6
近年のシールド工事においては,コスト縮減や, より一層の環境負荷削減と施工環境の改善等が求め られる中,二次覆工省略・内面平滑・高速施工型 (ワンパス継手)のRCセグメント等の開発により, その改善が図られつつある。 本研究は,従来式のボルトボックスがあるM22 8. 8)を用いたSSPC(コンクリート中詰鋼製セグ メント)継手に対して,増締めが可能でかつボルト ボックス欠損の無い継手をSSPCに採用し,実証施 工を通してセグメントの評価,設計・施工における 実用化に向けた検討を行い,技術パンフレットの作 成を行う。 本共同研究は,7下水道新技術推進機構と,石川 島建材工業1が共同で実施した。 研究の流れを図-1に示す。 本研究では,実証実験を行いながら,a設計に関 する検討法の検討,s継手の性能評価,d施工性の 検討,f応用検討,g全体評価,h報告書作成の作 業を実施した。 これらの内容を技術パンフレットにまとめた。 4.1 継手の概要 内面平滑SSPC用継手(以下,ギア式継手と称す る)とは,急曲線部・開口部でのシールド工事にお いての二次覆工省略,内面平滑を目的とした,セグ メント間,リング間用の継手である。これらはピン 2003年度 下水道新技術研究所年報〔22巻〕 99内面平滑SSPC用継手 に関する研究 |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| 研究の目的 1. |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||| ・現状と課題の整理 ・要求性能の確認方法の検討 ・適用条件の検討 ・性能評価方法の検討 設計に関する検討 応用検討・評 価 報告書・技術パンフレット ・増締め機構の評価 セグメント継手の基本性能評価 リング継手の基本性能の評価 継手の性能評価 ・製作加工性の検討 施工法・施工管理に関する検討 ボルトボックス充填方法の検討 ・施工歩掛りの検討 施工性の検討 図-1 研究フロー 研究体制 2. ギア式継手の概要 4. 研究内容 3.

【 本 文 】内面平滑SSPC用継手に関する研究†…面平滑SSPC用継手(以下,ギア式継手と称す る)とは,急曲線部・開口部でのシールド工事にお

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近年のシールド工事においては,コスト縮減や,より一層の環境負荷削減と施工環境の改善等が求められる中,二次覆工省略・内面平滑・高速施工型(ワンパス継手)のRCセグメント等の開発により,その改善が図られつつある。本研究は,従来式のボルトボックスがあるM22

(8.8)を用いたSSPC(コンクリート中詰鋼製セグメント)継手に対して,増締めが可能でかつボルトボックス欠損の無い継手をSSPCに採用し,実証施工を通してセグメントの評価,設計・施工における実用化に向けた検討を行い,技術パンフレットの作成を行う。

本共同研究は,7下水道新技術推進機構と,石川島建材工業1が共同で実施した。

研究の流れを図-1に示す。本研究では,実証実験を行いながら,a設計に関する検討法の検討,s継手の性能評価,d施工性の

検討,f応用検討,g全体評価,h報告書作成の作業を実施した。これらの内容を技術パンフレットにまとめた。

4.1 継手の概要内面平滑SSPC用継手(以下,ギア式継手と称す

る)とは,急曲線部・開口部でのシールド工事においての二次覆工省略,内面平滑を目的とした,セグメント間,リング間用の継手である。これらはピン

2003年度 下水道新技術研究所年報〔2/2巻〕

-99-

内面平滑SSPC用継手

に関する研究

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

研究の目的1.

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

・現状と課題の整理・要求性能の確認方法の検討・適用条件の検討・性能評価方法の検討

設計に関する検討

応用検討・評 価

報告書・技術パンフレット

・増締め機構の評価・セグメント継手の基本性能評価・リング継手の基本性能の評価

継手の性能評価・製作加工性の検討・施工法・施工管理に関する検討・ボルトボックス充填方法の検討・施工歩掛りの検討

施工性の検討

図-1 研究フロー

研究体制2.

