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花の縁 02-04-01
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1)シモツケ/シモツケソウ/キョウカノコ=繍線菊/下野草/京鹿子 シモツケはバラ科シモツケ属の落葉低木で、初夏 6~7 月頃に桃色の 5 弁の小花
を群がって咲かせる。高さは 1m 内外の木本で、主幹がないために草本とよく間違
えられる。同じ仲間にはコデマリ、ユキヤナギ、シジミバナなどがあり、これらの
花はどれも雄蕊が花弁よりも倍ぐらい長く、性質もよく似ている。シモツケは全国
の山野に自生し、朝鮮半島や中国にも分布する。和名の由来はこの植物の最初の発見
地であった『下野国』に因む。漢字では『繍線菊』と記すが、これは単なる漢名の
借用で、別種の誤用という説もある。学名は『Spiraea japonica』で、属名は螺旋状を
意味しており、これは果実の形に由来する。
シモツケには白い花の咲くシロバナシモツケ、葉の丸いマルバシモツケ、小花の
集まりが円錐形になるホザキシモツケ、四国の山野に自生し白い花のトサシモツケ
などがある。庭に植えるには岩陰や大きな木の下草的な植え方がよく、密植にもよく
たえる。特にこの季節は赤やピンクの花が意外に少ないために、色みのある木本は
とりわけ貴重な存在である。植え場所は乾燥地でもまた多少の湿潤地でもよく、バラ科
の中では珍しく極めて手のかからない品種といえる。繁殖は株分けがよく春、早い
うちか、秋、遅く行なうとよい。
ところでシモツケと呼ばれる花は他にもある。同じバラ科の多年草シモツケソウで、
こちらの学名は『Filipendula multijuga』、 シモツケとは属も異なる。このためクサ
シモツケなどともいって、木本種シモツケと区別している。シモツケソウは頂葉が
掌状に 5 裂から 7 裂した羽状複葉になるのですぐ見分けがつく。しかし花の咲く季節
は一緒で花色もよく似ている。シモツケソウといわれる所以もそこにあるわけだ。
シモツケソウは本州から、九州の山地に自生するが、この仲間には花の大きいオニ
シモツケや、茶花として最近特に人気の高いキョウカノコ、西アジア、モンゴル、
ヨーロッパを原産とする西洋ナツユキソウなど、種々のものがある。
さてそのキョウカノコの学名は『Filipendula purpurea』で、6~7 月ごろ紅紫色
の集散花序を作り、日本の原産種である。小さな花が集まって咲く姿を、京染めの
『鹿子絞』に見立てたもので、この花の特徴をうまくいいあらわしている。京鹿子は
和菓子などでもよく使われる名称だが、歌舞伎や長唄には『京鹿子娘道成寺』という
のがあり、これは略して『道成寺』ということもある。そのあらすじはよくご存じの
通り、紀州の道成寺に伝わる『安珍・清姫』の物語で「鐘に恨みは数々ござる」という
あれである。もともとは謡曲『道成寺』を『元禄調』にリメイクしたもので、1753年
(宝暦 3 年)江戸は中村座で初演された。もともとは平家の家臣であった尾形三郎の
妹『横笛』が、主人の若殿に恋をして三郎に殺され、その亡魂が白拍子に化して現れる
というもので、最後は白拍子の「鐘入」となり、鐘を上げると白拍子は蛇体となって
現れる。これは当時大流行したが、いかにも日本人好みの悲恋であった。
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バラ科シモツケは言って見れば、コデマリの夏咲種ということになろうか。ともにバラ科
シモツケ属で、種名もともに『Spirae』である。ちょうどツツジとサツキの関係に似ている。
バラ科シモツケは色彩の変化が多く、そこがコデマリと異なるところかもしれない。
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珍しい源平咲きのバラ科シモツケ。これは埼玉県の児玉郡で撮影したものである。白い花の
中に枝変わりで紅色の花が咲いていた。色彩変化の多い一つの証でもあろうか(栽培品)。
シモツケソウも同じバラ科である。しかしシモツケソウの葉は掌状になる(長野県軽井沢町)。
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花弁数は4~5弁で定まらず花径は5mmほど。寒さには強く、関東、中部の高原地帯に多い。
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シモツケソウは陽当たりが良く、やや湿り気の多い場所を好む。種子で殖えるため、群落を
作る傾向があり、長野県の霧が峰や美ヶ原などで多く見られる(長野県軽井沢町)。
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ホザキシモツケ、学名は『Spiraea salicifolia』で、シモツケの仲間である。(長野県霧が峰高原)。
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キョウガノコ(京鹿の子)はいわば園芸種のシモツケソウである。したがってシモツケソウと
同じようにやや湿り気の多い半日陰を好む(栽培品:さいたま市浦和区)。
京鹿の子は水あげもよく、切花としても向いているため茶花などにも用いられる。
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シモツケを食草としている蝶がこのフタスジチョウである。浅間高原や日光戦場ヶ原、八ヶ岳
中腹などではごく普通に見られ、ハイカーを楽しませてくれる(長野県地蔵峠)。
フタスジチョウは関西以西では見られず、産地では多数発生する(長野県地蔵峠)。 目次に戻る