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ルベーグ積分 2014年度秋学期 1
1 可測空間,可測関数,測度空間
非空集合 Ωとその部分集合からなるある集合族 A を考える.A が次の条
件を満たすとき,A は σ 代数という.
1. Ω ∈ A
2. A ∈ A ⇒ Ac ∈ A
3. A1, A2, · · · ∈ A ⇒∪∞i=1Ai ∈ A
そして,組 (Ω,A )を可測空間といい,A の要素の集合を可測集合という.
命題 1.1 (Ω,A )を可測空間としたとき,以下が成立する.
1. ∅ ∈ A
2. A1, A2, · · · ∈ A ⇒∩∞i=1Ai ∈ A
3. A1, A2, · · · ∈ A ⇒ lim supn→∞An, lim infn→∞An ∈ A
ここで,lim supn→∞An =∩∞n=1
∪∞i=nAi,lim infn→∞An =∪∞
n=1
∩∞i=nAi と定義される.
可測集合列 Anについて,特に
lim infn→∞
An = lim supn→∞
An
が成立するとき,この共通の集合を limn→∞An と表し,これを An の極限という.
可測集合列 Anは,A1 ⊂ A2 ⊂ · · · が成立するとき単調増加であるといい,A1 ⊃ A2 ⊃ · · · が成立するとき単調減少であるという.そして単調増加であるか単調減少であるとき,単に単調であるという.
命題 1.2 可測関数列 Anが単調であるとき,その極限 limn→∞An が存在
する.単調増加である場合には limn→∞An =∪∞n=1An が成立し,単調減少
である場合には limn→∞An =∩∞n=1An が成立する.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 2
命題 1.2の結果を参考にして次のような記法を使う.An Aとかいたら
Anは単調増加でありその極限が A =∪∞n=1An であること,An Aとか
いたら Anは単調減少でありその極限が A =∩∞n=1An であることを示す.
可測空間 (Ω,A )上で定義された広義実数値関数 f : Ω → [−∞,∞]は任意
の実数 aに対し,
f−1((a,∞]) = ω ∈ Ω : f(ω) > a ∈ A
が成立するとき即ち,ω ∈ Ω : f(ω) > aが可測集合であるとき可測関数であるという.
命題 1.3 f : Ω → [−∞,∞]が可測であるならば任意の a, b ∈ R に対し以下
の主張が成立する.
1. f−1([−∞, a)) = ω ∈ Ω : f(ω) < a ∈ A
2. f−1([−∞, a]) = ω ∈ Ω : f(ω) ≤ a ∈ A
3. f−1([a,∞]) = ω ∈ Ω : f(ω) ≥ a ∈ A
4. f−1((a, b)) = ω ∈ Ω : a < f(ω) < b ∈ A
5. f−1([a, b)) = ω ∈ Ω : a ≤ f(ω) < b ∈ A
6. f−1((a, b]) = ω ∈ Ω : a < f(ω) ≤ b ∈ A
7. f−1([a, b]) = ω ∈ Ω : a ≤ f(ω) ≤ b ∈ A
8. f−1(a) = ω ∈ Ω : f(ω) = a ∈ A
9. f−1(∞) = ω ∈ Ω : f(ω) = ∞ ∈ A
10. f−1(−∞) = ω ∈ Ω : f(ω) = −∞ ∈ A
11. f−1(R) = ω ∈ Ω : f(ω) ∈ R ∈ A
命題 1.4 可測関数 f1, . . . , fm : Ω → Rと連続関数 F : Rm → Rに関し,そ
の合成関数 F (f1, . . . , fm)は可測関数である.
証明 Rm は第二可算公理をみたすので任意の開集合は開区間の直積の可算個
の和集合として表すことができる.よって,任意の a ∈ Rについて
x ∈ Rm : F (x) > a =∞∪n=1
(bn1 , cn1 )× · · · × (bnm, c
nm)
ルベーグ積分 2014年度秋学期 3
と表わせているので,
ω ∈ Ω : F (f1(ω), . . . , fm(ω)) > a
=
∞∪n=1
f−11 ((bn1 , c
n1 )) ∩ · · · ∩ f−1
m ((bnm, cnm))
が成立する.よって,F (f1, . . . , fm)は可測である.
系 1.5 任意の可測関数 f, g : Ω → R と任意の c ∈ R に対し以下の関数はす
べて可測である.
1. f2
2. |f |3. f + g
4. cf
5. fg
6. f ∨ g,f ∧ g
命題 1.6 任意の可測関数の列 f1, f2, · · · : Ω → Rに対し以下の関数はすべて
可測である.
1. supfn : n = 1, 2 . . . ,inffn : n = 1, 2 . . . 2. lim supn→∞ fn,lim infn→∞ fn
3. limn→∞ fn が存在するならば,limn→∞ fn
可測空間 (Ω,A )に対し,A 上の広義実数値関数 µは以下の性質を満たす
とき測度という.
1. A ∈ A ⇒ µ(A) ≥ 0 かつ µ(∅) = 0
2. A1, A2, · · · ∈ A について,
µ(∞∑i=1
Ai) =∞∑i=1
µ(Ai)
可測空間 (Ω,A )と測度 µの組 (Ω,A , µ)を測度空間という.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 4
命題 1.7 測度空間 (Ω,A , µ) について,任意の A,B,An, Ai ∈ A 対し以下
が成立する.
1. A ⊂ B ⇒ µ(A) ≤ µ(B)
2. An A⇒ µ(An) µ(A)
3. An A かつ µ(A1) <∞ ⇒ µ(An) µ(A)
4. µ(∪∞n=1An) ≤
∑∞n=1 µ(An)
5. µ(∑ni=1Ai) =
∑ni=1 µ(Ai)
6. µ(∪ni=1Ai) ≤
∑ni=1 µ(Ai)
測度空間 (Ω,A , µ)は,µ(Ω) <∞であるとき有限であるといい,µ(Ωn) <∞かつ Ω =
∪∞n=1 Ωn である可測集合列 Ωn が存在するとき,σ 有限である
という.このとき,Ωn は互いに素であるようにとれる.
2 非負値単関数と非負値可測関数の積分
可測空間を定義域とする実数値関数でその像が有限集合である可測関数を
単関数という.φ : Ω → Rを恒等的には 0ではない非負値単関数としその像
を Y とする.任意の y ∈ Y に対し,φ−1(y) ∈ A が成立し,
φ =∑
y∈Y \0
y1φ−1(y)
と書けていることは明らかである.この右辺のように非空可測集合の特性関
数の正係数の線形結合で φに等しいものを φの表現といい,特に上記の表現
を標準表現という.このように 0ではない非負値単関数 φの表現は必ず存在
するが複数ありうるのが普通である.
