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40 FDI・2016・07 川上 一郎  デジタルシネマ Now ! さて、米国時間で今月 12 日に米国第 3 位の映画興行チェーンである AMC が欧州 でかねてより身売り先を探していた英国及 びアイルランドを拠点としている ODEON 113 113 AMC の拡大戦略はどこまで行く フループと UCI グループの買収統合を発表 した。今月号では、この経営統合発表資料 を引用して経営統合の概要を紹介していく。 49 51 EUR GBP 1,615 1,471 1,292 784 633 305 214 205 184 179 151 115 101 83 70 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 7,616 7,329 5,840 5,380 4,548 2,565 2,236 2,011 1,753 1,666 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 AMC+Odeon&UCI Regal Entertainment Group Cinemark AMC Cinepolis Cinemex Odeon&UCI Cineworld VUE Cineplex 図2 欧州主要国の映画興行収入 (水色がOdeon&UCI 展開国) 図 3 統合後の AMC グループイメージ 図 4 Odeon & UCI 売上通貨 図 5 統合後の AMC グループ売上通貨 385 242 627 映画館数 5,380 2,236 7,616 スクリーン数 3,060 1,156 4,216 興行売上(百万ドル) 203 92 295 観客動員(百万人) 統合後 39.3 41.0 39.8 $591 $517 $569 *1 *1 *1 *2 *2 *2 *1 1スクリーン当たりの観客数(千人) *2 1スクリーン当たりの興行売上(千ドル) 図1 14 14 72 EUR GBP USD

113 AMCの拡大戦略はどこまで行く 川上 一郎

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Page 1: 113 AMCの拡大戦略はどこまで行く 川上 一郎

40

FDI・2016・07

川上 一郎 

デジタルシネマNow !

 さて、米国時間で今月12日に米国第3位の映画興行チェーンであるAMCが欧州でかねてより身売り先を探していた英国及びアイルランドを拠点としているODEON

113113

AMCの拡大戦略はどこまで行く

フループとUCIグループの買収統合を発表した。今月号では、この経営統合発表資料を引用して経営統合の概要を紹介していく。

4951

EURGBP

1,615

1,471

1,292

784

633

305214 205 184 179 151 115 101 83 70

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1,753 1,666

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7,000

8,000AMC+Odeon&UCI

Regal Entertainment Group

Cinemark

AMC

Cinepolis

Cinemex

Odeon&UCI

Cineworld

VUE

Cineplex

図 2 欧州主要国の映画興行収入 (水色がOdeon&UCI 展開国)

図 3 統合後のAMCグループイメージ

図 4 Odeon & UCI 売上通貨

図 5 統合後のAMCグループ売上通貨

385 242

627映画館数

5,380 2,2367,616

スクリーン数

3,0601,156

4,216興行売上(百万ドル)

203 92295

観客動員(百万人)

統合後

39.3 41.0 39.8

$591 $517 $569

*1 *1 *1

*2 *2 *2

*1 1スクリーン当たりの観客数(千人)*2 1スクリーン当たりの興行売上(千ドル)

図 1

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72

EURGBPUSD

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FDI・2016・07

 “Creating the World’s Biggest and Best Theatre Operator Odeon & UCI: Transition Overview” , July 12,2016と 題 し た 報 道 発 表 資 料 は AMC Theatres.com の投資家向け情報サイト(http://investor.amctheatres.com/Cache/1001211851.PDF?Y=&O=PDF&D=&fid=1001211851&T=&iid=4171292)に掲載されており、今年の春から話題を呼んでいるカーマイクグループ買収の動きが停滞状態となっていることに対して、あくまでも拡大戦略を続けていく強気の姿勢を投資家に対して示しているのか、親会社である中国Wandaグループの世界戦略の一環なのかは現時点でははっきりとしない。

  中 国 Wanda グ ル ー プ の Wanda Cinemaは中国本土で292館、2,557スクリーンを展開する中国最大の映画興行チェ ー ン(“Film Holdings-Wanda Group.pdf”)であり、昨年夏時点では米国第2位の映画興行チェーンであったAMCを買収し、さらにオーストラリアのHoyts Cinema(52館、424スクリーン)を買収するなど拡大戦略を続けていることはこれまでの連載でも紹介してきている。

