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論文 動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハードウェアエンジンの実現 員) 大学大学院 システム 〈あらまし〉 ・安 ため, カメラシステム している. ら異 するために きを する る.そこ オプティカルフロー ある KLT Tracker めてきているが, コスト 題があった. きを するため して, みマス クによるスコア 案する.また,これら コストかつ するため, ,しきい いた データ アーキテクチャを 案し, FPGA った. 案アルゴリズムを した きベクトルを あるこ を確 した.また,ハード ェア した 20% FPGA リソース を確 した. キーワードKLT Trackerみマスク,FPGA,ハード ェアエンジン SummarySurveillance camera systems play an important role for creating safe and se- cure society. Especially, real-time motion detection is a key to detect abnormal scenes. So, we picked up KLT (Kanade-Lucas-Tomasi) tracker and tried to implement a system. However, there are still many problems in accuracy and system cost. This paper proposes a score control by weighted mask and an adaptive feature point interval algorithms to increase accuracy of object detection. Moreover, to implement these algorithms onto a low cost FPGA, hardware architectures, such as weighted value generation circuit, insert position calculation circuit and feature point data update circuit, are proposed. Evaluation results shows that the proposed algorithm can detect motion vectors with high accuracy for various surveillance scenes. More- over, hardware implementation results show that the proposed architecture attains real-time processing with around 20% FPGA resources. Keywords: KLT Tracker, Weighted mask, FPGA, Hardware Engine 1. はじめに ・安 ため, カメラシステム しており, ,そ している. に,カメラ ディジタル コスト, により, シーン り, “Motion based Feature Point Selection Algorithms with KLT Tracker and Its Hardware Implementation” Tsuyoshi SASAKI, Kodai KAWANE, Takeshi IKENAGA (Member) WASEDA University Graduate School of Information, Pro- duction and Systems がりつつある. しかし,依 して, ために による 」が っており, コストが大きく, システム 大き ている.こ 題を する して, いた異 が多く されてきてい 1),2) .映 から異 する して に対 る.そこ オプティカルフロー ある KLTKanade- Lucas-TomasiTracker 4),5) めてきて おり,KLT Tracker ハード ェアエ 590

動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハー …

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論 文

動きを考慮したKLT Tracker特徴点選択アルゴリズムと

そのハードウェアエンジンの実現

佐々木毅 河根広大 池永 剛(正会員)

早稲田大学大学院情報生産システム研究科

〈あらまし〉 安全・安心な社会の実現のため,監視カメラシステムの重要性が増している.監視映像か

ら異常を検知するためには,特に実時間で対象物体の動きを解析する技術が重要となる.そこで,我々

はオプティカルフローの一種である KLT Tracker に注目し検討を進めてきているが,追跡精度や低

コスト化に課題があった.本稿では,人などの動きを高精度に検出するための手法として,重みマス

クによるスコア値操作と特徴点間隔の適応処理を提案する.また,これらの手法を低コストかつ実時

間処理で実現するため,重み値生成回路,しきい値を用いた挿入位置計算回路,特徴点データ更新回

路などのアーキテクチャを提案し,普及型 FPGA への実装を行った.提案アルゴリズムを種々の画

像に適用した結果,動きベクトルを高精度に取得可能であることを確認した.また,ハードウェア設

計を行い評価した結果,20%程度の FPGA リソースで実時間処理可能なことを確認した.

キーワード:KLT Tracker,重みマスク,FPGA,ハードウェアエンジン

〈Summary〉 Surveillance camera systems play an important role for creating safe and se-

cure society. Especially, real-time motion detection is a key to detect abnormal scenes. So, we

picked up KLT (Kanade-Lucas-Tomasi) tracker and tried to implement a system. However,

there are still many problems in accuracy and system cost. This paper proposes a score control

by weighted mask and an adaptive feature point interval algorithms to increase accuracy of

object detection. Moreover, to implement these algorithms onto a low cost FPGA, hardware

architectures, such as weighted value generation circuit, insert position calculation circuit and

feature point data update circuit, are proposed. Evaluation results shows that the proposed

algorithm can detect motion vectors with high accuracy for various surveillance scenes. More-

over, hardware implementation results show that the proposed architecture attains real-time

processing with around 20% FPGA resources.

