を 記 述 し て い る の か 、 そ れ と も 、

名 詞 句 と の 共 起 に よ る ( フ レ ー ム 知 識 ・ 百

科 事 典 的 知 識 ま で も 含 ん だ も の と し て の )

文 脈 効 果 を 記 述 し て い る の か 、 と い っ た 問

題 に 関 し て 必 ず し も 明 確 で は な い と い う こ

と で あ る 。

こ の よ う な 方 向 が 示 す 問 題 点 は 、 語 彙 意

味 論 の 枠 組 み が 持 つ 本 質 的 限 界 と も 言 え る 。

ま た 、 こ う し た 混 乱 の 根 底 に は 、 動 詞 と 他

の 要 素 の す み わ け の 問 題 が 、 必 要 充 分 に 考

察 さ れ ず 、 確 立 し た 位 置 づ け が な い ま ま 、

実 際 の 言 語 分 析 が な さ れ た と こ ろ に 問 題 の

発 端 が あ る 。

4.4   構 文 効 果 を 示 唆 す る 論 証

本 節 で は 、 4.3 節 で の 問 題 提 起 、 お よ び 今

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後 の 分 析 の 妥 当 性 を 示 す べ く 、 3 節 の 観 察

に 加 え 、 動 詞 の 意 味 に 基 づ く 分 析 の 具 体 的

反 例 を 示 す 。 ま た 、 こ れ ら の 反 例 に 対 す る

位 置 づ け を 考 察 す る こ と で 、 次 節 以 降 の 分

析 に つ な げ て い き た い 。

ま ず 、 こ れ ま で の 考 察 が 示 す 通 り 、 動 詞

の 制 約 を ベ ー ス に お く ア プ ロ ー チ で は 、 以

下 の 分 布 か ら 動 詞 の 制 約 を 主 張 し て き た 。

(38) a. 犬 小 屋 を 白 く 塗 っ た 。

b. 彼 女 は 手 紙 を び り び り に 破 っ た 。

(39) a. * 肉 を 平 ら に 叩 い た 。

b. *馬 は 自 分 の か ら だ を グ ズ グ ズ に 引

っ 張 っ た 。

c. *ビ ン の 蓋 を 固 く ね じ っ た 。

(40) a. こ の 床 を ぴ か ぴ か に 拭 く な ん て 無

理 だ 。

b. 僕 は 部 屋 を き れ い に 掃 除 し た 。

(41) a. * 植 木 屋 さ ん は チ ュ ー リ ッ プ に ぺ ち

ゃ ん こ に 水 を か け た 。

b. *ポ チ は 私 の 靴 を ぼ ろ ぼ ろ に 噛 ん だ 。

( 38 ) と ( 39 ) は 影 山 ( 1996 ) 、 そ し て 、

( 40 ) と ( 41 ) は Takami ( 1998 ) の 報 告 に よ

る 。 両 者 の 分 析 は 、 そ の 切 り 口 の 相 違 こ そ

あ れ 、 語 彙 概 念 構 造 に コ ミ ッ ト し て お り 、

動 詞 の 制 約 を プ リ ミ テ ィ ブ に 係 る も の と 仮

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定 し て 、 実 際 の 分 析 を 行 っ て い る 点 で は 共

通 し て い る 。 以 下 で は 、 そ の 分 析 を 概 略 的

に 見 た 上 で 、 現 象 レ ベ ル で の 反 例 を 提 示 す

る 。

ま ず 、 ( 38 ) の 動 詞 「 塗 る 」 と 「 破 る 」

は 、 い ず れ も ( 38’ ) に 示 す 意 味 関 数 と し て

定 義 さ れ る 。

(38’) [   ]x CAUSE [[   ]y BECOME [[   ]y BE AT-[   ]z ]]]

(38’) が 示 す よ う に 、 ( 38 ) の 動 詞 は 、 y が zに 変 化 す る 関 係 、 す な わ ち y と z が BECOME で

定 義 さ れ る 関 係 に 対 し て 、 x は 下 位 事 象 と

CAUSE で 定 義 さ れ る 関 係 を 持 つ 。 こ の こ と か

ら 、 ( 38 ) の 文 法 関 係 の 根 底 を 動 機 づ け る

の は 、 動 詞 で あ る と 結 論 づ け ら れ る 16 。 ま

た 、 こ の 分 析 に 対 し て さ ら な る 経 験 的 支 持

を 与 え る も の と し て 、 ( 39 ) の 動 詞 に 注 目

し て み よ う 。

(39’) [[   ]x ACT ( ON [   ]y ) ]

( 39 ) の 動 詞 「 叩 く 」 、 「 引 っ 張 る 」 、

「 ね じ る 」 は ( 39’ ) が 示 す よ う に 、 統 語 的

に 外 項 と し て 生 じ る x と 、 内 項 と し て 生 じ

16 この種の手法を用いる多くの研究は、語彙分解構造といったパラフレーズが動詞の豊かな意味

をすべて捉えているわけではないことはすでに認識している。しかし、このパラフレーズが「動

詞の意味においてシンタクスに関連する側面」を捉えるには適切かつ充分であると主張している

ことも事実である(Pinker 1989)。

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る y が ACT ON で 定 義 さ れ る 。 こ の こ と か ら 、

既 述 の 通 り ( 39 ) の 動 詞 は 、 ( 38 ) と は 区

別 さ れ 、 異 な る 振 舞 い を 示 す も の と 分 析 さ

れ る の で あ る 。

一 方 、 Takami ( 1998 ) で は 、 影 山 ( 1996 ) と

は 異 な る 分 類 を 提 案 し て い る 。 ( 40 ) の タ

イ プ を 語 彙 的 結 果 構 文 ( lexical resultatives ) と 呼

び 、 動 詞 の 制 約 に よ る 結 果 構 文 と 捉 え る 。

一 方 ( 41 ) は 、 語 用 論 的 結 果 構 文 ( pragmatic resultatives) と 呼 ん で お り 、 日 本 語 に は 存 在 し

な い と 主 張 す る 。 こ の 両 者 の 研 究 に お い て

は 、 い く つ か 議 論 が 錯 綜 し て お り

Takami ( 1998 ) で は ( 40 ) を 結 果 構 文 と し て

い る の に 対 し 、 影 山 ( 1996 ) で は 働 き か け

動 詞 の 具 体 事 例 と 捉 え 、 結 果 構 文 で は な い

と 分 析 す る 。 し か し 、 い ず れ の 分 析 に お い

て も 、 ( 39 ) や ( 41 ) に お け る 非 適 格 性 を

論 証 に 、 「 日 本 語 に は 動 詞 の 意 味 か ら 予 測

で き な い 結 果 構 文 は 存 在 し な い 」 と い う 結

論 に 到 達 し て い る 点 で は 、 共 通 し て い る 。

こ う し た 従 来 の 観 察 ・ 記 述 に 対 し て 、

( 42 ) は 重 要 な 事 実 を 示 唆 す る 。

(42) a. 僕 は 退 院 す る と き 主 治 医 を ぼ こ ぼ

こ に 殴 っ た 。   ( 「 大 森 の 小 説 」 )

(1)b. 子 牛 の ロ ー ス 肉 を 薄 く 叩 い て 、 塩 、

胡 椒 を し て 粉 、 卵 、 パ ン 粉 の 順 に

衣 を 付 け る 。( 「 ク チ ー ナ お す す め

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料 理 」 )

    c. 索 餅 は 小 麦 粉 の 米 の 粉 を 練 っ た

物 を 縄 の 形 に ね じ っ た お 菓 子 。

( 「 淡 路 手 延 べ 素 麺 の 歴 史 」 )

(18) d. 政 府 が 何 ら か の 小 手 先 の 策 を 講 じ

て 一 時 的 に 市 場 を 円 安 に 引 っ 張 っ

た と し て も こ の 基 本 的 な 構 造 が 変

わ ら な い か ぎ り 再 び 円 高 に な る 。

( 「 村 上 龍 金 融 経 済 の 専 門 家 た ち に

聞 く 」 ) (21 e. 大 掃 除 、 み ん な で 床 を ピ カ ピ カ に

こ す っ た 。 ( 「 4 年 1 組 の 宝 物 」 )

( 42 ) は 、 ( ACT ON動 詞 が 用 い ら れ て い る こ

と か ら ) い わ ゆ る 拡 張 例 と も 考 え ら れ る も

の の 、 実 際 に 使 用 さ れ て い る こ と か ら わ か

る よ う に 、 一 般 の 日 本 語 話 者 に と っ て も 充

分 に 容 認 で き る 点 が 重 要 と な る 。 で は 、 こ

の こ と は 一 体 何 を 意 味 す る も の で あ ろ う か 。

こ れ ら の 具 体 例 は 、 動 詞 を 中 心 と す る 分 析

の 枠 組 み に 対 し て 、 ど の よ う な 事 実 を 示 唆

す る で あ ろ う か 。 こ こ で は 、 三 点 の 事 実 を

指 摘 す る こ と が で き る 。 1 ) ( 42 ) の い ず

れ の 例 も 主 語 、 目 的 語 、 結 果 述 語 、 動 詞 の

形 式 を 基 本 と し て お り 、 結 果 構 文 の 形 式 面

で の 必 要 条 件 を 満 た し て い る と い う 事 実 。

2 ) そ の い ず れ も 文 全 体 と し て 、 主 語 が 目

的 語 に 働 き か け 、 結 果 述 語 が 示 す 状 態 に 変

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〈64〉

化 す る こ と 、 す な わ ち 、 結 果 事 態 を 想 起 さ

せ て い る 点 で 、 結 果 構 文 の 意 味 論 的 制 約 を

反 映 し て い る と い う 事 実 。 3 ) そ の い ず れ

も 従 来 の 枠 組 み に お い て は ACT ON動 詞 、 す な

わ ち 結 果 構 文 を 形 成 し な い 動 詞 と 分 析 さ れ

て き た と い う 事 実 で あ る 。

こ う し た 三 点 の 事 実 関 係 か ら 、 よ り 統 一

的 に 捉 え な お し た 場 合 、 次 の よ う に ま と め

な お す こ と が で き る 。 ( 39’ ) で 示 し た 3 )

の 事 実 が 認 め ら れ る の で あ れ ば 、 ( 42 ) に

見 ら れ る 2 ) の 事 実 は 、 い ず れ の 構 成 要 素

か ら も 予 測 で き な い こ と に な る 。 と な る と 、

( 42 ) に 見 ら れ る 2 ) の 事 実 は 、 1 ) の 条 件

に よ っ て 捉 え な お さ ね ば な ら な い と 結 論 づ

け る こ と が で き る 。 こ の こ と を さ ら に 一 般

的 レ ベ ル で 再 評 価 し た 場 合 、 次 の 示 唆 が 得

ら れ る 。 そ れ は 、 動 詞 の 意 味 と は 別 に 存 在

す る 構 文 に 言 及 せ ず に こ の 種 の 問 題 を 正 し

く 捉 え る こ と は 困 難 で あ る と い う こ と に 尽

き る 。 よ っ て 、 本 研 究 で は 、 3 節 お よ び 4 節

で 報 告 し た 言 語 事 実 に 基 づ き 、 次 節 以 降 で

は 、 構 文 に 積 極 的 な 動 機 付 け を 与 え た 分 析

を 提 案 す る 。

5.   考 察 Ⅱ ( 結 果 構 文 の 意 味 記 述 を 目 指 し

て )

