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接辞「方」の性質
人文社会科学研究科IFERI研究員
田川 拓海
発表の構成発表の構成
田川(2010)の紹介田川(2010)の紹介
「方」名詞句(e g 「走り方」)のさらなる「方」名詞句(e.g. 「走り方」)のさらなる記述
田川(2010)の概要田川(2010)の概要
「方」名詞句の性質を使って 現代日本語の「方」名詞句の性質を使って、現代日本語の格システムに関する新しい記述と提案をする。
提案
1) 使役文で被使役主が「を」でマークされな1) 使役文で被使役主が「を」でマ クされないのは二重対格によるものではない。
2) 格標示の方法が無いために、名詞句が現れ2) 格標示の方法が無いために、名詞句が現れられない環境が存在する。
「方」名詞句の特徴「方」名詞句の特徴
動詞連用形に付加する名詞化接辞動詞連用形に付加する名詞化接辞
(1) a 様態:雨の降り方,医療費の増え方(1) a. 様態:雨の降り方,医療費の増え方
b. 方法:野菜の作り方,自動車保険の選び方選び方
(伊藤・杉岡(2002): 103-104)
「方」名詞句の特徴「方」名詞句の特徴
「動詞句あるいは文を名詞化する機能をもつ「動詞句あるいは文を名詞化する機能をもつ(伊藤・杉岡2002: 109)」
(2) a. 尊敬語化:先生のお話になり方
b 受動化:株の買われ方b. 受動化:株の買われ方
c. 使役化:離乳食の食べさせ方
(伊藤・杉岡(2002): 108)(伊藤・杉岡(2002): 108)
「方」名詞句の特徴「方」名詞句の特徴
内部の名詞句は「の」でマークされなければ内部の名詞句は「の」でマークされなければならない
(3) a. この部屋から煙が出ている。
b この部屋からの煙の出方b. この部屋からの煙の出方
(4) a. インターネットで用例を探す。
b インターネットでの用例の探し方b. インタ ネットでの用例の探し方
「方」名詞句の特徴「方」名詞句の特徴
文における格の現れ方を忠実に反映する文における格の現れ方を忠実に反映する
(5) a 上級生が新入生を誘う(5) a. 上級生が新入生を誘う。
b. 上級生の新入生の(??への)誘い方
c 新入生への誘いc. 新入生への誘い
(cf. 新入生の誘い:動作主)
(伊藤 杉岡(2002): 105)(伊藤・杉岡(2002): 105)
二重対格制約二重対格制約二重対格制約:二重対格制約:
一文中における二つ以上の対格句(ヲ句)の生起を禁じる制約
(6) a. 経路句:??太郎が花子を運動場を走らせたらせた。
b. 他動詞使役文:*太郎が花子をりんごを食べさせたを食べさせた
(cf. 太郎が花子 に/を 走らせた。)
二重対格制約二重対格制約
二重対格制約には二種類ある二重対格制約には二種類ある。
→ここで考えるのは他動詞使役文の方
(7) a. 経路句:太郎が花子を走らせた運動場
b 他動詞使役文 *太郎が花子を食べさせb. 他動詞使役文:*太郎が花子を食べさせたりんご
「方」名詞句と他動詞ヲ使役「方」名詞句と他動詞ヲ使役 「方」名詞句内でも他動詞ヲ使役に相当するパター 「方」名詞句内でも他動詞ヲ使役に相当するパタンは不可能。
太郎が花 を ごを食 さ(8) a. *太郎が花子をりんごを食べさせた。
b. *さっきの太郎の花子の寿司の食べさせ方
c さっきの花子の寿司の食べさせ方c. さっきの花子の寿司の食べさせ方
(「花子」=被使役主解釈は不可能)
この場合、「対格(ヲ)」は無いのに文の場合と同じようなことが起こっている。
「方」名詞句と自動詞使役「方」名詞句と自動詞使役
一方で 文の場合と同じように 自動詞使役一方で、文の場合と同じように、自動詞使役は「方」名詞句内でもOK
(9) a. 太郎が花子を帰らせた。
b さっきの太郎の花子の帰らせ方b. さっきの太郎の花子の帰らせ方
c. さっきの花子の帰らせ方
(cf 「花子」=使役主/被使役主)(cf. 「花子」=使役主/被使役主)
×「二重対格の問題」○「被使役主の問題」×「二重対格の問題」○「被使役主の問題」
格標示のギャ プ格標示のギャップ文の場合は 被使役主の格標示を「に」にする文の場合は、被使役主の格標示を「に」にすることができるが、「方」名詞句内では不可能。
→格標示の手段が無いために、名詞句が出現できないことがある!
