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2 Prolo Prolo 旅行会社の存在意義が問われている 当研究プロジェクトは、そんな漠然と拡がる危 機意識からスタートしました。 「まとまったお金ができたら何に使いますか?」 「余暇をどう過ごしたいと思いますか?」といった 各種アンケート調査からは、たとえそれが「意識」 調査であったとしても、国内・海外旅行ニーズが 常にトップクラス。また、政府によるグローバル観 光戦略が立ち上がるなど追い風も吹いている― ―では、どうして私たち業界人の間には、このよ うな危機感が拡がっているのでしょうか。 旅行商品と旅行会社という面から概観すると 旅行業界だけの課題か? もちろん、そんなことはありません。グローバル 化と世界経済の停滞で同じパイを奪い合う場面 が増えたり、技術革新・生命科学の急速な進歩 によって人々の価値観が大きく変化するなど、単 純な商品改良やヒット商品の模倣では済まされ ない――業態変革を迫られている産業・企業の 方が多いのが実態でしょう。 昔から“困ったときは成功者に学べ!”“わから ないことは消費者に聞け!”ということで、様々な “実践”セミナーが開催されていますが、ともすれ ば「あの人だから出来たんだ」で終わってしまう ケースもしばしば。それよりも、成功者のライフス タイルやコミュニケーション範囲といった、ビジネ スとは直接関係のないバックグラウンドにこそヒ ントが隠されている、そんな視点も重要です。そ して、それは異業種研究ということがらにも繋が っていきます。 2 ●旅行商品 非日常の体験や脱日常が旅の大きな要素であるこ とに変わりないという前提にたてば、“日常”自体 が変化していて、旅行会社が考える旅と生活者・消 費者が考える旅にミスマッチが生じている――商品 価値・コンセプトの問題が考えられます。 ●旅行会社 旅の目的や動機をかなえてくれる代替品が拡がっ ていること(代替圧力の高まり)や、オンラインを中 心とした内外からの新規参入(業界内競合の激化 )、 サプライヤーのダイレクト販売の拡大(サプライヤ ーの交渉力向上)、生活者・消費者の情報力が高度 化していること(買い手の交渉力向上)などが考えら れます。 また、低成長経済下で「これ以上消耗戦が続けば、 今の従業員数では会社がもたない」といった雇用不 安、IT社会下での「人がネットにどんどん置き換 えられていく」といった働く者自体の存在意義など、 業界人に拡がる将来不安も、別の意味で危機意識の 背景となっていると考えられます。 プロローグ プロローグ

生活環境/意識 消費行動/意識 Prolo 旅行会社の存在意義が問われている 当研究プロジェクトは、そんな漠然と拡がる危 機意識からスタートしました。「まとまったお金

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Page 1: 生活環境/意識 消費行動/意識 Prolo 旅行会社の存在意義が問われている 当研究プロジェクトは、そんな漠然と拡がる危 機意識からスタートしました。「まとまったお金

2

ProloProlo

旅行会社の存在意義が問われている

当研究プロジェクトは、そんな漠然と拡がる危

機意識からスタートしました。

「まとまったお金ができたら何に使いますか?」

「余暇をどう過ごしたいと思いますか?」といった

各種アンケート調査からは、たとえそれが「意識」

調査であったとしても、国内・海外旅行ニーズが

常にトップクラス。また、政府によるグローバル観

光戦略が立ち上がるなど追い風も吹いている―

―では、どうして私たち業界人の間には、このよ

うな危機感が拡がっているのでしょうか。

旅行商品と旅行会社という面から概観すると

旅行業界だけの課題か?

もちろん、そんなことはありません。グローバル

化と世界経済の停滞で同じパイを奪い合う場面

が増えたり、技術革新・生命科学の急速な進歩

によって人々の価値観が大きく変化するなど、単

純な商品改良やヒット商品の模倣では済まされ

ない――業態変革を迫られている産業・企業の

方が多いのが実態でしょう。

昔から“困ったときは成功者に学べ!”“わから

ないことは消費者に聞け!”ということで、様々な

“実践”セミナーが開催されていますが、ともすれ

ば「あの人だから出来たんだ」で終わってしまう

ケースもしばしば。それよりも、成功者のライフス

タイルやコミュニケーション範囲といった、ビジネ

スとは直接関係のないバックグラウンドにこそヒ

ントが隠されている、そんな視点も重要です。そ

して、それは異業種研究ということがらにも繋が

っていきます。

2

●旅行商品

非日常の体験や脱日常が旅の大きな要素であるこ

とに変わりないという前提にたてば、“日常”自体

が変化していて、旅行会社が考える旅と生活者・消

費者が考える旅にミスマッチが生じている――商品

価値・コンセプトの問題が考えられます。

●旅行会社

旅の目的や動機をかなえてくれる代替品が拡がっ

ていること(代替圧力の高まり)や、オンラインを中

心とした内外からの新規参入(業界内競合の激化)、

サプライヤーのダイレクト販売の拡大(サプライヤ

ーの交渉力向上)、生活者・消費者の情報力が高度

化していること(買い手の交渉力向上)などが考えら

れます。

また、低成長経済下で「これ以上消耗戦が続けば、

今の従業員数では会社がもたない」といった雇用不

安、IT社会下での「人がネットにどんどん置き換

えられていく」といった働く者自体の存在意義など、

業界人に拡がる将来不安も、別の意味で危機意識の

背景となっていると考えられます。

プロローグプロローグ

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3

ogueogue

(1)21世紀初頭までの社会・経済環境の変化に繋がるト

レンドを暫定的に選定し、1年間の新聞・業界誌等か

ら、主要な記事を抽出・分類分け

(2)外部講師によるレクチャー

「旅行業の経営環境分析について」(立教大学観光学

部佐藤喜子光教授)

(3)トレンドとポイント整理 (P.4~7)

(4)生活シーン、産業・企業を中心とした経済シーンの側

面から、上記トレンドを再整理(P.10~21)

(5)(4)のトレンドに対する旅行業、観光周辺産業・事業

の現状と課題を整理 (P.23・25)

(6)以上をもとに、旅行業の今後の視点と重要と考える

次世代ビジネスモデル・コンセプトを提言 (P.26~28)

なお、トレンドの整理にあたって、同一の方向性を与

えることが困難で、二極化が想定される内容が多いこ

とに気付きました。これも全体を覆うメガトレンドとして、

主なポイントを事例に、対比させてみたのが“二極化す

る行動パターン―持てる層と持てざる層”です(P.8~9)

3

一旦業界から離れてみよう

既に古い手法ではありますが、今大事なこと

は原点に戻るということ。言い方を変えれば“意

識改革”とも言えます。旅の感動(体験)や利便

性、旅のノウハウを売る旅行業にとって、生活

者・消費者・労働者、そして他の産業・企業とい

った外部の行動主体を分析することが重要で

す。その上で、私たちの産業は何を生業として

いるのかを再検証し、次世代に向けたビジネス

スタイル・コンセプトを考えてみました。

当プロジェクトの進行・構成の概要は以下の

とおりです。

急速な変化と予測困難な時代がつづきます。

ましてや私たちの前提や視点自体に足りない

点・修正すべき点もあるでしょう。当研究プロジ

ェクトが一つのたたき台・スタート地点として、産

別・単組活動の一助となれば幸いです。

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●“モノ”より“こと”やアメニティ重視のライフスタイルが台頭

●“癒し”から“楽しむ活力”“生きる活力”志向へ

●エンターテイメント化の進展で、根元的なサービスに新鮮味

●街の回遊性を重視――働く、住む、遊ぶ、憩う、学ぶ、創る

●フォーマルライフの減少

●パブリックサービスのサービス業化(含む民営化)

4

21世紀初頭の社会変化マトリクス(その1)

●“所有価値”から“使用価値”へ

●感性消費――女性を中心に、好みや快適さを評価軸

に(テーマ性・目標性重視)

●ケア商品・サービス志向――美、健康、メンタル、育

児、介護、資産運用、セイフティなど

●高級化とセルフサービスが二極化

●サービスの同質化で、消費もショートレンジ化

●TPOに応じた脱サービス志向――プライベートな時

間・空間重視

●急展開するIT生活への期待と不安

・IT活用スキルに格差

・ライフライン機能停止への不安

●監視社会への拒絶感(プライバシー保護)の一方で利便性

も追求

●ユビキタス情報社会の進展と高次情報機能の大都市集中

・情報はタダで上手に活用

・エルダー男性の情報不足感

●デジタル化できないアナログ情報の重要性が増大

●分散社会から、人と人とのコミュニケーション重視へ

・“情緒”や“情感”への不足感

・“常時接続”への安堵感(ケータイ文化)