  こ れ ま で の 考 察 で 、 動 詞 と は 別 の シ ン ボ

リ ッ ク ・ ユ ニ ッ ト と し て の 統 語 形 式 の ま と

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〈65〉

ま り 「 X ガ Y ヲ Z ニ V す る 」 と 、 そ れ に よ っ て 想

起 さ れ る 、 意 味 の 問 題 を 議 論 す る 必 要 性 が

示 唆 さ れ た 17 。 よ っ て 、 本 節 で は 、 構 文 的

ア プ ロ ー チ に 基 づ い て 、 こ れ ま で 報 告 し て

き た 現 象 を 含 め 、 結 果 構 文 全 体 を 見 直 し て

い く 。

考 察 の 順 序 と し て 、 構 文 理 論 に お け る 結

果 構 文 分 析 を 概 観 し 、 そ の 枠 組 み が ど こ ま

で を 明 ら か に し 、 ど の よ う な 問 題 点 を 抱 え

て い る か を 簡 単 に 考 え て み た い 。 そ し て 、

そ の 問 題 点 を 克 服 す る た め に 構 文 の 動 機 づ

け を 明 ら か に し な け れ ば な ら な い こ と 、 ま

た 、 そ の た め に は 、 概 念 的 区 別 に 役 立 つ モ

デ ル 、 デ ィ テ ー ル を 表 現 で き る モ デ ル が 必

要 で あ る こ と を 示 す 。 こ の こ と を 踏 ま え 、

本 研 究 の 記 述 モ デ ル に 照 ら し 、 実 際 に 結 果

構 文 の 分 析 を 試 み る 。 最 後 に 、 こ の モ デ ル

の 妥 当 性 を 検 討 す る 。

5.1.   構 文 理 論 に お け る 結 果 構 文

本 節 で は 、 構 文 理 論 の 知 見 、 と り わ け

Goldberg ( 1995 ) に 基 づ く 、 結 果 構 文 の 分 析 を

概 観 し 、 い く つ か の 問 題 提 起 を 試 み る 。 た

だ し 、 Goldberg ( 1995 ) の 結 果 構 文 研 究 の 詳 細

17 形態論に関する詳細な議論は別に稿を改め、考察することにするが、事実のレベルで次の点の

みを指摘しておく。本稿では便宜上、「Z ニ」と示した結果述語であるが、イ形容詞の連用形、

およびナ形容詞の連用形、さらには、名詞+ダの連用形も結果述語の位置に表れうる。こうした

形態論的幅を持った構成要素の存在は、構文を否定するものではなく、2 節の枠組みにおいては、

むしろ構文の肯定的証拠でもあることに注意してほしい。

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〈66〉

を 解 説 す る こ と は 、 本 研 究 の 目 的 で は な い

た め 、 そ の 詳 細 は 割 愛 し 、 そ の 基 本 的 論 点

の み を 概 観 す る こ と と し た い 。

Goldberg ( 1995 ) で は 、 慣 習 化 さ れ た 統 語 パ

タ ー ン と そ れ ら が 示 す 意 味 構 造 の 相 関 に 着

目 し 、 両 者 の 対 か ら な る 文 法 構 文 か ら 項 構

造 を め ぐ る 記 述 的 要 請 を 満 た せ る と 説 く 。

と り わ け 、 結 果 構 文 分 析 に 議 論 を 限 定 し た

場 合 、 そ の 出 発 点 に お い て 、 次 の 問 題 意 識

を 打 ち 出 し て い る 。 そ れ は 、 「 結 果 述 語 の

出 現 に 必 要 な 制 約 は 意 味 論 的 観 点 か ら 捉 え

る こ と が で き る ( ibid.:180 ) 」 と い う も の で

あ る 。 そ し て 、 枠 組 み 全 体 の 流 れ に そ っ て 、

結 果 構 文 は 以 下 の 項 構 造 を 内 在 的 に 持 っ て

い る も の で あ る と 分 析 さ れ る 。  

( ibid.:189 )

図 10図 10 が 示 し て い る よ う に 、 Goldberg は 結 果 構

文 の ( 図 10 の 下 段 に 示 さ れ た ) 特 定 の 統 語

形 式 は 、 動 詞 と は 独 立 に そ れ 自 体 と し て

( 図 10 の 上 段 に 示 さ れ る ) 特 定 の 意 味 的 特

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〈67〉

性 を 持 つ と 説 く 。 さ ら に 、 こ う し た 関 係 で

定 義 さ れ る 結 果 構 文 は 、 そ れ 自 体 で 説 明 項

と な り 、 文 法 が 内 在 的 に 持 っ て い る も の と

仮 定 す る こ と で 、 結 果 構 文 を め ぐ る 記 述 的

要 請 を 満 た す こ と が で き る と 説 く 。

こ う し た Goldberg ( 1995 ) の 結 果 構 文 分 析 の

( 従 来 の 研 究 に 対 す る ) 最 大 の メ リ ッ ト は 、

動 詞 の 制 約 、 と り わ け 、 非 対 格 性 や 非 能 格

性 と い っ た 概 念 に 直 接 コ ミ ッ ト せ ず 、 広 範

囲 に わ た る 結 果 構 文 現 象 を 捉 え ら れ る と こ

ろ に あ る 。 Goldberg ( 1995 ) が 示 し た こ の 種 の

見 通 し は 、 本 研 究 に お い て も 、 全 体 の 方 向

性 は も と よ り 、 個 別 研 究 に 関 し て も 、 基 本

的 に は 正 し い も の と 考 え る 。 と は い う も の

の 、 Goldberg ( 1995 ) の 分 析 に 関 し て も 、 当 然

検 討 す べ き 問 題 は 残 さ れ て い る 。  

そ の 問 題 と は 、 一 言 で 言 う な ら ば 、 「 構

文 の 意 味 」 に 対 す る 充 分 な 動 機 付 け が 未 だ

明 ら か に さ れ て い な い と い う こ と に 尽 き る 。

も し 、 構 文 理 論 が 主 張 す る 「 説 明 項 と し て

の 構 文 」 が 言 語 現 象 を 正 し く 分 析 す る 道 具

立 て に な る な ら 、 当 然 の こ と な が ら 経 験 的

基 盤 、 さ ら に は 、 し か る べ き 身 体 論 的 基 盤

が 示 さ れ な け れ ば な ら な い 。 一 見 漠 然 と し

た 問 題 提 起 で は あ る が 、 こ の こ と は 、 言 語

現 象 と し て の 問 題 、 す な わ ち 、 結 果 構 文 が

な ぜ 他 で な く 、 図 10 で 示 す 意 味 を 持 つ の か

と い う 問 題 に 関 連 し て お り 、 こ の 点 に 関 し

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〈68〉

て 従 来 の 研 究 は 、 必 ず し も 充 分 に 議 論 し て

こ な か っ た と 言 え よ う 。 と い う の も 、 こ の

課 題 に 対 し て 、 Goldberg ( 1995 ) は 、 特 定 の 構

文 を 文 法 が 内 在 的 に 持 っ て い る と い う 以 上

の こ と は 、 実 質 と し て 述 べ て お ら ず 、 説 明

義 務 を 充 分 に は 果 た し て い な い 。

5.2.   結 果 構 文 の 特 徴 づ け

本 節 の 考 察 を は じ め る に 当 た っ て 、 ま ず 、

次 の 点 を 確 認 し て お き た い 。 本 研 究 の 基 本

的 論 点 は 慣 習 的 に 定 着 し た 統 語 パ タ ー ン を

シ ン ボ リ ッ ク ・ ユ ニ ッ ト と し て 捉 え る と こ

ろ に あ る 。 し か し 、 こ の 主 張 を 意 義 あ る も

の に す る た め に は 、 当 然 ク リ ア し な け れ ば

な ら な い い く つ か の 課 題 が 存 在 す る 。 そ の

最 初 の 課 題 と し て 、 統 語 形 式 の ま と ま り が

な す 意 味 を 必 要 充 分 に 記 述 す る こ と が 求 め

ら れ る 。 本 節 で は 、 こ の 点 を 明 ら か に す べ

く 、 結 果 構 文 の 意 味 論 的 特 性 に つ い て 考 察

を 行 う 。

結 果 構 文 を 特 徴 付 け る 意 味 的 性 質 と は 、

何 で あ ろ う か 。 す な わ ち 、 何 を 記 述 す れ ば 、

そ れ は 、 結 果 構 文 の 意 味 を 記 述 し た こ と に

な る の か 。 こ の 問 い を 順 序 立 て て 議 論 す る

た め 、 ま ず 、 1 ) い か に し て 結 果 構 文 現 象

を 他 の 現 象 か ら 区 別 し 、 特 徴 づ け で き る か

を 考 え 、 次 に 2 ) 構 文 に ど の よ う な 制 約 を

課 す べ き か を 考 え て い く 。

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〈69〉

5.2.1   記 述 的 要 請 1:   二 つ の 認 知 的 ド メ イ

ン と そ の 複 合 事 態  

こ れ ま で の 分 析 の 中 で も 幾 度 か 示 唆 さ れ

て き た と こ ろ で は あ る が 、 結 果 構 文 は 複 合

的 認 知 事 象 と し て の 特 徴 づ け を 持 つ 。 具 体

例 と し て ( 43 ) を 取 り 上 げ て 、 考 え て み よ

う 。

(43) a. 彼 女 は 干 し 草 を 平 ら に ほ ぐ し た 。

b. 彼 は 残 っ た 林 檎 を 粉 々 に く だ い て 、

… …

「 CD-ROM 版 新 潮 文 庫 の 100冊 」

こ れ ま で 報 告 し て き た 事 例 を 含 め 、 ( 43 )

の 現 象 を 捉 え る 上 で は 、 い く つ か 考 慮 す べ

き 問 題 が あ る 。 ま ず 、 ( 43 ) は 二 重 目 的 語

構 文 や 使 役 移 動 構 文 同 様 、 使 役 構 造 を 基 盤

に 持 つ 複 合 事 態 と し て 特 徴 づ け る こ と が で

き る ( cf. 3.1 節 ) 。 ( 43a) で 言 え ば 、 彼 女 が

干 し 草 に 対 し て 「 ほ ぐ す 」 と い う 行 為 、

( 43b ) で 言 え ば 、 彼 が 林 檎 に 対 し て 「 砕

く 」 と い う 行 為 を 行 う こ と が 、 事 態 の 成 立

の 必 須 要 素 と 位 置 づ け ら れ る 。 こ の 点 に 加

え 、 も う 一 方 の 側 面 と し て ( 43 ) は 、 他 の

構 文 現 象 と は 同 一 視 で き な い 側 面 、 す な わ

ち ( 現 象 レ ベ ル で ) 他 の 現 象 か ら 予 測 で き

な い 振 舞 い を 見 せ る 。 と い う の も 、 既 述 の

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〈70〉

通 り 、 変 化 事 象 が 同 時 に 表 現 さ れ る か ら で

あ る 。

こ う し た 結 果 構 文 の 振 舞 い に 対 し 、 積 極

的 な 動 機 付 け を 与 え る も の と し て 、 二 つ の

認 知 ド メ イ ン が 存 在 す る 点 を 強 調 し て お く 。

具 体 的 に は 、 ( 43a) で 言 え ば 彼 女 が 干 し 草

を ほ ぐ す 、 と い う 物 理 的 な 働 き か け が 行 わ

れ る 具 体 的 空 間 の ド メ イ ン 、 そ し て 、 干 し

草 が 平 ら に な る 、 と い う 働 き か け に よ る 変

化 が 行 わ れ る 属 性 の ド メ イ ン が 考 え ら れ る 。

こ の 二 つ の ド メ イ ン の 関 係 は 、 図 11 の よ う

に ま と め て 示 す こ と が で き る 。

図 .11図 11 で は 、 図 7 に 対 し て ド メ イ ン や 時 系 列

と い っ た 新 た な 視 点 を 投 入 し 、 部 分 的 な 精

緻 化 を 試 み た ( 二 本 線 は 物 理 的 働 き か け を

表 し 、 X は 主 語 、 Y は 目 的 語 、 Z は 結 果 述 語

を 表 す 。 ま た 、 ド メ イ ン 1 は 物 理 的 空 間 の

ド メ イ ン 、 ド メ イ ン 2 は 属 性 の ド メ イ ン に

対 応 づ け ら れ る ) 。

必 ず し も 十 分 で は な い に し ろ 、 こ の 図 11は 、 次 の メ リ ッ ト を 持 つ 。 そ れ は 、 結 果 構

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文 が 持 つ 、 Z の 位 置 づ け を め ぐ る 重 要 な 特

