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10 国語教室 第 108 号 2018 年 10月 便西姿29 調11 実用的な文章を「書く」 特集1: ふくらむ! 新しい授業のイメージ 使〈第1問の概要〉ある高校の部活動に関する生徒会規約と、 生徒会部活動委員会の執行部会の話し合いの様子(【会話 文】)、および執行部会で参照された【資料①〜③】を示し、 条件付きの記述式問題に答えさせる設問です。 平成29年度試行調査より 問1 傍線部「当該年度新設するために必要、申 請時条件手続とあるが、森さんが新聞せるべ 条件手続きはどのようなことか。50字以内(句 読点)。 【生徒会部活動規約(抜粋) 【会話文(抜粋)】 第3章 部の新設・休部・廃部 第12条 部の新設は、同好会として3年以上活動している ことを条件とする。 第13条 条件を満たし、部として新設を希望する同好会は、 当該年度の4月第2週までに、所定の様式に必要 事項を記入し、生徒会部活動委員会に提出するこ ととする。なお、提出期限に遅れた場合、部の新 設は次年度以降とする。 第14条 部の新設には、生徒総会において出席者の過半数 の賛成を必要とする。 第15条 部員数が5名未満であり、その活動も不活発な状 態が1年以上続いたと認められる場合、生徒会部 活動委員会において審議の上、休部とする。 第16条 休部の状態が2年以上続いた場合、生徒総会の議 決を経た後、廃部とする。 (以下略) 島崎 執行部会を始めましょう。今日の執行部会では、生 徒会部活動委員会に提出する議題について検討しま す。(略)では、森さんから、提出したほうがよいと考 える議題について説明をお願いします。 はい。では、【資料①】の中から、部活動委員会に関 わりそうな議題を選ぶと、まず 「ダンス部の設立」 に なりますね。 島崎 それは……、議題にならないのではないでしょうか。 ええっ、なぜですか。 島崎 現在活動中の同好会は、「軽音楽同好会」だけだから です。「ダンス部」の設立希望があるのなら、規約どお りに進める必要があります。 ああ、そうでした。うっかりしていました。では、 この件への回答になるように、来月発行の『青原高校 新聞』の 「生徒会から」 のコーナーに、当該年度に部 を新設するために必要な、申請時の条件と手続きを、 分かりやすく載せておきます。 (以下略)

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10国語教室 第108号 2018年10月

■はじめに

 「文学、教養の軽視だ」……そんな声が聞

こえてくるかもしれない、今回の学習指導

要領の「大改訂」である。特に、各領域に

おける授業時間数が「内容の取扱い」に明

示されたことにより、現在多くの学校で「便

宜上」区分けして実施されている、「国語総

合」の「現代文」「古文」「漢文」といった

授業展開は事実上不可能になった。そして、

特に「現代の国語」の中で、実用的な文章

をはじめとした「実社会」の存在が強く意

識されるため、今までの「定番教材」がど

う扱われていくのか、不安を感じる向きも

少なくはないだろう。「『羅生門』や『水の

東西』すら読んだことがない高校生を、大

量に世に送り出すのか?」というつぶやき

もまた、聞こえてきそうである。

 

けれども、私たち国語科教員は、今まで

自分たちが歩いてきた道を、ここで一度、

振り返らなければならないのではないか。

今回、「⑵科目構成の改善」の中には、これ

までの国語の授業では「話合いや論述など

の『話すこと・聞くこと』、『書くこと』の

領域の学習が十分に行われていない」と指

摘されている。そして、こうした指摘は、

決して実感のないものではないだろう。「文

化祭の出し物を決めるのに、皆黙りこんで

て、時間ばかりかかって……」と、若い担

任が頭を抱えている姿は、そう珍しいもの

ではない。また、最も時間をかけられてき

たであろう「読むこと」に関わる内容も、

教材を離れた様々な場面でも役立つ形で、

それを身につけることができていたかどう

か。「設問が読めないと問題は解けないよ」

とは、同僚の数学教員の言葉である。

■実用的な文章を「書く」指導

 「解説」の中には、情報を広く収集するた

め「フィールドワークを実施」することな

どが示されているが、ここでは、まず情報

収集の入門編として、大学入試センターの

「平成29年度試行調査」第一問を素材とし

て、授業展開を考えてみたい。「問一」の

「当該年度に部を新設するために必要な、申

請時の条件と手続き」を学校新聞の記事の

形にまとめた通知文を書く活動である。

○目標 「現代の国語」B書くこと

ア 

目的や意図に応じて、実社会の中から

適切な題材を決め、集めた情報の妥当性や

信頼性を吟味して、伝えたいことを明確に

すること。

○言語活動

イ 

読み手が必要とする情報に応じて手順

書や紹介文などを書いたり、書式を踏まえ

て案内文や通知文などを書いたりする活

動。

○単元計画(全3時)

第1時

①設問から、この通知文の「目的や意図」

を整理する。

 「ダンス部の設立」を求めたクラス決議に

内うち

田だ

浩ひろ

文ふみ

岡山県立林野高等学校

実用的な文章を「書く」

私が考える 

現代の国語

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11 実用的な文章を「書く」

特集1:ふくらむ! 新しい授業のイメージ

対する生徒会からの回答を、学校新聞の記

事の形で示そうとするものである。

②読み手が必要とする情報を整理する。

 

ここでは、正答例として示されている情

報だけでなく、それに加えて「要望に対す

る回答」および「判断の根拠」等の、いく

つかの情報を示す必要があることに気付か

せる。

第2時

①新聞の、「通知」の書式を整理する。

 

