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速報 「何が起こってる?」「何が 変わる?変わらない?」 に答えます! 編集部インタビュー: 堀 賢先生(順天堂大学医学部附属順天堂医院) COVID-19対応を振り返って −分業化と業務の一般化− 2020年6月10日(水)、COVID-19の第一波における対策について、堀 賢先生(順天堂大学医学部附属順天堂医院 感染対策室 室長)へZOOMによるインタビューを行った。3,800人を超えるスタッフを持つ同施設において、「いかに 統制を取り、職員・患者・診療を守ったか」について7つの質問をもとにお答えいただいた。 Question1: 「COVID-19患者の感染対策」における難しさはどこにありますか? A: 「発病してからの対処では間に合わないこと」「検査による陰性の証明ができないこと」の2点 が主にあげられます。 発病後の対策では間に合わない まず、COVID-19自体の特徴による難しさ として、「① 不顕性感染(または無症状の病 原体保有者)が少なくない」「② 発病する2 日前から感染する可能性がある」「③ 潜伏期 間が非常に長い」があげられる。これらの特 徴は、麻しんと同じく「発病してから隔離す る」という通常の感染症のルールでは対策で きないことを意味する。いわゆるユニバーサ ルマスキングが推奨されている理由は、まさ にこの「発病してからでは対処できない特 徴」に由来するものだ。 したがって、COVID-19対策は、「誰でも 病原体を持っているものと考える」「有症状 者は標準予防策を遵守しながらしっかり診 て、陽性なら隔離する」「無症状者でも皆マ スクをして3密を避ける」といった“ユニバ ーサルな対策”をやっていくしかない。感染 症が分かってから感染対策を始めるような人 たちには、対処が難しい感染症だ。 感染が拡がりにくい状況の整備 COVID-19患者がある意味で“いつでも、 どこからでもやって来る”状況のため、あら かじめ「感染が拡がりにくい状況」を作って おく必要がある。具体的には、「ユニバーサ ルマスキング・3密回避・手指衛生の徹底・ 標準予防策」という4つの実践であり、これ らを普段から徹底していればそうそう感染は 広がらない。 罹患の判断の難しさ 「COVID-19に罹患しているかどうか」を 判断するPCR検査だが、この感度の低さも 難点である。つまり、疑陰性が多く出るため 陰性の証明ができず、そのために感染予防策 の適否や止め時などのあらゆる判断が難しく なる。たとえば、個室隔離を解除するかどう かについても、「陰性だから、もう大丈夫!」 とは言えないのだ。当院でも、疑いのある患 者は特設病棟に収容したし、接触患者もむや みに動かさずに病室を封鎖し、じっと乗り切 4INFECTION CONTROL 2020 vol.29 no.10 968

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速報

「何が起こってる?

」「何が

変わる?変わらない?

に答えます!

編集部インタビュー:

堀 賢先生(順天堂大学医学部附属順天堂医院)

COVID-19対応を振り返って −分業化と業務の一般化−

 2020年6月10日(水)、COVID-19の第一波における対策について、堀 賢先生(順天堂大学医学部附属順天堂医院 感染対策室 室長)へZOOMによるインタビューを行った。3,800人を超えるスタッフを持つ同施設において、「いかに統制を取り、職員・患者・診療を守ったか」について7つの質問をもとにお答えいただいた。

Question1:「COVID-19患者の感染対策」における難しさはどこにありますか?A:�「発病してからの対処では間に合わないこと」「検査による陰性の証明ができないこと」の2点が主にあげられます。

発病後の対策では間に合わない まず、COVID-19自体の特徴による難しさとして、「① 不顕性感染(または無症状の病原体保有者)が少なくない」「② 発病する2日前から感染する可能性がある」「③ 潜伏期間が非常に長い」があげられる。これらの特徴は、麻しんと同じく「発病してから隔離する」という通常の感染症のルールでは対策できないことを意味する。いわゆるユニバーサルマスキングが推奨されている理由は、まさにこの「発病してからでは対処できない特徴」に由来するものだ。 したがって、COVID-19対策は、「誰でも病原体を持っているものと考える」「有症状者は標準予防策を遵守しながらしっかり診て、陽性なら隔離する」「無症状者でも皆マスクをして3密を避ける」といった“ユニバーサルな対策”をやっていくしかない。感染症が分かってから感染対策を始めるような人たちには、対処が難しい感染症だ。

感染が拡がりにくい状況の整備 COVID-19患者がある意味で“いつでも、どこからでもやって来る”状況のため、あらかじめ「感染が拡がりにくい状況」を作っておく必要がある。具体的には、「ユニバーサルマスキング・3密回避・手指衛生の徹底・標準予防策」という4つの実践であり、これらを普段から徹底していればそうそう感染は広がらない。