徴 づ け を 可 能 に す る 点 で あ る 。 ま ず 、 複 数

の ド メ イ ン を 用 い た 記 述 に よ っ て 、 あ る 種

の デ ィ テ ー ル が 表 現 可 能 に な る 点 を 確 認 し

て お き た い 。 こ の こ と か ら 、 使 役 事 態 と 変

化 事 態 に 異 な る 動 機 づ け を 与 え る と 同 時 に 、

X と Y の 関 係 、 そ し て 、 Y と Z の 関 係 を 分 離 可

能 な も の に す る 。 さ ら に 、 ド メ イ ン 間 の マ

ッ ピ ン グ に よ っ て 合 成 性 を 見 直 す き っ か け

を 提 供 す る 。 こ の 点 に 関 す る 詳 細 な 議 論 は 、

5.4 節 で 行 う 。

で は 、 な ぜ 、 デ ィ テ ー ル が 表 現 で き る モ

デ ル が 必 要 に な る の で あ ろ う か 、 ま た そ の

メ リ ッ ト は 何 で あ ろ う か 。 こ の 疑 問 に 対 す

る 充 分 な 答 え を 現 段 階 の 考 察 の み で は 、 出

す こ と は で き な い が 、 一 言 で 言 え ば 、 質 的

に 違 う も の に 対 す る 区 別 を 設 け る こ と で 、

今 ま で 混 同 さ れ て き た 現 象 が 体 系 的 に 整 理

で き る か ら で あ る ( cf. 5.4.1 節 ) 。 筆 者 が 見

る 限 り に お い て 、 語 彙 意 味 論 を は じ め と す

る 多 く の 還 元 論 者 の 分 析 モ デ ル は 、 こ の 問

題 に 対 し て 異 な っ た 理 解 を 示 す 。 と い う の

は 、 還 元 論 者 が 提 唱 す る モ デ ル の 多 く は 、

実 際 の 言 語 現 象 の 複 雑 性 を 考 慮 し た 場 合 、

あ ま り に も 単 純 す ぎ た た め 、 ( コ ア か ら 周

辺 に 至 る 様 々 な 言 語 事 実 に 対 し て ) 無 理 な

一 般 化 を せ ざ る を 得 な か っ た の で あ る 18 。

18 この類の問題に関連した示唆的現象がある。以下の具体例に注目してほしい。

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〈72〉

5.2.2.   記 述 的 要 請 2:   エ ネ ル ギ ー 伝 達 関

前 節 の 考 察 に 加 え 、 こ こ で は 、 結 果 構 文

の 二 つ 目 の 特 徴 付 け と し て 項 間 の 関 係 に つ

い て 考 察 す る 。 基 本 的 方 向 と し て は 、 相 互

の エ ネ ル ギ ー 伝 達 に 基 づ く 力 学 的 関 係 に 注

目 し 、 考 察 を 進 め る 。

本 研 究 の こ れ ま で の 方 向 性 に 従 う な ら ば 、

結 果 構 文 の 構 文 効 果 と な る 「 使 役 」 や 「 変

化 」 、 さ ら に は 「 結 果 」 と い っ た 意 味 論 的

特 性 は 、 外 界 で の 認 知 事 象 と し て 捉 え な お

さ れ る 。 そ の 具 体 的 分 析 の 一 つ と し て 、 参

与 者 間 の エ ネ ル ギ ー 伝 達 に 基 づ く 相 互 作 用

か ら 分 析 で き る ( cf. Langacker 1987, 1991 ) 。

1. 台湾の人々は包種茶にレモンをしぼったようなものを飲んでる。

(「龍茶房_台湾紀行」)1 の例が、興味深いのはレモン汁を包種茶という着点に移動する使役移動の事態に一次的焦点が

おかれると同時に、レモンそのものがしぼられることで、変化する事態も背景においては間違い

なく意識されていると考えられる。

図.ⅰ図ⅰは、例文 1)にみられるプロファイル化された事態と、ベース化された事態のコントラスト

を示している(黒の太線はプロファイルされる事態、灰色の細線は背景化される事態を示す)。

この図で重要なのは、いわゆる動詞の推論によって生じる関係(Y→Y’;しぼられる前のレモンか

らしぼられたレモンへの変化)と、構文によって生じる関係(Y→Z; レモンから包種茶への空間

移動)を区別している点である。従来動詞意味論の分析はこの二者の区別を怠ったせいで、質的

に異なるものを混同してきたといえる。

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〈73〉

( 44 ) の 例 か ら 考 え て み よ う 。

(44) a. お 店 の シ ェ フ は 長 方 形 の ケ ー キ を

四 角 形 に 切 っ た 。

b. お じ い さ ん は お ば あ さ ん が 川 で 拾 っ

た 桃 を 真 っ 二 つ に 割 っ た 。

( 44 ) で は 、 次 の 3 つ の エ ネ ル ギ ー 伝 達 に

よ る 相 互 の 関 係 が 見 ら れ る 。 ま ず 、 [1] 主 語

の 参 与 者 「 X 」 か ら 目 的 語 の 参 与 者 「 Y 」 へ

向 か う エ ネ ル ギ ー 伝 達 で あ る 。 こ の 関 係 は 、

動 詞 「 切 る 」 や 「 割 る 」 が 示 し て い る よ う

に 、 直 接 的 力 ( direct force ) に よ っ て 定 義 さ れ

る 。 そ し て 、 [2] ( 「 X 」 か ら 「 Y 」 へ の エ ネ

ル ギ ー 伝 達 に よ っ て 引 き 起 こ さ れ る )