●“お気に入りメディア”の細分化

●キャッシュレス化の進展

●教育の個性化・個別化

●「e-Japan戦略」、インフラ整備から利用促進へ

・ネットワーク社会に対応した行政サービスの拡大

●ユーザー同士の交流拡大=参加する消費者

●消費者が情報を“選ぶ”時代=マイ・メディアの一般化

●ネット情報の過信――生活能力や常識度による活用

スキルの二極化

●情報過負荷で、ブランド選択は消極的な収斂へ

●近代化の中でもハイタッチの追求

・コールセンター/コンシェルジュ

・「顔」の見える情報

●非対面販売を通じた潜在需要の表面化

●スピードとタイミングに敏感

●量よりも、わかりやすさ・訴求力

●イメージから、科学的根拠を求める領域の拡大

●受動的レジャースタイルの拡大と消費(商品価値)のシ

ョートレンジ化

●“ポイント族”の台頭――ポイントを死蔵させない

※ハイタッチ:ハイテクに対して、感性、情緒、人間性といった心

の面を重視し、デザイン・色彩等にも注目すること

●効率至上社会と、スローライフが二極化

●余暇・レジャーのヴァーチャル・リアリティ化――受動的なス

タイル

・文化・芸術・娯楽のオンライン化

・デジタル生活の定着――プラズマTV、デジカメ、DVDレコ

ーダーが新・三種の神器に

●コンビニ型ライフスタイル

●コンビニ型消費スタイル

・晴れた日行動症候群

・ショッピングタイムの24H化

・オンデマンド消費の領域拡大

・オンラインショッピングの拡大

●余暇の過ごし方がライフスタイルとなる時代

●時間創出のための、省力化志向

●余暇は“創り出す”もので、最終目標は広義の“自己啓発”

●余暇の疎外要因の本質(=意欲と能力、コミュニティ)が顕

在化

●ボランティア活動のレジャー化=ソーシャルレジャー

●学校休業の分散化

●消費を伴わない余暇と、刹那的・消費型余暇の二極化

●タイムマネージメント型消費スタイル――“活時”型消費

・メッシュ消費(よくばり)とオフバランス消費(とっておき)

●“癒し”から“達成感”を求める行動へ

生活環境/意識 消費行動/意識

21世紀初頭の社会変化マトリクス(その1)

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●生活者感覚にたけた女性が、マーケッターの主役に

●プロとは何かが問われる時代

※パーミッション・マーケティング:

顧客が許可を与えることで、企業が情報発信や商品・サービ

スの提供を許されるというマーケティングの考え方

●アメニティ産業化の進展――快適生活支援・演出によ

るアプローチ

・“デザイン”する力もブランドに

●ターゲットセールスの先鋭化

・顧客/リピーターづくり

・「知覚品質」重視――アフターマーケティング、CRM、パ

ーミッションマーケティング

●融合による新たな価値創造――異業種/官民/文化と

産業/芸術と技術

●“ノウハウ”を売る――コーポレート研究所の増加:異業種、

同業他社への資源販売

●ライフスタイル・ケア・ビジネスの拡大――美、健康、

メンタル、育児、介護、資産運用、セイフティなど

●エクスペリエンス・マーケティング――“体験”を売る

●サービス評価の標準化――家電業界、アドバイザーに資

格制度

●旅を安全・快適に楽しむためのサービス

・言語/医療/保険/託児など

●条件違反・苦情への返金システム

●コンシェルジュブーム

●専門業者との融合によるSITの多様化・高度化

●宿泊機関の旅行業者化――周辺観光をコーディネイト

●食材の地産地消志向

●リトリート的和風リゾートの増大

・リクエストベースの脱お仕着せ的サービス

●葬儀・ブライダルのカジュアル化/エンターテイメント化

※リトリート:避難・隠れ屋・憩いの場といった意味で、日常から離

れたゆったりとした自然の中で過ごし自分自身を見つめるような場

所を言う。

●自己実現が難しくなった「仕事の世界」=労働の同質

●製造業の知識集約産業化と、サービス業の資本集約

型化

・知識社会への対応力が一層求められる時代へ

●テクノストレスの増大

●IT活用スキルに格差

●ネットワーク型労働の増加

●技術先行から、ニーズオリエンテッドへ=無駄な機能の淘汰、

わかりやすさの追及

●「知覚品質」重視――アフターマーケティング、CRM、パーミ

ッションマーケティング

●情報の非マス化戦略――特定のターゲットに確実に状況提供

●プライバシー保護が、ダイレクトマーケティングの重要な柱へ

●ポイントサービスの過熱化

●無線ICタグによる高度流通革命

●インタラクティブ・メディア・コンテンツの開発

(操作性・ハイタッチ)

●コミュニケーション・ツールへのユニバーサルデザイン導入

拡大

●家庭内デジタル・アミューズメントの拡大――シネマ、ゲーム、

教育

●エルダー男性を対象とした、ライフスタイル情報誌の拡大

●イールドマネージメント――予測に基づく販売の最適化

と収益の最大化

●成果報酬型広告の拡大

●遠隔サービスの多様化――ネット会議、e-ラーニング、教育、

医療、セキュリティ、各種公的申請手続、データ管理

●高度化するサイバーテロ対策の導入とアウトソーシング拡大

●「情報公開」「迅速性」が不祥事からの信用回復対策の大

きな柱へ

●“代理販売”業務のオンライン化拡大

・GDSの高度化&ブラウザベース化

・異業種/外資系エージェントの進出

・コミッション改革(カット/レス/固定制/成果報酬

型)

●サプライヤー直販体制の拡大

・ヴァーチャル・ショッピング・モール

・アライアンス

・異業種によるプラットフォーム

●公共オンライン情報サービスの高度化

●ソフト産業主導型のイールド・マネージメント

●ボランティアガイドの増加

●観光地におけるコンシェルジュ機能増加

●ワークスタイルの多様化

――フリーエージェント、ネットワーク志向など

●インテリジェンス・サービス業の拡大で、仕事と私生

活がボーダレス

●家族・友人とのミス・コミュニケーション増大

●“可処分時間”争奪戦

●散在施設の情報コンビニ化

(電話ボックス、駅、チェーン店舗等)

●ヴァーチャル・ショッピング・モールの構築

●販売チャネルの高度多様化

・ネット/デジタルTV/ケータイ/カーナビ/コンビ

ニ/キオスクなど

●労働と余暇が、「対立」(余暇=仕事からの解放)から、

「融合」(仕事の遊び化、遊びの仕事化)へ

●タイムシェア・サービス(対消費者、対事業者)の多様

なバリエーション

・飽きさせない/「多毛作」型店舗

・休日営業への対応強化

・早朝ビジネス/ナイトビジネス

●カルチャーセンター/クラブ運営型顧客獲得の拡大

●周辺在住者・在勤者をメイン顧客とするサービスの増加

(地域密着)

●緩急の使い分け――“瞬”のビジネス(待たせない)と“時

間浪費”がもたらす“費やした時間がもったいない”(せっか

く来たんだから)消費

●タイムシェアの多様なバリエーション

・ホテル、別荘、リゾートマンションのタイムシェア・プロ

グラム

・都市ホテルの時間貸し

・ウィークリー旅館

・ショート・クルーズ

労働環境(仕事意識・労働構造) 産業・企業 旅行周辺産業

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●“シングル”社会――エルダー夫婦と独身・単身の単独世

帯が家族形態の主流へ

・夫婦・家族の絆への意識増大

・コミュニケーション志向

・セルフ・ケア志向

・自己実現型エキスパート

●健康・経済的自立・学習意欲・人間関係の充実度で、生

活意欲が二極化

●不安だから、今をアクティブに

・“エイジレス”意識

●「生涯労働」の認識が広がる

●サブカルチャー第一世代を自負する団塊世代

●価値観を共有する母娘関係

世紀初頭の社会変化マトリクス(その2)

●ファミリー市場から、シングル市場への移行――ライフス

タイル・ケアのための消費が拡大

・健康/セイフティ

●コミュニケーション消費の分散・拡大

・夫婦/家族/三世代

・地域や趣味のコミュニティ

●ニューメディアの活用にも積極的なエルダー層の増加

●回復型消費――愛情(夫婦)/自信(健康・若返り)

/自己の必要性(ペット、ノスタルジックな趣味)

●“選別された商品”へのニーズと、こだわり消費

●バブル・ジュニア――“贅沢な消費財”の一つとなった子

供の存在

●官民サービスの賢い使い分け

●地域貢献の意識の高まり――福祉、環境、子育て支援、介

護支援

●ナチュラル志向のライフスタイル

●カルチャー・コミュニティ主婦の拡大

●共稼ぎの一般化

●社会・政治問題への関心高まる

●余暇の過ごし方がライフスタイルとなる時代

●プライベート・アメニティの充実志向

●“活時”スキルの向上――可処分時間を増大したい(やりた

いことたくさん)

