Upload
others
View
3
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
ex.最判平6.9.27,最判平10.12.17【百選Ⅱ174】
論 点 行政事件訴訟法10条1項の「法律上の利益」◇◆論証◆◇1 不利益処分を受けた者がその取消訴訟を提起した場合
もっぱら第三者の利益に関する規定の違反は主張できない。しかし,公益保護を目的とする規定の違反も取消事由として主張できる。
2 第三者が提起した取消訴訟の場合文言の統一的解釈という観点からは両者を同義に解するべき
である。また,9条1項は訴訟要件レベル,10条1項は本案審
理レベルでの規定であり,その目的は共通である。したがって,10条1項の制限は9条1項の制限の範囲と同一
である。
論 点 (狭義の)訴えの利益◇◆論証◆◇
(訴えの利益とは,処分を現実に取り消してもらう必要性及び実効性をいう。そして,)処分の効果が期間の経過その他の理由に
よって失われた場合には,原則として訴えの利益は消滅する。もっとも,この場合に救済の必要性が全くなくなるわけではな
く,処分の付随的効果により,侵害状態が継続する場合がある。そこで,9条1項は括弧書きで,期間の経過その他の理由により
処分の効果がなくなった場合でも,なお処分の取消しにより回復
すべき法律上の利益があれば,訴えの利益があるとしている。
227 頁第 28 問
l最判平元 .2.17【百選Ⅱ170】
213 頁第 47 問第 48 問
第3章 行政事件訴訟法 39
論 点 訴えの利益と事情変更◇◆論証◆◇1 最判昭59.10.26【百選Ⅱ183】(建築確認の事案)⑴ 検査済証交付後
ア 建築確認は,建築物の建築等の工事が着手される前に,当該建築物の計画が建築関係規定に適合していることを公権的に判断する行為であって,それを受けなければかかる工事をすることができないという法的効果が付与されており,建築
関係規定に違反する建築物の出現を未然に防止することを目
的としたものである。→ しかし,違反是正命令は,当該建築物及びその敷地が建築
基準関係規定に適合しているかどうかを基準としており,
これを発するかどうかは,特定行政庁の裁量に委ねられて
いるから,建築確認の適法・違法とは無関係である。→ 建築確認の存在は,違反是正命令を発する上において法的
障害となるものではない。イ また,たとえ建築確認が違法であるとして判決で取り消さ
れたとしても,違反是正命令を発すべき法的拘束力(行訴法
33条)は生じない。ウ したがって,建築確認は,それを受けなければ上記工事を
することができないという法的効果を付与されているにすぎず,工事が完成し,検査済証が交付された後はこれを取り消
す訴えの利益が失われる。⑵ 検査済証交付前
検査済証交付の要件は,当該建築物及びその敷地が「建築基準関係規定に適合している」ことであるから,工事に着工した後
の検査済証の交付と建築確認は無関係であると考えられる(完成した建物が建築基準関係規定違反か否かのみが問題となる)。
→ 検査済証交付前であっても,当該工事が完了した場合においては,建築確認の取消しを求める訴えの利益は失われる。
214 頁第 32 問
l最判解民事篇昭和59年度427~428頁
40 第3編 行政救済法
2 最判平5.9.10(開発許可の事案)⑴ 検査済証交付後
違反是正命令発出の要件は「この法律に違反」することであるところ,当該開発行為が,客観的にみて,開発許可の要件に
適合しないのであれば,「この法律に違反」するものとして,違
反是正命令を発することができる。また,昭和59年判決と同様,取消判決の拘束力も及ばない。したがって,開発許可の存在は,違反是正命令を発する上に
おいて法的障害となるものではなく,昭和59年判決と同様,工
事が完成し,検査済証が交付された後はこれを取り消す訴えの
利益が失われる。※ 平成5年判決は,「市街化区域」に関する事案であった。これに対して,判例
は,「市街化調整区域」については,開発許可に係る開発行為に関する工事が完
了し,検査済証が交付された後においても,開発許可の取消しを求める訴えの利
益は失われないと判示している。
∵� 市街化調整区域においては,開発許可がされ,その効力を前提とする検査
済証が交付されて工事完了公告がされることにより,予定建築物の建築等が
可能となるという法的効果が生ずる(一方で,市街化区域においては,開発
許可を取り消しても,用途地域等における建築物の制限等に従う限り,自由
に建築物の建築等を行うことが可能である)。
⑵ 検査済証交付前検査済証交付の要件は,当該工事が「開発許可の内容に適合」
していることであるから,開発許可を取り消さなければ検査済証の交付を拒否することはできないと考えられる。
このように解すれば,開発許可の存在は,検査済証交付を拒否する上において法的障害となる。
しかし,開発許可は当然に法の要件を満たす適法なものが予定されていると考えられるから,違法な開発許可では,上記要件を満たさないというべきである。
このように解すれば,開発許可の存在は,検査済証交付を拒否する上において法的障害とならない。
したがって,検査済証交付前であっても,当該工事が完了した場合においては,開発許可の取消しを求める訴えの利益は失
l最判解民事篇平成5年度(下)854頁
l最判平27.12.14
l最判解民事篇平成5年度(下)857頁(注2)参照
l最判平 5.9.10藤島裁判官補足意見
第3章 行政事件訴訟法 41
われる。3 最判平4.1.24【百選Ⅱ184】(土地改良事業施行認可の事案)
土地改良事業の施行の認可は,事業施行地域内の土地につき,土地改良事業の施行権限を付与するものであり,土地改良事業の一環としてされる工事を行うことを許容するにとどまらない。そうすると,土地改良事業の施行の認可が取り消されれ
ば,これが有効に存在することを前提にしてされた換地処分等
の一連の手続及び処分の法的効果にも影響が生じる(換地処分も違法となる。)。
したがって,従前地の所有権に基づく原状回復請求権を取得する余地も生じる。
以上から,換地処分が完了しても,訴えの利益は失われない。※ 原状回復が,社会通念上不可能である点は,事情判決(行訴法31条)について
考慮すれば足りる。
論 点 訴えの利益と裁量基準◇◆論証◆◇
事 例
行政手続法 12条1項により定められ公にされている処分基準に先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の定めがある場合,上記先行の処分の効果が期間の経過によりなくなった後においても,先行の処分の取消しを求める訴えの利益は認められるか。
(狭義の訴えの利益について簡単に述べた上で)処分基準は,単に行政庁の行政運営上の便宜のためにとどまら
ず,不利益処分に係る判断過程の公正と透明性を確保し,その相手方の権利利益の保護に資するために定められ公にされるものである。そのため,加重規定がある場合に,行政庁が後行の処分に
つきこれと異なる取扱いをすることは,平等原則や信頼保護原則
の観点から特段の事情がない限り,裁量権の範囲の逸脱又はその
濫用に当たると解される。この意味において,当該行政庁の後行
l最判解民事篇平成4年度 43~45頁
221 頁
l最判平27.3.3
42 第3編 行政救済法
の処分における裁量権は当該処分基準に従って行使されるべきことが羈束されている。
そうすると,処分基準において,先行の処分を受けたことを理由として後行の処分に係る量定を加重する旨の不利益な取扱いの定めがある場合には,上記先行の処分を受けた者は,将来において上記後行の処分の対象となり得るときは,上記先行の処分の効果が期間の経過によりなくなった後においても,当該処分基準の
定めにより上記の不利益な取扱いを受けるべき期間内はなお当該
処分の取消しによって回復すべき法律上の利益を有する。
第3章 行政事件訴訟法 43