罹患の判断の難しさ 「COVID-19に罹患しているかどうか」を判断するPCR検査だが、この感度の低さも難点である。つまり、疑陰性が多く出るため陰性の証明ができず、そのために感染予防策の適否や止め時などのあらゆる判断が難しくなる。たとえば、個室隔離を解除するかどうかについても、「陰性だから、もう大丈夫!」とは言えないのだ。当院でも、疑いのある患者は特設病棟に収容したし、接触患者もむやみに動かさずに病室を封鎖し、じっと乗り切

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速報

った。もちろん稼働率は下がるが、安全性を担保するためには必要な対応である。 また、診療についていえば、“検査に依存した診断体質”の医師ではCOVID-19の診療は難しい。流行状況と比べた濃厚接触履歴や

症状の有無を判断し、加えて、確立した診断基準を参考にしながら、総合的に見極めるしかない。逆に言えば、COVID-19の診療では

「医師の技量が試されてる」ともいえるだろう。

Question2:COVID-19対応における、ICTの職種別の役割分担を教えてください。A:�「ICTだけ」でなく「院内全体で分業して」COVID-19対応を行うことを目指しましょう。ただし、院内の統制を効かせることは不可欠です。

 ICT内に限っていえば、主に表1のような作業分担が考えられる。ただし、「ICTだけ」がCOVID-19対応を行うのではいけない。第一波では、ICTだけが奮闘していた施設も多かったのではないだろうか? 第二波以降は

「病院全体」が動き、ICTはいわば作戦参謀として構えておくべきだ。

対応の統制とICTのスタンス 重要なのは「院内の統制」である。現場スタッフの判断について、ICT(あるいは管理側)が把握できない盲点を作ってはいけない。今回は、普段無関心な職員ほど狼狽し、声高にタイベックⓇスーツ、N95レスピレーター、ゴーグルを普段から着用したいと主張し、あやうく在庫が少ないPPEを浪費されそうになった施設も少なくないと思われる。また、隔離解除の判断などは、現場の医師が検討した後、ICTとの合議のもと判断がなさ

れる体制が必要だ。「基本、現場にお任せ。もし疑問があったらICTまで」というスタンスのもと、現場スタッフの判断に任せた無秩序な状況は避けねばならない。

表1 想定される役割分担

〈病院幹部とICD〉… 診療計画変更の意思決定(待機的手術や検査の延期、

優先する診療業務の選定)…院内で発生した場合の対応…患者への情報公開〈看護師〉… ユニバーサルマスキングなど基本的な感染対策の履

行状況の確認… PPEが必要になる場面の定義および着用する種類の

指定、着脱方法の指導〈薬剤師〉…消毒薬の選定〈臨床検査技師〉…PCR検査のセットアップ…正しく安全な検体採取〜搬送のマニュアル作成

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Question3:PPE在庫確保について、どのように対応すればよいでしょうか。A:�小〜中規模施設では基本的に「平時からのストック」の一手、情報共有サイトなどアンテナを高く張りましょう。大規模施設であれば、一般診療の継続のためにも調達資金を惜しまず在庫を確保すべきです。

中規模以下の施設での確保 PPEは市場原理(=資本主義)に基づいて流通しているため、一般的に、大規模病院など大口の注文に“ドン”と物量が流れると規模の小さい施設には回らなくなる。よって、中規模以下の施設に関していえば、「平時からのストック」以外の手段による量の確保はきわめて至難の業と言わざるを得ない。長期にわたり流行が続くと考え、「3ヵ月分のストック」を目標に平時から確保していくしかないだろう(実際は1ヵ月分もストックできれば御の字だ)。 COVID-19ショックで減収した医療機関も多くあると思うが、これはPPEを感染症診療に優先して供給したために、一般診療が縮小を余儀なくされた施設も少なくないと考えている。PPEで防護しながら一般診療を継続できていれば、もう少し減収は抑えられたであろう。 目

聡ざと

く情報にアンテナを張り、自ら動くことが必要となる。Facebookの「コロナ支援 医療物品情報まとめサイト」もぜひ活用してほしい。

順天堂医院でのPPE確保最前線のスタッフにPPEを届ける使命 当院では「COVID-19専従チーム」を結成

し、一切の一般診療をさせずCOVID-19患者対応のみに専念してもらっていた(現在は専従チーム形態は休止している)。最前線に立つ彼らに病院として約束したのが、「何があってもPPEを届けること」であった。したがって、私のミッションはPPE確保であり、私の命を懸けて、現在(6月上旬)も約9ヵ月分を目標に備蓄を続けている。

