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三次元浸透流解析に基づくトンネル工法検討
旭川開発建設部 富良野道路事務所 ○山中 昌也
湯浅 浩喜
道路第1課 柏谷 光晴
1 まえがき
1.1 北の峰トンネルの計画
旭川十勝道路は,旭川市から占
冠村を結ぶ延長約120kmの
地域高規格道路として計画され
ており,上川南部地域の交通円滑
化,地域連携や人流・物流の活性
化に寄与するとともに,北海道縦
貫自動車道および北海道横断自
動車道と接続することにより広
域交流ネットワークを形成する
路線である.
北海道周遊観光の中核である
富良野市は一年を通じて多くの
観光客が訪れ交通渋滞が発生していることから,「富良野道路」(富良野市字学田~富良野市
字上五区間・約8.3km)の整備を先行して取り組んでいる.
「北の峰トンネル」(仮称,以下省略)は,「富良野道路」において計画されている延長約
3kmのトンネル(図-1参照)である.
本トンネルの計画地周辺は,芦別岳に代表される芦別山地山麓の丘陵地であり,広大な森
林や豊富な地下水など豊かな自然環境が保たれている.
当地域においては,自然環境が生み出す美しい景観や清らかな水の活用により,リゾート運
営や営農活動の展開とともに,市民の飲料水確保など豊かな自然の恩恵を受けている.
1.2 三次元浸透流解析を用いたトンネル工法の検討
本トンネルの建設にあたっては,このような自然環境,特に水文環境に対する影響を最小
限とする計画となっている.本稿では三次元浸透流解析を用いて,地下水への影響を極力抑
えたトンネル工法について検討するものである.検討にあたっては,以下の手順で,トンネ
ルの調査・設計を行った(図-2参照).
・水文地質環境の把握を目的として,ボーリング調査の他,各種試験に加えて,地下水位
連続観測 52 ヶ所,河川流量連続観測 16 ヶ所を実施し,水理モデルを作成した.
・三次元浸透流解析には,上記水理モデルを用い,Dtransu-3D・EL を使用し,トンネル周辺
の大局的,平均的な地下水流動場を再現できる解析モデルを構築することを目的として
現況再現解析(定常)を実施した.現況再現解析(定常)では,解析条件(降雨浸透量と地山
Masaya Yamanaka, Hiroki Yuasa, Mitsuharu Kasiwaya
図-1 北の峰トンネル位置図
2
区分ごとの透水係数)を変えた複数のケースの解析を行い,その中で実測地下水位や動水
勾配の傾向に最もよく適合するケースより,解析諸常数を決定した.
・トンネル周辺の大局的な地下水位変動を再現できる解析モデルを構築することを目的と
して現況再現解析(非定常)を実施した.現況再現解析(非定常)では,解析条件(地山区分
ごとの有効間隙率及び比貯留係数)を変えた複数のケースの解析を行い,その中で実測降
水量に対する地下水位変動の再現性の最もよいケースより,解析諸常数を決定した.
・トンネル構造を数案検討し、それらを施工した場合の周辺水環境の変化を,3次元浸透
流解析(定常)を用いて,最も影響が少ないトンネル構造(排水~非排水)を決定した.
・トンネル掘削中の地下水位低下と注入工の効果を判定するために,3次元浸透流解析(非
定常)を実施し,注入範囲を決定した.
START
地山のモデル化 地下水の把握(水理モデル)地質構造・トンネル線形 地下水位分布・河川流量
現況再現解析(定常) Input・透水係数・降雨浸透量
・地下水流動場の再現 Output・地下水位分布・河川への湧水量
現況再現解析(非定常) Input・有効間隙率・比貯留係数
・地下水位変動の再現 Output・地下水位変動
トンネル施工後解析(定常) Input・トンネル工法(耐水圧構造区間長、注入範囲)
・地下水位変化の程度の評価 Output・地下水位低下範囲・河川への湧水量(減少率)
トンネル施工後解析(非定常) Input・トンネル工法(耐水圧構造区間長、注入範囲)
・地下水位変化の程度の評価 Output・地下水位低下範囲・河川への湧水量(減少率)
END
解析地下水位変動が実測地下水位変動の傾向に適合するか?
解析地下水位分布が実測地下水位分布の傾向に適合するか?
河川への解析湧水量が実測基底流量と整合するか?
