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発行:第一勧業銀行 編集:第一勧銀総合研究所 調査リポート 2001 12 11 日発行 No. 21 注目される中国 の地場企業

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発行:第一勧業銀行 編集:第一勧銀総合研究所

調査リポート

2001年12月11日発行No. 21

注目される中国の地場企業

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要旨 1. 1990 年代後半中国地場企業(以下、中国企業)は、外資系企業との競争に揉まれなが

ら着実に力をつけ、家電、オートバイ、パソコンなどの分野では、国内市場で圧倒的な

シェアを占めるようになった。家電製品の生産台数は既に日本を凌駕しており、その主

役は中国企業である。パソコン市場は近年急拡大を遂げているが、国内市場のシェアで

上位を占めるのは、聯想、北大方正などの中国企業である。オートバイ分野でも、嘉陵

や軽騎といった大手地場企業が、日系企業からの技術導入によって生産技術レベルを向

上させ、日系ブランドの改造モデルを低価格で市場に投入することでシェアを高めた。 2. 中国企業が国内シェアを伸ばしてきた背景には、価格の安さに加えて、品質の向上、販

売網やアフターサービスの強化などがある。まず、価格面で、中国ブランドは中国で生

産する日系メーカーブランドより少なくとも2割は安いと言われる。中国ブランドが安

い要因の1つには部品の安さがあり、日系企業の部品調達先が主に日系部品メーカーで

あるのに対し、中国企業はその調達の大半を格段に安いローカル部品に拠っている。次

に品質面では、①外国ブランドの研究と自社製品への応用、②外資系メーカー向けの

OEM 生産による技術の吸収などを通じて、外資系ブランドにキャッチアップしてきた。

さらに、中国企業は、販売網を強化するとともに、徹底したアフターサービスによって、

故障しやすい欠点をカバーする戦略をとった。 3. 99 年頃から、国内で高いシェアを確保した中国企業が積極的に海外展開を進めている。

家電やオートバイの分野では、東南アジア、中東、南米などの発展途上国向け輸出が急

増しているほか、海外市場で現地生産に踏み切る企業も増えてきた。2000 年の主要製

品の輸出台数は、カラーテレビ 1,033 万台、冷蔵庫289 万台、オートバイ 199 万台で、

いずれも前年比大幅な増加を示した。この主な要因には、①価格の安さに加えて品質が

向上してきたこと、②国内の供給過剰に伴い価格引き下げ競争が激化し、経営環境が厳

しさを増すなかで、中国企業の輸出ドライブが強まったこと、③中国政府が地場企業の

海外展開を奨励・支援していることがある。 4. 中国企業の国内市場での優位性は、今後も家電やオートバイ、パソコンなどの組立て産

業分野を中心に続くであろう。海外への展開も、政府による海外進出の奨励・支援や国

内の供給過剰などを背景に拡大基調が続くとみられる。地場企業の目覚しい成長は、中

国国内市場のみならず中国製品の主要輸出先であるアセアン市場でも販売競争を激化

させ、競合する日系企業にも様々な影響を及ぼすことが予想される。 5. 中国の地場企業にとって今後の課題は、第 1 に独自の製品開発力や生産技術力の改良で

ある。中国企業は、外資系企業の最新技術の自社製品への応用に重点を置くことで急成

長を遂げたことから、製品開発や生産技術の面でまだ遅れを取っている。有力な中国企

業は最近、研究開発費の大幅な拡大、米国留学帰りの技術者の採用などを通じて、R&

Dを強化し始めているが、まだ大勢を占めるには至っていない。第 2 に、多くの製品分

野で供給過剰が深刻化していることである。既存メーカーが生産能力を拡大させる一方

で、新規参入も相次いだためである。この結果、中国家電メーカー各社は、熾烈な価格

引き下げ競争を繰り広げ、赤字に転落する企業が出始めており、事業の選択と集中を通

じた収益力の強化が喫緊の課題となっている。今後中国の有力地場企業の中でも、優勝

劣敗の構図がはっきりしてくる可能性があろう。 (2001 年 11 月 26 日 第一勧業銀行調査室香港駐在 重並朋生)

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目次

1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2. 中国企業の形態 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 (1) 国有企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 (2) 集団所有制企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 (3) 私営企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

3. 中国国内市場で高いシェアを誇る中国企業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 (1) 中国企業の健闘が目立つ家電製品の分野・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 (2) 家電分野で中国企業の持つ強み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

a. 価格の安さ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 b. 品質の改善・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 c. 販売網の整備・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 d. アフターサービス体制の強化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 e. 経営改革への取り組み・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

(3) パソコンとオートバイ市場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 a. パソコン市場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 b. オートバイ市場・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

4. 海外進出を図る中国企業・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 3 (1) 家電メーカーの海外進出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 (2) 主要な企業の海外進出例・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

a. 海爾のケース・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13 b. TCL のケース ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 c. その他のケース・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

(3) 急増する中国の家電輸出と日系メーカーへの影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15 (4) 急増する中国製オートバイ輸出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16

5. 中国企業の展望と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 7 (1) 国内市場の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17 (2) 海外展開の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18 (3) 中国企業の成長に伴う影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

a. 中国内の日系企業への影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 b. アセアン内の日系企業への影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 c. 日本の産業への影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

(4) 中国企業の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 a. 独自の製品開発や先進的な生産技術の不足・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20 b. 厳しい市場競争に伴う収益力の低下・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

6. おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2

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1. はじめに

世界貿易機関(WTO)加盟を控えた 2000 年頃から、外資系企業の中国進出が一段と熱を

帯びてきた。日系、台湾系、欧米系企業が、相次いで中国に生産拠点を新設・拡充する中で、

中国は世界の生産・輸出基地としてますます存在感を高めている。

こうしたなかで、外資系企業との競争に揉まれた中国地場企業(以下中国企業)が着実に

力をつけている点は見逃せない。家庭用電気機器(以下家電)やオートバイ、パソコンなど

の分野では、外資系企業から中国国内市場のシェアを奪い、海外市場への輸出を強化してい

る企業は幾つもある。これらの企業は、全国に 800 万社あるとされる中国企業(製造業の

み)の中ではほんの一握りに過ぎないものの、WTO 加盟を契機にこうした企業がさらに飛

躍する可能性は十分にある。日本やアセアン、韓国などのアジア諸国で中国脅威論が高まっ

ている背景には、外資系企業の中国一極集中の傾向が強まっていることに加えて、中国企業

が目覚しい成長を遂げていることもある。

本稿では、90 年代後半以降存在感を高めてきた中国企業について、具体的な企業例を交

えながら、内外市場での動向や今後の展望を考察した。

2. 中国企業の形態

まず、中国企業の形態について若干説明する必要があろう。中国企業は、大きく分けると

国有企業、集団所有制企業、私営企業に分類される。

( 1 ) 国有企業

国有企業は、資産が国家の所有に帰属する企業で、国(中央政府)が直接管轄する主要国

有企業のほか、省や市・県レベルで管轄する国有企業が多数存在する。中国では近年市場経

済化が急速に進展してきたが、国有企業は依然として最も重要な経済の構成要素と位置付け

られている。

国有企業数は約 6 万社(製造業のみ)で、中国の工業企業全体の 1%に過ぎないものの、

工業生産の 28%、固定資産投資の約 5 割を占める。通信、石油、鉄鋼といった基幹産業の

分野は国有企業がほぼ独占している。ただし、郷鎮企業(農村部の企業)や民間企業、外資

系企業などの非国有セクターの発展に伴い、国有企業の生産に占める比重は低下傾向を辿っ

ている。

一口に国有企業といっても、その中身は様々である。過剰債務・人員、老朽化した設備、

資金不足、計画経済の名残から来る需要や市場の嗜好を無視した無計画な生産、地方政府か

らの経営・人事面への干渉、といったような数々の問題を抱え、苦しい状況に置かれている

企業は多い。しかし、その一方で高い競争力を持ち、中国国内で外資系企業と対等に渡り合

っている企業も数は少ないが存在する。

国の所有という形態はそのままに、所有と経営の分離が進み、地方政府からの余計な干渉

も少なく、有能な経営者の下で生産管理や人事制度等でドラスティックな改革を実施してい

る、およそ国有工場のイメージからかけ離れた企業である。

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北京大学や清華大学といった名門国立大学や社会科学院に代表される政府系シンクタン

