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*1 技術部 第 6 研究室
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日 置 技 報 VOL.23 2002 NO.1
1. はじめに
3660 の外観
3660 LAN ケーブルハイテスタ
要 旨
3660 LAN ケーブルハイテスタはワイヤマップ,ケーブル長,ディレクション(ケーブルの接続先)の検査機能を備えたケーブルテスタである.
本章では製品の概要,構成,特徴について解説する.
近年のコンピュータネットワークの広がりに伴
い,LAN ケーブルの敷設が増加している.LAN ケーブルの配線については米国の通信配
線に関する規格として TIA/EIA(米国通信機器工業会/米国電子工業会)が制定した TIA/EIA-568「商用ビル通信配線規格」が米国の国内規格として
認められている.また,国際的には TIA/EIA-568を元にして作成された ISO 11801 が,日本国内では ISO 11801 を元にした JIS X 5150 が制定されている.これらの規格の中ではネットワークの物
理的な要素となるケーブルやその配線についての
要求事項が定められており,特に米国においては
敷設されたケーブルが規格を満たしているかの確
認とその報告が求められ,日本国内においても官
公庁関連の工事では検査報告が求められる状況に
ある.
LAN の配線に使われるケーブルには同軸線,より対線,光ファイバなどの種類があるが,取り扱
いの容易さ,コストの低さなどを理由として,
UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブル(無シールドより対線)が現在の主流になっている.し
かし,UTP の取り扱いが容易とはいえ,設置状況によってはその性能を発揮せず,ネットワークの
性能低下や障害を引き起こすことがある.また,
現場でケーブルとコネクタの接続作業をする場面
もあるため,これらの確認作業として電気工事担
当者はケーブルテスタを使ってケーブルが正しく
敷設されているかを確認する必要がある.
また,運用中のネットワークにおける障害の発
生源はそのほとんどが機器の設定ミスかケーブル
の不良によるものといわれており,ネットワーク
管理者は障害発生時に原因を調査し対策をとる必
要がある.調査の段階で原因がケーブルにあるも
のか,設定によるものかのきり分けにケーブルテ
スタを使用することで一連の作業時間を短縮する
ことができる.
多羅沢公一*1
このようにネットワークの敷設工事やメンテナ
ンスの場面でケーブルテスタが使われているが,
従来から市場にあるテスタは規格の要求に準拠し
た試験をできるハイエンドの製品から,ワイヤマ
ップの OK/NG を判定するだけの簡単な製品まで多岐にわたる.これまでこの分野の製品をもっ
ていなかった弊社が通信関連市場へ投入する第一
弾として,3660 は現在の LAN で広く使われている UTP ケーブルの敷設,メンテナンス時に特に必要とされるワイヤマップ/ケーブル長検査,ディ
レクション検査の項目を盛り込み,機能の割に低
価格の製品とした.
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2. 機能・特長
図 1 ワイヤマップ誤配線例
図 2 ワイヤマップ検査結果
図 3 ディレクション検査結果
以下に 3660 の主な特長を挙げる.(1) 簡単な操作
TEST キー1プッシュでワイヤマップとケーブル長を同時に測定.
測定結果はケーブル内の各ペアの結線状況をペ
アごとに確認でき,ケーブルにおける問題点の的
確な判断が可能である.
(2) ワイヤマップ検査ケーブル両端コネクタのピンごとの接続状況を
確認.
UTP ケーブルは 4 対 8 芯の撚り対線であり,芯線とコネクタの接続順は規格により規定されてい
る.これによればコネクタの 1-2,3-6,4-5,7-8番ピンにそれぞれペア線を割り当てるように決め
られているが,作業者のミスにより誤結線が生じ
る場合がある.
図 1 に誤配線の例を示す.
安価なテスタではペアごとの OK/NG の判断しかできないものが多いが,3660 はピンごとにショート,オープン,リバース,トランスポーズ等の
誤配線の接続状況を確認できる.(スプリットペ
アは不可)
図 2 にワイヤマップ検査画面を示す.(3) ケーブル長検査
2m~300mの UTP ケーブルの長さ検査が可能.敷設工事の現場で製作したケーブルの長さの確
認や,ケーブル途中の断線や短絡点のおおよその
位置を知ることができる.ケーブル長の単位には
SI 単位の[m]のほか,ネットワーク先進国である米国での使用を考慮して[ft]での表示も可能とした.
(4) ディレクション検査最大 5 本までのケーブルのディレクション(接
続先)検査が可能.