図-2 三次元浸透流解析フロー図
2 地形・地質の概要
富良野盆地は,西側は芦別山地
に,東側は丘陵地に限られる,南
北約 30km,東西 5~6km の細長い
盆地である.
芦別山地の一部である北の峰
は,空知層群,蝦夷層群より構成
されるが,北の峰トンネル付近の
基盤岩としては,新第三系の堆積
岩類および十勝火砕流堆積物の
溶結凝灰岩が分布する.両者は富
良野盆地西縁断層(西縁断層)に
より境される(図-5参照). 図-3 北の峰トンネル周辺の地質平面図
3
建設予定地にはこれ
らの基盤岩を覆って,
四線川を主たる供給
源とする第四紀更新
統の扇状地堆積物が
広く分布する.この
扇状地堆積物は,御
料断層により分断さ
れ(図-3参照),断
層東側の扇状地堆積
物はナマコ山の頂部
~東側の撓曲崖に見
られ,分布高度によ
り,FT2~FT5 に区分
した(表-1参照).
図-4 北の峰トンネルの地質縦断図
断層西側の扇状地堆積物は,西方の芦別山地山麓部からナマコ山までの間及び一部四線川
の平野側まで分布し,円礫を含む砂礫~シルトからなり,それを BT-U とした.また,ボー
リング調査結果より御料断層西側の BT-U 下部には,砂礫,粘土,淘汰の悪い中粒砂よりな
る被圧帯水層の BT-L,BT-T が分布することが明らかとなった(図-4参照).
3 水文環境
上記の調査結果より,建設予定地の水理地質的基盤層は空知層群,蝦夷層群,新第三系泥
岩であり,帯水層は,扇状地堆積物,沖積層である.また,十勝火砕流堆積物は,亀裂性の
岩盤であり,基盤層としての特徴と,帯水層としての特徴をあわせ持つと考えられる.
この地域では,御料断層活動以前は,空知層群,蝦夷層群からなる夕張山地から流下した
水が,泥岩,熔結凝灰岩の上位に堆積した砂礫よりなる扇状地堆積物中に供給され,そのま
ま,空知川沿いの沖積層へ流下していた.
表-1 北の峰トンネルの地質区分と透水係数
4
その後,御料断層の活動により地下水
の流れが遮断された結果,御料断層沿い
に分布する BT-L,BT-T 層が,被圧帯水
層となり,断層に近づくほど水位変化が
少ない環境が形成されたと推定される.
断層により遮断された地下水の一部は,
御料断層を通過し,東側に供給されるが,
動水量が少ないため,御料断層以東では
急激に地下水位が低下し,ナマコ山の地
下水位は,空知川の水位と同程度となる
(図-5参照).
図-5二線川付近の水文地質模式断面図
4 トンネルルートの検討
当初予定していた北の峰トンネルルートが,二線川と交差する地点付近で,被圧帯水層を
通過することがわかり,H15 年度以降の調査で以下の被圧帯水層の分布,性状が明らかとな
った.
・ 御料断層西側に分布する
扇状地堆積物は上部層(BT-U
層)と,下部層(BT-L 層)に区
分され,BT-L 層は砂礫,シ
ルト,腐植土の互層からなり,
同時異相で十勝火砕流堆積
物の 2 次堆積物よりなる
BT-T 層が分布する.BT-L,
BT-T 層の最上部には,厚さ 2
~3m 程度の難透水性の腐植
土層が分布し,被圧帯水層を
形成している.
・ BT-U 層は,主として砂礫よりなる.BT-L 層は被圧帯水層,BT-U 層は自由地下水を滞
留しやすい土質・構造を示す.
・ 被圧帯水層である BT-L 層および BT-T 層は御料断層沿いに分布していることから,こ
れらを通過しないトンネルルートは設定できないことが判明した.
被圧耐水層通過区間を短縮することで地下水への影響を小さくすることができると推
定されることから,当初ルートではトンネル天端未固結堆積物(BT-L,BT-T 層)分布範囲
は 230m あるのに対し,最終ルートでは,140m と半分程度に短縮した(図-6参照).
