7
Ίʹ ɹͷղͰΔͰഎͷͱΛபͱɼ பΛߏΔݸʑͷΛͱΑͿɽࡏݱͷʰղ ޠʱ 1ʣ ʹͱͳ 2ʣ ɽಈͰ ɼͱபͱͷผʹΘΕɼ ಈͱʹΛͱͲΊΔɽ·ಉ ҩͰচͰΧϦΤεೋͳͲͷප ʹΔɽώτಈѻൺղͰ૬ಉ ͷͷʹಉশΛ༻ɼ૯শͱ෦শݫʹ ͳͱޡղΛটͷͰɼͰΔղ༻ʹޠڌΔΑ৺Δɽ ɹͷͰΛ෦Ґͱʹɾڳɾɾઋ ɾඌͱ 5 ʹఆɼಛΛهड़Δɽ ਓମղͷڭՊॻͰ·ɾڳɾɾઋɾඌ ΓͰɼͳͷ 5 ʹΕΔͷઆͳ ɽղਓମͲߏΛΔͷ ΛࡌهΔମܥΒͰΔɽΕʹରຊདྷͷ ܗଶͰੜͳܗΛΔͷɼΘ ܗͷಾղʹओ؟ΔɽࡏݱͷΛղͷʹաڈͷ ΛͻͱΑʹɼݱੜͷੜΛΔͷʹԑͷԽ ݪతͳੜͷੜΓʢΘΏΔੜΔԽੴʣ ΛরΔɽΕݹੜൺղత๏ͰΔɽ ɹචΕ·Ͱઈ໓ᄡೕͷੜମɼੜ׆Λ ݩΔඞཁΒଟͳಈͷܗɼثͷ ܗঢ়Λൺɼͱɼͱੜମͱͷ૬๏ଇ Λ୳ɽͰਐԽͷ؍Βɼ·Γ తͳͷͷݟͰோΊபͱΛհΔɽ ɹ 1 ɽͷ෦ҐͷਐԽతج ɹॳΊʹͷ 5 ɼɾڳɾɾઋɾඌͳ ͳͷɼಈͷਐԽΛ;ΓฦߟΈΔɽώτ ಈͷҰһͳͷͰɼபͷݯىΛߟΔͱʹ ڕ·Ͱͷ΅ΔඞཁΔ 3ʣ ɽ ɹڕͷͰώτͷମʹΔ෦ҐΛ৺ͱ ɼ಄ͷޙΒඌͷ·Ͱ΄΅ҰఆͷܗΛΔɽ ͱ؈ࡪͷதʹΔͷ৺Ͱɼԁப ܗͰ໘ԁਲ਼ʹܗԜΜͰΔɽͷ 2 ͰɼલΛ; ͱɼޙඌͱɽ৺ ͷܗͰผͰͳɼԼʹ৳ͼΔಥىΛΈΕ؆ ୯ʹݟΘΒΕΔɽ 239 ֎ՊɹVOL.ɹ 28 NO.ɹ 3ɹ2014 12 ݹڀݚॴʗ˟173ʵ0034 ڮ45ʵ25ʵ303ʤ࿈བྷઌɿݘ௩ଇٱʥ Address reprint requests toɿNorihisa Inuzuka, D.Sc., PaleoʵVertebrate Institute, 45ʵ25ʵ303 Saiwaiʵcho, Itabashiʵku, Tokyo 173ʵ 0034, Japan பͱͷܗMorphology of the Spinal Column and Vertebrae ݘɹ௩ɹଇɹ ٱݹڀݚReviews and Opinions ఆҩʵಋҩͷΊͷϨϏϡʔɾΦϐχΦϯ Abstract ɹɹThe spinal column of a human body must support the weight of the upper half of the body including the head and the upper limbs, befitting to the bipedal upright posture. Vertebral bodies of the lower lumbar are larger than the upper one for this support. Since the ventral side of the spinal column has a thorax, cervical and lumbar lordoses are indispensable to bring the center of gravity close to a centroidal line. Therefore, the thickness of the inferior lumbar vertebrae are greater ventral- ly, and an intervertebral disk is thick, and wedgeʵshaped. Since the weight shifts forward and back- ward as to the standing and the sitting position, the angle of a pelvis must be changed, and a sacrum and lumbar vertebrae cannot be unified. The lumbar vertebrae at the time of a walk should take the rotational shear, between an upperʵlimbʵthorax block and a lowerʵlimbʵpelvis block, since they can hardly rotate due to the dissociation of the center of the rotary axis and the actual center of the vertebral bodies. The situation results in propensity for disk herniation or compressive fractures. Key wordsɿ comparative osteology functional morphology morphology spinal column vertebrae Spinal Surgeryɹ 28ʢ3ʣ239ʵ245ɼ2014

