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第 1章 プリント基板の市場価格
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1.1 安い基板がある理由
図 1.1のスルーホールの断面写真で示したA~Eのプリント基板はすべて商
品として販売されているものです。写真A、Bの基板でも不良品ではありませ
ん。売る側、買う側で話し合いの上きちんとビジネスが成立しています。しか
し、プリント基板として正常とは言い難いものです。
写真 Eが一般的に正常品です。写真Aはスルーホールめっきがほとんどつ
いておらず、写真 Bは穴壁の凹凸が極めて大きく早い時期に断線の可能性が
あります。
電子機器の電気回路の要求信頼性は、使い捨てや 1年位作動すれば良いもの
から、20 年位不具合なく動き続けなくてはならないものまで千差万別で、そ
第 1 章プリント基板の市場価格
図 1.1 プリント基板の品質水準(スルーホール断面)
A B
低い 品質 高い
C D E品質区分
写真
2
の中で品質とコストのトレードオフを満足すれば写真A、Bのプリント基板で
も使える分野があるわけです。著者の経験によれば写真 Eのコストを 100 と
すれば、写真Aは 60~70 %、写真 Bは 65~75 %のようになっています。
しかし、普通に基板を買う場合、写真 C以上のプリント基板を作れるメー
カを選びます。見積りを取った際、写真Cは写真 Eに対して 70~80 %位とす
ると相当なメリット感があります。買い手側が写真Cのプリント基板の寿命、
あるいはどの位の確率で壊れるかを把握できればコストメリットを得て使いこ
なせることになります。
写真D、写真Eのプリント基板メーカの品質は良さそうです。ここで写真D、
写真 Eのプリント基板メーカにさらにコストダウンの依頼をし、写真 Eのプ
リント基板メーカが数%のコストダウン要請に応じてくれたとします。そこ
で、写真Eのプリント基板メーカに決定して良いでしょうか?
日本のプリント基板メーカではあり得ないことですが、海外のプリント基板
メーカでは、ユーザの承認なしでより安価な基材に変更して納品することがあ
ります。購入仕様書にしっかりと仕様を明記していないと起こります。あるい
は、写真 Eの品質であると認識していたはずなのに、量産品は写真 Cやそれ
以下の品質のものが混じることもあり得ます。
要求信頼性に見合ったプリント基板を調達できることが理想です。しかし、
要求信頼性に対してプリント基板のコストがどのように決められるかを知らな
ければ、要求信頼性を反映させた仕様を盛り込んだ購入仕様書とすることが難
しくなります。
本書は基板のコストを決めている要因を解説することを目的としています。
1.2 プリント基板の世間相場
最近プリント基板メーカへ概略コストを問い合わせると、図面(できればプ
リント基板の設計データ)を預からないと見積りはできないということが多く
なっています。これはプリント基板の仕様があいまいのままで提出し、後に
第 1章 プリント基板の市場価格
3
なって見積書に不具合が出るということを避けるためです。
しかし、電子機器メーカとしては取引する可能性がまだわからない状態で図
面を出すことは避けたい事情があり、プリント基板メーカ間の価格を比較する
際、まずは平米単価が使われることが多いです。
その際のプリント基板仕様は規格化されたものはありません。しかし 2層、
4層、6層のプリント基板ごとに概算する典型的な事例を、表 1.1に示します。
この仕様は各層ごとに回路密度に合わせて最も配線効率とコストパフォーマン
スが良く製造物量が多いと考えられます。
著者の経験ではプリント基板の価格は発注量が多くなるほど安くなり、その
傾向を図 1.2に示します。実際の価格は+10-20 %程度の変動があります。
図 1.2は国内の事例ですが、海外の場合は原則として発注量が 50m2/ ロット以
上の領域で 20~35 %位安価になります。この場合、基材は海外基材メーカの
ものを用い、発注は商社窓口になることが一般的です。また、プリント基板
メーカによっては品質の変動が大きくなることがあります。
価格は納期にも大きく影響し、国内品は通常品は 2層以下が 10 日前後、4~