 表1は、AMC発表資料による欧米の主要映画興行チェーンである。なお、米国での買収問題が進行中のCarmikeについては意図的に集計から外されており、米国での映画興行チェーンについては表5に示している昨年7月1日付けでの上位10社一覧を参照いただきたい。 米国のリーガルエンタテインメントグループが7,329スクリーンと断トツの経営規模を誇っており、中小映画チェーン

を買収したシネマーク社が5,840スクリーンと第2位の経営規模であり、AMCは5,380スクリーンと第三位の経営規模となっていた。続いてシネポリス4,548スクリーン、シネメックス2,565スクリーンと続き、今回の経営統合対象となったオデオン・UCI グループは2,236スクリーンと世界第六位の経営規模である。 今回の経営統合により、新生AMCグループは7,616スクリーンとなり、リーガルを抜いて欧米最大の映画興行チェーンとなる。買収価格を巡って水面下の駆け引きが続いているカーマイクの買収が成功すれば、さらに2,892スクリーンが加わり10,508スクリーン、そして親会社である中国Wandaの2,557スクリーン、そして同グループのHoyts Cinema424スクリーンを加算すると13,489スクリーンとなるが今後の展開については予断を許さないところがある。  さて、経営統合の対象となったオデオン(Odeon)は英国で108館866スクリーン、アイルランドで11館77スクリーンを展開しており、スペインを拠点とするシネサ(Cinesa) は 47館535スクリーン、そしてUCI グループはイタリアで47館472スクリーン、ドイツで23館203スクリーン、オーストリアで3館38スクリーン、そしてポルトガルで3館45スクリーンを展開しており合計で242館2,236スクリーンの規模である。表2に示しているように欧州の映画興行チェーンでは第1位の経営規模である。ちなみに欧州第2位は英国に拠点を置くシネワールド(Cineworld : http://www.cineworld.co.uk/)で218館2,011スクリーン、第3位が同じく英国に拠点をおいているVUE

シネマ(http://www.myvue.com/ ) で189館1,753スクリーンである。 この映画興行チェーンを選択した理由は、保有している不動産時価評価額が税引き前利益(EBITDAは欧米の投資関連情報で必ず出てくるが日本での税引き前利益に加えて未収金等の換金可能な含み資産を全て加算した集計であり、日本での税引き前利益が最も近い指標である)の9.1倍であり不動産含み益の期待できる投資対象であることが上げられている。また、オデオンUCIグループの映画館が都市部に集中していることから、20分圏内に1億2千万人が居住しており、AMCグループが投資を集中しているダイン・イン・シアターや IMAX等のPLFスクリーンの集客効果が期待できるとしている。 10年以上前に東映の株価が高騰した時期があったが、欧米系の投資ファンドが銀座通りに面した東映本社ビルの含み資産価値に着目して証券市場での一般投資家株を買いあさったのが原因であった。商業集積地等に自社ビルで映画館を展開している場合には帳簿上の不動産価格と実勢価格との差があることから、いわゆるハゲタカファンドが触手を伸ばして来ることが見受けられる。ただし、投資家に対してペナルティーとならない利益さえ確保できれば直ちに転売にまわることから、買い取られた企業の従業員にとっては最悪の経営陣である。

 表3に欧州主要国の興行収入を示してい

表 1 欧州の買収先チェーン

表 2 欧州の主要興行チェーン

国名 興行収入

英国 1,615

フランス 1,471

ドイツ 1,292

イタリア 784

スペイン 633

オランダ 305

スウェーデン 214ポーランド 205ベルギー 184デンマーク 179オーストリア 151アイルランド 115フィンランド 101ポルトガル 83ギリシア 70