●家事における、夫婦分担と外注化が二極化

●性の解放感が進展

●身近にある古いものへの価値観が増大=和文化のリミックス

●「観光立国宣言」に対応したインバウンドのインフラ整備

●一億総中流意識から、貧富の格差を実感する時代

●情報のリアルタイム化で、ライフスタイルも多極分散

●国際政情不安・緊張に敏感

・リスクが拡大する国際社会

●総合学習を軸に、国際理解への教育時間増大

●市町村合併と都市集中

●世界経済的低成長の長期化――日欧の内需拡大が鍵に

●異文化交流志向と保守化が二極化

●ボランティア活動は、「奉仕」から、「参加」「創造」へ

●NPO、NGO活動をはじめとした、特定組織に依存しない自立

層の拡大

●企業・行政活動の監視意識(オンブズマン)の拡大──情報

公開ニーズの高度化

●SRI(社会的責任投資)、CSR(企業の社会的責任)に対

する法的条件整備、入札制度への反映

●エコライフの浸透――ゴミの分別、リサイクル、節電等々

●健康志向との連動

●“自然”“本物”が非日常――“人工物が日常”世代の台頭/

生活様式の変化

・“地”を活かす、“スロー”志向の拡大

●環境学習熱の高まり

●入場規制、排ガス規制、 禁煙区域の環境保護関連規制の

拡大

●代替エネルギーへの注目高まる

●構造改革特区の地域活性化で、エコツーリズム、グリーンツ

ーリズム、アグリツーリズムが注目

●性別消費のボーダレス化

●女性専用サービスへのニーズ拡大

●消費者としての企業活動への参加領域が拡大

●ハイタッチなサービスに敏感に

・求めているのは“誠実な”対応

●“わかりやすく高品質”志向

●「変化」(新しさ)と「店・商品の雰囲気」が「価格以上の魅

力」へ

●“マイブランド”消費=購入先の“企業(人)スタイル”も重

●“私合わせ”感覚(自分仕様)の台頭――自分に合ってるこ

とが一番(個人的満足感、充足感、快楽、投資価値が基準)

・“オーダーメイド”“カスタマイズ”仕様の高度化――デザイ

ナー・素材等の選別

●カップル消費の拡大

●ネットを活用した“お得情報”や“お奨め”など情報交換

●商品のコモディティ化で、値ごろ感が低価格化――価格

に価値を見出す層も

●“安かろう悪かろう”意識の希薄化

・輸入品・国産品の選択が希薄に

●金融商品への関心

●格付け指標に対する意識の二極化

●グローカルへの注目

※コモディティ化:市場の国際化で、中国製品のような激安商品が市

場を席巻する現象。価格でしか選ばなくなる現象と意訳されることも

●新たな消費者運動の高まり──個人の被害防止、ネット活

●企業の健全性への関心高まる

●“消費”より“活用”する楽しみ

●健康志向との連動

●家電もレンタルする時代

●家計との連動消費――積極派主婦は家計との一挙両得

志向

・リサイクル可能、耐久性の高いモノの選択

生活環境/意識 消費行動/意識

世紀初頭の社会変化マトリクス(その2)

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7

●「生涯労働」の認識が広がる

●仕事をする意味やそこに携わる人下の大儀への関心

が高まる

●会社はリタイヤしても、社会はリタイヤしないエルダー

層が、NPOの中心に

●被雇用から、個人・共同事業スタイルが増加

●雇用不安が、少子化対策の阻害要因に――共稼ぎし

やすい社会的インフラ整備への期待大

●年金債務による企業収益の圧迫

●不安解消を付加価値としたエルダー向けビジネス

●高齢者優遇制度

●生涯学習など、官民競合の領域が拡大

●リバイバル・マーケティング

●バリアフリーからユニバーサルデザインの本格化

●平日活用型のクラブ運営

●共生型コミュニティづくり

●チャイルドビジネスの高級化

・知育アミューズメント

・ファッション

●現地の“暮らし”を売る

・ロングステイ/移住

●若い世代(子・孫含む)との“関係づくり”戦略

●三世代で消費の満足を共有できるレジャー施設・スポッ

トの増加――温泉とのマッチング、回遊性のある観光地

●体験型観光の拡大

●ユニバーサルデザインの導入拡大

●旅行医学の活用

●官民(含む大学)による生涯学習プログラムの拡大

●女性同士によるネットワーク型労働の増加

●育児・介護支援の拡大

●パートタイム複合労働の増加

●デザイン系大学・専門学校卒業者の感性が注目される

時代

●男性より強い、起業・自立意識――ポジティブ・アクシ

ョンと現実の乖離も背景に

・転職でキャリアアップ

●在宅ワーカーに、国内空洞化の領域拡大

●コストではなく、能力・技術に秀でた外国人労働者の

増加――外国人マネージメント層の増加

●現地採用・インターンシップの増加

●アジア向けを中心に、職業紹介も国際化

●バイリンガルは最低限、バイカルチャルが求められる

時代へ

●契約意識の増大

●所得から見た、労働市場の二層化

●遵法/環境教育の拡大

●ライフスタイル・ケア・ビジネスの拡大――美、健康、

メンタル、育児、介護、資産運用、セイフティ等

●働く女性向けアメニティの拡大

●女性専用サービスの拡大

●企画・開発への女性ユーザ参加

●父親向け育児・料理情報(誌)の増加

●可処分所得の争奪戦

●プライベートアメニティの高度化

●「価値」を基軸としたブランド戦略が、企業競争力の源泉に

・専門店化がブランドの生命線に

●異業種との融合による、ライフスタイル・ケアビジネス

●モニタリング/参加型商品の拡大

●企業の社会的責任が増大――環境・人権・法令遵守

●商品・サービスのコモディティ化で、企業戦略がマーケッ

トシェア競争とターゲット絞り込みに二極化

●ITの進展による無国籍企業の増加

●製造(製販も)の現地化拡大

●品質管理と、消費者保護の国際基準化

●規制緩和拡大に伴う官民競合領域の拡大=企業のライ

バルは企業だけではない

●文化と産業を融合した、新たな日本文化創造

●会計基準の国際標準化

●リスク拡大社会――リスクマネジメントの導入拡大

●取引先にも、環境・人権・法令遵守など社会的責任を要求

──ブランド価値の維持と国際化を背景に

●内部告発制度の整備

●ISO14000(環境マネジメントシステム要求事項)取得の増

大と活用、入札要件への導入拡大

●環境NPOとのパートナーシップ

●“環境への配慮”から(=標準化)、“ユーザへの便益提供”

●異業種合同のブランド化へ

●ホテル・レディスプランの多様化

●女性お一人様プランの増加

●宿泊施設のタイムシェア・プログラムの多様化

●プチ留学の多様化

●ウエルネス・ツーリズム

●フィットネス&ダイエットビジネスの多様化

●福祉・教育ビジネスとエンターテイメントビジネスの融合

●ブライダル・記念日の個性化――思い出となる場所・演

出=専門施設以外/海外

●リトリート的和風リゾートの増大

・リクエストベースの脱サービス

●貸切プランの拡大――風呂/シアター/レストラン

●国際会議・イベントコーディネイト産業の増加

●産業・企業視察を中心としたSITプログラムの増加

●外資系エージェントの進出(含むオンライン・エージェント)

●フィルム・コミッションの増加

●各種スポーツ・ビジネスの拡大

●コンサート・ビジネス

●ミニコミ誌による地域コーディネイト

●教育的体験学習の拡大──国際理解/環境/福祉など

●NPO・NGOによるオルタナティブ・ツアーの拡大

●非日常志向が結果として環境保護に──自然と露天風呂

●リトリート的和風リゾートの増大

●エコテルの拡大

●リゾート、ゴルフ場の転用、パブリックスペース化

●サステイナブル・ツーリズムの拡大

・サイクリングツアーへの注目

●食材の地産地消

●施設・資源の共有化――湯めぐり/トイレなど

●宿泊・飲料機関のISO14000/9000取得拡大

労働環境(仕事意識・労働構造) 産業・企業 旅行周辺産業

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21世紀初頭の社会変化:二極化する行動パターン・特性(持てる層と持てざる層)

○コモディティ商品志向

○エコノミー志向(環境重視、モノは増やさない)

○将来(老後生活費、教育・住宅費等)への備え・返済

○情報過負荷でブランド選択は消極的な収斂へ

――“消費者はマーケッターが想定するほど、考えて(こだわって)いない”

○受動的(横並び志向)

○ネット情報の過信=生活能力、常識度の欠如

○IT関連ディバイド=弱者(インターネット、ブロードバンド、端末)