任意の 0 ではない非負値単関数 φ に対し,その標準表現 φ =∑y∈Y \0 y1φ−1(y) を使い
I(φ) =∑
y∈Y \0
yµ(φ−1(y))
と定義する.(y > 0について y ·∞ = ∞,∞+∞ = ∞と約束する) そして,
定値関数 0については I(0) = 0と約束する.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 5
非負値単関数 φの任意の表現
φ =
n∑i=1
ai1Ai, Ai ∈ A,Ai = ∅,ai > 0
について,1, . . . , nの任意の非空部分集合 S に対し,
AS =∩i∈S
Ai ∩∩j /∈S
Acj
とおき (∩i∈∅Ai = Ωと約束),S = S : AS = ∅とおく.ASS∈S は互
いに素であり,aS =∑i∈S ai とおくと aS > 0であり,明らかに
φ =n∑i=1
ai1Ai =∑S∈S
aS1AS
φ−1(Y \ 0) =n∪i=1
Ai =∑S∈S
AS
が成立する.さらに,ASS∈S は φ−1(y)y∈Y \0 の細分である.すなわ
ち,任意の S ∈ S に対し,y ∈ Y \ 0が存在し AS ⊂ φ−1(y)となってお
り,このとき aS = yである.そして∑AS⊂φ−1(y)AS = φ−1(y)が成立する.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 6
これらの性質に注意して以下の等式の連鎖が成立することが確認できる.
n∑i=1
aiµ(Ai) =n∑i=1
aiµ(∑
S∈S :S∋i
AS)
=
n∑i=1
∑S∈S :S∋i
aiµ(AS)
=∑
(i,S)∈1,...,n×S :i∈S
aiµ(AS)
=∑S∈S
∑i∈S
aiµ(AS)
=∑S∈S
aSµ(AS)
=∑S∈S
aSµ
∑y∈Y \0
(AS ∩ φ−1(y))
=∑S∈S
aS∑
y∈Y \0
µ(AS ∩ φ−1(y))
=∑
y∈Y \0
∑S∈S
aSµ(AS ∩ φ−1(y))
=∑
y∈Y \0
∑S∈S :AS⊂φ−1(y)
aSµ(AS)
=∑
y∈Y \0
∑S∈S :AS⊂φ−1(y)
yµ(AS)
=∑
y∈Y \0
y∑
S∈S :AS⊂φ−1(y)
µ(AS)
=∑
y∈Y \0
yµ(φ−1(y))
= I(φ)
したがって,I(φ)の値は φの表現によらずに
I(φ) =n∑i=1
aiµ(Ai)
と計算できることがわかる.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 7
任意の A ∈ A と任意の非負値単関数 φに対し,IA(φ)を
IA(φ) = I(1Aφ)
と定義する.1Aφ は明らかに非負値単関数なので IA(φ) の定義は正当であ
る.つぎの命題が成立する.
命題 2.1 任意の非負値単関数 φ,ψ と任意の c ≥ 0と任意の可測集合 A,B ∈A に対し,
1. IA(φ+ ψ) = IA(φ) + IA(ψ),IA(cφ) = cIA(φ)
2. IA(φ) ≥ 0
3. φ ≤ ψ ⇒ IA(φ) ≤ IA(ψ)
4. A ⊂ B ⇒ IA(φ) ≤ IB(φ)
5. IA+B(φ) = IA(φ) + IB(φ)
が成立する.
証明 第 1の主張は I(φ)が φの任意の表現を使って計算できることより明ら
か.第 2の主張は I の定義より明らか.第 3の主張は第 1,第 2の主張より
明らか.第 4は第 3より,第 5は第 1より明らか.次に非負値可測関数 f : Ω → [0,∞] の積分を定義をする.f より小さい
非負値単関数 φをすべて考えその I の値の上限として f の積分を定義する,
即ち, ∫f dµ = supI(φ) : 0 ≤ φ ≤ f,φは単関数
と定義する.これは∞ となることもあるが常にこの定義は確定する.さら
に,A ∈ A に対し, ∫A
f dµ =
∫f1A dµ
と定義する.また,非負値単関数 φについては,∫A
φdµ = IA(φ)
であることは上の命題 2.1より導くことができる.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 8
この積分の基本性質を証明するために次のエゴロフの定理が重要な役割を
担う.
定理 2.2 (Ω,A , µ) は有限測度空間とする.Ω 上の可測関数列 fn : Ω → R
が f : Ω → R に各点収束しているとする.このとき,任意の ε > 0に対し,
次の性質をもつ H ∈ A が存在する.
1. µ(H) < ε
2. Hc 上で fn は f に一様収束する
証明 任意の自然数 r をひとつ固定して考える.
A(r, n) =
∞∩k=n
ω ∈ Ω : |fk(ω)− f(ω)| < 1
2r
とおくと,fn が f に各点収束しているので,
A(r, n) Ω (n→ ∞)
が成立する.よって,µ(A(r, n)) µ(Ω)
が成立する.従って,nr が存在し
µ(A(r, nr)) > µ(Ω)− ε
2r
即ち,µ(A(r, nr)
c) <ε
2r
が成立する.
H =∞∪r=1
A(r, nr)c
ルベーグ積分 2014年度秋学期 9
とおくと,
µ(H) = µ
( ∞∪r=1
A(r, nr)c
)
≤∞∑r=1
µ(A(r, nr)c)
<∞∑r=1
ε
2r
= ε
となる.
一方,任意の δ > 0が与えられたとする.1/2r0 < δ を満たす自然数 r0 を
とり固定する.ω ∈ Hc =∩∞r=1A(r, nr) ならば,ω ∈ A(r0, nr0) であるか
ら,すべての k ≥ nr0 について,
|fk(ω)− f(ω)| < 1
2r0< δ
が成立している.よって,Hc 上で fk は f に一様収束している.一般に非負可測関数について以下の基本的な性質が証明される.
命題 2.3 f : Ω → [0,∞]を非負可測関数とすると,φn f となる非負値単
関数列が存在する.
証明 各 nについて,
φn(ω) =
k−12n ω ∈ f−1(
[k−12n , k2n
))
n ω ∈ f−1([n,∞)), k = 1, 2, 3, . . . , n2n
とおけばよい.特に φn ≤ φn+1 となっていることは,φn+1 を定義する Ωの
分割が φn のそれの細分になっていることから導かれる.
命題 2.4 f : Ω → [0,∞]を非負値可測関数とし,φ1, φ2, . . . を非負値単関数
列で φn f とするならば,∫f dµ = lim
n→∞
∫φn dµ
が成立する.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 10
証明 極限 limn→∞∫φn dµが存在すること,そして不等号∫
f dµ ≥ limn→∞
∫φn dµ
は明らかである.