「 Y 」 の 結 果 述 語 「 Z 」 へ の 変 化 が あ る 。 こ

れ は ( ア ク シ ョ ン チ ェ ー ン で 代 表 さ れ る・認 知 文 法 の エ ネ ル ギ ー 連 鎖 モ デ ル が 使 役 構

造 を 前 提 に し て い る の で ) 、 [1] と は 違 っ て

派 生 的 性 質 を 持 つ 。 最 後 に 、 [3] 「 X 」 は

「 Z 」 が 示 す 状 態 へ 到 達 す る ま で 、 働 き か

け を 続 け る こ と で 、 生 じ る エ ネ ル ギ ー 伝 達

関 係 が あ る 。 こ れ は 、 [1] が 直 接 的 で あ る の

に 対 し て 、 間 接 的 力 ( indirect force ) と し て 位

置 づ け ら れ る 。 具 体 的 に 言 え ば 、 ( 44a) の

事 態 が 成 立 す る に は 、 ま ず 、 [1] の シ ェ フ が

単 純 に ケ ー キ を 切 る 、 と い う 働 き か け の 行

為 に 加 え て 、 [3] の 四 角 形 に す る と い う 別 の

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〈74〉

働 き か け が な け れ ば な ら な い 、 と い う こ と

で あ る 。 こ の 点 に お い て 、 [3] の エ ネ ル ギ ー

伝 達 関 係 が 存 在 す る こ と は 、 他 動 詞 結 果 構

文 を 単 純 な 他 動 詞 構 文 か ら 区 別 し 、 特 徴 づ

け る 上 で 不 可 欠 な も の と 言 え る 。

以 上 の 考 察 か ら 、 結 果 構 文 を 特 徴 づ け る

エ ネ ル ギ ー 移 動 と し て [1] か ら [3] で 示 す 3 つ

の 関 係 が 抽 出 で き る 。 こ う し た 関 係 を 図 に

示 し た 場 合 、 以 下 の よ う に な る ( 括 弧 内 の

番 号 は 本 文 で 記 し た エ ネ ル ギ ー ) 。

図 .12図 12 は 、 黒 田 ( 2003b ) の 図 法 に 若 干 の 変 形

と 修 正 を 加 え た も の で あ る 。 こ の こ と に 関

連 し て 、 次 の 二 点 に 注 意 し て お か な け れ ば

な ら な い 。 ま ず 、 一 つ 目 と し て 図 12 は 、 プ

ロ フ ァ イ ル の 問 題 に お い て ニ ュ ー ト ラ ル な

位 置 づ け を 持 つ 点 で あ る 。 す な わ ち 、 参 与

者 間 の 関 係 を 規 定 す る の み で 、 ス キ ー マ 的

関 係 を 規 定 す る 。 こ の 点 を め ぐ る よ り 詳 細

な 議 論 は 、 5.3.2 節 で 再 び 行 う 。 次 に 、 二 つ

目 と し て 図 12 は 、 こ れ ま で の 図 法 と は 明 ら

か に 一 線 を 画 し て い る 。 そ れ は 、 本 研 究 の

こ れ ま で の 考 察 で は 、 図 7 や 図 11 で 代 表 さ

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〈75〉

れ る よ う な 「 X→Y→Z 」 と い っ た 一 次 元 的 ・ 直

線 的 な 関 係 を 暗 黙 の 前 提 と し て き た 。 だ が 、

図 12 に お い て は 、 そ の よ う な 仮 定 は 完 全 に

破 棄 さ れ て い る 。 と い う の も 、 上 記 の 考 察

が 示 す よ う に 、 「 一 次 元 的 ・ 直 線 的 な 関 係

が 経 験 的 に 正 し く な い 」 と い う こ と が 明 ら

か に な っ た か ら で あ る 。 こ の こ と を 裏 返 し

に と れ ば 、 図 12 の 図 法 が 、 ( 図 7 や 図 11 に

比 べ て ) 経 験 的 事 実 に 忠 実 で あ る と い う こ

と が 言 え よ う 。  

と こ ろ で 、 こ う し た 改 良 は 、 従 来 の モ デ

ル 、 と り わ け ビ リ ヤ ー ド ・ モ デ ル に 対 し て 、

ど の よ う な メ リ ッ ト を 示 す の で あ ろ う か 。

こ の こ と を は っ き り す べ く 、 ま ず 次 の 点 を

確 認 し て お き た い 。 Langacker ( 1987, 1991 ) の ビ

リ ヤ ー ド ・ モ デ ル が 、 エ ネ ル ギ ー の 起 点 と

着 点 の 非 対 称 性 を 前 提 に し て お り 、 二 者 間

の 一 方 向 的 連 鎖 を 基 本 に し て い る 。 こ れ ら

の 点 に お い て 、 Langacker の モ デ ル は 、 ( 結 果

論 的 に は ) 直 接 的 で 、 一 次 元 的 特 性 を モ デ

ル 化 し た も の と 言 え る 。 こ れ に 対 し 、 本 研

究 の モ デ ル は 次 の 二 点 の メ リ ッ ト を 示 す 。

一 つ 目 と し て 図 12 は 、 [1] と [2] の 複 合 で 生 じ

る 連 鎖 と 、 [3] で 生 じ る 連 鎖 を 同 時 に 示 せ る

点 で 、 よ り ダ イ ナ ミ ッ ク な 表 示 を 可 能 に し

て く れ る 。 二 つ 目 と し て 図 12 の 表 示 を 用 い

た 場 合 、 構 文 の タ イ プ に よ っ て 、 図 を 書 き

換 え る 必 要 が な く 、 ( 項 が 増 え た と し て

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〈76〉

も ) 一 貫 し た 表 示 を 与 え る こ と が で き る

( cf. 図 6 と 図 7 を 比 較 ) 。 そ の 一 例 と し て 、

( 45 ) の 例 を 考 え て み よ う 。

(45) お 店 の シ ェ フ は 新 し い ナ イ フ で 、 長

方 形 の ケ ー キ を 四 角 形 に 切 っ た 。

( 45 ) で 問 題 に な る の は 、 ( 44a) に 対 し て

新 た に 道 具 格 「 ナ イ フ で 」 が 加 わ っ た こ と

で 、 全 体 の エ ネ ル ギ ー 移 動 は 大 き く 変 わ っ

た と こ ろ で あ る 。 と い う の も 、 「 ナ イ フ 」

は 、 動 作 主 が 用 い る も の で あ る と 同 時 に 、

対 象 に 働 き か け る も の で あ り 、 結 果 状 態 を

引 き 起 こ す 動 源 に な る か ら で あ る 。 こ う し

た 複 雑 な エ ネ ル ギ ー 伝 達 関 係 は 、 従 来 の ア

ク シ ョ ン ・ チ ェ ー ン で は 、 表 現 し に く い 。

た と え 、 表 現 で き た と し て も ( 図 法 と し て

の 制 約 が な い 故 に ) 一 貫 性 を 保 つ こ と が で

き ず 、 ア ド ホ ッ ク な も の に な り が ち で あ る

( cf. 黒 田 2003b ) 。 こ う し た 問 題 に 対 し て 、

本 研 究 の 手 法 を 用 い た 場 合 、 以 下 の よ う に 、

一 貫 し た 図 示 が 可 能 と な る 。

図 .13

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〈77〉

図 13 で は 、 ( 45 ) に 見 ら れ る 相 互 の エ ネ ル

ギ ー 伝 達 関 係 を 図 示 し て い る ( 「 W 」 は 任

意 の 変 数 で 、 こ こ で は 道 具 格 に 対 応 づ け ら

れ る ) 。 図 13 は 図 12 に 対 し て 、 道 具 格 が 新

た に 加 わ っ た こ と で 、 「 X 」 か ら 「 W 」 を

介 し て 、 「 Z 」 に 伝 わ る エ ネ ル ギ ー 連 鎖 、

そ し て 、 「 X 」 か ら 「 W 」 を 介 し て 、 「 Y 」

に 伝 わ る エ ネ ル ギ ー 連 鎖 の 複 合 が 示 さ れ て

い る 。 こ の こ と か ら も 分 か る よ う に 、 図 12や 図 13 の 図 法 は 、 複 数 の エ ネ ル ギ ー 連 鎖 の

相 互 作 用 を モ デ ル 化 で き る 19 。 こ の 点 に お

い て 、 図 12 や 図 13 は 、 従 来 の モ デ ル に 対 す

る メ リ ッ ト を 示 す と 同 時 に 、 本 研 究 の 一 貫

し た 方 向 で あ る 「 デ ィ テ ー ル が 表 現 で き る

モ デ ル 」 を 可 能 に す る 。

5.2.3   記 述 的 要 請 3:   時 系 列 の 制 約

前 節 ま で の 考 察 に 加 え 、 こ こ で は 、 結 果

構 文 内 に 見 ら れ る 時 間 軸 か ら の 制 約 に つ い

て 考 察 す る 。 こ れ に 関 し て は 、 従 来 、 ア ス

19 図 13 では、(エネルギーの質的相違を想定しなかった場合において)最低限 4 つのエネルギ

ー連鎖の複合として規定することができる。

また、これら四つのエネルギー連鎖のいずれもが我々の日常においてリアリティを持つことは、

充分に内省できるであろう。

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〈78〉

ペ ク ト 論 の 視 点 か ら 類 似 の 制 約 が 提 案 さ れ

て お り 、 結 果 構 文 と 時 系 列 を め ぐ る 相 関 関

係 は 、 結 果 構 文 研 究 の 確 立 し た 知 見 の 一 つ

と な っ て い る 。 た だ し 、 多 く の 先 行 研 究 は 、

以 下 で 指 摘 す る こ と に な る で あ ろ う が 、 こ

の 時 系 列 の 制 約 が 他 の 制 約 と ど の よ う な 関

連 を 持 つ か 、 と い う こ と に つ い て の 総 合 的

ビ ジ ョ ン を 明 確 に 示 せ な か っ た 。 本 研 究 で

は 、 こ う し た 問 題 点 を 踏 ま え 、 本 節 お よ び

5.3 節 以 下 で こ れ ま で 考 察 し て き た 記 述 的 要

請 を 満 た す 包 括 的 モ デ ル を 提 示 し た い 。

時 系 列 の 制 約 に 関 連 し て 、 過 去 の 研 究 が

明 ら か に し た 知 見 は 、 以 下 の よ う に ま と め

る こ と が で き る ( cf. Goldberg 1995:265 ) 。

(a)     (b) 図 .14

図 14 で は 、 分 析 の 目 的 上 、 4 つ の ( イ ヴ ェ

ン ト 内 の ) 時 点 が 想 定 さ れ て い る 。 そ れ は 、

5.2.1 節 や 5.2.2 節 の 考 察 で 示 し た エ ネ ル ギ ー 伝

達 関 係 と の 相 互 作 用 に よ っ て 決 定 さ れ る 。

ま ず 、 イ ヴ ェ ン ト の 開 始 点 で あ る と 同 時 に

使 役 の 開 始 点 「 t1 」 、 次 に 使 役 の 終 点

「 t2 」 、 さ ら に 変 化 の 開 始 点 「 t3 」 、 最 後

に イ ヴ ェ ン ト の 終 点 で あ る と 同 時 に 変 化 の

終 点 「 t4 」 で あ る 。

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〈79〉

こ れ ら の 時 系 列 上 の 制 約 と 、 結 果 構 文 の

可 能 な 構 造 の 関 連 性 を 捉 え る と い う 目 的 に

限 定 す る な ら 、 2 つ の 対 比 を 考 え る こ と が

で き る 20 。 そ れ は 、 図 14 ( a ) の よ う に 使 役

の 終 点 「 t2 」 と 変 化 の 開 始 点 「 t3 」 の 間 に 、

時 間 差 が 生 じ な い ケ ー ス と 、 そ れ と は 反 対

の ケ ー ス 、 図 14 ( b ) で あ る 。 こ の こ と に

つ い て 、 Goldberg ( 1995 ) が 指 摘 す る と こ ろ に

よ れ ば 、 両 者 の 中 で 結 果 構 文 と し て 、 許 容

さ れ る 解 釈 は 図 14 ( a ) と い う こ と に な る 。

す な わ ち 、 使 役 の 終 点 と 変 化 の 開 始 点 が 一

致 す る と い う 制 約 の も と 結 果 構 文 の 解 釈 が

決 ま る 。 具 体 的 に ( 46 ) の 例 か ら 考 え て み

よ う 。

(46) a. お じ さ ん は ポ マ ー ド を テ カ テ カ に

塗 っ て い る

b. 店 員 は 商 品 を 一 列 に 並 べ た 。

c. 彼 女 は 干 し 草 を 平 ら に ほ ぐ し た 。

( 46 ) を め ぐ る 可 能 な 解 釈 の 問 題 を 考 え て

み よ う 。 ま ず ( 46a) の 場 合 、 主 体 が 自 分 の

髪 に ポ マ ー ド を 塗 っ た 結 果 、 髪 が テ カ テ カ

の 状 態 に な る 、 と い う 解 釈 は 必 ず 含 意 し て

も 、 主 体 が ポ マ ー ド を 塗 っ た せ い で 、 後 か

ら テ カ テ カ の 状 態 に 変 化 し は じ め た 、 と い

20 言うまでもないことではあるが、論理的には二つ以上の可能性が考えられる。例えば、t3 が t2に先行する関係や t2 が t4 に後続する関係など様々な可能性が考えられるが、当面の目的を達成するという限定付きで、図 14 を位置づけてほしい。

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〈80〉

う 解 釈 は 必 ず し も 含 意 し な い 。 す な わ ち 、

( 46a) で 可 能 な 解 釈 は 、 図 14 ( a ) 型 が 指

定 す る よ う に 、 ポ マ ー ド を ぬ っ た 直 後 に 髪

が テ カ テ カ と い う 状 態 に 変 化 し た と い う も

の で あ る 。 た だ 、 t3 が t2 に 先 行 す る 解 釈 は 、

行 為 の 解 像 度 の 問 題 以 上 の も の で は な い こ

と に 注 意 を 喚 起 し て お き た い 。 次 に 、

( 46b) や ( 46c) に 対 し て も 、 ( 46a) 同 様 の

コ ン ト ラ ス ト が 確 認 で き る 。 こ の こ と は 、

t2 と t3 の 可 能 な 関 係 を 示 唆 す る 。 と い う の

も 、 ( 46a ) を め ぐ る 上 記 の 解 釈 は 、 図

14 ( a ) 型 が 可 能 な の に 対 し て 、 図 14 ( b )

型 が 困 難 で あ る こ と を 示 す か ら で あ る 。 こ

の こ と か ら 、 結 果 構 文 に お い て は 、 使 役 と

変 化 に 時 間 差 が 生 じ て は な ら な い こ と が 明

ら か に な っ た で あ ろ う 。

以 上 の 考 察 が 示 唆 す る よ う に 、 結 果 構 文

の 意 味 的 基 盤 に お い て 、 時 系 列 の 存 在 は 重

要 な 役 割 を 果 た す 。 次 に 考 え る べ き も の と

し て 、 時 系 列 の 制 約 の 位 置 づ け の 問 題 、 す

な わ ち 他 の 制 約 と の 関 係 性 を め ぐ る 問 題 が

あ る 。 こ の 問 題 に 対 し て 、 本 研 究 で は 、 前

節 の エ ネ ル ギ ー 関 係 、 そ し て 本 節 の 時 系 列

の 制 約 を 踏 ま え 、 二 次 元 ベ ク ト ル に よ る モ

デ ル 化 を 試 み た い 。

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〈81〉

図 .15図 15 は 図 12 、 図 14 と 部 分 的 な 対 応 関 係 を 持

つ 。 た だ し 、 図 15 に は 、 次 の 視 点 が 新 た に

投 入 さ れ た 。 そ れ は 、 時 間 と 空 間 の 相 関 関

係 を 踏 ま え た 上 で 、 二 者 を 区 別 す る こ と を

提 案 す る も の で あ る 。 ま た 、 そ の こ と を 前

提 に し 、 X か ら Z に 至 る 結 果 構 文 の 項 を 位 置

づ け る と い う も の で あ る 。 そ の 結 果 、 時 間

1 と 空 間 1 に 位 置 づ け ら れ る X 、 時 間 2 と 空 間

2 に 位 置 づ け ら れ る Y 、 そ し て 、 二 者 の 関 係

を 規 定 す る [1] の 直 接 的 力 が 存 在 す る 。 ま た 、

時 間 3 と 空 間 2 に 位 置 づ け ら れ る Z と Y の 関 係

を 規 定 す る [2] の 変 化 、 さ ら に 、 X と Z の 関 係

を 規 定 す る [3] の 間 接 的 力 に よ っ て 、 相 互 の

関 係 が 成 り 立 つ 。

さ て 、 図 15 に 関 し て 二 点 注 意 す べ き こ と

が あ る 。 一 点 目 と し て 、 図 14 の 場 合 、 4 つ

の 時 間 軸 に よ っ て 表 現 さ れ て い た も の が 図

15 で は 三 つ の 時 間 軸 で 表 現 さ れ て い る 点 で

あ る 。 こ う し た 単 純 化 は 次 の 理 由 に 基 づ く 。

結 果 構 文 の 可 能 な 構 造 を 規 定 す る 、 と い う

目 的 に モ デ ル を 限 定 し た 場 合 、 t2 と t3 は 物

理 的 に 一 つ の 時 点 に 収 斂 す る も の で あ り 、

二 者 の 区 別 を 設 け る 必 要 は な い か ら で あ る 。

二 点 目 と し て 、 図 14 で は 使 役 や 変 化 と い っ

た イ ヴ ェ ン ト の 構 成 要 素 と 時 間 軸 の 関 係 を

モ デ ル 化 し て い る の に 対 し て 、 図 15 で は 、

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〈82〉

そ の イ ヴ ェ ン ト を 形 作 る モ ノ ( THING; cf. Langacker 1987 ) に 対 し て 時 間 と 空 間 、 両 方 の