クなどの出資によって設立された国有ハイテク企業の中には、政府の支援を受けて、パソコ

ン生産やソフトウエア開発等の情報技術(IT)分野で飛躍的な成長を遂げ、中国のハイテ

ク産業のリーダー的な役割を担う企業もある。家電の分野では、カラーテレビ大手の長虹、

康佳、TCL、エアコン大手の格力、IT 分野ではパソコンで有名な聯想(社会科学院系)、

長城(電子工業部系)、ハイテクソフト企業の北大方正(北京大学系)、などが代表的な企

業である。

( 2 ) 集団所有制企業

集団所有制企業とは、国民の一部の集団が資産を共同所有する企業であり、その中心とな

っているのが郷鎮企業である。郷鎮企業とは、農村地域に位置し、郷や鎮といった末端行政

組織1が所有・経営する企業であり、上海周辺の浙江省、江蘇省、広東省、山東省に多数存

在する。

集団所有制企業の数は 166 万社で中国の工業企業全体の 21%に相当する。工業生産の

35%、固定資産投資の 15%を占める。1 企業あたりの生産額、固定資産投資の規模は、各々

国有企業の 20 分の 1、100 分の 1 と非常に小さい。集団所有制企業の大半を占める郷鎮企

業は、80 年代のモノ不足の時代に、低い技術レベルながらも、低価格品を提供し市場シェ

アを拡大させた。また、外資系企業が委託加工方式(中国企業に生産を委託する方法)で中

国に進出する際の受け皿ともなった。しかし、90 年代に入ると、技術力で遥かに勝る外資

系企業が大挙して中国に進出し、有力な国有企業も政府の支援を受けながら競争力を向上さ

せる中で、郷鎮企業は、①非効率な経営や老朽化した設備、②資金不足、③環境汚染に対す

る批判の高まり、④地方政府による恣意的な介入などが足かせとなり、成長テンポの鈍化を

余儀なくされていった。ただし、山東省青島市の海爾(家電最大手メーカー)、広東省順徳

市の科龍(冷蔵庫大手メーカー)、美的(エアコン大手メーカー)といったように、外資系

企業との技術提携や OEM(相手先ブランドによる製造)生産などを通じて競争力を高め、

中国を代表する家電メーカーに成長した集団所有制企業もある。

( 3 ) 私営企業

私営企業とは、資産を個人が所有する形態で、従業員 8 人以上の企業を指す。従業員 7 人

以下の企業は個人企業と呼ばれ、統計上私営企業とは区別されているが、両者を合わせて民

間企業ないしは私有企業と称されることもある。中国では 70 年代末まで私営企業は存在す

ら認められていなかったが、改革開放以降、沿海部を中心に私営企業の形態が発展し、87

年に初めて憲法の中で「社会主義公有経済の補完物」として位置付けられた。さらに、99

年の憲法改正では「社会主義市場経済の重要な構成要素」に格上げされ、2001 年 7 月には、

1 中国の行政単位は、省(22)・自治区(5)・直轄市(北京、天津、上海、重慶の4市)の下に市また

は県、さらにその下に鎮と郷(農村部の末端行政単位)がある。

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江沢民総書記が私営企業家の共産党入党を容認する方針を打ち出すまでになった。国有企業

や郷鎮企業の成長が頭打ちとなる中で、目覚しい成長を遂げる私営企業は、経済成長の牽引

役として、かつ国有企業の余剰人員の受け皿として欠かせない存在になってきたためである。

私営企業と個人企業を合わせた企業数(製造業のみ)は 613 万社(99 年末)と、工業企

業全体の 77%を占めるが、従業員 100 人以上の企業は約 4 万社、1,000 人以上の企業は約

250 社に限られ、小規模企業が大半を占める。工業生産全体の 18%、固定資産投資の 14%

を占める。

私営企業は最近まで、貿易権、土地使用権、株式市場への上場、銀行融資の獲得などにお

いて、国有企業に比べて不利な状況に置かれてきた。特に設立後間もなく保有資産の乏しい

私営企業にとって、資金調達ツールの制約は事業拡大の最大のネックとなっていた。99 年

の憲法改正以降は、国有企業が独占してきた貿易権を始めとする分野で、徐々に規制緩和が

進むとともに、株式市場への上場、赤字国有企業の合併・買収なども認められるようになる

など、私営企業を取り巻く環境は劇的な変化を見せている。99 年末には浙江省温州市の私

営企業である徳力西集団が、同省杭州市の国有電機メーカーである西子集団を吸収合併する

など、私営企業の台頭ぶりを示す事例も実際に起き始めている。

私営企業の代表例には、四川省成都の新希望集団、深センの華為技術などがある。新希望

集団は、豚や鶏の養殖からスタートし中国最大の飼料メーカーに成長した私営企業の象徴的

な存在である。96 年に新希望集団など 40 の私営企業が出資して設立した中国民生銀行は、

中国初の民間銀行であり、2000 年 12 月には上海株式市場への上場を果たした。「ハイテ

ク、中小、非国有企業」向け業務を、市場戦略の中心に位置付けている。

一方の華為技術は、88 年に元人民解放軍の無線技術者数名が資金を持ち寄って始めた民

間ベンチャー企業である。通信ネットワーク機器(インターネットや携帯電話網などの基幹

部分)、デジタル通信の要となる交換機などの開発・生産を行っており、広域通信システム

やデジタル交換機の分野では、国有メーカーや外資との合弁企業を抑えて国内シェア 1 位を

誇る。全従業員数約 15,000 人の内、85%が大卒、6 割が修士または博士号を持ち、社員の

3 分の 1 が研究開発に携わる知識集約型企業の代表である。シリコンバレーやインドバンガ

ロールなどに研究機関を設けている。

3. 中国国内市場で高いシェアを誇る中国企業

中国企業は着実に力をつけ、90 年代後半に入ると家電、オートバイ、パソコンなどの分

野では、国内市場で圧倒的なシェアを占めるようになり、日系など外資系ブランドのシェア

は低下を余儀なくされてきた。

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( 1 ) 中国企業の健闘が目立つ家電製品の分野

カラーテレビ2、冷蔵庫、エアコン、洗濯機といった家電製品の生産台数は、既に日本を

凌駕している(図表1)。中国の 2000 年の生産台数は、カラーテレビが 3,936 万台、冷蔵

庫 1,279 万台、洗濯機 1,443 万台、エアコン 1,827 万台で、日本の同年の生産台数と比べる

と、カラーテレビで 13 倍、その他 3 品目でも約 3 倍に上る3。

これらの分野では、90 年代前半までは日系ブランドがローカルブランドよりも優勢で、

カラーテレビ、電子レンジでは「松下」、エアコンでは「三菱」などのブランドが、シェア

上位に名を連ねていた。当時、中国製品は粗悪品というイメージが強い中で、日系ブランド

の品質に対する信頼が厚かったこともあり、日系メーカーは所得が急拡大していた沿海部で

販売を伸ばしたためである。

しかし、96 年頃からローカルブランドがシェアを急速に伸ばし始め様相が一変した。主

要家電製品の最近のブランド別シェアを見ると、カラーテレビは康佳、長虹、TCL、冷蔵庫

は海爾と科龍、洗濯機は海爾と小天鵝、エアコンは海爾と美的、電子レンジは格蘭仕といっ

たようなローカルブランドが上位に名を連ねている(図表2)。外資系でシェア上位に顔を

出すのは、天津で電子レンジを生産している韓国 LG 電子、上海でエアコンを生産するシャ

ープ、同じく上海で電子レンジを生産する松下電器などに限られる。

図表 1 中国と日本の家電生産台数比較(2000 年)