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Page 1: 認定医 Reviews and Opinions - J-STAGE

はじめに 骨の解剖学である骨学では背骨のことを脊柱といい,

脊柱を構成する個々の骨を椎骨とよぶ.現在の『解剖学

用語』1)に脊椎や脊椎骨という骨はない2).ただ動物学で

は脊椎,脊椎骨とも脊柱と椎骨の区別もせずに使われ,

脊椎動物という分類名に名残をとどめている.また同じ

医学でも臨床分野では脊椎カリエスや二分脊椎などの病

名に残っている.ヒトも動物も扱う比較解剖学では相同

のものには同じ名称を用い,総称と部分称は厳密に使い

分けないと誤解を招くので,できるだけ解剖学用語に準

拠するよう心がけている.

 その骨学では椎骨を部位ごとに頚椎・胸椎・腰椎・仙

椎・尾椎と 5 つに分けて定義し,特徴を記述している.

ただし人体解剖学の教科書でもまず頚・胸・腰・仙・尾

ありきで,なぜこの 5 つに分かれているかの説明はな

い.そもそも解剖学は人体がどういう構造をしているの

かを記載する体系だからである.これに対して本来の形

態学では生物がなぜそういう形をしているのか,いわば

形の謎解きに主眼がある.現在の問題を解くのに過去の

歴史をひもとくように,現生の生物を知るのに類縁の化

石や原始的な生物の生き残り(いわゆる生きている化石)

を参照する.これが古生物学や比較解剖学的方法である.

 筆者はこれまで絶滅哺乳類の姿勢や生体,生活様式を

復元する必要から多様な脊椎動物の骨格や体形,器官の

形状を比較し,骨と骨格や,骨格と生体との相関や法則

性を探ってきた.ここでは進化の観点から,つまり歴史

的なものの見方で眺めた脊柱と椎骨を紹介する.

 1 .椎骨名の部位区分の進化的基礎 初めに椎骨の 5 区分,頚・胸・腰・仙・尾がなぜそう

なのか,脊椎動物の進化をふり返って考えてみる.ヒト

も脊椎動物の一員なので,脊柱の起源を考えるときには

魚類までさかのぼる必要がある3).

 魚類の椎骨ではヒトの椎体にあたる部位を椎心とい

い,頭の後から尾のつけ根までほぼ一定の形をしている.

たとえば鮭缶の中に混ざっているのが椎心で,低い円柱

形で両面が円錐形に凹んでいる.椎骨の区分は 2 種類

で,前半を 腹 ふく

椎 といい,後半は尾椎という.両者は椎心つい

の形では区別できないが,上下に伸びる突起をみれば簡

単に見わけられる.

239脊髄外科 VOL. 28 NO. 3 2014 年 12 月

古脊椎動物研究所/〒173-0034 板橋区幸町 45-25-303〔連絡先:犬塚則久〕Address reprint requests to:Norihisa Inuzuka, D.Sc., Paleo-Vertebrate Institute, 45-25-303 Saiwai-cho, Itabashi-ku, Tokyo 173-0034, Japan