制 約 を モ デ ル 化 し て い る 。 そ れ に よ っ て 次

の メ リ ッ ト が 生 ま れ る 。 図 15 で は 、 個 々 の

イ ヴ ェ ン ト に つ い て の レ ッ テ ル を 要 求 し な

い 。 と い う の も 、 こ の モ デ ル で は 、 使 役 を

異 な る 時 間 と 空 間 に 位 置 す る モ ノ 間 で な さ

れ る エ ネ ル ギ ー 移 動 事 象 と 捉 え る こ と に な

り 、 事 態 認 知 レ ベ ル の 動 機 づ け が 自 然 と 示

さ れ る 。 ま た 変 化 に つ い て も 、 同 じ 空 間 に

存 在 し つ つ 、 時 系 列 に 強 く 制 約 さ れ る モ ノ

間 の 事 態 と 定 義 さ れ る 。

5.3   モ デ ル の 統 合

本 節 で は 、 5.2 節 の 考 察 が 示 し た 記 述 的 要

請 に 関 連 し た サ ブ モ デ ル の 統 合 を 試 み る 。

と り わ け 、 図 11 の ド メ イ ン モ デ ル 、 図 12 の

エ ネ ル ギ ー 伝 達 モ デ ル 、 そ し て 、 図 14 の 時

系 列 モ デ ル を 統 合 し た 包 括 的 記 述 モ デ ル を

示 す 。 そ し て 、 こ の モ デ ル の 妥 当 性 を 考 察

す べ く 、 結 果 構 文 の 構 成 要 素 に 関 わ る 諸 問

題 を ど の よ う に 評 価 し 、 ま た ど こ ま で の 一

般 的 展 望 が 得 ら れ る か 、 検 証 し て い く 。

5.3.1   基 本 モ デ ル

  5.2 節 で は 、 主 と し て 、 結 果 構 文 の 記 述 的

要 請 と な る 3 つ の 側 面 を 考 察 し た 。 そ の 主

た る 論 点 を 簡 単 に ま と め て お く 。 一 点 目 に 、

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〈83〉

ド メ イ ン モ デ ル が 捉 え る べ き も の と し て 、

物 理 空 間 の ド メ イ ン に お け る 使 役 事 象 と 、

属 性 の ド メ イ ン に お け る 変 化 事 象 が 関 連 し

て い る 。 二 点 目 に 、 エ ネ ル ギ ー 移 動 モ デ ル

が 捉 え る べ き も の と し て 、 相 互 の 複 雑 な 力

学 的 関 係 の 連 鎖 構 造 が 存 在 す る 。 三 点 目 に 、

時 系 列 モ デ ル が 捉 え る べ き も の と し て 、 相

互 作 用 の 形 成 に は 時 系 列 の 制 約 が 必 然 的 に

関 係 し て く る 。

  こ う し た 結 果 構 文 の 記 述 的 問 題 に 対 し て 、

従 来 の 分 析 は 個 別 の 制 約 を 仮 定 し 、 部 分 的

モ デ ル で 、 そ の 説 明 を 試 み て き た 。 し か し 、

こ う し た 分 析 で は 、 相 互 の 関 係 が 不 透 明 な

故 に 、 現 象 に 対 す る 充 分 な 説 明 力 を 持 た ず 、

事 実 の 範 囲 を 広 げ る こ と で 、 経 験 的 問 題 に

直 面 す る 傾 向 が し ば し ば 生 じ る 。

こ う し た 問 題 点 を 回 避 し 、 克 服 す る た め 、

本 研 究 で は 、 図 16 を 結 果 構 文 の 基 本 認 知 モ

デ ル と 位 置 づ け る 。 そ し て 、 こ の よ う な 位

置 づ け を 行 う こ と で 、 結 果 構 文 を め ぐ る 記

述 的 要 請 を 満 た す こ と が で き る と 考 え る 。

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〈84〉

図 .16図 16 で は 図 11 の ド メ イ ン モ デ ル 、 図 12 の エ

ネ ル ギ ー 移 動 モ デ ル 、 図 14 の 時 系 列 モ デ ル

を 統 合 し 、 相 互 の 関 係 を 三 つ の ベ ク ト ル

( 時 間 ・ 空 間 ・ ド メ イ ン ) で 捉 え て い る

( 二 つ の ド メ イ ン の 項 間 を 結 ぶ 点 線 は 同 一

の モ ノ を 意 味 す る ) 。 図 16 の そ れ ぞ れ の ベ

ク ト ル に 関 し て は 、 5.2 節 で す で に 考 察 済 み

の も の で あ り 、 繰 り 返 さ な い 。 た だ し 、 次

の 二 点 を 補 足 し て お き た い 。 一 点 目 は プ ロ

フ ァ イ ル に 関 す る 問 題 、 二 点 目 は Z の 位 置

づ け に 関 す る 問 題 で あ る 。 ま ず 、 プ ロ フ ァ

イ ル の 問 題 に 対 し て 、 図 16 は 中 立 的 な 位 置

づ け を 持 つ 。 す な わ ち 、 実 際 の 具 体 例 と の

対 応 に お い て 、 図 16 は ス キ ー マ 的 ・ 骨 格 的

位 置 づ け を 有 す る 。 次 に 、 Z の 位 置 づ け に

関 連 し て 、 次 の 二 点 の 事 実 に 注 目 し て ほ し

い 。 一 点 目 と し て Z は 、 Y と 同 じ く 空 間 2 に

存 在 す る 点 、 二 点 目 と し て 時 系 列 を 介 し て

Y と 関 係 づ け ら れ る 点 で あ る 。 と い う の も 、

結 果 述 語 は Y と 物 理 的 に は 一 つ の モ ノ と し

て 同 定 さ れ る 、 と い う 結 果 構 文 の 特 性 と 、

モ デ ル が 整 合 性 を 持 た な け れ ば な ら な い か

ら で あ る 21 。

図 16 が 示 す モ デ ル は 、 従 来 認 知 文 法 が 提

案 し て き た モ デ ル と は 、 次 の 点 で 一 線 を 画

21 この点を理解するにおいて重要なのは、事態の参与者も一つの空間を形成していることを考慮

しなければならない、ということである。

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〈85〉

す 。 ま ず 、 本 研 究 が 示 す モ デ ル で は 、 要 素

間 の 多 次 元 的 関 係 を モ デ ル 化 し て い る 。 ま

た 、 認 知 文 法 に お け る ( イ ヴ ェ ン ト の 時 空

間 と い う 曖 昧 な 記 述 で 済 ま さ れ て き た )

「 セ ッ テ ィ ン グ 」 を 次 の よ う に 見 直 し た 。

本 研 究 で は 、 「 セ ッ テ ィ ン グ 」 を 空 間 ベ ク

ト ル と 時 間 ベ ク ト ル に 分 離 し 、 再 定 義 し て

い る 22 。

次 と し て 、 こ う し た 図 法 が 持 つ 一 連 の メ

リ ッ ト を 明 ら か に し て お き た い 。 ま ず 、

( 現 象 の 記 述 レ ベ ル で ) 項 の 位 置 づ け を 明

確 に で き る 。 次 に 、 時 間 軸 や そ の プ ロ フ ァ

イ ル に 別 表 示 を 用 い る 必 要 が な い 、 と い う

点 が あ げ ら れ る ( cf. 図 11 ) 。 こ う し た 試 み

は 、 充 分 で は な い に し ろ 、 図 と し て の 制 約

を 設 け る た め の 試 み で あ り 、 さ ら に は 次 の

効 果 が 期 待 で き る 。 そ れ は 、 図 法 の 恣 意 性

を 排 除 す る こ と で あ り 、 分 析 結 果 を 図 に 正

し く 反 映 で き る こ と で あ る 。

5.3.2   ベ ー ス ・ プ ロ フ ァ イ ル 関 係 ( 動 詞 の

22 なお、この試みは、野澤(2001)および黒田(2003b)の試み同様、時系列の制約をベースに

おいた分析モデルであることを細くしておく。紙幅の都合上、その詳細を紹介することはできな

いが、野澤(2001)では発話行為論の認知論的分析を提案しており、時間と空間による発話モデ

ルを提唱している。また、黒田(2003b)では、アクション・チェーンモデルに代わる状態変化

ベースのモデルを提案しており、Langacker の図法に対する批判的検討を行っている。二者によ

る示唆に富んだ考察は、本研究の多くにおいて応用されているだけでなく、本研究の問題提起を

より健全なものにしてくれた。

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〈86〉

意 味 )

本 節 で は 、 次 の 問 題 提 起 か ら 考 察 を 始 め

る 。 そ れ は 、 以 上 の 分 析 が 実 際 の 言 語 現 象

に 対 し て 、 ど の よ う な 見 通 し を 示 し 、 か つ

ど こ ま で の 説 明 力 を 持 つ の で あ ろ う か 。 こ

の 種 の 疑 問 に 答 え る べ く 、 こ こ で は 、 4 節

で 中 心 テ ー マ で も あ っ た 動 詞 の 問 題 を 再 び

取 り 上 げ て み た い 。

本 研 究 が 示 す モ デ ル の 延 長 で ( 構 文 と の

緊 張 関 係 を 考 慮 し ) 動 詞 の 問 題 を 考 え て み

た 場 合 、 そ れ は 、 ベ ー ス ・ プ ロ フ ァ イ ル の

関 係 に 基 づ い て 、 捉 え 直 す こ と が で き る 。

一 言 で 表 現 す る な ら 、 構 文 が 示 す 骨 格 な い

し は ベ ー ス と な る 認 知 事 象 に 対 し 、 ( 具 体

的 用 法 の 中 で ) 動 詞 は 特 定 の 関 係 を プ ロ フ

ァ イ ル す る も の と 関 係 づ け ら れ る 。 こ の プ

ロ フ ァ イ ル ・ ベ ー ス の 側 面 を 実 際 の 分 析 に

適 応 し た 場 合 、 こ れ ま で 報 告 し た 結 果 構 文

に 関 わ る 動 詞 は 、 以 下 の よ う に 整 理 で き る 。

 

1.  グ ル ー プ A :   つ ぶ す 、 割 る 、 切 る 、

折 る 、 染 め る 、 塗 る 、 揚 げ る 、

温 め る 、 ゆ で る 、 焼 く 、 乾 か

す 、 磨 く 、 固 め る 、 汚 す 、 ほ

ぐ す 、 冷 ま す 、 崩 す

2.  グ ル ー プ B :   叩 く 、 殴 る 、 こ す る 、

ね じ る 、 引 っ 張 る 、 回 す 、 拭

く 、 当 て る 、 押 す 、 引 く 、 打

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〈87〉

3.  グ ル ー プ C :   選 ぶ 、 迎 え る 、 決 め

る 、 用 い る 、 使 う 、 改 め る 、

受 け 入 れ る 、 出 す 、 起 用 す る

以 下 で は 、 そ れ ぞ れ の 動 詞 グ ル ー プ は 、 結

果 構 文 の 骨 格 的 認 知 事 象 に 対 し て 、 ど の よ

う な プ ロ フ ァ イ ル を 行 っ て い る か を 中 心 に

考 察 を 行 う 。

ま ず 、 3 節 で 報 告 し た 現 象 に 関 わ る 動 詞 、

グ ル ー プ C を 取 り 上 げ て み た 場 合 、 以 下 の

プ ロ フ ァ イ ル を 与 え る ( 太 線 は 動 詞 が 与 え

る プ ロ フ ァ イ ル を 示 す )。

図 .17図 17 は 、 X か ら Y へ の エ ネ ル ギ ー 連 鎖 に プ ロ

フ ァ イ ル を 与 え て い る 。 こ の 図 は 、 次 の 点

で 本 研 究 が 示 し た こ れ ま で の 分 析 結 果 を 反

映 し て い る 。 そ れ は 、 3.1 節 お よ び 4.3 節 で 既

述 し た 通 り 、 グ ル ー プ C は そ の 動 詞 の 意 味

か ら 変 化 を 予 測 す る こ と は で き な い 。 な ぜ

な ら 、 グ ル ー プ C の 動 詞 が 変 化 や 結 果 と い

っ た 認 知 事 象 に 関 連 づ け ら れ る の は 、 結 果

構 文 の 形 式 的 条 件 を 満 た し た 時 の み だ か ら

で あ る 。 言 い 換 え れ ば 、 グ ル ー プ C の 動 詞

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〈88〉

は 、 一 般 の 他 動 詞 同 様 に X か ら Y の 関 係 を プ

ロ フ ァ イ ル す る 以 上 の も の で は な い こ と を

意 味 す る 。 こ う し た 分 析 が 意 図 す る 別 の 目

的 は 、 言 う ま で も な く 、 動 詞 の 意 味 記 述 に

対 す る 循 環 論 を 回 避 す る た め の も の で あ る 。

同 じ 手 法 で 、 グ ル ー プ A と グ ル ー プ B の 動

詞 群 を 位 置 づ け る 。

( a )