2 カラーテレビは、通常は DVD や VTR とともにオーディオ・ヴィジュアル(AV)機器に分類されるが、

中国の主要メーカーの多くが、冷 蔵庫、エアコンなどの家電製品とテレビ双方を手掛けていることから、

ここではカラーテレビも家電に含めた。 3 日経新聞の調査によれば、世界に占める中国の製品別生産量シェアはカラーテレビ 24%、エアコン 39%、

オートバイ 46%、デスクトップパソコン 12%、DVD38%(2001 年 7 月調査)。

0 1,000 2,000 3,000 4,000

カラーテレビ

冷蔵庫

洗濯機

エアコン

(万台)

中国

日本

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図表 2 主要家電製品のブランド別シェア(99 年)

(注)全国 106 大型小売店での調査による。(資料)蒼蒼社「中国産業ハンドブック」

家電分野で売上高上位を占める企業を見てみよう(図表 3、4)。

海爾(HAIER)は、冷蔵庫、エアコン、電子レンジ、洗濯機など白物全般を扱う中国一

の家電ブランドで、山東省青島市の零細冷蔵庫工場から、年商約 400 億元(約 6,000 億円)、

従業員 3 万人の大手家電メーカーへと成長を遂げた企業である。国内に張り巡ら

された強力な販売網と手厚いアフターサービスで定評がある。

TCL4は、広東省恵州市の大手カラーテレビメーカーである。市政府管轄の国有企業であ

るが、経営に対する市政府の干渉はほとんどなく、実態は民間企業に近いと言われる。2000

年のカラーテレビ販売台数は、海外も含めて 503 万台に上り、最近はパソコン、携帯電話な

ど IT 分野への事業拡大に積極的である。

康佳(KONKA)は、79 年に深センの国有企業(華僑畜牧農場)と香港資本(港華集団)

の合弁によって設立された企業である。深セン経済特区にあり合弁企業としての優遇措置を

受けてきたが、実態は中資サイドが経営権を握る国有企業である。当初は小規模な委託加工

工場であったが、80 年代半ば以降カラーテレビ生産を本格化、外国企業の OEM 生産で急

成長を遂げ、中国の代表的なブランドの1つとなった。近年、主力のカラーテレビの著しい

値崩れと大量の在庫負担で業績が悪化、携帯電話などへの事業多角化を進めている。

長虹(CHANGHONG)は、50 年代にソ連の援助で四川省綿陽市に建設された国営軍

事用レーダー生産基地が前身、80 年代に松下電器産業からの技術導入でテレビ生産を本格

化させた。90 年代に入り値下げ戦略で生産量・シェアを大幅に拡大させ、カラーテレビの

トップブランドとなった。ただし、この数年は主力のカラーテレビの不振で業績は低迷して

いる。

このほか、広東省順徳市には、改革開放以降市政府が戦略的に家電メーカーの育成に取り

組んだことから、エアコン大手の美的(MIDEA)、冷蔵庫大手の科龍(KELON)、電子

レンジ大手の格蘭仕(GALANZ)といった大手家電メーカーが存在する。

4 TCL の社名は Telephone Communication Ltd の略。同社はもともと固定電話機などの通信機器メー

カーであった。

(%)

1位 康佳 15.9 海爾 35.7 海爾 35.0 海爾 27.0 格蘭仕 67.1

2位 長虹 13.2 科龍 12.9 小天鵝 21.6 美的 8.8 LG 12.1

3位 TCL 11.0 新飛 9.1 栄事達 10.7 シャープ 7.3 松下 5.3

電子レンジカラーTV 冷蔵庫 洗濯機 エアコン

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図表 3 中国家電メーカーの売上高上位 10 社(2000 年)

(注)1.中国家用電器協会の家電メーカー(白物家電を主とする企業)売上高ランキ

ングと、中国電子工業年鑑の電子企業上位 100 社(内家電製品メーカーのみ)

から作成。中国では TCL、康佳、長虹、海信は中国では電子企業に分類され

ている。各社のグループ全体の売上高と一致しないケースもある(TCL など)。 2.電子レンジ最大手の格蘭仕は 56.0 億元で 11 位。 (資料)中国家用電器協会、中国電子工業年鑑 2000

図表 4 中国の主要家電メーカーの概要

海爾(HAIER) TCL

本社(上場) 山東省青島市(上海A株式市場) 本社(上場) 広東省恵州市(香港株式市場)

形態 集団所有制企業 形態 国有企業(実態は民間企業に近い)

年商 約400億元(約6,000億円) 年商 約200億元(約3,000億円)

主要業種 冷蔵庫、エアコン、洗濯機など 主要業種 カラーテレビ、携帯電話、パソコン

国内市場 白物家電では中国一のブランド

農村部の需要に応えたジャガイモ

も洗える洗濯機、麺打ち機の付い

た洗濯機などのアイデア商品を

次々と開発

中国の消費者のニーズに沿った製

品開発と手厚いアフターサービス

で定評

国内市場 大手カラーテレビメーカー(2001

年上期のシェアは 19%でトップ)

パソコン、携帯電話等の IT 分野に

進出

米日韓の大手企業から幹部をスカ

ウト、最先端の経営手法の導入に積

極的

海外市場 2000年の輸出額3億ドル(24億元)

欧米、東南アジア、南米に自社ブ

ランド製品を輸出

東南アジア、中東、米国(サウス

キャロライナ州)で現地生産

米国の小型冷蔵庫市場で20%を超

すシェア

海外市場 2000年の輸出額5億ドル(40億元)

主な輸出先は東南アジア、中東、南

アフリカなど発展途上国

ベトナム、インドでカラーテレビ、

DVDプレーヤーを現地生産(両国の

カラーテレビ市場でシェア8%)

(億元)

順位 企業名 売上高 順位 企業名 売上高

1位 海爾 406.3 6位 美的 105.0

2位 TCL 132.4 7位 春蘭 93.4

3位 康佳 131.5 8位 科龍 69.6

4位 長虹 130.4 9位 小天鵝 69.0

5位 海信 106.5 10位 格力 63.4

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康佳(KONKA) 美的(MIDEA)

本社(上場) 広東省深セン市(深センA株式市場) 本社(上場) 広東省順徳市(深センA株式市場)

形態 79年に深センの国有企業(華僑畜牧

農場)と香港資本(港華集団)が 51:

49で出資

形態 集団所有制企業(順徳市北窖鎮の郷

鎮企業)

年商 約130億元(約1,900億円) 年商 約105億元(約1,500億円)

主要業種 カラーテレビ、携帯電話 主要業種 エアコン、エアコン用コンプレッサ

ー、電子レンジ、大型扇風機

国内市場 大手カラーテレビメーカー

当初は小規模な委託加工工場

80年代半ば以降カラーテレビ生産を

本格化、OEM生産で急成長

近年、主力のカラーテレビの著しい

値崩れに伴い業績悪化

テレビ事業の不振をカバーするた

め、携帯電話事業の育成に注力

国内市場 99 年に東芝のコンプレッサー工場

(国内メーカー万家楽との合弁)の

株 6 割を取得し傘下に収める

2001年10月、東芝と冷蔵庫分野にお

いて事業提携(技術、販売・市場情

報等)することで基本合意

長虹(CHANGHONG) 科龍(KELON)

本社(上場) 四川省綿陽市(上海A株式市場) 本社(上場) 広東省順徳市(香港及び深センA株

式市場)

形態 国有企業 形態 集団所有制企業(順徳市容奇鎮の郷

鎮企業)

年商 約130億元(約1,900億円) 年商 約70億元(約1,000億円)

主要業種 カラーテレビ、エアコン 主要業種 冷蔵庫、エアコン

国内市場 50年代にソ連の援助で四川省綿陽市

にできた国営軍事用レーダー生産基

地が前身

80年代に松下電器産業からの技術導

入でテレビ生産を本格化

90年代に入り値下げ戦略で生産量・

シェアを大幅に拡大させ、カラーテ

レビのトップブランドとなる

主力事業のカラーテレビに加え、エ

アコン事業にも参入

国内市場 ブランド名は「容声」

冷蔵庫市場拡大の追い風を受け成

長、冷蔵庫市場では海爾と並ぶトッ

プブランド

日系メーカーの三洋電機、シャープ

等と技術提携(三洋電機とは合弁

「広東三洋科竜」)