ギア式継手の概要4.研究内容3.

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部材と受け側嵌合部材からなるシステムで,ピン部材を受け側嵌合部材に挿入することで締結する。また,締結後,目開きが生じた場合において増締めができるように,ピン部材側にギア式増締め機構を設けることを標準としている。図-2はセグメント間,リング間継手にギア式増締め機構を適用した場合を示している。

4.2 継手の締結機構ギア式継手の締結方法は,先端に鋸目形状の加工を施してあるピン部材を同じく鋸目形状に加工してある受け側嵌合部材に挿入することで締結される。

受け側嵌合部材は周辺に弾性体によって支持されており,偏心挿入時において追従できる構造となっている。締結機構を図-3に示す。

4.3 継手の締結方法ギア式継手の締結方法は,エレクターにて継手位置を合わせ,専用工具にてピンボルトを挿入,増締めを行う。継手締結後に専用工具は取り外し,専用工具用の小孔をキャップで保護する。掘進終了後,ウレタン樹脂系発泡体を充填する。締結の手順を図-4に示す。

2003年度 下水道新技術研究所年報〔2/2巻〕

-100-

図-4 締結手順

q 継手部の位置合わせ w ピンボルトの挿入

e ピンボルトの増締め w 組立て完了

図-3 締結機構

ピン部材

鋼枠 弾性体

嵌合部分

A-A(嵌合部材断面)受け側

ピン部材

A

A

図-2 ギア式継手概要

内面平滑SSPC用継手(ピン部材)

内面平滑SSPC用継手(受け側嵌合部材)

SSPC

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4.4 ギア式継手の特長ギア式継手の特長を以下に示す。a)二次覆工の省略に適している:ボルトボックス欠損が無い継手構造であり,二次覆工省略に適している。b)高速施工が可能:ギア式継手のリング間継手は,シールドジャッキの推力のみで組立ができるため,組立の高速化,自動化に適している。c)組立後に増締めが可能:急曲線部・開口部における施工において目開きが生じた場合でも,後から増締めが可能なため止水性能が高い継手である。d)継手部に高い締結力を導入可能:ギア式継手部に高い締結力を導入することで,継手部自体の剛性を向上させることができる。e)RCセグメントへの適用可能:ギア式継手を鋼板式継手に取り付けることで,RCセグメントに適用可能。f)M22(8.8)の引抜き力を確保:引抜き力はM22

(8.8)の引抜き力を確保している。g)ボルトボックス部への充填工程簡略化:ギア式継手内の充填量は,通常のボルトボックス型より少なく,ボルトボックス部の後埋め工を簡略できる。この継手の性能確認として,供試体を用いた要素試験,セグメントを用いた実証試験を行った。また,施工性を確認するため,急曲線部にSSPCを使用している現場にて,実証施工を行った。

要素実験では,挿入・引張実験,継手曲げ実験,継手せん断実験を行った。

5.1 挿入・引張実験q 実験目的:図-5に示すように,ギア式継手の挿入・引張実験を行い,必要挿入力および継手耐力を確認した。

w 実験結果:ギア式継手の嵌合部材は偏心が無い場合,偏心(1.5mm)がある場合の両方において挿入力7.0kN,引張力352kNの実験結果を示しており,M22(8.8)の引張力(250kN)より大きいことを確認した。実験結果を図-6に示す。

5.2 継手曲げ実験q 実験目的:ボルト継手では締結力を許容値100%(88kN)までしか導入できないのに対して,ギア式継手は降伏値80%(155kN)まで導入可能なため,締結力を高めた場合に対し,高剛性継手の耐力についても確認した。なお,高剛性継手とは,継手よりも先に継手板が降伏しないように継手板を補強したものである。実験状況を写真-1に示す。

2003年度 下水道新技術研究所年報〔2/2巻〕

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要素試験5.