*単位:百万ドル

表 3 欧州各国の興行収入

チェーン 国名 館数 スクリーン数

英国 108 866

アイルランド 11 77

Cinesa スペイン 47 535

イタリア 47 472

ドイツ 23 203

オーストリア 3 38

ポルトガル 3 45242 2,236

Odeon

UCI

チェーン 館数 スクリーン数 観客数

Odeon&UCI Group 242 2,236 90

Cineworld 218 2,011 94

VUE 189 1,753 81

PATHE! 110 1,051 65

KINEPOLIS 46 491 22

Page 3: 113 AMCの拡大戦略はどこまで行く 川上 一郎

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FDI・2016・07

るが英国が16億 1500万ドル、フランスが14億 1700万ドル、ドイツが12億 9200 万ドル、以下イタリアが 7億8400万ドル、スペインが6億3300万ドルの市場規模である。 表4は欧米映画興行市場の比較を示しており、国民一人当たりの年間映画館鑑賞回数では米国が3.8回と圧倒的に多く、EU平均では1.9回であるが、今回の統合対象となっているオデオンとUCIグループが立地する英国は2.6回、スペイン2.0回とEU平均よりは多くなっている。また、年間の映画館チケット購入金額では米国が32ドル、EU平均では14ドルに対して英国は28ドル、スペインが14ドルとなっている。また人口百万人当たりのスクリーン数では映画大国である米国は127スクリーンが立地しており、EU平均では59スクリーン、英国が64スクリーン、スペインが76スクリーンとなっている。人口密度から比較すると米国が一平方キロ当たり35人に対してEU平均では120人、英国では269人と圧倒的に人口密度の差がある。米国でニューヨークのマンハッタン地域は東京の人口密度と大差無いが、全米第二位の都市であるロサンゼルスは首都圏郊外の中規模都市程度の人口密度としか感じられない。EU諸国でも大都市から鉄道に

乗車して10分も移動すれば牧場や畑しか沿線風景に現れてこないのが普通である。 また、映画興行チェーンの上位3社による市場占有率比較は米国が実に50%、英国では74%、スペインでは43%と国毎に映画興行市場の特異性が顕著に表れている。また、最近の米国映画興行市場での好調市場として注目されているPLF(Premium Large Format:プレミアム・ラージ・フォーマット)スクリーンの代表格である IMAXスクリーン数も米国では393スクリーンが稼働しているのに対して、EU全体でわずかに51スクリーンであり、その大半である41スクリーンは英国に集中しているところが興味深い。

 表5と図3にAMCとオデオンUCI グループの統合後経営イメージを示しているが、観客動員数は現在のAMCが米国で2億3000万人、オデオン&UCI グループが9200万人であることから統合後には2億9500万人の集客数となる。映画館数も統合後には627館(米国、英国、アイルランド、スペイン、イタリア、ドイツ、オーストリア、ポルトガル計8カ国)となりスクリーン数は7,616となる。スクリーン当たりの観客動員数は4,000万人であり、スクリーン当たりの興行売上は

569,000ドルである。 また、英国の国民投票でEU離脱が決定したことを受けて通貨為替リスクが顕在化してきているが図4と図5に示しているようにオデオン&UCIグループでは統合前が英国ポンド(GRP)とユーロ(EUR)の売上比率が51%と49%で有ったのに対して、統合後は米ドルが72%、英国ポンドとユーロがそれぞれ14%となりキャッシュフローでの通貨為替リスクは軽減できることになる。為替変動リスクを考えると、さまざまな経済的・地勢的背景を持った多国籍の通貨で現金収入があることは確かに利点がある。そして、AMCの親会社である中国Wandaグループにとってもリスク分散から大きな利点となる。

 さて、以前の連載でも紹介しているAMCの食事をしながら映画を楽しむダイン・イン・シアターとPLF対応でのリクライニング・シートへのリニューアルは経営的にどの程度効果を上げているのかが気になっていたところであるが、今回の統合発表資料ではダイン・イン・シアターが66%の売上向上、3%の観客動員増加につながっており、リクライニング・シートへのリニューアルを行ったスクリーンでは実に58%の観客数増加と74%の売上増加を達成

年間映画鑑賞回数映画チケット購入金額

スクリーン数/百万人

人口密度(平方キロ)