( b )

図 .18図 18 ( a ) で は グ ル ー プ A の 動 詞 群 、 次 に

( b ) で は グ ル ー プ B の 動 詞 群 の プ ロ フ ァ イ

ル を 示 し た 。 こ の 二 つ の 動 詞 群 の プ ロ フ ァ

イ ル を 正 し く 捉 え る に は 、 次 の 事 実 関 係 を

理 解 し て お く 必 要 が あ る 。 ま ず 、 こ の 二 つ

の 動 詞 群 は 、 そ の い ず れ も 動 詞 の 意 味 に 特

化 さ れ た 働 き か け と 、 そ の 結 果 が 想 起 さ れ

る 点 に お い て は 、 ( 程 度 差 は 存 在 す る も の

の ) 同 一 の 特 徴 づ け を 共 有 す る 。 こ う し た

こ と か ら 、 図 18 の ( a ) 、 ( b ) い ず れ に お

い て も 、 X か ら Y 、 Y か ら Z の 関 係 が プ ロ フ ァ

イ ル さ れ て い る 。 し か し 、 二 者 は 次 の 点 に

お い て 異 な る 特 徴 づ け を 受 け る 。 X か ら Z の

関 係 、 す な わ ち 、 結 果 に 対 す る 主 体 か ら の

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〈89〉

間 接 的 エ ネ ル ギ ー の プ ロ フ ァ イ ル に 関 す る

相 違 で あ る 。 具 体 例 と し て 、 「 壊 す 」 と

「 叩 く 」 を 比 較 す る と 分 か り や す い で あ ろ

う 。 ま ず 、 「 壊 す 」 と い う 行 為 で は 、 動 作

主 と な る X は 、 Y に 対 し て 確 実 な 変 化 を 予 測

す る こ と が で き る 。 し か し 、 「 叩 く 」 の 場

合 は ど う で あ ろ う か 。 「 叩 く 」 と い う 行 為

に お い て は 、 こ の 点 が ニ ュ ー ト ラ ル で あ る 。

す な わ ち 、 叩 い た 後 の ( 結 果 ) 状 態 に 対 し

て 、 X は レ ス ポ ン ス ビ リ テ ィ を 持 た な い 。

こ の こ と は 、 グ ル ー プ A と グ ル ー プ B の 動 作

主 性 の 問 題 、 す な わ ち 動 作 主 ( agent) と し

て の 度 合 い の 差 を 考 え て も 明 ら か と 言 え る 。

こ う し た 力 の ベ ー ス ・ プ ロ フ ァ イ ル の 関 係

こ そ 、 ( 結 果 構 文 に お け る ) 動 詞 群 を も っ

と も 無 理 な く 特 徴 付 け る も の で あ り 、 相 互

の 区 別 を 可 能 に す る 。

以 上 の 図 17 と 図 18 を 通 し て 、 図 16 が 示 す

結 果 構 文 の 骨 格 と な る 認 知 事 象 に 対 し て 、

各 々 の 動 詞 が ど の よ う な 関 係 を プ ロ フ ァ イ

ル す る か 示 し た 23 。 で は 、 こ れ ま で の 分 析

が 実 際 の と こ ろ 、 従 来 の 結 果 構 文 研 究 に お

い て 、 ど の よ う な 見 通 し を 示 す も の か に つ

23 補足として、本研究では、動詞の項構造を予め仮定する分析は支持しない点に注意してほし

い。というのは、予め持っていると考えるべきものと、後から創発してきたエフェクトは区別さ

れねばならない。こうした問題意識をもと、文現象を捉えてみた場合、動詞において予め持って

いると考えるべきものは、Langacker の認知文法が指摘する関係(relation)のみである。この

点をより一貫性を持った形で、実際のモデルに反映・実現しようとした場合、動詞には、プロフ

ァイル規定者以上の負荷をかけるのは、必ずしも正しい手法ではないことが分かる。そして、同

種の問題意識は、Croft(2002)においても、部分的に表れているので、参照されたい。

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〈90〉

い て 次 節 で 考 察 す る 。

5.4.   モ デ ル の 検 証 ( 構 成 要 素 の 制 約 を め

ぐ っ て )

5.4.1   要 素 の 制 約 Ⅰ :   結 果 述 語

本 節 で は 、 前 節 ま で の 考 察 を 踏 ま え 、 結

果 構 文 分 析 に お け る も っ と も 、 中 心 的 論 題

と な る 結 果 述 語 に 関 す る 問 題 を 考 察 す る 。

主 と し て 、 ( 本 研 究 の ア プ ロ ー チ が 、 従 来

の 分 析 を 統 合 し 、 言 語 事 実 へ の 妥 当 な 説 明

力 を 持 つ こ と を 示 す た め ) 従 来 の 研 究 に 見

ら れ る 分 析 の ゆ ら ぎ を 取 り 上 げ 、 本 研 究 の

ア プ ロ ー チ の 可 能 性 を 探 り た い 。 と り わ け

問 題 と な る の は 、 ( 47 ) と ( 48 ) で あ る 。

(47) a. ポ ッ ト を き れ い に 拭 い た 。

b. 廊 下 を き れ い に 掃 い た 。

(48) a. 花 子 は ケ ー キ を 小 さ く 切 っ た 。

b. 花 子 が 林 檎 を 2 つ に 割 っ た 。

( 47 ) は 結 果 述 語 と 副 詞 を め ぐ る 問 題 例 で

あ り 、 ( 48 ) は Washio ( 1997 ) が 擬 似 結 果 構

文 と 呼 ん で お り 、 一 般 の 結 果 構 文 と は 区 別

さ れ る 事 例 で あ る 。 と り わ け 、 ( 47 ) を め

ぐ る 論 争 は 、 「 き れ い に 」 の 扱 い に 関 す る

も の で 、 影 山 ( 1996:243-246 ) が 結 果 述 語 で は

な く 、 副 詞 で あ る と 主 張 し て い る の に 対 し

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〈91〉

て 、 Takami ( 1998 ) で は 、 結 果 構 文 と し て 分

析 で き る こ と を 主 張 し て お り 、 意 見 の 対 立

が 見 ら れ る 。 ま た 、 ( 48 ) の 例 に つ い て は 、

Washio ( 1997 ) が ( 結 果 構 文 を 狭 く 限 定 す る

立 場 か ら ) 擬 似 結 果 構 文 と し て い る の に 対

し て 、 三 原 ( 2000 ) で は 、 そ の よ う な 区 別

が 無 根 拠 で あ る と 主 張 し 、 異 議 を 唱 え て い

る 。

こ れ ら の 論 争 の 詳 細 を 紹 介 す る 余 裕 は な

い の で 、 要 点 の み を 以 下 に ま と め て お く 。

ま ず 、 ( 47 ) を め ぐ る 論 争 の 要 点 を ま と め

て お く 。 こ れ ら の 例 が 問 題 に な る の は 、 次

の 理 由 に 基 づ く 。 ま ず 、 日 本 語 の 「 拭 く 」、

「 掃 く 」 は 働 き か け の 動 詞 で あ り 、 本 来 な

ら ば ( 4.3 節 の 一 般 的 原 則 に 従 っ て ) 結 果 述

語 を と る こ と が で き な い 。 し か し 、 ( 47 )

の 場 合 、 「 き れ い に 」 の よ う な 一 見 結 果 述

語 の よ う な 表 現 が 付 く の は な ぜ だ ろ う か 。

こ の 問 題 に 関 し て は 、 ま ず 、 「 拭 く 」 、

「 掃 く 」 の 位 置 づ け に 関 す る 論 証 の 問 題 が

あ る が 、 繰 り 返 し を 避 け る た め 、 こ こ で は

不 問 に 伏 す こ と に す る 。 こ の 問 題 を 解 決 す

る 方 法 は 、 大 枠 二 つ の 方 向 が 考 え ら れ る 。

一 つ 目 と し て 、 「 き れ い に 」 を 結 果 述 語 で

は な く 、 副 詞 と 扱 う 方 向 、 二 つ 目 と し て 、

動 詞 の 制 約 を 見 直 し 、 働 き か け 動 詞 も 結 果

構 文 を 形 成 で き る と 分 析 す る 方 向 で あ る 。

そ し て 、 結 果 的 に 影 山 ( 1996 ) が 前 者 の 立

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〈92〉

場 を と る の に 対 し て 、 Takami ( 1998 ) は 後 者

の 立 場 を と る 。 前 者 の 立 場 に お け る 着 目 点

を 紹 介 し て お く 。 ま ず は 、 ( 47 ) が ( 47’ )

の パ ラ フ レ ー ズ を 成 立 さ せ る 点 に 注 目 し て

ほ し い 。

(47’) a. ポ ッ ト を 拭 い た こ と に よ っ て 、 ポ

ッ ト が き れ い に な っ た 。

b. 廊 下 を 掃 い た こ と に よ っ て 、 廊 下

が き れ い に な っ た 。

 

こ の こ と か ら 推 論 す る と 、 「 き れ い に 」 を

結 果 述 語 と 位 置 づ け る こ と は 、 自 然 な 分 析

と 言 え る 。 だ が 、 影 山 ( 1996 ) は 最 終 的 に

は 副 詞 と 結 論 づ け 、 以 下 の 語 彙 概 念 構 造 を

提 案 し て い る ( 影 山 1996:246 ) 。

(47”)   [x ACT ON z] CONTROL [z BECOME [[DUST]y-on-[ ]z BE [NOT-AT z]]