Keywords: KLT Tracker, Weighted mask, FPGA, Hardware Engine

1. は じ め に

安全・安心な社会の実現のため,監視カメラシステム

の重要性が増しており,近年,その出荷台数も急激に増

加している.特に,カメラのディジタル化,低コスト,高

機能化により,様々な監視シーンへの適用が可能となり,

“Motion based Feature Point Selection Algorithms with

KLT Tracker and Its Hardware Implementation”

Tsuyoshi SASAKI, Kodai KAWANE, Takeshi IKENAGA

(Member)

WASEDA University Graduate School of Information, Pro-

duction and Systems

応用が広がりつつある.

しかし,依然として,事件事故の早期発見のためには

「人による常時監視」が中心となっており,労力・人的

コストが大きく,監視システム導入の大きな問題となっ

ている.この問題を解決する方法として,近年,画像認

識技術を用いた異常判定の手法が多く報告されてきてい

る1),2).映像から異常を判定する方法としては,特に対象

物体の動作量の推定・動き検出処理が重要となる.そこで,

我々はオプティカルフローの一種である KLT(Kanade-

Lucas-Tomasi)Tracker4),5) に注目し検討を進めてきて

おり,KLT Trackerを実時間処理可能なハードウェアエ

590

Page 2: 動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハー …

論文:動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムとそのハードウェアエンジンの実現

ンジン3) なども実現してきている.しかし,オリジナル

のKLTを人物などの追跡にそのまま適用した場合,背景

画像によってはうまく特徴点抽出できないなどの問題が

生じている.また,上記のハードウェアエンジンは,実時

間処理を可能としているが,ハードウェア規模が大きく,

その実現のためには,容量の大きい極めて高価な FPGA

を必要とし,監視システムの低コスト化の障壁となって

いた.

本稿では,人などの動きを高精度に検出するための手

法として,重みマスクによるスコア値操作と特徴点間隔

の適応処理アルゴリズムを提案する.重みマスクを用い

ることにより,動きのある場所に特徴点を集中させるこ

とが可能となり,追跡処理の高精度化を可能にしている.

また,特徴点間隔を適応的に切り替えることにより,物

体の動き出しを正確にとらえることを可能にしている.

また,本稿では,提案アルゴリズムを低コストかつ実

時間処理で実現するため,普及型 FPGA への実装を想

定し,重み値生成回路によるリソース削減,しきい値を

用いた挿入位置計算回路によるコンパレータの削減と高

速化,特徴点データ更新回路によるレジスタ削減などの

アーキテクチャを提案する.

本稿では,2 章において KLT Tracker の特徴とその

問題点について述べた後,3 章で提案する重みマスクに

よるスコア値操作と特徴点間隔の適応処理アルゴリズム

およびその精度評価結果を示す.更に,4 章では,提案

アルゴリズムに基づく特徴点選択ハードウェアアーキテ

クチャ提案と,FPGA への実装評価結果ついて述べる.

2. KLT Tracker

動画像から対象の動き量を推定するにあたり,KLT

Trackerを研究対象アルゴリズムとして選択した.以下,

KLT Tracker について説明する.

2.1 アルゴリズム

KLT Tracker はオプティカルフローの勾配法の一種

で,空間的局所最適化法に分類される.特徴として,フ

ローを求める際に,あらかじめ追跡に適した特徴点を計

算するため,高精度な追跡処理が可能である.

KLT Trackerの処理は大きく分けて,特徴点抽出処理

と特徴点追跡処理の二つに分けることができる.特徴点

抽出では,特徴量となるスコア値の計算と特徴点の選択

を行う.また,特徴点追跡では Newton-Raphson 法の

最小化法を用いて各特徴点の動きベクトルを計算する.