図-6 挿入・引張実験結果(偏心1.5mm)

12

10

8

6

4

2

0

400

350

300

250

200

150

100

50

00 5 10 15 20 25 30 35 0 2 4 6 8

1回目(偏心有)

2回目(偏心有)

3回目(偏心有)

1回目

2回目

3回目

3回目 2回目1回目

荷重(

kN)

荷重(

kN)

変位(mm) 変位(mm)

M22(8.8)引張強度250(kN)

M22(8.8)許容値88(kN)

図-5 挿入・引張実験方法

挿入実験 引抜実験

変位:D

変位:D

荷重:P

荷重:P

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w 実験結果:図-7に示すように,許容値100%締結力(88kN)では,ギア式継手耐力が従来式より70%大きかった。ギア式継手の高剛性継手板で降伏値80%締結力(155kN)では,許容値100%締結力(88kN)より耐力が12%大きかった。

5.3 リング間継手せん断実験q 実験目的:リング間継手のせん断性能および耐力の確認を行った。実験結果からリング間継手のせん断ばね定数を算出した。実験状況を写真-2に示す。

w 実験結果:破壊状況はギア式継手供試体,従来式ともにボルトせん断破壊であった。図-8に示すように,耐力は,ギア式供試体(P=827kN)が従来式(P=722kN)を上回った。せん断ばね定数は,ギア式供試体(Ks=39,800kN/m)が従来式(Ks=34,000kN/m)を上回った。

実証施工に先立ち,継手の性能確認を目的とし,リング間継手引張実験,セグメント間継手曲げ実験,施工性確認実験を行った。

6.1 リング間継手引張実験q 実験目的:継手の引張性能および耐力の確認を行った。本実験結果からリング間継手の引張ばね定数を算出した。実験状況を写真-3に示す。

w 実験結果:図-9に示すように,ギア式供試体の引張耐力(受け側 P = 2 2 4 k N)が従来式(P=195kN)を上回った。引張ばね定数は,ギア式供試体(K T 1 = 5 0 , 5 3 5 k N / m)が従来式(KT2=31,660kN/m)を上回った。

2003年度 下水道新技術研究所年報〔2/2巻〕

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写真-1 継手曲げ実験状況

1,000

900

800

700

600

500

400

300

200

100

00 2 4 6 8 10 12 14

荷重(

kN)

変位(mm)

ギア式継手1

ギア式継手2

ギア式継手3

従来品

許容せん断荷重×1.5=673.85kN

許容せん断荷重=449.23kN

ギア式

従来式

ギア式:高剛性:降伏ギア式:高剛性:降伏8080%

ギア式:高剛性:許容ギア式:高剛性:許容100100%

ギア式:従来:許容ギア式:従来:許容100100%

ボルト:高剛性:許容ボルト:高剛性:許容100100%

ギア式:高剛性:降伏80%

ギア式:高剛性:許容100%

ギア式:従来:許容100%

ボルト:高剛性:許容100%

ギア:高:降伏80%

ギア:高:許容100%

ギア:従:許容100%

ボルト:従:許容100%

ボルト:高:許容100%

80

70

60

50

40

30

20

10

0

載荷荷重(

kN)

0 10 20 30 40 50供試体の変位(mm)

ボルト:従来:許容ボルト:従来:許容100100%ボルト:従来:許容100%

図-7 継手曲げ実験結果

実証試験6.

写真-2 リング間継手せん断実験状況

図-8 リング間せん断実験結果

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6.2 セグメント間継手曲げ実験q 実験目的:継手の曲げ性能の確認を行った。本実験結果からセグメント間の回転ばね定数を算出した。実験状況を写真-4に示す。

w 実験結果:実験結果を図-10に示す。回転ばね定数は,ギア式供試体(Kθ1=2,895kN・m/rad)が従来式(Kθ1=1,252kN・m/rad)を上回った。最大耐力は,ギア式供試体および従来式で同程度の耐力を示していた。