図-6 御料断層付近のパネルダイヤグラム
5
5 トンネル完成後の環境予測(定常)
トンネル工法
の違いによるト
ンネル完成後の
地下水流動場へ
の影響度の違い
を検討すること
を目的として,
トンネル施工後
解析(定常)を実
施した.その結
果,注入工のみ
の場合,恒常的
には,地下水位低
下を抑制出来ないことが明らかとなり,非排水構造をとることが,必要との結果を得た.こ
のため,非排水構造の区間長を変えた複数のケースの解析を実施し,地下水位低下範囲や河
川流量の減少率を比較して採用工法案を選定した.非排水構造区間及び注入工の設定範囲を
図-7に示す.解析結果の概要は次のとおりであった(図-8参照).
・一般的な排水構造(対策工なし)では,地下水流動場に対してかなり大きな影響がある.
・非排水構造区間をトンネルが御料断層及び段丘砂礫層(BT)中を通過する区間 240mのみ
とした場合,ほとんど効果がない.
・非排水構造区間をトンネルが十勝火砕流堆積物(Tk)中を通過する区間も含めた 740mと
した場合,影響範囲が大幅に縮小する.
・非排水構造区間をトンネルの天端と十勝火砕流堆積物の下限の離れが小さい区間も含め
た 1100mとした場合,その追加延長した部分の効果は小さい.
以上より,非排水構造を基線川付近より御料断層までの区間にすると大幅に低減されるこ
とは明らかとなったが,非排水構造区間を 740m から 1,100m とした場合に,地下水低下を抑
制される箇所は主に住宅地で地下水の利用,環境への影響がほとんどなく,費用対効果を考
え,トンネルが御料断層・段丘砂礫層・十勝火砕流堆積物中を通過する 740m の区間に非排
水構造を設定したケースが最も効果的と判断した.(表-2参照)
表-2 トンネル施工後解析(定常)・解析結果一覧表
対策工無しのケース非排水構造240mケース
(砂礫区間のみ)非排水構造740mケース
(砂礫,Tk区間)非排水構造1.100mケース
(砂礫~泥岩区間)
30 30 10 10
100.0 100.2 55.2 40.9
100.0 90.2 28.2 12.0
解析ケース
地下水位の最大低下量(既設地下水位観測孔での低下量)(m)
地下水位低下量0.5m以上の面積比(%)(対策工なしを100とした場合)
地下水位低下量0.5m以上の体積比(%)(対策工なしを100とした場合)
図-7 非排水構造の設定範囲
6
図-8 非排水構造延長別の地下水位低下量
6 トンネル建設時,完成後の環境予測(非定常)
注入工範囲の違いによるトンネル施工時の掘削から非排水構造の覆工設置までの期間中
の地下水位低下速度の違いを検討することを目的としてトンネル施工後解析(非定常)を実
施した.注入範囲はトンネル外壁から 5m の範囲としたモデルで注入範囲を変えた複数のケ
ースの解析を実施し,地下水位低下範囲や河川流量の減少率の経時変化を比較して採用工法
案を検討した.
非排水構造区間及び注入工の設定範囲を図-8(前出)に示す.
解析結果の概要は次のとおりであった.(図-9参照)
・注入工なしでは,2 年経過時点で定常解析結果の約半分の影響がでる.
・御料断層及び段丘砂礫層(BT-L)部分のみ注入工を施工した場合,殆ど効果がない.
・十勝火砕流堆積物の風化部(Tk-w)の部分にも注入工を施工した場合,注入範囲周辺では
地下水位低下範囲の拡大速度が注入工なしの場合の 4 分の 3 程度になる.
これらの結果から,地下水位低下範囲を抑制するためには,Tk 風化部までを注入範囲とす
ることが最良と考えられるが,切羽からの注入工を実施すると,掘進速度が落ち,非排水構
造の完成が遅れることとなる.非排水構造が完成するまでは,地下水低下による影響は対策
工なしの場合とほぼ同じであり,影響範囲の拡大が懸念される.
これらを総合的に検討すると,注入工が施工上不可欠な範囲(断層・砂礫部)を施工し,非
排水構造を早期に完成することが必要であると判断した.
7
0.000
0.005
0.010
0.015
0.020
0 1000 2000 3000 4000
経過日数(日数)
渇水
影響
範囲
体積
(km
3)
対策工なし
砂礫のみ注入
砂礫+Tk-w注入
対策工なし定常解析結果 0.017km3
図-9 浸透流解析(非定常)結果による地下水低下範囲の体積グラフ
7 トンネル構造・工法の検討
一般に,トンネルの湧水対策としては水抜き孔等で地下水位を低下させる排水工法がある
が,当該地域では地表近くに地下水位面があり,無対策では周辺の水文環境に多大な影響を
与え,井戸の枯渇や動植物・農作物等にも影響が懸念される.このため,止水工法を基本と
するが,止水注入工のような永久的な効果が期待できないものでは地下水位を保持すること
は困難であり,被圧帯水層通過区間を防水型トンネルとした.