2.2 スコア値の計算

特徴点を抽出するにあたり,特徴点の選択基準となる

スコア値を計算する必要がある.スコア値の計算方法に

ついて説明する.まず,現画像に対しガウシアンフィル

図 1 局所領域画像Fig. 1 Local area image

タを処理し,画像全体において,x 方向,y 方向の勾配

値 Imx, Imy を求める.次に,以下の式を用いて,画像

の局所領域ごと (図 1) に Z 行列の計算を行う.

Imx = ∂∂x

I

Imy = ∂∂y

I

⎫⎬⎭

gxx = Imx × Imx

gxy = Imx × Imy

gyy = Imy × Imy

⎫⎪⎪⎬⎪⎪⎭ (1)

Z =

[ ∑W gxx

∑W gxy∑

W gxy∑

W gyy

](2)

a =∑

w gxx

b =∑

w gxy

c =∑

w gyy

⎫⎪⎪⎬⎪⎪⎭ (3)

ここでW は局所領域を示す.次にこの Z 行列の固有

値から特徴量となるスコア値を式 (2)(3)(4)(5)で求める.

min(λ1, λ2) =a + c − √

(a − c)2 − 4b2

2(4)

Score =

{min(λ1, λ2) : min(λ1, λ2) > λth

0 : Otherwise

(5)

λth は特徴点選択のしきい値を示す.固有値 λ1, λ2 の

小さいほうの値がしきい値 λth よりも大きい場合,特

徴点として選択する.ただし,今回は取得する指定個数

(100個)の特徴点を取得するため,ソートによってスコ

ア値の高いものから指定個数分だけを特徴点として選択

している.

2.3 KLT Tracker の一次評価

KLT Tracker の一次評価として,人の動きに対する

KLT Tracker の特性を検証した.簡単な人の日常動作

(手を振る,歩行など)を撮影したテストシーケンスに対

して,KLT Trackerの処理を行い,目視による定性評価

を行った.テストシーケンスのフォーマットは,非圧縮

avi,画像サイズ 640x480,フレームレート 30 fps であ

る.また,KLT Trackerのパラメータは,特徴点数 100

個,特徴点間の最小間隔が 7 pixel である.

実験の結果,以下の二つの問題点が判明した.

1. 静止領域に特徴点が集中し,動き領域の特徴点が少

ないため,得られる動き情報が少ない.

591

Page 3: 動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハー …

画像電子学会誌 第 39 巻 第 5 号(2010)

2. 一部の画像領域に特徴点が偏って抽出され,他の画

像領域の動きを得ることができない.

問題点 1は,背景や服に多くの特徴点が抽出され,実

際に動いている手や足に抽出される特徴点が少ないため

に得られる動きベクトルが少ないといった問題である.ま

た,問題点 2 は,チェック柄の服などを着た場合に,大

部分の特徴点が一部の画像領域に固まって抽出されてし

まい,他の画像領域の動きを全く検出できないといった

問題である.以上の問題点を解決するために,画像情報

だけでなく対象物の動きを考慮した特徴点抽出法につい

て検討を行った.

3. 動き検出の高精度化

人の動きを効率的に取得するためKLT Trackerのアル

ゴリズム改良を行った.人の動きに対する KLT Tracker

の問題点として,

1. 静止領域への特徴点の集中

2. 一部領域への特徴点の集中

以上の 2点がある.これらの問題点を解決し,効率的

に動きを検出する方法として,「重みマスクによるスコ

ア値操作」,「特徴点間隔の適応処理」を提案する.以下,

各手法について説明する.

3.1 重みマスクによるスコア値操作

従来手法の特徴点抽出法では,画像によっては静止領

域に特徴点が集中し,動き領域に少量の特徴点しか抽出

できず,動きを効率的に検出できない問題があった(問

題点 1).そこで,この問題を解決するため,動き領域に

対して優先的に特徴点を抽出する手法を検討した.