6.3 施工性確認実験q 実験目的:平板供試体を用い,強制的に目開き幅(目違い)を発生させ,継手施工性を確認した。実験方法は平板供試体を用い,現場環境と同様にシール材を添付して行った。実験状況を写真-5に示す。

w 実験結果:施工手順をリング間継手の挿入,セグメント間継手の挿入および増締め,リング間継

手の増締めとすることで,セグメント間目開き幅が2mm存在した状態でも,目開き幅を補正することができた。

2003年度 下水道新技術研究所年報〔2/2巻〕

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写真-3 リング間継手引張実験状況 写真-4 セグメント間継手曲げ実験状況

写真-5 施工性確認実験状況

300

250

200

150

100

50

00.0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0

荷重(

kN)

変位(mm)

ギア式(受け)1ギア式(受け)2 ギア式(受け)3

M2222ボルト:降伏荷重ボルト:降伏荷重P=P=195195kNkNM22ボルト:降伏荷重P=195kN

M2222ボルト:降状荷重ボルト:降状荷重P=P=8888kNkNM22ボルト:許容荷重P=88kN

主桁降伏荷重主桁降伏荷重P=P=70.370.3kNkN主桁降伏荷重P=70.3kN

図-9 リング間継手引張実験結果

30

25

20

15

10

5

00.000 0.010 0.020 0.030 0.040 0.050 0.060

モーメント(

kN・

m)

回転角(rad)

ギア式継手1ギア式継手2 ギア式継手3 従来品

継手板許容曲げモーメント 継手板許容曲げモーメント M=M=4.14.1kNkN・m継手板許容曲げモーメント M=4.1kN・m

継手板降伏曲げモーメント 継手板降伏曲げモーメント M=M=6.16.1kNkN・m継手板降伏曲げモーメント M=6.1kN・m

図-10 セグメント間継手曲げ実験結果

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本継手の施工性検討を行うために,急曲線部にSSPCを使用している現場にて,実証施工を行った。実証施工箇所は,セグメント外径φ2,300mm,セグメント厚さ150mm,セグメント幅300mm,分割数6,組立リング数35リング,曲線半径30m,延長10.5m

であった。実験状況を写真-6に示す。現場計測では従来式SSPCと比較を行うため,同

じ曲線半径30mの場所と出来高の比較を行った。その結果,目開き幅および目違いは従来式と同等

であり,セグメントの内面平滑性が良いことを確認した。また,組立時間も従来式と同等であった。なお,実証施工に先立ち,ピンボルト挿入および増締めに用いるインパクトレンチは,それぞれ違うものを採用することが施工時間短縮と施工管理上良いことが分かった。また,小径の充填材は,ポリウレタン樹脂が経済的・品質的に良いことが分かった。

本研究にて,従来式のボルトボックスがあるM22

(8.8)を用いたSSPC(コンクリート中詰鋼製セグメント)継手に対して,増締めが可能でかつボルトボックス欠損の無い継手であり,施工性が良く,組立時間が短縮でき,強度も従来式継手以上あることが分かった。また,この継手機構はワンパス継手のため,RC

セグメントにも適用可能である。なお,本継手+小孔充填工に要する施工時間は,従来式継手+ボルトボックス充填工に要する施工時間よりも短いことは明らかであり,今後,実績が増えてきた中で明らかにしたいと考える。今後増加が予想される二次覆工に対して,本継手の適用は非常に有効である。今後の課題としては組立時間の短縮率,コストの設定が必要あり,これらに向けた検討が期待される。

2003年度 下水道新技術研究所年報〔2/2巻〕

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●この研究を行ったのは ●この研究に関するお問い合わせは

研究第二部長       高橋 隆一  研究第二部長       高橋 隆一研究第二部主任研究員   松田 博希  研究第二部総括主任研究員 桐原  隆研究第二部研究員     井上  毅  研究第二部主任研究員   永田 壽也研究第二部研究員     渡邉 健治  研究第二部研究員     渡邉 健治

写真-6 実証施工状況

実証施工7.

まとめ8.