○排他的志向、右傾化

○アジアで最低の語学力

○日本文化を知らない=異文化との比較・融合が困難

○不安への配慮優先志向

○ストレス発散型と、内向的な心の癒し型

○余暇能力(健康・学習意欲)の不足

○時間を共有できる相手が少ない(シングルライフ、ペット熱の高まり)

○何でもいいから夢中になれるものが欲しいが、きっかけがない(情報不

足)

○刹那的生活

○パート労働、複合労働の増加によるライフスタイルの多様化も阻害要

因に

○受動的なライフスタイル――デジタル生活、ヴァーチャルリア

リティ

○経済的自立・学習意欲、交友関係の欠如

○情報弱者

21世紀初頭の社会変化:二極化する行動パターン・特性(持てる層と持てざる層)

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9

○高品質・高級ブランド志向(価値重視)

○オフバランス=とっておき志向(消費の選択と集中)

○プライベート・アメニティ、自分仕様(カスタマイズ)の追求

○経済的自立・健康・学習意欲・人間(交友)関係が豊か

○教育費・住宅費負担のないマチュア世代(一般的に50歳以降)・パラサイトシングル・バブルジュニア

○教育費・住宅費のどちらかを支出しないDINKS(共稼ぎ子供作らず)、エルダーシングル

○支出以上に収入のあるDEWKS(共稼ぎ子供あり)、富裕層

○目的・対象ごとの“お気に入りメディア”“マイメディア”の細分化(価格/ユーザ評価/お得情報/格付など)

○テーマ性・目標性重視(ライフスタイル誌、評論誌等を中心とした非広告的メディアを活用)

○高いITリテラシー(使う目的と熟練度、モバイル端末の駆使)

○おかかえ業者(信頼できる相手)、または同質ユーザ同士の交流・情報交換の場を持っている

○商品開発への参加

○ハイタッチなサービスに敏感

○海外旅行(渡航)リピーター、海外留学経験の増加 (バイリンガル、バイカルチュラル)

○欧米のライフスタイルのリミックス能力

○リアルタイムな国際情報メディアの所有(海外TV、ネット)

○グローカル志向(和文化のリミックス、アジアンテイスト志向)

○神秘、冒険、非近代的なものを経験したい・知りたい欲求の高まり(高度化の先の原点回帰化)

○NGOなど、非政府・非国家活動への参加/関心

○“不安があるからこそ、アクティブな生活を維持したい”

○アクティブなエルダー層を中心とした“エイジレス”感覚

○リアリティある感動の追求――目標感、達成感の持続

〈異性関係〉

○プライベート・アメニティの追求

○非対面販売の活用

○スタイリッシュなモノ・サービスの情報収集

〈家族・夫婦〉

○家族・夫婦の絆をキーとした関係づくりの追求

○価値観を共有する母娘関係

〈交友関係〉

○同質の人が交流する場を持っている(ネットコミュニティ、各種サークル・スクール、地域コミュニティ、ボランティア活動)

○旧友との連絡手段を持っている(同窓会など)

○アクティブエルダー層を中心とした旺盛な学習意欲/社会参加意欲

○経済的自立・健康・学習意欲・豊富な交友関係――時間創出を必須とする動機

○タイムマネージメント上手――省力化サービスやタイムシェアサービスの活用や、身近な場所で価値ある消費

○手間暇かけることが非日常(スローフード、スロータウンなど)=蔓延するスピード・効率化社会への反動

○官民サービスの使い分け

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10

2006年をピークに減少期に入る日本人口(国

立社会保障・人口問題研究所推計)。長寿化、

晩婚化、子どもを作らない/作りづらい夫婦の

増加などによって、老年人口の増加が続く本格

的な高齢社会へと突入していきます。

ともすれば、このような変化を高齢者の人口

比率が高まる時代と一口に片づけてしまいがち

ですが、家族構成・経済状況・健康状態・社会

参加状況は様々で、年令だけで高齢者を一括

りにすることはできません。さらに、家族の変化

という視点で捉えると、以下のような大きな特徴

が考えられます。

単独世帯、夫婦のみ世帯が増加し、そ

の中心はエルダー層

若くない未婚者の増加 (1割が30~40

代。パラサイト・シングルを含む)

消費を支えてきた核家族が伸び悩み、

しかも既に完成された生活(モノ)を

持っている

これは、女性の社会進出や夫婦観の変化な

どとあいまって、調査上の“世帯”という概念を超

えた“シングル社会”の到来を意味します。自立

した生活を送らなければならない社会。そこに

は、様々な不安や不足を解消したい、また上質

な日常・ライフスタイルを維持していきたいという願

望が生まれ、あらゆる消費行動に大きな影響を

及ぼします。もちろん自立社会は“単独社会”と

イコールではありません。助け合いやコミュニケ

ーションも様々なかたちで高まります。でも基本

はまず自分。成熟社会にあっては、身の丈に合

った自分仕様、そして根源的なテーマや目標性

が重視されることが想定されます。行動単位が

結果として「夫婦」や「家族」、そして「友達同士」

であっても「基本はシングル」。それが今後のキ

ーワードとなっていくでしょう。

生活シーンに現れる潮流“シングル社会”の到来

出所:(有)MADV・ライフステージの捉え方

生活シーンに現れる潮流

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11

人口の減少とシングルが拡大する社会では、

疎になった関係の維持・回復や積極的に外と

“交わろうとする志向が強まります。ITの進化に

よる、時と場所を超えた 情報交流の拡大や、非

対面販売を通じた潜在的ニーズの表面化、そし

て今まで見えにくかった事象や人が見えてくるマ

イノリティ・ローカル情報の増加――そのような情

報社会の進展も、コミュニケーションの活性化に

拍車をかけています。また、希薄となった家族関

係の回復などにとどまらず、ペットやロボット市場

の高まりも、感情移入の対象の広がりとして無

視しえない状況となりつつあります。

ヴァーチャルの世界を含め、エゴむき出しの自

己主張やシングル社会での“自分仕様”が極端

なかたちで現れることも増えていくでしょう。しか

し、自分の砦を守りながら、他者との緩やかな

関係性を築いていきたい、そんな志向に注目し

ます。

新コミュニケーション時代

3世代、夫婦間での“絆”や関係回復・強化

―現在最優先から、より落ち着いた関係へ。

趣味やサークル活動を通じたグループ行動

エイジレス分野の拡大:生涯労働、生涯学

習、盛り場、カップル、サークル活動など

地域(海外含む)の人 =々異質な人 と々の交

流・自然な出会い

男女が交わる時代:役割のボーダレス化と、

カップル消費(非対面販売の進化も後押し)

回顧志向の高まり―昔の仲間や同窓会など

ケータイ文化が生み出した“情”の交換・確認

今後のコミュニケーションを展望する主なキー

ワードは

出所:(株)FIRST“トレンド・レポート”

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ケイタイを中心に情報機器は“固定”から“移動”

系へと進化しつづけています。そうしたモバイル機

器との融合も果たすコビニや駅など全国に散在す

るスポットへ の端末配備、そして無線LANスポット

の拡大、さらにはメーカーと家庭を繋ぐネット家電の

開発など、まさに、いつでも・どこでも情報に繋がる

ユビキタス社会が訪れつつあります。

しかし、こうした情報の量的拡大は、活用力や

情報だけに惑わされない生活スキルに格差が広が

るなかでは、必ずしも利用者に快適な社会をもた

らすとは言えません。熟練ネットユーザーですら、

情報メディア接触時間の減少=多くの情報に触れ

る必要性を感じない、といった傾向も出始めていま

す。提供側には、シンプルで勘所を押さえた情報

の選別や訴求力の向上が求められいくことでしょ

う。

また、利便性とは裏腹に、IT依存型のライフライ

ンや超監視社会への不安感・拒絶感も広がってい

ます。人が介在することの意義や、デジタル化でき

ないアナログ情報の重要性が、口コミ情報と同様、

従来にも増して再認識されていくでしょう。

生活者は、エンターテイメント性にも魅力を感じな

がらも、自分に合った情報メディアをTPOに応じて

探し続けます。利便性・高速性との使い分けを図

りながら、落ち着きのある快適情報化社会を自ら築

き上げていく、そんな志向が高まります。

主なキーワードは以下のとおりです。

女性の社会進出、ワーキングタイムの多様化、

生涯労働など、まさにシングル社会を背景に、仕

事から解放される時間が多様化しています。ま

た、“解放”だけでなく、高齢者の増加がマクロ

的には自由時間を増大させています。

しかし同時に、「余暇」は、「労働から解放され

た自由な時間」といった労働生活を基軸に捉え

られる旧来の発想ではなく、私生活を基軸に積

極的に「創り出してい く」「活かしていく」時間へ

と変化しつつあります。時間捻出のためには高

速社会を歓迎する人、逆に思いっきりゆっくりで

きる時間を何よりも重視したい人・・・その時間

に何をするかという視点では、まさに余暇の過

ごし方がライフスタイルとなる社会が拡がります。

一方、そうした余暇の過ごし方には、①経済

的自立性、②健康度、③学習意欲・向上心、④

交友関係、⑤社会参加意欲などが大きく影響を

及ぼします。労働密度や人間関係の難しさなど

の高まりとともに、“癒されたい”志向はつづくで

しょうが、その先にある目標感、達成感が、行動

スタイルを特徴づけていくことでしょう。

生活シーンに現れる潮流ユーザーが主導する快適情報化社会 “活時”――時を活かす社会へ

コンビニ型消費スタイル:晴れた日行動症

候群

ICカードの拡大とキャッシュレスが本格化

情報過負荷状況は、消費者のブランド選

択を曖昧に(一つに収斂させることが難し

い時代)