従来手法は,局所領域の画像情報から特徴点を抽出し

ているため,追跡精度に対しては高精度な特徴点を抽出

している.しかし,求めた特徴点が動かなければ,動き

検出に対して効果はない.そこで,特徴点抽出に画像情

報だけでなく,動き情報を加味した重みマスクによるス

コア値操作(提案手法 1)を提案する.

提案手法 1の目的は,特徴点追跡処理で得られる動き

ベクトルを利用して,動き領域の特徴点を集中して抽出

することである.提案手法 1の流れを図 2に示す.提案

手法 1 の処理について説明すると,まず,入力画像であ

る現画像からからスコア値 S(t) を計算する.このスコア

値を前回の処理で得た重みマスク W (t − 1) と乗算する

ことで,スコア値 S’(t) に更新する.このスコア値 S’(t)

を用いて特徴点抽出を行うことにより,画像情報と動き

情報を考慮した特徴点抽出が可能となる.特徴点抽出後,

特徴点追跡で動きベクトルを計算し,重みマスク W (t)

を作成する.以下の式により,特徴点の動きベクトルの

大きさから重み付けを行う領域のサイズと重み値を計算

図 2 重みマスクによるスコア値操作Fig. 2 Mixing of weighted mask and score matrix

図 3 重み関数

Fig. 3 Weighted function

する.

Kernel ∝ max(|dx|, |dy|) (6)

つまり,動きの大きい領域では重みを大きく広い領域に

適用するため,動き領域に対してスコア値を増加し,特

徴点を動き領域に優先的に抽出することができる.重み

関数をすべての特徴点に適用し,スコア値配列と同サイ

ズの重みマスク W (t) を作成する (図 4).

以上の処理により,動き情報と画像情報を考慮したス

コア値を求めることが可能である.

3.2 特徴点間隔の適応処理

特徴点間隔の適応処理は,人の動きに対する KLT-

Tracker の問題点である「一部画像領域への特徴点の集

中」を解決するための手法である.本手法では,重みマ

スクの重み値から,画像領域をそれぞれ静止領域と動き

領域を判定し,各領域で特徴点の間隔を変更する処理を

592

Page 4: 動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハー …

論文:動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムとそのハードウェアエンジンの実現

図 4 特徴点間隔の適応処理Fig. 4 Adaptive processing of point interval

図 5 特徴点間隔の判定処理Fig. 5 Calculation of feature point interval

行う.静止領域に対しては特徴点の間隔を広くとること

で,特徴点を静止領域に広く特徴点を分布して特徴点の

偏った抽出を防ぎ,画像全体の動きに対応しやすい状態

にする.また,動き領域に対しては特徴点の間隔を密に

することで,動き領域に特徴点を集中して抽出して多く

の動き情報を得ることを目的としている.

図 5に特徴点間隔の判定処理フローを示す.特徴点の

間隔は特徴点抽出処理のスコア値ソート時に行う.スコ

アソートにより,最大スコア値の座標を求め,同座標上

の重みマスクの重み値を参照する.このとき,重み値が

重み付けされていれば,その座標を動き領域と判定する.

そして,対象座標を中心とした 15 近傍のスコア値を削

除し,スコア値配列を更新する.また,重み付けされて

いない場合は,静止領域と判定し,43近傍のスコアを削

除する.以上の処理によって特徴点の間隔を動き情報に

合わせて適応的に変更する.

図 6 実験結果

Fig. 6 Experimental result

3.3 実験結果

本手法の有効性を評価するため,従来手法と提案手法

でフレームごとの動きのあった特徴点数の測定をした.実

験には,手を振る,階段の昇降,屋外での歩行など,日

常動作を想定した複数のテストシーケンスを用いた実験

条件は,画像サイズ 640 × 480,フレームレート 30 fps

とし,特徴点の総数は 100 個とした.

複数のテストシーケンスを用いた実験結果を図 6に示

す.評価指数として,「動きのあった特徴点の平均数」を

計算した.FPmove は動きのあった特徴点数,T はテス

トシーケンスのフレーム数で,Ts は動きのないフレーム

数を示している.