上位3社の市場占有率

IMAXスクリーン数

米国 3.8 32 127 35 50 393EU 1.9 14 59 120 NA 51英国 2.6 28 64 269 74 41

スペイン 2.0 14 76 93 43 3イタリア 1.8 13 66 207 38 2ドイツ 1.7 15 58 234 15 5

AMC Odeon&UCI 新生AMC Odeon&UCI比率

観客動員(百万人) 203 92 295 31

映画館数 385 242 627 39スクリーン数 5,380 2,236 7,616 29

観客/スクリーン 39 41 40興行売上(百万ドル) 3,060 1,156 4,216 27

売上/スクリーン 591 517 569

主要映画館リライニングシート導入

ダインインシアター

合計

現時点でのAMCスクリーン 3,860 1,208 312 5,380AMC5カ年計画 2,201 3,410 450 6,061

Odeon&UCI5カ年計画 1,878 495 22 2,395統合後の5カ年計画 4,079 3,905 472 8,456

増加率 85 15 5

名称 本社所在値 スクリーン 館数

* 新生AMC??   7,852 624

1 Regal Entertainment Group Knoxville, TN 7,295 565

2 AMC Entertainment Inc. Leawood, KS 4,960 344

3 Cinemark USA, Inc. Plano, TX 4,499 335

4 Carmike Cinemas, Inc. Columbus, GA 2,892 280

5 Cineplex Entertainment LP Toronto, ON 1,635 161

6 Marcus Theatres Corp. Milwaukee, WI 681 53

7 Harkins Theatres Phoenix, AZ 446 31

8 Southern Theatres LLC New Orleans, LA 445 39

9 B & B Theatres Liberty, MO 409 50

10 National Amusements, Inc. Norwood, MA 409 32

As of July 1, 2015

AMCは第四位のカーマイク買収を表明し実現するとスクリーン数7,852、映画館数624と北米地域最大の映画興行チェーンとなるが6月20日時点ではカーマイク株主側の買収価格に対する意義申し立てがあり買収交渉は妥結していない

表 4 欧米映画興行市場の比較

表 5 統合後のAMCグループ規模

表 6 新生 AMCグループの強み

表 7 2015 年 7月 1日時点での北米地域映画興行チェーン上位 10社

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FDI・2016・07

Ichiro Kawakamiデジタル・ルック・ラボ

の定義を満たしている一流映画館はきわめて少なくなっている。各国の大手映画興行チェーンが展開する映画館でも作品の映像フォーマットに併せて電動カットマスクが自動設定されるところは皆無といって良い状況で有り、PLFスクリーンと称して特別価格を上乗せするのは言語道断と言ってかまわないと筆者は考えている。最近閲覧した映画関係のブログで映画祭を開催した某大手映画チェーンのスクリーンで70mm時代の不朽の名作である“2001年宇宙の旅”を上映したところ、左右の電動カットマスクすら設置されておらず上下左右に見きりの黒(プロジェクターの投射する黒はミラーや反射型液晶素子が黒として投影しているが実際には光が漏れ出しているので映画館内では明るさを知覚できるレベルである)が見えている状態で鑑賞することになったとの記事である。最低でも左右の電動カーテンだけでも設置されていれば良いのであるが、それすら無く、かつスクリーン下部の床からの反射もスクリーンに映り込んでしまう二流 /三流映画館が多すぎることが問題である。映画館関係者の方々は、上映画質と優れた音響効果こそが映画の原点であることを肝に銘じていただきたい。

 中国Wanda グループの支配下にあるAMCの次の一手が気にかかるところであるが、当面は米国カーマイクの買収交渉であろう。先月の連載でも紹介したがカーマイクの買収で提示した一株当たりの買収価格上乗せは当面無さそうであり、昨年7月時点で第五位の経営規模であったシネプレックスの買収に矛先を向けるのか興味深いところである。さすがにリーガル買収は独占禁止法もあり全く可能性は無さそうであるが、この手の世界の映画興行チェーン再編で日本だけは蚊帳の外に置かれている状況は喜んで良いのか、買収にも値しない経営状態の悪さなのかは気にかかるところである。 来月号では、ドルビーの映画館関係特許や意匠登録の詳細について解説を行う予定である。 