( 47” ) は 一 言 で 言 え ば 、 「 場 所 ( z ) を こ

す る こ と で 、 そ の ゴ ミ / ほ こ り を 取 り 除

く 」 と い う こ と に な る 。 こ の 分 析 に お い て

注 目 す べ き は 、 BE の 主 語 の 主 要 部 に DUST と

い う 定 項 が 指 定 さ れ て お り 、 ( 動 詞 の 意 味

の 中 に 取 り 込 ま れ て い る か ら ) 表 面 上 は 現

れ な い 点 で あ る 。 と い う の も 、 ( 47 ) の 動

詞 が 目 的 語 と し て 「 よ ご れ 」 や 「 ご み 」 な

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〈93〉

ど を 取 り う る 点 か ら も 容 易 に 理 解 で き る か

ら で あ る 。 と な る と 、 ( 47 ) は 「 ポ ッ ト の

よ ご れ 」 や 「 廊 下 の ご み 」 を 目 的 語 と し て

取 り つ つ 、 「 き れ い に 」 と 共 起 し て い る こ

と に な る 。 こ う し た こ と か ら 考 え て み た 場

合 、 以 下 の よ う に 再 構 成 で き る 。

(47’”) a. ポ ッ ト の よ ご れ を き れ い に 拭 い

た 。

b. 廊 下 の ゴ ミ を き れ い に 掃 い た 。

( 47’” ) か ら 考 え る と 、 ほ こ り や ゴ ミ が

「 き れ い な 状 態 」 に な る の は 、 意 味 的 に お

か し い こ と に な る 。 よ っ て 、 こ の 「 き れ い

に 」 は 「 跡 形 が 残 ら な い よ う に 」 と い う 意

味 の 副 詞 と 結 論 づ け ら れ る 。

次 に 、 ( 48 ) を め ぐ る 論 争 の 要 点 を ま と

め て お く 。 ( 48 ) の 表 現 が 問 題 に な る の は 、

「 切 る 」 お よ び 「 割 る 」 と い う 動 作 の 終 了

後 の 目 的 語 の 変 化 の 様 子 で あ る 。 と い う の

も 、 切 ら れ た ケ ー キ 一 つ 一 つ を 見 た 場 合 、

確 か に 「 小 さ く 」 な っ た が 、 ケ ー キ 全 体 と

し て は 「 小 さ く 」 変 化 し た わ け で は な い か

ら で あ る 。 以 上 の こ と は 、 ( 46’ ) の パ ラ フ

レ ー ズ が 成 り 立 た な い こ と か ら も 理 解 で き

る 。

(48’) a. *花 子 は ケ ー キ を 切 る こ と に よ っ

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〈94〉

て 、 そ れ を 小 さ く し た 。

b. *花 子 は 林 檎 を 割 る こ と に よ っ て 、

林 檎 を 2 つ に し た 。

ま ず 、 ( 48’a ) に 関 し て は 「 切 る 」 と い

う 行 為 に よ っ て 、 ケ ー キ の 物 理 的 な 大 き さ

が 縮 ん で 小 さ く な る こ と は な い 。 同 じ く

( 48’b ) に 関 し て も 、 林 檎 を 割 っ た こ と で 、

林 檎 が 二 つ に な る 、 す な わ ち も う 一 つ 林 檎

が 増 え る と い う こ と は あ り 得 な い 。 な お 、

こ う し た 事 実 に 加 え 、 Washio ( 1997 ) は 次 の

事 実 を 根 拠 と し て 挙 げ て い る 。 そ れ は 、

( 真 の 結 果 構 文 で あ る な ら ば 、 許 さ れ な い

は ず の ) 「 ケ ー キ を 大 き く 切 っ た 」 の よ う

な 反 意 語 と の 交 替 を 許 す 点 で あ る 。 し か し 、

こ の 分 析 は 、 三 原 ( 2000 ) が 指 摘 す る こ と

で も あ る が 、 甚 だ し く 直 感 に 反 す る 。 と い

う の も 、 ( 48 ) の 結 果 述 語 は 、 「 動 作 の 終

了 に よ っ て 出 現 す る も の で あ り 、 結 果 述 語

意 外 に は あ り え な い ( ibid:23 ) 」 。

こ れ ら の 分 析 は 、 従 来 の 研 究 が 持 つ 、 ト

ッ プ ダ ウ ン 的 分 析 の 不 自 然 さ を 残 す 。 と い

う の も 、 ( 47 ) や ( 48 ) の い ず れ も 、 結 果

構 文 の 形 式 上 の 制 約 を 満 た し て お り 、 母 語

話 者 の 直 感 と し て 変 化 や 、 そ れ に よ る 結 果

が 想 起 さ れ る か ら で あ る 。 こ う し た 問 題 に

対 し て 、 認 知 言 語 学 が 提 唱 し て き た 中 心 的

概 念 、 例 え ば 、 プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リ ー お

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よ び カ テ ゴ リ ー 間 の オ ー バ ー ラ ッ プ を 許 す

分 析 に よ っ て 、 よ り 経 験 事 実 に 根 ざ し た 分

析 を 行 う こ と が 可 能 と 考 え ら れ る 。 こ れ ら

に 関 す る 詳 細 な 論 考 は 稿 を 改 め て 議 論 し た

い が 、 大 枠 と な る 解 決 策 と し て は 、 ま ず 、

( 48 ) で 問 題 に な る 状 態 変 化 に つ い て は 、

複 数 の 段 階 性 を 持 つ プ ロ ト タ イ プ カ テ ゴ リ

ー と し て 分 析 し な お す 方 向 性 が 考 え ら れ る 。

同 じ く ( 47 ) に 関 し て も 結 果 述 語 と 副 詞 を

排 他 的 カ テ ゴ リ ー と 捉 え ず 、 二 者 の オ ー バ

ー ラ ッ プ を 認 め る こ と で 、 よ り 自 然 な 分 析

へ の 方 向 性 が 考 え ら れ る 24 。

た だ 、 こ れ ら の 解 決 策 の 前 提 と し て 、 当

然 考 え て お か な け れ ば な ら な い の は 、 次 の

点 で あ る 。 こ れ ら の 事 例 を 結 果 構 文 と 認 め

た 場 合 、 他 の 現 象 と 整 合 性 が 保 つ か 、 一 貫

し た 定 義 の も と で 結 果 構 文 を 分 析 で き る か 、

と い う 問 題 で あ る 。 こ う し た 問 題 に 対 し て 、

本 研 究 の ア プ ロ ー チ に 従 う の で あ れ ば 、 結

果 述 語 を 二 つ の ド メ イ ン 間 で 定 義 す る こ と

で 、 こ れ ま で の 事 例 と 何 ら 矛 盾 な く 捉 え る

24 この種の分析可能性は、次の事実からも示唆されている。

1. 建築物を安全に建てるために   (「東京都都市計画局 <建築基準法>」)

1 における「安全に」の解釈は、認知主体の視点によって、複数の解釈を許す。まず、建設作業

の手続きとして事故なく工事を進める、という解釈が可能な一方、結果として安全で丈夫な建物

を建てたという解釈も可能となる。すなわち、「安全に」は、建てるという行為に対する様態の

修飾語としての解釈が可能な一方、行為の結果、対象物の状態を修飾する語としての解釈も可能

である。こうした事実を考慮した場合、結果述語と副詞は、一つのプロトタイプカテゴリーとし

て捉えることが事実に即しているのではなかろうか。こうした方向が正しいのであれば、この種

の問題をめぐる従来の論法である、一方(結果述語)でないことを示すことが、もう一方(副

詞)であることを論理的にサポートしないことになる。

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〈96〉

こ と が で き る 。 具 体 的 に は ( 47a) の 場 合 、

図 19 の よ う に 示 す こ と が で き る 。

図 .19図 19 が 示 す よ う に 、 Z は 物 理 的 空 間 の ド

メ イ ン 内 に 位 置 づ け ら れ る 、 「 拭 か れ た ポ

ッ ト 」 と 、 属 性 の ド メ イ ン に 位 置 づ け ら れ

る 「 き れ い に な る 」 、 と い う 二 つ の 変 化 の

側 面 か ら 捉 え ら れ る 。

こ の こ と か ら ( 47 ) や ( 48 ) を め ぐ る 過

去 の 論 争 を 見 直 し た 場 合 、 結 局 の と こ ろ 、

そ れ は 、 分 析 者 の 視 点 の 置 か れ 方 の 問 題 に

収 斂 す る と い う こ と が 示 唆 さ れ る 。 す な わ

ち 、 ( 物 理 的 ド メ イ ン 内 で ) ほ こ り が 取 り

払 わ れ た ポ ッ ト に フ ォ ー カ ス を お く か 、 そ

れ と も 、 ( 属 性 ド メ イ ン 内 で ) き れ い に な

っ た こ と に フ ォ ー カ ス を お く か の 相 違 と 言

え る 。 ( 48 ) に 関 し て も 、 ( 物 理 的 ド メ イ

ン 内 で ) 切 ら れ た ケ ー キ に フ ォ ー カ ス を お

く か 、 そ れ と も 、 ( 属 性 ド メ イ ン 内 で ) 大

き さ の 変 化 、 す な わ ち 小 さ く な っ た こ と に

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フ ォ ー カ ス を お く か の 相 違 で あ る 。

5.4.2   要 素 の 制 約 Ⅱ :   動 詞 の 制 約

既 述 し た 通 り 、 従 来 、 多 く の 研 究 で 、 動

詞 の 意 味 か ら 日 本 語 の 結 果 構 文 を 予 測 す る

試 み が な さ れ た 。 ま た 、 事 実 の 問 題 と し て

も 、 状 態 変 化 動 詞 と 呼 ば れ る 類 の 動 詞 ( cf. 5.3.2 節 の グ ル ー プ A ) は 、 こ の 種 の 予 測 可 能

性 を 強 く ( 現 象 レ ベ ル で ) 支 持 し て い た 。

同 時 に 、 生 成 意 味 論 以 降 、 動 詞 の 対 す る 確

実 な 信 念 が 分 析 の バ イ ア ス と な り 、 状 態 変

化 動 詞 は 結 果 構 文 研 究 の 中 心 的 存 在 と し て

位 置 づ け ら れ て き た 。

本 研 究 は 、 こ う し た 従 来 の 枠 組 み に 対 し

て 、 い く つ か 重 要 な 問 題 提 起 を 行 っ て き た 。

し か し 、 従 来 の 研 究 が 示 し た 観 察 、 な い し

は そ の 分 析 は 、 明 ら か に 分 析 者 の 直 感 を 反

映 し て お り 、 決 し て 単 純 な 思 い つ き な ど で

は な い は ず で あ る 。 と い う の は 、 各 々 の 分

析 者 は 各 々 の 現 象 に 対 し て 見 え た ま ま の も

の を 観 察 の 結 果 と し 、 記 述 分 析 し て い る 。

と な る と 、 そ の よ う な 見 え 方 に は そ れ な り

の 動 機 付 け が あ る 、 と 言 わ ざ る を 得 な い 。

で は 、 状 態 変 化 動 詞 の ど の よ う な 側 面 が 多

く の 分 析 者 に 「 状 態 変 化 動 詞 こ そ 、 結 果 構

文 の 生 起 を 予 測 す る も の 」 と 思 わ せ た の で

あ ろ う か 。

本 研 究 が 提 案 す る モ デ ル は 、 こ う し た 問

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題 を う ま く 説 明 で き る 。 ま ず 、 こ の 点 に 関

し て は 、 図 18 ( a ) で 行 っ た グ ル ー プ A の 動

詞 群 の 特 徴 づ け を 再 度 考 え て み た い 。 す で

に 示 し た こ と で は あ る が 、 従 来 の 分 析 が 、

状 態 変 化 動 詞 と 称 し て い る 動 詞 は 、 図 16 の

基 本 モ デ ル の い ず れ の 関 係 も プ ロ フ ァ イ ル

し て い る こ と に 注 目 し て ほ し い 。 こ の こ と

か ら 、 考 え て み た 場 合 、 従 来 の 研 究 が な ぜ

状 態 変 化 動 詞 で 結 果 構 文 を 記 述 し よ う と し

た の か が 自 然 と 見 え て く る 。 つ ま り 、 こ の

状 態 変 化 動 詞 と 結 果 構 文 の 結 合 は

Goldberg ( 1995 ) の 使 役 関 係 仮 説 ( Causal Relation Hypothesis ) が 指 摘 す る 「 動 詞 の イ ヴ ェ ン ト は 、

構 文 の イ ヴ ェ ン ト の 下 位 タ イ プ 」 に 該 当 す

る 25 。 こ の こ と か ら 考 え て み た 場 合 、 状 態

変 化 動 詞 が 示 す 個 々 の イ ヴ ェ ン ト は 、 そ れ

自 体 で 、 ( 結 果 構 文 の 認 知 事 象 と し て ) 自

己 完 結 的 な 効 果 を 発 揮 す る こ と が 分 か る 。

と な る と 、 状 態 変 化 動 詞 の 個 々 の イ ヴ ェ ン

ト を 記 述 す る こ と は 、 結 果 構 文 の 認 知 事 象

を 記 述 す る こ と と 、 現 象 的 に は 等 価 と い う

こ と に な る 。 し か し 、 言 語 事 実 を よ り 広 く

観 察 し て い っ た 場 合 、 こ れ ら の 記 述 が 含 意

す る 別 の 問 題 点 に 気 が 付 く で あ ろ う 。

ま た 、 以 上 の 背 景 の 延 長 で 、 構 文 と 動 詞

25 使役関係仮説とは、動詞と構文の結合に関わる制約で、「動詞が表す意味と構文の表す意味は(時間的に隣接した)使役敵関係によって統合されなければならない」(Goldberg 1995:62)というものである。なお、動詞が構文の下位タイプを形成する典型例としては「二重目的語構文」と、動詞 give の関係を考えると分かりやすいであろう。