よって以下では ∫f dµ ≤ lim
n→∞
∫φn dµ
を示す.
f が実数値で µ(Ω) < ∞の場合.定理 2.2より,任意の ε > 0に対しある
H が存在し,µ(H) < εかつ Hc 上で φn は f に一様収束している.よって,
任意の δ > 0 に対し,ある n0 が存在し任意の n ≥ n0 と任意の ω ∈ Hc に
対し,φn(ω)− f(ω) > −δ 即ち φn(ω) > f(ω)− δ
が成立している.
一方,ψ ≤ f なる任意の単関数 ψ をとると,任意の n ≥ n0 と任意の
ω ∈ Hc に対し,φn(ω) > f(ω)− δ ≥ ψ(ω)− δ
となっているので,
I(ψ) = IH(ψ) + IHc(ψ)
≤ µ(H)maxω∈Ω
ψ(ω) + IHc(φn + δ)
= µ(H)maxω∈Ω
ψ(ω) + δµ(Hc) + IHc(φn)
≤ εmaxω∈Ω
ψ(ω) + δµ(Hc) +
∫φn dµ
が成立する.よって,任意の ε > 0と δ > 0に対し
I(ψ) ≤ εmaxω∈Ω
ψ(ω) + δµ(Ωc) + limn→∞
∫φn dµ
が成立する.従って,
I(ψ) ≤ limn→∞
∫φn dµ
ルベーグ積分 2014年度秋学期 11
となるので, ∫f dµ ≤ lim
n→∞
∫φn dµ
を得る.
次に,f が実数値で µ(Ω) = ∞の場合に,∫f dµ ≤ lim
n→∞
∫φn dµ
を示す.
limn→∞
∫φn dµ = ∞
のときは明らかなので,
limn→∞
∫φn dµ <∞
と仮定する.ψ ≤ f なる任意の非負値単関数 ψ をとると,
ψ =∑y∈Y
y1ψ−1(y)
と表現されているが,任意の y ∈ Y \ 0 について µ(ψ−1(y)) < ∞ であ
る.実際,µ(ψ−1(y)) = ∞ かつ y > 0 なる y ∈ Y が存在したとすると,
ψ ≤ f = limn→∞ φn であることより,
Bn = ω ∈ ψ−1(y) : φn(ω) ≥y
2
とおくと,Bn ψ−1(y) が成立する.よって,
limn→∞
µ(Bn) = µ(ψ−1(y)) = ∞
が成立する.一方,任意の ω ∈ Bn について φn(ω) ≥ y/2であるので∫φn dµ ≥ y
2µ(Bn)
である.よって,
limn→∞
∫φn dµ = ∞
が導出されてしまう.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 12
Ω′ = Ω \ ψ−1(0)とおけば,µ(Ω′) <∞である.Ω′ 上で考えて µ(Ω) <∞に関する上の議論を適用すれば,
IΩ′(ψ) ≤ limn→∞
∫Ω′φn dµ
が成立するので,
I(ψ) = IΩ′(ψ) ≤ limn→∞
∫Ω′φn dµ ≤ lim
n→∞
∫φn dµ
を得る.従って,0 ≤ ψ ≤ f なるいかなる単関数 ψ についても
I(ψ) ≤ limn→∞
∫φn dµ
が成立しているので ∫f dµ ≤ lim
n→∞
∫φn dµ
を得る.以上で f が実数値である場合には証明が完了した.
f の値が∞になる可能性があり,µ(f−1(∞)) = 0の場合.ψ ≤ f となる
単関数 ψ を任意にとる.
f(ω) =
f(ω) ω /∈ f−1(∞)
0 ω ∈ f−1(∞)
と定義し,φn や ψ も同様に定義すると命題 2.1より,∫ψ dµ =
∫ψ dµ,
∫φn dµ =
∫φn dµ
が成立し,ψ ≤ f と φn f も明らかである.よって,∫ψ dµ =
∫ψ dµ ≤
∫f dµ ≤ lim
n→∞
∫φn dµ = lim
n→∞
∫φn dµ
が成立するので ∫f dµ ≤ lim
n→∞
∫φn dµ
を得る.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 13
最後に µ(f−1(∞)) > 0である場合は,任意の実数 αに対し,
Bαn = ω ∈ f−1(∞) : φn(ω) ≥ α
とおくと,Bαn f−1(∞)が各 αに対し成立しているので,
limn→∞
µ(Bαn ) = µ(f−1(∞))
となる.よって,各 αに対し,µ(Bαnα) ≥ µ(f−1(∞))/2となる nα が存在す
るので,φnα ≥ α1Bαnαに注意すると,
α1
2µ(f−1(∞)) ≤ I(φnα) ≤ lim
n→∞
∫φn dµ
が成立する.αは任意であったことに注意すると,
limn→∞
∫φn dµ = ∞
を得て,証明が完了する.
補題 2.5 任意の非負値可測関数 f, g と任意の c ≥ 0について,
1. ∫(f + g) dµ =
∫f dµ+
∫g dµ
2. ∫(cf) dµ = c
∫f dµ
3.
f ≤ g ⇒∫f dµ ≤
∫g dµ
が成立する.
証明
1.∫f dµ = ∞または
∫g dµ = ∞のときは明らかなので,どちらも有限
値をとるものとする.f と g それぞれに対し各点収束する非負値単調
増加単関数列 φn と ψn をとると,明らかに φn + ψn は f + g に各点
収束するので命題 2.4より求まる.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 14
2. 非負値可測関数の積分の定義より明らか.
3. 非負値可測関数の積分の定義から明らか.
補題 2.6 1. 非負値可測関数列 fn : Ω → [0,∞]について,∫ ∞∑n=1
fn dµ =
∞∑n=1
∫fn dµ
が成立する.
2. 非負値可測関数列 fn : Ω → [0,∞]が単調増加であるならば,∫limn→∞
fn dµ = limn→∞
∫fn dµ
が成立する.
証明
1. fn に下から各点収束する単調増加な単関数列を φnm とする.