FPAverage =

∑w

FPmove

T − Ts(7)

図 7から図 10の実験結果を見ると,テストシーケンス

全体において,提案手法が従来手法よりも多くの動きベ

クトルを取得できていることがわかる.また,図 6の複

数のテストシーケンスを用いた実験の結果を見ると,提

案手法が従来手法の約 2倍の動きベクトルを取得可能で

あることが確認できた.

3.4 提案手法 2 の評価

提案手法 2の有効性を評価するため,提案手法 1のみ

適用した手法と,提案手法 1と 2の両方を適用した手法

を比較した (図 11).同一のテストシーケンスに対して,

両手法を適用し,フレームごとの動きのあった特徴点数

を測定した.

実験結果全体を見ると,特に大きな違いは見られない

が,500から 550フレームの部分に注目すると,提案手

法 1と 2の両方を適用した手法のほうが,多くの動きベ

クトルを取得できた結果となった.また,この部分の結

果画像(図 12)を見ると,提案手法 1のみの手法ではと

らえることができなかった手足の動きを提案手法 1 と 2

の両方を適用した手法では手足に特徴点抽出されており,

動きをとらえることに成功している.

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画像電子学会誌 第 39 巻 第 5 号(2010)

図 7 実験結果(手を振る,無地の服)Fig. 7 Result (Swing, plane)

図 8 実験結果(手を振る,柄物の服)Fig. 8 Result (Swing, check)

図 9 実験結果(屋外での歩行)Fig. 9 Result (Walking)

図 10 実験結果(階段の昇降)Fig. 10 Result (Walking)

4. 特徴点選択ハードウェアエンジンの設計

動きを考慮した特徴点抽出をハードウェア化するに当

たり,重みマスクによるスコア値操作,特徴点間隔の適

図 11 提案手法 2 の評価結果Fig. 11 Experimental result of proposal 2

図 12 提案手法 2 の評価Fig. 12 Estimation of proposal 2

応処理を用いた特徴点選択モジュールを設計した.本モ

ジュールを既提案の特徴抽出・特徴追跡モジュール15) と

組み合わせることにより KLT Tracker コアを構成する

ことが可能である.特徴点選択モジュールは特徴点抽出

モジュール内に位置し,スコア演算モジュールによって求

められたスコア値をもとに特徴点の選択を行う (図 13).

4.1 特徴点選択モジュールの概要

特徴点選択モジュールは,大きく分けて 1©重み生成回路,2©挿入位置計算回路,3©近傍チェック回路,4©特徴点データ更新回路によって構成されている.特徴点選択モジュー

ルの入力となるスコア値はブロック RAM(BRAM)に

格納される.また,特徴点選択モジュールによって選択さ

れた特徴点は BRAM に格納され,特徴点追跡モジュー

ルに渡される.

4.2 重み生成回路

提案手法の「重みマスクによるスコア値操作」では,追

跡結果である動きベクトルをもとに重みマスクの生成を

行い,その重みマスクを次回の特徴点抽出に用いること

で動き領域に特徴点を優先的に抽出していた.しかし,こ

の処理を行うためには画像サイズに比例した重みマスク

をメモリ上に保持しておく必要があり,大規模なリソース

を消費してしまう.そこで,重みマスクを保持せず,重み

値を計算するためのカーネルデータのみを保持し,毎回

重み値を計算することでリソースの削減を行う(図 14).

このカーネルデータは,追跡結果である動きベクトルか

ら計算される.カーネルデータは 32 bit × 100 の情報

594

Page 6: 動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハー …

論文:動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムとそのハードウェアエンジンの実現

図 13 特徴点選択モジュールの概要Fig. 13 Block diagram of feature point selector

図 14 重み計算回路Fig. 14 Module of calculating weighted value

である.このカーネルとは,重み関数を適用する領域サ

イズと重み値を意味している.このデータを毎回 100個

すべて参照し,対象座標の重み値を計算する.このとき,

重み計算を並列化(10並列)することで高速性の維持を

行っている.