UTP ケーブルを用いる LAN はスター配線であり,各端末からのケーブルが HUB 等に集められるが,配線時にケーブルに識別タグ等をつけてい
ないと HUB に集められたケーブルがそれぞれどこに繋がっている物かわからなくなってしまう.
このようなときにディレクション検査を実行する
ことでケーブルの接続先を確認できる.
図 3 にディレクション検査画面を示す.
(5) 検査結果表示3660 の表示はワイヤマップ/ケーブル長測定
表示とディレクション検査表示の 2 種類があり,ワイヤマップ/ケーブル長検査では画面の上段に
ケーブル長,下段にワイヤマップ検査結果が表示
される.ワイヤマップ検査結果は近端のコネクタ
のピン番号とそれに接続している遠端のコネクタ
のピン番号が表示され(図 2),ディレクション検査ではケーブル遠端に接続された 9337 ディレクションターミネータの ID 番号が表示される(図3).
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3. 構成
3.1 ワイヤマップ検査回路
図 4 ブロック図
図 5 ワイヤマップ測定回路
3660 のハードウェアのブロック図を図 4 に示す.
構成は CPU 周辺回路,I/O 用 CPLD,TDR 用CPLD,ワイヤマップ検査回路,ケーブル長検査回路,電源回路となっている.
ワイヤマップ検査には 3660の他に 9336ワイヤマップターミネータを使用し,ケーブルの近端に
3660,遠端に 9336 を接続して検査を行う.図 5 は 3660 のワイヤマップ測定回路である.
従来から市場にある製品ではワイヤマップ検査は,
抵抗とダイオード等の非線形素子からなる回路ネ
ットワークを用いて行う.この回路ではリバース
ペア(ペア内の線の入れ違い)の検出のために入
れてあるダイオードの順方向電圧により判定マー
ジンが小さくなるため不利である.一方、図 5 の抵抗ネットワークによる構成ではダイオードが無
いために判定マージンが大きく確保できる.
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図 6 ワイヤマップ電圧検出回路
図 7 ワイヤーマップ検査測定フロー
誤結線の検出は図 6 のように 3660 からケーブル近端の任意の芯線に試験電圧 Vin を注入して,遠端に接続した 9336 の抵抗ネットワークと 3660内部のレベル検出部の基準抵抗 Rg による分圧値Vd を計測することで行う.
ここで,Vin を注入する芯線の遠端における抵抗値 Rx(=Ra+Rb)が既知であれば,ケーブルの近端と遠端の接続状況検出が可能となる.3660では図 5 の R1~R8 に個別の値を設定し,これらから求められる検出電圧 Vd の理論値と実際の測定値を比較して近端と遠端のピンの対応,あるい
はオープン/ショートを判断している.
Rxは Vin と Vdの組み合わせにより検出できるが,すべての誤配線(>>8!)を考慮しなければならず現実的ではない.そのため Vin を注入する芯線は、遠端で正しく結線されていると仮定するこ
とで Rx を効率的に検出している.図 7 にワイヤマップ検査の概略フローチャートを示す.
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3.2 ケーブル長測定回路
3.3 ディレクション検査回路
3.4 電源回路
3660 LAN ケーブルハイテスタ
アナログスイッチ
コネクタパルス発生部
パルス検出部
図 8 ケーブル長測定回路
図 9 2 m ケーブル遠端開放の入射波と反射波
3660 では図 8 の回路で TDR(Time DomainReflectometry)法:時間領域反射法によりケーブル長を測定している.TDR 法では,ケーブルの近端から注入したパルスが遠端あるいは開放,短絡
等の原因によりインピーダンス不整合が起きてい
る点で反射して戻るまでの時間 t[s]を測定することで,下記の式によりケーブル長を求めている.
L:ケーブル長[m]c:光速=3×108[m/s]t:時間[s]NVP:Nominal Velocity of Propagation(光速
に対する信号の伝播時間比)
この計算には NVPが必要になるが,これはケーブルのカテゴリ等の違いによって 0.6~0.8 の広い範囲にわたる.3660 では NVP を 0.7 と仮定してケーブル長を計算している.
図 9 に 10 ns のパルスを 2 m のケーブルに注入した時の入射波と反射波の波形例を示す.
時間測定には,注入パルスと反射波が完全に分
離されることが望ましく,そのため注入パルス幅
=10ns の場合,測定可能な最短ケーブル長は 1mが限界となる.3660 ではパルス幅 10 ns の信号を出力するために 100 MHz のクロックと高速のCPLD を採用した.これとは逆にケーブル長が長い場合に注入する
信号のパルス幅が小さいと,遠端で反射した信号
が入射端に戻ってくるまでの間に減衰してしまい
検出できなくなることがある.これに対応するた
め 3660 ではパルス幅を自動的に4段階に切り換え,2 m~300 m の広範囲のケーブル長を測定できるようにしている.