ψm =
m∑n=1
φnm
とおけば,
ψm − ψm−1 =m−1∑n=1
(φnm − φnm−1) + φmm ≥ 0
より ψm は単調増加である単関数列である.また,
∞∑n=1
fn ≥m∑n=1
fn ≥m∑n=1
φnm = ψm
であり,任意の lに対し,
limm→∞
ψm = limm→∞
m∑n=1
φnm ≥ limm→∞
l∑n=1
φnm =l∑
n=1
fn
ルベーグ積分 2014年度秋学期 15
が成立するので,limm→∞ ψm ≥∑∞n=1 fn より
∞∑n=1
fn = limm→∞
ψm
が成立している.よって,命題 2.4より∫ ∞∑n=1
fn dµ = limm→∞
∫ψm dµ
が成立する.この右辺は
limm→∞
∫ψm dµ = lim
m→∞
∫ m∑n=1
φnm dµ
= limm→∞
m∑n=1
∫φnm dµ
≤ limm→∞
m∑n=1
∫fn dµ
=∞∑n=1
∫fn dµ
と計算されるので, ∫ ∞∑n=1
fn dµ ≤∞∑n=1
∫fn dµ
が成立する.一方,∑∞n=1 fn ≥
∑mn=1 fn がすべてのmについて成立
するので, ∫ ∞∑n=1
fn dµ ≥m∑n=1
∫fn dµ
となり, ∫ ∞∑n=1
fn dµ ≥∞∑n=1
∫fn dµ
を得る.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 16
2. g1 = f1, g2 = f2 − f1, g3 = f3 − f2, . . . とおくと,gm ≥ 0で,
fn =n∑
m=1
gm
が成立しているので,今証明したことより,∫limn→∞
fn dµ =
∫ ∞∑m=1
gm dµ
=∞∑m=1
∫gm dµ
= limn→∞
n∑m=1
∫gm dµ
= limn→∞
∫ n∑m=1
gm dµ
= limn→∞
∫fn dµ
が成立する.
補題 2.7 (ファトゥの補題)
非負値可測関数列 fn に対し,∫lim infn→∞
fn dµ ≤ lim infn→∞
∫fn dµ
が成立する.
証明 gn = infk≥n fk とおくと,gn ≤ fn であり,この gn は補題 2.6(2)の仮
定をみたすので,
limn→∞
∫gn dµ =
∫limn→∞
gn dµ
となり,∫lim infn→∞
fn dµ =
∫limn→∞
gn dµ = limn→∞
∫gn dµ ≤ lim inf
n→∞
∫fn dµ
ルベーグ積分 2014年度秋学期 17
を得る.
系 2.8 An ∈ A に対し,
µ(lim infn→∞
An) ≤ lim infn→∞
µ(An)
証明 1lim infn→∞ An = lim infn→∞ 1An が成立することに注意すればよい.
3 一般の可測関数の積分と収束定理
一般の可測関数 f : Ω → [−∞,∞] については,その正部分 f+ と負部分
f− をそれぞれ
f+ = f ∨ 0, f− = (−f) ∨ 0 = −(f ∧ 0)
と定義する.これらが非負値可測関数となることはよい.また,
f = f+ − f− |f | = f+ + f−
が成立する.そして,∫f+ dµ <∞ または
∫f− dµ <∞
であるとき f の積分を∫f dµ =
∫f+ dµ−
∫f− dµ
と定義する.非負値可測関数に対し,この積分の定義は前節で定義した積分
と一致することは容易に確認できる.さらに,∫f+ dµ <∞ かつ
∫f− dµ <∞
であるとき f は積分可能 (可積,ルベーグ積分可能,ルベーグ可積)であると
いう.また,任意の可測集合 Aについて,1Af の積分が定義可能であるとき,
f の A上の積分を ∫A
f dµ =
∫1Af dµ
ルベーグ積分 2014年度秋学期 18
と定義する.このとき,∫A
f dµ =
∫A
f+ dµ−∫A
f− dµ
が成立することは明らかである.可測集合 A ∈ A に対し,1Af が積分可
能であるとき f は A 上で積分可能であるという.f が積分可能であれば,
f は A 上で積分可能であることは明らかである.また,f が積分可能であ
ることと |f | が積分可能であることは同値である.f が積分可能であれば,µ(f−1(∞)) = µ(f−1(−∞)) = 0である.
定理 3.1 f : Ω → [−∞,∞]は積分可能ならば,∫∑∞
n=1 An
f dµ =∞∑n=1
∫An
f dµ
が成立する.
証明 f の正部分 f+ について,∫∑∞
n=1 An
f+ dµ =
∫1∑∞
n=1 Anf+ dµ
=
∫ ∞∑n=1
1Anf+ dµ
=∞∑n=1
∫1Anf
+ dµ
=∞∑n=1
∫An
f+ dµ
が補題 2.6 より成立する.負部分 f− についても同様の等号が成立するので
求める等式がえられる.
定理 3.2 f, g を任意の可測関数,cを任意の実数とする.
1. f, g が積分可能で,f ≤ g ならば,∫f dµ ≤
∫g dµ
ルベーグ積分 2014年度秋学期 19
である.特に,f ≥ 0ならば,∫f dµ ≥ 0
である.
2. f ≥ 0かつ∫f dµ = 0ならば,µ(ω ∈ Ω : f(ω) > 0) = 0である.
3. f が積分可能ならば,cf も積分可能であり,∫cf dµ = c
∫f dµ
が成立する.
4. f, g が積分可能ならば,f + g も積分可能であり,∫(f + g) dµ =
∫f dµ+
∫g dµ
が成立する.
5. A,B ∈ A,A ∩ B = ∅とする.f が A上で積分可能で,B 上でも積
分可能ならば,f は A+B 上で積分可能であり,∫A+B
f dµ =
∫A
f dµ+
∫B
f dµ
が成立する.
証明
1. f ≤ g ならば,f+ ≤ g+ かつ f− ≥ g− が成立することに留意すれば
明らかである.
2. µ(ω ∈ Ω : f(ω) > 0) > 0 と仮定して矛盾を導く.An = ω ∈ Ω :
f(ω) > 1/nとおくと,
An ω ∈ Ω : f(ω) > 0
が成立するので,µ(An0) > 0となる n0 が存在する.
(1/n0)1An0≤ f
ルベーグ積分 2014年度秋学期 20
が成立するので両辺の積分をとることにより
0 <1
n0µ(An0) ≤
∫fdµ
をえて矛盾が生じる.
3. c ≥ 0のときは,(cf)+ = cf+,(cf)− = cf− が成立する.従って,補
題 2.5より,∫(cf)+ dµ = c
∫f+ dµ,
∫(cf)− dµ = c
∫f− dµ
が成立するので,cf は積分可能で∫cf dµ = c
∫f dµ
が成立する.
c < 0 の場合には,(cf)+ = (−c)f− と (cf)− = (−c)f+ が成立することに注意して今と同じ議論をくりかえせばよい.
4. Ωを次の四つの可測集合に分割して考察する.