98年にエアコン大手の広東華宝を

吸収合併、エアコン分野にも参入

海外市場 インドネシアなど発展途上国にカラ

ーテレビ、エアコンを輸出

欧州、米国に冷蔵庫を輸出

96年にアルゼンチン市場にも進出

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格蘭仕(GALANZ) 格力(GREE)

本社(上場) 広東省順徳市(未上場) 本社(上場) 広東省珠海市(深センA株式市場)

形態 集団所有制企業 形態 集団所有制企業

年商 約56億元(約800億円) 年商 約63億元(約900億円)

主要業種 電子レンジ 主要業種 エアコン、エアコン用コンプレッサ

ー、扇風機

国内市場 年間1,500万台の電子レンジを生産

し、国内でのシェアは約6割

200社以上の海外メーカーとOEM契約を

結び、世界市場でのシェアは約 3割

国内市場 家庭用エアコン大手

300余りの協力メーカーを抱え、複

数部品メーカーを競わせることで

部品調達コストを削減

海外市場 主に米国、ドイツ、フランスなど

の欧州諸国向けにOEM製品を輸出

(売上高の約20%)

海外市場 エアコンを欧州(イタリア等)、南

米(ブラジル等)など20カ国に輸出

ブラジルに年産20万台規模のエア

コン工場設立(中国企業として初の

南米工場)

小天鵝(LITTLE SWAN) 春蘭(CHUNLAN)

本社(上場) 江蘇省無錫市(深センA株式市場) 本社(上場) 江蘇省泰州市(上海A株式市場)

形態 国有企業 形態 国有企業

年商 約70億元(約1,000億円) 年商 約90億元(約1,300億円)

主要業種 洗濯機、冷蔵庫 主要業種 エアコン

国内市場 洗濯機大手メーカー

松下電器との合弁で冷蔵庫も生産

徹底したサービス規定(「五つ星

サービス」)を販売員に課す

90年頃に大量の不良在庫を抱え経

営悪化、その後全国の有力百貨店、

家電販売店などの販売ルートを確

立し立ち直る

国内市場 エアコン大手メーカー

零細国有冷蔵設備メーカーであっ

たが、80年代後半に不採算部門から

撤退、エアコンに資源を集中し成長

傘下の研究所で新製品・技術開発

98年にオートバイ分野にも参入

海外市場 ロシアに洗濯機工場を持つ 海外市場 イタリアなどにエアコンを輸出

(資料)各社ホームページ、新聞報道、ヒアリング

( 2 ) 家電分野で中国企業の持つ強み

中国企業が家電の分野で、急速にシェアを伸ばした背景には、従来からの強みである価格

の安さに加えて、品質の改善、販売網やアフターサービスの強化、経営改革への取り組みな

どを通じて競争力を高めてきたことがある。

a . 価格の安さ

ローカルブランドの価格は中国で生産する日系メーカーのブランドより、一般に 2 割程度

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は安いと言われる。その最大の要因は、部品の安さである。日系メーカーが日系部品メーカ

ーから大半の部品を調達しているのに対し、中国企業はその調達の大半を格段に安いローカ

ル部品メーカーに拠っているためである。電子レンジを例にとると、中国の大手メーカー格

蘭仕(GALANZ)の廉価モデルは、同タイプの日系ブランド価格の約半分(約 300 元)であ

る。同社は、年間 1,500 万台の電子レンジを生産し国内でのシェアは約 6 割、世界市場でも

200 社以上の海外メーカーと OEM 契約を結んで約 3 割のシェアを持つ(図表 4)。外資系

メーカーに比べて格段に低い価格は、安い部品コストに加え、外資系企業の最新技術を自社

製品に巧みに応用し基礎的な研究開発コストを抑制することで実現している。

b . 品質の改善

中国企業は、①外国ブランドの研究と自社製品への応用、②外資系メーカー向けの OEM

生産による生産技術の吸収、③外資系メーカーとの技術提携や基幹部品の輸入による最新技

術の導入などを通じて、品質面で外資系ブランドをキャッチアップしてきた。その結果、中

国ブランド=粗悪品というイメージを払拭し、低価格と相応の品質で、日系ブランドにこだ

わらない中国一般消費者の支持を高めていった。

c . 販売網の整備

中国企業は、得意とする地域に集中的に、あるいは沿海都市部から内陸農村部まで広範に、

それぞれの特性に応じて販売網を強化し、販売促進体制を整備した。大手冷蔵庫メーカーの

科龍は、全国に冷蔵庫やエアコンの販売センターを設置するとともに、全国の百貨店やスー

パーに自社製品の販売コーナーを設け、販売員を派遣するなど、小売ネットワークの強化に

取り組んだ。内陸部市場でのシェア確保のため、四川省成都にも生産拠点を置いている。

TCLは、94 年にカラーテレビ分野に新規参入したが、当初は生産を韓国メーカーに委託し、

自らは販売網の構築に精力的に取り組むことで、その後の急成長の基盤を固めた。OEM 製

品の販売が軌道に乗った後、自社ブランド製品の研究開発を強化し、自社生産に踏み切った

(図表 4)。

d . アフターサービス体制の強化

中国の家電メーカーは、徹底したアフターサービスによって故障しやすい欠点をカバーす

る戦略を取った。例えば、大手家電メーカーの海爾は、自社製品が故障した場合に 24 時間

以内に対応し、保証期間内の故障であれば無償で新品と交換するサービスも提供し、消費者

の強い支持を獲得した。江蘇省にある洗濯機大手メーカーの小天鵝は、「5 つ星サービス」

と称する徹底した顧客向けサービスを自社の販売員に課している(図表 4)。

e . 経営改革への取り組み

欧米流経営スタイルの導入など経営の抜本的な改革も、中国企業が躍進する原動力の1つ

になった。海爾は、従業員の報酬が売上実績に応じて決まる実績重視の人事評価システムを

導入している。開発・営業両部門のスタッフの収入は、自分の関わる製品が売れて会社の収

益増に貢献すれば自動的にアップし、逆に製品が売れなければダウンする。最近ストックオ

プションを導入する中国企業が増え始めているが、TCL も業績が目標を上回ると、その割

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合に応じて子会社の新規発行株の一部が付与され、配当がボーナスとして支給される擬似ス

トックオプションを導入している。

( 3 ) パソコンとオートバイ市場

a . パソコン市場

パソコンとオートバイ市場でも、家電同様に中国企業の活躍が目立つ。近年中国パソコン

市場は目覚しい拡大を遂げており、2000 年の市場規模(販売台数)は約 700 万台、2001

年には 900 万台を超える見通しである(図表 5)。

パソコンのブランド別市場シェアを見ると、聯想(LEGEND)が 28.9%で抜きん出てい

るほか、北大方正(FOUNDER)、長城(GREAT WALL)など中国ブランドが上位を占

めている(図表 5)。市場の 9 割以上を占めるデスクトップパソコンに限れば、1~3 位を

聯想、北大方正、長城が独占し、98 年にパソコン分野に新規参入した TCL も 5 位に食い込

んでいる。ラップトップパソコンでは、これまで IBM、東芝、といった外資系ブランドが

上位を独占していたが、2000 年には聯想がトップに踊り出た。

図表 5 中国のパソコン販売台数の推移と 2000 年のブランド別シェア

(注)パソコン台数は、デスクトップとラップトップの合計。 (資料)聯想集団年報、新聞報道

聯想は、84 年に中国科学院計算機研究所の研究者 10 名ほどが始めた企業で、90 年代に

パソコン生産で急成長、97 年に国内シェアトップとなり、その後もシェアを高めている。

品質管理は主にドイツや日本から、経営スタイルは主に米国から導入しており、能力主義の

人事評価システムを採用している。本部は、中国最大のソフト開発センターで、将来のアジ

アのシリコンバレーとして期待されている北京・中関村にあり、中関村内にある大学や研究

機関と密接な関係を保つことで研究開発を強化している(図表 6)。

聯想を始め長城、北大方正、TCL などの中国企業がシェアを拡大させてきた背景には、

外国ブランドよりも安い価格、国内市場のマーケティングの強化、販売網・アフターサービ

0

100

200

300

400

500

600

700

800

95年 96 97 98 99 2000

(万台)