ディレクション検査には ID1~ID5 の 5 個で 1セットの 9337 ディレクションターミネータを使用する.9337 の内部は 9336 と同じ回路構成だが,抵抗ネットワークには ID 番号ごとに個別の抵抗値を割り当てている.9337 をケーブル遠端に接続してワイヤマップ検査と同様の測定を行うと
ID 番号によって固有の電圧値が検出され,この値から 9337 の ID 番号を判断する.
電源部は大きく分けて CPU 周辺ディジタル系電源,CPLD 周辺ディジタル系電源,アナログ系電源に分かれる.最初に CPU 周辺ディジタル系電源を電池から DC-DC コンバータによって発生し,ここから DC-DC コンバータで CPLD 周辺ディジタル系電源とアナログ系電源を発生する構成
になっている.
ソフトウェア制御により CPLD 周辺ディジタル系とアナログ系電源回路は測定動作時以外はパ
ワーダウンモードに入り,電池寿命を延ばす工夫
がされている.
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4. 仕様 5. 測定例
5.1 ケーブル敷設前のコネクタ接続確認
図 11 図 10 の検査結果
図 10 測定例 1
以下に 3660 の主な仕様を示す<測定機能>
ワイヤマップ/ケーブル長検査
・ワイヤマップ検査
9336 ワイヤマップターミネータを使用して結線状況の確認が可能
検出エラー:オープン,ショート,その他の誤
配線(スプリットペアは検出不可)
・ケーブル長検査
測定長:2-300 m,6.6~990ft誤差:±(1 m+15%rdg.),±(3.3ft+15%rdg.)表示分解能:0.1 m,0.33ft・ディレクション検査
9337 ディレクションターミネータを使用して5本のケーブルを識別可能
<測定可能ケーブル,コネクタ>
UTP ケーブル:特性インピーダンス100ΩCAT3,4,5,5e(RJ-45コネクタ)
<測定方法>
ワイヤマップ:抵抗分圧法
ケーブル長:TDR 法ディレクション:抵抗分圧法
敷設工事の現場でケーブル両端にコネクタを接
続して配線を行う場面において,ケーブルの設置
前にコネクタの接続が正しいことを確認すること
で後の作業の効率を上げることができる.
図 10 のようなケーブル長 20.2 m,1番と 2 番を入れ違えて結線されたケーブルの検査時には図
11 のような表示になり,ケーブルの近端と遠端で違う番号のコネクタピンに接続されていることを
示す.
上段の大きな数字がケーブル長,下段の小さな
数字がペア線の接続状況を表している.
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日 置 技 報 VOL.23 2002 NO.1
図 14 図 13 の検査結果
5.2 ケーブル敷設時の接続先確認
5.3 稼動中のネットワークに障害が発生した時のケーブルの確認
6. おわりに
図 12 接続先確認例
図 13 ケーブル障害検出
個別の ID 番号を持つ 9337 ディレクションターミネータをケーブルの遠端に接続し,3660 のTEST キーを押せば接続されている ID 番号が表示される.壁面に取り付けられた複数のモジュラ
ジャックがどのケーブルに接続しているかが容易
に判断できる.(図 12)
稼動中のネットワークで障害が起きたとき,効
率的な障害解析を行うためには原因がどこにある
かを切り分ける必要がある.3660 はこのような場面において,ケーブルの問題の有無を確認する
ことに活用できる.ケーブルに起因する原因とし
てはケーブル挿抜時のコネクタ付近での断線や,
誤ってケーブルの上に重量物を置いてしまうこと
による断線などが考えられるが,3660 のワイヤマップ検査機能によって断線の検出が可能である.
また,ケーブル長測定機能によりその断線点のお
およその位置を割り出すことも可能である.
図 13 のように 5 番ピンに繋がる線が途中で断線したケーブルの検査時には 3660 は図 14 のような表示で断線しているピンの番号と,近端から断
線箇所までの長さを表示する.
3660 LAN ケーブルハイテスタの概要を紹介した.情報通信産業はこれからも伸長が期待される
市場である.3660 が敷設,メンテナンス分野で多数活用されることを期待し,また,この製品をき
っかけとして,情報通信向けカテゴリ製品群の展
開を図っていきたい.