脊柱と椎骨の形態学

Morphology of the Spinal Column andVertebrae

犬 塚 則 久古脊椎動物研究所

Reviews and Opinions認定医-指導医のためのレビュー・オピニオン

Abstract

  The spinal column of a human body must support the weight of the upper half of the body including the head and the upper limbs, befitting to the bipedal upright posture. Vertebral bodies of the lower lumbar are larger than the upper one for this support. Since the ventral side of the spinal column has a thorax, cervical and lumbar lordoses are indispensable to bring the center of gravity close to a centroidal line. Therefore, the thickness of the inferior lumbar vertebrae are greater ventral-ly, and an intervertebral disk is thick, and wedge-shaped. Since the weight shifts forward and back-ward as to the standing and the sitting position, the angle of a pelvis must be changed, and a sacrum and lumbar vertebrae cannot be unified. The lumbar vertebrae at the time of a walk should take the rotational shear, between an upper-limb-thorax block and a lower-limb-pelvis block, since they can hardly rotate due to the dissociation of the center of the rotary axis and the actual center of the vertebral bodies. The situation results in propensity for disk herniation or compressive fractures.

Key words:comparative osteologyfunctional morphologymorphologyspinal columnvertebrae

Spinal Surgery 28(3)239-245,2014

Page 2: 認定医 Reviews and Opinions - J-STAGE

 食材としての魚では背骨のことを中骨とよび,中骨よ

り上には 背 せ

身 ,下にはみ

腹 はら

身 がつく.魚の身は筋からなり,み

比較解剖学では脊柱より上にあるのを軸上筋,下にある

のを軸下筋という.正式にはそれぞれ背側体幹筋,腹側

体幹筋である.体幹筋は脊柱と同様,体節ごとにわかれ,

隣接する節の間の筋間中隔の骨化したものが 棘 である.きょく

上に伸びるのを神経棘といい,ヒトの椎骨の棘突起にあ

たる.神経棘は頭から尾まで一貫しているが,下に伸び

る血管棘は後半にしかない.前半腹側には左右に肋骨が

つくのでそこは腹椎で,血管棘のつくのが尾椎である.

 両生類では体肢で脊柱を支えるためにヒトの寛骨にあ

たる腰帯が上に伸びて脊柱の一部と関節する.骨学では

仙骨と腸骨の関節を仙腸関節と呼ぶが,進化的にみると

上に伸びた腸骨がある 1 つの椎骨の肋骨と接したとき

にそれが仙椎と定義されることになる.仙椎が決まれば,

より前の椎骨を仙前椎と一括し,より後は尾椎のままで

ある(Fig. 1).

 爬虫類では頚部が伸びて胸郭を構成しない頚椎が区別

される.哺乳類になると頚肋は頚椎と癒合して横突起の

横突孔腹側半となり,腰肋も椎体と癒合して肋骨突起と

なり,胸部だけは胸郭を構成する肋骨が癒合せずに関節

するままで残る.というより肋骨が関節する椎骨を胸椎

と定義することにより,仙前椎が頚椎,胸椎,腰椎に三

分される.胸椎と腰椎の境では時に左右で肋骨の癒合と

関節との状態が異なり,どちらとも呼べなくなる.これ

を胸腰移行椎という.両生類で 1 つの仙椎は,爬虫類,

哺乳類と進化し大型化するにつれて数を増し,成体で複

数の仙椎が癒合したものを仙骨という.

 こうして哺乳類の脊柱は 5 種類の椎骨に区分されて

いるので,人体の椎骨の中でも尾椎が最も歴史が古く,

ついで仙椎,頚椎が定義され,胸椎と腰椎の区別が最も

新しいことになる.

 2 .脊柱弯曲の進化と機能的意味 1  脊柱弯曲の進化

 ヒトの脊柱弯曲は哺乳類の中でも独特のもので,頚前

弯・胸後弯・腰前弯に区別される.実はこれも発生年代

を異にする進化の産物である.そもそも脊椎動物は脊索

動物の脊索の周囲に骨化が生じて生まれたものである.

現生の脊索動物はナメクジウオに代表される.脊索は左

右の体側の筋が交互に収縮して痙攣性に泳ぐときに,体

が提灯のように縮んでしまわないよう心棒として発生す

る.このため魚類の脊柱も基本的に棒状で,椎心の中心

には脊索の通る小孔が貫通している.