シンプルで勘所を押さえた情報ニーズの

高まり

マイメディア化がもたらす情報メディア接触

時間の減少

ハイタッチな情報に敏感に――最大のメ

ディアは“人”メディア

情報不足への焦燥感――例:サライに群

がるエルダー男性

IT社会へのリスク意識の高まり

エルダー層を中心としたソーシャル・レジャ

ー(ボランティア活動のレジャー化など)や

スローライフ志向

働く女性(パラサイト族、子どものいない共

稼ぎ夫婦)や、アクティブ主婦を中心とした

時間捻出型消費の二極化――“よくばり”

型と“とっておき”型

“所有すること”から“使用すること”への

価値観の変化が行動を多様化――タイム

シェア・プログラムの活用など

“癒し”から、自分磨き型の消費も台頭

ワークスタイルや学校休業の多様化で、フ

ァミリー消費も“活時”が課題に

生活シーンに現れる潮流

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出所:くらしHOW研究所「50代のウーマンパワー研究」(2002年11月実施)

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産業・社会の国際化は、日本特有の島国気

質ともあいまって、そのメリット・デメリットについて

様々な議論が繰り広げられてきましたが、今や

生活者の意識の中では、デジタル社会同様、『気

が付けばグローバル』といった感じで、生活のあ

らゆるシーンに溶け込んでいます。

しかし、そうした当たり前に接してきたグロー

バル化社会のなかで、2つの大きな 潮流が拡が

りつつあります。

一つは、リスク意識への高まり。グローバル社

会では、国際紛争や疾病への不安や、人権問

題への配慮など、国際社会との関わりなしには

生活できない領域が拡大し、一般生活者にもリ

スク回避の安全志向が高まります。

二つ目に、グローバル化社会は“グローカル”