一般診療の継続とPPE 「一般診療を続けること」は医療経済を保ち、ひいては医療崩壊を防ぐためにきわめて重要だ。そのためにもPPEの確保が必要となる。 たとえば「サージカルマスクは1週間に1枚」といった状況では、標準予防策がとれず、したがって内視鏡など通常の検査は十分に行えない。しかし、マスクさえ十分に確保できていれば、この事態は問題なく回避できる。たとえマスク1枚が6円から50円に値上がりしたとしても、検査数を絞り使用枚数を節約するより、処置料の収入を得る方が医療経済として健全だ。したがって個人としては、まったくの粗悪品でもない限りは、何としてもPPE確保の資金を経営側は出すべきと考える。

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速報

Question4:問い合わせがひっきりなしです。院内への教育や情報発信について効果的な方法を教えてください。A:�ひとえにコミュニケーションの不足、これに尽きます。解消のための手段として、「日々の情報共有」と「マニュアル整備」の2つをおすすめします。

日々の情報共有 当院では院長や病院執行部が中心となって、あらゆる情報を開示し共有している(表2)。これらはマニュアルと同様に、電子カルテのトップページから閲覧できる。これにより「COVID-19患者がどこにいるか分からない…! 隠ぺいしようとしているのではないか?」といったスタッフの疑心暗鬼が解消される。院長による週一のメールマガジン 当院では、「コロナをともに落ち着いて考える」と題して、院長から全スタッフに毎週メールが送られてくる。病棟の稼働状況や新規検査の受付状況、自治体からの要請などがやさしくまとめられている。少なくとも、これを読めば1週間の病院の動向や方向性を大体掴むことができる。

マニュアル整備 当院ではCOVID-19対応について、「全体統括マニュアル」「入院チーム診療マニュアル」「外来診療マニュアル」「個人防護具マニュアル」をそれぞれ作成している。このうち、「個人防護具マニュアル」は、“PPEについて重点的に教えてほしい”という現場からの声を受けて追加作成したものである。状況別に必要なPPEの種類を指定し、その理由も含めてまとめた。すなわち、マニュアル

作成において重要なことは、院内スタッフからあがる「じゃあどうすればよいのか」というニーズを満たす視点である。職業感染対策マニュアル 「家族が発病した」「外勤先で曝露された」といった就業制限についての問い合わせは確実に予想され、また逐次対応する負担も大きい。したがって、「職業感染対策マニュアル」の作成は必須といえる。  当 院 で は、「COVID-19患 者 と 曝 露 者 はPPEをしていたか」「接触時に何をしていたか」など、各パターンに対する「休業期間、自宅待機の目安、受診すべき目安」を一覧にまとめている。この作成はICTでなく安全衛生管理室により行われた。

面倒でも作成すべき マニュアルを整備する負担は確かに大きい。「全体統括マニュアル」についていえばすでに第12版(8月25日現在)であり、第1版

表2 当院で経時的に共有される情報

〈COVID-19患者の情報〉・ 毎日の外来の訪問者数と陽性者数のグラフ・入院中の陽性者数のグラフ・ COVID-19入院患者専門病棟の場所と陰圧管理など

の対策状況〈PPEの情報〉・ 種類ごとに「何日後にストックが尽きるか」という

在庫状況

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を3月に作成して以来隔週で改訂してきた。また、なんといっても苦労するのは各部署との摺り合わせである。確保したいベッド数や看護師の人数を聞きとり、ベッドコントロールの融通、廃棄物や食器の回収方法にいたるまで、あらゆる対応を総括してマニュアルに落とし込んだ。 大変な作業だが、避けては通れない道だ。ルーチンワークは、マニュアルを書いて一般業務化する。なんでもかんでも専門職に依存

するワークフローから早期に脱却を目指すべきである。これを怠れば、現場スタッフが

「何かあったらICTに聞けばいいや」と思ってしまい問い合わせ対応は減らない。面倒でも、マニュアルを書かねばいけないのだ。ちなみに、問い合わせを減らすコツとして、マニュアルに書いてある内容ならば、すぐに回答せず、マニュアルの確認を促すのも一手だろう。

Question5:次の流行期に向けて、どのような準備をすればよいですか。A:�第一波を受けて見えた不具合を振り返り、マニュアルと院内体制を見直しましょう。ICTだけが疲弊しないよう、「院内全体で分業を進めておくこと」が肝心です。

ONE TEAMで動ける体制整備 病院長や病院執行部などの所属組織のリーダーを据えて、さらに全部署がそれぞれに何らかの役割を果たしてもらう体制を作る。体制構築におけるポイントは、ICTが実働するのではなく、「現場が実働するのをICTが支援・指導・監督する=疲弊しない」体制を組むことである。作業分担の例 当院の場合、内視鏡室には診療計画の見直しを依頼した。「PPEの在庫量を踏まえて週200症例の診療を確保する」ために、検査の緊急性の検討やPPE交換を最低限に抑えられる術者の交代スケジュールなどを調整してもらった。また、外科系チェアマンには予定される症例について優先度のトリアージを行ってもらった。院長補佐には4,500人を超え