聯想28.9%

北大方正9.2%

IBM5.3%長城

4.6%HP3.7%

その他48.3%

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ス網の整備などがある。一方で、技術開発面では、これまでは外資系ブランドの既存技術の

応用などが主体となっており、コア技術の開発は今後の課題とされている。

図表 6 中国の主要パソコンメーカー

聯想(LEGEND) 北大方正(FOUNDER)

本社(上場) 北京市中関村(香港株式市場) 本社(上場) 北京市中関村(香港株式市場)

形態 国有企業(中国科学院系) 形態 国有企業(北京大学系)

年商 約203億元(約3,000億円) 年商 約84億元(約1,200億円)

主要業種 パソコン、電子商取引 主要業種 ソフトウエア開発、パソコン、電

子商取引

設立経緯 84年に北京市中関村の中国科学

院計算機研究所の研究者10名が

始めた企業

90年にパソコン分野に参入し急

成長

設立経緯 88年に北京大学計算機研究所(王選

教授)が開発したシステムを企業

化して設立

特筆すべき

事項

2000年のパソコン販売台数は262

万台、国内シェア28.9%でトップ

品質管理は主にドイツ・日本か

ら、経営スタイルは主に米国から

導入

能力主義の人事評価システムを

採用

特筆すべき

事項

中国で有数のハイテクソフト企業

主力製品の電子出版・印刷ソフト

は国内シェア8割、台湾、香港など

アジア諸国でも採用

パソコンの国内販売シェア第2位

典型的な産学連携で、北京大学が

生んだ研究成果を当社が実用化、

その収益で大学の研究を推進

(資料)各社ホームページ、新聞報道、ヒアリング

b . オートバイ市場

中国は年産約 1,000 万台のオートバイ生産大国であり、生産の主な担い手は、大手地場企

業、外資系企業(大手地場企業との合弁)、さらには 100 社を超える地方中小メーカーで

ある(図表 7)。オートバイ市場では、重慶市の嘉陵集団や山東省の軽騎集団といった地場

メーカーが上位シェアを占めている(図表 7、8)。大手地場企業は、ホンダやスズキとい

った日系企業からの技術導入によって、生産技術レベルの向上を図り、日系ブランドの改造

モデルを低価格で市場に相次いで投入することで、消費者の支持を得てシェアを高めてきた。

しかし、97 年頃から大手国有メーカーの相次ぐ増産と新興メーカーの参入によって、供給

過剰による値崩れが問題となってきた。その後一部の大手メーカーが減産に踏み切ったもの

の、国内市場が頭打ちとなってきたことから、業界全体の過剰生産能力は解消していない。

日系企業は、都市部の比較的豊かな階層にターゲットを絞ってハイエンド(高付加価値、

高価格)商品を提供し、ローカルブランドとの差別化を図ってきた。しかし近年、中国企業

の技術レベルが向上し、日系ブランドの改造モデルの品質が高まってきたこと、日系ブラン

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図表 7 中国のオートバイ生産台数の推移とブランド別シェア

(注)ブランド別シェアは 2001 年 1~6 月の販売台数。 (資料)中国統計年鑑、新聞報道

図表 8 中国の主要オートバイメーカー

嘉陵集団 軽騎集団

本社(上場) 四川省重慶市(上海株式市場) 本社(上場) 山東省済南市(上海株式市場)

形態 国有企業 形態 国有企業

主要業種 オートバイ及びオートバイ部品製造 主要業種 オートバイ及びオートバイ部品製造

設立経緯 元国営軍需工場(銃弾メーカー)

78年から軍民転換(軍需企業の民生品

生産への転換)政策の下、オートバイ

生産を開始

設立経緯 56年に国営自転車工場として設立

80年代にスズキの技術支援を得てスク

ーターとオートバイの生産を開始

特筆すべき

事項

80年代にホンダから技術導入

92年にはホンダと合弁企業(嘉陵本田)

設立

95年まで15年連続生産台数第1位

90年代半ば以降、他の国内メーカーの

追い上げや経営改革の遅れなどから業

績は低迷、生産台数は95年の115万台を

ピークに頭打ち

2000年以降ベトナム、インドネシア向

け輸出を大幅に拡大

特筆すべき

事項

94年にスズキと合弁企業設立

90年代に農村部をターゲットに置いた

戦略で販売を急拡大

グループ全体の生産台数は98年に160万

台を突破

90年代後半以降、南アジア、南米、アフ

リカなど発展途上国向け輸出を伸ばす

(資料)中国統計年鑑、新聞報道

0

200

400

600

800

1,000

1,200

90年 95 96 97 98 99 2000

(万

12

ドの主要市場である都市部で、交通・環境対策のためオートバイの所有制限が厳しくなり始

めたこと、などから日系メーカーを取り巻く環境は厳しさを増している。

嘉陵7.6%

銭江7.2%

軽騎6.2%

海南新大州5.7%

重慶力帆轟達

5.5%その他67.8%

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4. 海外進出を図る中国企業

( 1 ) 家電メーカーの海外進出

99 年頃から国内で外資系企業との競争に揉まれ、力を付けてきた中国企業が、海外展開

を進めている。冷蔵庫、エアコン、洗濯機といった家電製品やオートバイなどの分野で、東

南アジア、中東、南米などの発展途上国や欧米市場向け輸出が増えているほか、海外での現

地生産に踏み切る企業も見受けられる。

中国企業の海外進出が伸びた主な要因として 3 点挙げられる。

第 1 に、価格の安さと品質の向上である。格力や春蘭のエアコンは、イタリアを始めとす

る欧州諸国でシェアを高めている。また、海爾の冷蔵庫は、環境対応面で優れた性能が評価

されドイツで政府の奨励商品に指定され、輸出が拡大している。このように欧米市場で中国

企業の製品が浸透しているのは、製品の安さだけでなく、品質面でも一定の評価を得ている

証であろう。

第 2 に、供給過剰に伴う価格引き下げ競争の激化で、国内の経営環境が厳しさを増してき

たことである。例えばカラーテレビの国内販売価格は、相次ぐ価格引き下げ競争によって、

この 5 年間に 60~80%下落し、29 型以下のカラーテレビは採算割れ状態とも言われている。

こうしたなかで、中国企業は国内在庫の処分や新たな市場開拓のために、海外市場の開拓に

ウエートを置き始めた。

第 3 に、中国政府が地場企業の海外展開を奨励・支援していることがある。日系商社の話

によれば、中東地域5では中国の対外経済貿易合作部(MOFTEC)が現地市場情報の収集、

製品ニーズの発掘などを通じて、中国製品の販売促進の一翼を担っている。MOFTEC は、

春蘭、長虹、海信、小天鵝などの家電メーカー、嘉陵、軽騎といったオートバイメーカーな

どを、ローカルブランド輸出の重点企業に挙げている。さらに、中国とアフリカとの間で、

投資・貿易促進のためのフォーラムを催すなど、アフリカ市場の開拓でもイニシアティブを

取っている。中央政府のみならず、地方政府も地元企業の輸出促進に力を注いでおり、2001

年 5 月には、広東省政府と同省の 15 社(TCL、美的、格力など)がインドムンバイを訪れ、

現地企業との間でエアコン販売やオートバイ組立て工場設立などの商談会を開いた。さらに、

2001 年 6 月には広東省・省長を団長とする貿易代表団が、アフリカ市場開拓を目的に広東

省企業 100 社余りを引き連れて南アフリカを訪問した。

( 2 ) 主要な企業の海外進出例

a . 海爾のケース

海爾は、欧米など先進国市場の開拓に重点を置きつつ、中東や南米、東南アジアといった

発展途上国向け輸出も拡大させ、2000 年の輸出額は 2.8 億ドルに上った。輸出品目の構成

は、冷蔵庫とエアコンが各 3~4 割、洗濯機が約 2 割となっており、特に 2000 年のエアコ

5 中東のドバイ(アラブ首長国連邦)には、海爾や格力など主要企業の家電製品を陳列する中国家電製品

展示センターがあり、中東、アフリカ、ソ連、東欧など周辺諸国への製品販売拠点となっている模様。

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ン輸出は、前年比 175%増と目覚しい伸びを見せた。冷蔵庫を例に取ると、同社は 2000 年