 肺魚やシーラカンスで知られる 総 そう

鰭 き

類 という魚類の一るい

部が約 3 億 5,000 万年前に両生類に進化すると,生息環

境が水中から浅瀬を通って陸上に変化する.すると水中

で受けていた浮力がほぼなくなり,重力に抗して体を支

えなくてはならなくなった.腹側に突きだす体肢で内臓

をぶら下げた脊柱を支える必要から,まず背側に凸弯し

てヒトの胸後弯にあたるものができる.脊柱はいわば前

肢と後肢の間に渡した橋桁ないし梁にあたるので,魚類

のように直線状のままだったとすると内臓の重量に堪え

かねて中だるみとなるだろう.そこであらかじめ上に凸

弯していれば,アーチ橋と同じ理屈でどの椎骨にも均等

240 脊髄外科 VOL. 28 NO. 3 2014 年 12 月

仙前椎

胸椎頚椎

腰椎 仙骨 尾椎

尾椎仙椎

〈魚類〉

〈両生類〉

〈哺乳類〉

腰帯

Fig. 1 椎骨の分化(文献 4 より引用)

類人猿

哺乳類

爬虫類

両生類

魚類

頚前弯

胸後弯

人類

頚前弯

胸後弯

腰前弯

B

G

Fig. 2 脊柱弯曲の進化B:浮力,G:重力.

Page 3: 認定医 Reviews and Opinions - J-STAGE

に圧力がかかり,最小の材料で最強の強度が得られる.

 姿勢が低くあごを地面につけている両生類では口を開

けるときに上あごを頭ごと背側体幹筋つまり軸上筋で引

き上げなければならない5).ところが頚が伸びた爬虫類

ではふだんから頭を一定の高さに保っておくことで開口

を容易にした(Fig. 2).頭が地面から離れれば口を閉じ

る咀嚼筋を脱力するだけであごの重みで自然に開く.お

そらく頚前弯はこうして 3 億年前よりのちに生まれた

のだろう.この状態は四足性哺乳類でも維持され,類人

猿まで受けつがれている.

 腰前弯ができたのは 700 万年前ごろ人類が生まれて

からである.そもそも人類は直立二足姿勢をとる特殊化

した類人猿といってよい.模式的にみると四足歩行性の

サルの姿勢では脊柱と後肢がほぼ直角をなし,直立した

ヒトではそれが 2 直角,つまり一直線状になる.このサ

ルの四足姿勢から直立姿勢になるとき,股関節,骨盤自

体の形,そして腰椎の弯曲度の 3 つの部分での改変が必

要だが,成書5)にあるように水平に伸びる脊柱を立てる

90 度はこの 3 要素で 30 度ずつ分けあっているわけで

はない.

 仮にチンパンジーのような類人猿の腸骨を切ってヒト

のようになるまで回すと,仙骨が前にきすぎて骨盤腔が

なくなる.実は仙骨の傾きは類人猿と同じ 30 度くらい

のままで,残り約 60 度分は下位腰椎の椎体と間の椎間

円板の形とでまかなっている.このため第 4,5 腰椎の

椎体は前縁の高さが後縁の高さよりもかなり高く,横か

らみると台形となる.また椎間円板の形も横からみると

後に尖る楔形となっている.

 2  脊柱弯曲の反復

 こうして脊柱弯曲は,�1 胸後弯,�2 頚前弯,�3 腰前弯

の順に進化してきたが,これは個体発生でも同じ順序で

ごく短時間に圧縮してくり返す現象がみられる.ヒトの

胎児は一様に背中を丸めているが,この脊柱全体の後弯

は胸後弯と仙尾の後弯に終生受けつがれる.ふつう赤

ちゃんは生後 6 カ月ほどで「首がすわる」といわれるが,

この頃にまず頚前弯が生まれる.最後の腰前弯ができる

のは 12~18 カ月でつかまり立ちをして歩き始める頃と

なる(Fig. 3).