る外来患者の対応や患者さんへの情報発信の統括をお願いした。体温チェックやマスク着用の啓発のほか、遠隔診療のプログラム整備まで進めていただいた。病院連絡会 この分業を可能にした背景として、院長を中心とした病院連絡会がある。いわば当院の意思決定機関であり、関連する部門の長から構成される(表3)。この場で感染対策責任

表3 当院の病院連絡会

〈常任メンバー〉・院長   ・副院長3名・院長補佐 ・事務部長・看護部長 ・薬剤部長・医事課長〈臨時メンバー〉・感染対策責任者 ・医療安全責任者・資材供給課   ・総医局長

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速報

者(筆者)から「何がリスクで何が必要なのか」を説明し、担当者が割り振られ、3日と

いう短期間で体制を整えることができた。

Question6:COVID-19によって、ICT活動はどのように変わるべきでしょうか。A:�キーワードは「分業」と「業務の一般化」!�ICNやICT頼りの感染対策から抜け出しましょう。現場での実働部隊とそれを統制・指導・支援するICTという体制を目指します。

現場担当者を育てよ ICTは現場の担当者(リンクナースやリンクドクター)を「現場の感染対策状況をチェック・指導できる存在」に育てる必要がある。ただのメッセンジャーのままではいけない。ICT自身は、現場をサポートしつつ全体の流れを監督することが役割となる(もちろん小規模の病院であれば当然ICTが動いてしまった方が早いケースもあるだろう)。

エース頼りの体制を脱却せよ これまで優秀なICNひとりの活躍に頼ってきた施設も多いのではなかろうか。しかし、個人の名人芸に頼る体制は危うい。エースだけCOVID-19に罹患しないという保証はない。COVID-19は「いつでも、どこからで

もやって来る感染症」であるため、専門家による専門業務とするのではなく、一般職員による一般標準業務としなければならない。マニュアル整備ももちろん一般業務化には役立つが、そもそも危機管理においては、俗人的な組織体制を改めるべきだ。繰り返すようだが、ICTは前線に出ず、策を出す、いわば古代中国の諸葛孔明のような役割となれる体制が望ましい。 また、ピンチヒッター(代役)の確保にも留意しておきたい。当院では責任者と代役が同時にリスクに晒されないよう、業務をずらしたり、会議でも席を離すなど工夫している。

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Question7最後に、「どう院内スタッフを導けば……」とCOVID-19対策に悩む読者に向けてメッセージをいただけますか。A:�感染症の問題はみんなの問題。「あなたならこの状況をどうする?」と問いかけ、みんなが落

ち着いて考え、検討しなければいけません。自分本位の考え方でなく、施設において自分は何ができるかを考えてもらう必要があります。そして、これらの問答は、すべての情報をみんなで共有し、疑心暗鬼による不安を取り除いたうえで行われるべきものです。すなわち、施設のトップと現場との信頼関係の構築が重要であり、それこそがリスクコミュニケーションそのものではないでしょうか。

おわりに これまでインタビューで回答をしてきましたが、上から目線で自慢するつもりも、レクチャーする気もありません。ひょっとしたらこの号が発行されるまでに、自分の所属する病院で病院感染が大爆発しているかもしれません。これまで当院に病院感染がでていないのは、「単にラッキーなだけなのだ……」と思わざるをえない、そんな毎日です。 今回ばかりは、私でも確信を持てないままで決断を迫られることが連続しています。それでも、私が動揺すれば組織全体が動揺しますので、自分の能力のすべてをかけてブレずに判断を下すように心がけています。また、ユニバーサルマスキングを4月途中から取り入れたように、自分の過去の知識と判断の誤りを認め、速やかに方針を変更する勇気を持つことも大切です。本当に守るべきものは、自分の立場やプライドではなく、人の命なのです。 恐怖心を抑えて最前線に臨むCOVID専従チームの職員にも、最大のリスペクトを捧げています。私にできることは、「未知のものへの恐怖」を少しでも緩和するために、できるだけ多くの情報を集め、分かりやすく伝えていくことと思い、コミュニケーションを欠かさないようにしています。私がリスクを背負いながら、メディアに出演を続ける理由も同じです。また、戦場に赴く人たちに丸腰を強要することのないように、必ずPPEを届けるという約束を、自分の立場と引き換えてでも守っていきます。 当院のように組織化が進んだ医療施設であっても、ICTにはすごくストレスがかかり、過重労働の毎日が続いています。これには、組織のマネージャーとして自分の能力の不足を申し訳なく思っています。それでも、私を信じて一生懸命についてきてくれる感染対策室員には深く感謝していますし、彼女たちの信頼に応えていくことが、いっそうの深い絆をつくるのであろうと思います。

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