A = ω ∈ Ω : f(ω) ≥ 0, g(ω) ≥ 0,
B = ω ∈ Ω : f(ω) ≥ 0, g(ω) < 0,
C = ω ∈ Ω : f(ω) < 0, g(ω) ≥ 0,
D = ω ∈ Ω : f(ω) < 0, g(ω) < 0.
Aと Dに関しては補題 2.5より∫A
(f + g) dµ =
∫A
f dµ+
∫A
g dµ
∫D
(f + g) dµ =
∫D
f dµ+
∫D
g dµ
が成立し,f + g がそれぞれの集合上で積分可能であることはよい.B
については
B1 = ω ∈ B : f(ω) + g(ω) ≥ 0, B2 = ω ∈ B : f(ω) + g(ω) < 0
ルベーグ積分 2014年度秋学期 21
と B を分割する.B1 において
f = (f + g) + (−g), f + g ≥ 0, −g ≥ 0
であるので,∫B1
f dµ =
∫B1
(f + g) dµ+
∫B1
(−g) dµ =
∫B1
(f + g) dµ−∫B1
g dµ
が成立する.よって,∫B1
(f + g) dµ =
∫B1
f dµ+
∫B1
g dµ <∞
が成立するので,f + g は B1 上で積分可能である.同様に B2 にお
いて−g = f + (−(f + g)), −(f + g) ≥ 0, f ≥ 0
が成立することに注意して∫B2
−(f + g) dµ = −∫B2
f dµ+
∫B2
(−g) dµ <∞
を得る.従って,f + g は B2 上で積分可能である.さらに,この等式
を変形することにより∫B2
(f + g) dµ =
∫B2
f dµ+
∫B2
g dµ
を得る.以上をまとめると定理 3.1より∫B
(f + g) dµ =
∫B1
f dµ+
∫B1
g dµ+
∫B2
f dµ+
∫B2
g dµ
=
∫B
f dµ+
∫B
g dµ
C についても B と同様に議論することにより求める等式が得られる.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 22
5. 仮定より 1Af と 1Bf が積分可能であるので,4.より 1A+Bf = 1Af +
1Bf は積分可能であり,以下の等式が成立する.∫A+B
f dµ =
∫1A+Bf dµ =
∫(1Af + 1Bf) dµ
=
∫1Af dµ+
∫1Bf dµ
=
∫A
f dµ+
∫B
f dµ
fn : Ω → Rを可測関数の列,f : Ω → Rを可測関数とする.fn が f に概
収束するとはµ(ω ∈ Ω : lim
n→∞fn(ω) = f(ω)c) = 0
が成立することである.このとき,fn → f a.e.とかく.この概収束の定義に
おいて,集合 ω ∈ Ω : limn→∞ fn(ω) = f(ω)が可測集合であることは自明ではない.したがってこれを確認する必要があるが,これは
ω ∈ Ω : limn→∞
fn(ω) = f(ω)
=∞∩m=1
∞∪n=1
∞∩k=n
ω ∈ Ω : |fk(ω)− f(ω)| < 1
m
に注意すればよい.
定理 3.3 (ルベーグの収束定理) 関数列 fn が f に概収束し,積分可能関数 g
が存在しほとんどいたるところで |fn(ω)| ≤ g(ω)が成立するならば,f は積
分可能で
limn→∞
∫fn dµ =
∫f dµ
が成立する.
証明 各 nについて Ωn = ω ∈ Ω : |fn(ω)| ≤ g(ω)とおき,
Ω′ = ω ∈ Ω : limn→∞
fn(ω) = f(ω) ∩∞∩n=1
Ωn
ルベーグ積分 2014年度秋学期 23
とおけば,仮定より µ(Ω′c) = 0であることは明らか.Ω′ 上では f, fn, g に等
しく Ω′c 上では 0である関数をそれぞれ f , fn, g と表す.すべての ω につい
て fn(ω) → f(ω)が成立し,g は積分可能で |f |, |fn| ≤ g より f , fn は積分可
能であり,よって,f は積分可能であり,∫fn dµ =
∫fn dµ,
∫f dµ =
∫f dµ,
∫g dµ =
∫g dµ
が成立している.g + fn ≥ 0, g − fn ≥ 0
が成立しているので,補題 2.7より,∫lim infn→∞
(g + fn) dµ ≤ lim infn→∞
∫(g + fn) dµ∫
lim infn→∞
(g − ˜fn) dµ ≤ lim infn→∞
∫(g − fn) dµ
が成立する.上記二本の不等式の第一式の左辺は∫lim infn→∞
(g + fn) dµ =
∫(g + lim inf
n→∞fn) dµ
=
∫g dµ+
∫lim infn→∞
fn dµ
=
∫g dµ+
∫f dµ
=
∫g dµ+
∫f dµ
そして右辺は
lim infn→∞
∫(g + fn) dµ =
∫g dµ+ lim inf
n→∞
∫fn dµ
=
∫g dµ+ lim inf
n→∞
∫fn dµ
となり, ∫f dµ ≤ lim inf
n→∞
∫fn dµ
ルベーグ積分 2014年度秋学期 24
を得る.第二式についても同様の推論を行なうことにより,不等式
lim supn→∞
∫fn dµ ≤
∫f dµ
を導出でき,まとめて
limn→∞
∫fn dµ =
∫f dµ
を得る.
系 3.4 (ルベーグの有界収束定理) µ(Ω) <∞とする.可測関数列 fnが f に
概収束し,あるM > 0が存在し,すべての nに対し |fn| ≤M がほとんどす
べての ω について成立しているならば,f は積分可能で
limn→∞
∫fn dµ =
∫f dµ
が成立する.
定理 3.5 (レヴィの定理) 積分可能関数列 fn は単調増加で,その積分は有界
とする.このとき,limn→∞ fn は積分可能であり,∫limn→∞
fn dµ = limn→∞
∫fn dµ
が成立する.
証明 fn − f1 を考えれば fn ≥ 0と仮定しても一般性は失われない.この場
合補題 2.6より明らか.
4 加法的集合関数
可測空間 (Ω,A )を考える.A 上の実数値関数 ν : A → Rは,互いに素な
集合 A1, A2, · · · ∈ A について,
ν
( ∞∑n=1
An
)=
∞∑n=1
ν(An)
が成立するとき加法的集合関数という.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 25
命題 4.1 Anを可測空間 (Ω,A )の任意の可測集合列とし,ν を A 上の加
法的集合関数とする.
1. ν(∅) = 0,従って ν は有限加法的である.
2. An Aまたは An Aならば,
limn→∞
ν(An) = ν(A)
が成立する.
証明
1. ν が実数値であることからでる.
2. 測度の場合と同じ.特に,An Aの場合は ν が実数値であることか
らでる.