 このように数億年をかけた系統発生上の形態変化が個

体発生でごく短時間に圧縮されてくり返す現象をヘッケ

ルは生物発生原則と呼び,ふつう反復説として知られて

いる.この反復は人体の多くの器官で観察されている6).

したがって,個体発生上でみられる脊柱弯曲という形態

変化が実際に進化の過程でも起きたと考えられる.

 3  人体の前後のバランス

 脊柱弯曲はヒトの直立二足姿勢に不可欠のものであ

る.ふつう脊柱のことを「背骨」とよぶので胴体の背中

がわに偏っていると思いがちで,人体解剖の骨格図にも

胴体の背中側に背骨が描かれているものが出まわってい

る.しかし実は直立姿勢では頭も胴体も重心の位置に支

柱がなければ安定して支えられないので,断面でみると

頚椎や腰椎は前後のほぼ中心にくるはずである.じっさ

い,人体をそのまま正中断したプラスティネーション標

本では頚椎や腰椎が頭や胴のほぼ中心を通ることがわか

る(Fig. 4).

 ヒトの胸後弯は脊柱の腹側に胸郭があるために存在し

ている.このため直立したときには胸郭の重心を体全体

の重心線に近づけることができる.胸郭の横断面の輪郭

は四足性哺乳類では縦長楕円形だが,ヒトでは横長の楕

241脊髄外科 VOL. 28 NO. 3 2014 年 12 月

胸後弯

〈胎児〉〈乳児〉(6カ月)

頚前弯

腰前弯

〈幼児〉(12~18カ月)

Fig. 3 脊柱弯曲の個体発生(文献 4 より引用)

Fig. 4 ヒトの脊柱の正しい位置と脊柱弯曲

頚前弯

胸後弯

腰前弯

Page 4: 認定医 Reviews and Opinions - J-STAGE

円形である.しかも楕円の中心部に向かって胸椎の位置

が背中がわからめり込む形になっている(Fig. 5).この

ことからも脊柱がなるべく体の中心部を通る重心線に接

近していることがわかる.

 3 .体肢の姿勢と脊柱運動の進化 両生類や爬虫類では体肢を胴体の横に張り出す側方型

の姿勢をとり,体幹は魚類時代から引き継いだ側方波動

をそのまま利用して歩く.たとえば右手と左足先の爪を

地面に引っかけて,それらを支点にして体を引く.する

と前半身は右手の先を回転中心として S 字形の上半分

の軌道上を前に進み,後半身は左足の先を中心に S 字形

の下半分の軌道上を前に進む.次に左手と右足というよ

うに左右交互に回転中心を変えることで蛇行しつつ進

む.

 哺乳類では体肢を胴体の下に伸ばす下方型に変わる.

すると体肢が矢状方向の運動にかぎられるので,体幹の

蛇行はなくなる.体の重心の位置は高くなるので不安定

となるが,足が伸びたおかげで 1 歩の歩幅が長くなり速

度が増す.また下方型では体を持ち上げるための体重支

持筋と推進筋が兼用できるので,効率がよくなる.さら

に,下方型の哺乳類では腰椎が胸椎とわかれて独立した

ことにより,前肢-胸郭ブロックと後肢-骨盤ブロック間

の背腹屈伸運動が可能となる.むしろ下方型の姿勢が運

動の邪魔になる前後のブロック間の肋骨を退化させ,椎

体に癒合させた結果,腰椎ができたのだろう.

 人類の直立姿勢では重い下肢を左右交互にふり出すの

で,下肢-骨盤ブロックに回転モーメントがかかり,上肢-

胸郭ブロックには自然にそれと逆位相のモーメントが生

まれる.こうしてブロック間の腰椎には 1 歩ごとに強い

ねじれ運動が生じることになった(Fig. 6).

 1  脊柱運動と椎間関節面の向きの分化

 この脊柱運動の向きは椎間関節面の向きから推定でき

る.両生類のサンショウウオや爬虫類のトカゲやヘビで

は文字どおり首尾一貫して水平位で,関節面に直交する

回転軸は背腹方向である.つまり側方波動運動を示して

いる.