(他の文化圏の人たちにも理解できるローカリ

ティ:造語)を顕在化させていきます。

グローバル化は商品・サービスのコモディティ

化(激安商品が市場を席巻する現象)や同質化

現象を生み、目新しさや刺激は次々に現れる新

商品・サービスのなかでショートレンジ化していま

す。そのようななか、各地・各国固有のローカル

文化への見直し、或いは若者にとっては新たな

発見が拡大していきます。生活へのインターネッ

トの普及は、今まで気付かなかった身近にある

古いモノや地域性――地元意識を高めることに

も作用しているのです。そして、それはリアルで

ないと体験できない意外性・偶発性へのニーズ

とも繋がっていくことでしょう。

生活シーンに現れる潮流リスクと“グローカル”が顕在化するグローバル社会

国際社会=リスク社会意識の高まり

一つの商品・サービスに対する消費の短

期化

和文化の再発見、生活へのリミックス

エスニックやサステイナブル・ツーリズ

ムへの関心の高まり

スローライフ・スローフード志向の高まり

生活シーンに現れる潮流

消費者啓発教育

食に関する問題

商品の安全性

サービス・内容・契約

経済活動住宅・土地問題表示広告

物価問題高齢者問題

環境問題

保健衛生

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ランス感覚も持っていることに留意すべきでしょ

う。女性を中心とした「参加する消費者像」も、

消費ニーズの反映という面だけでなく、上質な日

常を志向する生活者像で捉えることが重要で

す。

生活者意識の台頭

政・財・官に比べ、市民パワーが弱いとされて

きた日本ですが、ボランティア活動が“奉仕”から

“参加”へと変化しているように、イデオロギー型

ではない市民活動が拡大しています。様々なア

ンケート調査からも明らかなように、高齢者や女

性を中心に地域活動への参加者は増え続けて

います。環境保護や子育て・介護支援といった

日常に密接に関わる領域が顕在化するなかで、

“あるべき論”から、“なければ困る”の変化が

人 を々本気にさせているのでしょう。

それは、まさに人々の生活が消費だけで成り

立っているのではないことを象徴しています。同

時に、商品・サービスを提供する企業・産業に対

する健全性への注目も高まっていきます。そこで

は聖人君子のような振る舞いを望んでいるわけ

ではなく、地域社会との関係性のなかで、「事業

を通じて、地域社会に貢献して欲しい」というバ

循環型社会への参加――エコライフ、ス

ロータウン、グリーンツーリズムの高まりなど

“もう一つの公共”NPO・NGOへの一般

市民の参加

家電もレンタルする時代 

注目度の高まる「企業の社会的責任」―

―遵法、環境保護、子育て支援、人権配

慮、雇用の男女差別撤廃など

活動範囲 中央団体 県域団体 地域団体 合計

▼ 関心事 団体数 割合(%) 割合(%) 割合(%) 割合(%) 団体数 団体数 団体数

1318

消費者啓発教育 食に関する問題

商品の安全性

サービス内容・契約 表示・広告

経済活動 物価問題

保健衛生

住宅・土地問題

高齢者問題

環境問題

その他

331

31

1

0

15

21

4

46.360.010.010.0

3.310.03.3

3.3

0

50.0

63.6

13.3

18723923

2810

12112

19

7

144

267

60

43.755.85.46.5

2.328.30.7

4.4

4.6

33.6

62.4

14.0

1,9302,011285168

421,226

157

266

19

1,383

2,874

363

45.747.66.74.0

1.029.0

3.7

6.3

0.4

32.7

68.1

8.6

2,1302,268311199

531,350

170

286

26

1,542

3,162

427

45.548.56.64.3

1.128.8

3.6

6.1

0.6

32.9

67.5

9.1

出所:内閣府「2002年度消費者団体基本調査結果」より抜粋

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負のスパイラルから脱出しきれない企業が多

いなかで、コスト競争力以外の存在価値の確立

にむけて“サービス業化”を目指す潮流が、すべ

ての産業界に生まれています。

ともすれば、サービス業=低廉な労働力を活

用した労働集約型産業という側面だけが取り沙

汰される節もありますが、ここで言うサービス業

化とは、顧客へのライフスタイル支援や提案、そ

してビジネス・パートナーへの営業支援を通じた

事業領域の再定義と言っても良いでしょう。モノ

づくり大国と言われた日本ですが、作り手の思

い入れや技術開発だけでモノが売れる時代は

終わりました。提供する商品からどんな生活シー

ンが描けるのか。また、ビジネスパートナーに対

する考え方も、相手の立場に立った営業支援、

そして、ターゲットとする客層を共有できる異業

種との融合によって、どのような新しい価値を創

造できるのかが重要となってきます。

製造業が知識集約型の産業へとシフトし、サ

ービス業がシステム産業化するという、ある意味

では逆転現象も散見されますが、サービスプロ

バイダー本家であるサービス業界でも、“サービ

ス業”革命の決め手となるポイントは変わりあり

ません。主なポイントは以下の通りです。

企業・産業シーンに現れる潮流 “サービス業化”革命

技術は売るための手段に過ぎない= 商

品・サービスの品質・効能を認識してもら

うことの重要性

取引先(販売店)の困っていることの分析

と営業支援――最適な商品を、最適な

顧客に、最適な時期に、最適な価格で

わからないことはユーザーに聞け= 技術

先行からニーズオリエンテッドへ

顧客の先を読んだ提案=ライフスタイル

提案

餅屋の技の高度化=異業種との融合で

専門性の相乗効果を発揮、新しい価値

の創造へ

販売チャネルの適材適所化=規模ではな

く、ターゲットに合った販売ネットワークの

選別

出所:JMAマネジメントレビュー(2003年2月)「先進企業のサービス事業に見る成長戦略」

企業・産業シーンに現れる潮流

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“言うは易し行うは難し”。何よりも今現在いる顧

客(リピーター)を徹底的に大切にするという原点

に戻ることが大切です。ヒット商品と言われるモ

ノ・サービスも、利用者が支持者となり、リピータ

ー化し、そして推奨者となる(=口コミメディア)と

いうかたちで、利用者が創り出してくれたものとも

言えます。“ユーザを進化させる”という発想で、

販売結果だけでなく、どう使われ、どんな便益を

与えているのかを、きめ細かく分析する。そして

顧客の先を行く商品・サービスを開発・提案する

ことが重要です。

もちろんブランド戦略には、認知させるための

コミュニケーション媒体も重要となります。外部だ

けでなく、何よりも提供者自体がユーザとしての

感覚を研ぎすます、そんな場面や機会を従業員

に提供していくことも、ますます重要となってきま

す。

市場の細分化に対応したブランド戦略

産業界は、グローバル社会や高度情報化社

会を背景としたコモディティ化現象(激安商品が

市場を席巻すること)の続くなかで、あくまでもシ

ェア獲得を目指す方向と、顧客の絞り込みで存

在価値の確立を目指す方向に、大きく二極化し

つつあります。

生活シーンの潮流でも整理したように、市場

では“可処分所得”と“可処分時間”の激しい争

奪戦が繰り広げられています。そこで、何を優先

させるかという生活者・消費者の心理を捕らえ

ることは容易ではありません。有名海外ブランド

ですら、一般消費者への限定オーダーメイドに

応じる時代です。そのためにも、“サービス業化

革命”の流れに沿って顧客層を明確化し、新た

な価値創造による収益確保を目指すブランド戦

略が必須となってきます。

分社化を含む専門化がブランドの一つの生

命線となることは容易に想定されますが、まさに

企業ブランドコミュニケーションと接点とその内容(例)

出所:ブレインゲイト(株)『ブランディング』

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シングル社会の到来は、個々人の自立生活や

快適な生活をサポートする市場の拡大を意味し

ます。高齢社会でクローズアップされたケア=介

護や健康維持といった分野はもとより、個々の生

活者がおかれた状況によって、市場は細かく多

岐に広がります。そこには、エステに象徴される

女性の美に対するケア、漠然としつつももっと自

分を磨きたいという意識に訴えかけるサポートメ

ニューなど、“ケア”の領域には、困っていること

の解消や現状維持といった面だけでなく、目標

感・達成感に訴えるメニューも拡大していくこと

でしょう。

また、人々の描くライフスタイル像には非日常よ

りも、上質な日常への志向性が高まっています。

そこでは、(1)非日常性の強いと言われてきた商

品・サービスであっても、日常生活に役立つ・取

り込めるといった要素をデザインすること、(2)“活

時”を支援する地域密着型の営業スタイル、(3)

専門性だけでなく、ユーザの立場に立って親身

に応じるハイタッチなコンシェルジュ機能、などが

求められます。

ライフスタイルをケアし、デザインするビジネス、

いわば“生活産業”化するビジネスの以下のポイ

ントに注目します。

企業・産業シーンに現れる潮流 ライフスタイル・ケア・ビジネス

ケアビジネスの多様化――美、健康、メン

タル、育児、介護、資産運用、セイフティ

分野など

アメニティ産業化――衣食住遊学などの

各分野で、どんな快適性が求められるの

かを追及し、必要に応じて異業種との

融合を図る

不安や障害を除去するサポート・プログ

ラム

バリアフリーからユニバーサルデザインへ

タイムシェアの多様化・応用化を代表とす

る“活時”支援メニュー

地域密着型営業スタイル:近隣エリア・マ

ーケティング

提供側ではなく、利用者の立場にたって

商品・サービスとを繋ぐハイタッチなコンシ

ェルジュ機能

企業・産業シーンに現れる潮流

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こうしたパーソナルな関係性は一朝一夕に築

き上げられるものではありません。短期的な収

益を狙うというより「生涯顧客化」といった息の長

いお付き合いをするための先行投資や、顧客の

プライバシー保護への細心の注意も、ますます

重要となってきます。

一方、“正しい選択”には“お得な選択”という

意味も含まれます。ネットショッピングなどオンデ

マンド販売の拡大は、商品・サービスの普及品

化=どこでも手に入る、といった価値を低下させ

る危険をはらんでいます。季節・場所・会員制な

ど、販売チャネルの限定によって、希少価値を高

める工夫も必要となってくるでしょう。また、ポイ

ントシステムも“お得な選択”基準として、ユーザ

の囲い込みには有効ですが、使用範囲の拡大

や即金性(実態的な値引き)などユーザに高ま

る利便性と、自らの企業収益の圧迫とのバラン

スに配慮し、廃止するという選択肢も拡がること

でしょう。

「個」マーケティングの高度化

インターネットショッピングで取り沙汰された、I

Tによる“直販化”は、単純な“中抜き”現象から、

外部に依存していたマーケティングを自ら行うと

いう、本来のかたちで高度化しつつあります。

必ずしも、ヒット商品・サービス=品質の優れ

たものではないように、情報・サービスが氾濫す

るなかでユーザに正しい選択をしたと思わせる

知覚品質の手法がますます重要となってきます。

そこには、新規開拓よりも既存顧客を重視す

るCRMやアフターケアの充実など既に考え方は

普及しつつある内容だけでなく、ユーザに情報

を選んでもらうといった視点も拡がっています。

高度情報化社会では、その情報量の多さゆえ

にユーザを混乱させたり、企業同士の情報交換

に対して不信感をもつこともしばしば。そこで本

当に役立つ情報をユーザ自身が選べるように、

ユーザに情報提供の許可をもらうというシステム

づくりが展開されつつあります(パーミッション・マ

ーケティング)。

この選手のプライバシーは守られます

ゴールしたら特別ボーナスよ!!

将来を考えて契約しているの ガンバレ!!