4.3 挿入位置計算回路

特徴点の選択は,スコア値のソートによって求められ

るため,保持している特徴点データとの比較を行う必要

がある.そのため,保持している 100個のスコア値と毎

回比較処理を行い,特徴点データへの挿入位置を計算す

る必要がある.そこで,リソース(コンパレータ)削減

と高速化を目的とした,しきい値を用いた挿入位置計算

回路(図 15)を設計した.

この回路では,重みとスコア値を乗算したのちに,特

徴点データ配列のどの位置に新しいスコア値を挿入する

か計算する.処理の流れとして,まず,シーケンシャルに

五つのしきい値を取得する.このしきい値は特徴点デー

タの 0位(最小値),25位,50位,75位,99位(最大

値)のスコア値である.最初にこのしきい値を取得した

後,計算対象のスコア値を各々のしきい値と比較するこ

とで大まかな挿入領域を計算する(挿入領域計算).その

後,比較先の特徴点データの値を各々比較していくこと

で詳細な挿入位置を計算する.

図 15 挿入位置計算回路Fig. 15 Module of calculating insert position

以上の処理により,5~30 サイクルで挿入位置計算が

可能である.

4.4 近傍チェック回路

特徴点の選択は,スコア値の大小関係と位置関係で決

定する.スコア値の大小関係による特徴点の選択は先に

述べた挿入位置計算回路によって選択する.挿入位置計

算回路によって,入力したスコア値が挿入可能であった

場合,この近傍チェック回路によって位置関係のチェック

を行う(図 16).

ソフトウェア実装における特徴点間隔処理では,特徴

点選択処理において選択した特徴点近傍のスコア値を削

除することで近傍内に特徴点が抽出されることを防いで

いたが,この方法では,画像サイズに近いサイズの配列

を保持する必要があるため,ハードウェア実装に適して

いない.そのため,低コスト実装を行うため,保持して

いる特徴点データの特徴点座標と位置関係を毎回比較処

理することで近傍のチェックを行っている.

近傍内に特徴点が存在した場合,その特徴点とのスコ

ア値の大小関係から処理が変わる.入力スコアが既得特

徴点より低い場合,その入力スコアを特徴点として取得

しない.また,逆に既得特徴点より大きい場合,格納さ

れている既得特徴点のデータを削除する.以上の処理の

595

Page 7: 動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハー …

画像電子学会誌 第 39 巻 第 5 号(2010)

図 16 近傍チェック回路Fig. 16 Module of checking neighborhoods

図 17 特徴点データ更新回路Fig. 17 Module of updating feature points data

表 1 合成結果

Table 1 Result of logic synthesis

違いから,比較対象の特徴点データの上位・下位の場合

で処理を切り替える.

4.5 特徴点データ更新回路

近傍チェックの後,入力スコア値が挿入可能である場合,

特徴点データを更新する必要がある.また,近傍チェッ

ク時に,特徴点データを削除した場合,その配列が空と

なっているため,空の配列を詰めるようにして隙間のな

い特徴点データに更新する必要がある.通常,配列を更

新する際には,元のデータ配列を保持したまま,一時使

用するための配列(バッファ)を用意し,一時保持用の

配列にデータを入れていき,最後に元のデータ配列に戻

す方法をとる.しかし,この手法だと対象となる配列の

2 倍のリソースが必要となる.

そこで,特徴点データ更新回路(図 17)では,書き込

図 18 デモンストレーション環境Fig. 18 Demonstration system

み先の配列と読み込み先の配列が隣接している場合,書

き込み先の配列データを退避することにより,データ書

き込みによって次回の読み込み対象となる配列データが

上書きされても退避しているデータを用いることで更新

が可能となる.

4.6 合成結果

提案アーキテクチャをもとに RTL (Register Trans-

fer Level) を設計し,合成した結果を表 1 に示す.実装

対象である FPGA 評価ボードは,Xilinx 社製の TB-

3S-3400DSP-IMGで,搭載デバイスが Spartan-3 DSP

3400A である.