6層が 14 日前後です。これよりも納期が短いと特急料金が加算されます。
表 1.1 平米単価の見積時のプリント基板の仕様事例
仕様 2層 4層 6層
板厚[mm] 1.6 1.6 1.6
基材 FR-4(松下 R-1766GH)
FR-4(松下 R-1766GH)
FR-4(松下 R-1766GH)
最小導体幅 /最小導体間隙[μm] 150/150 120/150 120/150
スルーホールの構造 貫通のみ 貫通のみ 貫通のみ
最小ドリル径[mm] φ0.35 φ0.35 φ0.35
穴数[穴] 30000 50000 60000
ソルダレジスト 感光性 感光性 感光性
表面処理 OSP OSP OSP
4
用語の定義としては、JIS C5603 がありますが、わかり難いところがありま
す。JISは国際規格IECのIEC 60194に準拠しており、これらの規格の中に「プ
リント板」は規定されていますが「プリント基板」はありません。
そこで、本書では「プリント基板」と「プリント板」を次のように定義しま
す。
プリント板: 電子部品等を搭載してはんだ付し、回路として機能する状
態のもの。
プリント基板:電子部品等を実装する前の単なる板状の状態のもの。
単に「基板」と呼ぶこともある。プリント配線板とも言う。
この両者を表現する類語を図 2.1に示します。日常会話の中では、上記の定
義が逆になっている場合や同一の場合があります。プリント板(PCB)=プリ
ント基板(PWB)としている場合があるので注意が必要です。
JIS C5603 は IEC 規格との整合性を保つために、規格本文では、初めに『プ
リント配線板(以下、プリント板という)…』と表現しているので、プリント
配線板、プリント基板、プリント板のいずれも使われており、使う人により異
なった意味を持つことがあり、非常に混乱しています。したがって、取引の場
合、相互の用語の内容について確認を取ることが重要です。
以下の太文字はJISに定義されている用語ですが、わかりやすくするために、
本書ではプリント基板とプリント板のどちらかの用語を使って説明することに
第 2 章プリント基板の呼び方
(用語の定義)
また、海外品の一般納期は輸送を含めて 1か月位かかります。
以上の内容は著者の経験にもとずくものです。プリント基板には製品個々に
応じたカスタマイズされた仕様が多いので、図 1.2 はあくまで参考値です。
図 1.2 プリント基板の平米単価概算値(国内)
70
60
50
40
30
20
10
0.5 1 2 3 5 10 15 20 50 100 200 300
6層基板4層基板2層基板
平米単価[k¥/m
2 ]
発注量[m2/ロット]
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第 2章 プリント基板の呼び方(用語の定義)
用語の定義としては、JIS C5603 がありますが、わかり難いところがありま
す。JISは国際規格IECのIEC 60194に準拠しており、これらの規格の中に「プ
リント板」は規定されていますが「プリント基板」はありません。
そこで、本書では「プリント基板」と「プリント板」を次のように定義しま
す。
プリント板: 電子部品等を搭載してはんだ付し、回路として機能する状
態のもの。
プリント基板:電子部品等を実装する前の単なる板状の状態のもの。
単に「基板」と呼ぶこともある。プリント配線板とも言う。
この両者を表現する類語を図 2.1に示します。日常会話の中では、上記の定
義が逆になっている場合や同一の場合があります。プリント板(PCB)=プリ
ント基板(PWB)としている場合があるので注意が必要です。
JIS C5603 は IEC 規格との整合性を保つために、規格本文では、初めに『プ
リント配線板(以下、プリント板という)…』と表現しているので、プリント
配線板、プリント基板、プリント板のいずれも使われており、使う人により異
なった意味を持つことがあり、非常に混乱しています。したがって、取引の場
合、相互の用語の内容について確認を取ることが重要です。
以下の太文字はJISに定義されている用語ですが、わかりやすくするために、
本書ではプリント基板とプリント板のどちらかの用語を使って説明することに
第 2 章プリント基板の呼び方
(用語の定義)