排水型(通常の NATM トンネル)は二次覆工アーチ部のみ防水シートを設置し,インバート
以下では排水するため地下水位が低下するのに対し,防水型(ウォータータイト)では全周に
防水シートを設置し非排水構造とするため地下水位は復元する.前者には水圧は作用しない
が,後者では全周に水圧がかかるため,二次覆工は耐水圧構造(一般に RC 構造で形状は円形
に近いほど有利)とする必要がある.
都市 NATMトンネルに準拠し,土圧は一次支保の吹付けコンクリートで全て支持するため,
ほぼ地表面に位置する地下水位(FL+50m)を考慮し,土被り分の水圧が二次覆工コンクリー
ト全周に作用するものとし,フレーム解析で検討した.
表-5に示すような4つの断面形状について比較検討したところ,掘削と覆工コンクリー
トの経済バランスから断面④の円形(覆工厚 t=500)を採用することとした.
また、掘削工法については,山岳トンネルの標準工法である NATM 工法を採用する
こととした.
8
断面力図
判 定
断面形状図
上半:R1=5,600
下半:R2
インバート:R3
偶角部:R4
工事費(比率)
断面①(部材厚h=1500)
(R2=1.5・R1,R3=3・R1,R4=1,500)
断面③(部材厚h=800)
(R1=R2=R3=R4=5,600)(R2=1.5・R1,R3=2・R1,R4=3,000) (R2=R3=1.5・R1,R4=4,000)
× △
1.11
断面④(円形)(部材厚h=500)断面②(部材厚h=1100)
×
・偶角部に応力集中。・覆工厚 t=150cm。・施工は極めて困難。・掘削量も最大で不経済。
考 察
1.001.271.48
◎
・圧縮応力のみ(構造安定)。・覆工厚 t=50cm(最小)。・下半・インバート施工には加背 割、中央排水設置等工夫必要。・掘削量は最小で、最も経済的。
・偶角部にやや応力集中。・覆工厚 t=80cm。・施工性はやや優位。・掘削量は円形と同等だが、コン クリート量が多く、やや不経済。
・偶角部に応力集中。・覆工厚 t=110cm。・施工は困難。・掘削量も大きく、不経済。
※一般部 と同じ
8 まとめ
1.トンネルルートの検討
水文地質調査結果より,当初ルートでは二線川付近に分布する被圧帯水層のトンネル通
過距離が長くなるため,被圧耐水層通過距離が短いルート(最終ルート)に変更して,水
環境に与える影響を低減した.
2.トンネル建設時及び完成後の環境予測
トンネル建設時及び完成後の環境予測をするために,浸透流解析(定常,非定常)を実
施した.この結果より以下のことが明らかとなった.
・ 浸透流解析(定常)結果より,周辺水環境に影響の少ないトンネル構造として,基線
川付近から,ナマコ山山列までの区間(被圧帯水層を含む延長 740m 程度)を非排水区間
とした.
・ 浸透流解析(非定常)結果より,非排水区間の完成が遅れると,周辺水環境に対する
影響が増大するため,この区間の完成を急ぐことが重要である.
3.トンネル構造・工法の検討
周辺環境に配慮した施工を実施するため,施工中は注入工により,地下水位低下を極力
抑制し,施工後は地下水位復元を目指し,約 740m の非排水区間は,ウォータータイト構
造(全周に防水シートを設置し,周辺からの湧水を遮断)とするため,耐水圧構造とした.
また,断面は,形状別応力照査の結果から,円形とした.
(参考文献)
1) 西垣誠:根切り工事と地下水-調査・設計から施工まで- 第3章地下水の浸透流
解析、土質工学会、pp.79~142、1991.
2) 川谷健、神野健二:地下水理学 第5章地下水流れの数値解析法、丸善株式会社、
pp.160~220、2002.
3) 進士喜英、菱谷智幸:地下水流動保全のための環境影響評価と対策-調査・設計・
施工から管理まで- 参考付録A数値解析による地下水流動評価、地盤工学会、pp.323
~356、2004.
表-3 耐水圧断面形状・構造比較検討表