合成の結果,特徴点選択モジュールのリソース使用率

約 20%であった.また,特徴抽出・特徴追跡モジュール

と組み合わせた KLT コア全体においてもリソース使用

率 50%以下であり,動きを考慮した KLT Tracker 全体

を低コストに実現できる見通しを得た.

5. ま と め

本稿では,人などの動きを高精度に検出するための手

法として,重みマスクによるスコア値操作と特徴点間隔

の適応処理アルゴリズムを提案した.提案アルゴリズムを

低コストかつ実時間処理で実現するため,普及型 FPGA

への実装を想定し,重み値生成回路によるリソース削減,

しきい値を用いた挿入位置計算回路によるコンパレータ

の削減と高速化,特徴点データ更新回路によるレジスタ

削減などのアーキテクチャを提案した.

提案アルゴリズムを種々の画像に適用した結果,動き

ベクトルを高精度に取得可能であることを確認した.ま

た,ハードウェア設計を行い評価した結果,20%程度の

FPGAリソースで実時間処理可能なことを確認し,動き

を考慮した KLT Tracker 全体を低コストに実現できる

見通しを得た.

596

Page 8: 動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムと そのハー …

論文:動きを考慮した KLT Tracker 特徴点選択アルゴリズムとそのハードウェアエンジンの実現

今後の課題として,極めて特殊な画像が入力されると

いったワーストケースにおいては,実時間処理が間に合

わないといった問題が残っており,現状のリソース量を

維持しつつ,高速化のためのアーキテクチャ改良を行う

必要があると考えている.また,本システムを,様々な

監視シーンに適用し,その有効性を実証する予定である.

現在,図 18 に示すデモンストレーションシステムを構

築し,評価を進めている.

謝 辞 本研究を勧めるにあたり,様々なご協力・

ご助言をいただきました大日本印刷株式会社の大住勇治

様,岡本隆浩様,下袴田直樹様,筬島敏光様に深謝いた

します.

参 考 文 献

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13) 金澤 靖,金谷健一:“コンピュータビジョンのための画像の特徴点の抽出”,信学会誌,Vol.87, No.12, pp.1043–1048 (2004-12).

14) 金澤 靖,金谷健一:“画像の特徴点に共分散行列は本当に必要か”,信学論 A,Vol.J85-A, No.2, pp.231–239 (2002-2).

15) 河根広大,佐々木毅,岡本隆浩,筬島敏光,池永 剛:“普及型FPGA を用いた KLT Tracker の実時間処理システムの実現”,画像電子学会第 250 回研究会 (March 2010).

(2010 年 3 月 31 日受付)

(2010 年 5 月 24 日再受付)

佐さ

々き

木つよし

毅2008 年,呉工業高等専門学校専攻科機械電気工学専攻卒.2010年,早稲田大学大学院情報生産システム研究科博士前期課程修了.同年,(株)ホンダエレシス入社.現在,横浜本社開発 2 部勤務.在学中,画像認識に関する研究に従事.

かわ

河ね

根こう

広だい

大2005年,芝浦工業大学システム工学部電子情報システム学科卒.同年電気メーカ入社.以来,システム LSI の設計・開発に従事.2010年,早稲田大学大学院情報生産システム工学専攻修了.在学中,主に画像処理ハードウェアに関する研究に従事.

いけ

池なが

永たけし

剛 (正会員)1988年,早大・理工・電気卒.1990年,同大大学院修士課程了.同年NTT入社.同LSI 研究所にて高性能 ASIC,MPEG2

エンコーダーの設計・検証および,画像認識処理のための超並列 LSIとシステムの研究に従事.2003年,早大大学院情報生産システム研究科助教授,2006年,同大学理工学術院基幹理工学部電子光システム学科(兼担).2008年本会優秀論文賞,第 10回 LSIIPデザイン・アワード IP優秀賞受賞.2009 年,CSPA Best Paper

Award,博士(情報科学).現在,画像情報システム,アプリケーション SoC の研究に従事.IEEE,情報処理学会,電子情報通信学会各会員.

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