に 280 万台を生産し、内 80 万台を輸出した。さらに、カラーテレビ分野では、価格競争が

厳しい国内市場を避け、主に高性能製品を海外市場で販売する戦略を採っている。完成品の

みならず、テレビ関連部品もマレーシア向けに輸出されている。

一方海外生産拠点は、96 年~98 年にインドネシア、フィリピン、マレーシア、イランに

現地企業との合弁で進出、主に冷蔵庫、洗濯機を生産している。同社はこれらの拠点で技術

を提供し、主に中国、日本、韓国などから輸入した部品を組み立てるノックダウン方式をと

っている。2000 年には米国サウスキャロライナ州に進出、現地工場で年間約 20 万台の冷

蔵庫を生産している。日系や台湾系などの外資系企業が相次いで自国内の生産拠点を中国に

シフトするなかで、中国企業がコストの高い米国に生産拠点を設けたことから、米国や日本

など先進国でもこの進出は注目を集めた。同社は米国進出の狙いとして、①米国の対中貿易

赤字拡大に伴う輸入障壁や非関税障壁を回避するため、②品質や製品開発のレベルアップ、

③グローバル企業になるためのノウハウ獲得などを挙げている。米国市場では、ウォルマー

トを始め約 6,000 の取扱小売ネットワークを持ち、ホテルや学生寮向けの小型冷蔵庫(200

リッター以下)市場では 20%を超すシェアを確保している。また、米国で寮生活を過ごす

学生向けにコンパクト冷蔵庫デスク(冷蔵庫と机の組み合わせ)を開発し注目を集めた。同

社は米国の家電業界誌で 2001 年 2 月、世界第 9 位の家電メーカーにランクされた。

b . TCL のケース

TCL もグローバル化に積極的な企業の1つで、勢力図の固まっていない東南アジア、中

東、南アフリカなど未開拓市場をターゲットに海外展開を加速している。2000 年の輸出額

は 5.1 億ドル、2001 年 1~6 月期も前年同期比 44%増の 3.0 億ドルと拡大基調を続けてい

る。主力輸出製品であるカラーテレビの 2000 年の海外販売台数は前年比 77%増の 70 万台

に上り、2001 年は 100 万台を目指している。また、最近は独自に開発した携帯端末の輸出

にも力を入れている。これは携帯電話と携帯情報端末を一体化した手のひらサイズの製品で、

ネット接続、システム手帳、辞書、ゲームなどの複数機能を持つものである。

現地生産拠点としては、ベトナムにカラーテレビ工場、インドに電話交換機と DVD プレ

ーヤー(以下 DVD)の生産工場を持つ。ベトナムでは 2000 年 11 月に現地工場を買収し、

カラーテレビ、DVD、VCD(ビデオ CD)プレーヤーの現地生産を本格化させた。日系や

韓国系ブランドに比べて 2~3 割安い価格設定で販売を伸ばし、ベトナムのカラーテレビ市

場では 8%以上のシェアを確保している模様である。TCL のベトナム進出は、AFTA(アセ

アン自由貿易地域)成立以降、人件費の安いベトナムをアセアン諸国向けの輸出基地とする

ことも視野に入れている。中国からインドネシアへのカラーテレビ輸出には約 50%の関税

が掛かるが、ベトナムから輸出すれば現状 30%、将来はさらに引き下げられることが予想

されるためである。インドでは現地企業と合弁で事業を拡大、カラーテレビ市場ではシェア

を約 8%に高めている。

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c . その他のケース

エアコン大手の格力はイタリアなど欧州諸国向けの輸出に加え、ブラジルに年産 20 万台

規模のエアコン工場を構えている(図表 4)。海爾と同じ山東省青島市を拠点とした大手家

電メーカーの 1 つである海信(HISENSE)も、サンパウロに子会社を設けブラジル市場の

開拓を強化している。海信の経営幹部はブラジル進出の主なメリットとして、中国と南米の

季節の違いによる補完的な効果、すなわち中国が冬の時期にブラジルではエアコンのピーク

シーズンである夏を迎えることから、エアコンメーカーの生産・販売の安定化に資すること

を挙げている。

( 3 ) 急増する中国の家電輸出と日系メーカーへの影響

以上のような地場企業の積極的な輸出拡大などを背景に、中国の家電輸出は 2000 年に急

拡大を見せた(図表 9)。主な製品の輸出台数6を見ると、カラーテレビが 1,033 万台、冷

蔵庫が 289 万台、洗濯機が 101 万台、エアコンが 388 万台で、いずれも 99 年に比べて著し

く増加した7。これらの輸出台数の生産台数に占める割合は、カラーテレビ、冷蔵庫、エア

コンで 20%を超えている。

図表 9 中国の主な家電製品の輸出台数

0 200 400 600 800 1,000 1,200

カラーテレビ

冷蔵庫

洗濯機

エアコン

(万台)

2000年

99年

(資料)中国海関統計

2000 年のエアコン輸出の主な相手先を見ると、格力や春蘭が輸出を拡大させているイタ

リア向けが 42 万台と、米国向け(119 万台)に次いで多い。主な中国家電メーカーが市場

開拓を進める発展途上国向けでも、インドネシア(13 万台)、トルコ(9 万台)、アルゼ

6 輸出台数には、①外資系企業の中国生産拠点からの輸出、②中国企業の OEM 生産、③中国企業の自社

ブランド製品の輸出を含む。それぞれの構成比は明らかにされていない。 7 2000 年の中国の家電輸入台数は、カラーテレビ 8.9 万台、冷蔵庫 0.7 万台、洗濯機 3.5 万台、エアコン

3.5 万台にとどまる。

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ンチン(7 万台)、ブラジル(5 万台)向け輸出が顕著な伸びを見せている。