 哺乳類の腰椎の椎間関節面の向きは矢状位である.つ

まり関節面に直交する軸は横方向に走るのでおもな体幹

運動は背腹運動となる.走るときに体幹運動も加わる食

肉類,とくに柔軟なネコ科のチーターでは関節面の向き

がよくわかる.ヒトの腰椎関節はゆるく,頭方からみた

関節面は角の丸い L 字形で,側屈と前後屈,回旋ができ

ることを示している.

 胸椎は両生爬虫類以降一貫して水平位のままなので,

関節面に直交する回転軸は背腹方向で,直立したヒトで

は額の面に平行な前頭位にあたる.頚椎は四足性の多く

の哺乳類では胸椎と同様だが,ヒトではこの面は水平位

に近づく.つまり直交する回転軸が頭尾方向に近づく.

すなわちヒトの椎間関節面の向きは胸椎の前頭位が最も

古い爬虫類時代の形を残し,腰椎には哺乳類時代の矢状

位に直立後の前頭位が加わり,頚椎では前頭位から水平

位への移行段階にあるといえる(Fig. 7).

 したがって 3 軸の運動ができるヒトの腰椎での体幹

運動も,側屈が最も古い魚類時代の名残で,前後屈が哺

乳類時代,そして回旋が最も新しい人類らしい運動とい

える.じっさい胸郭の形をみても猿人段階では類人猿と

同じ末広がりである.下部がすぼまってビヤ樽形になり,

242 脊髄外科 VOL. 28 NO. 3 2014 年 12 月

直立型人類 下方型哺乳類

Fig. 6 体肢の姿勢と体幹運動の比較(文献 4 より引用)側方型爬虫類:側屈,下方型哺乳類:背腹屈,直立型人類:回旋.

側方型爬虫類

〈魚類〉

〈ヒト胎児〉

〈両生類〉

〈女性〉

〈哺乳類〉

〈男性〉

胸椎

肋骨

胸骨

Fig. 5 胸郭断面の比較と発生(文献 4 より引用)上段:比較解剖,下段:ヒトの発生と性差.

Page 5: 認定医 Reviews and Opinions - J-STAGE

ウエストができるのは原人段階のホモ属となってからで

ある.

 2  脊柱の機能形態学

 以上,脊柱の姿勢と運動の進化をみてきた.ここでは

まず姿勢と運動の進化を機能形態学的にふり返ってみ

る.

 水生の魚類では重力と浮力がつり合うので,脊柱も姿

勢の維持よりは体幹筋の付着部位として働く.尻尾と尾

びれを左右に振って水を後に押し,その反作用で前進す

るので,体の重心の真後から押す前後方向に長い棒状の

脊柱が理にかなっている.個々の椎体も頭の後から尻尾

のつけ根までほぼ同大である.上陸した四足動物では水

の浮力が働かないので重力に抗して体を支える必要があ

る.脊柱は前肢と後肢を橋脚とする橋桁の役を果たす.

橋桁はいわゆる両持ち梁で,背側に凸弯するアーチ形の

胸後弯ができる.爬虫類になると先にのべた理由から頚

前弯ができる.

 一般に動物の体の中ではおもな推進器官が最も大型化

する.たとえば鯨や海牛類など二次的水生動物では体幹

運動が推進の主役となり,魚類のような強力な尾椎が復

活する.陸生走行獣でも蹄行性の大型有蹄類では脊柱が

固い梁となるが,趾行性の食肉類では腰椎がのびて体幹

運動が体肢運動を補う.一方,樹上性の霊長類は体幹の

わりに体肢が長く大きくなる.

 同じ霊長類でも地上を四足歩行するニホンザルでは前

肢と後肢の長さがほぼ等しいが,本来腕渡り動物の類人

猿では前肢が長くなる.テナガザルでは振り子の腕にあ

たる鎖骨から手までが長く,錘にあたる胴体は丸く固め

ている.地上に降りたチンパンジーは前肢のほうが後肢

より長いので手背を接地する手背歩行ないし拳歩行

(ナックルウォーキング)をする.このため脊柱は斜めに

なる.直立したヒトでは前肢がロコモーションから解放

された結果,ほかの類人猿とは逆に下肢のほうが上肢よ

りずっと長くなる(Fig. 8).