相手の弱点は×△□◎…○×△!!よ

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「ネットワーク型ビジネス」「ネットワーキング」と

いった言葉は既に古くから使われていましたが、

日本の産業界では企業提携や合併といった動

きが先行し、お互いの持ち味を生かした相乗効

果や新商品・サービスの開発といった事例は乏

しいのが実態でした。しかしながら、経済のグ

ローバル化(大企業への資本集中も含みます)、

IT社会の進展、そしてワークスタイル・意識の変

化が、中小企業の生き残り策の一つとして、ネッ

トワーク・ビジネスに本気で取り組まざるを得な

い状況を作りだしています。

上場企業では情報化投資がその中心となっ

ており、①基盤整備型、②コスト削減型、③付

加価値創造型の順に高い取り組み状況が報告

されていますが(情報通信白書2002)、競争力の

源泉が③付加価値や新たな価値創造へと今後

シフトしていくことは明らかです。また、コールセ

ンターに象徴されるように、ユーザと直接接する

場面での、過度なコスト優先・機能集約は、ハ

イタッチな情報に敏感な社会では、企業イメージ

を損ねる要因ともなっており、IT開発には「人資

源を活かす」という本来の方向性が強まっていく

ことでしょう。

既に具体化しつつある内容を含め、今後を

展望するポイントとして以下の動向に注目します。

企業・産業シーンに現れる潮流 多様化するネットワーク・ビジネス社会

ライフスタイル・ケア市場を中心とした企業融

合による新サービスの開発

企業の無国籍化――製販の現地化の進展

や他国市場へのオンライン進出

企業ノウハウを売る時代――ASP開発によ

る異業種支援など

遠隔サービスによるコスト・時間節約提案ビ

ジネスの拡大――ネット会議システム、e-ラ

ーニングシステム、医療、セキュリティ、各種

申請手続きシステムなど

家庭と企業を繋ぐネット家電

自発的ワークスタイルの多様化――フリーエ

ージェントという“縛られない”被雇用以外の

働き方、二足の草鞋をはく労働者の増加

セキュリティ、電子認証ビジネスの拡大

商取引における国際基準の制定

企業・産業シーンに現れる潮流

出所:「情報通信白書2002」ITと企業行動に関する調査

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業収益を損ねるとの認識も根強いことは否めま

せんが、「生活者意識の台頭」でも述べたとおり、

市民が求めている役割には、「儲けるな」ではな

く「事業を通じて地域社会に貢献して欲しい」と

いう要望が大きく打ち出されいることに注目し、

地域社会との関係性のなかで事業の再定義を

図っていくことが重要です。

しかしながら産業界には「消費者はわかるけ

ど、生活者って何?」という戸惑いもあります。そ

こで浮上するのがNPO・NGOとのパートナーシ

ップという視点です。“ないから作っちゃえ!”とい

った発想で、利益よりも課題解決を重視する事

業型市民活動が増えています。単なる資金援助

に止まらず、一つのモノやサービスに「収益事業

としての視点」と「手段として活用する視点」を融

合させていく、それも立派な地域社会への参加

手法なのです。

企業市民――本業を通じて社会参加する

政・官との癒着やコスト優先・効率化による品

質不良など、消費者・生活者への度重なる企業

の裏切り行為は、「企業はみな同じことをしてい

る」といった印象を、消費者・生活者に決定づけ

ています。「生活者意識の台頭」でも述べたとお

り、企業の健全性は従来にも増して大きく問わ

れる時代となっていきます。欧米から輸入された

「企業の社会的責任」という概念も、法令遵守は

もとより、環境保護、情報公開、人権尊重、雇用

における男女差別の撤廃などを基準に、広がり

つつあります。自治体におけるグリーン購入条例

や公共事業入札要項への反映、そして企業に

あっては内部告発制度等による社内マネジメント

の透明性の向上など、既に具体化が進みつつ

ある内容もありますが、こうした流れには、さらに

拍車がかかっていくことが予想されます。

低成長経済がつづくなか、こうした流れは企

出所:環境白書2002

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以上のように、生活シーン、産業・企業シーンに

現れる今後の潮流ポイントを予測してみました。

当プロジェクトでは、それら潮流の根底にある

「シングル社会」の構造や人々の価値観や行動変

化を基本に、そこから発生する様 な々関係性のな

かから新しいライフスタイル、新しい産業・企業スタ

イルが創造されていく─そんな仮説をたてながら、

旅行業の今後の対応を考えてみることとしました。

もちろん、その前提として旅行業の競合環境を

整理しておくことが重要です。“旅行会社の存在意

義が問われている”─冒頭の危意識を、もう少し具

体的に整理してみましょう。

1 余暇・レジャー市場自体の変化にともなう、異業種との

“可処分所得”“可処分時間”争奪戦。

2 IT革新によってもたらされたユーザーの“利便性”

(インフラ)や、宿泊産業、交通機関など旅行関係

企業・施設との“関係性”(代売機能)の変化。

3 障害者の自立・生涯学習・環境保護・国際交流な

どの分野を中心に、旅を「手段」として活動目的

次世代旅行業を展望するシングル社会のツーリズム

快適生活を支援する産業へ

をオーガナイズしている非営利組織等の拡大。

等々、競合環境は「同業他社」「価格」といった

軸を超えて多様化しています。そのような競合環境

に対して、旅行業界、あるいは個別の会社が独自

性を創造し、それを人 に々認知してもらわねばなり

ません。そのためには、「競合」から「融合」で新た

な価値を創造できるパートナーを発掘することも、

成熟市場ではますます重要となっていくでしょう。

そこで、当プロジェクトでは、上記3点を背景

に①ライフスタイル提案型ビジネス、②地域を“顧

客化”する、③次世代の情報戦略、といった観

点から、旅行業の次世代ビジネスモデルのコンセ

プトを考えてみることとします。

なお、これまで整理してきた各シーンに現れる

潮流への対応・周辺産業動向についても、個別

にそのポイントと課題について概要を掲載して

おきます。

次世代旅行業を展望する

生活シーンに現れる潮流と、旅行業ならびに周

辺産業・事業の主な対応をまとめたのが、右図で

す。記載以外の今後の展望について、個別にその

課題を列挙してみました。

1“シングル社会”の到来

FITサポートのさらなる高度化:モバイル端

末による、トラベルナビ・即日予約機能

留守中をケアする:ガーデニングなどの広

がり

ヘルス・ツーリズムの開発:温泉・保養療法な

ど科学的根拠の提示、治療旅行医学会との

提携

知育アミューズメントという視点から、チャイル

ドビジネスに参入

2新コミュニケーション時代

販売・訴求チャンネルの適材所化:何を、誰

と、そのための情報源は?

リタイヤしたエルダー層への溜まり場開発

性別消費のボーダレス:市場のメス化と同

様、女性同士向けオス市場の開発

カップル向け商品のさらなる開発:若年カッ

プルにも温泉利用の拡大が

3ユーザ主導の快適情報社会

ネット限定/ネット割引の検討(リテーラ対策

が課題)

プライバシー・ポリシィの明確化:海外旅行

「お伺い書」やパスポート等の扱い

オンライン販売の国際化に対応した旅行約款

の標準化

ネット販売と店頭販売の役割の明確化:ハイタ

ッチ・サービスの差別化

パーミッション・マーケティング

4“活時”─時を活かす社会へ

瞬もあれば緩もある:先物予約への対応も

強化

余暇開発士的、一般向け資格制度の開発

SIT開発については、後述

5リスク希少価値の高まるグローバル社会

リスク・マネジメント強化:高度な専門部署の

設置(企業内、業界内、多種アライアンス)

グローカル(他の文化圏の人たちにも理解でき

るローカリティ)と国際(交流)テーマの検証:BO

NSAI、SHODOなど

6生活者意識の台頭

各種サステイナブル・ツーリズムに対応したロ

ーカル・インタープリターの育成・支援

パンフレットのデジタル化

企業の社会的責任に関する研修強化──

環境/人権/遵法を中心に

消費者保護だけでなく、消費者(旅行者)教

育に対する仕掛けも──環境/人権など

Page 22: 生活環境/意識 消費行動/意識 Prolo 旅行会社の存在意義が問われている 当研究プロジェクトは、そんな漠然と拡がる危 機意識からスタートしました。「まとまったお金

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次世代旅行業を展望する競争から融合で、新たな価値創造

一方、産業・企業シーンの潮流と旅行業なら

びに周辺産業・事業の主な対応をまとめたの

が、右図です。異業種・非営利組織等とのパー

トナーシップに始まり、その先にある“コト”で融

合がキーワードとなっています。それは、ビジネス

のリスク回避や、社内にあっては“異分子”を排

除しない企業スタイルを築くことにも繋がるでし

ょう。

1“サービス業化”革命

情報量拡大の中で、“販売代理”から“購買

代理”は必須の課題に(後述)

旅館を中心とした宿泊施設のイールド・マネ

ジメント支援がBtoB最大の鍵へ:「手数料」

の「コンサル料」への質的転換も

2 市場の細分化に対応したブランド戦略

ガイド・添乗員の商品化(差別化)

旅程保証をブランドへ

アフターケア・マーケティングの高度化がユー

ザーを進化させる

商品内容より手配対応へのクレイムが多い旅

行業界

3 ライフスタイル・ケア・ビジネス

国内FITサポートメニューの開発とインバウン

ドへの活用:オンデマンド予約システム(その

場で予約。携帯利用に人が介在するガイダ

ンス)など。旅行会社のランドオペレータ化

手配プロセスに対する不安解消

留守中をケアする:ガーデニングなどの広

がり

仕事に替わる自己実現達成のサポート:知

識がなければ楽しみも膨らまない分野の洗

い出しと、ビジネスパートナー探し(SITのバ

リエーション)

一人旅対応の強化:キャパシティより、占有

権の視点で

海外旅行の安全・快適サービスには、同業

者アライアンスでメニュー開発も

ライフスタイル「提案」については、後述

4 「個」マーケティングの高度化

アフターケア・マーケティングの開発:手配範

囲はもとより、以外での過ごし方も対象に

ITによる迅速なシステム対応と、タイミング重

視のアナログ対応の使い分け

顧客ライフスタイル情報のシステム化:異業種

との提携も視野に

プライバシー・ポリシィの明確化

パーミッション・マーケティング

5 多様化するネットワーク・ビジネス社会

フリーエージェントの活用:専門分野(地域)

ごとのアドバイザリーへ(旅行企画、旅行同

行も)

ネット会議システムも視野に入れたBTM

ランドオペレータなど海外関係諸機関のシス

テムダウンも視野に入れたリスクマネジメント

6 企業市民─本業を通じて社会参加する

環境(含むヘリテージ)・街づくり・国際交流

分野を中心としたNGO・NPOとのパートナー

シップ強化

企業の社会的責任に関する研修強化:環

境・人権・遵法を中心に

次世代旅行業を展望する

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ライフスタイル・ケア・ビジネスで見られたビジネ

ス・コンセプトは、旅行業におきかえると、旅行を

安全・快適に楽しめるための「不安解消サービ

ス」として、既に様々なメニューが提供されてい

ます。国内外旅行に高まるFIT志向への対応と

しても、今後も時代に合わせたメニューの開発

が必要でしょう。

しかし、それだけではもう一方の柱である“目

標感・達成感に訴える”メニューとはなりえませ

ん。生活者のライフスタイルに新たな価値観を与

える――体験型商品の開発が必要となってきま

す。既に“テーマ性旅行”“目的特化型旅行”とし

て、あるいは教育旅行の目玉としても、取り組ま

れているコンセプトです。

こうした商品は、いわゆる“こだわりの一品”と

して、中堅クラスの旅行会社を中心に、顧客の

絞り込みとともに開発が進められてきました。生

活シーンの潮流でみたように、「根源的」で「上質

な日常」を志向する人々が増えていく成熟社会

では、将来性ある商品として、さらに広がりをみ

せていくことでしょう。

しかし、この世界で商品の差別化を図ってい

くためには、従来からの“代売業”から、自らが

“プロダクション”になるという発想転換が必要で

す。プロダクションには、商品企画、添乗業務、

マネジメントにかなりの専門知識を要求されると

同時に、目的達成が中心となるだけに、何よりも

旅行者としての感性が求められます。与えられ

る前に、自らの関心事として既にそれなりの知識

を蓄えている人材を公募する、アドバイザリー制

度を導入するなど、コストと市場性とのバランスを

次世代旅行業を展望するライフスタイル提案型ビジネス――“代売業”から“プロダクション”への脱皮

出所:「観光を支える旅行ビジネス」(佐藤喜子光 著)