通知記事の「タイトル」は、どのような

表現がなされているか、なぜそのような表

現が用いられるのか。常体/敬体、箇条書

きの使用など。複数の記事を参照して確認

する。

②実際に通知文を書く。

 

レイアウトを含めて、新聞記事の形で通

知文を作成する。実用的な文章である以上、

伝えたい内容を伝えたい相手に確実に届け

ることができる、ということは当然である

が、生徒会新聞の記事という形で示すこと

にも留意する。つまり、まず読み手の目を

引くことが重要であるし、あまりにも直截

〈第1問の概要〉ある高校の部活動に関する生徒会規約と、生徒会部活動委員会の執行部会の話し合いの様子(【会話文】)、および執行部会で参照された【資料①〜③】を示し、条件付きの記述式問題に答えさせる設問です。

平成29年度試行調査より

問1 傍線部「当該年度に部を新設するために必要な、申請時の条件と手続き」とあるが、森さんが新聞に載せるべき条件と手続きはどのようなことか。50字以内で書け(句読点を含む)。

【生徒会部活動規約(抜粋)】

【会話文(抜粋)】

第3章 部の新設・休部・廃部第12条 部の新設は、同好会として3年以上活動している

ことを条件とする。第13条 条件を満たし、部として新設を希望する同好会は、

当該年度の4月第2週までに、所定の様式に必要事項を記入し、生徒会部活動委員会に提出することとする。なお、提出期限に遅れた場合、部の新設は次年度以降とする。

第14条 部の新設には、生徒総会において出席者の過半数の賛成を必要とする。

第15条 部員数が5名未満であり、その活動も不活発な状態が1年以上続いたと認められる場合、生徒会部活動委員会において審議の上、休部とする。

第16条 休部の状態が2年以上続いた場合、生徒総会の議決を経た後、廃部とする。

(以下略)

島崎 執行部会を始めましょう。今日の執行部会では、生徒会部活動委員会に提出する議題について検討します。(略)では、森さんから、提出したほうがよいと考える議題について説明をお願いします。

森  はい。では、【資料①】の中から、部活動委員会に関わりそうな議題を選ぶと、まず 「ダンス部の設立」 になりますね。

島崎 それは……、議題にならないのではないでしょうか。森  ええっ、なぜですか。島崎 現在活動中の同好会は、「軽音楽同好会」 だけだから

です。「ダンス部」 の設立希望があるのなら、規約どおりに進める必要があります。

森  ああ、そうでした。うっかりしていました。では、この件への回答になるように、来月発行の『青原高校新聞』の 「生徒会から」 のコーナーに、当該年度に部を新設するために必要な、申請時の条件と手続きを、分かりやすく載せておきます。

(以下略)

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12国語教室 第108号 2018年10月

的な言い方になってしまうと、読み手の心

証を害してしまい、かえってうまく伝わら

ないことがある、ということにも気付かせ

たい。

第3時

①通知文を評価するルーブリックを作成する。

 

相互評価の際の指標にするとともに、こ

の単元の目標を再確認し、振り返りの手立

てにする。第2時の②の段階でルーブリッ

クを示しておくことも考えられるが、今回

は再修正の場面を用意したので、リフレク

ションの役割を持たせるように位置づけて

みた。

②相互評価を行う。

 

印象批評に終わらないように、そのよう

に評価した「根拠」を示す。

③相互評価の内容を踏まえて修正を加える。

 

活動の形態としては、個人ごとであって

もグループでの取り組みであっても、どち

らでも設計はできると思う。相互評価の場

面を考えると、第3時②まではグループで、

③を個人の活動として取り組ませることが

スムーズかもしれない。

■まとめにかえて

 

今回の「生徒会規約」のように、実用文

の中には、様々な場面で必要とされる多様

な情報が含まれているものがある。まして、

フィールドワークで得られる資料には、価

値の高低も含めて、雑多な情報が目の前に

現れるだろう。このように、実社会の中で

流通している膨大な情報の中から、今自分

が必要とするものは何かを判断し、それを

適切な形でピックアップしていくこと(情

報の妥当性や信頼性を検証すること)が、

「現代の国語」で求められている力の一つで

あるならば、テクストの中のどこに何が書

いてあるのかを大きく摑む、という、「情報

を俯瞰する能力」がまず求められるのでは

ないか。「大学入学共通テスト」でも、「問

いたい『思考力・判断力・表現力』」として

「テクストに書かれていること(構造や内

容)を把握した上で、テクスト全体から精

査・解釈し、それに基づき考えを形成する

ことができる」と示されている。

 

冒頭に述べたような、今回の「大改訂」

に対する批判や不安は、その理解が進むに

つれて顕在化しそうである。けれども、激

変していく社会の中で、文学教育を中心と

した今まで通りの「国語科の授業」だけが

「不易」でいられるはずはないのである。「言

葉による見方・考え方を働かせ、言語活動

を通して、国語で的確に理解し効果的に表

現する資質・能力」を育成する、という国

語科の原点にこそ、私たちは立ち返らなけ

ればならないのではないか。

正答例 同好会として3年以上活動した上で、4月第2週までに所定の様式で生徒会部活動委員会に申請すること。(48字)

正答の条件次の条件をすべて満たして解答している。① 50 字以内で書かれていること。② 「同好会として3年以上活動」 ということが書かれて

いること。③ 「4月第2週までに申請する」 ということが書かれて

いること。④ 「所定の様式で申請する」 ということ、「生徒会部活動

委員会に申請する」 ということのどちらかが書かれていること。なお、両方書かれていてもよい。

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