 人類は類人猿から進化したので,地上で下肢だけで立

ち上がった.ここで脊柱の役割はひと塊の体幹の芯から

上半身全体を支える大黒柱となる.四足性の哺乳類では

胸郭と骨盤をつなぐ梁だったものが縦方向の柱になった

ので,個々の椎骨にかかる力の向きと大きさが大きく転

換することになった.

 4 .進化からみたヒトの腰椎 解剖学では骨の機能として体の支持と運動の基礎があ

げられる.支持というのはまさに体の骨組としての骨で,

運動の基礎というのは筋の付着点やテコの腕としての役

割である.これらは骨に対する要請が異なるので,分け

て考えなければならない.たとえば立つことと歩くこと

とは静止と運動の差にすぎないが,物理的な物体として

みたときには安定性と運動性という相反する特性が求め

243脊髄外科 VOL. 28 NO. 3 2014 年 12 月

Fig. 8 霊長類の前(上)肢骨と後(下)肢骨(右側)の比率(文献 7 より引用)

左:前肢骨(後面),右:後肢骨(前面).最長の肢骨の全長と関節の位置を揃えてある.

テナガザル ヒトチンパンジーニホンザル

Fig. 7 ヒトの頚椎・胸椎・腰椎における椎間関節面の向き

胸椎頚椎 腰椎

前頭位水平位へ 矢状位から

Page 6: 認定医 Reviews and Opinions - J-STAGE

られる.人工物でいえばスカイツリーのような建物と車

のような乗り物の差にあたる.安定を求めるには下ほど

大きく広がっているほうがよく,動くためには重心が高

く,地面との接触は狭いほど効率がよくなる.じっさい

脊椎動物は体の重心の位置が高くなるように進化してき

た2).重心の位置は高いほど不安定となるが,この倒れ

ようとする力を推進力に変えている.ヒトが歩くのも重

力の助けを借りて倒れ続けていることになる.

 姿勢の進化では静的な安定性,つまり立位でのバラン

スを考える.脊柱の腹側に胸郭があるために直立したと

きに腰前弯ができたことと,脊柱を立てたために上半身

の支持の必要から頚椎から腰椎の椎体の大きさが下のも

のほど大型化したことである.四足性のチーターでは頚

椎と胸椎の大きさが比較的一様だが,脊柱を立てている

ワラビーでは下ほど大きくなる.ヒトの腰椎もまったく

同じ理由から大きい(Fig. 9).

 また,前述のようにヒトの仙骨の傾斜は類人猿の 30

度とあまり変わらず,残り 60 度をおもに腰椎部で立た

せるために椎体の形自体も前高が後高よりも高くなり,

椎間円板も同様に形が歪んでいる.

 いっぽう,運動の進化では四足歩行の矢状面上での屈

伸運動にかわって体軸まわりの回旋運動が中心となる.

しかも胸郭ブロックと骨盤ブロックをつなぐ腰椎が回旋

運動の主役であるにもかかわらず,実際はあまり動けな

い(Fig. 10).

 力学的に負荷のかかる骨盤をもっと強化するように進

化すればよかったと思われるかもしれないが,ヒトには

その選択肢はなかった.じっさい頑丈な骨盤をもつ動物

はいる(Fig. 11).翼を羽ばたいて飛ぶ鳥類の場合は体

幹をひと塊の楕円体にすべく胸骨と骨盤が拡大してい

る.本来の仙骨には複数の腰椎が癒合して合仙骨 synsa-

crum となり,そのうえ左右の寛骨とも早期に一体化す

る.後足立ちをして前肢の大きな鈎爪で蟻塚を壊してア

リやシロアリを食べる異節類でも仙骨と左右の寛骨が早

期に癒合する.このときにふつうの哺乳類では靭帯とし

て残る仙結節靭帯も骨化するため骨盤の側面では閉鎖孔

と坐骨孔という 2 つの開口がみられる.これらの動物で

は腰を動かす必要がなかったので十分に強化することが

できた.