根源性探求型:「共生」をキーワードとし

たオルタナティブ・ツーリズム。エコツーリズ

ム、エスニックツーリズム、ボランティアバケ

ーション、アグリツーリズムなど。インタープ

リターの選定が鍵を握ります。

文化志向型:絵画、陶芸、音楽、ファッシ

ョン、食文化、世界遺産など

エンターテイメント志向型:文化的要素も

含め、スポーツ、フィッシング、映画(ゆかり

の地など)、演劇など。ここには、フォーク

ダンス発祥の地を訪れて交流といった懐

古的な要素も含まれます。

一方、ツアーの専門性・特殊性の高まりとは裏

腹に、“マニア”以外にもテーマへの関心が広が

ることも予想されます。“経験してみなければわ

からない”も大きな魅力ではありますが、体験性

を損なわない程度の事前教育に配慮すべきで

しょう。場合によっては、ホテルとのタイアップで

現地の食文化を体験したり、専門学校とのタイ

アップで事前の集中語学セミナーを開催するな

ど、事前のオプションメニューを用意する。さらに

は、旅行後の交流会開催や、経験者の説明会

への参加など、リピータ化を促す仕組みづくりに

も工夫を凝らすべきでしょう。

見極めながら、より効果的な運営手法を考えて

行く必要があります。

主な具体的テーマには、以下のようなジャンル

が考えられます。

次世代旅行業を展望する

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なお、今後は観光行動においても様々なコミ

ュニケーションが増えていくことが予想されます。

その一つの舞台としてイベントを仕掛けていくこ

とも重要です。インバウンドの拡大やコンベンショ

ン誘致も視野に入れつつ、一方的なローカリテ

ィの発揮ではなく、そこに参加できる仕掛けにも、

知恵を絞るべきでしょう。そして、何よりもオーガ

ナイザーに求められることは、集客業務のマネジ

メント能力であることを忘れてはなりません。ダイ

レクト・マーケティングや様々なメディアが発達す

るなかで、集客管理に責任を果たすことこそ、

旅行業本来のモチヤの技と言えます。

旅行業の契約は、これまで宿泊施設を中心

に個々の旅行関連機関に限定されていました。

しかし、旅行者が訪れているのは「地域」であっ

て施設だけではありません。今までは観光資源

に乏しいと見なされていた地域であっても、そこ

での潜在的な観光素材の発掘や開発によって、

新しい旅行(滞在)スタイルが提案できる──そ

んな“地域ブランド”の創造自体を、ビジネスとし

て捉える視点が重要になってくるでしょう。

地域を“顧客化”する──地域ブランド・クリエータへ

“旅行者の目的意識が顕在化してきている”

――それは、情報化社会の進展とともに販売サ

イドが最も敏感に感じていることがらです。単な

る有名ホテル・レストランの指定という時代から、

テーマ性が意識される時代へと変わってきてい

ることは、言うまでもありません。先に述べたラ

イフスタイル提案型ツアーとの専門性の違いこそ

あれ、ジャンルはほぼ同じと考えて良いでしょう。

一方、それは例え特徴ある観光対象であって

も、素材の組み合わせだけで商品価値をアピー

ルできる時代が終わりつつあることを指し示して

います。スポーツ観戦やコンサート・ツアーに象徴

されるように、「希少性」や「時限的性格」が強い

素材(この場合はチケット)を占有することで、商

品の価値を高めるという考えもあります。しかし、

「テーマ」より「目的」の方が先鋭化すればするほ

ど、スポットとの往復といった旅行期間の短期化

や、テーマ性を狭めてしまう可能性も否めませ

ん。

そこで考えなくてはならないのが、ライフスタイ

ル提案のもう一つの柱となるディスティネーショ

ン・マーケティングです。旅行者が志向するテー

マに沿って潜在的な観光資源を発掘し、そこへ

行けば「こんな経験ができます」「こんな効果が

あります」という地域の「過ごし方」を提案します。

そして、その受け皿と観光市場を地域と共に開

発する。そのオーガナイザーとして旅行会社が

機能していこうというコンセプトです。ある意味で

は、地域のテーマパーク化とも言えます。あらゆ

る対象に同じ見せ方をする必要はありません。

あるターゲットには「先端性」であっても、別のタ

ーゲットには「アミューズメント性」と感じることもあ

るでしょう。海外諸国のPR手法をみても、一つ

の地域に2つの顔は決して珍しくないことです。

一方、ここではオーガナイザーの中立性が問

われます。協働者は多様なメンバーで構成され

なければなりませんが、例えば、街づくりにおけ

る青年会議所やNPOの活躍などのように、地域

全体の“やる気”(メリットの共有)を醸成させる

活動主体がどこにあるのか、他地域の成功事

例だけに惑わされず、独自に分析することも重要

でしょう。

出所:「めざせ!カリスマ観光士」(佐藤喜子光 著)

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旅行業は、情報の組み合わせによって商品を

作りだしているという点で情報産業の一員に違

いありません。しかし、実際に販売をしているも

のは、情報の先にある関連施設・機関との「契

約」や、それらを組み合わせた「旅行計画」であ

って、情報通信、情報処理、情報コンテンツ、情

報機器といった情報産業とは大きく異なります。

特に、企画商品では生活者の潜在的なニーズ・

ウォンツを、旅というかたちで具体的な行動に変

える役割を果たしています。“感動を売るビジネ

ス”と言われる所以は、まさにここにあると言って

良いでしょう。

しかし、情報化社会の進展や多くの産業が

サービス業化(アメニティ産業化を含む)を果たし

ていくなかで、その代替圧力はますます高まって

います。旅行へのニーズは衰えていないものの、

旅行会社を経由することのメリットや、旅行が他

の手段よりも生活者の欲求を満たすものである

ことをアピールできなければなりません。これま

で述べてきた「ライフスタイル提案型ビジネス」「地

域を“顧客化”する」は、その後者の流れに沿う

ものです。

一方、流通という視点で旅行商品をとらえた

とき、インターネットや地上波デジタル放送など、

旅行商品は素材を中心に、非対面販売へと大

きくシフトしていくとの見方が支配的になっていま

す。既存の旅行会社も新興オンライン・トラベ

ル・エージェンシーとの差別化を図るため、店頭

と同様の品揃えを提供するとともに、いわゆる

“クリック&モルタル”――リアル店舗とITとの融

合のもと、パッケージ商品の販売態勢を整えつ

つあります。

ここで今後のキー・コンセプトとなるのは、情報

過多の時代に、ユーザに代わって適切な情報を

収集・検索する――「販売代理」から「購買代理」

という代理機能の転換です。情報過多は販売

側とて同じこと。方面別はもとより、「音楽」「スポ

ーツ」「自然」など、テーマ別のターゲットの絞り込

みで、販売サイドの「購買代理」機能を高度化さ

せることが必要です。

さらに、旅行業の特性を活かした情報・商品

提供には、もう一つ“旅行中”のサポートが考え

られます。今後も高まるであろう旅行者のFIT

志向には、“いざという時”のサポート・メニュー

が付加価値となります。ITの進展と旅行者のモ

バイル端末普及度を考えれば、これまで海外旅

行で実施してきたサポートメニューを、国内外問

わずさらに高度化させて置き換えることが可能

でしょう。自由、きままであっても、いざという時に

はオペレータに繋がってその場で手配ができる、

あるいは適切な道順を教えてくれる、そんなナビ

ゲーターとして旅行会社が機能していくことが考

えられます。

こうした旅行情報は、リアル店舗にも活用でき

ます。日本では、観光地の情報サービス機能が

乏しいことは否めません。海外では定着してい

るランドオペレータ機能を日本の店舗に導入する

――着地型の営業スタイルが考えられます。ナビ

ゲートもランドオペレーションも、その地域で担う

ことでハイタッチなサービスが可能になります。

インバウンドを含めたFIT型の旅行者のニーズ

やウォンツに直に触れることによって、お膝元で

も気が付かなかった散策ルートの開発等にも寄

与することでしょう。

次世代旅行業を展望する次世代の情報戦略――旅行会社の存在意義への新たな視点

次世代旅行業を展望する