補題 4.2 可測空間 (Ω,A )と,その上の加法的集合関数 ν を考える.A ∈ A
とする.もし supC⊂A |ν(C)| = ∞ならば,
|ν(B)| > |ν(A)|+ 1, supC⊂B
|ν(C)| = ∞, B ⊂ A
をみたす B ∈ A が存在する.
証明 仮定 supC⊂A |ν(C)| = ∞より
|ν(B)| > 2|ν(A)|+ 1
をみたす B ⊂ Aが存在する.B′ = A \B とおくと B か B′ が求めるもので
ある.
実際,もし supC⊂B |ν(C)| = ∞であれば,B が求めるものである.もし supC⊂B |ν(C)| <∞であれば,
supC⊂B′
|ν(C)| = ∞
ルベーグ積分 2014年度秋学期 26
である.実際,もし supC⊂B′ |ν(C)| <∞ であるとすると,任意の C ⊂ Aに
ついて
|ν(C)| = |ν(C ∩B) + ν(C ∩B′)|≤ |ν(C ∩B)|+ |ν(C ∩B′)|≤ supC⊂B
|ν(C)|+ supC⊂B′
|ν(C)|
<∞
が成立するので,supC⊂A |ν(C)| <∞となり仮定に反する.そして
|ν(B′)| = |ν(A)− ν(B)| ≥ |ν(B)| − |ν(A)| > |ν(A)|+ 1
が得られる.
従って,B か B′ が求める可測集合となっている.
命題 4.3 加法的集合関数は有界である.
証明 有界ではない加法的集合関数 ν が存在する,すなわち,
supA∈A
|ν(A)| = ∞
と仮定する.このとき,A1 = Ωとおき補題 4.2を繰り返し使うことにより,
条件A1 ⊃ A2 ⊃ . . . , |ν(An)| ≥ n− 1, sup
B⊂An
|ν(B)| = ∞
をみたす An が存在する.命題 4.1より ν(limn→∞An) = limn→∞ ν(An) が
成立し,ν(An)は有限値に収束するが,これは |ν(An)| ≥ n− 1に矛盾する.
ν ∈ S(Ω,A )に対して,
ν+(A) = supB∈A ,B⊂A
ν(B), A ∈ A
ν−(A) = supB∈A ,B⊂A
(−ν(B)), A ∈ A
と定義し,ν+ を ν の正変動といい,ν− を ν の負変動という.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 27
定理 4.4 (ジョルダンの分解定理) ν ∈ S(Ω,A ) に対して以下の性質が成立
する.
1. ν+, ν− ∈ S(Ω,A )
2. ν = ν+ − ν−
3. ν+ = ν ∨ 0 ν− = (−ν) ∨ 0*1
証明
1. ν+ ∈ S(Ω,A )であることを示す.まず,ν+ が実数値であることは命
題 4.3 よりよい.次に ν+ が可算加法的であることをいう.An ∈ A
は互いに素であるとする.任意の B ⊂∑∞n=1An について
ν(B) =
∞∑n=1
ν(B ∩An) ≤∞∑n=1
ν+(An)
が成立するので,
ν+
( ∞∑n=1
An
)≤
∞∑n=1
ν+(An)
である.一方,任意の ε > 0について,各 nごとに
ν(Bn) ≥ ν+(An)−ε
2n, Bn ⊂ An
が成立するような Bn ∈ A が存在する.Bn は互いに素であるので,
ν+
( ∞∑n=1
An
)≥ ν
( ∞∑n=1
Bn
)
=∞∑n=1
ν(Bn)
≥∞∑n=1
(ν+(An)−
ε
2n
)=
∞∑n=1
ν+(An)− ε
*1 S(Ω,A )を通常の順序で順序線形空間と見たときの,上限と下限を ∨と ∧で表わしている.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 28
が成立する.よって,
ν+
( ∞∑n=1
An
)≥
∞∑n=1
ν+(An)
である.以上で ν+ ∈ S(Ω,A ) が示せた.また,ν の代わりに −ν を考えれば上記より ν− ∈ S(A ,Ω)を得る.
2. A ∈ A を任意にとる.B ⊂ Aなる任意の B ∈ A について,
ν(A) = ν(B) + ν(A \B), A \B ⊂ A
が成立する.従って,
ν(A)− ν(B) = ν(A \B) ≤ ν+(A)
となり,B が任意であることより ν(A) + ν−(A) ≤ ν+(A)となり,
ν(A) ≤ ν+(A)− ν−(A)
を得る.また,同様にして,
ν(B)− ν(A) = −ν(A \B) ≤ ν−(A)
より ν+(A)− ν(A) ≤ ν−(A)を導き,
ν(A) ≥ ν+(A)− ν−(A)
を得て証明が完了する.
3. ν+ ≥ ν かつ ν+ ≥ 0であることはその定義から明らか.最後に,ρ ≥ ν
かつ ρ ≥ 0 である任意の ρ ∈ S(Ω,A ) を考える.任意の A ∈ A を
とり固定する.B ⊂ Aを満たす任意の B ∈ A について,ρは単調な
のでν(B) ≤ ρ(B) ≤ ρ(A)
が成立する.従って,ν+(A) ≤ ρ(A)となり ν+ ≤ ρを得る.以上で
ν+ = ν ∨ 0
が示せた.また,νの代わりに−νを考えれば同様にして ν− = (−ν)∨0を得る.(この証明法をとらなくても線形束の理論で抽象的に証明で
きる.)
ルベーグ積分 2014年度秋学期 29
定理 4.5 (ハーンの分解定理) 任意の ν ∈ S(Ω,A ) に対し,E ∈ A が存
在し,ν+(Ec) = 0, ν−(E) = 0
が成立する.従って,ν+ ∧ ν− = 0が成立する.
証明 各 nについて,
ν(An) > ν+(Ω)− 1
2n
となる An ∈ A が存在する.よって
ν−(An) = ν+(An)− ν(An)
< ν+(An)− ν+(Ω) +1
2n
≤ 1
2n
が成立する.E = lim inf
n→∞An
とおくと,ν− は測度であるので,系 2.8より,
0 ≤ ν−(E) ≤ lim infn→∞
ν−(An)
が成立する.よって,ν−(E) = 0
を得る.同様に,
ν+(Acn) = ν+(Ω)− ν+(An)
= ν+(Ω)− ν(An)− ν−(An)
<1
2n− ν−(An)
≤ 1
2n
ルベーグ積分 2014年度秋学期 30
となり,これより任意のmについて
ν+(Ec) = ν+(lim supn→∞
Acn) ≤ ν+
( ∞∪n=m
Acn
)
≤∞∑n=m
ν+(Acn) ≤1
2m−1
が成立するので,ν+(Ec) = 0を得る.