244 脊髄外科 VOL. 28 NO. 3 2014 年 12 月

腰椎 胸椎 頚椎

5°35°

50°

90~95°

Fig. 10 頚椎から腰椎の回転角の上面図(文献 8 から引用)頭を右に向けたとき,腰椎では 5 度しか回旋できない.

ヒト ニホンザル

ワラビー チーター

Fig. 9 椎体の大きさの比較脊柱を立てている二足性のワラビーでは頚椎の椎体が小さく腰椎が大きい.

腰椎頚椎 胸椎

Page 7: 認定医 Reviews and Opinions - J-STAGE

 いっぽうヒトの場合は骨盤や腰椎を固定するわけには

いかない.ヒトの骨盤では上半身の体重を支えるために,

座位と立位で角度が変わる.座位では仙骨にかかる荷重

が耳状面から坐骨結節に抜けるが,立位では寛骨臼を経

て下肢骨に通る.横からみたときに寛骨臼は耳状面と坐

骨結節を結ぶ線より前にあるので,立つと骨盤全体が前

に回転し,上前腸骨棘が目立つようになる.また歩くと

きには先にみた理由から腰椎には 1 歩ごとに逆向きの

回旋運動が求められる.さらに女性では頭の大きな胎児

を出産するために仙腸関節や恥骨結合を癒合させるわけ

にはいかないのである.

 体幹の側屈運動や背腹の屈伸運動では各椎間の運動軸

の位置が背腹方向や横方向なので関節円板と椎間関節を

貫いたり,共用したりできる.ところがヒトの腰椎の椎

間関節面の向きは回転軸の位置が椎体とは逆の棘突起の

側を通ることを示している(Fig. 12).椎間円板は椎間

関節の回転軸から椎間関節よりも遠い位置にあるので,

体幹をねじるたびに腰椎の椎間円板に横方向のストレス

がかかることが予想される.テニス選手に椎間板ヘルニ

アが多いのはくり返し体を強くひねるためと考えられ

る.

 けっきょく進化の結果獲得したヒトの直立姿勢は,上

肢のロコモーションからの解放と脳の大型化による文化

の発展という利点ばかりがよくとり上げられるが,同時

に脊柱ではとくに腰椎で問題をかかえ込んだ.これは特

別なことではなく,進化につきものと受けとるべきであ

る.どんな動物の進化においても必ず利点と欠点が伴う

ので,プラスばかりと考えるのは進化を進歩と思い違い

をしているためなのである.

文 献 1) 日本解剖学会編:解剖学用語.改訂 12 版,東京,丸善

出版,1987,p121 2) 犬塚則久:恐竜ホネホネ学.東京,日本放送出版協会,

2006,p261 3) Romer AS, Parsons TS:The Vertebrate Body(5th edi-

tion), Philadelphia, W. B. Saunders, 1977, p624 4) 犬塚則久:ヒトのかたち 5 億年.東京,てらぺいあ,

2001, p63 5) Kardong KV:Vertebrates:Comparative Anatomy Func-

tion Evolution. Dubuque, Wm. C. Brown Publishers, 1995, p777

6) 犬塚則久:「退化」の進化学―ヒトにのこる進化の足跡.東京,講談社,2006,p206

7) 犬塚則久:足の構造とはたらき.高尾昌人編:絵でみる最新足診療エッセンシャルガイド.東京,全日本病院出版会,2010,pp1-11

8) Kapandji AI(著),荻島秀男(監訳),嶋田智明(訳):関節の生理学 Ⅰ.上肢.東京,医歯薬出版,1986,p295

245脊髄外科 VOL. 28 NO. 3 2014 年 12 月

ナマケモノ(異節類)

オジロワシ(鳥類)

Fig. 11 動物の強化された骨盤上:左側面,下:腹側面.

回転軸の位置

上位腰椎 下位腰椎

椎間円板

Fig. 12 腰椎の椎間関節の回転軸の位置(文献 8 から引用)胴の回旋の回転軸が椎体の中心から遥か後方にある.