(10) 太郎が花子に(家に)帰らせた(10) a. 太郎が花子に(家に)帰らせた。
b. *さっきの太郎の花子への帰らせ方
c 太郎が助手に学生をほめさせたc. 太郎が助手に学生をほめさせた。
d. *さっきの太郎の助手への学生のほめさせ方せ方
次の目的 「方」名詞句の記述次の目的:「方」名詞句の記述
田川(2010)では、「方」名詞句はテスト環境
として用いたが 「方」名詞句自体の記述もとして用いたが、「方」名詞句自体の記述もしてみたい。
→内部に動詞句のような大きな構造を含みこ内部に動詞句のような大きな構造を含みめる接辞、というのはそれほど多くない。
→しかし、実は動詞句を含みこめると言っても、だいぶ制限があるのではないか。
「方」名詞句ととりたて詞「方」名詞句ととりたて詞
「方」名詞句内にはとりたて詞(「も」「だけ」「方」名詞句内にはとりたて詞(「も」「だけ」「こそ」などの要素)が出られない。
→最も小さな節に出られる「だけ」「ばかり」も→最も小さな節に出られる「だけ」「ばかり」も不可能。
(11) a. 彼は[右目だけつむって]寝ていた。
b. [りんごばかり食べながら]一週間過ごした。b. [りんごばかり食 ながら] 週間過ごした。
「方」名詞句ととりたて詞「方」名詞句ととりたて詞
(12) a 太郎が寿司屋でトロだけ食べた(12) a. 太郎が寿司屋でトロだけ食べた。
b. 寿司屋でのトロだけの食べ方
≠トロだけ食べる方法≠トロだけ食べる方法
=トロ特有の食べ方
c 太郎はカントばかり読んだc. 太郎はカントばかり読んだ。
d. */#太郎のカントばかりの読み方
「方」はとりたて詞を含んだ動詞句をそのまま名詞化できる とは言えないま名詞化できる、とは言えない。
「方」名詞句と副詞「方」名詞句と副詞
(形態的に)副詞のまま 「方」名詞句内に(形態的に)副詞のまま、「方」名詞句内に要素が生起することはできない
(13) a. *静かに食べ方
(cf 静かに食べる)(cf. 静かに食べる)
b. *早く眠り方
(cf 早く眠る)(cf. 早く眠る)
「方」名詞句と副詞「方」名詞句と副詞
以下のような例では 形態としては形容詞で以下のような例では、形態としては形容詞であるが、(様態)副詞的修飾関係を形成しているのではないか。
(14) a. 速い走り方( ) 速 走り方
b. 遅い車の速い走らせ方
c. 野菜のおいしい食べさせ方c. 野菜のおいしい食 させ方
「方」名詞句と副詞「方」名詞句と副詞
ところが どんな副詞的修飾関係も「方」名ところが、どんな副詞的修飾関係も「方」名詞句内で可能なわけではない。
→いわゆる「結果の副詞」は生起不可能。→いわゆる「結果の副詞」は生起不可能。
(15) a 穴を深く掘った(15) a. 穴を深く掘った。
b. *穴の深い掘り方
c 車を赤く塗ったc. 車を赤く塗った。
d. *車の赤い塗り方
格の問題再び格の問題再び
伊藤・杉岡(2002)の記述(田川(2010)の前伊藤・杉岡(2002)の記述(田川(2010)の前提)は本当に正しいのか?
(16) a. 東京の行き方
b 東京への行き方b. 東京への行き方
「の」「への」が両方可能な場合もある「の」「への」が両方可能な場合もある。
→「に」の問題?
まとめまとめ
「方」名詞句は動詞句ならなんでも含みこめ「方」名詞句は動詞句ならなんでも含みこめるほどの豊かな内部構造は持たないようだ。
「方」名詞句は「語」と「句」の中間的な性質を持っているのではないか。質を持 て るのではな か。
→「中間」と言うのは簡単。どういった程度、
意味で「中間」なのかきちんとした記述をする必要がある。
課題課題
とりたて詞 副詞に関するより詳細な記述とりたて詞、副詞に関するより詳細な記述
→とりたて詞の解釈や他のタイプの副詞の生起可能性など起可能性など
他の接辞との比較 他の接辞との比較
→形容詞を名詞化する接辞「さ」など
(e g 父親へのプレゼントの贈りにくさ)(e.g. 父親へのプレゼントの贈りにくさ)
なぜ のような研究をするのかなぜこのような研究をするのか
「方」は文法研究ではしばしばテストとして「方」は文法研究ではしばしばテストとして用いられる。
→しかし、より安全なテストのために、それ→しかし、より安全なテストのために、それ
自体の言語現象としての性質も明らかにしておく必要があるだろう。
文法研究にも、語形成(形態論)研究にも面白い現象や知見が提供できるのではないか。
参考文献参考文献
影山太郎(1993)『文法と語形成』ひつじ書房.伊藤たかね・杉岡洋子(2002)『語の仕組みと伊藤たかね 杉岡洋子(2002)『語の仕組みと
語形成』研究社.奥津敬一郎・沼田善子・杉本武(著)『いわゆる
日本語助詞の研究』 227 380 凡人社日本語助詞の研究』pp.227-380, 凡人社.田川拓海(2010)「「方」名詞句と使役文にお
ける二重対格制約」『日本語文法』10:1 ける二重対格制約」『日本語文法』10:1, 122-129.