している。AMCチェーンは全米で最大のIMAXスクリーン数とドルビーシネマを展開しているが独自ブランドのPLFスクリーンも開発中であることを今回発表したプレゼン資料でも明記しているところが興味深いところである。PLFスクリーンの現状を紹介した以前の連載記事でも述べているがIMAXではライセンス料の負担と IMAXが配給する作品に限定されることから、都市部で競合の激しいシネコンでは興行チェーン独自のPLFスクリーンを展開していればハリウッド配給作品を自由にハンドリングして独自ブランドのPLFスクリーンで集客状況に合わせて自由に興行できるメリットがある。

 AMCのプレゼン資料でもPLFスクリーン数は現状の3倍に増加したいと明記しているが、この大半は独自ブランドのPLFスクリーンとなることは容易に想像できる。ただし、AMC経営陣の想定する独自ブランドのPLFスクリーンとはどのような仕様になるのであろうか?現在の状況では、4K-DLPとノーマルスクリーン(ゲイン1.3未満)のハイコントラストで、かつ次世代立体音響であるがドルビーATMOSを採用するのかDTS、はたまたBARCOを採用するのかは初期費用とハリウッド配給側での感触次第であろう。その意味ではロサンゼルス郊外のスタジオ集積地域であるバーバンクに立地するAMCの映画館でトライアルを行いハリウッド関係者の評判を聞きながら最終仕様を決定することが容易に想像できる。

 表6は、統合後のAMCグループ戦略として重点的に取り組む目標が書かれており、観客の満足度向上と観客数増加につながるリクライニング・シート導入は今後五年間で3,905スクリーンと15%の増強を予定しており、食事も楽しめるダイン・イン・シアターは現在の312スクリーンから472スクリーンへと5%の増強を予定している。この表には明記されていないが新生AMCグループの独自ブランドPLFスクリーンも当然のことながら数百スクリーン以上で展開することが容易に想像できる。

 さて、今回のAMC拡大戦略発表の発表はどこにあるのであろうか?単純に考えれば米国カーマイクの買収計画が頓挫している現状を打開するために欧州市場での経営規模拡大を図ったと考えるのが普通であろう。裏の裏を考えれば、来年もしくは2年後には主席の座を追われるとの観測も出だした習近平との人脈・コネで急速に成長したWandaグループの資産保全として米国以外にも支配下の企業グループを増やしておきたいとの読みもある。ただし、メインスポンサーが中国Wandaであっても、実際の投資計画はニューヨークのマンハッタンやロンドンのシティに拠点をおいているファンドマネージメント会社が行っており、AMCが米国で積み上げてきたリクライニング・シートへのリニューアルやダイン・イン・シアターがそれなりの成果を上げていることは疑いようも無い。

 さてPLFスクリーンの定義はどう理解して良いのであろう。欧州のデジタルシネマ関係者によるEDCF(European Digital Cinema Forum : http://www.edcf.net/)にもPLF作業部会が設置されこの連載でも解説記事をしばしば引用しているHISテクノロジー社のデイビッド・ハンッコク氏がリーダーを務め、クリスティーの欧州担当リチャード・ナイ氏、ヒゲがおなじみのピーター・ウィルソン氏などがメンバーとして参加している。この作業部会での当面の課題は、プレミアとは何を意味するのか、ラージ・フォーマットはスクリーンサイズとして横幅何メートル以上とするのかの物理的な定義付けから始まらざるを得ないところがある。そして、その定義付けが決まったら画質や音響、設備面でのガイドラインについての推奨基準について議論を進めていく必要がある。

 筆者の考えている一流映画館は、ゲイン1.3未満のノーマルスクリーンを設置し、上下左右の電動カットマスクは設置されていることが最低条件であり、さらには上映時に足元灯も消灯し上映後の観客にはペンライトで係員が客席に誘導する映画館であるが、残念なことに世界の主要都市でもこ