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〈99〉

の 結 合 に 関 す る 生 産 性 の 問 題 を 考 え て み た

場 合 、 一 つ 興 味 深 い 動 機 付 け は 自 ず と 見 え

て く る 。 ま ず 、 事 実 の レ ベ ル で 、 動 詞 グ ル

ー プ 間 で 見 ら れ る 生 産 性 の 非 対 称 性 が 指 摘

で き る 。 す な わ ち 、 グ ル ー プ A の 動 詞 群 が

生 産 的 分 布 を 示 す の に 対 し て 、 グ ル ー プ

B 、 お よ び グ ル ー プ C の 動 詞 群 は 、 部 分 的 生

産 性 し か 示 さ な い 、 と い う 分 布 の 問 題 が あ

る 。

本 研 究 が こ れ ま で 行 っ て き た 分 析 の 延 長

で は 、 こ う し た 分 布 が 単 な る 偶 然 で は な い

可 能 性 が 見 え て く る 。 と い う の も 、 こ の 分

布 の 背 後 に 潜 む 動 機 づ け の メ カ ニ ズ ム と し

て 、 5.3.2 節 の ベ ー ス ・ プ ロ フ ァ イ ル モ デ ル

に 基 づ い て 捉 え な お す こ と が で き る か ら で

あ る 。 そ れ は 、 図 17 の グ ル ー プ C や 図

18 ( b ) の グ ル ー プ B に 比 べ 、 図 18 ( a ) の

グ ル ー プ A の 場 合 、 相 対 的 に 多 く の エ ネ ル

ギ ー 移 動 を プ ロ フ ァ イ ル し て い る 。 こ う し

た プ ロ フ ァ イ ル す る エ ネ ル ギ ー の 相 違 は 、

結 果 構 文 と 動 詞 の 慣 習 度 に 関 す る 相 関 の 強

弱 を 示 唆 す る と 考 え ら れ る 。 こ の こ と は 、

語 彙 と 構 文 の ネ ッ ト ワ ー ク と し て 示 し た 場

合 、 図 20 の よ う に な る 。

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〈100〉

図 .20図 20 は 構 文 と 動 詞 の 結 合 度 の 強 さ を 前 提 と

し 、 相 互 の ネ ッ ト ワ ー ク を 示 し て い る ( 線

の 太 さ は 慣 習 の 度 合 ・ 定 着 度 を 表 す ) 。 図

20 で は 、 ま ず 、 図 18 の ( a ) が 示 す よ う に 、

グ ル ー プ A と 結 果 構 文 の 結 合 は 、 す べ て の

エ ネ ル ギ ー を プ ロ フ ァ イ ル す る も っ と も 定

着 度 の 高 い 結 合 で あ る こ と を 示 し て い る と

考 え ら れ る 。 一 方 、 グ ル ー プ B に 関 し て は 、

図 18 ( b ) が 示 す よ う に 図 17 の グ ル ー プ C に

比 べ ( 相 対 的 に ) 高 い 定 着 度 を 示 す 。

最 後 に 、 動 詞 の 問 題 に 関 連 し て 、 次 の 立

場 を 示 し て お く 。 本 研 究 が 示 し た 分 析 は 、

実 際 の と こ ろ 、 動 詞 の 意 味 を 否 定 す る も の

で は な い 。 こ れ は 、 山 梨 ( 2000 ) が 指 摘 す

る よ う に 、 動 詞 に し ろ 、 構 文 に し ろ 、 ミ ク

ロ か ら マ ク ロ ま で の あ ら ゆ る 言 語 の ユ ニ ッ

ト は 、 他 に 還 元 で き な い 認 知 的 動 機 づ け を

有 す る 。 こ の 見 方 を 踏 ま え た 上 で 構 文 と 動

詞 が 持 つ 関 係 を 正 し く 規 定 す る こ と が 重 要

で あ り 、 本 研 究 が 示 す 見 方 は 、 む し ろ 、 動

詞 の 意 味 を 経 験 事 実 に 見 合 っ た 水 準 に 見 直

す た め の も の と 位 置 付 け ら れ よ う 。

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〈101〉

6.   結 語 に か え て

  本 研 究 の 理 論 的 ベ ー ス と な る 認 知 言 語 学

の パ ラ ダ イ ム は 、 従 来 の 言 語 研 究 に 対 し て 、

人 間 の 認 知 能 力 と い っ た 言 語 外 の 要 素 に 説

明 の 基 盤 を 置 く な ど 、 特 筆 す べ き 新 た な 視

点 と 方 向 性 を 提 示 し て き た 。 特 に 、 我 々 が

言 語 と 称 す る も の の 位 置 づ け に 関 し て 、 開

か れ た 系 と 捉 え て お り 、 定 着 度 や 、 慣 用 化

と い っ た 環 境 論 の 観 点 か ら 、 相 対 的 に 位 置

づ け て い る ( 山 梨 2000:250-252 ) 。 ま た 、 こ う

し た 見 方 の 延 長 で 言 語 を 使 用 に 基 づ く 動 的

シ ス テ ム と 捉 え 、 言 語 使 用 を モ デ ル 化 す る

こ と で 、 言 語 能 力 の 根 底 を 明 ら か に し よ う

と 努 め て き た ( cf. Barlow and Kemmer (eds.) 2000, Bybee 1985, 2001, 黒 田 2003a, 山 梨 2003 ) 。

さ ら に 、 上 記 の 一 般 的 方 向 性 に 加 え 、 具

体 的 な 言 語 分 析 に 関 し て も 、 い く つ か 重 要

な 問 題 提 起 を し 、 新 た な 方 向 性 を 提 示 し て

い る 。 こ の こ と を 象 徴 す る も の と し て 、 内

容 要 件 ( content requirement ) を 挙 げ る こ と が で

き る ( cf. Langacker 1987 ) 。 認 知 文 法 は 、 そ の モ

デ ル 構 築 の ス タ ー ト 時 点 に お い て 、 道 具 立

て に 関 す る 自 ら へ の 厳 格 な 制 約 、 す な わ ち

心 的 実 在 性 が 問 わ れ る 、 理 論 仮 構 物 や 抽 象

的 サ ブ モ ジ ュ ー ル を 排 除 す る こ と の 重 要 性

を 訴 え 続 け て き た 。 そ し て 、 こ う し た 方 向

性 を 実 践 す べ く 、 こ れ ま で の 認 知 文 法 並 び

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〈102〉

に 認 知 言 語 学 は 、 経 験 基 盤 主 義 と 身 体 性 を

キ ー ワ ー ド に し て 、 統 一 的 分 析 記 述 を 試 み

た 。 同 時 に 、 む や み に 道 具 立 て を 増 や す 、

ア ド ホ ッ ク な 分 析 を 排 除 す べ く 、 過 去 の 研

究 に 対 す る 積 極 的 な 見 直 し を 推 進 し て き た 。

こ う し た 新 た な パ ラ ダ イ ム に 基 づ く 、 新 た

な 分 析 手 法 は 本 研 究 の 分 析 に お い て も 、 基

本 的 前 提 と さ れ て い る 。

こ の こ と は 、 本 研 究 の モ デ ル を 見 て も 明

ら か で あ る 。 と い う の は 、 本 研 究 が 提 案 す

る モ デ ル を 構 成 し て い る の は 、 時 間 ・ 空 間 、

そ し て 、 参 与 者 間 の 力 学 的 関 係 と い っ た 、

身 体 化 さ れ た 概 念 の み で あ る 。 こ の こ と の

裏 を 返 せ ば 、 本 研 究 は 理 論 仮 構 物 を 分 析 の

前 提 と す る 手 法 は と っ て い な い こ と を 意 味

す る 。 と い う の も 、 実 態 の 分 か ら な い 抽 象

構 造 や サ ブ モ ジ ュ ー ル に 説 明 を 還 元 す る 手

法 は 、 議 論 の 循 環 論 を 引 き 起 こ す の み な ら

ず 、 決 し て 内 実 の あ る 言 語 分 析 に 役 立 つ も

の で は な い か ら で あ る 。 ま た 、 そ の よ う な

分 析 に お い て は 、 言 語 現 象 に 対 す る 真 の 説

明 力 を 期 待 す る こ と は で き な い 。 こ う し た

基 本 的 問 題 意 識 の も と で 、 本 研 究 は 、 構 文

文 法 お よ び 認 知 文 法 を 中 心 と し て 、 発 展 し

た 一 連 の 理 論 的 枠 組 み に 基 づ い て 、 結 果 構

文 を 捉 え て き た 。

最 後 に 、 本 研 究 は 、 構 文 理 論 の 個 別 研 究

と し て 日 本 語 の 他 動 詞 結 果 構 文 の み に 分 析

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〈103〉

対 象 を 限 定 し 、 考 察 を 行 っ て き た 。 だ が 、

紙 幅 の 都 合 上 、 詳 細 に 踏 み 切 る こ と は し な

か っ た が 、 本 研 究 が 示 す モ デ ル は 、 他 の 構

文 現 象 に 対 し て も 説 明 力 を 持 っ て お り 、 構

文 現 象 全 般 に 対 す る 統 一 的 ・ 体 系 的 記 述 へ

の 可 能 性 を 示 唆 す る 。 い ず れ に せ よ 、 日 本

語 に 対 す る 構 文 的 ア プ ロ ー チ の 妥 当 性 を 示

す に は 、 ま だ ま だ 多 く の 経 験 的 支 持 が 必 要

で あ る と 言 え る 。 こ の 点 に 関 連 し て 、 今 後

の 課 題 と し て 日 本 語 に お け る よ り 広 範 囲 の

具 体 現 象 に つ い て 、 個 別 研 究 の 深 化 と そ の

考 察 が 求 め ら れ る 。

* 本 稿 の 執 筆 に 当 た っ て 、 多 く の 方 々 に お

世 話 に な っ た 。 ま ず 、 当 論 文 集 の 編 集 者 で

あ る 山 梨 正 明 先 生 に は 、 執 筆 の 機 会 を 与 え

て く だ さ っ た こ と に 加 え 、 草 稿 を 読 ん で い

た だ き 、 重 要 な ご 指 摘 、 お よ び ご 指 導 を い

た だ い た 。 ま た 、 黒 田 航 氏 、 玉 井 尚 彦 氏 、

進 藤 三 佳 氏 の 三 氏 か ら 有 益 な 示 唆 と 貴 重 な

助 言 を い た だ い た 。 最 後 に 、 永 田 由 香 氏 に

は ネ イ テ ィ ブ チ ェ ッ ク に ご 協 力 い た だ い た 。

末 筆 な が ら こ こ に 記 し て 感 謝 を 表 し た い 。

な お 、 本 論 に お け る す べ て の 誤 り は 、 筆 者

に 帰 す べ き も の で あ る 。

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〈104〉

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( http://www.yomiuri.co.jp/ )

・ 西 安 刀 削 麺 六 本 木 店

( http://homepage1.nifty.com/uspaar/cuisine~toshomen.htm )

・ ハ イ デ ッ カ の 日 記

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・ 大 森 の 小 説  

( http://www1.speednet.ne.jp/~shiho/bokuha%20unngaii.html)・ ク チ ー ナ お す す め 料 理  

( http://www.chef-masui.com/Cucina/cu.os.2000/cuos0212.html )

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・ 村 上 龍 金 融 経 済 の 専 門 家 た ち に 聞 く

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・ 4 年 1 組 の 宝 物

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・ 龍 茶 房 台 湾 紀 行( http://www.ryuchabou.com/album/ )

・ か ぜ ま ち の 新 商 品

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・ 横 浜 市 衛 生 研 究 所 苦 情 事 例 集( http://www.eiken.city.yokohama.jp/food_inf/jirei/gobou.html )

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・ 集 英 社 YOU コ ミ ッ ク ス 懐 古 的 洋 食 事 情

( http://kamiyamakun.hp.infoseek.co.jp/list/kaikoteki-2.htm )

・ こ と ば と か た ち の 部 屋 金 花 と 王 二

( http://homepage1.nifty.com/kotobatokatachi/sub447.htm )

・ Mother Leaf in America ( http://yoshimi23.hp.infoseek.co.jp/ )

・ 横 須 賀 市 立 平 作 小 学 校 ( http://schoolnet.yknet.ed.jp/)

・ IBAC 身 だ し な み ・ 常 識

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