中国家電メーカーの輸出や現地生産の拡大は、アセアン諸国の日系メーカーにも影響を与

えている。インドネシアでは、長虹や康佳など中国ブランドのカラーテレビが、日系ブラン

ドよりも 2~3 割安い低価格を武器に、急速にシェアを高め始めた。中国のインドネシア向

けカラーテレビ輸出台数は 2000 年に 87 万台に達し、長虹は現地生産も行っている。

インドネシアの日系テレビメーカーは、従来マレーシアの日系部品メーカーから調達して

いたブラウン管を低価格の韓国メーカー製に切り換え、さらに一層のコストダウンに向け、

汎用部品の中国からの調達も検討している。マレーシアの日系カラーテレビメーカーでも、

部品の調達先を見直す動きが見られる。

( 4 ) 急増する中国製オートバイ輸出

オートバイ分野では、2000 年に中国地場のオートバイメーカーが輸出攻勢を掛けたこと

から、輸出台数が 99 年の 8 倍に相当する 199 万台に急増した(図表 10)。特にベトナム

とインドネシア向け輸出が激増し、日系オートバイメーカーからシェアを奪っている。

中国のベトナム向け輸出は、オートバイ及び関連部品の輸出急増を背景に、2000 年に著

しい伸びを見せた(図表 11)。特にオートバイ輸出は、99 年の 9 万台から 2000 年には 123

万台に激増、2000 年のベトナム向け輸出総額のうちオートバイだけで 27%を占めた。ベト

ナムの貿易統計で見ても、輸入総額のうち中国の占める割合は、98 年の 3.5%から 2000 年

には 9.3%に上昇し、中国への輸入依存度が急速に高まってきた。2001 年に入っても中国

のベトナム向け輸出は、オートバイを中心に増勢を維持している。

ベトナムでは、元々日系メーカーがオートバイ市場で圧倒的なシェアを占めていたが、

2000 年に中国からのオートバイ輸入が激増したことから様相が一変した。中国製オートバ

イの販売台数は 99 年の 6 万台から 2000 年には 120 万台に急増、中国製の販売シェアは 99

年の 12%から 66%に跳ね上がった(オートバイ市場は 50 万台から 180 万台に増加)。中

国ブランドは従来の日系ブランドに比べて性能面では劣るものの、走行に支障はなく、価格

は約半分~3 分の 1 と格段に安いことから急速に普及した。ベトナムでは完成車の輸入が制

限されていることから、中国製オートバイの多くは、完成品一歩手前の状態で部品として輸

入され、現地でノックダウン方式によって組み立てられている。

インドネシアでも、中国産オートバイが急速に普及してきた。中国のインドネシア向けオ

ートバイ輸出台数は、99 年の 2 万台から 2000 年には 43 万台に急増した。中国からの輸入

に加えて、中国企業と組んだ現地企業による合弁生産も始まっている。中国ブランドの価格

は日系ブランドに比べて総じて 20~30%安い。

ベトナムやインドネシアの日系オートバイメーカーは、安価な中国製オートバイの流入に

よって販売シェアを急速に落しており、価格引き下げによる対応を余儀なくされている。

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図表 10 中国のオートバイ輸出台数の推移

図表 11 中国のベトナム向け輸出

0

5

10

15

20

25

98年 99 2000 2001

-40

-20

0

20

40

60

1~6月

(億ドル) (%)

前年(同期)比(右目盛)

(資料)中国海関統計

5. 中国企業の展望と課題

( 1 ) 国内市場の展望

以上で述べた家電やオートバイ、パソコンなどの組立て産業の分野では、中国企業が販売

網やアフターサービス、価格競争力、品質の向上を背景に、今後も高いシェアを維持する公

算が高い。WTO 加盟以降、関税が引き下げられ輸入品との競合は増える。しかし、これら

の分野では従来も中国に進出した外資系メーカーや密輸品などとの厳しい競争にさらされ

てきたにもかかわらず、中国企業がシェアを高めてきた。WTO 加盟によって競争が激化し

た場合、体力のない地場中小メーカーの倒産は避けられないとしても、シェア上位の企業が

0

50

100

150

200

90年 95 96 97 98 99 2000

(万台)

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甚大な影響を受けるとは考えにくい。

今後注目されるのは、モトローラ、エリクソン、ノキア、シーメンスといった外資系ブラ

ンドが圧倒的なシェアを占めている携帯電話の分野である(図表 12)。中国ブランドのシ

ェアは、新聞報道によれば、海爾や聯想を含む地場携帯メーカー10 数社を合わせても約

10%に過ぎない。こうしたなかで、地場の携帯電話メーカーは、外資ブランドへの対抗策

として業界団体である「国産手機企業首脳論壇」を結成した。部品の一括調達や共同研究、

販売網の共有などの分野で連携することで、コスト削減による競争力の強化とシェア拡大を

狙ったものである。

中国の携帯電話市場は世界で最も有望な市場の1つである。携帯電話利用者数は 2001 年

に 1 億人を超え、2005 年には 3 億人に迫るという見通しもある(図表 12)。地場メーカー

は、デザインや革新的な技術面では外資系に劣後しているものの、企業間の連携、家電メー

カーの既存販売網の活用、外資ブランド製品の研究による技術面でのキャッチアップなどを

通じて、今後急速なシェア拡大を図る余地はある。

このほか、中国企業は電子部品や素材など川上の分野でも生産技術レベルを高めている。

現状は汎用部品や低品質の素材が中心であるが、将来中国企業が技術レベルに磨きを掛けて

いけば、これまで外資系企業が席巻してきた半導体や集積回路(IC)等のハイテク電子部

品や高品質の鉄鋼・石油化学・繊維素材などの分野でも、中国企業と外資系企業との競合が

強まる可能性もあろう。

図表 12 中国の携帯電話市場の規模とブランド別シェア

(注)2001 年の値は信息産業部の予測。ブランド別シェアは 2000 年(新聞報道ベース) (資料)中国電子工業年鑑、人民日報など

( 2 ) 海外展開の展望

一方、中国企業の輸出や海外での現地生産は、政府による海外進出の奨励・支援や中国企

業の輸出拡大戦略などを背景に、今後も拡大基調が続くと予想される。

ベトナム、インドネシア、インドを始めとする東南アジア、中東、アフリカ、南米といっ

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

96年 97 98 99 2000 2001

(万台)

予測

モトローラ30%

ノキア27%

エリクソン14%

その他外資系

19%

地場10%

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た発展途上国市場では、日本ブランドになかなか手が届かない消費者層をターゲットに、低

価格で品質の向上が目覚しい中国製品がシェアを急速に高めていく可能性があろう。今後は、

中国国内市場と同様に強力な販売網ときめ細かなアフターサービスを構築することが、消費

者の信頼確保と一層のシェア拡大のカギとなろう。

ハイテク製品の 1 つであるデジタル電話交換機の分野においても、中国企業による輸出が

始まっている点は注目に値する。民間ベンチャー企業の雄である華為技術と国有企業の中興

新通信設備(ZTZ Telecom)は、中国のデジタル電話交換機市場で、外資系合弁企業を抑え

て上位シェアを確保しており、加えて東南アジアやアフリカなどの発展途上国からデジタル

電話交換システムなどを受注し輸出を拡大している。

( 3 ) 中国企業の成長に伴う影響

a . 中国内の日系企業への影響

中国で国内販売を目指す日系企業にとって、欧米系や韓国系、台湾系など外資系同士の競

合に加え、外資の技術を短期間で吸収し低価格品を市場に大量に供給してくる中国企業の出

現で、中国国内市場での販売競争は一段と厳しさを増すことになろう。さらに、供給力が需

要の伸びを大幅に上回る結果、製品価格の値崩れが深刻化し、投資回収計画に狂いが生じる

リスクもあろう。この数年対中シフトを加速させている日系中小部品メーカーにとっても、

香港系、台湾系、韓国系などの外資系に加えて、地場部品メーカーの急成長は脅威となろう。

納入先のセットメーカーの要請で中国に進出したとしても、品質と価格次第では、将来他の

外資系や中国系部品メーカーに取引を奪われる可能性は十分にある。今後は系列を離れて、

自社の販売先を系列のライバル会社や異業種に広げていくなどの努力が必要となろう。

b . アセアン内の日系企業への影響

海外市場への影響の中で、最も大きいとみられるのは、中国と産業の競合度が高いタイ、

マレーシア、インドネシア、フィリピンのアセアン 4 か国への影響である。低価格の中国製

品のアセアン市場への流入は、家電、オートバイ、さらには DVD プレーヤーなどのオーデ

ィオ機器など多岐にわたる。中国製品が市場に浸透すれば、外資系企業を含む現地産業の生

産や価格に影響を及ぼす。現地の日系メーカーも、①部品調達先を日系下請けメーカーから

割安な韓国や中国系部品に切り替える、②価格を大幅に引き下げる、③デザインや品質面で

差別化を図るなどの対応が不可欠となろう。

c . 日本の産業への影響

日本と中国の産業の競合度はアセアンと中国との関係に比べると格段に低いことから、中

国企業の成長による日本市場への直接的な影響はさほど大きくないとみられる。東南アジア

などの発展途上国市場とは異なり、成熟市場でありかつ日本ブランドが圧倒的な強さを誇る

日本市場では、中国のローカルブランドの進出は容易ではないからである。

しかし、中国企業と中国で生産する外資系企業とを合わせた中国の産業全体が日本の産業

に及ぼす影響は、今後益々強まる公算が高い(図表 13)。①中国に進出した日系企業が日

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本に製品を持ち帰る「逆輸入」の増加、②日本企業が日本の市場に適した商品を企画し、中