ν+ ∧ ν− = 0であることはハーンの分解より明らか.ν ∈ S(Ω,A )とする.このとき,任意の A ∈ A について
|ν|(A) = sup
∞∑n=1
|ν(An)| :∞∑n=1
An = A, An ∈ A
と定義し,新たな集合関数を定義する.これを ν の全変動という.次の定理
は全変動と正変動,負変動との関係を示しており,その結果 |ν|も加法的集合関数であることが確認できる.
定理 4.6 ν ∈ S(Ω,A )に対し,
|ν| = ν+ + ν−
が成立する.従って,|ν| ∈ S(Ω,A )が成立する.さらに,
|ν| = ν ∨ (−ν)
が成立する.
証明 任意の A ∈ A に対し,∑∞n=1An = Aとすると,
∞∑n=1
|ν(An)| ≤∞∑n=1
(ν+(An) + ν−(An))
= ν+
( ∞∑n=1
An
)+ ν−
( ∞∑n=1
An
)= ν+(A) + ν−(A)
が従い,|ν|(A) ≤ ν+(A) + ν−(A)がでる.
ルベーグ積分 2014年度秋学期 31
逆の不等式はハーンの分解を与える可測集合 E を使い以下のようにして
導く.
ν+(A) + ν−(A)
= ν+(A ∩ E) + ν+(A ∩ Ec) + ν−(A ∩ E) + ν−(A ∩ Ec)= ν+(A ∩ E) + ν−(A ∩ Ec)= |ν+(A ∩ E)− ν−(A ∩ E)|+ |ν+(A ∩ Ec)− ν−(A ∩ Ec)|= |ν(A ∩ E)|+ |ν(A ∩ Ec)|≤ |ν|(A)
|ν| = ν+ + ν− なので,|ν| ≥ ν かつ |ν| ≥ −ν であることは明らか.また,ρ ≥ ν,−ν である任意の ρ ∈ S(A ,Ω)を考えると,任意の A ∈ A につ
いて,ρ(A) ≥ ν(A),−ν(A)より ρ(A) ≥ |ν(A)|となるので,|ν|の定義より,ρ ≥ |ν| を得る.よって,|ν| = ν ∨ (−ν) が成立する.(後半の主張について
は,この証明法をとらなくても線形束の理論で抽象的に証明できる.)
5 ラドン・ニコディムの定理
測度空間 (Ω,A , µ)上の加法的集合関数 ν が,
1. 測度 µについて絶対連続であるとは,
µ(A) = 0 ⇒ ν(A) = 0
が成立することをいう.
2. 測度 µについて特異であるとは,µ(E) = 0である E ∈ A が存在し,
任意の A ⊂ Ec について ν(A) = 0が成立することをいう.
補題 5.1 測度空間 (Ω,A , µ)上の加法的集合関数 ν が µについて絶対連続で
ありかつ特異であるならば,ν = 0である.
証明 ν が特異であることより,A ∈ A が存在し,µ(A) = 0でかつ B ⊂ Ac
である任意の B ∈ A について ν(B) = 0である.従って,任意の C ∈ A に
ついてν(C) = ν(C ∩A) + ν(C ∩Ac)
ルベーグ積分 2014年度秋学期 32
とみれば,右辺第一項は µ(C ∩ A) = 0より 0であり,第二項も Aのとりか
たより 0である.
定理 5.2 (Ω,A , µ)を有限測度空間とし,ν を非負値加法的集合関数とする.
このとき,非負値可積分関数 f と µについて特異な非負値加法的集合関数 λ
が一意的に存在し,
ν(A) =
∫A
f dµ+ λ(A), A ∈ A
が成立する.関数 f の一意性については測度 µの a.e.についての一意性と解
釈する.
証明 可測空間 (Ω,A )上の実数値可測関数全体からなる線形束をM(Ω,A )
と表す.
M =
h ∈M(Ω,A ) : h ≥ 0,
∫A
h dµ ≤ ν(A), A ∈ A
とおき,
α = suph∈M
∫h dµ ≤ ν(Ω)
とする.
limn→∞
∫hn dµ = α
をみたす列 hn ∈ M をとり,
f = supn≥1
hn
とおけばこれが求めるべき関数である.
gn = h1 ∨ · · · ∨ hn
とおくと,gn は単調増加で f に各点収束していることは明らか.
自然数 nを任意にとり固定する.
D1 = ω ∈ Ω : gn(ω) = h1(ω)
Dk = ω ∈ Ω : gn(ω) = hk(ω) \k−1∑i=1
Di, k = 2, . . . , n
ルベーグ積分 2014年度秋学期 33
とおくと,Ω =∑nk=1Dk が成立する.よって,任意の A ∈ A に対し,∫
A
gn dµ =n∑k=1
∫Dk∩A
gn dµ
=n∑k=1
∫Dk∩A
hk dµ
≤n∑k=1
ν(Dk ∩A)
= ν(A)
が成立し,gn は M に属する.gn は単調増加で f に各点収束していて,∫gndµ ≤ αなので,定理 3.5より,f は積分可能で,任意の A ∈ A に対し
∫A
f dµ = limn→∞
∫A
gn dµ ≤ ν(A)
が成立する.従って,f ∈ M であり,
α = limn→∞
∫hndµ ≤ lim
n→∞
∫gndµ ≤ α
より ∫f dµ = α
をえる.ここで,
ρ(A) =
∫A
f dµ, A ∈ A
と集合関数 ρを定義すれば,ρは定理 3.1より非負値加法的集合関数で,µに
ついて絶対連続である.
λ(A) = ν(A)− ρ(A), A ∈ A
とおくと,λは非負値加法的集合関数である.λ = 0ならば一意性以外の主張
の証明は完了する.λ = 0の場合は
λn = λ− 1
nµ
ルベーグ積分 2014年度秋学期 34
とおき,λn のハーン分解を En とする.即ち,
λ+n (Ecn) = 0, λ−n (En) = 0
が成立している.よって,任意の A ∈ A に対し,
λ(A ∩ En) = λn(A ∩ En) +1
nµ(A ∩ En)
= λ+n (A ∩ En)− λ−n (A ∩ En) +1
nµ(A ∩ En)
= λ+n (A ∩ En) +1
nµ(A ∩ En)
≥ 1
nµ(A ∩ En)
従って, ∫A
(f +1
n1En) dµ =
∫A
f dµ+1
nµ(A ∩ En)
≤∫A
f dµ+ λ(A ∩ En)
≤∫A
f dµ+ λ(A)
= ν(A)
より,f + 1n1En
はM に属するので,∫A
(f +1
n1En
) dµ ≤ α =
∫A
f dµ
が成立する.よって, ∫1
n1En dµ =
1
nµ(En) ≤ 0
となり,µ(En) = 0がすべての nについて成立する.
E =∞∪n=1
En
とおけば,
µ(E) = µ(∞∪n=1
En) ≤∞∑n=1
µ(En) = 0
ルベーグ積分 2014年度秋学期 35
一方,上記の議論と同様にして,
λ(A ∩ Ecn) ≤1
nµ(A ∩ Ecn)
が成立し,Ec ⊂ Ecn であることに注意すると,A ⊂ Ec なる任意の A ∈ A
について
λ(A) = λ(A ∩ Ecn) ≤1
nµ(A ∩ Ecn)
=1
n(µ(A ∩ Ecn) + µ(A ∩ En)) =
1
nµ(A)
が成立する.よって,λ(A) = 0 が導かれ λ は µ について特異であることが
示せた.
一意性については,µについて絶対連続な加法的集合関数 ρ1 と ρ2,µにつ
いて特異である加法的集合関数 λ1 と λ2 があって,
ν = ρ1 + λ1 = ρ2 + λ2
とかけていたとする.このとき,
ρ1 − ρ2 = λ2 − λ1
が成立し,左辺は µ について絶対連続であり右辺は µ について特異である.
補題 5.1 よりこの共通の性質をもつ加法的集合関数は 0 に限られるので,
ρ1 = ρ2, λ1 = λ2 を得る.従って,特異部分の一意性は示されたことになる
ので, ∫A
f dµ =
∫A
g dµ, A ∈ A
をみたす非負値積分可能関数 f と g があったとき,f と g はほとんどいたる
ところ等しいことを示せば証明は終る.
µ(ω ∈ Ω : f(ω) = g(ω))= µ(ω ∈ Ω : f(ω) > g(ω)) + µ(ω ∈ Ω : f(ω) < g(ω))> 0
ルベーグ積分 2014年度秋学期 36
が成立しているとする.µ(ω ∈ Ω : f(ω) > g(ω)) > 0と仮定しても一般性
は失われない.A = ω ∈ Ω : f(ω) > g(ω)とおくと,定理 3.2より∫A
(f − g) dµ > 0
となり矛盾が生じる.
定理 5.3 (Ω,A , µ)を σ 有限測度空間とし,ν を加法的集合関数とする.こ
のとき,積分可能な関数 f と µについて特異な加法的集合関数 λが一意的に
存在し,
ν(A) =
∫A
f dµ+ λ(A), A ∈ A
が成立する.関数 f の一意性については測度 µの a.e.についての一意性と解
釈する.
証明 加法的集合関数 νを ν = ν+−ν−と定理 4.4により分解する.(Ω,A , µ)
が σ 有限であるという仮定より,可測集合の列 Ωn Ωが存在し,各 nにつ
いて µ(Ωn) <∞が成立している.測度空間 (Ω,A , µ)を Ωn に制限した測度
空間を (Ωn,An, µn)とする.そして ν+ を An に制限した加法的集合関数を
ν+n とする.この (Ωn,An, µn)と ν+n に対し定理 5.2を適用すると,Ωn 上の
非負値可測関数 fn と,µn について特異な An 上の非負値加法的集合関数 λn
が存在して,
ν+n (A) =
∫A
fndµn + λn(A)
がすべての A ∈ An に対し成立している.fn の一意性より fn+1 は fn の拡
張となっているとみなしてよい.Ω上の非負値可測関数 fn を
fn(ω) =
fn(ω) ω ∈ Ωn
0 ω /∈ Ωn
と定義すると明らかに
ν+n (A) =
∫A
fndµ+ λn(A) (1)
ルベーグ積分 2014年度秋学期 37
がすべての A ∈ An に対し成立している.そして,fn は単調増加なので,非
負値可測関数 f = limn→∞ fn が存在する.そして,任意の A ∈ A に対し,
limn→∞
∫A
fndµ = limn→∞
∫A∩Ωn
fndµ = limn→∞
∫A∩Ωn
fndµ
≤ limn→∞
ν+n (A ∩ Ωn) = limn→∞
ν+(A ∩ Ωn) = ν+(A) <∞
が成立するので,定理 3.5より,f は可積分であり,∫A
fdµ = limn→∞
∫A
fndµ
がすべての A ∈ A に対し成立する.従って,(1)より
limn→∞
λn(A ∩ Ωn) = ν+(A)−∫A
fdµ
がすべての A ∈ A に対し成立する.従って,各 A ∈ A に対し,
λ(A) = limn→∞
λn(A ∩ Ωn) = ν+(A)−∫A
fdµ
と定義すると,λ は A 上の非負値加法的集合関数である.次に λ が µ につ
いて特異であることを示す.各 λn は µn について特異であるので,En ⊂ Ωn
なる可測集合 En が存在し,µ(En) = µn(En) = 0で,任意の A ⊂ Ωn \ Enなる Aについて λ(A) = λn(A) = 0である.E =
∪∞n=1En とおくと,明ら
かに µ(E) = 0であり,A ⊂ Ec ならばすべての nについて A ⊂ Ecn が成立
するので λ(A) = limn→∞ λn(A∩Ωn) = 0をえる.以上で,λは µについて
特異であり,
ν+(A) =
∫A
fdµ+ λ(A)
が成立することが証明された.
ν− についても同様にして,非負値可積分関数 g と µ について特異な非負
値加法的集合関数 ρが存在し,
ν−(A) =
∫A
gdµ+ ρ(A)
ルベーグ積分 2014年度秋学期 38
が成立する.よって,任意の A ∈ A に対し,
ν(A) =
∫A
(f − g)dµ+ (λ− ρ)(A)
が成立する.f − g が可積分で,λ− ρが µについて特異な加法的集合関数で
あることは明らかである.そして,これらの一意性は定理 5.2 の証明の対応
する議論と同様にして確認することができる.
系 5.4 (Ω,A , µ)を σ 有限測度空間とし,ν を µについて絶対連続な加法的
集合関数とする.このとき,積分可能な関数 f が一意的に存在し,
ν(A) =
∫A
f dµ, A ∈ A
が成立する.関数 f の一意性については測度 µの a.e.についての一意性と解
釈する.
加法的集合関数 ν が µについて絶対連続であるとき,一意的に決定される
ν(A) =
∫A
f dµ, A ∈ A
をみたす積分可能関数 f を ν のラドン・ニコディムの微分あるいはラドン・
ニコディムの密度関数といい,dν/dµとかく.