国の工場や農家に発注、製品を日本に持ち込む「開発輸入」(アパレル、野菜、冷凍食品な

ど)の増加、③中国の家電メーカーへの OEM 委託の増加、などを主因に、中国から日本へ

の製品輸入は最近急増している。中国企業が得意分野を広げ、外資系企業の対中投資が、従

来の低付加価値製品主体から高付加価値製品にまで及ぶに従い、日本の産業が中国の産業と

競合する分野は次第に拡大し、結果として国内産業の競争力の低下や空洞化が一段と進むこ

とも十分に考えられる(図表 13)。

図表 13 中国企業、中国進出外資系企業、日本企業の競争力保持分野イメージ図

(注)調査室香港駐在によるイメージ図

( 4 ) 中国企業の課題

a . 独自の製品開発や先進的な生産技術の不足

中国企業は、外資系企業の最新技術の自社製品への応用(外国ブランドの改良、あるいは

違法とも言えるコピー)に重点を置くことで急成長を遂げてきた。しかし、独自の製品開発

や先進的な生産技術の面で、外資系企業に大きく遅れをとっている。ある地場エアコンメー

カーは「中国ブランドの品質は向上したが、依然として日系ブランドの改良レベルを脱して

おらず、自社が一から新しい製品を生み出す技術力があるとは言えない」と指摘している。

2000 年のカラーテレビ輸入台数は 10 万台に過ぎないが、テレビのブラウン管の輸入台数

は 954 万台に上る。中国国内にもブラウン管メーカーはあるが、大型・高性能のブラウン

管は主に日本や韓国からの輸入に依存している。パソコン分野でも地場企業がシェアを高め

ているが、集積回路(IC)等の基幹部品の大半は先進国からの輸入品である。外資系携帯

電話メーカーによれば、中国の IC は数量ベースで 8 割以上、金額ベースで 9 割以上を輸入

衣類・雑貨

地場企業

外資系企業中国の産業

日本の産業

家電

オートバイ

パソコン半導体

自動車

最先端部品

携帯電話

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に依存しているという。

こうしたなかで、一部の有力な中国企業は最近、研究開発費の大幅な拡大、米国留学帰り

の技術者の採用などを通じて R&D を強化し始めている。パソコン市場でシェアトップの聯

想は、研究開発費を 2000 年の 8.5 億元から 2003 年には 18 億元にまで高め、コア技術の開

発に重点を置く方針である。

国内市場を席巻したローカルブランドが、海外市場においても知名度を高めるためには、

R&D を強化し、外国ブランドの改良や模倣ではなく、独自の技術やデザインを競い合う動

きが中国企業の間により浸透していくことが必要となろう。

b . 厳しい市場競争に伴う収益力の低下

中国では、多くの製品分野で供給過剰が深刻化し、2001 年下期に主要商品 603 品目のう

ち 500 品目が供給過剰となっている(図表 14)。既存メーカーが生産能力を拡大させる一

方で、新規参入も相次いだためである。

図表 14 主な供給過剰商品と需給均衡商品

供給過剰商品(5 0 0 品目) 需給均衡商品(103 品目)

2 1 型・2 5 型カラーテレビ 冷蔵庫(1 ドア) 洗濯機(2漕式、汎用型全自動) エアコン(窓設置、室外機一体型) 電子レンジ デスクトップパソコン 国産・輸入オートバイ カセットテープレコーダー 電話機、携帯電話機 国産カメラ など

29 型・35 型カラーテレビ 冷蔵庫(2 ドア以上) 洗濯機(ドラム式全自動) エアコン(壁掛け、室外機分離型) ノートブックパソコン DVDプレーヤー 輸入カメラ など

(注)本報告において、603 品目中供給不足商品はなし。

(資料)中国国家経済貿易委員会「2001 年下半年主要商品供給状況分析報告」

カラーテレビの国内需要は約 2,000 万台に対して、生産能力は 4,000 万台に上る。各テレ

ビメーカーは、市場の拡大を見込んで生産能力を闇雲に拡大させたが、実際の市場拡大ペー

スは予想を下回り、大幅な生産能力過剰に陥っている。康佳が 2001 年中間決算発表の際に

明らかにしたカラーテレビ在庫台数は 60 万台であり、中国全体の在庫台数は数百万台に上

るとみられる。2000 年の中国の統計によれば、カラーテレビ生産台数 3,936 万台に対して、

輸出台数 1,033 万台と国内販売台数約 2,000 万台(中国政府機関による国内需要の推定規

模)を合わせても約 3,000 万台にとどまり、1 年間に売れ残ったカラーテレビの在庫台数は

約 900 万台に上ることになる。

エアコンと冷蔵庫についても、国内需要約 1,000 万台に対して、生産能力は 2,000 万台に

達する。最近では市場が急拡大する携帯電話でも、圧倒的なシェアを誇る欧米メーカーに加

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え、サムソンや LG といった韓国メーカーや地場メーカーの相次ぐ参入によって、2001 年

下期には供給過剰感が出始めている。

こうしたなかで、中国の家電メーカーは熾烈な価格引き下げ競争を繰り広げており、在庫

負担にマージンの低下があいまって、赤字に転落するケースが出始めている。中国信息産業

部(情報産業部)の曲維枝副部長はカラーテレビの価格引き下げ競争の激化に対して、「テ

レビ業界は、長期にわたる供給過剰の結果、構造調整を進めなければ崩壊の危機に直面する

懸念がある」と述べるとともに、事態を改善するために、メーカーに対して製品の多様化、

デジタル技術の導入、海外市場の開拓・拡大を促している。今後は中国の有力企業の中でも、

①不採算部門からの思い切った撤退、②収益力・競争力のあるコアの事業分野への集中、③

過当競争に巻き込まれないような独自の製品開発力の強化、などに取り組み一段と競争力を

高める企業と、そうでない企業との間で、優勝劣敗の構図がはっきりしてくる可能性もある。

6. おわりに

日系企業の対中進出は 2000 年以降再び加速し始めている。中国の WTO 加盟後のビジネ

スチャンス拡大をにらんだ動きに加え、日本国内の経営不振に伴う事業再編の一環として中

国の生産拠点を拡充する動きが強まり、それに呼応して部品メーカーの対中進出も急増して

いるためである。この結果、日系企業と中国企業との関わりは、従来と比べて格段に増えて

きた。では、日系企業は、成長目覚しい中国企業と今後どうやって向き合っていくべきであ

ろうか。

第 1 に、中国企業との競合が必至のローエンド(低付加価値、低価格)製品については中

国企業への生産委託を拡大し、日本企業は最先端のキーデバイスやデジタル家電に代表され

る高付加価値製品の研究開発・企画・生産などに経営資源を集中させることが選択肢の1つ

となろう(図表 13)。

第 2 に、日系部品メーカー主体の部品調達先を、台湾系企業や中国企業などの非日系部品

メーカーにも広げ、中国企業との製造コストの差を縮めていくことである。日系部品メーカ

ーに加えて、台湾系、香港系、中国地場系の部品メーカーが多数存在する広東省の珠江デル

タでは、系列や過去の取引関係を超えて、品質と価格次第で部品調達先を決める日系企業が

増え始めている。中国ブランドの流入が急増するアセアン市場でも、日系企業は競合する中

国ブランドとの価格差を縮めるために、中国ローカル部品の導入などを通じて製造コストを

引き下げる努力が必要となろう。

第 3 に、中国企業との間で広範な提携関係を結び、技術協力や基幹部品を日本企業から提

供する一方で、中国企業の販売網を活用して、中国市場での内販拡大を図ることも肝要であ

ろう。

中国企業と如何にして巧く競合・共存していくか。それは中国に進出する日系企業にとっ

て、今後の重要な課題の1つとなっている。

以上

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方正、長城、華為のホームページ

・TCL、聯想、長城、深セン市亜美達通訊設備有限公司(華為技術の関連企業の1つ)、中

関村科技園区管理委員会との面談

・日経新聞、信報、South China Morning Post、China Daily、The Asian Wall Street

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